地方のスーパーが閉店すると、「ネットスーパーを利用すればよい」「移動販売が来ればよい」「車で隣町まで行けばよい」と考えられがちです。
しかし、実際の生活はそれほど単純ではありません。
食料品の買い物には、
店舗まで移動できること 商品を選べること 価格を負担できること 商品を持ち帰れること 注文や支払いができること 必要な日に商品を入手できること
まで含まれます。
スーパーが一軒なくなっても、別の方法でこれらの条件を満たせれば生活は続けられます。
反対に、ネットスーパーや移動販売というサービスが存在していても、利用できる曜日、配達区域、商品数、料金、予約方法などが生活条件に合わなければ、「買い物できる地域」とは言い切れません。
この記事では、御宿町、勝浦市、いすみ市など外房地域を中心に、スーパー撤退後の買い物を、移動販売、宅配、公共交通、自家用車、家族送迎などに分解して考えます。
最初に結論~問題は「スーパーがあるか」だけではない
結論からいえば、人口減少地域でスーパーが減った場合でも、買い物を続ける方法はあります。
しかし、
一つの代替手段だけで、スーパーが担っていた機能を完全に置き換えることは難しい
と考えた方が現実的です。
移動販売には移動しなくても商品を選べる利点があります。
宅配には重い商品を運ばなくてよい利点があります。
公共交通があれば店舗まで移動できます。
自動車なら時間や購入量の自由度が高くなります。
ところが、それぞれに弱点があります。
したがって人口減少地域で重要なのは、
「スーパーを一軒残せるか」
だけではなく、
住民が複数の方法を組み合わせて、生鮮食品や日用品を継続的に入手できる仕組みを残せるか
という問題です。
この記事では、この状態を分析するため、
買い物可能性 =店舗への移動可能性 +宅配利用可能性 +商品の選択可能性 +価格負担可能性 +注文・支払可能性
として考えます。
これは公式の指標ではなく、買い物環境を整理するための概念的な式です。
外房では自動車を使えるかどうかが大きい
外房の買い物問題を考えるうえで、最も重要な要素の一つが自動車です。
千葉県が高齢者について整理した資料では、地方部で日常の買い物に「自動車・バイクを自分で運転する」と回答した割合は59.9%、「家族・近所の車に同乗、送迎」が19.7%でした。
合わせると約8割に達します。
一方、バスは3.4%、電車は1.4%でした。これは外房だけの数字ではありませんが、千葉県地方部の買い物が自動車に強く依存していることを示しています。
つまり地方の買い物問題には、
スーパーまで何kmあるか
だけではなく、
その人が運転できるか
という条件が大きく影響します。
現在は問題なく10km先のスーパーへ行ける人でも、免許返納、病気、視力低下、身体機能の低下などによって運転できなくなれば、同じ家に住み続けていても買い物環境は突然変わります。
したがって、
自動車を所有している =将来も買い物に困らない
とは限りません。
外房では高齢化を無視できない
この問題が外房で重要なのは、高齢化がすでに進んでいるからです。
千葉県の2025年度の年齢別人口資料では、市町村別平均年齢が最も高いのは御宿町の61.1歳でした。勝浦市も58.2歳で県内でも高い水準です。
御宿町の2026年7月31日現在の人口は6,609人、3,631世帯です。
勝浦市は2026年6月末現在で人口14,678人、7,976世帯です。
さらに国立社会保障・人口問題研究所の2023年推計では、2020年から2050年にかけて、勝浦市の人口は16,927人から8,815人、いすみ市は35,544人から20,218人へ減少すると推計されています。
御宿町は6,874人から4,381人という推計です。いずれも2020年国勢調査を基準とした将来推計であり、実績値ではありません。
人口が減れば、小売店の商圏人口も小さくなります。
しかし問題は、
人口が半分になる =食料を買う必要性も半分になる
ということではありません。
一人一人には引き続き食料が必要です。
その一方で、一店舗あたりの顧客数や売上が減れば、店舗を維持する採算条件は厳しくなります。
ここに人口減少地域特有の矛盾があります。
移動販売は有力だが万能ではない
スーパー撤退後の方法として非常に重要なのが移動販売です。
いすみ市では、日常生活に必要な食料品や日用雑貨の買い物が困難な人を対象とした買い物支援を行っています。
2024年6月から千葉薬品の「ヤックス移動販売スーパーらくちん便」が月曜日から金曜日まで市内を巡回し、さらに2025年7月から「とくし丸」が週5日、市内を巡回しています。
移動販売の最大の特徴は、
人が店へ行くのではなく、店が人の近くまで来る
ことです。
これは身体的な移動が難しくなった高齢者には大きな意味があります。
商品を実際に見ながら選べることも、インターネット通販にはない利点です。
一方で、移動販売にも限界があります。
通常の大型スーパーと比べれば積載できる商品数には限界があります。
毎日いつでも購入できるわけではありません。
巡回ルートや時間に生活を合わせる必要があります。
さらに重要なのは事業の持続性です。
いすみ市では以前からNPO(Non-Profit Organization・非営利組織)による移動販売が行われていましたが、市の過去の計画資料には、利用者減少のため週5日5コースから週4日4コースへ変更した経緯も記録されています。
この事例が示すのは、
需要がある =事業が採算的に維持できる
ではないということです。
高齢者に必要なサービスほど、利用者が広い地域に少人数ずつ分散している可能性があります。
販売車が長距離を走っても、一か所当たりの売上が小さければ、燃料費、人件費、車両費などを回収することが難しくなります。
「移動スーパーが来れば解決」とは限らない
例えば移動販売車が週1回来る地域を考えてみます。
週1回でも、
米 調味料 野菜 肉 魚 牛乳 パン 日用品
などを計画的に購入できれば、かなりの部分を補うことができます。
しかし、
急に必要になった食品 買い忘れ 薬以外の日用品 大量購入 特殊な商品
まですべて対応できるとは限りません。
そこで実際には、
移動販売 +コンビニエンスストア +ドラッグストア +宅配 +家族送迎
などを組み合わせることになります。
重要なのは、一つ一つのサービスを見るのではなく、
一週間の生活に必要な食料・日用品を全部調達できるか
を見ることです。
宅配は「自宅まで届く」点では強い
宅配の大きな利点は、商品を自宅まで運んでもらえることです。
米、飲料、調味料など重量のある商品では特に有効です。
千葉県が過去に実施した買い物弱者対策の実証事業でも、利用者の70歳代以上が63%を占め、宅配を利用する理由として、車に乗れないことや重い商品を持ち帰れないことが挙げられていました。
つまり宅配は単なる便利なサービスではなく、
商品を運ぶ身体的負担を外部化する仕組み
でもあります。
ただし、宅配にも利用条件があります。
配達区域 最低注文額 送料 注文締切 配達曜日 支払方法 インターネット操作 電話注文の可否
などです。
そのため、
宅配サービスが地域に存在する =全住民が使える
ではありません。
特に高齢者の場合、スマートフォンやウェブサイトからの商品検索、会員登録、パスワード管理、決済方法などが利用上の障壁になる可能性があります。
ネットスーパーだけでは解決しない理由
人口減少地域の買い物問題では、「インターネットで注文すればよい」という意見もあります。
確かに、将来的には重要な手段です。
しかしネットスーパーを実際に利用するには、
配達対象地域である インターネットを利用できる 端末を操作できる 商品を画面から選べる 支払いができる 商品受取ができる
という条件が必要です。
そして人口密度が低い地域ほど、配送距離が長くなりやすくなります。
一軒の注文を届けるために長距離を走れば、物流費が増えます。
つまり人口減少地域では、
需要が小さいから宅配が必要になる一方で、
需要密度が低いから宅配の採算が悪くなる、
という矛盾が発生します。
公共交通でスーパーへ行く方法
もう一つの方法は、人を店まで運ぶことです。
いすみ市では市民乗合タクシーが運行されています。
2026年6月時点の制度では、事前予約によって運行区域内の自宅などから目的地まで移動でき、料金は大人一人1回300円です。月曜日から金曜日まで運行しています。複数の予約があれば乗り合わせになるため、通常のタクシーと同じではありません。
勝浦市でもデマンド交通などの施策が進められています。
御宿町では、勝浦市のデマンドタクシーを町内の共通乗降場所まで乗り入れる仕組みが導入され、買い物、医療機関、金融機関などへの移動可能範囲を広げています。
これは重要な方向です。
ただし、公共交通でスーパーへ行く場合には、
自宅 ↓ 乗車 ↓ スーパー ↓ 買い物 ↓ 待ち時間 ↓ 帰宅
という一連の時間を考える必要があります。
自家用車なら30分で終わる買い物が、予約や待ち時間を含めると数時間になる可能性があります。
したがって、
交通が存在する =買い物に実用的
とは限りません。
買い物では「運べる量」も重要
公共交通の問題として見落とされやすいのが購入量です。
例えば、
米5kg 牛乳2本 ペットボトル飲料 野菜 肉 魚 トイレットペーパー
を一度に購入すると、かなりの重量と容積になります。
健康な人が自家用車で買い物する場合にはほとんど問題になりません。
しかし、高齢者がバスや鉄道で持ち帰るとなると事情は変わります。
つまり交通政策を考える場合も、
「スーパーまで行けるか」
だけでなく、
買った商品を家まで持ち帰れるか
を考える必要があります。
この意味では、
人を店へ運ぶ仕組み
と、
商品を家へ運ぶ仕組み
は別の役割を持っています。
コンビニエンスストアやドラッグストアは代わりになるのか
スーパーがなくなっても、コンビニエンスストアやドラッグストアが残っていれば一定の商品を購入できます。
特に近年のドラッグストアは、食品を扱う店舗も多くなっています。
しかし、
スーパー コンビニエンスストア ドラッグストア
では、商品構成も価格体系も異なります。
弁当、飲料、菓子、冷凍食品などを確保できても、生鮮食品を十分に購入できるとは限りません。
したがって、
食品を売る店がある =通常の食生活を維持できる
とも限りません。
重要なのは店舗数ではなく、
必要な食品群を継続的に取得できるか
です。
家族送迎は無料ではない
地方では家族が車で買い物に連れて行くことも多くあります。
家族送迎は行政統計上「公共交通費」として現れません。
しかし実際には、
家族の時間 ガソリン代 車両維持費 待ち時間 仕事や家事の調整
が発生します。
例えば高齢の親を週1回スーパーへ連れて行くとして、往復と買い物に2時間かかれば、年間では、
2時間 × 52週 =104時間
になります。
これは分析のための単純計算ですが、約13日分の8時間労働に相当します。
したがって、
行政支出が発生していない =社会的費用がゼロ
ではありません。
買い物支援を考える際には、家族が無償で負担している時間も考える必要があります。
最も弱いのは「単一手段依存」の地域
買い物環境を考えるうえで危険なのは、一つの方法に依存することです。
例えば、
自動車だけ
移動販売だけ
家族送迎だけ
ネットスーパーだけ
という状態です。
一つが使えなくなると生活が急に成立しなくなるからです。
反対に、
週1~2回の移動販売 +宅配 +近隣の小売店 +デマンド交通
など複数の選択肢があれば、一つが使えなくなっても他の方法で補うことができます。
これは地域の買い物環境に「冗長性」を持たせる考え方です。
冗長性とは、ある手段が失われても別の手段で機能を維持できる状態です。
30年後に重要なのは「店舗数」より買い物機能
今後30年間の外房を考える場合、
スーパーを何店舗残すか
という発想だけでは十分ではないでしょう。
人口が大きく減る地域では、すべての店舗を現在と同じ形で維持することは難しくなる可能性があります。
その場合には、
大型店舗 移動販売 宅配 小型店舗 コンビニエンスストア ドラッグストア 公共交通
を一つの生活インフラとして考える必要があります。
例えば、一つの大型スーパーを維持できなくても、
地域拠点店舗 +移動販売 +宅配
によって食品アクセスを維持できる可能性があります。
逆に店舗だけ残っていても、自動車を運転できない高齢者がそこへ行けなければ、生活機能としては不十分です。
店を残す政策と買い物を残す政策は違う
ここで重要な区別があります。
スーパーを残すことと、住民の買い物を維持することは同じではありません。
スーパーへの補助によって店舗を残す方法もあります。
しかし利用者が減り続ければ、長期的な維持費は増える可能性があります。
一方で、店舗閉鎖をそのまま受け入れてしまえば、自動車を利用できない住民が生活できなくなる可能性があります。
そのため政策として考えるべきなのは、
どの店を残すか
だけではなく、
地域住民が食品へアクセスするための総費用をどう小さくするか
です。
行政負担 事業者負担 住民負担 家族負担 移動時間
を合わせて考える必要があります。
現実的には「人を運ぶ」と「商品を運ぶ」の併用になる
人口密度が下がっていく地域では、一つの方法ですべての住民を支えることは難しいでしょう。
比較的元気で移動できる人には、
デマンド交通 路線バス 家族送迎
などで店舗へ行く方法があります。
移動が難しい人には、
移動販売 宅配
が有効です。
つまり、
人を商品まで運ぶ
方法と、
商品を人まで運ぶ
方法を組み合わせることになります。
どちらが常に優れているという問題ではありません。
地域人口、住宅密度、利用人数、店舗距離によって効率は変わります。
成立しやすい地域
買い物支援が比較的成立しやすいのは、
一定数の利用者がいる 住宅がある程度まとまっている 既存スーパーを商品供給拠点として使える 移動販売と自治体が連携できる 宅配と公共交通を併用できる
といった地域です。
特に利用者がある程度まとまっていれば、一台の販売車や配送車が短時間で複数世帯を回ることができます。
成立しにくい地域
反対に難しいのは、
人口が非常に少ない 住宅が広範囲に分散している 道路距離が長い 利用者一人当たりの購入額が小さい 販売拠点となる店舗も遠い
といった地域です。
この場合、
需要はあるのに採算が取れない
という状態が起こります。
だからこそ、
「必要なら民間企業がやるはずだ」
という考え方だけでは解決できません。
買い物環境を見るチェックリスト
地方へ移住する場合や、高齢期の住まいを考える場合には、最寄りスーパーまでの距離だけを見るのではなく、次の項目を確認した方がよいでしょう。
・現在の最寄りスーパーまでの距離 ・自動車を運転できなくなった場合の移動方法 ・移動販売の有無 ・巡回曜日 ・宅配サービスの有無 ・配送料 ・最低注文額 ・電話注文が可能か ・インターネット注文だけか ・生鮮食品を購入できるか ・公共交通でスーパーへ行けるか ・帰宅便までの待ち時間 ・重い商品を持ち帰れるか ・家族送迎が必要か ・家族が遠方へ転居しても生活できるか
特に重要なのは、
「今、自動車を運転できる状態」ではなく、「自動車を運転できなくなった状態」で生活を想定すること
です。
外房の買い物問題から見えてくること
外房では人口減少と高齢化が同時に進んでいます。
人口が減れば、スーパーにとって商圏は縮小します。
しかし住民一人一人に必要な食料がなくなるわけではありません。
このため今後重要になるのは、
大型スーパーを今までと同じ形で残し続けること
だけではありません。
むしろ、
店舗 移動販売 宅配 公共交通 地域の小売店
を組み合わせ、
少ない人口でも食品へのアクセスを維持できる地域構造へ変えていくこと
ではないでしょうか。
現実的な結論
スーパーが撤退した地域でも、生活を続けること自体は可能です。
しかし、それには条件があります。
移動販売だけでもありません。
ネットスーパーだけでもありません。
公共交通だけでもありません。
家族送迎だけでもありません。
重要なのは、それらを組み合わせることです。
そして人口減少地域で問うべきなのは、
「スーパーが何軒あるか」
ではなく、
「自動車を運転できなくなった住民でも、必要な食品を適切な価格と負担で継続的に入手できるか」
です。
人口が減った地域では、店舗そのものをすべて維持することが難しくなる可能性があります。
しかし、
店舗が減ること =買い物機能まで失ってよい
ということではありません。
これからの地域政策では、
店を維持することから、買い物という生活機能を維持することへ
考え方を広げる必要があります。
そして30年後の外房で重要なのは、
「昔と同じ店舗網を残せたか」
ではなく、
少ない人口でも、必要な食品に誰もがアクセスできる仕組みを残せたか
ではないでしょうか。



