地域分析記事

地域の暮らしと地域課題を数学とデータで考える

地方の水道は巨大な配管網より小規模分散型水循環の方が合理的になるのか

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 地方の集落を歩いていると、ときどき道路の下にあるものの大きさを想像したくなる。山あいに十数軒の家が並び、その先は森になっているような場所にも水道管は延びている。蛇口をひねれば、何キロメートルも離れた浄水場で処理された水が届く。それは近代日本が築いてきた公共インフラの成果であり、私たちは日常生活のなかで、その仕組みをほとんど意識することなく安全な水を使っている。

 ところが人口が増え続けることを前提として整備されてきた水道施設は、人口が減り続ける社会に入ると、これまでとは異なる問題を抱えるようになる。水道の問題というと、多くの場合は水道管の老朽化や漏水が話題になるが、人口減少地域で深刻なのは、古くなった管そのものだけではない。その管を経済的に支える住民が減っていくことである。

 地方の水道を将来も維持するには、古い水道管を新しいものへ交換し続けるしかないのだろうか。それとも、人口の少ない地域では、集落の近くで水を処理したり、必要な水を車両で運んだりする小規模分散型の方が合理的になるのだろうか。この問いは、単なる技術の比較ではなく、人口減少時代の公共サービスをどのような形で残すべきかという、地方自治と地域経済の根本的な問題につながっている。

人口が半減しても、水道管の長さは半分にならない

 国土交通省が公表した2023年度の統計によれば、全国の水道管路の総延長は約74万6000キロメートルに達し、そのうち法定耐用年数である40年を超えた管路の割合は25.3%となっている。一方、年間に更新される管路は約4500キロメートルで、全体の0.61%程度にとどまる。現在40年を超えている約18万9000キロメートルの管路を今後20年間で更新すると仮定すれば、年間約9400キロメートル、更新率では約1.3%が必要となり、現状のおよそ2倍の速度で工事を進めなければならない計算になる。

 ただし、ここでいう法定耐用年数40年は、すべての水道管が40年を経過すると物理的に使用できなくなるという意味ではない。実際の管路の寿命は、管の材質、地盤、腐食環境、水圧、施工状況、過去の漏水履歴などによって異なる。40年を超えた管路をすべて直ちに交換する必要があるわけではなく、健全度や耐震性能を調べ、更新の優先順位を決めることが重要である。また、今後20年間に必要な更新率の試算も、現時点ですでに40年を超えている管路を対象とした単純計算であり、将来新たに老朽化する管路の更新需要をすべて含んだものではない。

 それでも、水道管路の維持に大きな費用が必要になるという構造は変わらない。しかも人口減少地域では、水道の利用者が減っても、水道管の長さは同じ割合では減らない。仮に100人が暮らす集落まで3キロメートルの管路を延ばしているなら、一人当たりの管路延長は30メートルである。人口が50人になっても住宅の配置がそのままなら、必要な管路はほぼ3キロメートルのままであり、一人当たりでは60メートルになる。さらに25人まで減れば120メートルとなり、人口が4分の1になるだけで、一人当たりが支える管路延長は4倍に増える。

 人口が増えていた時代には、この性質は問題になりにくかった。一本の水道管を大勢で共有できれば、一人当たりの設備負担を小さくできるからである。しかし人口減少は、その計算を逆向きにする。利用者が減るほど一人が支える管路は長くなり、料金収入が減る一方で、道路の下に埋まっている管路の更新需要は残り続ける。人口減少地域の水道では、やがて「どれだけ水を使うか」だけでなく、「一人の生活を維持するために何メートルの管を支えなければならないか」が重要な経営指標になってくる。

 もっとも、一人当たりの管路延長が2倍になれば、一人当たりの水道費用も必ず2倍になるわけではない。水道事業の費用には、管路や浄水場など人口にかかわらず発生しやすい固定費と、水の使用量に応じて変化する電力費や薬品費などがあり、その構成は事業ごとに異なる。さらに料金収入は人口だけで決まるものではなく、企業や宿泊施設などの水需要、料金体系、漏水量、実際に料金収入につながる有収水量によっても変化する。したがって、一人当たり管路延長は水道経営の効率性を考える有力な指標ではあるが、それだけで事業の採算性や最適な給水方式を決めることはできない。

 人口減少には、水質管理上の問題もある。水道管の太さや配水施設の容量が従来のままで使用水量だけが減れば、管内に水が滞留する時間が長くなる場合がある。その結果、残留塩素濃度の低下や濁水の発生などを防ぐため、追加的な管理が必要になることもある。人口減少は単に水道料金を支える人を減らすだけでなく、従来の施設規模と実際の水需要との不均衡を生み出すのである。

国が「同じ水道を造り直す」以外の選択肢を示した

 この問題は、すでに研究者だけが議論している未来予測ではない。2026年3月31日、国土交通省は「水道事業における分散型システムの導入手引き」を公表し、従来の水道管網をそのまま更新する方法だけではなく、小規模な水道施設や運搬送水などを比較検討する考え方を示した。背景にあるのは、人口減少による料金収入の縮小、水道事業を担う職員の不足、施設の老朽化、自然災害への対応といった複数の課題である。

 手引きでは、分散型システムの導入を優先的に検討する地域の選定指標として、現在または将来の給水人口が100人以下、一人当たり管路延長が30メートル以上、法定耐用年数を超えた管路の割合が50%以上、または老朽化状況を十分に把握できていないことが示されている。これらは分散型への移行を義務づける条件ではなく、従来型の管路更新以外の方法も比較する価値が高い地域を見つけるための目安である。指標に該当しなくても、地形や管路の配置などによっては分散型が合理的になる可能性があり、反対に指標を満たしていても、従来型の方が有利な地域はあり得る。

 ここでいう給水人口100人以下とは、水道事業全体の給水人口が100人以下であることを意味しない。数万人に給水している水道事業であっても、その末端に位置する数十人の集落を対象に、分散型の導入を検討できる。つまり、自治体全体の水道を小規模施設へ置き換えるのではなく、人口や地形の条件が異なる地区ごとに最適な給水方式を選ぶという考え方である。

 実際にどちらが合理的かは、水源までの距離、地形、高低差、水質、既存施設の残存寿命、工事費、電力費、維持管理人員、将来人口、災害危険度などによって変わる。同じ人口50人の集落でも、近くに十分な水量と適切な水質を持つ地下水源がある場所と、水源そのものを確保しにくい場所では答えが違う。単に人口が少ないという理由だけで、全国一律に分散型へ切り替えることは合理的ではない。

 それでも国がこうした手引きを公表した意味は大きい。これまで水道政策では、既存施設をどう維持し、どう更新するかという議論が中心だったが、人口減少が進む地域では「本当に今と同じ形で更新する必要があるのか」という問いそのものが政策のなかに入ってきたからである。国土交通省が掲げる方向も、集中型を廃止して分散型へ全面的に移行するというものではなく、「集約型・分散型のベストミックスによる施設の最適配置」である。

大きな浄水場と小さな浄水場を比べても答えは出ない

 分散型の話をすると、「小さな浄水施設では効率が悪いのではないか」という疑問が生じる。これはもっともである。浄水処理だけを考えれば、大規模施設には一般に規模の経済が働きやすい。一つの設備で大量の水を処理すれば、設備費や運転管理費を多くの利用者で分担できるため、水量当たりの処理費用を低くしやすい。人口が密集した都市部で、大規模な浄水場と広域配水網が合理的になるのは、この仕組みが働くためである。

 ところが人口の少ない地域では、浄水に必要な費用だけを比較しても十分ではない。水をつくったあと、その水を何キロメートル運び、どれだけの管路を維持しなければならないのかまで考える必要がある。山の向こうに20戸しかない集落のために数キロメートルの老朽管を掘り返し、新しい管へ交換するのであれば、その集落の近くに小規模な浄水施設を設置した方が、浄水設備単体では割高でも、給水システム全体では安くなる可能性がある。

 つまり本当に比較すべきなのは、「大きな浄水場」と「小さな浄水場」ではない。「大きな浄水場と長い管路」と「小さな浄水施設と短い管路」という二つのシステム全体である。建設費だけでなく、維持管理費、修繕費、電力費、薬品費、設備更新費などを含めたLCC(Life Cycle Cost・ライフサイクルコスト、施設の建設から維持管理・更新までに必要となる総費用)を比較して初めて、どちらが経済的に有利なのかが見えてくる。

 この比較では、将来発生する費用を現在の価値に換算することも重要になる。例えば、建設時に多額の費用が必要でも、その後の維持管理費が小さい方式と、初期費用は安いものの毎年の運転費が高い方式では、評価する期間によって結論が変わる。一般に、将来の費用を現在価値へ換算する際には割引率を用いるが、その設定によっても比較結果は変化する。さらに人口減少、電力価格の上昇、工事単価の変動、設備寿命などについて複数の条件を設定し、結論がどの程度変わるかを調べる感度分析が必要になる。

 したがって、ある時点の工事費が安いという理由だけで分散型を選ぶことも、大規模施設の浄水単価が安いという理由だけで集中型を維持することも、十分な判断とはいえない。必要なのは、その地域で長期間にわたり、安全な水を安定して供給するための総費用を比較することである。

国の試算では、小規模水道施設が約25%安くなる事例もある

 国土交通省の2026年3月の手引きには、既存施設を更新し続ける案、浄水を車両などで運ぶ運搬送水、小規模な水道施設を設置する案を比較したケーススタディが掲載されている。このうち、全体の計画給水人口が約200人で、北部の対象地区が38人という事例では、15年間の概算費用について興味深い結果が示されている。

 既存施設を更新する案の15年間の概算費用は約8億500万円、運搬送水の案は約11億3200万円、小規模水道施設を整備する案は約6億700万円となっている。小規模水道施設を選んだ場合、既存施設の更新案より約1億9800万円、割合にして約25%安くなる計算である。これは、単に小型の浄水装置が安いという意味ではなく、長い管路の更新を減らせることによって、システム全体の費用が下がる可能性を示している。

 ただし、この数字を全国の人口減少地域へそのまま当てはめることはできない。試算は特定の水源、施設配置、配水管延長、工事単価、運転条件などを前提としており、15年間の整備費と維持管理費を比較した概算である。長期にわたる設備交換の不確実性や将来費用の現在価値評価まで、すべてを反映した完全な経済分析と同一視することはできない。また、この事例では運搬送水に1日25回の運搬が必要となる想定であり、運転手の人件費などが費用を押し上げている。人口が少なければ運搬送水が必ず安くなるというわけでもない。

 この試算から読み取るべきことは、「分散型なら必ず安い」という結論ではない。長大な管路を更新する費用まで含めると、従来型より小規模施設の方が安くなる条件が実際に存在するということである。どの方式が有利になるかは、地域ごとの人口、水需要、水源、運搬距離、設備構成によって変化するのであり、分散型が有利になる地域の割合や、全国で削減できる費用の総額まで、この事例から推計することはできない。

分散型水道と「水を循環させる家」は同じものではない

 ここで一つ、区別しておかなければならないことがある。現在、国が導入を具体的に検討している分散型水道と、住宅や小さな地域の内部で使用した水を再生して循環させる「小規模分散型水循環システム」は、同じ技術でも、同じ実用化段階にある仕組みでもない。

 現在の分散型水道として現実的に想定されているのは、集落の近くにある地下水や河川水などを小規模施設で処理して給水する方法や、別の浄水場で処理した水を車両などで運び、集落内の配水施設から供給する方法である。これらは従来の水道と同様に、外部の水源から取水し、必要な処理を行って利用者へ届ける仕組みであり、水を繰り返し循環させることを必須とするものではない。長い管路を維持する代わりに、水を処理する場所や運ぶ方法を変えるという考え方である。

 一方、さらにその先には、住宅や数戸の単位で水を循環させる仕組みが考えられている。雨水を集め、生活排水を処理して再利用することで、外部から新たに供給する水の量を少なくする。従来の水道が「遠くにある水源から水を送り続ける仕組み」だとすれば、こちらは「水を使う場所の近くで処理し、用途に応じて再利用する仕組み」であり、水供給のあり方を大きく変える可能性を持っている。

 実際、石川県珠洲市では、2024年の能登半島地震や土砂災害によって水道管の復旧が困難となった地域で、住宅向け小規模分散型水循環システムの実証が進められている。宝立町善野地区では、国の実証事業を活用して導入希望世帯へ設備が設置され、2025年12月22日から運用が開始された。これは、長大な水道管を復旧することが難しい地域において、別の水供給方式を実際の生活のなかで検証する取り組みである。

 ただし、実際の住宅で運用が始まったことと、全国どこでも長期間にわたり安定して利用できる技術として完成したことは異なる。年間を通した水質の安定性、装置の故障率、フィルターや膜の交換周期、電力供給、維持管理人員、交換部品の調達、設備更新を含む長期費用などについて、なお検証が必要である。2026年3月の分散型システム導入手引きでも、住宅単位の浄水装置などは技術実証が進行していることなどから、中心的な比較対象には含められていない。

 したがって、地方の水道が近い将来すべて家庭内循環型へ変わると考えるのは早すぎる。しかし、長大な管路を当然の前提とせず、地域の条件に応じて水を処理する場所や運ぶ距離を変えるという考え方が、政策と技術開発の双方で具体化し始めていることは確かである。

小規模になっても、水質基準まで小さくすることはできない

 小規模分散型の水道を考えるうえで、最も慎重な判断が必要になるのが水質管理である。飲料水には、病原微生物や有害な化学物質を十分に管理することが求められる。集落の近くに地下水や湧水が存在していても、その水がそのまま飲料水に適しているとは限らない。降雨による濁り、周辺の土地利用、土壌や地質の影響、微生物汚染などを調査し、必要な浄水処理を選ばなければならない。

 2026年4月1日からは、水道水に含まれるPFOS(Perfluorooctane Sulfonic Acid・ペルフルオロオクタンスルホン酸)とPFOA(Perfluorooctanoic Acid・ペルフルオロオクタン酸)について、両物質の合計で1リットル当たり50ナノグラム以下という水質基準が施行された。水道事業者等には、この基準を守り、必要な水質検査を実施することが求められる。大規模な浄水場だけでなく、小規模な水道施設においても、法令上適用される水質基準を満たすことが必要である。

 このような化学物質への対応では、水源の選定が経済性にも影響する。近くに水源があるからといって、その水を安い費用で飲料水にできるとは限らない。汚染物質の種類によっては、高度な処理設備や吸着材などが必要となり、小規模施設であっても設備費や維持管理費が大きくなる可能性がある。分散型の経済合理性を検証する際には、水源までの距離だけでなく、原水の水質と必要な処理水準を必ず評価しなければならない。

 また、雨水や生活排水を処理して再利用する場合には、飲用水と非飲用水の違いが重要になる。トイレ洗浄、散水などに利用する水と、飲料水や調理用水として利用する水では、求められる安全性や管理条件が異なる。再生水を利用する設備では、用途に応じた水質管理に加えて、飲用水の配管との誤接続や逆流を防ぐ対策も必要になる。水を繰り返し利用できること自体が、その水をあらゆる用途に安全に使用できることを意味するわけではない。

 分散型水道の導入で守らなければならないのは、単に水が出るという状態ではない。従来の水道と同等に、生活に必要な量と用途に応じた安全性を確保し、それを長期間維持できることである。管路を短くするために水質管理の水準を下げてよいという議論にはならないのである。

地震に強いのは集中型か、分散型か

 分散化にはもう一つ魅力的に見える点がある。災害時の強さである。2024年の能登半島地震では、水道施設や送配水管が被災し、広い範囲で断水が発生した。大きなネットワークでは、重要な浄水場、送水管、配水池などが損傷すると、その先に暮らす多数の住民へ影響が広がることがある。特に、遠隔地の集落が一本の長い管路に依存している場合、その管路が途中で損傷すると、集落全体への給水が止まる危険がある。

 だからといって、「集中型水道は災害に弱く、分散型なら強い」と結論づけることはできない。集中型水道でも、複数の水源を確保し、管路を環状につなぎ、耐震性の高い管や緊急連絡管を整備すれば、一か所が損傷しても別の経路から給水できる可能性がある。反対に分散型では、小さな設備が多数存在することによって、それぞれの設備の故障、水源汚染、停電、部品不足、保守人員不足という別のリスクが生まれる。

 災害に対する強さを評価するには、少なくとも三つの視点が必要である。一つは断水が発生する確率、二つ目は断水した場合に影響を受ける人口や区域の広さ、三つ目は供給を再開するまでの時間である。分散型は被害が広域へ波及することを防げる可能性がある一方、個々の設備に代替水源や非常用電源がなければ、その集落だけが長期間断水することも考えられる。

 重要なのは、災害リスクの種類が変わることである。大規模集中型では重要施設の障害が広い範囲へ波及する危険があり、分散型では障害の影響範囲を限定できる可能性がある。しかし、山間部の小規模水源が土砂災害の危険性の高い場所にあれば、その水源自体が集中型の水源より危険になる場合もある。どちらが災害に強いかという問いにも、全国共通の答えはない。

 それでも、人口が少なく、一本の長い管路に集落全体が依存している地域では、管路を短くできること自体に災害対策上の価値がある。長距離の送水経路で損傷箇所を調査し、道路や地盤の復旧と並行して管路を修復するよりも、集落内の小規模施設を修復する方が早い条件も考えられる。分散化の価値は「絶対に壊れないこと」ではなく、壊れたときの影響範囲を限定し、地域の条件によっては復旧の選択肢を増やせる可能性にある。

設備を分散させても、管理まで分散させる必要はない

 しかし、小規模施設を山間部にいくつも設置すれば、別の現実が待っている。水道は設備を置けば終わるものではない。フィルターを交換し、ポンプを整備し、水質を検査し、異常があれば原因を調べなければならない。水源によって必要な処理も異なれば、降雨や季節によって条件が変化することもある。小規模だから管理が簡単になるとは限らず、むしろ少ない人数で多くの施設を維持しなければならない場合もある。

 しかも人口減少地域では、水道を利用する住民だけでなく、水道施設を管理する技術者も減っていく。十数人しか住んでいない集落ごとに専門技術者を常駐させることなど現実的ではない。分散型水道が広がるほど、「小さな施設を多数設置した場合、誰が継続的に管理するのか」という問題が大きくなる。設備費だけが安くても、維持管理体制を構築できなければ、持続可能な水道とはいえない。

 そこで重要になるのが、「施設は分散しても、管理は統合する」という考え方である。水道技術研究センターでも、小規模水道を物理的には地域ごとに残しながら、管理を統合する分散ネットワーク型や、一部の施設を統合する方式が検討されてきた。地形的な制約によって浄水施設の統合が難しい地域でも、運転情報や管理体制を集約することで、専門人材を効率的に活用できる可能性がある。

 例えば、各集落に小規模な浄水施設を設置し、その流量、水位、水質に関する測定値、ポンプの運転状態などを遠隔監視する。通常時には専門技術者が複数の施設を巡回し、異常が検知された場合には必要な対応を行う。こうした仕組みが機能すれば、水道施設そのものを地域に分散させながら、専門技術や管理組織を広域的に維持することができる。

 もちろん、遠隔監視によって現場作業が不要になるわけではない。センサーが故障する場合もあれば、通信や電力が途絶える場合もあり、現地での水質検査、設備交換、災害対応は残る。さらに複数施設を一括管理する場合には、情報システムの安全性や通信障害への備えも必要になる。それでも、技術者が不足する人口減少地域において、施設を統合することと管理を統合することを別々に考える意義は大きい。

 人口減少時代には、すべての設備を一か所へ集めるよりも、必要な設備を地域に残し、情報と専門人材を集約する方が合理的な地域も現れるだろう。その実現には、自治体ごとに管理体制を分けるのではなく、近隣自治体や水道事業者間の連携を進めることも重要になる。

水道管を減らすには、技術だけでなく制度の検討も必要になる

 分散型水道への転換は、単に古い配水管を撤去して小さな浄水設備を設置すれば実現するものではない。水道法に基づく施設基準や水質基準を満たす必要があり、新しい水源を開発したり、浄水処理方式を変更したりする場合には、事業の変更認可などが必要になることがある。河川から取水する場合には河川法などの手続きが関係し、地下水を利用する場合には地方公共団体の採取規制や周辺の地下水利用への影響も確認しなければならない。

 さらに、長い配水管を廃止する場合には、消防水利の確保という問題も生じる。これまで水道管に設置された消火栓を利用していた地域では、管路を短縮することで消火活動に必要な水を確保できなくなる可能性がある。その場合には、防火水槽など別の消防水利を整備する必要があり、その費用も含めて比較しなければならない。生活用水を供給する費用だけを減らしても、地域全体の防災機能を損なうのであれば、社会的に合理的な転換とはいえない。

 また、国土交通省の2026年3月の手引きは、原則として既存の水道事業のなかで施設配置を最適化することを想定しており、分散型を導入した地区を当然に給水区域から切り離したり、別の料金体系で運営したりすることを前提としていない。ここは制度面で重要な点である。対象となる集落の人口が100人以下であっても、水道事業全体が水道法の対象であれば、集落単位の施設を設置するだけで水道事業者の責任がなくなるわけではない。

 住民への説明も欠かせない。従来の水道から別の給水方式へ変更する場合、住民が重視するのは事業費の削減だけではなく、水の安全性、水圧、断水時の対応、設備の管理責任、将来の料金負担などである。自治体にとって最も安い案であっても、住民に過大な保守負担を求めたり、従来より著しく不便な給水方法となったりする場合には、単純に合理的とはいえない。経済合理性と生活の継続性を両立させることが、水道政策には求められる。

一つの自治体に、一種類の水道しかない必要はない

 ここまで考えると、人口減少地域の水道問題は、集中型か分散型かという二者択一ではないことが分かる。町の中心部には人口がある程度集中しており、既存の浄水場や管路を多くの住民が共有できるため、従来型の水道を維持する方が合理的かもしれない。しかし、そこから山を越えた十数戸の集落まで数キロメートルの管を更新し続けるのであれば、小規模浄水施設や運搬送水の方が安くなる可能性がある。そのさらに外側に数戸しか住宅がなければ、将来的には各戸型の浄水装置や水循環技術が選択肢になる場合も考えられる。

 つまり、一つの自治体のなかでも、水道の姿が一種類である必要はない。中心部には従来型の水道があり、周辺集落には小規模水道施設があり、さらに遠隔地では別の給水方式を利用するという組み合わせも考えられる。国土交通省が「集約型・分散型のベストミックス」と表現しているのは、まさに地域の条件に応じた施設配置を選ぶという考え方である。

 この問題は、人口減少が進む地方自治体にとって、今後ますます重要になるだろう。例えば同じ自治体内でも、市街地、農村集落、中山間地域、海岸沿いの集落では、人口密度や住宅配置だけでなく、水源、標高、地盤、道路条件、災害リスクが大きく異なる。自治体全体の人口減少率だけを見ても、どの地区で水道の維持が難しくなるのかは分からない。実際に検討すべきなのは、自治体単位の平均値ではなく、一つの給水区域や配水系統ごとの条件である。

 そのためには、地区別の現在人口と将来人口、管路延長、管路の経過年数、漏水履歴、施設の残存寿命、給水量、有収水量、維持管理費などを整理し、複数の給水方式を比較する必要がある。特に将来人口については、自治体全体の推計値をそのまま各集落へ比例配分するだけでは不十分であり、地区ごとの年齢構成、住宅の分布、移住や転出の状況を踏まえて考える必要がある。人口が同じ50人でも、住宅が一か所に集中している集落と、広い山間部に点在している集落では、必要な管路の長さがまったく違うからである。

 人口が増え続けた時代、日本の社会基盤は「つなぐこと」によって豊かになった。道路を延ばし、電線を延ばし、通信網を整備し、水道管や下水管を延ばした。ネットワークへ接続される人が増えるほど、一人当たりの設備負担を小さくでき、全国の小さな集落まで都市部と同じようなサービスを届けることが可能になった。

 ところが人口が減り始めると、同じネットワークが反対方向へ動き始める。人が減るほど、一人のために維持しなければならない道路、水道管、電線、公共施設の量が増えていく。人口減少とは、単に公共サービスの利用者が減る現象ではなく、過去につくった大きなネットワークを、より少ない人数で支える社会へ移行することである。

 そう考えると、水道政策で守るべきものも少し違って見えてくる。守るべきなのは、何十年前に敷設した水道管そのものではない。住民が蛇口をひねったとき、安全な水を生活に必要な量だけ安定して使えることである。その生活を維持する方法が、必ずしも従来と同じ長い管路である必要はない。

2050年、地図から消えるのは「水道」ではなく「管路」かもしれない

 2050年の山間集落を一つの仮想的な将来像として考えてみよう。住民は30人しかいないが、集落そのものは残っている。数十年前なら、遠くの浄水場から何キロメートルもの管を延ばすことが近代化だった。しかしその頃には、集落の近くに小型浄水設備が置かれ、設備の状態は遠隔監視され、専門技術者が複数の地域を巡回しているかもしれない。ある住宅では雨水や再生水が生活用水の一部として利用され、外部から供給する水の量そのものが少なくなっている可能性もある。

 ただし、これは現在の政策や技術開発の方向から考えられる将来シナリオであり、統計的に実証された2050年の予測ではない。実際にどれほどの集落で分散型が導入されるのか、全国の水道管が何キロメートル減るのか、家庭内水循環がどの程度普及するのかについて、確定的な数値を示せる段階にはない。技術の成熟度、人口の変化、水道事業の財政、国の支援制度、住民の意向によって、将来の姿は大きく変わる。

 もちろん、全国がこの形になるわけではない。水源が乏しい地域では従来型の水道を残す方が安全かもしれず、人口が比較的密集している地域なら既存管路を更新した方が安い。逆に、水源に恵まれ、住宅が点在し、給水人口に対して管路だけが長い地域では、分散型への転換が合理的になるかもしれない。正解は特定の技術への期待や政策思想から決まるのではなく、地域ごとの費用、人口、水質、災害リスクなどを比較した結果から判断すべきものである。

 だから人口減少時代の水道に必要なのは、「集中型を守るか、分散型へ変えるか」という思想的な対立ではない。何人が暮らし、何キロメートルの管を維持し、いつ更新が必要になり、別の方法ならどの程度の費用とリスクになるのかを、一つの給水区域ごとに計算することである。その際には初期投資だけでなく、数十年間の維持管理、設備更新、災害対応、水質管理まで含めて比較しなければならない。その計算を積み重ねることで、ある場所では長い管路を維持し、別の場所では管路を短縮するという選択が可能になる。

 将来、地方の地図から少しずつ姿を消していくものは、水道そのものではないのかもしれない。人口の少なくなった土地を何キロメートルも走る長い水道管の一部が更新されず、その代わりに水を使う場所の近くで処理し、必要に応じて運び、将来的には一部を循環させる小さな仕組みが利用される可能性がある。

 人口増加時代の水道は、遠く離れた人々を一本のネットワークへつなぐことによって発展した。しかし人口減少時代には、そのネットワークのどの部分を維持し、どの部分を短くするかという判断が、水道を守るうえで重要になってくる。すべての管路を残すことが、必ずしも住民の生活を最も確実に守る方法とは限らないのである。

 私たちが本当に守りたいのは、水道管なのではない。蛇口から安全な水が出るという生活である。その目的を長期間維持するためなら、むしろ水道管を減らすことが合理的になる地域が、これから日本の各地に現れる可能性がある。重要なのは、管路を減らすこと自体を目的にするのではなく、住民の安全性と生活の利便性を確保しながら、将来世代まで維持できる水供給の仕組みを選ぶことである。

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