地域分析記事

地域の暮らしと地域課題を数学とデータで考える

地方のスーパーが閉店すると、「ネットスーパーを利用すればよい」「移動販売が来ればよい」「車で隣町まで行けばよい」と考えられがちです。

しかし、実際の生活はそれほど単純ではありません。

食料品の買い物には、

店舗まで移動できること 商品を選べること 価格を負担できること 商品を持ち帰れること 注文や支払いができること 必要な日に商品を入手できること

まで含まれます。

スーパーが一軒なくなっても、別の方法でこれらの条件を満たせれば生活は続けられます。

反対に、ネットスーパーや移動販売というサービスが存在していても、利用できる曜日、配達区域、商品数、料金、予約方法などが生活条件に合わなければ、「買い物できる地域」とは言い切れません。

この記事では、御宿町、勝浦市、いすみ市など外房地域を中心に、スーパー撤退後の買い物を、移動販売、宅配、公共交通、自家用車、家族送迎などに分解して考えます。

最初に結論~問題は「スーパーがあるか」だけではない

結論からいえば、人口減少地域でスーパーが減った場合でも、買い物を続ける方法はあります。

しかし、

一つの代替手段だけで、スーパーが担っていた機能を完全に置き換えることは難しい

と考えた方が現実的です。

移動販売には移動しなくても商品を選べる利点があります。

宅配には重い商品を運ばなくてよい利点があります。

公共交通があれば店舗まで移動できます。

自動車なら時間や購入量の自由度が高くなります。

ところが、それぞれに弱点があります。

したがって人口減少地域で重要なのは、

「スーパーを一軒残せるか」

だけではなく、

住民が複数の方法を組み合わせて、生鮮食品や日用品を継続的に入手できる仕組みを残せるか

という問題です。

この記事では、この状態を分析するため、

買い物可能性 =店舗への移動可能性 +宅配利用可能性 +商品の選択可能性 +価格負担可能性 +注文・支払可能性

として考えます。

これは公式の指標ではなく、買い物環境を整理するための概念的な式です。

外房では自動車を使えるかどうかが大きい

外房の買い物問題を考えるうえで、最も重要な要素の一つが自動車です。

千葉県が高齢者について整理した資料では、地方部で日常の買い物に「自動車・バイクを自分で運転する」と回答した割合は59.9%、「家族・近所の車に同乗、送迎」が19.7%でした。

合わせると約8割に達します。

一方、バスは3.4%、電車は1.4%でした。これは外房だけの数字ではありませんが、千葉県地方部の買い物が自動車に強く依存していることを示しています。

つまり地方の買い物問題には、

スーパーまで何kmあるか

だけではなく、

その人が運転できるか

という条件が大きく影響します。

現在は問題なく10km先のスーパーへ行ける人でも、免許返納、病気、視力低下、身体機能の低下などによって運転できなくなれば、同じ家に住み続けていても買い物環境は突然変わります。

したがって、

自動車を所有している =将来も買い物に困らない

とは限りません。

外房では高齢化を無視できない

この問題が外房で重要なのは、高齢化がすでに進んでいるからです。

千葉県の2025年度の年齢別人口資料では、市町村別平均年齢が最も高いのは御宿町の61.1歳でした。勝浦市も58.2歳で県内でも高い水準です。

御宿町の2026年7月31日現在の人口は6,609人、3,631世帯です。

勝浦市は2026年6月末現在で人口14,678人、7,976世帯です。

さらに国立社会保障・人口問題研究所の2023年推計では、2020年から2050年にかけて、勝浦市の人口は16,927人から8,815人、いすみ市は35,544人から20,218人へ減少すると推計されています。

御宿町は6,874人から4,381人という推計です。いずれも2020年国勢調査を基準とした将来推計であり、実績値ではありません。

人口が減れば、小売店の商圏人口も小さくなります。

しかし問題は、

人口が半分になる =食料を買う必要性も半分になる

ということではありません。

一人一人には引き続き食料が必要です。

その一方で、一店舗あたりの顧客数や売上が減れば、店舗を維持する採算条件は厳しくなります。

ここに人口減少地域特有の矛盾があります。

移動販売は有力だが万能ではない

スーパー撤退後の方法として非常に重要なのが移動販売です。

いすみ市では、日常生活に必要な食料品や日用雑貨の買い物が困難な人を対象とした買い物支援を行っています。

2024年6月から千葉薬品の「ヤックス移動販売スーパーらくちん便」が月曜日から金曜日まで市内を巡回し、さらに2025年7月から「とくし丸」が週5日、市内を巡回しています。

移動販売の最大の特徴は、

人が店へ行くのではなく、店が人の近くまで来る

ことです。

これは身体的な移動が難しくなった高齢者には大きな意味があります。

商品を実際に見ながら選べることも、インターネット通販にはない利点です。

一方で、移動販売にも限界があります。

通常の大型スーパーと比べれば積載できる商品数には限界があります。

毎日いつでも購入できるわけではありません。

巡回ルートや時間に生活を合わせる必要があります。

さらに重要なのは事業の持続性です。

いすみ市では以前からNPO(Non-Profit Organization・非営利組織)による移動販売が行われていましたが、市の過去の計画資料には、利用者減少のため週5日5コースから週4日4コースへ変更した経緯も記録されています。

この事例が示すのは、

需要がある =事業が採算的に維持できる

ではないということです。

高齢者に必要なサービスほど、利用者が広い地域に少人数ずつ分散している可能性があります。

販売車が長距離を走っても、一か所当たりの売上が小さければ、燃料費、人件費、車両費などを回収することが難しくなります。

「移動スーパーが来れば解決」とは限らない

例えば移動販売車が週1回来る地域を考えてみます。

週1回でも、

米 調味料 野菜 肉 魚 牛乳 パン 日用品

などを計画的に購入できれば、かなりの部分を補うことができます。

しかし、

急に必要になった食品 買い忘れ 薬以外の日用品 大量購入 特殊な商品

まですべて対応できるとは限りません。

そこで実際には、

移動販売 +コンビニエンスストア +ドラッグストア +宅配 +家族送迎

などを組み合わせることになります。

重要なのは、一つ一つのサービスを見るのではなく、

一週間の生活に必要な食料・日用品を全部調達できるか

を見ることです。

宅配は「自宅まで届く」点では強い

宅配の大きな利点は、商品を自宅まで運んでもらえることです。

米、飲料、調味料など重量のある商品では特に有効です。

千葉県が過去に実施した買い物弱者対策の実証事業でも、利用者の70歳代以上が63%を占め、宅配を利用する理由として、車に乗れないことや重い商品を持ち帰れないことが挙げられていました。

つまり宅配は単なる便利なサービスではなく、

商品を運ぶ身体的負担を外部化する仕組み

でもあります。

ただし、宅配にも利用条件があります。

配達区域 最低注文額 送料 注文締切 配達曜日 支払方法 インターネット操作 電話注文の可否

などです。

そのため、

宅配サービスが地域に存在する =全住民が使える

ではありません。

特に高齢者の場合、スマートフォンやウェブサイトからの商品検索、会員登録、パスワード管理、決済方法などが利用上の障壁になる可能性があります。

ネットスーパーだけでは解決しない理由

人口減少地域の買い物問題では、「インターネットで注文すればよい」という意見もあります。

確かに、将来的には重要な手段です。

しかしネットスーパーを実際に利用するには、

配達対象地域である インターネットを利用できる 端末を操作できる 商品を画面から選べる 支払いができる 商品受取ができる

という条件が必要です。

そして人口密度が低い地域ほど、配送距離が長くなりやすくなります。

一軒の注文を届けるために長距離を走れば、物流費が増えます。

つまり人口減少地域では、

需要が小さいから宅配が必要になる一方で、

需要密度が低いから宅配の採算が悪くなる、

という矛盾が発生します。

公共交通でスーパーへ行く方法

もう一つの方法は、人を店まで運ぶことです。

いすみ市では市民乗合タクシーが運行されています。

2026年6月時点の制度では、事前予約によって運行区域内の自宅などから目的地まで移動でき、料金は大人一人1回300円です。月曜日から金曜日まで運行しています。複数の予約があれば乗り合わせになるため、通常のタクシーと同じではありません。

勝浦市でもデマンド交通などの施策が進められています。

御宿町では、勝浦市のデマンドタクシーを町内の共通乗降場所まで乗り入れる仕組みが導入され、買い物、医療機関、金融機関などへの移動可能範囲を広げています。

これは重要な方向です。

ただし、公共交通でスーパーへ行く場合には、

自宅 ↓ 乗車 ↓ スーパー ↓ 買い物 ↓ 待ち時間 ↓ 帰宅

という一連の時間を考える必要があります。

自家用車なら30分で終わる買い物が、予約や待ち時間を含めると数時間になる可能性があります。

したがって、

交通が存在する =買い物に実用的

とは限りません。

買い物では「運べる量」も重要

公共交通の問題として見落とされやすいのが購入量です。

例えば、

米5kg 牛乳2本 ペットボトル飲料 野菜 肉 魚 トイレットペーパー

を一度に購入すると、かなりの重量と容積になります。

健康な人が自家用車で買い物する場合にはほとんど問題になりません。

しかし、高齢者がバスや鉄道で持ち帰るとなると事情は変わります。

つまり交通政策を考える場合も、

「スーパーまで行けるか」

だけでなく、

買った商品を家まで持ち帰れるか

を考える必要があります。

この意味では、

人を店へ運ぶ仕組み

と、

商品を家へ運ぶ仕組み

は別の役割を持っています。

コンビニエンスストアやドラッグストアは代わりになるのか

スーパーがなくなっても、コンビニエンスストアやドラッグストアが残っていれば一定の商品を購入できます。

特に近年のドラッグストアは、食品を扱う店舗も多くなっています。

しかし、

スーパー コンビニエンスストア ドラッグストア

では、商品構成も価格体系も異なります。

弁当、飲料、菓子、冷凍食品などを確保できても、生鮮食品を十分に購入できるとは限りません。

したがって、

食品を売る店がある =通常の食生活を維持できる

とも限りません。

重要なのは店舗数ではなく、

必要な食品群を継続的に取得できるか

です。

家族送迎は無料ではない

地方では家族が車で買い物に連れて行くことも多くあります。

家族送迎は行政統計上「公共交通費」として現れません。

しかし実際には、

家族の時間 ガソリン代 車両維持費 待ち時間 仕事や家事の調整

が発生します。

例えば高齢の親を週1回スーパーへ連れて行くとして、往復と買い物に2時間かかれば、年間では、

2時間 × 52週 =104時間

になります。

これは分析のための単純計算ですが、約13日分の8時間労働に相当します。

したがって、

行政支出が発生していない =社会的費用がゼロ

ではありません。

買い物支援を考える際には、家族が無償で負担している時間も考える必要があります。

最も弱いのは「単一手段依存」の地域

買い物環境を考えるうえで危険なのは、一つの方法に依存することです。

例えば、

自動車だけ

移動販売だけ

家族送迎だけ

ネットスーパーだけ

という状態です。

一つが使えなくなると生活が急に成立しなくなるからです。

反対に、

週1~2回の移動販売 +宅配 +近隣の小売店 +デマンド交通

など複数の選択肢があれば、一つが使えなくなっても他の方法で補うことができます。

これは地域の買い物環境に「冗長性」を持たせる考え方です。

冗長性とは、ある手段が失われても別の手段で機能を維持できる状態です。

30年後に重要なのは「店舗数」より買い物機能

今後30年間の外房を考える場合、

スーパーを何店舗残すか

という発想だけでは十分ではないでしょう。

人口が大きく減る地域では、すべての店舗を現在と同じ形で維持することは難しくなる可能性があります。

その場合には、

大型店舗 移動販売 宅配 小型店舗 コンビニエンスストア ドラッグストア 公共交通

を一つの生活インフラとして考える必要があります。

例えば、一つの大型スーパーを維持できなくても、

地域拠点店舗 +移動販売 +宅配

によって食品アクセスを維持できる可能性があります。

逆に店舗だけ残っていても、自動車を運転できない高齢者がそこへ行けなければ、生活機能としては不十分です。

店を残す政策と買い物を残す政策は違う

ここで重要な区別があります。

スーパーを残すことと、住民の買い物を維持することは同じではありません。

スーパーへの補助によって店舗を残す方法もあります。

しかし利用者が減り続ければ、長期的な維持費は増える可能性があります。

一方で、店舗閉鎖をそのまま受け入れてしまえば、自動車を利用できない住民が生活できなくなる可能性があります。

そのため政策として考えるべきなのは、

どの店を残すか

だけではなく、

地域住民が食品へアクセスするための総費用をどう小さくするか

です。

行政負担 事業者負担 住民負担 家族負担 移動時間

を合わせて考える必要があります。

現実的には「人を運ぶ」と「商品を運ぶ」の併用になる

人口密度が下がっていく地域では、一つの方法ですべての住民を支えることは難しいでしょう。

比較的元気で移動できる人には、

デマンド交通 路線バス 家族送迎

などで店舗へ行く方法があります。

移動が難しい人には、

移動販売 宅配

が有効です。

つまり、

人を商品まで運ぶ

方法と、

商品を人まで運ぶ

方法を組み合わせることになります。

どちらが常に優れているという問題ではありません。

地域人口、住宅密度、利用人数、店舗距離によって効率は変わります。

成立しやすい地域

買い物支援が比較的成立しやすいのは、

一定数の利用者がいる 住宅がある程度まとまっている 既存スーパーを商品供給拠点として使える 移動販売と自治体が連携できる 宅配と公共交通を併用できる

といった地域です。

特に利用者がある程度まとまっていれば、一台の販売車や配送車が短時間で複数世帯を回ることができます。

成立しにくい地域

反対に難しいのは、

人口が非常に少ない 住宅が広範囲に分散している 道路距離が長い 利用者一人当たりの購入額が小さい 販売拠点となる店舗も遠い

といった地域です。

この場合、

需要はあるのに採算が取れない

という状態が起こります。

だからこそ、

「必要なら民間企業がやるはずだ」

という考え方だけでは解決できません。

買い物環境を見るチェックリスト

地方へ移住する場合や、高齢期の住まいを考える場合には、最寄りスーパーまでの距離だけを見るのではなく、次の項目を確認した方がよいでしょう。

・現在の最寄りスーパーまでの距離 ・自動車を運転できなくなった場合の移動方法 ・移動販売の有無 ・巡回曜日 ・宅配サービスの有無 ・配送料 ・最低注文額 ・電話注文が可能か ・インターネット注文だけか ・生鮮食品を購入できるか ・公共交通でスーパーへ行けるか ・帰宅便までの待ち時間 ・重い商品を持ち帰れるか ・家族送迎が必要か ・家族が遠方へ転居しても生活できるか

特に重要なのは、

「今、自動車を運転できる状態」ではなく、「自動車を運転できなくなった状態」で生活を想定すること

です。

外房の買い物問題から見えてくること

外房では人口減少と高齢化が同時に進んでいます。

人口が減れば、スーパーにとって商圏は縮小します。

しかし住民一人一人に必要な食料がなくなるわけではありません。

このため今後重要になるのは、

大型スーパーを今までと同じ形で残し続けること

だけではありません。

むしろ、

店舗 移動販売 宅配 公共交通 地域の小売店

を組み合わせ、

少ない人口でも食品へのアクセスを維持できる地域構造へ変えていくこと

ではないでしょうか。

現実的な結論

スーパーが撤退した地域でも、生活を続けること自体は可能です。

しかし、それには条件があります。

移動販売だけでもありません。

ネットスーパーだけでもありません。

公共交通だけでもありません。

家族送迎だけでもありません。

重要なのは、それらを組み合わせることです。

そして人口減少地域で問うべきなのは、

「スーパーが何軒あるか」

ではなく、

「自動車を運転できなくなった住民でも、必要な食品を適切な価格と負担で継続的に入手できるか」

です。

人口が減った地域では、店舗そのものをすべて維持することが難しくなる可能性があります。

しかし、

店舗が減ること =買い物機能まで失ってよい

ということではありません。

これからの地域政策では、

店を維持することから、買い物という生活機能を維持することへ

考え方を広げる必要があります。

そして30年後の外房で重要なのは、

「昔と同じ店舗網を残せたか」

ではなく、

少ない人口でも、必要な食品に誰もがアクセスできる仕組みを残せたか

ではないでしょうか。

地域の課題を、自分の判断に置き換えて考える

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過疎地域に路線バスの復活は必要か~

過疎地域の路線バスは、昭和後期から平成初期にかけて減便が進み、平成中期以降は路線そのものの廃止が目立つようになりました。

背景には、人口減少だけでなく、自家用車の普及、郊外型商業施設の増加、学校や病院の統廃合、運転士不足、燃料費・車両費の上昇、バス事業者の経営再編があります。

一方、今後の地方では、高齢者の免許返納、世帯の小規模化、医療・商業施設の集約、人手不足、観光客の移動、地域内消費の維持などを考えると、公共交通の重要性は再び高まる可能性があります。

ただし、昭和期と同じ大型バスを、同じ経路とダイヤで復活させればよいわけではありません。

必要なのは、

需要が集中する区間には、定時定路線の路線バスを再構築し、需要が薄い地区には、デマンド交通、乗合タクシー、スクールバス、医療・福祉輸送などを組み合わせること

です。

地方経済に必要なのは、過去の路線網の全面復活ではなく、生活圏に合わせた「効率的な路線バスの再設計」です。

最初に結論

過疎地域において、路線バスが今後の地方経済に必須になるかどうかは、次のように整理できます。

必須になる可能性が高い区間

  • 鉄道駅と中心市街地
  • 地域の中核病院
  • 高校や統合後の学校
  • スーパーや商業集積
  • 市役所・支所
  • 観光拠点
  • 人口が比較的集中する住宅地
  • 複数の集落から需要を集約できる道路

これらを結ぶ区間では、一定の運行頻度を持つ路線バスが、地域経済と住民生活を支える基幹交通になり得ます。

路線バスが適さない可能性が高い区間

  • 人口が極端に少ない集落
  • 利用時間が毎日変わる地域
  • 住宅が広く分散している地区
  • 1便当たりの利用者が1人未満になる区間
  • 道路幅が狭く、大型車両が非効率な地域
  • 通院日や買い物日だけ需要が発生する地区

これらでは、固定路線を毎日運行するよりも、予約制のデマンド交通や乗合タクシーの方が合理的です。

したがって、結論は、

地方に路線バスは必要だが、すべての旧路線を復活させる必要はない

となります。

路線バス利用者はどれほど減ったのか

日本の乗合バス輸送人員は、昭和43年度に約101億人でピークを迎えました。

その後は長期的な減少が続き、平成24年度には約41億人となっています。約44年間で、およそ60%減少した計算です。

一方、乗合バスの車両数は、昭和43年度の約6万4,700両から平成24年度の約5万9,000両への減少にとどまりました。

つまり、輸送人員が約60%減ったのに対し、車両数は約13%しか減っていません。

これは、1台当たりの輸送効率が大幅に低下したことを意味します。([国土交通省][1])

平成以降に限定しても、乗合バス輸送人員は、

  • 1990年度:約65億人
  • 2000年度:約48億人
  • 2010年度:約42億人

と減少しました。

1990年度から2010年度までの20年間で約35%減少しています。同じ時期、人口は約4%増加した一方、マイカー保有台数は約76%増えました。地方部ほど自家用車への依存が強く、公共交通の利用率が低下したことが示されています。([国土交通省][2])

直近では、2023年度の乗合バス輸送人員は約38億人です。

これは新型コロナウイルス感染症流行後の回復を含む数字ですが、昭和43年度のピークと比べると4割弱の水準です。([国土交通省][3])

昭和から平成初期~まず減便が進んだ理由

昭和後期から平成初期にかけては、路線の全面廃止よりも、まず便数削減や区間短縮が進みました。

その理由は、利用者減少に対して、事業者が段階的に供給量を調整したためです。

自家用車の普及

最大の要因はモータリゼーションです。

自動車が普及すると、住民は時刻表に合わせる必要がなくなり、自宅から目的地まで直接移動できるようになりました。

特に地方では、

  • 自宅からバス停まで遠い
  • バスの本数が少ない
  • 駅での乗り換えが必要
  • 帰宅時刻に合う便がない
  • 買い物荷物を持ち帰りにくい

という条件が重なり、自家用車の利便性が圧倒的に高くなりました。

郊外化

住宅、スーパー、病院、公共施設が郊外へ移転すると、従来の駅前や中心市街地を通るバス路線と、実際の移動需要が一致しなくなります。

旧来のバス路線は、

集落 →旧市街地 →駅

という構造で作られていました。

しかし、生活圏が、

住宅地 →郊外スーパー →郊外病院 →幹線道路沿いの店舗

へ変わると、既存路線では目的地へ直接行けなくなります。

利便性低下の連鎖

利用者が減ると、事業者は便数を減らします。

便数が減ると、待ち時間が長くなり、さらに利用者が減ります。

これを数式で表すと、

利用者減少 →便数削減 →平均待ち時間増加 →利便性低下 →さらなる利用者減少

という循環になります。

これを公共交通の「負の循環」と考えることができます。

例えば、等間隔で運行されるバスでは、利用者が時刻表を確認せずに来ると仮定した場合、平均待ち時間はおおむね次のようになります。

平均待ち時間 =運行間隔 ÷ 2

30分間隔なら平均待ち時間は約15分です。

1時間間隔なら約30分です。

2時間間隔なら約60分です。

1日数便まで減ると、利用者は時刻表に生活を合わせなければならず、通院や買い物の滞在時間も制約されます。

この段階まで便数が減ると、「バスはあるが実用的には使えない」という状態になります。

平成中期以降~路線撤退が目立つようになった理由

需要減少が限界を超えた

減便によって費用を削減しても、運転士、車両、営業所、整備設備、運行管理者などの最低限の費用は残ります。

そのため、一定水準を下回ると、減便だけでは赤字を解消できません。

路線収支は、概念的に次のように表せます。

路線収支 =運賃収入 +補助金 -運転士人件費 -燃料費 -車両費 -整備費 -運行管理費 -営業所費用 -その他の経費

運賃収入は、次のように分解できます。

運賃収入 =1便当たり利用者数 ×平均運賃 ×年間運行便数

例えば、平均運賃300円、年間3,000便を運行する路線を考えます。

1便当たり利用者が10人なら、

300円×10人×3,000便 =900万円

です。

1便当たり利用者が3人なら、

300円×3人×3,000便 =270万円

です。

運転士1人の人件費、車両費、燃料費、整備費を考えれば、270万円の運賃収入だけで年間運行費を賄うことは困難です。

規制緩和と撤退手続の変化

公共交通分野では、2000年から2002年にかけて、需給調整規制を廃止する規制緩和が行われました。

乗合バス事業でも、参入と退出に関する制度が変更され、競争促進と事業効率化が重視されるようになりました。([国土交通省][4])

ただし、平成中期以降の路線廃止を、規制緩和だけで説明するのは適切ではありません。

すでにその前から、利用者減少、赤字、減便は進んでいました。

規制緩和は、需要減少によって維持困難になった路線について、事業者が撤退を選択しやすくなった制度的要因の一つと位置づけるべきです。

路線廃止の規模

国土交通省資料では、2008年度から2022年度までに、全国で約2万キロメートルの路線バス路線が廃止されたとされています。([国土交通省 土地総合情報システム][5])

単純平均すると、

2万キロメートル ÷ 15年間 ≒年間1,330キロメートル

です。

ただし、この数字は廃止された区間の累計であり、同じ時期に新設・再編された路線を差し引いた純減とは限りません。

また、平成14年度から16年度頃には、年間1万7,000キロメートルを超える休廃止が報告された資料もありますが、この数字は当時の集計範囲や休止を含むため、近年の約2万キロメートルという累計値と単純比較できません。([国土交通省][6])

令和に入って撤退が加速した新しい理由

令和期の特徴は、利用者不足だけでなく、運転士不足によって、利用者がいても運行できない路線が増えたことです。

運転士不足

国土交通省は、バス・タクシー運転者の賃金水準の低さ、第二種運転免許取得者の減少、運転者の高齢化を、コロナ前から続く構造問題として挙げています。

関東運輸局の調査では、2018年時点で自動車運転職の有効求人倍率は全職業平均の約2倍であり、いわゆる「2024年問題」によって不足がさらに顕在化したと整理されています。([国土交通省 土地総合情報システム][7])

従来は、

利用者が少ない →赤字 →減便・撤退

という構造が中心でした。

現在は、

運転士が足りない →必要便数を運行できない →採算路線も減便 →利用者が離れる

という供給制約が加わっています。

乗合バス事業者の多くが赤字

2023年度には、国土交通省の調査対象となった乗合バス事業者の73.7%が赤字でした。

黒字事業者は26.3%にとどまります。([国土交通省][3])

調査対象は原則として保有車両30両以上の事業者であるため、すべての小規模事業者を含む数字ではありません。

それでも、路線バス事業全体の収益性が厳しいことを示しています。

今後、なぜ公共交通の必要性が高まるのか

高齢者の免許返納が増える

運転免許の返納件数は、制度開始以降増加し、令和元年には年間60万件を超えました。

今後、高齢者人口が増えれば、自家用車を運転できない住民の移動手段を確保する重要性はさらに高まります。([国土交通省][8])

ただし、高齢者人口が増えるだけでバス利用者が自動的に増えるわけではありません。

  • 家族送迎
  • 高齢者施設の送迎
  • 病院送迎
  • タクシー
  • 宅配
  • 移動販売

などに分散する可能性があります。

路線バスを使ってもらうには、病院、店舗、駅など、実際の目的地へ行ける路線設計が必要です。

病院・学校・スーパーが集約される

地方では、病院、学校、スーパー、行政施設などが減少し、中心地域へ集約される傾向があります。

病院数は全国的に減少しており、地方部ではその傾向が特に強いと国土交通省資料は指摘しています。公立学校も1990年度の約4万1,400校から、2023年度には約3万3,400校まで減少しました。([国土交通省][8])

施設が集約されると、住民の移動距離は長くなります。

同時に、目的地が少数の拠点へ集中するため、交通需要をまとめやすくなる面もあります。

例えば、複数の小規模病院へばらばらに移動するより、中核病院へ利用者が集中すれば、一定時刻にバスを運行する合理性が高まることがあります。

世帯内の送迎能力が低下する

地方では、公共交通がなくても、家族が自動車で送迎することで生活を維持してきました。

しかし、

  • 単身高齢者の増加
  • 高齢夫婦世帯の増加
  • 子どもの地域外居住
  • 共働き世帯の増加
  • 介護離職の回避
  • 家族自身の高齢化

によって、家族送迎を無制限に期待することは難しくなっています。

送迎には、燃料費だけでなく、家族の時間費用が発生します。

家族送迎の社会的費用 =燃料費 +車両費 +送迎者の時間価値 +予定変更による機会損失

例えば、往復1時間の送迎を週2回行うと、

1時間×週2回×52週 =年間104時間

です。

送迎者の時間価値を1時間1,500円と仮定すれば、

104時間×1,500円 =年間15万6,000円

となります。

これは家計の現金支出には表れにくいものの、地域全体では大きな労務負担です。

路線バスは地方経済にどのような効果を持つのか

地域内消費を維持する

移動できなければ、住民は地域内のスーパー、商店、飲食店、医療機関を利用できません。

公共交通は、それ自体が利益を生む産業であるだけでなく、地域内での消費を成立させる基盤です。

経済効果は、概念的に次のように考えられます。

公共交通の地域経済効果 =移動によって実現した消費 +通院・就業・通学継続の価値 +家族送迎負担の削減 +自動車保有負担の削減 +観光消費 -公共交通運行費用

運賃収入だけを見れば赤字でも、地域全体では便益が費用を上回る場合があります。

雇用へのアクセスを確保する

地方の人手不足は、求人がないことだけでなく、求人先まで移動できないことでも発生します。

高校生、若年者、外国人労働者、運転免許を持たない人が、工場、病院、介護施設、ホテル、スーパーへ通勤できなければ、地域内に求人があっても就業できません。

公共交通の不足は、

求人がある →しかし通勤できない →採用できない →事業縮小

という構造を生みます。

そのため、通勤時間帯の路線バスは、福祉政策だけでなく、労働供給政策として評価する必要があります。

観光消費を増やす

鉄道駅から観光地、宿泊施設、海岸、温泉、道の駅などへの二次交通がなければ、自動車を持たない観光客は訪問しにくくなります。

地方観光では、鉄道や高速バスで地域まで到達できても、最後の数キロメートルを移動できない問題があります。

ただし、観光客向けバスは季節変動が大きいため、住民路線と完全に分けるよりも、

  • 平日は通院・通学
  • 休日は観光
  • 繁忙期は増便

といった車両と運転士の共用が合理的です。

路線バスの採算を数理的に考える

収支均衡に必要な利用者数

1便当たりの必要利用者数は、次のように表せます。

必要利用者数 =1便当たり運行費用 ÷平均運賃

例えば、1便当たりの運行費用が1万2,000円、平均運賃が400円なら、

1万2,000円 ÷ 400円 =30人

です。

運賃収入だけで採算を取るには、1便平均30人が必要です。

しかし、地方路線で毎便30人を確保するのは容易ではありません。

補助金や他分野の負担を含める場合は、

必要利用者数 =(1便当たり運行費用-1便当たり公的負担) ÷平均運賃

となります。

1便当たり運行費用が1万2,000円、公的負担が8,000円なら、

(1万2,000円-8,000円)÷400円 =10人

です。

この場合、1便平均10人で運賃収入部分を賄えます。

乗車密度を見る必要がある

単純な利用者数だけでは、路線効率を正確に評価できません。

同じ10人でも、

  • 全員が始点から終点まで乗る
  • 途中で入れ替わる
  • 一部区間だけ利用する

では収入と混雑状況が異なります。

重要なのは、

輸送人キロ =利用者数×乗車距離

です。

また、供給量は、

座席キロ =座席数×運行距離

と表せます。

輸送効率は、

輸送効率 =輸送人キロ÷座席キロ

で評価できます。

40席のバスが20キロメートル走れば、

40席×20キロメートル =800座席キロ

です。

平均して5人が20キロメートル乗れば、

5人×20キロメートル =100人キロ

となり、

100÷800 =12.5%

です。

このような低い利用率が続くなら、小型バスや乗合タクシーへの変更が合理的です。

大型バスを復活させればよいわけではない

路線バスの復活という言葉から、40人から60人乗りの大型車を想定する必要はありません。

需要に応じて、

  • 大型バス
  • 中型バス
  • 小型バス
  • ワゴン車
  • 乗合タクシー

を使い分けるべきです。

車両を小さくすると、

  • 燃料費
  • 車両購入費
  • 整備費
  • 狭い道路への対応

で有利になる可能性があります。

一方、運転士1人が必要である点は変わりません。

そのため、車両を半分の大きさにしても、運行費が半分になるとは限りません。

地方バスの主要費用が運転士人件費である場合、車両小型化だけでは根本的な解決になりません。

効率的な路線バスの条件

幹・枝・葉に分ける

今後の地域交通では、すべての集落から中心地まで1本の固定路線で結ぶのではなく、交通網を三段階に分ける方法が合理的です。

幹の交通

  • 鉄道駅
  • 中心市街地
  • 中核病院
  • 高校
  • 大型商業施設
  • 観光拠点

を結ぶ定時定路線です。

一定の頻度と速達性を確保します。

枝の交通

複数の集落や住宅地を、幹線バスの乗り継ぎ拠点へ結びます。

小型バスやコミュニティバスが適しています。

葉の交通

住宅が分散した地区から、最寄りの停留所や生活拠点までを結びます。

デマンド交通、乗合タクシー、公共ライドシェアなどが候補です。

国土交通省も、基幹的な定時定路線と地域内交通を組み合わせる「幹・枝・葉」の考え方を示しています。([国土交通省][9])

ダイヤを目的地に合わせる

路線バスは、単に一定間隔で走らせればよいわけではありません。

地方では、需要が特定時刻に集中します。

  • 病院の受付開始前
  • 高校の始業前
  • スーパーの開店後
  • 鉄道の到着・出発時刻
  • 工場や介護施設の勤務交代
  • 市役所の開庁時間

これらに合わせてダイヤを設計する必要があります。

往路だけでなく復路を設計する

通院バスでよく起こる問題は、病院へ行く便はあっても、診察終了後に長時間待たなければ帰れないことです。

利用可能性は、往路だけでなく、

総所要時間 =往路時間 +待ち時間 +目的地滞在時間 +復路待ち時間 +復路時間

で評価すべきです。

自動車なら2時間で済む通院が、バスでは6時間かかるなら、形式上は利用可能でも、実用性は低いといえます。

デマンド交通だけで解決できるのか

デマンド交通は、予約に応じて運行経路を調整する交通です。

需要が薄い地域では有効ですが、万能ではありません。

デマンド交通が向く条件

  • 利用者が少ない
  • 利用時間が分散している
  • 集落が広く分散している
  • 定時定路線では空車が多い
  • 主な目的地が限定されている

向かない条件

  • 朝夕に利用者が集中する
  • 高校生や通勤者が毎日利用する
  • 鉄道接続を厳密に守る必要がある
  • 予約が同じ時間帯に集中する
  • 予約管理が複雑になる
  • 乗り合いによる迂回時間が長くなる

同じ時間帯に20人が移動するなら、複数台のデマンド車両より、1台の路線バスの方が効率的です。

したがって、需要が集中する幹線をデマンド交通へ全面転換すると、かえって運転士と車両が多く必要になる可能性があります。

スクールバス・病院送迎との統合

地方では、路線バスとは別に、

  • スクールバス
  • 病院送迎車
  • 高齢者施設送迎
  • 福祉バス
  • 企業送迎
  • 宿泊施設送迎

が運行されています。

これらが別々の車両、運転士、予算で動けば、地域全体として非効率になります。

例えば、午前中に空いているスクールバスを、通院や買い物に活用できれば、車両利用率を上げられます。

実際に国土交通省の調査では、過疎地域でスクールバスと路線バスを組み合わせる事例が検討されています。([国土交通省 土地総合情報システム][10])

ただし、統合には、

  • 道路運送法上の扱い
  • 車両保険
  • 児童の安全
  • 運行時刻
  • 個人情報
  • 運賃徴収
  • 委託契約

などの調整が必要です。

「空いている車両を使えばよい」というほど単純ではありません。

自動運転は解決策になるのか

自動運転は、将来的に運転士不足を緩和する可能性があります。

しかし、現時点で過疎地域のバス問題を全面的に解決するとは考えにくい状況です。

必要になるものは、

  • 自動運転車両
  • 道路側設備
  • 遠隔監視
  • 通信回線
  • 除雪・落下物対応
  • 事故時対応
  • 車内安全確認
  • 高齢者の乗降支援
  • システム保守

です。

運転士が不要になっても、監視員や運行管理者が必要になる場合があります。

したがって、自動運転は長期的な選択肢ですが、当面は、

  • 路線再編
  • ダイヤ改善
  • 共同運行
  • 小型化
  • 運転士待遇改善
  • 輸送資源統合

を先に進める必要があります。

補助金を入れれば維持できるのか

地方路線バスの多くは、公的支援なしでは維持できません。

しかし、赤字額をそのまま補填するだけでは、効率化の動機が弱くなる可能性があります。

評価すべき指標は、単なる収支率だけではありません。

  • 1便当たり利用者数
  • 1人当たり公費負担
  • 1乗車当たり公費負担
  • 1人キロ当たり公費負担
  • 通院・通学可能人口
  • 自動車を利用できない住民のカバー率
  • 家族送迎時間の削減
  • 地域内消費額
  • 就業機会の維持
  • 代替交通との費用比較

例えば、年間補助額が3,000万円で、年間利用者が3万人なら、

3,000万円÷3万人 =1乗車当たり1,000円

です。

利用者が1万人なら、

3,000万円÷1万人 =1乗車当たり3,000円

です。

この金額を、

  • タクシー助成
  • デマンド交通
  • 家族送迎支援
  • 移動販売
  • 訪問診療

などの代替策と比較する必要があります。

路線バス復活が成立しやすい条件

効率的な路線バスの復活は、次の条件で成立しやすくなります。

  1. 沿線に一定の人口が集中している
  2. 駅、病院、学校、商業施設を1本で結べる
  3. 通勤・通学需要が毎日発生する
  4. 鉄道との接続が良い
  5. 1便当たり一定数の利用者を確保できる
  6. 観光需要を組み合わせられる
  7. スクールバスや企業送迎を統合できる
  8. 行政区域を越えて広域運行できる
  9. 小型車両を使える
  10. 運転士を安定的に確保できる
  11. 利用実績に応じてダイヤを改善できる
  12. 住民が実際に利用する意思を持つ

特に重要なのは、自治体境界ではなく生活圏に沿って路線を作ることです。

住民が隣の市の病院やスーパーを利用しているなら、市町村内だけを循環するバスでは需要に合いません。

成立しにくい条件

次の条件が重なる場合、固定路線バスの復活は難しくなります。

  • 住宅が極端に分散している
  • 1便当たり利用者が1~2人
  • 目的地が複数方向に分かれる
  • 住民が自家用車利用を変えない
  • 運行本数が1日1~2便にとどまる
  • 鉄道や病院と接続しない
  • 行政区域内だけで完結させる
  • 無料または極端な低運賃にする
  • 実証運行後の財源がない
  • 運転士確保策がない
  • 利用実績を検証しない
  • 既存の送迎車両と重複する

この場合は、デマンド交通やタクシー助成を中心にした方が合理的です。

外房地域で考える場合

外房では、鉄道駅、病院、スーパー、行政施設、観光地が離れている地域が多く、自家用車への依存度が高くなります。

一方で、人口密度が低く、自治体ごとに小規模な交通を運行しても、十分な利用者を確保しにくい可能性があります。

外房で現実的なのは、例えば次のような構造です。

基幹路線

  • 茂原駅~長生郡内の主要拠点
  • 大原駅~いすみ市内の病院・商業施設
  • 勝浦駅~市内病院・住宅地
  • 御宿駅~住宅地・商業施設
  • 鴨川方面の中核医療機関への広域交通

支線

  • 各集落から鉄道駅
  • 各集落から地域拠点
  • 高齢者住宅地からスーパー
  • 学校統合後の通学路線

末端交通

  • デマンド交通
  • 乗合タクシー
  • 公共ライドシェア
  • 福祉輸送
  • 家族送迎支援

ただし、具体的な路線を決めるには、現在の乗降データ、人口分布、病院受診先、買い物先、鉄道時刻、既存送迎車両を確認する必要があります。

公開資料だけで、特定の路線が採算に合うと断定することはできません。

現実性の低い主張

以前の路線をそのまま復活させれば利用者が戻る

生活拠点が変わっているため、旧路線をそのまま戻しても需要に合わない可能性があります。

高齢者が増えるから利用者も増える

高齢者が家族送迎、施設送迎、宅配を使えば、バス需要は増えません。

無料にすれば利用者が増える

運賃が無料でも、目的地、時間、便数が合わなければ利用されません。

デマンド交通にすればすべて効率化できる

需要が集中する区間では、固定路線の方が効率的です。

小型車両にすれば赤字がなくなる

運転士人件費と運行管理費は残ります。

自動運転ですぐ解決できる

導入費、監視、保守、安全管理が必要です。

補助金を増やせば維持できる

運転士がいなければ、予算があっても運行できません。

自治体が行うべき分析

路線再編前に、最低限次のデータを集める必要があります。

  1. 停留所別乗降者数
  2. 便別利用者数
  3. 曜日・時間帯別利用者数
  4. 利用者の年齢と目的
  5. 病院・学校・スーパーへの移動需要
  6. 鉄道との接続状況
  7. 自動車を利用できない住民数
  8. 既存のスクールバス・福祉車両
  9. 1便当たり運行費用
  10. 1乗車当たり公費負担
  11. 運転士数と年齢構成
  12. 車両更新時期
  13. 廃止した場合の代替費用
  14. 家族送迎の時間負担
  15. 観光客の移動需要

路線バスは、運行したかどうかではなく、

住民が必要な時刻に、必要な場所へ移動できたか

で評価すべきです。

現実的な結論

過疎地域の路線バスは、昭和後期から平成初期にかけて、主に自家用車の普及と利用者減少によって減便されました。

平成中期以降は、低需要路線の採算悪化、規制制度の変化、自治体財政、事業者再編などが重なり、路線廃止が目立つようになりました。

令和期には、これに運転士不足という供給側の制約が加わっています。

今後、高齢者の免許返納、家族送迎能力の低下、病院・学校・スーパーの集約が進めば、地方の移動需要はなくなるのではなく、少数の拠点への移動として再編されます。

この需要を支えるため、一定の人口と目的地が集まる区間では、路線バスが地方経済に不可欠になる可能性があります。

ただし、必要なのは昭和型の路線網の復活ではありません。

  • 幹線は定時定路線
  • 支線は小型バス
  • 分散集落はデマンド交通
  • 通学・通院・福祉・観光輸送は共同化
  • 鉄道、病院、商業施設とダイヤを連動
  • 自治体境界を越えて生活圏単位で設計

という再構築が必要です。

地方経済にとって公共交通は、単なる赤字事業ではありません。

住民が買い物をし、病院へ通い、学校へ通い、仕事へ行き、観光客が地域内を移動するための経済基盤です。

一方で、利用者がほとんどいない路線を大型バスで維持することは、財政的にも人材面でも持続しません。

したがって、今後の課題は、

路線バスを残すか廃止するかではなく、どの区間を定時定路線として守り、どの区間を別の交通手段へ転換するか

を、実際の移動データと費用から判断することです。

効率的な路線バスの復活は、地方経済の再生に必要な条件の一つです。

しかし、それが有効なのは、路線、便数、車両、乗り継ぎ、他分野の送迎を一体で設計し直した場合に限られます。

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地方で自動車の運転をやめることは、単に買い物や外出の方法を変えることではありません。

病院へ行く方法そのものを、もう一度組み立て直すことでもあります。

茂原市、長生郡、いすみ市、勝浦市、大多喜町、御宿町などの外房地域では、鉄道、路線バス、自治体のコミュニティバス、デマンド交通、一般タクシー、高齢者向け送迎など、複数の移動手段が用意されています。

しかし、交通手段が存在することと、免許返納後も無理なく通院できることは同じではありません。

自宅からバス停まで歩けるのか、病院の予約時刻に間に合うのか、診察が長引いても帰りの便があるのか、市町村外の専門病院まで移動できるのかといった条件によって、実際の通院可能性は大きく変わります。

特に問題になるのは、月1回程度の近隣診療所への通院ではなく、複数の診療科を受診する場合や、市外の専門病院へ通う場合、週数回の透析やリハビリテーションが必要になった場合です。

本記事では、自治体を単純に順位付けするのではなく、茂原・長生・夷隅地域に共通する生活条件から、免許返納後の通院がどこまで可能なのかを検証します。

令和8年度とは、2026年4月1日から2027年3月31日までです。公共交通制度は年度途中に運行内容や利用条件が変更される可能性があるため、実際に利用するときは各自治体や交通事業者への確認が必要です。


最初に結論~月1回の近距離通院なら対応できても、頻回・広域通院では難しくなる

茂原・長生・夷隅地域では、免許を返納したからといって、直ちに通院できなくなるわけではありません。

自宅が駅やバス停に近く、通院先が同じ市町村内にあり、月1回程度の受診で、1人で乗り降りできるのであれば、バス、デマンド交通、タクシーを組み合わせて通院できる可能性があります。

一方で、次のような条件が重なると、公共交通だけで通院を続けることは難しくなります。

  • 自宅からバス停まで遠い
  • 坂道や段差が多い
  • 市町村外の病院へ通う
  • 診察終了時刻が読めない
  • 複数の交通機関を乗り継ぐ
  • 週1回以上の通院がある
  • 付き添いが必要である
  • 車椅子や歩行器を使用している
  • 認知機能に不安がある
  • 早朝や夕方以降の診療を受ける
  • 家族が遠方に住んでいる

したがって、免許返納後の通院可能性は、自治体に制度があるかどうかだけでは決まりません。

重要なのは、次の5点です。

  1. 自宅から医療機関までの距離
  2. 通院先が市町村内か市町村外か
  3. 通院頻度が月1回か週数回か
  4. 1人で交通機関を利用できるか
  5. タクシーや家族送迎の費用を負担できるか

この5条件のうち、複数に問題がある場合は、免許返納後も現在の住宅に住み続けられるかまで検討する必要があります。


1.茂原・長生・夷隅地域の医療は広域で支えられている

茂原市と長生郡、いすみ市、勝浦市、夷隅郡は、千葉県の山武長生夷隅保健医療圏に含まれます。

この医療圏では、地域内に診療所、一般病院、公立病院が配置されていますが、病気の種類や重症度によっては、東金市、市原市、千葉市、鴨川市などの医療機関へ移動する必要があります。

千葉県保健医療計画では、山武長生夷隅保健医療圏の外来患者について、圏域外への流出があることが示されています。また、診療所における外来医療の需要に対する医師数は、全国平均を下回る水準とされています。

この地域の医療は、一つの大病院ですべてを完結させる仕組みではありません。

おおむね、次のような役割分担になっています。

医療の段階 主な受診先
日常的な診療 近隣の診療所、かかりつけ医
検査・入院・一般的な手術 茂原市、長柄町、いすみ市、勝浦市などの地域病院
高度な専門医療 東金市、市原市、千葉市、鴨川市などの医療機関
退院後の療養 回復期病床、在宅医療、訪問看護、介護施設

この構造は、自動車を運転できるうちは大きな問題にならないことがあります。

必要な病院まで本人や家族が自動車で移動できるからです。

しかし、本人が免許を返納し、配偶者も運転できない場合、医療機関の選択肢は一気に狭くなります。

病院が地域内に存在していても、そこへ行く手段がなければ、生活者にとっては利用できない医療に近くなります。


2.「病院まで何キロメートルか」だけでは通院の難しさは分からない

免許返納後の通院を考えるとき、自宅と病院の直線距離だけでは十分ではありません。

実際には、次の4区間を分けて考える必要があります。

  1. 自宅から最寄りのバス停または駅まで
  2. バス停や駅から医療機関の最寄り地点まで
  3. 降車地点から病院の受付まで
  4. 診察終了後に同じ経路で帰宅できるか

例えば、自宅から病院まで5キロメートルしかなくても、最寄りのバス停まで1.5キロメートルあり、1日に数本しか運行していなければ、実用的な通院手段とはいえません。

反対に、病院まで15キロメートルあっても、自宅近くから予約制交通に乗車でき、病院付近まで直接行けるのであれば、比較的利用しやすいことがあります。

通院の難易度は、単純な距離ではなく、次の式に近い考え方で決まります。

通院負担=移動距離+待ち時間+乗り換え+歩行距離+費用+身体的負担

金銭的には安いバスでも、乗車前後に長く歩き、診察終了後に2時間待たなければならない場合、高齢者にとっては負担の大きい交通手段です。


3.月1回の近隣診療所なら比較的対応しやすい

免許返納後も比較的対応しやすいのは、月1回程度、近隣の内科や整形外科へ通うケースです。

例えば、次の条件を想定します。

  • 自宅から診療所まで5キロメートル
  • 通院は月1回
  • 診察は午前中
  • 1人で歩行、乗降できる
  • 予約制交通またはタクシーを利用できる

この条件であれば、年間の通院回数は12往復です。

タクシーを往復で利用したとしても、距離が短ければ年間数万円から十数万円程度で収まる可能性があります。

自治体のデマンド交通や高齢者向け送迎が利用できれば、さらに負担を抑えられる場合があります。

ただし、ここで注意したいのは、現在の通院回数だけを基準にしてはいけないことです。

60代後半では月1回の内科だけでも、75歳以降には次のように増える可能性があります。

  • 内科 月1回
  • 眼科 2~3か月に1回
  • 整形外科 月1~2回
  • 歯科 数か月に1回
  • 検査のための病院受診 年数回
  • 配偶者の付き添い 月1回程度

夫婦2人分を合計すると、年間の通院が30~50往復になることも珍しくありません。

月1回の通院が可能だからといって、老後を通して同じ交通手段で生活できるとは限りません。


4.市町村を越える専門外来から難易度が急に上がる

外房地域では、日常的な内科診療は近隣で受けられても、専門的な検査や治療では別の市町村へ行くことがあります。

想定される移動には、次のようなものがあります。

  • 長生郡から茂原市内の病院
  • 茂原市や長生郡から東金市の病院
  • 長柄町や長南町から市原市の病院
  • いすみ市や勝浦市から鴨川市の病院
  • 外房地域から千葉市内の専門病院

自治体のデマンド交通や福祉送迎は、市町村内の移動を主な対象としている場合があります。

そのため、自宅から最寄り駅までは自治体交通、駅から地域外の病院までは鉄道、病院の最寄り駅からは路線バスまたはタクシーというように、複数の交通手段を組み合わせる必要が出てきます。

この場合、問題になるのは運賃だけではありません。

  • 乗り換えに時間がかかる
  • 駅にエレベーターがない場合がある
  • 電車とバスの時刻が合わない
  • 診察終了時刻を予測できない
  • 帰りの予約制交通に間に合わない
  • 体調が悪い状態で長時間移動する
  • 家族の付き添いが必要になる

特に、検査や専門外来は午前中に予約されることがあります。

早朝に出発しなければならない場合、自治体の交通が運行を開始する前である可能性もあります。

このため、市町村外への通院では、公共交通が存在するかどうかではなく、予約時刻までに実際に到着できるかを確認しなければなりません。


5.コミュニティバスは安いが、診察時間に合わせにくい

茂原・長生・夷隅地域では、市民バス、町民バス、市内循環バスなどが運行されています。

茂原市は、市民バス「モバス」やデマンド交通を、交通空白地域などにおける高齢者等の生活交通として位置付けています。茂原市地域公共交通計画でも、高齢化や運転免許返納者の増加を背景として、公共交通の必要性が高まっていることが示されています。

また、いすみ市では、JR(Japan Railways・旅客鉄道会社)外房線、いすみ鉄道、いすみシャトルバス、市内循環バス、デマンド交通、タクシーなどが地域公共交通として位置付けられています。令和8年には地域公共交通計画の変更版が公表されています。

コミュニティバスの最大の利点は、一般タクシーより運賃が安いことです。

しかし、通院では次の問題があります。

診察時刻に合う便があるとは限らない

病院の予約が午前9時でも、最初の便では間に合わないことがあります。

反対に、午前10時に病院へ着いても、診察が午後までかかり、帰りの便まで長時間待つことがあります。

病院前に停車するとは限らない

路線が病院付近を通っていても、病院の入口まで距離がある場合があります。

高齢者にとっては、数百メートルの歩行でも負担になります。

毎日運行とは限らない

曜日限定、平日のみ、特定曜日のみの運行では、診療日と合わないことがあります。

乗り換えが必要になる

自宅近くのバスから駅へ行き、そこから鉄道、さらに別のバスへ乗り換える場合、身体的負担が大きくなります。

したがって、コミュニティバスは、運行経路と診察時刻が合う人には有効ですが、すべての通院を支える万能な手段ではありません。


6.デマンド交通は便利だが、市町村外まで行けるとは限らない

デマンド交通とは、利用者の予約に応じて運行する乗合型の交通です。

定時定路線型のバスより、自宅や指定乗降場所の近くから利用しやすい場合があります。

特に、バス停まで歩くことが難しい高齢者には、有効な交通手段です。

ただし、デマンド交通には次のような制限があります。

  • 事前登録が必要
  • 前日までの予約が必要
  • 予約が集中すると希望時刻に利用できない
  • 他の利用者との乗合になる
  • 市町村内だけの運行
  • 指定乗降場所だけで乗降
  • 早朝、夜間、休日は運行しない
  • 1人で乗降できることが利用条件
  • 車椅子に対応していない場合がある

勝浦市ではデマンドタクシーが運行され、高齢者タクシー利用料助成事業も地域公共交通計画に位置付けられています。また、令和8年度には、総野地区の一部で自家用有償旅客運送「ノッカルかつうら」の有償実証運行が行われています。

ただし、このような制度があるからといって、勝浦市内のすべての地域で同じ条件で利用できるわけではありません。

運行区域、利用対象、予約方法、目的地は制度ごとに異なります。

デマンド交通の評価では、次の4点を確認する必要があります。

  1. 自宅付近から乗れるか
  2. 通院先の病院まで直接行けるか
  3. 市町村外へ行けるか
  4. 診察後に帰りの便を確保できるか

特に、市町村内の指定施設までしか運行しない制度では、地域外の専門病院への通院には利用できません。


7.一般タクシーは最も確実だが、回数が増えると負担が大きい

免許返納後の通院手段として、最も柔軟なのは一般タクシーです。

自宅から病院まで直接移動でき、診察終了後にも呼ぶことができます。

乗り換えが不要で、歩行距離も抑えられます。

一方で、通院距離と回数が増えると費用が大きくなります。

以下は、制度や事業者ごとの実際の運賃ではなく、通院費の規模を考えるためのモデル試算です。

迎車料金、時間距離併用運賃、信号待ち、道路状況などによって、実際の料金は変わります。

距離別のモデル

片道距離 往復料金の仮定 月1回 月2回 年間
5キロメートル 4,000円 4,000円 8,000円 4万8,000~9万6,000円
10キロメートル 7,000円 7,000円 1万4,000円 8万4,000~16万8,000円
20キロメートル 1万3,000円 1万3,000円 2万6,000円 15万6,000~31万2,000円
40キロメートル 2万5,000円 2万5,000円 5万円 30万~60万円

※金額は比較用の仮定であり、令和8年度の特定タクシー事業者の料金を示すものではありません。

月1回であれば、年金収入や家計状況によっては負担できる可能性があります。

しかし、夫婦2人がそれぞれ月2回通院する場合、年間費用はさらに増えます。

片道10キロメートルの病院へ、夫婦それぞれ月2回通うと仮定します。

1万4,000円×月4回=月5万6,000円

年間では約67万2,000円です。

10年間では、料金が変わらないと仮定しても約672万円になります。

住宅費が安い地域へ移住しても、免許返納後のタクシー代によって、都市部との生活費差が縮小する可能性があります。


8.家族送迎は無料ではない

免許返納後の通院では、「家族に送ってもらえばよい」と考えられがちです。

しかし、家族送迎にも費用と負担があります。

金銭的な費用

  • ガソリン代
  • タイヤやオイルの消耗
  • 車両の減価
  • 駐車料金
  • 高速道路料金
  • 送迎のための迂回
  • 待機中の食事代など

時間的な費用

  • 自宅から迎えに行く時間
  • 病院まで送る時間
  • 診察中の待ち時間
  • 薬局での待ち時間
  • 帰宅の送迎
  • 仕事や家事の中断

例えば、片道30分の病院へ送迎し、診察と会計、薬局で3時間かかる場合、家族は4~5時間を拘束されます。

月2回であれば年間48~60時間程度、夫婦2人分や複数診療科を含めれば、年間100時間を超える可能性があります。

家族が会社員であれば、有給休暇や半日休暇を使うこともあります。

自営業者であれば、その時間に得られたはずの収入を失うことがあります。

したがって、家族送迎は、タクシーより現金支出が少なく見えても、実質的に無料ではありません。


9.透析、リハビリテーション、がん治療では公共交通だけでは難しい

免許返納後の通院で最も大きな問題になるのは、頻回通院です。

人工透析

一般的な血液透析では、週3回程度の通院が必要になることがあります。

年間では約156回、往復では312区間です。

仮に1往復5,000円のタクシーを使うとします。

5,000円×156回=年間78万円

10年間では780万円です。

1往復1万円であれば、年間156万円、10年間で1,560万円になります。

実際には、医療機関独自の送迎、自治体制度、介護サービスなどを利用できる場合がありますが、すべての患者が同じ条件で利用できるとは限りません。

リハビリテーション

骨折、脳卒中、整形外科手術後などでは、週1~3回の通院リハビリテーションが必要になることがあります。

通院そのものが身体的負担となり、送迎が確保できないために回数を減らすケースも考えられます。

がん治療

抗がん剤治療、放射線治療、定期検査では、一定期間、繰り返し病院へ通う必要があります。

治療後に倦怠感や吐き気が出る場合、本人だけで公共交通を使って帰宅することが難しくなることもあります。

眼科、歯科、整形外科

生命に直結する治療ではなくても、視力、歯、歩行能力を維持するために継続受診が必要です。

交通手段がないために受診を先延ばしにすると、生活機能の低下につながる可能性があります。

このように、免許返納後の医療問題は、救急車を呼ぶような重症時だけではありません。

日常的な通院を続けられるかどうかが、高齢期の健康状態を左右します。


10.鉄道駅に近ければ安心とは限らない

外房地域では、JR外房線やいすみ鉄道の駅に近い住宅は、自動車を使わない生活に有利に見えます。

確かに、茂原駅、大原駅、勝浦駅、御宿駅などの近くであれば、広域移動の選択肢は増えます。

しかし、駅に近いことと、病院に近いことは同じではありません。

次の条件を確認する必要があります。

  • 自宅から駅まで平坦か
  • 駅に階段や跨線橋があるか
  • 病院の最寄り駅からバスがあるか
  • バス停から病院まで歩けるか
  • 帰りの鉄道時刻までどれほど待つか
  • 通院時間帯に列車が運行しているか
  • 強風や大雨で運休した場合の代替手段があるか

駅から病院までタクシーを使う場合、自宅から駅までの交通費、鉄道運賃、駅から病院までのタクシー代が重なります。

その結果、自宅から病院まで直接タクシーを利用した場合と、大きな差が出ないこともあります。


11.自治体の支援制度は重要だが、単純比較はできない

茂原・長生・夷隅地域では、市民バス、町民バス、デマンド交通、高齢者タクシー助成、福祉タクシー、移動支援など、さまざまな制度があります。

しかし、これらを自治体別に単純比較することには注意が必要です。

制度ごとに、次の条件が異なるからです。

  • 全住民が対象か
  • 高齢者だけが対象か
  • 免許返納者が対象か
  • 障害者手帳が必要か
  • 所得制限があるか
  • 市町村内だけか
  • 町外病院にも行けるか
  • 1人で乗降できる必要があるか
  • 利用回数に上限があるか
  • 片道回数か往復回数か

例えば、高齢者向けの無料送迎であっても、市町村内だけの運行であれば、地域外の専門病院には利用できません。

反対に、利用料金がかかるデマンド交通でも、自宅付近から病院まで直接移動できるなら、実用性が高い場合があります。

したがって、制度の評価では、「無料か有料か」だけでなく、次の4項目を確認する必要があります。

確認項目 意味
対象者 自分が利用条件を満たすか
運行範囲 通院先まで行けるか
運行時間 予約時刻と帰宅時刻に合うか
利用回数 必要な通院回数を確保できるか

令和8年度には、いすみ市が変更後の地域公共交通計画を公表し、勝浦市では「ノッカルかつうら」の有償実証運行が進められています。こうした制度は地域交通を補う重要な取り組みですが、対象地域や運行条件を確認せずに「免許返納後も安心」と評価することはできません。


12.免許返納後の通院費を10年間で考える

通院交通費は、1回ごとでは小さく見えても、10年間では大きな金額になります。

以下は比較のためのモデルです。

ケース1~近隣診療所へ月1回

  • 1往復3,000円
  • 年12回
  • 年間3万6,000円
  • 10年間36万円

ケース2~地域病院へ月2回

  • 1往復7,000円
  • 年24回
  • 年間16万8,000円
  • 10年間168万円

ケース3~夫婦2人がそれぞれ月2回

  • 1往復7,000円
  • 年48回
  • 年間33万6,000円
  • 10年間336万円

ケース4~週1回の通院

  • 1往復7,000円
  • 年52回
  • 年間36万4,000円
  • 10年間364万円

ケース5~週3回の通院

  • 1往復7,000円
  • 年156回
  • 年間109万2,000円
  • 10年間1,092万円
ケース 年間交通費 10年間
月1回、近距離 3万6,000円 36万円
月2回、中距離 16万8,000円 168万円
夫婦各月2回 33万6,000円 336万円
週1回 36万4,000円 364万円
週3回 109万2,000円 1,092万円

※すべて比較用の仮定です。自治体助成、医療機関送迎、運賃改定、待機料金などは含めていません。

この比較から分かるのは、免許返納後の問題は、タクシーが高いか安いかという単純な話ではないということです。

通院頻度が低ければ、タクシーは自動車を保有するより合理的な場合があります。

しかし、週数回の通院では、一般タクシーだけで対応することが難しくなります。


13.自動車維持費とタクシー代は単純比較できない

免許返納を検討するとき、「自動車維持費よりタクシー代の方が安い」と説明されることがあります。

確かに、自動車には次の費用がかかります。

  • 車両購入費
  • 自動車税
  • 自動車重量税
  • 自賠責保険
  • 任意保険
  • 車検
  • 点検整備
  • タイヤ
  • バッテリー
  • 燃料費
  • 修理費
  • 駐車場代

年間の自動車保有費が40万~60万円程度であれば、月1~2回のタクシー通院だけなら、免許返納後の方が金銭的に安くなる可能性があります。

しかし、自動車は通院以外にも使用します。

  • 買い物
  • 金融機関
  • 市役所
  • 理美容
  • 墓参り
  • 家族訪問
  • 災害時の避難
  • 配偶者の通院
  • 急な体調不良

したがって、自動車費用と通院タクシー代だけを比較すると、生活全体の移動費を過小評価します。

免許返納後の家計を考える場合は、通院、買い物、行政手続き、日常外出を合計した年間交通費を試算する必要があります。


14.免許返納後も通院しやすい住宅の条件

外房地域で高齢期まで住み続けるには、住宅価格や敷地の広さだけでなく、医療交通の条件が重要です。

通院しやすい住宅

  • 診療所まで2~3キロメートル程度
  • バス停まで徒歩5~10分以内
  • 駅まで平坦に移動できる
  • タクシーを呼びやすい
  • デマンド交通の対象区域内
  • スーパーと病院が同じ方向にある
  • 坂道や階段が少ない
  • 家族が訪問しやすい
  • 地域病院まで30分以内
  • 将来売却しやすい

通院が難しくなりやすい住宅

  • 山間部や丘陵部の奥
  • 急坂がある
  • 最寄りバス停まで1キロメートル以上
  • バスが1日数本
  • タクシー営業所から遠い
  • 携帯電話の電波が不安定
  • 大雨や倒木で道路が寸断される
  • 病院まで市町村を越える必要がある
  • 家族が遠方に住んでいる
  • 夫婦とも運転できなくなった場合の代替手段がない

海が見える住宅や広い庭付き住宅に魅力を感じても、高齢期の通院を考えれば、駅、病院、スーパーに近い小規模な住宅の方が長く住み続けやすいことがあります。


15.免許返納前に一度、自動車を使わず通院してみる

免許返納を決める前に、実際に自動車を使わず病院へ行ってみる方法が有効です。

地図や時刻表だけでは、実際の負担は分かりません。

確認すること

  • 自宅からバス停まで何分かかるか
  • 雨の日でも歩けるか
  • 病院の予約時刻に間に合うか
  • 診察後に帰りの便があるか
  • 薬局まで移動できるか
  • 荷物を持って乗り降りできるか
  • 乗り換え時に座って待てるか
  • タクシーをすぐ呼べるか
  • 付き添いがなくても利用できるか
  • 1回の交通費はいくらか

夫婦の一方が運転を続ける場合でも、もう一方が単独で通院できるかを確認する必要があります。

運転する配偶者が病気になったり、先に免許を返納したりする可能性があるからです。


16.返納前に確認したい10項目

  1. かかりつけ医まで自動車以外で行けるか
  2. 地域病院までの移動手段があるか
  3. 市外の専門病院へ通えるか
  4. バス停まで安全に歩けるか
  5. 診察終了後の帰宅手段があるか
  6. デマンド交通の対象者と運行区域は何か
  7. タクシー助成を利用できるか
  8. 月何回まで利用できるか
  9. 家族送迎を何年間続けられるか
  10. 通院できなくなった場合に住み替えられるか

この10項目のうち、3項目以上に明確な答えがない場合は、返納後の交通計画が十分とはいえません。


現実的な結論~免許返納後も通院できるかは、自治体名より生活条件で決まる

茂原・長生・夷隅地域には、鉄道、路線バス、市民バス、町民バス、デマンド交通、一般タクシー、高齢者向け支援など、複数の移動手段があります。

そのため、免許返納後に一切通院できなくなる地域ではありません。

しかし、公共交通制度が存在するだけで、すべての住民が継続的に病院へ通えるわけでもありません。

月1回程度、近隣の診療所へ通うのであれば、デマンド交通、コミュニティバス、タクシーによって対応できる可能性があります。

一方、市町村外の専門病院、週1回以上のリハビリテーション、週3回程度の透析、治療後に体調が悪化する可能性があるがん治療などでは、公共交通だけで通院を続けることが難しくなります。

また、自治体の制度を単純に比較して、どこが優れているかを決めることも適切ではありません。

同じ自治体内でも、駅周辺と山間部、幹線道路沿いと丘陵住宅地では、通院条件が大きく異なるからです。

免許返納後の通院可能性を左右するのは、自治体名ではなく、次の条件です。

  • 自宅と病院の距離
  • バス停や駅までの歩行環境
  • 市町村外へ移動できるか
  • 通院頻度
  • 身体機能
  • 家族の支援
  • タクシー代を負担できるか
  • 将来の住み替えが可能か

外房地域で老後まで暮らすには、「今、自動車を運転できるか」ではなく、「運転できなくなった後も病院へ行けるか」を住宅選びの段階から考える必要があります。

自動車を手放す時期になってから交通手段を探すのでは遅い場合があります。

最も現実的なのは、元気なうちに自動車を使わない通院を一度試し、公共交通、タクシー、家族送迎を組み合わせた年間費用を計算しておくことです。

免許返納は、単に運転をやめる手続きではありません。

高齢期の医療、住宅、家計、家族関係をまとめて見直す生活設計の問題なのです。

地域の課題を、自分の判断に置き換えて考える

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