車検費用・将来の修理リスク・2019年以降の自動車税制を含めて考える
車検が近づき、整備工場や販売店からまとまった金額の見積りを提示されると、「このまま修理して乗り続けるべきか、それとも買い替えるべきか」と迷うことがあります。
特に判断が難しくなるのは、次のような場合です。
- 初回登録から10年以上が経過している
- 走行距離が10万キロメートル前後に達している
- 車検と整備を合わせた見積額が大きい
- タイヤやバッテリーなどの交換時期も重なっている
- エンジン、変速機、エアコンなどに不調の兆候がある
- 13年超の自動車税・自動車重量税の負担増が近い
- 今後、何年運転を続けるかが明確でない
この問題を考える際、車検時に支払う金額だけを見て判断するのは適切ではありません。
車検を通して乗り続ける場合には、今回の整備費だけでなく、今後数年間の修理費、税金、燃料費、消耗品費が発生します。
一方、買い替える場合にも、車両本体価格だけでなく、登録諸費用、ローン金利、購入後の税金、車検費用、整備費、将来の売却価値まで考える必要があります。
したがって、合理的な判断には、少なくとも今後3年から5年程度の総費用を同じ条件で比較することが必要です。
本稿では、現在の車を修理して乗り続ける場合と、別の車へ買い替える場合を、できるだけ客観的に比較する方法を説明します。
1.まず「車検」と「整備・修理」を分けて考える
一般に「車検代」と呼ばれる金額には、性質の異なる複数の費用が含まれています。
大きく分けると、次の三つです。
1.法定費用
主な法定費用は、次のとおりです。
- 自動車重量税
- 自動車損害賠償責任保険料
- 検査手数料
これらは、車検を受ける際に制度上必要になる費用です。
自動車重量税は、車両重量、初回登録からの経過年数、環境性能などによって変わります。自動車損害賠償責任保険料は契約期間や車種区分によって決まり、検査手数料も検査方法などによって異なります。
国土交通省の地方運輸局も、車検に必要な費用として、自動車重量税、自動車損害賠償責任保険料、検査手数料を示し、整備工場に点検や整備を依頼する場合には別途料金が発生すると説明しています。
2.点検・検査・手続に関する料金
整備工場や販売店へ依頼する場合には、一般に次のような料金が加わります。
- 法定点検料
- 継続検査料
- 車検基本料
- 検査機器使用料
- 書類作成や手続に関する料金
名称や料金体系は事業者によって異なります。
そのため、複数の見積書を比較するときは、単に最終金額だけを見るのではなく、どの作業が含まれているかを確認する必要があります。
3.整備・修理・部品交換費用
車検総額に大きな差が生じやすいのは、この部分です。
例えば、次のような費用があります。
- エンジンオイルや各種油脂の交換
- ブレーキパッドやブレーキディスクの交換
- タイヤ交換
- バッテリー交換
- ベルト類の交換
- ワイパーや灯火類の交換
- オイル漏れ、冷却水漏れの修理
- ドライブシャフトブーツの交換
- サスペンション部品の交換
- 排気系部品の修理
- センサー類の交換
ここで重要なのは、見積書に含まれるすべての項目が、必ずしも「今回交換しなければ車検に通らないもの」とは限らないことです。
2.整備項目を三つに分類する
見積書を受け取ったら、整備工場に各項目を次の三つに分けてもらうと判断しやすくなります。
今回実施しなければ保安基準を満たさないもの
例えば、著しく摩耗したタイヤ、制動力に問題があるブレーキ、破損した灯火類などです。
これらは、車検を通すために必要な整備です。
車検には通るが、早期交換が望ましいもの
現在は保安基準を満たしていても、近い将来に安全性や信頼性へ影響する可能性がある部品です。
例えば、残量が少なくなったブレーキパッド、劣化が進んだバッテリー、細かな亀裂があるベルトなどが考えられます。
予防整備として提案されているもの
直ちに交換しなくても走行できるものの、故障予防や性能維持のために提案される整備です。
予防整備には一定の意義がありますが、車の今後の使用期間が短い場合には、すべてを一度に行うことが最適とは限りません。
例えば、あと1年程度で車を手放す予定なら、5年間使用することを前提とした予防整備をすべて行う必要性は低くなることがあります。
反対に、さらに5年以上乗る予定なら、部品を故障するまで使うより、計画的に交換した方が結果的に負担や事故リスクを抑えられる場合があります。
3.車検見積額だけで買替えを決めない
例えば、車検と整備の合計見積額が30万円だったとします。
30万円という金額だけを見ると、古い車へ大金を使うよりも買い替えた方がよいように感じられるかもしれません。
しかし、比較対象となる車の購入総額が180万円で、現在の車が30万円の整備によって今後3年間安定して使用できるなら、支出額だけでは修理継続の方が有利になる可能性があります。
反対に、今回の修理額が15万円にとどまっていても、変速機、エアコン、冷却系統などに高額故障の兆候が複数あるなら、買替えを検討する合理性が高くなります。
つまり、判断すべきなのは、
今回の修理費が高いか安いか
ではありません。
判断の中心になるのは、
今回の整備後、あと何年間、どの程度の追加費用と故障リスクで使用できるか
という点です。
4.比較期間は3年または5年を基本にする
車検前の判断を、次の車検までの2年間だけで行うと、実態を十分に反映できないことがあります。
車検直後には大きな費用が発生しなくても、その翌年にタイヤ、バッテリー、エアコン、足回りなどの交換が重なる場合があるからです。
比較期間は、車の使用計画に応じて設定します。
2~3年間で比較する場合
次のような人に向いています。
- 数年以内に運転をやめる可能性がある
- 転居や家族構成の変化が予定されている
- 現在の車を暫定的に使いたい
- 次回車検までに用途が変わる可能性が高い
5年間で比較する場合
一般的な修理か買替えかの判断では、5年間程度が比較しやすい期間です。
車検、税金、タイヤなどの消耗品、故障リスク、買替え車の価値減少をある程度含めることができます。
10年間で比較する場合
新車購入や長期保有を前提にする場合には、10年間比較も有効です。
ただし、10年後の修理費、燃料価格、売却額を正確に予測することは難しいため、結果には幅を持たせる必要があります。
5.乗り続ける場合の総費用
現在の車を修理して乗り続ける場合は、概ね次の費用を集計します。
継続保有の総費用
- 今回の車検・点検費用
- 今回の修理・部品交換費用
- 次回以降の車検費用
- 今後予想される修理費
- 自動車税
- 自動車重量税
- 自動車損害賠償責任保険料
- 任意保険料
- 燃料費
- タイヤ・バッテリー等の消耗品費
- 故障時の代車・交通費
- 比較期間終了時の処分費用
- 比較期間終了時の売却額
計算上は、最後に売却額を差し引きます。
ただし、古い車の場合には売却額がほとんど付かないこともあります。その場合でも、鉄資源としての買取りや部品取りとしての価値が残る場合があるため、必ず複数の買取条件を確認した方がよいでしょう。
6.買い替える場合の総費用
買替え側は、車両価格だけで比較してはいけません。
次の費用を含めます。
- 車両本体価格
- メーカー・販売店オプション
- 登録関係費用
- 車庫証明関係費用
- 納車関係費用
- リサイクル料金
- 自動車重量税
- 自動車損害賠償責任保険料
- ローン金利・手数料
- 購入後の車検・整備費用
- 任意保険料の増減
- 燃料費
- 現在の車の下取り・売却額
- 比較期間終了時の買替え車の売却額
例えば、支払総額200万円の車を購入し、5年後に80万円で売却できるとします。
単純化すれば、5年間の車両価値の減少は120万円です。
したがって、購入価格の200万円全額を費用として扱うより、
購入総額-比較期間終了時の売却額
で考える方が、保有期間中の実質的な車両費を捉えやすくなります。
ただし、ローンを利用する場合には、金利や手数料を別途加える必要があります。
7.2019年10月以降の自動車税を反映する
2019年10月に税額が変更された
自家用乗用車の自動車税は、2019年10月1日以降に初回新規登録された車について、排気量区分ごとの年税額が引き下げられました。
2026年度の千葉県資料では、2019年9月30日以前に初回新規登録された車と、2019年10月1日以降に初回新規登録された車について、次の税額が示されています。
| 総排気量 | 2019年9月30日以前の初回登録 | 2019年10月1日以降の初回登録 | 年間差額 |
|---|---|---|---|
| 1.0リットル以下 | 29,500円 | 25,000円 | 4,500円 |
| 1.0リットル超1.5リットル以下 | 34,500円 | 30,500円 | 4,000円 |
| 1.5リットル超2.0リットル以下 | 39,500円 | 36,000円 | 3,500円 |
| 2.0リットル超2.5リットル以下 | 45,000円 | 43,500円 | 1,500円 |
| 2.5リットル超3.0リットル以下 | 51,000円 | 50,000円 | 1,000円 |
| 3.0リットル超3.5リットル以下 | 58,000円 | 57,000円 | 1,000円 |
| 3.5リットル超4.0リットル以下 | 66,500円 | 65,500円 | 1,000円 |
| 4.0リットル超4.5リットル以下 | 76,500円 | 75,500円 | 1,000円 |
| 4.5リットル超6.0リットル以下 | 88,000円 | 87,000円 | 1,000円 |
| 6.0リットル超 | 111,000円 | 110,000円 | 1,000円 |
例えば、排気量1.5リットル以下の車では、2019年10月以降に初回登録された車の方が年間4,000円低くなります。
5年間では2万円の差です。
排気量1.0リットル以下では、年間4,500円、5年間で2万2,500円の差になります。
この差は総費用計算へ入れる必要がありますが、100万円以上の買替え費用を税額差だけで回収することは通常困難です。
したがって、
2019年10月以降の車は自動車税が安いから、買い替えた方が得である
と直ちに判断することはできません。
あくまで、購入費、修理費、燃料費、残存価値などと合わせて評価する必要があります。
8.2026年度から名称が再び「自動車税」になった
2019年10月から、従来の自動車税は「自動車税種別割」という名称になっていました。
しかし、2026年度税制改正により、2026年3月31日をもって自動車税の環境性能割が廃止され、従来の自動車税種別割は再び「自動車税」という名称になりました。千葉県もこの変更を案内しています。
そのため、2019年10月から2026年3月までの資料では「自動車税種別割」、2026年4月以降の資料では「自動車税」と表記される場合があります。
実質的には、毎年4月1日時点の所有者などに課される、排気量等に応じた税金を指しています。
9.環境性能割は2026年3月31日で廃止された
2019年10月には、自動車取得税が廃止され、車の取得時に燃費性能等に応じて課税する自動車税環境性能割が導入されました。
しかし、2026年度税制改正により、自動車税および軽自動車税の環境性能割は廃止されました。財務省も、地方税関係の措置として環境性能割の廃止が行われたと説明しています。
千葉県では、2026年3月31日をもって自動車税環境性能割が廃止されたと案内されています。
したがって、2026年4月1日以降に取得する車については、従来の自動車税環境性能割は発生しません。
ただし、車を購入するときの負担がすべてなくなったわけではありません。
依然として、次のような費用があります。
- 車両本体やオプションに含まれる消費税
- 登録関係費用
- 車庫証明関係費用
- 自動車重量税
- 自動車損害賠償責任保険料
- リサイクル料金
- 販売店の諸費用
環境性能割の廃止は買替え側の負担を一部軽減する要素ですが、車両購入費全体と比較すれば、これだけで修理か買替えかの結論が決まるとは限りません。
10.13年超の自動車税の重課を確認する
一定年数を経過した車は、自動車税が通常より高くなる場合があります。
2026年度の千葉県資料では、次の車について、経過した翌年度から通常の税率よりおおむね15%高くなるとされています。
- 新車新規登録から11年を超えたディーゼル車
- 新車新規登録から13年を超えたガソリン車・液化石油ガス車
一方、電気自動車、燃料電池自動車、一定の天然ガス自動車、ガソリン・プラグインハイブリッド自動車、ガソリン・ハイブリッド自動車などは、この重課の対象外とされています。
例えば、通常の年税額が34,500円である車が、おおむね15%の重課対象になると、増加額は年間約5,000円程度になります。
ただし、実際の重課税額は単純に通常税率へ1.15を掛けた金額と完全には一致しない場合があります。
正確な税額は、毎年送付される納税通知書や、都道府県の税額表で確認する必要があります。
重課だけを理由に買い替えるべきか
一般に、年間数千円程度の税負担増だけを理由に、100万円以上の車を買うことは経済的に合理的とは限りません。
例えば、税負担が年間6,000円増えたとしても、5年間では3万円です。
一方、買替えによる車両価値の減少が5年間で100万円発生すれば、税額差より車両費の方がはるかに大きくなります。
したがって、13年超の重課は総費用へ反映すべきですが、単独で買替えを決める要因にはしない方がよいでしょう。
11.自動車重量税は13年超・18年超で上がる
車検時に納める自動車重量税は、車両重量と経過年数などによって変わります。
財務省の2026年度資料では、自家用乗用車の0.5トン・1年当たりの当分の間税率について、次の金額が示されています。
| 経過年数 | 0.5トン・1年当たり |
|---|---|
| 13年未満 | 4,100円 |
| 13年超 | 5,700円 |
| 18年超 | 6,300円 |
例えば車両重量1.5トンの自家用乗用車では、1年当たり次の金額になります。
- 13年未満:12,300円
- 13年超:17,100円
- 18年超:18,900円
通常の継続車検は2年分を納めるため、単純計算すると次のとおりです。
| 経過年数 | 1.5トン車・2年分 |
|---|---|
| 13年未満 | 24,600円 |
| 13年超 | 34,200円 |
| 18年超 | 37,800円 |
13年未満から13年超になると、2年車検時の差額は9,600円です。
18年超では、13年未満と比較して2年で1万3,200円高くなります。
財務省は、13年超・18年超の経年車に異なる税率が適用されること、および一定の環境性能を持つ車には別の扱いがあることを示しています。
したがって、実際の重量税は、車検証に記載された車両重量、初回登録年月、車種、環境性能などを基に確認する必要があります。
12.経年による税負担増を合計する
13年超の車では、主に次の二つの負担増が考えられます。
- 毎年の自動車税の重課
- 車検時の自動車重量税の増加
例えば、排気量1.5リットル以下、車両重量1.5トンの一般的なガソリン車を仮定します。
2019年9月以前に登録された車の通常の自動車税は年3万4,500円です。
13年超で仮に年間約5,000円程度の負担増が生じ、自動車重量税も2年で9,600円増えるとすると、5年間の追加負担は概算で次のようになります。
- 自動車税の増加:約2万5,000円
- 重量税の増加:約2万4,000円前後
- 合計:約5万円前後
これは無視できる金額ではありません。
しかし、新しい車への買替えで100万円以上の追加支出が発生する場合、税負担増だけで買替え費用を回収することは困難です。
古い車から買い替える経済的根拠は、税金だけでなく、
- 高額修理の可能性
- 燃料費
- 故障による生活への影響
- 現在車の売却価値
- 買替え車の将来価値
まで含めて成立するかを確認する必要があります。
13.今後の高額修理リスクを調べる
現在の車を乗り続けるかどうかは、今回の整備内容だけでなく、今後発生し得る高額修理を確認して決めます。
エンジン・冷却系
主な確認項目は次のとおりです。
- エンジンオイルの異常消費
- 冷却水の減少
- オイル漏れ
- 冷却水漏れ
- ウォーターポンプ
- ラジエーター
- サーモスタット
- エンジンマウント
- オルタネーター
- スターターモーター
小さな漏れでも、進行すると修理範囲が広がることがあります。
変速機
自動変速機、無段変速機、デュアルクラッチ変速機などの不具合は、修理方法によって高額になることがあります。
次の症状がある場合には、車検とは別に診断してもらう必要があります。
- 発進時や変速時の強い衝撃
- 加速時の滑り
- 異音
- 警告灯
- 変速の遅れ
- 特定の速度域での振動
エアコン
エアコンの不調は、冷媒の補充だけで直る場合もあれば、コンプレッサー、コンデンサー、エバポレーターなどの交換が必要になる場合もあります。
特にエバポレーターは、車種によっては交換作業のために車内の広い範囲を分解する必要があり、工賃が高くなることがあります。
足回り・操舵系
- ショックアブソーバー
- ブッシュ
- ボールジョイント
- ハブベアリング
- ドライブシャフト
- ステアリング機構
これらは、一つずつ交換する場合と、左右同時または複数部品をまとめて交換する場合とで費用が大きく変わります。
ハイブリッド車・電気自動車
ハイブリッド車や電気自動車には、一般的なガソリン車とは異なる部品があります。
- 駆動用蓄電池
- インバーター
- モーター
- 電動エアコンコンプレッサー
- 充電関係部品
ただし、ハイブリッド車だから一定年数で必ず高額故障するわけではありません。
車種、使用環境、走行距離、保証条件、点検結果によってリスクは異なります。
特定の部品が故障することを前提に計算するのではなく、整備記録や診断結果を基に、複数の可能性を置いて比較する方が適切です。
14.修理継続が合理的になりやすい条件
次の条件が多く当てはまる場合、現在の車を修理して乗り続ける方が経済的に合理的である可能性があります。
- エンジンや変速機に重大な異常がない
- 車体や骨格に重大な腐食や事故損傷がない
- 今回の修理で主な不具合が解消する
- 整備記録が残っており、状態を把握できている
- 年間走行距離が少ない
- 現在の車の使い勝手に大きな不満がない
- 買替えには多額の借入れが必要になる
- 現在の車の売却価値が低い
- あと数年で運転をやめる可能性がある
- 家族構成や用途が近く変わる予定である
- 今回の整備後、2~3年以上安定して使える見込みがある
特に年間走行距離が少なく、今後の使用期間が短い場合には、新しい車の購入費を燃料費や修理費の削減だけで回収することは難しくなります。
15.買替えが合理的になりやすい条件
次の条件が複数重なる場合には、買替えを検討する合理性が高くなります。
- エンジンや変速機に重大な異常がある
- 複数の高額部品が同時期に交換時期を迎えている
- 車体や下回りの腐食が進んでいる
- 故障が繰り返し発生している
- 修理しても別の高額故障が見込まれる
- 部品供給が不安定または終了している
- 故障すると通勤、通院、介護などに大きな支障が出る
- 現在の安全装備では利用状況に合わない
- 現在の車に比較的高い売却価値が残っている
- 家族構成や用途が変わり、現在の車が合わなくなった
- 今後5年以上使用する予定がある
- 買替え後の燃料費や維持費が大幅に下がる
- 修理継続と買替えの総費用差が小さい
重要なのは、一つの条件だけで決めないことです。
例えば、安全装備が新しいことは買替えの利点ですが、その利点と購入費との差を、使用頻度や走行環境に応じて考える必要があります。
16.修理費が車の時価を超えたら買替えか
よく使われる判断方法に、
修理費が現在の車の時価を超えたら買い替える
というものがあります。
これは保険事故や資産価値を考えるうえでは一つの基準になりますが、家計上の判断として必ずしも十分ではありません。
例えば、現在の売却価値が10万円の車に20万円の修理を行い、その後3年間使用できるとします。
20万円を3年間で割れば、1年当たり約6万7,000円です。
一方、代替車を購入するために150万円必要なら、修理費が時価を超えていても、修理継続の方が支出は少なくなる可能性があります。
車の時価は、売却した場合に受け取れる金額です。
それに対して、その車を日常生活で利用できる価値は、売却価格とは別です。
したがって、修理費と時価だけでなく、次の項目を比較する必要があります。
- 修理後に使用できる年数
- 代替車の購入総額
- 代替車の将来売却額
- 現在車の故障リスク
- 故障した場合の生活上の損失
17.燃費差を過大評価しない
買替えを勧められる際、「新しい車なら燃費がよくなり、ガソリン代が安くなる」という説明を受けることがあります。
燃費差は確かに重要ですが、年間走行距離が少ない場合には、削減額も小さくなります。
例えば、次の条件を仮定します。
- 現在の車の実燃費:1リットル当たり12キロメートル
- 買替え車の実燃費:1リットル当たり20キロメートル
- 年間走行距離:6,000キロメートル
- ガソリン価格:1リットル当たり180円
現在の車の年間燃料使用量は、500リットルです。
年間燃料費は9万円になります。
買替え車の年間燃料使用量は300リットルで、年間燃料費は5万4,000円です。
年間差額は3万6,000円、5年間では18万円です。
5年間で18万円の削減は小さくありません。
しかし、買替えによる車両費の増加が100万円であれば、燃料費の削減だけでは回収できません。
燃費改善の効果は、年間走行距離が多いほど大きくなり、走行距離が少ないほど小さくなります。
18.5年間の比較例
ここでは、単純化したモデルで比較します。
実際の金額は、車種、地域、整備内容、保険条件、燃料価格などで変わります。
現在の車を継続する場合
前提を次のように置きます。
- 初回登録から12年
- 排気量1.5リットル以下
- 車両重量1.5トン
- 走行距離9万キロメートル
- 今回の車検・点検・修理:25万円
- 2年後の車検・整備予想:18万円
- 4年後までの消耗品・小修理:15万円
- 予備的な追加修理費:15万円
- 5年後の売却額:0円
車検・整備・修理関係は、合計73万円です。
さらに、13年超による自動車税と重量税の負担増を5年間で約5万円と仮定すると、合計は78万円になります。
ここでは燃料費、任意保険、駐車場代などは、買替え側との差額が小さいものとして除外します。
買い替える場合
次の条件を仮定します。
- 買替え車の支払総額:180万円
- 現在車の売却額:5万円
- 5年間の車検・整備・消耗品:25万円
- 5年後の売却額:70万円
- 税金・燃料費の節約:5年間で15万円
計算すると、
180万円 -5万円 +25万円 -70万円 -15万円 =115万円
となります。
このモデルでは、
- 修理継続:78万円
- 買替え:115万円
となり、修理継続の方が37万円少ない計算です。
追加故障が発生した場合
現在の車に、さらに40万円の高額修理が必要になった場合は、
78万円+40万円=118万円
となります。
この場合、買替えの115万円を3万円上回ります。
したがって、このモデルでは、今後5年間の追加修理費が約37万円を超えると、単純な費用比較では買替えが有利になります。
この37万円が、結論の変わる境界の一つです。
ただし、実際には故障額が確定しているわけではありません。
例えば、40万円の修理が発生する確率を25%と考えるなら、期待修理費は、
40万円×25%=10万円
です。
期待値だけで見れば、修理継続側は88万円となり、依然として買替えより安い計算です。
一方で、故障すると仕事、通院、介護などに重大な支障が出る家庭では、期待値だけでなく故障発生時の影響も重視する必要があります。
19.確率が分からないときは複数のケースを作る
自動車の故障確率を正確に算出することは容易ではありません。
そのため、実務上は次の三つのケースを作る方法が有効です。
楽観ケース
- 今回の修理後、大きな故障が起きない
- 消耗品交換だけで済む
標準ケース
- 年式や走行距離に応じた中程度の修理が発生する
- エアコンや足回りなど、一部の修理を含める
悲観ケース
- エンジン、変速機、ハイブリッド機構などに高額修理が発生する
- 故障時の代車費用や生活上の損失も含める
三つのケースで比較し、すべてのケースで修理継続が有利なら、継続判断の確度は高くなります。
反対に、標準ケースでも買替えが有利なら、買替えの合理性が高まります。
悲観ケースだけで買替えが有利になる場合は、その故障が実際にどの程度起こり得るかを整備工場に確認する必要があります。
20.中古車へ買い替える場合の注意点
古い車から中古車へ買い替える場合、新車購入より費用を抑えられる可能性があります。
しかし、中古車には状態が完全には分からないという問題があります。
確認したい項目は次のとおりです。
- 修復歴
- 冠水歴
- 下回りの腐食
- 海岸地域や降雪地域での使用歴
- 定期点検整備記録
- エンジンオイル交換履歴
- 走行距離
- タイヤの製造年
- バッテリーの状態
- 車検残期間
- 保証範囲
- 消耗部品の交換状況
- 初回登録年月
- 自動車税の税率区分
- 13年超・18年超の重量税までの年数
現在の車については、これまでの整備内容や使用状況を自分で把握しています。
一方、中古車は、年式が新しくても前所有者の使い方や整備状況が十分に分からないことがあります。
そのため、「現在の車より新しい」という理由だけで、必ず故障リスクが低下するとは限りません。
現在の車の状態が良く、整備履歴が明確であれば、状態の分からない安価な中古車へ買い替えるより、現在の車を整備して乗る方が合理的な場合もあります。
21.見積りを取るときの確認事項
車検見積りを受けたら、整備工場へ次の点を確認します。
- 今回交換しなければ車検に通らない部品はどれか
- 車検には通るが、安全上早期交換が必要な部品はどれか
- 予防整備として提案している項目はどれか
- 今回見送った場合、いつ頃の交換が予想されるか
- エンジンと変速機に異常はないか
- オイル漏れや冷却水漏れは進行しているか
- 車体や下回りに重大な腐食はないか
- 1~2年以内に高額修理が予想される部品はあるか
- 純正新品以外に、社外品や再生部品を使えるか
- 修理後の保証期間と保証範囲はどうなっているか
- 今回の整備後、次回車検まで使用できる見込みはあるか
- さらに4~5年乗る場合、どの部品交換が予想されるか
可能であれば、別の整備工場でも見積りを取ります。
ただし、最安値だけで決めるのではなく、次の条件を合わせて比較する必要があります。
- 点検範囲
- 交換部品の品質
- 純正品、社外品、再生品の違い
- 作業内容
- 工賃
- 整備保証
- 故障診断の精度
22.比較表を作成する
最終判断では、次のような表を作ると整理しやすくなります。
| 項目 | 修理して継続 | 買替え |
|---|---|---|
| 今回の車検・点検費 | ||
| 今回の修理費 | ― | |
| 車両購入総額 | ― | |
| 現在車の売却額 | ||
| 今後5年間の車検費 | ||
| 今後5年間の修理費 | ||
| 今後5年間の自動車税 | ||
| 今後5年間の重量税 | ||
| 燃料費 | ||
| タイヤ・バッテリー等 | ||
| ローン金利 | ― | |
| 5年後の売却額 | ||
| 5年間の総費用 |
金額以外の要素も別に評価します。
| 評価項目 | 修理して継続 | 買替え |
|---|---|---|
| 故障リスク | ||
| 故障時の生活への影響 | ||
| 安全装備 | ||
| 乗り慣れ | ||
| 荷物・送迎への適合性 | ||
| 今後の家族構成への適合性 | ||
| 運転終了予定との整合性 | ||
| 資金繰りへの影響 |
費用と使い勝手を同じ表に混ぜるのではなく、費用面と非金銭面を分けて評価することが重要です。
まとめ
車検時の支払額ではなく、今後の総費用と故障リスクで判断する
車検前に修理か買替えかを判断するときは、車検見積書の最終金額だけで結論を出してはいけません。
判断の基本は、次のとおりです。
- 法定費用、点検費、修理費を分ける
- 車検に必要な整備と予防整備を分ける
- 今後3~5年間の費用を比較する
- 高額修理の可能性を確認する
- 2019年10月以降の自動車税率を反映する
- 13年超の自動車税重課を反映する
- 13年超・18年超の自動車重量税を反映する
- 2026年3月末で環境性能割が廃止されたことを反映する
- 買替え車の将来売却額を差し引く
- 燃費や税金の節約額を過大評価しない
- 故障が生活へ与える影響を評価する
- 結論が逆転する追加修理額を計算する
古い車へまとまった修理費をかけることが、必ずしも不合理とは限りません。
修理後に数年間安定して使用でき、代替車の購入費が大きい場合には、修理継続の方が総支出を抑えられることがあります。
反対に、今回の修理費が比較的小さくても、主要部品の劣化が重なり、高額故障が続く可能性が高ければ、買替えが合理的になる場合があります。
重要なのは、
今回いくら支払うか
だけではありません。
本当に比較すべきなのは、
その支出によって、あと何年間、どの程度の費用と故障リスクで車を使用できるか
という点です。
税金、車検、修理、燃料、購入費、ローン金利、売却価値を同じ期間で整理し、修理継続と買替えの総費用が逆転する条件を確認することで、感覚や販売側の説明だけに左右されにくい判断ができます。
ご自身の車で比較したい方へ
この記事の計算例は、一般的な条件を単純化したモデルです。
実際の結論は、次の条件によって変わります。
- 初回登録年月
- 排気量
- 車両重量
- 走行距離
- 修理見積額
- 年間走行距離
- 現在の売却査定額
- 買替え候補車の支払総額
- ローン条件
- 今後の使用予定年数
- 通勤、通院、介護などへの利用状況
弊社では、現在の車を修理して乗り続ける場合と、別の車へ買い替える場合について、3年・5年・10年の総費用を比較します。
また、単に「修理が有利」「買替えが有利」と結論づけるのではなく、追加修理費、年間走行距離、使用年数などがどの水準を超えると結論が変わるのかを整理します。
※本稿の税制部分は、2026年8月3日時点で公表されている国および千葉県の資料を基にしています。税率、軽減措置、重課対象などは、登録時期、車種、燃料、環境性能、地域、今後の制度改正によって変わる場合があります。実際の税額は、車検証、納税通知書、国土交通省または都道府県の最新資料で確認してください。



