地域分析記事

地域の暮らしと地域課題を数学とデータで考える

冷蔵庫が壊れた朝

 朝、冷蔵庫を開けると、いつもの冷気がない。庫内灯はついているのに、昨日まで聞こえていた低いモーター音が消え、牛乳に触れるとどことなくぬるく、冷凍庫の氷も角が丸くなり始めている。インターネットを日常的に使う人なら、その場でスマートフォンを取り出して型番を調べ、故障の可能性を検索し、修理を頼むか新しい冷蔵庫を注文するところまで進めるかもしれないが、1人暮らしの80歳にとって、話はそれほど簡単ではない。

 以前なら、町の電器店に電話をすればよかった。「冷蔵庫がおかしいんだけど」と言えば、店の人は家の場所も、そこに置かれている冷蔵庫のおおよその年数さえ覚えていて、「午後に見に行きますよ」と答えてくれた。修理できるなら直し、寿命なら買い替えを相談し、古い冷蔵庫を運び出して新しいものを設置し、使い方まで説明して帰っていく。客が買っていたのは冷蔵庫という機械だけではなく、故障した時には誰かが来てくれるという安心まで含めた生活の仕組みだったのである。

 ところが、その町で最後の電器店が閉じると、冷蔵庫が壊れた瞬間、それまで見えなかった問題が一斉に姿を現す。失われるのは家電を売る場所だけではなく、故障と日常生活の間に立ち、「まず何が起きているのか」を確かめてくれる人なのである。

インターネットで買えることと、困らないことは同じではない

 地方でも、自動車で30分、40分走れば大型の家電量販店がある地域は少なくなく、インターネットを利用すれば全国の店から商品を選ぶこともできる。そのため、「町の電器店がなくなっても、家電そのものは買える」と考えれば、問題はすでに解決したようにも見える。しかし、高齢者の暮らしを数字から眺めると、商品が流通していることと、それを誰もが同じように利用できることは別の問題だと分かる。

 総務省統計局の2024年のデータによれば、インターネットを利用して商品やサービスを購入・取引する割合は全体で61.7%だったのに対し、70~74歳では41.1%、75~79歳では27.6%、80歳以上では20.4%まで低下している。80歳以上でもインターネットを使いこなす人は当然いるため、「高齢者はインターネットを使えない」と決めつけることはできないが、少なくとも社会全体と同じ割合でオンライン購入を利用できるわけではないことは、数字から明らかである。

 しかも家電の場合、注文できれば問題が終わるわけではない。壊れた洗濯機をどう確認してもらうのか、テレビが映らない原因が本体なのかアンテナなのかを誰が判断するのか、冷蔵庫が置ける寸法を誰が測り、搬入経路を誰が確認し、古い家電をどう処分するのかという問題が残る。町の電器店が担ってきたのは商品の販売だけではなく、その前後にある数多くの小さな仕事だった。

本当に難しいのは「故障したかどうか分からない」時である

 家電の問題を難しくしているのは、動かなくなったからといって、本当に機械そのものが故障しているとは限らないことである。テレビが映らない原因が入力切替やアンテナケーブルだったり、エアコンが動かない原因がリモコンの電池だったり、洗濯機が停止した理由が排水口の詰まりだったりすることもあり、インターネット接続機能を備えた家電が増えれば、機械ではなく通信設定に原因がある場合も出てくる。

 こうした時、最初に必要なのは高度な修理技術とは限らない。「いつから動かないのか」「何をした時に症状が出るのか」「エラー表示はあるのか」と状況を整理し、故障なのか操作上の問題なのかを切り分けてくれる人である。

 経済産業省が高齢者世帯を対象に行った調査でも、家電に異常があった場合に「自分でチェックする」と答えた割合は前期高齢者で59.2%だったのに対し、後期高齢者では39.5%まで低下している。一方、「懇意にしている街の販売店に連絡する」は21.4%から31.0%へ、「近くに住む家族に連絡する」は5.8%から25.6%へ増えており、年齢が上がるにつれて、家電トラブルを自分だけで処理するよりも、誰かの助けを必要とする割合が高くなる構造が見えてくる。

 最後の電器店がなくなることの意味は、修理業者が1軒減ることだけではない。故障かどうかさえ分からない段階で、「ちょっと見てもらえますか」と頼める相手が、地域から消えてしまうことなのである。

「買い替えればいい」という合理論が成立しない時

 古い家電が壊れた時、修理費が高いのであれば新しいものへ買い替えるという判断そのものは合理的である。しかし、その合理性は、新しい家電を選び、必要な寸法を確認し、注文し、配送と設置を手配し、古い製品を処分し、新しい操作方法を理解できる人を前提としている。

 例えば冷蔵庫を買うだけでも、設置場所の幅や奥行きを測り、玄関や廊下を通過できるかを確認し、扉がどちら側に開く方が使いやすいかを考えなければならない。テレビなら画面の大きさだけではなく、アンテナや録画機器との接続、インターネット設定が関係し、洗濯機なら防水パンや給排水の位置も問題になるため、商品比較表だけを眺めていれば決められるわけではない。

 機械は便利になっているのに、利用する側の負担が必ずしも減っているとは限らない。便利な機能が増えるほど設定項目が増え、以前とは違う操作方法を覚えなければならないこともあるからであり、人が減った地域ほど生活を機械に頼る場面が増える一方、その機械を人間側から支える役割まで減っていくという、少し皮肉な状況が生まれている。

冷蔵庫よりも深刻になる家電がある

 家電故障の中には、多少不便になるだけでは済まず、短期間で健康上の問題へ変わるものがある。最も分かりやすいのが真夏のエアコンである。

 総務省消防庁によれば、2025年5~9月に全国で熱中症によって救急搬送された人は10万510人に達し、そのうち高齢者がおよそ57%を占め、発生場所では住居がおよそ38%と最も多かった。厚生労働省も、故障や停電などによってエアコンが使用できない場合には熱中症の危険が高まるとして注意を呼びかけており、高齢者宅のエアコン故障は、単なる電化製品の不具合として片づけられる問題ではない。

 猛暑日にエアコンが止まり、本人には故障原因が分からず、修理先も知らず、訪問してくれる人も見つからないという条件が重なれば、その家電故障は時間とともに健康上の危険へ変わっていく。冬の給湯器、夏の冷蔵庫、毎日の洗濯を支える洗濯機についても程度の差はあっても同じであり、現代の家電はもはや単なる便利な商品ではなく、住宅の生活基盤の一部になっている。

家族がいれば解決するという前提も崩れていく

 以前なら、近所に息子や娘が住み、家電が壊れた時には様子を見に来てもらえる家庭も多かった。しかし人口移動が続く地域では、子ども世代が都市部や県外で生活していることもあり、電話で「テレビがおかしい」と言われても、遠方からテレビの裏側を見ることはできない。

 高齢者の単身化も進んでいる。内閣府がまとめた統計では、65歳以上人口に占める1人暮らしの割合は2020年時点で男性15.0%、女性22.1%だったが、2050年には男性26.1%、女性29.3%へ上昇すると推計されている。将来推計である以上、実際にその数字どおりになると断定することはできないものの、「家族が近くにいて日常生活を支える」という仕組みだけに依存することが難しくなっていく方向は明確である。

 さらに問題を見えにくくするのは、困っている人が必ずしも助けを求めるとは限らないことである。「こんなことで人を呼ぶのは申し訳ない」と考え、テレビが映らなくなれば見なくなり、電子レンジが壊れれば使わなくなり、エアコンの調子が悪くても我慢してしまうことがある。こうした小さな不便は統計には表れにくいが、1つずつ生活の選択肢を奪い、やがて暮らしそのものを狭くしていく。

店が1軒なくなっただけでは終わらない

 地方の人口減少について語る時、病院の閉鎖、スーパーの撤退、路線バスの廃止などは大きな問題として扱われる。一方、町の電器店が閉じても、その翌日から地域生活全体が止まるわけではないため、その影響は目立ちにくい。

 ところが半年、1年と時間がたつにつれて、その不在はさまざまな家庭で別々の形をとって現れてくる。ある家ではテレビが映らなくなり、別の家ではエアコンが止まり、さらに別の家では照明器具を交換できなくなるというように、1件ずつ見れば小さな出来事でも、地域全体では「誰に聞けばよいのか分からない」という同じ種類の問題が繰り返される。

 人口減少とは、単に住民の人数が減る現象ではない。一定の人口があったからこそ成り立っていた商店やサービスが1つずつ消え、そのたびに暮らしを支えていた小さな接点までなくなっていく現象でもある。町の電器店の閉店は、その変化が最も分かりやすく表れる場所の1つなのである。

解決策は「もう1軒電器店をつくること」だけではない

 では、町に新しい電器店を開けば問題は解決するのかというと、必ずしもそうではない。人口が減少している地域では、家電販売だけで店舗を維持することが難しい場合があり、昔と同じ商売の形をそのまま復活させれば持続するとは限らないからである。

 むしろ重要なのは、電器店という看板そのものではなく、かつて電器店が担っていた機能をどう残すかという発想である。テレビの設定確認やリモコンの操作、型番の確認、インターネット接続、買い替え相談などであれば、すべてを高度な修理技術者が担当する必要はなく、地域の生活支援サービスとして最初の相談を受け、本格的な修理が必要ならメーカーや専門業者へつなぐ仕組みも考えられる。

 ただし、ここには明確な境界線が必要である。家電の分解修理や住宅内の電気設備に関わる作業の中には資格が必要なものがあり、電気工事に該当する作業は電気工事士などの有資格者が担当しなければならない。地域の支援者がすべてを直すのではなく、「自分たちで対応できること」と「専門家へ渡すべきこと」を切り分ける仕組みにすることで、安全性と利便性の両方を保つことができる。

必要なのは「直す人」だけではなく「つないでくれる人」

 高齢化した地域で重要になるのは、必ずしも高度な技術を持つ修理技術者が町内に常駐していることだけではない。電話がつながり、必要なら家まで来て、何が起きているのかを確認し、その場で解決できなければ適切な業者へ連絡してくれる人や窓口が存在することにも大きな意味がある。

 地域包括支援センターは、高齢者の暮らしに関する総合相談を受け、必要な制度や関係機関へつなぐ役割を担っているが、家電修理そのものを行うための機関ではない。したがって、既存の福祉相談機関に修理まで求めるのではなく、社会福祉協議会、地域包括支援センター、自治体、地域の電器店、修理業者、生活支援事業者などが情報を共有し、「家電のことで困った時は、まずどこへ連絡すればよいのか」が住民に分かる仕組みを整える方が現実的だろう。

 考えてみれば、昔の町の電器店も、すべての故障をその場で直していたわけではない。それでも頼りにされたのは、自分で直せない問題であっても、「ではメーカーに聞いてみましょう」「これは修理より買い替えた方がいいですね」と次の行動へつないでくれたからである。

「家まで来てくれる」という価値

 大量の商品を安く販売するという点では、大型量販店やインターネット通販に町の電器店が対抗することは難しい。しかし、高齢社会で価値を持つものが必ずしも商品価格だけだとは限らず、「電話一本で相談できる」「家まで来てくれる」「機械の状態を見てもらえる」「専門業者が必要なら紹介してもらえる」という機能には、別の経済的価値がある。

 全国電機商業組合連合会による高齢者宅への無料点検訪問のように、地域の電器店が高齢者の家庭を訪ねて家電の安全確認を行う取り組みが現在も続けられていることは、この役割が単なる昔ながらの人情ではなく、高齢社会の安全に関係する機能として認識されていることを示している。

 人口の多い都市なら、多くの業者の中からサービスを選ぶことができるが、人口の少ない町では、選択肢が減るだけでなく、相談の入口そのものが消えてしまうことがある。だからこそ、これからの地方では「家電を売る店」をそのまま復活させることだけでなく、訪問料や相談料を受け取りながら生活機器全般の困りごとを確認し、必要に応じて専門家へつなぐような新しい小規模サービスにも可能性がある。

こんな記事もあります。外房のインフラは30年後どこまで残るのか?

最後の電器店が消えた後に残る問い

 商店街から電器店の看板が消える時、多くの人は「また1軒、店が減った」と考えるだろう。しかし、その店が何をしていたのかを細かく見ていけば、失われるものが売り場だけではないことに気づく。

 電話をすると家まで来てくれる人、故障なのか操作ミスなのかを見分けてくれる人、修理するべきか買い替えるべきか相談できる人、新しい家電の使い方を説明してくれる人、そして何より「困った時には、あの人に聞けばいい」と思える存在が地域から消えていくのである。

 地方の高齢化を考える時、病院、交通、買い物といった大きな生活基盤が重要であることに異論はない。しかし、人間の日常は大きな制度だけで成り立っているわけではなく、テレビの入力が変わった、照明がつかない、冷蔵庫が冷えない、エアコンから変な音がするといった、ごく小さな出来事によっても簡単に止まる。

 そこで必要になるのは、昔の電器店をそのまま復活させることではなく、かつて1軒の店が担っていた役割を分け、それを地域の中で再びつなぎ直す仕組みである。例えば自治体や社会福祉協議会、地域包括支援センターなどが修理を直接担当するのではなく、住民が家電の異常について相談できる共通の窓口を用意し、そこから登録された生活支援事業者や地域の電器店などへ連絡する。最初に訪問した担当者は、リモコンの設定、電池切れ、コンセント、ケーブル、エラー表示など資格を必要としない範囲を確認し、それだけで解決できれば、その場で生活を元に戻すことができる。

 そこで機械本体の故障や電気工事の必要性が疑われれば、メーカー修理、家電修理業者、電気工事士など適切な専門家へ引き継ぎ、買い替えが必要になった場合には、設置場所の寸法や搬入経路を確認し、古い製品の処分まで含めて支援する。つまり、町の中に何でも修理できる万能な人を1人つくるのではなく、「相談を受ける人」「最初に見に行く人」「専門的に直す人」を分け、その間を切れないようにつなぐのである。

 そして、この仕組みを善意だけに頼らせてはいけない。電話での簡単な相談は無料としながら、訪問確認には一定の料金を設定し、修理や工事に進んだ場合には専門業者が通常の料金を受け取るという形であれば、利用者にとっても料金の意味が分かりやすく、事業者にとっても継続する理由が生まれる。経済的に訪問料金を負担することが難しい高齢者には、自治体などが一定部分を支援する制度を組み合わせる方法も考えられるが、重要なのは無料サービスを増やすことそのものではなく、「誰が費用を負担すれば、この仕組みが5年、10年と続くのか」という視点を最初から持つことである。

 さらに、本人の同意を前提として、使用している冷蔵庫やエアコン、給湯器などの機種やおおよその購入時期、過去にどのような不具合が起きたのかを簡単に記録しておけば、次に異常が起きた時の判断も速くなる。特に独居高齢者が古いエアコンを使用している場合などには、故障してから電話を待つだけでなく、本格的な暑さが来る前に動作確認を勧めるという予防的な支援へ発展させることもできる。

 ここで重要なのは、新しい巨大な行政組織をつくることではない。すでに地域に存在している自治体、福祉関係者、電器店、家電修理業者、電気工事士、生活支援事業者などを1本の連絡経路で結び、住民の側から見れば「家電のことで困ったら、まずここへ電話すればよい」と分かる入口を1つつくることである。裏側では複数の人や事業者が動いていても、利用する高齢者に複雑な仕組みを理解してもらう必要はない。

 高齢者が増え、1人暮らしが増え、家族が離れて暮らす社会では、小さな故障をすべて「自分で何とかしてください」と個人へ戻すだけでは解決できない場面が増えていく。必要なのは町に昔と同じ電器店をそのまま再現することとは限らないが、かつてその店が自然に担っていた「最初に相談できる相手」と「次の専門家へつないでくれる相手」という機能まで失ってよいわけではない。

 最後の電器店がなくなった町で、高齢者の家電故障を誰が直すのかという問いは、実は家電修理だけの問題ではない。それは、商店が減り、人が減り、家族が離れて暮らすようになった後でも、地域の日常生活を誰が最後のところで支えるのかという問いであり、その答えは「新しい電器店を1軒つくること」だけではなく、「相談する人、見に行く人、直す人を、地域の中でもう一度つなぐこと」にある。

 冷蔵庫が止まった朝、その人が本当に必要としているものは、最新型の冷蔵庫の広告ではない。「まず見に行きますよ」と言ってくれる誰かと、その人の後ろに必要な専門家までつながっている、小さくても切れない仕組みなのである。

地域の課題を、自分の判断に置き換えて考える

弊社では、住まい・車・移住などの大きな選択を、 費用や将来条件をもとに数字で比較し、判断できる形に整理しています。

数字で比較するサービスを見る

 地方で暮らしていると、ガソリンスタンドが生活を支える重要なインフラであることを、日常的に意識する機会はそれほど多くありません。自動車で買い物や通院に出かけ、仕事へ向かい、農業や建設業、配送業などで使用する車両に燃料を入れる。冬には暖房用の灯油を購入する家庭もあり、地域によっては燃料の配送サービスも欠かせません。こうした生活や経済活動は、必要なときに燃料を購入できることを前提として成立しています。

 しかし、人口減少が今後も続き、自動車の燃費改善や電動化が進めば、地方のガソリンスタンドを取り巻く経営環境は大きく変化します。利用者が減り、販売量が減少する一方で、設備の維持費や人件費、安全管理に必要な費用まで同じ割合で減るわけではありません。需要が小さくなっても一定の固定費が必要な事業である以上、地方ほど経営を継続する条件が厳しくなる可能性があります。

 ここで重要なのは、電気自動車が普及すればガソリンスタンドが不要になるという単純な話ではないことです。むしろ、ガソリンや軽油を必要とする車両が一定数残っているにもかかわらず、それらに燃料を供給する店舗が採算の問題から先に撤退してしまう可能性があります。地方の生活環境を2056年までの約30年間という長期で考えるとき、問題の中心になるのは、燃料需要が完全になくなるかどうかではなく、需要が減少する過程で地域の燃料供給体制を維持できるかどうかです。

ガソリンスタンドはすでに30年以上減少している

 日本のガソリンスタンドは、将来になって突然減り始めるわけではありません。資源エネルギー庁の統計によると、全国の給油所数は1994年度末の6万421か所をピークに減少を続け、2023年度末には2万7414か所、2024年度末には2万7009か所となりました。さらに、2026年8月に公表された2025年度末の集計では2万6412か所となり、前年度末から597か所減少しています。

 1994年度末から2025年度末までの31年間で減少した給油所は3万4009か所に達し、減少率は約56.3%となります。全国の給油所数は、最も多かった時期の半分以下にまで縮小したことになります。ただし、これらの数字は法律に基づく登録上の給油所数であり、すべての店舗が通常どおり営業していることや、地域住民が営業時間内に利用できることまで保証するものではありません。

 減少の理由を電気自動車の普及だけに求めることはできません。人口構造の変化、ガソリン車の燃費向上、燃料需要の減少、販売競争の激化、経営者の高齢化、後継者不足、人手不足、設備更新費用の負担など、複数の要因が長期間にわたって影響しています。電気自動車が本格的に普及する以前から給油所数は大幅に減少しており、今後の電動化は、すでに進行している構造変化に新たな要因が加わるものと考えるべきでしょう。

国の予測でもガソリン需要の減少は続く

 給油所数の減少と同時に確認しておきたいのが、国内の燃料需要そのものの変化です。経済産業省が2026年4月に公表した「2026~2030年度石油製品需要見通し」では、国内のガソリン需要は2024年度実績の約4364万キロリットルから、2030年度には約3915万キロリットルへ減少すると予測されています。6年間で約10.3%の減少となり、政府もガソリン需要の縮小が続くと見込んでいます。

 ただし、石油製品の需要がすべて同じ速度で減少するわけではありません。同じ見通しでは、2024年度から2030年度にかけて、軽油の需要は約4.9%、灯油の需要は約23.2%減少するとされています。乗用車の燃料として使われるガソリン、物流や建設機械などに使われる軽油、家庭や事業所で消費される灯油では、需要を決める要因が異なるためです。

 この違いは、地方のガソリンスタンドの将来を考えるうえで重要です。ガソリンの販売量が減少しても、軽油を使用する事業用車両や農業機械などの需要が残る地域では、燃料販売の構成が変わる可能性があります。一方、灯油配送を重要な収益源としている店舗では、暖房設備の電化や住宅性能の改善などによる灯油需要の減少が経営に影響するかもしれません。給油所の存続可能性を判断するには、ガソリンだけでなく、軽油、灯油、その他のサービスを含めた収益構造を確認する必要があります。

 もっとも、これらは全国の需要見通しであり、個別の市町村にそのまま適用できるものではありません。観光地では地域外から訪れる自動車の給油需要があり、農業や物流の比重が高い地域では住民人口だけでは説明できない燃料消費が存在します。全国平均の需要減少率を、そのまま外房の各自治体の需要減少率とみなすことは適切ではありません。

人口減少と燃費改善が重なると需要はどう変わるのか

 地域のガソリン需要を数理的に考える場合、基本になるのは、自動車の利用台数、1台当たりの年間走行距離、燃費、そしてガソリンを消費しない電動走行の割合です。利用台数が減り、走行距離が短くなり、燃費が改善すれば、ガソリンの販売量は減少します。電気自動車の普及やプラグインハイブリッド車の電動走行が増えれば、さらに需要を押し下げる要因となります。

 ここで注意すべきなのは、人口減少と自動車台数の減少を、それぞれ独立した要因として単純に掛け合わせてはいけないことです。人口減少によって自動車の利用台数が減る場合、その影響はすでに車両台数に含まれています。両方を別々の減少要因として計算すると、同じ効果を二重に数えるおそれがあります。また、地方では一人当たりの自動車保有台数が高い地域もあり、人口減少率と自動車台数の減少率が一致するとは限りません。

 仮に、ある地域で現在3000台の自動車が利用され、1台当たり年間1万2000キロメートル走行し、平均燃費が1リットル当たり15キロメートルだとします。この場合、年間のガソリン消費量は240万リットルになります。30年後に利用車両が2000台へ減少し、年間走行距離は変わらず、ガソリンを使用する車両の平均燃費が20キロメートルまで改善し、走行距離全体の30%が電気などによるガソリンを消費しない走行へ移行したと仮定すれば、年間のガソリン需要は84万リットルとなります。

 この仮想例では、自動車の利用台数は約33%の減少ですが、ガソリン需要は65%減少します。もちろん、これは外房の実際の将来予測ではありません。自動車の保有率や走行距離、電動化の進展、平均燃費などの仮定を変えれば、計算結果も大きく変わります。それでも、車両台数の減少に燃費改善や電動化が重なると、地域の人口減少率を上回る速度でガソリン需要が縮小する可能性を示しています。

 反対に、公共交通の縮小によって自動車への依存度が高まれば、人口が減少しても一人当たりの走行距離が増える可能性があります。地方の燃料需要を将来推計するには、人口だけを使った単純な予測では不十分であり、地域の交通環境や産業構造まで考慮する必要があります。

2035年にガソリン車がなくなるわけではない

 政府は2035年までに、乗用車の新車販売に占める電動車の割合を100%にする目標を掲げています。しかし、この電動車には、電気自動車だけでなく、ハイブリッド自動車、プラグインハイブリッド自動車、燃料電池自動車も含まれています。ハイブリッド自動車はガソリンを使用するため、2035年以降にガソリンを使用する乗用車が新車として販売されなくなるという意味ではありません。

 さらに、新車販売の構成が変化しても、道路を走る自動車が直ちにすべて入れ替わるわけではありません。自動車は購入後も長期間使用されるため、過去に販売された車両は2040年代以降も一定数残ると考えられます。また、トラック、農業機械、建設機械、二輪車、発電機などは、それぞれ用途や技術的条件が異なり、乗用車と同じ速度で電動化が進むとは限りません。

 将来の技術進歩によって電池の性能が大幅に向上したり、脱炭素燃料の利用が広がったりする可能性もありますが、30年後の燃料別車両構成を現時点で正確に予測することは困難です。したがって、2056年になっても地方にガソリンや軽油の需要が残る可能性は十分に考えられる一方、その需要が現在の何割になるかを断定することはできません。

 ただし、液体燃料の需要が残ることと、それを販売するガソリンスタンドが存続することは別の問題です。燃料を必要とする人が一定数存在していても、販売量が店舗の経営を維持する水準に達しなければ、民間事業者は営業を継続できなくなる可能性があります。

ガソリンが売れていても店舗が維持できない理由

 ガソリンスタンドの経営では、燃料販売量が減少しても、設備の維持管理費、人件費、光熱費、保険料、安全管理費などが同じ割合で減るわけではありません。特に地下タンクや配管、給油設備には法令に基づく安全対策や点検が必要であり、設備の老朽化が進めば補修や更新の費用も発生します。販売数量の少ない店舗ほど、こうした費用を燃料販売による利益で回収することが難しくなります。

 例えば、ある給油所の年間固定費を1000万円、燃料販売以外の事業から得られる年間の限界利益を100万円、燃料1リットル当たりの限界利益を15円と仮定すると、固定費を回収するためには年間60万リットルの燃料販売が必要になります。これは説明用の仮定であり、実際の給油所の利益率や採算水準を示すものではありませんが、販売量が一定水準を下回ると経営が成立しにくくなる構造を理解するには有効です。

 先ほどの仮想地域で、現在240万リットルの需要を3店舗が均等に分けているとすれば、1店舗当たりの年間販売量は80万リットルです。しかし、30年後の需要が84万リットルまで減少すると、3店舗では1店舗当たり28万リットル、2店舗でも42万リットルにしかならず、仮定した損益分岐点を下回ります。一方、1店舗に需要が集約されれば84万リットルとなり、経営が成立する余地が生まれます。

 もちろん、実際には店舗ごとに立地条件、販売価格、仕入れ条件、設備費用、その他の収益が異なり、需要が均等に配分されるわけでもありません。店舗が閉鎖されれば利用者が地域外へ流出する可能性もあり、残った店舗にすべての需要が移るとは限りません。それでも、燃料需要が減少する過程では、すべての店舗が同じように小さくなるのではなく、撤退と集約が進む可能性があります。

 さらに、経営者の引退や地下タンクなどの設備更新は、店舗の存続を判断する重要な節目となります。日々の営業で一定の利益を得ていても、大規模な設備更新に必要な投資を回収できないと判断すれば、経営者は廃業を選択するかもしれません。そのため、給油所の減少は毎年一定の速度で進むとは限らず、設備更新や事業承継の時期に閉鎖が集中する可能性もあります。

「町に一軒しかない」状態では問題の性質が変わる

 資源エネルギー庁は、市町村内の給油所数が3か所以下である地域を、給油所過疎の重要な対象として扱ってきました。2026年8月に公表された「新たな地域燃料流通に関する研究会」の中間とりまとめでは、さらに、居住地から15キロメートル以内に給油所が存在しない地域を含む市町村も、給油所過疎の対象として明確に位置付けています。

 給油所が3店舗から2店舗になる段階では、住民生活への影響が限定的に見える場合もあります。しかし、2店舗が1店舗になると、地域の燃料供給は特定の事業者に大きく依存することになります。唯一の店舗が設備故障や従業員不足で休業したり、経営者が引退して廃業したりすれば、住民は自治体の外まで燃料を購入しに行かなければならないかもしれません。

 競争環境にも変化が生じます。都市部では複数の給油所から価格やサービスを比較できますが、選択肢が限られる地域では価格競争が弱まりやすくなります。一方、燃料価格が高ければ必ず不当な利益が生じているというわけではありません。販売量が少なく配送費や固定費の負担が大きい地域では、都市部と同じ販売価格では採算が成立しない場合があります。

 この段階になると、給油所は単なる民間の小売店舗ではなく、地域の生活と経済活動を支える基礎的な供給施設としての性格を強めます。利用者が少ないからといって簡単になくせるものではなく、かといって利用者が少ないまま従来の店舗数を維持すれば、事業者の経営負担が大きくなるという難しさがあります。

外房の給油所は現在どのような状況にあるのか

 外房の将来を考えるために、勝浦市、いすみ市、大多喜町、御宿町の状況を確認してみます。2024年6月付で公表された石油販売業界の市町村別資料によると、登録給油所数は、いすみ市が18か所、勝浦市が8か所、大多喜町が6か所、御宿町が3か所で、4市町の合計は35か所でした。

 この時点ですでに御宿町は、市町村内の給油所が3か所以下という基準に該当しています。ただし、これは2024年当時の登録数であり、2026年現在の営業店舗数や営業時間を示したものではありません。また、御宿町内の店舗が減少した場合でも、住民が必ず遠方まで給油に行くとは限りません。町境に近い地区では、勝浦市やいすみ市の給油所を利用できる場合があるためです。

 一方、大多喜町のように山間部を広く抱える地域では、行政区域内に複数の店舗が残っていても、住宅地から最寄りの給油所まで相当な距離がある可能性があります。勝浦市やいすみ市でも、沿岸部と内陸部では道路網や店舗の分布が異なります。そのため、単純に市町村の人口を給油所数で割った数字だけでは、住民の利便性を正しく評価できません。

 御宿町のように比較的面積が小さく、隣接自治体との往来が可能な地域と、大多喜町のように広い山間部を抱える地域では、同じ給油所数でも住民生活への影響が異なります。外房全体の燃料供給を考えるなら、自治体ごとの店舗数だけでなく、店舗の所在地、営業時間、販売する燃料の種類、道路網、実際の移動距離を組み合わせて分析する必要があります。

2050年の外房人口は約44%減少する推計

 外房の燃料需要を長期的に考えるうえで、人口減少は無視できません。国立社会保障・人口問題研究所が2023年に公表した地域別将来推計人口によると、勝浦市、いすみ市、大多喜町、御宿町の2市2町の総人口は、2020年の6万8230人から2050年には3万7912人へ減少すると見込まれています。30年間で約44.4%の減少です。

 自治体別に見ると、いすみ市は3万5544人から2万218人へ、勝浦市は1万6927人から8815人へ、大多喜町は8885人から4498人へ、御宿町は6874人から4381人へ減少する推計です。減少率はそれぞれ約43.1%、47.9%、49.4%、36.3%となり、どの自治体でも大幅な人口減少が予測されています。

 ただし、これは2020年の国勢調査を基準に一定の仮定を置いて算出された将来推計であり、2050年の人口が必ずこの数字になるという意味ではありません。また、2050年の推計をそのまま2056年の人口予測として扱うこともできません。移住や出生、死亡、転出入の状況が変化すれば、実際の人口は推計値から離れる可能性があります。

 それでも、外房の人口規模が今後数十年間で大幅に縮小する可能性を示している点は重要です。地域全体の人口が減れば、自動車の利用者数や燃料購入者数も減少する方向に働きます。一方、観光客の来訪や業務用車両の利用、公共交通の変化などによって、燃料需要が人口と同じ割合で減るとは限りません。

 また、高齢化も給油所の立地を考えるうえで重要な要因です。自動車を運転できる高齢者であっても、遠方への運転や夜間の移動が負担になる場合があります。人口が少なくなるだけでなく、長距離移動が難しい住民の割合が高まる地域では、給油所までの距離が生活上の問題として一層重要になる可能性があります。

ガソリンスタンドが何軒あるかより、何キロ先にあるか

 地方の生活インフラを評価する場合、施設の総数と住民の利用しやすさは必ずしも一致しません。行政区域内に給油所が存在していても、住宅地から遠く離れていたり、営業時間が限られていたりすれば、実際の利便性は低くなります。反対に、自治体内の給油所数が少なくても、隣接自治体の店舗が近くにあれば、日常生活への影響は小さい場合があります。

 仮に、近くの給油所が閉鎖されたことで、給油のために往復20キロメートルの追加走行が必要になったとします。燃費が1リットル当たり15キロメートル、ガソリン価格が1リットル180円なら、追加燃料費は約240円になります。さらに、平均時速35キロメートルで移動すれば、約34分の移動時間が増える計算です。これは説明用の仮定であり、実際には買い物や通院の途中で給油することもあるため、追加の移動距離が常に20キロメートルになるわけではありません。

 しかし、燃料費だけでなく時間や移動の負担を含めて考える必要があることは明らかです。高齢者にとっては運転時間の増加が負担になることもあり、農業や配送などで頻繁に燃料を補給する事業者にとっては、給油のための移動が生産性の低下につながる可能性があります。

 地域分析では、居住地から最寄りの給油所までの道路距離を計測し、それぞれの地区の人口を考慮した平均距離を求める方法が有効です。ただし、平均値だけでは、特に遠方に住む人の不便さが見えなくなる場合があります。そのため、最寄り店舗まで15キロメートル以上ある地区の人口、店舗が1か所閉鎖された場合の追加移動距離、高齢者人口、営業時間、公共交通による代替可能性などを合わせて評価することが望まれます。

 国の研究会でも、最寄りの給油所までの道路距離が15キロメートル以上となる地区を含む市町村が、全国で291自治体存在するという状況が示されています。給油所までの距離が問題になる地域は、将来初めて現れるわけではなく、すでに各地に存在しています。

災害時にはガソリンスタンドの価値がさらに高まる

 地方の燃料供給を考える際、平常時の経営採算だけでは評価できない理由があります。それは災害時の燃料供給です。大規模停電や道路寸断が発生した場合、救急車、消防車、自治体の災害対応車両、復旧工事車両、発電機などに燃料が必要になります。停電が長期化すれば、医療施設や福祉施設、通信設備などの非常用電源を動かすための燃料供給も重要になります。

 資源エネルギー庁は、自家発電設備を備え、停電時にも給油を継続できる給油所を「住民拠点SS(Service Station・サービスステーション)」として整備してきました。2026年3月31日時点では、全国で1万4215か所が住民拠点給油所となっています。こうした施設は、平常時の販売拠点であると同時に、非常時には地域の燃料供給を支える役割を担います。

 もっとも、自家発電設備を設置していれば、どのような災害でも給油を継続できるわけではありません。給油設備の損壊、燃料在庫の不足、道路の通行止め、配送体制の混乱などが発生すれば、店舗が存在していても必要な燃料を供給できなくなる可能性があります。災害対応力を評価するには、給油所数や非常用電源の有無だけでなく、燃料の備蓄量、補給経路、設備の耐災害性、関係機関との協力体制も確認する必要があります。

 房総半島では、2019年の台風第15号によって広範囲の停電が発生した経験があります。こうした地域では、平常時には販売量が少ない給油所でも、非常時には重要な供給拠点となる場合があります。経営効率だけを優先して店舗数を減らした結果、災害時の燃料供給能力まで低下するのであれば、社会全体として別の負担が発生する可能性があります。

 ただし、災害対応のためにすべての給油所を現在の形で維持することが最善とは限りません。重要な拠点への設備投資、燃料備蓄、配送体制の強化、緊急車両への優先供給など、複数の対策を比較し、限られた財源で地域の供給力を確保する必要があります。

国も給油所の維持を地域政策の問題として捉え始めている

 給油所の減少が全国で続くなか、国も燃料供給を民間事業者の経営判断だけに委ねることの難しさを認識しています。経済産業省は2026年8月、「新たな地域燃料流通に関する研究会」の中間とりまとめを公表するとともに、自治体向けの「過疎地におけるガソリンスタンドの維持に関するガイドライン」を策定しました。

 この中間とりまとめでは、給油所過疎地に該当する自治体の約6割が問題を認識している一方、実際に対策を実施している自治体は約1割にとどまるという課題も示されています。地域の燃料供給が重要であることは理解されていても、事業者の経営に行政がどこまで関与すべきか、どのような方法で維持するかという具体的な対応は、十分に進んでいない状況がうかがえます。

 国は2026年度、最寄り給油所までの距離がおおむね15キロメートル以上となることなどを基準として、全国50か所程度の給油所を「地域インフラSS」の候補として選定し、自治体や石油販売事業者などによる地域の燃料供給計画づくりを支援する方針を示しました。これは、給油所の維持を個々の事業者だけの問題ではなく、地域全体で検討すべき課題として位置付ける動きといえます。

 もっとも、給油所が3か所以下になったからといって、自治体にその店舗を維持する法的義務が発生するわけではありません。公的な支援を行う場合には、生活への必要性、代替店舗までの距離、災害時の役割、事業者の経営状況、自治体の財政負担などを検証し、支援の対象や方法を合理的に判断する必要があります。

最後の一軒を残すには、どのような方法があるのか

 地域の燃料需要が減少するなかで、従来と同じ経営方法を続けるだけでは維持が難しい給油所も出てくると考えられます。その場合、営業時間の調整、複数事業者の共同運営、設備の省力化、他業種との複合化、燃料配送の効率化、公設民営方式など、地域の条件に応じた対応が必要になるでしょう。

 例えば、一定の需要を一つの店舗に集約することで販売量を確保できれば、従来より経営が安定する可能性があります。人手不足が主な原因であれば、省力化設備や運営方法の見直しによって営業を継続できる場合もあります。また、自治体や地域の公共的な事業者が継続的に燃料を購入する仕組みは、店舗の需要を安定させる一つの方法となり得ます。

 一方で、自治体が設備を所有し、民間事業者が運営する公設民営方式には、初期投資や更新費用を地域の財政で負担するという問題があります。公的資金を投入する以上、その店舗が地域にとってどれだけ必要なのか、代替手段が存在するのか、他の公共サービスとの優先順位をどう考えるのかという検証を避けることはできません。

 地方の給油所を維持する政策では、すべての店舗を救済することと、地域に必要な燃料供給を守ることを区別する必要があります。既存店舗を維持するより、配送体制を確保した方が効率的な場合もあれば、周辺の住民や事業者にとって不可欠な場所にある店舗を維持する方が合理的な場合もあります。重要なのは、個々の店舗の存続そのものではなく、地域全体として必要な燃料を確保できる仕組みを残すことです。

30年後のガソリンスタンドは地域エネルギー拠点になるのか

 今後の給油所の役割を考えると、従来のガソリンや軽油の販売に加えて、電気自動車の充電、灯油配送、自動車整備、災害対応、地域商店などを組み合わせた施設へ変化する可能性があります。人口が減少する地域では、単一の事業だけで採算を確保することが難しくなり、複数のサービスを提供することで収益機会を増やそうとする動きが生じると考えられます。

 ただし、事業の複合化が必ず経営改善につながるわけではありません。電気自動車は自宅や目的地で充電できるため、ガソリン車と同じ頻度で給油所を利用するとは限りません。また、急速充電設備には導入費用や受電設備の整備、電力契約、維持管理費などが必要であり、利用者が少なければ投資を回収できない可能性があります。

 灯油配送や液化石油ガスの販売なども、それぞれ異なる設備、配送体制、安全管理が必要になるため、単純に事業を増やせば利益が増えるというものではありません。地域エネルギー拠点として成立させるには、地域の需要、利用者の移動行動、投資額、人員配置などを具体的に検証する必要があります。

 また、将来の給油所がすべて同じ形になるとも限りません。人口の多い幹線道路沿いでは従来型の給油所が残り、人口の少ない地区では営業時間を限定した小規模な供給拠点や、配送機能を中心とした施設が必要になるかもしれません。地域の産業構造や道路事情によって、適切な施設の規模や機能が異なると考える方が現実的です。

外房では、給油所の将来をどのように分析すべきか

 外房の給油所問題を具体的に分析するためには、まず現在営業している店舗の位置と機能を正確に把握する必要があります。登録上の店舗数だけでなく、実際の営業状況、営業時間、ガソリン・軽油・灯油の取扱状況、配送サービスの有無、災害対応設備などを整理することが出発点となります。

 そのうえで、地区別の将来人口や高齢者人口、自動車の利用状況、農業・建設・物流などの産業活動、観光客の流入、道路網などを重ね合わせ、燃料需要と供給施設の配置を分析する必要があります。特に重要なのは、給油所が1か所閉鎖された場合に、どの地区の住民が何キロメートル余計に移動しなければならなくなるかという点です。

 さらに、2030年、2040年、2050年という複数の時点について、燃料需要の減少が緩やかな場合、中程度の場合、急速に進む場合という複数の条件を設定すれば、地域ごとの供給体制がどの程度維持できるかを比較できます。ただし、人口推計だけで店舗の将来数を算出することはできません。実際の経営採算には店舗ごとの販売量、利益率、固定費、設備更新費用、後継者の有無などが関係するため、それらの情報がなければ閉鎖時期や残存店舗数を正確に予測することは困難です。

 また、給油所の配置は市町村の境界だけで決めるべきものではありません。勝浦市、いすみ市、大多喜町、御宿町は道路によって生活圏がつながっており、住民の移動や事業者の活動も自治体の境界を越えています。地域全体で供給拠点をどのように配置すれば住民の移動負担を抑えられるかを考えることが、将来の燃料供給政策では重要になるでしょう。

30年後も残るのではなく、残す必要がある地域が出てくる

 今後30年間で、地方のガソリンスタンドがさらに減少する可能性は高いと考えられます。人口減少や燃費改善、電動化によって燃料需要が縮小するという基本的な方向性は、これまでの統計や政府の需要見通しとも整合しています。ただし、需要の減少と店舗数の減少が同じ割合で進むとは限らず、どの地域で何店舗が残るのかを現在の情報だけで断定することはできません。

 ある地域では店舗の集約によって残った給油所の経営が安定するかもしれませんが、別の地域では需要が小さくなりすぎて、最後の一店舗を民間事業だけで維持することが難しくなる可能性があります。その場合には、自治体や地域の事業者が連携し、設備投資の支援、共同運営、配送体制の整備などを含めて、必要な燃料を供給する方法を検討しなければならなくなるでしょう。

 重要なのは、ガソリン車が完全になくなるまで給油所が自然に残るという保証はないことです。車両が残っていても、販売量が採算水準を下回れば店舗は撤退する可能性があり、住民はより遠くまで燃料を購入しに行かなければならなくなります。公共交通が十分ではない地方ほど自動車への依存度が高いにもかかわらず、人口減少によって燃料供給の維持が難しくなるという構造的な問題が存在しています。

 30年後の地方で問われるのは、ガソリンスタンドという名称の店舗が現在と同じ数だけ残っているかどうかではありません。ガソリンや軽油を必要とする住民や事業者が、生活や経済活動を継続できる距離と費用で燃料を確保できるかどうかです。さらに、災害時にも地域に必要な燃料を供給できる体制を維持できるかという問題もあります。

 人口が減少しても、地域の道路や住宅が直ちになくなるわけではありません。救急、消防、介護、配送、農業、建設などの機能も、地域社会が存続する限り一定の需要が残ります。自動車の電動化が進んだとしても、その移行期間に必要となる燃料供給をどのように確保するかは、地方にとって避けられない課題です。

 水道、医療、スーパー、公共交通などと同じように、給油所もまた、利用者が減ったからといって単純に廃止できる施設ではありません。一方で、すべてを従来どおり維持することも現実的ではなくなっていきます。どの施設を、どの場所に、どの規模で残すべきかという判断が、地域政策として重要になるでしょう。

 地方のガソリンスタンドの30年後を考えることは、石油産業の将来だけを考えることではありません。人口が減少する地域で、限られた住民と財源によって、どこまで現在の生活圏を維持できるのかという問題です。

 そして外房でも、給油所が一軒減ったという出来事を、単なる店舗の閉鎖として捉えるだけでは不十分になる時代が近づいています。これから必要になるのは、閉鎖が決まってから対応を考えることではなく、地域の将来人口、燃料需要、給油所の採算、住民の移動距離を継続的に確認し、供給が途絶える前に必要な対策を検討することです。30年後の地方に残すべきものは、現在と同じ数のガソリンスタンドとは限りません。しかし、必要な燃料を、必要な場所で、無理のない負担で購入できる仕組みは、地域社会を維持するために残していかなければならないのです。

地域の課題を、自分の判断に置き換えて考える

弊社では、住まい・車・移住などの大きな選択を、 費用や将来条件をもとに数字で比較し、判断できる形に整理しています。

数字で比較するサービスを見る