地域分析記事

地域の暮らしと地域課題を数学とデータで考える

※本記事は、2026年10月9日現在の国土交通省、文部科学省、関係自治体の公表資料を踏まえ、各地の運行実態、制度上の条件、費用削減効果などを再確認して加筆・更新したものです。

 人口減少が進む地域では、従来の路線バスを同じ運行形態で維持することが難しくなっている。利用者が減少しても、車両の購入費、燃料費、整備費、保険料、運転手の人件費などが同じ割合で減るわけではなく、利用者一人当たりの運行経費は上昇しやすい。さらに近年は、利用者不足に加えて運転手不足そのものが減便や路線廃止の要因となっており、地域公共交通の維持は需要と供給の両面から制約を受けている。

 国土交通白書2025によると、全国のバス運転手数は2021年の約11万6千人から、2030年には約9万3千人まで減少すると推計されている。2022年と同程度の輸送規模を維持し、時間外労働の上限規制の影響も考慮した場合、2030年には必要な運転手が約3万6千人不足し、不足率は必要人員全体の28%に達する見込みとされる。ただし、これは一定の前提条件に基づく将来推計であり、実際の不足人数が確定しているわけではない。それでも、既存の輸送体制を維持することが難しくなっているという構造的な問題を示す数値として重要である。

 一方、人口が減少しても、高齢者の通院や買い物、児童生徒の通学といった生活上の移動需要がなくなるわけではない。むしろ学校、病院、商店などの統廃合が進めば、一人の住民が必要なサービスを受けるための移動距離が長くなる可能性がある。このような地域では、新しい交通手段を一から整備するだけでなく、すでに存在する車両や運転手を複数の目的に活用するという考え方が重要になる。

 その対象として注目されるのが、児童生徒の通学のために運行されているスクールバスである。

子どもが減少しても、スクールバスの必要性が低下するとは限らない

 人口減少とスクールバスの関係には、一見すると矛盾した構造がある。子どもの数が減少すれば通学する児童生徒も減るが、それによって小中学校の統廃合が進むと、学校までの距離が長くなり、新たな通学手段が必要になる場合がある。すなわち、児童生徒数の減少が学校統合を促し、その学校統合がスクールバスの導入や運行区域の拡大につながるという関係である。

 この結果、一般の路線バスは利用者減少によって縮小する一方、行政が児童生徒の通学を確保するためにスクールバスを運行するという状況が、同じ地域で発生することがある。しかも、路線バスとスクールバスが同じ道路や近接する経路を走っていれば、地域全体として車両や運転手の使い方に重複が生じる可能性がある。

 もっとも、学校統合が必ずスクールバスの増車を必要とするわけではない。統合後の学校の位置、児童生徒の居住分布、既存の路線バス、保護者による送迎などによって必要な輸送量は異なる。しかし、人口減少によって一般交通が縮小する地域であっても、行政が確保しなければならない通学需要が残ることは、地域交通政策を考える上で重要な事実である。

 そうであれば、スクールバスを児童生徒だけの専用交通として維持することが、地域全体にとって常に合理的なのかという問題が生じる。2026年現在、この問いは単なる理論上の可能性ではなく、実際の自治体の運行制度を通じて検討できる段階にある。

群馬県下仁田町では、スクールバスと地域交通を一体的に運用してきた

 スクールバスを地域住民の交通手段として活用している代表的な事例が、群馬県下仁田町である。下仁田町では2012年4月、町内4小学校の統合に伴ってスクールバスの増車と運行区域の拡大が必要となった。当時、町営路線バスは利用者減少によって運行の維持が難しくなっており、スクールバスと路線バスの経路や運行時間が重複することも課題となっていた。

 そこで町は、スクールバスと一般住民向けの交通を完全に分離するのではなく、朝夕の登下校時間帯に一般住民もスクールバスへ乗車できる混乗方式を導入した。児童生徒の乗車を優先しながら、空席があれば一般住民も無料で利用できる仕組みであり、平日の日中や休日には町営の「しもにたバス」を運行することで、通学と住民の移動を組み合わせた交通体系を構築してきた。

 この制度は、単にスクールバスの空席を開放するだけではなく、車両や運転手を異なる用途で共用することにも特徴がある。登下校時間帯はスクールバスとして利用し、それ以外の時間帯には地域の公共交通として運行することで、個別に車両や運転手を確保する場合と比べて、運行資源を効率的に利用できる可能性が生まれる。

 国土交通白書2025によれば、下仁田町のスクールバスを利用する一般住民には通院目的の高齢者が多く、2024年度の一般混乗利用者は3,789人であった。この数値は、スクールバスの一般利用が制度上認められているだけでなく、現実に住民の移動手段として利用されていることを示している。ただし、3,789人という乗車実績だけで、利用者の満足度や医療機関へのアクセス改善、財政負担の削減まで証明できるわけではない。

 下仁田町の取り組みは、2026年2月に関東運輸局地域交通優良団体等表彰を受け、町も同年3月に受賞を公表した。表彰資料では、学校関係者、交通事業者、住民などとの協議を重ねたことや、安全対策を実施しながら混乗を継続してきたことが紹介されている。

 さらに、この資料には運行経費に関する定量的な比較も示されている。2011年度の1キロメートル当たりの運行経費は246円であったのに対し、再編後の2012年度には228円となり、約7%減少した。これは交通体系の再編によって経費効率が改善したことを示す実績であるが、燃料価格、運行距離、車両構成などの変化を完全に分離した分析ではないため、削減の全額を混乗化だけの効果と断定することはできない。また、運行距離当たりの経費が減少しても、総運行距離が増えれば年間総経費が減るとは限らない点にも注意が必要である。

下仁田町は2026年11月から日中の交通を予約型に変更する

 下仁田町の事例で新たに注目すべきなのは、2026年10月1日に町が発表した運行体系の変更である。町は同年11月1日から、日中や休日の町営バスについて、利用者の予約に応じて運行するデマンドバス「ねぎまる」の実証運行を開始する予定としている。

 新しい運行体系では、平日の始発から午前9時までと午後3時以降は、従来のスクールバスの定時運行を継続する。一方、平日の午前9時から午後3時までと、土日祝日の午前9時から午後5時までは、予約に基づくデマンド運行へ移行する計画である。予約型の運行区域は下仁田町内全域で、町内205か所のバス停を利用する方式とされ、運賃は町内在住者200円、70歳以上100円などと設定されている。

 この変更は、スクールバスと住民交通を一体的に考える政策が、さらに別の段階へ進むことを意味している。朝夕の定時運行によって児童生徒の通学を確保しながら、日中は予約に応じて車両を運行することで、利用需要が少ない時間帯の効率化と利便性の向上を目指すものである。

 ただし、2026年10月9日現在、この新方式は開始前である。運行経費がどの程度変化するか、利用者の待ち時間や移動可能な範囲が改善するか、予約が難しい高齢者にも利用しやすい制度になるかについては、実証運行後のデータを確認しなければならない。予約型交通は効率化の有力な選択肢ではあるが、固定路線を予約型に変えるだけで必ず経費が削減されるわけではない。

山形県遊佐町では、一般住民もスクールバスを無料で利用できる

 山形県遊佐町でも、スクールバスを児童生徒だけでなく一般住民の移動手段として利用できる仕組みが設けられている。町は公式に一般住民の無料乗車を案内しており、2026年度のスクールバス時刻表についても公表している。

 ただし、一般住民がすべてのスクールバスへ自由に乗車できるわけではない。利用できるのは時刻表に掲載された対象路線に限られ、児童生徒専用の臨時便などには一般住民は乗車できない。季節によって小中学校の通学範囲や運行時刻が変更されることもあり、学校の運行計画を優先した制度となっている。

 遊佐町の特徴は、スクールバスに地域交通のすべてを担わせていないことである。町内では完全予約制の乗合タクシーも運行されており、平日の午前9時から午後3時まで、原則として1時間ごとに利用できる仕組みが整えられている。一般利用の運賃は500円で、対象となる利用者や利用目的には条件がある。

 スクールバスは学校と集落を結ぶ移動に適している一方、通院や買い物では目的地や希望時刻が異なることがある。遊佐町は、スクールバスと予約型の乗合タクシーという性格の異なる交通手段を併存させることによって、地域住民の移動需要に対応している。この事例から分かるのは、一つの交通手段だけで地域のすべての移動を満たそうとするのではなく、複数の輸送手段の役割を整理するという考え方である。

千葉県大多喜町でも、スクールワゴンの一般混乗が実施されている

 この問題は、外房地域にとって決して遠い地域の事例ではない。千葉県大多喜町では、2023年4月からスクールワゴンに一般住民も乗車できる予約制の「乗合ワゴン」を運行している。2026年10月1日にも同月の運行計画が公表されており、外房地域にも実際にスクールバスの輸送資源を一般住民に開放している自治体が存在する。

 乗合ワゴンを利用できるのは、会所、平沢、宇筒原、弓木、田代、三条、紙敷の各地区に住む人である。一般住民が利用する場合には事前の利用登録と前日までの予約が必要で、一般の運賃は1乗車400円と定められている。ただし、児童生徒の乗車が優先されるため、予約しても定員などの事情によって利用できない場合がある。

 この仕組みでは、学校が運行を予約した日に限って一般住民も利用できる。学校が運行を必要としない日はワゴンも運行されないため、一般の路線バスと同じように毎日一定の便数が確保されているわけではない。また、終着となる西小学校から市街地へ移動する場合には、別料金の路線バスへ乗り継ぐ必要がある。

 大多喜町の事例は、スクールバスの一般利用について、対象地域を限定し、予約制と有料運行を組み合わせた制度が実際に成立していることを示している。一方、利用できる日や経路が学校の運行計画に左右されるため、住民のすべての移動需要に対応できるわけではない。特に病院の予約時刻や買い物の帰宅時刻と運行時刻が合わなければ、制度が存在しても利用しにくいという問題が残る。

 それでも大多喜町で一般混乗が実施されている事実は、御宿町、いすみ市、勝浦市など、人口減少と高齢化が進む外房地域の交通政策を考える上で重要である。スクールバスの共用は、遠方の自治体でしか成立しない特殊な仕組みではなく、地域の実情に応じて採用可能な選択肢の一つなのである。

いすみ市でもスクールバスの有効活用が検討課題となっている

 いすみ市の地域公共交通計画にも、スクールバスの有効活用に関する検討が盛り込まれている。いすみシャトルバスや市内循環バスだけでは対応が難しい移動需要について、教育委員会などと調整しながら、スクールバスへの一般住民の混乗や問い合わせによる利用などを検討するという方向である。

 ただし、計画に記載されていることと、実際に一般混乗制度が導入されていることは区別しなければならない。交通政策の評価では、検討段階、制度設計段階、実証運行段階、本格運行段階を混同すると、施策がすでに実現したかのような誤解を招く可能性がある。

 重要なのは、既存のスクールバスを単純に住民へ開放することではなく、地域内の路線バスやデマンド交通との役割分担を考えることである。既存の交通事業者と競合して利用者を分散させれば、結果として地域全体の交通体系を維持しにくくなる場合もある。地域交通の効率化を目的とするなら、個々の運行制度ではなく、地域全体の輸送量、費用、運転手数、利用者の移動機会を評価する必要がある。

スクールバスの活用には、複数の異なる方式がある

 スクールバスを地域公共交通に活用する方法は、一つではない。児童生徒と一般住民が同じ便に乗車する混乗方式、通学に使わない時間帯に車両を住民交通として利用する時間帯共用方式、スクールバスを独立して運行せず、児童生徒の輸送を一般路線バスへ集約する方式などが考えられる。

 混乗方式では、スクールバスの空席を利用できるため、新たな運行距離や車両を増やさずに住民の移動機会を確保できる可能性がある。ただし、学校と住民の目的地が一致しなかったり、児童生徒の乗車人数が多かったりする地域では、一般住民が利用できる範囲は限られる。

 時間帯共用方式では、朝は通学、昼間は住民交通、午後は下校というように、一つの車両を異なる用途に利用できる。しかし、実際には車両の回送時間、清掃、整備、運転手の休憩、学校行事による運行変更などの制約があるため、通学時間以外をすべて住民交通へ振り向けられるとは限らない。

 また、既存の路線バスが十分に機能している場合には、スクールバスを新たに運行するよりも、児童生徒が路線バスを利用できるよう運行時刻や経路を調整する方が合理的な場合がある。国土交通省と文部科学省も、スクールバスへの住民混乗や空き時間活用だけでなく、スクールバスの運行を地域公共交通へ集約する方式を政策上の選択肢として示している。

 したがって、合理的な交通政策とは、スクールバスを一般路線バスへ変えることでも、スクールバスの台数を増やすことでもない。地域に存在する交通資源を把握し、どの需要をどの輸送手段で担うことが最も合理的なのかを判断することである。

制度上は、道路運送法と補助金の扱いを確認する必要がある

 スクールバスの一般利用を検討する際には、運行主体、運賃の徴収、補助金の利用条件、車両の管理責任など、制度上の整理が欠かせない。スクールバスが自治体の所有する車両であるからといって、自治体の判断だけですべての用途に自由に使用できるわけではない。

 国土交通省と文部科学省は2024年10月11日、スクールバスと地域交通の効果的な活用について、関係自治体に向けた連名通知を発出している。この通知では、スクールバス車両の空き時間の活用、一般住民の混乗、交通事業者への運行委託、既存の地域公共交通への集約などについて、制度上の取り扱いと留意事項が示された。

 一般住民を無償で輸送する場合には、原則として旅客運送事業の許可や自家用有償旅客運送の登録は不要となるが、実質的に運送の対価を受け取っていないかなどを確認する必要がある。一方、一般住民から運賃を徴収する場合には、運行形態に応じて道路運送法上の許可や登録などが必要になる。利用者の負担額をどのように設定するかは、単なる料金政策ではなく、運送制度の選択にも関係する問題である。

 さらに、文部科学省のへき地児童生徒援助費等補助金を受けて整備したスクールバスを、整備から6年以内に一般住民の利用へ供する場合には、原則として文部科学大臣の承認が必要となる。教育目的の補助対象経費と一般住民の輸送に伴う経費についても、制度に応じた区分や確認が必要である。

 このため、実際の制度設計では、教育委員会と交通政策部門だけでなく、財政担当部門、交通事業者、学校、保護者、地域住民などとの調整が不可欠になる。スクールバス活用は車両の運用方法を変更するだけの問題ではなく、教育行政と交通行政の制度を横断して設計しなければならない政策なのである。

数理的に見ても、共用には経費削減の可能性がある

 スクールバスと住民向け交通を別々に運行する場合には、それぞれの輸送に車両費、燃料費、整備費、人件費などが必要となる。利用者が少なくなっても、必要な運行便数や車両数を減らせなければ、固定的な費用は残るため、利用者一人当たりの負担は大きくなりやすい。

 ここで、スクールバスを従来どおり運行することを前提に、別途運行していた住民向け交通の全部または一部を共用へ置き換えると考える。共用による年間の経費削減額は、廃止または縮小できる住民向け交通の年間経費から、共用に伴って新たに発生する運行経費と、制度変更や設備整備などの初期費用を年額換算した額を差し引くことで求められる。

 したがって、独立した住民向け交通を維持する費用の方が、共用によって増える費用より大きければ、地域全体の運行経費を削減できる可能性がある。特に、既存のスクールバスの運行経路を変えず、空席に一般住民が乗車する方式であれば、追加の走行距離や車両数を抑えられる場合がある。

 しかし、一般住民の利用に対応するために経路を延長したり、新しい停留所を整備したり、運転手の勤務時間が長くなったりすれば、追加費用が増加する。車両の定員を超える利用需要が発生して増車が必要になれば、共用による経済的な利点が小さくなることも考えられる。

 また、運行経費と自治体の実質的な財政負担は同じではない。運賃収入、国や県の補助金、地方交付税措置などを考慮すると、運行経費が減少しても自治体の負担額が同じ割合で減るとは限らず、逆に総経費が多少増えても利用者の移動機会が大幅に改善する場合もある。

 したがって、共用方式の経済性を評価する際には、単に車両の台数や利用者数を比較するだけでは不十分である。少なくとも年間総運行経費、車両1台当たりの運行距離、運転手の総勤務時間、延べ乗車人数、利用者一人当たりの公費負担などを、共用しない場合と比較する必要がある。

人口密度が低いほど共用が合理的とは限らない

 人口減少地域では、一つの用途のために専用車両や運転手を確保することが非効率になりやすい。しかし、人口密度が低いほど必ず共用の効果が大きくなるというわけではない。交通の効率を決めるのは人口密度だけでなく、集落の配置、道路網、目的地の分布、時間帯ごとの需要、車両の定員など、複数の条件の組み合わせだからである。

 例えば、人口密度が低くても、主要な集落が一本の幹線道路に沿って分布し、学校、病院、商店がその沿線に集まっていれば、比較的少ない運行経路で複数の需要に対応できる。一方、人口密度が多少高くても、住宅地が広く分散し、学校と病院が異なる方向に位置している場合には、共用による経路の長大化や利用者の移動時間の増加が問題となる。

 特にスクールバスでは、児童生徒の登校時刻と下校時刻が重要な制約になる。高齢者の通院も午前中に集中しやすく、通学と通院の需要が時間帯によって競合する可能性がある。高齢者が午前中に病院へ向かい、診察を終えて帰宅しようとする時間が下校時刻と重なれば、単純な時間帯共用では対応が難しくなることもある。

 そのため、人口減少地域における共用の合理性は、人口規模だけから判断することはできない。各集落から学校、病院、商店、駅へ向かう移動需要を時間帯別に把握し、運行経路、所要時間、乗車人数、車両と運転手の利用可能時間を合わせて分析する必要がある。

乗車人数だけでは、政策の成功を判断できない

 下仁田町の2024年度混乗利用者3,789人という実績は、スクールバスが現実の住民交通として利用されていることを示す重要な数値である。しかし、公共交通政策の成果を判断するには、利用者数だけでは十分ではない。

 例えば、従来は別の交通手段を利用していた人がスクールバスへ移っただけであれば、地域全体の移動回数は増えていない可能性がある。一方、これまで移動手段がなく通院や買い物を控えていた住民が、混乗制度によって新たに外出できるようになったのであれば、乗車人数が少なくても生活上の効果は大きいと考えられる。

 また、年間延べ乗車人数と実際に利用した住民の人数は異なる。一人の住民が繰り返し利用している場合には、延べ乗車人数が多くても、制度の恩恵を受けている住民の範囲は限られる。交通政策としての公平性を考えるなら、利用者の年齢、居住地区、利用目的、利用頻度などを把握しなければならない。

 さらに、利用者だけを対象に満足度を調査すると、運行時刻が合わない、停留所が遠い、予約方法が分からないといった理由で利用できなかった住民が分析から除外されてしまう。そのため、制度の評価では非利用者も含めた住民調査が重要になる。

 政策の導入前後を比較する場合には、運行費用や乗車人数だけでなく、通院に必要な移動時間、買い物先への到達可能性、待ち時間、乗換回数、運行時間外に発生する移動需要なども確認する必要がある。可能であれば、人口構成や地理的条件が似ている他地域との比較を行うことで、混乗制度そのものがどの程度の効果をもたらしたかを、より客観的に推定できる。

最大の条件は、児童生徒の安全な通学を確保することである

 スクールバス活用において、最も優先しなければならないのは児童生徒の安全と通学条件の維持である。一般住民を乗せることによって児童生徒が乗車できなくなったり、登校時刻が遅れたり、乗車時間が大幅に長くなったりするのであれば、共用制度として合理的とはいえない。

 そのため、児童生徒の利用人数に応じた座席の確保、一般利用者との座席配置、乗降場所の安全性、緊急時の対応、保険の適用範囲などについて、事前の確認が必要となる。学校行事や災害、悪天候などによって登下校時刻が変更される場合にも、一般住民への案内や代替交通の確保を含めた運行管理が求められる。

 国土交通省と文部科学省の連名通知でも、混乗を実施する前提として、児童生徒の安全と保護者や地域住民の理解を確保することが示されている。下仁田町では防犯カメラなどの安全設備を導入し、大多喜町では児童生徒優先の運用と予約制を組み合わせるなど、それぞれの地域で制度上の工夫が行われている。

 ただし、安全対策の実施と安全性の実証は同じではない。制度導入後も事故や運行遅延、定員不足などの状況を継続的に把握し、必要に応じて運行方法を改善することが重要である。特に、児童生徒の安全確保に必要な費用を削減の対象と考えるべきではなく、一定の安全水準を維持した上で、どこまで運行を効率化できるかを検討する必要がある。

外房地域では、まず既存の輸送資源を把握する必要がある

 御宿町、いすみ市、勝浦市、大多喜町などの外房地域で今後の交通政策を考える場合、従来の路線バスを維持できるかどうかという問題だけに議論を限定するのは十分ではない。地域内にはスクールバスのほか、自治体が運行するコミュニティバス、予約型の乗合交通、福祉関係施設の送迎車、医療機関の送迎車、民間の路線バス、タクシーなど、さまざまな輸送資源が存在している可能性がある。

 これらの輸送手段は、それぞれ教育、福祉、医療、交通といった異なる目的で整備されているため、利用者の条件や運行時間、費用負担、管理責任が必ずしも一致していない。そのため、同じ道路を複数の車両が少人数ずつ乗せて走っていても、行政分野をまたいで運行を調整する仕組みが十分に整備されていない場合が考えられる。

 将来の交通政策を具体的に検討するには、まず地域内の輸送資源を一覧化し、車両数、定員、運行経路、時間帯、利用者数、運転手数、年間経費を把握することが出発点となる。その上で、学校、病院、商店、駅、公共施設などの位置と住民の居住分布を重ね合わせ、交通需要が集中する区間と時間帯を分析する必要がある。

 例えば、スクールバスが学校から離れた集落まで運行しており、その経路上に高齢者の通院や買い物の需要が存在するなら、混乗化によって移動機会を確保できる可能性がある。一方、通学経路と住民の目的地が大きく異なる場合には、スクールバスを延長するよりも、既存の路線バスや予約型交通を組み合わせる方が適切かもしれない。

 大多喜町では、すでに一部地区で乗合ワゴンによる混乗が実施されている。この制度の利用実績、運行経費、住民の移動実態などを検証することは、外房地域でスクールバス活用の可能性と限界を考える上で有益である。実施例が存在するという事実を出発点として、どのような条件で有効に機能しているのかを明らかにすることが重要になる。

スクールバスだけで地域公共交通の問題は解決しない

 スクールバスの一般利用には一定の有効性が期待できるものの、それだけで人口減少地域の移動問題を解決できるわけではない。スクールバスの運行経路は児童生徒の居住地と学校の位置によって決められるため、病院や商店、駅など、一般住民が利用したい施設と必ずしも一致しない。

 さらに、学校の休業日や長期休暇、夜間などには運行されない場合があり、学校の統廃合が進めばスクールバス自体の経路や便数も変わる可能性がある。児童生徒数の減少によってスクールバスの運行が縮小された場合、それに依存していた一般住民の移動手段も同時に失われるおそれがある。

 予約型交通にも、利用するための予約手続き、希望時刻と実際の乗車時刻の差、他の利用者との乗合による所要時間の増加など、固有の課題がある。特に高齢者や障害のある人など、移動に制約がある住民にとっては、運行制度が存在するだけでは十分でなく、停留所まで移動できるか、予約方法を理解できるか、目的地まで無理なく移動できるかが重要になる。

 したがって、地域の公共交通は、一種類の輸送手段にすべての需要を集約することが常に合理的とは限らない。固定路線バス、スクールバス、予約型交通、タクシーなどを、それぞれの特徴に応じて組み合わせ、住民の生活に必要な移動を確保することが現実的な選択肢となる。

 ただし、複数の交通手段を組み合わせれば必ず効率が改善するわけでもない。車両や運転手の配置が重複し、利用者に複雑な乗換えや予約を求める制度になれば、むしろ運行経費が増加し、利便性が低下する可能性もある。必要なのは交通手段の種類を増やすことではなく、地域全体として過不足の少ない輸送体系を設計することである。

スクールバスは人口減少社会の地域交通を再設計するための資源である

 2026年10月9日現在、群馬県下仁田町ではスクールバスと一般住民の混乗が継続されており、山形県遊佐町でも指定されたスクールバスを一般住民が無料で利用できる。さらに千葉県大多喜町では、2023年からスクールワゴンの予約制一般混乗が実施されている。これらの事例は、スクールバスが児童生徒の通学手段であると同時に、一定の条件の下で地域住民の移動にも活用できることを示している。

 下仁田町では、2012年の交通体系再編に伴って運行距離当たりの経費が約7%減少した実績も示されている。ただし、こうした成果が人口減少地域のすべてに当てはまるわけではなく、運行経路、車両数、勤務時間、利用需要などの条件によって効果は変わる。スクールバスの混乗化を進めるかどうかは、制度を導入すること自体を目的とせず、地域ごとの定量的な比較に基づいて判断する必要がある。

 人口減少社会では、移動する人の総数が減少する一方で、生活に必要な移動距離が長くなったり、公共交通を必要とする住民が一定数残り続けたりすることが考えられる。また、運転手や車両の確保が難しくなる中では、従来と同じ輸送体系を維持することが必ずしも最適な選択とは限らない。

 この問題を考える上で重要なのは、スクールバス、福祉関係の送迎車、地域の路線バスといった行政分野ごとの区分にとらわれず、それぞれを地域に存在する輸送資源として捉えることである。その上で、児童生徒の安全な通学を確保しながら、どの車両を、どの時間帯に、どの需要へ配分することが合理的なのかを検討する必要がある。

 スクールバスは、人口減少地域における公共交通のすべてを代替するものではない。しかし、地域の輸送資源を共用し、交通体系を再設計する上で、有力な選択肢の一つであることは、すでに複数の自治体の実例によって確認できる。

 人口減少社会の交通政策で問われているのは、単に何台のバスを残すかではなく、限られた車両、運転手、財源を使って、住民に必要な移動機会をどこまで確保できるかということである。

 スクールバスの活用を考えることは、こうした地域公共交通の根本的な課題を見直すことにつながるのである。

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 過疎地域の路線バスは、昭和後期から平成初期にかけて減便が進み、平成中期以降は路線そのものの廃止が目立つようになりました。その背景には、人口減少だけでなく、自家用車の普及、住宅や商業施設の郊外化、学校や病院の統廃合、バス事業者の経営再編、燃料費や車両費の上昇など、複数の要因があります。さらに令和に入ると、利用者が少ないから運行できないという従来の問題に加えて、運転士が不足しているため、一定の利用者が存在していても必要な便数を維持できないという供給側の問題が深刻になってきました。

 一方、今後の地方では、高齢者が運転を継続できなくなった場合の移動手段、世帯の小規模化、病院・学校・商業施設の集約、地域内の人手不足、観光客の二次交通、地域内消費の維持などを考えると、公共交通の重要性そのものが低下するとは考えにくい状況です。ただし、昭和期と同じ大型バスを、以前と同じ経路とダイヤで復活させればよいわけではありません。必要なのは、需要が集中する区間には定時定路線の交通を配置し、需要が薄く分散する地域ではデマンド交通、乗合タクシー、公共ライドシェア、スクールバス、医療・福祉輸送などを組み合わせることです。地方経済に必要なのは、過去の路線網の全面復活ではなく、現在の人口分布と生活圏に合わせた地域交通の再設計だと考えるべきでしょう。

最初に結論

 過疎地域で路線バスが必要かどうかを、「残すか、廃止するか」という二者択一で考えることは適切ではありません。鉄道駅、中心市街地、中核病院、高校、大型商業施設、行政施設、観光拠点、比較的人口が集中する住宅地などを結び、一定方向・一定時間帯に需要を集約できる区間では、定時定路線型のバスが合理的になる可能性があります。一方、人口が極端に少なく住宅が広く分散している地区、利用時間や目的地が大きくばらつく地区、通院日や買い物日など特定の日だけ需要が発生する地区では、固定路線を毎日走らせるよりも、予約制のデマンド交通や乗合タクシーなどが合理的な場合があります。

 したがって、結論は「地方に路線バスは必要か」という単純な問題ではありません。一定の需要を集約できる区間では定時定路線を維持または再構築し、それ以外の地域では需要密度に応じた別の交通手段へ転換することが重要です。

路線バス利用者はどれほど減ったのか

 日本の乗合バス輸送人員は、1968年度に約101億人でピークを迎えました。その後は長期的な減少が続き、2012年度には約41億人となっています。約44年間で約60%減少したことになります。一方、乗合バスの車両数は、1968年度の約6万4,700両から2012年度の約5万9,000両への減少にとどまっています。この数値から計算すると、車両数の減少率は約9%です。輸送人員が約60%減少したのに対し、車両数は約9%しか減っておらず、単純比較では1台当たりの輸送量が大幅に低下したことになります。

 なお、一部の国土交通省資料では、この車両数の変化を約13%減と記載したものがありますが、資料に掲載されている約6万4,700両から約5万9,000両という数値を直接計算すると約9%減となります。このため、本稿では掲載数値から計算した値を用います。

 平成以降に限定しても、乗合バス輸送人員は1990年度の約65億人から2000年度には約48億人、2010年度には約42億人へ減少しています。1990年度から2010年度までの20年間では約35%減少しました。同時期に日本の人口が大きく減少していたわけではなく、自家用車の普及が進んだことから、人口減少だけではこの利用者減少を説明できません。

 2023年度の乗合バス輸送人員は約38億人で、新型コロナウイルス感染症流行後の回復を含めても、1968年度のピーク時の4割弱にとどまります。ただし、これらは全国の乗合バスを合計した統計です。都市部と地方部を含むため、「過疎地域でも全国平均と同じ割合で利用者が減少した」と直接結論づけることはできません。過疎地域を分析する際には、地域別・路線別のデータを見る必要があります。

昭和後期から平成初期に減便が進んだ理由

 最大の要因の一つはモータリゼーション、つまり自家用車の急速な普及です。自家用車であれば時刻表に合わせる必要がなく、自宅から目的地まで直接移動できます。特に地方では、バス停まで距離がある、本数が少ない、鉄道との乗り継ぎが必要、帰宅時間に合う便がない、買い物の荷物を持ち帰りにくいといった条件が重なり、自家用車の相対的な利便性が非常に高くなりました。

 同時に、住宅、スーパー、病院、公共施設などの立地も変化しました。従来は「集落から旧市街地を経て駅へ向かう」という交通構造が一般的でしたが、郊外の幹線道路沿いに大型スーパー、病院、商業施設などが立地するようになると、旧来のバス路線と実際の生活動線が一致しなくなりました。

 さらに、利用者減少と減便には相互作用があります。利用者が減ると事業者は便数を削減し、便数が減ると待ち時間や移動制約が増え、それによってさらに利用者が自家用車などへ移ります。この「利用者減少→減便→利便性低下→さらなる利用者減少」という循環は、地方公共交通を考えるうえで重要です。

 等間隔で運行され、利用者が時刻表を確認せずランダムに停留所へ到着すると仮定した場合、平均待ち時間は「運行間隔÷2」で表せます。30分間隔なら約15分、1時間間隔なら約30分です。ただし、1~2時間に1本しかない低頻度路線では、実際の利用者は時刻表に合わせて行動するため、この式をそのまま実際の待ち時間と考えることはできません。重要なのは、便数が極端に少なくなると、「バス路線は存在するが日常生活では使いにくい」という状態になることです。路線の有無だけではなく、実際に生活に利用できる時間帯と頻度が確保されているかを見る必要があります。

平成中期以降に路線廃止が目立つようになった理由

 減便によって運行量を削減しても、運転士、車両、営業所、整備、運行管理などの固定的な費用は残ります。そのため、需要が一定水準を下回ると、便数を削減するだけでは赤字を解消できなくなります。路線収支は概念的には、「運賃収入+補助金-人件費-燃料費-車両費-整備費-運行管理費-営業所費用-その他経費」と考えることができます。運賃収入は、おおむね「平均的な利用人数×平均運賃×運行回数」によって決まります。

 例えば、平均運賃300円、年間3,000便を運行すると仮定します。1便平均10人が利用すれば年間運賃収入は900万円ですが、平均3人なら270万円です。270万円だけで運転士人件費、車両費、燃料費、整備費などを賄うことは一般的には難しく、利用者が少なくなれば公的支援または運行形態の変更が必要になります。

 制度面では、2000年代初頭に乗合バス事業の需給調整規制が廃止され、参入・退出に関する制度が変更されました。ただし、平成中期以降の路線廃止を規制緩和だけで説明することはできません。規制緩和以前から利用者減少と赤字は進んでおり、制度変更は、需要減少によって維持困難になった路線から事業者が撤退しやすくなった要因の一つと考えるのが適切です。

全国で進んだ路線廃止

 国土交通省資料によれば、2008年度から2022年度までの15年間に廃止された路線バスの路線延長は全国で約2万700キロメートルに達します。単純平均すれば年間約1,380キロメートルです。その後も廃止は続いており、2008年度から2023年度まででは累計約2万3,000キロメートルとなっています。ただし、この数字は廃止された区間の累計であり、同期間に新設または再編された路線を差し引いた純減距離ではありません。

 また、過去の資料には短期間に非常に大きな休廃止距離を示したものもありますが、休止を含むか、どの事業者を対象にするかなど集計条件が異なる場合があります。異なる統計を比較する場合には、定義と対象範囲を確認する必要があります。

令和期の最大の変化は運転士不足

 現在の地域公共交通では、利用者不足だけでなく運転士不足が重大な問題になっています。以前は「利用者が少ない→赤字になる→減便・撤退する」という構造が中心でしたが、現在では「運転士を確保できない→必要な便数を運行できない→採算性の比較的高い路線まで減便する→利用者の利便性が低下する」という供給制約が加わっています。

 国土交通省の推計では、バス運転者は2021年の約11万6,000人から2030年には約9万3,000人まで減少する可能性があり、2022年程度の輸送規模を維持しようとすれば、2030年には約3万6,000人が不足する可能性が示されています。したがって、今後の公共交通政策では「利用者を増やせば路線を維持できる」という考え方だけでは不十分です。運転士を何人必要とする運行方式なのか、限られた人員をどの路線に優先配置するのかという問題も重要になります。

バス事業者の多くが赤字

 2023年度の国土交通省調査では、対象となった乗合バス事業者の73.7%が赤字で、黒字事業者は26.3%でした。これは路線バス事業の経営環境が厳しいことを示しています。ただし、この73.7%という数字は「調査対象事業者の73.7%」という意味であり、「全国の路線の73.7%」や「全国の輸送量の73.7%が赤字」という意味ではありません。また、原則として一定規模以上の事業者を対象とした統計であり、小規模な事業者をすべて含んでいるわけでもありません。したがって、この数字から読み取れるのは、全国の乗合バス事業者の多くが厳しい経営状況にあるということです。

高齢化すればバス利用者は増えるのか

 高齢化と公共交通需要の関係は単純ではありません。運転免許証の自主返納は2019年に年間約60万件まで増加しましたが、その後は減少し、近年は40万件台で推移しています。このため、「免許返納者が毎年増え続けている」と表現するのは正確ではありません。より重要なのは、高齢運転者が病気、身体機能の低下、家族の勧めなどによって自動車を運転できなくなった場合に、代替交通を確保できるかという問題です。

 ただし、高齢化率の上昇と高齢者数の増加も同じ意味ではありません。過疎地域では総人口減少が速いため、高齢化率が上昇していても高齢者の絶対数が減少する地域があります。そのため、「高齢化が進むからバス需要が必ず増える」とは言えません。さらに、自家用車を使えなくなった高齢者の移動需要は、路線バスだけではなく、家族送迎、病院や高齢者施設の送迎、タクシー、デマンド交通、移動販売、宅配、訪問診療などへ分散する可能性があります。したがって、路線バスを利用してもらうためには、単にバスを走らせるのではなく、病院、スーパー、鉄道駅など実際に利用したい目的地へ、利用しやすい時刻で結ぶことが必要です。

病院・学校・商業施設の集約と公共交通

 人口減少地域では、病院、学校、スーパー、行政施設などが減少し、比較的大きな拠点へ集約される傾向があります。施設が集約されれば、住民一人当たりの移動距離は長くなる可能性があります。一方、目的地が少数の拠点へ集中することで、交通需要をまとめやすくなる場合もあります。例えば、複数の小規模病院へ利用者が分散していた地域で医療機能が一つの中核病院へ集約されれば、特定方向への需要がまとまり、一定時刻に定時定路線交通を運行する合理性が高まることがあります。

 したがって、人口減少は必ずしも「公共交通需要の消滅」を意味しません。総需要は減少しても、特定方向への需要が集約される可能性があり、その場合には交通網を再設計する余地があります。

世帯内の送迎能力も低下する

 地方では、公共交通が少なくても家族が自動車で送迎することによって生活を支えてきた地域があります。しかし、単身高齢世帯、高齢夫婦世帯、子どもが地域外で生活する世帯、共働き世帯などが増えれば、家族による送迎を当然の前提とすることは難しくなります。

 送迎には燃料費だけでなく、送迎者の時間という見えにくい費用があります。例えば往復1時間の送迎を週2回行えば、年間で約104時間になります。送迎者の時間価値を1時間1,500円と仮定すれば、年間15万6,000円相当です。この金額は直接家計から現金として支出されるわけではありませんが、家族が仕事、家事、休息などに使えた時間を失っているという意味で機会費用が発生しています。公共交通を評価する際には、このような家族送迎負担も考慮する必要があります。

公共交通を運賃収入だけで評価してよいのか

 路線バスは運賃収入だけを見ると赤字であっても、地域全体では別の便益を生み出している可能性があります。住民が買い物へ行けること、病院へ通えること、学校へ通えること、仕事を続けられること、家族の送迎負担が減ること、観光客が地域内を移動できることなどです。国土交通政策でも、公共交通によって医療、福祉、教育、商業など他の行政分野にもたらされる効果を評価する「クロスセクター効果」という考え方が重視されています。

 ただし、「地域内消費+就業継続の価値+家族送迎削減額+自動車保有費削減額+観光消費」などをそのまま単純に足し算すればよいわけではありません。例えば、公共交通によって就職でき、その所得によって地域内消費が増えた場合、就業効果と消費効果の一部を二重に計上する可能性があります。したがって、これらは単純な会計式ではなく、公共交通によって生じる社会的便益の項目として整理し、重複を避けて評価する必要があります。

雇用へのアクセスという役割

 地方の人手不足は、求人そのものが不足している場合だけではありません。求人先まで移動できないため、働きたい人と事業所を結び付けられない場合もあります。特に高校生、若年者、運転免許を持たない人、地域によっては外国人労働者などにとって、工場、病院、介護施設、ホテル、スーパーなどへの交通手段がなければ、地域内に求人が存在していても就業できません。このため通勤時間帯の公共交通は、単なる福祉政策ではなく、地域の労働供給を支える経済政策として評価する必要があります。

観光と二次交通

 鉄道や高速バスで地域まで到達できても、その先の観光地、宿泊施設、海岸、温泉、道の駅などへ移動できなければ、自動車を持たない観光客にとってその地域は訪問しにくくなります。一方、観光客だけを対象にした路線は季節や曜日によって需要が大きく変動します。そのため、住民交通と観光交通を完全に分離するのではなく、平日は通院・通学、休日は観光、繁忙期には増便するなど、車両や人員を効率的に利用する方法も検討する価値があります。

路線バスの採算を数理的に考える

 運賃収入だけで運行費用を回収すると仮定した場合、1便当たりに必要な利用者数は、おおむね「1便当たり運行費用÷平均運賃」で求めることができます。例えば、1便当たりの運行費用を1万2,000円、平均運賃を400円と仮定すれば、運賃収入だけで費用を回収するためには平均30人が必要です。

 ただし、この1万2,000円という数字は説明用の仮定にすぎません。実際の費用は、路線距離、運転時間、回送距離、運転士の拘束時間、車両費、営業所費、整備費などによって大きく変わります。「地方路線は30人乗らなければ成立しない」という意味ではありません。また、公的支援を含めて考える場合には、運行費用から公的負担分を差し引いた残りを運賃収入でどの程度賄うかという考え方になります。重要なのは、補助金の有無だけではなく、同じ金額で他の交通手段を提供した場合と比較してどちらが効率的かを見ることです。

利用者数だけではなく輸送距離を見る

 1便当たりの人数だけでは、路線の効率を十分に評価できません。同じ10人でも、全員が始点から終点まで乗る場合と、短い区間だけ利用する場合では輸送量が異なるためです。公共交通の輸送量を見る代表的な指標に「輸送人キロ」があります。10人が平均10キロメートル移動すれば100人キロです。

 一方、バスが提供できる輸送能力は「乗車定員×走行距離」で考えることができ、国土交通統計では能力人キロという考え方が使われます。例えば乗車定員40人の車両が20キロメートル走れば800能力人キロです。平均5人が20キロメートル乗車すれば輸送人キロは100人キロとなり、単純な利用率は12.5%です。

 このような低い利用率が恒常的に続く場合には、大型バスのまま運行を続けるより、小型車両や別の交通方式を検討する合理性が高まります。ただし、ピーク時間帯の利用、災害時の役割、通学需要なども含めて判断する必要があります。

車両を小さくすれば解決するのか

 「路線バス」という言葉から、40~60人以上が乗れる大型バスだけを想定する必要はありません。需要に応じて大型バス、中型バス、小型バス、ワゴン車、乗合タクシーなどを使い分けることが重要です。車両を小型化すれば、車両価格、燃料費、整備費、狭い道路への対応などで有利になる場合があります。しかし、運転士が1人必要であることは基本的に変わりません。そのため、車両を半分の大きさにしても運行費用が半分になるとは限らず、人件費の割合が高い路線では、小型化だけでは赤字問題を解決できません。

「幹・枝・葉」で考える

 今後の地域交通では、すべての集落から中心地まで1本の固定路線で直接結ぶのではなく、需要密度に応じて交通網を階層化する考え方が有効です。「幹」に当たる交通は、鉄道駅、中心市街地、中核病院、高校、大型商業施設、観光拠点などを結ぶ定時定路線で、一定量の需要が集約できる区間では、ある程度の頻度と速達性を確保します。

 「枝」に当たる交通は、複数の住宅地や集落から幹線交通の乗り継ぎ拠点までを結ぶもので、小型バスやコミュニティバスなどが候補になります。「葉」に当たる交通は、住宅が広く分散した地区から最寄りの交通拠点や生活拠点までを結ぶもので、デマンド交通、乗合タクシー、公共ライドシェアなどが候補となります。このように、定時定路線と地域内交通を組み合わせる考え方は、現在の国の地域公共交通政策とも整合しています。

ダイヤは目的地に合わせる

 地方では、一定間隔でバスを走らせるだけでは十分ではありません。需要が病院の受付開始前、高校の始業前、鉄道の到着・出発時刻、工場や介護施設の勤務交代時間などに集中することがあり、そのため、運行本数だけでなく「必要な時刻に必要な場所へ到着できるか」が重要です。

 また、往路だけではなく復路も重要です。病院へ行くバスが存在しても、診察後に帰りのバスまで数時間待たなければならないのであれば、実用的な交通とは言いにくくなります。自動車なら往復を含め2時間程度で済む通院が、公共交通では6時間かかるのであれば、形式上は移動可能であっても利用されにくいでしょう。公共交通は「路線が存在するか」ではなく、生活全体に必要となる総所要時間で評価する必要があります。

デマンド交通は万能ではない

 デマンド交通は、利用者の予約に応じて運行経路や時刻を調整する方式で、人口密度が低く、利用者の出発地点や時間が分散している地域では有効です。一方、朝夕の通勤・通学のように同一方向・同一時間帯へ利用者が集中する場合、デマンド交通へ全面的に転換すると効率が悪くなる可能性があります。

 例えば、同じ時間帯に同じ方向へ多数の利用者が移動し、その需要を一つの経路へ集約できる場合には、複数のデマンド車両を走らせるよりも、1台の定時定路線車両でまとめて輸送する方が、必要な運転士数や車両数を少なくできる場合があります。ただし、「20人いれば必ず路線バスが有利」といった固定的な境界を設けることも適切ではありません。20人の出発地が広範囲に分散していれば、1本のバス路線へ集約するために大きな迂回が必要になるからです。重要なのは人数だけではなく、時間、方向、出発地点、目的地がどの程度集約できるかです。

スクールバスや送迎車との統合

 地方では、路線バスとは別にスクールバス、病院送迎車、高齢者施設送迎、福祉バス、企業送迎、宿泊施設送迎など、多数の車両が運行されています。これらがそれぞれ別の車両、運転士、予算で運行されれば、地域全体では輸送資源が重複する可能性があります。例えば、登下校時間以外に使われていないスクールバスを住民交通へ活用することができれば、車両利用率を高められる場合があります。

 実際に、路線バスとスクールバスを統合し、一般住民と児童生徒が同じ交通手段を利用する事例もあります。ただし、道路運送法上の位置付け、保険、児童の安全、運行時刻、運賃、委託契約、事故時の責任などを調整する必要があり、「空いている車両をそのまま住民に開放すればよい」という単純な問題ではありません。

自動運転は解決策になるのか

 自動運転は長期的には運転士不足を緩和する可能性があります。しかし、現時点で過疎地域の交通問題を自動運転だけで全面的に解決できる状況ではありません。自動運転車両そのものに加えて、遠隔監視、通信設備、システム保守、事故時対応、落下物や悪天候への対応、車内安全確認、高齢者や障害者の乗降支援などが必要になるからです。したがって、自動運転の普及を待つのではなく、当面は路線再編、ダイヤ改善、輸送資源の共同利用、小型化、運転士確保、デマンド交通との役割分担などを進める必要があります。

補助金を入れれば維持できるのか

 人口密度の低い地域の公共交通は、公的支援なしでは維持できない場合が多くあります。しかし、赤字額をそのまま補填すればよいわけではありません。例えば年間補助額3,000万円で年間利用者3万人なら、単純計算の公費負担は1乗車当たり1,000円です。同じ補助額で年間利用者が1万人なら3,000円になります。この金額を、乗合タクシー、デマンド交通、タクシー助成、公共ライドシェア、移動販売、訪問診療などの代替策と比較することが重要です。

 評価指標としては、1便当たり利用者数、1乗車当たり公費負担、1人キロ当たり公費負担、通院・通学可能人口、自動車を利用できない住民のカバー率、家族送迎時間の削減などが考えられます。収支率だけが高くても、必要な住民が利用できなければ公共交通としての役割を果たしていません。反対に、収支率が低くても、医療や教育へのアクセスを維持することで他の行政費用を減らしている可能性があります。

路線バスを再構築しやすい地域

 定時定路線型の交通が成立しやすいのは、沿線に一定の人口があり、駅、病院、学校、商業施設など主要な目的地を同じ方向へ結ぶことができ、通勤・通学など定期的な需要が発生する地域です。鉄道との接続を改善できる、観光需要を組み合わせられる、スクールバスや企業送迎など既存の輸送資源と連携できる、自治体境界を越えて生活圏単位で運行できるといった条件が加われば、成立可能性はさらに高くなります。

 重要なのは、市町村境界ではなく実際の生活圏です。住民が日常的に隣接自治体の病院やスーパーへ移動しているにもかかわらず、市町村内だけを循環する交通を整備しても、住民の移動需要には十分に対応できません。

固定路線が成立しにくい地域

 住宅が広く分散し、利用者の目的地が複数方向に分かれ、時間帯もばらばらである場合、固定路線バスは非効率になりやすくなります。また、運行本数を1日1~2便程度しか確保できず、鉄道や病院などの時刻とも接続せず、既存のスクールバスや福祉車両と重複する場合には、「路線バスを走らせている」という事実だけが残り、実際には利用されない可能性があります。

 このような地域では、特定の「1便当たり利用者数」を機械的な基準にするのではなく、固定路線、デマンド交通、乗合タクシー、タクシー助成などを、1人当たり総費用と利用可能性の両面から比較する必要があります。

外房地域で考える場合

 外房地域では、鉄道駅、病院、スーパー、行政施設、観光地などが離れている地域が多く、自家用車への依存度が高い一方、人口密度の低さから自治体ごとに小規模な固定路線を運行しても十分な利用者を確保できない可能性があります。

 交通ネットワークの仮説としては、茂原駅と長生郡内の主要拠点、大原駅といすみ市内の医療・商業拠点、勝浦駅と住宅地・医療施設、御宿駅と住宅地・商業施設、さらに鴨川方面の中核医療機関などを結ぶ交通を「幹」として考えることができます。そこへ各集落や住宅地から駅や地域拠点へ向かう小型交通を「枝」として接続し、さらに人口が分散する地域ではデマンド交通、乗合タクシー、公共ライドシェア、福祉輸送などを「葉」として組み合わせる構造が考えられます。

 ただし、これは交通ネットワークの考え方を示した仮説であり、具体的な路線の採算性や必要性が実証されたわけではありません。実際に外房地域で路線を設計するには、停留所別・便別の乗降人数、人口分布、年齢構成、病院の受診先、買い物先、通学先、通勤先、鉄道時刻、観光客の移動、既存のスクールバスや福祉車両などを確認する必要があります。

現実性の低い主張

 「以前の路線をそのまま復活させれば利用者が戻る」という考え方には注意が必要です。住宅や病院、スーパーなどの位置が変化していれば、以前と同じ路線を復活させても現在の生活動線には合わない可能性があります。また、「高齢者が増えるからバス利用者も増える」という考え方も単純すぎます。高齢化率が上昇しても高齢者数そのものが減少する地域があり、家族送迎や施設送迎、デマンド交通、タクシーなどへ需要が分散する可能性もあります。

 「無料にすれば利用者が増える」とも限りません。運賃が無料でも、目的地、運行時刻、便数が合わなければ利用されないからです。「デマンド交通にすればすべて効率化できる」という考えも適切ではなく、時間と方向が集中する需要では、定時定路線の方が少ない車両と運転士で大量輸送できる場合があります。

 また、「小型車両なら赤字がなくなる」ということもありません。車両費や燃料費を削減できても、運転士人件費や運行管理費は残ります。「自動運転になればすぐ解決する」という見方にも注意が必要で、遠隔監視、保守、安全管理など、新たな費用と人員が必要になります。そして「補助金を増やせば維持できる」という考えにも限界があります。運転士不足が深刻化すれば、予算があっても運行できない可能性があるからです。

自治体が調べるべきデータ

 交通再編を行う前には、停留所別乗降者数、便別利用者数、曜日・時間帯別利用者数、利用目的、病院・学校・スーパーへの移動需要、鉄道との接続状況、自動車を利用できない住民数などを把握する必要があります。さらに、既存のスクールバスや福祉車両、1便当たり運行費用、1乗車当たり公費負担、運転士数と年齢構成、車両更新時期、路線を廃止した場合の代替交通費用、家族送迎の時間負担、観光客の移動需要なども必要です。

 特に重要なのは「現在バスに何人乗っているか」だけではありません。現在の路線が不便なため利用されていない潜在需要が存在する可能性があるからです。公共交通の成果は、バスを何便走らせたかではなく、住民が必要な時刻に必要な場所へ実際に移動できたかによって評価する必要があります。

2026年以降の制度から見た方向性

 2026年の地域公共交通政策でも、単独の路線バスを維持するだけではなく、バス、タクシー、デマンド交通、公共ライドシェア、スクールバス、福祉輸送など、地域に存在する輸送資源を総合的に活用する方向が強まっています。2026年6月には地域公共交通に関する法律改正が公布され、同年10月16日の施行が予定されています。改正では、交通空白の解消、交通事業者間の共同化・協業化、地域に存在する輸送資源の活用、モビリティデータの利用などが重視されています。

 つまり、現在の政策の中心は「昔の路線バスを復活させること」ではありません。地域内に存在する人、車両、予算、データを組み合わせ、最も効率的に移動を確保する交通体系へ再編することです。

現実的な結論

 過疎地域の路線バスは、昭和後期から平成初期にかけて、自家用車の普及、生活圏の変化、利用者減少などによって減便されました。平成中期以降には採算悪化、事業者再編、制度変更などが重なり、路線廃止が進みました。そして令和期には、これらに運転士不足という新たな供給制約が加わっています。

 一方、人口が減少しても、住民の移動そのものがなくなるわけではありません。病院、学校、スーパーなどが集約されれば、移動距離が長くなる一方、特定の拠点へ需要をまとめられる可能性もあります。したがって、一定の人口と目的地が同一方向に集約できる区間では、定時定路線型のバスを維持または再構築する合理性があります。一方、住宅が広く分散し、利用時間や目的地がばらばらな地域では、デマンド交通、乗合タクシー、公共ライドシェアなどを組み合わせた方が合理的な場合があります。

 必要なのは、昭和型の路線網をそのまま復活させることではありません。幹線は定時定路線、支線は小型交通、分散地域はデマンド交通などと役割を分け、通学、通院、福祉、観光などの輸送資源を可能な範囲で共同化し、鉄道、病院、学校、商業施設などとダイヤを連動させ、自治体境界ではなく実際の生活圏を基準に設計することです。

 公共交通は単なる「赤字事業」ではありません。住民が買い物をし、病院へ通い、学校へ通い、仕事を続け、観光客が地域内を移動するための社会基盤です。しかし、利用者がほとんどいない路線を大型バスで維持し続けることも、財政、人材、環境の面から持続可能とは言えません。

 今後の課題は「路線バスを残すか廃止するか」ではなく、「どの区間を定時定路線として維持し、どの区間を別の交通手段へ転換し、それらをどのようにつなぐか」を、実際の移動データと費用から判断することです。効率的に再設計された路線バスは、一定の需要を集約できる地域では、地方の生活機能と地域経済を維持する有力な交通手段の一つになり得ます。しかし、それが有効になるのは、路線、便数、車両、乗り継ぎ、他分野の送迎、運転士確保までを一体として設計した場合です。

 過疎地域に必要なのは「バスを復活させること」そのものではありません。限られた人口、財源、車両、運転士を使い、住民が必要な場所へ実際に移動できる仕組みを再構築することです。

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人口減少時代の外房で、地域経済と生活圏をどう維持するか

 地方の人口減少が語られるとき、対策として最初に挙げられやすいのが、移住者の増加、企業誘致、観光客の呼び込みである。もちろん、人口や交流人口を増やす政策には意味がある。若い世代の転入や新規事業者の進出は、地域の消費、雇用、税収を支える可能性があり、観光客が宿泊し、地元の飲食店や小売店を利用すれば、地域事業者の売上にもつながる。

 しかし、人口減少が長期的に続く地域において、「人口を増やせば地域経済が再生する」という考え方だけでは不十分である。人口を増やすことが難しい期間にも、住民は食料を買い、病院へ通い、介護を受け、道路や水道を利用しなければならない。商店、交通、医療、介護、建設、修理、物流といった生活サービスが先に縮小すれば、地域は人口が減ったから衰退するだけでなく、生活しにくくなることによって、さらに人口を失う可能性がある。本稿では、特定の自治体や政策を批判することを目的としない。政府統計、公的計画、千葉県および御宿町などの資料を踏まえ、人口減少時代の地域経済を「人口の多さ」だけではなく、「生活圏として必要な機能を維持できるか」という観点から考える。

1.地方創生の目的を改めて考える

 地方創生政策では、これまで人口減少の抑制、東京一極集中の是正、地方への移住、雇用創出などが主要な目標とされてきた。これらは現在も重要であり、地方への人や企業の分散、若者や子育て世代に選ばれる地域づくり、地域経済の所得向上などを進める必要性は変わっていない。その一方、2025年6月に閣議決定された「地方創生2.0基本構想」では、人口減少を正面から受け止め、人口が減少する中でも社会と経済が機能するための適応策を進める姿勢が明確になった。自治体間の広域連携、官民連携、生活サービスを維持する地域生活圏の形成なども重視されている。

 したがって、地方政策が「人口を増やす政策」から「人口減少を受け入れる政策」へ単純に転換したと考えるのは適切ではない。より正確には、人口減少を抑制し、人や企業の地方分散を進める政策に加えて、人口減少が続く期間にも生活機能を維持する適応策が、地方創生の重要な柱として明確になったと考えるべきである。人口増加は重要な政策手段の一つだが、それ自体を唯一の最終目的にすると、人口が減り続ける期間の生活基盤が政策上の空白になりかねない。地域経済の目的は、統計上の人口を増やすことだけではなく、住民が働き、所得を得て、必要な商品やサービスを購入し、医療や介護を受けながら、その地域で生活を継続できる仕組みを維持することにある。

2.東京圏への人口集中は終わっていない

 総務省統計局の「住民基本台帳人口移動報告」によると、2025年の日本人移動者について、東京圏は11万2,738人の転入超過だった。前年より転入超過数は縮小したものの、東京圏への人口集中が解消したとはいえない。

 一方、千葉県全体を一つの地域として見るだけでは、県内の人口構造を正確に把握することはできない。2025年国勢調査では、千葉県全体の人口は国勢調査開始以来初めて前回調査を下回った一方、人口が増加した自治体は県北西部を中心とする一部の市に集中している。東京都への通勤圏として人口を維持しやすい地域がある一方、房総半島南部や外房では人口減少と高齢化が進んでおり、同じ千葉県でも人口動態は大きく異なる。県全体が東京圏に含まれるからといって、県内すべての市町村が東京一極集中の利益を同じように受けているわけではない。地域経済を考える際には、都道府県単位だけではなく、実際に住民が買い物、通院、通勤、通学を行う生活圏単位で見る必要がある。

3.外房・夷隅地域で進む人口減少

 千葉県夷隅地域振興事務所によると、2025年8月1日現在の夷隅地域の人口は6万1,921人で、内訳は勝浦市1万4,967人、いすみ市3万2,657人、大多喜町7,935人、御宿町6,362人となっている。その後も人口減少は続いており、外房・夷隅地域では人口規模そのものが縮小している。

 御宿町の第5次総合計画では、1995年に8,000人を超えていた人口が、2020年には7,000人を下回ったことが示されている。また、2020年時点では65歳以上人口の割合が約半数を占めており、高齢化率は極めて高い水準にある。御宿町の介護保険事業計画でも、2022年9月末時点の住民基本台帳人口は7,100人、高齢化率は51.8%とされている。重要なのは、高齢化率が上昇しているからといって、高齢者数そのものが増え続けているとは限らないことである。実際には年少人口、生産年齢人口、老年人口のいずれも減少しており、総人口の減少速度が高齢者人口の減少速度を上回ることによって、高齢者の割合が上昇する構造になっている。

 人口統計を扱う際には、国勢調査人口、住民基本台帳人口、千葉県毎月常住人口調査など、統計の定義を区別する必要がある。異なる統計系列の数字を単純につなぎ合わせて減少率を算出することは適切ではない。しかし、複数の公的資料が一貫して、外房・夷隅地域における人口減少と高齢化を示していることは明らかである。

4.人口減少が地域経済へ与える本当の影響

 人口が減れば、一般には地域内の消費需要も縮小しやすくなる。食料品、日用品、飲食、住宅修繕、理美容、交通、娯楽などの需要が減れば、地域内の店舗や事業者は売上を維持しにくくなる。しかし重要なのは、地域経済への影響が人口減少率と同じ割合で表れるとは限らないことである。

 地域内の消費規模を単純化すると、「人口 × 1人当たり消費額 × 地域内で消費される割合」と考えることができる。人口をN、1人当たり消費額をc、地域内購買率をrとすれば、地域内需要Dは、概念的にはD=N×c×rと表せる。仮に人口が5%増加しても、地域外の大型店や通信販売などへの支出が増え、地域内購買率が10%低下すれば、1.05×0.90=0.945となり、地域内需要は約5.5%減少する。逆に、人口が減少しても、地域内で購入できる商品やサービスを増やし、域外へ流出していた支出を地域内に残すことができれば、地域経済の縮小速度を抑えられる可能性がある。したがって、「人口が増えれば地域経済も必ず成長する」「人口が減れば同じ割合で地域経済も縮小する」という単純な関係ではない。

 さらに、店舗や事業所には固定費がある。利益を単純化すれば、「利益=1件当たりの利益×利用件数-固定費」と考えられる。人口が少しずつ減っていても、一定の需要を下回った時点で採算が合わなくなれば、事業は徐々に縮小するのではなく、閉店や撤退という形で急に消えることがある。したがって、人口減少の問題は単なる人数の減少ではない。人口や利用者数が少なくなることで、事業やサービスを維持する採算性、人材確保、運営効率が悪化し、生活サービスが非連続的に失われる可能性があることが重要である。

5.地域を支えるのは大企業だけではない

 地域振興というと、大規模工場、物流施設、大型商業施設などの誘致が注目されやすい。しかし、住民の日常生活を直接支えているのは、小売店、飲食店、介護事業所、診療所、運送事業者、建設業者、設備業者、自動車整備業者などの中小企業や小規模事業者である。

 2025年版中小企業白書では、中小企業が物価高、金利上昇、構造的な人手不足に直面していることが指摘されている。また、中小企業の労働分配率はすでに8割近い水準にあり、収益改善を伴わない賃上げには限界があることも示されている。人手不足だから賃金を上げれば解決するという考え方は単純すぎる。もちろん、賃金を引き上げることは人材確保や離職防止に有効な場合がある。しかし、売上や付加価値、生産性が伸びていない事業者が、人件費だけを継続的に引き上げれば、収益が圧迫され、最終的にはサービス縮小や廃業につながる可能性もある。必要なのは、賃金を抑えることでも、無理な賃上げを求めることでもない。適切な価格転嫁、共同仕入れ、共同配送、省力化設備への投資、デジタル化、業務の標準化や集約化などによって、限られた人数でも事業を継続でき、付加価値を高められる構造をつくることである。

6.守るべきなのは企業そのものではなく生活機能である

 人口減少地域では、新規創業支援と同時に、既存事業者が提供してきた生活サービスをどう維持するかが重要になる。長年営業してきた商店や修理業者が廃業する理由は、赤字だけではない。経営者の高齢化、後継者不足、設備更新費の負担、従業員不足などによって、一定の需要が残っていても事業を続けられなくなることがある。

 ただし、すべての企業を行政が延命すべきだという意味ではない。生産性が低く、代替事業者が存在し、利用者への影響が小さい事業まで無条件に維持することは、限られた財源の有効利用という点から望ましくない場合もある。重要なのは、企業という組織そのものではなく、その企業が提供している地域に必要な機能である。地域に一つしかない設備業者、配送事業者、整備工場、食品店などがなくなることで生活や事業活動に大きな支障が出るのであれば、事業承継、他社との統合、共同運営、新規参入、移動販売などを含め、サービス機能を別の形で残す必要がある。自治体の産業政策でも、新規企業数だけではなく、生活関連サービスの継続率、事業承継件数、サービス空白地域、修理や配送に必要な時間、地域内調達率などを把握することが重要になる。新しい企業を呼び込むことだけでなく、地域住民に不可欠なサービスが失われないことも重要な政策成果である。

7.交通は単独の事業ではなく、生活基盤である

 外房地域では、自家用車が主要な移動手段になっている。しかし、高齢化が進めば、すべての住民が将来にわたって自動車を運転できるとは限らない。免許返納、病気、障害、経済的事情などによって、公共交通や移動支援を必要とする住民は今後も存在する。

 国土交通省も、人口減少と担い手不足によってバス路線などの廃止や縮小が進む一方、免許返納や学校・病院の統廃合によって、地域によっては移動手段に対する社会的必要性が高まると整理している。したがって、利用者数が減少しているからといって、公共交通の必要性まで比例して低下しているとは限らない。夷隅地域では、JR(Japan Railways・旧国鉄を継承した鉄道事業者)外房線、いすみ鉄道、小湊鉄道、路線バスなどが地域交通を担ってきた。いすみ鉄道では全線で運転を見合わせ、代行バス輸送が続く中、2026年には千葉県、いすみ市、大多喜町、勝浦市、御宿町、いすみ鉄道などによる地域公共交通のあり方を検討する会議が設置されている。

 鉄道やバスを運賃収入と運行費用だけで評価すると、その交通手段が支えている通院、通学、買い物、観光、雇用などへの効果が見えにくい。一方、公共交通だから無条件に維持すべきだという結論にも慎重である必要がある。鉄道、路線バス、予約制乗合交通、タクシー、福祉輸送、スクールバス、病院送迎などを比較し、地域の需要に対してどの方式が最も少ない社会的費用で必要な移動を確保できるかを検討すべきである。重要なのは、特定の鉄道やバスそのものを守ることではない。住民が病院、学校、商店、行政機関などへ移動できる状態を守ることである。

8.医療は市町村ごとに完結できない

 人口減少地域では、医療機関の維持も大きな課題になる。千葉県では、山武長生夷隅保健医療圏が医師少数区域に位置付けられており、医師確保が地域医療政策上の重要課題となっている。医師や看護師などの医療従事者を各市町村が個別に確保し、同じ診療機能をそれぞれ整備することには限界がある。人口が減少する地域で医療機能を細かく分散させれば、人材も設備も分散し、一つ一つの施設の維持が困難になる場合がある。

 一方で、すべての医療を大規模病院へ集約すればよいわけでもない。遠距離移動が難しい高齢者などにとっては、近くに相談できる診療所や訪問診療がなければ、必要な医療に到達できなくなる可能性がある。現実的には、身近な診療所、総合診療、訪問診療、オンライン診療、地域病院、救急病院、高度専門医療機関などの役割を分担し、それらを救急搬送や公共交通で結び付ける必要がある。医療施設を市町村ごとに完結させるのではなく、保健医療圏や実際の生活圏を単位として考えることが重要である。

9.移住者を増やすだけでは定住につながらない

 移住促進は人口減少地域にとって重要な政策だが、安価な住宅や移住補助金を用意するだけでは長期的な定住につながるとは限らない。移住者は住宅だけで生活するわけではなく、仕事、医療、交通、買い物、教育、子育て、地域社会との関係など、複数の条件がそろって初めて生活を継続できる。移住政策は、地域を知ってもらい移住者を呼び込む段階、移住後の生活を安定させ定住につなげる段階、その人の所得や消費、活動が地域経済や地域社会と結び付く段階に分けて考える必要がある。

 例えば、住民票上の人口が増加しても、移住者が地域外企業の仕事を完全な遠隔勤務で行い、買い物も大半を通信販売や地域外で済ませていれば、地域内事業者への経済効果は限定される可能性がある。一方、住民票を移していない二地域居住者や別荘利用者であっても、地域の飲食店や商店を利用し、住宅管理や修繕を地元業者に依頼し、地域活動に参加すれば地域経済に貢献する。このため、御宿町のように別荘や観光利用が存在する地域では、住民基本台帳人口だけで地域需要を測ることにも限界がある。実際の生活サービス需要を考える際には、常住人口だけではなく、二地域居住者、別荘利用者、宿泊客、日帰り客なども含めた「実効的な利用人口」という視点が重要になる。

10.観光客が増えても、地域が豊かになるとは限らない

 外房地域にとって観光は重要な産業である。海岸、温暖な気候、農水産物、景観、歴史、鉄道など、多様な地域資源があり、観光客の増加は宿泊、飲食、小売、交通などの需要を生み出す可能性がある。しかし、観光客数の増加と地域住民の所得増加は同じではない。観光客が日帰りで短時間しか滞在しなければ地域内消費は限定される。宿泊しても、食材、備品、予約サービス、人材などの多くを地域外から調達していれば、売上のかなりの部分は地域外へ流出する。

 観光による地域への経済効果は、単純化すれば「観光客数 × 1人当たり消費額 × 地域内に残る割合」で考えることができる。そのため、観光政策では来訪者数だけでなく、宿泊者数、平均滞在日数、1人当たり消費額、地元雇用者数、地域内事業者への支出割合、食材や備品の地域内調達率、通年雇用の有無などを見る必要がある。ただし、地域内調達率は理論的には重要な指標であっても、実際に把握することは容易ではない。観光事業者の仕入れ先や委託先まで継続的に調査する必要があるため、統計整備の負担も大きい。それでも、観光客数だけを成果指標にするより、観光消費がどれだけ地域所得に変換されているかを見る方が、地域経済政策としては重要である。

 観光客が増えていても、交通整理、ごみ処理、公共施設維持などの行政コストが増加し、地域内所得が増えていなければ、地域政策としての純効果は限定される可能性がある。観光そのものを否定するのではなく、「観光客を増やす」ことから「観光消費を地域に残す」ことへ、評価の視点を広げる必要がある。

11.空き家は資源であると同時に負債でもある

 総務省の2023年住宅・土地統計調査では、全国の空き家は約900万戸に達している。このうち、賃貸用、売却用、二次的住宅などを除く空き家は約386万戸に上る。空き家は、移住者向け住宅、店舗、事務所、宿泊施設、福祉施設などへ転用できる可能性がある。しかし、空き家が存在することと、実際に利用できる住宅が存在することは同じではない。

 建物の老朽化、耐震性、雨漏り、接道条件、上下水道、相続登記、所有者との連絡、残置物、改修費など、利用に至るまでには多くの課題がある。さらに、改修後の利用者が長期間確保できなければ、投資費用を回収することも難しい。したがって、空き家政策では登録件数や成約件数だけではなく、改修費、利用開始後の継続年数、維持管理費、固定資産税、地域の住宅需要などを含めて評価する必要がある。住宅だけを安く供給すれば地域が再生するという単純な構図ではなく、雇用、交通、医療、買い物などの生活条件と一体で設計する必要がある。

12.自治体ごとの競争には限界がある

 人口減少が進むと、自治体間で移住者、企業、観光客を奪い合う構造が生まれやすい。一つの自治体が人口を増やしても、それが隣接自治体からの転入によるものであれば、広域圏全体として人口減少が改善したわけではない。同様に、それぞれの自治体が個別に病院、交通、公共施設、観光施設などを整備すれば、限られた人材と財源が分散し、一施設当たりの利用者数が少なくなる可能性がある。地方創生2.0でも、人口減少下で生活サービスや地域経済を維持するため、自治体間の広域連携や地域生活圏という考え方が重視されている。

 外房地域でも、市町村の独立性を保ちながら、交通、医療、ごみ処理、公共施設、観光案内、事業承継支援、共同配送などの一部を広域的に運営する余地がある。住民の生活圏は行政区域と必ずしも一致しない。買い物は隣の市、病院は別の市、仕事はさらに遠方という生活は珍しくないからである。行政サービスについても、自治体ごとにすべてを完結させることより、実際の住民の生活圏に合わせて役割を分担することが重要になる。

13.人口減少時代に必要な五つの政策転換

第一に、人口目標だけでなく生活維持目標を置く

 人口増減だけで政策を評価するのではなく、住民が必要なサービスへ到達できる時間、費用、利用可能性を把握する必要がある。例えば、スーパーや診療所までの距離だけではなく、「自動車を使えない住民が公共交通を利用して午前中に通院し帰宅できるか」「食料品店へ30分以内で到達できる住民が何%いるか」といった指標も重要である。将来的にはGIS(Geographic Information System・地理情報システム)を活用し、人口分布と交通網、医療機関、商業施設などを重ね合わせることで、生活サービスへの到達可能性をより具体的に測ることができる。

第二に、新規誘致だけでなく必要なサービス機能の維持を評価する

 企業誘致や創業件数だけではなく、事業承継、共同化、省力化、新規参入などを通じ、必要なサービスが地域から消失しないようにする。重要なのは既存企業そのものを守ることではなく、その企業が担っている生活機能を継続させることである。

第三に、交通を個別事業から統合的な移動サービスへ変える

 鉄道、バス、タクシー、福祉輸送、病院送迎、スクールバスなどを完全に別々の制度として考えるのではなく、予約、運行情報、車両、人材などを可能な範囲で連携させる。人口密度が低い地域では、大型車両を定時運行するより、小型車両による予約制乗合交通の方が効率的な場合もある。

第四に、観光消費の地域内循環を測る

 観光客数だけではなく、宿泊、飲食、農水産物、交通、体験サービスなどに地域の事業者がどれだけ関与しているかを見る必要がある。地域外資本の企業であっても、地元雇用や地元調達が多ければ地域経済への効果は大きくなる。逆に、地元企業であっても仕入れや雇用の多くが地域外であれば、地域内への波及効果は小さくなる可能性がある。

第五に、自治体単独主義から生活圏連携へ移行する

 市町村ごとに同じ施設や専門機能を維持するのではなく、複数自治体で役割を分担する。すべてを一か所へ集約するのではなく、住民に身近な窓口や基本的なサービスは残しながら、高度な専門機能や高額な設備を共同化することが現実的である。

14.人口増加策を否定する必要はない

 ここまでの議論は、移住政策、企業誘致、観光振興を否定するものではない。人口が増えれば地域の需要と担い手が増える可能性があり、若い世代や子育て世帯の移住は、学校、地域活動、住宅市場、将来の労働力にも影響する。問題は、人口増加策だけに依存することである。移住者を募集しながら交通、医療、買い物、雇用が縮小していけば、移住後の定着は難しい。観光客を増やしても、地元事業者が人手不足で営業できなければ、観光需要を地域所得へ十分に変換できない。企業を誘致しても、地域内の人材、企業、取引先との関係が弱ければ、事業所が地域経済から孤立する可能性もある。

 人口増加策と人口減少への適応策は、どちらか一方を選ぶものではない。人口減少をできる限り抑制しながら、それでも人口が減少する期間には生活機能を維持できる構造をつくるという、二つの政策を同時に進める必要がある。

15.外房の地域経済に必要なのは、縮小ではなく再設計である

 人口減少地域の政策は、「何を廃止するか」という議論になりやすい。しかし、単純な撤退や削減だけでは、残された住民の生活条件が悪化し、さらなる人口流出を引き起こす可能性がある。一方で、すべての施設やサービスを従来と同じ形で維持することも、人口、人材、財源が減少する中では困難である。必要なのは、現在の形をそのまま保存することでも、単純に削減することでもなく、必要な機能を残すために提供方法を変えることである。

 店舗を維持できない地域では、移動販売、宅配、共同配送を組み合わせる。路線バスの利用者が少ない地域では、予約制乗合交通やタクシー補助を検討する。すべての診療科を地域内に置くことができなければ、身近な総合診療、訪問診療、オンライン診療と広域病院への交通を組み合わせる。自治体単独で事業を維持できなければ、複数自治体による共同運営を検討する。これは地域を諦める政策ではない。人口規模や人口構成が変化した現実に合わせて、地域社会を持続可能な形へ再設計する政策である。

結論

 人口を増やすことは、地方創生の重要な要素である。しかし、人口増加だけを地域再生の条件とすれば、多くの人口減少地域は、長期間にわたって政策上の失敗地域として扱われることになる。地域経済の持続可能性は、人口だけで決まるものではない。地域内でどれだけ所得と消費が循環するか、住民が医療、買い物、交通などの生活サービスへ到達できるか、必要な事業者や人材を維持できるか、自治体の境界を越えて機能を分担できるかによって大きく変わる。

 ただし、人口が減少しても、すべてのサービスを現在と同じ水準で維持できるとは限らない。人口密度、年齢構成、財政力、人材、地理条件などによって維持可能性は異なる。重要なのは、「人口が減っても必ず維持できる」と楽観することでも、「人口が減るから衰退は避けられない」と悲観することでもなく、どの機能を、どの範囲で、どの方法なら維持できるのかを具体的に検証することである。そのためには、人口、観光客数、企業誘致件数といった分かりやすい数字だけでなく、住民が医療や買い物へ到達できる時間、必要なサービスの継続率、地域内調達率、交通の利用可能性、事業承継の状況などを政策の成果として測る必要がある。

 さらに、御宿町のように観光、別荘、二地域居住が存在する地域では、住民票人口だけを地域経済の基礎とするのではなく、地域サービスを実際に利用する人々を含めた需要構造を見る必要がある。外房地域の将来を考えるとき、目標とすべきなのは、過去と同じ人口規模へ戻すことだけではない。人口減少をできる限り抑えながら、人口が減少する場合にも住民の生活が成立し、地域経済と必要なサービスが可能な限り機能し続ける仕組みをつくることである。

 人口減少という現実を認めることは、地域の衰退を受け入れることではない。人口、需要、人材、財源、交通、医療、商業といった条件を正確に把握し、その人口規模に適した地域の形へ再設計することこそが、人口減少時代の地方創生に求められている。

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