地域分析記事

地域の暮らしと地域課題を数学とデータで考える

 夜の町で救急車のサイレンを聞くと、その音は遠くから近づき、やがてどこかへ消えていく。都市に暮らしていれば、その救急車が町を離れたあとにも別の車両がどこかで待機しているように感じるかもしれないが、人口の少ない地域では事情が違い、一台の救急車が患者を乗せて遠くの病院へ向かった瞬間、その地域には地図には描かれない「救急の空白」が生まれることがある。

 人口減少時代の地域医療を考えるとき、病院や診療所が何軒あるか、医師が何人いるかという数字には比較的目が向きやすい。しかし、救急車がどこに何台あり、その一台がどれほどの人口と土地を背負っているのかは、普段の生活ではほとんど意識されない。119番へ電話すれば救急車は来るものだという感覚が強く、救急車そのものを一つの有限な地域資源として見る機会が少ないからだろう。

 ところが救急車という資源には、きわめて単純でありながら避けることのできない制約がある。一台の救急車は同時に二つの場所へ行くことができず、一人の患者を搬送している間、その車両と救急隊は原則として別の患者には対応できない。この当たり前の事実を出発点にすると、救急車の配置は単なる台数の問題ではなく、人口、面積、道路網、高齢化、救急需要、病院までの距離、そして時間が絡み合う地域構造の問題として見えてくる。

「人口2万人に1台」という数字だけでは測れない

 日本には救急自動車の配置について一応の目安があり、消防庁の「消防力の整備指針」では、人口10万人以下の地域について、おおむね人口2万人ごとに救急自動車1台を配置することが基準とされている。人口10万人を超える場合には5台を基礎とし、それを超える人口についておおむね5万人ごとに1台を加えるという考え方である。

 この数字だけを見ると、「救急車1台で人口2万人を担当できる」と理解したくなるが、実際の制度はそれほど単純ではない。昼間人口や高齢化の状況、実際の救急出動の発生状況などを考慮することも求められており、制度そのものが人口だけでは救急力を測れないことを前提としている。

 同じ人口2万人でも、数十平方キロメートルの平坦な市街地に住民が集まっている地域と、山間部や海岸沿いの数百平方キロメートルに集落が散らばっている地域では、一台の救急車が持つ能力は同じではない。また、働く世代や子育て世帯の多い地域と、高齢者の割合が著しく高い地域でも救急需要は変わってくるため、「人口2万人に1台」という数字は限界値というより、救急体制を考え始めるための入口に近い。

本当の限界は「二件目」が発生したときに見える

 救急車1台が何人を支えられるかを考えるとき、年間の出動件数を単純に365日で割って一日の平均件数を出すだけでは、本当の余裕は分からない。救急需要には時刻表がなく、午前中に一件、午後に一件、夜に一件と規則正しく発生してくれるわけではないからである。

 ある地域で一日に三件の救急要請があるとしても、それが十分な間隔を空けて発生するのであれば一台で処理できる可能性は高い。しかし、そのうち二件が同じ時刻に重なれば状況は一変し、一台目がすでに出動していれば、二件目には近隣地域から別の救急車を呼ばなければならなくなる。応援車両が近くにいれば大きな問題にならない場合もあるが、隣の消防署まで十数キロメートル、あるいはそれ以上離れていれば、数分という時間の差がそのまま患者の待ち時間になる。

 ここには交通量や通信回線などにも共通する性質がある。設備の使用率が低い間は多少の需要が増えても余裕を保てるが、能力の上限に近づくほど、わずかな需要増加によって待ち時間が急激に増えやすくなる。救急車も同じで、「平均的には処理できている」という状態と、「いつ要請が重なっても十分対応できる」という状態はまったく違う。

 救急体制に必要なのは、平均的な一日を問題なく処理できる能力だけではなく、偶然二件、三件と救急要請が重なったときにも破綻しないための余白である。この余白がどの程度あるかは、単純な人口当たり台数からは見えにくい。

面積が広がれば、一台の救急車は別の存在になる

 人口だけでは捉えにくいもう一つの制約が、地域の広さである。

 人口2万人が駅を中心としたコンパクトな市街地に暮らしているのであれば、消防署から多くの住民のもとへ比較的短時間で到達できる。しかし同じ2万人が山間部や海岸線沿いに数十キロメートルにわたって散在している地域では、一台の救急車が同じ人口を担当していても、実際に提供できる救急サービスの姿は大きく変わる。

 さらに重要なのは、地図上の直線距離と救急車が実際に走る距離は一致しないということである。山を越える道路、川を渡る橋、細い生活道路、曲がりくねった海岸道路、積雪、観光期の渋滞などが加われば、地図では数キロメートルしか離れていない集落でも、時間の上ではかなり遠い場所になる。

 仮に救急車が平均時速30キロメートルで10分間走れたとしても、進める距離は単純計算で約5キロメートルにすぎない。しかも実際の救急では119番通報の受理、住所や状況の確認、出動準備、交通信号や一般車両への対応、住宅の特定などが加わるため、消防署を中心に半径何キロメートルという円を描くだけで安全圏を決めることはできない。

 人口密度が低くなるほど、この問題は静かに深刻になる。住民が減ったからといって自治体の面積が縮むわけではなく、道路が短くなるわけでも、山や川がなくなるわけでもない。むしろ人口が減少したあとも同じ広さの地域を同じ救急体制で守らなければならないため、一人当たりに必要な移動距離という意味では負担が重くなる場合すらある。

病院まで運ぶ時間が地域から救急車を奪う

 救急車の能力を考えるうえでもう一つ見落とされやすいのが、救急車の仕事は患者の家へ到着したところで終わらないという点である。

 2024年の全国統計では、119番通報を受けてから救急車が現場へ到着するまでの平均時間は約9.8分だったが、通報から患者を医師へ引き継ぐまでには平均約44.6分を要している。つまり、私たちが「救急車が来るまでの時間」として意識する10分前後の時間より、その後に使われる時間のほうがはるかに長い。

 救急隊は現場へ到着したあと患者の状態を確認し、必要な処置を行い、搬送先を選定し、病院まで走り、医療機関へ患者を引き継ぐ。その間、その救急隊は基本的に次の要請へ向かうことができず、さらに患者を引き継いだあとも資器材や車内を整え、次の出動に備える必要がある。

 この構造を考えると、地方における救急医療の問題は「救急車が患者まで何分で来られるか」だけではないことが分かる。患者を受け入れられる病院が近くにあるかどうかによって、一件の救急要請が一台の救急車を地域から奪う時間が変わるのである。

 消防署から患者宅まで10分で到着できる地域でも、そこから受け入れ可能な病院まで40分かかれば、救急車は長時間その地域を離れることになる。逆に病院が近い都市部では、一件当たりの拘束時間が比較的短く、同じ一台でも次の要請へ戻りやすい。

 近くに消防署があるから安心だとは限らず、その救急車が患者をどこまで運ばなければならないのかまで見なければ、地域の救急力を正確には評価できない。

人口が減っても救急需要は同じ割合では減らない

 人口減少地域では、一見すると人口が減れば救急車の必要台数も減らせるように思える。しかし、この考え方には大きな落とし穴がある。

 2024年に救急車で搬送された人のうち、高齢者は63%を超えている。高齢者は若年層より救急搬送される可能性が高いため、総人口が減少していても高齢者の割合が増えていれば、人口一人当たりの救急需要はむしろ高まる可能性がある。

 たとえば人口2万人だった町が1万5千人になったとしても、その減少の中心が若者や働く世代で、高齢者人口がそれほど減っていないのであれば、人口が25%減ったから救急出動も25%減るとは限らない。転倒、急病、呼吸器疾患、循環器疾患などに伴う救急要請が残れば、救急車一台にかかる負荷は人口減少ほど軽くならない。

 人口減少社会では、このような逆説がさまざまな公共サービスで起こる。利用者の総数は減っているのに、一人当たりのサービス需要や、サービスを一件提供するために必要な距離と時間は増える可能性があるからである。

 救急車は、この人口減少時代の矛盾が最も分かりやすく現れる公共サービスの一つなのかもしれない。

救急車一台とは、一台の自動車ではない

 では救急車を増やせば問題は解決するのかというと、話はそれほど簡単ではない。

 救急車を動かすには救急隊員が必要で、通常は複数人が一つの隊として勤務する。24時間365日の運用を考えれば、一台の車両を購入して消防署の車庫へ置いただけでは、一台分の救急力を増やしたことにはならない。

 夜中でも休日でも出動できるようにするには複数の勤務班が必要となり、その中には救急救命士など必要な資格や経験を持つ職員を配置しなければならない。加えて通信指令、車両整備、医療資器材、教育訓練、病院との連携、休暇や病気に備える代替要員なども必要になる。

 道路を走る白い救急車は目に見えるため、「一台」という単位で考えたくなるが、実際にはその背後に多くの人員と仕組みが存在している。言い換えれば救急車一台を維持するとは、自動車一台を所有することではなく、一年中いつでも一台分の救急サービスを提供できる組織を維持することなのである。

 人口減少地域では、この人員面の制約が今後ますます重要になる可能性がある。住民人口が減るだけでなく、消防職員や救急救命士として働く世代そのものも減少していくからである。

都市は「件数」、地方は「距離」に追われる

 2024年には全国で約772万件の救急出動があり、2025年4月時点では全国に5,485の救急隊が配置されている。単純に計算すると、一隊当たりの出動件数は年間約1,400件となり、平均すれば一日4件弱になる。

 しかし、この平均値だけを見て「一日4件ならそれほど忙しくない」と判断するのは危険である。救急需要は時間的にも地理的にも均等に発生するわけではなく、さらに都市と地方では一件の救急出動が持つ意味そのものが違うからだ。

 都市部では救急要請の件数が多く、短時間に複数の要請が重なることによって救急車が不足しやすい。一方、人口の少ない地方では出動件数そのものは少なくても、患者宅までの距離や病院までの搬送距離が長く、一件の要請によって救急車が地域を離れる時間が長くなる可能性がある。

 都市の救急車は「数」に追われ、地方の救急車は「距離」に追われる。しかし最終的にはどちらも、次の患者に向かえる救急車がないという同じ問題に行き着く。

行政区域ではなく「時間の地図」を描く

 ここまで考えると、「救急車1台が人口何人、面積何平方キロメートルを担当できるのか」という問いそのものを少し変えたほうがよいことが分かる。

 重要なのは自治体全体の人口や面積ではなく、救急車が住民のもとへ何分で到達でき、患者を病院へ搬送し、再び次の要請へ対応できる状態に戻るまで何分かかるかである。

 消防署から10分以内で到達できる地域には何人が暮らしているのか、15分を超える地域には何人いるのか、さらに20分以上かかる集落がどこに残されているのかを調べれば、単なる行政区域の地図とは違った地域の姿が見えてくる。

 そこに救急要請の発生件数、高齢者人口、道路状況、受け入れ可能な病院までの所要時間を重ねれば、「救急車が何台あるか」という数字から、「その救急車がどれだけの時間的余裕を持って住民を守っているか」という、より本質的な地域分析へ進むことができる。

 地図に描くべきなのは市町村境界ではなく、ある意味では「時間」なのである。

人口2万人でも安全な町と危うい町がある

 人口2万人に救急車一台という目安が同じでも、地域条件が変われば救急体制の余力は大きく変わる。

 人口密度が高く、道路網が整い、病院が近く、高齢化率も比較的低く、近隣消防署との応援体制が充実している地域であれば、一台当たりが担当する人口がある程度多くても対応力を維持できる可能性がある。反対に、人口が少なくても広い地域に集落が分散し、病院までの距離が長く、高齢化率が高く、隣接する救急隊も遠いのであれば、一台の救急車に人口以上の負荷がかかる。

 この違いは、人口密度だけでも十分に説明できない。面積が広くても高速道路や幹線道路が整っていれば到達時間は短くなることがあり、面積が小さくても山や川によって道路が限られていれば移動時間は長くなる。さらに観光地では住民人口が少なくても季節によって昼間人口が急増することがあり、人口統計だけを見て救急需要を予測すると実態とずれる。

 救急車一台を評価するためには、人口、面積、人口密度、年齢構成、道路、医療機関、観光客、近隣自治体との連携といった複数の条件を、最終的には「何分かかるのか」という時間の尺度に変換して考える必要がある。

救急車が町を離れたあとに何が残るのか

 地域の救急体制を考えるとき、最も重要なのは救急車が配置されているかどうかではなく、その一台が出動したあとに何が残るのかという視点ではないだろうか。

 一台しかない地域でその救急車が病院へ向かえば、次の救急要請は近隣地域の車両に頼ることになる。二台あれば一台が残るが、その一台も出動すれば同じことが起きる。つまり救急体制の本当の強さは保有台数ではなく、一件の出動が発生したあとにもどれほどの余力が残っているかによって決まる。

 これは防災や電力供給にも似ている。普段の需要を満たしているだけでは十分ではなく、一部の設備が使えなくなったときにもシステム全体が機能し続けられる余裕が必要になるからである。

 救急車についても、平均的な出動件数を処理できるだけでは十分とは言えない。二件目、三件目が重なったときにどこから応援が来るのか、何分で到着できるのか、さらに隣の地域も同時に出動していた場合はどうなるのかまで考える必要がある。

 地域の救急力とは、平常時の能力よりむしろ「余裕が一つ失われたあとにも機能を維持できる力」として考えたほうが実態に近い。

救急車1台の限界は、人口ではなく「時間の余白」にある

 結局のところ、「救急車1台は人口何人、面積何平方キロメートルまで担当できるのか」という問いに、一つの数字で答えることはできない。

 制度上は人口2万人程度に一台という一つの目安が存在するが、人口2万人が狭い市街地に集まって暮らしている場合と、広い地域に分散して暮らしている場合では一台の能力は異なる。さらに高齢化が進めば人口当たりの救急需要が増える可能性があり、病院までの搬送距離が長ければ一件の出動で地域を離れる時間が長くなり、二件目の救急要請が重なれば一台しかない体制の弱さが一気に表面化する。

 したがって救急車の限界とは、人口の限界でも面積の限界でもない。人口が生み出す「需要」、地理が生み出す「距離」、そして一件の救急活動が消費する「時間」が重なったところに、その地域固有の限界が生まれる。

 深夜、遠くで聞こえていた救急車のサイレンが次第に小さくなり、やがて町の外へ消えていく。その瞬間、町の人口も面積も変わらず、道路も建物も昨日と同じ場所にある。しかし救急医療という視点から見れば、その町が持っていた安全の余白は確実に小さくなっている。

 人口減少時代に問うべきなのは、救急車が何台置かれているかという数字だけではない。一台が町を離れたあと、その地域にはあと何分の余裕が残されているのかという問いである。

 人口統計にはほとんど表れないその「時間の余白」こそ、病院数や医師数と並び、これからの地域の暮らしやすさと安全性を測る重要な指標になっていくのではないだろうか。

地域の課題を、自分の判断に置き換えて考える

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地方で暮らすとき、病院まで何キロあるかを気にする人は少なくありません。

しかし、救急医療について考えるなら、本当に重要なのは地図上の距離だけではありません。自宅から10キロ先に病院があっても、その病院が夜間の救急患者を受け入れられなければ、救急車はさらに遠くの病院へ向かわなければならないからです。

人口減少が続くこれからの地方では、この「実際に治療を受けられる病院までの距離」が、現在より長くなる地域が増える可能性があります。

しかも問題は、単純に病院の数が減るということだけではありません。病院の機能分担、医師や看護師の不足、高齢者の増加、救急需要の集中などが同時に進むことで、地方の救急医療は「病院は存在するが、近くでは治療できない」という形へ変化していく可能性があります。

病院までの「距離」には二つある

救急医療を考えるときには、地理的距離と医療的距離を分けて考える必要があります。

地理的距離とは、自宅から病院まで道路で何キロあるかという通常の意味での距離です。

一方、医療的距離とは、「その患者を治療できる医療機関まで、実際にどれくらい時間がかかるか」という距離です。

たとえば町内に病院があったとしても、脳卒中、急性心筋梗塞、重症外傷などに対応できなければ、患者は別の地域の病院へ搬送されます。その場合、地図上では病院が近くても、救急医療という観点では病院が遠い地域になります。

これから地方で問題になるのは、おそらくこちらです。

病院までの道路距離より、「治療可能な病院までの時間」が長くなる。

この変化を見なければ、地方医療の将来は正確には理解できません。

全国でも救急搬送にはすでに時間がかかっている

総務省消防庁によると、2023年中に救急車で搬送された人は約664万人で、119番通報を受けてから医師へ引き継ぐまでの病院収容所要時間は全国平均約45.6分でした。2019年と比較すると約6.1分長くなっています。

もちろん、この時間が長くなった原因をすべて地方の病院減少で説明することはできません。救急需要の増加、受入医療機関との調整、都市部の交通事情など複数の要因があります。

それでも重要なのは、日本の救急医療がすでに「救急車を呼べば、すぐ近くの病院に運ばれる」という単純な仕組みではなくなっていることです。

消防庁自身も、高齢化を救急需要増大の一因として挙げています。2023年の救急搬送人員の61.6%を高齢者が占めていました。

地方では今後、人口そのものは減少しても、高齢者の比率が高い状態が続く地域があります。したがって、「人口が減るから救急需要も同じ割合で減る」と考えることはできません。

ここに地方医療の難しさがあります。

人口が減れば、すべての病院を現在と同じ形では維持しにくい

国立社会保障・人口問題研究所の地域別将来推計人口は、2020年を基準として2050年までの市区町村別人口を推計しています。地方の多くの自治体で人口減少が続くことが予測されています。

人口が減少すると、医療機関の患者数だけでなく、その地域で働く医師、看護師、医療技術職などを確保することも難しくなります。

一方、救急病院には24時間対応するための人員、検査設備、手術設備などが必要です。

人口が半分になったからといって、夜勤の医師や看護師を半分にすればよいわけではありません。救急医療には、患者が来るかどうかにかかわらず維持しなければならない固定的なコストがあります。

その結果として起こりやすいのが、医療機能の集約です。

厚生労働省が進める2040年に向けた地域医療構想でも、人口構造や医療需要の変化を踏まえ、急性期拠点機能、高齢者救急・地域急性期機能などについて、医療機関同士の役割分担や連携、必要に応じた再編・集約化を進める方向が示されています。なお、厚生労働省は地域医療構想について「病床削減や統廃合ありきではない」と明記しています。

したがって、将来すべての地方で病院がなくなると考えるのは適切ではありません。

むしろ起きる可能性が高いのは、病院ごとの役割が分かれ、高度な救急医療を行う病院が特定の拠点へ集中することです。

その結果、自宅から最寄りの「病院」までの距離は変わらなくても、重症時に搬送される「救急病院」までの距離は長くなる可能性があります。

外房では、すでに医療圏を越える救急搬送が珍しくない

この問題を具体的に見るため、千葉県の山武・長生・夷隅地域を見てみます。

千葉県保健医療計画によると、山武長生夷隅保健医療圏は、東金市、茂原市、勝浦市、いすみ市、御宿町など6市10町1村を含む広い地域です。

2023年度に千葉県が実施した救急搬送実態調査では、この医療圏における3,631件の救急搬送のうち、二次医療圏内への搬送は64.6%でした。

反対にいえば、35.4%は二次医療圏外の医療機関へ搬送されています。

さらに、救急隊が覚知してから病院に収容されるまでの平均時間は67.00分でした。

内訳を見ると、覚知から現場到着まで12.42分、現場到着から出発まで30.47分、現場出発から病院収容まで24.11分となっています。

この数字は重要です。

救急医療では、「道路を何分走ったか」だけが問題なのではありません。

患者の状態を確認し、受け入れ可能な病院を探し、病院側と調整し、それから搬送するという過程があります。

同じ調査では、受入医療機関との平均交渉回数は1.90回で、5回以上交渉したケースも7.6%ありました。

つまり救急医療の距離とは、

自宅から病院までの距離

だけではなく、

救急車が来る時間+現場での処置時間+搬送先を決める時間+病院まで走る時間

として考えなければならないのです。

外房の人口減少は、この問題をさらに難しくする

山武長生夷隅保健医療圏では、2020年に約41万人だった人口が、推計では2050年に約27万人まで減少する見通しです。

単純計算なら約3分の1の人口が減ることになります。

人口がこれだけ減れば、地域全体の医療需要も変化します。

しかし、道路網や救急隊の担当区域、病院を24時間稼働させるために必要な設備や人員まで3分の1減らせるわけではありません。

しかも人口密度が低下すると、一人の患者を搬送するために移動しなければならない距離は相対的に長くなりやすくなります。

これは水道、道路、公共交通などの地方インフラにも共通する問題です。

人口が減っても地域の面積は縮まりません。

医療についても同じで、住民が減っても、御宿、勝浦、大多喜、いすみ、茂原などの町同士の距離が短くなるわけではありません。

むしろ医療機能が限られた拠点へ集まれば、一人あたりの「医療への距離」は長くなる可能性があります。

ただし、すべての患者が遠い病院へ運ばれるわけではない

一方で、将来の地方医療を単純に悲観することも適切ではありません。

国が進めている地域医療構想は、一つの巨大病院にすべてを集めることだけを目的としているわけではありません。

地域内では、高度な急性期医療を担当する病院、高齢者の急変を受け入れる病院、回復期を担当する病院、在宅医療を支援する医療機関などに機能を分け、それらを連携させる考え方が強くなっています。

さらに、ドクターヘリ、ドクターカー、救急救命士による処置、遠隔医療、救急相談などを組み合わせれば、「病院をすべて住民の近くに置く」という方法以外にも救命率を維持する方法があります。

消防庁によると、2024年4月時点で救急救命士を運用する救急隊は全国5,415隊中5,396隊、99.6%に達しています。

したがって将来の救急医療は、「病院までの距離を短くする」という発想だけではなく、病院へ到着するまでの医療をどこまで充実させられるかという方向にも進むでしょう。

30年後の地方では「病院まで何キロか」だけでは判断できない

地方移住や老後の居住地を考えるとき、「総合病院まで車で20分だから安心だ」と考えたくなります。

しかし30年という時間軸で考えるなら、その判断だけでは不十分です。

見るべきなのは、その病院が将来も存在するかだけではありません。

夜間休日の救急を受け入れているのか、脳卒中や心筋梗塞に対応できるのか、重症患者はどこの病院へ搬送されるのか、その地域には何隊の救急車があるのか、隣接する医療圏との連携がどうなっているのかという、医療システム全体です。

地方では今後、最寄りの医療機関までの物理的な距離が急激に変化するとは限りません。

しかし、

「必要な治療を受けられる場所までの実質的な距離」は長くなる地域が出てくる可能性が高い。

これが人口減少時代の地方救急医療を見るうえで重要な点です。

地方で本当に見るべきなのは「距離」ではなく「時間」

救急医療にとって1キロという距離は、どこでも同じ価値を持つわけではありません。

道路事情がよく、近くの病院が24時間受け入れていれば20キロでも早く治療に到達できる場合があります。

反対に、数キロ先に病院があっても受け入れられず、別の病院を探すことになれば、治療開始まで1時間以上かかることもあり得ます。

そのため地方の医療環境を評価するなら、

「最寄りの病院まで何キロか」ではなく、「救急時に治療開始まで何分かかる地域なのか」

を見る必要があります。

人口減少が進む30年後の地方では、この数字が現在以上に重要になるでしょう。

スーパーやガソリンスタンドなら、遠くなれば不便になります。

しかし救急病院の場合、距離が長くなることは単なる不便ではありません。

地方で将来も安心して生活できるのかを考えるとき、救急医療までの「時間」は、水道、交通、買い物環境と並ぶ重要な生活インフラの一つとして考える必要があります。

地域の課題を、自分の判断に置き換えて考える

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地方で暮らしていると、救急車は119番に電話すれば来るものだと考えがちです。消防署や分署が現在と同じ場所にあり、道路も大きく変わらないのであれば、30年後も救急車の到着時間は現在とそれほど変わらないようにも思えます。

しかし、救急医療を人口減少という側面から見ると、この前提は必ずしも成り立ちません。

むしろ地方では、人口が減るほど救急車が暇になるのではなく、人口密度の低下、高齢化、消防職員の不足、救急需要の増加、医療機関の再編が同時に進むことで、現在の救急体制を維持すること自体が難しくなる可能性があります。

30年後の問題は「救急車がなくなるか」という単純な話ではありません。

重要なのは、119番通報から患者が治療を受けられるまでの時間を、現在と同じ水準で維持できるのかという問題です。

全国平均では、すでに救急車の到着時間は長くなっている

消防庁の「令和7年版 救急・救助の現況」によると、2024年の救急自動車による救急出動件数は約771万8千件で、統計開始以来最多となりました。現場到着までの平均時間は約9.8分です。2019年と比較すると約1.1分長くなっています。さらに、119番通報から医師へ患者を引き継ぐまでの病院収容所要時間は平均約44.6分で、2019年より約5.1分延びています。

ここで注意したいのは、救急医療の時間には大きく二つの段階があることです。

119番通報を受けてから救急車が現場に到着するまでの時間と、そこから搬送先を決め、患者を病院へ運び、医師へ引き継ぐまでの時間です。

したがって、

「救急車が10分で来たから救急医療は維持されている」

とは限りません。

救急車が早く来ても、受け入れる病院まで30分、40分とかかれば、患者にとって重要なのは後者を含めた総時間だからです。

そして地方の将来を考える場合、この二つの時間の両方に人口減少の影響が及びます。

人口が減れば救急需要も減る、とは限らない

人口10万人の地域が将来6万人になれば、単純に考えると救急車を呼ぶ人数も4割減りそうに見えます。

ところが、人口構成が変わります。

厚生労働省が示している2040年の人口構造では、2025年から2040年にかけて15~64歳の生産年齢人口は約15%減少する一方、85歳以上人口は約42%増加すると推計されています。地方都市型地域でも、生産年齢人口が平均19.1%減少する一方、高齢人口は2.4%増えるという構造です。

救急需要を考える場合、この人口構成の変化は非常に重要です。

若い人と85歳以上の人では、救急車を必要とする確率が同じではありません。心疾患、脳血管疾患、転倒、骨折、呼吸器疾患など、年齢が高くなるほど救急搬送につながる病態は増えていきます。

つまり地方では、

総人口は減少しているのに救急需要はそれほど減らない

という時期が発生する可能性があります。

さらに問題なのは、救急サービスを提供する側の人口です。

救急需要を支える消防職員、救急救命士、看護師、医師などは主として生産年齢人口から供給されます。

したがって地方では、

救急サービスを利用する高齢者の割合が上がる一方、それを支える働き手が減る

という非対称な人口構造が生まれます。

救急医療の将来を考えるうえでは、総人口だけを見るのではなく、この比率を見る必要があります。

人口密度が下がっても、地域の面積は小さくならない

地方の救急でさらに重要なのが「面積」です。

例えば、ある自治体の人口が3万人から1万5千人に半減したとしても、市町村の面積が半分になるわけではありません。

道路の長さも大きくは変わりません。

集落間の距離も変わりません。

山間部や海岸部まで救急車が走らなければならないことも変わりません。

この点を消防庁自身も問題として認識しています。

消防庁の「市町村の消防の広域化に関する基本指針」では、人口減少によって消防本部の管轄人口が減少し、生産年齢人口の減少を通じて財政面や人材確保が厳しくなる一方、人口密度が低下しても消防活動に必要な消防署や出張所などの数は大きく変化しないため、消防力の維持が難しくなる可能性があるとしています。特に小規模な消防本部ほど影響が深刻になるとしています。

これは地方公共サービスに共通する重要な問題です。

人口を (P)、管轄面積を (A) とすると、人口密度は

[ D=\frac{P}{A} ]

です。

人口だけが半分になれば、

[ D'=\frac{0.5P}{A}=0.5D ]

となります。

ところが救急車が走らなければならない最大距離は、人口が半分になったからといって半分にはなりません。

つまり人口1人当たりで考えると、広い地域を維持するための消防・救急インフラ負担は相対的に大きくなります。

この構造こそが、人口減少地域で公共サービスを維持する難しさです。

「人口が減ったから消防署を半分にする」ができない理由

仮に人口4万人の地域に消防署や分署が4か所あったとします。

30年後に人口が2万人になったから、人口に比例して2か所に減らせばよいでしょうか。

財政だけを考えれば合理的に見えます。

しかし消防署を統合すると、残された署所から地域の端までの距離が長くなります。

救急車の平均速度を時速40キロメートルと仮定した場合、出動地点までの距離が5キロメートル伸びれば、単純計算だけでも、

[ \frac{5}{40}\times60=7.5 ]

となり、約7.5分余計に必要になります。

実際には信号、交差点、狭い道路、山道、救急車への乗車準備などがあるため、距離と時間は完全な比例関係ではありません。それでも、署所の配置が救急車の到着時間を左右することは明らかです。

したがって人口減少地域では、

利用者は減るが、地理的なサービス範囲はほとんど減らない

という公共サービス特有の問題が生じます。

水道、道路、路線バスなどでも見られる構造ですが、人命に直結する救急ではサービス水準を簡単に下げることができません。

もう一つの問題は「救急車が出払っている時間」である

救急車の到着時間を決めるのは消防署までの距離だけではありません。

近くの救急車がすでに別の患者を搬送していれば、より遠い消防署から別の救急車を向かわせなければならない場合があります。

ここで重要になるのが、一件の救急搬送に救急車が拘束される時間です。

全国平均では、119番通報から病院へ患者を引き継ぐまで約44.6分かかっています。

仮に一件の救急搬送で救急隊が約45分拘束されると考えれば、救急件数が増えるほど同時出動の可能性は高まります。

地方の場合、搬送先の病院までの距離が長ければ、この拘束時間はさらに長くなることがあります。

例えば近隣病院まで20分だった地域で救急対応病院が集約され、40分離れた病院へ搬送するようになれば、一件の搬送が地域の救急車を占有する時間も増えます。

すると問題は、

「救急車が何台あるか」

ではなく、

「必要な瞬間に何台が地域内で利用可能なのか」

へ変わります。

この違いは非常に大きな意味を持ちます。

病院の再編は救急車の問題でもある

人口減少時代の救急を消防だけの問題として考えることはできません。

厚生労働省は2040年以降を見据え、新たな地域医療構想を進めています。そこでは人口減少や85歳以上人口の増加を踏まえ、急性期医療、高齢者救急、在宅医療などについて医療機関間の役割分担を進めるとともに、病院や病床の連携、再編、集約化を進める方向が示されています。

医療資源が限られる以上、すべての地域に現在と同じ病院機能を残すことは難しくなります。

高度な救急医療については、一定規模の病院へ患者を集めたほうが医師や設備を効率的に配置でき、医療の質を維持しやすくなります。

これは医療政策として合理性があります。

しかし住民側から見ると別の問題が生じます。

病院が集約されれば、救急車の搬送距離が延びる地域が出てくるからです。

したがって人口減少時代には、

病院を集約して医療の質を維持する合理性

と、

病院までの距離が延びることで救急搬送時間が長くなる問題

を同時に考えなければなりません。

どちらか一方だけを最適化すればよい問題ではありません。

2050年までの人口減少は、すでに市町村単位で推計されている

30年後の話というと、非常に遠い未来の予測のように感じます。

しかし人口については、かなり具体的な推計がすでに存在します。

国立社会保障・人口問題研究所は2020年国勢調査を基に、全国の市区町村について2050年まで5年ごとの人口を推計しています。しかも総人口だけでなく、年齢階級別の人口まで市町村単位で公表されています。

したがって地域ごとに、

現在の人口、

2050年人口、

65歳以上人口、

75歳以上人口、

生産年齢人口、

消防署の所在地、

救急車の配置台数、

救急対応病院の所在地

を重ねれば、将来の救急体制にどの程度の負荷がかかるのかをある程度分析できます。

これは単なる将来予想ではありません。

人口統計と地理データを組み合わせれば、地域ごとに異なる問題として可視化できるテーマです。

30年後も現在と同じ時間で来る可能性はある

ここまで見ると救急車の到着時間は必ず長くなるようにも見えますが、そう断定するのも適切ではありません。

消防庁は小規模消防本部の課題に対応するため消防の広域化を進めており、広域化した消防本部では人員配置の効率化や消防体制の強化といった成果が確認されているとしています。

複数自治体の消防本部を一体化すれば、市町村境に縛られず最も近い救急車を出動させる運用もしやすくなります。

さらに、救急車の配置最適化、通信指令システムの高度化、デジタル技術による搬送先検索、ドクターヘリなどを組み合わせれば、人口が減っても到着時間を維持できる可能性があります。

つまり将来は、

消防署を現在と同じ数だけ残すこと

と、

現在と同じ救急サービスを維持すること

が必ずしも同じ意味ではなくなります。

署所を再編しながら広域的に救急車を運用し、情報技術によって配車を最適化するという方向も考えられます。

地方で本当に見るべき数字は「救急車が来るまでの時間」だけではない

住民にとって最も分かりやすい数字は救急車の到着時間です。

しかし将来の地域医療を評価するのであれば、それだけでは不十分です。

重要なのは、

[ T=T_{119}+T_{出動}+T_{走行}+T_{現場}+T_{搬送}+T_{受入} ]

という患者が治療につながるまでの時間全体です。

ここで、消防署が近くても搬送先病院が遠ければ総時間は長くなります。

逆に消防署が多少遠くなっても、広域的な救急車配置や病院との連携が改善されれば、総時間を短くできる可能性もあります。

したがって地方の救急医療を考えるときには、

「消防署を残すか」

ではなく、

「119番から治療開始までの時間をどのように維持するか」

という視点に変える必要があります。

30年後の地方で問われるのは、人口ではなく「距離を支える能力」である

人口減少について議論すると、「人が減れば公共サービスも小さくすればよい」という考え方が出てきます。

しかし救急ではその考え方が簡単には成立しません。

住民が半分になっても地域の面積は半分にならず、道路も集落間距離もほとんど変わらないからです。

しかも住民の高齢化が進めば、人口減少ほど救急需要が減らない可能性があります。

その一方で、消防職員や医療従事者を供給する生産年齢人口は減少します。

つまり地方の救急医療では、

人口減少、人口密度低下、高齢化、人材不足、病院再編

という五つの変化が同時に進みます。

消防庁自身も、人口減少と低密度化が進む一方で必要な消防署所の数は大きく変化しにくく、特に小規模消防本部では消防力の維持が難しくなる可能性を指摘しています。

したがって、

「地方では30年後も、救急車は今と同じ時間で来るのか」

という問いに対する答えは、

「何もしなくても現在と同じ時間で来るとは考えにくい。しかし、必ず遅くなるとも決まっていない」

となります。

消防の広域化、救急車の配置最適化、医療機関との連携、救急需要そのものを減らす地域医療、そして人口密度を考慮した地域構造を今から設計できるかによって結果は変わります。

30年後の救急体制は、30年後になってから考えても間に合いません。

人口構造の変化はすでに予測されています。

問われているのは未来を予測できるかではなく、予測できている未来に対して、現在のうちから公共サービスの配置を変えられるかどうかなのです。

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病院の数だけでは分からない「地域医療の強みと弱点」を生活者目線で検証

茂原市と長生郡は、千葉県外房・九十九里地域の中では比較的医療機関が集まっている地域です。

茂原駅周辺には複数の病院や診療所があり、茂原市本納には公立長生病院があります。夜間急病診療所も設置され、休日当番医や救急当番病院の仕組みも用意されています。

このため、病院名を地図上で確認するだけなら、「地方としては医療機関が多く、特に問題はない」と感じるかもしれません。

しかし、地域医療の実力は、病院の数だけでは判断できません。

重要なのは、次のような場面です。

  • 夜中に子どもが発熱したとき
  • 高齢の親が転倒して骨折したとき
  • 胸痛や脳卒中が疑われるとき
  • がんや心臓病の高度な治療が必要になったとき
  • 退院後、自宅で療養するとき
  • 自動車を運転できなくなったとき
  • 台風や浸水で道路が通れなくなったとき

茂原市・長生郡の医療体制は、日常的な外来診療から一定範囲の入院・救急医療までを地域内で支える一方、高度急性期医療や一部の専門医療は、東金市、市原市、千葉市など地域外の病院との連携を前提としています。

したがって、この地域の医療を正しく評価するには、「病院があるか」ではなく、病気の重さに応じて、どこまで地域内で完結し、どこから地域外へ移動するのかを見なければなりません。

本記事では、2026年7月時点で確認できる千葉県、茂原市、公立長生病院などの公式情報を中心に、茂原市・長生郡の医療体制を生活者の視点から検証します。


先に結論――茂原市は地域医療の中心だが、すべてを完結できる医療都市ではない

茂原市・長生郡の医療体制を一言で表すなら、次のようになります。

日常診療と一定範囲の救急・入院医療を支える地域基盤はあるが、高度医療まで地域内ですべて完結する体制ではない。

茂原市には複数の救急病院等があり、公立長生病院も地域の中核的な役割を担っています。夜間については長生郡市夜間急病診療所があり、休日当番医の仕組みもあります。したがって、一般的な内科疾患、軽症の夜間受診、一定範囲の外科・整形外科・入院治療については、地方部として一定の医療資源があります。([もばら市公式ウェブサイト][1])

一方、千葉県の保健医療計画では、茂原市・長生郡を含む山武長生夷隅保健医療圏について、外来医師が需要に対して少ない地域と評価されています。外来医師偏在指標は85.9で、全国330医療圏中255位です。また、地域内の医療機関が不足を強く感じている機能として、初期救急、小児医療、認知症、在宅医療が挙げられています。

つまり、病院が複数あることと、必要な診療をいつでも受けられることは同じではありません。

茂原市・長生郡で暮らす人にとって重要なのは、医療機関の総数よりも、診療科、診療日、夜間対応、救急搬送先、自宅からの距離を確認することです。


1.「茂原市・長生郡」といっても、医療条件は同じではない

長生地域は、茂原市と長生郡の6町村から構成されます。

  • 一宮町
  • 睦沢町
  • 長生村
  • 白子町
  • 長柄町
  • 長南町

この地域では、茂原市が商業、行政、医療の中心として機能しています。

茂原市内や本納周辺に住む場合は、複数の病院や診療所を比較できます。一方、白子町の海岸部、睦沢町、長柄町、長南町などでは、自宅から医療機関まで相当の距離が生じることがあります。

同じ長生地域でも、次の違いがあります。

居住地域 医療面の特徴
茂原駅周辺 病院・診療所の選択肢が比較的多い
本納周辺 公立長生病院を利用しやすい
一宮町・長生村 茂原市内と地域内診療所を使い分けやすい
白子町 茂原方面への自動車移動が重要
睦沢町 茂原市や一宮町方面への移動を想定する必要がある
長柄町 茂原市に加え、市原市方面の医療機関も選択肢になる
長南町 茂原市、市原市方面への移動条件が重要になる

この表は、医療機関の優劣を示すものではありません。

重要なのは、住民が「地域内に病院がある」と考えていても、自宅から実際の受診先まで20分、30分以上かかる場合があることです。

特に高齢者、運転できない人、子育て世帯では、距離そのものよりも、家族が送迎できるか、夜間にも移動できるかが問題になります。


2.地域医療の中心となる公立長生病院

公立長生病院は、茂原市本納にある公立病院です。

公式情報によると、一般病床は180床で、そのうち30床が地域包括ケア病床です。診療科として、内科、外科、産婦人科、整形外科、小児科、皮膚科、眼科、脳神経内科、耳鼻咽喉科、泌尿器科、脳神経外科、麻酔科、放射線科、リハビリテーション科などが掲げられています。([公立長生病院][2])

地域包括ケア病床とは、急性期治療を終えた患者が、すぐに自宅へ戻ることが難しい場合などに、在宅復帰へ向けた治療やリハビリテーションを行う病床です。

この30床の意味は小さくありません。

高齢者が肺炎や骨折で入院した場合、治療そのものが終わっても、歩行、食事、服薬、家族の受け入れ準備が整わなければ、自宅へ戻れないことがあります。

地域包括ケア病床は、救命医療のための病床というより、病院から自宅や介護施設へ移る途中を支える病床です。

高齢化が進む地域では、手術件数や高度医療設備だけでなく、こうした「退院後の生活につなぐ機能」が重要になります。

公立長生病院だけで地域医療は完結しない

ただし、公立長生病院に多くの診療科が掲げられているからといって、すべての診療科で毎日、常勤医による診療が行われているとは限りません。

公式サイトでも、診療科によって特定の曜日や時間帯に外来診療が行われていることが案内されています。例えば、内科の一部午後外来、皮膚科、整形外科などには曜日指定があります。([公立長生病院][3])

地方の病院を評価する際には、「診療科名があるか」だけでは不十分です。

次の項目まで確認する必要があります。

  • 常勤医か非常勤医か
  • 毎日診療しているか
  • 予約が必要か
  • 初診を受け付けているか
  • 手術や入院に対応しているか
  • 夜間・休日にも対応できるか
  • 休診時の紹介先はどこか

病院案内に診療科名が掲載されていても、希望する曜日に受診できるとは限りません。


3.茂原市内には複数の救急対応病院がある

千葉県の救急病院等一覧では、長生地域について、茂原市内の次の病院が掲載されています。

病院 所在地
君塚病院 茂原市高師
宍倉病院 茂原市高師
菅原病院 茂原市高師町
山之内病院 茂原市町保
公立長生病院 茂原市本納

これらは2026年7月時点で千葉県の救急病院等一覧に掲載されている医療機関です。([千葉県公式サイト][4])

一見すると、救急病院が5施設あるため、十分な体制に見えます。

しかし、「救急病院等に指定されている」という事実は、あらゆる救急患者を24時間必ず受け入れられることを意味しません。

救急対応には、次の条件が影響します。

  • 当直医の専門
  • 空床の有無
  • 手術室の稼働状況
  • 看護師などの勤務体制
  • 検査・画像診断の体制
  • 患者の重症度
  • 既に受け入れている患者数
  • 感染症対応
  • 他院への転送が必要か

救急車を呼べば、必ず最寄りの病院へ運ばれるわけではありません。

患者の症状、医療機関の受け入れ状況、専門診療の必要性に応じて、地域外へ搬送される可能性があります。


4.夜間の発熱や腹痛は、どこへ行けばよいのか

茂原市八千代には、長生郡市夜間急病診療所があります。

茂原市の案内では、内科と小児科を診療し、受付時間は午後7時45分から午後10時45分までとされています。夜間急病診療所の受付終了後から翌朝6時までは、救急当番病院をテレホンガイドや消防本部へ問い合わせる仕組みです。外科についても消防本部への確認が案内されています。([もばら市公式ウェブサイト][1])

この夜間急病診療所は、住民にとって重要な存在です。

例えば、夕方から急に発熱した、子どもが夜になって咳き込んだ、腹痛が続くといった場合に、翌朝まで待つべきか判断しにくいことがあります。

一方、夜間急病診療所は、原則として重症患者の高度治療を行う施設ではありません。

役割は主として初期救急です。

救急医療は3段階に分けて考える

医療体制を理解するためには、救急医療をおおむね次の3段階に分けて考えると分かりやすくなります。

段階 主な対象 地域での役割
初期救急 発熱、軽い腹痛、軽症の子どもの急病など 夜間急病診療所、休日当番医
第二次救急 入院や手術が必要になる可能性がある患者 地域の救急病院
第三次救急 生命に関わる重篤患者、高度な救命処置 救命救急センター等

長生郡市夜間急病診療所は、主として初期救急を支えます。

茂原市内の救急病院等は、一定範囲の第二次救急を担います。

重症の心筋梗塞、重篤な脳卒中、多発外傷、高度な周産期救急などでは、東千葉メディカルセンターや千葉市・市原市などの高度医療機関が候補となります。


5.地域の弱点は「病院がないこと」より「専門医療が分散していること」

千葉県の保健医療計画では、山武長生夷隅保健医療圏の一般診療所数は263か所、診療所で診療に従事する医師は253人とされています。

外来患者に占める診療所受診の割合は77.2%で、全国や千葉県平均を上回ります。これは、この地域では病院だけでなく、地域の診療所が日常医療の大きな部分を担っていることを示します。

診療所中心の体制には利点があります。

  • かかりつけ医を持ちやすい
  • 高血圧や糖尿病などを継続的に診てもらいやすい
  • 高齢者が大病院へ集中することを防げる
  • 地域の生活事情を踏まえた診療が受けられる

一方、弱点もあります。

診療所の医師が高齢化し、後継者がいなければ、閉院や診療縮小につながります。専門医が週1回だけ診療している場合、その医師が来られなくなると、地域全体の診療機能が低下する可能性があります。

千葉県は、この医療圏について、診療所の医師が需要に比べて少ない地域としています。

さらに、一般診療所の診療科別医師数では、皮膚科や精神科など、県平均より人口当たり医師数が少ない診療科があることも示されています。

つまり、内科の診療所が複数あっても、皮膚科、精神科、小児科、在宅医療など、必要な分野が均等にそろっているわけではありません。


6.小児医療は「平日の診療所」と「夜間の入口」を分けて考える

子育て世帯にとって、地域医療で最も気になる分野の一つが小児医療です。

公立長生病院には小児科があり、長生郡市夜間急病診療所も夜間に小児科を診療しています。茂原市は、子どもの救急に関する情報も公開しています。([公立長生病院][5])

ただし、千葉県の計画では、地域の医療機関が不足を強く感じている診療機能の一つに小児医療が挙げられています。

これは、「小児科が存在しない」という意味ではありません。

問題は次の点です。

  • 診療時間外に受診できる場所が限られる
  • 夜間急病診療所の診療時間終了後は当番病院への確認が必要
  • 入院が必要な小児患者を地域内で必ず受け入れられるとは限らない
  • 重症小児は千葉県こども病院など地域外の専門病院へ搬送される可能性がある
  • 自宅から茂原市中心部まで距離がある家庭では移動負担が大きい

子育て世帯が移住先を選ぶ際は、「町内に小児科があるか」だけでなく、夜間の受診先、救急搬送先、自宅からの所要時間まで確認した方がよいでしょう。


7.心臓病・脳卒中・がんでは「地域外へ行く可能性」を前提にする

高齢になるほど、心疾患、脳血管疾患、がんの治療を受ける可能性が高くなります。

茂原市内でも、循環器、脳神経、外科、画像診断などの診療は行われています。しかし、高度な心臓血管手術、重症脳卒中に対する専門治療、高度ながん治療などは、症例や病状によって地域外の医療機関が選ばれる可能性があります。

山武長生夷隅保健医療圏の地域災害拠点病院は、2026年4月時点では東金市の東千葉メディカルセンターです。茂原市・長生郡内に災害拠点病院は掲載されていません。([千葉県公式サイト][6])

また、千葉県の保健医療計画は、この医療圏について、千葉、印旛、香取海匝、安房、市原などの隣接区域との入院患者の流出入が多いとしています。

これは、この地域の医療が孤立しているという意味ではありません。

むしろ、地域内の病院ですべてを抱えるのではなく、症状に応じて東金、市原、千葉、鴨川などの医療機関と役割分担しているということです。

ただし、患者や家族にとっては、地域外受診に次の負担が生じます。

  • 自動車や救急車による移動時間
  • 家族の送迎
  • 入院中の面会
  • 駐車料金
  • 高速道路料金
  • 退院後の定期通院
  • 配偶者が運転できない場合の移動手段
  • 患者が転院した際の情報共有

高度医療を受けられる医療機関が県内にあることと、高齢者が無理なく通院できることは別の問題です。


8.病床数は多ければよいわけではない

千葉県の推計では、山武長生夷隅保健医療圏の入院患者数は、2013年から2025年にかけて大きく増え、2030年ごろにピークを迎える見込みです。

一方、病床機能別に見ると、2025年に必要とされる病床数に対し、高度急性期と回復期が不足し、急性期と慢性期は過剰になる可能性が示されています。

県の資料では、必要数に対して、高度急性期が72床不足、回復期が560床不足する一方、急性期は492床、慢性期は263床多いという推計です。

この数字は、病床が余っている、足りないという単純な話ではありません。

病床には役割があります。

病床機能 主な役割
高度急性期 生命に関わる重症患者への高度治療
急性期 発症直後や手術後の集中的な治療
回復期 リハビリテーションや在宅復帰支援
慢性期 長期療養が必要な患者への医療

地域で高齢者が増えると、手術直後の急性期病床だけでなく、回復期や在宅医療との接続が重要になります。

例えば、脳卒中の治療を受けて命が助かっても、歩行や食事のリハビリテーションを十分に受けられなければ、自宅へ戻ることが難しくなります。

茂原市・長生郡の将来課題は、病床を単純に増やすことではなく、急性期治療後の回復期、在宅医療、介護までを途切れずにつなぐことです。


9.今後さらに重要になる在宅医療

千葉県は、山武長生夷隅保健医療圏の在宅医療等の需要について、2013年から2025年にかけて46%増加し、2035年には67%増加するとの推計を示しています。

人口が減少する地域でも、在宅医療の需要が増えることは矛盾ではありません。

高齢者人口が増え、入院期間が短くなり、病院ではなく自宅や施設で療養する人が増えるためです。

茂原市では、訪問診療を中心に行う在宅療養支援診療所も活動しています。2025年の地域保健医療連携会議では、茂原すみれ訪問クリニックが、開院後約3年間で自宅療養患者505人、施設療養患者27人に関わったことが報告されています。([千葉県公式サイト][7])

在宅医療では、医師だけでなく、次の職種の連携が必要です。

  • 訪問看護師
  • 薬剤師
  • ケアマネジャー
  • 訪問介護員
  • リハビリテーション職
  • 歯科医師・歯科衛生士
  • 福祉用具事業者
  • 地域包括支援センター

在宅医療があるから、家族の負担がなくなるわけではありません。

実際には、夜間の連絡、服薬管理、排せつ、食事、緊急時の判断などを家族が担うことがあります。

地域の在宅医療を評価するときは、「訪問診療を行う診療所があるか」だけではなく、24時間連絡体制、看取り、訪問看護、緊急入院先まで確認する必要があります。


10.自動車を運転できなくなった瞬間、医療環境の評価は変わる

茂原市・長生郡では、自動車を利用できる人とできない人で、医療へのアクセスが大きく変わります。

自動車があれば、茂原市内の複数の病院、診療所、薬局を使い分けられます。

しかし、免許を返納した場合、次の問題が生じます。

  • バス停まで歩けない
  • 通院時刻とバス時刻が合わない
  • 診察が長引くと帰りの交通手段がない
  • 複数の診療科を同じ日に回れない
  • 薬局への移動が必要
  • 家族の送迎回数が増える
  • 緊急ではないが急いで受診したい場合に困る

高齢者の医療アクセスを考える際、自宅から病院までの直線距離だけを見ても意味がありません。

確認すべきなのは、次の条件です。

確認項目 理由
自宅から病院までの実走距離 地図上の距離より実際の道路が重要
タクシー料金 往復・月数回で家計負担になる
バスの本数 診察終了時刻と合わないことがある
家族の送迎可能性 平日昼間に対応できるとは限らない
オンライン診療の可否 すべての病気に利用できるわけではない
訪問診療の対象地域 診療所ごとに訪問範囲が異なる
救急搬送先 最寄り病院とは限らない

地方移住を考える60代夫婦にとっては、現在の医療環境より、75歳、80歳になったときの通院方法の方が重要です。


11.災害時には「地域の病院も被災する」

茂原市・長生郡は、河川洪水、内水氾濫、台風、長時間停電などを考慮しなければならない地域です。

災害時には、病院があるだけでは不十分です。

  • 道路が冠水して救急車が通れない
  • 停電で診療機能が制約される
  • 通信障害で連絡できない
  • 高齢者施設から多数の患者が発生する
  • 透析、酸素療法、人工呼吸器などの継続が必要
  • 薬を自宅に置いたまま避難する
  • 医療従事者が出勤できない

千葉県の地域災害拠点病院には、高度診療、重症患者の受け入れ、広域搬送、DMAT(Disaster Medical Assistance Team・災害派遣医療チーム)の派遣などの機能が求められます。

山武長生夷隅保健医療圏では、東金市の東千葉メディカルセンターが地域災害拠点病院に指定されています。([千葉県公式サイト][6])

茂原市・長生郡内の病院は、災害時の地域医療を支える重要な存在ですが、圏域全体の災害医療は東金市などとの広域連携を前提としています。

持病がある人は、平常時から次を準備しておく必要があります。

  • お薬手帳
  • 数日分以上の常用薬
  • 診療情報や病名のメモ
  • 医療機器の電源確保
  • かかりつけ医以外の受診先
  • 家族の連絡方法
  • 避難先で必要となる医療処置

12.茂原市・長生郡の医療体制の強み

複数の病院と診療所がある

茂原市内には、公立長生病院に加え、複数の救急病院等があります。外来診療では診療所が大きな役割を担っています。([千葉県公式サイト][4])

夜間急病診療所がある

内科・小児科の初期救急を担う夜間急病診療所が茂原市内にあることは、地域住民にとって重要です。([もばら市公式ウェブサイト][1])

公立病院が地域の入院医療を支えている

公立長生病院は180床を有し、急性期だけでなく地域包括ケア病床も備えています。([公立長生病院][2])

地域外の高度医療機関と連携できる

東金市、市原市、千葉市などには、高度急性期医療や専門医療を担う医療機関があります。地域医療圏の計画も、隣接医療圏との患者の流出入と連携を前提としています。

在宅医療の基盤が形成されつつある

訪問診療を担う診療所が活動し、地域での在宅療養を支えています。([千葉県公式サイト][7])


13.茂原市・長生郡の医療体制の弱点

医師数が需要に対して十分とはいえない

外来医師偏在指標は全国330医療圏中255位で、診療所医師が少ない地域と評価されています。

初期救急、小児、認知症、在宅医療に不足感がある

県の計画では、地域の医療機関が不足を感じている機能として、初期救急、小児医療、認知症、在宅医療が挙げられています。

高度急性期医療は地域外への依存がある

地域内ですべての重症治療を完結するのではなく、東金、市原、千葉などとの広域連携が必要です。([千葉県公式サイト][6])

回復期病床が不足する可能性がある

高齢者が急性期治療後に自宅へ戻るまでを支える回復期機能について、県の推計では不足が見込まれています。

自動車依存が大きい

郡部では、診療所や病院までの移動に自動車が必要になるケースが多く、高齢期には通院の継続が難しくなる可能性があります。


14.住民が準備しておくべき「医療の使い分け表」

地域医療は、必要になってから初めて調べるのでは遅いことがあります。

世帯ごとに、次のような受診先一覧を作っておくと実用的です。

状況 事前に決めておく内容
日常の風邪・高血圧 かかりつけ診療所
夜間の軽症 長生郡市夜間急病診療所
休日の急病 休日当番医
外科的な急病 消防本部や救急相談で確認
救急車が必要な状態 119番
心臓病・脳卒中 地域病院から高度医療機関への連携
小児の夜間急病 夜間急病診療所・救急相談
在宅療養 訪問診療・訪問看護
災害時 避難先、薬、医療機器の電源

胸の強い痛み、片側の手足の麻痺、言葉が出ない、激しい呼吸困難、意識障害など、生命に関わる症状がある場合は、自己判断で診療所を探し回るのではなく、119番通報が必要です。


15.移住や住宅購入前に確認すべき医療項目

茂原市・長生郡へ移住する場合、住宅価格や買い物環境と同じ程度に、医療アクセスを調べる必要があります。

持病がある人

  • 現在の薬を継続処方できる医療機関があるか
  • 必要な検査設備があるか
  • 専門医の診療日
  • 高度医療が必要になった場合の紹介先
  • 地域外病院までの交通手段

子育て世帯

  • 小児科までの距離
  • 夜間急病診療所までの時間
  • 休日当番医の確認方法
  • 入院が必要な場合の搬送先
  • 保護者の送迎体制

高齢夫婦

  • 配偶者が運転できない場合の通院方法
  • タクシー代
  • 訪問診療の対象地域
  • 訪問看護の利用条件
  • 退院後の介護体制
  • 1人暮らしになった場合の支援

医療機器を使用する人

  • 停電時の電源
  • 酸素供給業者の災害対応
  • 非常用バッテリー
  • 避難所で医療処置を続けられるか
  • 災害時の受け入れ医療機関

現実的な結論

茂原市・長生郡の医療体制は、地方地域として一定の基盤があります。

公立長生病院をはじめ、茂原市内には複数の救急病院等があり、診療所も日常診療の大きな部分を担っています。夜間急病診療所や休日当番医の仕組みもあり、軽症から一定範囲の入院・救急医療まで、地域内で対応できる体制が形成されています。([公立長生病院][2])

したがって、「長生地域には病院がなく、病気になったら何もできない」という評価は正確ではありません。

一方、「茂原市に病院が複数あるため、どのような病気でも地域内で治療できる」という評価も正確ではありません。

この地域の医療体制には、明確な課題があります。

  • 外来医師が需要に対して少ない
  • 初期救急、小児医療、認知症、在宅医療に不足感がある
  • 高度急性期と回復期の機能が不足する可能性がある
  • 高度専門医療では地域外への移動が必要になる
  • 郡部では自動車が医療アクセスを左右する
  • 高齢化により在宅医療の需要が増える

茂原市・長生郡の医療は、一つの大病院ですべてを完結する形ではありません。

診療所で日常診療を受け、地域病院で検査・入院・救急対応を受け、重症時には東金、市原、千葉などの高度医療機関へつなぎ、退院後は回復期や在宅医療へ戻す。

この連携が機能して初めて、地域医療が成立します。

今後の課題は、病院を単純に増やすことではありません。

必要なのは、限られた医師、看護師、病床、救急車、訪問診療を、地域全体でどうつなぐかです。

住民の側にも、かかりつけ医を持ち、夜間・休日の受診方法を確認し、地域外の専門病院への移動手段を考えておく準備が求められます。

茂原市・長生郡の医療体制は、決して脆弱なだけの地域ではありません。

しかし、自動車を運転できること、家族が送迎できること、地域外の病院へ移動できることを暗黙の前提として成り立っている部分があります。

この「見えない前提」を理解することが、移住、老後生活、住宅購入を判断するうえで最も重要です。

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