地域分析記事

地域の暮らしと地域課題を数学とデータで考える

高齢者の暮らし

高齢者の暮らし

いすみ市・勝浦市で考える「車のない老後」の家計

運転免許証を返納した日から、ガソリン代はかからなくなる。自動車税も、車検も、任意保険も、タイヤ交換も、やがて家計から消えていく。

それだけを見れば、車を手放した老後はずいぶん身軽になるように思える。しかし、暮らしから一緒に消えてくれるわけではないものがある。それが「移動」である。

冷蔵庫の牛乳がなくなれば買い物へ行かなければならず、薬が切れれば病院へ行かなければならない。銀行にも市役所にも美容院にも行く。ときには駅まで出て、少し遠くの病院へ向かうこともあるだろう。

自分の車を持っていた頃には、こうした一回一回の移動に値札は付いていなかった。もちろん実際にはガソリンも減っていたし、車そのものも少しずつ消耗していた。それでも、スーパーへ出掛けるたびに「今日は往復いくら」と財布からお金を取り出すわけではない。

ところが免許を返納すると、それまで自動車保有費の中に埋もれていた「移動そのもの」に、200円、300円、500円、あるいは2,000円を超える価格が見えるようになる。

だから免許返納を考えるとき、本当に知りたい数字は「タクシーは高いのか」ではない。

75歳で免許を返したとして、85歳までの10年間、日常生活を続けるために移動費としていくら用意しておけばよいのか。

今回は御宿町ではなく、いすみ市と勝浦市をモデルに、この金額を考えてみたい。

車を手放した瞬間、同じ5キロメートルが別の距離になる

東京の住宅地なら、免許を返したあとも徒歩圏にスーパーがあり、駅があり、その先には複数の病院があるという生活を想像しやすい。

しかし、いすみ市や勝浦市では事情が違う。

海岸沿いの市街地だけでなく、丘陵部や農村部にも住宅が広がり、自宅から駅や病院、スーパーまで数キロメートル離れていることもある。自動車を運転できる間、その距離はそれほど大きな問題にはならない。玄関を出て車に乗れば、そのまま目的地へ向かえるからである。

ところが車を失うと、同じ5キロメートルが突然違う意味を持ちはじめる。

歩くには遠い。自転車は年齢や天候に左右される。バスが走っていても、自宅から停留所まで歩かなければならないこともある。その空白を埋めるものが、路線バス、乗合交通、そして普通のタクシーである。

幸い、いすみ市では事前予約型の市民乗合タクシーが運行されており、2026年8月時点の利用料金は一人1回300円である。原則として月曜日から金曜日まで運行し、運行区域内であれば自宅などから目的地まで利用できる。一般のタクシーとは違って乗り合わせで運行されるため、予約や時間の余裕は必要になるが、車を持たない人にとって重要な交通手段である。

さらに、いすみ市に住民票がある75歳以上の人には、市内循環バスといすみシャトルバスの運賃が免除される無料パスポートがあり、65歳以上でも運転経歴証明書の交付を受けた免許返納者なら対象になる。

勝浦市にも予約制のデマンドタクシーがあり、一般の大人運賃は1回500円だが、運転経歴証明書を持つ免許返納者は200円で利用できる。運行日は原則として月曜日から土曜日である。ただし、市内のどこからでも自由に利用できるわけではなく、自由に乗降場所を指定できる区域と、駅、病院、金融機関、商業施設などの共通乗降場所を組み合わせた仕組みになっている。

つまり、いすみ市も勝浦市も「免許を返したら、すべての移動を普通タクシーに置き換えるしかない」という地域ではない。

そして、この点こそが10年間の移動費を大きく左右する。

75歳で免許を返し、月8回外出する生活を考える

ここからは、比較のために一人の住民を想定する。

75歳で運転免許を返納し、85歳まで暮らす。買い物、通院、金融機関、役所、知人との交流などを合わせ、自宅から月8回出掛けることにする。

一回の外出には行きと帰りがあるから、交通機関への乗車は月16回になる。

年間では192回、10年間なら1,920回である。

月8回の外出という数字は、日本の高齢者全体の平均値として設定したものではない。あくまで「週におおむね2回外出する生活」を数値化した、この記事独自のモデルケースである。

この区別は重要である。

以下で計算する150万円、250万円、400万円という数字も、「免許を返納した高齢者は一般にこれだけ必要になる」という統計ではない。一定の生活条件を置いたときに、10年間の移動費がどの程度になるかを見るためのシミュレーションなのである。

普通タクシーについては、自宅から目的地まで片道5キロメートルという条件を置いた。

千葉県内のタクシー運賃は2026年3月16日に改定され、普通車の上限運賃では初乗り1.06キロメートルまで500円、その後221メートルまでを増すごとに100円となった。いすみ市、勝浦市を含む外房地域も現在の千葉地区運賃の対象となっている。

この上限運賃を使い、渋滞や信号待ちなどによる時間距離併用運賃を考えずに5キロメートルを計算すると、片道はおよそ2,300円になる。

もちろん、これは実際の乗車料金を保証する数字ではない。迎車回送料金は事業者によって異なり、時速10キロメートル以下で走行した場合には時間距離併用運賃も加算される。したがって2,300円は、あくまでこの記事で比較するための基準値である。

それでも片道2,300円なら往復4,600円になる。

車を運転していた頃には何気なく往復していた5キロメートルが、免許を返したあとには4,600円の行動になる可能性がある。

同じ月8回の外出でも、10年間で100万円台から400万円台まで開く

そこで、月8往復の外出を三つの方法に分けて考えてみよう。

最初は、8往復のうち6往復を自治体の乗合交通で済ませ、普通タクシーを使うのは2往復だけという生活である。次は4往復ずつを乗合交通と普通タクシーに分ける。最後は、時間や行き先の自由度を優先し、8往復すべてを普通タクシーで移動する場合である。

いすみ市では市民乗合タクシーを1回300円、勝浦市では運転経歴証明書を持つ人のデマンドタクシーを1回200円として計算する。普通タクシーは両市とも片道2,300円とする。

さらに、75歳で返納したという今回の設定では、いすみ市の福祉タクシー助成と勝浦市の高齢者タクシー助成を利用できる可能性があるため、その最大額も差し引く。

いすみ市では、自主的に運転免許を返納した満75歳以上で運転経歴証明書などを持つ人は福祉タクシー事業の対象となり、タクシー1回につき1,500円を上限として、年間最大24シートの利用券が交付される。年度初めから最大限利用できるなら、一年間では最大3万6,000円相当になる。

勝浦市では、自主返納した75歳以上の人などを対象として1枚400円の高齢者タクシー利用券が交付され、6月30日までの申請なら24枚、年間最大9,600円相当になる。

これらの制度が現在と同じ内容で10年間続き、毎年最大限利用できるという仮定を置くと、次のようになる。

10年間の利用モデル いすみ市 勝浦市
6往復を乗合交通、2往復を普通タクシー 約117万6,000円 約129万6,000円
4往復を乗合交通、4往復を普通タクシー 約213万6,000円 約230万4,000円
月8往復を普通タクシー中心で移動 約405万6,000円 約432万円

ここで見るべきなのは、いすみ市と勝浦市の数十万円の差ではない。

同じ市に住み、同じ月8回の外出をしていても、自治体の乗合交通をどこまで利用できるかによって、10年間の支出が300万円近く変わり得るという点である。

免許返納後の生活費を決めるのは、自治体名だけではない。

自宅が乗合交通を利用しやすい場所にあるか。病院やスーパーがその交通網の中にあるか。そして予約時間に自分の生活を合わせられるか。

同じいすみ市、同じ勝浦市でも、この条件によって老後の移動費は大きく変わる。

75歳で返納したモデルでは、いすみ市の助成効果が大きい

今回のシミュレーションでは75歳で免許を返納した設定にしたため、いすみ市では福祉タクシー助成を計算に入れている。

自主返納した満75歳以上で所定の証明書を持つ人なら、一回1,500円を上限とする利用券を年間最大24シート利用できる。最大限使えば年間3万6,000円、現在と同じ制度が10年間続けば累計36万円に相当する。

さらに、75歳以上なら市内バス無料パスポートの対象となり、65歳以上でも運転経歴証明書を持つ免許返納者なら同じ制度を利用できる。

ただし、これは「助成を受けるために75歳まで運転を続けた方が得」という意味ではない。

運転を続けられるかどうかは、制度上の年齢よりも本人の認知機能、視力、身体能力、運転技能、安全性によって判断すべき問題である。この記事では両市の制度を比較しやすくするため、75歳で返納するモデルを採用しているにすぎない。

この区別をしたうえで見ると興味深いことが分かる。

車を持っている間、「バスが無料になる」「タクシー券がもらえる」という制度は家計にほとんど存在感を持たない。しかし車を手放した瞬間、それまで利用価値を感じなかった地域交通制度が、一年間の生活費を左右する重要な資産へと変わるのである。

いすみ市では公共ライドシェアも広がり始めている

そして2026年のいすみ市では、もう一つ新しい動きがある。

旧夷隅町地域では以前から、自家用車を活用した自家用有償旅客運送が行われていたが、タクシー事業者の営業終了や休止によって交通空白地域となっていた岬地域でも、2026年4月から公共ライドシェアの運行が始まった。いすみ市の地域公共交通計画でも、旧夷隅町地域に続いて旧岬町地域へ運送サービスが拡大されたことが確認できる。

この制度は、今回の三つの基本シミュレーションには加えていない。

理由は、地域や利用条件によって使える交通手段が異なり、市民乗合タクシーと同じ条件で一律に比較することが難しいからである。

しかし、制度の存在そのものは重要である。

公共ライドシェアが拡大した背景には、「新しい便利なサービスを増やした」という面だけではなく、既存のタクシー事業者が営業を終了・休止し、地域の交通供給に空白が生まれたという事情がある。

これは免許返納後の生活を考えるうえで、別の問題を浮かび上がらせる。

将来必要になるのは、単にタクシー料金を払えるだけのお金ではない。

その地域に、そもそも人を運んでくれる仕組みが残っていることなのである。

勝浦市では「200円で移動できる場所に住んでいるか」が大きい

勝浦市では、運転経歴証明書を持つ免許返納者ならデマンドタクシーを1回200円で利用できる。往復しても400円である。

この記事の普通タクシーのモデルでは5キロメートル往復を4,600円としているから、同じような生活目的の移動がデマンドタクシーで成立するなら、交通費には大きな差が生まれる。

75歳以上の自主返納者については、高齢者タクシー利用券もあり、6月30日までに申請すれば400円券が24枚交付される。

さらに勝浦市では2026年度から、総野地区の一部と勝浦市街地を住民ドライバーの自家用車で結ぶ「ノッカルかつうら」の有償実証運行も始まっている。蟹田・松野・中倉からは片道500円、市野川・花里からは700円で、水曜日から金曜日まで運行されている。

ただし、ここでも重要なのは、勝浦市民なら誰でも同じ交通条件になるわけではないことである。

デマンドタクシーにも区域があり、「ノッカルかつうら」にも対象地域がある。

つまり、勝浦市における免許返納後の暮らしは、市役所から何キロ離れているかよりも、自宅がどの交通網に接続しているかによって大きく変わる。

行政上は同じ勝浦市でも、老後の移動という観点から見れば、まったく違う町に住んでいるような差が生じる可能性がある。

普通タクシー中心になると10年間で400万円を超える

先ほどの表に戻ると、最も目を引くのは400万円という数字だろう。

月8回外出するだけである。

週に直せば、おおむね2回にすぎない。買い物へ行き、病院へ行けば、それで一週間の外出回数をほぼ使い切ってしまう程度の生活である。

それでも普通タクシーを中心に片道5キロメートル移動すると、現在の運賃と現在の助成制度を10年間固定したモデルでは、いすみ市で約405万6,000円、勝浦市で約432万円になる。

ここで注意したいのは、この400万円を「免許返納すると必ず必要になる費用」と読んではいけないことである。

反対に、「そんなにタクシーを使う人はいない」と切り捨てるのも違う。

この数字が示しているのは、自家用車で行っていた移動を、そのまま普通タクシーに置き換えると、地方では非常に大きな費用になる可能性があるということである。

だからこそ、免許返納後の家計では「タクシーを安く使う方法」を探すだけでなく、普通タクシーを使わなくても済む場所に住んでいること自体が大きな経済価値になる。

それでも「車を持ち続けた方が安い」とは簡単には言えない

400万円という数字を見ると、車を持ち続けた方が安いのではないかと思えてくる。

しかし、そこには一つの錯覚がある。

自家用車の移動費を考えるとき、多くの人はガソリン代を思い浮かべる。5キロメートル走ったとしても、運転するたびに財布から2,300円が消えるわけではないからである。

だが車には、車両購入費や減価、任意保険、自動車税、車検、整備、タイヤ、バッテリー、燃料などが必要になる。

免許返納とは、それまで存在しなかった移動費が突然現れる出来事ではない。

それまで「自動車を所有する費用」としてまとめて支払っていたものが、返納後には「一回移動するごとの費用」として目に見えるようになるのである。

したがって合理的な比較は、「タクシー代400万円は高い」というものではない。

今後10年間自動車を所有し続ける総費用と、自動車を手放してバス、乗合交通、普通タクシーを利用する総費用を比較することである。

さらにそこには、金額だけでは測れない交通事故の危険性も加わる。

経済的に少し有利だからという理由だけで運転を続けるという結論にはならない。

10年間なら「今の料金が続く」と考えない方がよい

ここまでは2026年時点の運賃と助成制度を10年間固定して計算してきた。

しかし、現実には2036年まで同じ料金である保証はない。

実際、千葉地区のタクシー運賃は2026年3月16日に改定されたばかりであり、今後も人件費、燃料費、事業者数などによって料金が変わる可能性がある。

そこで、交通運賃だけが毎年2%ずつ上昇し、自治体から受けられる助成額は現在の金額のまま10年間変わらないという、もう少し厳しい条件を置いてみる。

この2%は将来の物価上昇率を予測した数字ではない。10年間の資金計画に価格上昇への余裕を持たせるための試算条件である。

この条件で再計算すると、10年間の移動費は次のようになる。

10年間の利用モデル いすみ市 勝浦市
6往復を乗合交通、2往復を普通タクシー 約132万円 約143万円
4往復を乗合交通、4往復を普通タクシー 約237万円 約253万円
月8往復を普通タクシー中心で移動 約448万円 約474万円

ここでは助成券まで毎年2%増えるとは考えず、いすみ市の年間最大3万6,000円、勝浦市の年間最大9,600円は現在額のまま固定している。

そのため、物価が上がるほど自治体助成が移動費全体をカバーする割合は徐々に小さくなる。

10年間という期間を考えると、この違いは無視できない。

「150万円・250万円・500万円」は平均値ではない

ここまでの試算から、いくつかの金額が見えてくる。

しかし、「免許返納後には150万円あればよい」「普通なら250万円必要」「地方では500万円かかる」と一般化するのは適切ではない。

今回の数字はすべて、月8往復、普通タクシーを利用するときは片道5キロメートル、75歳で返納し、現在の自治体助成を利用できるという条件を置いたシミュレーションである。

そのうえで言えるのは、今回設定したモデルでは、乗合交通をかなり利用できる住宅なら10年間で130万~150万円程度、乗合交通と普通タクシーを半分程度ずつ使うなら240万~250万円程度、普通タクシーへの依存が大きければ450万~500万円近くまで移動資金が膨らむ可能性がある、ということである。

本当に必要な金額は、自宅の位置、病院までの距離、買い物頻度、家族による送迎の有無、交通制度、健康状態によって大きく変わる。

だから、この数字を答えとして使うより、自分の生活条件を当てはめるための物差しとして使う方がよい。

本当に怖いのは「高いこと」ではなく、「お金を払っても車がないこと」かもしれない

そして、外房の免許返納問題を家計だけで終わらせると、もっと重要な問題を見落とす。

500万円を用意しておけば必ず移動できるわけではない。

いすみ市の市民乗合タクシーは原則として平日の運行であり、事前予約が必要で、予約状況によっては希望した便を利用できない場合もある。

勝浦市のデマンドタクシーにも運行区域と時刻があり、「ノッカルかつうら」にも対象地域と運行曜日がある。

病院の定期診察なら交通機関に合わせて予約できるかもしれない。

しかし、突然歯が痛くなる日まで交通機関に合わせてはくれない。冷蔵庫が空になる日も、家族が急に入院する日もある。

公共交通には、「いくら払えば乗れるか」という価格の問題と、「その時間、その場所に移動手段が存在するか」という供給の問題がある。

人口が少なくなる地域では、後者の方が深刻になる可能性がある。

いすみ市で公共ライドシェアが拡大された背景にタクシー事業者の営業終了や休止があったという事実は、その問題を象徴している。

地方の免許返納問題とは、交通費の問題であると同時に、交通そのものが地域に残るかという問題なのである。

老後の家選びでは「駅まで何分」より返納後の交通を考える

ここから逆算すると、住宅の価値についても別の見方ができる。

65歳で自動車を運転しているときには、スーパーまで5キロメートルでも10キロメートルでも、大きな違いには感じないかもしれない。

しかし75歳で免許を返し、その家で85歳まで暮らすと考えれば、その数キロメートルが100万円、200万円という差へ変わることがある。

駅まで歩ける家、バス停に近い家、乗合交通の対象区域にある家、病院とスーパーを一度の外出で回れる家。

こうした住宅には、土地や建物の販売価格には表示されない経済的価値がある。

反対に、眺望がよく、敷地が広く、静かで価格の安い住宅でも、生活施設から離れ、代替交通を利用しにくければ、購入時に節約した金額を免許返納後の交通費が少しずつ食べていく可能性がある。

仮に50万円安く家を買えても、返納後の交通費が毎年10万円多くかかれば、5年間でその差は消える。

地方の中古住宅を見るとき、「この家はいくらで買えるのか」だけを見るのでは足りない。

80歳になった自分が、この玄関からどうやって病院へ行くのか。

そこまで考えて初めて、その家の本当の価格が見えてくる。

免許返納とは、10年間の交通手段を組み替えることである

自動車は不思議な道具である。

持っている間、人は移動の自由をそれほど意識しない。

朝になって病院へ行こうと思えば行ける。午後に買い忘れに気づけば、もう一度スーパーへ出掛けられる。雨が降っていても、荷物が重くても、予定をそれほど変えずに済む。

免許返納によって失われるものは、自動車という機械だけではない。

「思いついたときに移動できる自由」である。

その自由を普通タクシーだけで買い戻そうとすると、今回のモデルでは10年間で400万円を超え、運賃が毎年2%上がる条件なら500万円近くに達する可能性がある。

しかし、乗合交通やバスを生活の中に組み込めれば、同じ月8回の外出でも100万円台に収まる可能性がある。

つまり、免許返納後の移動費には一つの正解はない。

同じいすみ市でも、同じ勝浦市でも、家の場所と交通手段の組み合わせによって結果はまるで違う。

だからこそ、免許返納を考える人にとって最も有効な準備は、75歳になって突然タクシー料金を調べることではない。

まだ自分で運転できるうちに、一度、自動車を使わず生活してみることである。

自宅からバス停まで歩き、時刻表を調べ、乗合タクシーを予約する。スーパーへ行き、買った荷物を持って帰る。病院へ公共交通だけで行き、玄関を出てから帰宅するまで何時間かかるのかを測ってみる。

その一日には、10年後の暮らしがかなり正確に映っている。

免許を返す日とは、突然「車のない老後」が始まる日ではない。

本当は、その何年も前から準備できる。

自分の住んでいる家から、車なしでどこまで行けるのか。月に何回移動するのか。そのために10年間でいくら必要になるのか。そして、その交通手段は10年後にも地域に残っているのか。

地方で老後を暮らすということは、家を所有することだけではない。

その家から、年を取っても外へ出られる可能性まで含めて暮らしを選ぶことなのである。

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はじめに

「地方の持ち家で、何歳まで暮らし続けられるのか」

地方に住む高齢者や、都市部から地方への移住を考える人にとって、これは重要な問題です。

一般には、健康であれば80歳でも90歳でも自宅で暮らせる、介護が必要になったら施設へ移る、といった説明がされます。しかし、実際の暮らしは、それほど単純ではありません。

地方では、自宅の中で食事や着替えができるだけでは、生活は成立しません。

食料品を買い、病院へ通い、薬を受け取り、家屋や庭を管理し、行政や金融の手続きを行い、災害時には自力で避難する必要があります。これらの多くが、自動車や家族の支援に依存しています。

反対に、身体機能が低下しても、宅配、訪問診療、介護サービス、家族送迎、住宅改修などが利用できれば、自宅生活を続けられる場合があります。

したがって、「何歳まで暮らせるか」という問いを、年齢だけで答えることはできません。

本記事では、厚生労働省、内閣府、総務省統計局、国土交通省、農林水産省などの公的資料を基に、地方での自宅生活が成立する条件と、生活の限界点を客観的に整理します。


最初に結論

地方の高齢者が自宅で暮らせる年齢に、全国共通の上限はありません。

70代で自宅生活が難しくなる人もいれば、90歳を超えて生活できる人もいます。

ただし、これは単なる個人差ではありません。

自宅生活の継続可能性は、概念的には次のように考えられます。

自宅生活の継続可能性 =身体・認知機能 +移動手段 +医療・介護へのアクセス +買い物手段 +住宅の安全性 +住宅管理能力 +家族・地域による支援 +費用負担能力

このうち、一つが失われても直ちに生活不能になるとは限りません。

しかし、複数の条件が同時に失われると、自宅生活は急速に不安定になります。

特に地方では、

  • 自動車を運転できなくなる
  • 配偶者が入院または死亡する
  • 通院先が遠くなる
  • 買い物を代替する手段がない
  • 家や庭を管理できなくなる

といった変化が重なることが、生活の限界点になりやすいと考えられます。

したがって、住み替えや支援導入を考える時期は、特定の年齢ではなく、生活に必要な機能を自分または外部サービスで維持できなくなった時点です。


1.平均寿命は「自立して暮らせる年齢」ではない

2024年の日本人の平均寿命は、男性81.09年、女性87.13年です。

また、65歳時点の平均余命は、男性19.47年、女性24.38年です。単純に加えると、65歳の男性は平均的に84歳台、女性は89歳台まで生きる計算になります。80歳時点でも、男性は平均8.96年、女性は11.83年の余命があります。

しかし、平均寿命や平均余命は、自宅で自立して生活できる期間を示すものではありません。

厚生労働省が示す健康寿命は、「健康上の問題で日常生活が制限されることなく生活できる期間の平均」です。

2022年の健康寿命は男性72.57年、女性75.45年でした。同年の平均寿命との差は、男性約8.5年、女性約11.6年です。これは、その期間の全てで介護が必要という意味ではありませんが、健康上の制限を抱えて生活する期間が相当程度存在することを示します。

ここから確認できるのは、次の点です。

長生きできる年齢と、支援なしで暮らせる年齢は一致しない。

ただし、健康寿命を超えた時点で自宅生活が不可能になるわけでもありません。

健康上の制限があっても、住環境、家族、医療、介護、移動手段が整えば、自宅生活を続けられます。


2.80歳前後から生活条件の再点検が必要になる理由

年齢だけで判断すべきではありませんが、加齢によって介護や支援を必要とする可能性が上がることは、統計上確認できます。

厚生労働省の資料では、75歳以上全体の要介護・要支援認定率は31.0%、85歳以上では57.7%とされています。つまり、85歳以上では半数を超える人が、何らかの介護保険上の認定を受けています。

ただし、要支援・要介護認定を受けた人が、全員施設へ入るわけではありません。

要支援や比較的軽度の要介護であれば、訪問介護、通所介護、福祉用具、住宅改修などを利用して自宅で暮らすことは可能です。

一方、地方では介護認定の有無だけでは判断できません。

自宅の周囲に介護事業者が存在するか、必要な曜日や時間に利用できるか、職員不足による利用制限がないかも重要です。

したがって、年齢について現実的に表現するならば、次のようになります。

  • 65~74歳は、将来の生活設計を始める時期
  • 75~79歳は、運転・通院・住宅管理の再点検を行う時期
  • 80~84歳は、代替手段を実際に導入する時期
  • 85歳以上は、単独生活を前提とせず、支援体制を定期的に確認する時期

これは医学的な境界ではなく、生活上の準備時期の目安です。

「80歳だから住めない」のではなく、80歳前後から複数の生活機能が同時に低下する可能性を考え、事前に代替策を用意する必要があります。


3.地方では自動車が生活機能の一部になっている

地方の高齢者の自宅生活を考えるとき、最も大きな要素の一つが自動車です。

国土交通省の全国都市交通特性調査では、60代、70代とも、三大都市圏より地方都市圏の方が、自動車の運転または同乗による移動の割合が高いとされています。

地方では、自動車は単なる移動手段ではありません。

  • 食料品を買う
  • 病院へ通う
  • 薬局へ行く
  • 金融機関へ行く
  • ごみを搬出する
  • 家族を送迎する
  • 地域活動に参加する

といった生活を維持する基盤になっています。

そのため、免許返納によって交通事故のリスクが下がっても、代替交通がなければ、通院や買い物が困難になる可能性があります。

警察庁の統計では、2024年の運転免許自主返納件数は全国で約42万8千件でした。自主返納は広く行われていますが、この数字だけでは、返納後の生活が維持できているかまでは分かりません。

重要なのは、「何歳で返納するか」ではなく、次の二つを同時に評価することです。

  1. 運転を続ける事故リスク
  2. 運転をやめる生活喪失リスク

地方で安全な代替手段が存在しない場合、免許返納が通院中断、買い物回数の減少、社会的孤立につながる可能性があります。

したがって、自宅生活を続けるには、返納前に次を確認する必要があります。

  • 路線バスや鉄道の停留所まで歩けるか
  • デマンド交通が自宅付近まで来るか
  • タクシーを継続利用できる所得があるか
  • 家族送迎が定期的に可能か
  • 病院送迎や介護タクシーを利用できるか
  • 食品や日用品の宅配が使えるか

これらが確保できない場合、運転停止が自宅生活の限界点になることがあります。


4.買い物は店舗までの距離だけでは判断できない

地方では、近隣の商店が閉店し、郊外の大型店へ買い物が集中している地域があります。

農林水産省は、食料品店まで直線距離で500メートル以上あり、かつ自動車を利用できない65歳以上の人を「食料品アクセス困難人口」として推計しています。

2020年の食料品アクセス困難人口は全国で904万人、65歳以上人口の25.6%でした。75歳以上では566万人、75歳以上人口の31.0%に相当します。

この数字は、地方の高齢者の全てが買い物に困っているという意味ではありません。

また、都市部でも店舗までの距離、坂道、荷物の運搬、身体機能によって買い物が困難になるため、地方だけの問題でもありません。

一方、地方では店舗密度が低く、公共交通の本数も少ないため、自動車を失った際の影響が大きくなりやすいと考えられます。

買い物能力を判断する際には、次の三段階に分ける必要があります。

第1段階~店舗へ行けるか

  • 歩ける距離か
  • 自動車を使えるか
  • バスの時間が合うか
  • タクシー代を払えるか

第2段階~商品を持ち帰れるか

店舗まで行けても、米、飲料、洗剤、灯油などを持ち帰れなければ、生活は成立しません。

第3段階~代替サービスを利用できるか

  • ネットスーパー
  • 生協などの宅配
  • 移動販売
  • 家族による購入
  • 買い物代行
  • 配食サービス

地域にサービスが存在しても、配送地域、最低注文額、配送料、注文方法などが利用者に合わなければ、実際には使えません。

したがって、「スーパーまで何キロメートルか」だけでは不十分です。

食料を選び、注文し、支払い、受け取って、室内まで運べるか

まで確認して、初めて買い物能力を評価できます。


5.通院できることと、必要な医療を受けられることは違う

地方では、近隣に診療所があっても、必要な診療科や検査を受けられるとは限りません。

慢性疾患の定期受診は近隣で可能でも、

  • 循環器内科
  • 整形外科
  • 眼科
  • 耳鼻咽喉科
  • 泌尿器科
  • 脳神経外科
  • がん治療
  • 高度画像検査

などは、遠方の病院へ行かなければならない場合があります。

高齢になるほど、受診する診療科が増え、複数の医療機関へ通う可能性も高まります。

通院可能性は、単に病院までの距離ではなく、次の要素で決まります。

通院負担 =自宅からの移動時間 +待ち時間 +診療時間 +薬局での待ち時間 +付き添う家族の時間 +交通費

例えば、診療時間が15分でも、往復移動と待ち時間を含めれば半日を要することがあります。

本人が運転できなくなった後、家族が毎月複数回の送迎を続けられるとは限りません。

また、訪問診療があっても、全ての治療や検査を自宅で受けられるわけではありません。急変時の入院先、夜間休日の対応、訪問看護、薬局との連携も必要です。

したがって、自宅生活を判断する際には、

  • かかりつけ医がいるか
  • 定期受診先まで移動できるか
  • 緊急時に搬送を受け入れる病院があるか
  • 訪問診療・訪問看護が利用できるか
  • 家族以外の通院支援があるか

を一体として確認する必要があります。


6.持ち家であっても、住居費はゼロではない

地方の高齢者は、持ち家に住んでいる割合が高い傾向があります。

2023年の住宅・土地統計調査では、高齢者のいる世帯の81.6%が持ち家に居住しています。高齢者夫婦のみの世帯では87.6%です。

持ち家は家賃負担がないという利点があります。

しかし、住宅ローンを完済していても、次の費用は残ります。

  • 固定資産税
  • 火災保険・地震保険
  • 屋根や外壁の修繕
  • 給湯器や水回りの交換
  • 浄化槽の維持管理
  • 庭木の剪定
  • 草刈り
  • 害虫・シロアリ対策
  • 台風や豪雨後の補修
  • 不用品や家財の処分

若い時には自分で行えた作業も、高齢になると外注する必要があります。

つまり、加齢によって住宅管理費が増える可能性があります。

広い戸建て住宅では、居住に使用する部屋が少なくなっても、屋根、外壁、敷地、排水設備などの管理対象は減りません。

そのため、地方の持ち家は、

住宅ローンが終われば負担がなくなる資産

ではなく、

管理能力と修繕費を必要とする生活設備

として考える必要があります。


7.住宅の中にも生活の限界点がある

2023年の住宅・土地統計調査では、高齢者等のための設備がある住宅は、住宅全体の56.0%でした。

一方、個別に見ると、

  • 手すりがある住宅は44.0%
  • 段差のない屋内は22.3%
  • 廊下などが車いすで通行可能な住宅は16.8%
  • 道路から玄関まで車いすで通行可能な住宅は13.4%

にとどまります。

これらは全国値であり、地方住宅だけの数字ではありません。

しかし、地方では築年数の古い戸建て住宅、広い敷地、玄関までの段差、屋外階段、和室中心の間取りなどが、自宅生活の継続を難しくする場合があります。

住宅の問題は、転倒してから初めて表面化することがあります。

確認すべき場所は次のとおりです。

  • 玄関までの通路
  • 玄関の上がり框
  • 廊下と部屋の段差
  • 階段
  • トイレ
  • 浴槽
  • 寝室からトイレまでの距離
  • 夜間照明
  • 屋外の坂道や砂利
  • 車いすや歩行器の通行幅

住宅改修によって対応できる場合もあります。

ただし、構造上改修が難しい住宅や、改修費が大きくなる住宅もあります。

さらに、家の中を安全にしても、玄関から道路まで出られなければ外出はできません。

したがって、バリアフリー化は室内だけでなく、

寝室からトイレ、浴室、玄関、道路、送迎車までの連続した動線

として確認する必要があります。


8.夫婦二人なら安心とは限らない

内閣府の高齢社会白書によると、2023年には65歳以上の人がいる世帯が全世帯の49.5%を占めています。

その中では、夫婦のみの世帯と単独世帯がそれぞれ約3割を占めています。65歳以上の一人暮らしの割合も増加しており、2020年には男性15.0%、女性22.1%でした。

地方の高齢夫婦世帯では、一方に生活機能が集中している場合があります。

例えば、

  • 夫だけが運転する
  • 妻だけが料理や服薬管理をする
  • 夫だけが家屋修繕を手配する
  • 妻だけが家計や行政手続きを管理する

という状態です。

この場合、二人ともある程度健康であっても、一方が入院すると生活全体が止まることがあります。

夫婦二人暮らしを評価するときは、世帯人数ではなく、機能の重複性を見る必要があります。

生活機能 夫だけ可能 妻だけ可能 両方可能 外部代替あり
自動車運転
買い物
調理
服薬管理
通院手配
家計管理
住宅修繕の依頼
行政手続き

一つの機能を一人しか担えず、外部代替もない場合、その人の病気や死亡が自宅生活の限界点になります。


9.地方の自宅生活が崩れる典型的な経路

地方での自宅生活は、突然完全に不可能になるとは限りません。

多くの場合、小さな不便が重なり、徐々に不安定になります。

第1段階~負担が増える

  • 長距離運転を避ける
  • 重い物を買わなくなる
  • 庭の管理が遅れる
  • 2階を使わなくなる
  • 通院回数を減らす

この段階では、本人は「まだ暮らせる」と感じることがあります。

第2段階~生活の縮小が始まる

  • 食事内容が単調になる
  • 外出が減る
  • 受診を先延ばしにする
  • 掃除できない部屋が増える
  • 修繕を放置する
  • 人との交流が減る

暮らしてはいますが、生活の質と安全性が低下しています。

第3段階~家族への依存が固定化する

  • 毎週の買い物を家族に頼む
  • 通院ごとに送迎を頼む
  • 行政手続きを代行してもらう
  • 草刈りや修繕を家族が行う

家族が近隣に住み、継続的に支援できれば成立する場合があります。

しかし、支援する家族が就労していたり、遠方に住んでいたりすれば、長期継続は難しくなります。

第4段階~一つの事故や入院で生活が止まる

  • 転倒
  • 骨折
  • 配偶者の入院
  • 認知機能の低下
  • 自動車事故
  • 給湯器や水道の故障
  • 台風による住宅被害

この段階で、これまで見えなかった生活の脆弱性が表面化します。


10.自宅生活の限界点を判断する基準

年齢ではなく、次の項目で判断する方が現実的です。

移動

  • 安全に運転できる
  • 運転しなくても代替交通がある
  • 玄関から送迎車まで移動できる
  • 月に必要な通院回数を維持できる

買い物と食事

  • 食品を定期的に確保できる
  • 重い商品も入手できる
  • 調理または配食利用ができる
  • 注文、支払い、受取ができる

医療

  • 定期受診を中断していない
  • 服薬管理ができる
  • 急変時の連絡先がある
  • 入院後の退院先を確保できる

住宅

  • 転倒しにくい
  • トイレと浴室を安全に使える
  • 冷暖房を適切に使える
  • 修繕を発見し、業者へ依頼できる
  • 草刈りや庭木管理を外注できる

認知・判断

  • 金銭管理ができる
  • 契約内容を理解できる
  • 訪問販売や詐欺を判断できる
  • 火気、戸締まり、服薬を管理できる

支援

  • 家族が無理なく支援できる
  • 介護サービスが実際に利用できる
  • 緊急時に連絡できる人がいる
  • 家族以外の支援者がいる

これらのうち複数が「できない」「代替がない」となった場合、自宅生活の再設計が必要です。


11.自宅を離れる前に検討できる対策

自宅生活が不安定になっても、すぐに施設入所だけが選択肢になるわけではありません。

住宅を小さく使う

  • 生活を1階に集約する
  • 使用しない部屋を閉鎖する
  • 寝室をトイレの近くへ移す
  • 段差と敷物を減らす

移動を代替する

  • デマンド交通へ登録する
  • タクシー費用を年間で予算化する
  • 通院先を可能な範囲で集約する
  • オンライン診療の適用可能性を確認する

買い物を代替する

  • 宅配を元気なうちに試す
  • 定期配送を利用する
  • 移動販売の曜日を確認する
  • 家族と購入品リストを共有する

住宅管理を外注する

  • 草刈り
  • 庭木管理
  • 定期点検
  • 雨どい清掃
  • 不用品処分
  • 台風後の確認

ただし、外注には継続的な費用が必要です。

自宅に住み続ける費用と、より小さな住宅や高齢者向け住宅へ移る費用を比較する必要があります。


12.住み替えを検討すべき状態

次のような状態が複数重なった場合、住み替えを具体的に検討すべきです。

  • 本人も配偶者も運転できない
  • 日常の買い物を家族だけに依存している
  • 通院を延期または中断している
  • 転倒が繰り返されている
  • 2階、浴室、玄関が使いにくい
  • 住宅修繕を放置している
  • 庭や敷地が管理できない
  • 金銭・契約管理に不安がある
  • 緊急時に来られる人がいない
  • 家族の送迎や管理負担が限界に近い
  • 介護サービスが地域で確保できない

重要なのは、重大事故が起きてから動くのではなく、判断能力と体力が残っている段階で選択肢を比較することです。

住み替えには、

  • 自宅の売却
  • 賃貸住宅への転居
  • 高齢者向け住宅
  • 子どもの近隣への転居
  • 医療機関や商店に近い地域への転居

などがあります。

地方から都市へ移ることだけが住み替えではありません。

同じ市町村内でも、郊外の戸建てから中心部の小規模住宅へ移ることで、生活が維持しやすくなる場合があります。


13.「住み慣れた家」が常に最善とは限らない

住み慣れた自宅には、心理的な安心、近隣関係、思い出、所有権などの利点があります。

一方、自宅に住み続けることが目的化すると、

  • 通院できない
  • 買い物できない
  • 家の一部しか使えない
  • 家族が疲弊する
  • 災害時に避難できない

という状態でも、転居を避け続ける可能性があります。

本来の目的は「自宅に残ること」ではなく、本人の安全、生活の質、意思決定の尊重を維持することです。

住み続けることと、暮らし続けられることは同じではありません。


14.地方自治体に必要な情報

高齢者へ「早めに免許を返納しましょう」「住み慣れた地域で暮らしましょう」と呼びかけるだけでは不十分です。

自治体は地区ごとに、少なくとも次を示す必要があります。

  • 商店までの移動手段
  • 医療機関までの交通
  • デマンド交通の利用条件
  • タクシー助成
  • 移動販売
  • 宅配対応地域
  • 訪問診療・訪問看護の提供地域
  • 草刈りや住宅管理サービス
  • 緊急通報サービス
  • 高齢者向け住宅
  • 住み替え相談
  • 空き家売却・処分相談

サービスの名称だけではなく、料金、利用条件、曜日、予約方法、対応地域まで公開する必要があります。

高齢者の生活可能性は、市町村全体の平均値では判断できません。

同じ自治体でも、中心市街地と郊外、海岸部と山間部、鉄道駅周辺とバスのない地区では条件が異なるからです。


15.現実的な結論

地方の高齢者が何歳まで自宅で暮らせるかについて、一律の年齢を示すことはできません。

平均寿命、健康寿命、要介護認定率は、将来のリスクを把握する材料にはなりますが、個人の退去年齢を決める数字ではありません。

自宅生活の限界点は、多くの場合、身体機能の低下だけでなく、

  • 運転できない
  • 買い物できない
  • 通院できない
  • 家を管理できない
  • 配偶者または家族の支援を失う

という条件が重なったときに現れます。

特に地方では、自動車が複数の生活機能を支えているため、運転停止の影響が大きくなります。

一方で、移動、宅配、医療、介護、住宅管理を外部サービスへ置き換えられる地域では、身体機能が低下しても自宅生活を続けられる可能性があります。

したがって、問いは、

「何歳まで住めるか」

ではなく、

「現在の生活を支えている機能は何か。その機能を失ったとき、何で代替できるか」

へ置き換えるべきです。

自宅生活を続けるためには、元気なうちに、

  1. 運転をやめた後の移動を試す
  2. 宅配や配食を実際に利用する
  3. 住宅の危険箇所を点検する
  4. 修繕・草刈りの外注費を把握する
  5. 配偶者がいない状態を想定する
  6. 住み替え先を比較する

ことが必要です。

地方での自宅生活は、本人の努力だけで維持できるものではありません。

医療、交通、買い物、住宅、家族支援を組み合わせた地域の生活基盤があって初めて成立します。

そして、その基盤が失われた場合には、自宅に残ることよりも、生活を維持できる場所へ移ることが、現実的で安全な選択になる場合があります。


データ利用上の注意

本記事で使用した全国統計は、日本全体の傾向を示すものであり、外房、東総、南房総の各市町村の状況を直接示すものではありません。

また、健康寿命は集団の平均的指標であり、個人が自立して暮らせる年齢を予測するものではありません。

要介護認定率も、サービス利用、自治体の認定状況、年齢構成などの影響を受けます。

地域別の記事を作成する場合は、市町村ごとに、

  • 年齢別人口
  • 要介護認定者数
  • 医療機関
  • 交通網
  • 商業施設
  • 訪問系サービス
  • 高齢者住宅
  • 地区別人口密度

を確認する必要があります。


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