地域分析記事

地域の暮らしと地域課題を数学とデータで考える

高齢者が退院した直後の7日間に食事、買い物、通院、家事のどれが最も不足するのか

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 病院から自宅へ帰る日は、多くの高齢者にとって待ち望んだ日である。見慣れた玄関を開け、いつもの椅子に腰を下ろし、自分の布団で眠れるとなれば、「ようやく元の暮らしに戻った」という安心感が生まれる。しかし、退院とは病気の治療が一区切りついたことを意味していても、生活能力が入院前の状態まで戻ったことを意味するわけではない。病院では時間になれば食事が運ばれ、薬は管理され、床を自分で掃除する必要もなく、体調が悪ければすぐに職員へ伝えることができるが、自宅へ戻った瞬間から、それまで病院という仕組みが支えていた仕事の多くを本人や家族が引き受けることになる。

 冷蔵庫に食べ物がなければ買い物へ行き、食材があれば調理し、食べ終えれば片付け、洗濯物がたまれば洗い、決められた日には病院へ行かなければならない。入院前には何気なくこなしていた動作でも、入院によって体力や筋力が落ちた高齢者にとっては、1つずつの負担よりも、それらが毎日の生活の中で連続して現れることのほうが問題になる。退院直後の7日間とは、単に病気の続きを自宅で療養する期間ではなく、「患者として支えられる暮らし」から「自分で生活を組み立てる暮らし」へ移る時間なのである。

「どれが一番不足するか」は、実は簡単には決められない

 食事、買い物、通院、家事の4つを並べたとき、どれが最も不足しやすいのかを1つだけ選びたくなるが、現在の研究から全国の高齢者について明確な順位をつけることは難しい。退院後1週間という時期を直接調べた研究では、何らかの支援が足りない高齢者が少なくなく、特に家事に困難を抱える人が多いことも報告されている一方、栄養状態の悪化が再入院などの不良な経過と関係することも知られているため、「最も多い問題」と「最も健康に影響する問題」は分けて考えなければならない。

 ここで重要なのは、発生する人数が多いこと、健康への影響が大きいこと、他の生活問題の影響が集まりやすいことは、それぞれ別の性質だということである。家事に困る人が多かったとしても、それだけで家事が最も危険だとは言えず、低栄養が再入院と関係していたとしても、それだけで食事に困る人が最も多いとは言えない。したがって、この4項目を単純な順位表にするよりも、「どの問題がどのように生活を崩していくのか」を見るほうが、退院直後の現実に近い。

家事は、決して小さな問題ではない

 退院後の生活で見落とされやすいものの1つが家事である。病院の廊下を歩けるようになり、トイレにも自分で行けるようになったからといって、自宅で掃除機を動かし、洗濯物を干し、風呂を洗い、ゴミ袋を持って外まで運べるとは限らない。むしろ家事には、病院内では試されにくい動作が多く含まれており、立ったりしゃがんだり、物を持って移動したり、腕を上げたりする作業が何度も重なることで、本人が想像していた以上に疲労することがある。

 掃除や洗濯の一部は数日延ばせることもあるが、だからといって重要度が低いわけではない。洗濯物がたまり、台所が片付かず、ゴミを出せない状態が続けば、生活環境そのものが悪化し、自宅で暮らし続けることが難しくなる。退院後1週間という早い時期の調査で家事の困難が目立ったという報告があることを考えれば、「家事は後回しにできるから問題が小さい」と考えるより、退院後の自立生活を支える中心的な能力の1つとして見る必要がある。

買い物の問題は、店まで歩けるかどうかだけではない

 買い物についても、単純にスーパーまで行けるかどうかだけを見ていては十分ではない。店まで歩くことができても、米や牛乳、野菜を持って帰る体力がなければ買い物は成立せず、歩行器や杖を使っていれば両手を自由に使えないこともある。車を運転していた人が入院をきっかけに運転を控えるようになれば、今まで何の問題もなかった距離が突然大きな壁になることもある。

 一方で、買い物には代替手段を作りやすい面もある。家族に頼む、宅配を利用する、配食サービスを使う、近所の人に手伝ってもらうといった方法によって、「本人が店まで行く」という行為そのものを外部へ任せられる場合がある。しかし、代わりの手段が使えるかどうかは、家族構成、地域の交通事情、経済状態、サービスの有無によって大きく違うため、買い物の困難は地域差が非常に大きい問題でもある。

[過去記事]スーパーがなくなった地域で高齢者は30年後も買い物できるのか

通院は回数が少なくても、1回の失敗が大きい

 通院は、食事や家事のように毎日行うものではないが、回数が少ないから重要度が低いわけではない。退院後の診察では、病状の確認、薬の調整、検査結果の確認などが行われるため、その1回に行けないことが治療全体へ影響することがある。本人が長い距離を歩けなくなっていれば、家族の付き添い、タクシー、介護サービスなどが必要になり、予約時刻に合わせて身支度をして外出するだけでも大きな負担になる。

 ただし通院には、生活上の問題として周囲から発見されやすいという特徴がある。次回受診日が決まっていれば、その日を基準に家族が予定を立てたり、移動手段を準備したりしやすいからである。これに対して、食事や家事の不足は毎日の中で少しずつ起こるため、「今日はできなかった」という1回だけでは問題として認識されにくく、本人自身も「まだ何とかやれている」と考えやすい。

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食事は「最も多い問題」ではなくても、生活の変化が集まりやすい

 食事について最も慎重に考えたいのは、「最も不足する」と断定することではなく、他の生活上の問題が流れ込みやすいという性質である。買い物へ行けなければ食材が減り、家事能力が落ちれば調理や後片付けが負担になり、体力が落ちれば台所に長く立つことが難しくなる。その結果として、食卓に並ぶ料理が簡単になり、食事量が減り、食品の種類が少なくなることがある。

 しかも、冷蔵庫に食べ物が入っていることと、十分な食事ができていることは同じではない。卵や豆腐、野菜があっても調理する体力がなければ料理にはならず、本人が「食べた」と答えていても、実際にはパン1個とお茶だけだったということもあり得る。食事の不足は、食べ物が完全になくなる形だけで起こるのではなく、量が少なくなる、品数が減る、調理が単純になる、食事回数が減るという形で静かに進むことがある。

 この点で、食事は退院後の生活を見るうえで重要な窓になる。食事そのものが最も多い問題だと証明されているわけではないが、「何を食べているか」をたどっていくと、買い物へ行けるか、台所に立てるか、料理をする意欲があるか、家族に頼めるかといった生活上の事情まで見えてくるからである。

低栄養が重要なのは、「発生人数」ではなく「その後への影響」である

 高齢者の栄養状態が重要視される理由の1つは、低栄養がその後の健康状態と関係しているからである。高齢者を対象にした複数研究をまとめた分析では、低栄養の人では30日以内の再入院リスクが高いことが報告されている。これは、食事の問題が生活の中で見逃された場合、その影響が単なる空腹にとどまらず、身体機能の回復や再入院にも関係する可能性を示している。

 しかし、ここでも注意が必要である。低栄養の人ほど再入院しやすいという事実は、「食事に困る人が買い物や家事に困る人より多い」という意味ではない。統計的には、ある問題が起きたときの影響の大きさと、その問題がどれくらいの人数に起きるかは別に評価しなければならないため、食事については「頻度が最も高い」とするより、「起きたときに見過ごしたくない問題」と位置づけるほうが正確である。

最初の7日間を見る意味

 では、なぜ退院後の最初の7日間に注目するのか。それは、7日目に何か医学的な境界があるからではなく、この時期が病院から自宅への移行が最も濃く表れる期間だからである。退院直後から数週間は再受診や再入院が起こる時期でもあり、特に早い段階のフォローが重要であることは複数の研究でも示されている。

 退院当日は家族が迎えに来て、食品を買い、冷蔵庫を満たしてくれるかもしれない。しかし、その支援が毎日続くとは限らず、数日が過ぎるうちに、本人自身の生活能力が少しずつ表面に出てくる。ここで重要なのは「3日目に問題が現れる」と決めることではなく、退院当日の特別な支援が薄れていく過程で、本来の生活上の困難が見えてくることがあるという点である。

病院で歩けることと、自宅で暮らせることは同じではない

 退院判断では、歩行、排泄、食事など基本的な動作が確認されるが、自宅での生活には、それだけでは測れない仕事が数多くある。病院内で50メートル歩けたとしても、自宅ではその途中に玄関の段差があり、洗濯物があり、ゴミ袋があり、スーパーから持ち帰る荷物がある。病院で確認される身体能力と、実際に自宅生活を成立させる能力との間には、思っている以上の距離がある。

 この距離を考えるうえで重要なのが、IADL(Instrumental Activities of Daily Living・手段的日常生活動作)である。買い物、食事の準備、掃除、洗濯、服薬管理、金銭管理などは、単に身体が動くかどうかではなく、その人が地域の中で生活を組み立てられるかを示す。退院後の生活を考えるときには、歩けるか、立てるかという身体機能だけでなく、毎日の暮らしを自分で回せるかという視点が必要になる。

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4つを順位づけするより、「生活が崩れる入口」を探す

 食事、買い物、通院、家事の4つについて、現在の研究から全国共通の第1位を決めることはできない。退院後1週間では家事の困難が目立つ研究もあり、交通事情によっては買い物や通院が最大の問題になる人もいる。一方で、食事は他の問題の影響を受けやすく、低栄養になった場合にはその後の健康にも関係するため、特に注意して見る価値が高い。

 だから退院後の7日間に必要なのは、「何が一番足りないか」を機械的に決めることではない。その人の場合、どこから生活が崩れ始めるのかを見つけることである。ある人では掃除や洗濯ができないことから始まり、別の人では買い物に行けないことから始まり、また別の人では診察日に病院まで行く手段がないことから始まる。その中で、食事は多くの生活機能の変化が表れやすいため、暮らし全体を見る手がかりになりやすい。

 退院の日には、薬の数や次の診察日を確認することが多い。しかし、その人が本当に自宅で暮らし続けられるかを見るなら、「明日の朝、何を食べますか」「洗濯はどうしますか」「次の診察にはどうやって行きますか」「食べ物がなくなったら誰が買いに行きますか」と、生活そのものを尋ねる必要がある。

 そこで具体的な答えが返ってくれば、退院後の生活はある程度組み立てられている。一方、「何とかなるでしょう」という言葉の後に長い沈黙があれば、その沈黙の中には、台所に立ち続けられない体力、買い物袋を持てない腕、掃除のできない疲労、病院まで行く交通手段の不足、頼れる人の少なさが隠れているかもしれない。

 退院できたことと、自宅で暮らせることは同じではない。退院後7日間に本当に確認すべきなのは、食事、買い物、通院、家事のどれが全国で第1位なのかではなく、その人の暮らしのどこに最初のほころびが生まれているのかである。そして、そのほころびを早く見つけるために、食卓、台所、洗濯物、買い物袋、次の診察日といった、ごく普通の日常を見ることが重要なのである。

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