地域分析記事

地域の暮らしと地域課題を数学とデータで考える

ドローン配送は離島より先に過疎地域の日用品物流を救うのか

- Posted in 生活インフラ・地域サービス by

 山あいの細い道路を、一台の軽バンがゆっくり登っていく。荷室にはいくつもの段ボール箱が積まれているが、山の上の集落で降ろす荷物は二つか三つしかない。谷に沿って曲がる道路を走り、橋を渡り、さらに支道へ入り、一軒の家の前で停車して荷物を渡せば、配送員はまた同じ道を戻らなければならない。この光景を物流という仕組みから眺めると、人口減少地域が抱える問題の輪郭が見えてくる。困っているのは荷物が多すぎるからではなく、むしろ少なすぎるからなのである。

 ドローン配送という言葉から、多くの人が最初に思い浮かべるのは離島だろう。海によって道路が完全に途切れている以上、空を飛ぶ機械との相性はいかにもよさそうに見える。しかし、物流の効率を決めるのは、単純に道路があるかないかではない。むしろ重要なのは、一個の荷物を届けるために、車両と人間を何分間拘束しなければならないかという問題である。その観点から考えると、ドローンが社会的な意味を先に持つ場所は、海の向こうの島ではなく、道路ではつながっているはずなのに、少量の荷物を届けるため長い時間を必要とする中山間地域なのかもしれない。

荷物が減れば、物流も小さくできるとは限らない

 人口が半分になれば宅配便の荷物も減るのだから、配送に必要な労力も半分になりそうに思える。しかし、物流には規模の縮小がそのまま効率化につながらないという厄介な性質がある。百軒の住宅が密集する市街地なら、一台の車が短い距離を移動しながら次々に荷物を降ろせるため、一個の荷物に必要な走行時間は小さい。これに対して、十軒の家が谷の向こうや山腹に離れて存在している地域では、荷物の数が十分の一になったとしても、道路そのものの長さまで十分の一になるわけではなく、むしろ一個を届けるための移動時間は大きくなっていく。

 国土交通省も、過疎地域では貨物量の減少と積載効率の低下によって物流サービスを持続的に提供することが難しくなっていると認識しており、2025年には「ラストマイル配送の効率化等に向けた検討会」が設置された。2024年度の宅配便取扱個数は約50億個に達しているが、全国で荷物が多いことと、人口の薄い地域で一件一件を効率よく届けられることは別問題であり、地方物流ではむしろ「何個運ぶか」より「一個を届けるため何分使うか」の比重が大きくなっている。

 この構造を象徴する事例として、北海道上士幌町について国土交通省の検討資料に示された数字は興味深い。市街地では荷物全体のおよそ8割を配送するのに配送時間の約2割しか使わないのに対し、農村部では荷物の約2割を届けるために配送時間の約8割を費やすという。これは上士幌町という特定地域の事例であり、全国の過疎地域にそのまま当てはまる法則ではないが、人口密度が低くなると配送量より配送時間の方が問題になるという構造をよく示している。

 もし地方物流の本質がここにあるのなら、ドローンの性能を見るときにも視点を変える必要がある。何キログラム積めるか、時速何キロメートルで飛べるかだけではなく、一個の荷物を届けるために失われていた配送員の時間を何分取り戻せるかという尺度で評価しなければ、本当の価値は見えてこない。

地図では近い家を、道路は遠くする

 山間部では、二つの地点が直線で2キロメートルしか離れていなくても、川や尾根が間にあれば、自動車は5キロメートル、場合によっては10キロメートル以上走らなければならない。道路とは地形に沿って引かれた一本の線であり、車はその線から外れることができないのに対し、ドローンは条件が整えば二地点をより直接的に結ぶことができるため、中山間地域ではこの差が時間差として表れやすい。

 日本郵便が東京都奥多摩町で行った実証では、山間部の直線距離約2キロメートルをドローンで結び、自動車で移動する場合のおよそ半分の時間で到着したと報告されている。もちろん一回の実証から全国の山村について同じ割合の時間短縮が可能だとはいえないが、谷沿いに遠回りする道路と直線的に飛行できる航空経路の違いは、中山間地域においてドローンが比較優位を持ち得る理由を端的に示している。

 ここで離島との違いを考えると、ドローン配送についての直感が少し変わってくる。離島は確かに海によって道路から切り離されているものの、既存の定期船が十分な積載率で機能している地域では、食品、飲料、日用品、建材などをまとめて大量に運ぶことができる。数キログラムの荷物をドローンで何往復もするより、一度に大量の物資を運べる船舶の方が単位重量当たりの輸送効率で有利になる場合が多く、日本郵便も離島では一定規模の輸配送量をまとめる必要があることから、まず既存物流ネットワークの活用を考えるという趣旨の見方を示している。

 もっとも、これは離島にドローンが向かないという意味ではない。船便が少ない島、港から集落までさらに長い陸上輸送が必要な島、緊急性の高い医薬品を少量だけ運ぶ場合などでは、ドローンが極めて有効になる可能性がある。重要なのは「離島か山村か」という地理区分そのものではなく、大量輸送ができる既存手段があるか、一個の荷物のためにどれだけ遠回りしなければならないかという物流条件なのである。

ドローンが置き換えるのはトラックではなく、最も長い寄り道かもしれない

 山梨県小菅村で進められてきた物流の仕組みは、この問題を考えるうえで示唆に富む。村外から届いた荷物を地域内の配送拠点へいったん集め、すべてをドローンで運ぶのではなく、住宅がまとまっている区域では陸上輸送を使い、地理的条件から配送効率の悪い区間にドローンを組み合わせる。そこには宅配便だけでなく、買い物代行や地域内配送なども組み込まれ、2021年から社会実装へ進んだのち、周辺自治体との共同配送へも展開してきた。

 この仕組みが興味深いのは、「トラック対ドローン」という対立になっていないことである。一度に多くの荷物を積み、住宅がまとまった区域を順番に回る仕事では、現在でも自動車は極めて優秀な輸送手段である。一方、数キログラムしかない荷物一つを積んで山道を何十分も往復する仕事になると、人間が運転する車両の長所である大量輸送能力がほとんど生かされない。

 地域物流を一本の木に例えるなら、都市から地域まで荷物を運ぶ太い幹には大型トラックが必要であり、集落を結ぶ太い枝には軽貨物車が適している。その先で山の向こうへ細く長く延び、数軒の家のためだけに存在する枝にまで同じ車両を走らせるから非効率が生まれるのであり、その部分だけをドローンへ受け渡すことができれば、物流網の大部分を変えなくても、人間の時間を最も多く奪っていた場所だけを改良できる。

 ドローン配送の未来というと、空を無数の機体が飛び交い、玄関先へ荷物が自動的に降りてくる光景が想像されがちだが、人口減少地域で先に実用性を持つのは、むしろこのような地味な仕組みではないだろうか。トラックをなくすのではなく、トラックが最も苦手とする仕事だけを空へ逃がすのである。

「一機に一人」では物流革命にならない

 ただし、ドローンが空を飛べるというだけでは、物流費は安くならない。一台のドローンを飛ばすたびに一人の操縦者が付き続けなければならないなら、配送員を操縦者へ置き換えただけになり、機体購入費、整備費、電池、通信、保険などを加えれば、かえって従来配送より高くなる可能性すらある。この問題はドローン物流の採算性を考えるうえで極めて重要であり、近年の制度整備も機体性能だけでなく、人間一人がどれだけ多くの機体を安全に管理できるかという方向へ移り始めている。

 国土交通省が2025年に策定した多数機同時運航のガイドラインでは、当初、一人の操縦者が最大5機を管理することが想定されていたが、2026年6月の改訂では、段階的な検証と安全対策を条件として同時運航機数の一律上限が撤廃された。その目的には運航効率と事業採算性の向上が明確に掲げられており、ドローン物流が「飛行できるか」という技術実証の段階から、「何機を何人で動かせば事業になるか」という経営と運航設計の段階へ移りつつあることが分かる。

 日本郵便も2026年に兵庫県豊岡市で複数機の同時運航を用いた物流実証を進め、使用機体には最大5.5キログラムを積載し、荷物搭載時でも40キロメートル以上飛行できる仕様のものが採用されている。兵庫県、豊岡市、日本郵便は同年、中山間地域の物流機能維持を目的とした連携協定も締結しており、ここでも目的は未来的な飛行技術の披露ではなく、人口減少地域で物流そのものを維持できるかという現実的な課題に置かれている。

人が少ない地域だからこそ使いやすいという逆説

 もう一つ興味深いのは、人口の少なさが従来物流には不利である一方、一定の条件下ではドローン運航には有利に働く可能性があることである。日本では2022年から、人がいる地域の上空を操縦者の目の届かない状態で飛行する、いわゆるレベル4飛行が制度上可能になったが、市街地のように歩行者や住宅が多い場所では、第三者に対する安全確保の要求も当然高くなる。

 一方、中山間地域などで利用されるレベル3.5飛行では、機上カメラなどによって飛行経路下の安全を確認することで、従来必要だった補助者や看板などの配置を簡素化できる。したがって、「人口が少ないから簡単に飛ばせる」と一般化することはできないものの、人口密度が低く、山林や農地など第三者が飛行経路下へ立ち入る可能性の低い場所では、従来の配送を不利にしていた地理的条件の一部が、逆にドローン運航上の利点へ変わる場合がある。

 人が少ないため宅配車一台を効率よく使えなくなった地域が、その人の少なさゆえに新しい輸送手段を導入しやすくなるとすれば、これは人口減少地域を考えるうえで象徴的な逆転である。地方の弱点をすべて都市と同じ条件へ戻そうとするのではなく、その弱点を別の技術の長所へ変換できるかという発想が必要になる。

それでも、空だけでは暮らしは支えられない

 もちろん、ドローンが地方物流の万能薬になるわけではない。現在想定されている配送用ドローンが得意なのは、主として軽量で比較的小さな荷物であり、米袋を何十袋も運んだり、飲料水、家具、灯油、建材といった重量物を日常的に大量輸送したりする用途では、依然として自動車や船舶の方が適している。風雨、気温、視界などによって飛行できない場合もあり、機体ごとに積載量や飛行距離、降雨や風に対する運用限界も存在する。

 したがって、過疎地域で必要なのは「ドローンだけで完結する物流網」ではなく、飛べない日は車両へ戻すことができる冗長性を備えた物流網である。国土交通省が進めるドローン配送拠点への支援でも、地方公共団体や物流事業者が連携し、トラックなどの陸上輸送とドローンを組み合わせることが前提となっており、政策的にも全面的な空輸への転換ではなく、既存物流の弱い部分を補完する技術として位置づけられている。

 将来、山間部を走る宅配車が消えるとは考えにくい。むしろ変わるのは、一台の車が必ずすべての家を訪問しなければならないという現在の配送方法だろう。朝、地域の物流拠点へトラックがまとめて荷物を運び、住宅が比較的密集する区域は軽貨物車が回り、軽くて急ぎで道路では大きく遠回りしなければならない荷物だけがドローンへ移される。悪天候の日や大きな荷物は従来通り車で運び、宅配便、買い物代行、地域商店の商品、条件によっては医薬品なども同じ配送基盤へ載せることができれば、人口が減っても複数の物流サービスを別々に維持する必要は小さくなる。

問題は「店があるか」ではなく「暮らしが届くか」

 地方の買い物問題は、スーパーが閉店した日に突然始まるわけではない。最初は店が少し遠くなり、次にバスの便が減り、自動車を運転できなくなった高齢者が買い物へ行きにくくなり、その後、宅配便の維持が難しくなって配送日数が延び、一部の商品を届けてもらいにくくなる。そのような小さな不便が一つずつ積み重なった末に、住民の中で「ここではもう普通に暮らせない」という判断が生まれる。

 そう考えれば、日用品物流は単なる民間の宅配サービスではない。水道や道路ほど目立つ存在ではなくても、牛乳や洗剤、紙おむつ、食品や薬が必要なときに届くということ自体が、地域で生活を続けるための基礎条件である。

 ドローン配送による作業時間削減については、2025年に国土交通省の検討会へ提出された事業者側資料で、一定割合の荷物をドローンへ移すことで全国的に大きなドライバー作業時間を削減できるという試算も示されている。ただし、これは約170自治体への導入やドローン配送可能率など複数の仮定に基づいた推計であり、将来確実に実現する数字として扱うべきものではない。それでも、その試算が示している考え方は重要で、ドローンの価値を「何個運んだか」ではなく、「人間が運転する必要のなくなった時間が何時間生まれたか」で測ろうとしている。

 過疎地域の物流で本当に問うべきなのは、ドローン一便とトラック一便の料金を単純に比べてどちらが安いかという問題ではないのだろう。一人の配送員が一日に回れる家が減り続けたとき、その人が最も時間を奪われる十軒をドローンに任せることで、残りの百軒への配送を維持できるのか。もしその十軒のためだけに別の配送員を確保せずに済むなら、ドローンそのものが単独で利益を生まなくても、地域物流網全体としては経済的な意味を持つ可能性がある。

 その意味で、ドローンは赤字の配送路線を突然黒字へ変える魔法の機械ではなく、採算限界へ近づいている物流網から最も負担の大きい部分を取り除き、その仕組み全体をもう少し長く維持するための装置として考えた方が現実に近い。

離島より先に「普通の山村」で始まる未来

 では、ドローン配送は本当に離島より先に過疎地域の日用品物流を救うのだろうか。現在までの実証や物流理論からは、少量配送が中心で、住宅が分散し、道路の迂回が大きく、第三者が飛行経路へ立ち入る可能性も比較的低い中山間地域では、ドローンの比較優位が先に現れる可能性をかなり合理的に説明することができる。ただし、それが全国的な採算データによって証明された段階にはまだ達しておらず、「離島より中山間地域が必ず先になる」と断定することはできない。

 おそらく最初に起きるのは、無数のドローンが住宅地の上空を飛び交うような劇的な変化ではない。物流会社ごとに別々だった荷物が地域の一つの拠点へ集まり、住宅密度の高い場所はこれまで通り車で配送され、その中から軽く、急ぎで、道路では遠回りになり、配送員の時間を大きく奪う荷物だけが選ばれて空を飛ぶという、かなり地味な変化だろう。

 既存の定期船が大量輸送を効率的に担える離島では、船という強力な輸送手段がすでに存在している。一方、人口の薄い山村には、数個の荷物のために数十分の山道を走るという、大型トラックにも軽貨物車にも効率の悪い仕事が毎日のように残されており、ドローンはその空白に入り込むことができる。

 そう考えると、ドローン配送の本当の競争相手はトラックでも船でもないのかもしれない。山道を三十分走って一個の荷物を届け、さらに三十分かけて元の道を戻る、その一時間こそが競争相手なのである。

 人口が減る町で最後まで守らなければならないのは、人口という数字そのものではない。食品を買えること、薬が届くこと、荷物を送れること、必要な物が必要なときに手に入り、ここに住んでいても普通の生活を続けられると思えることである。山の上を飛ぶ小さな機体が本当に価値を持つとすれば、それは未来的な乗り物だからではなく、人口減少社会の物流網からこぼれ落ちようとしている最後の細い枝を、地上の仕組みとともにつなぎ止めることができるからなのである。

地域の課題を、自分の判断に置き換えて考える

有限会社アードレでは、住まい・車・移住などの大きな選択を、 費用や将来条件をもとに数字で比較し、判断できる形に整理しています。

数字で比較するサービスを見る