地域分析記事

地域の暮らしと地域課題を数学とデータで考える

地方で老後を暮らすことを考えるとき、病院までの距離はどうしても気になる。

スーパーなら多少遠くてもまとめ買いができるし、役所なら用事そのものを減らすこともできる。けれども病院だけはそうはいかない。まして定期的な治療が必要になれば、病院までの距離は、そのまま日常生活の条件になる。

そこで地図を開いて、自宅から透析施設までの距離を測ってみる。

30km。

この数字を見て、「もし将来透析になったら、ここでは暮らせないのではないか」と感じる人は少なくないだろう。一般的な血液透析は週3回行われることが多いから、往復60kmを週3回と考えれば、一週間で180km、年間では9,000kmを超える。数字だけを積み上げれば、確かに相当な距離になる。

しかし、ここで一度立ち止まる必要がある。

透析医療の通院は、普通の外来通院と少し事情が違うからである。

現在の透析医療では、医療機関による患者送迎がかなり広く行われている。日本透析医会が2023年に行った調査では、回答した822施設の70.9%が施設負担による患者送迎を実施していた。また、患者側を対象とした2021年度の調査でも、透析施設の送迎を実際に利用している患者は24.8%に達している。

ここで重要なのは、70.9%という数字をそのまま全国すべての透析施設に当てはめることではない。この調査は回答施設を対象としたものであり、全国の全施設を完全に網羅したものではないからである。それでも、透析施設による送迎が一部の特殊な病院だけで行われているサービスではなく、現在の透析医療を支えるかなり一般的な仕組みになっていることは読み取れる。

そうなると、「施設まで30km」という数字の見え方も変わってくる。

自分で週3回、片道30kmを運転する生活と、自宅付近まで施設の送迎車が迎えに来る生活では、同じ30kmでも負担の中身がまったく違う。本人が運転しなくてよいのであれば、高齢になって自動車を手放したとしても、透析施設への交通手段だけは残る可能性がある。

ここに、透析医療の少し不思議なところがある。

地方では、近所の眼科へ行くには家族の自動車が必要なのに、それよりはるかに遠い透析施設には病院の車が迎えに来るということが起こり得る。公共交通が弱い地域ほど、透析施設の送迎車が事実上の医療交通として機能している場合があるからだ。

そう考えると、片道30kmという距離だけを見て、「この地域では透析生活が成立しない」と判断するのは現実的ではない。

けれども、送迎車が迎えに来るからといって、30kmという距離そのものが消えてなくなるわけでもない。

患者は運転しなくてよくなるが、移動時間は残る。

むしろ送迎車の場合、自家用車で直接病院へ向かうより時間がかかることもある。何人かの患者を順番に迎えながら施設へ向かうなら、自宅から病院までの直行時間より乗車時間は長くなる。透析そのものが一般に1回4時間程度かかることを考えれば、送迎時間を含めた透析日は、朝から午後まで、あるいは午後から夕方まで、一日のかなり大きな部分を占めることになる。

ここで問題の姿が変わる。

30kmの問題は、運転の問題ではなく、時間の問題になる。

週3回という頻度がある以上、透析日は一週間の中に規則的に現れる。月曜、水曜、金曜に透析する人なら、その三日は透析を中心に生活を組み立てることになる。通院距離が短ければ、その前後に買い物や家事を入れやすい。ところが送迎を含めて移動時間が長くなると、透析日はほぼ「治療の日」として使われるようになる。

だから30kmという距離を評価するとき、「通えるかどうか」だけでは十分ではない。

「その通院時間を含めた生活を、週3回繰り返しても無理がないか」というところまで考えなければならないのである。

そして、この問題は年齢を重ねるほど重要になる。

65歳で透析を始めた人なら、自分で30km先まで運転することもできるかもしれない。ところが75歳になり、さらに80歳になれば、雨の日や夕方の運転が負担になったり、自動車そのものを手放したりする可能性が出てくる。

そこで無料送迎が大きな意味を持つ。

本人が運転できなくなっても、送迎車が来るなら透析生活は続けられる。家族が毎回60kmを往復しなくてもよい。高齢の夫が高齢の妻を送り、数時間待ち、また連れて帰るという生活を避けられる可能性もある。

つまり透析施設の送迎は、単なる「病院の親切なサービス」と考えるより、地方の高齢者を医療につなぎ続ける生活インフラの一つと考えた方が実態に近い。

そう考えたとき、片道30kmという問題の核心もさらに変わってくる。

患者が30kmを移動できるかではなく、その患者を30km運ぶ仕組みを地域が維持できるかという問題になるのである。

患者にとって無料送迎であっても、送迎そのものに費用がかからないわけではない。車両を購入し、燃料を入れ、点検し、運転手を確保しなければならない。患者が広い地域に点在するほど、一人を迎えに行くための走行距離も長くなる。

この点は、人口減少地域を考えるうえで特に重要になる。

例えば十人の患者が施設から5km以内にまとまって暮らしている地域と、同じ十人が30km四方に散らばって暮らしている地域を考えてみる。

患者数は同じ十人でも、送迎に必要な車両の走行時間はまったく違う。

つまり透析施設の送迎を考えるとき、本当に効いてくるのは単純な人口ではなく、患者がどの程度の密度で分布しているかという地理なのである。

人口が減れば必ず透析患者が同じ割合で減るとは限らない。高齢化率や基礎疾患の状況によっても変わるからである。しかし、人口密度が低下して患者が広く散らばれば、少ない人数を集めるために送迎車が長い距離を走らなければならなくなる可能性は高くなる。

ここから先は、「患者が減るから透析施設がなくなる」という単純な話ではない。

実際、日本の透析患者数は近年減少に転じているものの、全国の透析収容能力まで同じように減っているわけではない。施設が統合され、大きな施設がより広い範囲の患者を受け入れるという形も考えられる。

もしそうなれば、患者から見た施設までの距離は今より伸びるかもしれない。

しかし、その距離を送迎が埋めてくれるなら、生活そのものは維持できる。

ここに地方医療の一つの可能性がある。

病院をすべての町に残すことが難しくなったとしても、一定規模の医療施設と広域送迎を組み合わせることで、医療へのアクセスを維持するという考え方である。

ただし、その場合には病院だけを医療インフラと考えてはいけなくなる。

送迎車まで含めて一つの医療システムとして考えなければならない。

病院の建物が30km先に存在しているだけでは、医療は届かない。患者の家と病院の間を往復する車があり、その車を運転する人がいて、毎週決まった曜日に患者を連れて行く。その一連の流れが維持されて初めて、「30km先に透析施設がある」という事実が生活上の意味を持つ。

この視点に立つと、地方の医療アクセスを地図だけで評価することの危うさも見えてくる。

同じ「透析施設まで30km」の町でも、一方では週3回送迎車が自宅近くまで来るのに、もう一方では自力通院しかできないとすれば、両者の生活条件は同じではない。

地理上は同じ30kmでも、生活上の距離は違う。

そして、この違いは年齢を重ねるほど大きくなる。

若いうちは自動車を運転できるから、送迎の有無をそれほど重要に感じないかもしれない。ところが自分で運転できなくなったとき、初めて送迎サービスの有無が生活を左右する。

この意味では、老後の移住先を考える人が透析施設までの距離を調べるなら、「何km先にあるか」だけでは不十分である。

その施設が実際に患者送迎を行っているのか、自宅の地区まで来てくれるのか、どのような条件で利用できるのかを確認した方が、はるかに重要である。

ただし、ここでも一つ注意しなければならない。

「40km以内なら、ほぼすべての透析施設が無料送迎する」と全国一律に考えることはできない。

実際には送迎範囲や条件は施設によって違う。自宅まで迎えに来る施設もあれば、一定の集合場所まで出なければならない場合もある。道路事情や車椅子対応などによって送迎できる地域が限定されることもある。

だから30kmという数字だけで大丈夫とも危険とも言えないのである。

必要なのは、その30kmが実際の送迎区域の中に入っているかを確認することだ。

さらに、平常時には問題なく送迎できても、台風や大雨となれば話は変わる。

外房のような地域では、倒木や冠水によって道路が一時的に使えなくなることがある。いつもの道を通れなければ、送迎車が大きく迂回しなければならないかもしれないし、そもそも迎えに行けないことも考えられる。

透析は、買い物のように「今日はやめて明日にしよう」と簡単に延期できるものではない。

そのため透析医療では、大規模災害時にどの施設が透析可能なのか、どこへ患者を移すことができるのかを共有する仕組みが整備されている。

ここで30kmという距離は、もう一度姿を変える。

平常時には送迎によってほとんど意識しなくてよかった30kmが、道路が途切れた瞬間、地理そのものとして現れる。

だから本当に強い地域とは、単に近くに透析施設がある地域ではないのかもしれない。

通常利用している施設へ行けなくなったとき、別の透析施設へ行く道があり、そこまで患者を運ぶ仕組みがある地域の方が、医療の持続性という意味では強い。

そう考えると、老後の透析生活を考えるときに見るべきものは、一つの施設までの距離だけではなくなる。

最寄りの透析施設はどこにあるのか。

その施設は自宅まで送迎してくれるのか。

さらに、その施設が使えないとき、次の施設はどこにあるのか。

この三つを一つの地図の上で考える必要がある。

そして、そこまで考えたとき、「片道30kmの透析生活は成立するのか」という問いへの答えも、かなりはっきりしてくる。

無料送迎が利用でき、自宅が送迎区域に入り、通常時に無理のない時間で施設まで行けるのであれば、片道30kmという距離だけを理由に生活が成立しないとは考えにくい。

むしろ地方における透析医療では、自動車を運転できない高齢者でも、送迎によって比較的遠い施設まで通える可能性がある。

だから問題は、30kmという数字ではない。

その30kmの間に何があるかである。

迎えに来る車があるのか。

その車を運転する人がいるのか。

施設は安定して患者を受け入れられるのか。

道路が使えない日には別の経路があるのか。

そして、その仕組みを十年後にも維持できるのか。

ここまで考えて初めて、距離は生活の問題になる。

地図の上では、病院は30km先にある。

けれども毎週決まった日に車が迎えに来てくれるなら、その30kmは必ずしも「遠い病院」ではない。

逆に、病院が10km先にあっても、そこへ行く手段がなければ、老後には遠い病院になる。

距離とは、道路の長さだけでは決まらない。

そこへ人を運ぶ仕組みがあるかどうかによって、同じ30kmでも生活上の意味は変わる。

人口減少が進む地方で本当に残さなければならないものは、透析施設という建物だけではないのだろう。

患者の家々とその施設の間を、月曜日にも、水曜日にも、金曜日にも走り続ける送迎車まで含めて、一つの地域医療なのである。

地域の課題を、自分の判断に置き換えて考える

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数字で比較するサービスを見る

病院や診療所で診察を受ければ、それで医療が完結するわけではありません。

薬を処方された場合、患者はその後に薬局へ行き、薬を受け取る必要があります。高齢者にとっては、病院まで行くことだけでなく、診察後に別の場所へ移動して薬を受け取ることまで含めて「通院」です。

人口減少が進む地方では、病院や診療所の将来が問題になる一方、薬局についてはあまり注目されません。しかし、医療機関が残っていても、近くに薬局がなくなれば、地域住民にとって医療へのアクセスは確実に変化します。

では、地方の薬局は30年後も現在と同じように近くに残っているのでしょうか。

最初に結論を述べると、地方から薬局そのものが一斉になくなる可能性は低いものの、「自宅や診療所の近くに薬局があり、営業時間中に薬剤師がいて、必要な薬をその場で受け取れる」という現在の形がすべての地域で維持されるとは考えにくいでしょう。

むしろ将来は、店舗の集約、営業時間の短縮、在宅訪問、オンライン服薬指導、薬の配送、広域的な薬局間連携などを組み合わせ、「薬局という店舗を残す」ことから「処方薬を受け取れる機能を残す」ことへ重点が移っていく可能性があります。

全国には6万を超える薬局があるが、地域差は大きい

厚生労働省の資料では、日本全国の薬局数は6万店を超えています。一見すると、薬局不足はそれほど深刻ではないようにも見えます。

しかし、全国の総数だけでは地方の実態は分かりません。

厚生労働省の統計では、薬局が一つもない町村も存在しています。また、薬剤師についても全国に均等に配置されているわけではなく、都市部へ集中する傾向があります。厚生労働省は薬剤師についても「偏在」という問題を政策課題として扱っています。

つまり、

全国に薬局が多い ≠ どの地域にも十分な薬局がある

ということです。

さらに、厚生労働省が2025年の中央社会保険医療協議会で示した資料では、薬局1店舗当たりの勤務薬剤師数は平均2.7人、処方箋枚数は1か月当たり約1,100枚とされています。比較的小規模な薬局が多いことが分かります。

地方の小規模薬局を考える場合、この「店舗数」だけでなく「何人の薬剤師で運営しているか」が重要になります。

30年後を考えるとき、人口だけを見てはいけない

国立社会保障・人口問題研究所の「日本の地域別将来推計人口(令和5年推計)」では、2020年の国勢調査を基準として、市区町村別人口を2050年まで推計しています。

2026年から30年後は2056年です。そのため、市区町村単位で「2056年に薬局が何店残るか」を現在の公的資料から正確に推計することはできません。

しかし、2050年までの人口推計を見るだけでも、多くの地方では人口減少が長期間続くことを前提に考える必要があります。

ここで注意しなければならないのは、

人口が30%減る = 薬の需要も30%減る

とは限らないことです。

医薬品を多く利用するのは高齢者層です。人口全体が減少しても、一定期間は高齢者の割合が高い状態が続く地域があります。

したがって、地域人口が減ったからといって、処方箋需要が同じ割合で減少するとは限りません。

問題になるのは、むしろ需要よりも供給側です。

薬局経営には、患者数が減っても残る費用がある

薬局にも固定的な費用があります。

店舗を営業するには、薬剤師や事務職員の人件費、建物の賃料や維持費、調剤設備、レセプトコンピューター、通信設備、医薬品在庫、電気料金などが必要です。

患者が1割減ったからといって、これらの費用をすべて1割減らせるわけではありません。

極端に考えれば、1日に100人の患者が来る薬局でも30人しか来ない薬局でも、営業する以上は一定時間、薬剤師を配置しなければなりません。

そのため、

患者数の減少率 ≠ 薬局運営費の減少率

となります。

これは人口減少地域のスーパー、病院、公共交通などにも共通する構造です。

患者数が一定水準を下回ると、地域には薬を必要とする住民がいても、店舗として採算を維持することが難しくなる可能性があります。

つまり、

需要がある ≠ 現在と同じ店舗形態で事業が成立する

という問題です。

薬剤師が確保できなければ店舗だけあっても機能しない

さらに重要なのが薬剤師です。

薬局は建物だけでは営業できません。

厚生労働省は薬剤師の地域偏在を把握するため、薬剤師偏在指標を整備しています。地域によって薬剤師の確保状況が異なること自体が、すでに政策上の課題になっています。

人口減少地域では、薬局経営の採算だけでなく、そこで働く薬剤師を継続的に確保できるかという問題が加わります。

例えば、経営者が高齢になって後継者がいない場合、患者が一定数残っていたとしても閉局する可能性があります。

チェーン薬局であっても、薬剤師を確保できなければ営業時間の短縮や店舗統合という判断が必要になるでしょう。

したがって将来の薬局を考える場合には、

薬局数 +薬剤師数 +営業時間 +必要な医薬品を供給できる能力

を一体として見る必要があります。

「近くに薬局がある」だけでは十分ではない

生活者にとって重要なのは、行政区域内に薬局が何店舗あるかではありません。

例えば、自宅から10km離れた場所に薬局が1軒残っていたとしても、自動車を運転できない高齢者にとって利用できるとは限りません。

診察を受けた病院から薬局まで移動しなければならない場合もあります。

また、営業時間が短くなれば、診療時間との組み合わせによっては当日に薬を受け取れないことも考えられます。

そこで、地域住民にとっての「薬へのアクセス」を、分析のために次のように整理できます。

薬へのアクセス =薬局・調剤拠点の存在 +薬剤師の確保 +必要な薬の在庫・調達能力 +営業時間 +患者の移動手段 +在宅訪問 +配送 +オンライン利用能力

これは公的な指標ではなく、問題構造を理解するための概念的整理です。

この式から分かるのは、薬局が1店舗減ったから直ちに地域医療が維持できなくなるわけでもなければ、1店舗残ったから安心ともいえないということです。

オンライン服薬指導があれば解決するのか

将来の有力な選択肢の一つがオンライン服薬指導です。

薬剤師と情報通信機器を使って服薬指導を行うことで、患者が毎回薬局まで移動しなくてもよい場面を増やせます。

厚生労働省も、オンライン服薬指導や電子処方箋などを含む薬局業務のデジタル化を進めています。

地方では非常に重要な仕組みになる可能性があります。

ただし、

オンライン服薬指導ができる = 薬局へのアクセス問題がすべて解決する

わけではありません。

薬そのものは患者の手元へ届ける必要があります。

スマートフォンや通信環境を利用できることも前提になります。

高齢者が自分で電子処方箋、オンライン予約、ビデオ通話、決済などを操作できるかという問題もあります。

さらに、薬剤師そのものが不足していれば、オンラインに切り替えただけでは人的資源は増えません。

デジタル化は「患者の移動」を減らすことはできますが、「薬剤師が必要」という構造までなくすものではありません。

在宅訪問も万能ではない

在宅療養者に対して薬剤師が訪問する仕組みも重要になります。

特に自動車を運転できない高齢者、寝たきりの人、複数の薬を使用している人にとって、薬剤師が自宅を訪問して薬の管理まで確認することには大きな意味があります。

一方で、訪問サービスには地方特有の問題があります。

利用者の家が離れていれば、薬剤師は移動しなければなりません。

訪問薬剤師の勤務時間を単純化すると、

勤務時間 =服薬管理・指導時間 +移動時間 +調剤時間 +記録・連絡・調整時間

となります。

これも公式指標ではなく、構造を理解するための整理です。

人口密度が低い地域では、患者が減っても一人当たりの移動距離は短くなりません。

これは訪問看護や訪問介護と同じ問題です。

患者が薬局へ行かなくてよくなる代わりに、薬剤師が患者のところへ移動することになります。

したがって、在宅訪問を増やせばすべて解決するわけではありません。

30年後に残りやすい薬局と残りにくい薬局

以上を考えると、将来も残りやすいのは、単に現在患者数が多い薬局だけではないでしょう。

地域の複数医療機関から処方箋を受け付けられ、在宅医療にも対応し、必要に応じてオンライン服薬指導や配送を利用できる薬局ほど、地域医療の拠点として残る可能性があります。

厚生労働省も、外来時だけでなく在宅医療や入退院時の情報連携などに対応する「地域連携薬局」の制度を設けています。

反対に、特定の一つの診療所からの処方箋への依存度が高く、地域人口が減り、後継者がおらず、薬剤師の採用も難しい小規模薬局は、今後厳しい条件になる可能性があります。

ただし、個別薬局の将来の閉店・存続可能性は経営情報が公開されていないため、外部から正確に判断することはできません。

将来は「各地区に1店舗」より広域ネットワークになる可能性がある

人口が大幅に減少した地域で、すべての薬局を現在と同じ店舗数、同じ営業時間で維持することは現実的でない場合があります。

一方で、薬局を大きな都市へ集中させるだけでは、自動車を運転できない高齢者の負担が増えます。

そこで現実的なのは、

一定規模の調剤拠点 +診療所との連携 +在宅訪問 +オンライン服薬指導 +配送 +地域交通

を組み合わせる方法でしょう。

これは、現在の薬局をすべてそのまま残す考え方とは異なります。

守る対象を、

「薬局という店舗」から「住民が必要な薬を安全に受け取れる機能」へ変える

ということです。

病院が残っていても、薬を受け取れなければ医療アクセスは完成しない

地方医療を考えるとき、病院数や医師数が注目されやすいのですが、住民の生活から考えると、その後の処方薬まで含める必要があります。

特に高齢者の場合、

自宅から病院へ行き、診察を受け、薬局へ移動し、薬を受け取り、自宅へ戻るところまでが一連の医療行動です。

したがって、

病院で診察を受けられる ≠ 必要な薬まで受け取れる

と考える必要があります。

今後、地方の医療機関が集約されれば、病院と薬局の立地も変わっていく可能性があります。そのとき、医療提供者側の効率だけでなく、患者本人の移動時間、家族による送迎、交通費、待ち時間まで含めて評価する必要があります。

地方の薬局はなくなるのではなく、「形」が変わる可能性が高い

30年後の地方で、現在と同じ数の薬局が、現在と同じ場所で、現在と同じ営業時間を維持している可能性は高いとはいえません。

人口減少、患者数の変化、薬剤師の地域偏在、後継者問題、店舗経営の固定費などを考えれば、一定の集約は避けにくいでしょう。

しかし、それは直ちに「地方では薬を受け取れなくなる」という意味でもありません。

調剤拠点を集約しながら、電子処方箋、オンライン服薬指導、在宅訪問、配送、地域交通などを組み合わせれば、薬局店舗が減っても薬へのアクセスを維持できる地域はあります。

重要なのは、薬局数を守ることそのものではありません。

30年後も、住民が必要なときに、必要な薬を、安全に、無理のない移動と負担で受け取れるか。

地方の薬局問題は、この視点から考える必要があります。

人口減少社会で守るべきなのは「現在と同じ店舗配置」ではなく、地域住民が処方薬へ到達できる仕組みそのものではないでしょうか。

地域の課題を、自分の判断に置き換えて考える

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人口が減れば、地域の病院も患者が減り、いずれ維持できなくなるのでしょうか。

人口減少が続く外房では、この問題は避けて通れません。しかし、「人口が減るから病院も減らせばよい」と単純に考えることも、「現在ある病院をすべて同じ規模、同じ機能のまま残すべきだ」と考えることも、どちらも実態を十分に捉えているとはいえません。

病院には建物があります。病床があります。医師、看護師、薬剤師、臨床検査技師、診療放射線技師など多くの医療従事者が必要です。救急を受け入れるなら、夜間や休日にも人員を配置しなければなりません。

一方で、地域の人口が減少しても、高齢者の割合は上昇します。高齢者では複数の疾患を抱える人が増え、救急、入院、リハビリテーション、在宅医療との連携など、若い人口が多かった時代とは異なる医療需要が生じます。

したがって考えるべきなのは、

「人口減少で病院がなくなるか」ではなく、「人口構造が変わった地域で、必要な医療機能をどう維持するか」

という問題です。

最初に結論~すべての病院を現在と同じ形で残すことと、地域医療を守ることは同じではない

外房の将来を考えると、人口減少によって病院経営が難しくなる可能性は高まります。

しかし、

人口が減る =医療需要も同じ割合で減る

とは限りません。

さらに、

病院数を維持する =地域医療を維持する

とも限りません。

反対に、

病院を集約する =住民にとって必ず効率的になる

ともいえません。

将来の地域医療で重要になるのは、それぞれの病院がすべての診療機能を持とうとするのではなく、救急、急性期、回復期、慢性期、在宅医療との連携などについて、地域全体で役割を分担しながら必要な機能を維持することです。

厚生労働省も、2040年を見据えた新たな地域医療構想で、単なる病床数だけではなく、「急性期拠点機能」「高齢者救急・地域急性期機能」「在宅医療等連携機能」「専門等機能」といった医療機関の役割を地域ごとに整理し、連携、再編、集約化を検討する方向を示しています。

つまり将来問われるのは、

病院という建物を何施設残すかではなく、住民に必要な医療をどこまで提供し続けられるか

です。

外房を含む医療圏では、2050年までに人口がおよそ3分の1減る

外房の医療を考える場合、市町村ごとだけではなく、医療提供体制の単位である二次保健医療圏を見る必要があります。

勝浦市、いすみ市、大多喜町、御宿町だけで独立した医療圏が設定されているわけではありません。

これらの地域は、茂原市、東金市、山武市、大網白里市、長生郡などとともに「山武長生夷隅保健医療圏」に含まれます。

千葉県の現行保健医療計画では、この医療圏は17市町村、人口42万2,832人、面積1,161.72平方キロメートルとされています。人口は2023年4月1日時点です。

国立社会保障・人口問題研究所の2023年推計を千葉県が医療圏別に集計した資料では、山武長生夷隅保健医療圏の人口は、

2020年 約41万人 2025年 約38万8千人 2030年 約36万6千人 2035年 約34万3千人 2040年 約31万9千人 2045年 約29万5千人 2050年 約27万3千人

と推計されています。

2020年を100とすると、2050年には約66.6です。

単純計算では、30年間で約33%人口が減少することになります。

これは小さな変化ではありません。

人口規模だけを考えれば、病院の外来患者や一部の入院需要が縮小し、現在と同じ規模の医療提供体制を維持することが難しくなる可能性があります。

しかし、ここで人口総数だけを見ると将来を読み違える可能性があります。

人口は減っても、高齢化率は上昇する

千葉県の推計では、山武長生夷隅保健医療圏の総人口は減少しますが、高齢化率は上昇し、2050年には45%を超えると見込まれています。

つまり将来は、

「患者になりにくい若年人口が大きく減る」

一方で、

「医療を必要とする可能性の高い高齢者が人口に占める割合は上がる」

という人口構造になります。

このため、

人口が30%減少したから、

医療需要も30%減少する、

とは考えられません。

厚生労働省の地域医療に関する資料でも、人口減少地域では後期高齢者、高齢者夫婦世帯、高齢単身世帯が増え、複数の慢性疾患を併せ持つ患者、慢性疾患が急に悪化する患者、認知症患者、医療と介護の双方を必要とする患者が増える可能性が指摘されています。

これは、単なる患者数の問題ではありません。

一人の患者に必要となる医療や介護が複雑になる可能性があります。

人口減少社会では、

医療需要の量が減少する部分と、医療需要の複雑さが増す部分が同時に存在する

と考えた方が実態に近いでしょう。

病院経営では、患者が減っても費用が同じ割合では減らない

地域病院の維持を難しくする最大の構造の一つが、費用の問題です。

病院の経営は、一般的な小売店のように、患者が少なければその日の従業員を大幅に減らすという形では運営できません。

入院病棟を維持するには、一定数の医師、看護師その他の職員が必要です。

救急医療を行う場合は、実際に救急患者が来るかどうかにかかわらず、一定の待機体制が必要になります。

検査設備や医療機器も、利用回数が減ったからといって取得費や維持費が同じ割合で下がるわけではありません。

厚生労働省地方厚生局の地域医療資料でも、診療圏が縮小すると病院経営が悪化し得る理由として、医療・介護の人件費が固定費的な性質を持つ一方、患者減少によって収入が減少する構造が示されています。

この構造を簡単に整理すると、

病院収支

=医療収入-固定的費用-患者数に応じて変動する費用

と考えることができます。

これは会計制度上の正式な病院経営指標ではなく、構造を説明するための概念的な整理です。

問題は、患者数が10%減少しても、人件費や建物費、医療機器費などが直ちに10%減少するわけではないことです。

したがって、

人口減少率 ≠病院費用減少率

となります。

これが人口減少地域で病院経営を難しくする重要な理由です。

全国的にも病床利用率は以前より低い

病院の経営を考えるうえでは、病床をどれだけ利用しているかも重要です。

厚生労働省資料によれば、全国の病院の病床利用率は2019年には80.5%でしたが、2020年には77.0%へ低下し、2021年76.1%、2022年75.3%、2023年75.6%となっています。

これは全国平均であり、外房の各病院の病床利用率を示すものではありません。

また、新型コロナウイルス感染症の影響を受けた時期を含むため、単純な長期低下傾向として解釈することにも注意が必要です。

それでも、病院経営を考える際に、

「病床を持っていること」

と、

「その病床が継続的に利用されていること」

が別である点は重要です。

患者が減る地域で多数の病床を維持すれば、病床当たりの固定的な負担が重くなる可能性があります。

一方で、病床利用率を極端に高めればよいというわけでもありません。

感染症流行、災害、大事故、季節的な患者増加などに対応する余力も必要だからです。

したがって、

病床利用率を100%に近づけることが最適な病院経営とは限りません。

医療には一定の余裕が必要です。

外房でより深刻になり得るのは「患者不足」より「人材不足」

人口減少地域の病院について考えると、「患者がいなくなる」という問題ばかりに目が向きます。

しかし、実際には、

患者より先に医療従事者が足りなくなる可能性

も考える必要があります。

千葉県は、山武長生夷隅保健医療圏を「医師少数区域」と位置付けています。

病院は建物と病床だけでは機能しません。

医師がいなければ診療できません。

看護師がいなければ病棟を維持できません。

手術を行うには、外科医だけでなく麻酔科医、看護師、臨床工学技士、診療放射線技師、臨床検査技師など複数の職種が必要になります。

したがって、

病院供給力

=病床 +医師 +看護職員 +その他の医療従事者 +設備 +診療時間 +救急対応能力 +継続可能性

と考える必要があります。

これは公式指標ではなく、分析のための概念的整理です。

重要なのは、

施設が存在する ≠医療サービスを提供できる

ということです。

人口が減少する地域では、患者だけでなく働く世代そのものも減少します。

病院が建っていても、必要な職種と人数を確保できなければ、診療科の縮小、病床休止、夜間救急の制限などが起こる可能性があります。

「各市町村に総合病院を残す」は現実的なのか

地域住民の立場から考えれば、自宅の近くに病院がある方が便利です。

特に高齢になり、自動車を運転できなくなれば、医療機関までの距離は大きな問題になります。

だからといって、

「すべての市町村に高度な総合病院を残す」

という方法が現実的とは限りません。

高度な医療を維持するには、医師をはじめとする専門職を一定数集める必要があります。

手術や高度救急などは、患者数が少なすぎれば医師が経験を維持することも難しくなる場合があります。

また、少人数の医師で24時間365日の救急を維持すれば、一人当たりの当直や時間外勤務の負担が重くなります。

したがって、人口の少ない地域では、

すべての病院で、

すべての診療科を、

24時間維持する、

という体制は徐々に成立しにくくなります。

厚生労働省が2040年に向けて、医療機関の役割分担や連携、再編、集約化を政策として進めようとしている背景にも、この構造があります。

しかし「集約すれば解決する」わけでもない

一方、病院を一か所に集約すれば、それですべて解決するわけでもありません。

外房では医療機関までの距離が長くなれば、高齢者の通院負担が増します。

救急車の搬送時間も重要になります。

家族が入院患者を見舞ったり、退院時の説明を受けたりするための移動負担も増えます。

病院側の費用が減っても、

住民の交通費、

家族の送迎時間、

救急搬送時間、

公共交通への追加負担

が増える可能性があります。

したがって、

公費削減

=地域全体の社会的費用削減

とは限りません。

病院統合を評価するときには、病院の経営収支だけではなく、

患者が必要な医療へ到達できるか

という視点が必要です。

これは以前の記事で扱った、

医療機関が存在する ≠ 必要な診療科へ実際に通院できる

という問題と同じです。

地域病院は「大病院の縮小版」である必要はない

人口減少地域の病院を持続させる方法を考えるとき、重要なのは、

「今の病院をどう残すか」

だけではありません。

「地域に何の医療機能が必要なのか」

から考え直す必要があります。

人口減少と高齢化が進めば、高度な手術を大量に行う機能よりも、

高齢者の救急受け入れ、

肺炎や心不全などの急性増悪への対応、

骨折後の治療とリハビリテーション、

慢性疾患管理、

在宅医療から状態が悪化した患者の受け入れ、

退院後の介護や訪問看護との調整

などの重要性が高くなる地域もあります。

つまり、

地域病院を都市部の大病院の小型版として維持する必要はない

ということです。

高度な手術や専門治療は拠点病院へ集約しながら、地域病院は高齢者救急、一般的な入院、回復期、在宅復帰支援などに重点を置く方法も考えられます。

厚生労働省が新たな地域医療構想で「高齢者救急・地域急性期機能」や「在宅医療等連携機能」を明確に位置付けているのも、この人口構造の変化を反映しています。

病院単体ではなく「地域全体の医療網」で考える必要がある

これからの外房では、一つの病院の経営だけを見て地域医療を評価することは難しくなります。

例えば、ある病院が手術をやめても、別の病院で手術を受けられ、治療後は地元の病院へ戻ってリハビリテーションを受けられるのであれば、地域全体として医療機能が保たれる場合があります。

逆に病院数が同じでも、

救急を受けない、

夜間診療をしない、

専門医がいない、

病床が休止している、

という状態であれば、住民から見た医療供給力は低下します。

そこで将来の地域医療を、

地域医療機能

=地域内医療機関 +地域外拠点病院へのアクセス +救急搬送 +病院間連携 +診療所 +在宅医療 +訪問看護 +介護 +交通

として考えることができます。

これも公式指標ではなく、分析のための概念的整理です。

病院単独ではなく、

一人の患者が発症してから、治療、回復、退院、在宅生活まで途切れず医療を受けられるか

を見る必要があります。

地域病院が維持しやすい条件

人口が減っても地域病院が維持される可能性はあります。

ただし、現在と同じ形を維持するという意味ではありません。

必要な診療機能を絞り、他の病院との役割分担が明確で、一定の患者数を確保でき、医師や看護師を継続的に確保でき、救急、在宅医療、介護との連携が機能している場合には、地域病院としての役割を維持しやすくなります。

逆に、近隣病院が同じ診療機能を重複して持ち、患者数が少ないにもかかわらず多数の病床や高度医療機器を維持し、少人数の医師で救急や専門診療を広く抱え込む体制は、人口減少下では難しくなる可能性があります。

重要なのは、

縮小すること自体を失敗と考えないこと

です。

病床を減らしても必要な救急を受け入れられる。

高度医療を他院へ集約しても地元で術後管理ができる。

入院機能を一部整理しても在宅医療との連携が強くなる。

このような再編であれば、病院の規模が小さくなっても地域医療の実質的な利用可能性は維持できる場合があります。

「赤字病院だから不要」という判断も危険

地域病院を考えるとき、経営赤字だけで存在意義を判断することにも注意が必要です。

救急医療などには、患者が来るまで待機する機能があります。

例えば深夜に救急患者が一人も来なかったとしても、その夜に医師や看護師を配置した費用は発生します。

しかし患者が来なかったから、その体制が無価値だったとはいえません。

消防署が火災のない日に不要になるわけではないのと似ています。

したがって、

赤字 ≠ 社会的に不要

です。

一方で、

社会的に必要 ≠ どれだけ赤字でも現在の体制を維持すべき

でもありません。

必要性と経営効率は分けて考えなければなりません。

30年後の外房で本当に守るべきもの

山武長生夷隅保健医療圏では、2020年に約41万人だった人口が2050年には約27万3千人まで減少すると推計されています。

この人口変化の中で、現在の病院数、病床数、診療科、建物をすべて同じ状態で30年間維持することが最適とは限りません。

しかし、人口が減ったから病院を単純に減らせばよいわけでもありません。

人口減少社会で守るべきなのは、

病院という施設そのものではなく、必要なときに必要な医療を受けられる地域の能力

です。

高齢者が急に具合が悪くなったときに受け入れる病院がある。

専門治療が必要なら適切な拠点病院へ搬送できる。

治療が終われば地域へ戻り、リハビリテーションを受けられる。

退院後は診療所、訪問診療、訪問看護、介護につながる。

この流れが維持されることの方が、単純な「病院数」より重要です。

現実的な結論~人口減少時代は「病院を残す」から「医療機能を残す」へ

人口減少によって、外房の地域病院の経営環境は厳しくなる可能性があります。

患者となる人口が減少する一方で、人件費や建物、設備、救急体制などの費用は同じ割合では減りません。

さらに、山武長生夷隅保健医療圏は医師少数区域であり、将来的には病院経営以上に医療従事者の確保が制約になる可能性があります。

しかし人口減少だけを理由に、

「地方病院は維持できない」

と結論づけることも正確ではありません。

高齢化によって医療需要の内容が変化し、高齢者救急、慢性疾患、回復期、在宅医療との連携など、地域病院だからこそ必要になる機能もあります。

したがって30年後の外房で必要なのは、

すべての病院を現在と同じ形で維持することではありません。

必要なのは、

限られた医師、看護師、病床、設備を地域全体で再配置し、住民が必要とする医療機能を維持することです。

人口減少社会では、

病院数 ≠ 医療供給力

病床数 ≠ 利用可能な医療

人口減少 ≠ 医療需要の同率減少

施設の存続 ≠ 医療機能の存続

です。

これから地域が問われるのは、

「この病院を残すか、なくすか」

という二者択一ではありません。

より重要なのは、

どの医療機能を、どこに、何人の医療従事者で配置し、住民がどの程度の時間と距離で利用できる状態を維持するのか

という具体的な設計です。

人口が減った後にも地域で暮らし続けられるかどうかは、病院の看板が残っているかではなく、病気になったときに実際に医療へつながれるかによって決まります。

地域病院の将来を考えるとき、見るべきものは「施設数」ではなく、

地域全体の医療提供能力

なのです。

地域の課題を、自分の判断に置き換えて考える

有限会社アードレでは、住まい・車・移住などの大きな選択を、 費用や将来条件をもとに数字で比較し、判断できる形に整理しています。

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高齢になって自分で病院へ通うことが難しくなっても、医師や看護師が自宅まで来てくれれば、住み慣れた地域で暮らし続けられる。

在宅医療を考えると、この仕組みは非常に重要です。

特に訪問看護では、看護師などが患者の自宅へ出向き、主治医の指示に基づいて健康状態の観察、医療処置、服薬管理、療養上の支援などを行います。

しかし、地方では一つ見落としやすい問題があります。

訪問看護は「患者が移動しなくてよい医療」である一方、医療従事者が患者の代わりに移動する医療でもある

ということです。

人口が減り、住宅が広い地域に分散したまま残れば、利用者一人を訪問するための移動距離や時間はなくなりません。

さらに、高齢者の増加によって在宅医療の需要が増える一方、訪問看護師を十分に確保できなければ、

訪問看護ステーションが地域に存在していても、必要な頻度で来てもらえない

という問題が生じる可能性があります。

この記事では、外房を含む山武長生夷隅地域を念頭に、公的資料を基に、30年後の訪問看護を考えます。

最初に結論

現時点の公的資料だけから、

「2050年には外房で訪問看護が受けられなくなる」

と断定することはできません。

反対に、

「訪問看護ステーションが増えているから、将来も問題なく利用できる」

とも言えません。

全国では訪問看護ステーションが増加しています。

厚生労働省の2024年「介護サービス施設・事業所調査」では、2024年10月1日時点の訪問看護ステーションは全国18,042事業所で、前年の16,423事業所から1,619事業所、9.9%増加しました。

一方、千葉県が山武長生夷隅保健医療圏についてまとめた保健医療計画では、

65歳以上人口10万人当たりの訪問看護ステーション数は千葉県平均を下回っている

とされています。千葉県は同時に、この地域では今後も在宅医療等の需要増加が見込まれるとしています。

つまり外房を含む地域では、

需要が増える可能性がある一方、訪問看護の供給基盤は県平均より薄い

という構造を考える必要があります。

訪問看護とは何をするサービスなのか

訪問看護は、単に高齢者の話し相手になるサービスではありません。

主治医の指示を受け、利用者の自宅などを訪問し、

・健康状態の観察 ・病状悪化の予防 ・療養生活の支援 ・医療処置 ・服薬管理 ・リハビリテーション ・緊急時への対応 ・看取りへの支援 ・医師や介護職との連携

などを行います。

訪問看護の利用者は高齢者だけではなく、小児、難病患者、精神疾患のある人などにも及びます。

したがって、

高齢者人口だけを見れば将来の訪問看護需要が分かる

というものでもありません。

厚生労働省の調査資料でも、医療保険による訪問看護利用者は高齢者だけに限られず、幅広い年齢層に存在しています。

全国では訪問看護ステーションは増えている

訪問看護について、

「人口減少だからステーションも減っている」

と考えるのは、少なくとも現在の全国統計とは一致しません。

厚生労働省によると、2024年10月1日時点の訪問看護ステーションは18,042事業所でした。

2023年は16,423事業所だったため、

18,042-16,423=1,619事業所

増加しています。

増加率は9.9%です。

したがって、現状を正確に表現するなら、

訪問看護ステーションそのものは全国的に増えている

ということになります。

しかし、ここで重要なのは、

事業所数が増えること = 全国どこでも同じように訪問看護を利用できること

ではない点です。

1事業所に看護師が何人いるのか

訪問看護サービスの供給能力を考えるには、事業所数だけでは不十分です。

実際に訪問する看護職員が必要だからです。

厚生労働省の2024年データを用いた調査では、訪問看護ステーション1事業所当たりの看護師・准看護師数は、常勤換算で全国平均5.7人でした。

千葉県は5.6人です。

全国平均との差は小さいものの、

一つの訪問看護ステーションに数十人の看護師がいるのが標準というわけではありません。

さらに、日本看護協会の調査を基にした厚生労働省資料では、所在地を問わず、看護職員5人未満の訪問看護事業所が最も多い結果となっています。

町村部では回答148事業所のうち71事業所、48.0%が看護職員5人未満でした。

これは外房の訪問看護ステーションそのものを調査した数字ではありません。

したがって、

「外房の半数の事業所が5人未満」

とは言えません。

ただし、全国的に訪問看護が比較的小規模な事業所によって支えられていることは確認できます。

小規模事業所では「1人減る影響」が大きい

仮に看護職員が20人いる事業所で1人退職すれば、単純な人数比では5%の減少です。

一方、5人の事業所から1人減れば20%の減少です。

これは単純な算術例であり、実際の訪問能力を直接示す公式指標ではありません。

しかし、小規模な訪問看護ステーションほど、

病気 退職 産休・育休 研修 夜間対応

などによる一人の欠員が、事業所全体の運営へ与える影響が相対的に大きくなりやすいことは理解できます。

したがって、

訪問看護ステーションが1か所存在する

という事実だけから、その地域の供給能力を判断することはできません。

外房を含む地域では県平均より訪問看護ステーションが少ない

千葉県保健医療計画では、勝浦市、いすみ市、大多喜町、御宿町などを含む山武長生夷隅保健医療圏について、

65歳以上人口10万人当たりの訪問診療実施診療所・病院数は千葉県平均を上回る一方、訪問看護ステーション数は千葉県平均を下回る

と整理しています。

さらに千葉県は、

今後も在宅医療等の需要が増加すると見込まれる

ため、在宅医療の拡充と体制整備を進める必要があるとしています。

ここには重要な意味があります。

医師の訪問診療体制が比較的確保されていても、

医師が診察することと、日常的な療養を訪問看護で支えることは別

だからです。

在宅医療は医師だけでは成立しません。

看護師、薬剤師、介護職、リハビリテーション職などによる連携が必要になります。

訪問看護は「移動する医療」である

病院の場合、患者が医療機関へ移動します。

訪問看護では逆です。

看護師が利用者の自宅へ移動します。

そのため勤務時間は概念的には、

訪問看護師の勤務時間 =看護を提供する時間 +利用者宅への移動時間 +記録・連絡・調整などの時間

に分けられます。

これは公式統計の算定式ではなく、訪問看護の構造を理解するための概念的整理です。

重要なのは、

移動時間には直接看護を提供できない

ことです。

例えば同じ8時間勤務でも、利用者宅が近接している地域と、住宅が広範囲に分散している地域では、訪問可能件数が同じとは限りません。

人口密度が低い地域では「利用者が少ないから楽」とは限らない

人口減少地域では、利用者数そのものが都市部より少ない場合があります。

一見すると、

利用者が少ない ↓ 必要な訪問看護師も少ない

と考えられます。

しかし、この関係は単純ではありません。

利用者数が少なくても、その利用者が広い地域に分散していれば、一件ごとの移動時間が長くなります。

つまり、

利用者数の減少率 ≠ 訪問に必要な労働時間の減少率

です。

これは、このブログでこれまで扱ってきた、

人口が減る速度と管理対象が減る速度は一致しない

という問題にも似ています。

訪問看護の場合は、

人口が減る速度と、必要な移動距離が減る速度は一致しない

可能性があります。

「移動負担」を数字だけで断定することはできない

ただし、ここでは慎重さも必要です。

今回確認した千葉県の公的資料から、

「外房の訪問看護師は1日平均○km走行している」

「都市部より移動時間が○分長い」

という統一的な地域データは確認できませんでした。

そのため、

外房では訪問時間の○%が移動で失われている

といった数字は示しません。

公開資料だけでは判断困難です。

実際の移動負担は、

事業所所在地 利用者の居住場所 道路状況 訪問エリア 利用者数 訪問頻度

などによって異なります。

30年後の人口構造はどうなるのか

国立社会保障・人口問題研究所の「日本の地域別将来推計人口(令和5年推計)」では、市区町村別人口が2050年まで推計されています。

山武長生夷隅地域についても、前の記事で確認したように、総人口の減少が続く一方、高齢者、とりわけ75歳以上人口が地域生活で大きな割合を占める状態が続くと見込まれています。

ただし、

2050年の外房に訪問看護利用者が何人いるか

訪問看護師が何人必要になるか

という市町村別の公式推計は、今回確認した資料では存在しません。

したがってこの記事では、

「2050年には訪問看護師が○人不足する」

という独自推計は行いません。

在宅医療を増やすほど訪問する人が必要になる

高齢者が病院へ長期間入院するのではなく、自宅などで療養できる体制を整えることには大きな意味があります。

しかし、

病院から在宅へ移せば医療従事者が不要になる

わけではありません。

むしろ、患者が複数の自宅に分散するため、

医師 看護師 薬剤師 リハビリテーション職 介護職

などがそれぞれ移動する必要があります。

千葉県も、山武長生夷隅地域について在宅医療需要の増加を見込み、在宅医療提供体制の整備が必要だとしています。

したがって、

入院から在宅へ = 低コストで簡単に医療を維持できる

とは限りません。

「24時間対応」はさらに人員を必要とする

在宅療養では、昼間だけ医療ニーズが発生するとは限りません。

夜間に、

発熱する 呼吸状態が悪化する 点滴やカテーテルに問題が起こる 痛みが強くなる 転倒する

といったことがあります。

そのため訪問看護には24時間連絡可能な体制を持つ事業所もあります。

千葉県の保健医療計画策定資料では、2023年4月時点で県内に24時間対応可能な訪問看護ステーションが544か所あるとされています。

ただし、24時間対応とは、

24時間いつでも看護師が直ちに訪問できる

ことと同義ではありません。

連絡体制や緊急訪問体制には事業所ごとの差があります。

さらに、小規模な事業所で夜間・休日を継続して担当する場合、職員への負担も考えなければなりません。

ステーションが増えても廃止・休止する事業所はある

全国では訪問看護ステーション数が増えていますが、すべての事業所が永続的に運営されているわけではありません。

厚生労働省の訪問看護事業所の事業継続に関する調査資料では、訪問看護事業所の廃止や休止も確認されています。

つまり、

新規開設 -廃止・休止

の結果として全体の事業所数が増えているのであり、

現在ある最寄りの訪問看護ステーションが30年後にもそのまま存在する

ことを保証する数字ではありません。

これは地方のサービスを考えるうえで重要です。

大きな事業所と小さな事業所では経営条件も異なる

厚生労働省の調査資料では、看護職員数の多い訪問看護事業所ほど収益が高い傾向が示されています。

これも、

「小規模事業所はすべて赤字」

という意味ではありません。

しかし、訪問看護では一定の規模を持つことによって、

夜間対応 休暇時の交代 研修 緊急訪問 管理業務

などを複数職員で分担しやすくなると考えられます。

一方、人口の少ない地域で利用者数を確保するためには、訪問範囲を広げる必要が生じる可能性があります。

ここに地方特有の矛盾があります。

規模を大きくするには利用者が必要 ↓ 人口密度が低いので広い地域から利用者を集める ↓ 訪問距離が延びる

という構造です。

これは分析上の整理であり、外房の全事業所が実際にこの状態にあるという意味ではありません。

ICTで移動時間そのものは消せない

ICT(情報通信技術)を利用すれば、

記録 情報共有 医師との連絡 予定管理 オンライン会議

などを効率化できます。

これは訪問看護の生産性向上に有効です。

しかし、

患者の身体を観察する

点滴や処置を行う

褥瘡を確認する

自宅で療養状態を確認する

ためには、必要に応じて実際に患者宅へ行かなければなりません。

そのため、

ICTを導入する = 訪問看護の移動問題がなくなる

とは言えません。

移動しなければならないサービスである以上、地理的条件は残ります。

オンライン診療とも役割が違う

オンライン診療によって、医師への相談や診察の一部を遠隔化できる場合があります。

しかし訪問看護は、

患者の身体状態を直接観察する 医療処置を行う 療養環境を確認する 家族の介護状況を見る

といった役割を持っています。

したがってオンライン化によって、すべての訪問を置き換えることはできません。

むしろ、

オンライン診療 +訪問看護 +必要時の通院・入院

を組み合わせる形が重要になります。

地方で必要なのは「事業所数」ではなく実際の訪問能力

地域の訪問看護体制を評価するときは、

訪問看護ステーションが3か所ある

という数字だけでは十分ではありません。

分析上は、

地域の実質的な訪問看護供給力 =看護職員数 ×実際に訪問できる勤務時間 ×対応可能日数 -移動時間 -記録・連携などに必要な時間

と考えることができます。

これは公式指標ではなく、分析のための概念的整理です。

さらに、

24時間対応 精神科訪問看護 小児対応 看取り リハビリテーション

など、事業所によって提供できるサービスも違います。

したがって、

訪問看護ステーションがある ≠ 自分に必要な訪問看護を利用できる

のです。

利用者にとっては「来てもらえる距離」が重要になる

病院では、

自宅から病院まで何kmか

が問題になります。

訪問看護では逆に、

訪問看護ステーションから自宅まで何kmか

が重要になります。

さらに、

その事業所が自宅を訪問対象地域としているか

を確認する必要があります。

地図上で最寄りの訪問看護ステーションだからといって、必ず契約できるとは限りません。

受入れ状況、職員数、疾患、医療処置、訪問エリアなどによって利用できない場合もあります。

高齢者一人暮らしでは訪問看護の重要性がさらに高くなる

家族と同居している場合には、

体温を測る 薬を確認する 病状変化に気づく 病院へ連絡する

といったことを家族が補う場合があります。

一人暮らしでは、その役割を家族に当然のように期待できません。

したがって単身高齢者が増える地域では、

訪問診療 訪問看護 訪問介護 配食 緊急通報

などを組み合わせる必要性が高まります。

ただし、ここでも重要なのは、

サービスの種類を増やすことだけではなく、それぞれを担う人が確保できるか

です。

訪問看護だけで在宅生活を維持できるわけではない

訪問看護は重要ですが、利用者宅に24時間看護師がいるサービスではありません。

訪問と訪問の間には、本人や家族が生活する時間があります。

したがって在宅生活の継続可能性は、

訪問看護 +訪問診療 +介護サービス +服薬支援 +食事 +緊急対応 +家族・地域支援 +住環境

などによって決まります。

訪問看護だけを増やせば、一人暮らしの高齢者問題が解決するわけではありません。

30年後に成立しやすい地域の条件

人口減少地域でも訪問看護を維持しやすい条件としては、

・一定数の看護職員を確保できる ・小規模事業所同士で連携できる ・夜間や休暇時の応援体制がある ・利用者が過度に広範囲へ分散していない ・医師、薬局、介護事業者との連携がある ・ICTで記録・情報共有を効率化できる ・必要に応じて複数市町村をまたいだ連携ができる

などが考えられます。

一方、

・職員が少ない ・利用者宅が広範囲に分散している ・夜間対応を少人数で担う ・一人退職しただけで訪問枠が大きく減る ・医療・介護事業者との連携が弱い

地域では、継続が難しくなる可能性があります。

「各町に1か所残せばよい」とも言えない

行政的には、

「町内に訪問看護ステーションを確保する」

という考え方は分かりやすいものです。

しかし小規模なステーションを各地域に分散させれば、

一つ一つの事業所が十分な職員数を確保できない可能性があります。

反対に大規模なステーションへ統合すれば、人員配置や夜間対応はしやすくなる可能性がありますが、

訪問距離が長くなる

という問題が生じます。

つまり、

分散 =近いが小規模になりやすい

集約 =規模を確保しやすいが遠くなりやすい

というトレードオフがあります。

したがって、単純に「統合すれば効率的」とも「各町に残せば安心」とも言えません。

判断前に確認したいこと

高齢期に外房などの地方で在宅生活を考える場合には、現在の事業所数だけではなく、次の点を確認する必要があります。

  • [ ] 自宅を訪問対象とする訪問看護ステーションがあるか
  • [ ] 現在、新規利用を受け付けているか
  • [ ] 看護師による訪問に対応しているか
  • [ ] 必要な医療処置に対応できるか
  • [ ] 夜間・休日の連絡体制があるか
  • [ ] 緊急訪問が必要な場合の対応を確認したか
  • [ ] 主治医との連携ができるか
  • [ ] 訪問診療・介護サービスも利用できるか
  • [ ] 家族がいなくても療養を継続できる仕組みがあるか
  • [ ] 現在の最寄り事業所だけに依存していないか

現実的な結論

現在、全国の訪問看護ステーション数は増えています。

2024年10月1日時点では全国18,042事業所となり、前年から9.9%増加しました。

したがって、

訪問看護そのものが現在衰退している

とは言えません。

一方、外房を含む山武長生夷隅保健医療圏では、65歳以上人口10万人当たりの訪問看護ステーション数が千葉県平均を下回り、千葉県自身が今後の在宅医療需要の増加を見込んでいます。

さらに、全国の訪問看護ステーションは比較的小規模な事業所が多く、千葉県でも1事業所当たり看護師・准看護師数は2024年に常勤換算5.6人でした。

したがって30年後を考えるとき、重要なのは、

訪問看護ステーションを何か所残せるか

だけではありません。

重要なのは、

実際に訪問できる看護師を何人確保し、その人たちが限られた勤務時間の中で、どの範囲まで訪問できるか

です。

在宅医療は、患者が病院へ行かなくてよい医療です。

しかしその代わりに、

医療従事者が患者のところへ行かなければならない医療

でもあります。

人口減少地域では、

人口が減る ↓ 住宅や集落は広い範囲に残る ↓ 一人当たりの移動負担が必ずしも減らない

という問題が生じます。

そのため、

訪問看護サービスが存在すること ≠ 必要なときに実際に来てもらえること

と考える必要があります。

30年後の地方の在宅医療を支えるために必要なのは、単に訪問看護ステーションを増やすことではありません。

限られた看護職員で、移動を含めて持続可能な訪問体制をどう構築するか。

そこまで考えて初めて、「住み慣れた地域で暮らし続ける」という在宅医療の理念を、現実の生活として維持できるのではないでしょうか。

地域の課題を、自分の判断に置き換えて考える

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外房で病院や診療所が減ったら、どこまで通院できるのか~医療機関までの距離と高齢者生活を考える

地方で暮らし続けられるかを考えるとき、「近くに病院があるか」は重要な条件です。

しかし、病院や診療所の看板が地域に残っていれば、それだけで医療へアクセスできるのでしょうか。

実際の通院には、

・必要な診療科がある ・診療日に受診できる ・予約を取れる ・医師がいる ・自宅から移動できる ・診察後に帰宅できる ・定期的な通院を繰り返せる

という複数の条件が必要です。

特に高齢になると、10km、20kmという距離そのものだけでなく、自動車を運転できるか、家族が送迎できるか、鉄道やバスの時刻が診療時間に合うかという問題が加わります。

この記事では、勝浦市、いすみ市、大多喜町、御宿町などを含む外房を念頭に置きながら、千葉県が設定する「山武長生夷隅保健医療圏」の公的資料を中心に、

病院や診療所が存在することと、高齢者が実際に通院できることは同じなのか

を考えます。

最初に結論

外房の将来医療で重要なのは、

病院・診療所の数だけを維持することではなく、必要な診療を、住民が現実的に到達できる範囲で受けられる状態を維持できるか

です。

山武長生夷隅保健医療圏では、千葉県の計画策定時点で一般診療所が263か所あり、一般診療所で診療に従事する医師は253人でした。

しかし同圏域の外来医師偏在指標は85.9で、全国330医療圏中255位です。

千葉県はこの地域について、

「診療所における外来医療のニーズに対して、診療所医師が少ない地域」

と評価しています。

さらに、外来患者については圏域外へ1日約4,500人が流出する一方、圏域内への流入は約1,000人で、差し引き約3,500人の流出超過と推計されています。

つまり、現在でも地域住民の医療が、この医療圏だけで完結しているわけではありません。

将来、医療機関や診療科が減少した場合に問題になるのは、単なる施設数の減少ではなく、

圏域外へ移動しなければ受けられない医療がさらに増える可能性

です。

「外房」の範囲と今回使う統計

日常的に使われる「外房」と、行政上の医療圏は一致しません。

千葉県の山武長生夷隅保健医療圏は、

茂原市 東金市 勝浦市 山武市 いすみ市 大網白里市 九十九里町 芝山町 横芝光町 一宮町 睦沢町 長生村 白子町 長柄町 長南町 大多喜町 御宿町

の6市10町1村で構成されています。

面積は1,161.72平方キロメートルで、千葉県全体の22.5%を占めます。一方、2023年4月1日時点の人口は422,832人で、県人口の6.5%です。

したがって、かなり広い面積に人口が分散する医療圏です。

ただしこの記事で示す医療機関数や医師数は、原則として山武長生夷隅保健医療圏全体の数字です。

勝浦市、御宿町、いすみ市など南側の外房地域だけを表した数字ではありません。

ここは区別する必要があります。

2050年には人口が減っても、75歳以上人口は今より多い

国立社会保障・人口問題研究所の2023年推計を基にした千葉県資料では、山武長生夷隅区域の人口は、

2020年 約41万人 2025年 約38万8千人 2030年 約36万6千人 2035年 約34万3千人 2040年 約31万9千人 2045年 約29万5千人 2050年 約27万3千人

へ減少すると見込まれています。

2020年から2050年までの減少は約13万7千人です。

割合にすると、

(41万人-27万3千人)÷41万人×100 ≒33%

となります。

一方、75歳以上人口は、

2020年 約7万4千人 2025年 約8万7千人 2030年 約9万4千人 2035年 約9万3千人 2040年 約9万人 2045年 約8万7千人 2050年 約8万8千人

と推計されています。

2050年の総人口は2020年より約3分の1減る一方、75歳以上人口は2020年を上回る推計です。

したがって、

人口が減る =通院する高齢者も同じ割合で減る

とは考えられません。

これは外房の医療を30年先まで考える上で重要な構造です。

現在でも外来患者は地域外へ流出している

千葉県保健医療計画では、山武長生夷隅保健医療圏の居住者を基準にした推計外来患者数は1日約19,900人です。

そのうち、

圏域外への流出 約4,500人/日 圏域外からの流入 約1,000人/日

で、

差し引き約3,500人/日の流出超過

とされています。

主な流出先として、

千葉保健医療圏 約1,400人/日 香取海匝保健医療圏 約700人/日 安房保健医療圏 約700人/日 印旛保健医療圏 約600人/日 市原保健医療圏 約400人/日

などが推計されています。

この数字は平成29年度患者調査などを基に厚生労働省が算出したもので、現在の日々の実数ではありません。

それでも、

地域住民の外来医療が、すでに他の医療圏との移動によって支えられている

ことを示す資料として重要です。

263診療所あるから十分とは言えない

千葉県の資料では、山武長生夷隅医療圏に一般診療所が263か所あり、診療所で診療に従事する医師は253人です。

この数字だけを見ると、かなり多くの医療機関が存在するようにも見えます。

しかし、診療所はすべて同じ医療を提供しているわけではありません。

主たる診療科別の診療所医師数を見ると、

内科 119人 整形外科 23人 眼科 24人 小児科 12人 耳鼻いんこう科 12人 消化器内科 11人 産婦人科 8人 皮膚科 7人 外科 6人 精神科 3人 泌尿器科 3人 循環器内科 2人 腎臓内科 2人 脳神経外科 2人

などとなっています。

これは2020年の「医師・歯科医師・薬剤師統計」による数字です。

つまり、

近所に診療所がある =必要な診療科が近所にある

ではありません。

皮膚科・精神科は県平均よりかなり少ない

山武長生夷隅医療圏について、一般診療所に勤務する医師の人口10万人当たり人数は、

皮膚科 1.7人 精神科 0.7人 眼科 5.7人 耳鼻いんこう科 2.9人

です。

千葉県平均は、

皮膚科 3.6人 精神科 2.5人 眼科 5.4人 耳鼻いんこう科 3.1人

です。

眼科と耳鼻いんこう科は県平均と大きな差がありませんが、皮膚科と精神科について千葉県は「約2分の1以下」と説明しています。

したがって医療アクセスを考える場合、

病院・診療所の総数

だけを見るのでは不十分です。

必要なのは、

診療科ごとのアクセス

です。

医師全体でも「医師少数区域」

千葉県保健医療計画の医師確保に関する資料では、山武長生夷隅保健医療圏の医師偏在指標は145.1で、全国335医療圏中298位です。

千葉県は同圏域を、

「医師少数区域」

に設定しています。

2020年末時点の医療施設従事医師数は545人でした。

千葉県は2026年度末の目標医師数を640人としています。

差は95人です。

ただし、この640人という数字は「必要なすべての医師需要を完全に満たす人数」という意味ではありません。

千葉県の計画では、医師少数区域について、全国の下位33.3%の基準から脱するために必要な人数などを基準に設定しています。

したがって、

640人に達すれば将来の医師不足が完全に解消する

とは解釈できません。

「病院がなくなる」というより、機能が遠くなる問題

地方医療については、

「病院が閉院するか」

という二者択一で考えがちです。

しかし生活者にとっては、もっと段階的な変化があります。

例えば、

近所の診療所が週5日から週3日になる 特定の診療科だけ終了する 常勤医が非常勤になる 午後診療がなくなる 入院機能が縮小する 専門検査が他院紹介になる 手術は別の医療圏へ行く

といった変化です。

この場合、医療機関そのものは地域に残っています。

それでも患者側から見ると、

利用できる医療機能までの距離が伸びた

ことになります。

したがって地域医療アクセスは、施設数だけでなく、

医療アクセス =必要な診療機能への到達可能性

として考える方が実態に近くなります。

では「何kmまでなら通院できる」のか

この記事の題名にある「どこまで通院できるのか」について、最も注意が必要な部分です。

今回確認した千葉県・厚生労働省の資料には、

高齢者は病院まで○km以内なら通院可能

という統一的な基準はありません。

5kmなら大丈夫、10kmを超えたら困難、20kmなら通院不能という客観的な線を、公的資料から設定することはできません。

距離だけでは、

自動車を運転できる人 家族が送迎できる人 鉄道駅に近い人 バス停から遠い人 歩行が困難な人

で条件が違うためです。

したがって、

外房では医療機関まで○km以内に住めば安心

とはこの記事では結論づけません。

公開資料だけでは判断困難です。

本当に重要なのは「距離」より移動時間と反復可能性

例えば片道15kmの医療機関でも、自動車を運転できれば通院できる場合があります。

一方、自宅から2kmしか離れていなくても、

徒歩が困難 バスがない 家族送迎がない タクシー料金を継続的に負担できない

という場合には通院が難しくなります。

したがって高齢者の通院可能性は、分析上、

通院可能性 =医療機関の存在 +必要な診療科 +診療可能日時 +移動手段 +所要時間 +費用負担 +本人の身体能力 +継続して通える頻度

と整理できます。

これは公式指標ではなく、この記事で問題を整理するための概念式です。

重要なのは、

一度だけ病院へ行けること

ではなく、

毎月、あるいは数週間ごとに繰り返し通えること

です。

高齢者医療では「定期通院」が問題になる

高齢期には、高血圧、糖尿病、心疾患、整形外科疾患、眼疾患などで継続的な診療が必要になる場合があります。

このとき通院負担は、

1回の移動負担 × 年間通院回数

として累積します。

例えば専門医への受診で地域外へ移動する場合、1回だけなら家族に頼めても、それを何年も繰り返せるかは別問題です。

したがって、

家族に車で連れて行ってもらえる = 長期間の通院問題が解決している

とは限りません。

これは人口減少地域で特に考える必要があります。

医療圏そのものが非常に広い

山武長生夷隅保健医療圏の面積は約1,162平方キロメートルです。

千葉県全体の約22.5%を占める一方、人口は県全体の6.5%です。

このため「同じ医療圏内」という表現にも注意が必要です。

例えば、同じ山武長生夷隅保健医療圏にある医療機関だからといって、すべての住民にとって近距離とは限りません。

医療行政上の圏域と、

住民が日常的に通える生活圏

は同じではありません。

高度な医療ほど地域内で完結しない

千葉県資料によると、山武長生夷隅医療圏には、計画作成時点で病院23施設、一般診療所263施設がありました。

一方、医療機器を見ると、2020年度医療施設調査などに基づく資料では、

全身用CT(Computed Tomography・コンピュータ断層撮影) 49台 MRI(Magnetic Resonance Imaging・磁気共鳴画像装置) 21台 PET(Positron Emission Tomography・陽電子放出断層撮影) 0台 放射線治療装置 1台 マンモグラフィ 14台

となっています。

千葉県は、PETについて圏域内に保有医療機関がなく、隣接医療圏との連携が重要としています。

つまり、

すべての医療を地域内に置くこと

を前提とした医療体制ではありません。

専門性の高い医療では、ある程度の集約化と地域間連携が必要です。

問題は、

集約した医療機関まで患者が到達できる仕組みも同時に維持できるか

です。

病院を各町に残せばよい、とは限らない

ここで単純に、

「高齢者が増えるのだから、各市町村に病院を残せばよい」

という結論にはできません。

病院には医師だけでなく、

看護師 薬剤師 診療放射線技師 臨床検査技師 臨床工学技士 リハビリテーション職 事務職

など多くの職種が必要です。

設備、病床、検査機器、夜間勤務なども必要になります。

人口が減る地域で、小規模な医療機関にすべての機能を分散させれば、それぞれの医療機関で人員や設備を確保できるとは限りません。

したがって、

近くに何でもある医療

と、

医療の質・人員を確保するための集約化

の間にはトレードオフがあります。

反対に「集約すれば効率的」でも終われない

一方、

「人口が減るなら病院を集約すればよい」

という考えも十分ではありません。

医療機関側の効率が上がっても、

患者の移動距離 家族の送迎時間 タクシー料金 仕事を休む時間 公共交通の利用負担

が増えれば、社会全体では別の負担が発生します。

このブログでこれまで扱ってきた考え方と同じです。

医療機関側の効率化 ≠ 住民側の負担軽減

です。

外房では「医療」と「交通」を別々に考えられない

病院が集約されるほど、交通の重要性は高くなります。

逆に、

路線バスが減る 鉄道の運行本数が減る タクシー事業者が減る 本人が運転できなくなる

という変化が重なると、医療施設そのものが存続していてもアクセスできなくなる可能性があります。

つまり地方では、

医療アクセス =医療提供体制+地域交通

です。

病院政策だけで通院問題を解決することはできません。

自動車を運転できる間だけを見ると問題を見落とす

外房では、自動車で通院している住民も少なくありません。

そのため60代、70代前半では、

「病院まで15kmでも車なら問題ない」

と感じることがあります。

しかし高齢期の居住可能性を考える場合、

現在運転できるか

ではなく、

運転できなくなった後にも同じ医療へアクセスできるか

を見る必要があります。

自動車中心の医療アクセスは、

免許返納 視力低下 認知機能低下 身体機能低下 入院後の体力低下

などによって突然成立しなくなる可能性があります。

したがって地方移住や高齢期の住宅選びでは、現在の自動車移動時間だけでなく、非運転時の通院手段も確認する必要があります。

オンライン診療ですべて解決するわけではない

オンライン診療には、移動負担を軽減できる利点があります。

特に状態が安定した患者の一部では、通院回数を減らせる可能性があります。

しかし、

採血 画像検査 処置 身体診察 緊急対応 手術 リハビリテーション

など、対面でなければ行えない医療は残ります。

そのため、

オンライン診療が普及する = 地方の通院問題がなくなる

とは考えられません。

オンライン診療は、通院を完全に代替する仕組みではなく、適切な患者・疾病について移動回数を減らす一つの方法として考える必要があります。

在宅医療も重要だが万能ではない

山武長生夷隅医療圏には、2023年4月1日時点で在宅療養支援診療所が16か所あり、このうち機能強化型は7か所でした。

高齢化が進む地域では、患者が病院へ行くのではなく、医師や看護師などが患者宅へ行く在宅医療の重要性が高まります。

しかし在宅医療でも、

医師 看護師 車両 移動時間 訪問可能範囲

が必要です。

人口が広い地域に分散していれば、医療従事者側にも移動負担が発生します。

したがって、

在宅医療を増やせば通院問題がすべて解決する

とも言えません。

高齢者に必要なのは「医療施設への距離」ではなく「医療へのアクセス」

今後の地方居住を判断するとき、

最寄り病院まで○km

という情報だけでは不十分です。

少なくとも、

1 普段の内科

慢性疾患の診療や薬の処方を継続できるか。

2 専門診療

眼科、皮膚科、精神科、整形外科、循環器内科など必要な診療科がどこにあるか。

3 検査

CT、MRIなど必要な検査がどこで受けられるか。

4 入院

入院が必要になった場合、どの病院へ行くのか。

5 非運転時

自動車を運転できなくなった後にどう通うか。

6 家族不在時

家族が送迎できない場合に代替手段があるか。

を見る必要があります。

判断前のチェックリスト

地方で高齢期を暮らす場合、現在の医療環境について次の点を確認すると実用的です。

  • [ ] 最寄りの内科まで自動車以外で行けるか
  • [ ] 定期的に必要な専門診療科がどこにあるか
  • [ ] 午前・午後の診療曜日を確認したか
  • [ ] 紹介が必要な病院までの距離を確認したか
  • [ ] 家族送迎なしでも通院できるか
  • [ ] タクシーを継続利用した場合の費用を負担できるか
  • [ ] 公共交通の時刻が診療時間と合っているか
  • [ ] 退院後の通院方法を考えているか
  • [ ] 訪問診療の対象地域に入っているか
  • [ ] 運転できなくなった後の通院手段を決めているか

重要なのは、現在病院へ行けるかではありません。

10年、20年後に身体能力や交通条件が変わっても通院を継続できるか

です。

どのような地域なら比較的維持しやすいのか

医療アクセスを維持しやすいのは、

診療所と中核病院の役割分担がある 専門医療を集約しても交通手段が確保される かかりつけ医と専門医が連携できる 訪問診療・訪問看護を利用できる 公共交通やタクシーなど複数の移動手段がある 住民が医療機関に比較的集まりやすい居住構造

などの条件を持つ地域です。

逆に、

人口が広域に分散している 診療所の後継者がいない 専門診療科が遠い 自動車以外の交通が少ない 家族送迎への依存が大きい

地域では、医療施設数だけを維持しても通院可能性を維持できない可能性があります。

「病院を残すか、なくすか」だけの議論では足りない

人口減少地域では、医療機関の統合・再編が議論されることがあります。

しかし住民生活から見ると、本当に重要なのは、

病院が残ったか 閉院したか

だけではありません。

必要なのは、

必要な医療機能まで何分で行けるのか

自動車がなくても行けるのか

月に何回でも継続できるのか

専門医療が必要になった場合にも移動できるのか

という評価です。

医療アクセスを、

施設の数

ではなく、

医療機能への到達可能性

で考える必要があります。

現実的な結論

山武長生夷隅保健医療圏では、総人口が2020年の約41万人から2050年には約27万3千人へ減少すると推計されています。

一方、75歳以上人口は約7万4千人から約8万8千人となる推計です。

現在でも外来医師偏在指標は全国330医療圏中255位で、千葉県は診療所医師が少ない地域と評価しています。

医師全体の偏在指標でも、山武長生夷隅保健医療圏は「医師少数区域」に設定されています。

さらに、外来患者は1日約3,500人の流出超過と推計されており、現在の医療も圏域外との連携によって成立しています。

したがって将来の外房について、

人口が減るから病院も減らしてよい

とも、

病院を今の数だけ残せば安心

とも言えません。

人口減少社会で重要になるのは、

少なくなる人口に対して、すべての医療施設を同じ形で残すことではなく、必要な医療機能を確保し、その場所まで高齢者が実際に到達できる仕組みを残すこと

です。

そして、高齢期の生活を考える住民側も、

「病院まで車で15分だから大丈夫」

だけではなく、

運転できなくなった後にも、その医療を利用できるか

まで考える必要があります。

地方の医療問題は、

病院があるか、ないか

だけではありません。

医療が存在すること ≠ 必要な人が実際に通院できること

です。

外房で30年後も暮らし続けられるかを考えるなら、この違いを無視することはできません。

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