地域分析記事

地域の暮らしと地域課題を数学とデータで考える

 地方のスーパーが閉店すると、「ネットスーパーを利用すればよい」「移動販売が来ればよい」「車で隣町まで行けばよい」と考えられがちです。しかし、実際の生活における「買い物」は、単に食品を販売する店がどこかに存在していれば成立するものではありません。

 食料品や日用品を継続的に購入するためには、店舗や販売場所まで移動できること、必要な商品を選べること、価格を負担できること、購入した商品を自宅まで運べること、注文や支払いができること、そして必要な曜日や時間に商品を入手できることなど、複数の条件がそろう必要があります。スーパーが一軒なくなったとしても、別の方法によってこれらの条件を満たせれば生活を維持できますが、反対に、ネットスーパーや移動販売といったサービスが地域に存在していても、配達区域、巡回曜日、商品数、送料、最低注文額、予約方法、支払方法などが住民の生活条件に合わなければ、「実際に買い物できる地域」とは言い切れません。

 この記事では、御宿町、勝浦市、いすみ市など外房地域を中心に、スーパーが減少・撤退した場合の買い物を、移動販売、宅配、公共交通、自家用車、家族送迎などに分解し、生活者の立場から考えます。

最初に結論~問題は「スーパーがあるか」だけではない

 人口減少地域でスーパーが減ったとしても、買い物を続ける方法そのものがなくなるとは限りません。しかし、一つの代替手段だけでスーパーが担っていた機能を完全に置き換えることは難しいと考える方が現実的です。移動販売には、自宅近くまで販売車が来るため移動負担が小さく、商品を実際に見ながら選べるという利点があります。宅配には、米や飲料など重い商品を自宅まで運んでもらえる利点があり、公共交通があれば店舗まで移動でき、自家用車であれば時間、購入量、店舗選択の自由度が高くなります。

 一方、それぞれに弱点があります。移動販売には曜日や品ぞろえの制約があり、宅配には配送区域や料金、注文方法の制約があります。公共交通には待ち時間や運行時間帯の問題があり、自家用車は運転できることを前提とします。したがって人口減少地域で重要なのは、「スーパーを一軒残せるか」だけではなく、住民が複数の方法を組み合わせながら、生鮮食品や日用品を継続的に入手できる仕組みを維持できるかという問題です。

 買い物環境は、単純な足し算の数式で評価できるものではありません。例えば店舗へ行けても価格を負担できなければ購入できず、宅配サービスがあっても注文方法を利用できなければ使えません。そのため、移動可能性、商品入手可能性、価格負担可能性、運搬可能性、注文・支払可能性、曜日・時間の利用可能性といった複数の条件を確認し、その中に重大な弱点がないかを見る方が実態に近いと考えられます。

外房では「自動車を使えるか」が大きな分岐点になる

 外房の買い物問題を考えるうえで、特に重要なのが自動車です。千葉県が高齢者について整理した資料では、地方部で日常の買い物に「自動車・バイクを自分で運転する」と回答した割合は59.9%、「家族・近所の車に同乗、送迎」は19.7%でした。ただし、この二つを単純に足して「約8割が自動車を利用している」とすることはできません。調査は複数の移動手段を回答できる形式であり、同じ人が自分で運転する場合と家族に送迎してもらう場合の両方を回答している可能性があるためです。

 それでも、自ら自動車・バイクを運転するという回答が約6割に達し、家族などによる送迎も一定割合存在することから、千葉県地方部の買い物が自動車に強く支えられていることは読み取れます。一方、同じ資料ではバス3.4%、電車1.4%となっており、公共交通だけで日常の買い物を支えている人は比較的少数です。

 農林水産政策研究所の研究でも、食料品店までの距離が長くなるほど買い物に不便や苦労を感じる人が増える一方、自分で自動車を運転できることは、その不便を大きく軽減する要因となることが示されています。国が用いる「食料品アクセス困難人口」の考え方でも、単純な店舗距離だけではなく、自動車を利用できるかどうかが重要な条件として扱われています。つまり地方の買い物問題では、「スーパーまで何キロメートルあるか」だけではなく、「その人がそこまで自力で移動できるか」が大きな意味を持ちます。

 現在は問題なく10キロメートル先のスーパーへ行ける人でも、免許返納、病気、視力や身体機能の低下などによって運転できなくなれば、同じ家に住み続けていても買い物環境は突然変化します。そのため、自動車を所有していることと、将来にわたって買い物に困らないことは同じではありません。

外房では高齢化を無視できない

 この問題が外房で特に重要なのは、人口減少だけではなく高齢化が同時に進んでいるためです。千葉県の2026年4月1日現在の年齢別人口資料によると、市町村別平均年齢は御宿町が62.1歳で県内最高となっており、勝浦市も58.6歳と高い水準にあります。前年の2025年には御宿町61.1歳、勝浦市58.2歳だったため、高齢化は現在も進行しています。

 御宿町の2026年7月31日現在の人口は6,609人、3,631世帯、勝浦市は2026年6月末現在で人口14,678人、7,976世帯となっています。人口規模そのものが大きくないうえ、高齢者の比率が高いことは、将来の買い物環境を考える際の重要な条件です。

 さらに、国立社会保障・人口問題研究所の2023年推計では、2020年から2050年にかけて、勝浦市の人口は16,927人から8,815人、いすみ市は35,544人から20,218人、御宿町は6,874人から4,381人へ減少すると推計されています。これは2020年国勢調査を基準にした将来推計であり、将来の実績値を確定するものではありませんが、人口規模が大きく縮小する可能性を示しています。減少率にすると、おおむね勝浦市48%、いすみ市43%、御宿町36%の減少です。

 人口が減れば地域全体の食料品需要や小売売上も縮小する可能性が高く、店舗経営にとって商圏人口の縮小は厳しい条件になります。ただし、「人口が減るから買い物問題も自然に小さくなる」と考えることはできません。地域全体の需要は減少しても、そこに住み続ける一人一人には引き続き食料が必要です。むしろ人口密度が下がるほど、店舗、販売車、配送車、公共交通などが一人の利用者を支えるために移動しなければならない距離が長くなり、一人当たりの供給コストが高くなる可能性があります。ここに人口減少地域特有の難しさがあり、利用者は減る一方、残った住民にサービスを届けるための距離や時間は必ずしも減りません。

移動販売は有力だが万能ではない

 スーパー撤退後の買い物手段として重要なのが移動販売です。いすみ市では、日常生活に必要な食料品や日用雑貨の購入が難しい住民を対象とした買い物支援が行われています。2024年6月から千葉薬品の「ヤックス移動販売スーパーらくちん便」が月曜日から金曜日まで市内を巡回し、さらに2025年7月から「とくし丸」も週5日、市内を巡回しています。

 移動販売の大きな特徴は、人が店舗へ移動するのではなく、商品を積んだ販売車が住民の近くまで来ることです。身体的な移動が難しくなった高齢者にとって、この仕組みは大きな意味を持ち、実際の商品を見ながら選べることも、インターネット通販にはない利点です。

 一方、移動販売車に積載できる商品数には限界があり、大型スーパーと同じ品ぞろえを再現することは難しく、毎日好きな時間に購入できるわけでもありません。利用者は巡回曜日や時間に生活を合わせる必要があります。さらに重要なのが事業の持続性です。いすみ市では以前からNPO(Non-Profit Organization・非営利組織)による移動販売が行われていましたが、市の過去の計画資料では、利用者の減少によって週5日5コースから週4日4コースへ変更された経緯が記録されています。

 この事例から直接分かるのは、利用者が減少すると運行規模そのものが縮小する場合があるということです。一般に移動販売では、人件費、燃料費、車両費、商品管理費などが必要になるため、住宅が広範囲に分散し、一か所当たりの利用人数や購入額が小さくなるほど採算条件は厳しくなります。つまり、「必要としている人がいる」ことと、「民間事業として長期的に維持できる」ことは別の問題です。

「移動スーパーが来れば解決」とは限らない

 例えば移動販売車が週1回来る地域を考えると、米、調味料、野菜、肉、魚、牛乳、パン、日用品などを計画的に購入できれば、日常生活のかなりの部分を補うことができます。しかし、急に必要になった食品、買い忘れた商品、大量購入したい商品、特定のメーカーや規格の商品など、すべてを移動販売だけで確保できるとは限りません。

 そのため現実には、移動販売に加えて、コンビニエンスストア、ドラッグストア、宅配、家族送迎などを組み合わせることになります。重要なのは、「移動販売車が来ているか」という一点ではなく、一週間あるいは一か月の生活に必要な食料・日用品を、無理のない負担で継続して調達できるかという視点です。

宅配は「商品を家まで運ぶ」点で強い

 宅配の大きな利点は、購入した商品を自宅まで運んでもらえることです。特に米、飲料、調味料など重量のある商品では効果が大きく、高齢者や身体機能が低下した住民にとって重要な手段になります。

 千葉県が茂原市で過去に実施した買い物弱者対策の実証事業では、利用者アンケート回答者のうち70歳代以上が63%を占めていました。この事業自体も、自家用車を持たない人や、重い商品を持ち帰ることが難しい高齢者などを主な対象として行われたものです。実際のアンケートでは、宅配を利用する理由として「無料で配達してくれるから」が45%、「自宅が遠いから」が32%、「買い物に行けないから」が16%、「買物商品が多くなったから」が13%などとなっていました。この結果からも、宅配は単なる利便サービスではなく、店舗までの距離や商品の運搬負担を補う機能を持っていることが分かります。

 ただし、宅配にも配達区域、最低注文額、送料、注文締切、配達曜日、支払方法、電話注文の可否などの条件があります。そのため、宅配サービスが地域に存在することと、すべての住民が実際に利用できることは同じではありません。

ネットスーパーだけでは解決しない

 人口減少地域の買い物問題では、「インターネットで注文すればよい」という意見もあります。ネットスーパーやインターネット通販は今後さらに重要な手段になると考えられますが、それだけですべての住民の問題を解決できるわけではありません。利用するためには、まず自宅が配送対象区域に入っている必要があり、そのうえで、インターネットを利用でき、端末を操作し、商品を画面から選択し、会員登録や認証を行い、支払いを済ませ、商品を受け取る必要があります。

 総務省の通信利用に関する統計では、インターネットを利用した「商品・サービスの購入・取引」の割合は、70~74歳で41.1%、75~79歳で27.6%、80歳以上では20.4%となっています。年齢が上がるほど利用割合は低くなっています。しかも、インターネットを利用できることと、ネットスーパーで商品の検索、注文、認証、決済までを一人で安定して行えることは同じではありません。会員登録、パスワード管理、クレジットカードや電子決済、画面上の商品選択などが利用上の障壁になる人もいます。

 さらに人口密度が低い地域ほど、一件の注文を届けるための移動距離が長くなりやすくなります。人口減少地域では「店舗へ行きにくいから宅配が必要になる」一方、「注文が少なく住宅が分散しているため宅配の採算が悪化する」という矛盾が生じます。

公共交通でスーパーへ行く方法

 もう一つの方法は、商品を住民へ届けるのではなく、人を店舗へ運ぶことです。いすみ市では市民乗合タクシーが運行されています。2026年9月時点の制度でも、事前予約によって運行区域内の自宅などから目的地まで移動でき、料金は大人一人1回300円です。月曜日から金曜日まで運行し、複数の予約が入った場合には乗り合わせとなります。

 勝浦市でもデマンドタクシーが運行されており、商業施設、医療機関、金融機関などへの移動手段として利用されています。また御宿町では、勝浦市のデマンドタクシーを御宿町内の共通乗降場所まで乗り入れる仕組みが導入され、勝浦市側の商業施設や医療機関などへ移動できる範囲が広がっています。

 この方向性は重要ですが、公共交通が存在することと、買い物手段として十分実用的であることは別に考える必要があります。自宅から乗車し、スーパーへ行き、買い物をし、帰りの便を待って帰宅するまでには一定の時間がかかります。自家用車なら30分から1時間程度で済む買い物が、予約、乗り合わせ、待ち時間などを含めると数時間になる場合も考えられます。そのため公共交通を評価するときには、「スーパーまで行けるか」だけではなく、予約のしやすさ、運行曜日、待ち時間、所要時間、運賃、帰宅までの時間を含めて考える必要があります。

買い物では「運べる量」も重要

 公共交通による買い物で見落とされやすいのが、購入後の商品を自宅まで運ぶ問題です。例えば、米5キログラム、牛乳、ペットボトル飲料、野菜、肉、魚、トイレットペーパーなどを一度に購入すれば、重量も容積も相当なものになります。健康な人が自家用車で買い物をする場合には大きな問題にならなくても、高齢者が鉄道やバスを利用し、それを自宅まで持ち帰るとなれば負担は大きくなります。

 つまり交通政策では、「人が店舗へ到達できるか」と「購入した商品を自宅へ持ち帰れるか」という二つの問題を分けて考える必要があります。この意味で、人を商品まで運ぶ仕組みと、商品を人まで運ぶ仕組みには、それぞれ異なる役割があります。

コンビニエンスストアやドラッグストアはスーパーの代わりになるのか

 スーパーがなくなった地域でも、コンビニエンスストアやドラッグストアが残っていれば、一定量の食品や日用品を購入できます。近年は食品販売を強化するドラッグストアも増えています。しかし、スーパー、コンビニエンスストア、ドラッグストアでは、商品構成や価格体系が異なり、弁当、飲料、菓子、冷凍食品、加工食品などを確保できても、鮮魚、精肉、野菜などの生鮮食品を幅広く選べるとは限りません。

 また、同じ食品であっても容量、価格、品種、特売の有無などが異なるため、「食品を販売している店舗がある」というだけで、従来と同じ食生活を維持できるとは限りません。重要なのは店舗数そのものではなく、住民が必要とする食品群を、継続的かつ負担可能な価格で取得できるかです。

家族送迎は「無料」ではない

 地方では、高齢の親を家族が車でスーパーへ連れて行くことも珍しくありません。家族送迎は行政の公共交通支出として表面化しないため、低コストの方法に見えることがあります。しかし実際には、家族の時間、ガソリン代、車両維持費、待ち時間、仕事や家事の調整といった負担が生じています。

 例えば、高齢の親を週1回スーパーへ連れて行き、往復と買い物で2時間かかるとすると、年間では2時間×52週で104時間になります。これは単純計算ですが、8時間を1日とすれば13日分に相当します。したがって、「行政支出が発生していないこと」と「社会的費用が存在しないこと」は同じではなく、高齢者本人の負担だけでなく、家族が無償で負担している時間や移動コストまで含めて考える必要があります。

最も弱いのは「単一手段依存」の地域

 買い物環境を考えるうえで危険なのは、一つの方法だけに依存することです。例えば、自動車だけに依存している地域では、免許返納や病気によって運転できなくなると生活条件が急変します。移動販売だけなら、事業者の撤退や運休日に影響を受けます。家族送迎だけなら、家族の転居や就労状況の変化によって利用できなくなる可能性があります。ネットスーパーだけなら、配送区域の変更やデジタル利用能力の問題が生じます。

 一方で、移動販売、宅配、近隣店舗、デマンド交通、家族送迎など複数の方法が存在すれば、一つの手段が使えなくなっても他の方法で補える可能性があります。これは地域の買い物環境に「冗長性」を持たせるという考え方であり、冗長性とは、一つの手段が失われても、別の手段によって生活機能を維持できる状態を意味します。

国の政策も「店舗の有無」から「食品アクセス」へ広がっている

 買い物問題を店舗数だけで考えないという方向は、国の政策とも一致しています。2024年に改正された食料・農業・農村基本法では、「食料の円滑な入手の確保」が政策上の重要事項として位置付けられました。地理的条件や経済的条件などによって食料を入手しにくい人が生じないよう、国や地方公共団体、食品事業者などが必要な施策を進める考え方です。

 農林水産省も現在、食品へのアクセスを、単に店舗までの距離という物理的条件だけでなく、経済的な問題を含めて捉えています。全国の市町村を対象とした調査でも、約9割の自治体が食品アクセス対策について「必要」または「ある程度必要」と回答しています。つまり、「スーパーがあるか」ではなく、「住民が実際に必要な食品を入手できるか」という視点は、外房だけの特殊な問題ではなく、全国的な政策課題になっています。

30年後に重要なのは「店舗数」より買い物機能

 今後30年間の外房を考える場合、「スーパーを何店舗残すか」という発想だけでは十分ではないでしょう。人口が大きく減少する地域では、すべての店舗を現在と同じ規模、同じ営業形態で維持することが難しくなる可能性があります。

 その場合には、大型店舗、地域拠点店舗、小型店舗、移動販売、宅配、コンビニエンスストア、ドラッグストア、公共交通を、別々の事業としてではなく、一つの生活インフラとして考える必要があります。例えば、一つの大型スーパーを地域内に維持できなくても、周辺の拠点店舗から移動販売や宅配を行い、必要に応じてデマンド交通で住民を店舗まで運ぶことで、食品アクセスを維持できる可能性があります。逆に、大型店舗が一軒残っていたとしても、自動車を運転できない住民がそこへ行く方法を持たなければ、生活機能としては十分とはいえません。

店を残す政策と買い物を残す政策は違う

 スーパーへの補助などによって店舗そのものを残す方法もあり、地域によっては、それが最も効率的な場合もあるでしょう。しかし利用者が長期的に減少する地域では、店舗の固定費を支え続ける政策が常に最適とは限りません。一方で、採算が合わないからという理由だけで店舗閉鎖を受け入れれば、自動車を利用できない住民の生活が難しくなる可能性があります。

 したがって政策として比較すべきなのは、「店舗を残す費用」と「移動販売、宅配、公共交通などによって買い物機能を維持する費用」です。その際には、行政負担だけではなく、事業者負担、住民の金銭負担、家族の送迎負担、移動時間、待ち時間などを含めた社会全体の費用を見る必要があります。

現実的には「人を運ぶ」と「商品を運ぶ」の併用になる

 人口密度が低下していく地域では、一つの方法だけですべての住民を支えることは難しくなるでしょう。比較的元気で移動できる人には、デマンド交通、路線バス、家族送迎などを使って店舗へ行く方法があり、身体的に移動が難しい人には、移動販売や宅配の方が適しています。

 つまり地域全体としては、「人を商品まで運ぶ仕組み」と「商品を人まで運ぶ仕組み」を組み合わせることになります。どちらが常に優れているという問題ではなく、地域人口、住宅密度、利用者数、店舗までの距離、道路状況、利用者の身体状況によって、効率的な方法は変わります。

成立しやすい地域と成立しにくい地域

 買い物支援が比較的成立しやすいのは、一定数の利用者がいて住宅がある程度まとまっており、既存スーパーを商品供給拠点として利用でき、移動販売、宅配、公共交通、自治体が連携できる地域です。一台の販売車や配送車が短時間で複数世帯を回ることができれば、一世帯当たりの移動距離や運行コストを抑えやすくなります。

 反対に、人口が非常に少なく、住宅が広範囲に分散し、道路距離が長く、利用者一人当たりの購入額が小さく、商品供給拠点となる店舗も遠い地域では、サービスの維持は難しくなります。この場合には、「需要は確実に存在するのに、民間事業としては採算が取れない」という状態が起こり得ます。そのため、「必要なら民間企業が参入するはずだ」という市場原理だけでは解決できない地域が存在し、食料へのアクセスが生活に不可欠な機能である以上、採算性と公共性をどこまで分担するかが行政上の課題になります。

外房について、まだ分からないこともある

 ここまでの公的資料から、外房で人口減少、高齢化、自動車依存が進み、移動販売やデマンド交通などの代替手段が重要になっていることは確認できます。しかし、「外房のどの地域で、どの程度買い物が困難なのか」まで正確に判断するには、さらに細かな地域データが必要です。

 例えば、御宿町、勝浦市、いすみ市について、最寄り食料品店から500メートル以上離れて暮らす高齢者が何人いるのか、そのうち自動車を利用できない人が何人いるのか、移動販売の停車場所からどの範囲に何人が住んでいるのか、各宅配サービスがどの地域まで配送しているのか、デマンド交通を使って買い物すると実際に往復何分かかるのか、といった情報が必要です。

 農林水産政策研究所は、店舗までの距離や高齢人口などを用いた食料品アクセスマップを整備しています。こうした地理的データと、現在の店舗、移動販売ルート、宅配区域、公共交通を重ね合わせれば、外房の食品アクセスをさらに定量的に評価できます。したがって、現時点で確実に言えるのは、「外房全体で買い物ができなくなる」ということでも、「移動販売があれば問題は解決する」ということでもありません。地域ごとに条件が大きく異なるため、集落や地区単位で評価する必要があります。

買い物環境を見るチェックリスト

 地方へ移住する場合や、高齢期の住まいを考える場合には、現在の最寄りスーパーまでの距離だけを見るのでは不十分です。自動車を運転できなくなった状態を前提として、最寄りスーパーまでの距離、徒歩で利用できる店舗、移動販売の有無と巡回曜日、宅配サービスの配送区域、配送料、最低注文額、電話注文の可否、インターネット注文だけなのか、生鮮食品を購入できるか、公共交通でスーパーへ行けるか、帰宅便までどれだけ待つか、重い商品を持ち帰れるか、家族送迎が必要か、さらに家族が将来遠方へ転居しても生活できるかまで確認する必要があります。

 特に重要なのは、「現在、自動車を運転できる生活」ではなく、「自動車を運転できなくなった生活」を一度具体的に想定してみることです。

外房の買い物問題から見えてくること

 外房では人口減少と高齢化が同時に進んでいます。人口が減れば、小売店にとって商圏人口と売上規模は縮小し、店舗経営の条件は厳しくなります。一方、そこに暮らし続ける住民一人一人にとって、食料を購入する必要性がなくなるわけではありません。むしろ人口密度が低下することで、一人当たりの配送や移動の効率が悪くなる可能性があります。

 このため今後重要になるのは、大型スーパーを現在と同じ形で残し続けることだけではありません。店舗、移動販売、宅配、公共交通、地域の小売店、コンビニエンスストア、ドラッグストアなどを組み合わせ、少ない人口でも食品へのアクセスを維持できる地域構造へ変えていくことが求められます。

現実的な結論

 スーパーが撤退した地域でも、生活を続けること自体は可能です。しかし、そのためには複数の条件が必要であり、移動販売だけ、ネットスーパーだけ、公共交通だけ、家族送迎だけで解決するわけではありません。それぞれに長所と弱点があるため、地域の人口、住宅分布、高齢化、店舗配置に応じて複数の手段を組み合わせる必要があります。

 そして人口減少地域で本当に問うべきなのは、「スーパーが何軒あるか」ではなく、「自動車を運転できなくなった住民でも、必要な食品を無理のない価格、時間、身体的負担で継続的に入手できるか」ということです。店舗数が減ることと、買い物という生活機能まで失われることは同じではありません。

 これからの地域政策では、店舗そのものを守るという発想だけでなく、住民が食品へアクセスできる仕組み全体を守るという考え方が必要になります。30年後の外房で重要なのは、「昔と同じ店舗網を何軒残せたか」ではなく、人口が減り、高齢化がさらに進んだとしても、必要な食品を必要な人へ届ける仕組みを維持できたかではないでしょうか。

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数字で比較するサービスを見る

 過疎地域の路線バスは、昭和後期から平成初期にかけて減便が進み、平成中期以降は路線そのものの廃止が目立つようになりました。その背景には、人口減少だけでなく、自家用車の普及、住宅や商業施設の郊外化、学校や病院の統廃合、バス事業者の経営再編、燃料費や車両費の上昇など、複数の要因があります。さらに令和に入ると、利用者が少ないから運行できないという従来の問題に加えて、運転士が不足しているため、一定の利用者が存在していても必要な便数を維持できないという供給側の問題が深刻になってきました。

 一方、今後の地方では、高齢者が運転を継続できなくなった場合の移動手段、世帯の小規模化、病院・学校・商業施設の集約、地域内の人手不足、観光客の二次交通、地域内消費の維持などを考えると、公共交通の重要性そのものが低下するとは考えにくい状況です。ただし、昭和期と同じ大型バスを、以前と同じ経路とダイヤで復活させればよいわけではありません。必要なのは、需要が集中する区間には定時定路線の交通を配置し、需要が薄く分散する地域ではデマンド交通、乗合タクシー、公共ライドシェア、スクールバス、医療・福祉輸送などを組み合わせることです。地方経済に必要なのは、過去の路線網の全面復活ではなく、現在の人口分布と生活圏に合わせた地域交通の再設計だと考えるべきでしょう。

最初に結論

 過疎地域で路線バスが必要かどうかを、「残すか、廃止するか」という二者択一で考えることは適切ではありません。鉄道駅、中心市街地、中核病院、高校、大型商業施設、行政施設、観光拠点、比較的人口が集中する住宅地などを結び、一定方向・一定時間帯に需要を集約できる区間では、定時定路線型のバスが合理的になる可能性があります。一方、人口が極端に少なく住宅が広く分散している地区、利用時間や目的地が大きくばらつく地区、通院日や買い物日など特定の日だけ需要が発生する地区では、固定路線を毎日走らせるよりも、予約制のデマンド交通や乗合タクシーなどが合理的な場合があります。

 したがって、結論は「地方に路線バスは必要か」という単純な問題ではありません。一定の需要を集約できる区間では定時定路線を維持または再構築し、それ以外の地域では需要密度に応じた別の交通手段へ転換することが重要です。

路線バス利用者はどれほど減ったのか

 日本の乗合バス輸送人員は、1968年度に約101億人でピークを迎えました。その後は長期的な減少が続き、2012年度には約41億人となっています。約44年間で約60%減少したことになります。一方、乗合バスの車両数は、1968年度の約6万4,700両から2012年度の約5万9,000両への減少にとどまっています。この数値から計算すると、車両数の減少率は約9%です。輸送人員が約60%減少したのに対し、車両数は約9%しか減っておらず、単純比較では1台当たりの輸送量が大幅に低下したことになります。

 なお、一部の国土交通省資料では、この車両数の変化を約13%減と記載したものがありますが、資料に掲載されている約6万4,700両から約5万9,000両という数値を直接計算すると約9%減となります。このため、本稿では掲載数値から計算した値を用います。

 平成以降に限定しても、乗合バス輸送人員は1990年度の約65億人から2000年度には約48億人、2010年度には約42億人へ減少しています。1990年度から2010年度までの20年間では約35%減少しました。同時期に日本の人口が大きく減少していたわけではなく、自家用車の普及が進んだことから、人口減少だけではこの利用者減少を説明できません。

 2023年度の乗合バス輸送人員は約38億人で、新型コロナウイルス感染症流行後の回復を含めても、1968年度のピーク時の4割弱にとどまります。ただし、これらは全国の乗合バスを合計した統計です。都市部と地方部を含むため、「過疎地域でも全国平均と同じ割合で利用者が減少した」と直接結論づけることはできません。過疎地域を分析する際には、地域別・路線別のデータを見る必要があります。

昭和後期から平成初期に減便が進んだ理由

 最大の要因の一つはモータリゼーション、つまり自家用車の急速な普及です。自家用車であれば時刻表に合わせる必要がなく、自宅から目的地まで直接移動できます。特に地方では、バス停まで距離がある、本数が少ない、鉄道との乗り継ぎが必要、帰宅時間に合う便がない、買い物の荷物を持ち帰りにくいといった条件が重なり、自家用車の相対的な利便性が非常に高くなりました。

 同時に、住宅、スーパー、病院、公共施設などの立地も変化しました。従来は「集落から旧市街地を経て駅へ向かう」という交通構造が一般的でしたが、郊外の幹線道路沿いに大型スーパー、病院、商業施設などが立地するようになると、旧来のバス路線と実際の生活動線が一致しなくなりました。

 さらに、利用者減少と減便には相互作用があります。利用者が減ると事業者は便数を削減し、便数が減ると待ち時間や移動制約が増え、それによってさらに利用者が自家用車などへ移ります。この「利用者減少→減便→利便性低下→さらなる利用者減少」という循環は、地方公共交通を考えるうえで重要です。

 等間隔で運行され、利用者が時刻表を確認せずランダムに停留所へ到着すると仮定した場合、平均待ち時間は「運行間隔÷2」で表せます。30分間隔なら約15分、1時間間隔なら約30分です。ただし、1~2時間に1本しかない低頻度路線では、実際の利用者は時刻表に合わせて行動するため、この式をそのまま実際の待ち時間と考えることはできません。重要なのは、便数が極端に少なくなると、「バス路線は存在するが日常生活では使いにくい」という状態になることです。路線の有無だけではなく、実際に生活に利用できる時間帯と頻度が確保されているかを見る必要があります。

平成中期以降に路線廃止が目立つようになった理由

 減便によって運行量を削減しても、運転士、車両、営業所、整備、運行管理などの固定的な費用は残ります。そのため、需要が一定水準を下回ると、便数を削減するだけでは赤字を解消できなくなります。路線収支は概念的には、「運賃収入+補助金-人件費-燃料費-車両費-整備費-運行管理費-営業所費用-その他経費」と考えることができます。運賃収入は、おおむね「平均的な利用人数×平均運賃×運行回数」によって決まります。

 例えば、平均運賃300円、年間3,000便を運行すると仮定します。1便平均10人が利用すれば年間運賃収入は900万円ですが、平均3人なら270万円です。270万円だけで運転士人件費、車両費、燃料費、整備費などを賄うことは一般的には難しく、利用者が少なくなれば公的支援または運行形態の変更が必要になります。

 制度面では、2000年代初頭に乗合バス事業の需給調整規制が廃止され、参入・退出に関する制度が変更されました。ただし、平成中期以降の路線廃止を規制緩和だけで説明することはできません。規制緩和以前から利用者減少と赤字は進んでおり、制度変更は、需要減少によって維持困難になった路線から事業者が撤退しやすくなった要因の一つと考えるのが適切です。

全国で進んだ路線廃止

 国土交通省資料によれば、2008年度から2022年度までの15年間に廃止された路線バスの路線延長は全国で約2万700キロメートルに達します。単純平均すれば年間約1,380キロメートルです。その後も廃止は続いており、2008年度から2023年度まででは累計約2万3,000キロメートルとなっています。ただし、この数字は廃止された区間の累計であり、同期間に新設または再編された路線を差し引いた純減距離ではありません。

 また、過去の資料には短期間に非常に大きな休廃止距離を示したものもありますが、休止を含むか、どの事業者を対象にするかなど集計条件が異なる場合があります。異なる統計を比較する場合には、定義と対象範囲を確認する必要があります。

令和期の最大の変化は運転士不足

 現在の地域公共交通では、利用者不足だけでなく運転士不足が重大な問題になっています。以前は「利用者が少ない→赤字になる→減便・撤退する」という構造が中心でしたが、現在では「運転士を確保できない→必要な便数を運行できない→採算性の比較的高い路線まで減便する→利用者の利便性が低下する」という供給制約が加わっています。

 国土交通省の推計では、バス運転者は2021年の約11万6,000人から2030年には約9万3,000人まで減少する可能性があり、2022年程度の輸送規模を維持しようとすれば、2030年には約3万6,000人が不足する可能性が示されています。したがって、今後の公共交通政策では「利用者を増やせば路線を維持できる」という考え方だけでは不十分です。運転士を何人必要とする運行方式なのか、限られた人員をどの路線に優先配置するのかという問題も重要になります。

バス事業者の多くが赤字

 2023年度の国土交通省調査では、対象となった乗合バス事業者の73.7%が赤字で、黒字事業者は26.3%でした。これは路線バス事業の経営環境が厳しいことを示しています。ただし、この73.7%という数字は「調査対象事業者の73.7%」という意味であり、「全国の路線の73.7%」や「全国の輸送量の73.7%が赤字」という意味ではありません。また、原則として一定規模以上の事業者を対象とした統計であり、小規模な事業者をすべて含んでいるわけでもありません。したがって、この数字から読み取れるのは、全国の乗合バス事業者の多くが厳しい経営状況にあるということです。

高齢化すればバス利用者は増えるのか

 高齢化と公共交通需要の関係は単純ではありません。運転免許証の自主返納は2019年に年間約60万件まで増加しましたが、その後は減少し、近年は40万件台で推移しています。このため、「免許返納者が毎年増え続けている」と表現するのは正確ではありません。より重要なのは、高齢運転者が病気、身体機能の低下、家族の勧めなどによって自動車を運転できなくなった場合に、代替交通を確保できるかという問題です。

 ただし、高齢化率の上昇と高齢者数の増加も同じ意味ではありません。過疎地域では総人口減少が速いため、高齢化率が上昇していても高齢者の絶対数が減少する地域があります。そのため、「高齢化が進むからバス需要が必ず増える」とは言えません。さらに、自家用車を使えなくなった高齢者の移動需要は、路線バスだけではなく、家族送迎、病院や高齢者施設の送迎、タクシー、デマンド交通、移動販売、宅配、訪問診療などへ分散する可能性があります。したがって、路線バスを利用してもらうためには、単にバスを走らせるのではなく、病院、スーパー、鉄道駅など実際に利用したい目的地へ、利用しやすい時刻で結ぶことが必要です。

病院・学校・商業施設の集約と公共交通

 人口減少地域では、病院、学校、スーパー、行政施設などが減少し、比較的大きな拠点へ集約される傾向があります。施設が集約されれば、住民一人当たりの移動距離は長くなる可能性があります。一方、目的地が少数の拠点へ集中することで、交通需要をまとめやすくなる場合もあります。例えば、複数の小規模病院へ利用者が分散していた地域で医療機能が一つの中核病院へ集約されれば、特定方向への需要がまとまり、一定時刻に定時定路線交通を運行する合理性が高まることがあります。

 したがって、人口減少は必ずしも「公共交通需要の消滅」を意味しません。総需要は減少しても、特定方向への需要が集約される可能性があり、その場合には交通網を再設計する余地があります。

世帯内の送迎能力も低下する

 地方では、公共交通が少なくても家族が自動車で送迎することによって生活を支えてきた地域があります。しかし、単身高齢世帯、高齢夫婦世帯、子どもが地域外で生活する世帯、共働き世帯などが増えれば、家族による送迎を当然の前提とすることは難しくなります。

 送迎には燃料費だけでなく、送迎者の時間という見えにくい費用があります。例えば往復1時間の送迎を週2回行えば、年間で約104時間になります。送迎者の時間価値を1時間1,500円と仮定すれば、年間15万6,000円相当です。この金額は直接家計から現金として支出されるわけではありませんが、家族が仕事、家事、休息などに使えた時間を失っているという意味で機会費用が発生しています。公共交通を評価する際には、このような家族送迎負担も考慮する必要があります。

公共交通を運賃収入だけで評価してよいのか

 路線バスは運賃収入だけを見ると赤字であっても、地域全体では別の便益を生み出している可能性があります。住民が買い物へ行けること、病院へ通えること、学校へ通えること、仕事を続けられること、家族の送迎負担が減ること、観光客が地域内を移動できることなどです。国土交通政策でも、公共交通によって医療、福祉、教育、商業など他の行政分野にもたらされる効果を評価する「クロスセクター効果」という考え方が重視されています。

 ただし、「地域内消費+就業継続の価値+家族送迎削減額+自動車保有費削減額+観光消費」などをそのまま単純に足し算すればよいわけではありません。例えば、公共交通によって就職でき、その所得によって地域内消費が増えた場合、就業効果と消費効果の一部を二重に計上する可能性があります。したがって、これらは単純な会計式ではなく、公共交通によって生じる社会的便益の項目として整理し、重複を避けて評価する必要があります。

雇用へのアクセスという役割

 地方の人手不足は、求人そのものが不足している場合だけではありません。求人先まで移動できないため、働きたい人と事業所を結び付けられない場合もあります。特に高校生、若年者、運転免許を持たない人、地域によっては外国人労働者などにとって、工場、病院、介護施設、ホテル、スーパーなどへの交通手段がなければ、地域内に求人が存在していても就業できません。このため通勤時間帯の公共交通は、単なる福祉政策ではなく、地域の労働供給を支える経済政策として評価する必要があります。

観光と二次交通

 鉄道や高速バスで地域まで到達できても、その先の観光地、宿泊施設、海岸、温泉、道の駅などへ移動できなければ、自動車を持たない観光客にとってその地域は訪問しにくくなります。一方、観光客だけを対象にした路線は季節や曜日によって需要が大きく変動します。そのため、住民交通と観光交通を完全に分離するのではなく、平日は通院・通学、休日は観光、繁忙期には増便するなど、車両や人員を効率的に利用する方法も検討する価値があります。

路線バスの採算を数理的に考える

 運賃収入だけで運行費用を回収すると仮定した場合、1便当たりに必要な利用者数は、おおむね「1便当たり運行費用÷平均運賃」で求めることができます。例えば、1便当たりの運行費用を1万2,000円、平均運賃を400円と仮定すれば、運賃収入だけで費用を回収するためには平均30人が必要です。

 ただし、この1万2,000円という数字は説明用の仮定にすぎません。実際の費用は、路線距離、運転時間、回送距離、運転士の拘束時間、車両費、営業所費、整備費などによって大きく変わります。「地方路線は30人乗らなければ成立しない」という意味ではありません。また、公的支援を含めて考える場合には、運行費用から公的負担分を差し引いた残りを運賃収入でどの程度賄うかという考え方になります。重要なのは、補助金の有無だけではなく、同じ金額で他の交通手段を提供した場合と比較してどちらが効率的かを見ることです。

利用者数だけではなく輸送距離を見る

 1便当たりの人数だけでは、路線の効率を十分に評価できません。同じ10人でも、全員が始点から終点まで乗る場合と、短い区間だけ利用する場合では輸送量が異なるためです。公共交通の輸送量を見る代表的な指標に「輸送人キロ」があります。10人が平均10キロメートル移動すれば100人キロです。

 一方、バスが提供できる輸送能力は「乗車定員×走行距離」で考えることができ、国土交通統計では能力人キロという考え方が使われます。例えば乗車定員40人の車両が20キロメートル走れば800能力人キロです。平均5人が20キロメートル乗車すれば輸送人キロは100人キロとなり、単純な利用率は12.5%です。

 このような低い利用率が恒常的に続く場合には、大型バスのまま運行を続けるより、小型車両や別の交通方式を検討する合理性が高まります。ただし、ピーク時間帯の利用、災害時の役割、通学需要なども含めて判断する必要があります。

車両を小さくすれば解決するのか

 「路線バス」という言葉から、40~60人以上が乗れる大型バスだけを想定する必要はありません。需要に応じて大型バス、中型バス、小型バス、ワゴン車、乗合タクシーなどを使い分けることが重要です。車両を小型化すれば、車両価格、燃料費、整備費、狭い道路への対応などで有利になる場合があります。しかし、運転士が1人必要であることは基本的に変わりません。そのため、車両を半分の大きさにしても運行費用が半分になるとは限らず、人件費の割合が高い路線では、小型化だけでは赤字問題を解決できません。

「幹・枝・葉」で考える

 今後の地域交通では、すべての集落から中心地まで1本の固定路線で直接結ぶのではなく、需要密度に応じて交通網を階層化する考え方が有効です。「幹」に当たる交通は、鉄道駅、中心市街地、中核病院、高校、大型商業施設、観光拠点などを結ぶ定時定路線で、一定量の需要が集約できる区間では、ある程度の頻度と速達性を確保します。

 「枝」に当たる交通は、複数の住宅地や集落から幹線交通の乗り継ぎ拠点までを結ぶもので、小型バスやコミュニティバスなどが候補になります。「葉」に当たる交通は、住宅が広く分散した地区から最寄りの交通拠点や生活拠点までを結ぶもので、デマンド交通、乗合タクシー、公共ライドシェアなどが候補となります。このように、定時定路線と地域内交通を組み合わせる考え方は、現在の国の地域公共交通政策とも整合しています。

ダイヤは目的地に合わせる

 地方では、一定間隔でバスを走らせるだけでは十分ではありません。需要が病院の受付開始前、高校の始業前、鉄道の到着・出発時刻、工場や介護施設の勤務交代時間などに集中することがあり、そのため、運行本数だけでなく「必要な時刻に必要な場所へ到着できるか」が重要です。

 また、往路だけではなく復路も重要です。病院へ行くバスが存在しても、診察後に帰りのバスまで数時間待たなければならないのであれば、実用的な交通とは言いにくくなります。自動車なら往復を含め2時間程度で済む通院が、公共交通では6時間かかるのであれば、形式上は移動可能であっても利用されにくいでしょう。公共交通は「路線が存在するか」ではなく、生活全体に必要となる総所要時間で評価する必要があります。

デマンド交通は万能ではない

 デマンド交通は、利用者の予約に応じて運行経路や時刻を調整する方式で、人口密度が低く、利用者の出発地点や時間が分散している地域では有効です。一方、朝夕の通勤・通学のように同一方向・同一時間帯へ利用者が集中する場合、デマンド交通へ全面的に転換すると効率が悪くなる可能性があります。

 例えば、同じ時間帯に同じ方向へ多数の利用者が移動し、その需要を一つの経路へ集約できる場合には、複数のデマンド車両を走らせるよりも、1台の定時定路線車両でまとめて輸送する方が、必要な運転士数や車両数を少なくできる場合があります。ただし、「20人いれば必ず路線バスが有利」といった固定的な境界を設けることも適切ではありません。20人の出発地が広範囲に分散していれば、1本のバス路線へ集約するために大きな迂回が必要になるからです。重要なのは人数だけではなく、時間、方向、出発地点、目的地がどの程度集約できるかです。

スクールバスや送迎車との統合

 地方では、路線バスとは別にスクールバス、病院送迎車、高齢者施設送迎、福祉バス、企業送迎、宿泊施設送迎など、多数の車両が運行されています。これらがそれぞれ別の車両、運転士、予算で運行されれば、地域全体では輸送資源が重複する可能性があります。例えば、登下校時間以外に使われていないスクールバスを住民交通へ活用することができれば、車両利用率を高められる場合があります。

 実際に、路線バスとスクールバスを統合し、一般住民と児童生徒が同じ交通手段を利用する事例もあります。ただし、道路運送法上の位置付け、保険、児童の安全、運行時刻、運賃、委託契約、事故時の責任などを調整する必要があり、「空いている車両をそのまま住民に開放すればよい」という単純な問題ではありません。

自動運転は解決策になるのか

 自動運転は長期的には運転士不足を緩和する可能性があります。しかし、現時点で過疎地域の交通問題を自動運転だけで全面的に解決できる状況ではありません。自動運転車両そのものに加えて、遠隔監視、通信設備、システム保守、事故時対応、落下物や悪天候への対応、車内安全確認、高齢者や障害者の乗降支援などが必要になるからです。したがって、自動運転の普及を待つのではなく、当面は路線再編、ダイヤ改善、輸送資源の共同利用、小型化、運転士確保、デマンド交通との役割分担などを進める必要があります。

補助金を入れれば維持できるのか

 人口密度の低い地域の公共交通は、公的支援なしでは維持できない場合が多くあります。しかし、赤字額をそのまま補填すればよいわけではありません。例えば年間補助額3,000万円で年間利用者3万人なら、単純計算の公費負担は1乗車当たり1,000円です。同じ補助額で年間利用者が1万人なら3,000円になります。この金額を、乗合タクシー、デマンド交通、タクシー助成、公共ライドシェア、移動販売、訪問診療などの代替策と比較することが重要です。

 評価指標としては、1便当たり利用者数、1乗車当たり公費負担、1人キロ当たり公費負担、通院・通学可能人口、自動車を利用できない住民のカバー率、家族送迎時間の削減などが考えられます。収支率だけが高くても、必要な住民が利用できなければ公共交通としての役割を果たしていません。反対に、収支率が低くても、医療や教育へのアクセスを維持することで他の行政費用を減らしている可能性があります。

路線バスを再構築しやすい地域

 定時定路線型の交通が成立しやすいのは、沿線に一定の人口があり、駅、病院、学校、商業施設など主要な目的地を同じ方向へ結ぶことができ、通勤・通学など定期的な需要が発生する地域です。鉄道との接続を改善できる、観光需要を組み合わせられる、スクールバスや企業送迎など既存の輸送資源と連携できる、自治体境界を越えて生活圏単位で運行できるといった条件が加われば、成立可能性はさらに高くなります。

 重要なのは、市町村境界ではなく実際の生活圏です。住民が日常的に隣接自治体の病院やスーパーへ移動しているにもかかわらず、市町村内だけを循環する交通を整備しても、住民の移動需要には十分に対応できません。

固定路線が成立しにくい地域

 住宅が広く分散し、利用者の目的地が複数方向に分かれ、時間帯もばらばらである場合、固定路線バスは非効率になりやすくなります。また、運行本数を1日1~2便程度しか確保できず、鉄道や病院などの時刻とも接続せず、既存のスクールバスや福祉車両と重複する場合には、「路線バスを走らせている」という事実だけが残り、実際には利用されない可能性があります。

 このような地域では、特定の「1便当たり利用者数」を機械的な基準にするのではなく、固定路線、デマンド交通、乗合タクシー、タクシー助成などを、1人当たり総費用と利用可能性の両面から比較する必要があります。

外房地域で考える場合

 外房地域では、鉄道駅、病院、スーパー、行政施設、観光地などが離れている地域が多く、自家用車への依存度が高い一方、人口密度の低さから自治体ごとに小規模な固定路線を運行しても十分な利用者を確保できない可能性があります。

 交通ネットワークの仮説としては、茂原駅と長生郡内の主要拠点、大原駅といすみ市内の医療・商業拠点、勝浦駅と住宅地・医療施設、御宿駅と住宅地・商業施設、さらに鴨川方面の中核医療機関などを結ぶ交通を「幹」として考えることができます。そこへ各集落や住宅地から駅や地域拠点へ向かう小型交通を「枝」として接続し、さらに人口が分散する地域ではデマンド交通、乗合タクシー、公共ライドシェア、福祉輸送などを「葉」として組み合わせる構造が考えられます。

 ただし、これは交通ネットワークの考え方を示した仮説であり、具体的な路線の採算性や必要性が実証されたわけではありません。実際に外房地域で路線を設計するには、停留所別・便別の乗降人数、人口分布、年齢構成、病院の受診先、買い物先、通学先、通勤先、鉄道時刻、観光客の移動、既存のスクールバスや福祉車両などを確認する必要があります。

現実性の低い主張

 「以前の路線をそのまま復活させれば利用者が戻る」という考え方には注意が必要です。住宅や病院、スーパーなどの位置が変化していれば、以前と同じ路線を復活させても現在の生活動線には合わない可能性があります。また、「高齢者が増えるからバス利用者も増える」という考え方も単純すぎます。高齢化率が上昇しても高齢者数そのものが減少する地域があり、家族送迎や施設送迎、デマンド交通、タクシーなどへ需要が分散する可能性もあります。

 「無料にすれば利用者が増える」とも限りません。運賃が無料でも、目的地、運行時刻、便数が合わなければ利用されないからです。「デマンド交通にすればすべて効率化できる」という考えも適切ではなく、時間と方向が集中する需要では、定時定路線の方が少ない車両と運転士で大量輸送できる場合があります。

 また、「小型車両なら赤字がなくなる」ということもありません。車両費や燃料費を削減できても、運転士人件費や運行管理費は残ります。「自動運転になればすぐ解決する」という見方にも注意が必要で、遠隔監視、保守、安全管理など、新たな費用と人員が必要になります。そして「補助金を増やせば維持できる」という考えにも限界があります。運転士不足が深刻化すれば、予算があっても運行できない可能性があるからです。

自治体が調べるべきデータ

 交通再編を行う前には、停留所別乗降者数、便別利用者数、曜日・時間帯別利用者数、利用目的、病院・学校・スーパーへの移動需要、鉄道との接続状況、自動車を利用できない住民数などを把握する必要があります。さらに、既存のスクールバスや福祉車両、1便当たり運行費用、1乗車当たり公費負担、運転士数と年齢構成、車両更新時期、路線を廃止した場合の代替交通費用、家族送迎の時間負担、観光客の移動需要なども必要です。

 特に重要なのは「現在バスに何人乗っているか」だけではありません。現在の路線が不便なため利用されていない潜在需要が存在する可能性があるからです。公共交通の成果は、バスを何便走らせたかではなく、住民が必要な時刻に必要な場所へ実際に移動できたかによって評価する必要があります。

2026年以降の制度から見た方向性

 2026年の地域公共交通政策でも、単独の路線バスを維持するだけではなく、バス、タクシー、デマンド交通、公共ライドシェア、スクールバス、福祉輸送など、地域に存在する輸送資源を総合的に活用する方向が強まっています。2026年6月には地域公共交通に関する法律改正が公布され、同年10月16日の施行が予定されています。改正では、交通空白の解消、交通事業者間の共同化・協業化、地域に存在する輸送資源の活用、モビリティデータの利用などが重視されています。

 つまり、現在の政策の中心は「昔の路線バスを復活させること」ではありません。地域内に存在する人、車両、予算、データを組み合わせ、最も効率的に移動を確保する交通体系へ再編することです。

現実的な結論

 過疎地域の路線バスは、昭和後期から平成初期にかけて、自家用車の普及、生活圏の変化、利用者減少などによって減便されました。平成中期以降には採算悪化、事業者再編、制度変更などが重なり、路線廃止が進みました。そして令和期には、これらに運転士不足という新たな供給制約が加わっています。

 一方、人口が減少しても、住民の移動そのものがなくなるわけではありません。病院、学校、スーパーなどが集約されれば、移動距離が長くなる一方、特定の拠点へ需要をまとめられる可能性もあります。したがって、一定の人口と目的地が同一方向に集約できる区間では、定時定路線型のバスを維持または再構築する合理性があります。一方、住宅が広く分散し、利用時間や目的地がばらばらな地域では、デマンド交通、乗合タクシー、公共ライドシェアなどを組み合わせた方が合理的な場合があります。

 必要なのは、昭和型の路線網をそのまま復活させることではありません。幹線は定時定路線、支線は小型交通、分散地域はデマンド交通などと役割を分け、通学、通院、福祉、観光などの輸送資源を可能な範囲で共同化し、鉄道、病院、学校、商業施設などとダイヤを連動させ、自治体境界ではなく実際の生活圏を基準に設計することです。

 公共交通は単なる「赤字事業」ではありません。住民が買い物をし、病院へ通い、学校へ通い、仕事を続け、観光客が地域内を移動するための社会基盤です。しかし、利用者がほとんどいない路線を大型バスで維持し続けることも、財政、人材、環境の面から持続可能とは言えません。

 今後の課題は「路線バスを残すか廃止するか」ではなく、「どの区間を定時定路線として維持し、どの区間を別の交通手段へ転換し、それらをどのようにつなぐか」を、実際の移動データと費用から判断することです。効率的に再設計された路線バスは、一定の需要を集約できる地域では、地方の生活機能と地域経済を維持する有力な交通手段の一つになり得ます。しかし、それが有効になるのは、路線、便数、車両、乗り継ぎ、他分野の送迎、運転士確保までを一体として設計した場合です。

 過疎地域に必要なのは「バスを復活させること」そのものではありません。限られた人口、財源、車両、運転士を使い、住民が必要な場所へ実際に移動できる仕組みを再構築することです。

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 地方で自動車の運転をやめることは、単に買い物や外出の方法を変えることではありません。高齢期に必要となる医療をどのように受け続けるのかという、生活基盤そのものを組み直す問題でもあります。

 茂原市、長生郡、いすみ市、勝浦市、大多喜町、御宿町などの外房地域には、鉄道、路線バス、コミュニティバス、デマンド交通、一般タクシー、高齢者向けタクシー助成、医療機関独自の送迎などがあります。しかし、「交通制度が存在すること」と「免許返納後も無理なく通院できること」は同じではなく、自宅から駅やバス停まで歩けるのか、病院の予約時刻に間に合うのか、診察が長引いても帰宅できるのか、市町村外の専門病院まで移動できるのか、さらに身体機能が低下した後も同じ方法を利用できるのかによって、実際の通院可能性は大きく変わります。

 特に問題になりやすいのは、月1回程度の近隣診療所への通院ではなく、複数の診療科を受診する場合、市町村外の専門病院へ通う場合、あるいは人工透析、リハビリテーション、がん治療などで頻繁な通院が必要になった場合です。この記事では、自治体を単純に順位付けするのではなく、茂原・長生・夷隅地域に共通する交通、医療、家計、身体機能の条件から、免許返納後の通院がどこまで現実的なのかを検討します。

 なお、本稿は2026年10月時点の制度や交通状況を前提としています。地域公共交通は年度途中でも運行区域、料金、利用条件、ダイヤなどが変更されることがあるため、実際の利用時には自治体や交通事業者への確認が必要です。

最初に結論~近距離で通院頻度が低ければ対応可能だが、頻回・広域通院になるほど難しくなる

 茂原・長生・夷隅地域では、免許を返納したからといって直ちに通院できなくなるわけではありません。自宅が駅やバス停に比較的近く、通院先が同じ市町村内にあり、月1回程度の受診で、自力で歩行や乗降ができるのであれば、バス、デマンド交通、タクシーなどを組み合わせて生活できる可能性があります。

 一方、自宅から駅やバス停まで遠い、市町村外の病院へ通う、診察終了時刻が読めない、複数の交通機関を乗り継ぐ、週1回以上の通院がある、付き添いを必要とする、車椅子や歩行器を使用する、認知機能に不安がある、早朝や夕方以降に移動する必要がある、といった条件が重なるほど、公共交通だけで通院を続けることは難しくなります。したがって、免許返納後の通院可能性を左右するのは自治体名だけではなく、自宅と医療機関の位置関係、市町村外への移動可能性、通院頻度、本人の身体機能、そしてタクシーや家族送迎を長期間維持できるかという条件を総合的に考える必要があります。

1.茂原・長生・夷隅地域の医療は広域的な移動を前提としている

 茂原市、長生郡、いすみ市、勝浦市、大多喜町、御宿町などは、千葉県の山武長生夷隅保健医療圏に含まれています。地域内には診療所や病院がありますが、病気の種類や重症度によっては、東金市、市原市、千葉市、鴨川市などの医療機関を利用する必要があります。

 千葉県の保健医療計画でも、この医療圏では外来患者の圏域外流出がみられ、医師の地域偏在も課題とされています。ただし、計画に掲載されている患者流動の一部は過去の患者調査などを基礎にした推計値であり、「2026年に毎日その人数が移動している」という意味ではありません。それでも、高度な検査や専門医療を地域内だけで完全に賄うことが難しいという構造自体は重要です。

医療の段階 主な受診先の考え方
日常的な診療 近隣の診療所、かかりつけ医
検査・入院・一般的な手術 茂原市、長柄町、いすみ市、勝浦市などの地域病院
高度な専門医療 東金市、市原市、千葉市、鴨川市など
退院後の療養 回復期医療、在宅医療、訪問看護、介護施設など

 本人または家族が自動車を運転できる間は、この広域的な医療構造をそれほど意識しないことがあります。しかし、夫婦とも運転できなくなると、「病院が存在すること」よりも「そこまで移動できること」が重要になります。

2.病院まで何キロメートルかだけでは通院の難しさは分からない

 免許返納後の通院を評価するとき、住宅と病院の直線距離だけを見るのは不十分です。実際には、自宅から駅やバス停までの移動、そこから医療機関付近までの交通、降車地点から病院受付までの歩行、そして診察終了後に同じ経路で帰宅できるかという一連の移動を確認する必要があります。

 例えば病院まで5キロメートルしかなくても、最寄りのバス停まで1キロメートル以上あり、バスが1日数本しかなければ、高齢者にとって実用的な通院手段とはいえない場合があります。反対に病院まで15キロメートルあっても、自宅付近から予約制交通に乗ることができ、病院近くまで直接移動できるなら、身体的負担は小さいことがあります。このため、通院負担は「移動距離+待ち時間」という単純な計算では評価できず、移動時間、待ち時間、歩行距離、乗換回数、料金、坂道や段差、雨天時の移動、身体機能など、単位の異なる複数の要素を総合的に評価する必要があります。

3.月1回程度の近隣通院であれば比較的対応しやすい

 免許返納後も比較的対応しやすいのは、自宅から数キロメートル程度の内科などへ月1回通院し、本人が一人で歩行・乗降できるケースです。この程度であれば、地域交通と必要時のタクシーを組み合わせることで対応できる可能性があります。

 ただし、現在の通院回数だけで将来を判断してはいけません。年齢が上がれば、内科だけでなく眼科、整形外科、歯科、検査のための病院受診などが加わる可能性があり、夫婦二人について考えれば、条件によっては年間30~50往復程度の医療機関への移動が必要になることも考えられます。これは「外房地域の高齢夫婦は一般的に年間30~50往復する」という統計を意味するものではなく、複数の診療科を受診する家庭を想定した一つの生活モデルです。現在月1回通院できているからといって、10年後も同じ交通条件で生活できるとは限りません。

4.市町村を越える専門外来では難易度が上がる

 外房地域では、日常的な内科診療は近隣で受けられても、専門的な検査や治療のために別の市町村へ移動する場合があります。長生郡から茂原市、茂原・長生地域から東金市や市原市、いすみ・勝浦地域から鴨川市、さらに千葉市内の専門医療機関へ移動するケースなどが考えられます。

 自治体のデマンド交通や福祉交通は、市町村内を主な対象としている制度が少なくありません。その場合、自宅から駅まで自治体交通、駅から地域外まで鉄道、最寄り駅から病院までバスまたはタクシーという複数段階の移動が必要になります。

 問題になるのは運賃だけではなく、乗換時間、駅の階段、バスとの接続、診察終了時刻の不確実性、予約交通の最終便、体調が悪い状態での長時間移動などです。特に午前中の検査や専門外来では、自治体交通の始発前に出発しなければならない場合もあるため、市外通院では「公共交通があるか」ではなく、「予約された時刻まで実際に到着し、診察終了後に帰宅できるか」を往復で確認する必要があります。

5.コミュニティバスは安価だが、診察時刻との相性が問題になる

 茂原・長生・夷隅地域では、市民バスや町民バスなど複数の地域交通が運行されています。一般タクシーより料金が低いことは大きな利点ですが、通院では運行本数と診察時刻の組合せが問題になります。

 例えば午前9時の予約に始発便では間に合わない、逆に診察が予定より長引いて帰りの便まで数時間待つ、といったことがあります。また、病院近くを通る路線であっても入口まで数百メートル歩かなければならなかったり、平日の特定曜日しか運行しなかったりすることもあります。このためコミュニティバスは、運行経路、時刻、身体機能が合う利用者には非常に有効ですが、すべての通院を安定して支えられる交通手段ではありません。

6.デマンド交通は便利だが、制度ごとの差が非常に大きい

 デマンド交通は、予約に応じて運行する乗合型交通です。定時定路線型のバスより自宅付近から利用しやすく、バス停まで長距離を歩くことが難しい高齢者にとって有力な交通手段となります。

 ただし、制度によって利用条件は大きく異なります。事前登録が必要な場合、予約可能時間が限定されている場合、市町村内しか移動できない場合、指定乗降場所しか利用できない場合、早朝・夜間・休日には運行しない場合などがあり、車椅子利用者や介助が必要な人が単独では利用できない制度もあります。

 勝浦市などではデマンド型交通や高齢者へのタクシー支援、自家用有償旅客運送の実証的な取り組みも進められていますが、制度が存在することと、全市域の住民が同じ条件で利用できることは別問題です。デマンド交通を通院手段として評価するときは、「自宅付近から乗れるか」「通院先まで直接行けるか」「市町村外へ行けるか」「診察終了後に帰りの便を確保できるか」の四つを最低限確認する必要があります。

7.いすみ鉄道は現在、通常の鉄道交通として計算できない

 いすみ地域の交通を考える場合には、2026年現在のいすみ鉄道の状況にも注意が必要です。いすみ鉄道は2024年10月の脱線事故以降、鉄道としての運行を休止しており、2026年10月時点では代行バスによる輸送が続いています。

 そのため、過去の路線図だけを見て「いすみ鉄道があるから大原、大多喜方面の移動は可能」と考えるのは適切ではありません。鉄道復旧後には状況が変わる可能性がありますが、現在の免許返納後の交通計画では、代行輸送の時刻や乗換条件を基準に考える必要があります。

8.一般タクシーは柔軟だが、実際の費用は小さくない

 免許返納後の通院で最も柔軟なのは一般タクシーです。自宅から病院まで直接移動でき、乗換えを必要とせず、歩行距離も短くできる一方、距離と通院回数が増えるほど費用は急速に大きくなります。

 2026年に千葉県で適用されている一般的な普通車運賃は、初乗り約1.06キロメートルが470~500円程度で、その後はおおむね220~240メートル前後ごとに100円が加算される体系です。この運賃体系を単純に距離だけへ当てはめ、時間距離併用運賃、迎車料金、有料道路料金などを含めず計算すると、次の程度になります。

病院までの片道距離 往復料金の概算
5キロメートル 約4,300~4,600円
10キロメートル 約8,700~9,200円
20キロメートル 約1万7,100~1万8,200円
40キロメートル 約3万4,100~3万6,400円

 これはあくまで走行距離だけによるモデルです。実際には信号待ちや渋滞などによる時間距離併用運賃、迎車料金などが加わり、さらに高くなる可能性がある一方、自治体の助成券や障害者割引などが利用できれば、本人負担が小さくなる場合があります。この数字から分かるのは、月1回程度の近距離通院ならタクシーを選択肢にできても、市外の専門病院への頻回通院では家計負担が急速に増えるということです。

9.家族送迎は現金支出が少なくても無料ではない

 免許返納後について「家族に送ってもらえばよい」と考える場合があります。しかし家族送迎にも、燃料費、車両の消耗、駐車料金などの金銭的費用だけでなく、送迎時間、診察中の待ち時間、薬局での待機、仕事や家事の中断という時間的費用があります。

 例えば病院まで片道30分かかり、診察、会計、薬局で3時間程度必要なら、家族が拘束される時間は合計4~5時間程度になることがあります。これを月2回行えば年間では約96~120時間となり、夫婦二人の通院や複数診療科への受診が重なれば、さらに負担は増えます。家族が会社員なら有給休暇や半日休暇を使う場合があり、自営業者なら送迎時間中に得られたはずの所得を失う可能性もあるため、家族送迎はタクシーより現金支出が少なく見えても、経済学的にはゼロコストとはいえません。

10.透析、リハビリテーション、がん治療では頻度が大きな問題になる

 免許返納後の交通問題が最も深刻になりやすいのは、頻回通院です。一般的な施設血液透析では週3回程度の通院が必要になることがあり、年間では約156回の往復になります。例えば1往復5,000円の移動費がかかれば年間78万円、1往復1万円なら年間156万円になりますが、実際には透析施設独自の送迎や介護・福祉サービスを利用できる場合もあり、全員が一般タクシーを利用するわけではありません。

 脳卒中や骨折、整形外科手術後のリハビリテーションでも、一定期間は週1~3回程度の通院が必要になる場合があります。がん治療でも、抗がん剤治療、放射線治療、検査などによって頻回の通院が生じることがあり、治療後に倦怠感や吐き気などが出れば、一人で鉄道やバスを利用すること自体が難しくなることもあります。

 さらに、眼科、歯科、整形外科などは生命に直結する診療ではないように見えても、視力、咀嚼能力、歩行能力を維持するうえで重要です。交通手段がないため受診を繰り返し先延ばしにすれば、長期的には生活機能を悪化させる可能性があります。

11.鉄道駅に近ければ必ず安心というわけでもない

 JR(Japan Railways・旅客鉄道会社)外房線の茂原駅、大原駅、勝浦駅、御宿駅などの近くに住めば、広域移動の選択肢は増えます。しかし駅に近いことと、医療機関に通いやすいことは同じではありません。

 自宅から駅まで平坦なのか、駅構内を無理なく移動できるのか、病院の最寄り駅から路線バスがあるのか、バス停から病院まで歩けるのか、診察終了後に長時間待たず帰宅できるのかという条件まで確認する必要があります。さらに鉄道と病院の間をタクシーで移動する場合、自宅から駅までの交通費、鉄道運賃、駅から病院までのタクシー料金が重なるため、条件によっては自宅から病院まで直接タクシーを利用した場合との差が想像ほど大きくならないこともあります。

12.自治体の支援制度は「無料かどうか」だけでは比較できない

 茂原・長生・夷隅地域には、市民バス、町民バス、デマンド交通、高齢者向けタクシー助成、福祉タクシーなど多様な制度があります。しかし、自治体別に制度の数や料金だけを並べて優劣を決めることには注意が必要です。

 同じ「タクシー助成」でも、対象年齢、免許返納の有無、障害者手帳の要否、所得条件、利用できる地域、年間利用回数、1回当たりの助成上限などが異なります。デマンド交通についても、全住民が使える制度と一定年齢以上だけが対象の制度、市町村全域を走る制度と特定地域だけを対象とする制度があります。

確認項目 確認すべき内容
対象者 年齢、居住地などの利用条件を満たすか
運行範囲 実際の通院先まで移動できるか
運行時間 診察予約と帰宅時刻に対応できるか
予約条件 当日予約が可能か、前日まで必要か
利用回数 頻回通院にも対応できるか
身体条件 車椅子、歩行器、介助に対応できるか

 したがって、「無料だから優れている」「制度があるから免許を返納しても安心」と単純に評価することはできません。実際に自分が通う病院への往復が成立するかどうかで評価する必要があります。

13.免許返納後の通院費は1回ではなく10年間で考える

 通院交通費は、1回単位で見ると大きな金額に感じない場合があります。しかし高齢期の生活設計では、年間、さらに10年間という期間で考える必要があります。以下では比較しやすくするため、実際のタクシー運賃とは別に、1往復4,500円または9,000円という単純なモデルを設定します。

ケース 年間交通費 10年間
月1回・1往復4,500円 5万4,000円 54万円
月2回・1往復9,000円 21万6,000円 216万円
夫婦が各月2回・1往復9,000円 43万2,000円 432万円
週1回・1往復9,000円 46万8,000円 468万円
週3回・1往復9,000円 140万4,000円 1,404万円

 夫婦がそれぞれ月2回通院する場合には、夫2回、妻2回の合計月4往復となるため、1往復9,000円なら月3万6,000円、年間43万2,000円です。以前のように1人分の月額料金をもう一度4回分掛けると二重計算になるため注意が必要です。

 また、この表は自治体助成、医療機関の送迎、運賃改定、迎車料金などを含まない単純モデルです。それでも、低頻度の通院と週数回の頻回通院では家計への影響がまったく異なることが分かります。

14.自動車維持費とタクシー料金だけを比較してはいけない

 免許返納については「年間の自動車維持費よりタクシー代の方が安い」と説明されることがあります。確かに自動車には車両購入費、自動車税、自動車重量税、自賠責保険、任意保険、車検、点検整備、タイヤ、バッテリー、燃料費、修理費、駐車料金などが必要です。

 年間の自動車保有費が数十万円かかる家庭では、通院が月1~2回程度なら、自動車を手放して必要時にタクシーを使った方が金銭的に有利になる場合があります。しかし、自動車は病院に行くためだけに所有しているわけではなく、買い物、金融機関、役所、理美容、家族訪問、墓参り、配偶者の通院、急な外出などにも使われます。そのため、「自動車年間50万円対通院タクシー年間20万円」のような比較だけでは不十分であり、免許返納後は通院だけでなく、買い物や日常生活を含めた年間の総移動費を計算する必要があります。

15.免許返納後も暮らしやすい住宅は、住宅価格だけでは決まらない

 外房地域で高齢期まで暮らす場合、住宅価格、土地の広さ、海への近さなどと同じくらい、医療と交通へのアクセスが重要になります。例えば診療所やスーパーが比較的近く、駅やバス停まで無理なく歩け、坂道や階段が少なく、デマンド交通の対象地域であり、タクシーを呼びやすい場所なら、自動車を運転できなくなった後も生活を維持しやすくなります。

 一方、山間部や丘陵地の奥、急坂のある住宅地、バス停まで1キロメートル以上ある地域、公共交通が1日数本しかない地域では、自動車を失ったときの影響が大きくなります。「診療所まで2~3キロメートル」「バス停まで徒歩5~10分」「地域病院まで30分程度」といった条件は一つの目安としては利用できますが、全国共通の医学的安全基準ではありません。高齢者の歩行能力には大きな個人差があるため、距離よりも実際に本人が安全に移動できるかどうかを優先すべきです。

16.免許返納前に一度、自動車を使わず病院へ行ってみる

 免許返納を考えている人にとって最も実践的なのは、まだ運転できる段階で一度、自動車を使わず普段の病院まで往復してみることです。地図、時刻表、インターネットの乗換案内を見るだけでは分からない問題があり、実際に試すことで、自宅から駅やバス停まで何分かかるのか、雨の日でも歩けるのか、予約時刻に間に合うのか、診察終了後に帰宅手段があるのか、薬局まで移動できるのか、乗換場所に座って待つ場所があるのか、タクシーを必要な時間帯に呼べるのか、そして1回の通院で実際にいくらかかるのかを確認できます。

 夫婦の一方が運転を続ける家庭でも、この確認は重要です。運転する配偶者が病気になったり、先に免許を返納したりする可能性があるため、もう一方が単独で通院できる方法を確保しておく必要があります。

17.返納前に確認したい10項目

 免許返納を判断するときには、少なくとも、①かかりつけ医まで自動車なしで行けるか、②地域病院まで移動できるか、③市外の専門病院へ通えるか、④駅やバス停まで安全に歩けるか、⑤診察終了後に帰宅手段があるか、⑥デマンド交通の利用条件を満たしているか、⑦タクシー助成制度を利用できるか、⑧利用回数や時間帯に制限がないか、⑨家族送迎を長期間続けられるか、⑩現在の方法で通院できなくなった場合に住み替えなどの代替策を取れるか、を確認しておくことが重要です。

 このうち「3項目以上該当すれば危険」といった科学的に確立した判定基準があるわけではありません。ただし、複数の項目について明確な回答ができないのであれば、免許返納前に交通計画をさらに具体化した方が安全です。

現実的な結論~免許返納後の通院可能性は自治体名ではなく生活条件で決まる

 茂原・長生・夷隅地域には、鉄道、路線バス、コミュニティバス、デマンド交通、一般タクシー、タクシー助成、医療機関による送迎など複数の選択肢があるため、免許を返納すれば一切通院できなくなる地域というわけではありません。月1回程度の近距離通院であり、本人が一人で移動できるのであれば、公共交通とタクシーを組み合わせて対応できる可能性は十分あります。

 しかし、市町村外の専門病院、週1回以上のリハビリテーション、週3回程度の人工透析、一定期間繰り返し受診するがん治療などになると、交通費、移動時間、身体負担、家族負担のすべてが大きくなります。また、同じ自治体の中でも駅前と山間部、平坦な市街地と丘陵住宅地では条件が大きく違うため、自治体に制度があるかどうかより、「自分の家から自分が利用する病院まで実際に往復できるか」の方が重要です。

 高齢期の住宅を考えるときも、「今、自動車を運転できるから問題ない」という判断だけでは十分ではありません。本人と配偶者の双方が運転できなくなった状態を想定し、それでも日常診療、専門医療、買い物などを続けられるかまで確認しておく必要があります。

 免許返納は、単に運転免許証を返す行政手続きではありません。公共交通、医療機関、家計、住宅、身体機能、家族支援をまとめて考える生活設計の問題であり、最も現実的な対策は、元気で自動車を運転できるうちに一度、自動車を使わず普段の病院へ往復してみることです。そのうえで、公共交通、タクシー、自治体助成、家族送迎などを組み合わせた年間交通費と所要時間を計算しておけば、免許返納後の生活をかなり具体的に予測できます。

 「運転できなくなってから考える」のではなく、「運転できるうちに、運転しない生活を試しておく」。外房地域で高齢期まで暮らすことを考えるなら、この準備が免許返納後の通院を左右する重要なポイントになります。

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