地域分析記事

地域の暮らしと地域課題を数学とデータで考える

移住して3年以内に町を離れる人を減らすには何が必要なのか

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 地方への移住を語るとき、私たちはどうしても「何人が移住してきたのか」という数字に目を奪われる。移住相談会に何人が参加したのか、移住支援制度を利用した世帯が何組あったのか、今年は前年より転入者が増えたのか。こうした数字は分かりやすく、成果としても示しやすい。しかし、本当に地域の将来を考えるのであれば、もう一つ確かめなければならない数字がある。数年前に移住してきた人たちが、その後もその地域で暮らしているのかという数字である。

 移住政策を評価するうえで、「何人来たか」と「何人残ったか」は本来切り離すことができない。仮に一年間に百人が移住しても、三年後に二十人しか残っていない地域と、一年間の移住者が五十人でも三年後に四十五人が残っている地域とでは、後者の方がその時点の居住者数は多くなる。移住者数だけを成果指標にすると、この違いは見えない。

 もっとも、「移住後三年」という期間そのものに、科学的に確立された特別な境界があるわけではない。三年を境に突然転出率が変化するという普遍的な法則が確認されているわけでもなく、地域や年代、世帯構成、仕事、住宅事情によって状況は大きく異なる。したがって三年という数字は、「ここを越えれば定着した」と考える境界ではなく、移住後の初期段階を継続して観察するための一つの実務的な期間と考える方が正確だろう。

 それでも移住後の初期数年間に注目する意味はある。引っ越した直後には新しい土地で暮らし始めたという高揚感があり、見慣れない風景や店、道さえ新鮮に感じられる。しかし季節が一巡し、日々の生活が繰り返されるようになると、旅行者の目には見えなかった町の姿が少しずつ現れてくる。そこで初めて、その場所が「訪れるには魅力的な町」であることと、「毎日暮らす場所として自分に合っている町」であることが同じではないと気づくことがある。

 移住前に人を引きつけるのは、美しい自然や広い住宅、静かな環境、低い住宅価格かもしれないが、移住後に生活を支えるのは、それだけではない。仕事を続けられるか、収入に無理がないか、買い物や通院に困らないか、交通手段を確保できるか、困ったときに相談できる人がいるかといった、華やかではない生活条件が長期的には重くなってくる。

 実際、移住や定住に関する研究では、仕事や収入、生活利便性、地域の人間関係、家族との関係、地域への愛着、将来への不安など、複数の要因が居住継続の意向と関係していることが繰り返し示されている。したがって、人が町を離れる理由を「交通が不便だったから」「人間関係になじめなかったから」と一つの原因に還元するのは適切ではない場合が多い。現実には、それぞれ単独なら耐えられる程度の不便や不満が重なり、その人にとって「ここで暮らし続けることの負担」が徐々に大きくなることが考えられる。

 例えば、買い物のために毎回車を出さなければならないことだけなら、それほど大きな問題ではないかもしれない。ところが、それに加えて通院にも長い移動が必要で、仕事の選択肢も限られ、知人も少なく、何か困ったときに誰へ相談すればよいのか分からない状態が続けば、一つ一つは小さかった不便が生活全体の負担として感じられるようになる。重要なのは、一つの欠点の有無ではなく、その人の生活条件と地域環境との組み合わせなのである。

 ここで注意しなければならないのは、人間関係を重視することと、地域との濃密な付き合いを求めることは同じではないという点である。地域行事や自治会活動に積極的に参加することを好む人もいれば、一定の距離を保ちながら静かに暮らしたい人もいるため、地域への参加量を増やせば定着率も高くなると単純に考えることはできない。

 むしろ重要なのは、必要なときに孤立しないことである。毎週会う友人が大勢いなくても、困ったときに相談できる人が一人いること、道で顔を合わせれば言葉を交わせる人がいること、自分のことを少し知っている人が地域の中にいることは、生活の安心感を大きく変える可能性がある。研究でも、単なる接触の回数だけではなく、助けを求められる社会的な関係が居住継続意向と関連することが示されている。

 ただし、人は人間関係だけに定着するわけではない。自然環境への愛着、気に入った景観、住み慣れた家、行きつけの店、季節ごとの風景、毎日の散歩道といったものも、時間とともにその土地への結びつきを作っていく。このような地域への心理的な結びつきは Place Attachment(プレイス・アタッチメント・特定の場所に対する心理的・感情的な愛着)と呼ばれ、人との関係だけでなく、環境や生活経験、記憶などが重なって形成されると考えられている。

 移住したばかりの頃には、その町はまだ「自分が選んだ場所」にすぎない。しかし、春になればいつもの道の花が咲くことを知り、夏には混雑する場所が分かり、冬には風の強い道を避けるようになり、店に入れば顔を覚えている人がいるようになる。そうした小さな経験が積み重なるにつれて、町は地図上の住所から生活の記憶を持つ場所へと変わっていく。

 ところが、こうした長期居住者の姿を見るときにも注意が必要である。長く暮らしている人ほど地域への愛着が強いという調査結果があったとしても、それだけで「長く住めば愛着が強くなる」とは言い切れない。もともとその地域に愛着を持ちにくかった人が早い段階で転出し、愛着を持った人だけが長く残っている可能性もあるからだ。

 これは Survivorship Bias(サバイバーシップ・バイアス・残った人だけを観察することで生じる偏り)の一つであり、移住研究では特に注意しなければならない。現在住んでいる移住者だけに「この地域の良いところ」を尋ねれば、すでに地域を離れた人の経験が調査から抜け落ちてしまうため、本当に定着しなかった理由を知るには、転出した人も含めて調べる必要がある。

 同じ問題は、移住前の情報提供にも関係する。自治体や地域が移住者を増やそうとすると、自然の豊かさ、住宅価格、子育て環境、静かな暮らしなど、魅力を前面に出したくなる。しかし、良い面だけを強調すれば、移住希望者が描く生活と、実際の生活との間に大きな差が生まれる可能性がある。

 人の満足度を考えるうえでは、Expectation–Disconfirmation(エクスペクテーション・ディスコンファメーション・事前の期待と実際の経験との差によって満足度が変化する考え方)が知られている。期待していた生活と実際の生活が大きく食い違えば、その地域が客観的に悪い場所でなくても、不満は大きくなり得る。

 だから移住前に必要なのは、町を良く見せることだけではない。交通の不便さ、医療機関への距離、仕事の選択肢、冬の気候、地域独特の生活習慣なども含め、そこで暮らす現実をできるだけ具体的に伝えることが重要になる。ただし、「欠点を知らせれば定着率が上がる」とまで断定することはできない。より正確には、生活の現実を事前に理解してもらうことによって、移住前の期待と移住後の経験とのずれを小さくできる可能性がある、と考えるべきだろう。

 移住者を増やすことだけを目的にすれば、このような情報提供は一見不利に見える。交通が不便だと説明すれば移住をやめる人がいるかもしれず、仕事の選択肢が限られることを伝えれば別の地域を選ぶ人もいるかもしれない。しかし、それは必ずしも失敗ではない。その地域の生活条件と合わない人が移住前に別の選択をするのであれば、移住後の大きなミスマッチを防いだとも考えられる。

 ここには Self-selection(セルフ・セレクション・自分の条件や希望に合う選択肢を自ら選ぶこと)の問題がある。移住者を無差別に増やすのではなく、その地域の生活条件を理解したうえで選ぶ人が増えれば、少なくとも移住前後の認識差を小さくすることはできる。ただし、それが実際に転出率をどの程度下げるかは、長期間にわたる追跡調査によって確かめなければならない。

 行政や地域による移住後の支援についても同じである。移住した直後に説明会を一度開いて終わるのではなく、半年後、一年後、二年後と生活状況を確認する仕組みは合理的に思える。生活を始めてから初めて分かる問題は多く、困難が深刻になる前に相談先につながることができれば、問題の一部を軽減できる可能性があるからだ。

 しかし、ここでも「定期的に連絡すれば転出が減る」と簡単に断定するべきではない。継続支援を行った人と行わなかった人を比較し、その後の転出率まで追跡しなければ、本当に支援が効果を生んだのか、それとももともと地域に定着しやすい人が支援を利用していただけなのかを区別することは難しい。

 移住政策を本当に科学的に評価したいのであれば、移住者への満足度調査だけでは足りない。必要なのは、同じ時期に移住した人たちを一つの集団として追跡し、半年後、一年後、二年後、三年後、さらに可能であれば五年後に何人が残っているのかを調べることである。

 このように同じ時期に移住した集団を Cohort(コホート・共通の時期や条件を持つ集団)として追跡すれば、単に「今年は何人移住したか」という数字から一歩進んで、「移住した人が何年後にどの程度残っているか」を測ることができる。例えば、一年後に九二%、二年後に八六%、三年後に七八%、五年後に七二%が残っているのであれば、どの時期に転出が多いのかを具体的に見ることができる。

 さらに、こうした分析には Survival Analysis(サバイバル・アナリシス・ある出来事が起こるまでの時間を分析する統計手法)を利用できる。医療研究では治療後に患者がどれくらいの期間生存したかを分析するために使われる方法だが、移住研究では「移住してから転出するまでの期間」と読み替えることができる。

 この方法を使えば、三年という数字を最初から特別扱いする必要はない。実際のデータを見て、一年目に転出が集中しているのか、二年目から三年目に増えるのか、それとも五年以上経過しても一定の割合で転出が続くのかを確認できる。そうなって初めて、「この地域ではどの時期に支援を重点化すべきか」という政策判断が可能になる。

 さらに年齢、世帯構成、仕事、収入、住宅形態、交通利便性、医療へのアクセス、相談できる人の有無、地域への愛着、移住前と移住後の期待差などを記録すれば、どの条件が転出と関連しているのかを統計的に調べることもできる。ただし、ある要因と転出の間に関連が見つかったからといって、直ちに原因と結論づけることはできない。移住者自身の性格や価値観、家族の事情、転職、介護、結婚、離婚など、地域側では変えられない要因も転出には関係するからである。

 したがって、どれほど優れた移住政策を実施しても、転出をゼロにすることはできない。親の介護で故郷へ戻る人もいれば、仕事の都合で都市へ転居する人もおり、家族構成の変化によって生活拠点を変える人もいる。地域政策の目的は「誰も出ていかない町」を作ることではなく、「本来なら避けることができた転出を減らすこと」に置く方が現実的である。

 そのためには、転出を一つの現象として数えるだけではなく、その背景を分類しなければならない。仕事の問題なのか、収入なのか、交通なのか、医療なのか、住宅なのか、人間関係なのか、それとも移住前に想像していた暮らしとの違いなのか。複数の理由が重なっている場合もあるため、一つの選択肢だけを選ばせるような調査では実態を捉えにくい。

 そして何より重要なのは、残った人だけではなく、離れた人に尋ねることである。移住政策について考えるとき、現在も住んでいる人へのアンケートは実施しやすい。しかし、本当に知りたいのは、なぜ町を離れたのかという情報でもある。その声がなければ、成功した移住だけを見ながら政策を考えることになり、町を去った人が経験した問題は数字の外側に残り続ける。

 移住者が定着したかどうかを判断する最後の要素は、補助金の額でも、イベントの回数でも、交流会への参加人数でもない。仕事を続けられる、生活上の不便に対処できる、困ったときに相談先がある、自分なりの距離感で地域と関われる、そしてこの土地でこれからも生活していけると思えることが重なった結果として、居住継続という選択が生まれる。

 だから移住政策を見るときには、「今年何人来たか」だけではなく、「数年前に来た人が今どうしているか」を確かめる必要がある。その人は今も暮らしているのか、残った人は何によって生活を支えられたのか、離れた人はどこで困難を感じたのかを追跡していけば、移住者を呼び込む広告だけでは見えてこない地域の本当の姿が見えてくる。

 人口減少が続く社会では、新しい人を呼び込むことは確かに重要である。しかし、蛇口から水を入れる量だけを競いながら、水槽からどれほど水が流れ出しているのかを測らなければ、本当に水が増えているのかは分からない。移住政策もそれと同じであり、転入者数だけを成果として見る段階から、移住後の残存率まで継続して観察する段階へ進む必要がある。

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 移住して三年以内に町を離れる人を減らすために必要なのは、三年間だけ手厚く支援することではない。三年という数字を一つの観察期間として使いながら、その間に何が起きているのかを丁寧に測り、仕事、生活環境、人とのつながり、地域への愛着、移住前後の期待のずれを複合的に見ていくことである。

 そして本当の成果は、移住者募集の広告を見た人数でも、移住相談会の参加人数でもない。数年前にやってきた人が、その土地で新しい季節を迎えながら、「ここでこの先も暮らしていけそうだ」と思えていることなのである。

地域の課題を、自分の判断に置き換えて考える

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