地方で高齢期を暮らすことを考えるとき、「近くに介護施設があるか」「介護保険のサービスがあるか」は重要です。
しかし、もう一つ確認しなければならない問題があります。
そのサービスを実際に提供する職員がいるか。
介護事業所の建物があり、介護保険制度が存続していても、働く人が足りなければ、希望したサービスを希望した時期・頻度で利用できるとは限りません。
千葉県の最新の公表資料を見ると、この問題は将来の仮定だけではありません。
千葉県内の介護職員数は、
2020年度 87,657人 2021年度 89,466人 2022年度 88,960人 2023年度 90,024人 2024年度 88,338人
となっています。
2024年度は前年度より1,686人少なくなりました。
一方、厚生労働省と千葉県の需給推計では、今後必要になる介護職員数は増加すると見込まれています。
この記事では、外房を含む人口減少地域で、
「介護サービスが制度として存在すること」と「実際に利用できること」は同じなのか
を、公表されている数字だけから考えます。
最初に結論
現在の公的資料から確認できる範囲では、千葉県では今後、介護サービスに必要な職員数と供給可能な職員数との間に大きな差が生じると推計されています。
厚生労働省の「第9期介護保険事業計画に基づく介護職員の必要数」を基にした千葉県の推計では、
2026年度 需要 106,260人 供給 95,414人 不足 10,846人
2030年度 需要 115,450人 供給 99,259人 不足 16,191人
2040年度 需要 127,991人 供給 99,725人 不足 28,266人
となっています。
2040年度について単純に計算すると、
28,266 ÷ 127,991 × 100 ≒ 22.1%
です。
つまり推計どおりなら、必要とされる介護職員数に対して約22%に相当する人数が不足する計算になります。
これは千葉県全体の推計であり、外房だけの数字ではありません。
したがって、
「2040年には外房でも22%不足する」
とは言えません。
外房についてどの程度の不足になるかは、現在公開されている県の需給推計だけでは判断できません。
しかし、県全体で大きな需給差が予測されている以上、外房の介護サービスについても、人材確保を無視して将来を考えることはできません。
介護職員は増え続けているわけではない
介護人材不足という言葉から、
「今でも介護職員が毎年減少している」
と思われるかもしれません。
実際の統計はもう少し複雑です。
千葉県の介護職員数は2018年度の85,135人から2023年度の90,024人まで、長期的には増えていました。
したがって、
高齢化している =介護職員が一直線に減少してきた
という説明は正確ではありません。
問題は、職員数そのものだけではなく、
介護需要の増加速度に、介護職員の供給が追いつくか
ということです。
2024年度には介護職員数が88,338人となり、2023年度から減少しました。
ただし、1年間の減少だけを見て「今後も毎年減り続ける」と断定することもできません。
将来を見るには、需要と供給の双方を見る必要があります。
2040年度には約12万8千人必要と推計されている
2022年度の千葉県の介護職員数は88,960人でした。
これに対して介護職員需要は、
2026年度 106,260人 2030年度 115,450人 2040年度 127,991人
へ増加すると推計されています。
2022年度の88,960人と2040年度の必要数127,991人を比較すると、
127,991 - 88,960 = 39,031人
となります。
ただし、これは「39,031人不足する」という意味ではありません。
供給側も増えることが想定されており、2040年度の供給推計は99,725人です。
したがって公式推計上の需給差は、
127,991 - 99,725 = 28,266人
です。
ここは、
現在の職員数と将来必要数との差
と、
将来の需要と将来供給との差
を区別する必要があります。
なぜ高齢者人口だけでは判断できないのか
介護需要は単純に65歳以上人口だけで決まるわけではありません。
千葉県は、2020年から2040年にかけて75歳以上人口の増加が見込まれ、さらに85歳以上人口の増加も重要な課題として位置付けています。
介護について重要なのは、
総人口
よりも、
高齢者人口 75歳以上人口 85歳以上人口 要介護・要支援認定者数 認知症高齢者数
などです。
千葉県の資料では、要介護等認定者数について、2020年度の約29万5千人から2040年度には約41万1千人まで増加する見込みが示されています。
したがって、
地域人口が減少する =介護需要も同じ割合で減少する
とは限りません。
これは人口減少地域を考えるうえで重要な点です。
外房では人口減少と高齢化を同時に考える必要がある
国立社会保障・人口問題研究所の「日本の地域別将来推計人口(令和5年推計)」は、2020年国勢調査を基準として、市区町村別の人口を2050年まで5年ごとに推計しています。
このため、勝浦市、いすみ市、大多喜町、御宿町を含め、外房各自治体についても2050年までの人口・年齢構成を確認することができます。
ただし注意したいのは、
2050年までの市町村別人口推計は存在しても、2050年の市町村別介護職員需給推計が存在するわけではない
という点です。
千葉県について確認できる介護人材の公式な需給推計は、今回利用した資料では2040年度までです。
したがってこの記事では、
「2050年に外房で介護職員が○人不足する」
という数字は示しません。
公開資料から確認できないためです。
外房だけの介護職員不足数は分からない
千葉県の介護保険計画では、外房の多くを含む地域を「山武長生夷隅圏域」として介護サービスの利用実績や利用見込みを集計しています。
例えば地域密着型介護老人福祉施設入所者生活介護について、山武長生夷隅圏域では、
2023年度 219人/月 2024年度 222人/月 2025年度 223人/月 2026年度 224人/月
という利用見込みが示されています。
このようにサービス需要については圏域単位の資料があります。
一方、
山武長生夷隅圏域で2040年度に介護職員が何人必要で、何人供給でき、何人不足するか
という形の公式な需給推計は、今回確認した公表資料では確認できませんでした。
したがって、県全体の28,266人という不足数を、人口比率などで単純に外房へ配分することは適切ではありません。
介護施設の分布、利用者の要介護度、職員配置、地域間通勤、サービス種類などが異なるためです。
「事業所がある」と「利用できる」は違う
介護サービスにはさまざまな形があります。
例えば、
訪問介護 通所介護 短期入所 特別養護老人ホーム 認知症対応型共同生活介護 小規模多機能型居宅介護 定期巡回・随時対応型訪問介護看護
などです。
千葉県では地域密着型サービスの事業所も整備されています。
2025年4月1日時点で県全体では、
定期巡回・随時対応型訪問介護看護 72か所 夜間対応型訪問介護 11か所 認知症対応型通所介護 91か所 小規模多機能型居宅介護 151か所 看護小規模多機能型居宅介護 49か所 地域密着型通所介護 998か所 認知症対応型共同生活介護 504か所
などが確認できます。
しかし、事業所数だけでは利用可能性を判断できません。
事業所が存在していても、
職員を確保できない 受け入れ人数に限界がある 希望曜日に利用できない 訪問範囲外になる
といった場合には、実際の利用可能性は低下します。
したがって、
介護サービスが存在する ≠ 必要な人が必要なだけ利用できる
と考える必要があります。
特別養護老人ホームでも「施設数」だけでは判断できない
千葉県の特別養護老人ホームの入所定員は、2024年度時点で合計31,827人です。
一方、2025年度の県内入所待機者は9,799人とされています。
そのうち在宅の待機者は4,832人です。
ただし「待機者数」は単純に「ただちに約9,800床不足している」という意味ではありません。
申込者の状況や入所の必要性、複数施設への申込みなどを考慮する必要があります。
それでも、施設が存在するだけで希望者全員が直ちに入所できる状況ではないことは確認できます。
さらに施設を増設したとしても、そこで働く職員を確保できなければ、建物だけで介護サービスを提供することはできません。
人材不足は施設介護だけの問題ではない
介護人材不足というと、特別養護老人ホームなどの施設を想像しやすいですが、外房のような地域では在宅サービスも重要です。
自宅で生活を続ける場合には、
訪問介護 通所介護 訪問看護 定期巡回サービス 小規模多機能型居宅介護
などを組み合わせることがあります。
ここで必要になるのが人です。
例えば訪問型サービスでは、
職員が利用者宅へ移動する時間
も必要になります。
人口密度の低い地域ほど、利用者宅同士の距離が長くなる可能性があります。
ただし、
外房では都市部より訪問介護の移動時間が何分長い
という統一的な公的統計は、今回確認した資料からは示せません。
したがって具体的な時間や採算額を推測することは避けます。
それでも、訪問サービスでは介護そのものだけでなく移動にも職員時間を使用するという構造自体は変わりません。
介護人材の供給は約10万人で頭打ちになる推計
千葉県の推計で特に注目したいのは、需要だけではありません。
供給推計は、
2026年度 95,414人 2030年度 99,259人 2040年度 99,725人
です。
2030年度から2040年度までの10年間では、
99,725 - 99,259 = 466人
しか増えない推計です。
一方、需要は同じ期間に、
127,991 - 115,450 = 12,541人
増えます。
つまり公式推計では、
必要人数は増える一方、供給人数はほぼ横ばい
という構造になっています。
ここが介護人材問題の中心です。
離職率だけが原因ではない
千葉県資料によると、2024年度の介護サービス分野の離職率は14.2%でした。
同年度の産業計は11.2%です。
ただし、
「離職率が高いから介護人材不足になる」
だけで説明するのは不十分です。
千葉県自身も、
新規就業促進 定着促進 生産年齢人口の減少
などを含めて人材確保の問題を整理しています。
つまり、
入ってくる人 辞める人 再就業する人 働き続ける人 そもそもの労働人口
を同時に考える必要があります。
ICTや介護ロボットだけで解決するとは言えない
ICT(Information and Communication Technology・情報通信技術)や介護ロボットによる生産性向上も、国や千葉県の介護政策で重要な対策とされています。
しかし、
ICTを導入する = 介護職員不足が解消する
とは言えません。
介護には、
食事 排泄 入浴 移乗 移動 見守り 認知症への対応 利用者とのコミュニケーション
など、人が直接関わる業務が多くあります。
技術によって記録作業や情報共有、見守りなどを効率化できても、公式の需給推計自体が2040年度に28,266人の不足を見込んでいます。
したがって技術導入は重要な対策の一つですが、単独で不足を解決できると判断できる資料はありません。
外国人介護人材だけで解決するとも言えない
外国人介護人材の受入れも人材確保策の一つです。
しかし、
外国人を増やす = 介護人材問題が解決する
という単純な関係ではありません。
外国人職員についても、教育、資格、日本語、住宅、交通、職場定着、地域生活などを含めた継続的な就労環境が必要です。
したがって、外国人介護人材は人材供給を支える一つの経路として考える必要がありますが、それだけを前提に将来の介護提供体制を組み立てるのは合理的ではありません。
介護サービスの本当の供給能力をどう考えるか
介護サービスを考えるため、概念的には次のように整理できます。
介護サービス供給力 =介護施設・事業所 +介護職員 +職員一人当たりの提供可能量 +移動可能性 +設備・住宅
これは公式統計上の指標ではなく、分析のための概念的整理です。
重要なのは、どれか一つだけではサービスが成立しないことです。
施設を増やしても人がいなければ動きません。
人がいても、訪問先が広く分散していれば提供できる件数には限界があります。
制度があっても、地域に事業者がなければ使えません。
外房で特に考えておくべきこと
外房で高齢期の生活を考える場合、
「介護施設が近くにあるから大丈夫」
だけで判断するのは十分ではありません。
確認したいのは、
・希望する介護サービスを提供する事業所があるか ・現在受け入れ可能か ・訪問対象地域に入っているか ・将来的に事業所を維持できるか ・介護職員を確保できているか ・本人が通所施設まで移動できるか ・家族送迎を前提にしていないか ・施設入所が必要になった場合に選択肢があるか
などです。
特に一人暮らし、高齢夫婦のみ、子どもが遠方に住む世帯では、家族が不足部分を埋めることを当然の前提にしない方がよいでしょう。
2040年以降について分かることと分からないこと
この記事で最も注意しなければならないのが「30年後」です。
国立社会保障・人口問題研究所では、市区町村別人口について2050年まで推計しています。
しかし、今回確認した介護職員の公式需給推計は2040年度までです。
そのため、
2050年度の千葉県の介護職員不足数
や、
2050年度の外房各市町村の介護職員不足数
をこの記事で数字として示すことはできません。
公開資料だけでは判断困難です。
2040年以降については人口構造の変化を確認しながら、その時点で更新される介護保険事業計画や人材需給推計を見る必要があります。
現実的な結論
介護サービスについて最も危険なのは、
制度が存在しているから将来も同じように利用できる
と考えることです。
千葉県の公的推計では、介護職員の需給差は、
2026年度 10,846人 2030年度 16,191人 2040年度 28,266人
へ拡大すると見込まれています。
しかも2040年度には、需要127,991人に対して供給99,725人という推計です。
一方で、これは千葉県全体の数字であり、外房だけの不足数ではありません。
したがって、
「外房では介護サービスが使えなくなる」
と断定することも、
「施設があるので問題ない」
と断定することも、現在の資料からは適切ではありません。
より正確に言えば、
外房で将来も介護サービスを利用できるかどうかは、施設数だけではなく、その地域で介護職員を確保し続けられるかによって左右される
ということです。
これまで地方の生活を考えるときには、
病院があるか スーパーがあるか バスがあるか 介護施設があるか
という「施設の存在」が重視されてきました。
これからはそれに加えて、
その施設やサービスを動かす人がいるか
を確認する必要があります。
人口減少社会では、
建物が残る速度と、そこで働く人が確保できる速度は同じではありません。
介護サービスについても、
サービスが存在すること ≠ 必要なときに実際に利用できること
という視点から、30年先の地域生活を考える必要があります。

