地域分析記事

地域の暮らしと地域課題を数学とデータで考える

六十歳で住まいを決め、その家で九十歳まで暮らすと考えてみる。

三十年という時間は長い。住宅ローンを払い終えるには十分な長さである一方、屋根や外壁を傷ませ、給湯器を何度か交換し、自動車を何台か乗り継ぎ、人間自身の足腰まで変えてしまう長さでもある。

都市の駅に近いマンションなら、玄関の鍵を閉めれば、共用廊下の照明もエレベーターも、ごみ置き場も植栽も、基本的には管理の仕組みの中に置かれている。その代わり、毎月決まった管理費と修繕積立金を払い続けなければならない。

地方の戸建てでは、その引き落としがない。今月何も壊れなければ、住宅維持にほとんどお金を使わないことさえある。駐車場も自宅の敷地にあれば、月極駐車場代は必要ない。

こうして月々の請求額だけを見ると、地方戸建ての方が圧倒的に安いように思える。

しかし、老後三十年間という長さで考えると、話は少し違ってくる。マンションでは将来の修繕費の一部が毎月小分けにされて請求されるのに対し、戸建てでは屋根、外壁、給湯器、水回りなどの形になって、ときどきまとまって現れる。そして地方生活には、住宅の帳簿には記載されないにもかかわらず、生活を成立させるために必要な大きな設備がある。

自動車である。

「安い家」と「安く暮らせる家」は、必ずしも同じではない。

比べるべきなのは建物ではなく、そこで暮らす仕組みである

都市マンションと地方戸建ての比較を難しくしているのは、マンションと戸建てという建物形式だけが違うのではないことである。

駅に近い都市マンションを選べば、多くの場合、その価格の中には都市の密度も含まれている。徒歩圏や公共交通圏にスーパー、病院、薬局、金融機関などが集まっていれば、自分で長い距離を移動する必要が小さい。

地方戸建てでは、同じ購入予算でも広い住宅や土地を得やすい。その代わり、病院まで十キロ、スーパーまで五キロという距離が生活の中に入り込むことがある。

六十歳のとき、その十キロは大きな問題ではないかもしれない。自動車に乗れば十数分だからである。

ところが七十歳、八十歳、九十歳へと年齢が進むにつれて、同じ十キロの意味が変わっていく。

国土交通省の全国都市交通特性調査は、三大都市圏と地方都市圏では交通行動が異なり、地方都市圏ほど自動車の役割が大きいことを示してきた。最新の全国都市交通特性調査も、地域別、年齢別、交通手段別の移動実態を把握することを目的としている。地方生活を考えるとき、自動車は単なる趣味やぜいたく品ではなく、場合によっては住宅と生活サービスを結びつける装置になる。

だから老後の住居費を比べるなら、建物に直接支払うお金だけでなく、「その家に住み続けるために必要になるお金」まで含めなければならない。

マンションでは、住宅ローンが終わっても時計は止まらない

国土交通省が五年に一度実施している「令和5年度マンション総合調査」では、駐車場使用料などからの充当額を除いた一戸当たりの管理費は月平均11,503円、修繕積立金は月平均13,054円とされている。国土交通省はこの調査をマンション管理の実態を把握する基礎調査として公表している。

二つを合わせると月24,557円になる。

この金額が三十年間まったく変わらないという単純な条件なら、

24,557円 × 12か月 × 30年 = 8,840,520円

となり、約884万円である。

ここで注意したいのは、これは「三十年後まで約884万円しかかからない」という予測ではないことである。あくまで現在の平均額を三十年間そのまま置いた基準値にすぎない。

国土交通省の長期修繕計画に関する基準では、計画期間を三十年以上とし、その期間に大規模修繕工事が二回以上含まれることなどが求められている。工事費や建物の状態は将来変わるため、現在の修繕積立金が三十年間固定されるとは限らない。

さらに修繕積立金で直すのは主として共用部分である。自分の住戸内の給湯器、キッチン、浴室、エアコン、床、壁紙などについては、原則として別の費用を考えなければならない。

マンションには修繕費がかからないのではない。

大きな建物を共同で維持する費用を毎月払いながら、自分の住戸内部については自分でも維持する構造なのである。

戸建ての「管理費ゼロ」は、修繕費ゼロを意味しない

地方戸建てには通常、マンションのような管理費や修繕積立金はない。

その自由は大きい。

外壁を今年塗るか、もう数年使うか。古いキッチンを交換するか、そのまま使うか。庭木を業者に頼むか、自分で切るか。安全性に問題がない範囲なら、支出の時期を所有者自身が決められる。

しかし自由であることと、費用が存在しないことは別である。

三十年間には、給湯設備、水回り、エアコン、外壁、屋根、雨どい、建具などの何らかの補修や交換が発生する可能性が高い。ただし、その総額には巨大なばらつきがある。

築年数が違えば違う。木造か鉄骨造かでも違う。屋根材や外壁材によっても違い、延床面積、施工状態、海からの距離、台風や塩害などの環境条件にも左右される。

したがって「戸建ては三十年間で700万円かかる」と全国平均のように断定することはできない。

この記事でこれから使う700万円という数字は、統計的な全国平均ではなく、比較の仕組みを見るためのシミュレーション上の仮定である。

ここを区別しなければ、数理的な比較は数字が細かいだけの印象論になってしまう。

30年間を一度、同じ物差しに載せてみる

そこで、住宅ローンをすでに完済している六十歳の人が、その家に九十歳まで住むというモデルを考えてみる。

ここでは将来の物価上昇率を予測しない。すべてを現在の価格水準で考えた「実質額の単純累計」とする。

これは金融理論上の「現在価値」ではない。

厳密な現在価値を求めるなら、二十年後や三十年後に発生する費用を一定の割引率で現在の価値へ割り戻す必要がある。しかし、そこまで行うと住宅比較そのものより割引率の仮定によって結果が大きく変わるため、ここではまず構造を見ることを優先する。

都市マンションについて、先ほどの管理費・修繕積立金を三十年間で約884万円とする。さらに試算上、固定資産税などを年間12万円、住戸内部の設備更新を三十年間で300万円、火災保険などを年間2万円、鉄道やバスなどの日常交通費を年間12万円と仮定する。

すると三十年間の累計は、

管理費・修繕積立金 約884万円 固定資産税など 360万円 住戸内部の修繕・設備更新 300万円 保険など 60万円 公共交通 360万円

となり、合計は約1,964万円となる。

ただし、ここで置いた固定資産税、保険、内部修繕費、公共交通費は全国平均を示したものではない。比較のためのモデル条件である。

同じように地方戸建てについて、固定資産税などを年間6万円、建物と設備の修繕を三十年間で700万円、火災保険などを年間3万円と仮定する。

すると、自動車を除いた三十年間の住宅関連支出は、

180万円 + 700万円 + 90万円 = 970万円

となる。

この段階では地方戸建ての方が約994万円安い。

ここだけを見れば、地方戸建ての経済性は非常に高い。

しかし、その家で暮らすために自動車一台が不可欠だと仮定した瞬間、計算は違った姿を見せる。

自動車はいくらかかるとマンション側が逆転するのか

例えば200万円程度の自動車を十年ごとに買い替え、三十年間で三台所有するとする。

車両購入費だけで600万円である。

さらに燃料、税金、任意保険、車検、点検、タイヤ、バッテリーなどの費用を平均して年間30万円と仮定すれば、

30万円 × 30年 = 900万円

となる。

車両代600万円と合わせて、自動車関連支出は1,500万円になる。

地方戸建ての住宅関連費970万円にこれを加えると、

970万円 + 1,500万円 = 2,470万円

となる。

先ほどの都市マンションは約1,964万円なので、このモデルでは地方戸建ての方が約506万円高くなる。

しかし重要なのは、この「506万円」という結果そのものではない。

これは全国の都市マンションと地方戸建てを調査して平均値を求めた結果ではなく、一組の条件を置いたシミュレーションだからである。

本当に見るべき数字は、どこで結果が逆転するかという境界である。

都市マンション約1,964万円に対し、自動車を除いた地方戸建ては約970万円なので、差は約994万円ある。

したがって、このモデルでは地方生活に必要な自動車の三十年間総費用が約994万円を超えると、都市マンション側の総支出が少なくなる。

仮に三十年間の車両購入費を600万円とすれば、残りは394万円である。

394万円を三十年で割ると、年間約13万1,000円になる。

つまりこの条件では、車両購入費600万円に加え、燃料、税金、保険、車検、整備などの合計が平均年間約13万円を超えたところで、都市マンションと地方戸建ての優劣が逆転する計算になる。

自動車を所有する人なら、この年間13万円という水準が決して大きな数字ではないことは分かるだろう。

だからこそ、「地方戸建ては住宅費が安い」という事実と、「地方戸建て生活の総費用が安い」という結論は分けて考えなければならない。

数字を一つ変えるだけで、結論はどこまで動くのか

もっとも、戸建て修繕費を700万円と置いた時点で結論が決まっているのではないか、という疑問は当然生じる。

そこで数字を動かしてみる。

戸建ての三十年間の修繕・設備更新費を700万円ではなく400万円と仮定すると、自動車を除く地方戸建ての費用は670万円になる。都市マンションとの差は約1,294万円に広がる。

この場合、車両購入費600万円を差し引いても694万円の余裕があるため、自動車の維持費が年間約23万円になるまでは地方戸建て側が安い。

反対に、戸建て修繕費が三十年間で1,000万円になれば、自動車を除いた費用は1,270万円となる。都市マンションとの差は約694万円まで縮まり、車両購入費600万円を引けば残るのは94万円でしかない。

三十年間で94万円だから、年間にすると約3万円である。

つまりこのケースでは、自動車を所有する時点で都市マンション側が容易に逆転する。

この三つの数字は戸建て修繕費の実測平均を示すものではない。

400万円、700万円、1,000万円と意図的に条件を動かし、結論がどれだけ変化するかを見る感度分析である。

そして、この分析から分かるのは「絶対にマンションが得だ」といった単純な結論ではない。

建物の修繕状態と、自動車にいくらかかるかという二つの変数が、三十年間の結果を大きく左右するということである。

都市でも車を持つなら、マンションの優位性は消えていく

ここまでのモデルには、もう一つ重要な条件がある。

都市マンション側では自動車を所有していない。

したがって、この計算から「マンションは戸建てより安い」と結論することはできない。

比較しているのは正確には、

「自動車なしで生活できる都市マンション」

と、

「自動車一台を必要とする地方戸建て」

である。

都市マンションに住みながら自動車も所有すれば、車両費、保険、税金、車検、燃料費に加えて、地域によっては高額な駐車場代まで必要になる。

例えば月2万円の駐車場なら、

2万円 × 12か月 × 30年 = 720万円

である。

駐車場だけで720万円になる。

こうなれば都市マンションの経済的優位性は大幅に縮小し、条件によっては地方戸建ての方が明確に安くなる。

したがって本当の分岐点は、「マンションか戸建てか」だけにはない。

自動車を持たずに生活できる立地かどうかが、老後三十年間では非常に大きな変数になるのである。

戸建てには「払わない自由」がある

それでも戸建てには、マンションにはない強さがある。

支出の時期を自分で調整しやすいことである。

安全や建物の保存上必要な工事を無期限に放置するわけにはいかないが、外壁を今年塗るか二年後にするか、古いキッチンを交換するか使い続けるかといった判断には所有者の裁量がある。

マンションの管理費はそうはいかない。

今月は収入が少ないから管理費を半分にする、エレベーターを使わないからその分を払わない、といった選択は原則としてできない。

この違いは、年金生活では小さくない。

マンションでは大きな建物の維持リスクを住民全体で分散する代わりに、毎月の固定負担を引き受ける。

戸建てでは毎月の固定負担が小さい代わりに、大きな修繕が発生したときのリスクを一世帯で引き受ける。

これは単純な「どちらが高いか」の問題ではなく、将来の不確実な支出をどのように負担するかというリスク配分の違いなのである。

八十歳を過ぎると、「自分でやる」が無料ではなくなる

さらに老後三十年間を考えるとき、住宅より先に変化するものがある。

住んでいる人間である。

六十歳なら、庭木を切り、草を刈り、電球を交換し、自動車でスーパーへ行くことを負担だと感じないかもしれない。

しかし八十歳でも同じことができるとは限らない。

七十五歳で脚立に乗ることをやめるかもしれない。八十歳で草刈りを業者に頼むようになるかもしれない。八十五歳で自動車の運転をやめれば、買い物、通院、役所、銀行への移動を別の手段に置き換えなければならない。

若いころには自分の労働によってゼロ円に見えていたものが、高齢になるにつれて外注費へ変わっていく。

地方戸建ての経済性を考えるとき、この変化は意外に重要である。

都市マンションでも加齢による負担は当然生じるが、エレベーターがあり、徒歩圏に店舗や医療機関があり、公共交通を使える地域であれば、身体能力の低下によって生活システム全体を作り直す必要は比較的小さい。

老後の住居を六十歳で選ぶなら、六十歳の身体で便利かどうかを見るだけでは足りない。

八十五歳の自分でも暮らせるかという視点が必要になる。

ただしマンションにも「二つの老い」がある

ここまで読むと、老後には都市マンションが常に安全で便利であるように見えるかもしれない。

しかしマンションも老いる。

コンクリートの建物であっても、外壁、防水、給排水設備、エレベーターなどには維持更新が必要である。そして時間が経てば、建物だけでなく住民も高齢化する。

国土交通省のマンション政策でも、建物の老朽化と区分所有者の高齢化が重なる問題は重要な課題として扱われている。

修繕積立金が十分でなければ負担増が必要になる可能性があり、大規模修繕の内容や管理の方針について住民間の合意形成が難しくなる場合もある。

戸建てなら、自分の資金と判断によって修繕方針を決めやすい。

マンションでは、自分一人に十分な資金があっても、建物全体を一人の意思だけで動かすことはできない。

「管理を一人で背負わなくてよい」というマンションの長所は、そのまま「管理を一人では決められない」という短所にもなる。

三十年間という時間では、この違いも無視できない。

これから家を買うなら、購入価格を無視してはいけない

ここまでの比較は、すでに住宅を所有し、住宅ローンを完済している人が、今後三十年間どちらの生活を維持しやすいかを見るモデルだった。

ところが、六十歳から新たに住宅を購入するなら、話は大きく変わる。

例えば都市マンションが4,000万円、地方戸建てが2,000万円なら、購入時点で2,000万円の差がある。

その後の管理費や自動車費だけを比べても、その差を三十年間で取り戻せるとは限らない。

この場合、本来比較すべきなのは単純な維持費ではない。

おおまかには、

「購入価格と購入諸費用 + 三十年間の保有費・修繕費・移動費 - 三十年後に残る住宅や土地の価値」

という形で考える必要がある。

さらに借入金を使えば利息も加わり、厳密な経済評価をするなら将来の支出と売却価値を現在価値へ割り引く必要も出てくる。

ここで重要なのは、都市マンションの方が三十年後にも必ず高く売れるとも、地方戸建ては必ず無価値になるとも言えないことである。

駅からの距離、人口動態、建物管理の状態、土地需要、災害リスクなどによって資産価値は大きく変わる。

したがって「これから買う人」と「すでに持っている人」を同じ計算式で論じるべきではない。

老後住宅の比較では、この二つを分けることが必要なのである。

結局、どちらが安いのか

ここまで考えると、単純な答えが消えてしまったように見える。

しかし、むしろ答えは最初より明確になっている。

今回の試算条件では、住宅そのものの維持費だけを見るなら地方戸建ての方が安い。

管理費がなく、土地や建物の評価額が低ければ税負担も抑えやすく、修繕時期にも一定の裁量があるからである。

ただし、「地方戸建てなら必ず住宅費が安い」と一般化することはできない。築年数が古く、大規模な修繕が続く住宅なら結果は変わる。

一方、自動車なしで生活できる都市マンションと、自動車一台が不可欠な地方戸建てを比較すると、今回の条件では都市マンションが約506万円安くなる。

さらに重要なのは、この試算では自動車の三十年間総費用が約994万円を超えたところに逆転点があることである。

つまり老後の住宅を選ぶとき、「マンションの管理費が高い」という数字だけを見るのは不十分なのである。

その管理費を払う代わりに車を持たなくて済むのか。

逆に、地方戸建ての管理費がゼロである代わりに、自動車を何十年間維持しなければならないのか。

この交換関係を見る必要がある。

最後に残るのは、九十歳の自分がその家で暮らせるかという問題である

夕方、都市マンションの窓から駅前の灯りを見る生活と、地方戸建ての縁側から静かな庭を見る生活では、そもそも得ているものが違う。

静けさ、庭、広さ、隣家との距離には価値がある。

一方で、駅まで歩けること、病院やスーパーが近いことにも確かな価値がある。

したがって、老後の住まいを単純に金額だけで決める必要はない。

しかし、経済性を比較するのであれば、「家そのものが安い」という一点から「老後も安く暮らせる」と結論することだけは避けた方がよい。

地方戸建てには管理費がない。

しかし屋根があり、庭があり、家の前から病院までの距離があり、その距離を埋める自動車がある。

都市マンションには自分だけの庭も屋根もない。その代わり、管理費と修繕積立金という固定費を払いながら、都市の密度を利用して暮らすことができる。

どちらが安いかを決める最大の要因は、「マンションか戸建てか」という建物の種類だけではない。

これから買うなら取得価格はいくら違うのか。すでに所有しているなら建物はどの程度傷んでいるのか。自動車を何台持ち、何歳まで運転するのか。八十歳を超えたあと、買い物や通院や家の管理を自分で続けられるのか。そして三十年後、その住宅と土地にどれだけの価値が残るのか。

その条件をすべて置いて初めて、老後住宅の本当の価格が見えてくる。

六十歳で住まいを選ぶとき、つい六十歳の自分を基準にしてしまう。

しかし三十年間住む家なら、本当に問いかけるべき相手は九十歳の自分なのかもしれない。

その人が玄関を開けたあと、買い物へ行けるのか。病院へ行けるのか。壊れた家を直せるのか。そして無理のない支出で、そこに住み続けられるのか。

老後の住まいで「安い」という言葉の意味は、住宅価格だけでは決まらない。

最後まで生活を続けるために必要な費用まで数えて、初めてその家の本当の値段が分かるのである。

参考にした主な公的資料

国土交通省「令和5年度マンション総合調査」、国土交通省「長期修繕計画標準様式・長期修繕計画作成ガイドライン」、国土交通省「マンション管理計画認定制度」、国土交通省「全国都市交通特性調査」を基礎資料として確認した。

なお、本文中の30年間の固定資産税、戸建て修繕費、マンション専有部分修繕費、自動車購入・維持費、公共交通費などは、全国平均を示す統計値ではなく、費用構造と損益分岐点を検討するために設定したシミュレーション条件である。

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不動産情報を眺めていると、ときどき時間が二十年ほど巻き戻ったような価格の住宅に出会う。

土地付き一戸建て、500万円。

都会で暮らしてきた人なら、最初は何かの間違いではないかと思うかもしれない。500万円なら、自動車一台とそれほど変わらない。月6万円の家賃を30年間払い続ければ2160万円になるのだから、500万円で家を買えるなら、どう考えても買った方が得ではないか。そんな計算が頭に浮かぶのも自然なことである。

しかも、この500万円という数字は、外房では空想の価格ではない。2026年8月時点のいすみ市では、大原に498万円、岬町中原に500万円、岬町榎沢に450万円、高谷には520万円の中古戸建てが確認できる。もちろん、それがいすみ市の中古戸建住宅全体の平均的な価格だという意味ではない。築年数が古い、建物が小さい、駅から離れている、あるいは何らかの修繕を必要としているといった条件を伴う低価格帯の住宅である。

この記事でいう「500万円の中古住宅」とは、まさにそうした家を想定している。

ここでいう500万円の住宅は、中古戸建て全体の平均的な価格を意味するものではない。外房など人口減少地域で実際に見られる、築年数が古い低価格帯の戸建住宅を想定したモデルケースである。

問題は、この500万円という数字を、私たちは家の「値段」だと思ってしまうことである。

実は、それは30年間続く住宅費の入口に書かれた数字にすぎない。

500万円の家を買った日から、もう一つの時計が動き始める

スーパーで500円の商品を買えば、500円を払ったところで取引はほぼ終わる。自動車でさえ購入後に維持費はかかるものの、最後には廃車にして所有を終わらせることができる。

住宅は少し違う。

家を買った瞬間、そこから新しい支払いの時計が動き始める。

登記をしなければならない。不動産会社の仲介で購入すれば仲介手数料が発生することがある。不動産取得税も条件によって生じる。古い家なら、鍵を受け取った翌日からそのまま30年間暮らせるとは限らず、給湯器、台所、浴室、トイレ、床、屋根、外壁などのどこかに手を入れる必要が出てくる。

特に低価格の住宅では、購入価格が安いからといって諸費用まで同じ割合で安くなるわけではない。

現在、800万円以下の「低廉な空家等」の売買では、一定の場合、不動産業者が依頼者一人から受け取る仲介手数料について税込33万円を上限とする特例が設けられている。500万円の住宅に33万円なら、それだけで購入価格の6%を超える。

一方で、中古住宅には不動産取得税の軽減制度もある。千葉県では2026年4月1日以降に取得した自己居住用中古住宅について、床面積や耐震性能など一定の条件を満たせば軽減を受けられる。つまり実際の取得費は、築年数や建物の状態、取引方法によってかなり違ってくる。

そこで今回は、個別物件の正確な見積もりをするのではなく、取得時の仲介、登記、税、各種手続きなどをまとめて70万円程度と置く。

すると500万円の家は、まだ一度も修理をしていない段階ですでに570万円になっている。

しかし、本当に大きなお金が動き始めるのは、その後である。

中古住宅を買うということは、家の「過去」も買うことである

築35年の中古住宅を買ったとする。

購入者にとっては、その日が住宅所有の1日目である。しかし家にとっては35年目のある一日にすぎない。

ここに中古住宅を考えるときの大きな錯覚がある。

新築を買って30年間住むなら、建物は0歳から30歳になる。ところが築35年の家を買って30年間住めば、最後には築65年になる。

自分が30年間しか使っていなくても、屋根は65年間雨を受けているかもしれない。外壁も65回の夏と冬を経験することになる。給排水管や床下、柱、基礎も同じ時間を過ごしている。

国土交通省が示す木造戸建住宅の維持保全計画の例でも、住宅は建てた後そのまま放置することを前提としていない。基礎などは5年ごとの点検例が示され、屋根では20年程度で全面的な葺き替えを検討する例、外壁では15年程度で全面補修を検討する例などが示されている。

つまり家というものは、一度完成したら30年間そのまま存在する商品ではない。

少しずつ部品を取り替えながら、同じ家であり続けるものなのである。

中古住宅なら、その交換時計がすでに途中まで進んだ状態で手渡される。

だから500万円で買った家に、その後いくらかかるかは、売買価格だけを見てもほとんど分からない。

そこで、30年間の未来を三つに分けて考えてみよう。

最初の未来~大きな故障に恵まれた「低修繕ケース」

最も幸運な場合から考えてみる。

500万円で購入した家の状態が比較的よく、購入後に必要な修繕が小さかったとする。入居時の修繕は50万円程度で済み、30年間を通じた小規模修繕を120万円、屋根や外壁などの比較的大きな修繕を150万円、給湯器や住宅設備の交換を150万円程度に抑えられたとしよう。

さらに30年間の固定資産税を120万円、住宅に関する保険を90万円、突然の故障などに備える予備費を60万円とする。取得時諸費用70万円も加える。

この場合、30年間で住宅に投じる総額は約1310万円になる。

500万円だった家が1310万円になるのだから、それでも購入価格の2.6倍ほどである。

ところが360か月で割ると、月あたり約3万6400円になる。

この数字だけを見るなら、低価格中古住宅はかなり強い。

月6万円の賃貸住宅なら30年間の家賃だけで2160万円になる。それに対して1310万円で30年間住めるのであれば、途中で家の価値がかなり下がったとしても、経済的には持ち家に魅力がある。

おそらく、格安中古住宅を購入して成功したと感じる人が経験しているのは、この世界に近い。

しかし、これは家が比較的健康だった場合の話である。

築古住宅を購入するとき、誰もがこの未来を選べるわけではない。

二つ目の未来~家が普通に老いていく「標準ケース」

もう少し現実の時間を家に流してみよう。

購入後、浴室や給湯器などに手を入れ、入居時の修繕に200万円かかったとする。その後30年間の間に、細かな故障や補修で200万円、屋根や外壁などの大きな修繕で300万円、給湯、水回り、住宅設備などの更新に250万円が必要になったとする。

固定資産税を30年間で180万円、保険を120万円、予期しない修理への予備費を120万円として、購入価格500万円と取得時諸費用70万円を加える。

総額は約1940万円になる。

これは購入価格の約3.9倍である。

月額に直すと約5万3900円となる。

ここまで来ると、月6万円の賃貸住宅とかなり近づいてくる。

もちろん、この二つは単純には比較できない。

賃貸の2160万円は家賃だけであり、更新費用や家財保険などが別にかかる場合がある。一方、持ち家にも今回の計算には含めていない家具・家電、庭木管理などが発生することがある。

さらに決定的に違うのは30年後である。

賃貸住宅に2160万円を支払っても、通常その住宅は自分の財産にはならない。しかし持ち家なら、30年後にも土地と建物が残る。

だから標準ケースなら、「500万円の家が1940万円もかかった」と考えるだけでは公平ではない。

30年間住んだうえで、最後に何が残るのかまで考えなければならない。

ところが地方の住宅では、その「最後に残るもの」が必ずしも財産とは限らないところに問題がある。

三つ目の未来~修繕が重なった「高修繕ケース」

中古住宅の怖さは、何か一つが壊れることではない。

古い家では、同じ時期にいくつもの設備が寿命を迎えることがある。

屋根を直した翌年に給湯器が壊れ、その数年後には外壁が傷み、そのあとに浴室や配管に問題が現れる。人間の老化と同じで、一つの部位だけが時間から取り残されるわけではないからである。

そこで高修繕ケースでは、入居時に400万円の修繕が必要だったとする。30年間の細かな修繕を300万円、屋根や外壁などの大規模修繕を500万円、給湯、水回り、住宅設備の更新を350万円とする。

さらに固定資産税240万円、保険150万円、想定外の補修に備える予備費250万円を見込み、購入価格500万円と取得諸費用70万円を加える。

30年間の総額は約2760万円となる。

月額では約7万6700円である。

500万円だった家が、30年後までの支出で2760万円になる。

ここまで来ると、月6万円の家賃を30年間支払った2160万円を上回る。

しかも、この2760万円には住宅ローンを使った場合の金利を含めていない。耐震補強が必要になった場合の大規模工事も含めていない。浄化槽など個別設備の大規模な問題、災害による損害、最後に建物を解体する費用も含めていない。

したがって、状態の悪い築古住宅では3000万円を超える世界も十分あり得る。

しかし、そのことは500万円の中古住宅が危険だという意味ではない。

むしろ重要なのは、500万円という販売価格からは、1310万円の未来も2760万円の未来も見分けられないということである。

500万円の家には三つの値段がある

今回の計算を振り返ると、同じ500万円の家でも30年間の総額は大きく変わった。

状態がよく修繕が少なければ約1310万円、標準的に修繕が続けば約1940万円、大きな修繕が重なれば約2760万円である。

差は1450万円にもなる。

興味深いのは、購入価格が500万円であることは三つのケースでまったく同じだという点である。

つまり中古住宅では、購入価格そのものよりも、「これから壊れるもの」の方が最終的な住宅費を左右する場合がある。

500万円の家と700万円の家を比較して、500万円の方が200万円安いから得だと考える。しかし700万円の家では屋根と水回りがすでに更新されていて、500万円の家では数年以内に両方を直さなければならないとしたら、最終的には700万円の家の方が安いかもしれない。

安い住宅を探しているつもりで、私たちはしばしば「安い購入価格」を探している。

しかし本当に探すべきなのは、「安く30年間住める家」なのである。

この二つは似ているようで、まったく違う。

固定資産税も「500万円の1.4%」ではない

ここでもう一つ、よく誤解される数字を整理しておきたい。

いすみ市の固定資産税率は1.4%である。しかし500万円で住宅を購入したから、毎年500万円の1.4%である7万円を払うという意味ではない。

いすみ市によれば、固定資産税は土地や家屋などを評価して価格を決定し、その価格を基に算出された課税標準額に税率1.4%を掛けて計算する。原則として固定資産評価額が課税標準額になるが、住宅用地などでは特例措置が適用された後の額が課税標準になることがある。したがって、中古住宅をいくらで買ったかだけでは実際の固定資産税額は決まらない。

また、古い建物では建物部分の評価額が低下していくことがある一方、土地は残る。

今回、30年間の固定資産税を120万円から240万円と幅を持たせたのは、このためである。

これは実際のいすみ市の特定物件について税額を推計した数字ではなく、30年間の総費用を考えるためのモデル値である。実際に購入を検討する場合には、売主や不動産会社から固定資産税の課税明細などを確認して計算する必要がある。

住宅費の計算で大切なのは、精密そうに見える一つの数字を作ることではなく、何がその数字を動かすのかを理解することである。

そして30年後、築65年の家が残る

500万円で築35年の家を買った人が30年間そこに住めば、家は築65年になる。

その日まで大切に直してきたのだから、当然それなりの価値が残ると思いたくなる。

しかし不動産の価値は、住宅にいくら修繕費を投じたかだけでは決まらない。

買いたい人がいるかどうかによって決まる。

ここで人口減少地域の住宅問題が現れる。

30年後、人口が現在より減り、周囲にも空き家が増えていたとする。中古住宅を探す人より、売りたい住宅の方が多い地域になれば、自分の家だけが希望価格で売れるとは限らない。

300万円で売れるかもしれない。

100万円かもしれない。

あるいは値段を下げても買い手が現れないかもしれない。

これは「資産価値が下がる」という言葉だけでは十分に表現できない。

地方住宅の30年後にとってもっと重い問題は、値段ではなく「市場から退出できるか」ということである。

自動車なら、古くなれば廃車にできる。

家は建物を壊すことはできても、土地まで消すことはできない。

土地を所有している限り、管理の問題は残る。

だから地方で中古住宅を購入するとき、最初に考えるべき質問は、

「この家を買えるか」

だけではない。

「30年後、この家を誰かに渡せるか」

まで含めなければならないのである。

安い中古住宅が悪いわけではない

ここまで読むと、500万円の中古住宅を買うこと自体が危険だという結論に見えるかもしれない。

そうではない。

今回の低修繕ケースなら30年間の総額は約1310万円で、単純な月額換算なら約3万6400円である。住宅の状態がよく、自分の生活に適した場所にあり、長期間住むのであれば、これは十分に合理的な住宅選択になり得る。

むしろ問題なのは、安い中古住宅を「500万円の買い物」と理解することである。

本当は500万円で一つの建物を買っているのではない。

これから30年間続く、屋根、外壁、配管、給湯器、税金、保険、庭、土地、そして最後の処分までを含んだ長い時間を買っている。

だから家を見るときには、価格欄だけを見るのでは足りない。

屋根はいつ直したのか。外壁はいつ補修したのか。給湯器は何年使っているのか。雨漏りはないか。床下に問題はないか。水道管や排水はどうなっているのか。

それらは住宅の「状態」を確認しているように見えるが、本当は未来の請求書を読んでいるのである。

500万円の値札の横には何も書かれていない。

しかし、その家の中には、すでに次の300万円、次の100万円、次の50万円の支払い時期が隠れているかもしれない。

「安い家」ではなく「30年間安く住める家」を探す

今回の試算には大きな幅が生まれた。

低修繕なら1310万円。

標準なら1940万円。

高修繕なら2760万円。

同じ500万円の中古住宅を起点にしても、30年間ではこれほど違う。

だから「500万円の家は30年間でいくらかかるのか」という問いに、一つの正解はない。

むしろ答えは、

およそ1300万円台で済む可能性もあれば、2000万円前後になり、状態次第では2700万円を超えることもある

という幅で考えるべきなのである。

そしてこの計算から、もう一つ重要なことが見えてくる。

中古住宅で200万円値切ることより、購入前に300万円の修繕を避けられる家を見つける方が、家計に与える効果は大きいことがある。

だから本当に中古住宅を安く買う方法とは、最も安い販売価格を探すことではない。

価格と建物状態と将来の修繕を一緒に見ることである。

家の値札には未来が印刷されていない

不動産広告には、価格が書かれている。

500万円。

土地面積も、建物面積も、築年月も、間取りも書いてある。

しかしそこには、

「8年後に給湯器を交換する可能性があります」

とも、

「12年後に外壁を補修するかもしれません」

とも、

「20年後に屋根へ大きなお金が必要になるかもしれません」

とも書かれていない。

まして、

「30年後、この土地を欲しい人がいるかどうかは分かりません」

とは、どこにも書かれていない。

それでも、そのすべてが住宅の価格の一部なのである。

500万円という数字は間違っていない。

ただし、500万円だけを見ていては、その家の本当の値段は見えない。

今回のモデルでは、500万円の中古住宅が30年間で約1310万円から2760万円まで広がった。

つまり住宅購入で最も重要なのは、「いくらで買ったか」ではなく、「その家と30年間付き合うために、結局いくら払ったか」なのかもしれない。

安い家とは、値札の数字が小さい家ではない。

30年後まで住み終えたとき、初めて安かったと言える家である。

中古住宅を探すとき、私たちは今日の家を見に行っているように思っている。

しかし本当は、その家の30年後を見に行っているのである。

地域の課題を、自分の判断に置き換えて考える

有限会社アードレでは、住まい・車・移住などの大きな選択を、 費用や将来条件をもとに数字で比較し、判断できる形に整理しています。

数字で比較するサービスを見る

地方移住の魅力として、よく挙げられるのが住宅費の安さです。

都市部では数千万円する戸建て住宅が、地方では数百万円で売られていることがあります。賃貸住宅についても、都市部より低い家賃で広い住宅を借りられる地域があります。

そのため、

都市部で家賃を払い続けるより、地方で安い家を買った方が得なのではないか

と考える人は少なくありません。

確かに、住宅の購入価格や家賃だけを比べれば、地方移住が有利になる場合があります。

しかし、地方で生活するためには、住宅費以外にも費用がかかります。

例えば、自動車が2台必要になれば、車両購入費、燃料費、自動車保険、車検、税金、整備費が発生します。

中古住宅を購入すれば、屋根、外壁、水回り、給湯器、浄化槽などの修繕費も考えなければなりません。

さらに、草刈り、庭木管理、通院、買い物、家族に会うための長距離移動など、都市部では意識しなかった負担が増えることもあります。

反対に、地方では駐車場代が不要になり、住宅面積が広くなり、通勤時間が短くなる可能性もあります。

したがって、地方移住が得かどうかは、住宅価格だけでは判断できません。

重要なのは、次のような10年間の総負担を比較することです。

10年間の生活負担
=住宅費
+自動車費
+光熱・設備費
+住宅管理費
+移動費
+将来の処分費
-10年後の住宅売却手取額

この記事では、60歳前後の夫婦2人が、都市近郊の賃貸住宅から地方の中古住宅へ移住するモデルケースを設定し、10年間の生活費を比較します。

記事内の金額は、全国共通の相場を示すものではありません。

地域、住宅、車種、走行距離、家族構成、健康状態などによって結果は大きく変わるため、判断方法を説明するための試算例としてご覧ください。

地方移住で本当に安くなるのは住宅費だけか

地方移住を検討するとき、多くの人が最初に比べるのは住宅価格です。

例えば、都市近郊で月8万円の賃貸住宅に住んでいる人が、地方で500万円の中古住宅を見つけたとします。

都市近郊の家賃を10年間払い続けると、単純計算では960万円です。

月8万円×12か月×10年
=960万円

これに対して、地方の中古住宅は500万円です。

住宅価格だけを比べると、地方の方が460万円安く見えます。

都市近郊の家賃960万円
-地方住宅の購入価格500万円
=460万円

しかし、実際には次の費用が加わります。

  • 不動産購入時の諸費用
  • 入居前の修繕費
  • 固定資産税
  • 火災保険
  • 屋根や外壁の修繕
  • 草刈りや庭木管理
  • 浄化槽の点検や清掃
  • 給湯器などの設備交換
  • 自動車の購入費
  • 自動車の維持費
  • 遠方への移動費
  • 10年後の売却や解体に必要な費用

一方、都市近郊でも家賃だけではありません。

  • 更新料
  • 駐車場代
  • 自動車または公共交通費
  • 火災保険
  • 引っ越し費用
  • 家賃上昇の可能性

このため、都市部と地方は、同じ期間、同じ生活水準、同じ家族条件で比較する必要があります。

全国平均の家賃だけでは移住先を判断できない

総務省統計局の2023年住宅・土地統計調査では、借家のうち専用住宅の全国平均家賃は、1か月当たり5万9,656円でした。2018年と比べると7.1%上昇しています。

ただし、この金額は全国平均です。

都市中心部、都市郊外、地方都市、農村部では家賃が異なります。また、住宅面積、築年数、駅までの距離、駐車場の有無によっても条件は変わります。

住宅・土地統計調査は、住宅の所有関係、居住状況、空き家、高齢者の住まい方などを全国・地域別に把握するための基幹的な統計です。地方移住を検討するときは、全国平均だけでなく、候補地域の市区町村別データや実際の募集物件を確認する必要があります。

全国平均の家賃が約6万円だからといって、自分が検討している都市部の家賃や地方の家賃も同じとは限りません。

この記事では、比較を分かりやすくするため、都市近郊の家賃を月8万円と仮定します。

今回のモデルケース

今回は、60歳前後の夫婦2人が、都市近郊の賃貸住宅から地方の中古戸建てへ移住する場合を想定します。

都市近郊で暮らし続ける場合

項目 仮定条件
世帯 夫婦2人
住宅 賃貸住宅
家賃 月8万円
更新料等 2年ごとに8万円
駐車場 月1万2,000円
自動車 1台
年間走行距離 6,000キロメートル
買い物 自動車、徒歩、公共交通
病院 自動車または公共交通で20分以内
比較期間 10年間

地方へ移住する場合

項目 仮定条件
世帯 同じ夫婦2人
住宅 中古戸建てを購入
購入価格 500万円
建物 築35年、木造戸建て
土地 250平方メートル
入居前修繕 200万円
自動車 2台
年間走行距離 2台合計1万5,000キロメートル
買い物 自動車で片道10キロメートル
病院 自動車で片道20キロメートル
比較期間 10年間
10年後 住宅を売却すると仮定

このモデルでは、都市近郊と地方で食費や一般的な日用品費は大きく変わらないものとして、比較の中心から外します。

実際には、店舗の選択肢、宅配費、地域価格、家庭菜園などにより差が生じる可能性があります。

比較する費用の範囲

今回は、次の費用を比較します。

分類 都市近郊 地方
住宅 家賃、更新料、保険 購入、諸費用、修繕、税金
自動車 1台 2台
駐車場 有料 自宅敷地内
住宅管理 比較的少ない 草刈り、庭木、設備管理
移動 公共交通を併用 自動車中心
将来処分 退去費用 売却または解体
時間負担 通勤・混雑 買い物・通院・管理

食費、医療費、娯楽費は個人差が大きいため、今回の中心的な比較からは除外します。

都市近郊の10年間の住宅費

家賃

家賃月8万円を10年間支払うと、960万円です。

8万円×12か月×10年
=960万円

更新料など

2年ごとに家賃1か月分相当の更新料がかかると仮定します。

10年間で4回更新するとします。

8万円×4回
=32万円

実際の更新料、事務手数料、保証料は契約によって異なります。

火災保険など

賃貸住宅の火災保険などを、2年間で2万円と仮定します。

2万円×5回
=10万円

退去費用

10年後の退去時に、原状回復などの自己負担が10万円発生すると仮定します。

通常損耗の扱いや借主負担は契約内容、居住状況などによって異なります。

都市近郊の住宅費合計

項目 10年間の試算額
家賃 960万円
更新料等 32万円
火災保険等 10万円
退去時負担 10万円
合計 1,012万円

10年間の住宅費は、約1,012万円となります。

この住宅費には、資産として残る土地や建物はありません。

一方で、大規模修繕や固定資産税を直接負担する必要はなく、転居しやすいという利点があります。

地方移住の住宅購入費

地方の住宅については、購入価格だけでなく、購入諸費用と入居前修繕を含めます。

住宅購入価格

購入価格
=500万円

購入時の諸費用

所有権移転登記、登録免許税、司法書士報酬、仲介関連費用、不動産取得税、建物調査などを合わせ、80万円と仮定します。

項目 試算額
登記・税金関連 20万円
仲介・契約関連 35万円
建物調査 7万円
その他 18万円
合計 80万円

実際の費用は、固定資産評価額、仲介の有無、税の軽減措置、物件状態などによって異なります。

入居前修繕費

築35年の住宅を最低限安心して使うため、次の修繕を行うと仮定します。

修繕内容 試算額
屋根・雨どい 40万円
外壁補修 20万円
台所 35万円
浴室・給湯器 45万円
トイレ 20万円
床・内装 20万円
電気・水道 20万円
合計 200万円

全面的なリフォームではなく、居住に必要な最低限の工事を想定しています。

入居時までの住宅費

購入価格500万円
+購入諸費用80万円
+入居前修繕200万円
=780万円

購入時点ですでに、表示価格500万円に対して280万円が加わります。

地方住宅の10年間の維持費

住宅を購入した後は、税金、保険、修繕、敷地管理などの費用が続きます。

今回は、次のように仮定します。

項目 年間費用 10年間
固定資産税等 6万円 60万円
火災・地震保険等 5万円 50万円
草刈り・庭木管理 5万円 50万円
浄化槽管理 4万円 40万円
小修繕 5万円 50万円
合計 25万円 250万円

実際の固定資産税等は、土地、建物、評価額、自治体などによって異なります。

下水道地域では浄化槽費がかからない一方、上下水道料金や受益者負担などが関係する場合があります。

10年間に発生する追加修繕

築35年の住宅では、購入時に修繕しても、10年間に設備交換が必要になる可能性があります。

時期 内容 試算額
3年目 給湯器または空調設備 25万円
5年目 浄化槽・排水関係 20万円
7年目 外壁・雨どい補修 25万円
9年目 給排水設備 30万円
随時 その他修繕 50万円
合計 150万円

すべての住宅で同じ費用がかかるわけではありません。

建物状態が良ければ少なくなり、屋根、基礎、配管などに重大な問題があれば大きく増えます。

10年後の住宅価値をどう考えるか

住宅購入では、支出だけでなく、10年後にどの程度の価値が残るかも考える必要があります。

今回のモデルでは、購入時500万円の住宅について、10年後の売却価格を300万円と仮定します。

売却時の仲介、片付け、登記、その他費用を50万円とすると、売却手取額は250万円です。

売却価格300万円
-売却関連費用50万円
=売却手取額250万円

ただし、10年後に300万円で売れる保証はありません。

人口減少、建物劣化、災害リスク、交通環境、近隣施設の閉鎖などにより、売却価格が下がる可能性があります。

反対に、移住需要が増え、周辺環境が改善すれば、一定の価格を維持できる可能性もあります。

住宅・土地統計調査では、住宅や空き家の状況を地域別に把握できますが、個別物件の将来価格までは分かりません。候補地域の人口、取引事例、売出し期間、空き家数などを個別に確認する必要があります。

地方住宅の10年間の実質負担

ここまでの費用をまとめます。

項目 試算額
購入価格 500万円
購入諸費用 80万円
入居前修繕 200万円
10年間の維持費 250万円
追加修繕 150万円
支出合計 1,180万円
10年後の売却手取額 ▲250万円
実質負担 930万円
1,180万円-250万円
=930万円

住宅費だけを見ると、都市近郊の1,012万円に対し、地方は930万円です。

居住地 10年間の住宅費
都市近郊 1,012万円
地方 930万円
地方の方が少ない額 82万円

このモデルでは、地方の住宅費が82万円少なくなりました。

しかし、差は10年間で82万円です。

1年当たりでは8万2,000円、1か月当たりでは約6,800円です。

82万円÷120か月
=約6,800円

「地方の家は500万円、都市近郊の家賃は10年間で960万円」という最初の比較では、460万円の差があるように見えました。

しかし、諸費用、修繕、維持費、売却価値まで含めると、差は82万円まで縮小しました。

自動車1台と2台の違い

地方移住の費用を大きく左右するのが自動車です。

都市近郊では、夫婦で自動車1台を共有し、一部の移動に公共交通を利用できると仮定します。

地方では、買い物、通院、仕事、家族それぞれの外出に対応するため、2台必要になると仮定します。

政府の家計調査でも、自動車購入、燃料、整備、自動車保険などは「自動車等関係費」として家計支出の一分野に分類されています。ただし、全国平均は、自動車を保有しない世帯や購入年の違いも含むため、個別の移住試算には保有台数と走行距離を設定する方が適切です。

都市近郊の自動車・交通費

都市近郊では、普通乗用車1台を保有すると仮定します。

項目 年間費用 10年間
車両購入・買替え相当額 25万円 250万円
燃料費 8万円 80万円
自動車保険 6万円 60万円
税金・車検 7万円 70万円
整備・タイヤ 5万円 50万円
駐車場 14万4,000円 144万円
公共交通費 6万円 60万円
合計 714万円

車両購入・買替え相当額は、250万円の車を10年間使用し、10年後の価値を考慮しない簡略な試算です。

実際には、購入価格、ローン金利、下取り価格、車種、保有期間によって変わります。

地方の自動車・交通費

地方では、普通乗用車1台と軽自動車1台を保有すると仮定します。

項目 年間費用 10年間
2台の購入・買替え相当額 40万円 400万円
燃料費 20万円 200万円
自動車保険 11万円 110万円
税金・車検 12万円 120万円
整備・タイヤ 9万円 90万円
駐車場 0円 0円
公共交通費 2万円 20万円
合計 940万円

地方は駐車場代が不要ですが、2台分の購入費、保険、税金、整備費が発生します。

自動車・交通費の差

地方940万円-都市近郊714万円
=226万円

地方の自動車・交通費が、10年間で226万円多くなりました。

住宅費では地方が82万円有利でしたが、自動車費では226万円不利です。

自動車費の増加226万円
-住宅費の減少82万円
=地方の負担増144万円

住宅費と自動車費だけを合計すると、地方移住の方が144万円高くなる試算です。

住宅費と自動車費の10年間比較

項目 都市近郊 地方
住宅費 1,012万円 930万円
自動車・交通費 714万円 940万円
合計 1,726万円 1,870万円
差額 地方が144万円多い

このモデルケースでは、地方住宅の安さが、自動車2台の負担によって相殺されました。

1か月当たりの差は1万2,000円です。

144万円÷120か月
=月1万2,000円

つまり、

地方へ移住すれば住宅費が大幅に安くなる

という印象でも、生活に必要な自動車を含めると、10年間の総費用は都市近郊より高くなる可能性があります。

光熱費は地方の方が安いとは限らない

地方の戸建て住宅は、都市部の集合住宅より広いことがあります。

住宅が広くなれば、冷暖房する面積も増えます。

また、古い戸建てでは断熱性能が低く、冬季や夏季の光熱費が高くなる可能性があります。

一方、都市部でも電気、ガス、水道の料金はかかります。

今回は比較のため、次のように仮定します。

項目 都市近郊 地方
電気・ガス等 年24万円 年30万円
水道・設備関連 年8万円 年10万円
年間合計 32万円 40万円
10年間 320万円 400万円

地方住宅の方が、10年間で80万円多くなる試算です。

ただし、太陽光発電、薪ストーブ、断熱改修、気候、料金制度などによって結果は変わります。

住宅・交通・光熱費を合計する

項目 都市近郊 地方
住宅費 1,012万円 930万円
自動車・交通費 714万円 940万円
光熱・水道等 320万円 400万円
10年間合計 2,046万円 2,270万円
地方2,270万円-都市近郊2,046万円
=224万円

今回のモデルでは、地方移住の方が10年間で224万円高くなりました。

1年当たりでは22万4,000円、1か月当たりでは約1万8,700円です。

224万円÷120か月
=約1万8,700円

ただし、この時点でも、食費、医療費、通信費、娯楽費、旅行費などは含んでいません。

移動時間を費用として考える

生活費の比較では、実際に支払う金額だけでなく、時間の違いも重要です。

都市近郊では、通勤や交通混雑に時間がかかる一方、買い物、病院、行政手続などは近距離で済む可能性があります。

地方では、通勤時間が短くなる場合がある一方、買い物や通院のたびに長距離を運転する可能性があります。

総務省の社会生活基本調査では、通勤・通学時間を都道府県別などで確認でき、2021年の結果では関東地方の通勤・通学時間が長い傾向が示されています。したがって、「都市部は必ず時間的に不利」「地方は必ず移動時間が長い」と一律には判断できません。

地方で増える日常移動の例

地方移住により、次の追加移動が発生すると仮定します。

目的 追加時間
買い物 週1時間
通院・薬局 月2時間
行政・銀行等 月1時間
住宅・敷地管理 月4時間

年間では次のようになります。

買い物
=週1時間×52週
=52時間
通院・薬局
=月2時間×12か月
=24時間
行政・銀行等
=月1時間×12か月
=12時間
住宅・敷地管理
=月4時間×12か月
=48時間

年間合計は136時間です。

52時間+24時間+12時間+48時間
=136時間

10年間では1,360時間です。

自分の時間を1時間1,500円と評価すると、時間負担は204万円になります。

1,360時間×1,500円
=204万円

これは実際に204万円を支払うという意味ではありません。

しかし、10年間で1,360時間、日数に換算すると約57日分を移動や管理に使うことになります。

1,360時間÷24時間
=約57日

地方生活を選ぶときは、この時間を負担と感じるか、運転や住宅管理を生活の一部として受け入れられるかを考える必要があります。

都市部の通勤時間が減るなら結論は変わる

一方で、都市近郊で仕事を続け、地方移住によって在宅勤務や退職後生活へ移行する場合、通勤時間がなくなる可能性があります。

例えば、都市近郊で平日に往復1時間30分通勤しているとします。

年間240日勤務なら、年間通勤時間は360時間です。

1.5時間×240日
=360時間

10年間では3,600時間です。

360時間×10年
=3,600時間

地方移住によってこの時間が大きく減るなら、買い物や通院の移動時間が増えても、総移動時間は少なくなる可能性があります。

したがって、時間比較では、次の両方を計算する必要があります。

  • 地方移住によって増える移動時間
  • 地方移住によって減る通勤・混雑時間

地方移住が有利になる条件

今回のモデルでは、地方移住の方が10年間で224万円高くなりました。

しかし、条件が変われば結果は逆転します。

自動車1台で生活できる

地方でも夫婦で自動車1台を共有できれば、2台目の購入、保険、税金、車検、整備費を削減できます。

2台目の10年間の費用を300万円とすると、地方の総費用は次のように減ります。

地方の総費用2,270万円
-2台目の費用300万円
=1,970万円

都市近郊の2,046万円より、地方が76万円安くなります。

2,046万円-1,970万円
=76万円

自動車を1台にできるかどうかが、結論を逆転させる可能性があります。

修繕費が少ない住宅を選ぶ

入居前修繕費が200万円ではなく50万円で済むなら、地方の負担は150万円減ります。

200万円-50万円
=150万円減

地方の総費用は2,120万円となり、都市近郊との差は74万円まで縮まります。

20年以上住む

購入時の諸費用や初期修繕費は、居住期間が長いほど1年当たりの負担が小さくなります。

10年で再移住する場合より、20年、30年と住み続ける方が、住宅購入の経済性は高まりやすくなります。

ただし、長期間住むほど、屋根、外壁、水回り、給排水設備などの大規模修繕が必要になる可能性もあります。

都市部の家賃が高い

都市近郊の家賃を月8万円ではなく月12万円とすると、10年間の家賃は1,440万円です。

12万円×12か月×10年
=1,440万円

家賃以外の条件が同じなら、都市近郊の負担は480万円増えます。

この場合、地方移住が有利になる可能性が高まります。

駐車場代が高い

都市部の駐車場代が月3万円なら、10年間で360万円です。

3万円×12か月×10年
=360万円

今回の月1万2,000円の試算との差は216万円です。

都市部の駐車場代が高い地域では、地方の自宅敷地内駐車が大きな利点になります。

住宅を高く売却できる

10年後の売却手取額が250万円ではなく400万円なら、地方の負担は150万円減ります。

ただし、将来の売却価格を楽観的に設定すると、実際の負担を過小評価する危険があります。

将来価格は、強気、標準、弱気の3種類で試算する方が安全です。

地方移住が不利になりやすい条件

夫婦それぞれに自動車が必要

勤務先、買い物、通院などの時間が異なり、自動車を共有できない場合は、2台分の費用が必要です。

将来、一方が運転できなくなっても、もう一方が送迎を担うことになります。

数年で再移住する

地方住宅を購入しても、3年から5年で再び転居する場合、購入諸費用や修繕費を短期間で回収できません。

さらに、売却価格が低ければ、賃貸より不利になる可能性があります。

建物に重大な修繕が必要

雨漏り、基礎、屋根、給排水管、浄化槽などに問題があれば、数百万円の追加費用が発生する可能性があります。

購入価格が安くても、修繕費を含めると高額な住宅になることがあります。

医療や買い物まで遠い

高齢になるほど、通院頻度や日常の買い物負担が増える可能性があります。

現在は自動車で30分の移動を問題なく行えても、10年後、20年後に同じように運転できるとは限りません。

子どもや親族との移動が増える

地方移住後に、都市部に住む子どもや親族を定期的に訪ねる場合、鉄道、高速道路、宿泊などの費用が増えます。

夫婦2人が年4回往復し、1回の交通費が合計3万円なら、年間12万円です。

3万円×年4回
=12万円

10年間では120万円になります。

12万円×10年
=120万円

住宅費の差が、この長距離移動費で相殺されることもあります。

高齢後に自動車を手放せるか

60歳で地方移住する場合、10年間の比較だけでなく、70歳、75歳、80歳以降の生活も考える必要があります。

現在は自動車を2台運転できても、将来は次の変化が起こる可能性があります。

  • 夫婦の一方が運転をやめる
  • 夜間や雨天時の運転を避ける
  • 長距離運転が難しくなる
  • 通院頻度が増える
  • 買い物を宅配へ切り替える
  • タクシー利用が増える
  • 子どもや近隣住民の支援が必要になる

地方移住先を選ぶときは、現在の運転能力ではなく、

自動車を運転できなくなった後も生活できるか

を確認する必要があります。

具体的には、次の距離やサービスを確認します。

  • 徒歩圏内の商店
  • 食品宅配
  • 移動販売
  • 路線バス
  • デマンド交通
  • タクシー
  • 診療所
  • 総合病院
  • 薬局
  • 行政窓口
  • 介護サービス
  • 家族の居住地

自治体の交通支援制度は、対象者、予約方法、運行区域、曜日、料金などが異なります。

「地域交通がある」という情報だけでなく、自宅から実際に利用できるかを確認する必要があります。

移住前に実際の移動時間を測る

地図上では、スーパーまで10キロメートル、病院まで20キロメートルと表示されます。

しかし、実際の負担は距離だけでは決まりません。

  • 道路幅
  • 信号の数
  • 渋滞
  • 坂道
  • 積雪
  • 夜間の暗さ
  • ガソリンスタンドの位置
  • 駐車場から施設入口までの距離

候補地を訪れるときは、観光地だけでなく、次の移動を実際に行う方が有効です。

  1. 朝にスーパーへ行く
  2. 病院まで運転する
  3. 夜間に自宅周辺を走る
  4. 雨の日に道路状況を見る
  5. 駅やバス停まで移動する
  6. ガソリンスタンドを確認する
  7. 市役所や金融機関へ行く

可能であれば、数日から数週間の試住を行い、日常生活を再現する方が判断しやすくなります。

生活費だけでは測れない地方移住の価値

今回の試算では、地方移住の方が高くなりました。

しかし、費用が高いから地方移住に価値がないという意味ではありません。

地方暮らしには、金額だけでは測れない価値があります。

  • 広い住宅
  • 庭や家庭菜園
  • 駐車場所
  • 騒音の少なさ
  • 自然環境
  • ペットとの生活
  • 趣味の作業場所
  • 地域活動
  • 通勤からの解放
  • 生活の自由度

反対に、都市近郊にも次の価値があります。

  • 医療機関の選択肢
  • 公共交通
  • 買い物の利便性
  • 文化施設
  • 人との交流
  • 住宅管理の少なさ
  • 自動車を手放せる可能性
  • 転居のしやすさ

移住判断では、費用と生活価値を分けて整理する必要があります。

例えば、地方移住の方が10年間で224万円高くても、月額では約1万8,700円です。

その金額を払ってでも、広い住宅、庭、静かな環境を得たいと考えるなら、合理的な選択になり得ます。

一方、住宅が安いという理由だけで移住し、運転や庭の管理を負担に感じるなら、金額以外の面でも不利になります。

3つのシナリオで比較する

1つの条件だけで判断せず、楽観、標準、慎重の3つのシナリオを作ります。

地方移住のシナリオ

条件 楽観 標準 慎重
入居前修繕 50万円 200万円 400万円
自動車 1台 2台 2台
追加修繕 80万円 150万円 300万円
10年後売却手取 400万円 250万円 50万円
10年間総負担 約1,600万円 約2,270万円 約2,870万円

この表は説明用の概算です。

楽観シナリオだけを見れば地方移住は非常に有利に見えます。

しかし、慎重シナリオでは、修繕費と売却価格によって負担が大きく増えます。

移住前には、標準シナリオだけでなく、慎重シナリオでも家計を維持できるかを確認する必要があります。

地方移住の損益分岐点

今回の標準モデルでは、地方移住が都市近郊より224万円高くなりました。

したがって、地方移住が金銭的に有利になるには、合計で224万円以上の改善が必要です。

住宅修繕費の減少
+自動車費の減少
+売却手取額の増加
+都市部家賃の増加
>224万円

例えば、次の組合せなら結論が逆転します。

改善項目 効果
地方で自動車を1台にする 300万円減
修繕費を100万円減らす 100万円減
10年後の売却手取が100万円増える 100万円減
合計改善 500万円

この場合、地方移住が都市近郊より276万円有利になります。

改善額500万円
-当初の不利224万円
=276万円有利

一方、次の条件では地方移住がさらに不利になります。

悪化項目 効果
追加修繕が150万円増える 150万円増
長距離帰省費が120万円かかる 120万円増
売却手取が200万円減る 200万円増
合計悪化 470万円増

地方移住の費用は、住宅価格より、自動車台数、修繕費、居住期間、将来売却価格に強く影響されます。

地方移住前の確認チェックリスト

住宅費

  • [ ] 購入価格だけでなく諸費用を計算した
  • [ ] 入居前修繕の見積りを取った
  • [ ] 屋根、基礎、給排水を確認した
  • [ ] 10年間の追加修繕費を想定した
  • [ ] 固定資産税等を確認した
  • [ ] 火災保険料を確認した
  • [ ] 草刈りや庭木管理費を確認した
  • [ ] 浄化槽などの設備費を確認した
  • [ ] 10年後の売却可能性を確認した
  • [ ] 解体費も想定した

自動車・交通

  • [ ] 自動車が何台必要か確認した
  • [ ] 夫婦で1台を共有できるか検討した
  • [ ] 年間走行距離を試算した
  • [ ] 燃料費を計算した
  • [ ] 保険、税金、車検を含めた
  • [ ] 10年間の買替え費用を含めた
  • [ ] 高齢後の運転継続を考えた
  • [ ] 公共交通の本数を確認した
  • [ ] タクシーやデマンド交通を確認した
  • [ ] 自動車を手放した後の生活を想定した

生活環境

  • [ ] スーパーまで実際に移動した
  • [ ] 病院までの時間を測った
  • [ ] 薬局の位置を確認した
  • [ ] 食品宅配の対象地域か確認した
  • [ ] 夜間の道路を確認した
  • [ ] 災害リスクを確認した
  • [ ] 通信環境を確認した
  • [ ] 冬季・夏季の気候を確認した
  • [ ] 家族との移動費を計算した
  • [ ] 数日以上の試住を行った

将来計画

  • [ ] 何年間住む予定か決めた
  • [ ] 10年後の年齢を確認した
  • [ ] 20年後も管理できるか考えた
  • [ ] 夫婦の一方が運転できない場合を考えた
  • [ ] 医療や介護が必要な場合を考えた
  • [ ] 再移住の可能性を考えた
  • [ ] 住宅の売却先を想定した
  • [ ] 子どもが住宅を引き継ぐか確認した
  • [ ] 楽観・標準・慎重の3条件で試算した
  • [ ] 慎重シナリオでも資金が不足しないか確認した

地方移住の判断手順

第1段階 現在の生活費を正確に把握する

まず、現在の住宅費、自動車費、交通費、光熱費を確認します。

平均値ではなく、自分の銀行口座、クレジットカード、家計簿などから実績を集計します。

第2段階 移住後の固定費を見積もる

移住後の住宅、車、保険、税金、通信など、毎年発生する費用を整理します。

特に、自動車台数と住宅管理費を過小評価しないことが重要です。

第3段階 10年間の臨時支出を加える

給湯器、屋根、外壁、自動車買替えなど、毎年ではない支出を加えます。

臨時支出を除くと、地方生活が実際より安く見えます。

第4段階 10年後の出口を設定する

10年後に住み続けるのか、売却するのか、家族へ引き継ぐのかを決めます。

売却を想定する場合は、売却価格を楽観的に設定しすぎないことが重要です。

第5段階 金額以外の価値を評価する

住宅の広さ、自然、通勤、医療、買い物、管理作業などを点数化します。

金銭面で多少不利でも、生活満足度が大きく向上するなら、移住する意味があります。

まとめ

地方移住では、住宅価格や家賃が都市部より安くなる可能性があります。

しかし、住宅費だけで移住の損得を判断することはできません。

今回のモデルケースでは、都市近郊の住宅費、自動車費、光熱費を合わせた10年間の負担が2,046万円でした。

地方移住後の負担は2,270万円となり、地方の方が224万円高くなりました。

主な理由は、次の3点です。

  1. 中古住宅の購入後に修繕費が必要になった
  2. 自動車が1台から2台に増えた
  3. 広い戸建ての光熱・管理費が増えた

一方、地方でも自動車1台で暮らせる、修繕費の少ない住宅を選べる、長期間住む、都市部の家賃や駐車場代が高いといった条件では、地方移住が有利になる可能性があります。

重要なのは、

地方の家はいくらで買えるか

ではなく、

地方で10年間暮らすために、合計でいくら必要か

を確認することです。

さらに、費用だけでなく、買い物、通院、住宅管理に使う時間、高齢後の運転、10年後の住宅処分まで考える必要があります。

地方移住は、必ず安くなる方法でも、必ず不便になる選択でもありません。

住宅、交通、健康、家族、仕事、将来計画の条件によって結果は変わります。

当サイトでは、地方移住について、住宅価格だけでなく、自動車費、生活動線、管理負担、将来の売却可能性などを含めて整理する支援を行っています。

詳しくは、[移住・居住に関するサービス案内]をご覧ください。

個別の地域や生活条件について整理したい場合は、[お問い合わせ](/contact.html)からご相談いただけます。

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