地域分析記事

地域の暮らしと地域課題を数学とデータで考える

 診療所から車で片道30分、診察に20分をかけ、さらに30分かけて戻ってくる。仮にそのような患者が1人いたとすれば、医師は20分の診察のために合計80分を費やすことになる。病院の診察室なら何人もの患者を診られる時間だが、患者が自宅で医療を受けるためには、その時間の多くを移動に使わなければならない。しかも、診察が終わった医師の仕事はそれで終わるわけではなく、診療記録を残し、必要な薬を調整し、看護師や介護職員との連絡を行いながら、次の患者への対応を考えなければならない。

 高齢になって通院が難しくなっても、住み慣れた家で医療を受けられる。在宅医療という言葉には、医療を患者の暮らしに近づける温かさがある。しかし、人口の少ない地域ほど自宅での診療を必要とする人がいる一方で、人口が少なく、住宅が離れているからこそ、その医療を提供することが難しくなるという矛盾を抱えている。

 人口減少によって病院や診療所を維持できなくなれば、医師が患者の家へ行けばよい。そう考えることは自然だろう。だが、診療所に患者が集まる仕組みと、医師が患者を訪ねて回る仕組みでは、時間の使い方も人員配置も異なる。医療の場所を病院から自宅へ移すことは、単に診察する場所を変えることではなく、地域の医療を支えてきた経済性や効率性を根本から組み替えることなのである。

医師が家まで来てくれる社会は、どこまで実現したのか

 在宅医療というと、医師が急な依頼を受けて患者の家へ駆けつける姿を想像するかもしれない。しかし、制度上は、計画に基づいて定期的に患者を診る訪問診療と、患者の求めなどに応じて臨時に行う往診を区別している。この違いは単なる名称の問題ではなく、定期的な訪問ならば診療の順序を組み、近くの患者を続けて訪ねることで移動時間を短縮できるのに対し、突然の往診では同じような効率化が難しくなるという、医療提供体制そのものに関わる問題である。

 厚生労働省の2023年医療施設調査によると、同年9月に在宅患者訪問診療を実施した一般診療所は18,906施設で、一般診療所104,894施設の18.0%だった。実施件数は149万8,229件となっており、訪問診療を実施した診療所1施設当たりに換算すると79.2件である。病院についても2,904施設が訪問診療を実施し、23万7,601件の実績があった。全国では既に多くの医療機関が訪問診療を提供しており、在宅医療は一部の例外的な診療方法ではなく、医療提供体制の重要な部分を占めるようになっている。

 ただし、ここで示した施設数と実施件数は2023年の調査結果であり、2026年現在の施設数や訪問件数を表すものではない。また、実施件数は2023年9月の1か月間の延べ件数であり、年間の実績でも患者の実人数でもない。1施設当たり79.2件という平均値についても、訪問診療を中心に運営する診療所と、通常の外来診療を続けながら一部の患者を訪問する診療所を含んだ値であるため、個々の施設の診療能力を直接示しているわけではない。

 さらに重要なのは、全国の実施件数が増えても、それだけで人口減少地域の医療が充実したとはいえないことである。都市部では近くの住宅を続けて訪問できる一方、集落が点在する地域では、同じ件数の訪問に何倍もの移動時間を必要とする場合がある。全国の診療件数を積み上げた数字には、その医療がどこまで届いているのかという地理的な問題が隠れている。

同じ在宅医療でも、1軒ずつ訪ねる医療と施設を訪ねる医療は違う

 訪問診療の統計を読む際に、もう1つ区別しなければならない問題がある。それは、患者が個人の住宅で暮らしているのか、高齢者向けの住宅や施設で生活しているのかという違いである。どちらも医師が患者の生活の場を訪ねるという意味では共通しているが、医師の移動時間や診療の効率性は大きく異なる。

 例えば、10人の患者がそれぞれ離れた住宅で生活していれば、医師は基本的に10か所を訪問する必要がある。ところが、同じ建物に10人の患者が暮らしている場合には、建物までの往復移動を共有できるため、患者1人当たりの移動時間を短縮できる可能性がある。もっとも、同じ建物内でも診療時間や診療記録の作成が不要になるわけではなく、患者ごとの病状や医療上の必要性に応じた対応が求められる。

 日本の診療報酬制度でも、個人宅を中心とする在宅時医学総合管理料と、一定の施設入居者等を対象とする施設入居時等医学総合管理料が区別されており、患者の居住形態や同一建物で診療する患者数などによって評価が異なる。在宅医療を経済的に分析する場合、こうした制度上の違いを無視して、すべての訪問を同じ収益構造として扱うことはできない。

 この区別を人口減少地域へ当てはめると、さらに難しい問題が見えてくる。高齢者が一定の施設に集まって暮らしている地域では訪問診療の移動効率を高めやすいが、住み慣れた個人宅で暮らし続けることを希望する高齢者に同じ効率性を求めることは難しい。医療の提供効率を優先するほど、患者の居住場所を集約した方が合理的になる可能性がある一方、それが本人の暮らし方の希望と一致するとは限らないのである。

 したがって、在宅医療の普及を評価するときには、訪問診療件数の総量だけでなく、個人宅と施設等の患者構成、患者1人当たりの訪問回数、移動距離などを分けて検討する必要がある。医療機関から遠く離れた1軒の住宅まで診療を届けられるかという問題は、施設に集まる患者を効率的に診察できるかという問題とは、必ずしも同じではない。

高齢化率が上がるほど、患者が増えるとは限らない

 人口減少地域の医療を考えるとき、しばしば高齢化率の高さが問題になる。住民の40%が65歳以上という地域があれば、医療や介護の需要は今後も増え続けるように感じられる。しかし、ここには統計上の落とし穴がある。高齢化率が上昇することと、高齢者の人数が増加することは、同じではない。

 国立社会保障・人口問題研究所が2023年に公表した地域別将来推計人口では、2020年から2050年までの推計対象期間について、65歳以上人口が2020年に最大となる市区町村は845、対象となる1,728市区町村の48.9%を占めている。この集計は2023年12月時点の市区町村区分に組み替えたものであり、将来人口は一定の仮定に基づく推計値だが、多くの地域ですでに高齢者人口がピークを迎えている可能性を示している。

 例えば、人口10,000人、高齢者4,000人の地域では高齢化率は40%となる。その後、人口が7,000人に減少し、高齢者も3,500人に減ったとすれば、高齢化率は50%に上昇するが、実際の高齢者数は500人減少している。このような地域では、高齢化率だけを見ると医療需要が増大しているように感じられるものの、高齢者人口の絶対数だけを見れば、需要の基盤となる人口は縮小していることになる。

 ただし、65歳以上人口が減少しているからといって、訪問診療の需要も同じ割合で減るとは限らない。75歳以上や85歳以上の人口構成、慢性疾患の状況、要介護度、通院手段の有無、独居高齢者の割合などによって、訪問診療を必要とする人の比率は変化する。高齢者全体の人数が減少していても、通院が難しい高齢者の割合が増えれば、訪問診療の必要量が維持されたり、増加したりすることも考えられる。

 さらに、住民が減少しても、住宅や集落が人口と同じ割合で狭い範囲に集約されるわけではない。人口が10,000人から7,000人に減ったからといって、道路の延長が自動的に30%短くなることはなく、残された住民が以前より離れた場所に点在する可能性もある。患者の絶対数が減っても移動距離は短くならず、むしろ患者1人当たりの移動負担が増えるという問題が生じ得るのである。

 ここに人口減少地域の在宅医療が抱える本質的な難しさがある。医療機関の経営を支える患者数は減少する一方、残る患者へ医療を届けるための時間と費用は、必ずしも減少しない。高齢化率の高さばかりを問題にしていると、この経営上の矛盾を見落としてしまう。

人口密度が低い地域では、訪問診療は本当に少ないのか

 人口密度と訪問診療の関係については、実際の統計を用いた研究も存在する。2026年に公表された日本の農村医学分野の査読付き研究では、2019年の全国47都道府県のデータを使用し、65歳以上人口1,000人当たりの医師による訪問診療件数と、人口密度や医療提供体制などの関係が分析されている。

 この研究では、人口密度と訪問診療件数の相関係数が0.631となり、人口密度が高い都道府県ほど、65歳以上人口当たりの訪問診療件数も多いという正の関連が認められた。さらに、在宅療養支援診療所・病院の数や高等教育を受けた人の割合などを考慮した重回帰分析でも、人口密度の標準化偏回帰係数は0.311であり、統計的に有意な関連が確認されている。

 これは、人口が集中している地域ほど訪問診療を提供しやすい可能性を示す結果であり、人口減少地域の医療を考えるうえで重要な知見といえる。しかし、人口密度と訪問診療件数に相関があることは、人口密度の低さが直接の原因となって訪問診療を減少させていることを証明するものではない。医療機関の分布、地域の所得水準、患者の健康状態、利用意向、交通条件なども影響し得るため、単純な因果関係として解釈することはできない。

 また、47都道府県という大きな地域単位で得られた結果を、そのまま個々の市町村や集落に当てはめることにも限界がある。同じ県内でも、都市部と山間部では患者の分布や道路条件が大きく異なる場合があり、都道府県全体の平均値から小規模地域の医療環境を直接判断することはできないからだ。

 それでも、この研究が示す人口密度と訪問診療件数の関係は、在宅医療が単に医師数や高齢者数だけで決まるものではなく、人々がどのように地域に分布して暮らしているかという地理的な条件とも関わっていることを示唆している。人口減少地域の在宅医療を考えるには、人口統計に道路網や移動時間を重ねた分析が必要なのである。

医師の1日は、道路の上でどれほど短くなるのか

 それでは、患者の住宅が分散していることによって、訪問診療の供給能力はどれほど変化するのだろうか。ここでは実在する医療機関の経営実績ではなく、移動時間による影響を理解するための単純な数理モデルを考えてみたい。

 医師の勤務時間を1日8時間とし、そのうち診療記録の作成や関係者との連絡、調整などに1時間を充て、残る7時間、すなわち420分を訪問診療と移動に使用すると仮定する。また、患者1人当たりの診察時間を20分とし、移動時間には診療所を出発してから帰着するまでの移動を訪問件数に配分した平均値を用いる。

 患者の住宅が比較的近く、1件当たりの平均移動時間が10分であれば、診察20分と合わせて30分が必要となり、420分で理論上14件の訪問が可能になる。ところが、住宅が離れていて平均移動時間が30分になれば、1件当たり50分を要するため、同じ420分で完了できる訪問は最大8件となる。診察時間も医師の勤務時間も変わらないのに、平均移動時間が20分増えるだけで、1日の訪問可能件数は14件から8件へ約42.9%減少する計算である。

 診察と移動を合わせた時間に占める移動の割合も、平均移動時間10分の場合は33.3%だが、30分の場合は60%に上昇する。医師が患者を診察する時間よりも、道路上で過ごす時間の方が長くなるという状況は、医療サービスを必要とする患者にとっても、限られた医師を活用したい地域にとっても重要な問題である。

 ただし、これはすべての訪問が予定どおりに進み、420分を診察と移動に使えるという理想化された上限計算である。実際には、診察が長引く患者もいれば、予定外の往診、家族への説明、医療機関への連絡なども発生するため、計算上の最大件数を毎日継続できるとは限らない。さらに、訪問診療だけを専門に行う医師と、外来診療や病棟診療を兼務する医師では、訪問に充てられる時間そのものが異なる。

 また、患者密度の低下が移動時間に与える影響は、地域によって異なる。例えば、面積100平方キロメートルに訪問診療の対象者が120人いる地域では、対象者密度は1平方キロメートル当たり1.2人となるが、対象者が80人に減れば0.8人となり、密度は33.3%低下する。しかし、この変化だけから移動時間が何分増えるかを求めることはできない。患者が幹線道路沿いに暮らしている場合と、複数の谷や山を隔てた集落に分散している場合とでは、同じ密度でも移動条件が異なるからである。

 訪問診療の効率性を正確に分析するには、行政区域の人口密度だけでなく、診療所の位置、患者の住所分布、道路に沿った移動時間、訪問順序などを組み合わせて評価する必要がある。面積当たりの患者数は地域の特徴を把握する入口にはなるものの、それだけで医師の必要数や訪問可能件数を決定できるわけではない。

訪問できることと、経営が成立することは同じではない

 ここまでの計算は、医師がどれだけの患者を診察できるかという供給能力の問題である。しかし、記事の題名にある「在宅医療は成立するのか」という問いに答えるには、もう1つ、経営面の問題を考えなければならない。患者を訪問することが物理的に可能であっても、その診療を続けるための収入が人件費や運営費を下回れば、事業として長期間維持することは難しくなるからだ。

 訪問診療の収入は、診察ごとの診療報酬だけでなく、患者の病状、訪問回数、医学管理の内容、医療機関の施設基準、患者の居住形態などによって変化する。一方、支出には医師や看護師などの人件費、事務職員の給与、車両費、燃料費、医療材料費、建物の維持費、情報管理費などが含まれ、夜間や休日の対応体制を設ければ、さらに人員配置上の負担が生じる。

 経営の仕組みを理解するために、ここでも仮定計算を考えてみよう。ある訪問診療事業について、医師や事務職員の人件費、施設維持費などを含む月間固定費が150万円であり、医学管理料などの収入を訪問回数に配分した1件当たりの平均収入が15,000円、燃料や消耗品など訪問件数に応じて増加する追加費用が3,000円だと仮定する。この場合、1件増えるごとに固定費の回収へ充てられる金額は12,000円となり、月間固定費150万円を賄うには、150万円を12,000円で割った125件の訪問が必要になる。

 仮に月15日を訪問診療に充て、1日14件を訪問できれば月210件となり、訪問件数に対応する収入から追加費用を差し引いた金額は252万円で、固定費150万円をさらに差し引くと102万円が残る。これに対して、移動時間が長くなり1日8件しか訪問できなければ月120件となり、同じ計算では固定費を6万円下回る。診察内容や1件当たりの収入を同じと仮定しても、移動条件の違いによって損益が変わることが分かる。

 もちろん、ここで使用した150万円、15,000円、3,000円という金額は実際の診療報酬や医療機関の平均経営費を示すものではなく、損益分岐点の仕組みを説明するための仮定である。訪問件数に応じて費用が増える部分と増えない部分を分けた単純なモデルであり、実際には患者ごとの診療報酬の違いや、医師の勤務形態、看護体制、夜間対応の費用などを個別に算定する必要がある。

 このモデルで重要なのは、患者が少ないことだけが採算性を悪化させるわけではないという点である。同じ患者数であっても、患者が集まって住んでいる場合と広い地域に分散している場合とでは、診療に必要な労働時間が異なる。また、診療報酬上の収入が一定であっても、訪問に必要な移動時間や人員配置の条件が違えば、事業として成立する患者数の下限も変わる。

 人口減少地域では、潜在的な患者数が少ない一方、移動時間が長く、夜間対応のために一定の人員を確保しなければならないこともある。訪問診療に伴う費用を十分に回収できない地域が生じる可能性があり、そうした場所では、個々の医療機関の経営努力だけではなく、広域的な医療機関の連携や公的な医療確保策を検討する必要が出てくる。

 ただし、経営上の採算が取れないことと、地域に在宅医療を提供する価値がないことは、まったく別の問題である。医療は住民の生命や健康に関わる社会的基盤であり、通常の事業収益だけで十分に評価できない部分がある。だからこそ、在宅医療の成立条件は、医療機関の収益性、継続的な人員確保、患者の安全性、住民の医療へのアクセスという複数の側面から考えなければならない。

医師が来ても、暮らしを支える人がいなければ

 ところが、医師が必要な患者を訪問でき、診療所の経営も維持できたとしても、それだけで在宅医療が成立するわけではない。診察を受けた後の患者が、その家で安全に暮らせるかどうかは、医師の診療だけでは決まらないからである。

 薬を処方されても適切に服薬できない場合や、食事、排せつ、清潔保持、移動などの日常生活に支援が必要な場合には、訪問看護や介護サービスが重要になる。医療機器を使用しながら療養する患者には、機器の管理や衛生材料の確保、状態の変化に応じた医療的な判断も求められる。医師が月に数回診察するだけでは、患者の生活全体を支えることはできない。

 さらに、訪問看護師や介護職員にも移動時間の問題がある。医師の訪問だけを効率化しても、訪問看護ステーションや介護サービス事業所が遠方への訪問を継続できなければ、在宅療養の負担は家族へ集中する。人口が少ない地域ほどサービス利用者の密度も低くなりやすく、複数の専門職が同じ住宅を別々に訪ねる仕組みでは、地域全体の移動負担が大きくなる可能性がある。

 そこで考えられるのが、医師、看護師、薬剤師、介護職員などの間で患者の状態や訪問予定を共有し、それぞれの専門性を生かしながら支援を調整する方法である。もっとも、すべての訪問を同じ日にまとめれば効率的になるとは限らず、患者の状態を継続して観察する必要がある場合には、訪問の間隔を適切に確保しなければならない。業務の効率性を高めることと、必要な医療や介護を減らしてしまうことは区別する必要がある。

 また、家族の介護力を当然の前提として在宅医療を組み立てることにも限界がある。仕事をしながら介護を担う家族や、高齢者同士で介護する世帯では、日中の見守りや夜間の対応が大きな負担になる。独居高齢者の場合には、日常的な家族の支援を前提にできず、医療と介護だけでなく、生活支援や地域での見守りなどとの連携が必要になる場合もある。

 住み慣れた自宅で過ごすという本人の希望を尊重することは大切だが、その希望を実現するために家族が過重な負担を負わなければならないのであれば、在宅医療の仕組みとして十分とはいえない。患者本人の希望、医学的な安全性、家族の負担、地域のサービス供給能力を総合して判断することが求められる。

2026年の診療報酬改定は、人口減少地域を救えるのか

 こうした課題に対し、国の制度も変化している。2026年度の診療報酬改定では、質の高い在宅医療の推進を掲げ、重症患者への対応、在宅での看取り、医療機関同士の連携などについて評価や算定要件が見直された。これは全国の公的医療保険制度に関わる改定であり、特定の都道府県や市町村だけの独自施策ではない。

 注目したいのは、地域の医療機関が連携して在宅医療を支える方向が強められていることである。1つの診療所だけで24時間の対応体制を維持することは、医師の人数が限られる地域では難しい場合があるため、医療機関同士の情報連携や、複数の医療機関による時間外対応の仕組みを適切に評価することには意味がある。

 特に、へき地診療所については、在宅時医学総合管理料などの施設基準が見直され、所定の条件を満たす場合には、在宅医療を担当する医師がその診療所の常勤医師でなくても算定できるようになった。具体的には、対象となるへき地診療所の医師が、緊急時の連絡体制や24時間診療体制の確保において連携するへき地医療拠点病院などでも勤務している場合が想定されている。

 この仕組みは、医師を十分に確保できない地域で、複数の医療機関が役割を分担することを制度面から支えるものと理解できる。ただし、すべての人口減少地域の診療所へ自動的に適用されるわけではなく、対象となるへき地診療所の定義や医師の勤務条件、連携体制などの要件を満たす必要がある。人口が減少しているという理由だけで特例を利用できる制度ではない。

 一方、2026年度改定では、在宅時医学総合管理料や施設入居時等医学総合管理料における月2回以上の訪問診療の評価についても見直しが行われた。対象となる算定区分では、月2回以上の訪問診療を行う患者などに占める重症度の高い患者等の割合について、原則として所定の方法で2割以上という基準が設けられたが、患者数などによる例外的な取扱いも定められている。

 これは月2回以上の訪問診療そのものを禁止する制度ではなく、該当する医学管理料の算定要件を見直すものである。患者の病状や医療上の必要性を踏まえて訪問頻度を決めることが重要であり、診療報酬上の評価と患者に必要な医療を混同してはならない。

 また、医師と薬剤師が患者宅を同時に訪問して服薬状況や残薬などを確認し、処方内容を調整する取組についても新たな評価が設けられた。こうした仕組みは、患者の生活状況を踏まえた薬物療法を進めるうえで意味があり、専門職同士が協力するための制度的な支援ともいえる。ただし、対象患者や算定回数、個人宅への訪問に関する条件などが定められており、無条件に利用できるものではない。

 これらの改定は、限られた医療資源を有効に活用するための制度的な改善と評価できる。しかし、診療報酬上の要件が緩和されたり、連携に対する評価が充実したりしたからといって、医師や看護師が直ちに増えるわけではない。制度上は連携できる仕組みが用意されていても、実際に協力できる医療機関が遠く離れていたり、夜間に対応できる人員が不足していたりすれば、期待した効果は十分に得られない可能性がある。

 人口減少地域に必要なのは、制度を利用できることと、地域で実際に医療を提供できることを分けて考える視点である。診療報酬改定は重要な条件の1つではあるものの、それだけで在宅医療の地理的・人的な制約を解消できるわけではないのである。

病院を減らせば、在宅医療で医療費を節約できるのか

 在宅医療の普及は、病院への入院を減らし、医療費を抑える政策として語られることがある。確かに、入院を必要としない患者が適切な在宅医療を受けられれば、入院に伴う医療資源の使用を減らせる可能性はある。しかし、それをもって在宅医療が常に入院医療より安価であると結論づけることはできない。

 医療費を比較するには、患者の病状や重症度をそろえたうえで、訪問診療、訪問看護、薬剤、医療材料、救急搬送、必要に応じた入院などを含めた費用を考える必要がある。さらに、社会全体の負担を評価するなら、家族が仕事を休む時間や介護に費やす労力も無視できない。公的医療保険の支出が減少しても、その分の負担が家族や介護サービスへ移っているだけなら、社会全体の費用が減ったとは限らないからだ。

 また、入院と在宅医療は単純な代替関係ではない。急性期の治療、専門的な検査や手術、病状が急変した際の対応には、病院の機能が不可欠となる。退院後は在宅で暮らし、状態が悪化したときには必要に応じて入院できるという関係が成立してこそ、在宅医療は安心して利用できる選択肢になる。

 医療機関が遠い地域で在宅医療を普及させる際には、この関係が特に重要になる。自宅で療養できるという説明が、実際には入院先を確保しにくいことの言い換えになってはならない。在宅医療は患者の希望と医学的な適切性に基づいて選択されるべきものであり、病床不足や医療機関の撤退を補うためだけの制度ではない。

 もし政策の目的が医療費の抑制にあるなら、同程度の重症度の患者について、一定期間の医療費と介護費、再入院の状況、患者の生活の質、家族の負担まで含めて比較する必要がある。一方、政策の目的が住み慣れた地域で生活を続けられることにあるなら、費用の削減だけを成功の条件にするのは適切ではない。医療費が少なくなることと、患者にとって望ましい医療が実現することは、必ずしも一致しないのである。

自宅で亡くなる人が増えれば、在宅医療は成功なのか

 在宅医療を評価するうえでは、人生の最期をどこで迎えるかという問題も避けて通れない。厚生労働省の2025年人口動態統計(確定数)によると、日本国内で発生した日本人の死亡数は158万9,533人だった。この数字は、国内で発生した外国人の死亡を含むすべての死亡数という意味ではないが、日本で毎年非常に多くの人が人生の最終段階を迎えていることを示している。

 しかし、自宅で死亡した人の割合を、そのまま在宅医療の成果と解釈することには問題がある。自宅で亡くなったという事実だけでは、医師や看護師の支援を受けながら本人の希望どおりに看取られたのか、十分な支援を受けられないまま亡くなったのかを区別できない。また、施設や病院で最期を迎えた人の中にも、本人の意思に沿った適切な医療を受けた人がいるため、死亡場所だけで医療の質を評価することはできない。

 重要なのは、患者がどの場所で亡くなったかという結果だけではなく、最期まで必要な医療や介護を受けられたか、本人の意思が尊重されたか、痛みや苦痛を十分に緩和できたかという過程である。これらを評価するには、死亡場所別統計だけでなく、医療・介護サービスの利用状況や本人の意向など、異なる情報を組み合わせる必要がある。

 人口減少地域では、病院までの距離が遠いことが、結果として自宅で過ごす時間を長くする場合も考えられる。しかし、そのような地理的条件による結果と、十分な在宅医療が整備されたことによる結果を同じものとして扱うことはできない。自宅で最期を迎えることを選べる社会と、自宅以外の選択肢が乏しい社会では、その意味が根本的に異なるのである。

人口減少地域に必要なのは、病院の代わりではなく医療の新しい配置である

 それでは、人口が減り続ける地域で在宅医療を維持するためには、何が必要なのだろうか。その答えを考える手がかりは、国が進める医療提供体制の整備にも見いだせる。

 第8次医療計画では、在宅医療に必要な機能として、退院支援、日常の療養支援、急変時の対応、看取りが位置付けられている。これは、医師が定期的に患者宅を訪問する仕組みだけでなく、病院から自宅へ戻る段階から日常生活を支える仕組み、病状が急変したときに必要な医療へつなぐ仕組み、人生の最終段階を支える仕組みまでを、一体として整備しようとする考え方である。

 こうした体制を整備するには、行政区域の人口や高齢化率だけでなく、訪問診療を必要とする人がどこに住み、どの医療機関がどの程度の時間で到達できるのかを把握することが重要になる。例えば、75歳以上人口1,000人当たりの訪問診療実施医療機関数や、医師1人当たりの担当患者数、訪問1件当たりの平均移動時間などを確認できれば、施設数だけでは分からない地域差が見えてくる。ただし、訪問診療を実施する施設であっても診療規模は異なり、医師の人数についても常勤と非常勤、外来との兼務などの違いがあるため、単純な人数比較だけで供給能力を判断することはできない。

 さらに、地域内の対象患者数に加えて、患者1人当たりの訪問頻度や緊急対応の必要性を把握することも欠かせない。比較的病状が安定した患者が多い地域と、頻繁な医学的管理を必要とする患者が多い地域とでは、同じ患者数であっても必要な医療資源が異なる。患者数だけではなく、患者ごとに必要な診療時間と移動時間を積み上げて、地域全体の医療需要を評価することが求められる。

 そのうえで、訪問診療を担当する医師の診療圏を実際の道路網に沿って設定し、診療所や病院の配置、訪問看護ステーションの活動範囲、介護サービスの提供区域との関係を調整していく必要がある。市町村の境界は行政事務の単位として意味を持つが、医師の移動や救急搬送にとって、必ずしも合理的な区切りになるとは限らない。地域の医療資源を有効に活用するには、必要に応じて行政区域を越えた連携を考えることが重要になる。

 もっとも、診療経路の効率化にも限界がある。訪問順序を工夫することで移動距離を短縮できても、診療中の医師が別の集落で発生した急変に直ちに対応できるわけではなく、夜間や休日まで含めた体制を維持するには複数の医師や医療機関による協力が必要になる。災害によって道路が使えなくなった場合や、停電によって在宅医療機器の使用が難しくなった場合の対応も考慮しなければならない。

 医療機関の配置を考える際には、単に最も多くの患者を効率的に診察できる場所を選ぶだけでなく、遠方の住民にも必要な医療を届けられるかという公平性を検討する必要がある。患者が集中する地域に医療資源を集約すれば効率性を高められる可能性があるが、集落の端に暮らす住民にとっては、医療へのアクセスがかえって悪化する場合もあるからだ。

 ここで求められるのは、効率性と公平性のどちらかを単純に選ぶことではなく、限られた医療資源の下で、地域全体の医療をどう維持するかという現実的な調整である。都道府県が策定する医療計画と、市町村が策定する介護保険事業計画などとの整合を図り、医療と介護の実際の供給能力を確認しながら、継続可能な体制を構築していくことが必要になる。

最後の1軒まで医療を届けることは、誰の責任なのか

 人口減少地域の在宅医療には、簡単には解決できない問題が残る。患者の数が少なければ、医療機関の経営は不安定になりやすい。一方で、患者が少ないという理由だけで遠方への訪問を断れば、その地域に住む人は必要な医療を受ける機会を失う可能性がある。医療機関の経営効率と、住民が医療を受けられることの間には、必ずしも一致しない部分がある。

 通常の事業経営であれば、採算の取れない地域から撤退することは合理的な判断になり得る。しかし、医療は住民の生命と健康を支える社会的基盤であり、その供給を個々の医療機関の採算性だけに委ねることには限界がある。すべての地域に同じ規模の病院や診療所を配置することが難しくても、必要な医療へつながる仕組みをどう確保するかという課題は残る。

 もっとも、公的な支援を行えば、どの地域でも同じ水準の在宅医療を維持できるとは限らない。患者の数が極端に少なく、診療圏が広く、協力できる医療機関も遠い地域では、通常の訪問診療の仕組みだけで24時間対応を実現することが困難な場合もある。そのような地域では、広域的な医療機関の協力、へき地医療の支援体制、入院を受け入れる病院との連携などを、実際の人員と移動条件に基づいて検討する必要がある。

 同時に、在宅医療の供給能力が不足している場合には、それを住民へ正確に伝えることも重要である。医療機関が存在することと、必要なときに訪問診療を受けられることは同じではなく、平日の定期訪問に対応できても、夜間の急変や看取りへの対応が難しい地域も考えられる。住民が在宅療養を選択する際には、利用できるサービスの範囲と限界を理解したうえで、必要な支援体制を確認できることが望ましい。

 病院ではなく自宅で診る時代へ。その言葉が意味するのは、病院が不要になる未来ではない。通院が難しくなった人のところへ医療が向かい、病状が悪化したときには必要な病院へつながり、日常生活では看護や介護が支えるという、医療の新しい関係である。

 田畑の向こうに住宅が点在し、集落をつなぐ道だけが長く延びる地域では、患者の家を訪ねる時間を簡単に短縮することはできない。住民の数が減っても、その道の先で暮らす人の医療上の必要性まで消えるわけではなく、限られた医師や看護師の時間をどう使うかという問題は、人口減少が進むほど難しくなる可能性がある。

 人口減少地域で在宅医療が成立するかどうか。その答えは、高齢化率の高さでも、診療所の数だけでも決まらない。患者がどこに暮らし、どれだけの医療を必要とし、医師や看護師がどの程度の時間で訪問できるのか。さらに、その体制を維持するための費用を誰がどのように負担し、急変時にはどの病院が支えるのかという条件によって、成立する地域もあれば、従来の仕組みだけでは維持が難しい地域もあるだろう。

 病院のベッドを減らすことと、自宅で安心して療養できる人を増やすことは、同じではない。在宅医療を広げること自体を目的にするのではなく、患者が必要な医療を受けられ、希望する場所で生活を続ける選択肢を持てることを目指すべきである。

 そして、最後に問われるのは、訪問診療が何件増えたかという数字だけではない。集落の奥に残る1軒の住宅まで、必要な医療を届ける仕組みを地域社会が維持できるかどうかである。その問いに向き合うことが、人口減少社会における在宅医療の本当の課題なのである。

地域の課題を、自分の判断に置き換えて考える

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 停電という言葉から、多くの人が最初に思い浮かべるのは「照明がつかなくなること」かもしれません。しかし、現在の住宅で電気が担っている役割は照明だけではありません。冷蔵庫、エアコン、給湯器、調理器具、電話、インターネット、給水ポンプ、医療機器など、生活を支えるさまざまな設備が電気に依存しています。電力が失われるということは、単に家の中が暗くなるのではなく、日常生活を成り立たせている複数の機能が同時に停止する可能性を意味しています。

 とりわけ外房では、高齢化の進行が重要な問題になります。千葉県が2026年7月に公表した同年4月1日現在の人口統計によると、65歳以上の人口割合は御宿町で54.4%、勝浦市で48.1%に達しています。いすみ市、勝浦市、御宿町、大多喜町からなる夷隅地域全体でも46.0%であり、千葉県全体の27.6%を大きく上回ります。夷隅地域は県内11地域の中で高齢者の人口割合が最も高く、停電時の生活継続を考えるうえでも、高齢者の身体的な条件や生活環境を無視することはできません。

 もっとも、高齢化率が高いことだけで、停電による被害が大きくなると断定することはできません。実際の影響は、健康状態、同居家族の有無、住宅設備、自動車の利用可能性、近隣住民との関係、行政の支援体制などによって変わります。ただし、住宅が分散し、日常生活の移動を自動車に頼る地域では、停電によって生活機能が失われた際に、代わりのサービスへアクセスすることが難しくなる場合があります。

 2019年9月の令和元年房総半島台風では、千葉県内で最大64万1,000軒の停電が発生し、断水も合計13万3,474戸に及びました。資源エネルギー庁の検証によると、停電件数がピーク時から99%解消するまでに約280時間、日数に換算すると約11.7日を要しています。これはすべての住宅が11日以上停電したという意味ではありませんが、広域災害では電力の復旧に相当な時間がかかる可能性があることを示しています。

 この災害で重要だったのは、電力の停止が単独で発生したわけではないことです。停電に加えて、断水、通信障害、道路の通行障害などが重なり、行政による安否確認や福祉施設への支援にも支障が生じました。外房で考えるべきなのは、「電気が24時間来なかったらどうするか」という問題だけではありません。電気を入口として、水、食料、通信、医療、移動という生活機能がどこまで失われ、その状態が何時間続けば生活の維持が難しくなるのかという問題です。

停電直後は、まだ「少し不便」なだけに見える

 停電して最初の数十分は、多くの住宅で深刻な状況には見えないかもしれません。昼間なら窓から光が入り、水道も使える場合があります。スマートフォンには電池が残り、冷蔵庫も扉を閉めていれば庫内温度が直ちに大きく上昇するわけではありません。こうした状況では、電気が止まったことを不便に感じながらも、「そのうち復旧するだろう」と判断する人がいても不思議ではありません。

 しかし、停電の危険性は、現在どれだけ困っているかだけでは判断できません。比較的短時間で復旧する停電と、電柱や電線、倒木などに広範囲の被害が生じた停電では、その後の展開が大きく異なります。令和元年房総半島台風では、倒木や飛来物による電力設備の損傷が各地で発生し、被害地点が多かったことから、復旧作業だけでなく、被害の全体像を把握することにも時間が必要になりました。

 つまり、停電直後に住民が直面する問題の一つは、復旧までの時間を正確に予測できないことです。数時間で復旧すると考えて生活を続けた結果、停電が翌日まで長引けば、食品の管理、飲料水の確保、家族への連絡、体調管理などの準備が遅れる可能性があります。特に、電力の供給が途絶えると直ちに困る設備がある住宅では、復旧見込みが分からないこと自体を重要な危険要因として考える必要があります。

数時間の停電で、住宅の暑さと寒さが問題になる

 停電が数時間続いた場合、季節によっては住宅内の温度が大きな問題になります。夏はエアコンや扇風機が使えなくなり、冬はエアコン暖房や電気を必要とする暖房器具が停止します。高齢者は、加齢に伴って暑さに対する感覚や体温調節機能が低下する場合があり、室内で過ごしていても熱中症を発症する危険があります。特に夏の高温多湿な環境では、停電から24時間を待たずに健康上の問題が生じる可能性があります。

 ただし、停電から何時間で住宅内が危険な温度になるかを、一律に決めることはできません。室温の変化は、外気温、日射、断熱性能、建物の熱容量、換気状況などに左右されます。同じ地域に建つ住宅でも、日射を受けやすい住宅と断熱性能の高い住宅では、冷房停止後の室温上昇が異なります。また、同じ室温でも、住んでいる人の健康状態や水分摂取の状況によって身体への影響は変わります。

 冬にも別の問題があります。エアコン暖房は停電とともに停止し、石油ファンヒーターのように灯油を燃料としていても、送風や燃焼制御に電気を使用する機器は運転できなくなります。ガス給湯器も、制御や点火に家庭用電源を必要とする機種では、ガスの供給が続いていてもお湯を使えなくなる場合があります。つまり、住宅がオール電化でなくても、暖房や給湯の機能が停電によって失われることは十分に考えられます。

 この問題は、現代住宅におけるエネルギー依存の特徴を示しています。ガスや灯油といった燃料が残っていても、それを利用する設備の制御に電気が必要であれば、電力の停止によって機器全体が使えなくなります。住宅の停電対策では、使用している燃料の種類だけでなく、実際に機器を動かすために何が必要なのかを確認することが重要です。

水道管が壊れていなくても、水が出なくなる

 停電時に見落とされやすい問題の一つが給水設備です。水道管自体に損傷がなく、地域の配水管に水が供給されていても、住宅や建物の設備が電気に依存している場合には、水が使えなくなることがあります。例えば、集合住宅などで利用される貯水槽のポンプや増圧給水ポンプは、停電によって停止する場合があります。

 千葉県企業局も2026年9月に公表した案内で、水道本管が断水していなくても、建物のポンプが停止すれば各戸への給水ができなくなる場合があると説明しています。ただし、直結給水栓や非常用給水栓が設置されていれば、それらを利用できることもあります。実際に水が使えるかどうかは給水方式によって異なるため、建物の管理者や管轄する水道事業者への確認が必要です。

 外房では、井戸を利用する住宅についても考える必要があります。井戸は水道本管が断水した場合にも利用できる可能性がありますが、電動ポンプで地下水を汲み上げている住宅では、停電と同時に取水できなくなることがあります。井戸があることと、停電時にも水を使えることは同じではありません。

 水が止まった場合、その影響は飲料水だけにとどまりません。手洗いや食器洗いが難しくなり、トイレの使用にも制約が生じます。入浴や身体を清潔に保つことが難しくなる場合もあり、介護を必要とする人が暮らす住宅では、排せつ介助や衛生管理にも影響する可能性があります。ただし、トイレについては便器の種類や排水設備の状態によって利用方法が異なり、断水中でも一定の条件で水を流せる場合がある一方、排水設備に問題があると使用を控える必要があります。

 停電への備えとして重要なのは、水道が使えるかどうかを一つの問題として捉えるのではなく、飲み水、生活用水、トイレ、身体の清潔を保つ手段を分けて考えることです。特に高齢者住宅では、水を備蓄していても、重い容器を持ち上げたり、離れた場所から運んだりすることが難しい場合があります。水の量だけでなく、必要な場所で実際に使用できる状態にしておくことが求められます。

冷蔵庫の食品安全は、停電から数時間で問題になる

 停電による食品への影響は、半日や24時間が経過してから初めて問題になるわけではありません。農林水産省は、停電時に扉を開けない場合、冷蔵庫が低温を保持できる時間は約4時間、冷凍庫では約1~2日間が目安になると説明しています。ただし、これらは一般的な目安であり、外気温、庫内の食品量、冷蔵庫の性能、停電前の温度などによって実際の状態は変化します。

 ここで注意したいのは、約4時間という数字が、すべての食品を一律に廃棄する基準ではないことです。食品の安全性は、保存中の温度、温度が上昇していた時間、食品の種類などによって異なります。一方で、肉、魚、乳製品、総菜などの傷みやすい食品については、適切な低温状態が保たれなかった場合に食中毒の危険が高まるため、慎重な判断が必要になります。

 また、停電が復旧して冷蔵庫が再び冷え始めると、停電中に食品の温度がどの程度上昇したのか、外見だけでは分からなくなる場合があります。食品が再び冷たくなっていることと、停電中も安全な状態で保存されていたことは同じではありません。千葉県も停電時の食中毒への注意を呼びかけており、保存温度を適切に維持できなかった食品については、見た目やにおいだけで安全だと判断しないことが重要です。

 高齢者世帯では、毎日買い物に出かけるのではなく、数日分の食料を冷蔵庫や冷凍庫に保管している場合があります。しかし、停電が長引けば、食品が家に残っていても安全に食べられるとは限りません。特に、買い物に出かけることが難しい世帯では、冷蔵食品を利用できなくなった後に代わりの食料を確保できるかどうかが問題になります。

 したがって、停電への備えでは、冷蔵庫や冷凍庫にどれだけ食料が入っているかだけでなく、電気や水を使わずに食べられる食品を別に確保しているかが重要です。缶詰、保存可能なパン、そのまま食べられる食品などを、日常的に消費しながら補充していく方法であれば、特別な防災用品だけに依存せずに備蓄を続けることができます。

スマートフォンが使えなくなる理由は、電池切れだけではない

 現在の災害対策では、スマートフォンが重要な情報収集手段になっています。停電の復旧情報、自治体からの防災情報、気象情報、家族との連絡など、多くの機能が一台の端末に集約されています。ところが、停電が長引くと、スマートフォンそのものの電池残量と、通信網が利用できるかどうかという二つの問題が生じます。

 端末の電池がどの程度持続するかは、使用頻度、画面の明るさ、通信状況、電池の劣化状態、機種などによって異なります。そのため、停電から12時間が経過すると使えなくなるといった、一律の時間設定は適切ではありません。事前に十分な充電が行われ、使用頻度を抑えていれば長時間利用できる場合がある一方、停電発生時点ですでに電池残量が少なければ、短時間で連絡手段を失う可能性もあります。

 さらに重要なのは、スマートフォンの電池が残っていても、通信基地局の非常用電源が尽きたり、通信回線が損傷したりすれば、通話やデータ通信が難しくなることです。家庭のインターネット回線も、回線自体が使用可能であっても、住宅内の通信機器に電源が供給されなければ利用できない場合があります。光回線を利用した固定電話についても、停電によって機器が停止すれば通話できなくなる場合があり、固定電話があるというだけで安心できるわけではありません。

 令和元年房総半島台風では、停電と通信障害が重なり、社会福祉施設との連絡が途絶えたため、安否確認や必要な支援内容の把握に数日を要した事例がありました。これは、災害時に問題となるのが個々の通信機器だけではなく、地域全体で情報をやり取りする仕組みであることを示しています。

 高齢者が一人で暮らしている場合、通信手段の喪失は家族との連絡が取れなくなるだけでなく、行政からの情報を得たり、救援を求めたりすることが難しくなる問題につながります。そのため、スマートフォンの予備電源を確保することに加え、乾電池式のラジオや近隣住民との連絡方法など、通信網が利用できない場合の代替手段も考えておく必要があります。

在宅医療を受ける人には、停電直後から危険が生じる場合がある

 高齢者住宅の停電を考えるとき、特に慎重な対応が必要なのが在宅医療です。家庭で人工呼吸器、酸素濃縮装置、吸引器などの電気を必要とする医療機器を使用している人にとって、停電は日常生活の不便ではなく、生命や健康を維持するための機能に直接影響する場合があります。

 重要なのは、在宅医療機器については、停電が12時間や24時間続くのを待ってから対策を始めるのでは遅い場合があることです。機器の種類や電源構成によっては、停電直後から外部電源が必要になることもあります。内蔵バッテリーを備えた機器であっても、その持続時間は機種や使用条件によって異なり、バッテリーがあるという理由だけで長時間の停電に対応できるとは限りません。

 厚生労働省などは、過去の大規模停電を踏まえ、人工呼吸器の予備電源、酸素濃縮装置利用者の酸素ボンベ、停電時の連絡体制、緊急時の受診先などを事前に確認することの重要性を示しています。実際に必要な対策は、使用する医療機器、患者の状態、家族による介助の状況などによって異なるため、主治医や訪問看護師、医療機器の供給事業者などとあらかじめ対応方法を決めておく必要があります。

 また、医療機器に使用する予備電源は、容量が大きければ何でもよいというものではありません。医療機器との電気的な適合性、安全性、接続方法などを確認する必要があり、一般家庭用の蓄電池を自己判断で接続することには注意が必要です。停電時の対応を確認するために、実際に医療機器の電源を切って試すことも避けなければなりません。

 こうした家庭では、停電による危険を単純に時間で分類することは適切ではありません。一般的な住宅では数時間の停電が不便にとどまる場合でも、医療機器に依存する人には直ちに支援が必要になる可能性があります。同じ24時間の停電であっても、そこに暮らす人の健康状態によって意味が大きく変わるのです。

24時間後に現れるのは、停電そのものより生活機能の限界である

 停電が丸一日続いたとき、住宅の状況は一様ではありません。十分な飲料水や常温保存食品があり、予備電源を確保し、冷暖房の代替手段が用意されている住宅では、一定の生活機能を維持できる可能性があります。一方、電動ポンプに依存する住宅では停電直後から水が使えず、医療機器を使用している家庭では、予備電源の持続時間が生活を継続できるかどうかを左右する場合があります。

 この違いを理解するためには、住宅を一つの建物としてではなく、生活に必要な複数の機能が組み合わされた仕組みとして考えることが有効です。電力、給水、食品、室温、通信、医療などのうち、生活に不可欠で代替手段のない機能が一つでも失われれば、それまでと同じ生活を維持することが難しくなります。つまり、住宅全体がどれだけ自立して生活を継続できるかは、必ずしも最も備えが充実している設備によって決まるのではなく、最も早く限界に達する重要な機能によって制約される場合があります。

 例えば、飲料水と食品を十分に備蓄していても、真夏に冷房を失った住宅の室温が危険な状態になれば、その場所にとどまることが適切とは限りません。逆に、室温が比較的安定していても、電動井戸ポンプが停止し、生活用水を確保できなければ、トイレや衛生管理に問題が生じます。こうした条件の違いによって、同じ24時間でも住宅ごとの影響は大きく変わります。

 ここで注意したいのは、24時間という時間自体に、すべての住宅に共通する科学的な危険の境界があるわけではないことです。停電後の影響を時間経過に沿って考えることには意味がありますが、個々の設備が停止する時点や健康上の危険が生じる時点は、それぞれの条件によって異なります。したがって、24時間の停電を想定する目的は、24時間後に必ず何かが起きると予測することではなく、その間に住宅のどの機能が失われ、どの程度まで生活を継続できるかを具体的に確認することにあります。

外房では住宅だけでなく、移動手段も問題になる

 停電の影響は住宅内だけで完結するとは限りません。特に、日常生活の移動を自動車に頼る地域では、住宅内の生活機能が失われた際に、別の場所で必要な物資やサービスを確保できるかどうかが重要になります。近くに徒歩で行ける店舗がない場合や、自分で運転することが難しい場合には、水や食料を確保すること自体が負担になる可能性があります。

 台風による停電では、倒木や道路の損傷が同時に発生することもあります。道路が通行できなければ、家族や支援者が車で訪問することも難しくなり、住民が自力で安全な場所へ移動することにも制約が生じます。また、給油所が停電していれば、設備や非常用電源の状況によっては燃料を補給できない場合があります。自動車を所有していることと、災害時にも自由に移動できることは同じではありません。

 ただし、外房のすべての住宅が都市部より危険であると断定することはできません。住宅の立地、道路へのアクセス、近隣の商業施設、医療機関までの距離、地域の支援体制などによって条件は異なります。都市部であっても、高層住宅のエレベーター停止や給水ポンプ停止など、停電に特有の問題が存在します。

 それでも、外房で高齢者の生活を考える場合には、住宅の設備だけでなく、そこから徒歩や自動車でどこまで移動できるか、移動できない場合には誰が支援できるかという観点が欠かせません。地域の高齢化率が高いという統計的事実に加え、独居高齢者の割合、住宅の分布、医療機関までの移動時間、自動車の利用状況などを重ねて検証すれば、停電時に支援が届きにくくなる可能性のある地域を、より具体的に把握できると考えられます。

「24時間自立できる住宅」という新しい評価軸

 住宅の価値を考えるとき、これまでは価格、広さ、日当たり、交通の利便性、買い物施設や医療機関までの距離などが重視されてきました。しかし、高齢化が進み、台風などによる長期停電も想定する必要がある地域では、これらに加えて、外部からの供給が停止しても一定時間生活を継続できるかという視点が重要になります。

 ここでいう住宅の自立性とは、電力会社や水道事業者などからの供給が停止した場合にも、生活に不可欠な機能をどの程度維持できるかということです。飲料水があるか、電気や水を使わずに食べられる食品があるか、夜間の照明を確保できるか、通信手段が使えなくなった場合に別の連絡方法があるか、冷暖房が停止した場合に安全な場所へ移動できるかといった条件によって、自立性の程度は変わります。

 ただし、「24時間自立できる住宅」という考え方は、防災対策として24時間分の備蓄があれば十分だという意味ではありません。政府は災害への備えとして、食品を最低3日分、できれば1週間分確保することを推奨しており、飲料水についても一人1日約3リットルを目安としています。仮に一人暮らしであれば、飲料水は3日分で約9リットル、7日分では約21リットルが目安になります。これとは別に、トイレや洗浄などに使用する生活用水も考える必要があります。

 したがって、24時間という時間は備蓄の最終目標ではなく、住宅が停電した最初の一日をどのように乗り切れるかを確認するための初期的な評価期間と位置付けるのが適切です。そのうえで、停電が3日間、さらに1週間へと長期化した場合にも対応できるかを検討する必要があります。

 重要なのは、防災用品を大量に購入することではありません。まず、自分の住宅で電気が止まった場合に何が使えなくなるのかを、設備ごとに調べることです。水道は停電時にも使用できるのか、井戸のポンプはどうなるのか、給湯器は使用できるのか、固定電話は通話できる方式なのか、スマートフォンの予備電源はあるのか、冷暖房を使えない場合にはどこへ移動できるのかといった点を確認するだけでも、住宅ごとの弱点が具体的になります。

 特に高齢者が暮らす住宅では、備蓄品が存在することと、それを本人が実際に使えることを区別する必要があります。水があっても持ち運べなければ利用が難しく、非常食があっても開封や調理が困難であれば十分な備えにはなりません。防災対策は、物資の数量だけでなく、その住宅で暮らす人の身体能力や生活習慣に合わせて評価する必要があります。

停電時の危険は、電気が復旧した後にも残る

 停電への備えを考える場合には、停電中の不便や健康への影響だけでなく、代替電源の使い方や復電時の事故にも注意する必要があります。特に携帯発電機は、燃料を使用して発電するため、運転中に排出される一酸化炭素による中毒の危険があります。資源エネルギー庁も、発電機を屋内で絶対に使用しないよう注意を呼びかけており、屋外で使用する場合でも排気が室内に流入しない場所に設置することが必要です。

 また、停電が復旧した際には、損傷した電気機器や電熱器具などが原因となって火災が発生する可能性があります。特に台風などで住宅や電気設備が損傷した場合には、通電前に安全を確認することが重要です。避難のために住宅を離れる際にも、状況に応じてブレーカーを切るなど、復電時の事故を防ぐための対応が求められます。

 停電は電力が供給されなくなることだけが危険なのではありません。失われた機能を補おうとして不適切な設備を使用したり、復旧後に損傷した機器をそのまま使ったりすることによって、新たな事故が発生する可能性があります。住宅の自立性を高めることは、単に予備電源を増やすことではなく、安全に利用できる代替手段を確保することでもあります。

高齢社会では、家庭だけの備えに限界がある

 ここまで住宅単位で停電の影響を考えてきましたが、高齢化が進む地域では、各家庭の努力だけですべての問題に対応することは困難です。十分な備蓄を行っていても、健康状態の変化によって自力で生活を継続できなくなる場合があります。また、道路が通行できず、通信も途絶えた状況では、家族や近隣住民が支援しようとしても、必要な場所へ到達できない可能性があります。

 こうした問題に対応するためには、行政による支援体制との連携が重要になります。2021年5月の災害対策基本法改正では、避難行動要支援者ごとの個別避難計画の作成が市町村の努力義務となりました。この制度は停電だけを対象とするものではありませんが、災害時に自力で避難することが難しい人について、誰が支援し、どのように避難するかを事前に検討する仕組みとして重要な意味を持っています。

 ただし、個別避難計画が存在することと、停電や通信障害が発生した際に実際の支援が届くことは同じではありません。行政の担当者や福祉関係者が連絡を取れない場合には、安否確認そのものが難しくなる可能性があります。令和元年房総半島台風で社会福祉施設の状況把握に時間を要したことは、制度や連絡先を整備するだけでなく、通信が使えなくなった場合にも機能する確認方法を考える必要があることを示しています。

 また、高齢者といっても必要な支援は一様ではありません。自分で自動車を運転できる人、歩行に制約がある人、認知機能が低下している人、医療機器を使用している人では、停電時に直面する問題が異なります。地域の防災計画を考える際には、年齢だけで一律に分類するのではなく、移動能力、健康状態、生活設備、家族や近隣住民による支援の可能性などを踏まえる必要があります。

 さらに、地域の店舗、医療機関、給油所、福祉施設などが停電時にどの程度機能を維持できるかという問題もあります。住宅ごとに備蓄を進めても、地域の生活サービスが広範囲で停止すれば、個人の準備だけでは対応できない状況が生じます。停電時にも利用できる給水拠点、充電設備、情報提供手段、移動支援などをどのように確保するかは、地域全体で検討すべき課題です。

外房で必要なのは、復旧を待つだけではない防災である

 令和元年房総半島台風が示したのは、電力の供給が長期間停止することで、住宅の内部だけでなく地域社会のさまざまな機能が同時に影響を受けるという事実でした。倒木や飛来物による電力設備の損傷が広範囲に発生すれば、復旧作業には時間がかかります。その間にも、給水設備、通信機器、冷暖房、食品保存、医療機器などはそれぞれ異なる条件で機能を失っていきます。

 千葉県内でも特に高齢化が進む夷隅地域では、この問題を単に電力設備の復旧時間だけで評価することは適切ではありません。住民の健康状態や身体能力、住宅設備、移動手段、近隣の支援体制によって、同じ停電でも影響が異なるからです。高齢者にとって何が危険なのかを理解するためには、停電時間だけでなく、その間に維持できる生活機能と、失われた機能を補う手段を調べる必要があります。

 外房でこれから重要になるのは、停電をできる限り防ぐための設備対策とともに、停電が発生しても住民が一定時間、安全に生活を継続できる地域をつくるという考え方ではないでしょうか。そのためには、住宅ごとの弱点を把握することに加え、医療や介護を必要とする人への支援、断水時の給水方法、通信障害時の安否確認、移動が難しい住民への物資供給などを、地域全体の問題として検討する必要があります。

 停電から24時間が経過したとき、問われるのは冷蔵庫や照明が使えるかどうかだけではありません。水、食料、通信、医療、移動といった生活を構成する機能が、その人の周囲にどれだけ残っているのかという問題です。そして、それらの機能が失われた場合に、誰が、どのような方法で支えることができるのかという問題でもあります。

 24時間の停電は、すべての住宅に同じ被害をもたらすわけではありません。しかし、普段は電力に支えられて見えにくくなっている住宅や地域の弱点を、短時間で表面化させる可能性があります。外房の高齢社会における停電対策とは、単なる電気の問題ではなく、住民が生活を継続するために必要な機能を、地域としてどこまで維持できるのかという問題なのです。

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 病院や診療所で診察を受けられれば、それで医療が完結するわけではありません。薬による治療が必要な場合には、処方された医薬品を患者が適切に受け取り、正しく使用できることまで含めて考える必要があります。特に高齢者にとっては、医療機関までの移動に加え、薬を受け取るための移動や待ち時間も、通院に伴う重要な負担になります。

 現在の日本では、医療機関で発行された処方箋を保険薬局へ持参し、薬剤師による調剤と服薬指導を受ける院外処方が広く普及しています。一方、医療機関内で薬を受け取る院内処方も存在し、条件によってはオンライン服薬指導や配送を利用することもできます。そのため、すべての患者が診察後に薬局へ移動するわけではありませんが、地域の薬局が医療へのアクセスを支える重要な存在であることに変わりはありません。

 人口減少が進む地方では、病院や診療所の統廃合、医師不足、救急医療の維持などが大きな問題として取り上げられています。しかし、診察を受けた後に必要となる医薬品の供給体制については、医療機関そのものの存続問題ほど注目されていないように思われます。仮に病院や診療所が残っていても、近隣の薬局が閉局したり、営業時間が短縮されたりすれば、住民が薬を受け取るまでの時間や負担は変化する可能性があります。

 では、2026年から30年後の2056年に、地方の薬局は現在と同じように身近な場所に残っているのでしょうか。

 最初に結論を述べると、地方の薬局が一斉になくなると考える根拠はありません。しかし、現在と同じ店舗数、立地、営業時間、薬剤師の配置をすべての地域で維持できるとも限りません。人口構造や処方箋需要、薬剤師の確保状況、医療機関の配置、薬局の経営条件などによって、地域ごとに異なる変化が起こると考えるのが妥当でしょう。

 将来は、従来の店舗を維持する方法だけでなく、調剤業務の一部集約、薬局間の連携、在宅訪問、オンライン服薬指導、医薬品の配送、地域交通との組み合わせなど、複数の方法によって住民の薬へのアクセスを支える必要性が高まる可能性があります。重要なのは、単に薬局という店舗が残るかどうかではなく、住民が必要な薬を安全に、適切な時間と負担で受け取れるかという問題です。

全国の薬局は増えている~人口減少だけでは将来を説明できない

 厚生労働省の「令和6(2024)年度衛生行政報告例」によると、2024年度末の全国の薬局数は63,203施設で、前年度の62,828施設から375施設、割合にして0.6%増加しました。人口10万人当たりの薬局数は全国平均で51.1施設となっており、日本全体で見ると、少なくともこの時点では薬局数が減少しているわけではありません。

 千葉県でも、2023年度末の2,669施設から2024年度末には2,681施設へと12施設増加しています。一方、鹿児島県では同じ期間に885施設から862施設へ23施設減少しており、都道府県によって増減の方向が異なります。この事実は、人口減少が直ちに薬局数の減少をもたらすわけではなく、地域の医療需要や経営環境などによって結果が変わることを示しています。

 ただし、全国や都道府県の薬局数が増加しているからといって、人口減少地域でも薬局が維持されているとは限りません。新しい薬局が都市部や医療機関の周辺に開設される一方、人口の少ない地区では閉局が進んでいる可能性もあり、全国の増減だけでは地域内部の配置の変化を把握できないからです。

 人口10万人当たりの薬局数についても、単純に都市部ほど多いわけではありません。2024年度末では佐賀県が65.1施設、高知県が61.0施設であるのに対し、東京都は50.9施設、千葉県は42.9施設でした。人口当たりの施設数が多くても、住民が広い地域に分散していれば移動距離が長くなることがあります。反対に、人口当たりの施設数が比較的少なくても、人口密度が高ければ徒歩圏内に複数の薬局が存在する場合があります。

 したがって、全国の薬局数、人口当たりの薬局数、住民の自宅から薬局までの距離、実際の移動時間は、それぞれ異なる指標として扱う必要があります。薬局の数が多いことと、地域住民が薬を受け取りやすいことは、必ずしも同じではありません。

薬局の多くは比較的小規模な体制で運営されている

 2025年9月の中央社会保険医療協議会で厚生労働省が示した資料では、薬局1店舗当たりの勤務薬剤師数は平均2.7人、1か月当たりの処方箋枚数は約1,100枚とされています。この数値は、比較的小規模な人的体制で運営されている薬局が多いことを理解するうえで重要です。

 もっとも、平均値だけで個々の薬局の実態を判断することはできません。薬剤師が多数勤務する大規模な薬局もあれば、少人数で運営される薬局もあり、勤務形態や営業時間によって実際の配置人数は異なります。また、勤務薬剤師数と、別の統計で把握される薬局従事薬剤師数は、調査方法や集計対象が異なる場合があるため、数値を単純に比較することにも注意が必要です。

 地方の小規模薬局を考える場合には、店舗数だけでなく、薬剤師が何人勤務しているか、営業時間中に必要な業務を処理できるか、特定の薬剤師が退職した場合に代替要員を確保できるかといった問題が重要になります。仮に地域に薬局が残っていても、薬剤師の確保が難しくなれば、営業時間の短縮や業務内容の変更を余儀なくされる可能性があります。

全国の薬剤師は増加しているが、地域の不足が解消されたわけではない

 薬局の将来を考えるとき、人口減少とともに重要になるのが薬剤師の地域偏在です。ただし、ここでは全国の薬剤師数が不足しているかという問題と、特定地域で薬剤師を確保できるかという問題を区別しなければなりません。

 厚生労働省の「令和6(2024)年医師・歯科医師・薬剤師統計」によると、2024年末の全国の届出薬剤師数は329,045人で、2022年末の323,690人から5,355人、1.7%増加しました。このうち薬局に従事する薬剤師は197,437人で、2022年の190,735人から6,702人、3.5%増加しています。

 つまり、少なくとも2022年から2024年までの統計では、全国の薬剤師数も薬局に従事する薬剤師数も増加しています。薬剤師が全国的に減少していることを前提に、地方の薬局が存続できなくなると論じるのは適切ではありません。

 一方、全国の薬剤師数が増加していても、特定の地域で必要な薬剤師を確保できるとは限りません。薬剤師の勤務地選択には、賃金や勤務条件、専門的な業務を経験できる環境、通勤時間、家族の生活環境、子育てや教育の条件などが関係します。そのため、地域に薬局が存在していても、採用活動が難航したり、退職者の補充ができなかったりすることがあります。

 厚生労働省も薬剤師の地域偏在を政策課題として位置付け、薬剤師偏在指標や薬剤師確保計画の仕組みを整備しています。薬剤師偏在指標は単純な人口当たり薬剤師数ではなく、薬剤師に対する需要や業務量なども考慮するもので、薬局薬剤師と病院薬剤師についても区別した評価が行われています。

 ただし、地域の薬剤師偏在指標が低いことと、その地域のすべての薬局で薬剤師が不足していることは同じではありません。地域全体の需給状況を示す指標と、個別薬局の採用状況や勤務体制は区別して判断する必要があります。

30年後の医薬品需要は、人口総数だけでは予測できない

 国立社会保障・人口問題研究所の「日本の地域別将来推計人口(令和5年推計)」では、2020年の国勢調査を基準として、2050年までの市区町村別人口を5年ごとに推計しています。この資料を利用すれば、将来の総人口だけでなく、65歳以上人口や75歳以上人口など、年齢構成の変化を地域別に分析できます。

 ただし、2026年から30年後は2056年であり、この推計の対象期間を超えています。そのため、同資料だけから2056年の市区町村人口を直接読み取ることはできず、まして薬局が何店舗残るかを正確に求めることもできません。2050年までの推計は長期的な方向性を考えるための重要な資料ですが、2056年の薬局数を確定的に予測できるものではありません。

 ここで注意したいのは、地域人口が30%減少したとしても、医薬品の需要が同じように30%減少するとは限らないことです。医薬品の使用状況は年齢や健康状態、慢性疾患の有無、医療機関の受診状況などによって異なります。人口全体が減少する一方で、高齢者人口の減少が比較的小さい地域では、処方箋需要も人口全体ほどには減少しない可能性があります。

 しかし、高齢化率が上昇することと、高齢者の絶対数が増えることも同じではありません。例えば、総人口が大幅に減少する地域では、75歳以上人口の割合が高くなっても、その人数自体は減少することがあります。高齢化が進むという理由だけで医薬品需要が維持されると考えることも、人口が減るという理由だけで需要が同じ割合で減少すると考えることも、いずれも適切ではありません。

 数理的に考えるなら、地域の処方箋需要は、各年齢階級の人口に、その年齢階級の1人当たり年間処方箋発行回数を掛け、それらを合計する方法で推計するのが基本になります。さらに、将来の受診率、院内処方と院外処方の割合、医療機関の統廃合、処方日数の変化、地域外薬局の利用なども考慮する必要があります。

 人口減少によって住民数が減っても、近隣の診療所が閉院して別の医療機関に患者が集まれば、その医療機関の周辺にある薬局では処方箋が増える場合があります。逆に、医療機関そのものが地域から撤退すれば、近隣薬局の需要が大きく減少する可能性があります。したがって、薬局需要を予測するには、居住人口と年齢構成に加えて、医療機関の立地や患者の受診行動まで分析する必要があります。

薬局経営には患者数が減っても削減しにくい費用がある

 薬局の将来を考えるうえで、経済的に重要なのが固定費の存在です。薬局には薬剤師や事務職員の人件費、建物の賃料や維持費、調剤設備、レセプトコンピューター、通信設備、医薬品在庫の管理費用、光熱費などが必要になります。これらの費用には処方箋枚数によって変化する部分もありますが、患者が減少しても直ちに同じ割合では減らせない部分があります。

 例えば、1か月の処方箋枚数が1,100枚から900枚に減少したとしても、店舗の賃料や必要な設備が同じであれば、その費用を処方箋の減少率に合わせて削減することはできません。薬剤師の勤務時間や事務職員の配置を調整できる場合もありますが、薬局として必要な業務を安全に行うための人員には一定の下限があります。

 薬局の薬剤師数については、取り扱う処方箋枚数などを基準とする配置規定があり、原則的な算定では前年の1日平均取扱処方箋数を40で除して端数を切り上げる仕組みが用いられます。ただし、処方箋の種類による調整規定や実際の勤務体制に関する要件もあり、単純に処方箋枚数だけで適切な人員配置が決まるわけではありません。

 薬局経営を単純な数理モデルで考えると、一定期間の営業利益は、処方箋1枚当たりの限界利益に処方箋枚数を掛けた金額から、固定費を差し引く形で近似できます。ここでいう限界利益とは、処方箋に対応する収入から医薬品仕入費などの変動費を差し引いたものであり、実際の調剤報酬や薬局の利益率とは異なります。

 仮に、ある薬局の処方箋1枚当たりの限界利益を2,500円、月間固定費を200万円とすると、月間1,100枚の処方箋を受け付けた場合の利益は75万円となります。しかし、処方箋枚数が30%減少して770枚になると、同じ条件では月間7万5,000円の赤字になります。これは実際の薬局の平均的な収益を示すものではなく、固定費の影響を理解するための仮想的な計算です。

 この例では、処方箋枚数の減少率は30%ですが、利益は黒字から赤字へ変化しています。需要の減少率と利益の減少率が一致しないことは、固定費を抱える事業に共通する経済的な性質です。ただし、赤字になった薬局が直ちに閉局するとは限らず、営業時間や人員配置の見直し、在宅業務の拡大、経営主体の変更、他店舗との連携などによって事業を継続できる場合もあります。

 したがって、人口減少地域の薬局経営を考える場合には、処方箋需要だけでなく、固定費、薬剤師の確保費用、調剤報酬、在宅業務などによる収入、経営形態、店舗間の業務分担などを総合的に評価する必要があります。地域に薬を必要とする住民が存在していることと、現在の店舗形態のままで採算が成立することは、別の問題なのです。

薬局の存続を左右するのは人口だけでなく、診療所との関係や後継者問題でもある

 地方の小規模薬局では、特定の病院や診療所との関係が経営に大きく影響することがあります。特に、一つの医療機関から発行される処方箋への依存度が高い薬局では、その医療機関の診療時間や診療科目、患者数、医師の引退、診療所の閉院などが薬局経営に直接影響する可能性があります。

 人口が一定数残っていても、近隣の診療所が閉院すれば、患者は別の医療機関を受診するようになります。それに伴って処方箋を持参する薬局も変わることがあり、地域全体の医薬品需要が大きく減少しなくても、特定の薬局の収入が減少することがあります。

 一方、複数の医療機関から処方箋を受け付けている薬局では、特定の診療所が閉院しても、その影響を分散できる可能性があります。ただし、こうした薬局でも薬剤師の確保や医薬品在庫の管理、在宅訪問への対応などに費用がかかるため、処方箋の受付先が多いことだけで長期的な経営安定が保証されるわけではありません。

 さらに、地方では後継者問題も無視できません。経営者が高齢になり、事業を引き継ぐ人がいなければ、一定の患者数が残っていても閉局を選択する可能性があります。反対に、個人経営の薬局が他の企業へ事業承継されることで、店舗そのものは維持される場合もあります。

 ここでは、企業の統合、店舗の統廃合、調剤業務の集約を区別することが重要です。薬局企業が買収や合併によって集約されても、地域の店舗数が直ちに減るとは限りません。また、一部の調剤業務を別の拠点に集めても、患者に対応する薬局が地域に残る場合があります。将来の薬局の変化を考える際には、経営主体が変わることと、地域住民が利用できる店舗がなくなることを混同してはいけません。

「近くに薬局がある」だけでは薬へのアクセスは保証されない

 地域住民にとって重要なのは、行政区域内に薬局が何店舗存在するかだけではありません。自宅から薬局までの距離、移動時間、利用できる交通手段、営業時間、必要な医薬品の在庫、薬剤師による対応など、複数の条件がそろって初めて、実際に薬を受け取ることができます。

 例えば、自宅から10キロメートル離れた場所に薬局が1店舗残っていたとしても、自動車を運転できる住民と、徒歩や公共交通に依存する高齢者では利用の難しさが異なります。距離だけで判断することも適切ではなく、道路事情や公共交通の運行本数、家族による送迎の有無などによって、実際の移動負担は大きく変わります。

 また、薬局が近くにあっても、診療所の受付終了時間と薬局の営業時間が合わなければ、当日中に薬を受け取れない場合があります。医薬品の在庫がなく、取り寄せに時間がかかる場合も同様です。特に、早急な服薬が必要な急性疾患と、比較的計画的に薬を受け取れる慢性疾患では、薬の受取時間が持つ意味が異なります。

 薬へのアクセスを科学的に分析するなら、少なくとも地理的アクセス、時間的アクセス、実効的アクセスの三つを区別する方法が考えられます。地理的アクセスは自宅や医療機関から薬局までの移動時間、時間的アクセスは処方箋の発行から薬を受け取るまでの時間、実効的アクセスは必要な薬を安全に、適切な時間内に受け取れたかという観点です。

 これらは本記事で問題を整理するための分析上の分類であり、統一された公的指標を示すものではありません。しかし、薬局数という単一の指標よりも、実際の住民生活に近い評価が可能になります。薬局が1店舗減ったから直ちに医療アクセスが失われるわけでもなければ、1店舗残っているから十分な医薬品供給体制が維持されているとも限りません。

オンライン服薬指導と配送は、薬局への移動を減らせるのか

 将来の地方薬局を考えるうえで、有力な選択肢の一つがオンライン服薬指導です。情報通信機器を利用して薬剤師が患者に服薬指導を行うことで、一定の条件の下では、患者が毎回薬局まで移動する負担を減らせる可能性があります。電子処方箋などの仕組みと組み合わせれば、処方情報のやり取りや薬の受取方法にも変化が生じると考えられます。

 ただし、オンライン服薬指導は、薬剤師による専門的な判断を不要にする仕組みではありません。薬剤師は患者の状態や医薬品の特性を踏まえ、オンラインで適切な指導が可能かを判断する必要があります。また、オンライン服薬指導では映像と音声による双方向のやり取りが基本となり、患者本人が必要な情報を理解できることも重要になります。

 地方の高齢者を考える場合には、スマートフォンや通信環境を利用できるかだけでなく、電子処方箋の利用、本人確認、通信機器の操作、支払いなどを円滑に行えるかという問題があります。高齢者の中にもデジタル機器を使いこなす人は多く、一律に利用が難しいと決めつけるべきではありませんが、操作に支援が必要な住民が存在することも想定しなければなりません。

 さらに、オンラインで服薬指導が完了しても、薬そのものは患者の手元に届ける必要があります。配送では、医薬品の品質を維持できるか、必要な温度管理が可能か、患者が確実に受領できるか、いつ届くかといった条件が重要になります。厳格な管理が必要な医薬品や、速やかな使用が必要な医薬品については、一般的な配送だけで対応できない場合もあります。

 特に、処方箋が発行された当日から服薬を開始する必要がある場合、配送によって患者の移動負担が減っても、薬の到着が遅れれば治療上の不利益につながる可能性があります。一方、症状が安定している慢性疾患では、適切な服薬管理と配送体制が確保されていれば、薬局への移動回数を減らすメリットが大きくなることも考えられます。

 オンライン服薬指導や配送は、すべての薬局への来店を代替する仕組みではなく、患者の状態や医薬品の特性に応じて選択できる手段を増やすものと考えるのが適切です。また、オンライン化しても薬剤師の専門的な業務そのものがなくなるわけではないため、薬剤師の地域偏在や人員不足が自動的に解消されるものでもありません。

在宅訪問は重要だが、人口密度の低い地域では移動時間が制約になる

 自宅で療養している患者に対して、薬剤師が訪問し、服薬状況や医薬品の管理状況を確認する仕組みも重要になります。特に、複数の医薬品を使用している患者、通院が難しい患者、服薬管理に支援が必要な患者などにとって、薬剤師が自宅で薬の使用状況を確認することには、単なる薬の受け渡しを超えた意味があります。

 しかし、在宅訪問を増やせば地方の薬局問題がすべて解決するわけではありません。人口密度が低く住宅が広範囲に分散する地域では、薬剤師が患者宅を訪問するための移動時間が長くなる場合があり、同じ勤務時間で対応できる患者数が制限されることがあります。

 薬剤師の勤務時間は、調剤、服薬指導、訪問、移動、記録、医師や他の医療職との連絡・調整などに配分されます。したがって、訪問先が離れている地域では、患者宅での指導時間だけでなく、往復の移動時間まで含めて業務量を評価しなければなりません。これは訪問看護や訪問介護などにも共通する、人口密度の低い地域特有の課題です。

 患者が薬局まで移動する代わりに薬剤師が患者宅へ移動するため、患者本人の負担が軽減されても、地域全体の移動に必要な時間や費用がなくなるわけではありません。在宅訪問を持続可能な形で実施するには、訪問経路の調整、他の医療・介護職との連携、適切な報酬、薬剤師の勤務体制などを総合的に考える必要があります。

 また、単に薬を自宅へ届ける配送と、薬剤師が患者宅で専門的な服薬管理を行う在宅訪問は、役割が異なります。地域の医薬品供給体制を考える際には、この二つを区別し、患者の状態に応じて必要なサービスを選択できるようにすることが重要です。

2026年の制度改正は、将来の薬局の経営形態を変える可能性がある

 薬局の将来を考える場合、人口や需要だけでなく、制度変更にも注目する必要があります。薬局は一般的な小売店舗とは異なり、薬剤師の配置、医薬品の管理、調剤業務、調剤報酬などについて法令や公的制度による規律を受けています。そのため、制度の変更によって、同じ患者数でも経営上の条件や実施できる業務が変わることがあります。

 2025年に成立した医薬品医療機器等法などの改正を受け、2026年6月には調剤業務の一部外部委託に関する省令が公布され、2027年5月20日に施行される予定となっています。この制度は、一定の条件の下で薬局が調剤業務の一部を他の薬局へ委託できるようにするもので、薬剤師が患者への説明や服薬管理などの対人業務に取り組みやすくすることも目的としています。

 ただし、調剤業務を無条件に外部委託できるわけではありません。当面の対象業務や委託先の範囲には制限が設けられており、患者への説明や同意、安全管理なども必要になります。制度が整備されたからといって、すべての小規模薬局が調剤設備や薬剤師の配置を大幅に削減できるわけではありません。

 それでも、従来は一つの薬局で行っていた業務の一部を他の薬局と分担できるようになれば、業務の効率化や薬剤師の働き方に変化が生じる可能性があります。地域内の複数薬局が役割を分担し、調剤業務の一部を集約しながら、患者に対応する窓口を維持するような仕組みも、制度上の制約や採算性を検証したうえで検討できるでしょう。

 さらに、2026年度の調剤報酬改定では、地域の医薬品供給拠点としての薬局の機能を評価する観点から、従来の地域支援体制加算が見直され、地域支援・医薬品供給対応体制加算が設けられています。薬局の収益は処方箋枚数だけでなく、こうした公的な報酬体系や施設基準によっても左右されます。

 30年という長期間を考えれば、薬局の制度や調剤技術、医療提供体制が今後も変化する可能性があります。現在の制度と経営構造が2056年までそのまま続くと仮定して薬局数を予測することは、現実的ではありません。

地域連携薬局の機能と、経営上の存続可能性は同じではない

 厚生労働省は、地域の医療機関や他の薬局と連携し、入退院時の情報共有や在宅医療などに対応する薬局の機能を評価するため、地域連携薬局の認定制度を設けています。この制度は、薬局を単に処方箋に基づいて薬を調剤する場所としてではなく、患者の継続的な薬物療法を支える地域医療の一部として位置付けるものです。

 人口減少地域では、複数の医療機関から処方箋を受け付け、在宅医療に対応し、必要に応じて他の薬局や医療・介護職と連携できる薬局が、地域にとって重要な役割を果たす可能性があります。特に、通院先が複数ある高齢者や、継続的な服薬管理が必要な患者にとって、医薬品に関する情報を整理し、関係者と共有できる機能には意味があります。

 しかし、地域医療への貢献度が高いことと、薬局の経営が安定していることは同じではありません。地域連携の機能を充実させるには、薬剤師の確保、研修、情報共有、在宅訪問、必要な医薬品の供給などに対応するための費用や人員が必要です。

 したがって、地域連携薬局として認定されていることだけを理由に、将来の存続可能性が高いと断定することはできません。薬局の社会的な必要性と、民間事業としての採算性を区別して評価することが重要です。

医薬品の供給能力は、薬局の店舗数とは別に考える必要がある

 薬局が存在し、薬剤師が勤務していても、処方された医薬品を必要なときに調達できなければ、患者への供給は完了しません。医薬品の安定供給は、薬局の立地や人員配置とは別の重要な条件です。

 医薬品の供給に制約が生じると、薬局では在庫の確認、卸売業者への発注、代替薬の検討、医療機関への問い合わせ、患者への説明など、通常より多くの業務が発生する場合があります。特定の医薬品が入手困難になれば、近隣の複数の薬局が同じ問題に直面することも考えられます。

 また、規模の小さい薬局では、あらゆる医薬品を常時在庫することは現実的ではありません。必要な薬を迅速に取り寄せられるか、他の薬局と連携できるか、卸売業者による配送網が維持されるかといった点も、地域の医薬品供給体制を左右します。

 今後、人口減少によって医薬品の配送先が減少したり、配送効率が低下したりする地域が生じれば、薬局そのものの経営状況とは別に、医薬品の物流が課題になる可能性もあります。ただし、将来の物流網の変化については、卸売業者の配送体制や制度変更などを調べなければ、地域ごとの影響を判断することはできません。

 このように、薬へのアクセスを考える場合には、薬局の店舗数、薬剤師の確保、医薬品の在庫・調達能力、配送網を一体として検討する必要があります。

30年後に残りやすい薬局と、経営が難しくなる薬局

 以上の条件を踏まえると、30年後の薬局の存続可能性は、現在の患者数だけでは判断できません。地域の複数の医療機関から処方箋を受け付け、薬剤師を安定的に確保し、在宅医療や他の薬局との連携にも対応できる薬局は、特定の医療機関への依存度が高い薬局よりも、需要変化への対応力を持つ可能性があります。

 ただし、そうした機能を備えるには相応の費用が必要であり、必ずしも経営上有利になるとは限りません。反対に、小規模な薬局であっても、建物を所有している、固定費が低い、地域住民との継続的な関係がある、近隣に代替薬局が少ない、他の薬局との業務分担ができるなどの条件によって、経営を維持できる場合があります。

 今後、経営が難しくなる可能性があるのは、地域人口や処方箋需要が減少し、特定の診療所への依存度が高く、薬剤師の採用が困難で、後継者も確保できないといった複数の不利な条件が重なる薬局でしょう。しかし、どの条件がどの程度閉局リスクを高めるかについては、個別薬局の経営情報や開局・閉局の履歴などを分析しなければ判断できません。

 実証的に分析するなら、地域人口の減少率、75歳以上人口の変化、処方箋枚数、薬剤師の確保状況、診療所への依存度、経営者の年齢、後継者の有無、経営形態、調剤報酬の変化などを用いて、薬局の閉局までの期間や存続状況を調べる方法が考えられます。

 もっとも、店舗が閉局した場合でも、近隣への移転、別企業への事業承継、複数店舗の統合などによって供給機能が維持されることがあります。そのため、閉局件数だけを調べるのではなく、閉局後に地域住民の薬へのアクセスがどのように変化したかまで検証する必要があります。

将来の医薬品供給は、広域的な連携が重要になる可能性がある

 人口が大きく減少した地域で、すべての薬局を現在と同じ店舗数、同じ営業時間で維持することは、経営面や人員確保の面から難しくなる場合があります。一方、薬局を人口の多い中心市街地へ集中させるだけでは、自動車を運転できない住民や移動に制約がある高齢者の負担が増える可能性があります。

 そこで検討する価値があるのは、一定規模の調剤拠点、地域に残る薬局、診療所との連携、在宅訪問、オンライン服薬指導、配送、地域交通を組み合わせる方法です。この場合、すべての地域に同じ規模の薬局を配置するのではなく、地域ごとの人口分布や医療需要に応じて、複数の供給手段を組み合わせることになります。

 ただし、広域的な連携を進めれば必ず効率化できるわけではありません。調剤業務を一部の拠点に集約すれば設備や在庫の管理を効率化できる可能性がありますが、拠点から各地域への配送距離が長くなれば、物流費や所要時間が増加する場合もあります。薬剤師が訪問する範囲を広げれば、移動時間が増えて対応できる患者数が減少する可能性もあります。

 したがって、地域の薬局配置を考える場合には、医療提供者側の経営効率だけでなく、患者の移動時間、家族の送迎負担、交通費、医薬品の配送費、薬を受け取るまでの時間、安全管理に必要な費用などを総合的に評価する必要があります。

 薬局を維持するために必要な費用と、薬局がなくなった場合に住民や地域社会が負担する費用は、必ずしも同じ主体が負担するものではありません。例えば、店舗を集約することで薬局側の費用が減少しても、患者の交通費や家族による送迎時間が増えれば、地域全体としての負担が十分に減少しない場合があります。

 これは民間事業としての採算性と、公共的な医療アクセスの確保を分けて考える必要があることを意味します。地域の薬局をどのような形で支えるべきかは、個別企業の経営判断だけでなく、地域医療政策や交通政策とも関係する問題です。

御宿町・いすみ市・勝浦市・大多喜町では何を調べるべきか

 この問題を千葉県外房地域で考える場合、御宿町、いすみ市、勝浦市、大多喜町などは、人口減少と医療アクセスの関係を検討する対象となります。ただし、現時点の人口規模や高齢化率だけで、どの市町の薬局が将来残りにくいと判断することはできません。実際の薬局配置、診療所との関係、患者の移動手段、処方箋需要などを確認する必要があります。

 まず、国立社会保障・人口問題研究所の市区町村別将来推計人口を利用し、2020年から2050年までの総人口、65歳以上人口、75歳以上人口の変化を比較することが考えられます。高齢化率の上昇だけではなく、高齢者人口の絶対数がどのように変化するかを確認することで、将来の医療需要をより適切に考察できます。

 次に、現在の薬局の所在地、営業時間、在宅訪問への対応状況、診療所や病院との位置関係、公共交通の運行状況などを把握する必要があります。市町村内の薬局数だけでなく、隣接自治体の薬局を利用できるかという点も重要です。行政区域の境界と住民の実際の生活圏が一致するとは限らないため、複数市町を一体の医療生活圏として分析する視点が求められます。

 特に有効なのは、現在存在する薬局が1店舗閉局した場合に、住民の移動時間がどれだけ変化するかを検証する方法です。道路網や公共交通を用いて、現在の最寄り薬局までの所要時間と、その薬局が利用できなくなった場合の代替薬局までの所要時間を比較すれば、地域の医薬品供給体制がどの程度脆弱なのかを具体的に評価できます。

 例えば、ある地区では最寄り薬局が閉局しても、数分程度の追加移動で別の薬局を利用できるかもしれません。一方、別の地区では、最寄り薬局が1店舗なくなるだけで、公共交通を利用した移動が大幅に難しくなる可能性があります。この違いは、単純な薬局数だけでは把握できません。

 将来の人口推計と現在の薬局配置を組み合わせれば、薬局へのアクセスが悪化した場合に影響を受ける可能性のある高齢者人口を推計することも考えられます。ただし、現状の薬局配置が2050年まで変わらないと仮定する場合や、特定の薬局の閉局を想定する場合には、それが実際の将来予測ではなく、条件付きのシナリオ分析であることを明示する必要があります。

 こうした分析によって、人口減少の進む地域で薬局が何店舗必要なのかという問いを、どの地区の住民が、どれだけの時間と負担で薬を受け取れるのかという、より具体的な問題へと発展させることができます。

2056年の薬局はどうなるのか~将来を三つのシナリオで考える

 30年後の薬局の姿を一つの結論に決めつけることは困難です。人口減少の程度、薬剤師の地域分布、診療所の存続、調剤技術、制度改正、配送体制などについて不確実性が大きいためです。そのため、将来を考える際には、条件の異なる複数のシナリオを設定する方が合理的です。

 第一は、地域の処方箋需要が比較的維持され、薬剤師も確保できる場合です。この場合、経営主体の変更や業務の効率化が進んだとしても、既存の薬局配置が比較的維持される可能性があります。全国の薬局数や薬局従事薬剤師数が近年増加している事実を踏まえると、人口減少によって必ず薬局が減少するという前提を置くべきではありません。

 第二は、人口や処方箋需要が減少する一方、薬局間の連携や調剤業務の効率化、オンライン服薬指導、配送などが普及する場合です。この場合、一部の店舗で統廃合や営業時間の見直しが進んでも、住民が薬を受け取るための手段を組み合わせることで、地域の医薬品供給機能を維持できる可能性があります。ただし、地域によっては患者の移動時間や薬の受取時間が増えることも考えられます。

 第三は、人口と医療需要の減少に加え、診療所の閉院、薬剤師の確保難、後継者不在などが重なる場合です。この場合、個別薬局の経営継続が難しくなり、地域の薬局数が減少する可能性があります。代替薬局までの距離が長く、公共交通や配送体制も十分でなければ、住民が必要な薬を受け取るまでの時間や負担が増えることが考えられます。

 ただし、これらのシナリオがどの程度の確率で実現するかは、現在示されている統計だけでは判断できません。特に2056年という長期の将来について、薬局数や閉局確率を具体的な数値で予測するには、個別薬局の開設・閉局履歴、経営情報、薬剤師の採用状況、地域の処方箋需要などを継続的に分析する必要があります。

 したがって、現時点で合理的にいえるのは、すべての地域で現在の薬局配置が維持されるとも、人口減少によって一律に薬局が減少するとも断定できないということです。将来の姿は地域ごとの条件と制度・技術の変化によって異なり、その影響を定期的に検証することが重要になります。

病院が残っていても、必要な薬を受け取れなければ医療アクセスは完結しない

 地方医療を考えるとき、病院数や医師数、診療科目、救急医療体制などは重要な指標です。しかし、住民の生活という観点からは、診察を受けられることだけでなく、その後に必要な治療を継続できることまで評価する必要があります。

 特に高齢者の場合、自宅から医療機関へ移動し、診察を受け、必要に応じて薬局を利用し、薬を受け取って帰宅するまでが一連の医療行動になります。その途中で薬局への移動が難しくなったり、必要な薬が当日中に受け取れなくなったりすれば、医療機関そのものが残っていても、患者の負担は増加する可能性があります。

 医療機関の集約が進む地域では、診療を受ける場所だけでなく、処方箋が発行される場所や薬局の立地にも変化が生じることがあります。医療提供者側の効率だけでなく、患者本人の移動時間、家族による送迎、交通費、待ち時間、配送による受取時間などまで含めて考えることが重要です。

 また、薬局の問題は高齢者だけに限りません。自動車を利用できない人、障害のある人、育児や介護のため長時間の外出が難しい人、公共交通が少ない地区に住む人などにとっても、薬局へのアクセスは生活に直結する問題です。

 地域医療の持続可能性を評価するなら、医療機関の存在と医薬品の供給体制を切り離さず、一連の医療サービスとして検討する必要があります。

地方の薬局で守るべきなのは、店舗数よりも薬へのアクセスである

 2056年の地方で、現在と同じ数の薬局が同じ場所で営業を続けているとは限りません。人口減少、処方箋需要の変化、薬剤師の地域偏在、後継者問題などによって、一部の地域では店舗の統廃合や営業時間の短縮が進む可能性があります。しかし、全国の薬局数や薬局従事薬剤師数は近年増加しており、人口減少だけを理由に、地方の薬局が一律に減少すると予測することも適切ではありません。

 さらに、調剤業務の一部外部委託、オンライン服薬指導、電子処方箋、在宅訪問、配送などの制度や技術が進展すれば、従来とは異なる方法で地域の医薬品供給機能を維持できる可能性もあります。一方で、薬剤師の確保、医薬品の安全管理、配送時間、通信機器の利用、運営費用などの制約があるため、こうした仕組みを導入すればすべての問題が解決するわけではありません。

 今後の地方では、薬局という店舗を維持するための条件と、住民が薬を受け取れる機能を維持するための条件を分けて考えることが重要になります。現在の店舗配置を維持することが合理的な地域もあれば、複数の薬局や医療機関が連携し、配送や在宅訪問などを組み合わせた方が、住民の負担を抑えられる地域もあるでしょう。

 その判断には、薬局数や人口の増減だけでなく、年齢別の医薬品需要、薬剤師の確保状況、薬局の経営条件、医薬品の調達能力、患者の移動時間などを総合的に分析する必要があります。特に人口減少地域では、行政区域内に薬局が何店舗あるかという評価から、必要な薬を安全に受け取るために住民がどれだけの時間と負担を要するかという評価へ、視点を広げることが求められます。

 30年後も現在と同じ薬局の店舗数や立地を維持できるかどうかは、現時点では分かりません。しかし、どのような条件が薬局の存続を難しくし、どのような仕組みが住民の負担を軽減できるのかについては、現在の統計や制度をもとに検証を進めることができます。

 人口減少社会で本当に守るべきなのは、現在と同じ店舗配置そのものではありません。住民が必要なときに、必要な医薬品を、安全に、適切な時間と無理のない負担で受け取れる地域の医薬品供給体制を維持することです。

 地方の薬局の将来は、単に店舗が増えるか減るかという問題ではなく、人口減少が進む社会で、必要な医療機能をどのような形で残していくのかという、地域全体の持続可能性に関わる問題なのです。

地域の課題を、自分の判断に置き換えて考える

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 高齢になって自分で病院へ通うことが難しくなっても、医師や看護師が自宅まで来てくれれば、住み慣れた地域で暮らし続けられる可能性は高まります。特に、人口減少と高齢化が進む地方では、通院手段を確保することが難しい住民もいるため、訪問診療や訪問看護は地域医療を維持するうえで重要な役割を担っています。

 しかし、在宅医療には見落とされやすい問題があります。訪問看護は、患者が医療機関へ移動しなくてよいサービスである一方、看護職員が患者の代わりに移動しなければならないサービスでもあるということです。人口が減少しても住宅や集落が広範囲に残れば、利用者の自宅を訪問するための移動距離や時間が、人口と同じ割合で減少するとは限りません。

 さらに、訪問看護ステーションが地域に存在していても、看護職員が不足したり、訪問対象地域が広すぎたりすれば、必要な頻度でサービスを受けられない可能性があります。事業所の所在地が近いことと、実際に訪問を引き受けてもらえることは、必ずしも同じではありません。

 この記事では、千葉県の外房地域、とりわけ勝浦市、いすみ市、御宿町、大多喜町などを念頭に、山武長生夷隅保健医療圏の公的統計、訪問看護事業所の運営実態、2050年までの将来人口推計を基に、人口減少地域で訪問看護を維持するための条件を考えます。

最初に結論~訪問看護がなくなるとは断定できないが、供給能力には注意が必要

 現時点の公的資料だけから、「2050年には外房地域で訪問看護が受けられなくなる」と断定することはできません。全国的には訪問看護ステーションが増加しており、在宅医療への需要に対応してサービスの供給基盤が拡大していることは確認できます。一方、全国の事業所数が増えているからといって、人口の少ない地域でも将来にわたり必要な訪問看護を確保できるとは限りません。

 厚生労働省の2024年「介護サービス施設・事業所調査」によると、同年10月1日時点の訪問看護ステーションは全国18,042事業所で、前年の16,423事業所から1,619事業所、9.9%増加しました。したがって、少なくともこの統計を見る限り、訪問看護ステーションが全国的に減少しているという認識は正しくありません。

 しかし、千葉県保健医療計画に掲載された山武長生夷隅保健医療圏のデータでは、65歳以上人口10万人当たりの訪問看護ステーション数が県平均を下回っています。また、全国の訪問看護ステーションには比較的小規模な事業所が多く、職員の退職や休職が訪問能力に大きく影響する可能性があります。

 重要なのは、事業所数そのものではなく、必要な医療処置に対応できる看護職員を確保し、移動時間や夜間対応を含めて、継続的に利用者の自宅を訪問できる体制があるかという点です。2050年の訪問看護を考えるには、人口の変化だけでなく、看護職員の確保、事業所の経営、利用者の居住分布、医療・介護サービスとの連携を一体として評価する必要があります。

訪問看護は高齢者の生活支援だけを目的とするサービスではない

 訪問看護は、主治医の指示に基づき、看護師などの専門職が利用者の自宅等を訪問し、病状や健康状態の観察、療養生活上の支援、医療処置、服薬管理、リハビリテーション、緊急時の対応、看取りへの支援などを行うサービスです。病院で行われる医療や看護のすべてを自宅へ移すものではありませんが、医療を必要とする人が地域で生活するための重要な機能を担っています。

 利用者は高齢者だけではなく、小児、難病患者、精神疾患のある人、退院後も継続的な医療管理を必要とする人など、幅広い年齢層に及びます。また、訪問看護には主として介護保険を利用する場合と医療保険を利用する場合があり、対象者や利用条件、訪問回数等の扱いが異なります。このため、65歳以上人口だけを基に将来の訪問看護需要を算定することは適切ではありません。

 在宅療養を支える際には、訪問看護師が本人の身体状態を確認するだけでなく、医師、薬剤師、介護支援専門員、訪問介護職員、リハビリテーション職などと情報を共有することも必要です。利用者の状態が不安定な場合には、訪問時の処置だけでなく、訪問と訪問の間に病状が変化した際の対応方法を整えておくことが重要になります。

 したがって、訪問看護は単純な訪問件数だけで評価できるサービスではありません。利用者の疾患や身体状態、必要な医療処置、訪問頻度、緊急対応の必要性によって、1人の利用者に必要な看護職員の時間と負担が大きく異なるからです。

全国では訪問看護ステーションが増えているが、地域ごとの供給能力は分からない

 2024年10月1日時点で全国18,042事業所となった訪問看護ステーションは、前年から9.9%増加しています。この増加は、訪問看護の供給基盤が全国的に拡大していることを示しており、訪問看護というサービスそのものが衰退していると評価する根拠にはなりません。

 ただし、全国の事業所数は、都市部と地方を合計した数字です。新規開設が特定の都市部に集中している場合、全国の事業所数が増えていても、人口減少地域の利用環境が同じように改善するとは限りません。また、事業所が新たに開設されても、十分な看護職員を確保できているか、必要な医療処置に対応できるか、利用者の自宅まで訪問できるかは別に確認する必要があります。

 全国の事業所数の増加と、個々の地域における訪問看護の利用可能性は、区別して考えなければなりません。事業所が増えたという統計から直ちに、看護師不足が解消した、利用者の待機がなくなった、夜間対応が充実したという結論を導くことはできないのです。

外房を含む山武長生夷隅地域の訪問看護体制はどうなっているのか

 千葉県の山武長生夷隅保健医療圏は、茂原市、東金市、勝浦市、山武市、いすみ市、大網白里市の6市と、九十九里町、芝山町、横芝光町、一宮町、睦沢町、長生村、白子町、長柄町、長南町、大多喜町、御宿町の11町村から構成されています。約1,162平方キロメートルの広い地域に、都市的な市街地、沿岸部の住宅地、農村集落、丘陵部の集落などが分布しており、人口や医療資源の配置には地域差があります。

 千葉県保健医療計画に掲載された2023年6月1日時点の訪問看護ステーション数は、この医療圏全体で39事業所でした。65歳以上人口10万人当たりでは25.8事業所となり、千葉県平均の35.5事業所を下回っています。県平均との差は9.7事業所で、県平均を基準とすると約27%少ない水準です。

 一方、同じ計画に掲載された総人口10万人当たりの訪問看護ステーション数は、山武長生夷隅保健医療圏、千葉県平均ともに9.8事業所でした。つまり、この地域は総人口に対して事業所が特に少ないという結果ではなく、高齢者人口を基準に比較すると県平均より少なくなるという特徴を持っています。高齢者の割合が高い地域では、総人口当たりの施設数だけでは在宅療養を必要とする住民に対する供給基盤を十分に評価できないことが分かります。

 ただし、65歳以上人口当たりの事業所数が少ないことは、訪問看護が実際に不足していることを直接証明するものではありません。利用者の年齢別受療状況、要介護度、職員数、訪問件数、新規利用者の受入状況などが分からなければ、需要に対して供給がどの程度不足しているかを判断することはできません。また、この39事業所は2023年時点の数字であり、2026年現在の事業所数を表しているわけでもありません。

 さらに、山武長生夷隅保健医療圏は広範囲に及ぶため、医療圏全体の平均値を勝浦市、いすみ市、御宿町、大多喜町へそのまま当てはめることも適切ではありません。個別の市町村で訪問看護が利用できるかを判断するには、実際に訪問可能な事業所の位置と訪問対象地域を調べる必要があります。

訪問看護ステーションは比較的小規模な事業所が多い

 訪問看護の供給能力を考える場合、事業所数だけでなく、そこで働いている看護職員の人数が重要になります。厚生労働省が掲載する2024年データを用いた調査報告書によると、訪問看護ステーション1事業所当たりの看護師・准看護師数は、常勤換算で全国平均5.7人、千葉県5.6人でした。千葉県と全国平均との差は小さいものの、訪問看護ステーションが一般的に大人数の看護師を配置する施設ではないことが分かります。

 ここでいう常勤換算は、職員の勤務時間を常勤職員の勤務時間に換算した人数であり、実際に雇用されている人数とは異なります。例えば、短時間勤務の職員を複数雇用していても、合計した勤務時間が常勤職員1人分に相当すれば、常勤換算では1人として扱われます。また、常勤換算人数が5.6人であることは、常に約6人の看護師が勤務し、全員が同時に訪問できることを意味しません。

 日本看護協会の調査を基にした厚生労働省資料では、調査に回答した町村部の訪問看護事業所148か所のうち、71か所、48.0%が看護職員5人未満でした。この数字は回答事業所の構成比であり、全国のすべての町村部や外房地域の実態を直接示すものではありません。しかし、小規模な事業所が訪問看護の供給を担っていることを考えるうえでは参考になります。

 小規模事業所の利点として、地域の利用者を継続的に把握し、医師や介護職との密接な連携を築きやすいことが考えられます。その一方で、勤務を交代できる職員が限られるため、休暇、研修、緊急訪問、夜間対応などが重なると、残った職員の負担が大きくなる可能性があります。したがって、小規模であること自体を問題とするのではなく、その規模で必要な訪問と職員の休息を両立できるかが重要です。

看護職員が1人減ることは、事業所の継続にも影響する

 仮に、同じ勤務時間の看護職員が20人いる事業所で1人退職した場合、単純な人数比では5%の減少です。一方、5人の事業所で1人退職すれば20%の減少となります。これは訪問能力の減少率を直接示す統計ではありませんが、職員数の少ない事業所ほど、1人の欠員が全体に占める割合が大きくなることを示しています。

 訪問看護ステーションには、制度上の人員配置基準もあります。介護保険制度における指定訪問看護ステーションでは、原則として保健師、看護師、准看護師を常勤換算で2.5人以上配置し、そのうち少なくとも1人は常勤であることが求められます。医療保険による指定訪問看護にも人員配置に関する基準があり、これらは最低限の運営体制を確保するためのものです。

 そのため、職員の退職や休職によって常勤換算人数が基準を下回れば、訪問枠が減少するだけでなく、事業所の指定や運営を継続するうえで制度上の問題が生じる可能性があります。もっとも、最低基準を満たしていることと、地域の訪問看護需要を十分に満たせることは同じではありません。基準を満たしていても、利用者数や必要な訪問頻度によっては職員が不足する場合があります。

 訪問看護師の確保を考える際には、単純な雇用人数だけでなく、勤務時間、専門的な対応能力、夜間待機の分担、管理者の確保、継続勤務の可能性などを合わせて評価する必要があります。特に人口減少地域では、職員を新たに採用すること自体が難しくなる可能性があるため、1人の退職が長期間補充できない問題にも注意が必要です。

事業所が増加する一方で、廃止や休止も発生している

 全国の訪問看護ステーション数は増加していますが、すべての事業所が安定的に存続しているわけではありません。厚生労働省が掲載した訪問看護事業所の事業継続に関する調査報告書には、全国訪問看護事業協会の集計に基づき、2024年度の新規開設、廃止、休止に関する数字が示されています。

 この調査では、2024年度の全国の新規開設数は2,487か所、廃止数は886か所、休止数は355か所でした。千葉県では新規開設102か所に対し、廃止50か所、休止8か所となっています。また、同報告書における休廃止率は全国6.4%、千葉県8.1%で、千葉県の方が高い結果でした。この休廃止率は、年度中の廃止・休止数の合計を翌年度4月1日時点の届出数で除したものであり、個々の事業所が1年間に廃止する確率や、長期的な生存確率を意味するものではありません。

 この調査と厚生労働省の「介護サービス施設・事業所調査」では、調査方法や基準日、集計対象が異なるため、両者の数値を直接足し引きして全国の純増数を求めることはできません。しかし、新規開設と同時に廃止・休止も発生しているという事実から、全国の事業所数が増加していても、現在の最寄り事業所が将来も存続するとは保証できないことが分かります。

 千葉県全体の休廃止率が全国を上回ることについても、それだけで外房地域の事業所が特に廃止されやすいとは判断できません。地域別の廃止・休止状況や事業所の規模、経営条件などを確認する必要があります。ただし、人口減少地域の在宅医療を考える場合、現在の事業所数だけを将来へ固定的に延長して考えることには限界があります。

訪問看護は患者が移動しない代わりに看護職員が移動する

 訪問看護の特徴は、看護職員が利用者の自宅へ出向くことです。病院や診療所であれば患者が医療機関へ移動しますが、訪問看護では医療従事者が利用者の居住場所を順番に回ります。このため、訪問看護師の勤務時間には、直接看護を提供する時間のほか、利用者宅までの移動、記録、関係機関との連絡、訪問予定の調整などが含まれます。

 利用者の自宅が近接していれば、比較的短い移動時間で複数の訪問を行うことができます。一方、訪問先が広い地域に分散していれば、同じ件数の訪問でも移動時間が長くなる可能性があります。看護職員の勤務時間が一定である場合、移動時間が長くなるほど、直接看護を提供できる時間や訪問可能件数が制約されるという関係が生じます。

 ただし、人口密度が低い地域であれば必ず移動時間が長いとは限りません。人口が少なくても利用者が中心集落にまとまって居住していれば移動効率が高い場合があり、反対に比較的人口の多い地域でも、道路の混雑や地理的な障害によって移動に時間を要する場合があります。実際の移動負担は、事業所と利用者宅の位置関係、道路網、訪問順序、訪問時間の指定、緊急訪問の発生状況などによって変わります。

 また、現在確認できる千葉県の公的資料だけでは、外房地域の訪問看護師が1日に何キロメートル移動し、勤務時間の何%を移動に費やしているかを示す統一的な実測値は確認できません。そのため、外房では都市部と比べて移動時間が何分長い、訪問能力が何%失われているといった数字を断定することは適切ではありません。

移動時間が増えると訪問能力はどの程度変わるのか

 移動時間と訪問能力の関係は、仮定を置いた単純な数理モデルで説明できます。訪問看護の供給能力を考える場合、まず看護職員が利用できる勤務時間を求め、そこから1件の訪問に必要な看護提供時間、移動時間、記録・連絡・調整時間を考慮する必要があります。

 概念的には、1日当たりの理論上の訪問可能件数は、訪問業務に使える勤務時間を、1件当たりに必要な看護提供時間、移動時間、記録・連携時間の合計で割ることで求められます。複数の職員がいる場合には、職員ごとの勤務時間や担当業務の違いも考慮する必要があります。

 例えば、実働8時間の訪問看護師が、1件当たり60分の看護を提供し、記録・連携に15分、移動に15分を要すると仮定します。この場合、1件に必要な時間は90分となり、8時間を480分として計算すると、理論上の訪問可能件数は480分÷90分で約5.33件です。

 同じ条件で移動時間だけが45分になると、1件当たりの必要時間は120分となり、理論上の訪問可能件数は480分÷120分で4件になります。したがって、この単純モデルでは、平均移動時間が15分から45分へ増加すると、訪問可能件数は約25%減少する計算になります。

 ただし、これは移動時間の影響を説明するための仮定計算であり、外房地域の実測値ではありません。実際には訪問件数を小数単位で分割できず、休憩、会議、研修、電話対応、緊急訪問、利用者ごとの訪問時間の違いなども存在します。移動順序を工夫すれば効率が改善する場合もあるため、現実の訪問能力を求めるには、より詳細な勤務実績と訪問記録が必要です。

 それでも、移動時間が増えることで一定の勤務時間内に提供できる看護の量が減少し得ることは、数理的に説明できます。これは訪問看護が都市部と地方で異なる運営条件に置かれている可能性を考えるうえで、重要な視点です。

人口が減少しても移動負担が同じ割合で減るとは限らない

 人口減少地域では、住民が減れば訪問看護の利用者も減少し、必要な看護職員も少なくて済むと考えられることがあります。実際に利用者数が減少すれば、訪問看護の総需要が減少する可能性はあります。しかし、利用者数の減少率と訪問に必要な労働時間の減少率が、必ず一致するわけではありません。

 例えば、人口が減少しても住民が同じ集落に集中して残る場合と、広い範囲の住宅に少人数ずつ残る場合では、必要な移動距離が異なります。後者では利用者数が減少しても、離れた集落に居住する利用者を訪問する必要があり、1件当たりの移動負担が増える可能性があります。

 ここには、人口減少地域の公共サービスに共通する問題があります。人口が減少しても道路、水道、集落、住宅などの管理対象が人口と同じ割合で減るとは限らないように、訪問看護でも利用者数の減少が移動距離の減少へ直結するとは限りません。人口が減ることによって需要の総量が減少する一方、利用者1人当たりのサービス提供に必要な労働時間が増える場合があるのです。

 もっとも、人口減少によって訪問看護の移動負担が必ず増えるというわけでもありません。利用者の居住地が集約され、事業所間の連携や訪問順序の最適化が進めば、少ない職員数でも効率的にサービスを提供できる可能性があります。問題は人口減少そのものではなく、人口と利用者の地理的分布、サービスの提供方法がどのように変化するかにあります。

2050年の山武長生夷隅地域では人口構造が大きく変わる

 国立社会保障・人口問題研究所が2023年に公表した「日本の地域別将来推計人口」は、2020年の国勢調査を基に2050年までの市区町村別人口を推計したものです。この推計を山武長生夷隅保健医療圏の17市町村で合計すると、2020年の総人口410,235人に対し、2050年は272,947人となり、約33.5%減少する見通しです。

 一方、75歳以上人口は2020年の74,080人から2030年には93,737人へ増加し、その後は減少傾向となるものの、2050年でも87,626人と推計されています。2050年の75歳以上人口は2020年より約18.3%多く、総人口が大きく減少する一方で、後期高齢者が地域人口に占める割合は高くなる計算です。

 ただし、これらは山武長生夷隅保健医療圏全体の合計値であり、すべての市町村で75歳以上人口が同じように増えることを意味しません。勝浦市、いすみ市、御宿町、大多喜町などの将来人口構造には違いがあり、75歳以上人口の実数が減少する自治体も考えられます。また、65歳以上人口全体も2050年まで一貫して増え続けるわけではありません。

 したがって、将来の訪問看護需要を考える際に「人口減少と高齢化が進むから利用者が増え続ける」と単純に表現するのは適切ではありません。2030年前後までの75歳以上人口の増加と、その後の人口構造の変化を分けて評価する必要があります。

 また、将来人口推計は出生、死亡、人口移動などについて一定の仮定を置いた結果であり、将来を確定的に予測するものではありません。さらに、人口推計から訪問看護利用者数が自動的に求まるわけではなく、疾病構造、要介護認定率、在宅療養を選択する割合、病院の機能、家族構成、医療保険と介護保険の制度なども需要を左右します。

訪問看護の需要と供給を別々に評価する必要がある

 2050年の訪問看護を評価するには、利用したい人が何人いるかという需要側と、実際にサービスを提供できるかという供給側を分けて考える必要があります。需要が増えても看護職員や事業所が増えれば利用環境は維持される可能性があり、反対に需要が減少しても、それ以上に供給能力が低下すれば利用しにくくなる可能性があります。

 例えば、ある地域で訪問看護の必要件数が現在より20%減少しても、看護職員の減少や移動負担の増加によって供給能力が30%減少すれば、需要に対する供給の余裕は小さくなります。反対に、利用者が減少するなかで職員数が維持され、訪問順序や業務分担の改善によって効率化が進めば、現在より利用しやすい体制となる場合も考えられます。

 このような関係を数理的に検証するには、年齢階級別の将来人口、疾病別の訪問看護利用率、利用者1人当たりの平均訪問回数、1件当たりの必要時間、看護職員の勤務時間などを組み合わせる必要があります。特に75~84歳と85歳以上では医療や介護の必要性が異なるため、75歳以上人口を一つの集団として扱うだけでは十分とは言えません。

 現時点で確認した公的資料からは、2050年に外房の各市町村で訪問看護利用者が何人となり、訪問看護師が何人必要となるかを直接示す公式推計は確認できません。そのため、この記事では具体的な将来不足人数を独自に算定しません。公的資料で確認できる人口構造の変化と、訪問看護の供給体制に関する既存の統計を基に、将来生じ得る制約を検討することにとどめます。

在宅医療を拡充しても医療従事者の仕事がなくなるわけではない

 高齢者が長期間入院するのではなく、必要な医療や介護を受けながら自宅などで生活することには、本人の希望を尊重し、地域での生活を維持するという重要な意味があります。しかし、入院患者が在宅療養へ移行すれば、それだけ医療従事者の仕事や医療費が減少するとは限りません。

 病院では複数の患者が一つの施設内に集まっているため、看護師や医師は同じ建物の中で患者を診察し、処置することができます。一方、在宅医療では患者がそれぞれの自宅で生活しているため、医師、訪問看護師、薬剤師、介護職員などが必要に応じて移動しなければなりません。さらに、訪問と訪問の間の見守りや緊急時の対応など、病院とは異なる支援体制も必要になります。

 在宅療養が入院より経済的であるかどうかは、患者の病状、必要な訪問頻度、移動時間、家族の介護負担、救急搬送や再入院の状況などによって異なります。そのため、在宅医療を拡充すれば、必ず医療・介護全体の費用が削減できるという前提を置くことは適切ではありません。

 千葉県も山武長生夷隅地域について、人口構造の変化に対応した在宅医療提供体制の整備を課題としています。在宅療養を支えるためには、医療機関の数だけでなく、患者の自宅を定期的に訪問できる職員と、緊急時に対応できる地域の連携体制が必要になります。

24時間対応を維持するには通常の訪問とは別の負担がある

 在宅療養中の病状悪化は、平日の昼間だけに発生するわけではありません。夜間に呼吸状態が悪化したり、点滴や医療機器に問題が起きたり、痛みが強くなったりする場合があります。特に医療依存度の高い利用者や自宅での看取りを希望する利用者では、通常の訪問時間外に相談や緊急対応が必要になることがあります。

 そのため、訪問看護ステーションの中には24時間対応体制を整えている事業所があります。千葉県の保健医療計画策定資料では、2023年4月時点で県内に24時間対応可能な訪問看護ステーションが544か所あるとされています。ただし、この数字は千葉県全体のものであり、山武長生夷隅地域に限定した施設数ではありません。

 また、24時間対応とは、看護職員が24時間常に事業所で待機し、連絡があれば直ちに利用者宅へ到着することを意味するものではありません。電話等による相談体制、緊急訪問の必要性を判断する仕組み、実際の訪問体制には違いがあり、利用者の状態や契約内容、事業所の対応能力によっても異なります。

 小規模な事業所では、夜間や休日の待機を担当できる職員が限られるため、通常勤務に加えて時間外対応の負担が集中する可能性があります。24時間対応を長期的に維持するには、職員の健康管理や休息を確保しながら、緊急時に必要な対応を継続できる体制が求められます。複数事業所による連携や医療機関との役割分担は、そのための選択肢になりますが、責任分担や情報共有の仕組みを整えることが前提となります。

大規模化すればよいとも、小規模事業所を各町に残せばよいとも言えない

 訪問看護事業所の経営を考える場合、一定の規模を持つことには利点があります。職員数が多ければ、休暇や研修時の交代、夜間・休日の待機、緊急訪問への対応などを複数の職員で分担しやすくなります。また、管理業務や教育体制についても、規模による効率化が期待できる場合があります。

 厚生労働省が掲載する調査資料でも、事業所の職員規模と収支状況には一定の関連が示されています。ただし、これは小規模事業所がすべて赤字であることや、事業所を大規模化すれば必ず利益率が改善することを意味しません。経営状況には利用者数、訪問頻度、人員配置、移動負担、建物費用、事業所の運営主体など、多くの条件が影響します。

 人口が少ない地域では、規模を維持するために広い地域から利用者を確保しようとすると、移動時間が長くなる可能性があります。反対に、各町へ小規模なステーションを分散して設置すれば利用者との距離を短くできる場合がありますが、それぞれの事業所が十分な職員数を維持できるとは限りません。

 このため、事業所を分散させれば距離の面で有利になる一方、職員の配置や運営上の余裕が小さくなる可能性があり、事業所を集約すれば職員の分担や管理を効率化できる一方、訪問距離が延びる可能性があります。どちらが合理的であるかは、利用者の居住分布、道路条件、訪問頻度、職員の配置状況によって異なります。

 重要なのは、行政区域ごとの事業所数をそろえることではなく、複数の市町村を含めた範囲で、必要な訪問看護を持続的に提供できる体制を設計することです。事業所の統合や連携を検討する場合にも、経営面の効率だけでなく、利用者宅までの移動時間や緊急時の対応能力を評価する必要があります。

情報通信技術で効率化できても、必要な訪問そのものはなくならない

 訪問看護では、ICT(Information and Communication Technology・情報通信技術)を利用することで、訪問記録の作成、医師や介護事業者との情報共有、訪問予定の管理、事業所間の連絡などを効率化できる可能性があります。利用者の居住場所や訪問時間を考慮して移動順序を調整することも、限られた職員の勤務時間を有効に使うための方法です。

 ただし、情報通信技術の導入によって、すべての訪問を遠隔化できるわけではありません。点滴や創傷処置などの医療行為、直接的な身体観察、住環境の確認、本人の身体状況に応じた療養支援などには、看護職員が現地へ出向く必要がある場合があります。

 オンライン診療についても、医師による診療の一部を遠隔化することはできますが、訪問看護が担うすべての業務を代替するものではありません。むしろ、オンライン診療、訪問看護、訪問診療、必要時の通院や入院を組み合わせることによって、限られた医療資源を有効に活用することが重要になります。

 情報通信技術には、連絡や記録に必要な時間を削減し、訪問計画の効率を改善する可能性があります。しかし、必要な医療行為と移動そのものを完全になくすことはできないため、人口減少地域の訪問看護を考える際には、技術による効率化と地理的条件の制約を分けて評価する必要があります。

高齢者の一人暮らしでは訪問看護以外の支援も重要になる

 高齢者が家族と同居している場合、服薬の確認、体調変化への気づき、医療機関への連絡、通院の付き添いなどを家族が担っていることがあります。一方、一人暮らしでは、そうした支援を家族から日常的に受けられるとは限りません。病気や身体機能の低下が進んだ場合には、本人だけで療養生活を維持することが難しくなる可能性があります。

 このような場合、訪問看護だけでなく、訪問診療、訪問介護、服薬支援、食事の確保、緊急通報、見守りなどを組み合わせる必要があります。訪問看護師が定期的に訪問していても、利用者の自宅に24時間滞在するわけではないため、訪問と訪問の間の生活をどう支えるかが重要になります。

 ただし、単身高齢者が増えれば訪問看護の利用者数が必ず増えるとは限りません。本人の健康状態や生活機能、利用可能な介護サービスなどによって必要な支援は異なります。重要なのは、一人暮らしという世帯構造の変化が、医療・介護サービスの組み合わせや緊急時の支援体制に影響する可能性があるということです。

 また、訪問看護以外のサービスについても、それぞれ人員や移動時間を必要とします。訪問介護、配食、見守りなどを増やす場合にも、実際にサービスを提供する人を確保できなければ、制度上のサービスが存在していても十分に利用できないという問題が生じます。

2050年の訪問看護を評価するには何を調べればよいのか

 今後、外房地域の訪問看護体制を具体的に評価するためには、事業所数に加えて、訪問を担当できる看護職員の常勤換算人数、訪問可能件数、訪問対象地域、利用者数、平均移動時間などを把握する必要があります。特に事業所ごとの新規利用者の受入状況や、希望する訪問頻度を確保できているかは、利用者の立場から見た供給能力を判断する重要な情報です。

 数理的には、地域全体で訪問業務に使える勤務時間を合計し、1件当たりの看護提供時間、移動時間、記録・連携時間を考慮することで、訪問可能件数の概算を求めることができます。ただし、この計算では看護職員の勤務時間と移動時間などの集計期間を統一し、固定的な管理業務と訪問1件ごとに必要な業務時間を二重に計上しないようにする必要があります。

 さらに、利用者が必要とする看護の内容によって対応できる職員は異なります。精神科訪問看護、小児への訪問看護、医療依存度の高い利用者への対応、看取り、リハビリテーションなどは、事業所ごとに提供体制が異なる場合があります。そのため、訪問可能件数を単純に合計するだけでなく、必要なサービスの種類ごとに供給能力を把握することが重要です。

 地理的な評価では、事業所と利用者宅の直線距離だけでなく、実際の道路を通った場合の移動時間が必要です。勝浦市、いすみ市、御宿町、大多喜町などでは、市街地、海岸部、内陸の集落によって道路条件や居住分布が異なるため、市町村の平均人口密度だけでは訪問効率を十分に評価できません。

 公的統計に加え、事業所への調査によって平均訪問件数、移動時間、受入制限の有無、夜間対応の負担、職員の採用状況などを把握できれば、人口減少地域で訪問看護がどの程度持続可能かを、より具体的に検証できると考えられます。

将来も訪問看護を維持しやすい地域の条件

 人口減少地域であっても、訪問看護が必ず維持できなくなるわけではありません。一定数の看護職員を継続的に確保し、利用者の居住分布に応じて訪問範囲を設定できれば、人口が少ない地域でもサービスを維持できる可能性があります。特に、事業所間で職員の応援や夜間対応について連携し、医師や介護事業者との情報共有を円滑に行える体制は、継続性を高める条件として考えられます。

 また、看護職員の確保については、新規採用だけでなく、育児や介護などで離職した看護職員の復職支援、短時間勤務の活用、職員教育、管理者の育成なども重要になります。ただし、複数の短時間勤務職員を確保できても、夜間や休日を含む必要な時間帯に対応できなければ、供給体制が十分であるとは限りません。

 逆に、利用者宅が広範囲に分散し、職員の採用が難しく、夜間対応を少人数で担当しなければならない地域では、継続的なサービス提供が難しくなる可能性があります。さらに、近隣の医療機関や介護事業所の縮小によって連携先が減少すれば、訪問看護ステーション単独では対応できない問題が増えることも考えられます。

 したがって、2050年の訪問看護を維持するためには、個々の事業所の努力だけに依存せず、複数市町村を含む地域単位で、人材確保、訪問範囲、緊急対応、医療機関との連携を検討する必要があります。訪問看護を地域の医療・介護体制の一部として位置づけることが重要です。

地方で在宅療養を考える人が確認しておきたいこと

 将来、外房などの地方で在宅療養を続けたいと考える場合には、近隣に訪問看護ステーションがあるかどうかだけでなく、自宅がその事業所の訪問対象地域に含まれているかを確認する必要があります。地図上で最も近い事業所であっても、訪問エリアや職員の配置状況によって新規利用を受け付けていない場合があります。

 また、必要な医療処置への対応、訪問可能な曜日と時間帯、夜間・休日の連絡体制、緊急訪問の方法、主治医との連携なども重要です。特に医療依存度が高い場合や自宅での看取りを希望する場合には、通常の定期訪問だけでなく、病状が悪化した際にどのような対応が可能かを具体的に確認しておく必要があります。

 さらに、訪問看護だけで生活を維持できるとは限らないため、訪問診療、訪問介護、薬局、食事の確保、緊急時の搬送先などを合わせて考える必要があります。家族が近くにいない場合には、本人の体調変化に誰が気づき、誰が医療機関へ連絡するのかという点も、在宅療養を継続するうえで重要な条件になります。

 ただし、現在利用できるサービスが2050年にも同じ事業所、同じ条件で提供されるという保証はありません。長期的な生活設計を考える際には、特定の事業所だけに依存せず、地域全体にどのような医療・介護の連携体制があるかを確認することが現実的です。

現実的な結論~必要なのは事業所数よりも持続可能な訪問能力

 全国では訪問看護ステーションが増加しており、2024年10月1日時点で18,042事業所となっています。このことから、訪問看護というサービス自体が全国的に縮小しているとは言えません。しかし、事業所数が増加していても、地域ごとの利用可能性や訪問能力が一様に改善しているとは限りません。

 外房を含む山武長生夷隅保健医療圏では、千葉県保健医療計画に掲載された2023年時点のデータで、65歳以上人口10万人当たりの訪問看護ステーション数が県平均を下回っています。一方、総人口10万人当たりでは県平均と同水準であるため、この数字だけを根拠に地域の訪問看護が不足していると断定することはできません。実際の供給能力を評価するには、看護職員数、訪問件数、利用者の受入状況、必要な医療処置への対応、移動時間などを確認する必要があります。

 2050年までの将来人口推計では、山武長生夷隅保健医療圏の総人口が大きく減少する一方、75歳以上人口は2020年を上回る水準にとどまると見込まれています。ただし、訪問看護の需要が将来にわたり増加し続けるとは限らず、年齢別人口や在宅療養率の変化を考慮した分析が必要です。

 訪問看護の持続可能性を左右するのは、需要の変化だけではありません。看護職員の確保が難しくなったり、事業所の廃止・休止が発生したり、利用者の居住地が広範囲に分散したりすれば、必要なサービスを提供できる範囲や頻度が制約される可能性があります。反対に、事業所間の連携、訪問計画の改善、人材確保などが進めば、人口減少地域でも供給体制を維持できる可能性があります。

 在宅医療は、患者が病院へ移動しなくても医療を受けられる仕組みですが、その代わりに医療従事者が患者の自宅まで移動する必要があります。人口が減少しても住宅や集落が広い範囲に残る地域では、利用者数の減少が必ずしも移動負担の減少へ直結しません。この地理的な条件は、情報通信技術の導入や事業所の統合だけで完全に解消できるものではありません。

 したがって、2050年の訪問看護を考えるうえで重要なのは、訪問看護ステーションを何か所確保できるかという施設数だけではなく、必要な技能を持つ看護職員を何人確保し、その職員が限られた勤務時間の中で、どの地域の利用者に、どの程度の頻度で訪問できるかという実質的な供給能力です。

 地域に訪問看護ステーションが存在することと、必要なときに必要な訪問看護を受けられることは同じではありません。今後の地域医療政策では、施設数だけでなく、人員配置、移動時間、緊急対応、事業所間の連携を含めて、実際に提供できる医療の量と質を評価していく必要があります。

 住み慣れた地域で最期まで暮らし続けられる社会を実現するためには、在宅医療の理念を掲げるだけでは十分ではありません。人口減少と高齢化が進む地域で、限られた看護職員によってどこまで持続可能な訪問体制を構築できるのか。その現実的な条件を検証し、地域ごとに必要な対策を考えることが、これからの在宅医療に求められているのではないでしょうか。

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 ※この記事は、当初公開した記事について、2026年10月1日に厚生労働省、千葉県、公立長生病院などの公表資料をあらためて確認し、外来医師偏在指標、救急医療体制、病床機能、公立長生病院の救急基幹センター承認取消しなどの最新情報を反映して加筆・修正したものです。

病院の数だけでは分からない「地域医療の強みと弱点」を生活者目線で検証

 茂原市と長生郡には病院や診療所があり、茂原市本納には公立長生病院、茂原市八千代には長生郡市夜間急病診療所があります。また、休日当番医や救急当番病院の仕組みも設けられているため、医療機関の数だけを見れば、地方部として一定の医療基盤がある地域と考えることができます。

 しかし、地域医療の実力は病院や診療所の数だけでは判断できません。夜間に子どもが発熱したとき、高齢者が転倒して骨折したとき、心筋梗塞や脳卒中が疑われるとき、高度ながん治療や心臓手術が必要になったとき、退院後に自宅療養へ移行するとき、あるいは高齢になって自動車を運転できなくなったときに、実際にどの医療機関へ、どの程度の時間で到達できるのかを見る必要があります。

 茂原市・長生郡の医療体制は、日常的な外来診療から一定範囲の入院・救急医療までを地域内で支える一方、重症救急、高度急性期医療、一部の専門医療については、東金市、市原市、千葉市など地域外との連携を前提としています。そのため、「病院があるか」ではなく、病気の重さに応じてどこまで地域内で完結でき、どの段階から地域外へ移動する必要があるのかという視点が重要になります。

 なお、本記事で使用する統計には「茂原市・長生郡だけの数字」と、「山武長生夷隅保健医療圏全体の数字」があります。山武長生夷隅保健医療圏には、茂原市・長生郡だけでなく、東金市、山武市、大網白里市、勝浦市、いすみ市、大多喜町、御宿町なども含まれるため、医療圏全体の統計をそのまま茂原市・長生郡の実態とみなすことはできません。本記事では、この違いを可能な限り明確に区別します。

先に結論~日常医療の基盤はあるが、高度医療まで地域内で完結する地域ではない

 茂原市・長生郡には、日常診療、初期救急、一定範囲の入院・手術を支える医療基盤があります。一方で、重症救急や高度専門医療まで地域内ですべて完結できる体制ではなく、東金、市原、千葉などの医療機関との広域的な役割分担が重要です。

 したがって、「長生地域には医療機関が少なく、病気になると何もできない」という評価は適切ではありませんが、「茂原市に複数の病院があるので、どのような病気でも地域内で治療できる」という評価も適切ではありません。実際の医療環境は、診療科、時間帯、患者の重症度、専門医の勤務状況、病床、救急受入状況、交通手段などによって大きく変わります。

 特に近年重要なのが、重症救急を地域内でどこまで維持できるかという問題です。公立長生病院は現在も救急病院等として位置付けられていますが、24時間体制で重症救急患者に対応する救急基幹センターについては、医師確保が困難であることなどを理由として指定辞退の申請が行われ、その後、承認取消しの手続きが進められました。この事実は、「救急病院が存在すること」と「24時間、高度な重症救急を地域内で完結できること」が同じではないことを示しています。

1.「茂原市・長生郡」といっても医療条件は同じではない

 長生地域は、茂原市のほか、一宮町、睦沢町、長生村、白子町、長柄町、長南町から構成されており、その中では茂原市が商業、行政、医療の中心として機能しています。そのため、同じ長生地域であっても、自宅の所在地によって医療機関へのアクセス条件は大きく異なります。

居住地域 医療面で考慮すべき特徴
茂原駅周辺 病院・診療所の選択肢が比較的多い
本納周辺 公立長生病院を利用しやすい
一宮町・長生村 茂原方面と地域内診療所を使い分けやすい
白子町 茂原方面への自動車移動の重要性が高い
睦沢町 茂原市・一宮町方面への移動も想定する必要がある
長柄町 茂原市に加えて市原方面も選択肢となり、塩田記念病院も所在する
長南町 茂原・市原方面への交通条件が重要になる

 この違いは医療機関の優劣を意味するものではありません。重要なのは、「地域内に病院がある」という行政区域上の情報と、自宅から実際の受診先まで何分かかるかという生活上の医療アクセスは別だという点です。特に高齢者、運転できない人、子育て世帯では、距離だけでなく、夜間にも移動できるか、家族が送迎できるか、公共交通機関が利用できるかまで考える必要があります。

2.地域医療の中心となる公立長生病院

 公立長生病院は茂原市本納にある公立病院で、病院概要では一般病床180床、そのうち30床が地域包括ケア病床とされています。内科、外科、産婦人科、整形外科、小児科、皮膚科、眼科、脳神経内科、耳鼻咽喉科、泌尿器科、脳神経外科、麻酔科、放射線科、リハビリテーション科など、地域病院として幅広い診療科を掲げています。

 地域包括ケア病床は、急性期治療が終了しても直ちに自宅へ戻ることが難しい患者について、在宅復帰へ向けた治療やリハビリテーションを行うための病床です。高齢者では、肺炎や骨折そのものが改善しても、歩行、食事、服薬、介護環境などが整わなければ退院できない場合があり、こうした急性期医療と在宅生活の中間を支える機能には大きな意味があります。

診療科があることと、いつでも診てもらえることは同じではない

 公立長生病院に多数の診療科が掲げられていても、すべての診療科で毎日、常勤医が診療し、夜間や休日まで同じ機能を提供しているわけではありません。地方の病院を評価するときには、診療科名だけでなく、常勤医か非常勤医か、診療曜日、予約の必要性、初診受入、手術や入院への対応、夜間休日の体制、休診時の紹介先まで確認する必要があります。

 また、「病床数」と「実際に常時稼働している病床数」も必ずしも同じではありません。病院の公称病床数だけから実際の入院受入能力を判断することはできず、医師・看護師などの人員配置や病棟運用まで含めて見る必要があります。

3.茂原市・長生郡には複数の救急病院等がある

 千葉県が2026年9月時点で公表している救急病院等一覧では、茂原市内では君塚病院、宍倉病院、菅原病院、山之内病院、公立長生病院が掲載されており、長生郡では長柄町の塩田記念病院が掲載されています。

医療機関 所在地
君塚病院 茂原市
宍倉病院 茂原市
菅原病院 茂原市
山之内病院 茂原市
公立長生病院 茂原市
塩田記念病院 長柄町

 ただし、「救急病院等」に認定されていることは、あらゆる症状の患者を24時間必ず受け入れられることを意味しません。実際の救急受入は、当直医の専門分野、病床の空き、手術室や検査部門の稼働状況、看護師などの勤務体制、患者の重症度、既に受け入れている患者数などによって変化します。

 したがって、救急車を呼べば必ず最寄りの病院へ搬送されるわけではありません。患者の状態と必要な専門医療、各病院の受入状況を踏まえて搬送先が決定され、場合によっては東金、市原、千葉など地域外へ搬送されます。

4.公立長生病院の救急基幹センター承認取消しが意味するもの

 長生地域の救急医療を考えるうえで重要なのが、公立長生病院の救急基幹センターをめぐる変化です。千葉県の審議資料によると、公立長生病院は2024年10月に救急基幹センターの指定辞退を申請し、その理由として、医師の働き方改革などを背景に、24時間体制で重症救急患者を診療するために必要な医師や、心筋梗塞、脳卒中、頭部外傷などに対応可能な医師を今後も配置し続けることが困難であることを挙げています。

 これは、公立長生病院が救急医療を行わなくなったという意味ではありません。同院は現在も救急病院等として位置付けられていますが、「一定範囲の救急患者を受け入れる病院」と「24時間、高度な重症救急を中心的に担う施設」は制度上も実態上も異なります。

 この変更は、長生地域の救急医療を評価する際に重要です。病院の施設数だけで判断するのではなく、心筋梗塞、脳卒中、重症外傷など時間依存性の高い病気について、どこまで地域内で対応でき、どの段階で東千葉メディカルセンターなどへ搬送するのかを見る必要があります。

5.夜間の発熱や腹痛はどこへ行けばよいのか

 茂原市八千代には長生郡市夜間急病診療所があり、内科と小児科の初期診療を担っています。案内上の受付時間は午後7時45分から午後10時45分で、診療終了後から翌朝にかけては救急当番病院を確認する仕組みとなっています。

 夜間急病診療所は、夜になって発熱した、子どもの咳が強くなった、腹痛が続いて翌朝まで待てるか判断しにくい、といった場合の入口として重要ですが、高度な検査、緊急手術、集中治療などを行う救命救急施設ではありません。

救急医療は段階を分けて考える

段階 主な対象 主な役割
初期救急 発熱、軽度の腹痛、軽症の小児急病など 夜間急病診療所、休日当番医
第二次救急 入院や手術が必要となる可能性がある患者 地域の救急病院等
第三次救急 生命に危険のある重篤患者 救命救急センター等

 長生郡市夜間急病診療所は主として初期救急を担い、茂原市や長生郡の救急病院等が一定範囲の入院・救急医療を担います。一方、重症心筋梗塞、重篤な脳卒中、多発外傷などについては、第三次救急を担う地域外の医療機関との連携が重要になります。

6.高度救急では東千葉メディカルセンターの役割が大きい

 山武長生夷隅保健医療圏では、東金市の東千葉メディカルセンターが救命救急センターとして高度な救急医療を担っています。また、2026年4月時点でも、同センターは山武長生夷隅保健医療圏の地域災害拠点病院に指定されています。

 したがって、茂原市・長生郡の医療は地域内だけで独立して成立しているのではなく、東金、市原、千葉などの医療資源を含めた広域的なネットワークとして理解する必要があります。

 広域連携そのものは医療制度上の欠点ではありません。すべての市町村に心臓外科、脳神経外科、高度ながん医療、集中治療などを備えた大病院を設置することは、人員面でも財政面でも現実的ではないため、地域病院と高度医療機関が役割分担することには合理性があります。

 しかし患者側から見れば、地域外受診には移動時間、家族の送迎、面会、駐車料金、退院後の通院などの負担が生じます。「県内に高度医療機関が存在すること」と「高齢者が無理なくそこへ通えること」は別の問題です。

7.外来医師偏在指標は82.9~ただし「医師不足率」ではない

 厚生労働省が公表した令和8年4月版の外来医師偏在指標では、山武長生夷隅医療圏は82.9となっています。以前の千葉県計画では85.9という値が使用されていましたが、現在の記事では最新値である82.9を用いる方が適切です。

 ただし、この数字を単純に「医師が17.1%不足している」などと解釈することはできません。外来医師偏在指標は人口だけでなく、医療需要、患者の流出入、医師の年齢や性別による勤務時間などを調整した相対的な指標であり、絶対的に何人の医師が不足しているかを直接示す数値ではありません。

 したがって科学的には、「山武長生夷隅医療圏は外来医師が特に多い圏域には該当せず、医師配置には制約がある」と評価するのが適切であり、「82.9だから医療崩壊している」といった結論を導くことはできません。

8.診療所は地域医療の重要な基盤だが、統計の基準年に注意が必要

 千葉県の保健医療計画などでは、山武長生夷隅医療圏について一般診療所263施設、診療所で診療に従事する医師253人、外来患者のうち診療所を受診する割合77.2%といった数値が示されています。しかし、これらは同じ時点の2026年実測値ではなく、施設数、医師数、患者数について異なる過去年の統計を基礎としているため、「2026年現在、診療所が263施設ある」と読むのは適切ではありません。

 それでも、この地域では診療所が高血圧、糖尿病などの慢性疾患や一般的な内科診療を支え、大病院への患者集中を防ぐ重要な役割を果たしているという構造自体は変わりません。一方で、内科診療所が複数存在しても、皮膚科、精神科、小児科、在宅医療など各分野の医療資源が均等に配置されているとは限りません。

 さらに、診療所医師の高齢化や後継者不足が進めば、一つの診療所の閉院が地域の医療アクセスに大きな影響を与える可能性があります。人口減少地域では、医療機関数だけでなく、今後10年、20年にわたって医療提供体制を維持できるかという持続可能性も評価する必要があります。

9.小児医療は「昼間の診療」と「夜間の入口」を分けて考える

 公立長生病院には小児科があり、長生郡市夜間急病診療所でも小児科の初期診療が行われています。そのため、「長生地域には小児医療がない」という評価は正しくありません。

 しかし、小児科が存在することと、24時間いつでも同じ水準の小児医療を受けられることは別です。夜間急病診療所終了後には当番病院などへの確認が必要となり、入院や専門治療が必要な小児患者については地域内で必ず完結するとは限りません。

 また、県の過去の調査では、地域医療機関が不足を感じる機能の一つとして小児医療が挙げられています。ただし、これは患者数と医師数を数理的に比較して算出した「不足率」ではなく、医療機関側の回答による不足感を表した調査であるため、客観的な供給不足量とは区別して扱う必要があります。

10.心臓病・脳卒中・がんでは地域外受診を想定しておく

 茂原市内でも循環器、脳神経、外科、画像診断などの医療は行われていますが、高度な心臓血管手術、専門的な脳卒中治療、高度ながん治療などでは、病状によって地域外の医療機関が選択される可能性があります。

 特に心筋梗塞や脳卒中では、医療機関の有無だけでなく、発症から診断・治療までの時間が重要です。したがって、高度医療へのアクセスを評価するときには、「高度医療機関が50キロ以内にある」といった単純な距離だけではなく、救急要請から現場到着、病院選定、搬送、治療開始までの時間を見る必要があります。

 地域外へ搬送された後にも、家族には面会や退院時の送迎、その後の定期通院などが生じます。60代の時点では自動車で問題なく通院できても、75歳、80歳になって配偶者も運転できなくなった場合には、同じ医療環境でも実質的な利用可能性が大きく低下します。

11.病床数は「総数」より機能を見る必要がある

 病床には、高度急性期、急性期、回復期、慢性期という異なる役割があり、単純に病床総数が多ければ十分とは言えません。

病床機能 主な役割
高度急性期 生命に関わる重症患者への高度治療
急性期 発症直後や手術後の治療
回復期 リハビリテーション、在宅復帰支援
慢性期 長期間の療養を必要とする患者への医療

 山武長生夷隅医療圏について、2025年の必要病床数として過去に示された数値は、高度急性期104床、急性期887床、回復期946床、慢性期994床でした。一方、千葉県が公表している2026年7月1日時点の予定病床機能は、高度急性期32床、急性期1,446床、回復期450床、慢性期1,133床です。

病床機能 2025年必要病床数 2026年7月予定 単純差
高度急性期 104 32 72床少ない
急性期 887 1,446 559床多い
回復期 946 450 496床少ない
慢性期 994 1,133 139床多い

 この表だけを見ると、高度急性期と回復期が少なく、急性期と慢性期が多い構造に見えます。ただし、2025年必要病床数と2026年の予定病床機能は算定方法や性質が異なるため、この差をそのまま「72床不足」「559床余っている」と断定することはできません。病床機能報告は医療機関側が報告する機能であり、必要病床数は将来需要を踏まえた政策上の推計だからです。

 それでも、高齢化が進む地域では、急性期治療そのものだけでなく、治療後のリハビリテーションや在宅復帰を支える回復期機能が重要になるという方向性は明確です。脳卒中や骨折では、命を救う急性期医療だけでなく、その後に歩行や食事能力を回復できるかが生活の質を大きく左右します。

12.在宅医療の需要は増える可能性が高い

 千葉県の過去の推計では、山武長生夷隅医療圏の在宅医療等の需要について、2013年を基準に2025年には46%、2035年には67%増加すると見込まれていました。2025年はすでに過ぎているため、現在の記事では「2025年に46%増と推計されていた」と表現し、実績値と将来推計を区別する必要があります。

 人口が減少する地域で在宅医療需要が増えることは矛盾ではありません。人口全体が減っても、医療や介護を必要とする後期高齢者の割合が上昇し、入院期間の短縮や在宅療養への移行が進めば、訪問診療、訪問看護、在宅リハビリテーションなどの需要は増える可能性があります。

 茂原市では訪問診療を中心に行う医療機関も活動しており、2025年の地域医療関係会議では、茂原すみれ訪問クリニックについて、開院後約3年間で自宅療養患者505人、施設療養患者27人に関わったことが報告されています。ただし、これは3年間の累積患者数であり、「同時に532人を診療できる」という意味でも、地域全体の在宅医療需要を満たしていることを意味する数字でもありません。

 在宅医療を評価する場合には、訪問診療を行う医師がいるかだけではなく、24時間連絡体制、訪問看護、薬剤師、ケアマネジャー、訪問介護、看取り、緊急時の入院先などを一体として見る必要があります。

13.自動車を運転できなくなると医療環境の評価が変わる

 茂原市・長生郡では、自動車を利用できる人と利用できない人とで、実際に利用できる医療機関の範囲が大きく変わります。自動車があれば複数の病院、診療所、薬局を使い分けやすくなりますが、免許返納後には、バス停まで歩けるか、診療時間とバス時刻が合うか、診察が長引いた場合に帰宅できるか、薬局まで移動できるかといった問題が生じます。

 ただし、「茂原市・長生郡は自動車依存が強い」という評価を科学的に立証するためには、病院までの自動車所要時間、公共交通利用時の所要時間、バス運行本数、タクシー料金、高齢者の免許保有率などのデータが必要です。現段階では生活実態から合理的に考えられる課題ではありますが、定量的な医療アクセス分析まで行われているわけではありません。

 今後、GIS(Geographic Information System・地理情報システム)を用いて各地域から主要病院までの30分・60分到達圏を分析すれば、茂原駅周辺、本納、一宮、白子、睦沢、長柄、長南などの医療アクセスの違いを、より客観的に比較することができます。

14.災害時には地域の病院そのものも被災する

 茂原市・長生郡では、河川洪水、内水氾濫、台風、長時間停電なども地域医療を考える際の重要な条件です。災害時には道路冠水によって救急車が通れなくなる可能性があり、停電や通信障害によって病院や在宅医療の機能が制限される場合もあります。

 特に透析、在宅酸素療法、人工呼吸器など継続的な電力や医療資材を必要とする人では、通常時の病院までの距離だけではなく、非常用電源、薬剤や医療材料の備蓄、代替受診先などを準備しておく必要があります。

 山武長生夷隅保健医療圏では、2026年4月時点でも東千葉メディカルセンターが地域災害拠点病院となっています。したがって、大規模災害時の医療も茂原市・長生郡だけで完結するのではなく、圏域全体の広域連携を前提としています。

15.「医療体制は十分か」を数理的に評価するには何が必要か

 「病院が6施設あるから十分」「医師偏在指標が低いから不十分」といった単純な判定は、科学的には適切ではありません。地域医療の十分性は、救急、小児、高度医療、回復期・在宅、交通アクセスなど複数の要素によって決まります。

 例えば、地域医療の総合評価を行う場合には、「救急対応能力」「小児医療」「高度医療へのアクセス」「回復期・在宅医療」「交通アクセス」という複数の項目をそれぞれ数値化し、重要度に応じて重みを付けて総合評価する方法が考えられます。

 仮に、救急対応能力をE、小児医療をP、高度医療へのアクセスをA、回復期・在宅医療をH、交通アクセスをTとすれば、総合指標Sは「E、P、A、H、Tの各評価値に、それぞれの重要度を掛けて合計する」という形で構成できます。ただし、どの項目をどの程度重視するかによって結果は変わるため、単一の点数だけで地域医療の良否を決めることはできません。

 実際に評価するためには、救急車の搬送時間、搬送困難事案件数、救急受入率、小児科医数、救命救急センターまでの時間、回復期病床の利用状況、訪問診療の供給量、30分・60分以内に病院へ到達できる人口割合などのデータが必要です。現時点の記事で確認できるのは主として「医療資源がどのように配置されているか」という構造であり、「実際にどれだけ迅速かつ適切に治療できているか」という結果まで完全に評価できるデータは不足しています。

 したがって、現在得られる資料から「茂原市・長生郡の医療は十分である」「不十分である」と二者択一で断定するのは適切ではありません。「日常医療の基盤は存在する一方、重症救急、高度専門医療、回復期、在宅医療、交通アクセスには制約があり、広域連携によって補っている」という評価が最も現実に近いと考えられます。

16.茂原市・長生郡の医療体制の強み

 この地域の第一の強みは、茂原市を中心として病院、診療所、公立病院が存在し、日常的な外来診療から一定範囲の入院・救急医療まで地域内で対応できることです。さらに、夜間急病診療所、休日当番医、救急病院等が用意されており、軽症患者が直ちに遠方の大病院へ向かわなければならない地域ではありません。

 第二の強みは、公立長生病院に地域包括ケア病床があり、急性期治療後の在宅復帰を支える機能を持っていることです。高齢化が進む地域では、救命医療だけではなく、退院後の生活へ戻す仕組みが重要になります。

 第三の強みは、東千葉メディカルセンターや市原・千葉方面の高度医療機関と連携できることです。すべての高度医療を茂原市内に設置することは現実的ではなく、広域連携を適切に機能させることには制度的な合理性があります。

17.茂原市・長生郡の医療体制の弱点

 最大の弱点は、病院の数と重症患者への対応能力が必ずしも一致しないことです。公立長生病院の救急基幹センター承認取消しは、医師確保が救急医療を維持するうえで現実的な制約となっていることを示しています。

 また、外来医師偏在指標は最新値で82.9であり、外来医師が豊富な圏域とは言えません。さらに、高度急性期や回復期については、政策上示された必要病床数と現在の病床機能構成との間に差があり、高齢化が進む中で、急性期治療後のリハビリテーションや在宅復帰をどのように支えるかが課題となります。

 加えて、医療機関が茂原市周辺に集中するため、郡部の住民にとっては交通手段が医療へのアクセスを左右します。現在自動車を運転できる人にとって問題が少なくても、高齢になり運転できなくなった後には、医療環境の実質的な評価が変わる可能性があります。

18.住民があらかじめ確認しておきたい医療の使い分け

状況 あらかじめ確認しておきたいこと
日常的な風邪・高血圧 かかりつけ診療所
夜間の軽症 長生郡市夜間急病診療所
休日の急病 休日当番医
外科的な急病 救急当番病院・消防への確認
生命に関わる状態 119番
心臓病・脳卒中 地域病院から高度医療機関への搬送体制
小児の夜間急病 夜間急病診療所、救急相談
在宅療養 訪問診療、訪問看護、緊急入院先
災害時 薬、医療機器電源、代替受診先

 胸の強い痛み、片側の手足の麻痺、言葉が出ない、激しい呼吸困難、意識障害など生命に関わる可能性のある症状がある場合には、自分で受診可能な病院を探し回るのではなく、119番通報を優先する必要があります。

19.移住や住宅購入前には「現在」ではなく「老後」の医療アクセスを見る

 茂原市・長生郡へ移住する場合には、住宅価格、買い物環境、自然環境だけでなく、医療アクセスを事前に確認しておくことが重要です。特に60代で移住する場合には、現在自動車で通院できるかよりも、75歳、80歳になったとき、あるいは夫婦の一方が運転できなくなったときに医療機関へどう通うかを考える必要があります。

 持病がある人は、現在の薬を継続処方できる医療機関、必要な検査設備、専門医の診療日、高度医療が必要になった場合の紹介先を確認する必要があります。子育て世帯では、小児科までの距離だけでなく、夜間・休日の入口、入院が必要になった場合の搬送先まで確認した方がよいでしょう。

 高齢夫婦の場合には、タクシー料金、公共交通、家族による送迎、訪問診療の対象地域、訪問看護、退院後の介護体制まで含めて考える必要があります。医療環境とは、病院までの直線距離ではなく、実際に医療を継続して利用できるかどうかだからです。

現実的な結論

 茂原市・長生郡には、公立長生病院、複数の救急病院等、診療所、夜間急病診療所などがあり、日常診療から一定範囲の入院・救急医療までを地域内で支える基盤があります。その意味では、医療資源がほとんど存在しない地域ではありません。

 一方で、公立長生病院の救急基幹センター承認取消しに象徴されるように、重症救急を24時間維持するための医師確保には現実的な制約があります。高度急性期医療、重症心疾患、脳卒中、高度ながん医療などでは、東金、市原、千葉など地域外の医療資源を利用することが前提となる場合があります。

 さらに、山武長生夷隅医療圏の外来医師偏在指標は82.9であり、外来医師が特に豊富な圏域とは言えません。病床機能についても、高度急性期や回復期をどのように確保するかが課題であり、今後は在宅医療や介護との連携も一層重要になります。

 ただし、これらの統計の多くは茂原市・長生郡だけを対象とした数字ではなく、東金、山武、いすみ、勝浦などを含む山武長生夷隅保健医療圏全体の数字です。そのため、医療圏平均だけから茂原市中心部や各町村の医療環境を断定することはできません。

 茂原市・長生郡の医療体制を最も現実的に表現するなら、「診療所で日常診療を受け、地域病院で検査・入院・一定範囲の救急医療を受け、重症時には東金、市原、千葉などの高度医療機関へつなぎ、治療後は回復期・在宅医療・介護へ戻す」という広域的な医療ネットワークです。

 今後必要なのは、単純に病院の数を増やすことではありません。限られた医師、看護師、病床、救急車、訪問診療、介護サービスをどのようにつなぎ、重症患者を速やかに適切な病院へ搬送し、治療後に地域生活へ戻せる仕組みを維持するかが重要です。

 そして住民側にとって特に重要なのは、この地域の医療体制が「自動車を運転できること」「家族が送迎できること」「必要に応じて地域外の病院へ移動できること」に支えられている部分があるという点です。現在の便利さだけでなく、10年後、20年後に自分や配偶者が運転できなくなった場合まで考えることが、移住、住宅購入、老後生活を判断するうえで重要になります。

主な確認資料

 厚生労働省「外来医師偏在指標(令和8年4月版)」、千葉県「救急病院等一覧」、千葉県「病床機能報告制度(令和7年)」、千葉県「災害拠点病院の指定について」、千葉県「公立長生病院の救急基幹センターの承認取り消しについて」、公立長生病院「病院概要」、千葉県保健医療計画および山武長生夷隅保健医療圏関係資料などを基礎資料とした。

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