地域分析記事

地域の暮らしと地域課題を数学とデータで考える

 地方で老後を暮らすことを考えるとき、医療機関までの距離は生活の持続可能性を左右する重要な条件になる。スーパーなら多少遠くてもまとめ買いができ、役所なら手続きの頻度そのものを減らすこともできるが、定期的な治療が必要になれば、医療機関までの距離は単なる地図上の数字ではなく、生活時間、交通手段、家族負担まで含めた日常生活の条件になる。

 例えば、自宅から透析施設までの距離が片道30kmだったとする。一般的な維持血液透析は週3回行われることが多いため、自分で通院するなら往復60kmを週3回、1週間で180km移動することになる。これを年間52週として計算すると、60km×3回×52週=9,360kmとなり、透析通院だけで年間9,000kmを超える移動になる。

 この数字だけを見ると、「もし将来透析が必要になったら、この地域では暮らせないのではないか」と感じても不思議ではない。ただし、透析医療の通院は通常の外来通院とは少し事情が異なり、距離だけから生活可能性を判断すると、実態を見誤る可能性がある。

 現在の透析医療では、医療機関による患者送迎が広く行われている。日本透析医会が2023年に行った調査では、回答した822施設のうち70.9%が施設負担による患者送迎を実施していた。また、患者側を対象にした2021年度の調査では、透析施設の送迎を利用して通院している患者は24.8%だった。

 ただし、この70.9%という数字を「全国の透析施設の約7割が送迎している」とそのまま一般化することはできない。この調査の回答率は約21%であり、送迎に積極的な施設ほど回答しやすかった可能性など、回答施設と非回答施設の性質が異なる非回答バイアスを完全には排除できないからである。そのため70.9%は全国の正確な実施率というより、「回答施設の中では送迎がかなり一般的だった」と読む方が統計的には適切である。

 一方、患者調査で送迎利用者が24.8%だったことと、施設調査で送迎実施施設が70.9%だったことは矛盾しない。送迎を実施している施設でも、全患者が送迎車を利用するわけではなく、自家用車、家族送迎、公共交通、タクシーなどを使う患者もいるからである。

 こうした実態を考えると、「施設まで30km」という数字の意味も変わってくる。自分で週3回、片道30kmを運転する生活と、自宅付近まで透析施設の送迎車が迎えに来る生活では、同じ30kmでも本人や家族の負担は大きく異なる。本人が運転しなくてよいのであれば、高齢になって自動車を手放した後でも、透析施設への交通手段が維持される可能性がある。

 地方では、近所の眼科や診療所へ行くためには家族の自動車が必要なのに、それよりはるかに遠い透析施設には病院の送迎車が来るという、一見すると逆転した状況が起こり得る。公共交通が弱い地域ほど、透析施設の送迎車が事実上の医療交通として機能していることがあるからである。

 しかし、ここで注意しなければならないのは、片道30kmが決して軽い通院距離ではないということである。北海道を対象に行われた透析通院に関する調査では、「医療機関まで片道30km以上、または片道1時間以上」を通院困難地域の一つの基準として設定している。つまり30kmという距離は、医療アクセス研究の上でも無視できない通院負担として扱われる程度の距離であり、「送迎があるから問題にならない」と考えるのも適切ではない。

 北海道の調査では、通院困難地域から透析施設へ通う患者の交通手段として、自家用車のほか病院送迎、自治体による送迎、タクシー、公共交通などが使われていた。通院が難しいことを理由として転居した患者や、治療方法を変更した患者も確認されている。このことからも、片道30kmは「絶対に生活できない距離」ではない一方、「何の対策もなく通える距離」とも言えないことが分かる。

 送迎車が利用できれば本人の運転負担は減るが、30kmという距離そのものが消えるわけではない。患者は車を運転しなくても、移動に必要な時間は残る。むしろ複数の患者を順番に迎えながら施設へ向かう送迎車の場合、自家用車で直接施設へ行くより乗車時間が長くなることもある。

 維持血液透析は一般的に週3回行われ、1回の治療時間は4時間前後になることが多い。週3回なら年間の透析回数は概算で156回となり、治療時間だけでも4時間×156回=624時間になる。これは24時間換算で約26日分である。

 さらに往復の移動や待ち時間が加わる。仮に往復移動が合計1時間なら年間156時間、2時間なら312時間となり、治療時間と合計すると年間780~936時間になる。24時間換算では約32~39日分に相当し、これに送迎車の待ち時間、乗降、他の患者宅への立ち寄りなどが加わる場合もある。

 したがって、片道30kmの問題は単なる運転距離ではなく、生活時間の問題として評価する必要がある。月曜、水曜、金曜に透析を受ける人なら、その3日は透析を中心に生活を組み立てることになる。施設が近ければ治療の前後に買い物や家事を行いやすいが、移動時間や待ち時間が長くなれば、透析日は実質的に「治療の日」として一日のかなり大きな部分を使うことになる。

 海外の大規模な透析患者調査でも、透析施設までの移動時間が長い患者ほど、健康関連生活の質が低い傾向が報告されている。死亡リスクとの関連を示した観察研究もあるが、この種の研究では年齢、病状、居住地域など別の要因も影響するため、「長距離通院そのものが死亡リスクを上げる」と単純な因果関係まで断定することはできない。それでも、通院時間が患者の生活負担と無関係ではないという点は、臨床的にも社会的にも妥当である。

 この問題は年齢を重ねるほど重要になる。65歳で透析を始めた時点では自分で30km先まで運転できたとしても、75歳、80歳となれば、夜間や雨天時の運転が難しくなったり、視力や判断力の変化から自動車を手放したりする可能性が高くなる。

 そこで透析施設の送迎が重要になる。本人が運転できなくなっても送迎車が利用できれば、透析生活を続けられる可能性は大きくなる。家族が週3回往復60kmを送り迎えしなくても済み、高齢の配偶者が患者を送って数時間待ち、再び迎えに行くといった負担を避けられる場合もある。

 その意味で透析施設の送迎は、単なる「病院の親切なサービス」と考えるより、地方の高齢者を医療につなぎ続ける生活インフラの一つと見る方が実態に近い。ただし、ここには重要な制度上の問題がある。

 透析施設による無料送迎は、全国の患者に法律上当然に保障された医療給付ではない。診療報酬によって全国一律に送迎費用が給付されている制度でもなく、多くの場合、医療機関が自ら車両、人件費、燃料費、保険料、維持費などを負担して実施している。

 日本透析医会の調査では、送迎患者1人当たりの費用について月平均約2万4,000円という試算も示されている。ただし、この数字には調査方法上の限界があり、全国一律の正確な原価を示すものではない。それでも、患者にとって無料であっても、送迎自体が無料で運営できるわけではないことは明らかである。

 車両を購入し、燃料を入れ、保険や点検費用を負担し、運転手を確保しなければならない。患者が施設周辺に集中していれば効率よく複数人を送迎できるが、広い地域に少人数が分散して暮らしていれば、一人を迎えに行くための走行距離と拘束時間は大きくなる。

 例えば10人の患者が施設から5km以内にまとまって暮らしている地域と、同じ10人が30km四方に散らばって暮らしている地域では、患者数が同じでも送迎に必要な車両の走行距離、燃料、運転手の拘束時間は大きく異なる。したがって透析送迎の持続可能性を考える場合、単なる患者数だけでなく、患者がどれほどの密度で分布しているかという地理的条件が重要になる。

 人口が減れば透析患者も必ず同じ割合で減るとは限らない。高齢化率、糖尿病や高血圧などの基礎疾患、治療成績、新規導入患者数などの影響を受けるからである。しかし人口密度が低下し、患者が広い地域に点在するようになれば、少人数の患者を送迎するために長距離を走らなければならなくなる可能性は高い。

 日本の慢性透析患者数は近年、減少に転じている。2021年末には約34万9,700人だった患者数が、2022年には約34万7,500人、2023年には約34万3,500人、2024年には約33万7,400人となり、3年連続で減少した。

 一方で、全国の透析収容能力が患者数と同じ速度で縮小しているわけではない。2024年の全国調査では、透析装置の台数には減少がみられるものの、同時に透析できる人数や最大収容能力については大きく減少していない指標もある。このため、「患者数が減っているから、近いうちに透析施設も同じ割合でなくなる」と単純に考えることはできない。

 今後は小規模施設の再編や機能分担が進み、一定規模の施設がより広い地域の患者を受け入れる形になる可能性もある。ただし、これは現在全国一律に進んでいると断定できる現象ではなく、人口動態や医療法人の経営状況、地域医療政策によって異なる将来シナリオの一つとして考えるべきである。

 もし施設の集約が進めば、患者から施設までの平均距離が伸びる地域も出てくる可能性がある。そのとき距離を補う役割を担うのが送迎であり、病院という建物だけでなく、患者の家と病院を結ぶ交通手段まで含めて医療提供体制として考える必要が出てくる。

 ただし、現在送迎があることと、10年後や20年後にも同じ条件で送迎を利用できることは別問題である。人口減少が進む地域では、医療スタッフだけでなく送迎車の運転手を確保することも難しくなる可能性があり、燃料費や車両費、人件費が上昇すれば、施設側が現在と同じ送迎範囲を維持できるとは限らない。

 そのため、老後の移住先や居住継続の可能性を考える場合、「現在送迎しているか」だけでなく、「どの地域まで送迎しているのか」「利用条件はあるのか」「自宅送迎なのか集合場所方式なのか」「車椅子対応が可能なのか」「将来もサービスを続ける方針なのか」といった点まで確認する方が現実的である。

 同じ「透析施設まで30km」の地域でも、自宅前まで送迎車が来る場合と、自力で施設まで行かなければならない場合では、生活条件はまったく異なる。地図上では同じ30kmでも、実際の生活上の距離は交通手段によって大きく変わる。

 さらに、平常時には送迎によって問題なく通院できても、台風、大雨、大雪、地震などの災害が起きれば状況は変わる。倒木や冠水によって道路が使えなくなれば、いつもの送迎ルートを通れなくなり、大きく迂回しなければならない場合や、そもそも送迎車が患者宅まで到達できない場合も考えられる。

 透析は買い物や通常の外来受診のように、「今日は行けないから数日後にしよう」と簡単に延期できる治療ではない。そのため透析医療では、大規模災害時にどの透析施設が稼働しているのかなどの情報を共有する災害時情報ネットワークが整備されている。

 ただし、情報ネットワークが存在することと、患者一人一人が実際に代替施設で透析を受けられることは同じではない。代替施設に空きがあるのか、道路が通行できるのか、患者をそこまで運ぶ車があるのか、施設に電力や水が確保されているのかなど、複数の条件がそろわなければ実際の治療にはつながらない。

 したがって、災害に強い地域とは単に自宅から最寄りの透析施設が近い地域とは限らない。通常利用している施設が使えなくなったとき、別の透析施設へ行ける経路があり、そこまで患者を運ぶ手段があり、代替施設にも受け入れ余力がある地域の方が、医療の継続性という意味では強い場合がある。

 こう考えると、老後の透析生活を評価するときには、一つの施設までの距離だけを見るのでは不十分である。最寄りの透析施設がどこにあるのか、その施設が自宅周辺まで送迎しているのか、さらにその施設が利用できない場合に次の透析施設がどこにあるのかという、少なくとも三つの条件を一つの地図の上で考える必要がある。

 そしてここまで考えると、「透析施設まで片道30kmの生活は成立するのか」という問いへの答えも見えてくる。片道30kmは透析通院として決して短い距離ではなく、実際の調査でも通院困難を評価する一つの基準として扱われている。しかし、それだけでその地域での生活が成立しないと判断することも適切ではない。

 自宅が送迎区域に入り、無理のない時間で施設まで行くことができ、施設の受け入れ能力が安定しており、さらに災害時の代替施設や交通経路が確保されているのであれば、片道30kmであっても透析生活が成立する可能性は十分にある。一方で、送迎がなく、自家用車以外の交通手段も乏しく、代替施設も遠い場合には、30kmという距離は老後の生活にとってかなり大きな制約になり得る。

 したがって問題は「30kmは遠いか近いか」という二者択一ではない。30kmという明確な負担を、交通、医療、人員、道路、施設の受け入れ能力といった地域システムによって、どこまで吸収できるかという問題である。

 迎えに来る車があるのか、その車を運転する人がいるのか、施設は安定して患者を受け入れられるのか、道路が使えない日には別の経路があるのか、そしてその仕組みを10年後にも維持できるのかというところまで見なければ、老後の医療アクセスは評価できない。

 地図の上では、病院は30km先にある。しかし毎週決まった日に送迎車が来て、無理のない時間で施設まで連れて行ってくれるのであれば、その30kmは必ずしも生活を断念しなければならない距離ではない。逆に、病院が10km先にあっても、そこへ行く交通手段がなければ、高齢になったときには非常に遠い病院になり得る。

 距離とは道路の長さだけでは決まらない。そこへ人を運ぶ仕組みがあるか、その仕組みが長期的に持続できるかによって、同じ30kmでも生活上の意味は大きく変わる。

 人口減少が進む地方で残すべきものは、透析施設という建物だけではないのだろう。患者の家々と施設の間を月曜日にも、水曜日にも、金曜日にも往復する送迎車、その車を運転する人、道路、災害時の代替施設までを含めて一つの地域医療として考える。その視点に立って初めて、「透析施設まで片道30km」という数字を、老後の生活の中で正しく評価できるのである。

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~「医者がいる町」から「医療につながる町」へ

 地方の町では、診療所の時計だけが、町とは別の時間を刻んでいるように見えることがある。午前八時半、玄関の自動ドアが開くより少し前から、数人の高齢者が待っている。受付が始まれば、血圧の薬をもらいに来た人、腰の痛みを相談する人、健康診断の結果を聞きに来た人が、いつもの椅子に腰を下ろす。医師は一人、看護師が数人、受付には長く勤めている職員がいて、患者の病歴だけでなく、家族構成や普段の暮らしまで何となく分かっている。

 それは大病院とは違う、地域の生活に深く根付いた医療の風景である。しかし、この診療所をそのまま30年先へ移動させようとすると、話は急に難しくなる。建物の老朽化や医療機器の更新だけではなく、患者の人数と年齢構成、医師の働き方、診療所の経営条件、そして町そのものの姿が大きく変わってしまうからである。

 2026年から30年後は2056年である。国立社会保障・人口問題研究所が2023年に公表した「日本の将来推計人口」によれば、出生中位・死亡中位推計における日本の総人口は、2056年に約9,965万人となり、1億人を下回る。65歳以上人口の割合も2055年には37.6%に達する見通しで、人口減少と高齢化が同時に進行する。ただし、これは2020年の国勢調査を基準に出生、死亡、国際人口移動などについて仮定を置いた推計であり、2056年の人口が確定しているわけではない。

 しかも人口減少は全国一様に進むわけではない。大都市と地方都市、人口の少ない農山漁村では変化の速度も人口構成も異なり、市区町村別の将来人口推計も2050年までの段階で大きな地域差を示している。全国の人口が減少しても、都市部では高齢者が増え続ける一方、過疎地域では高齢者の人数そのものが減っていく場合がある。

 では、地方の診療所は30年後も残っているのだろうか。

 現在と同じ形の診療所を、現在と同じ密度で維持することは、多くの人口減少地域で難しくなると考えられる。しかし、だからといって地方から診療所という存在そのものが消えるとは限らない。将来は、常勤医師による従来型の診療所に加え、複数の医療機関、訪問看護、薬局、介護、オンライン診療、巡回診療などが連携して医療を提供する仕組みが、これまで以上に重要になる可能性がある。

 30年後に問われるのは、診療所という建物を何軒残せるかだけではない。住民が必要な医療に到達できる仕組みを、人口が減り続ける地域でどこまで維持できるのかという問題なのである。

患者が減るのに、医療が楽になるとは限らない

 人口が減れば患者も減る。それなら診療所の負担も軽くなるのではないかと考えたくなるが、地方医療では、この直感が必ずしも成立しない。医療需要は人口の総数だけで決まるものではなく、年齢構成、疾病の種類、健康状態、受療行動、医療機関への到達可能性などによって変化するためである。

 仮に人口1万人の町に診療所が5か所あり、それぞれが平均2,000人程度の住民を背景人口としていたとする。その町の人口が30年後に6,000人になれば、単純に割り算した一診療所当たりの背景人口は1,200人になる。しかし、背景人口が40%減少したからといって、診療所の受診件数や診療報酬収入も正確に40%減るとは限らない。実際には、町の外から通院する患者もいれば、町の住民が隣接自治体の病院や診療所を利用する場合もあり、人口と患者数の関係はそれほど単純ではない。

 ここに高齢化という要素を加えると、問題はさらに複雑になる。30歳の住民と85歳の住民では、一般に必要とする医療の種類や量が異なる。高齢になるほど複数の慢性疾患を抱えやすく、薬剤管理、定期検査、認知機能への対応、転倒予防、在宅療養など、医療と介護が重なる課題も増えやすい。そのため、一人の患者に必要な診療時間や多職種との連携が増える可能性がある。

 厚生労働省の2023年度国民医療費によれば、人口一人当たりの年間医療費は65歳未満で21万8,000円、65歳以上で79万7,200円となっており、約3.7倍の差がある。ただし、この数字には入院医療、外来医療、調剤などが含まれるため、高齢者が診療所を3.7倍利用することを意味するものではない。高齢化によって医療費や医療資源の必要量が変化することを示す指標ではあるが、診療所の患者数をそのまま予測するための数字ではないのである。

 さらに注意しなければならないのは、過疎地域では高齢化率が上昇しても、高齢者の絶対数が減少する場合があることだ。厚生労働省が新たな地域医療構想の検討で示した2025年から2040年までの地域類型別推計では、大都市型の医療圏で65歳以上人口が平均17.2%増加する一方、過疎地域型では平均12.2%減少する見通しとなっている。生産年齢人口についても過疎地域型では平均28.4%減少する見通しであり、患者を支える医療従事者の確保が一段と難しくなる可能性がある。

 つまり、地方では高齢化率が上昇することと、地域全体の高齢患者数が増えることを区別しなければならない。高齢者一人当たりに必要な医療が複雑になっても、地域全体の外来需要は減少する場合があり、診療内容の複雑化と診療所経営に必要な患者数の確保が、同時に課題となるのである。

人口が4割減った町では、医療需要はどれだけ減るのか

 この問題をもう少し具体的に考えてみたい。仮に人口1万人の町で65歳以上の住民が30%を占め、30年後には総人口が6,000人、高齢化率が50%になるとする。さらに、65歳以上の一人当たり医療需要を65歳未満の2倍と仮定し、65歳未満の医療需要を1、65歳以上を2という指数で表す。

 現在の医療需要指数は、65歳未満の7,000人に高齢者3,000人の2倍の需要を加えるため、合計1万3,000となる。一方、30年後は65歳未満が3,000人、高齢者が3,000人なので、医療需要指数は9,000となる。人口は40%減少しているのに、医療需要指数の減少率は約30.8%にとどまる計算である。

 これは将来の実際の受診件数を予測したものではなく、年齢構成が変われば人口減少率と医療需要の減少率が一致しないことを示す単純な数理モデルである。高齢者の需要倍率を変えれば結果も変わり、実際には65歳から74歳、75歳から84歳、85歳以上などの年齢階級別に、疾患の種類や受療率、訪問診療の必要性、地域外への患者流出なども考慮しなければならない。

 それでも、この単純な計算から重要なことが分かる。人口が減る地域でも、医療需要が同じ割合で減るとは限らず、反対に高齢化が進んでいるからといって、診療所の患者数や収入が維持されるとも限らない。しかも患者一人当たりの診療内容が複雑になれば、診療時間や他職種との調整に必要な労力は増える可能性がある。

 地方診療所が直面するのは、単なる患者数の減少ではない。医療需要の総量が縮小する一方で、必要な医療機能の一部は複雑化し、それを支える人材や設備を維持しなければならないという、量と質の両面にわたる構造的な変化なのである。

全国では診療所が増えているのに、地方では維持が難しくなる

 現在の日本には、一般診療所そのものは数多く存在する。厚生労働省の2025年医療施設調査によれば、同年10月1日時点の全国の一般診療所数は10万5,521施設で、前年より314施設増加した。このうち無床診療所は10万361施設と全体の95.1%を占め、前年から569施設増加している。一方、有床診療所は5,160施設で、前年より255施設減少している。

 この統計は、人口減少が進んでいるからといって、全国の診療所数が一律に減少しているわけではないことを示している。都市部では新たな診療所が開設される一方、人口の少ない地域では後継者が見つからず、診療所の存続が難しくなる可能性がある。実際、厚生労働省の地域医療構想に関する資料でも、人口の少ない二次医療圏では診療所数が減少傾向にあり、人口の多い医療圏では増加傾向にあることが指摘されている。

 重要なのは、全国の診療所数と、地域住民が利用できる診療所数は同じ指標ではないということである。全国で100施設増えたとしても、それが大都市の駅前や住宅密集地に集中していれば、人口5,000人の地方の町で医師が一人引退する問題を解決することはできない。

 また、施設数が維持されていても、診療日数が減少したり、常勤医師が非常勤医師に置き換わったり、診療科が変更されたりすれば、住民が実際に利用できる医療機能は変化する。反対に、施設数が減少しても、医師の共同勤務や訪問診療、近隣病院との連携が充実すれば、一定の医療サービスを維持できる場合もある。

 したがって、地方医療の将来を考える際には、診療所の数だけを見ても十分ではない。誰が診療しているのか、週に何日利用できるのか、どのような検査や処置が可能なのか、診療所がなくなった場合に代わりとなる医療機関がどこにあるのかまで確認しなければ、地域医療の実態は見えてこないのである。

本当に不足するのは「医師の数」だけではない

 30年という時間を考える場合、現在の施設数以上に重要なのが、その診療所を誰が引き継ぐのかという問題である。地方の小さな診療所では、一人の開業医が診療と経営の両方を担っていることが少なくない。病院であれば一人の医師が退職しても組織としての診療機能を維持できる場合があるが、一人医師の診療所では、その医師の引退が診療所の閉鎖に直結する可能性がある。

 厚生労働省の2024年医師・歯科医師・薬剤師統計によると、診療所に従事する医師の平均年齢は60.1歳で、病院に従事する医師の45.8歳より14歳以上高い。これは診療所医師全体の平均であって、すべての診療所の院長が高齢であることを意味するものではないが、将来の医療提供体制を考える際に、医師の世代交代が重要な課題であることは確かである。

 ただし、医師が高齢であることと、後継者が存在しないことを同一視してはならない。親族への承継、医療法人による事業承継、複数医師による共同経営、近隣病院からの医師派遣など、診療所を継続する方法は複数ある。将来の閉鎖件数を正確に予測するには、医師の年齢だけでなく、引退予定、承継意向、新規開設数、廃止数、地域内の勤務医の供給状況などを継続的に調べる必要がある。

 それでも、若い医師が地方で一人診療所を経営することには、診療以外にも大きな責任が伴う。医師自身が人を雇い、設備を管理し、診療報酬の請求業務に責任を持ち、休日や夜間の対応を調整し、地域によっては学校医、予防接種、在宅診療、看取りなどにも関わることになる。都市部の病院や複数医師が勤務する診療所など、別の働き方を選択できる中で、地方での単独開業を希望する医師が十分に確保できるかは不確実である。

 医師政策でも、全国の医師数だけでなく、地域や診療科ごとの偏在が問題となっている。国は2024年12月に「医師偏在の是正に向けた総合的な対策パッケージ」を策定し、地域ごとの医師確保や勤務環境の改善などを進めている。しかし医学部の定員や全国の医師数を増やすだけで、人口の少ない町の診療所が自動的に維持されるわけではない。

 地方に必要なのは、単に医師免許を持つ人の総数ではなく、その地域で継続して働くことのできる医師と、それを支える看護師、薬剤師、医療事務職員などの人材である。医師を一人確保できても、看護師を採用できず、薬局や訪問看護の体制も不足していれば、地域医療の機能を十分に維持することは難しい。

一軒の診療所が消えると、町では距離が伸びる

 都市部では、一つの診療所が閉院しても、比較的近い場所に別の医療機関が存在することがある。しかし、地方では一軒の診療所がなくなることによって、次の診療所まで10キロ、15キロ、あるいはそれ以上の移動が必要になる場合がある。しかも30年後、その距離を移動しなければならない住民自身が、現在より高齢になっている可能性が高い。

 診療所へのアクセスは、単純な道路距離では測れない。自家用車を運転できる人であれば20分程度の移動で済む場所でも、運転免許を返納した高齢者や自動車を持たない住民にとっては、バスの運行回数、乗り継ぎ、家族の送迎、タクシー料金などが大きな制約となる。同じ距離でも、身体機能や経済状況、家族構成によって移動の負担はまったく異なるのである。

 例えば、診療所が一軒減って平均移動時間が10分延びたとしても、それだけで住民への影響を判断することはできない。多くの人が自家用車で通院できる地域と、独居高齢者が多く公共交通も限られている地域では、医療アクセスの悪化の程度が違うからである。平均移動時間が短くても、一部の住民が事実上通院できなくなるのであれば、地域全体として十分なアクセスが確保されているとは言えない。

 反対に、医師が毎日診療所に常駐していなくても、週に数回の対面診療、巡回診療、訪問看護、オンライン診療、病院への搬送手段などが適切に整備されていれば、物理的な診療所の数が減っても、必要な医療への接近可能性を一定程度維持できる場合がある。ただし、提供できる診療内容や緊急時の対応能力が従来と同じとは限らず、施設数の減少をネットワーク化だけで完全に補えると考えるべきではない。

 地方医療の維持を考える場合、診療所が何軒あるかという指標に加え、住民が必要な医療を、どの程度の時間と負担で受けられるかを評価する必要がある。

 この問題は医療政策だけでは完結しない。公共交通、道路、住宅の分布、介護サービス、地域の財政、家族による支援などが重なり合っており、医療機関の配置と交通政策を別々に検討するだけでは、十分な解決策を導くことは難しいのである。

診療所は「店」から「ネットワークの入口」へ変わるのか

 これまでの診療所は、患者が施設を訪れ、医師が診察し、必要に応じて検査や処方を行い、高度な治療が必要な場合には病院へ紹介するという形を基本としてきた。もちろん従来から病院や薬局との連携は行われてきたが、日常的な診療の多くは一つの施設を中心に提供されていた。

 しかし、人口減少が進み、医療従事者の確保が難しくなる地域では、すべての診療所が同じように医師、看護師、検査設備などを備える方式を維持できるとは限らない。限られた医療資源を地域全体で共有し、必要な医療機能を分担する仕組みが、これまで以上に重要になる可能性がある。

 厚生労働省が進める2040年以降を見据えた新たな地域医療構想でも、従来の病床機能の分化・連携に加え、外来医療、在宅医療、医療と介護の連携、医療従事者の確保などを含めて、地域全体の医療提供体制を検討する方向が示されている。ただし、地域医療構想は病院や診療所の削減、統廃合そのものを目的とするものではなく、地域ごとの人口構成や医療需要に応じた医療機能の確保を目指すものである。

 この政策の延長線上に2056年を置くと、地方の医療提供体制には複数の形が考えられる。従来型の診療所が引き続き地域の中心となる場合もあれば、複数の医師が曜日を分担して診療する場合、病院の分院やサテライト診療所が日常診療を担う場合、巡回診療や訪問診療によって住民の生活圏に医療を届ける場合もあるだろう。

 さらに、オンライン診療を受けるための施設が地域の身近な場所に設けられ、遠隔地の医師につながる仕組みも考えられる。ただし、このような施設は法律上の診療所と必ずしも同じものではなく、提供できる医療機能にも違いがある。診療所という名称や制度上の定義が一律に変わるというより、地域住民が医療を受ける窓口や提供形態が多様化していくと考える方が正確である。

 この変化を単純な進歩や退歩として評価することはできない。毎日同じ医師が診てくれる安心感や、長年の信頼関係を通じて患者の変化に気づくという利点が弱まる可能性はある。その一方で、一人の高齢医師に地域医療の多くを依存させる状態から、複数の医療従事者が役割を分担する体制へ移行できれば、医療提供の継続性を高められる場合もある。

 重要なのは、施設を集約すること自体ではなく、集約後も必要な医療機能が維持されるかを確かめることである。

オンライン診療は制度化されたが、万能ではない

 将来の地方医療を考えるうえで、オンライン診療の位置づけは以前より明確になっている。2025年12月に公布された医療法等の一部を改正する法律により、2026年4月1日からオンライン診療に関する新たな法令上の規定が施行され、「オンライン診療受診施設」が医療法上の医療提供施設の一つとして位置づけられた。

 オンライン診療受診施設とは、患者がオンライン診療を受ける場所として提供される施設であり、一定の要件と届出のもとで設置される。従来の診療所とは制度上の位置づけが異なり、診療を担当する医師や医療機関の責任のもとで利用される仕組みである。国は医療資源の少ない地域での活用を想定しており、住民にとって身近な施設を利用する可能性も示している。

 この制度の整備は、人口の少ない地域における医療アクセスを考えるうえで重要な変化である。しかし、オンライン診療受診施設が設置できるようになったことと、その地域で必要な医療がすべて提供できるようになることは別問題である。

 画面の向こうから腹部を直接触診することはできず、採血や創傷処置、画像検査などもオンライン診療だけでは完結しない。映像や音声を通じて患者の状態を確認できても、急性疾患や重症化が疑われる場合には、対面診療や救急搬送が必要になることがある。通信環境や患者の情報機器の操作能力によって利用しやすさが変わる点も無視できない。

 看護師などが患者のそばにいて、血圧、体温、酸素飽和度などを測定し、その情報を遠隔地の医師に共有する仕組みは有効な選択肢になり得る。ただし、看護師が独立して医師の診断や処方を代行できるわけではなく、診療の補助は法令上の業務範囲や医師の指示に従って行われなければならない。また、オンライン診療受診施設に看護師が必ず常駐するという制度でもなく、必要な人員配置や運営方法は提供するサービスに応じて検討する必要がある。

 さらに、医師がオンラインで診察できたとしても、処方された薬をどのように受け取るのか、検査が必要なときにどこへ行くのか、容体が悪化したときに誰が対応するのかという課題は残る。オンライン診療を地域医療の中で機能させるには、薬局、訪問看護、対面診療を担う医療機関、救急搬送などとの連携が不可欠なのである。

 オンライン診療の価値は、地域から医療従事者を完全に不要にすることではない。少ない医療従事者が持つ専門的な能力を、距離の離れた地域でも利用できるようにすることであり、適切な対面診療と組み合わせて初めて、その効果を発揮する。

 30年後の地方医療を支えるのは、人工知能や通信技術だけではない。患者の様子を見て普段との違いに気づき、必要な対応へつなぐ医療従事者の存在は、技術が進歩しても重要であり続けるだろう。

経営できない診療所を、誰が残すのか

 地方診療所の将来を考える際、避けて通れないのが採算の問題である。民間の診療所は地域住民の健康を支える医療機関であると同時に、職員を雇用し、施設や設備を維持する事業体でもある。患者が減れば診療報酬収入が減少する可能性がある一方、建物の維持費、医療機器の更新費、通信費、人件費などは患者数に完全には比例して減らせない。

 診療所の経営を単純化すると、一定期間の固定費を、一件当たりの診療収入から変動費を差し引いた金額で回収できるかが、収支を考える基本となる。仮に年間固定費が3,000万円で、診療一件当たりの平均収入から変動費を差し引いた額が4,000円だとすれば、固定費を回収するためには年間7,500件の延べ診療件数が必要になる。年間250日診療する場合、一日平均30件という計算である。

 もちろん、これは診療所の標準的な経営実態を表した数字ではなく、収支の仕組みを説明するための仮定である。実際の診療報酬は診療内容や患者の状態によって異なり、訪問診療、各種検査、施設基準による評価なども関係する。医師自身の報酬、借入金の返済、設備投資、物価や賃金の上昇も考慮しなければならず、患者数だけで黒字か赤字かを判断することはできない。

 しかし、人口が減り続ける地域では、少ない患者数に対して一定の固定費を負担しなければならないという構造的な問題が生じやすい。人材確保が難しくなれば給与などの負担が増える可能性もあり、診療所を単独で維持する場合の経営条件は厳しくなることが考えられる。

 ここで問題となるのが、医療を純粋に市場サービスとして考えてよいのかという点である。一般の商店であれば、利用者が減少して採算が取れなくなれば撤退するという判断には経済合理性がある。しかし、その町で最後の診療所が閉院する場合、住民の健康や生活に与える影響は、事業者の損益だけでは評価できない。

 医療には市場を通じて提供されるサービスという側面と、地域の生活を支える社会基盤という側面がある。消防や道路などと制度や財源の仕組みは異なるものの、人口密度の低い地域で必要な機能をどこまで維持するかという点では、共通する政策課題が存在する。

 そのため将来は、公設民営の診療所、病院による分院・サテライト診療所、複数自治体による広域的な協力、医師派遣、巡回診療などを組み合わせる必要がある地域も出てくるだろう。ただし、公設民営にすれば自動的に経営問題が解決するわけではない。自治体が施設整備費や運営費の一部を負担できても、診療を担う医師や看護師が確保できなければ、医療提供体制は成立しないのである。

 地方診療所の将来を左右するのは、医師数や患者数だけではない。国と自治体が、住民の医療アクセスをどの水準まで確保するのか、そのために必要な費用を誰が負担するのかという制度と財政の問題でもある。

診療所の数だけでは、地域医療の質は測れない

 では、地方の診療所をどこまで維持できれば、地域医療が守られたと言えるのだろうか。診療所が三つあった町で一つしか残らなくなった場合、施設数だけを見れば医療提供体制は縮小している。しかし、残った診療所で十分な診療時間と医療機能が確保され、訪問診療や送迎も整備されていれば、すべての住民にとって医療アクセスが三分の一になるとは限らない。

 反対に、診療所が三つ残っていても、診療日が限られ、医師の専門分野が偏り、夜間や緊急時の対応ができなければ、必要な医療が十分に提供されているとは言えない。施設数という分かりやすい指標だけでは、地域医療の実際の機能を評価できないのである。

 そのため、今後の地域医療政策では、住民が診療所に到達するまでの時間、自動車を利用できない住民の割合、公共交通や送迎手段の確保状況、診療可能な曜日と時間、提供できる検査や処置、救急搬送先との連携、医療情報の継続性などを総合的に測定する必要がある。

 特に注意したいのは、平均値だけでは医療アクセスの格差を把握できないということである。町全体の平均通院時間が短くても、山間部の集落や公共交通のない地域に住む一部の人が長時間の移動を強いられている場合がある。自力で移動できない住民や、医療費以外の交通費を負担できない住民の存在も考慮しなければならない。

 また、地方の医療圏は必ずしも市町村の行政区域と一致しない。ある町の診療所が少なくても、隣接する市の医療機関を日常的に利用できる場合もあれば、近隣自治体に医療機関が存在していても、交通手段がなく通院が困難な場合もある。そのため、市町村別の診療所数だけで地域医療の充実度を判断することは適切ではない。

 30年後の地方医療を検証するなら、人口推計と診療所の配置を地図上で重ねるだけでは不十分である。住民の年齢、通院行動、移動手段、医療機関の機能、実際の診療能力まで組み合わせ、どのような住民がどの医療から遠ざかるのかを具体的に調べる必要がある。

 重要なのは、地域に診療所が存在するという事実ではなく、地域住民が必要な診療を、必要なときに受けられるという実効性である。

医療ネットワークを作れば、必ず維持できるわけではない

 診療所を地域の医療ネットワークの入口として位置づける考え方には合理性がある。しかし、ネットワーク化そのものを人口減少社会の万能な解決策として扱うことはできない。施設や専門職を結びつけるには、情報共有の仕組み、診療上の責任分担、患者の移動手段、人材の配置、運営費用などを継続的に確保する必要があるからである。

 例えば、地域の診療所と中核病院が電子的に診療情報を共有できたとしても、診療所側に患者の状態を評価できる医療従事者がいなければ、日常的な医療の質を保つことは難しい。訪問看護が充実していても、訪問先までの移動距離が長く、担当できる患者数に限界があれば、広い地域を少数の職員だけで支えることはできない。

 また、医療機関の集約化によって設備や専門職を効率的に配置できたとしても、患者の移動時間や交通費が増えれば、医療機関の経営上の効率化が住民全体の利益につながるとは限らない。医療機関側で節約できた費用が、患者や家族の時間的・経済的負担として移転している可能性もある。

 こうした問題を検討するには、個々の診療所の経営収支だけでなく、住民の交通費、自治体の送迎費用、救急搬送への影響、医療従事者の移動時間などを含めて、地域全体の費用と効果を比較する必要がある。

 例えば、従来型の診療所を一軒維持する場合と、週数回の対面診療、オンライン診療受診施設、訪問看護、送迎サービスを組み合わせる場合について、費用だけでなく、慢性疾患の管理状況、救急搬送、予防可能な入院、患者の満足度などを比較すれば、どちらがその地域に適しているかを検証しやすくなる。

 ただし、地域医療では一つの方式がすべての地域に適するとは限らない。人口が比較的集中している地方都市、集落が広範囲に分散する山間部、交通の便が悪い沿岸部では、最適な医療提供体制が異なる可能性が高い。2056年の地方診療所を一つの標準的な姿として描くのではなく、複数の選択肢から地域の条件に適した仕組みを選び、その効果を継続的に確かめることが重要になる。

そして2056年、診療所の玄関は開いているか

 2056年のある地方の町を想像してみる。人口は現在より少なくなり、かつて商店だった建物のいくつかは空き家になり、学校も統合されているかもしれない。高齢化率は高いものの、高齢者の人数自体も以前より減り、町を行き交う人の姿は少なくなっている。

 それでも、旧役場の近くには小さな地域医療の拠点がある。そこでは月曜日と木曜日に近隣病院から医師が来て対面診療を行い、別の日には住民がオンライン診療を利用できるようになっている。訪問看護師は自宅で療養する人を支え、巡回診療の車が離れた集落を回る。必要な検査は近隣の医療機関で受け、入院や高度な治療が必要な場合には、あらかじめ連携している中核病院につながる。

 これは2056年の確定した姿ではなく、現在の人口動態と医療制度から考えられる一つの将来像にすぎない。実際には、常勤医師のいる従来型の診療所がそのまま存続する地域もあれば、医療機関の集約化が進む地域、十分な代替手段を確保できず医療アクセスが悪化する地域も出てくる可能性がある。

 とりわけ、医師や看護師の確保、診療報酬制度、自治体財政、医療技術の進歩などは、30年という時間の中で大きく変化し得る。現在の制度と統計から2056年の診療所数や具体的な配置を正確に予測することはできず、将来像を示す場合には、実証された事実と政策上の目標、仮定に基づくシナリオを区別しなければならない。

 ただし、確かな方向性はある。人口が減少する地域で従来と同じ医療提供体制を無条件に維持することは難しくなり、限られた人材と財源をどう配置するかという問題は避けられない。診療所の数を維持することだけを目標にするのではなく、住民が必要とする医療機能を地域全体でどう確保するかを考える必要がある。

 ここで重要になるのが、地域住民の立場から医療を捉えることである。医療機関の配置を効率化する議論では、診療件数や施設の稼働率、医師一人当たりの患者数などが重視されやすい。しかし、住民にとって重要なのは、体調が悪くなったときにどこへ連絡すればよいのか、必要な診察を受けられるのか、薬を受け取れるのか、緊急時には適切な病院につながるのかという具体的な安心である。

 人口5,000人の町に診療所が三つ存在していても、診療時間や医療機能が限られていれば十分とは言えない。反対に、診療所が一つしかなくても、適切な移動手段と対面診療、訪問診療、遠隔医療、病院との連携が整っていれば、必要な医療へのアクセスを維持できる可能性がある。どちらが望ましいかは施設数だけでは決められず、地域の人口構成、地理的条件、医療需要、財政負担などに基づいた検証が必要なのである。

 地方ではこれから、病院も診療所も薬局も、公共交通も介護サービスも、それぞれ単独では維持しにくくなる地域が増える可能性がある。だからこそ、医療の問題を医療機関の配置だけで解決しようとすることには限界がある。医療へのアクセスは交通の問題につながり、交通の問題は人口配置や住宅政策の問題につながり、最終的には地域社会をどのような形で維持していくのかという選択に行き着く。

 30年後の地方で最後まで必要とされるものは、必ずしも立派な建物ではない。体調が悪くなったとき、住民が迷わず相談でき、必要な医療につながる仕組みである。かつて、その役割の多くを一人の町医者が担っていた地域でも、2056年には複数の医療従事者と医療機関が連携することで、その機能を維持しているかもしれない。

 診療所の白い看板は、今と同じ場所に残っていないかもしれない。しかし、その町から必要な医療へつながる道が途切れていなければ、地域医療の重要な機能は守られていると言えるだろう。

 地方の診療所を30年後も維持できるのかという問いは、結局のところ、人口が減少する社会で、誰もが必要な医療を受けられる仕組みをどこまで維持できるのかという問いなのである。

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 地方で暮らすとき、自宅から病院まで何キロあるのか、車で何分かかるのかを気にする人は少なくありません。特に高齢になってからの生活や地方移住を考える場合、近くに総合病院があることは、住む場所を選ぶうえで重要な判断材料になります。

 しかし、救急医療について考えるなら、単純な道路距離だけでは十分ではありません。自宅から10キロ先に病院があっても、その病院が夜間の救急患者を受け入れられなければ、救急車は別の医療機関へ向かう必要があります。また、一般的な救急患者を受け入れられる病院であっても、脳卒中、急性心筋梗塞、重症外傷などに必要な専門治療まで対応できるとは限りません。

 人口減少が続くこれからの地方では、病院そのものがなくなることよりも、必要な治療を受けられる医療機関がどこに配置され、そこまで何分かかるのかが重要になる可能性があります。医療機関の役割分担、医師や看護師の確保、高齢者の救急需要、救急搬送体制などが相互に関係するため、将来の救急医療を単純な病院数の増減だけで判断することはできません。

病院までの距離には二つの意味がある

 救急医療へのアクセスを考える際には、地理的距離と医療機能を考慮した実質的な距離を区別する必要があります。地理的距離とは、自宅から医療機関までの道路距離や通常の移動時間を指します。一方、実質的な距離とは、患者の病状に応じた適切な医療を受けるまでに必要な時間を含む考え方です。

 例えば、近隣の病院が一般的な内科救急に対応できても、脳梗塞に対する血栓除去療法や、急性心筋梗塞に対する緊急の冠動脈治療に対応していなければ、患者は専門治療が可能な病院へ搬送されることがあります。その場合、最寄りの病院までの距離と、実際に必要な治療を受けられる病院までの距離は一致しません。

 さらに、救急医療では病院まで移動する時間だけでなく、119番通報から救急車が到着するまでの時間、現場での観察や処置、受入医療機関の選定、病院到着後の診断や治療準備なども重要です。医療機関に到着した時刻と、専門的な治療が始まる時刻は必ずしも同じではなく、病状によっては救急隊が現場や搬送中に開始する処置も生命予後に関係します。

 したがって、地方の救急医療を評価するうえで本当に重要なのは、単純な道路距離よりも、適切な処置や専門治療に到達するまでの時間です。病院が近くに存在していても、必要な診療機能や受入体制がなければ、救急医療へのアクセスが十分に確保されているとは判断できません。

全国の救急搬送時間は以前より長くなっている

 総務省消防庁の統計によると、2024年中に救急車で搬送された人は676万9,172人でした。119番通報を受けてから医師へ引き継ぐまでの病院収容所要時間は全国平均44.6分で、新型コロナウイルス感染症の流行前に当たる2019年の約39.5分と比較すると、約5.1分長くなっています。

 ただし、救急搬送時間が毎年延び続けているわけではありません。2023年の病院収容所要時間は45.6分でしたが、2024年には44.6分へ短縮しました。また、2026年3月に公表された2025年の速報値では、救急搬送人員は676万1,871人となり、前年より7,301人減少しています。もっとも、この速報値は搬送人員に関するものであり、2025年の平均病院収容所要時間が短縮したことまで示すものではありません。

 こうした変化には、救急需要、医療機関の受入状況、交通条件、消防機関の運用体制など、複数の要因が関係しています。全国平均が長くなった原因を地方の病院減少だけに求めることはできず、都市部と地方でも事情は異なります。それでも、2019年と2024年を比較して病院収容所要時間が長くなっていることは、救急医療体制を考えるうえで見過ごせない変化です。

 さらに注目すべきなのは高齢者の割合です。2024年に救急搬送された人の63.3%を65歳以上が占めており、高齢化が救急需要に大きく関係していることが分かります。高齢者は複数の慢性疾患を抱えている場合もあり、搬送先の選定や診療に多くの医療資源を必要とすることがあります。ただし、高齢者の増加率と救急搬送件数の増加率が必ず一致するわけではなく、年齢別の搬送率や健康状態、介護施設での対応なども考慮しなければなりません。

人口が減少しても、救急医療の維持費用は比例して減らない

 国立社会保障・人口問題研究所の2023年推計では、2050年に向けて日本の多くの地方自治体で人口減少が進むと予測されています。人口が減少すれば、地域全体の患者数や医療需要の構成が変わり、医療機関の経営や人員配置にも影響が及ぶ可能性があります。

 救急医療には、患者が受診するかどうかにかかわらず、一定の人員や設備を確保する必要があるという特徴があります。24時間対応する病院では、夜間休日の診療体制、看護体制、検査機能などを維持しなければならず、より高度な救急医療を担当する病院では、集中治療や緊急手術などに対応する人員と設備も必要になります。

 このため、人口が半分になったからといって、救急医療に必要な費用や人員を単純に半分にできるわけではありません。患者数に応じて診療収入が減少する一方、必要な待機体制や設備の費用が維持されれば、医療機関の経営上の負担は相対的に増加します。人口減少に伴って働き手も少なくなる地域では、医師、看護師、医療技術職などの確保がさらに難しくなる可能性があります。

 もっとも、すべての病院が24時間の緊急手術や高度な救急医療に対応する必要があるわけではありません。日本の救急医療には初期救急、二次救急、三次救急という役割分担があり、地域によっては複数の病院が休日や夜間の当番を分担する病院群輪番制も採用されています。経営環境が厳しくなったとしても、その対応が直ちに病院の閉鎖や統合になるとは限らず、診療機能の見直しや医療機関間の連携、公的な支援なども選択肢になります。

 厚生労働省が進める2040年に向けた地域医療構想では、急性期拠点機能、高齢者救急・地域急性期機能、在宅医療等連携機能などを整理し、地域の医療需要に応じた役割分担と連携を進める方向が示されています。これは病床削減や病院の統廃合そのものを目的とする制度ではなく、限られた医療資源で必要な医療を提供し続けるための体制整備という側面があります。

 その結果として、専門性の高い急性期医療が一定の拠点へ集約される一方、一般的な高齢者救急や地域の急変患者については、身近な医療機関が役割を担う形も考えられます。したがって、将来の地方医療では、最寄りの病院までの距離が変わらなくても、病状によって搬送される病院が変化する可能性があります。

外房では救急搬送に長い時間を要している

 この問題を具体的に考えるため、千葉県の山武長生夷隅保健医療圏を見てみます。この医療圏は、東金市、茂原市、勝浦市、いすみ市、御宿町、大多喜町などを含む6市10町1村で構成され、沿岸部から内陸部まで広い地域を対象としています。

 千葉県が2023年9月1日から10月31日までの2か月間に実施した救急搬送実態調査では、山武長生夷隅保健医療圏の救急搬送3,631件のうち、二次医療圏内の医療機関への搬送は2,344件で64.6%、医療圏外への搬送は1,287件で35.4%でした。

 つまり、この調査期間に確認された救急搬送のおよそ3件に1件が、医療圏外の医療機関へ向かっていたことになります。ただし、これは2023年度の年間搬送件数ではなく、9月と10月の2か月間の調査結果です。季節による救急需要の違いや調査期間の特性があるため、この割合を年間全体や将来にそのまま当てはめることはできません。

 同じ調査によると、救急隊が通報を覚知してから病院に収容するまでの平均時間は67.00分でした。その内訳は、覚知から現場到着まで12.42分、現場到着から出発まで30.47分、現場出発から病院収容まで24.11分となっています。いずれの時間も、同じ調査における千葉県内9保健医療圏の中で最も長い水準でした。

 特に注目すべきなのは、現場到着から出発までに平均30.47分を要していることです。この時間には、患者の状態確認、必要な救急処置、搬送先の選定、医療機関との受入調整などが含まれます。同じ調査では、受入医療機関との平均交渉回数は1.90回であり、5回以上交渉したケースも7.6%ありました。

 ただし、30.47分のすべてが受入医療機関を探すための時間だったわけではありません。患者の状態によっては現場で十分な観察や処置が必要になる場合もあり、この集計だけでは搬送先の調整に実際何分かかったかまでは分かりません。また、搬送時間が長い原因についても、道路網、救急車の配置、患者の重症度、受入病院の分布などを区別して検証する必要があります。

 なお、全国の2024年平均44.6分と、山武長生夷隅保健医療圏の2023年9~10月平均67.00分を比較する場合には注意が必要です。両者は対象期間や集計範囲が異なるため、その差をそのまま地域固有の医療体制の問題によるものと解釈することはできません。外房地域の特徴を厳密に評価するには、同一年度、同一期間、同じ定義による他医療圏との比較が重要です。

医療圏外への搬送が多いことは、何を意味するのか

 山武長生夷隅保健医療圏で35.4%が医療圏外へ搬送されたという事実は、地域内だけで救急医療が完結していない状況を示しています。しかし、医療圏外搬送が多いことだけで、地域内の病院が救急患者を受け入れられないと結論づけることはできません。

 例えば、専門的な治療が必要な患者を設備や人員の整った病院へ直接搬送することは、合理的な医療提供体制の一部です。また、医療圏の境界付近では、行政上は別の医療圏に属していても、道路距離や移動時間では隣接医療圏の病院の方が近い場合があります。患者や家族の希望、かかりつけ医療機関との関係、受入病床の状況なども搬送先の選定に関係することがあります。

 したがって、医療圏外搬送率が高いことを直ちに医療機能の不足や救急医療体制の失敗と評価するのは適切ではありません。問題は、医療圏を越えること自体ではなく、必要な治療に到達するまでの時間が適切であるか、搬送によって患者の予後にどのような影響が生じているかという点です。

 また、医療圏全体の平均値は、御宿町、勝浦市、いすみ市、大多喜町など個別自治体の状況をそのまま表すものではありません。比較的大きな市街地と人口の少ない山間部では、病院へのアクセスや救急車の到着条件が異なるため、医療圏全体の平均値だけでは地域内の格差を十分に把握できません。

 外房の救急医療を詳細に評価するのであれば、市町村別、できれば地区別に、救急車の現場到着時間、搬送先病院、搬送時間、傷病程度、受入交渉回数などを調べる必要があります。脳卒中や急性心筋梗塞などについては、病院到着後の専門治療開始時間も併せて検証することで、実際の医療アクセスをより正確に把握できます。

外房の人口は2050年までに約3分の1減少する見通し

 山武長生夷隅保健医療圏の将来を考えるうえで重要なのが、人口規模と年齢構成の変化です。国立社会保障・人口問題研究所の2023年推計によると、この地域の2020年人口は410,235人でしたが、2030年には365,888人、2040年には318,974人、2050年には272,947人になると見込まれています。

 2020年から2050年までの人口減少率は約33.5%であり、30年間で住民のおよそ3分の1が減少する計算です。この規模の人口減少は、医療機関の患者数、地域の労働力、公共交通、救急隊の運用、医療機関の経営環境などに影響する可能性があります。

 一方、75歳以上人口については総人口とは異なる変化が予測されています。2020年の75歳以上人口は74,080人でしたが、2030年には93,737人となり、2050年でも87,626人と推計されています。総人口が2020年比で33.5%減少する一方、75歳以上人口は2050年でも約18.3%多い計算です。

 これは、人口減少と高齢者の医療需要の変化を別々に考える必要があることを示しています。若年層や現役世代の人口が大きく減少しても、75歳以上人口は一定期間増加するため、医療機関に求められる診療内容や介護との連携が変化する可能性があります。もっとも、75歳以上人口が18.3%増加するからといって、救急搬送件数も18.3%増加すると予測できるわけではありません。

 将来の救急搬送件数を推計するには、年齢階級別人口に、それぞれの年齢階級での救急搬送率を組み合わせる方法が考えられます。ただし、その搬送率自体も健康状態、医療技術、介護サービス、救急利用行動などによって変化するため、一定の仮定を置いた複数のシナリオで検証する必要があります。

 人口が減少するから救急需要も同じ割合で減るとも、75歳以上人口が増えるから救急需要が必ず増えるとも断定できません。今後重要になるのは、地域全体の人口だけでなく、どの年齢層が、どの地区に、どの程度居住するのかという人口分布の変化です。

人口密度が下がると病院までの距離は長くなるのか

 人口減少によって地方の人口密度は低下しますが、それだけで住民一人当たりの平均搬送距離が長くなるとは限りません。病院の位置が変わらず、住民が各地区で同じ割合で減少するのであれば、人口が減っても住民から病院までの平均距離は基本的に変わりません。

 平均搬送距離は、各地区の人口と搬送先までの距離を組み合わせて求められます。具体的には、地区ごとの人口にその地区からの搬送距離を掛けた値を合計し、地域全体の人口で割る方法が考えられます。この場合、病院配置と各地区の人口比率が変わらなければ、総人口だけが減少しても平均距離は変化しません。

 一方、特定の病院が救急機能を縮小し、遠方の病院が搬送先となる場合には、平均搬送距離が長くなる可能性があります。また、高齢者が交通条件の悪い地区に多く残る場合や、人口減少によって救急拠点の再配置が必要になる場合も、地域によって搬送条件が変化することがあります。逆に、住民が医療機関の近くへ集まる場合には、平均搬送距離が短くなることも考えられます。

 したがって、人口減少と搬送距離の関係は一方向ではありません。人口密度の低下が医療機関の維持を難しくするという経済的な問題と、住民から医療機関までの距離が変化するという地理的な問題は、区別して考える必要があります。

 外房地域についても、御宿、勝浦、大多喜、いすみ、茂原などの自治体間の距離が人口減少によって変わるわけではありません。将来の医療アクセスを左右するのは、住民の分布、医療機関の配置と診療機能、道路条件、救急車の配置、搬送先の選定方法などがどのように変化するかという点です。

医療機能の集約化は救急医療を悪化させるのか

 病院の機能が集約されると、住民から専門的な救急治療を受けられる病院までの距離が長くなる場合があります。しかし、距離が延びることと、救急医療の質が低下することは必ずしも同じではありません。

 例えば、高度な治療を必要とする患者を、専門医や設備が十分に整った病院へ直接搬送できれば、近隣の病院を経由するより専門治療を早く開始できる可能性があります。急性心筋梗塞などでは、最初に搬送された病院で対応できず、別の病院へ転院することによって治療開始が遅れる場合もあるため、適切な搬送先を最初から選ぶことが重要になります。

 海外では、地方病院の閉鎖後に救急施設までの搬送時間が延びたとする研究が報告されている一方、救急医療施設の再編による移動距離の増加が住民全体の死亡率を必ず高めるとまでは確認されていません。ただし、こうした研究は国ごとの医療制度や地域条件が異なり、研究方法にも限界があるため、その結果を日本の地方へ直接当てはめることはできません。

 重要なのは、医療機能の集約化には、搬送時間を延長させる側面と、専門治療を効率的に提供できるようにする側面の両方があることです。集約化によって専門医や設備が充実しても、遠方から搬送される患者への対応が遅れたり、受入患者が集中して病院内の処理能力を超えたりすれば、期待した効果が得られない可能性があります。

 逆に、救急隊と病院の情報共有が改善され、適切な搬送先を短時間で選定できるようになれば、病院までの走行時間が多少長くなっても、治療開始までの総時間を短縮できる場合があります。医療体制の再編を評価するには、病院数や道路距離だけでなく、救急搬送時間、受入困難事例、治療開始時間、死亡率、後遺症などを総合的に検証する必要があります。

救急車が病院へ到着するまでの医療も重要になる

 地方の救急医療を考える際には、病院の配置だけでなく、救急車が患者のもとへ到着してから病院へ引き継ぐまでの医療体制も重要です。救急救命士による処置、救急隊と医療機関の連携、ドクターカー、ドクターヘリなどを組み合わせることで、病院到着前から必要な医療を提供できる可能性があります。

 総務省消防庁によると、2025年4月1日時点で全国5,485隊の救急隊のうち、救急救命士を運用している救急隊は5,472隊で、全体の99.8%に達しています。ただし、この割合は救急救命士を運用する隊の割合であり、すべての出動で必ず救急救命士が搭乗することを意味するものではありません。また、全国的に配置が進んでいても、個々の地域で救急車が何分で到着するか、どのような処置が可能か、搬送先の病院が受け入れられるかは別の問題です。

 ドクターヘリやドクターカーも、医療機関までの距離による不利を補う手段となり得ますが、運用条件には制約があります。例えば、ドクターヘリは天候、視界、離着陸場所、運航時間などの影響を受けるため、あらゆる時間帯や場所で利用できるわけではありません。ドクターカーについても、医師の配置や出動範囲などによって対応能力が異なります。

 遠隔医療や救急搬送情報の共有も、搬送先の選定や医療機関の準備を効率化する手段として期待されています。ただし、これらの仕組みを導入すれば必ず救命率が改善するというものではなく、対象疾患、運用方法、医療機関の受入能力などに応じて効果を検証する必要があります。

 今後の地方救急医療では、病院までの距離を短くすることだけでなく、病院へ到着する前の医療を充実させること、適切な搬送先を早く決めること、病院到着後に速やかに専門治療へ移行できることが重要になります。

2050年の搬送時間はどのように変わるのか

 山武長生夷隅保健医療圏の2023年調査では、平均病院収容所要時間は67.00分でした。しかし、この数値と2050年までの人口推計だけを使って、将来の搬送時間が何分になるかを正確に予測することはできません。人口減少が進んでも、病院配置、救急車の運用、受入調整体制などの変化によって結果が異なるためです。

 例えば、病院の救急機能が集約され、現場から病院までの走行時間が平均10分長くなり、それ以外の条件が変わらないと仮定すれば、病院収容所要時間は67分から77分へ延びる計算になります。一方、受入医療機関との調整や現場滞在に要する時間を平均10分短縮できれば、走行時間が10分延びても全体の所要時間は変わらないことになります。

 さらに、病院までの時間が延びても、必要な専門治療へ直接つなげられることで、治療開始までの時間が短縮する可能性もあります。反対に、病院自体は近くても、受入先の選定に時間がかかったり、専門治療に対応できず転院が必要になったりすれば、適切な治療を受けるまでの時間が長くなる場合があります。

 これらは将来の搬送時間を予測した数値ではなく、条件の違いによって結果がどのように変化するかを示す仮定の計算です。実際の予測には、救急需要の将来推計、救急車の配置、道路網、医療機関の診療機能、受入能力、地区別人口などを組み合わせる必要があります。

 特に重要なのは、地域全体の平均値だけでなく、搬送時間が長い地区や、専門治療へのアクセスが難しい住民がどの程度存在するかを把握することです。平均時間が改善したとしても、一部の山間部や人口の少ない地区で搬送時間が大きく延長するなら、その地域の医療アクセスには別の課題が残ります。

外房の将来を考えるには地区別の分析が必要

 外房地域の救急医療を将来にわたって評価するには、医療圏全体の平均値に加え、御宿町、勝浦市、いすみ市、大多喜町などの自治体ごとの違いを把握する必要があります。同じ自治体内でも、中心市街地と周辺の集落では道路条件や救急拠点までの距離が異なり、実際の搬送時間に差が生じる可能性があります。

 具体的な分析方法としては、まず2020年の人口分布と救急医療機関の配置を基準に、2030年、2040年、2050年の地区別人口を推計します。次に、現在の病院機能を維持する場合、専門的な救急機能が一部の病院へ集約される場合、医療機関間の連携や救急搬送体制が改善される場合など、複数の条件を設定して比較することが考えられます。

 それぞれの条件について、道路網を用いた移動時間、救急車の現場到着時間、医療機関の受入状況、疾患別の搬送先などを組み合わせれば、将来の救急医療へのアクセスをより具体的に検討できます。特に、住民全体の平均搬送時間だけでなく、長時間の搬送を必要とする住民の割合や、75歳以上人口に対する医療アクセスを評価することが重要です。

 ただし、2050年の個別病院の存続や診療機能を現時点で確定することはできません。人口推計そのものにも不確実性があり、医師の配置、医療政策、診療技術、交通インフラなども変化するため、将来予測は確定的な数字ではなく、条件付きの分析結果として示すべきです。

 千葉県では病床機能報告などを通じて医療機関の診療機能に関する情報が公表されていますが、病床機能の区分だけで、個別の疾患について24時間受け入れられるかどうかが分かるわけではありません。救急医療の実態を把握するためには、病床機能に加えて、実際の救急受入実績、診療時間、専門治療への対応状況などを確認する必要があります。

地方移住や老後の居住地選びで確認すべきこと

 地方移住や老後の住まいを考えるとき、「総合病院まで車で20分だから安心だ」という判断には一定の合理性があります。しかし、将来の救急医療という観点では、最寄りの病院までの通常の移動時間だけで十分とはいえません。

 実際に確認したいのは、その病院が夜間休日にどのような救急患者を受け入れているのか、脳卒中や急性心筋梗塞などの専門治療にはどこまで対応できるのか、重症患者はどの医療機関へ搬送されるのかという点です。加えて、救急車の配置や出動状況、隣接する医療圏との連携、地域における医師や看護師の確保状況なども重要になります。

 もっとも、住民がこれらの情報をすべて入手できるとは限りません。個別の医療機関について詳細な受入能力や搬送時間が公開されていない場合もあり、同じ病院でも時間帯や診療体制によって対応できる範囲が変化することがあります。そのため、医療機関の有無だけでなく、自治体や消防機関、都道府県が公表する地域医療や救急搬送の情報を継続的に確認することが望まれます。

 特に高齢者の場合は、急性期の救急医療だけでなく、退院後の回復期医療、在宅医療、介護サービスとの連携も生活の安心に関係します。高度な救急病院が近くにあることだけを重視するのではなく、日常診療から救急、入院、退院後の生活までを支える医療体制全体を評価する必要があります。

地方で本当に見るべきなのは距離ではなく、必要な治療までの時間

 人口減少が進む地方では、救急医療を支える人員や設備を現在と同じ配置で維持することが難しくなる地域があると考えられます。医療機能の集約化が進めば、専門的な救急治療を受けられる病院までの搬送時間が長くなる地域が生じる可能性がありますが、人口減少だけを根拠として、すべての地域で搬送時間が延びると結論づけることはできません。

 一方、医療機関の役割分担や救急搬送体制の改善、救急隊と病院の情報共有などによって、搬送時間の延長を抑えたり、専門治療の開始を早めたりできる可能性もあります。救急医療においては、最寄りの病院まで短時間で到着できることと、必要な治療を適切な時間内に受けられることの両方が重要です。

 外房地域では、2023年9~10月の調査において、救急搬送の35.4%が医療圏外へ向かい、覚知から病院収容までの平均時間は67.00分でした。これらは地域の救急医療を検討するうえで重要な実績ですが、その数字だけで将来の搬送時間の延長や、医療機関の不足を証明することはできません。今後は地区別の搬送時間、疾患別の専門治療へのアクセス、医療機関の受入能力などを継続的に把握することが必要です。

 救急医療において、1キロという距離は、どこでも同じ意味を持つわけではありません。道路事情がよく、必要な治療に対応できる病院が受け入れ可能であれば、比較的長い道路距離でも迅速に医療へ到達できる場合があります。反対に、近隣に病院が存在していても、受入調整や転院に時間を要すれば、適切な治療の開始が遅れることがあります。

 スーパーやガソリンスタンドが遠くなれば、日常生活の不便が大きくなります。しかし、救急医療へのアクセスが悪化した場合には、生活の利便性だけでなく、生命や健康に関わる結果が生じる可能性があります。もっとも、その影響の大きさは病気の種類や重症度、医療機関の機能、搬送体制によって異なるため、距離の延長だけで健康被害を予測することはできません。

 2050年に向けた地方の救急医療を考える際に重要なのは、病院が何施設残るのかという数だけではありません。住民がどこに暮らし、救急車が何分で到着し、どの病院が必要な治療を提供でき、実際に何分で治療を開始できるのかという、地域の医療システム全体を評価することです。

 人口減少が進む30年後の地方で、必要な治療を受けるまでの時間が現在より長くなるのか、それとも医療機関の連携や搬送体制の改善によって維持・短縮できるのかは、今後の地域医療政策と医療提供体制の変化に左右されます。その変化を客観的に把握するためには、人口推計だけで将来を判断するのではなく、救急搬送の実績と医療機関の機能を継続的に検証していく必要があります。

 地方で将来も安心して生活できるかを考えるうえで、救急医療へのアクセスは、水道、道路、公共交通、買い物環境などと並ぶ重要な生活基盤の一つです。そして、その実態を評価する中心的な指標は、単に病院まで何キロあるかではなく、必要な医療を、必要な時間内に受けられる地域なのかという点にあります。

地域の課題を、自分の判断に置き換えて考える

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数字で比較するサービスを見る

 地方で暮らしていると、119番に電話すれば救急車が来ることは、日常生活を支える当然の公共サービスのように感じられる。消防署や分署が現在と同じ場所にあり、道路網も大きく変わらないのであれば、30年後も救急車の到着時間は現在とそれほど変わらないように思えるかもしれない。しかし、人口減少が進む地方では、消防署の位置や道路が変わらなくても、現在と同じ救急体制を維持できるとは限らない。

 その理由は、人口の減少と救急需要の減少が必ずしも同じ割合で進まないことにある。高齢化によって住民1人当たりの救急利用率が変化する一方、消防職員や医療従事者の確保は難しくなる可能性がある。さらに、人口が減っても自治体の面積や集落間の距離は変わらず、医療機関の再編によって搬送先が遠くなる地域も考えられる。こうした変化が重なれば、救急車の台数が現在と同じでも、住民が受けられる救急サービスの水準が変化する可能性がある。

 ただし、人口減少によって救急車の到着時間が必ず長くなると断定することも適切ではない。広域的な消防体制の整備や救急車の配置最適化、医療機関との連携によって、サービス水準を維持したり、改善したりできる余地もある。重要なのは、救急車が何台残るかという問題だけではなく、119番通報から現場到着、必要な処置、医療機関への搬送、専門的な治療までを含めた救急医療全体の機能を、人口減少のなかで維持できるかという問題である。

全国では救急車の到着時間が長期的に延びている

 総務省消防庁が公表した「令和7年版 救急・救助の現況」によると、2024年の救急自動車による全国の救急出動件数は771万8,380件で、統計開始以来最多となった。119番通報から救急車が現場に到着するまでの平均時間は9.8分で、2019年と比較すると約1.1分長くなっている。また、119番通報から医師へ患者を引き継ぐまでの病院収容所要時間は平均44.6分で、2019年より約5.1分延びている。

 もっとも、これらの時間が毎年一方的に長くなっているわけではない。2023年の現場到着平均時間は10.0分、病院収容平均時間は45.6分だったため、2024年にはいずれも短縮している。したがって、2019年と比較して救急搬送に要する時間が長くなっているという事実と、今後も継続的に悪化するという予測は、区別して考える必要がある。

 さらに、2026年3月に消防庁が公表した2025年の速報値では、救急自動車による出動件数は768万6,235件となり、前年より3万2,145件、率にして0.4%減少した。搬送人員も676万1,871人で、前年から0.1%減少している。これは速報値であるため今後修正される可能性があるものの、高齢化が進んでいても、救急出動件数が毎年必ず増加するわけではないことを示している。

 ここで重要なのは、救急医療に要する時間を正しく区別することである。現場到着所要時間は119番通報から救急車が患者のもとに到着するまでの時間であり、病院収容所要時間は119番通報から医師への引継ぎまでの時間である。後者には現場到着までの時間も含まれるため、9.8分と44.6分を足し合わせて救急搬送の所要時間とすることはできない。

 また、医師への引継ぎが完了した時点と、患者に必要な治療が開始された時点も必ずしも一致しない。救急救命士などによる初期処置は病院到着前から始まる場合があり、反対に、専門的な検査や手術などは医療機関への到着後に一定の時間を要することがある。したがって、住民が受けられる救急医療の水準を評価するには、救急車の到着時間だけでなく、必要な医療につながるまでの過程全体を見る必要がある。

人口が減っても救急需要が同じ割合で減るとは限らない

 人口10万人の地域が将来6万人になれば、単純には救急出動件数も4割減少するように思える。しかし、この考え方が成立するのは、住民1人当たりの救急利用率が将来も変わらず、年齢構成などの条件も同じである場合に限られる。実際には、年齢によって救急搬送につながる疾病や事故の発生率が異なるため、総人口の変化だけから将来の救急需要を判断することはできない。

 厚生労働省が示した2040年の人口構造に関する資料では、2025年から2040年にかけて、全国の15歳から64歳までの生産年齢人口は約15.0%減少する一方、85歳以上人口は約42.2%増加すると推計されている。高齢になるほど心疾患、脳血管疾患、転倒や骨折、呼吸器疾患などによって救急搬送が必要になる機会が増えることから、この人口構成の変化は救急需要を考えるうえで重要である。

 実際、消防庁の2024年統計では、救急自動車による搬送人員676万9,172人のうち、65歳以上は428万4,953人で、全体の63.3%を占めている。2025年の速報値でも、65歳以上の搬送人員は426万5,047人で、全体の63.1%に達している。高齢者人口と救急搬送の関係が、現在の救急医療体制において既に重要な要素になっていることが分かる。

 ただし、ここで注意しなければならないのは、高齢化率の上昇と高齢者人口の増加は同じではないという点である。高齢化率は、地域の総人口に占める高齢者の割合を示すため、若年人口が急速に減少すれば、高齢者の人数自体が減っていても上昇することがある。この違いを無視すると、地方の将来の救急需要を過大評価する可能性がある。

地方都市と過疎地域では高齢人口の変化が異なる

 厚生労働省が示した2025年から2040年までの地域類型別人口推計では、地方都市型の地域で生産年齢人口が平均19.1%減少する一方、65歳以上の高齢人口は平均2.4%増加するとされている。これに対して、過疎地域型では生産年齢人口が平均28.4%減少し、高齢人口も平均12.2%減少するという結果になっている。この地域類型は個々の市町村を単純に分類したものではなく、一定の人口規模や人口密度に基づく地域の区分であるため、各自治体の将来像を直接示すものではない。

 この違いは、地方の救急医療を考えるうえで見落とせない。地方都市では高齢人口の増加が救急需要を押し上げる可能性がある一方、人口減少が進んだ過疎地域では高齢人口そのものが減少し、救急需要の絶対数も減少する可能性がある。ただし、その場合でも生産年齢人口がさらに大きく減少すれば、救急サービスを利用する住民と、それを支える労働力との比率は変化することになる。

 したがって、地方の救急需要については、総人口、高齢化率、高齢者の絶対数、生産年齢人口をそれぞれ区別して分析しなければならない。高齢化が進むから救急需要が必ず増えるという説明も、人口が減るから救急需要が必ず大幅に減るという説明も、地域差を考慮しない点では不十分である。

救急需要は年齢別人口と救急利用率から考える必要がある

 将来の救急需要を数理的に考える場合、基本となるのは、年齢階級ごとの人口と、その年齢階級における1人当たり年間救急出動率を組み合わせる方法である。例えば、65歳未満と65歳以上の二つの集団に分け、それぞれの人口に年間救急出動率を掛け合わせ、その結果を合計すれば、地域全体の年間救急出動件数を推計することができる。

 仮に、現在の人口が10万人で、そのうち65歳未満が7万人、65歳以上が3万人の地域を考える。65歳未満の年間救急出動率を3%、65歳以上を12%と仮定した場合、年間救急出動件数は5,700件となる。将来、総人口が6万人に減少し、65歳未満が3万人、65歳以上が3万人になったとすると、同じ出動率を用いた年間救急出動件数は4,500件となる。

 この仮想事例では、総人口が40%減少しているのに対して、年間救急出動件数の減少率は約21.1%にとどまる。つまり、高齢人口が維持され、比較的救急利用率の低い若年層が大きく減少する場合には、人口全体の減少率ほど救急需要は減少しないという結果が得られる。

 もっとも、ここで用いた年間救急出動率は計算の仕組みを説明するための仮定値であり、全国や特定地域の実際の利用率を示すものではない。また、救急搬送人員と救急出動件数は異なる統計であり、実際の分析では使用する指標を統一する必要がある。将来の救急利用率についても、疾病構造、在宅医療の充実、救急相談体制、予防医療、気象条件などによって変化する可能性があるため、一定の値に固定した推計だけでは十分ではない。

 それでも、このような年齢別の需要モデルを用いることで、人口減少と高齢化が同時に進む地域では、総人口だけを基準に救急車の必要台数を決めることが合理的でない場合があると分かる。

人口密度が低下しても救急車が走る範囲は簡単には縮小しない

 人口減少地域の救急体制を考えるうえで、もう一つ重要なのが地理的条件である。例えば、人口3万人の自治体が将来1万5千人になったとしても、その自治体の面積が半分になるわけではなく、道路の延長や山間部までの距離も基本的には大きく変わらない。人口が半減しても居住地が広い範囲に残れば、救急車は引き続きその地域をカバーしなければならない。

 人口密度は、総人口を地域の面積で割ることで求められる。面積が一定で人口が半減すれば人口密度も半減するが、消防署から離れた集落や山間部への走行距離は、人口減少に比例して短くなるわけではない。このため、人口1人当たりの消防・救急サービスの維持負担は相対的に大きくなる可能性がある。

 消防庁も、この問題を制度上の課題として認識している。2024年3月に改正された「市町村の消防の広域化に関する基本指針」では、人口減少によって消防本部の管轄人口が減少し、財政面や人材確保が厳しくなる一方、人口の低密度化が進んでも消防活動に必要な署所などの数は大きく変化しないと考えられるため、消防力の維持が難しくなる可能性があると指摘している。特に、小規模消防本部ほど人口動態の影響が深刻になるとされている。

 ただし、人口密度の低下がそのまま救急車の到着時間の延長を意味するわけではない。人口が減少しても住民が市街地や主要道路の周辺に集中すれば、救急需要の発生地点が消防署に近づき、平均到着時間が短縮する可能性もある。反対に、少数の住民が広範囲に分散して暮らし続ければ、平均的な出動件数が減っても、地域の端まで救急車を届けるための体制が必要になる。

 したがって、将来の救急体制を考えるときには、人口密度の数値だけでなく、どこに住民が残り、どの道路を通って救急車が到着できるのかという居住分布と道路網の関係を把握しなければならない。

「人口が半分になったから消防署も半分にする」が合理的とは限らない

 仮に、人口4万人の地域に消防署や分署が4か所設置されているとする。30年後に人口が2万人になった場合、人口に比例して署所を2か所に減らせば、施設や人員の維持に必要な費用を抑えられるように見える。しかし、署所を統合した結果、残された消防署から遠い集落までの走行距離が延びれば、救急車の到着時間が長くなる可能性がある。

 例えば、消防署の統合によって、ある集落までの実際の走行距離が5キロメートル増えたと仮定する。救急車がその区間を平均時速40キロメートルで走行するとすれば、追加で必要になる走行時間は7.5分である。実際の所要時間は交差点や道路の形状、交通状況、天候などによって異なるが、走行距離の増加が到着時間に影響する仕組みは明確である。

 もっとも、署所の統合によってすべての地域の到着時間が悪化するわけではない。統合に合わせて救急車の配置場所を見直したり、隣接する消防本部との連携を強化したりすれば、到着時間が短縮する地域も考えられる。したがって、署所の削減数だけで消防体制の効率性を判断することはできず、統合後の各地区への到着時間や、同時に複数の通報が発生した場合の対応能力を検証する必要がある。

 救急体制には、利用者数の増減とは別に、一定の地域を常時カバーするための固定的な負担が存在する。この性質は道路や水道などの公共インフラにも共通するが、救急の場合は対応の遅れが患者の生命や予後に関わるため、単純な人口比例による縮小が難しいのである。

救急車の到着時間は、最寄りの救急車が使えるかどうかにも左右される

 救急車の到着時間は、消防署から現場までの距離だけで決まるわけではない。近くの救急車が既に別の患者を搬送していれば、遠方の消防署から別の救急車が出動することがあり、その結果として現場到着時間が長くなる場合がある。したがって、地域の救急体制を評価するときには、配置されている救急車の総台数だけでなく、通報が発生した瞬間に利用可能な救急車が何台あるかを考える必要がある。

 この問題では、1件の救急活動によって救急隊がどの程度の時間、新しい出動に対応できなくなるのかが重要になる。ここで注意したいのは、消防庁が公表する病院収容所要時間44.6分を、そのまま救急車の拘束時間として扱うことはできないという点である。44.6分は119番通報から医師への引継ぎまでの全国平均であり、救急隊が再び出動可能になるまでの時間を示しているわけではない。

 患者を医師へ引き継いだ後にも、必要な記録、資器材の整理や補充、感染対策、待機場所への移動などが発生する場合がある。一方で、医療機関から直接次の救急現場へ出動する運用もあるため、すべての救急車が消防署へ戻るまで利用できないというわけでもない。実際の供給能力を評価するためには、救急隊が次の出動に対応できない時間を把握する必要がある。

 例えば、年間1,000件の救急出動があり、1件当たり平均60分間、新しい出動に対応できない地域を考える。この場合、年間の救急活動による稼働不能時間の合計は1,000時間となる。将来、出動件数が800件に20%減少しても、病院までの遠距離化などによって1件当たりの稼働不能時間が90分になれば、年間の合計は1,200時間となり、件数が減少しているにもかかわらず必要な活動時間は20%増加する。

 この計算は仮想的なものであり、実際の地域で同じ変化が起きることを示したものではない。しかし、救急需要を件数だけで評価すると、搬送時間の長期化による負担を見落とす可能性があることを説明している。

 ただし、年間の総活動時間が増加しただけで、必ず同時出動への対応能力が低下するとも限らない。救急需要が特定の時間帯に集中するのか、比較的均等に発生するのかによって、必要な救急車台数は異なる。また、複数の救急隊を広域的に運用できる場合には、一つの消防署の救急車が出払っていても別の隊が対応できることがある。そのため、将来の必要台数を推計するには、出動件数、稼働不能時間、時間帯別の需要、同時出動の発生状況を組み合わせた分析が必要になる。

病院の再編は救急車の運用にも影響する

 人口減少時代の救急医療を考えるとき、消防だけに注目するのは不十分である。救急車が患者をどこへ搬送できるかは、地域の医療機関が持つ診療機能や受入体制によって決まるため、病院の再編や医療機能の集約化は救急車の運用にも影響を及ぼす。

 厚生労働省が2040年以降を見据えて進めている新たな地域医療構想では、人口減少や高齢化に対応するため、急性期医療、高齢者救急、在宅医療、介護との連携などを含めた医療提供体制の見直しが重視されている。高度な医療設備や専門医を必要とする治療については、一定の医療機関に機能を集約することで、医療人材の効率的な配置や診療の質の維持につながる可能性がある。

 しかし、専門的な医療機能が集約されれば、一部の住民にとって搬送先までの距離が長くなることも考えられる。例えば、従来は20分で到着できた医療機関で対応できなくなり、同じ病態の患者を40分かかる医療機関へ搬送する必要が生じれば、単純な走行時間だけでも20分増加する。このような変化は患者の搬送時間だけでなく、救急車が次の出動に対応できるまでの時間にも影響する可能性がある。

 一方、医療機能の集約化には、受入先の専門性を高めたり、搬送先を選ぶ時間を短縮したりする効果も期待できる。さらに、すべての高齢者救急患者を遠方の大規模病院に集める必要があるわけではなく、地域の医療機関が比較的軽い急性期疾患や高齢者の救急入院に対応し、専門的治療が必要な患者を拠点病院へ搬送するという役割分担も考えられる。

 したがって、病院再編を単純に搬送時間の長期化と結び付けることは適切ではない。重要なのは、医療の質を維持するための集約化と、住民が必要な医療へ到達するまでの時間との間で、どのような均衡を図るかという問題である。救急医療においては、病院の数だけでなく、病院ごとの診療機能、受入可能な患者の種類、搬送経路、医療機関間の連携が重要になる。

消防職員は全国では増えているが、地方の人材確保には課題が残る

 人口減少が進むと消防職員や救急救命士の確保が難しくなるという見方には合理性があるが、現在の全国的な状況を正確に把握する必要がある。消防庁の令和7年版消防白書によると、2025年4月1日現在の全国の消防職員数は16万9,730人で、前年より増加している。また、救急隊の設置数も5,485隊となり、前年より70隊増加した。

 この数字から分かるのは、人口減少が進んでいても、全国の消防職員数や救急隊数が直ちに減少しているわけではないということである。しかし、全国で職員数が増えていることは、すべての地域で人材確保が順調に進んでいることを意味しない。大規模な消防本部と小規模な消防本部では採用条件や人員配置の柔軟性が異なり、同じ人口減少でも組織運営への影響には地域差が生じる。

 消防業務には、救急だけでなく火災対応、救助活動、災害対応、予防業務などが含まれる。救急隊を増やせばよいという単純な問題ではなく、限られた職員を複数の業務にどのように配置するかが重要になる。特に小規模な消防本部では、一部の職員が欠員になったり、複数の災害が同時に発生したりした場合の対応余力が小さくなる可能性がある。

 さらに、救急医療を維持するには、消防職員だけでなく、病院で患者を受け入れる医師、看護師、その他の医療従事者の確保も必要である。消防側が十分な救急車を確保できたとしても、医療機関の受入能力が不足すれば、救急サービス全体の機能は制約される。このため、地方の将来を評価するときには、消防と医療を分離せず、人材と設備の両面から地域全体の供給能力を考える必要がある。

消防の広域化によって救急体制を維持できる可能性もある

 人口減少が進む地域にとって、消防の広域化は有力な選択肢の一つである。複数の自治体が消防業務を共同で運営し、通信指令や人員配置、車両運用を一体化すれば、従来の行政区域にとらわれず、より合理的な出動体制を構築できる可能性がある。

 消防庁の広域化に関する基本指針でも、消防署所の配置や管轄区域の適正化による現場到着時間の短縮、本部機能の統合による現場活動要員の増強、救急業務の高度化などが期待される効果として示されている。また、広域化した消防本部では、人員配置の効率化や消防体制の基盤強化といった成果が報告されている。

 ただし、消防の広域化そのものが、すべての地域で到着時間を短縮するとは限らない。組織を統合しても署所配置や救急車の運用方法が適切でなければ、遠隔地でのサービス水準が悪化する可能性は残る。広域化の効果を評価するには、統合前後の到着時間や救急隊の稼働状況だけでなく、人口構造や救急需要の変化なども考慮する必要がある。

 将来的には、通信指令システムの高度化、救急車の動的な配置、搬送先医療機関との情報共有などによって、限られた車両を効率的に運用できる可能性がある。ドクターヘリなどの活用も地域や病態によっては有効だが、天候、運航時間、着陸場所などの制約があるため、地上の救急車を全面的に代替できるわけではない。

 重要なのは、現在と同じ数の消防署を残すことと、現在と同じ救急サービスを維持することを同一視しないことである。適切な広域運用によってサービス水準を改善できる場合もあれば、署所の削減によって地域の対応能力が低下する場合もある。どちらの結果になるかは、制度の名称ではなく、具体的な配置と運用によって決まる。

全国平均が同じでも、地域によって救急車の到着時間は大きく異なる

 救急体制を評価するときに、平均到着時間だけを見ることにも限界がある。全国平均や自治体全体の平均値は、救急活動のおおまかな状況を示す指標として有用だが、一部の地域で生じる長時間の到着遅延を十分に表さない場合がある。

 例えば、ある地域では10件すべての救急車が10分で到着し、別の地域では10件のうち9件が5分で到着する一方、残る1件だけ55分かかったと仮定する。この二つの地域はいずれも平均到着時間が10分となるが、住民が直面する救急サービスの状況は大きく異なる。

 特に人口減少地域では、居住地の一部が消防署から遠く離れている場合があるため、平均値に加えて長時間を要する事案の割合を見ることが重要になる。例えば、現場到着時間を短い順に並べ、全体のおおむね90%が収まる時間を示す90パーセンタイル値を確認すれば、平均値だけでは見えにくい到着時間の分布を把握しやすくなる。

 さらに、救急車の到着時間が同じであっても、患者の病態によって必要な対応は異なる。心停止や脳卒中、急性心筋梗塞などでは迅速な処置や専門治療が重要になる一方、すべての傷病について数分の差が同じ医学的意味を持つわけではない。そのため、救急医療の質を判断するには、到着時間だけでなく、必要な処置や治療に至る時間、患者の重症度、治療成績などを組み合わせて評価する必要がある。

 地方の救急医療については、平均して何分で到着するかという指標に加えて、遠隔地の住民がどの程度の時間を要しているのか、救急車が出払っているときにどの程度遅れるのか、必要な専門医療に到達するまで何分かかるのかという視点が求められる。

2050年の人口推計から30年後の救急体制をどう考えるか

 人口減少が進む地方の将来については、既に市町村単位の人口推計が公表されている。国立社会保障・人口問題研究所の「日本の地域別将来推計人口(令和5年推計)」では、2020年の国勢調査を基に、2050年まで5年ごとの総人口や年齢階級別人口が推計されている。

 ただし、2026年現在から30年後は2056年であり、この市町村別推計の対象期間である2050年とは一致しない。したがって、2050年までの公表値をそのまま2056年の人口として扱うことはできず、さらに先の人口構造を分析するには追加の推計条件を設定する必要がある。また、人口推計は一定の仮定に基づく将来人口の推計であり、消防署の配置、救急車の台数、医療従事者の人数、病院の機能まで予測したものではない。

 それでも、人口推計は救急医療の将来を検討するための重要な基礎資料になる。市町村ごとの総人口、65歳以上人口、75歳以上人口、85歳以上人口、生産年齢人口を比較し、そこへ消防署所の所在地、救急車の配置、道路網、受入医療機関の診療機能を重ねれば、人口構造の変化が地域の救急体制に与える影響を具体的に検討できる。

 例えば、千葉県外房地域の御宿町、いすみ市、勝浦市、大多喜町などを対象にする場合でも、自治体の総人口だけを比較するのでは不十分である。海岸部、市街地、内陸部、山間部では居住地の分布や道路条件が異なるため、救急車の到着時間や搬送先までの距離も一律ではない。市町村の境界だけで分析するのではなく、実際の消防管轄、相互応援体制、搬送先医療機関との位置関係を踏まえて検証する必要がある。

 こうした分析では、人口減少が進んでも現在の署所や救急車の配置を維持する場合、人口に応じて配置を縮小する場合、消防の広域化によって配置を再編する場合など、複数の将来シナリオを設定することが有効である。それぞれについて現場到着時間、長時間到着事案の発生状況、救急車の同時利用可能性、医療機関への搬送時間を比較すれば、単に救急体制が悪化するかどうかを議論するよりも、どの政策が有効なのかを検討しやすくなる。

30年後の救急車の到着時間は予測できるのか

 将来の人口構造については一定の見通しが得られているものの、それだけで30年後の救急車の到着時間を正確に予測することはできない。救急車の到着時間は、人口や高齢化率だけではなく、消防署所の配置、救急隊数、道路条件、地域ごとの出動頻度、救急車の稼働状況など、多くの要因によって決まるからである。

 将来予測を行う場合には、まず年齢別人口と救急利用率から地域の救急需要を推計し、その需要が時間帯別、地域別にどのように発生するかを検討する必要がある。さらに、救急車ごとの活動時間や待機場所、利用可能な車両数を組み合わせることによって、出動が重なったときの影響を評価することができる。

 このような分析には、出動の発生状況と救急車の稼働状況を確率的に扱う待ち行列モデルや、道路網と署所配置を考慮したシミュレーションなどが利用できる。ただし、モデルを使えば自動的に正しい将来予測が得られるわけではない。実際の救急活動データを用いてモデルの精度を検証し、人口推計や搬送時間などの条件を変えた場合に結果がどの程度変化するかを確認する必要がある。

 例えば、人口が減少しても救急車の配置台数が維持され、1件当たりの活動時間が短縮されれば、到着時間が改善する可能性がある。反対に、救急出動件数が減少しても署所の削減や病院の遠距離化によって救急車が利用できない時間が長くなれば、到着時間が悪化する地域も考えられる。つまり、人口減少という共通の条件があっても、地域の政策や運用によって将来の結果は変わり得る。

 この意味で、人口減少は救急車の到着時間を直接決める要因というよりも、救急サービスの需要と供給の構造を変化させる要因と考える方が適切である。

地方の救急体制で重要なのは「距離を支える能力」である

 地方の人口減少について議論すると、住民が減れば公共サービスの規模も小さくすればよいという考え方が出てくる。しかし、救急医療では、この考え方を人口に比例してそのまま適用することは難しい。住民が半分になっても地域の面積が半分になるわけではなく、広い範囲に生活する住民へ救急車を届ける必要が残るからである。

 しかも、救急サービスに必要なのは救急車という車両だけではない。救急隊員が常時出動できる勤務体制、通報を受ける通信指令機能、患者を受け入れる医療機関、搬送のための道路網などが一体となって機能しなければならない。これらの維持には一定の人員や費用が必要であり、人口減少によって住民1人当たりの負担が増える可能性がある。

 消防組織法では、市町村がその区域における消防を十分に果たす責任を負い、消防に要する費用を負担することが定められている。ただし、この法律によって全国一律の救急車到着時間が保証されているわけではない。したがって、地域の安全を維持するためには、消防の広域化や人員配置の見直し、財政負担の調整などを通じて、必要なサービス水準をどのように確保するかが政策課題となる。

 一方で、消防署を現在と同じ数だけ維持することが、必ずしも最善の解決策になるわけでもない。人口や居住地の分布が変化すれば、従来の署所配置が将来も最適であるとは限らず、隣接地域との共同運営によって救急車の利用可能性を高められる場合もある。重要なのは、施設の数や行政区域を守ることそのものではなく、地域全体として必要なときに救急車を届け、適切な医療につなぐ能力を維持することである。

 さらに、救急医療の維持を考えるうえでは、救急車の需要を減らすための地域医療や介護、疾病予防も無視できない。高齢者の転倒予防、慢性疾患の適切な管理、在宅医療や介護との連携などによって、予防可能な急変や搬送を減らせる可能性がある。ただし、必要な救急要請まで抑制することは望ましくないため、救急需要の適正化は患者の安全を前提として進める必要がある。

30年後も現在と同じ時間で救急車が来るために必要なこと

 地方で30年後も現在と同じ水準の救急サービスを維持できるかという問いに対して、人口推計だけから明確な答えを出すことはできない。人口減少や生産年齢人口の縮小によって消防・救急体制の維持が難しくなる可能性はあるものの、救急需要の変化、消防の広域化、医療機関との連携、技術の導入などによって結果は異なるからである。

 現在の公的統計から確認できるのは、全国の救急出動件数が長期的に高い水準となっていること、搬送人員の6割以上を高齢者が占めていること、そして人口構造の変化が地域ごとに異なるという事実である。一方、これらの事実だけから、30年後の地方で救急車の到着時間が何分延びるのか、あるいはどの自治体で救急体制が維持できなくなるのかを断定することはできない。

 将来を考えるために必要なのは、人口減少を理由に危機を強調することでも、技術の進歩によって問題が自然に解決すると期待することでもない。地域ごとの人口構造、救急需要、署所配置、車両の稼働状況、医療機関の受入能力を把握し、複数の政策選択肢を比較することである。

 特に人口減少地域では、救急車が平均して何分で到着するかという問題だけでなく、遠隔地の住民や、複数の救急要請が重なったときに対応を必要とする住民が、どの程度の時間で救急医療にアクセスできるかを確認する必要がある。平均到着時間が維持されていても、一部の地域で長時間の遅延が増えているのであれば、地域全体のサービス水準が十分に維持されているとは言い切れない。

 したがって、「地方では30年後も救急車が今と同じ時間で来るのか」という問いに対する現時点での答えは、何もしなくても現在の水準を維持できると保証することはできないが、人口減少だけを理由に必ず遅くなると結論付けることもできない、というものである。

 人口減少によって救急医療の需要と供給の関係が変化することは、将来の人口推計からある程度見通すことができる。しかし、消防署をどこに配置し、救急車をどのように運用し、どの医療機関で患者を受け入れるかは、人口統計だけで決まるものではない。これらは自治体や消防機関、医療機関が、地域の実情を踏まえて選択していく政策上の問題でもある。

 30年後の救急体制は、30年後になってから検討すればよい問題ではない。人口減少がさらに進み、人材や財政の制約が大きくなってから対応するよりも、現在のうちから実測データを分析し、将来の需要と供給を検証しておくことには合理性がある。

 問われているのは、人口が減っていく未来を正確に言い当てられるかどうかではない。人口構造が変わることを前提として、限られた人員と財源のなかで、地域のどこに住んでいても必要な救急医療にアクセスできる体制を、今からどのように設計していくかという問題なのである。

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