地域分析記事

地域の暮らしと地域課題を数学とデータで考える

いすみ市・勝浦市で考える「車のない老後」の家計

運転免許証を返納した日から、ガソリン代はかからなくなる。自動車税も、車検も、任意保険も、タイヤ交換も、やがて家計から消えていく。

それだけを見れば、車を手放した老後はずいぶん身軽になるように思える。しかし、暮らしから一緒に消えてくれるわけではないものがある。それが「移動」である。

冷蔵庫の牛乳がなくなれば買い物へ行かなければならず、薬が切れれば病院へ行かなければならない。銀行にも市役所にも美容院にも行く。ときには駅まで出て、少し遠くの病院へ向かうこともあるだろう。

自分の車を持っていた頃には、こうした一回一回の移動に値札は付いていなかった。もちろん実際にはガソリンも減っていたし、車そのものも少しずつ消耗していた。それでも、スーパーへ出掛けるたびに「今日は往復いくら」と財布からお金を取り出すわけではない。

ところが免許を返納すると、それまで自動車保有費の中に埋もれていた「移動そのもの」に、200円、300円、500円、あるいは2,000円を超える価格が見えるようになる。

だから免許返納を考えるとき、本当に知りたい数字は「タクシーは高いのか」ではない。

75歳で免許を返したとして、85歳までの10年間、日常生活を続けるために移動費としていくら用意しておけばよいのか。

今回は御宿町ではなく、いすみ市と勝浦市をモデルに、この金額を考えてみたい。

車を手放した瞬間、同じ5キロメートルが別の距離になる

東京の住宅地なら、免許を返したあとも徒歩圏にスーパーがあり、駅があり、その先には複数の病院があるという生活を想像しやすい。

しかし、いすみ市や勝浦市では事情が違う。

海岸沿いの市街地だけでなく、丘陵部や農村部にも住宅が広がり、自宅から駅や病院、スーパーまで数キロメートル離れていることもある。自動車を運転できる間、その距離はそれほど大きな問題にはならない。玄関を出て車に乗れば、そのまま目的地へ向かえるからである。

ところが車を失うと、同じ5キロメートルが突然違う意味を持ちはじめる。

歩くには遠い。自転車は年齢や天候に左右される。バスが走っていても、自宅から停留所まで歩かなければならないこともある。その空白を埋めるものが、路線バス、乗合交通、そして普通のタクシーである。

幸い、いすみ市では事前予約型の市民乗合タクシーが運行されており、2026年8月時点の利用料金は一人1回300円である。原則として月曜日から金曜日まで運行し、運行区域内であれば自宅などから目的地まで利用できる。一般のタクシーとは違って乗り合わせで運行されるため、予約や時間の余裕は必要になるが、車を持たない人にとって重要な交通手段である。

さらに、いすみ市に住民票がある75歳以上の人には、市内循環バスといすみシャトルバスの運賃が免除される無料パスポートがあり、65歳以上でも運転経歴証明書の交付を受けた免許返納者なら対象になる。

勝浦市にも予約制のデマンドタクシーがあり、一般の大人運賃は1回500円だが、運転経歴証明書を持つ免許返納者は200円で利用できる。運行日は原則として月曜日から土曜日である。ただし、市内のどこからでも自由に利用できるわけではなく、自由に乗降場所を指定できる区域と、駅、病院、金融機関、商業施設などの共通乗降場所を組み合わせた仕組みになっている。

つまり、いすみ市も勝浦市も「免許を返したら、すべての移動を普通タクシーに置き換えるしかない」という地域ではない。

そして、この点こそが10年間の移動費を大きく左右する。

75歳で免許を返し、月8回外出する生活を考える

ここからは、比較のために一人の住民を想定する。

75歳で運転免許を返納し、85歳まで暮らす。買い物、通院、金融機関、役所、知人との交流などを合わせ、自宅から月8回出掛けることにする。

一回の外出には行きと帰りがあるから、交通機関への乗車は月16回になる。

年間では192回、10年間なら1,920回である。

月8回の外出という数字は、日本の高齢者全体の平均値として設定したものではない。あくまで「週におおむね2回外出する生活」を数値化した、この記事独自のモデルケースである。

この区別は重要である。

以下で計算する150万円、250万円、400万円という数字も、「免許を返納した高齢者は一般にこれだけ必要になる」という統計ではない。一定の生活条件を置いたときに、10年間の移動費がどの程度になるかを見るためのシミュレーションなのである。

普通タクシーについては、自宅から目的地まで片道5キロメートルという条件を置いた。

千葉県内のタクシー運賃は2026年3月16日に改定され、普通車の上限運賃では初乗り1.06キロメートルまで500円、その後221メートルまでを増すごとに100円となった。いすみ市、勝浦市を含む外房地域も現在の千葉地区運賃の対象となっている。

この上限運賃を使い、渋滞や信号待ちなどによる時間距離併用運賃を考えずに5キロメートルを計算すると、片道はおよそ2,300円になる。

もちろん、これは実際の乗車料金を保証する数字ではない。迎車回送料金は事業者によって異なり、時速10キロメートル以下で走行した場合には時間距離併用運賃も加算される。したがって2,300円は、あくまでこの記事で比較するための基準値である。

それでも片道2,300円なら往復4,600円になる。

車を運転していた頃には何気なく往復していた5キロメートルが、免許を返したあとには4,600円の行動になる可能性がある。

同じ月8回の外出でも、10年間で100万円台から400万円台まで開く

そこで、月8往復の外出を三つの方法に分けて考えてみよう。

最初は、8往復のうち6往復を自治体の乗合交通で済ませ、普通タクシーを使うのは2往復だけという生活である。次は4往復ずつを乗合交通と普通タクシーに分ける。最後は、時間や行き先の自由度を優先し、8往復すべてを普通タクシーで移動する場合である。

いすみ市では市民乗合タクシーを1回300円、勝浦市では運転経歴証明書を持つ人のデマンドタクシーを1回200円として計算する。普通タクシーは両市とも片道2,300円とする。

さらに、75歳で返納したという今回の設定では、いすみ市の福祉タクシー助成と勝浦市の高齢者タクシー助成を利用できる可能性があるため、その最大額も差し引く。

いすみ市では、自主的に運転免許を返納した満75歳以上で運転経歴証明書などを持つ人は福祉タクシー事業の対象となり、タクシー1回につき1,500円を上限として、年間最大24シートの利用券が交付される。年度初めから最大限利用できるなら、一年間では最大3万6,000円相当になる。

勝浦市では、自主返納した75歳以上の人などを対象として1枚400円の高齢者タクシー利用券が交付され、6月30日までの申請なら24枚、年間最大9,600円相当になる。

これらの制度が現在と同じ内容で10年間続き、毎年最大限利用できるという仮定を置くと、次のようになる。

10年間の利用モデル いすみ市 勝浦市
6往復を乗合交通、2往復を普通タクシー 約117万6,000円 約129万6,000円
4往復を乗合交通、4往復を普通タクシー 約213万6,000円 約230万4,000円
月8往復を普通タクシー中心で移動 約405万6,000円 約432万円

ここで見るべきなのは、いすみ市と勝浦市の数十万円の差ではない。

同じ市に住み、同じ月8回の外出をしていても、自治体の乗合交通をどこまで利用できるかによって、10年間の支出が300万円近く変わり得るという点である。

免許返納後の生活費を決めるのは、自治体名だけではない。

自宅が乗合交通を利用しやすい場所にあるか。病院やスーパーがその交通網の中にあるか。そして予約時間に自分の生活を合わせられるか。

同じいすみ市、同じ勝浦市でも、この条件によって老後の移動費は大きく変わる。

75歳で返納したモデルでは、いすみ市の助成効果が大きい

今回のシミュレーションでは75歳で免許を返納した設定にしたため、いすみ市では福祉タクシー助成を計算に入れている。

自主返納した満75歳以上で所定の証明書を持つ人なら、一回1,500円を上限とする利用券を年間最大24シート利用できる。最大限使えば年間3万6,000円、現在と同じ制度が10年間続けば累計36万円に相当する。

さらに、75歳以上なら市内バス無料パスポートの対象となり、65歳以上でも運転経歴証明書を持つ免許返納者なら同じ制度を利用できる。

ただし、これは「助成を受けるために75歳まで運転を続けた方が得」という意味ではない。

運転を続けられるかどうかは、制度上の年齢よりも本人の認知機能、視力、身体能力、運転技能、安全性によって判断すべき問題である。この記事では両市の制度を比較しやすくするため、75歳で返納するモデルを採用しているにすぎない。

この区別をしたうえで見ると興味深いことが分かる。

車を持っている間、「バスが無料になる」「タクシー券がもらえる」という制度は家計にほとんど存在感を持たない。しかし車を手放した瞬間、それまで利用価値を感じなかった地域交通制度が、一年間の生活費を左右する重要な資産へと変わるのである。

いすみ市では公共ライドシェアも広がり始めている

そして2026年のいすみ市では、もう一つ新しい動きがある。

旧夷隅町地域では以前から、自家用車を活用した自家用有償旅客運送が行われていたが、タクシー事業者の営業終了や休止によって交通空白地域となっていた岬地域でも、2026年4月から公共ライドシェアの運行が始まった。いすみ市の地域公共交通計画でも、旧夷隅町地域に続いて旧岬町地域へ運送サービスが拡大されたことが確認できる。

この制度は、今回の三つの基本シミュレーションには加えていない。

理由は、地域や利用条件によって使える交通手段が異なり、市民乗合タクシーと同じ条件で一律に比較することが難しいからである。

しかし、制度の存在そのものは重要である。

公共ライドシェアが拡大した背景には、「新しい便利なサービスを増やした」という面だけではなく、既存のタクシー事業者が営業を終了・休止し、地域の交通供給に空白が生まれたという事情がある。

これは免許返納後の生活を考えるうえで、別の問題を浮かび上がらせる。

将来必要になるのは、単にタクシー料金を払えるだけのお金ではない。

その地域に、そもそも人を運んでくれる仕組みが残っていることなのである。

勝浦市では「200円で移動できる場所に住んでいるか」が大きい

勝浦市では、運転経歴証明書を持つ免許返納者ならデマンドタクシーを1回200円で利用できる。往復しても400円である。

この記事の普通タクシーのモデルでは5キロメートル往復を4,600円としているから、同じような生活目的の移動がデマンドタクシーで成立するなら、交通費には大きな差が生まれる。

75歳以上の自主返納者については、高齢者タクシー利用券もあり、6月30日までに申請すれば400円券が24枚交付される。

さらに勝浦市では2026年度から、総野地区の一部と勝浦市街地を住民ドライバーの自家用車で結ぶ「ノッカルかつうら」の有償実証運行も始まっている。蟹田・松野・中倉からは片道500円、市野川・花里からは700円で、水曜日から金曜日まで運行されている。

ただし、ここでも重要なのは、勝浦市民なら誰でも同じ交通条件になるわけではないことである。

デマンドタクシーにも区域があり、「ノッカルかつうら」にも対象地域がある。

つまり、勝浦市における免許返納後の暮らしは、市役所から何キロ離れているかよりも、自宅がどの交通網に接続しているかによって大きく変わる。

行政上は同じ勝浦市でも、老後の移動という観点から見れば、まったく違う町に住んでいるような差が生じる可能性がある。

普通タクシー中心になると10年間で400万円を超える

先ほどの表に戻ると、最も目を引くのは400万円という数字だろう。

月8回外出するだけである。

週に直せば、おおむね2回にすぎない。買い物へ行き、病院へ行けば、それで一週間の外出回数をほぼ使い切ってしまう程度の生活である。

それでも普通タクシーを中心に片道5キロメートル移動すると、現在の運賃と現在の助成制度を10年間固定したモデルでは、いすみ市で約405万6,000円、勝浦市で約432万円になる。

ここで注意したいのは、この400万円を「免許返納すると必ず必要になる費用」と読んではいけないことである。

反対に、「そんなにタクシーを使う人はいない」と切り捨てるのも違う。

この数字が示しているのは、自家用車で行っていた移動を、そのまま普通タクシーに置き換えると、地方では非常に大きな費用になる可能性があるということである。

だからこそ、免許返納後の家計では「タクシーを安く使う方法」を探すだけでなく、普通タクシーを使わなくても済む場所に住んでいること自体が大きな経済価値になる。

それでも「車を持ち続けた方が安い」とは簡単には言えない

400万円という数字を見ると、車を持ち続けた方が安いのではないかと思えてくる。

しかし、そこには一つの錯覚がある。

自家用車の移動費を考えるとき、多くの人はガソリン代を思い浮かべる。5キロメートル走ったとしても、運転するたびに財布から2,300円が消えるわけではないからである。

だが車には、車両購入費や減価、任意保険、自動車税、車検、整備、タイヤ、バッテリー、燃料などが必要になる。

免許返納とは、それまで存在しなかった移動費が突然現れる出来事ではない。

それまで「自動車を所有する費用」としてまとめて支払っていたものが、返納後には「一回移動するごとの費用」として目に見えるようになるのである。

したがって合理的な比較は、「タクシー代400万円は高い」というものではない。

今後10年間自動車を所有し続ける総費用と、自動車を手放してバス、乗合交通、普通タクシーを利用する総費用を比較することである。

さらにそこには、金額だけでは測れない交通事故の危険性も加わる。

経済的に少し有利だからという理由だけで運転を続けるという結論にはならない。

10年間なら「今の料金が続く」と考えない方がよい

ここまでは2026年時点の運賃と助成制度を10年間固定して計算してきた。

しかし、現実には2036年まで同じ料金である保証はない。

実際、千葉地区のタクシー運賃は2026年3月16日に改定されたばかりであり、今後も人件費、燃料費、事業者数などによって料金が変わる可能性がある。

そこで、交通運賃だけが毎年2%ずつ上昇し、自治体から受けられる助成額は現在の金額のまま10年間変わらないという、もう少し厳しい条件を置いてみる。

この2%は将来の物価上昇率を予測した数字ではない。10年間の資金計画に価格上昇への余裕を持たせるための試算条件である。

この条件で再計算すると、10年間の移動費は次のようになる。

10年間の利用モデル いすみ市 勝浦市
6往復を乗合交通、2往復を普通タクシー 約132万円 約143万円
4往復を乗合交通、4往復を普通タクシー 約237万円 約253万円
月8往復を普通タクシー中心で移動 約448万円 約474万円

ここでは助成券まで毎年2%増えるとは考えず、いすみ市の年間最大3万6,000円、勝浦市の年間最大9,600円は現在額のまま固定している。

そのため、物価が上がるほど自治体助成が移動費全体をカバーする割合は徐々に小さくなる。

10年間という期間を考えると、この違いは無視できない。

「150万円・250万円・500万円」は平均値ではない

ここまでの試算から、いくつかの金額が見えてくる。

しかし、「免許返納後には150万円あればよい」「普通なら250万円必要」「地方では500万円かかる」と一般化するのは適切ではない。

今回の数字はすべて、月8往復、普通タクシーを利用するときは片道5キロメートル、75歳で返納し、現在の自治体助成を利用できるという条件を置いたシミュレーションである。

そのうえで言えるのは、今回設定したモデルでは、乗合交通をかなり利用できる住宅なら10年間で130万~150万円程度、乗合交通と普通タクシーを半分程度ずつ使うなら240万~250万円程度、普通タクシーへの依存が大きければ450万~500万円近くまで移動資金が膨らむ可能性がある、ということである。

本当に必要な金額は、自宅の位置、病院までの距離、買い物頻度、家族による送迎の有無、交通制度、健康状態によって大きく変わる。

だから、この数字を答えとして使うより、自分の生活条件を当てはめるための物差しとして使う方がよい。

本当に怖いのは「高いこと」ではなく、「お金を払っても車がないこと」かもしれない

そして、外房の免許返納問題を家計だけで終わらせると、もっと重要な問題を見落とす。

500万円を用意しておけば必ず移動できるわけではない。

いすみ市の市民乗合タクシーは原則として平日の運行であり、事前予約が必要で、予約状況によっては希望した便を利用できない場合もある。

勝浦市のデマンドタクシーにも運行区域と時刻があり、「ノッカルかつうら」にも対象地域と運行曜日がある。

病院の定期診察なら交通機関に合わせて予約できるかもしれない。

しかし、突然歯が痛くなる日まで交通機関に合わせてはくれない。冷蔵庫が空になる日も、家族が急に入院する日もある。

公共交通には、「いくら払えば乗れるか」という価格の問題と、「その時間、その場所に移動手段が存在するか」という供給の問題がある。

人口が少なくなる地域では、後者の方が深刻になる可能性がある。

いすみ市で公共ライドシェアが拡大された背景にタクシー事業者の営業終了や休止があったという事実は、その問題を象徴している。

地方の免許返納問題とは、交通費の問題であると同時に、交通そのものが地域に残るかという問題なのである。

老後の家選びでは「駅まで何分」より返納後の交通を考える

ここから逆算すると、住宅の価値についても別の見方ができる。

65歳で自動車を運転しているときには、スーパーまで5キロメートルでも10キロメートルでも、大きな違いには感じないかもしれない。

しかし75歳で免許を返し、その家で85歳まで暮らすと考えれば、その数キロメートルが100万円、200万円という差へ変わることがある。

駅まで歩ける家、バス停に近い家、乗合交通の対象区域にある家、病院とスーパーを一度の外出で回れる家。

こうした住宅には、土地や建物の販売価格には表示されない経済的価値がある。

反対に、眺望がよく、敷地が広く、静かで価格の安い住宅でも、生活施設から離れ、代替交通を利用しにくければ、購入時に節約した金額を免許返納後の交通費が少しずつ食べていく可能性がある。

仮に50万円安く家を買えても、返納後の交通費が毎年10万円多くかかれば、5年間でその差は消える。

地方の中古住宅を見るとき、「この家はいくらで買えるのか」だけを見るのでは足りない。

80歳になった自分が、この玄関からどうやって病院へ行くのか。

そこまで考えて初めて、その家の本当の価格が見えてくる。

免許返納とは、10年間の交通手段を組み替えることである

自動車は不思議な道具である。

持っている間、人は移動の自由をそれほど意識しない。

朝になって病院へ行こうと思えば行ける。午後に買い忘れに気づけば、もう一度スーパーへ出掛けられる。雨が降っていても、荷物が重くても、予定をそれほど変えずに済む。

免許返納によって失われるものは、自動車という機械だけではない。

「思いついたときに移動できる自由」である。

その自由を普通タクシーだけで買い戻そうとすると、今回のモデルでは10年間で400万円を超え、運賃が毎年2%上がる条件なら500万円近くに達する可能性がある。

しかし、乗合交通やバスを生活の中に組み込めれば、同じ月8回の外出でも100万円台に収まる可能性がある。

つまり、免許返納後の移動費には一つの正解はない。

同じいすみ市でも、同じ勝浦市でも、家の場所と交通手段の組み合わせによって結果はまるで違う。

だからこそ、免許返納を考える人にとって最も有効な準備は、75歳になって突然タクシー料金を調べることではない。

まだ自分で運転できるうちに、一度、自動車を使わず生活してみることである。

自宅からバス停まで歩き、時刻表を調べ、乗合タクシーを予約する。スーパーへ行き、買った荷物を持って帰る。病院へ公共交通だけで行き、玄関を出てから帰宅するまで何時間かかるのかを測ってみる。

その一日には、10年後の暮らしがかなり正確に映っている。

免許を返す日とは、突然「車のない老後」が始まる日ではない。

本当は、その何年も前から準備できる。

自分の住んでいる家から、車なしでどこまで行けるのか。月に何回移動するのか。そのために10年間でいくら必要になるのか。そして、その交通手段は10年後にも地域に残っているのか。

地方で老後を暮らすということは、家を所有することだけではない。

その家から、年を取っても外へ出られる可能性まで含めて暮らしを選ぶことなのである。

地域の課題を、自分の判断に置き換えて考える

有限会社アードレでは、住まい・車・移住などの大きな選択を、 費用や将来条件をもとに数字で比較し、判断できる形に整理しています。

数字で比較するサービスを見る

過疎地域に路線バスの復活は必要か~

過疎地域の路線バスは、昭和後期から平成初期にかけて減便が進み、平成中期以降は路線そのものの廃止が目立つようになりました。

背景には、人口減少だけでなく、自家用車の普及、郊外型商業施設の増加、学校や病院の統廃合、運転士不足、燃料費・車両費の上昇、バス事業者の経営再編があります。

一方、今後の地方では、高齢者の免許返納、世帯の小規模化、医療・商業施設の集約、人手不足、観光客の移動、地域内消費の維持などを考えると、公共交通の重要性は再び高まる可能性があります。

ただし、昭和期と同じ大型バスを、同じ経路とダイヤで復活させればよいわけではありません。

必要なのは、

需要が集中する区間には、定時定路線の路線バスを再構築し、需要が薄い地区には、デマンド交通、乗合タクシー、スクールバス、医療・福祉輸送などを組み合わせること

です。

地方経済に必要なのは、過去の路線網の全面復活ではなく、生活圏に合わせた「効率的な路線バスの再設計」です。

最初に結論

過疎地域において、路線バスが今後の地方経済に必須になるかどうかは、次のように整理できます。

必須になる可能性が高い区間

  • 鉄道駅と中心市街地
  • 地域の中核病院
  • 高校や統合後の学校
  • スーパーや商業集積
  • 市役所・支所
  • 観光拠点
  • 人口が比較的集中する住宅地
  • 複数の集落から需要を集約できる道路

これらを結ぶ区間では、一定の運行頻度を持つ路線バスが、地域経済と住民生活を支える基幹交通になり得ます。

路線バスが適さない可能性が高い区間

  • 人口が極端に少ない集落
  • 利用時間が毎日変わる地域
  • 住宅が広く分散している地区
  • 1便当たりの利用者が1人未満になる区間
  • 道路幅が狭く、大型車両が非効率な地域
  • 通院日や買い物日だけ需要が発生する地区

これらでは、固定路線を毎日運行するよりも、予約制のデマンド交通や乗合タクシーの方が合理的です。

したがって、結論は、

地方に路線バスは必要だが、すべての旧路線を復活させる必要はない

となります。

路線バス利用者はどれほど減ったのか

日本の乗合バス輸送人員は、昭和43年度に約101億人でピークを迎えました。

その後は長期的な減少が続き、平成24年度には約41億人となっています。約44年間で、およそ60%減少した計算です。

一方、乗合バスの車両数は、昭和43年度の約6万4,700両から平成24年度の約5万9,000両への減少にとどまりました。

つまり、輸送人員が約60%減ったのに対し、車両数は約13%しか減っていません。

これは、1台当たりの輸送効率が大幅に低下したことを意味します。([国土交通省][1])

平成以降に限定しても、乗合バス輸送人員は、

  • 1990年度:約65億人
  • 2000年度:約48億人
  • 2010年度:約42億人

と減少しました。

1990年度から2010年度までの20年間で約35%減少しています。同じ時期、人口は約4%増加した一方、マイカー保有台数は約76%増えました。地方部ほど自家用車への依存が強く、公共交通の利用率が低下したことが示されています。([国土交通省][2])

直近では、2023年度の乗合バス輸送人員は約38億人です。

これは新型コロナウイルス感染症流行後の回復を含む数字ですが、昭和43年度のピークと比べると4割弱の水準です。([国土交通省][3])

昭和から平成初期~まず減便が進んだ理由

昭和後期から平成初期にかけては、路線の全面廃止よりも、まず便数削減や区間短縮が進みました。

その理由は、利用者減少に対して、事業者が段階的に供給量を調整したためです。

自家用車の普及

最大の要因はモータリゼーションです。

自動車が普及すると、住民は時刻表に合わせる必要がなくなり、自宅から目的地まで直接移動できるようになりました。

特に地方では、

  • 自宅からバス停まで遠い
  • バスの本数が少ない
  • 駅での乗り換えが必要
  • 帰宅時刻に合う便がない
  • 買い物荷物を持ち帰りにくい

という条件が重なり、自家用車の利便性が圧倒的に高くなりました。

郊外化

住宅、スーパー、病院、公共施設が郊外へ移転すると、従来の駅前や中心市街地を通るバス路線と、実際の移動需要が一致しなくなります。

旧来のバス路線は、

集落 →旧市街地 →駅

という構造で作られていました。

しかし、生活圏が、

住宅地 →郊外スーパー →郊外病院 →幹線道路沿いの店舗

へ変わると、既存路線では目的地へ直接行けなくなります。

利便性低下の連鎖

利用者が減ると、事業者は便数を減らします。

便数が減ると、待ち時間が長くなり、さらに利用者が減ります。

これを数式で表すと、

利用者減少 →便数削減 →平均待ち時間増加 →利便性低下 →さらなる利用者減少

という循環になります。

これを公共交通の「負の循環」と考えることができます。

例えば、等間隔で運行されるバスでは、利用者が時刻表を確認せずに来ると仮定した場合、平均待ち時間はおおむね次のようになります。

平均待ち時間 =運行間隔 ÷ 2

30分間隔なら平均待ち時間は約15分です。

1時間間隔なら約30分です。

2時間間隔なら約60分です。

1日数便まで減ると、利用者は時刻表に生活を合わせなければならず、通院や買い物の滞在時間も制約されます。

この段階まで便数が減ると、「バスはあるが実用的には使えない」という状態になります。

平成中期以降~路線撤退が目立つようになった理由

需要減少が限界を超えた

減便によって費用を削減しても、運転士、車両、営業所、整備設備、運行管理者などの最低限の費用は残ります。

そのため、一定水準を下回ると、減便だけでは赤字を解消できません。

路線収支は、概念的に次のように表せます。

路線収支 =運賃収入 +補助金 -運転士人件費 -燃料費 -車両費 -整備費 -運行管理費 -営業所費用 -その他の経費

運賃収入は、次のように分解できます。

運賃収入 =1便当たり利用者数 ×平均運賃 ×年間運行便数

例えば、平均運賃300円、年間3,000便を運行する路線を考えます。

1便当たり利用者が10人なら、

300円×10人×3,000便 =900万円

です。

1便当たり利用者が3人なら、

300円×3人×3,000便 =270万円

です。

運転士1人の人件費、車両費、燃料費、整備費を考えれば、270万円の運賃収入だけで年間運行費を賄うことは困難です。

規制緩和と撤退手続の変化

公共交通分野では、2000年から2002年にかけて、需給調整規制を廃止する規制緩和が行われました。

乗合バス事業でも、参入と退出に関する制度が変更され、競争促進と事業効率化が重視されるようになりました。([国土交通省][4])

ただし、平成中期以降の路線廃止を、規制緩和だけで説明するのは適切ではありません。

すでにその前から、利用者減少、赤字、減便は進んでいました。

規制緩和は、需要減少によって維持困難になった路線について、事業者が撤退を選択しやすくなった制度的要因の一つと位置づけるべきです。

路線廃止の規模

国土交通省資料では、2008年度から2022年度までに、全国で約2万キロメートルの路線バス路線が廃止されたとされています。([国土交通省 土地総合情報システム][5])

単純平均すると、

2万キロメートル ÷ 15年間 ≒年間1,330キロメートル

です。

ただし、この数字は廃止された区間の累計であり、同じ時期に新設・再編された路線を差し引いた純減とは限りません。

また、平成14年度から16年度頃には、年間1万7,000キロメートルを超える休廃止が報告された資料もありますが、この数字は当時の集計範囲や休止を含むため、近年の約2万キロメートルという累計値と単純比較できません。([国土交通省][6])

令和に入って撤退が加速した新しい理由

令和期の特徴は、利用者不足だけでなく、運転士不足によって、利用者がいても運行できない路線が増えたことです。

運転士不足

国土交通省は、バス・タクシー運転者の賃金水準の低さ、第二種運転免許取得者の減少、運転者の高齢化を、コロナ前から続く構造問題として挙げています。

関東運輸局の調査では、2018年時点で自動車運転職の有効求人倍率は全職業平均の約2倍であり、いわゆる「2024年問題」によって不足がさらに顕在化したと整理されています。([国土交通省 土地総合情報システム][7])

従来は、

利用者が少ない →赤字 →減便・撤退

という構造が中心でした。

現在は、

運転士が足りない →必要便数を運行できない →採算路線も減便 →利用者が離れる

という供給制約が加わっています。

乗合バス事業者の多くが赤字

2023年度には、国土交通省の調査対象となった乗合バス事業者の73.7%が赤字でした。

黒字事業者は26.3%にとどまります。([国土交通省][3])

調査対象は原則として保有車両30両以上の事業者であるため、すべての小規模事業者を含む数字ではありません。

それでも、路線バス事業全体の収益性が厳しいことを示しています。

今後、なぜ公共交通の必要性が高まるのか

高齢者の免許返納が増える

運転免許の返納件数は、制度開始以降増加し、令和元年には年間60万件を超えました。

今後、高齢者人口が増えれば、自家用車を運転できない住民の移動手段を確保する重要性はさらに高まります。([国土交通省][8])

ただし、高齢者人口が増えるだけでバス利用者が自動的に増えるわけではありません。

  • 家族送迎
  • 高齢者施設の送迎
  • 病院送迎
  • タクシー
  • 宅配
  • 移動販売

などに分散する可能性があります。

路線バスを使ってもらうには、病院、店舗、駅など、実際の目的地へ行ける路線設計が必要です。

病院・学校・スーパーが集約される

地方では、病院、学校、スーパー、行政施設などが減少し、中心地域へ集約される傾向があります。

病院数は全国的に減少しており、地方部ではその傾向が特に強いと国土交通省資料は指摘しています。公立学校も1990年度の約4万1,400校から、2023年度には約3万3,400校まで減少しました。([国土交通省][8])

施設が集約されると、住民の移動距離は長くなります。

同時に、目的地が少数の拠点へ集中するため、交通需要をまとめやすくなる面もあります。

例えば、複数の小規模病院へばらばらに移動するより、中核病院へ利用者が集中すれば、一定時刻にバスを運行する合理性が高まることがあります。

世帯内の送迎能力が低下する

地方では、公共交通がなくても、家族が自動車で送迎することで生活を維持してきました。

しかし、

  • 単身高齢者の増加
  • 高齢夫婦世帯の増加
  • 子どもの地域外居住
  • 共働き世帯の増加
  • 介護離職の回避
  • 家族自身の高齢化

によって、家族送迎を無制限に期待することは難しくなっています。

送迎には、燃料費だけでなく、家族の時間費用が発生します。

家族送迎の社会的費用 =燃料費 +車両費 +送迎者の時間価値 +予定変更による機会損失

例えば、往復1時間の送迎を週2回行うと、

1時間×週2回×52週 =年間104時間

です。

送迎者の時間価値を1時間1,500円と仮定すれば、

104時間×1,500円 =年間15万6,000円

となります。

これは家計の現金支出には表れにくいものの、地域全体では大きな労務負担です。

路線バスは地方経済にどのような効果を持つのか

地域内消費を維持する

移動できなければ、住民は地域内のスーパー、商店、飲食店、医療機関を利用できません。

公共交通は、それ自体が利益を生む産業であるだけでなく、地域内での消費を成立させる基盤です。

経済効果は、概念的に次のように考えられます。

公共交通の地域経済効果 =移動によって実現した消費 +通院・就業・通学継続の価値 +家族送迎負担の削減 +自動車保有負担の削減 +観光消費 -公共交通運行費用

運賃収入だけを見れば赤字でも、地域全体では便益が費用を上回る場合があります。

雇用へのアクセスを確保する

地方の人手不足は、求人がないことだけでなく、求人先まで移動できないことでも発生します。

高校生、若年者、外国人労働者、運転免許を持たない人が、工場、病院、介護施設、ホテル、スーパーへ通勤できなければ、地域内に求人があっても就業できません。

公共交通の不足は、

求人がある →しかし通勤できない →採用できない →事業縮小

という構造を生みます。

そのため、通勤時間帯の路線バスは、福祉政策だけでなく、労働供給政策として評価する必要があります。

観光消費を増やす

鉄道駅から観光地、宿泊施設、海岸、温泉、道の駅などへの二次交通がなければ、自動車を持たない観光客は訪問しにくくなります。

地方観光では、鉄道や高速バスで地域まで到達できても、最後の数キロメートルを移動できない問題があります。

ただし、観光客向けバスは季節変動が大きいため、住民路線と完全に分けるよりも、

  • 平日は通院・通学
  • 休日は観光
  • 繁忙期は増便

といった車両と運転士の共用が合理的です。

路線バスの採算を数理的に考える

収支均衡に必要な利用者数

1便当たりの必要利用者数は、次のように表せます。

必要利用者数 =1便当たり運行費用 ÷平均運賃

例えば、1便当たりの運行費用が1万2,000円、平均運賃が400円なら、

1万2,000円 ÷ 400円 =30人

です。

運賃収入だけで採算を取るには、1便平均30人が必要です。

しかし、地方路線で毎便30人を確保するのは容易ではありません。

補助金や他分野の負担を含める場合は、

必要利用者数 =(1便当たり運行費用-1便当たり公的負担) ÷平均運賃

となります。

1便当たり運行費用が1万2,000円、公的負担が8,000円なら、

(1万2,000円-8,000円)÷400円 =10人

です。

この場合、1便平均10人で運賃収入部分を賄えます。

乗車密度を見る必要がある

単純な利用者数だけでは、路線効率を正確に評価できません。

同じ10人でも、

  • 全員が始点から終点まで乗る
  • 途中で入れ替わる
  • 一部区間だけ利用する

では収入と混雑状況が異なります。

重要なのは、

輸送人キロ =利用者数×乗車距離

です。

また、供給量は、

座席キロ =座席数×運行距離

と表せます。

輸送効率は、

輸送効率 =輸送人キロ÷座席キロ

で評価できます。

40席のバスが20キロメートル走れば、

40席×20キロメートル =800座席キロ

です。

平均して5人が20キロメートル乗れば、

5人×20キロメートル =100人キロ

となり、

100÷800 =12.5%

です。

このような低い利用率が続くなら、小型バスや乗合タクシーへの変更が合理的です。

大型バスを復活させればよいわけではない

路線バスの復活という言葉から、40人から60人乗りの大型車を想定する必要はありません。

需要に応じて、

  • 大型バス
  • 中型バス
  • 小型バス
  • ワゴン車
  • 乗合タクシー

を使い分けるべきです。

車両を小さくすると、

  • 燃料費
  • 車両購入費
  • 整備費
  • 狭い道路への対応

で有利になる可能性があります。

一方、運転士1人が必要である点は変わりません。

そのため、車両を半分の大きさにしても、運行費が半分になるとは限りません。

地方バスの主要費用が運転士人件費である場合、車両小型化だけでは根本的な解決になりません。

効率的な路線バスの条件

幹・枝・葉に分ける

今後の地域交通では、すべての集落から中心地まで1本の固定路線で結ぶのではなく、交通網を三段階に分ける方法が合理的です。

幹の交通

  • 鉄道駅
  • 中心市街地
  • 中核病院
  • 高校
  • 大型商業施設
  • 観光拠点

を結ぶ定時定路線です。

一定の頻度と速達性を確保します。

枝の交通

複数の集落や住宅地を、幹線バスの乗り継ぎ拠点へ結びます。

小型バスやコミュニティバスが適しています。

葉の交通

住宅が分散した地区から、最寄りの停留所や生活拠点までを結びます。

デマンド交通、乗合タクシー、公共ライドシェアなどが候補です。

国土交通省も、基幹的な定時定路線と地域内交通を組み合わせる「幹・枝・葉」の考え方を示しています。([国土交通省][9])

ダイヤを目的地に合わせる

路線バスは、単に一定間隔で走らせればよいわけではありません。

地方では、需要が特定時刻に集中します。

  • 病院の受付開始前
  • 高校の始業前
  • スーパーの開店後
  • 鉄道の到着・出発時刻
  • 工場や介護施設の勤務交代
  • 市役所の開庁時間

これらに合わせてダイヤを設計する必要があります。

往路だけでなく復路を設計する

通院バスでよく起こる問題は、病院へ行く便はあっても、診察終了後に長時間待たなければ帰れないことです。

利用可能性は、往路だけでなく、

総所要時間 =往路時間 +待ち時間 +目的地滞在時間 +復路待ち時間 +復路時間

で評価すべきです。

自動車なら2時間で済む通院が、バスでは6時間かかるなら、形式上は利用可能でも、実用性は低いといえます。

デマンド交通だけで解決できるのか

デマンド交通は、予約に応じて運行経路を調整する交通です。

需要が薄い地域では有効ですが、万能ではありません。

デマンド交通が向く条件

  • 利用者が少ない
  • 利用時間が分散している
  • 集落が広く分散している
  • 定時定路線では空車が多い
  • 主な目的地が限定されている

向かない条件

  • 朝夕に利用者が集中する
  • 高校生や通勤者が毎日利用する
  • 鉄道接続を厳密に守る必要がある
  • 予約が同じ時間帯に集中する
  • 予約管理が複雑になる
  • 乗り合いによる迂回時間が長くなる

同じ時間帯に20人が移動するなら、複数台のデマンド車両より、1台の路線バスの方が効率的です。

したがって、需要が集中する幹線をデマンド交通へ全面転換すると、かえって運転士と車両が多く必要になる可能性があります。

スクールバス・病院送迎との統合

地方では、路線バスとは別に、

  • スクールバス
  • 病院送迎車
  • 高齢者施設送迎
  • 福祉バス
  • 企業送迎
  • 宿泊施設送迎

が運行されています。

これらが別々の車両、運転士、予算で動けば、地域全体として非効率になります。

例えば、午前中に空いているスクールバスを、通院や買い物に活用できれば、車両利用率を上げられます。

実際に国土交通省の調査では、過疎地域でスクールバスと路線バスを組み合わせる事例が検討されています。([国土交通省 土地総合情報システム][10])

ただし、統合には、

  • 道路運送法上の扱い
  • 車両保険
  • 児童の安全
  • 運行時刻
  • 個人情報
  • 運賃徴収
  • 委託契約

などの調整が必要です。

「空いている車両を使えばよい」というほど単純ではありません。

自動運転は解決策になるのか

自動運転は、将来的に運転士不足を緩和する可能性があります。

しかし、現時点で過疎地域のバス問題を全面的に解決するとは考えにくい状況です。

必要になるものは、

  • 自動運転車両
  • 道路側設備
  • 遠隔監視
  • 通信回線
  • 除雪・落下物対応
  • 事故時対応
  • 車内安全確認
  • 高齢者の乗降支援
  • システム保守

です。

運転士が不要になっても、監視員や運行管理者が必要になる場合があります。

したがって、自動運転は長期的な選択肢ですが、当面は、

  • 路線再編
  • ダイヤ改善
  • 共同運行
  • 小型化
  • 運転士待遇改善
  • 輸送資源統合

を先に進める必要があります。

補助金を入れれば維持できるのか

地方路線バスの多くは、公的支援なしでは維持できません。

しかし、赤字額をそのまま補填するだけでは、効率化の動機が弱くなる可能性があります。

評価すべき指標は、単なる収支率だけではありません。

  • 1便当たり利用者数
  • 1人当たり公費負担
  • 1乗車当たり公費負担
  • 1人キロ当たり公費負担
  • 通院・通学可能人口
  • 自動車を利用できない住民のカバー率
  • 家族送迎時間の削減
  • 地域内消費額
  • 就業機会の維持
  • 代替交通との費用比較

例えば、年間補助額が3,000万円で、年間利用者が3万人なら、

3,000万円÷3万人 =1乗車当たり1,000円

です。

利用者が1万人なら、

3,000万円÷1万人 =1乗車当たり3,000円

です。

この金額を、

  • タクシー助成
  • デマンド交通
  • 家族送迎支援
  • 移動販売
  • 訪問診療

などの代替策と比較する必要があります。

路線バス復活が成立しやすい条件

効率的な路線バスの復活は、次の条件で成立しやすくなります。

  1. 沿線に一定の人口が集中している
  2. 駅、病院、学校、商業施設を1本で結べる
  3. 通勤・通学需要が毎日発生する
  4. 鉄道との接続が良い
  5. 1便当たり一定数の利用者を確保できる
  6. 観光需要を組み合わせられる
  7. スクールバスや企業送迎を統合できる
  8. 行政区域を越えて広域運行できる
  9. 小型車両を使える
  10. 運転士を安定的に確保できる
  11. 利用実績に応じてダイヤを改善できる
  12. 住民が実際に利用する意思を持つ

特に重要なのは、自治体境界ではなく生活圏に沿って路線を作ることです。

住民が隣の市の病院やスーパーを利用しているなら、市町村内だけを循環するバスでは需要に合いません。

成立しにくい条件

次の条件が重なる場合、固定路線バスの復活は難しくなります。

  • 住宅が極端に分散している
  • 1便当たり利用者が1~2人
  • 目的地が複数方向に分かれる
  • 住民が自家用車利用を変えない
  • 運行本数が1日1~2便にとどまる
  • 鉄道や病院と接続しない
  • 行政区域内だけで完結させる
  • 無料または極端な低運賃にする
  • 実証運行後の財源がない
  • 運転士確保策がない
  • 利用実績を検証しない
  • 既存の送迎車両と重複する

この場合は、デマンド交通やタクシー助成を中心にした方が合理的です。

外房地域で考える場合

外房では、鉄道駅、病院、スーパー、行政施設、観光地が離れている地域が多く、自家用車への依存度が高くなります。

一方で、人口密度が低く、自治体ごとに小規模な交通を運行しても、十分な利用者を確保しにくい可能性があります。

外房で現実的なのは、例えば次のような構造です。

基幹路線

  • 茂原駅~長生郡内の主要拠点
  • 大原駅~いすみ市内の病院・商業施設
  • 勝浦駅~市内病院・住宅地
  • 御宿駅~住宅地・商業施設
  • 鴨川方面の中核医療機関への広域交通

支線

  • 各集落から鉄道駅
  • 各集落から地域拠点
  • 高齢者住宅地からスーパー
  • 学校統合後の通学路線

末端交通

  • デマンド交通
  • 乗合タクシー
  • 公共ライドシェア
  • 福祉輸送
  • 家族送迎支援

ただし、具体的な路線を決めるには、現在の乗降データ、人口分布、病院受診先、買い物先、鉄道時刻、既存送迎車両を確認する必要があります。

公開資料だけで、特定の路線が採算に合うと断定することはできません。

現実性の低い主張

以前の路線をそのまま復活させれば利用者が戻る

生活拠点が変わっているため、旧路線をそのまま戻しても需要に合わない可能性があります。

高齢者が増えるから利用者も増える

高齢者が家族送迎、施設送迎、宅配を使えば、バス需要は増えません。

無料にすれば利用者が増える

運賃が無料でも、目的地、時間、便数が合わなければ利用されません。

デマンド交通にすればすべて効率化できる

需要が集中する区間では、固定路線の方が効率的です。

小型車両にすれば赤字がなくなる

運転士人件費と運行管理費は残ります。

自動運転ですぐ解決できる

導入費、監視、保守、安全管理が必要です。

補助金を増やせば維持できる

運転士がいなければ、予算があっても運行できません。

自治体が行うべき分析

路線再編前に、最低限次のデータを集める必要があります。

  1. 停留所別乗降者数
  2. 便別利用者数
  3. 曜日・時間帯別利用者数
  4. 利用者の年齢と目的
  5. 病院・学校・スーパーへの移動需要
  6. 鉄道との接続状況
  7. 自動車を利用できない住民数
  8. 既存のスクールバス・福祉車両
  9. 1便当たり運行費用
  10. 1乗車当たり公費負担
  11. 運転士数と年齢構成
  12. 車両更新時期
  13. 廃止した場合の代替費用
  14. 家族送迎の時間負担
  15. 観光客の移動需要

路線バスは、運行したかどうかではなく、

住民が必要な時刻に、必要な場所へ移動できたか

で評価すべきです。

現実的な結論

過疎地域の路線バスは、昭和後期から平成初期にかけて、主に自家用車の普及と利用者減少によって減便されました。

平成中期以降は、低需要路線の採算悪化、規制制度の変化、自治体財政、事業者再編などが重なり、路線廃止が目立つようになりました。

令和期には、これに運転士不足という供給側の制約が加わっています。

今後、高齢者の免許返納、家族送迎能力の低下、病院・学校・スーパーの集約が進めば、地方の移動需要はなくなるのではなく、少数の拠点への移動として再編されます。

この需要を支えるため、一定の人口と目的地が集まる区間では、路線バスが地方経済に不可欠になる可能性があります。

ただし、必要なのは昭和型の路線網の復活ではありません。

  • 幹線は定時定路線
  • 支線は小型バス
  • 分散集落はデマンド交通
  • 通学・通院・福祉・観光輸送は共同化
  • 鉄道、病院、商業施設とダイヤを連動
  • 自治体境界を越えて生活圏単位で設計

という再構築が必要です。

地方経済にとって公共交通は、単なる赤字事業ではありません。

住民が買い物をし、病院へ通い、学校へ通い、仕事へ行き、観光客が地域内を移動するための経済基盤です。

一方で、利用者がほとんどいない路線を大型バスで維持することは、財政的にも人材面でも持続しません。

したがって、今後の課題は、

路線バスを残すか廃止するかではなく、どの区間を定時定路線として守り、どの区間を別の交通手段へ転換するか

を、実際の移動データと費用から判断することです。

効率的な路線バスの復活は、地方経済の再生に必要な条件の一つです。

しかし、それが有効なのは、路線、便数、車両、乗り継ぎ、他分野の送迎を一体で設計し直した場合に限られます。

地域の課題を、自分の判断に置き換えて考える

有限会社アードレでは、住まい・車・移住などの大きな選択を、 費用や将来条件をもとに数字で比較し、判断できる形に整理しています。

数字で比較するサービスを見る

はじめに

「地方の持ち家で、何歳まで暮らし続けられるのか」

地方に住む高齢者や、都市部から地方への移住を考える人にとって、これは重要な問題です。

一般には、健康であれば80歳でも90歳でも自宅で暮らせる、介護が必要になったら施設へ移る、といった説明がされます。しかし、実際の暮らしは、それほど単純ではありません。

地方では、自宅の中で食事や着替えができるだけでは、生活は成立しません。

食料品を買い、病院へ通い、薬を受け取り、家屋や庭を管理し、行政や金融の手続きを行い、災害時には自力で避難する必要があります。これらの多くが、自動車や家族の支援に依存しています。

反対に、身体機能が低下しても、宅配、訪問診療、介護サービス、家族送迎、住宅改修などが利用できれば、自宅生活を続けられる場合があります。

したがって、「何歳まで暮らせるか」という問いを、年齢だけで答えることはできません。

本記事では、厚生労働省、内閣府、総務省統計局、国土交通省、農林水産省などの公的資料を基に、地方での自宅生活が成立する条件と、生活の限界点を客観的に整理します。


最初に結論

地方の高齢者が自宅で暮らせる年齢に、全国共通の上限はありません。

70代で自宅生活が難しくなる人もいれば、90歳を超えて生活できる人もいます。

ただし、これは単なる個人差ではありません。

自宅生活の継続可能性は、概念的には次のように考えられます。

自宅生活の継続可能性 =身体・認知機能 +移動手段 +医療・介護へのアクセス +買い物手段 +住宅の安全性 +住宅管理能力 +家族・地域による支援 +費用負担能力

このうち、一つが失われても直ちに生活不能になるとは限りません。

しかし、複数の条件が同時に失われると、自宅生活は急速に不安定になります。

特に地方では、

  • 自動車を運転できなくなる
  • 配偶者が入院または死亡する
  • 通院先が遠くなる
  • 買い物を代替する手段がない
  • 家や庭を管理できなくなる

といった変化が重なることが、生活の限界点になりやすいと考えられます。

したがって、住み替えや支援導入を考える時期は、特定の年齢ではなく、生活に必要な機能を自分または外部サービスで維持できなくなった時点です。


1.平均寿命は「自立して暮らせる年齢」ではない

2024年の日本人の平均寿命は、男性81.09年、女性87.13年です。

また、65歳時点の平均余命は、男性19.47年、女性24.38年です。単純に加えると、65歳の男性は平均的に84歳台、女性は89歳台まで生きる計算になります。80歳時点でも、男性は平均8.96年、女性は11.83年の余命があります。

しかし、平均寿命や平均余命は、自宅で自立して生活できる期間を示すものではありません。

厚生労働省が示す健康寿命は、「健康上の問題で日常生活が制限されることなく生活できる期間の平均」です。

2022年の健康寿命は男性72.57年、女性75.45年でした。同年の平均寿命との差は、男性約8.5年、女性約11.6年です。これは、その期間の全てで介護が必要という意味ではありませんが、健康上の制限を抱えて生活する期間が相当程度存在することを示します。

ここから確認できるのは、次の点です。

長生きできる年齢と、支援なしで暮らせる年齢は一致しない。

ただし、健康寿命を超えた時点で自宅生活が不可能になるわけでもありません。

健康上の制限があっても、住環境、家族、医療、介護、移動手段が整えば、自宅生活を続けられます。


2.80歳前後から生活条件の再点検が必要になる理由

年齢だけで判断すべきではありませんが、加齢によって介護や支援を必要とする可能性が上がることは、統計上確認できます。

厚生労働省の資料では、75歳以上全体の要介護・要支援認定率は31.0%、85歳以上では57.7%とされています。つまり、85歳以上では半数を超える人が、何らかの介護保険上の認定を受けています。

ただし、要支援・要介護認定を受けた人が、全員施設へ入るわけではありません。

要支援や比較的軽度の要介護であれば、訪問介護、通所介護、福祉用具、住宅改修などを利用して自宅で暮らすことは可能です。

一方、地方では介護認定の有無だけでは判断できません。

自宅の周囲に介護事業者が存在するか、必要な曜日や時間に利用できるか、職員不足による利用制限がないかも重要です。

したがって、年齢について現実的に表現するならば、次のようになります。

  • 65~74歳は、将来の生活設計を始める時期
  • 75~79歳は、運転・通院・住宅管理の再点検を行う時期
  • 80~84歳は、代替手段を実際に導入する時期
  • 85歳以上は、単独生活を前提とせず、支援体制を定期的に確認する時期

これは医学的な境界ではなく、生活上の準備時期の目安です。

「80歳だから住めない」のではなく、80歳前後から複数の生活機能が同時に低下する可能性を考え、事前に代替策を用意する必要があります。


3.地方では自動車が生活機能の一部になっている

地方の高齢者の自宅生活を考えるとき、最も大きな要素の一つが自動車です。

国土交通省の全国都市交通特性調査では、60代、70代とも、三大都市圏より地方都市圏の方が、自動車の運転または同乗による移動の割合が高いとされています。

地方では、自動車は単なる移動手段ではありません。

  • 食料品を買う
  • 病院へ通う
  • 薬局へ行く
  • 金融機関へ行く
  • ごみを搬出する
  • 家族を送迎する
  • 地域活動に参加する

といった生活を維持する基盤になっています。

そのため、免許返納によって交通事故のリスクが下がっても、代替交通がなければ、通院や買い物が困難になる可能性があります。

警察庁の統計では、2024年の運転免許自主返納件数は全国で約42万8千件でした。自主返納は広く行われていますが、この数字だけでは、返納後の生活が維持できているかまでは分かりません。

重要なのは、「何歳で返納するか」ではなく、次の二つを同時に評価することです。

  1. 運転を続ける事故リスク
  2. 運転をやめる生活喪失リスク

地方で安全な代替手段が存在しない場合、免許返納が通院中断、買い物回数の減少、社会的孤立につながる可能性があります。

したがって、自宅生活を続けるには、返納前に次を確認する必要があります。

  • 路線バスや鉄道の停留所まで歩けるか
  • デマンド交通が自宅付近まで来るか
  • タクシーを継続利用できる所得があるか
  • 家族送迎が定期的に可能か
  • 病院送迎や介護タクシーを利用できるか
  • 食品や日用品の宅配が使えるか

これらが確保できない場合、運転停止が自宅生活の限界点になることがあります。


4.買い物は店舗までの距離だけでは判断できない

地方では、近隣の商店が閉店し、郊外の大型店へ買い物が集中している地域があります。

農林水産省は、食料品店まで直線距離で500メートル以上あり、かつ自動車を利用できない65歳以上の人を「食料品アクセス困難人口」として推計しています。

2020年の食料品アクセス困難人口は全国で904万人、65歳以上人口の25.6%でした。75歳以上では566万人、75歳以上人口の31.0%に相当します。

この数字は、地方の高齢者の全てが買い物に困っているという意味ではありません。

また、都市部でも店舗までの距離、坂道、荷物の運搬、身体機能によって買い物が困難になるため、地方だけの問題でもありません。

一方、地方では店舗密度が低く、公共交通の本数も少ないため、自動車を失った際の影響が大きくなりやすいと考えられます。

買い物能力を判断する際には、次の三段階に分ける必要があります。

第1段階~店舗へ行けるか

  • 歩ける距離か
  • 自動車を使えるか
  • バスの時間が合うか
  • タクシー代を払えるか

第2段階~商品を持ち帰れるか

店舗まで行けても、米、飲料、洗剤、灯油などを持ち帰れなければ、生活は成立しません。

第3段階~代替サービスを利用できるか

  • ネットスーパー
  • 生協などの宅配
  • 移動販売
  • 家族による購入
  • 買い物代行
  • 配食サービス

地域にサービスが存在しても、配送地域、最低注文額、配送料、注文方法などが利用者に合わなければ、実際には使えません。

したがって、「スーパーまで何キロメートルか」だけでは不十分です。

食料を選び、注文し、支払い、受け取って、室内まで運べるか

まで確認して、初めて買い物能力を評価できます。


5.通院できることと、必要な医療を受けられることは違う

地方では、近隣に診療所があっても、必要な診療科や検査を受けられるとは限りません。

慢性疾患の定期受診は近隣で可能でも、

  • 循環器内科
  • 整形外科
  • 眼科
  • 耳鼻咽喉科
  • 泌尿器科
  • 脳神経外科
  • がん治療
  • 高度画像検査

などは、遠方の病院へ行かなければならない場合があります。

高齢になるほど、受診する診療科が増え、複数の医療機関へ通う可能性も高まります。

通院可能性は、単に病院までの距離ではなく、次の要素で決まります。

通院負担 =自宅からの移動時間 +待ち時間 +診療時間 +薬局での待ち時間 +付き添う家族の時間 +交通費

例えば、診療時間が15分でも、往復移動と待ち時間を含めれば半日を要することがあります。

本人が運転できなくなった後、家族が毎月複数回の送迎を続けられるとは限りません。

また、訪問診療があっても、全ての治療や検査を自宅で受けられるわけではありません。急変時の入院先、夜間休日の対応、訪問看護、薬局との連携も必要です。

したがって、自宅生活を判断する際には、

  • かかりつけ医がいるか
  • 定期受診先まで移動できるか
  • 緊急時に搬送を受け入れる病院があるか
  • 訪問診療・訪問看護が利用できるか
  • 家族以外の通院支援があるか

を一体として確認する必要があります。


6.持ち家であっても、住居費はゼロではない

地方の高齢者は、持ち家に住んでいる割合が高い傾向があります。

2023年の住宅・土地統計調査では、高齢者のいる世帯の81.6%が持ち家に居住しています。高齢者夫婦のみの世帯では87.6%です。

持ち家は家賃負担がないという利点があります。

しかし、住宅ローンを完済していても、次の費用は残ります。

  • 固定資産税
  • 火災保険・地震保険
  • 屋根や外壁の修繕
  • 給湯器や水回りの交換
  • 浄化槽の維持管理
  • 庭木の剪定
  • 草刈り
  • 害虫・シロアリ対策
  • 台風や豪雨後の補修
  • 不用品や家財の処分

若い時には自分で行えた作業も、高齢になると外注する必要があります。

つまり、加齢によって住宅管理費が増える可能性があります。

広い戸建て住宅では、居住に使用する部屋が少なくなっても、屋根、外壁、敷地、排水設備などの管理対象は減りません。

そのため、地方の持ち家は、

住宅ローンが終われば負担がなくなる資産

ではなく、

管理能力と修繕費を必要とする生活設備

として考える必要があります。


7.住宅の中にも生活の限界点がある

2023年の住宅・土地統計調査では、高齢者等のための設備がある住宅は、住宅全体の56.0%でした。

一方、個別に見ると、

  • 手すりがある住宅は44.0%
  • 段差のない屋内は22.3%
  • 廊下などが車いすで通行可能な住宅は16.8%
  • 道路から玄関まで車いすで通行可能な住宅は13.4%

にとどまります。

これらは全国値であり、地方住宅だけの数字ではありません。

しかし、地方では築年数の古い戸建て住宅、広い敷地、玄関までの段差、屋外階段、和室中心の間取りなどが、自宅生活の継続を難しくする場合があります。

住宅の問題は、転倒してから初めて表面化することがあります。

確認すべき場所は次のとおりです。

  • 玄関までの通路
  • 玄関の上がり框
  • 廊下と部屋の段差
  • 階段
  • トイレ
  • 浴槽
  • 寝室からトイレまでの距離
  • 夜間照明
  • 屋外の坂道や砂利
  • 車いすや歩行器の通行幅

住宅改修によって対応できる場合もあります。

ただし、構造上改修が難しい住宅や、改修費が大きくなる住宅もあります。

さらに、家の中を安全にしても、玄関から道路まで出られなければ外出はできません。

したがって、バリアフリー化は室内だけでなく、

寝室からトイレ、浴室、玄関、道路、送迎車までの連続した動線

として確認する必要があります。


8.夫婦二人なら安心とは限らない

内閣府の高齢社会白書によると、2023年には65歳以上の人がいる世帯が全世帯の49.5%を占めています。

その中では、夫婦のみの世帯と単独世帯がそれぞれ約3割を占めています。65歳以上の一人暮らしの割合も増加しており、2020年には男性15.0%、女性22.1%でした。

地方の高齢夫婦世帯では、一方に生活機能が集中している場合があります。

例えば、

  • 夫だけが運転する
  • 妻だけが料理や服薬管理をする
  • 夫だけが家屋修繕を手配する
  • 妻だけが家計や行政手続きを管理する

という状態です。

この場合、二人ともある程度健康であっても、一方が入院すると生活全体が止まることがあります。

夫婦二人暮らしを評価するときは、世帯人数ではなく、機能の重複性を見る必要があります。

生活機能 夫だけ可能 妻だけ可能 両方可能 外部代替あり
自動車運転
買い物
調理
服薬管理
通院手配
家計管理
住宅修繕の依頼
行政手続き

一つの機能を一人しか担えず、外部代替もない場合、その人の病気や死亡が自宅生活の限界点になります。


9.地方の自宅生活が崩れる典型的な経路

地方での自宅生活は、突然完全に不可能になるとは限りません。

多くの場合、小さな不便が重なり、徐々に不安定になります。

第1段階~負担が増える

  • 長距離運転を避ける
  • 重い物を買わなくなる
  • 庭の管理が遅れる
  • 2階を使わなくなる
  • 通院回数を減らす

この段階では、本人は「まだ暮らせる」と感じることがあります。

第2段階~生活の縮小が始まる

  • 食事内容が単調になる
  • 外出が減る
  • 受診を先延ばしにする
  • 掃除できない部屋が増える
  • 修繕を放置する
  • 人との交流が減る

暮らしてはいますが、生活の質と安全性が低下しています。

第3段階~家族への依存が固定化する

  • 毎週の買い物を家族に頼む
  • 通院ごとに送迎を頼む
  • 行政手続きを代行してもらう
  • 草刈りや修繕を家族が行う

家族が近隣に住み、継続的に支援できれば成立する場合があります。

しかし、支援する家族が就労していたり、遠方に住んでいたりすれば、長期継続は難しくなります。

第4段階~一つの事故や入院で生活が止まる

  • 転倒
  • 骨折
  • 配偶者の入院
  • 認知機能の低下
  • 自動車事故
  • 給湯器や水道の故障
  • 台風による住宅被害

この段階で、これまで見えなかった生活の脆弱性が表面化します。


10.自宅生活の限界点を判断する基準

年齢ではなく、次の項目で判断する方が現実的です。

移動

  • 安全に運転できる
  • 運転しなくても代替交通がある
  • 玄関から送迎車まで移動できる
  • 月に必要な通院回数を維持できる

買い物と食事

  • 食品を定期的に確保できる
  • 重い商品も入手できる
  • 調理または配食利用ができる
  • 注文、支払い、受取ができる

医療

  • 定期受診を中断していない
  • 服薬管理ができる
  • 急変時の連絡先がある
  • 入院後の退院先を確保できる

住宅

  • 転倒しにくい
  • トイレと浴室を安全に使える
  • 冷暖房を適切に使える
  • 修繕を発見し、業者へ依頼できる
  • 草刈りや庭木管理を外注できる

認知・判断

  • 金銭管理ができる
  • 契約内容を理解できる
  • 訪問販売や詐欺を判断できる
  • 火気、戸締まり、服薬を管理できる

支援

  • 家族が無理なく支援できる
  • 介護サービスが実際に利用できる
  • 緊急時に連絡できる人がいる
  • 家族以外の支援者がいる

これらのうち複数が「できない」「代替がない」となった場合、自宅生活の再設計が必要です。


11.自宅を離れる前に検討できる対策

自宅生活が不安定になっても、すぐに施設入所だけが選択肢になるわけではありません。

住宅を小さく使う

  • 生活を1階に集約する
  • 使用しない部屋を閉鎖する
  • 寝室をトイレの近くへ移す
  • 段差と敷物を減らす

移動を代替する

  • デマンド交通へ登録する
  • タクシー費用を年間で予算化する
  • 通院先を可能な範囲で集約する
  • オンライン診療の適用可能性を確認する

買い物を代替する

  • 宅配を元気なうちに試す
  • 定期配送を利用する
  • 移動販売の曜日を確認する
  • 家族と購入品リストを共有する

住宅管理を外注する

  • 草刈り
  • 庭木管理
  • 定期点検
  • 雨どい清掃
  • 不用品処分
  • 台風後の確認

ただし、外注には継続的な費用が必要です。

自宅に住み続ける費用と、より小さな住宅や高齢者向け住宅へ移る費用を比較する必要があります。


12.住み替えを検討すべき状態

次のような状態が複数重なった場合、住み替えを具体的に検討すべきです。

  • 本人も配偶者も運転できない
  • 日常の買い物を家族だけに依存している
  • 通院を延期または中断している
  • 転倒が繰り返されている
  • 2階、浴室、玄関が使いにくい
  • 住宅修繕を放置している
  • 庭や敷地が管理できない
  • 金銭・契約管理に不安がある
  • 緊急時に来られる人がいない
  • 家族の送迎や管理負担が限界に近い
  • 介護サービスが地域で確保できない

重要なのは、重大事故が起きてから動くのではなく、判断能力と体力が残っている段階で選択肢を比較することです。

住み替えには、

  • 自宅の売却
  • 賃貸住宅への転居
  • 高齢者向け住宅
  • 子どもの近隣への転居
  • 医療機関や商店に近い地域への転居

などがあります。

地方から都市へ移ることだけが住み替えではありません。

同じ市町村内でも、郊外の戸建てから中心部の小規模住宅へ移ることで、生活が維持しやすくなる場合があります。


13.「住み慣れた家」が常に最善とは限らない

住み慣れた自宅には、心理的な安心、近隣関係、思い出、所有権などの利点があります。

一方、自宅に住み続けることが目的化すると、

  • 通院できない
  • 買い物できない
  • 家の一部しか使えない
  • 家族が疲弊する
  • 災害時に避難できない

という状態でも、転居を避け続ける可能性があります。

本来の目的は「自宅に残ること」ではなく、本人の安全、生活の質、意思決定の尊重を維持することです。

住み続けることと、暮らし続けられることは同じではありません。


14.地方自治体に必要な情報

高齢者へ「早めに免許を返納しましょう」「住み慣れた地域で暮らしましょう」と呼びかけるだけでは不十分です。

自治体は地区ごとに、少なくとも次を示す必要があります。

  • 商店までの移動手段
  • 医療機関までの交通
  • デマンド交通の利用条件
  • タクシー助成
  • 移動販売
  • 宅配対応地域
  • 訪問診療・訪問看護の提供地域
  • 草刈りや住宅管理サービス
  • 緊急通報サービス
  • 高齢者向け住宅
  • 住み替え相談
  • 空き家売却・処分相談

サービスの名称だけではなく、料金、利用条件、曜日、予約方法、対応地域まで公開する必要があります。

高齢者の生活可能性は、市町村全体の平均値では判断できません。

同じ自治体でも、中心市街地と郊外、海岸部と山間部、鉄道駅周辺とバスのない地区では条件が異なるからです。


15.現実的な結論

地方の高齢者が何歳まで自宅で暮らせるかについて、一律の年齢を示すことはできません。

平均寿命、健康寿命、要介護認定率は、将来のリスクを把握する材料にはなりますが、個人の退去年齢を決める数字ではありません。

自宅生活の限界点は、多くの場合、身体機能の低下だけでなく、

  • 運転できない
  • 買い物できない
  • 通院できない
  • 家を管理できない
  • 配偶者または家族の支援を失う

という条件が重なったときに現れます。

特に地方では、自動車が複数の生活機能を支えているため、運転停止の影響が大きくなります。

一方で、移動、宅配、医療、介護、住宅管理を外部サービスへ置き換えられる地域では、身体機能が低下しても自宅生活を続けられる可能性があります。

したがって、問いは、

「何歳まで住めるか」

ではなく、

「現在の生活を支えている機能は何か。その機能を失ったとき、何で代替できるか」

へ置き換えるべきです。

自宅生活を続けるためには、元気なうちに、

  1. 運転をやめた後の移動を試す
  2. 宅配や配食を実際に利用する
  3. 住宅の危険箇所を点検する
  4. 修繕・草刈りの外注費を把握する
  5. 配偶者がいない状態を想定する
  6. 住み替え先を比較する

ことが必要です。

地方での自宅生活は、本人の努力だけで維持できるものではありません。

医療、交通、買い物、住宅、家族支援を組み合わせた地域の生活基盤があって初めて成立します。

そして、その基盤が失われた場合には、自宅に残ることよりも、生活を維持できる場所へ移ることが、現実的で安全な選択になる場合があります。


データ利用上の注意

本記事で使用した全国統計は、日本全体の傾向を示すものであり、外房、東総、南房総の各市町村の状況を直接示すものではありません。

また、健康寿命は集団の平均的指標であり、個人が自立して暮らせる年齢を予測するものではありません。

要介護認定率も、サービス利用、自治体の認定状況、年齢構成などの影響を受けます。

地域別の記事を作成する場合は、市町村ごとに、

  • 年齢別人口
  • 要介護認定者数
  • 医療機関
  • 交通網
  • 商業施設
  • 訪問系サービス
  • 高齢者住宅
  • 地区別人口密度

を確認する必要があります。


地域の課題を、自分の判断に置き換えて考える

有限会社アードレでは、住まい・車・移住などの大きな選択を、 費用や将来条件をもとに数字で比較し、判断できる形に整理しています。

数字で比較するサービスを見る

地方では、自動車を所有しているだけで毎年まとまった費用がかかります。

車両の購入費、自動車税、保険、車検、整備、燃料、タイヤ、バッテリーなどを合計すれば、軽自動車でも10年間に数百万円を支払う可能性があります。

そのため、免許返納を考える時期になると、次のような疑問が生じます。

自動車を維持し続けるより、必要なときだけバスやタクシーを使う方が安いのではないか。

この考え方は、一定の条件では正しいといえます。

年間走行距離が短く、通院や買い物の回数が少なく、自宅から病院やスーパーまで近い人なら、自動車を手放してタクシーを使う方が、金銭的には安くなる可能性があります。

しかし、地方では、通院だけでなく、買い物、金融機関、行政手続き、家族との往来、駅までの移動などにも自動車を使います。

自動車を手放した後の費用を、通院用のタクシー代だけで計算すると、返納後の交通費を過小評価します。

また、家族に送迎してもらう場合も、燃料代、車両費、待ち時間、仕事を休む負担まで考えれば、完全に無料とはいえません。

本記事では、地方で軽自動車または小型乗用車を10年間維持するケースと、免許返納後にバス、タクシー、家族送迎、宅配などを組み合わせるケースを比較します。

ただし、車両価格、任意保険料、燃料価格、タクシー運賃、自治体の助成制度は、地域、年齢、車種、契約条件によって大きく異なります。

そのため、本記事では単一の金額を「正解」とせず、低費用・標準・高費用の3ケースで考えます。


最初に結論~利用回数が少なければ返納後が安く、移動回数が多ければ自動車が安くなる

自動車を維持する費用と、免許返納後の交通費のどちらが安いかは、主に次の4条件で決まります。

  1. 1か月に何回外出するか
  2. 1回の往復距離がどの程度か
  3. バスやデマンド交通を利用できるか
  4. 車両購入費を含めて比較するか

年間の移動回数が少なく、1回の移動距離も短ければ、タクシー中心でも自動車保有費を下回る可能性があります。

反対に、次のような世帯では、自動車を手放した後の交通費が予想以上に増えることがあります。

  • 夫婦それぞれが通院する
  • 買い物へ週2回以上行く
  • 病院やスーパーまで10キロメートル以上ある
  • 市町村外の専門病院へ通う
  • バス停まで歩けない
  • タクシーを往復利用する
  • 家族が遠方から送迎する
  • 宅配、買い物代行、配食を頻繁に使う

標準的なモデルでは、軽自動車1台の10年間費用をおおむね280万~420万円、小型乗用車を350万~520万円程度と想定できます。

一方、免許返納後の交通費は、外出が少ない世帯なら10年間で100万~250万円程度に収まる可能性がありますが、タクシー利用が多い世帯では400万~700万円を超える場合があります。

したがって、結論は次のようになります。

自動車を保有しているだけで高いとは限らず、タクシーを使えば必ず安いとも限らない。月間の外出回数と1回当たりの往復費用を計算して初めて、どちらが有利か判断できる。


1.自動車維持費は燃料代だけではない

自動車を維持する費用というと、ガソリン代や車検代を思い浮かべる人が多いかもしれません。

しかし、実際には次の費用がかかります。

車両に関する費用

  • 車両購入費
  • 購入時の諸費用
  • ローン金利
  • 将来の買い替え費用
  • 売却時の残存価格

税金・法定費用

  • 自動車税
  • 軽自動車税
  • 自動車重量税
  • 自賠責保険
  • 車検時の検査手数料

保険

  • 対人賠償
  • 対物賠償
  • 人身傷害
  • 車両保険
  • 弁護士費用特約など

自賠責保険は法律上加入が義務付けられている強制保険ですが、補償は主として事故の相手方の人身損害に限られます。自分のけがや車両損害、相手方の物的損害などを補うには、一般に任意保険を別途検討する必要があります。

維持・整備費

  • 定期点検
  • 車検整備
  • エンジンオイル
  • タイヤ
  • バッテリー
  • ワイパー
  • ブレーキ部品
  • 電球・電子部品
  • 故障修理
  • 洗車・防錆対策

使用に伴う費用

  • ガソリンまたは軽油
  • 駐車場
  • 有料道路
  • 高速道路
  • 出先の駐車料金

この中で、走行距離を減らしても大きく減らないのが、車両価格、税金、保険、車検などの固定費です。

年間1万キロメートル走る人も、年間2,000キロメートルしか走らない人も、自動車を所有する限り、一定の固定費を負担します。


2.自動車税は排気量や登録時期によって異なる

自家用乗用車の自動車税は、主に総排気量によって決まります。

令和元年10月1日以降に初回新規登録された自家用乗用車では、年額は次のようになっています。

総排気量 年額
1リットル以下 2万5,000円
1リットル超~1.5リットル以下 3万500円
1.5リットル超~2リットル以下 3万6,000円
2リットル超~2.5リットル以下 4万3,500円

初回登録時期が古い車では異なる税率が適用されることがあります。また、一定年数を経過した環境負荷の大きい車には、重課が行われる場合があります。

軽自動車では、普通乗用車とは異なる軽自動車税が課されます。

税額は車種、用途、初度検査年月、重課・軽課の適用によって変わるため、この記事の試算では、軽自動車の税負担を年間約1万~1万3,000円、小型乗用車を年間約2万5,000~3万6,000円の範囲で設定します。

ここで重要なのは、年間1万円程度の税金だけを見て、軽自動車の維持費が安いと判断しないことです。

車両購入費、任意保険、車検整備、燃料、故障修理を含めると、税金は総費用の一部にすぎません。


3.車検代と整備費を一つにまとめてはいけない

車検は、自動車が保安基準に適合しているかを確認し、車検証の有効期間を更新するための制度です。

令和7年4月1日以降は、車検証の有効期間満了日の2か月前から満了日までの間に受検しても、従来の有効期間を失わずに更新できるようになっています。

車検時に支払う費用には、性格の異なるものが含まれます。

法定費用

  • 自動車重量税
  • 自賠責保険
  • 検査手数料

車検基本料金

  • 点検料金
  • 検査代行料
  • 書類作成費など

整備費

  • ブレーキ部品交換
  • オイル交換
  • タイヤ交換
  • バッテリー交換
  • その他の修理

自動車重量税は、車両重量、経過年数、環境性能によって変わります。

令和8年度にも、環境性能に優れた一定の自動車を対象として、自動車重量税の免除または軽減措置があります。

一方、年式の古い車は、重量税や自動車税の負担が増えることがあります。

そのため、「車検は毎回10万円」と一律に置くのではなく、法定費用と整備費を分けて考える方が正確です。

本記事では、10年間の車検・点検・整備費を次の範囲で設定します。

車両 10年間の想定
軽自動車 45万~80万円
小型乗用車 55万~100万円

この中には、大規模な事故修理やエンジン、変速機、駆動用バッテリーなどの高額故障は含めません。


4.燃料費は走行距離と実燃費で決まる

燃料費は、次の式で計算できます。

年間燃料費=年間走行距離÷実燃費×燃料単価

例えば、年間5,000キロメートル走り、実燃費が1リットル当たり18キロメートル、ガソリン価格を1リットル当たり170円と仮定します。

5,000÷18×170=約4万7,000円

10年間では約47万円です。

年間1万キロメートルなら、単純計算で約94万円になります。

資源エネルギー庁は、石油製品の小売価格を定期的に調査・公表していますが、ガソリン価格は原油価格、為替、補助制度、地域、給油所によって変動します。

したがって、10年間の試算で現在の価格が続くと断定するのは適切ではありません。

本記事では比較用に、ガソリン価格を1リットル当たり160~200円、実燃費を1リットル当たり15~22キロメートルの範囲で考えます。


5.軽自動車を10年間維持する費用

標準ケースの前提

  • 地方在住の1世帯
  • 軽自動車1台
  • 10年間保有
  • 年間走行距離5,000キロメートル
  • 駐車場代なし
  • 実燃費18キロメートル
  • ガソリン価格170円
  • 大規模事故なし
  • 10年間に車両を1回取得
  • 売却価格を差し引いた実質車両費120万円

標準ケース

費用項目 10年間
車両購入・諸費用から売却額を控除 120万円
軽自動車税 11万円
自賠責・重量税・検査手数料 18万円
任意保険 45万円
車検・点検・修理 55万円
タイヤ・バッテリー・消耗品 30万円
燃料費 47万円
合計 326万円

年間平均では約32万6,000円です。

月平均では約2万7,000円になります。

ただし、これは駐車場代がなく、年間走行距離が比較的短く、大規模故障もないケースです。

3つのケース

ケース 10年間
低費用 250万~280万円
標準 300万~360万円
高費用 400万~500万円

高費用ケースには、車両価格の上昇、任意保険料の増加、タイヤ交換、高額修理、年間走行距離の増加などを含みます。


6.小型乗用車を10年間維持する費用

標準ケースの前提

  • 排気量1~1.5リットル
  • 10年間保有
  • 年間走行距離7,000キロメートル
  • 駐車場代なし
  • 実燃費17キロメートル
  • ガソリン価格170円
  • 売却価格を差し引いた実質車両費180万円

標準ケース

費用項目 10年間
車両購入・諸費用から売却額を控除 180万円
自動車税 30万5,000円
自賠責・重量税・検査手数料 25万円
任意保険 55万円
車検・点検・修理 70万円
タイヤ・バッテリー・消耗品 40万円
燃料費 70万円
合計 約471万円

年間平均では約47万円です。

月平均では約3万9,000円になります。

3つのケース

ケース 10年間
低費用 330万~380万円
標準 420万~480万円
高費用 520万~650万円

車両価格、走行距離、保険内容、故障状況によって、結果は大きく変わります。


7.すでに所有している車を使い続ける場合は計算が変わる

自動車保有と免許返納を比較するとき、最も間違いやすいのが車両購入費の扱いです。

すでに購入代金を支払い終えた車を所有している人は、

車両代はもう払っているから、今後の維持費には含めなくてよい

と考えるかもしれません。

確かに、過去に支払った購入代金は、返納するかどうかにかかわらず戻らない費用です。

これはサンクコスト、すなわち既に支出して回収できない費用です。

今後10年間の判断では、過去の購入代金をそのまま加える必要はありません。

しかし、次の費用は考える必要があります。

  • 現在売却すれば得られる金額
  • 今後の故障修理費
  • 次回買い替え費用
  • 車齢上昇による税・整備負担
  • 返納時点の処分費用

例えば、現在100万円で売却できる車を保有し続け、10年後の売却額がほぼゼロになるなら、100万円分の価値を使用したことになります。

したがって、すでに車を所有している場合も、現在の売却可能額を機会費用として考える方が合理的です。


8.免許返納後に必要となる交通費

免許返納後の費用には、次のものがあります。

公共交通

  • 鉄道運賃
  • 路線バス運賃
  • コミュニティバス運賃
  • デマンド交通運賃
  • 駅までの移動費

タクシー

  • 距離制運賃
  • 時間距離併用運賃
  • 迎車料金
  • 予約料金
  • 深夜早朝割増
  • 待機料金

千葉県では、令和8年3月16日にタクシー運賃が改定され、それまで分かれていた地区の運賃体系が一本化されました。今後も運賃改定があり得るため、10年間の試算では現在の初乗り運賃だけを固定して計算するのではなく、実際の利用区間について事業者へ概算料金を確認する方が安全です。

家族送迎

  • 家族の燃料費
  • 車両の消耗
  • 駐車料金
  • 有料道路料金
  • 付き添い時間
  • 休業・有給休暇の使用

自宅で代替する費用

  • 食品宅配
  • ネットスーパー
  • 配食サービス
  • 買い物代行
  • 訪問診療
  • 訪問理美容
  • 行政手続きの郵送費
  • 宅配の追加料金

返納後の費用を正確に見るには、タクシー代だけでなく、これらを合計する必要があります。


9.免許返納後の交通費を3つのケースで試算する

以下は全国一律の料金ではなく、比較用のモデルです。

自治体の助成、公共交通の運賃、タクシー料金、家族構成によって実際の金額は変わります。


ケースA~外出が少なく、公共交通を利用できる

前提

  • 通院 月1回
  • 買い物 月2回
  • その他の外出 月1回
  • 1か月4往復
  • バス・デマンド交通を中心に利用
  • 一部だけタクシー
  • 食品宅配を併用
費用項目 年間 10年間
バス・デマンド交通 2万4,000円 24万円
タクシー 6万円 60万円
食品宅配・配達追加費 3万6,000円 36万円
家族送迎の実費 2万円 20万円
合計 14万円 140万円

このケースでは、軽自動車を保有するより、免許返納後の方が100万~200万円程度安くなる可能性があります。


ケースB~通院と買い物にタクシーを定期利用する

前提

  • 本人の通院 月2回
  • 配偶者の通院 月1回
  • 買い物 月4回
  • その他の外出 月1回
  • 月8往復程度
  • 1往復平均4,500円
  • 宅配も併用
費用項目 年間 10年間
タクシー 43万2,000円 432万円
バス・鉄道 3万円 30万円
食品宅配等 4万8,000円 48万円
家族送迎の実費 3万円 30万円
合計 54万円 540万円

このケースでは、軽自動車より高くなり、小型乗用車と同程度になる可能性があります。


ケースC~市外通院や頻回通院がある

前提

  • 市外の病院へ月2回
  • 近隣の診療所へ月2回
  • 買い物 月4回
  • その他の外出 月2回
  • 長距離タクシーと家族送迎を併用
費用項目 年間 10年間
タクシー 55万円 550万円
鉄道・バス 6万円 60万円
家族送迎の実費 10万円 100万円
宅配・買い物代行 5万円 50万円
合計 76万円 760万円

このケースでは、自動車を保有していた方が、金銭面では安い可能性があります。

ただし、運転能力や事故リスクに問題がある場合は、費用だけを理由に運転を続けるべきではありません。


10.10年間の比較

移動方法 10年間の標準的なモデル
軽自動車を保有 300万~360万円
小型乗用車を保有 420万~480万円
返納後・低利用 120万~200万円
返納後・中利用 350万~550万円
返納後・高利用 600万~800万円以上

この表から分かるのは、自動車と返納後交通のどちらかが常に安いわけではないということです。

返納後に公共交通を利用できる人は、費用を大幅に減らせる可能性があります。

反対に、自宅から病院やスーパーまで遠く、タクシーを頻繁に使う人は、自動車保有費を上回る可能性があります。


11.損益分岐点は月何回か

自動車とタクシーの費用を比較するには、年間費用から損益分岐点を求める方法があります。

軽自動車の年間費用を35万円と仮定します。

タクシーの1往復費用を4,000円とすると、

35万円÷4,000円=87.5往復

年間約88往復です。

月平均では約7.3往復になります。

つまり、他の公共交通費や宅配費を無視すれば、月7回程度までのタクシー利用なら、年間35万円の軽自動車より安い計算です。

1往復6,000円なら、

35万円÷6,000円=約58往復

月平均では約4.8往復です。

1往復1万円なら、

35万円÷1万円=35往復

月平均では約2.9往復です。

タクシー1往復 軽自動車年35万円との分岐
3,000円 月約9.7回
4,000円 月約7.3回
6,000円 月約4.8回
1万円 月約2.9回

実際には、バス代、宅配費、家族送迎、買い物代行などが加わるため、タクシーを利用できる回数はこれより少なくなります。


12.年間走行距離が短い人ほど返納が有利とは限らない

年間走行距離が短い車は、燃料費が少ないため、維持費も非常に安いように見えます。

しかし、走行距離が短くても、次の固定費は残ります。

  • 税金
  • 自賠責保険
  • 任意保険
  • 車検
  • 定期点検
  • バッテリー
  • 経年劣化
  • 車両価値の低下

年間2,000キロメートルしか走らない場合、ガソリン代は少額でも、年間30万円前後の総費用が発生する可能性があります。

一方、その2,000キロメートルが、病院やスーパーまでの必要不可欠な移動である場合、タクシーへ置き換えると高額になることがあります。

したがって、年間走行距離だけでは判断できません。

重要なのは、走行回数と1回当たりの距離です。

同じ年間2,000キロメートルでも、

  • 近距離を週5回走る人
  • 長距離を月2回走る人

では、タクシーへ置き換えた場合の費用が異なります。


13.夫婦2人世帯では計算が変わる

夫婦2人が1台の自動車を共用している場合、自動車を手放すと、2人分の移動をタクシーや公共交通へ置き換える必要があります。

例えば、夫が月2回、妻が月2回通院し、買い物が月4回なら、すでに月8往復です。

さらに、歯科、理美容、金融機関、行政手続き、家族訪問などを含めれば、月10往復を超える可能性があります。

1往復4,000円なら、月10回で4万円、年間48万円です。

この時点で、軽自動車の標準的な年間保有費を上回る可能性があります。

ただし、夫婦が同じ日に同じ目的地へ行ける場合は、1回のタクシーで2人が移動できます。

反対に、通院先や予約日が異なる場合は、2人分の費用が別々に発生します。

夫婦世帯では、個人の外出回数ではなく、世帯全体の往復回数を数える必要があります。


14.家族送迎は金額に換算する

家族送迎を無料として扱うと、返納後の費用を過小評価します。

最低でも、次の費用は計算に入れるべきです。

  • 走行距離に応じた燃料費
  • 車両の消耗
  • 駐車料金
  • 高速道路料金

さらに、家族の時間も考えます。

例えば、1回の通院送迎で4時間かかり、月2回行えば、年間96時間です。

時間の価値を1時間1,000円と置けば、年間9万6,000円、10年間で96万円になります。

これは家族へ実際に現金を支払うという意味ではありません。

家族が失う仕事、休息、家事、育児の時間を、経済的な負担として可視化するための考え方です。

家族送迎を比較するときは、次の2つを分けます。

負担 内容
現金支出 燃料、駐車、高速道路
非金銭的負担 時間、疲労、仕事への影響

15.安全性は費用比較より優先される

自動車を維持する方が金銭的に安いという結果が出ても、それだけで運転継続が合理的とは限りません。

次のような状態がある場合は、費用とは別に運転能力を検討する必要があります。

  • 視力や視野の低下
  • 反応時間の低下
  • ペダルの踏み間違い
  • 車線変更への不安
  • 夜間運転が難しい
  • 道順を間違える
  • 接触事故が増えた
  • 医師や家族から運転を止められている
  • 薬の副作用で眠気がある
  • 意識消失や発作の危険がある

免許返納は、交通費を安くするための制度ではありません。

本人と周囲の安全を守ることが第一の目的です。

費用比較は、返納するかどうかを決める唯一の基準ではなく、返納後の生活を準備するための資料として使うべきです。


16.返納前に1か月だけ自動車を使わず生活してみる

最も正確な方法は、実際に自動車を使わず生活してみることです。

1か月間、自動車を使わず、次の費用を記録します。

  • バス
  • 鉄道
  • タクシー
  • 家族送迎
  • 食品宅配
  • 買い物代行
  • 配食
  • 通院付き添い
  • キャンセルした外出

その1か月の費用を12倍すれば、年間費用の概算が出ます。

ただし、季節や通院予定によって変動するため、可能であれば3か月程度試す方が正確です。

同時に、次の点も確認します。

  • 雨の日に移動できるか
  • 病院の予約時刻に間に合うか
  • 診察後に帰れるか
  • 荷物を持って歩けるか
  • タクシーをすぐ呼べるか
  • 家族送迎を継続できるか
  • 夜間の急な外出に対応できるか

机上の計算では、費用は比較できても、身体的負担や待ち時間までは分かりません。


17.自分の世帯で計算する方法

自動車を維持する年間費用

次を合計します。

年間自動車費=車両費の年換算+税金+保険+車検・整備の年換算+燃料+駐車場+その他

車両費の年換算は、次のように計算します。

車両費の年換算=購入総額-売却見込額÷保有年数

正確には、括弧を付けて次のようにします。

車両費の年換算=(購入総額-売却見込額)÷保有年数

返納後の年間交通費

返納後交通費=バス・鉄道+タクシー+家族送迎実費+宅配・代行+その他

判断方法

返納後交通費が年間自動車費を下回れば、金銭面では返納後が有利

ただし、安全性、移動時間、家族負担、災害時対応を別に評価します。


18.どのような人は返納後の方が安くなりやすいか

  • 自宅から病院やスーパーまで近い
  • 駅やバス停まで歩ける
  • デマンド交通を利用できる
  • 外出が月数回程度
  • 食品宅配を利用できる
  • 夫婦で同じ日に外出できる
  • タクシー助成がある
  • 自動車の年間走行距離が少ない
  • 車両の買い替え時期が近い
  • 駐車場代を支払っている

都市部や駅周辺では、返納後の方が大幅に安くなる可能性があります。

地方でも、中心市街地や医療・商業施設に近い住宅であれば、返納後の費用を抑えやすくなります。


19.どのような人は自動車の方が安くなりやすいか

  • 病院やスーパーまで遠い
  • バスの本数が少ない
  • 夫婦それぞれの外出が多い
  • 市外の病院へ定期通院している
  • 買い物が週2回以上必要
  • タクシーの迎車に時間がかかる
  • 自治体交通の対象区域外
  • 家族送迎を頼めない
  • 宅配対象外の商品を頻繁に購入する
  • 介護や家族の送迎にも自動車を使う

ただし、自動車の方が安い場合でも、安全に運転できることが前提です。


現実的な結論~費用の分岐点は月間の外出回数で決まる

地方で自動車を10年間維持する場合、本記事の標準モデルでは、軽自動車で約300万~360万円、小型乗用車で約420万~480万円となりました。

一方、免許返納後の交通費は、公共交通を中心に利用できる低利用ケースでは約120万~200万円に抑えられる可能性があります。

しかし、タクシーを月8回程度利用し、宅配や家族送迎を併用する場合は、10年間で350万~550万円程度になる可能性があります。

市外通院や頻回通院がある場合は、600万~800万円を超えることも考えられます。

したがって、

自動車は高いから返納した方が得である

とも、

地方では自動車がなければ暮らせないため、持ち続ける方が得である

とも一律にはいえません。

判断の中心になるのは、次の条件です。

  • 世帯全体で月に何回移動するか
  • 1往復にいくらかかるか
  • 公共交通をどこまで使えるか
  • 市外通院があるか
  • 車両購入費を含めるか
  • 家族送迎の時間をどう評価するか

軽自動車の年間総費用を35万円、タクシーの1往復を4,000円とすると、単純な分岐点は月7回程度です。

1往復6,000円なら月5回程度、1万円なら月3回程度で、自動車の年間費用に近づきます。

ただし、免許返納の判断では、金銭面だけを見てはいけません。

安全性に不安がある場合は、多少交通費が増えても、運転をやめる方が合理的です。

そのうえで、公共交通、タクシー、宅配、家族送迎を組み合わせ、返納後の生活を成立させる必要があります。

最も確実なのは、免許を返納する前に、自動車を使わない生活を1~3か月試すことです。

実際にかかった交通費と不便を記録すれば、自分の世帯にとって、自動車と免許返納後の交通のどちらが現実的かが見えてきます。

免許返納は、単に自動車を手放す問題ではありません。

医療、買い物、住宅の立地、家族の支援、老後の家計をまとめて見直す生活設計の問題なのです。


地域の課題を、自分の判断に置き換えて考える

有限会社アードレでは、住まい・車・移住などの大きな選択を、 費用や将来条件をもとに数字で比較し、判断できる形に整理しています。

数字で比較するサービスを見る

地方で自動車の運転をやめることは、単に買い物や外出の方法を変えることではありません。

病院へ行く方法そのものを、もう一度組み立て直すことでもあります。

茂原市、長生郡、いすみ市、勝浦市、大多喜町、御宿町などの外房地域では、鉄道、路線バス、自治体のコミュニティバス、デマンド交通、一般タクシー、高齢者向け送迎など、複数の移動手段が用意されています。

しかし、交通手段が存在することと、免許返納後も無理なく通院できることは同じではありません。

自宅からバス停まで歩けるのか、病院の予約時刻に間に合うのか、診察が長引いても帰りの便があるのか、市町村外の専門病院まで移動できるのかといった条件によって、実際の通院可能性は大きく変わります。

特に問題になるのは、月1回程度の近隣診療所への通院ではなく、複数の診療科を受診する場合や、市外の専門病院へ通う場合、週数回の透析やリハビリテーションが必要になった場合です。

本記事では、自治体を単純に順位付けするのではなく、茂原・長生・夷隅地域に共通する生活条件から、免許返納後の通院がどこまで可能なのかを検証します。

令和8年度とは、2026年4月1日から2027年3月31日までです。公共交通制度は年度途中に運行内容や利用条件が変更される可能性があるため、実際に利用するときは各自治体や交通事業者への確認が必要です。


最初に結論~月1回の近距離通院なら対応できても、頻回・広域通院では難しくなる

茂原・長生・夷隅地域では、免許を返納したからといって、直ちに通院できなくなるわけではありません。

自宅が駅やバス停に近く、通院先が同じ市町村内にあり、月1回程度の受診で、1人で乗り降りできるのであれば、バス、デマンド交通、タクシーを組み合わせて通院できる可能性があります。

一方で、次のような条件が重なると、公共交通だけで通院を続けることは難しくなります。

  • 自宅からバス停まで遠い
  • 坂道や段差が多い
  • 市町村外の病院へ通う
  • 診察終了時刻が読めない
  • 複数の交通機関を乗り継ぐ
  • 週1回以上の通院がある
  • 付き添いが必要である
  • 車椅子や歩行器を使用している
  • 認知機能に不安がある
  • 早朝や夕方以降の診療を受ける
  • 家族が遠方に住んでいる

したがって、免許返納後の通院可能性は、自治体に制度があるかどうかだけでは決まりません。

重要なのは、次の5点です。

  1. 自宅から医療機関までの距離
  2. 通院先が市町村内か市町村外か
  3. 通院頻度が月1回か週数回か
  4. 1人で交通機関を利用できるか
  5. タクシーや家族送迎の費用を負担できるか

この5条件のうち、複数に問題がある場合は、免許返納後も現在の住宅に住み続けられるかまで検討する必要があります。


1.茂原・長生・夷隅地域の医療は広域で支えられている

茂原市と長生郡、いすみ市、勝浦市、夷隅郡は、千葉県の山武長生夷隅保健医療圏に含まれます。

この医療圏では、地域内に診療所、一般病院、公立病院が配置されていますが、病気の種類や重症度によっては、東金市、市原市、千葉市、鴨川市などの医療機関へ移動する必要があります。

千葉県保健医療計画では、山武長生夷隅保健医療圏の外来患者について、圏域外への流出があることが示されています。また、診療所における外来医療の需要に対する医師数は、全国平均を下回る水準とされています。

この地域の医療は、一つの大病院ですべてを完結させる仕組みではありません。

おおむね、次のような役割分担になっています。

医療の段階 主な受診先
日常的な診療 近隣の診療所、かかりつけ医
検査・入院・一般的な手術 茂原市、長柄町、いすみ市、勝浦市などの地域病院
高度な専門医療 東金市、市原市、千葉市、鴨川市などの医療機関
退院後の療養 回復期病床、在宅医療、訪問看護、介護施設

この構造は、自動車を運転できるうちは大きな問題にならないことがあります。

必要な病院まで本人や家族が自動車で移動できるからです。

しかし、本人が免許を返納し、配偶者も運転できない場合、医療機関の選択肢は一気に狭くなります。

病院が地域内に存在していても、そこへ行く手段がなければ、生活者にとっては利用できない医療に近くなります。


2.「病院まで何キロメートルか」だけでは通院の難しさは分からない

免許返納後の通院を考えるとき、自宅と病院の直線距離だけでは十分ではありません。

実際には、次の4区間を分けて考える必要があります。

  1. 自宅から最寄りのバス停または駅まで
  2. バス停や駅から医療機関の最寄り地点まで
  3. 降車地点から病院の受付まで
  4. 診察終了後に同じ経路で帰宅できるか

例えば、自宅から病院まで5キロメートルしかなくても、最寄りのバス停まで1.5キロメートルあり、1日に数本しか運行していなければ、実用的な通院手段とはいえません。

反対に、病院まで15キロメートルあっても、自宅近くから予約制交通に乗車でき、病院付近まで直接行けるのであれば、比較的利用しやすいことがあります。

通院の難易度は、単純な距離ではなく、次の式に近い考え方で決まります。

通院負担=移動距離+待ち時間+乗り換え+歩行距離+費用+身体的負担

金銭的には安いバスでも、乗車前後に長く歩き、診察終了後に2時間待たなければならない場合、高齢者にとっては負担の大きい交通手段です。


3.月1回の近隣診療所なら比較的対応しやすい

免許返納後も比較的対応しやすいのは、月1回程度、近隣の内科や整形外科へ通うケースです。

例えば、次の条件を想定します。

  • 自宅から診療所まで5キロメートル
  • 通院は月1回
  • 診察は午前中
  • 1人で歩行、乗降できる
  • 予約制交通またはタクシーを利用できる

この条件であれば、年間の通院回数は12往復です。

タクシーを往復で利用したとしても、距離が短ければ年間数万円から十数万円程度で収まる可能性があります。

自治体のデマンド交通や高齢者向け送迎が利用できれば、さらに負担を抑えられる場合があります。

ただし、ここで注意したいのは、現在の通院回数だけを基準にしてはいけないことです。

60代後半では月1回の内科だけでも、75歳以降には次のように増える可能性があります。

  • 内科 月1回
  • 眼科 2~3か月に1回
  • 整形外科 月1~2回
  • 歯科 数か月に1回
  • 検査のための病院受診 年数回
  • 配偶者の付き添い 月1回程度

夫婦2人分を合計すると、年間の通院が30~50往復になることも珍しくありません。

月1回の通院が可能だからといって、老後を通して同じ交通手段で生活できるとは限りません。


4.市町村を越える専門外来から難易度が急に上がる

外房地域では、日常的な内科診療は近隣で受けられても、専門的な検査や治療では別の市町村へ行くことがあります。

想定される移動には、次のようなものがあります。

  • 長生郡から茂原市内の病院
  • 茂原市や長生郡から東金市の病院
  • 長柄町や長南町から市原市の病院
  • いすみ市や勝浦市から鴨川市の病院
  • 外房地域から千葉市内の専門病院

自治体のデマンド交通や福祉送迎は、市町村内の移動を主な対象としている場合があります。

そのため、自宅から最寄り駅までは自治体交通、駅から地域外の病院までは鉄道、病院の最寄り駅からは路線バスまたはタクシーというように、複数の交通手段を組み合わせる必要が出てきます。

この場合、問題になるのは運賃だけではありません。

  • 乗り換えに時間がかかる
  • 駅にエレベーターがない場合がある
  • 電車とバスの時刻が合わない
  • 診察終了時刻を予測できない
  • 帰りの予約制交通に間に合わない
  • 体調が悪い状態で長時間移動する
  • 家族の付き添いが必要になる

特に、検査や専門外来は午前中に予約されることがあります。

早朝に出発しなければならない場合、自治体の交通が運行を開始する前である可能性もあります。

このため、市町村外への通院では、公共交通が存在するかどうかではなく、予約時刻までに実際に到着できるかを確認しなければなりません。


5.コミュニティバスは安いが、診察時間に合わせにくい

茂原・長生・夷隅地域では、市民バス、町民バス、市内循環バスなどが運行されています。

茂原市は、市民バス「モバス」やデマンド交通を、交通空白地域などにおける高齢者等の生活交通として位置付けています。茂原市地域公共交通計画でも、高齢化や運転免許返納者の増加を背景として、公共交通の必要性が高まっていることが示されています。

また、いすみ市では、JR(Japan Railways・旅客鉄道会社)外房線、いすみ鉄道、いすみシャトルバス、市内循環バス、デマンド交通、タクシーなどが地域公共交通として位置付けられています。令和8年には地域公共交通計画の変更版が公表されています。

コミュニティバスの最大の利点は、一般タクシーより運賃が安いことです。

しかし、通院では次の問題があります。

診察時刻に合う便があるとは限らない

病院の予約が午前9時でも、最初の便では間に合わないことがあります。

反対に、午前10時に病院へ着いても、診察が午後までかかり、帰りの便まで長時間待つことがあります。

病院前に停車するとは限らない

路線が病院付近を通っていても、病院の入口まで距離がある場合があります。

高齢者にとっては、数百メートルの歩行でも負担になります。

毎日運行とは限らない

曜日限定、平日のみ、特定曜日のみの運行では、診療日と合わないことがあります。

乗り換えが必要になる

自宅近くのバスから駅へ行き、そこから鉄道、さらに別のバスへ乗り換える場合、身体的負担が大きくなります。

したがって、コミュニティバスは、運行経路と診察時刻が合う人には有効ですが、すべての通院を支える万能な手段ではありません。


6.デマンド交通は便利だが、市町村外まで行けるとは限らない

デマンド交通とは、利用者の予約に応じて運行する乗合型の交通です。

定時定路線型のバスより、自宅や指定乗降場所の近くから利用しやすい場合があります。

特に、バス停まで歩くことが難しい高齢者には、有効な交通手段です。

ただし、デマンド交通には次のような制限があります。

  • 事前登録が必要
  • 前日までの予約が必要
  • 予約が集中すると希望時刻に利用できない
  • 他の利用者との乗合になる
  • 市町村内だけの運行
  • 指定乗降場所だけで乗降
  • 早朝、夜間、休日は運行しない
  • 1人で乗降できることが利用条件
  • 車椅子に対応していない場合がある

勝浦市ではデマンドタクシーが運行され、高齢者タクシー利用料助成事業も地域公共交通計画に位置付けられています。また、令和8年度には、総野地区の一部で自家用有償旅客運送「ノッカルかつうら」の有償実証運行が行われています。

ただし、このような制度があるからといって、勝浦市内のすべての地域で同じ条件で利用できるわけではありません。

運行区域、利用対象、予約方法、目的地は制度ごとに異なります。

デマンド交通の評価では、次の4点を確認する必要があります。

  1. 自宅付近から乗れるか
  2. 通院先の病院まで直接行けるか
  3. 市町村外へ行けるか
  4. 診察後に帰りの便を確保できるか

特に、市町村内の指定施設までしか運行しない制度では、地域外の専門病院への通院には利用できません。


7.一般タクシーは最も確実だが、回数が増えると負担が大きい

免許返納後の通院手段として、最も柔軟なのは一般タクシーです。

自宅から病院まで直接移動でき、診察終了後にも呼ぶことができます。

乗り換えが不要で、歩行距離も抑えられます。

一方で、通院距離と回数が増えると費用が大きくなります。

以下は、制度や事業者ごとの実際の運賃ではなく、通院費の規模を考えるためのモデル試算です。

迎車料金、時間距離併用運賃、信号待ち、道路状況などによって、実際の料金は変わります。

距離別のモデル

片道距離 往復料金の仮定 月1回 月2回 年間
5キロメートル 4,000円 4,000円 8,000円 4万8,000~9万6,000円
10キロメートル 7,000円 7,000円 1万4,000円 8万4,000~16万8,000円
20キロメートル 1万3,000円 1万3,000円 2万6,000円 15万6,000~31万2,000円
40キロメートル 2万5,000円 2万5,000円 5万円 30万~60万円

※金額は比較用の仮定であり、令和8年度の特定タクシー事業者の料金を示すものではありません。

月1回であれば、年金収入や家計状況によっては負担できる可能性があります。

しかし、夫婦2人がそれぞれ月2回通院する場合、年間費用はさらに増えます。

片道10キロメートルの病院へ、夫婦それぞれ月2回通うと仮定します。

1万4,000円×月4回=月5万6,000円

年間では約67万2,000円です。

10年間では、料金が変わらないと仮定しても約672万円になります。

住宅費が安い地域へ移住しても、免許返納後のタクシー代によって、都市部との生活費差が縮小する可能性があります。


8.家族送迎は無料ではない

免許返納後の通院では、「家族に送ってもらえばよい」と考えられがちです。

しかし、家族送迎にも費用と負担があります。

金銭的な費用

  • ガソリン代
  • タイヤやオイルの消耗
  • 車両の減価
  • 駐車料金
  • 高速道路料金
  • 送迎のための迂回
  • 待機中の食事代など

時間的な費用

  • 自宅から迎えに行く時間
  • 病院まで送る時間
  • 診察中の待ち時間
  • 薬局での待ち時間
  • 帰宅の送迎
  • 仕事や家事の中断

例えば、片道30分の病院へ送迎し、診察と会計、薬局で3時間かかる場合、家族は4~5時間を拘束されます。

月2回であれば年間48~60時間程度、夫婦2人分や複数診療科を含めれば、年間100時間を超える可能性があります。

家族が会社員であれば、有給休暇や半日休暇を使うこともあります。

自営業者であれば、その時間に得られたはずの収入を失うことがあります。

したがって、家族送迎は、タクシーより現金支出が少なく見えても、実質的に無料ではありません。


9.透析、リハビリテーション、がん治療では公共交通だけでは難しい

免許返納後の通院で最も大きな問題になるのは、頻回通院です。

人工透析

一般的な血液透析では、週3回程度の通院が必要になることがあります。

年間では約156回、往復では312区間です。

仮に1往復5,000円のタクシーを使うとします。

5,000円×156回=年間78万円

10年間では780万円です。

1往復1万円であれば、年間156万円、10年間で1,560万円になります。

実際には、医療機関独自の送迎、自治体制度、介護サービスなどを利用できる場合がありますが、すべての患者が同じ条件で利用できるとは限りません。

リハビリテーション

骨折、脳卒中、整形外科手術後などでは、週1~3回の通院リハビリテーションが必要になることがあります。

通院そのものが身体的負担となり、送迎が確保できないために回数を減らすケースも考えられます。

がん治療

抗がん剤治療、放射線治療、定期検査では、一定期間、繰り返し病院へ通う必要があります。

治療後に倦怠感や吐き気が出る場合、本人だけで公共交通を使って帰宅することが難しくなることもあります。

眼科、歯科、整形外科

生命に直結する治療ではなくても、視力、歯、歩行能力を維持するために継続受診が必要です。

交通手段がないために受診を先延ばしにすると、生活機能の低下につながる可能性があります。

このように、免許返納後の医療問題は、救急車を呼ぶような重症時だけではありません。

日常的な通院を続けられるかどうかが、高齢期の健康状態を左右します。


10.鉄道駅に近ければ安心とは限らない

外房地域では、JR外房線やいすみ鉄道の駅に近い住宅は、自動車を使わない生活に有利に見えます。

確かに、茂原駅、大原駅、勝浦駅、御宿駅などの近くであれば、広域移動の選択肢は増えます。

しかし、駅に近いことと、病院に近いことは同じではありません。

次の条件を確認する必要があります。

  • 自宅から駅まで平坦か
  • 駅に階段や跨線橋があるか
  • 病院の最寄り駅からバスがあるか
  • バス停から病院まで歩けるか
  • 帰りの鉄道時刻までどれほど待つか
  • 通院時間帯に列車が運行しているか
  • 強風や大雨で運休した場合の代替手段があるか

駅から病院までタクシーを使う場合、自宅から駅までの交通費、鉄道運賃、駅から病院までのタクシー代が重なります。

その結果、自宅から病院まで直接タクシーを利用した場合と、大きな差が出ないこともあります。


11.自治体の支援制度は重要だが、単純比較はできない

茂原・長生・夷隅地域では、市民バス、町民バス、デマンド交通、高齢者タクシー助成、福祉タクシー、移動支援など、さまざまな制度があります。

しかし、これらを自治体別に単純比較することには注意が必要です。

制度ごとに、次の条件が異なるからです。

  • 全住民が対象か
  • 高齢者だけが対象か
  • 免許返納者が対象か
  • 障害者手帳が必要か
  • 所得制限があるか
  • 市町村内だけか
  • 町外病院にも行けるか
  • 1人で乗降できる必要があるか
  • 利用回数に上限があるか
  • 片道回数か往復回数か

例えば、高齢者向けの無料送迎であっても、市町村内だけの運行であれば、地域外の専門病院には利用できません。

反対に、利用料金がかかるデマンド交通でも、自宅付近から病院まで直接移動できるなら、実用性が高い場合があります。

したがって、制度の評価では、「無料か有料か」だけでなく、次の4項目を確認する必要があります。

確認項目 意味
対象者 自分が利用条件を満たすか
運行範囲 通院先まで行けるか
運行時間 予約時刻と帰宅時刻に合うか
利用回数 必要な通院回数を確保できるか

令和8年度には、いすみ市が変更後の地域公共交通計画を公表し、勝浦市では「ノッカルかつうら」の有償実証運行が進められています。こうした制度は地域交通を補う重要な取り組みですが、対象地域や運行条件を確認せずに「免許返納後も安心」と評価することはできません。


12.免許返納後の通院費を10年間で考える

通院交通費は、1回ごとでは小さく見えても、10年間では大きな金額になります。

以下は比較のためのモデルです。

ケース1~近隣診療所へ月1回

  • 1往復3,000円
  • 年12回
  • 年間3万6,000円
  • 10年間36万円

ケース2~地域病院へ月2回

  • 1往復7,000円
  • 年24回
  • 年間16万8,000円
  • 10年間168万円

ケース3~夫婦2人がそれぞれ月2回

  • 1往復7,000円
  • 年48回
  • 年間33万6,000円
  • 10年間336万円

ケース4~週1回の通院

  • 1往復7,000円
  • 年52回
  • 年間36万4,000円
  • 10年間364万円

ケース5~週3回の通院

  • 1往復7,000円
  • 年156回
  • 年間109万2,000円
  • 10年間1,092万円
ケース 年間交通費 10年間
月1回、近距離 3万6,000円 36万円
月2回、中距離 16万8,000円 168万円
夫婦各月2回 33万6,000円 336万円
週1回 36万4,000円 364万円
週3回 109万2,000円 1,092万円

※すべて比較用の仮定です。自治体助成、医療機関送迎、運賃改定、待機料金などは含めていません。

この比較から分かるのは、免許返納後の問題は、タクシーが高いか安いかという単純な話ではないということです。

通院頻度が低ければ、タクシーは自動車を保有するより合理的な場合があります。

しかし、週数回の通院では、一般タクシーだけで対応することが難しくなります。


13.自動車維持費とタクシー代は単純比較できない

免許返納を検討するとき、「自動車維持費よりタクシー代の方が安い」と説明されることがあります。

確かに、自動車には次の費用がかかります。

  • 車両購入費
  • 自動車税
  • 自動車重量税
  • 自賠責保険
  • 任意保険
  • 車検
  • 点検整備
  • タイヤ
  • バッテリー
  • 燃料費
  • 修理費
  • 駐車場代

年間の自動車保有費が40万~60万円程度であれば、月1~2回のタクシー通院だけなら、免許返納後の方が金銭的に安くなる可能性があります。

しかし、自動車は通院以外にも使用します。

  • 買い物
  • 金融機関
  • 市役所
  • 理美容
  • 墓参り
  • 家族訪問
  • 災害時の避難
  • 配偶者の通院
  • 急な体調不良

したがって、自動車費用と通院タクシー代だけを比較すると、生活全体の移動費を過小評価します。

免許返納後の家計を考える場合は、通院、買い物、行政手続き、日常外出を合計した年間交通費を試算する必要があります。


14.免許返納後も通院しやすい住宅の条件

外房地域で高齢期まで住み続けるには、住宅価格や敷地の広さだけでなく、医療交通の条件が重要です。

通院しやすい住宅

  • 診療所まで2~3キロメートル程度
  • バス停まで徒歩5~10分以内
  • 駅まで平坦に移動できる
  • タクシーを呼びやすい
  • デマンド交通の対象区域内
  • スーパーと病院が同じ方向にある
  • 坂道や階段が少ない
  • 家族が訪問しやすい
  • 地域病院まで30分以内
  • 将来売却しやすい

通院が難しくなりやすい住宅

  • 山間部や丘陵部の奥
  • 急坂がある
  • 最寄りバス停まで1キロメートル以上
  • バスが1日数本
  • タクシー営業所から遠い
  • 携帯電話の電波が不安定
  • 大雨や倒木で道路が寸断される
  • 病院まで市町村を越える必要がある
  • 家族が遠方に住んでいる
  • 夫婦とも運転できなくなった場合の代替手段がない

海が見える住宅や広い庭付き住宅に魅力を感じても、高齢期の通院を考えれば、駅、病院、スーパーに近い小規模な住宅の方が長く住み続けやすいことがあります。


15.免許返納前に一度、自動車を使わず通院してみる

免許返納を決める前に、実際に自動車を使わず病院へ行ってみる方法が有効です。

地図や時刻表だけでは、実際の負担は分かりません。

確認すること

  • 自宅からバス停まで何分かかるか
  • 雨の日でも歩けるか
  • 病院の予約時刻に間に合うか
  • 診察後に帰りの便があるか
  • 薬局まで移動できるか
  • 荷物を持って乗り降りできるか
  • 乗り換え時に座って待てるか
  • タクシーをすぐ呼べるか
  • 付き添いがなくても利用できるか
  • 1回の交通費はいくらか

夫婦の一方が運転を続ける場合でも、もう一方が単独で通院できるかを確認する必要があります。

運転する配偶者が病気になったり、先に免許を返納したりする可能性があるからです。


16.返納前に確認したい10項目

  1. かかりつけ医まで自動車以外で行けるか
  2. 地域病院までの移動手段があるか
  3. 市外の専門病院へ通えるか
  4. バス停まで安全に歩けるか
  5. 診察終了後の帰宅手段があるか
  6. デマンド交通の対象者と運行区域は何か
  7. タクシー助成を利用できるか
  8. 月何回まで利用できるか
  9. 家族送迎を何年間続けられるか
  10. 通院できなくなった場合に住み替えられるか

この10項目のうち、3項目以上に明確な答えがない場合は、返納後の交通計画が十分とはいえません。


現実的な結論~免許返納後も通院できるかは、自治体名より生活条件で決まる

茂原・長生・夷隅地域には、鉄道、路線バス、市民バス、町民バス、デマンド交通、一般タクシー、高齢者向け支援など、複数の移動手段があります。

そのため、免許返納後に一切通院できなくなる地域ではありません。

しかし、公共交通制度が存在するだけで、すべての住民が継続的に病院へ通えるわけでもありません。

月1回程度、近隣の診療所へ通うのであれば、デマンド交通、コミュニティバス、タクシーによって対応できる可能性があります。

一方、市町村外の専門病院、週1回以上のリハビリテーション、週3回程度の透析、治療後に体調が悪化する可能性があるがん治療などでは、公共交通だけで通院を続けることが難しくなります。

また、自治体の制度を単純に比較して、どこが優れているかを決めることも適切ではありません。

同じ自治体内でも、駅周辺と山間部、幹線道路沿いと丘陵住宅地では、通院条件が大きく異なるからです。

免許返納後の通院可能性を左右するのは、自治体名ではなく、次の条件です。

  • 自宅と病院の距離
  • バス停や駅までの歩行環境
  • 市町村外へ移動できるか
  • 通院頻度
  • 身体機能
  • 家族の支援
  • タクシー代を負担できるか
  • 将来の住み替えが可能か

外房地域で老後まで暮らすには、「今、自動車を運転できるか」ではなく、「運転できなくなった後も病院へ行けるか」を住宅選びの段階から考える必要があります。

自動車を手放す時期になってから交通手段を探すのでは遅い場合があります。

最も現実的なのは、元気なうちに自動車を使わない通院を一度試し、公共交通、タクシー、家族送迎を組み合わせた年間費用を計算しておくことです。

免許返納は、単に運転をやめる手続きではありません。

高齢期の医療、住宅、家計、家族関係をまとめて見直す生活設計の問題なのです。

地域の課題を、自分の判断に置き換えて考える

有限会社アードレでは、住まい・車・移住などの大きな選択を、 費用や将来条件をもとに数字で比較し、判断できる形に整理しています。

数字で比較するサービスを見る