いすみ市・勝浦市で考える「車のない老後」の家計
運転免許証を返納し、自家用車を手放すと、ガソリン代や自動車税、車検費用、任意保険料など、自動車を所有するために必要だった支出が家計から消えていく。それだけを見れば、車を持たない老後は経済的に身軽になるように思える。しかし、車を手放しても、買い物や通院、金融機関での手続き、知人との交流といった日常生活に必要な移動までなくなるわけではない。むしろ、それまで自分の車で自由に出掛けていた人ほど、免許返納後には一回一回の移動に必要な費用を意識することになる。
自家用車を運転していた頃は、スーパーへ出掛けるたびに交通費を支払っていたわけではない。実際には燃料を消費し、車両も少しずつ消耗していたが、それらの費用は自動車の維持管理費の中に含まれ、一回の買い物にいくらかかったのかは見えにくかった。ところが免許を返納すると、路線バスなら数百円、乗合タクシーなら200円や300円、普通タクシーなら数千円というように、移動そのものの価格がはっきり見えるようになる。
この変化は、鉄道や路線バスが充実し、徒歩圏内に商業施設や医療機関が集まる都市部よりも、自家用車への依存度が高い地方で大きな問題になりやすい。千葉県外房地域のいすみ市や勝浦市でも、市街地から離れた農村部や丘陵部に住宅が広がり、日常の買い物や通院に自家用車を必要とする世帯は少なくない。現在は問題なく生活できていても、将来運転ができなくなったとき、それまでと同じ生活を続けられるとは限らない。
そこで考えたいのが、75歳で運転免許を返納した場合、85歳までの10年間に、日常生活の移動費としていくら必要になるのかという問題である。今回は、いすみ市と勝浦市を対象として、2026年時点の交通制度と運賃をもとに、乗合交通と普通タクシーを組み合わせた複数の生活モデルを比較する。さらに、移動距離や将来の運賃上昇、自治体助成の継続性なども考慮し、単に交通費の合計を求めるだけでなく、老後の住宅立地や家計管理にどのような意味を持つのかまで検討したい。
車を手放すと、同じ5キロメートルが別の距離になる
自家用車を運転できる人にとって、自宅から5キロメートル先のスーパーや病院へ行くことは、それほど難しい行動ではない。玄関を出て車に乗り、目的地の駐車場まで移動すればよく、多少の雨が降っていても、買い物の荷物が多くても、移動手段を大きく変える必要はない。しかし、免許返納によって自家用車を使えなくなると、同じ5キロメートルでも生活上の意味が変わる。徒歩では時間も体力も必要になり、自転車は身体能力や天候に左右される。路線バスがあっても、自宅から停留所まで歩かなければならず、目的地まで乗り換えが必要になることもある。
この問題を考えるとき、重要なのは自宅から目的地までの直線距離ではなく、実際に利用できる交通手段と道路上の移動距離である。駅まで2キロメートルしか離れていなくても、急な坂道があり、歩道が整備されていなければ、高齢者にとって徒歩で移動しやすいとは限らない。反対に、目的地まで5キロメートルあっても、自宅近くから利用できる乗合交通があれば、比較的少ない費用で移動できる場合がある。
幸い、いすみ市と勝浦市には、一般の路線バスや普通タクシー以外にも、自治体が関与する予約制の乗合交通が存在している。いすみ市では市民乗合タクシーが運行され、勝浦市にもデマンドタクシーがある。さらに、両市では高齢者や運転免許の自主返納者を対象とする交通費助成制度が設けられており、対象者が制度を適切に利用すれば、普通タクシーだけに依存する場合よりも交通費を大幅に抑えられる可能性がある。
ただし、制度が存在していることと、誰もが日常生活で利用できることは同じではない。運行区域、予約方法、運行曜日、乗降場所、運行時刻などの条件があり、自宅が利用対象区域にあっても、通いたい病院や利用したい商業施設まで希望する時間帯に移動できるとは限らない。免許返納後の生活を左右するのは、単に交通機関の料金が安いかどうかではなく、その交通機関を実際の生活に組み込めるかどうかなのである。
75歳で免許を返納し、月8回外出する生活を想定する
ここからは、比較のために一人の住民を想定する。75歳で自家用車の運転をやめ、85歳までの10年間、買い物、通院、金融機関、行政手続き、知人との交流などを目的として、月8回自宅から外出する生活である。一回の外出を自宅から目的地までの往復と定義すると、交通機関への乗車回数は月16回、年間192回、10年間では1,920回となる。
月8往復という回数は、全国の75歳以上の高齢者の平均外出回数や、いすみ市・勝浦市の高齢者の実態を示した統計値ではない。週におおむね2回外出する生活を数値化した、この記事独自のモデルである。現実には毎日買い物へ出掛ける人もいれば、家族による送迎を受ける人、宅配サービスを利用する人、通院の機会が多い人もいるため、実際の移動回数には大きな個人差がある。
また、このモデルでは一回の外出について、一つの交通手段で目的地へ行き、同じ種類の交通手段で帰宅するものとする。途中で複数の商業施設を回ったり、バスとタクシーを乗り継いだりする場合は計算に含めない。実際の生活では、一度の外出で買い物と通院を済ませることもあれば、複数の交通機関を利用しなければならないこともあるが、今回は交通手段ごとの費用差を明確にするため、条件を単純化する。
普通タクシーについては、自宅から目的地までの片道走行距離を5キロメートルとする。これも地域の平均移動距離を示すものではなく、費用を比較するための仮定である。後ほど片道3キロメートル、8キロメートルの場合も計算し、移動距離が変わることで10年間の支出がどの程度変化するのかを確認する。
普通タクシーで片道5キロメートル移動すると2,300円になる
千葉県内のタクシー運賃は、2026年3月16日に改定された。従来は地域によって異なる運賃地区が設けられていたが、改定後は千葉県全域が千葉地区として扱われるようになった。普通車の上限運賃では、初乗り1.06キロメートルまでが500円、その後は221メートルまでを増すごとに100円が加算される。
この運賃を用い、片道5キロメートルの移動を距離だけで計算すると、初乗り区間を超える距離は3,940メートルとなる。これを221メートルで割り、加算回数を端数切り上げで18回とすれば、初乗り500円に1,800円が加わり、片道2,300円となる。往復では4,600円であり、月8往復すべてを普通タクシーで移動すれば、月額3万6,800円、年間44万1,600円になる。
ただし、ここで計算した2,300円は、普通車の上限距離運賃を用いた比較上の基準値であり、実際の乗車料金を保証するものではない。事業者によって認可運賃や迎車料金が異なるほか、信号待ちや渋滞などで低速走行が続けば時間距離併用運賃が加算される。時間指定などに伴う料金や深夜早朝の割増も、利用条件によって発生するため、実際の支払額はここで示した金額より高くなる場合がある。
それでも、片道5キロメートルの移動に往復4,600円という費用が発生することは、免許返納後の家計を考えるうえで重要な目安となる。自家用車を運転していた頃には何気なく出掛けていた場所でも、普通タクシーに置き換えれば、一回の買い物や通院に数千円の交通費が必要になる可能性がある。
同じ月8往復でも、交通手段によって10年間で約300万円の差が生じる
そこで、月8往復の外出を三つの方法に分けて考える。第一のモデルは、8往復のうち6往復を自治体の乗合交通で済ませ、普通タクシーを利用するのは2往復だけという生活である。第二のモデルは、乗合交通と普通タクシーを4往復ずつ利用する場合、第三のモデルは、8往復すべてを普通タクシーで移動する場合とする。
いすみ市では市民乗合タクシーの運賃を1人1回300円、勝浦市では運転経歴証明書を持つ免許返納者がデマンドタクシーを利用する場合の運賃を1回200円として計算する。普通タクシーは両市とも片道5キロメートルで2,300円とし、それぞれの自治体で利用できるタクシー助成を年間最大限活用する。助成券は、今回の試算では普通タクシーの乗車に充当するものとする。
さらに、運賃と助成制度が2026年時点の内容で10年間変わらず、毎年必要な申請を行い、利用券を最大限使用できるという条件を置く。この条件で計算した10年間の交通費は、次のとおりとなる。
| 10年間の利用モデル | いすみ市 | 勝浦市 |
|---|---|---|
| 乗合交通6往復・普通タクシー2往復 | 約117万6,000円 | 約129万6,000円 |
| 乗合交通4往復・普通タクシー4往復 | 約213万6,000円 | 約230万4,000円 |
| 普通タクシー8往復 | 約405万6,000円 | 約432万円 |
例えば、いすみ市で6往復を乗合交通、2往復を普通タクシーにした場合、乗合交通の運賃は月12回の乗車で3,600円、普通タクシーは月4回の乗車で9,200円となり、月額合計は1万2,800円となる。年間では15万3,600円になるが、後述する福祉タクシー助成を年間3万6,000円利用できれば、自己負担は年間11万7,600円、10年間で117万6,000円となる。
一方、同じいすみ市でも、月8往復すべてを普通タクシーで移動すれば、助成後の10年間の自己負担は405万6,000円となる。乗合交通中心の生活との差は288万円である。勝浦市でも、乗合交通中心のモデルが129万6,000円であるのに対し、普通タクシー中心では432万円となり、その差は302万4,000円に達する。
つまり、今回の条件では、同じ市に住み、同じ月8往復の外出を続けていても、自治体の乗合交通をどれだけ利用できるかによって、10年間の交通費に約300万円の差が生じ得るのである。
ただし、これは各モデルで想定した乗合交通の利用回数が実際に確保できることを前提とした計算であり、乗合交通の利用を希望すれば必ず実現できるという意味ではない。運行区域から外れていたり、希望する時間帯に利用できなかったりすれば、普通タクシーへの依存度が高まり、実際の費用は表の金額から変化する。
いすみ市では、75歳以上の自主返納者に対する助成が大きい
いすみ市の市民乗合タクシーは、事前予約に応じて運行区域内の自宅などから目的地まで移動できる乗合交通である。2026年10月時点では1人1回300円で利用でき、原則として月曜日から金曜日まで運行している。ただし、祝日や年末年始は運休となり、運行区域や時刻も地域ごとに異なる。同じ時間帯に複数の利用者が予約した場合は乗り合わせとなるため、普通タクシーのように常に目的地まで直行するわけではない。
また、いすみ市では75歳以上の住民を対象として、市内循環バスやいすみシャトルバスを無料で利用できるパスポート制度が設けられている。運転経歴証明書の交付を受けた65歳以上の免許返納者も対象になるため、自宅と目的地の位置がバス路線に適していれば、交通費をさらに抑えられる可能性がある。今回の試算にはこの無料バス利用による節約効果を加えていないため、実際にバスを活用できる人では、表の金額より交通費が少なくなる場合もある。
普通タクシーについても、いすみ市には福祉タクシー事業がある。自主的に運転免許を返納した満75歳以上で、公安委員会が発行した運転経歴証明書または申請による運転免許の取消通知書を持つ人は、所定の条件を満たせば利用券の交付対象となる。利用券は年間最大24シートで、指定事業者のタクシーを利用した際、1回につき1,500円を上限として助成される。
1回のタクシー利用料金が1,500円以上で、年間24シートをすべて利用できれば、助成額は年間3万6,000円となる。これと同じ制度が10年間続く場合、累計36万円の助成に相当する。ただし、5月以降の申請では申請月に応じて交付シート数が変わるほか、1回の乗車料金が1,500円に満たない場合にまで1,500円を助成されるわけではない。制度の対象者であっても、利用条件によって実際の助成総額は異なる。
今回の試算では、75歳で返納した人が毎年最大限の助成を受け、普通タクシーの利用に充当できるものとした。したがって、初年度の申請時期が遅れたり、対象となるタクシー事業者を利用できなかったりすれば、計算上の支出より自己負担が増える可能性がある。
なお、75歳で返納するという設定は、両市の制度を同じ条件で比較するために採用したものであり、75歳まで運転を続けることを推奨するものではない。返納時期は助成制度の年齢条件だけで決めるべきではなく、視力や認知機能、身体能力、運転技能などを踏まえ、安全性を優先して判断する必要がある。
勝浦市では、デマンドタクシーを利用できる区域かどうかが重要になる
勝浦市にも予約制のデマンドタクシーがあり、一般の大人運賃は1回500円、運転経歴証明書を持つ免許返納者は1回200円で利用できる。運行日は原則として月曜日から土曜日で、祝休日と年末年始は運休となる。往復をデマンドタクシーで移動できれば、免許返納者の運賃は400円となり、普通タクシーで片道5キロメートルを往復する今回のモデルとの差は、一回の外出につき4,200円になる。
ただし、デマンドタクシーは勝浦市内のどこからでも自由に利用できるわけではない。自由に乗降場所を指定できる区域と、鉄道駅、医療機関、金融機関、商業施設などの共通乗降場所が定められており、利用できる移動経路には制約がある。さらに、予約受付には期限があり、便によって予約可能な時間が異なるため、通院や買い物の予定を運行時刻に合わせる必要がある。
勝浦市では、満80歳以上の住民や、自主的に運転免許を返納した75歳以上で所定の証明書を持つ人などを対象として、高齢者タクシー利用券も交付している。通常の交付では1枚400円の利用券があり、6月30日までに申請すれば24枚、合計9,600円相当となる。7月以降の申請では交付枚数が減少するため、今回の試算は通常交付分を年度当初から最大限利用できる場合としている。
ただし、勝浦市の助成制度には地域による例外がある。総野地区のうちデマンドタクシー運行地区を除く地域では、最初に交付された利用券を使い切った場合、所定の枚数が1回に限り追加交付される仕組みが設けられている。このため、年間9,600円という金額は通常交付分の合計であって、すべての対象者に共通する絶対的な助成上限ではない。今回の比較では、この追加交付を計算に含めていない。
また、勝浦市の高齢者タクシー利用券は、指定された普通タクシーなどのほか、デマンドタクシーでも利用できるが、本試算では普通タクシーの支払いに充当するものとして計算した。実際の家計では、利用する交通手段や助成券の使い方によって自己負担が変わるため、制度の適用条件を確認したうえで利用方法を考える必要がある。
このように、同じ勝浦市の住民であっても、自宅がデマンドタクシーの利用しやすい区域にあるか、通院先や商業施設が共通乗降場所に含まれているかによって、免許返納後の交通費は大きく変わる。行政上は同じ市内でも、交通網への接続状況によって、老後の生活条件には相当な違いが生じ得るのである。
2026年には公共ライドシェアも広がっている
いすみ市では、従来から旧夷隅町地域で自家用車を活用した有償旅客運送が行われてきたが、2026年4月には旧岬町地域にも公共ライドシェアが導入された。この背景には、地域で営業していたタクシー事業者の営業終了や休止によって、従来の交通サービスだけでは住民の移動を十分に支えにくくなったという事情がある。したがって、この取り組みは単に新しい便利なサービスを導入したというだけでなく、既存の交通供給が縮小する地域で移動手段を維持するための対応という性格を持つ。
勝浦市でも、総野地区の一部と勝浦市街地を住民ドライバーの自家用車で結ぶ「ノッカルかつうら」が導入され、2026年度から有償の実証運行が行われている。蟹田、松野、中倉からは片道500円、市野川、花里からは片道700円で、原則として水曜日から金曜日までの運行となっている。利用には事前予約が必要で、決められた停留所と運行時刻を利用する仕組みであり、住民ドライバーの都合によって運休する場合もある。
こうした新たな交通手段は、普通タクシーが利用しにくい地域にとって重要な選択肢になる。ただし、運行区域や利用条件が異なるため、今回の三つの基本モデルには含めていない。また、実証運行のサービスが将来も同じ形で継続するとは限らず、住民ドライバーの確保、予約需要、運行経費、自治体の財政負担などによって事業内容が変更される可能性がある。
それでも、公共ライドシェアの導入から見えてくる問題は大きい。免許返納後の生活を考える際には、交通費をいくら用意すればよいかという金銭面だけでなく、必要になったときに実際に利用できる交通サービスが地域に残っているかという供給面を考えなければならないからである。
普通タクシーの移動距離が変わると、10年間の費用はどうなるのか
ここまでの計算では、普通タクシーで移動する距離を片道5キロメートルに固定した。しかし、これはあくまで比較のための設定であり、すべての高齢者が5キロメートル先の病院やスーパーへ通うわけではない。自宅から生活施設まで3キロメートル程度で済む人もいれば、8キロメートル以上移動しなければならない人もいる。
そこで、月8往復すべてを普通タクシーで移動する場合について、片道距離を3キロメートル、5キロメートル、8キロメートルに変えて比較してみる。2026年時点の普通車の上限距離運賃を使用し、運賃を10年間固定したうえで、自治体の通常助成を毎年最大限利用できる場合を想定する。迎車料金や時間距離併用運賃などは含めず、助成額は実際の運賃を超えないものとする。
| 普通タクシーの片道距離 | 片道運賃 | いすみ市・10年間 | 勝浦市・10年間 |
|---|---|---|---|
| 3キロメートル | 1,400円 | 約235万2,000円 | 約259万2,000円 |
| 5キロメートル | 2,300円 | 約405万6,000円 | 約432万円 |
| 8キロメートル | 3,700円 | 約674万4,000円 | 約700万8,000円 |
この表から分かるのは、普通タクシーへの依存度が同じであっても、目的地までの距離によって10年間の交通費が大きく変わるということである。いすみ市の場合、片道3キロメートルなら約235万円であるのに対し、片道8キロメートルになると約674万円となり、その差は約439万円に達する。勝浦市でも、同じ条件で約259万円から約701万円まで広がる。
実際の生活では、通院先、買い物先、駅など、目的地ごとに移動距離が異なるため、すべての外出が同じ距離になるわけではない。それでも、生活施設から離れた住宅ほど、普通タクシーに依存した場合の支出が大きくなりやすいことは、今回の計算から明確に分かる。
免許返納後の家計を左右するのは、乗合交通を利用できる割合だけではない。自宅と生活施設の位置関係も、10年間の移動費を決める重要な条件なのである。
乗合交通を月1往復多く利用できるだけでも、10年間では大きな差になる
次に、普通タクシーの移動距離を片道5キロメートルに固定し、乗合交通と普通タクシーの利用割合だけを変える場合を考える。いすみ市で市民乗合タクシーを1往復利用すると600円であるのに対し、普通タクシーでは4,600円となるため、その差は一往復当たり4,000円になる。勝浦市ではデマンドタクシーを利用すれば一往復400円となり、普通タクシーとの差は4,200円である。
この差が月に一往復発生すると、10年間では120往復分になるため、いすみ市で48万円、勝浦市で50万4,000円の差になる。これは、いずれも助成券の年間利用額が変わらないという条件で比較した金額であり、実際には利用券の使い方や交付条件によって差額が変化する場合がある。
それでも、乗合交通を月に一回多く利用できるだけで、長期間では数十万円の差になるという事実は重要である。住宅を選ぶとき、乗合交通の利用可能区域に含まれているかどうか、病院の予約時刻に合う便があるかどうか、帰りの交通手段を確保できるかどうかといった条件には、家計上の価値がある。
ただし、安い交通手段があれば必ず利用するべきだという結論にはならない。乗合交通に合わせるために何時間も待たなければならない場合や、体力的に乗降が難しい場合には、普通タクシーを利用する方が合理的なこともある。運賃の安さと生活上の利便性は必ずしも一致しないため、交通費だけでなく、移動時間や身体的負担も含めて判断する必要がある。
普通タクシー中心の生活では、迎車料金も無視できない
これまでの普通タクシーの計算では、2026年時点の距離制運賃を使用し、迎車料金や時間距離併用運賃などを除外してきた。しかし、実際に普通タクシーを利用する場合、事業者や乗車場所によっては迎車料金が必要になる。駅前の乗り場から乗る場合と、自宅まで車両を呼ぶ場合とでは、支払う金額が異なることもある。
仮に、普通タクシーを呼ぶたびに500円の迎車料金が必要になるとする。この500円は今回の追加試算のために設定した仮定であり、いすみ市や勝浦市のすべての事業者が同じ迎車料金を設定しているという意味ではない。
月8往復すべてを普通タクシーで移動する場合、乗車回数は月16回、10年間では1,920回である。毎回500円の迎車料金が加われば、10年間の追加負担は96万円になる。自治体助成の利用額が変わらない場合、いすみ市の固定運賃モデルでは405万6,000円が501万6,000円となり、勝浦市でも432万円が528万円になる。
もちろん、すべての乗車で迎車料金が必要になるとは限らず、駅の乗り場から乗車したり、迎車料金の異なる事業者を利用したりする場合もある。また、実際の料金には時間距離併用運賃なども関係するため、ここで示した金額は追加費用の影響を理解するための例である。
それでも、10年間で数百回から千回以上利用する交通手段では、1回当たり数百円の違いが、累計では数十万円から100万円近い差になるという点は、資金計画で見落とせない。
10年間の交通費を考えるなら、運賃上昇も想定しておきたい
ここまでの試算は、2026年時点の運賃と自治体助成が10年間変わらないという条件で計算してきた。しかし、実際には2036年まで現在の料金が維持される保証はない。交通事業者の人件費や燃料費、車両の維持管理費が上昇すれば、普通タクシーや乗合交通の運賃が改定される可能性がある。一方、自治体助成についても、制度の拡充が行われることもあれば、財政状況や交通政策の変更によって縮小されることも考えられる。
そこで、普通タクシーと乗合交通の運賃が毎年2%ずつ上昇し、自治体から受けられる助成額は現在の金額のまま10年間変わらないという条件で再計算する。この2%は、将来の物価上昇率やタクシー運賃改定率を予測したものではない。長期間の資金計画において、価格上昇の影響を確認するための仮定である。
計算では、最初の1年間を現在の運賃とし、2年目を1.02倍、3年目を1.0404倍というように、毎年2%ずつ複利的に上昇するものとする。この場合、10年間の運賃総額は、初年度の運賃総額の約10.95倍になる。そこから、いすみ市では年間3万6,000円、勝浦市では通常交付分の年間9,600円の助成をそれぞれ10年間差し引く。
| 10年間の利用モデル | いすみ市 | 勝浦市 |
|---|---|---|
| 乗合交通6往復・普通タクシー2往復 | 約132万2,000円 | 約142万8,000円 |
| 乗合交通4往復・普通タクシー4往復 | 約237万3,000円 | 約253万2,000円 |
| 普通タクシー8往復 | 約447万5,000円 | 約473万9,000円 |
運賃を10年間固定した場合と比べると、普通タクシー中心のモデルでは、いすみ市で約42万円、勝浦市でも約42万円の支出増加となる。助成額を固定しているため、運賃が上昇するほど、交通費全体に占める自治体助成の割合は小さくなっていく。
ただし、実際のタクシー運賃が毎年2%ずつ連続的に変わるわけではなく、制度上の運賃改定は一定期間ごとに行われることが一般的である。また、交通サービスの料金が上昇する一方で、自家用車の維持費や燃料費が同じ水準にとどまるとも限らない。今回の試算は将来の確定的な費用予測ではなく、価格上昇に対する家計の負担感を確認するための分析として理解する必要がある。
自治体助成は10年間の継続を保証された収入ではない
今回の試算では、いすみ市の福祉タクシー助成を年間最大3万6,000円、勝浦市の高齢者タクシー助成を通常交付分の年間9,600円として、10年間差し引いた。しかし、自治体の助成制度は永続的な支給を保証するものではなく、対象年齢や交付枚数、利用対象事業者、利用期限などが将来変更される可能性がある。
仮に、現在の助成制度をまったく利用できなくなった場合、いすみ市では今回のモデルから最大36万円、勝浦市では通常交付分の計算で9万6,000円、10年間の自己負担が増えることになる。ただし、この金額は現在の助成内容を10年分合計しただけであり、実際に制度が廃止されると予測しているわけではない。
一方、助成制度が維持されていても、利用可能なタクシー事業者が減少したり、乗合交通が縮小したりすれば、生活への影響はさらに大きくなる。助成券を持っていても利用できる車両がなければ移動できず、逆に乗合交通が充実していれば、助成券をすべて使わなくても生活できる場合がある。
つまり、老後の交通費を計算するときには、助成制度の金額だけでなく、その制度を実際に利用できる交通供給が存在することまで考慮しなければならない。自治体助成は家計にとって重要な支援であるが、それだけで将来の移動を確保できるわけではないのである。
75歳から85歳まで、外出回数が変わらないとは限らない
ここで、今回の計算に含まれていないもう一つの重要な問題を考えたい。それは、75歳から85歳までの10年間、月8往復という外出回数を維持できるとは限らないことである。健康状態や生活環境の変化によって、移動の必要性も利用できる交通手段も変わる可能性がある。
例えば、75歳では近所のバス停まで歩き、路線バスを利用して病院へ通えていた人でも、80歳を過ぎて歩行が難しくなれば、自宅から直接乗車できるタクシーを必要とするかもしれない。反対に、食料品の宅配や訪問診療、家族による送迎を利用するようになれば、公共交通機関で移動する回数が減少する場合もある。通院回数が増えることもあれば、外出そのものが少なくなることもあり、年齢とともに交通費が一方向に増加するとは限らない。
また、介助が必要になれば、通常の乗合交通や普通タクシーだけでは対応できなくなる可能性がある。勝浦市のデマンドタクシーは介護タクシーとしての機能を備えておらず、介助が必要な場合には付き添いが求められる。移動に介助や特別な設備が必要になる場合は、通常の交通費だけでなく、それに伴う費用や利用条件も別に考えなければならない。
このように、実際の老後の移動費は、毎月の外出回数に単価を掛けるだけでは完全には予測できない。今回の計算は、同じ外出回数と交通手段の組み合わせを10年間維持した場合の条件付きシミュレーションであり、健康状態や生活行動の変化を統計的に予測したものではない。
10年間の資金計画では、一つの金額を将来の確定値と考えるのではなく、生活条件が変化した場合に必要な金額がどの程度増減するのかを確認しておくことが重要である。
「移動費が少ない人ほど暮らしやすい」とは限らない
交通費を分析するときには、支出額が少ないほど望ましい生活を送れているとは限らないことにも注意が必要である。例えば、普通タクシーの利用料金が高いために買い物や友人との交流を控え、月8回出掛けていた人が月4回しか外出しなくなれば、交通費は減少する。しかし、必要な買い物ができず、人と会う機会も少なくなった結果であるならば、その支出削減を単純な家計改善と評価することはできない。
高齢者の移動に関する研究では、運転免許の保有状況と外出行動との関連が報告されているほか、公共交通が少ない地域では、買い物や通院の代替手段を確保できても、交友や娯楽などの移動を十分に確保できない事例が示されている。ただし、こうした研究結果から、免許返納そのものが外出減少を必ず引き起こすと断定することはできない。健康状態、居住環境、家族構成、所得など、複数の要因が外出行動に関係しているからである。
それでも、老後の移動を家計の問題として評価するなら、単に支出を最小化するだけでは不十分である。必要な通院や買い物を実現できることに加え、知人との交流や地域活動など、本人が望む生活をどの程度維持できるかを考える必要がある。
交通費が年間10万円で済んでも、行きたい場所へほとんど行けない生活と、年間20万円かかっても必要な外出を無理なく続けられる生活では、支出額だけで生活の良し悪しを比較することはできない。免許返納後の交通政策や家計管理では、いくら安く移動できるかだけでなく、必要な移動をどれだけ実現できるかという視点が欠かせない。
車を持ち続けた方が安いとは、簡単には判断できない
普通タクシー中心の生活で10年間に400万円以上かかるという数字を見ると、自家用車を所有し続けた方が経済的なのではないかと感じる人もいるだろう。しかし、普通タクシーの運賃と自家用車のガソリン代だけを比較して結論を出すのは適切ではない。
自家用車には、燃料費だけでなく、任意保険、自動車税、車検、整備、タイヤ、バッテリー、駐車場などの費用が発生する。また、10年間の間に車両の買い替えが必要になる場合もあり、車を所有し続けるための総費用は、普段意識している燃料費よりも大きくなることがある。
一方、すでに購入して長年使用している自家用車については、過去に支払った購入費用を、これから運転を続けるかどうかの判断にそのまま加えるべきではない。過去の支出は原則として取り戻せない費用であり、今後の意思決定では、これから必要になる維持費や買い替え費用、売却によって回収できる金額などを比較する方が合理的である。
例えば、今後10年間に自家用車を所有し続ける追加費用が年間30万円かかると仮定すれば、10年間では300万円となる。この30万円は地域の実測平均値ではなく、比較の考え方を示すための仮定である。この場合、今回のいすみ市の乗合交通中心モデルである117万6,000円や、半分ずつ利用するモデルの213万6,000円は、自家用車の追加費用300万円より低くなる。一方、普通タクシー中心の405万6,000円は、それより高くなる。
ただし、現実には自動車の維持費も車種や利用頻度によって異なり、駐車場代が不要な世帯と、買い替えが必要な世帯では結果が変わる。また、夫婦が同じ普通タクシーに乗れば基本的には1台分の運賃を分担できる一方、乗合交通では人数分の運賃が必要になるため、単身世帯と夫婦世帯でも費用構造が異なる。
さらに、10年間の交通費をそのまま将来の必要貯蓄額とみなすことにも注意が必要である。毎年の年金収入などから交通費を支払う場合と、最初から10年間分を貯蓄で用意する場合では、必要な準備資金が異なる。運用利回りや将来の物価を考慮する場合にも、単純な支出総額と現時点で必要な貯蓄額は一致しない。
何よりも、運転を続けるかどうかには交通事故の危険性が関係する。自家用車を保有する方が経済的に有利という試算結果になったとしても、そのことだけで運転継続が適切だという結論にはならない。家計面の比較は重要であるが、安全性の判断とは区別して考える必要がある。
「150万円・250万円・500万円」は高齢者の平均必要額ではない
ここまでの計算を整理すると、運賃が毎年2%上昇する条件では、乗合交通をかなり利用できる場合に10年間で約130万〜150万円、乗合交通と普通タクシーを半分ずつ利用する場合に約240万〜250万円、普通タクシー中心では約450万〜500万円という金額が見えてくる。
しかし、これらは高齢者の平均移動費でも、免許返納後に必ず必要になる金額でもない。月8往復という外出回数、普通タクシーの片道距離5キロメートル、75歳での自主返納、自治体助成の最大利用、毎年2%の運賃上昇という条件を組み合わせたモデルの結果である。迎車料金や将来の交通サービスの変更、健康状態による移動需要の変化なども完全には含まれていない。
実際に自宅からスーパーまで歩いて行ける人であれば、日常の買い物に交通費をほとんど必要としないかもしれない。逆に、自宅から医療機関までの距離が長く、乗合交通も利用しにくい人であれば、今回の普通タクシー中心モデルを超える費用が必要になる可能性もある。
そのため、今回示した金額は、老後の移動費の平均値や上限額として使用するのではなく、自分の生活条件を当てはめて必要資金を見積もるための比較基準として理解するべきである。
本当に深刻なのは、お金を払っても移動手段を確保できないことである
免許返納後の生活を考えるとき、10年間で500万円近い交通費が必要になる可能性は確かに大きな問題である。しかし、仮に十分な資金を用意できたとしても、それだけで将来の移動が保証されるわけではない。
いすみ市の市民乗合タクシーは原則として平日運行であり、予約や運行区域の条件がある。勝浦市のデマンドタクシーにも運行曜日や時刻、乗降場所の制約があり、新たに導入された公共ライドシェアも対象地域と運行日が限られている。定期的な通院であれば交通機関に合わせて予約できるかもしれないが、急な体調不良や予定変更まで公共交通の運行時刻に合わせられるわけではない。
また、人口減少や運転手不足、交通事業者の経営環境の変化によって、現在利用できるサービスが将来も維持されるとは限らない。いすみ市で公共ライドシェアが拡大された背景には、既存のタクシー事業者の営業終了や休止があり、地域交通を維持すること自体が課題になっている。
交通サービスには、利用料金という価格の問題と、必要な場所や時間に車両が存在するかという供給の問題がある。価格が安くても予約が取れなければ利用できず、料金を支払う意思があっても事業者が存在しなければ移動できない。地域の人口が減少し、交通需要が少なくなる地域ほど、後者の問題が大きくなる可能性がある。
地方の免許返納問題は、交通費をいくら用意するかという家計問題であると同時に、必要な交通サービスを地域に残せるかという公共政策上の問題でもある。
老後の住宅選びでは、購入価格だけでなく移動費も考えたい
この問題を住宅の価値という観点から考えると、さらに重要なことが見えてくる。自家用車を運転している65歳の人にとって、スーパーまで3キロメートルの家と8キロメートルの家では、それほど大きな違いを感じないかもしれない。ところが75歳で免許を返納し、その後10年間を同じ家で暮らすと考えれば、生活施設までの距離や交通網への接続状況が、家計に大きな影響を与える可能性がある。
駅まで歩ける住宅、路線バスの停留所に近い住宅、乗合交通を利用しやすい住宅、病院とスーパーを一度の外出で回れる住宅には、購入価格だけでは把握しにくい経済的価値がある。一方、眺望がよく、敷地が広く、住宅価格が安くても、生活施設から離れ、代替交通を利用しにくい場所にあれば、免許返納後の交通費が家計を圧迫する可能性がある。
例えば、生活施設に近い住宅より50万円安く購入できたとしても、その住宅での生活に年間10万円多く交通費が必要になれば、単純計算では5年間で購入価格の差がなくなる。実際には住宅の維持管理費や固定資産税、資産価値、生活環境なども比較する必要があるため、交通費だけで住宅の優劣を判断することはできないが、購入価格が安いという理由だけで経済的に有利だと考えることも適切ではない。
今回の距離別シミュレーションでも、普通タクシー中心の生活では片道3キロメートルと8キロメートルで10年間に400万円以上の差が生じた。これは特定の住宅について実測した金額ではないものの、自宅と生活施設の位置関係が長期の家計負担に大きく影響し得ることを示している。
地方の中古住宅を選ぶ際には、現在の自分が自家用車でどこへでも行けることだけを基準にせず、将来自分で運転できなくなった場合に、買い物や通院をどう続けるのかまで考える必要がある。住宅の本当の生活費は、購入代金だけではなく、その場所で暮らし続けるために必要な支出まで含めて評価するべきなのである。
免許を返納する前に、車を使わない生活を試しておく
では、免許返納後の交通費を現実的に把握するには、何をすればよいのだろうか。最も有効な方法の一つは、まだ自分で運転できるうちに、日常生活の一部を自家用車を使わずに過ごしてみることである。
例えば、一週間のうち何日かは車を使わず、路線バスや乗合交通だけでスーパーや病院へ行ってみる。自宅から停留所まで何分かかるのか、途中に急な坂道はないか、予約は取りやすいか、病院の診察が終わってから帰りの交通機関まで何時間待つのか、買い物の荷物を持って帰れるのかといったことを実際に確認する。
そのうえで、過去一か月の外出先と回数を整理し、それぞれの目的地までの移動距離と利用可能な交通手段を調べる。買い物は乗合交通、定期通院は路線バス、急な外出や時間の制約があるときは普通タクシーというように、目的に応じて交通手段を組み合わせれば、自分の生活に近い費用を計算できる。
このとき、交通費だけでなく、移動時間や待ち時間、予約の手間、身体的な負担も記録しておくとよい。特に、帰宅時の交通手段が確保できるかどうかは重要である。行きの便には乗れても、診察が長引いて帰りの便に間に合わなければ、予定外のタクシー代が必要になる場合もある。
もちろん、現在の身体能力で一度試した結果が、10年後の暮らしを正確に予測するわけではない。それでも、車を使わず生活してみることは、運行時刻や料金表を読むだけでは分からない問題を発見する手がかりになる。自分の生活に必要な移動を具体的に把握できれば、返納後の交通費も、抽象的な不安ではなく、条件を置いて計算できる家計項目へ変わっていく。
免許返納とは、10年間の交通手段を組み替えることである
自家用車を所有している間、人は移動の自由をそれほど意識しない。朝になって病院へ行こうと思えば出掛けられ、午後に買い忘れに気づけばもう一度スーパーへ行くこともできる。雨が降っていても、荷物が重くても、時間さえあれば自分の判断で移動できる。しかし、免許を返納すると、その自由を路線バス、乗合交通、普通タクシー、家族による送迎など、複数の手段を組み合わせて確保しなければならなくなる。
今回のモデルでは、75歳で免許を返納し、月8往復の外出を10年間続ける場合、乗合交通をかなり利用できれば交通費は100万円台に収まり、普通タクシーへの依存度が高ければ400万円を超える結果となった。さらに、運賃が毎年2%上昇する場合や迎車料金が必要になる場合、生活施設までの距離が長い場合には、負担が一段と大きくなる可能性がある。
一方、路線バスや乗合交通を利用しやすい住宅に住み、複数の用事を一度の外出で済ませたり、宅配などを活用したりすれば、必要な交通費を抑えられる場合もある。ただし、交通費を減らすために必要な外出を諦めてしまえば、家計上の支出は少なくなっても、生活の自由や人とのつながりが損なわれる可能性がある。
したがって、免許返納後の移動費には、全国共通の一つの正解はない。いすみ市と勝浦市という自治体の違いだけでなく、同じ市内でも、自宅の位置、利用できる交通網、生活施設までの距離、健康状態、家族構成、自治体助成の利用条件によって、必要な金額は変わる。
重要なのは、75歳で免許を返納する日になってから交通費を調べ始めることではなく、自分で運転できるうちに、将来の交通手段を具体的に調べておくことである。自宅から車なしでどこまで行けるのか、月に何回移動する必要があるのか、そのために10年間でいくら必要になるのか。そして、その交通サービスが将来も利用できる可能性はどの程度あるのか。こうした条件を一つずつ確認することで、免許返納後の暮らしをより現実的に考えられるようになる。
地方で老後を暮らすということは、単に住宅を所有し、生活費を準備することではない。年齢を重ね、自分で運転できなくなったとしても、その家から病院へ行き、買い物をし、人と会い、地域の中で生活を続けられるかどうかまで考えることなのである。





