地域分析記事

地域の暮らしと地域課題を数学とデータで考える

 六十歳で住まいを決め、その家で九十歳まで暮らすと考えてみる。三十年という時間は、住宅ローンを払い終えるには十分な長さである一方、屋根や外壁を傷ませ、給湯器や住宅設備を何度か交換し、自動車を何台か乗り継ぎ、住んでいる人間の身体能力や生活習慣まで変化させる長さでもある。

 都市の駅に近いマンションなら、共用廊下の照明、エレベーター、ごみ置き場、植栽などは、基本的に管理組合による共同管理の仕組みの中に置かれている。その代わり、住宅ローンを完済していても、管理費と修繕積立金を毎月払い続けなければならない。一方、地方の戸建てでは、通常そのような定期的な引き落としはなく、敷地内に駐車場があれば月極駐車場代も必要ない。今月何も壊れなければ、住宅の維持管理にほとんどお金を使わずに済むことさえある。

 こうして毎月の請求額だけを見ると、地方戸建ての方が圧倒的に安いように思える。しかし、三十年間という長さで考えると、住宅の維持管理に必要な費用の現れ方が異なるだけで、必ずしも地方戸建ての総支出が少なくなるとは限らない。マンションでは将来の修繕費の一部が毎月の積立金として徴収されるのに対し、戸建てでは屋根、外壁、給湯器、水回りなどの補修費として、ときどきまとまった金額が必要になる。

 さらに、地方生活には、住宅の維持費として計上されないにもかかわらず、生活を成立させるために欠かせない場合がある高額な設備が存在する。それが自動車である。住宅を維持する費用と、その場所で生活を続けるための費用を合わせて考えると、「安い家」と「安く暮らせる家」は、必ずしも同じではない。

比べるべきなのは建物ではなく、そこで暮らす仕組みである

 都市マンションと地方戸建ての比較を難しくしているのは、マンションと戸建てという建物形式だけでなく、立地条件や交通環境まで異なることである。駅に近い都市マンションの価格には、建物や土地の価値だけでなく、周辺に集積する商業施設、医療機関、公共交通などへのアクセスの良さも反映されやすい。徒歩圏や公共交通圏にスーパー、病院、薬局、金融機関などがそろっていれば、自分で長い距離を移動する必要は比較的小さい。

 一方、地方戸建てでは、同じ購入予算でも広い住宅や土地を取得できる場合がある。その代わり、病院まで十キロ、スーパーまで五キロという距離が日常生活に入り込むことも珍しくない。六十歳で自動車を運転できる人にとって、その距離は大きな問題ではないかもしれないが、七十歳、八十歳、九十歳へと年齢が進めば、同じ距離を移動するために必要な身体能力や交通手段が変わってくる。

 国土交通省の全国都市交通特性調査は、地域別、年齢別、交通手段別の移動実態を把握するための調査であり、従来の調査では、地方都市圏ほど自動車の役割が大きい傾向が示されている。二〇二五年度にも新たな調査が実施されているが、調査の実施年度と結果の公表年度は区別して考える必要があり、調査を実施したこと自体が新しい結果の確定を意味するわけではない。

 ただし、地方都市圏で自動車の利用割合が高いことから、地方戸建ての居住者が全員自動車を必要とすると結論することはできない。同じ地方でも、駅や病院、スーパーに歩いて行ける中心市街地と、公共交通が乏しい郊外や農村部では生活条件が大きく異なる。都市部でも駅から遠い住宅地では自動車が必要になる場合があり、反対に地方の駅前住宅では自動車なしで生活できる場合もある。

 したがって、老後の住居費を比べるなら、建物に直接支払うお金だけでなく、その場所で買い物や通院を続けるための移動費用まで含めなければならない。ただし、その際には住宅関連費と交通費を明確に分け、どの条件が総支出の違いを生み出しているのかを確認する必要がある。

まず、比較する条件を明確にする

 ここでは、六十歳から九十歳までの三十年間、同じ住宅に住み続けるというモデルを考える。最初の比較では、都市マンションと地方戸建てをすでに所有し、住宅ローンを完済しているものとする。したがって、新たな住宅購入費や住宅ローンの返済額は含めず、今後三十年間に発生する住宅の維持管理費と、日常生活に必要な交通費を比較する。

 また、将来の一般的な物価上昇率を予測せず、すべての金額を現在の価格水準で考えた実質額の単純累計とする。実際には物価や税負担、工事費、保険料などが変化する可能性があり、住宅関連費と自動車関連費が同じ割合で変化するとも限らない。そのため、この試算は三十年後までの正確な支出予測ではなく、どのような条件で費用関係が逆転するかを検討するためのものである。

 さらに、比較する二つの生活モデルには、交通手段について明確な違いを設ける。都市マンションは自動車を所有せず、鉄道やバスなどを利用して生活できる立地とし、地方戸建ては自動車一台を必要とする立地とする。これは、マンションという建物そのものと戸建てという建物そのものの優劣ではなく、住宅形式、立地、移動手段を組み合わせた生活システムの比較である。

 なお、九十歳まで同じ住宅に住むという条件は、すべての人が九十歳まで生存し、自宅で生活できるという予測ではない。実際には健康状態、家族構成、介護の必要性などによって、途中で転居や施設入所を選択する場合もある。そうした可能性は後で考えることにして、まずは三十年間住み続けるという条件のもとで費用を整理する。

マンションでは、住宅ローンが終わっても維持費は続く

 国土交通省が五年に一度実施している「令和5年度マンション総合調査」では、駐車場使用料などからの充当額を除いた一戸当たりの管理費は月平均一万一五〇三円、修繕積立金は月平均一万三〇五四円とされている。二つを合わせると月二万四五五七円となり、この金額が三十年間まったく変わらないと仮定すれば、二万四五五七円に十二か月と三十年を掛けた八八四万五二〇円、約八八四万円になる。

 ただし、これらは管理組合への調査から得られた平均値であり、全国すべてのマンションについて実際の支払額を集計したものではない。また、管理費と修繕積立金では集計対象となる有効回答が必ずしも一致していないため、二つの平均値を合算した金額を、同一住戸が実際に負担している平均月額と厳密に解釈することもできない。築年数、住戸面積、建物規模、設備、管理方式によって支払額には大きな違いがある。

 さらに重要なのは、三十年間で約八八四万円という金額が、将来の支出総額を保証するものではないことである。国土交通省の同じ調査では、修繕積立金の積立方式について、将来の負担額を段階的に増額する段階増額積立方式が四七・一%、原則として一定額を積み立てる均等積立方式が四〇・五%となっている。均等積立方式であっても、その後の工事費や長期修繕計画の見直しによって積立額が変更される可能性がある。

 修繕積立金の残高にも注意が必要である。令和五年度の調査では、長期修繕計画上の積立額に対して実際の積立額が不足しているマンションは三六・六%と報告されている。この数字は、マンション全体の将来の修繕費が三六・六%不足するという意味ではなく、調査対象のうち、各管理組合の計画に対して積立額が不足していると回答した割合である。それでも、現在の修繕積立金だけで将来の工事を十分に賄えるとは限らないことを示す重要な資料である。

 国土交通省の長期修繕計画作成ガイドラインでは、望ましい計画の考え方として、三十年以上の計画期間に大規模修繕工事が二回以上含まれることが示されている。これは、すべてのマンションに同じ周期で工事を実施する法律上の義務があるという意味ではないが、長期間にわたる建物の維持管理を計画的に考える必要性を示している。

 また、修繕積立金は主として共用部分の維持修繕に使用されるものであり、住戸内部の給湯器、キッチン、浴室、エアコン、床、壁紙などの交換費用は、原則として各所有者が別に負担する。マンションは修繕費が不要な住宅なのではなく、大きな建物を共同で維持する費用を継続的に負担しながら、自分の住戸内部についても維持管理する仕組みなのである。

戸建ての管理費ゼロは、修繕費ゼロを意味しない

 地方戸建てには通常、マンションのような管理費や修繕積立金が存在しないため、所有者は毎月の固定的な住宅管理負担を小さくできる。また、外壁の塗装を今年実施するか、古いキッチンを交換するか、庭木の剪定を業者に頼むかといった判断についても、建物の安全性や保存上の問題がない範囲で、支出の時期と内容を所有者自身が決めやすい。

 しかし、支払いを自分で決められることと、費用が発生しないことは別である。三十年間には、給湯設備、水回り、エアコン、外壁、屋根、雨どい、建具などの補修や交換が必要になる可能性が高い。外壁や屋根の工事には足場の設置費用が伴う場合もあり、給排水設備の不具合や雨漏りなどが発生すれば、予定していなかった修繕費が一度に必要になることもある。

 その金額は、住宅の築年数、構造、延床面積、屋根材や外壁材、過去の修繕履歴、施工状態などによって大きく異なる。さらに、海に近い地域では塩害、台風の影響を受けやすい地域では風雨への対策など、立地特有の維持管理費も考慮しなければならない。反対に、適切に維持管理された比較的新しい住宅では、一定期間の大規模修繕費を抑えられる場合もある。

 したがって、「戸建ては三十年間で七〇〇万円かかる」と全国平均のように断定することはできない。ここで使用する七〇〇万円は、屋根、外壁、給湯設備、水回り、冷暖房設備などの補修や更新を含む、シミュレーション上の仮定である。実際の住宅でこの金額が妥当かどうかは、現物の状態と今後の修繕計画を確認しなければ判断できない。

 同じことはマンションの専有部分の修繕費にも当てはまる。戸建ての修繕費とマンションの修繕費を公平に比較するためには、どの設備の更新費をどちらの費目に含めているのかを明確にし、同じ費用を二重に計上したり、一方だけ必要な工事を見落としたりしないことが重要になる。

30年間の住宅関連費を同じ条件で比較する

 まず、都市マンションについて、管理費と修繕積立金の三十年間の累計を約八八四万円とする。さらに、固定資産税などを年間十二万円、住戸内部の修繕・設備更新費を三十年間で三〇〇万円、火災保険などを年間二万円と仮定する。この場合、固定資産税などは三六〇万円、専有部分の修繕・設備更新費は三〇〇万円、保険などは六〇万円となり、管理費・修繕積立金と合わせた住宅関連費は約一六〇四万円になる。

 一方、地方戸建てについては、固定資産税などを年間六万円、建物と設備の修繕・更新費を三十年間で七〇〇万円、火災保険などを年間三万円と仮定する。固定資産税などは一八〇万円、修繕・設備更新費は七〇〇万円、保険などは九〇万円となり、三十年間の住宅関連費は九七〇万円になる。

 この条件では、都市マンションの住宅関連費が約一六〇四万円、地方戸建てが九七〇万円であるため、住宅に直接関係する支出だけを見ると地方戸建ての方が約六三四万円安い。管理費がなく、固定資産税なども低く設定していることが、この差の主な要因である。

 ただし、ここで設定した固定資産税、保険料、修繕費は、いずれも全国平均を示す統計値ではない。固定資産税は建物と土地の評価額、住宅用地の特例、所在地などに左右され、都市計画税についても課税区域によって扱いが異なる。また、保険料は建物構造や補償範囲、災害リスクによって変わるため、都市マンションが年間二万円、地方戸建てが年間三万円という関係が一般的に成立するわけではない。

 この比較で確認できるのは、あくまで設定した条件のもとでは地方戸建ての住宅関連費が約六三四万円安いということであり、全国の住宅を調査した結果として地方戸建てが平均六三四万円安いという意味ではない。

交通費を加えると、結果はどう変わるのか

 次に、住宅に直接支払う費用とは別に、そこで生活を続けるために必要な交通費を考える。都市マンションでは自動車を所有せず、鉄道やバスなどの日常交通費を年間十二万円と仮定する。三十年間では三六〇万円になるため、先ほどの住宅関連費約一六〇四万円に加えると、住宅と日常交通を合わせた支出は約一九六四万円となる。

 一方、地方戸建てでは、二〇〇万円程度の自動車を六十歳、七十歳、八十歳の時点で一台ずつ購入し、それぞれ十年間使用するものとする。三台の購入費は合計六〇〇万円となり、燃料、税金、任意保険、車検、点検、タイヤ、バッテリーなどの費用を平均して年間三十万円と仮定すれば、三十年間の維持費は九〇〇万円になる。車両購入費と維持費を合わせた自動車関連支出は一五〇〇万円である。

 これを地方戸建ての住宅関連費九七〇万円に加えると、三十年間の総支出は二四七〇万円になる。都市マンションの約一九六四万円との差は約五〇六万円となり、この条件では、自動車を必要とする地方戸建ての方が高くなる計算である。

 ただし、この五〇六万円という差は、全国の平均的な世帯について実際に生じる金額ではない。都市側では公共交通費を計上している一方、地方側では自動車以外の交通費を計上しておらず、また自動車を三十年間保有し続けると仮定している。地方でも鉄道、バス、タクシーなどを使用する場合には、その費用を別途加える必要がある。

 さらに、自動車購入費六〇〇万円は、六十歳から新たに三台購入するという条件に基づいている。すでに自動車を所有している人や中古車を活用する人、購入価格が大きく異なる車を選ぶ人には、そのまま当てはまらない。車両の売却代金や、九十歳時点で残る車両価値も、この単純な試算では考慮していない。

 ここで重要なのは、「都市マンションの方が五〇六万円安い」という金額そのものではない。住宅費では地方戸建てが安くても、日常生活のための交通費を加えることで費用関係が逆転し得るという構造である。

自動車はいくらかかると優劣が逆転するのか

 今回の条件では、都市マンションの住宅関連費と公共交通費の合計が約一九六四万円であるのに対し、自動車を除いた地方戸建ての住宅関連費は九七〇万円である。両者の差は約九九四万円となるため、地方側に自動車以外の交通費が発生しないと仮定すれば、自動車の三十年間総費用が約九九四万円を超えた時点で、都市マンションの総支出が少なくなる。

 仮に三十年間の車両購入費を六〇〇万円に固定すると、残りは約三九四万円である。この金額を三十年で割ると年間約十三万一〇〇〇円となり、燃料、税金、保険、車検、整備などの年間維持費がこの水準を超えると、今回のモデルでは都市マンション側の方が安くなる。

 もちろん、この年間十三万円という境界を、現実の自動車維持費の全国平均と混同してはいけない。年間走行距離、燃費、自動車の種類、年齢による保険料、整備状況などによって、実際の費用は異なる。それでも、自動車の購入費だけでなく、保有中に継続して発生する費用まで考慮する必要があることは明らかである。

 また、地方側で自動車とは別に年間五万円の公共交通費やタクシー代が発生すれば、三十年間で一五〇万円の追加負担となる。この場合、ほかの条件を変えなければ、自動車費用の逆転点は約九九四万円から約八四四万円へ下がる。地方生活の移動費を自動車関連費だけで代表させることが、必ずしも適切とは限らないのである。

 したがって、老後の住宅選びでは、自動車を持つか持たないかという二者択一だけでは不十分であり、何台保有するのか、年間何キロ走るのか、どの程度の価格の車を購入するのか、公共交通やタクシーを併用するのかまで考える必要がある。

修繕費を変えると、結果はどこまで動くのか

 もっとも、戸建ての三十年間の修繕・設備更新費を七〇〇万円と仮定した時点で、比較結果が大きく左右されているのではないかという疑問は当然生じる。そこで、ほかの条件を固定したまま、戸建ての修繕費を四〇〇万円、七〇〇万円、一〇〇〇万円に変えてみる。

 修繕費が四〇〇万円で済む場合、自動車を除いた地方戸建ての費用は六七〇万円となる。車両購入・維持費を一五〇〇万円とすれば、総支出は二一七〇万円で、都市マンションとの差は約二〇六万円になる。この場合、車両購入費を六〇〇万円に固定すると、自動車の年間維持費が約二十三万円を超える水準で都市マンションが安くなる。

 修繕費が七〇〇万円なら、地方戸建ての総支出は二四七〇万円となり、都市マンションより約五〇六万円高い。さらに、修繕費が一〇〇〇万円になると、地方戸建ての総支出は二七七〇万円となり、都市マンションとの差は約八〇六万円に広がる。この場合は、車両購入費六〇〇万円を前提にすると、年間維持費が約三万円を超えるだけで都市マンション側が安くなる計算である。

 ただし、四〇〇万円、七〇〇万円、一〇〇〇万円という金額は、戸建て修繕費の実測平均や統計的な信頼区間を示すものではない。これは、前提条件を意図的に変えることで結論がどれだけ変化するかを見る感度分析である。また、これらの比較ではマンションの修繕積立金や管理費を固定しているため、都市側の負担が増える場合には結果も変わる。

 例えば、管理費と修繕積立金の三十年間の平均負担が、当初想定した金額より二割高くなれば、都市マンションの支出は約一七七万円増える。他の条件が同じなら、地方戸建てとの差は約五〇六万円から約三二九万円に縮小する。この二割増という数字も将来予測ではなく、費用の変化が比較結果に与える影響を示す仮定である。

 この分析から分かるのは、マンションが常に有利ということでも、戸建てが必ず安いということでもない。建物の修繕状態と、移動手段にかかる費用が、三十年間の経済性を大きく左右するのである。

自動車を何歳まで運転するかで、老後の費用は変わる

 ここまでの計算では、六十歳から九十歳まで自動車を所有するという条件を置いてきた。しかし、老後の現実を考えれば、九十歳まで運転を続けることを当然の前提とするのは適切ではない。運転能力や健康状態には個人差があり、高齢になっても安全に運転できる人がいる一方、比較的早い段階で運転をやめる人もいる。

 仮に八十歳で運転を終了し、それまでの二十年間に二〇〇万円の自動車を二台購入するとする。車両購入費は四〇〇万円、年間三十万円の維持費を二十年間支払うと六〇〇万円になるため、八十歳までの自動車関連支出は一〇〇〇万円となる。

 その後の十年間については、自動車を持たない代わりに、タクシー、バス、買い物支援などの交通費が発生すると考える。仮に年間十万円なら十年間で一〇〇万円、年間二十万円なら二〇〇万円、年間三十万円なら三〇〇万円となるため、地方戸建ての住宅関連費九七〇万円と合わせた三十年間の総支出は、それぞれ二〇七〇万円、二一七〇万円、二二七〇万円になる。

 都市マンションの約一九六四万円と比較すると、地方戸建ての方が約一〇六万円から三〇六万円高い計算になるが、これは運転終了後の交通費を年間十万円から三十万円と仮定した場合の結果である。自動車の売却代金やほかの交通費は考慮しておらず、都市側についても、身体能力の低下によるタクシー利用などの追加費用を織り込んでいない。

 実際には、運転をやめた後の移動費は、家族による送迎、地域公共交通、医療機関までの距離、宅配サービスの利用などによって大きく異なる。自動車を手放したことで費用が減る場合もあれば、タクシー利用が増えて負担が重くなる場合もある。交通費だけでなく、移動できなくなることによる生活上の不利益も考慮する必要がある。

 六十歳で住まいを選ぶときには、現在の運転能力を前提にするだけでなく、七十五歳、八十歳、八十五歳で運転をやめた場合にも生活を維持できるかを確認することが重要である。老後の住宅立地を評価するうえでは、車を所有している期間の費用と、車を手放した後の生活費を分けて考えなければならない。

都市でも自動車を持つなら、費用関係は大きく変わる

 ここまでの都市マンションが比較的安くなるモデルには、重要な条件がある。都市側では自動車を所有せず、鉄道やバスで生活できることを前提にしているのである。都市マンションでも自動車を保有すれば、車両購入費、保険、税金、車検、燃料費などが発生し、さらに地域によっては高額な駐車場代が必要になる。

 例えば、都市マンションで月二万円の駐車場を三十年間利用すると、駐車場代だけで七二〇万円になる。都市側でも自動車の購入・維持費を地方側と同じ一五〇〇万円とし、比較を単純化するため公共交通費を計上しない場合、都市マンションの住宅関連費約一六〇四万円に自動車費一五〇〇万円と駐車場代七二〇万円を加えた総支出は、約三八二四万円になる。

 一方、敷地内に無料で駐車できる地方戸建てが、同じ自動車を同じ費用で所有するなら、住宅関連費九七〇万円と自動車費一五〇〇万円を合わせた二四七〇万円となる。この条件では、地方戸建ての方が約一三五四万円安い。ただし、両者の自動車使用条件を同一とし、それ以外の交通費を計上しないという限定的な比較である。

 現実には、都市マンションで自動車を所有しながら鉄道も利用する人がいる一方、地方戸建てでも自動車の使用頻度が少ない人がいる。駐車場が無料のマンションもあれば、地方の戸建てでも敷地外に駐車場を借りる場合がある。したがって、建物形式だけを変えても、自動車費用や駐車場費用を同じ条件にしなければ公平な比較にはならない。

 このことから、老後三十年間の経済性を決める重要な要因の一つは、マンションか戸建てかという建物形式そのものではなく、自動車を持たずに生活できる立地を選べるかどうかにあると考えられる。

戸建てには支出の時期を調整しやすいという強さがある

 総支出の比較とは別に、年金生活における資金繰りの安定性も重要になる。戸建てでは、所有者の判断によって一部の支出時期を調整しやすい。安全上の問題がない範囲なら、外壁塗装を数年延期したり、まだ使用できる住宅設備を交換せずに使い続けたりすることもできる。

 一方、マンションの管理費と修繕積立金は、原則として管理規約や管理組合の決定に従って支払う必要がある。収入が減少したから管理費を半分にする、エレベーターを使用しないからその分を支払わないといった選択は、個人の判断だけではできない。戸建てに比べて毎月の固定的な支払いが大きくなりやすいことは、年金など限られた収入で生活する場合には無視できない。

 しかし、戸建てにも別のリスクがある。給湯器の故障や雨漏りなど、生活や建物の保存に重大な影響を及ぼす不具合が発生すれば、修繕を延期できない場合がある。支出の時期を自分で決めやすいという利点は、突発的な大きな費用を一世帯で負担しなければならないという問題と表裏一体である。

 マンションでは建物の共用部分に関する費用を区分所有者で分担する代わりに、管理費と修繕積立金の継続的な支払いを引き受ける。戸建てでは毎月の固定負担を小さくできる代わりに、修繕費の発生時期と金額の不確実性を自分で負担する。これは単なる費用総額の違いではなく、資金繰りとリスク配分の違いでもある。

八十歳を過ぎると、自分でできることにも費用が生じる

 老後三十年間を考えるとき、住宅より先に大きく変化する可能性があるのは、そこに住んでいる人間の身体能力である。六十歳なら、庭木を切り、草を刈り、高い場所の電球を交換し、自動車でスーパーへ行くことを大きな負担と感じないかもしれない。しかし、八十歳でも同じ作業を安全に続けられるとは限らない。

 高齢になるにつれて、自分で行っていた住宅管理や日常生活の作業を業者や家族に頼む必要が生じる場合がある。庭木の剪定や草刈りを外注する費用、買い物や通院のためにタクシーを利用する費用、住宅内に手すりを取り付けたり段差を解消したりする費用などは、六十歳時点の住宅維持費だけからは見えにくい。

 ただし、このような費用は地方戸建てだけに発生するものではない。都市マンションでも、高齢になれば室内の段差対策や介護サービス、宅配、家事支援などを必要とする可能性がある。また、マンションにエレベーターがあっても、駅までの歩行距離が長い、坂道が多い、駅構内の移動が難しいといった条件があれば、実際の移動負担は大きくなる。

 一方、平屋の戸建てで、徒歩圏に病院やスーパーがあり、移動販売や宅配を利用できる地域なら、都市マンションより身体的な負担を小さくできる場合もある。したがって、都市と地方という区分だけで高齢期の利便性を判断することはできず、個々の住宅の間取り、周辺施設、道路環境、交通サービスを具体的に評価しなければならない。

 また、六十歳から九十歳まで同じ住宅に住み続けるという想定そのものにも限界がある。要介護状態や家族構成の変化によって転居や施設入所を選ぶ場合には、引っ越し費用、住宅の売却費用、新たな住居費などが発生する。三十年間住み続けるモデルは費用構造を把握するうえで有用だが、実際の老後計画では住み替えの可能性も考慮する必要がある。

マンションにも建物と所有者の二つの老いがある

 老後には都市マンションが常に安全で便利であるように見えるかもしれないが、マンションにも時間の経過とともに生じる問題がある。建物の高経年化と、区分所有者や居住者の高齢化が同時に進む、いわゆる「二つの老い」である。

 鉄筋コンクリート造の建物であっても、外壁、防水、給排水設備、エレベーターなどの維持更新は必要になる。修繕積立金が十分でなければ積立額の増額や一時的な追加負担が必要になる可能性があり、工事内容や負担方法をめぐって区分所有者間の意見が分かれることもある。

 日本では、二〇二五年にマンション関係法が改正され、二〇二六年四月には主要な改正部分が施行された。建物更新などに関する新たな決議制度や管理・再生の円滑化に向けた仕組みが整備され、老朽化したマンションへの制度的な対応は進められている。しかし、法律が改正されたからといって、管理組合の財源不足や住民間の合意形成の難しさが自動的に解消されるわけではない。

 国土交通省のマンション管理計画認定制度では、管理組合の運営、管理規約、経理、長期修繕計画などについて一定の基準が設けられている。管理計画の認定は管理状況を確認するための一つの手掛かりになるが、認定を取得していることだけで将来の負担増や修繕上の問題が発生しないと保証されるわけではない。

 戸建てなら、自分の資金と判断によって修繕方針を決めやすい。一方、マンションでは、自分一人に十分な資金があっても、建物全体の大規模修繕や再生を自分だけの意思で進めることはできない。管理を一人で背負わなくてよいというマンションの長所は、管理を一人では決められないという短所にもなる。

 中古マンションを老後の住まいとして選ぶ場合には、購入価格だけでなく、長期修繕計画、修繕積立金の残高、滞納状況、大規模修繕の実施履歴、管理規約、総会議事録などを確認することが重要である。建物が比較的新しくても、管理状態が不十分であれば将来の負担が大きくなる可能性がある。

これから家を買うなら、購入価格を無視してはいけない

 ここまでの比較は、すでに住宅を所有し、住宅ローンを完済している人が、今後三十年間どちらの生活を維持しやすいかを考えたモデルである。しかし、六十歳から新たに住宅を購入する場合には、取得価格という非常に大きな費用が加わるため、結論が変わる可能性がある。

 例えば、都市マンションの購入価格を四〇〇〇万円、地方戸建てを二〇〇〇万円と仮定すると、購入時点で二〇〇〇万円の差がある。ここに先ほどの三十年間の住宅・交通関連費を加えると、都市マンションは約五九六四万円、地方戸建ては四四七〇万円となり、売却前の累計支出では地方戸建ての方が約一四九四万円少ない。

 この例では、都市マンションの維持管理費と交通費が地方戸建てより約五〇六万円安くても、当初の購入価格差二〇〇〇万円を埋めることはできない。取得・売却時の諸費用や金利、税負担の違い、将来費用の割引などを無視した単純な比較では、三十年後の都市マンションの売却手取額が地方戸建てより約一四九四万円以上高くなって、初めて都市側の経済的優位が生じる計算になる。

 ただし、三十年後の資産価値を正確に予測することは難しい。都市マンションでも建物の老朽化、管理不全、地域需要の低下などによって価格が下落する可能性があり、地方戸建てでも土地需要や立地条件によって一定の価値が残る場合がある。逆に、人口減少や災害リスク、建物の状態によっては、売却が難しくなることも考えられる。

 固定資産税についても、土地と建物の評価額、住宅用地の特例、評価替えなどによって負担が変わる。住宅を購入した場合には、不動産取得に伴う税金や登記費用、仲介手数料などが必要になることもあり、売却時には譲渡所得に関する税制上の扱いも検討しなければならない。

 さらに、住宅ローンを利用する場合には利息を考慮する必要がある。現金購入であっても、住宅購入に使った資金をほかの用途に利用できた可能性があるため、経済学的には資金の機会費用を無視できない。すでに住宅を所有している人についても、売却して別の住まいに移るという選択肢を比較するのであれば、現在の住宅を保有し続けることの機会費用を考慮する必要がある。

 したがって、現在の住宅に住み続ける場合と、六十歳から新たに住宅を購入する場合を、同じ費用計算だけで評価することは適切ではない。前者では今後の現金支出と住み続けるための追加負担が重要になり、後者では取得費、資金調達費用、将来の売却価値まで含めた比較が必要になる。

三十年間の単純累計と、経済学的な現在価値は異なる

 ここまでの試算では、将来の物価上昇を予測せず、すべての費用を現在の価格水準に置き換えた単純累計を使用した。この方法は、費用の構成や大きさを直感的に比較するためには分かりやすいが、厳密な金融経済学的評価とは異なる。

 将来の支出を評価する場合、同じ百万円でも、現在支払う百万円と三十年後に支払う百万円の経済的な意味は同じではない。例えば、説明のため実質割引率を年二%と仮定すれば、三十年後に支払う百万円の現在価値は約五十五万二〇〇〇円となる。ここで用いた二%は将来の金利や運用利回りの予測ではなく、支出時期の違いを説明するための仮定である。

 マンションの管理費と修繕積立金は毎月継続的に発生する一方、戸建ての修繕費は特定の年に集中することがある。そのため、三十年間の単純累計が同じでも、支払い時期が異なれば現在価値は異なり、年金生活における資金繰りの難しさも変わる。

 また、将来の修繕費には不確実性があるため、総額だけでなく、支出が集中する時期や予備資金の必要額も考慮する必要がある。戸建てで突発的な修繕費が発生した場合と、マンションで修繕積立金が段階的に引き上げられた場合では、同じ累計負担でも家計に与える影響は異なる。

 本格的に経済性を比較するなら、各年の支出と売却価値を設定し、複数の実質割引率で現在価値を計算する方法が望ましい。ただし、割引率や将来費用の設定によって結論が変化する可能性があるため、一つの計算結果だけを絶対的な答えとして扱うことはできない。

この試算から、どこまで結論を出せるのか

 今回の比較では、管理費・修繕積立金の平均額については国土交通省の調査結果を使用した一方、固定資産税、保険料、修繕費、自動車購入費、交通費などについては仮定を設定している。このため、算術的に正確な結果が得られていても、それだけで現実の一般的な世帯に当てはまるとは限らない。

 例えば、地方戸建ての三十年間の修繕費が平均して七〇〇万円程度なのか、自動車の三十年間総費用一五〇〇万円がどの程度一般的なのかについては、今回の仮定だけから判断できない。また、都市マンションの方が安くなる世帯の割合や、費用差が全国平均で何万円になるのかについても推定できない。

 統計学的に将来の費用を予測するためには、住宅の築年数や構造、修繕履歴、世帯人数、自動車の保有状況、年間走行距離、運転終了年齢、公共交通へのアクセスなどについて、実測データを収集する必要がある。さらに、これらの条件は互いに関連している可能性があるため、一つずつ独立に変化させるだけでは、現実の世帯ごとの費用分布を十分に表現できない。

 仮に確率分布を設定して多数の組み合わせを計算するモンテカルロ法を使用すれば、費用差の分布や特定条件での逆転確率を推定することは可能である。しかし、元になる確率分布や変数間の関係を裏付ける実測データが不十分なら、計算回数を増やしても予測の信頼性が高まるわけではない。

 したがって、今回の試算から言えるのは、設定した条件のもとでは都市マンションが約五〇六万円安くなること、そして修繕費や自動車費用を変更すると優劣が変わるということである。都市マンションが全国的に安い確率や、地方戸建ての方が安い世帯の割合まで明らかにしたものではない。

 この区別を明確にすることは、数理的な分析の信頼性を保つうえで重要である。数字を細かく計算したことと、現実の費用を正確に予測できたことは同じではないのである。

結局、都市マンションと地方戸建てのどちらが安いのか

 ここまで比較してきた結果を整理すると、今回の試算条件では、住宅そのものの維持管理費だけを見るなら地方戸建ての方が安い。都市マンションの住宅関連費が約一六〇四万円であるのに対し、地方戸建ては九七〇万円であり、その差は約六三四万円となる。毎月の管理費と修繕積立金がなく、土地や建物に対する税負担も低く設定したことが、この差を生み出している。

 しかし、都市マンションで自動車を所有せずに生活でき、地方戸建てで自動車一台を三十年間保有する場合には、今回の条件で都市マンションの総支出が約五〇六万円少なくなる。逆転点は地方側の自動車関連費が約九九四万円を超えるところにあり、自動車の購入価格、維持費、保有年数によって結果が変化する。

 一方、都市マンションでも自動車を所有し、高い駐車場代を支払う場合には、その経済的優位性は縮小し、条件によっては地方戸建ての方が大幅に安くなる。また、これから住宅を購入する場合には、購入価格の差が維持費の差を上回ることもあり、三十年後の売却価値まで含めた評価が必要になる。

 つまり、老後の住宅の経済性を決めるのは、マンションか戸建てかという建物の種類だけではない。購入価格、建物の状態、修繕費、税負担、自動車の保有状況、公共交通の利便性、運転終了後の移動手段、そして将来の資産価値が組み合わさって、最終的な費用関係が決まる。

 さらに、支出総額だけでなく、毎月の固定負担に耐えられるか、突発的な修繕費を支払えるか、身体能力が低下した後も安全に生活できるかという条件も重要になる。経済的に安い住宅であっても、必要な医療や買い物にアクセスできなければ、老後の住まいとして適切とは言い切れない。

最後に残るのは、九十歳の自分がその家で暮らせるかという問題である

 都市マンションの窓から駅前の灯りを見る生活と、地方戸建ての縁側から静かな庭を見る生活では、そもそも得られる価値が異なる。静けさ、庭、広さ、隣家との距離には価値があり、駅まで歩けること、病院やスーパーが近いことにも確かな価値がある。どちらを重視するかは個人の生活習慣や価値観によって異なり、老後の住まいを金額だけで決める必要はない。

 しかし、経済性を比較するのであれば、「住宅価格が安い」「管理費がない」という理由だけで、老後も安く暮らせると結論することは避けた方がよい。地方戸建てには管理費がなくても、屋根や外壁があり、庭があり、住宅から病院までの距離があり、その距離を埋める自動車がある。都市マンションには管理費と修繕積立金という固定負担がある一方、立地によっては自動車を持たずに生活でき、建物の共用部分を共同で維持する仕組みがある。

 これから住宅を購入するなら、取得価格はいくら違うのか。すでに所有しているなら、建物はどの程度傷んでいるのか。自動車を何台持ち、何歳まで運転するつもりなのか。運転をやめた後、買い物や通院をどのように続けるのか。八十歳を超えたとき、住宅の管理を自分で続けられるのか。そして、途中で住み替える必要が生じた場合、その住宅を売却したり貸したりできるのか。

 こうした条件を具体的に置いて初めて、老後住宅の経済性を現実に近い形で評価できる。六十歳で住まいを選ぶときには、現在の自分にとっての快適さや支出の少なさを重視しやすいが、三十年間住む家であれば、八十歳や九十歳の生活まで想定して判断する必要がある。

 そのとき、玄関を開けた後に安全に買い物へ行けるのか、必要な医療を受けられるのか、壊れた住宅を修繕できるのか、そして無理のない支出で生活を続けられるのかという問題が残る。住宅の取得価格や管理費が安くても、生活を維持するための別の費用が大きければ、結果として高い住まいになる可能性がある。

 老後の住まいにおける「安い」という言葉は、住宅価格だけでは決まらない。建物を維持し、必要な場所へ移動し、身体能力の変化にも対応しながら、長期間生活を続けるために必要な費用まで数えて初めて、その住まいの本当の経済的負担が見えてくるのである。

地域の課題を、自分の判断に置き換えて考える

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※本記事は、2026年10月9日時点の住宅関連制度、建物の維持管理に関する資料、住宅リフォーム費用の調査結果などを踏まえて加筆・更新したものです。掲載する物件価格は過去の売出情報であり、現在の販売状況を示すものではありません。また、30年間の住宅費は複数の条件を設定した試算であり、実際の費用の平均値や予測結果を示すものではありません。

 不動産情報を眺めていると、ときどき時間が二十年ほど巻き戻ったような価格の住宅に出会うことがある。土地付き一戸建て、500万円。都市部で暮らしてきた人なら、最初は何かの間違いではないかと思うかもしれない。500万円なら自動車一台の価格と大きく変わらず、月6万円の家賃を30年間払い続ければ2160万円になるのだから、500万円で家を買えるなら購入した方が得ではないかと考えるのも自然である。

 しかも、500万円という住宅価格は、千葉県の外房地域では決して空想の数字ではない。2026年8月時点のいすみ市では、大原に498万円、岬町中原に500万円、岬町榎沢に450万円、高谷に520万円という中古戸建ての売出情報が確認されている。ただし、これらはいすみ市の中古戸建住宅全体の平均価格を示すものではない。実際には建物の規模や築年数、立地条件などが大きく異なり、岬町中原の物件は建物面積が約24平方メートルと小さい一方、高谷の物件は2009年築であり、必ずしも築年数の古さだけで低価格になっているわけではない。

 今回取り上げるのは、そうした外房などの人口減少地域で実際に見られる低価格帯の中古戸建住宅のうち、築35年程度の木造住宅を500万円で購入し、さらに30年間住み続けるというモデルケースである。個別の売出物件について、将来の修繕費を見積もったものではない。

 住宅を購入するとき、私たちは広告に書かれた500万円という数字を、その家の値段だと考えがちである。しかし、それは30年間にわたって発生する住宅費の入口に示された金額にすぎない。購入した後には修繕費、設備交換費、固定資産税、保険料などが続き、最後には売却できるのか、解体する必要があるのかという問題まで待っている。

 では、500万円で購入した中古住宅に30年間住むと、実際にはどれほどの費用を想定しなければならないのだろうか。

500万円の家を買った日から、もう一つの時計が動き始める

 スーパーで500円の商品を買えば、500円を支払ったところで取引はほぼ終わる。自動車も購入後に税金や保険、整備費はかかるが、最後には売却や廃車によって所有を終わらせることができる。ところが住宅は、購入してからも長期間にわたり支出が続き、建物を解体しても土地の所有や管理という問題が残ることがある。

 500万円の住宅を購入する際には、売買代金以外にも費用が発生する。不動産会社を通じて購入すれば仲介手数料がかかることがあり、所有権移転登記などに伴う登録免許税や司法書士への報酬、不動産取得税、契約に関する費用なども考えなければならない。古い住宅では購入後すぐに修繕が必要になることもあり、物件価格だけを用意しても、そのまま生活を始められるとは限らない。

 特に低価格の中古住宅では、購入価格が安いからといって諸費用まで同じ割合で安くなるわけではない。国土交通省は2024年7月から、売買価格800万円以下の「低廉な空家等」について、不動産業者が依頼者の一方から受領できる仲介手数料の上限を税込33万円とする特例を設けている。この特例は、実際に空き家として使用されていない期間の長さだけで適用が決まるものではなく、一定の条件を満たす低価格物件が対象となる。ただし、33万円はあくまで上限であり、必ずその金額が請求されるわけではない。適用に当たっては、仲介依頼時の説明や合意も重要になる。

 仮に500万円の住宅の仲介手数料が33万円になれば、それだけで購入価格の6.6%に相当する。一方、取得時の税負担には軽減制度も存在する。千葉県では2026年4月1日以降に取得する自己居住用の中古住宅について、床面積40平方メートル以上240平方メートル以下であることや、一定の耐震基準を満たすことなどの要件に該当すれば、不動産取得税の軽減を受けられる場合がある。したがって、築年数や建物の規模、耐震性能、取引方法によって取得時の費用は変化する。

 今回は、こうした仲介手数料、登記費用、税金、その他の手続き費用をまとめて70万円と仮定する。この70万円は、いすみ市の500万円程度の中古住宅について実測された平均額ではなく、計算を分かりやすくするための設定値である。実際には、取得税の軽減や仲介の有無などによって増減する。

 この仮定では、500万円の住宅を取得するための支出は570万円になる。まだ屋根も外壁も直しておらず、給湯器や浴室を交換していない段階で、すでに売出価格を70万円上回っている。しかし、住宅の長期費用を考えるうえで重要なのは、その後に何が起こるかである。

中古住宅を買うということは、家の「過去」も買うことである

 築35年の中古住宅を購入したとする。購入者にとっては、その日が住宅所有の1日目であるが、建物にとっては35年という時間がすでに経過している。新築住宅を購入して30年間住めば建物は築30年になるのに対し、築35年の中古住宅を購入して30年間住めば、最後には築65年になる。

 住宅の購入を検討するとき、この時間の違いは重要である。屋根、外壁、給排水管、浴室、給湯設備などにはそれぞれ使用年数があり、購入した日を境に部材の劣化が最初から始まるわけではない。前の所有者が屋根を交換していれば屋根の更新時期は新しくなるが、一度も交換していなければ、購入後まもなく大規模な工事が必要になる可能性もある。

 国土交通省関係の木造戸建住宅の維持保全計画の記入例では、基礎などを定期的に点検し、屋根について20年程度で全面的な葺き替えを検討する例や、外壁について15年程度で全面補修を検討する例などが示されている。ただし、これらは維持保全計画の参考例であって、すべての住宅が同じ年数で工事を必要とすることを意味しない。屋根材や外壁材の種類、施工品質、気候、過去の維持管理によって、実際の更新時期は異なる。

 さらに、住宅の老朽化は築年数だけでは決まらない。雨漏りの有無、床下の湿気、シロアリ被害、地盤条件、配管の材質、建築時の施工状態などが建物の耐久性を左右する。外房のような沿岸地域では、海からの距離や周辺環境によって塩害への注意も必要になるが、同じ市内の住宅であっても影響の程度は一様ではない。

 つまり、中古住宅の購入者は建物そのものだけでなく、それまでの維持管理の結果も引き受けることになる。住宅の状態が良好で、主要な部材が適切に交換されていれば、古い住宅でも長く住める可能性がある。一方、必要な補修が先送りされてきた住宅では、購入価格が安くても取得後の費用が大きくなることがある。

 この違いを考えるために、30年間の費用を3つのケースに分けて試算してみよう。

30年間の住宅費を考えるための前提

 今回の試算では、購入価格を500万円、取得時諸費用を70万円、購入時の築年数を35年、居住期間を30年とする。住宅は途中で売却せず、30年間継続して所有・居住するものとし、建物の状態によって修繕費が異なる3つのケースを設定する。

 ここで注意しなければならないのは、以下の金額が実際の住宅修繕費の統計から求めた平均値や予測区間ではないことである。修繕費、税金、保険料、予備費に異なる条件を与えたシナリオ分析であり、それぞれのケースが発生する確率は分かっていない。また、予備費については全額を使った場合の金額を合計しているため、使わずに残った場合は実際の支出がその分少なくなる。

 さらに、物価上昇、住宅ローン金利、購入資金の運用機会、30年後の売却収入や解体費用については、基本計算に含めない。したがって、これから示す金額は、建物の状態に応じて30年間の現金支出がどの程度変わり得るかを理解するための参考値である。

最初の未来~大きな故障を免れた「低修繕ケース」

 まず、比較的良好な状態の中古住宅を購入できた場合を考える。購入前の維持管理が適切で、屋根や外壁に大きな問題がなく、入居時に必要な修繕も50万円程度で済んだとする。その後30年間の小規模修繕を120万円、屋根や外壁などの比較的大きな修繕を150万円、給湯器や水回りなどの住宅設備更新を150万円と設定する。

 これに固定資産税120万円、住宅関連の保険料90万円、突然の故障などに備える予備費60万円を加え、購入価格500万円と取得時諸費用70万円を合算すると、30年間の想定総額は1310万円になる。固定資産税は年平均4万円、保険料は年平均3万円という仮定であり、実際の物件の税額や保険料を推計したものではない。

 1310万円という金額は購入価格500万円の約2.62倍に相当するが、30年間の360か月で均等に割れば月額約3万6400円となる。予備費60万円を使わなかった場合の実支出は1250万円であり、月額換算では約3万4700円になる。

 月6万円の賃貸住宅に30年間住み、家賃が変わらなかった場合の支払総額は2160万円である。この単純比較では、低修繕ケースの持ち家は賃貸より850万円少ない支出となる。ただし、住宅の広さや立地、設備、断熱性能などが同等であるとは限らず、購入時に支払う500万円を別の用途に使えた可能性も考慮していないため、この差額だけで持ち家の方が有利だと断定することはできない。

 それでも、建物の状態が良好で、大きな修繕を避けながら長期間住めるのであれば、格安中古住宅が家計にとって合理的な選択になる可能性は十分にある。ただし、その前提となるのは購入価格の安さではなく、購入後の修繕費を比較的低く抑えられる建物状態である。

二つ目の未来~修繕が一定程度続く「中修繕ケース」

 次に、入居時から一定の修繕が必要になり、その後も定期的に設備更新や建物補修を行うケースを考える。購入後に浴室や給湯器、内装などを整えるため200万円を支出し、30年間の小規模修繕に200万円、屋根や外壁などの大規模修繕に300万円、給湯器や水回りなどの住宅設備更新に250万円を見込む。

 さらに固定資産税180万円、保険料120万円、予備費120万円を設定し、購入価格500万円と取得時諸費用70万円を加えると、30年間の想定総額は1940万円になる。これは購入価格の約3.88倍であり、360か月で割ると月額約5万3900円に相当する。予備費を使わなかった場合の支出は1820万円で、月額換算では約5万600円となる。

 ここで重要なのは、このケースを統計的な意味での平均的な住宅費とは考えないことである。2025年度の住宅リフォームに関する消費者実態調査では、一戸建て住宅のリフォーム費用は平均470.1万円と報告されている。また、築30年以上40年未満の住宅では平均351.2万円という結果も示されているが、こちらの築年数別集計には戸建て住宅以外も含まれる。いずれも調査対象者が実施したリフォームの費用であって、すべての住宅について30年間の累積修繕費を調べた数字ではない。

 したがって、入居時修繕200万円や、その後の大規模修繕300万円という設定は、実際に考えられる工事規模ではあるものの、今回の1940万円が最も発生しやすい住宅費だと証明されたわけではない。ここでは、低修繕と高修繕の間に位置する一つの条件設定として扱う。

 このケースでの月額換算約5万3900円は、月6万円の賃貸住宅にかなり近い。しかし、賃貸では住宅の所有権が得られない一方、購入した住宅には30年後も土地と建物が残るため、支出額だけを比べるのは十分ではない。持ち家の経済性を判断するには、30年後にどれだけの価値が残り、その価値を実際に現金化できるかまで検討する必要がある。

三つ目の未来~複数の大規模修繕が重なる「高修繕ケース」

 築古住宅では、複数の設備や部材の更新時期が重なることがある。購入後に屋根を補修したと思ったら、数年後には外壁や給排水管に問題が現れ、その後に浴室や給湯器の交換が必要になるといった状況である。建物全体の経年劣化が進んでいる場合、修繕費が一時期に集中する可能性もある。

 高修繕ケースでは、購入直後に雨漏りや水回り、内装などの改修が必要となり、入居時修繕に400万円を支出すると仮定する。その後30年間の小規模修繕を300万円、屋根や外壁などの大規模修繕を500万円、給湯器や住宅設備の更新を350万円とする。

 さらに固定資産税240万円、保険料150万円、想定外の補修に備える予備費250万円を設定し、購入価格500万円と取得時諸費用70万円を加えると、30年間の想定総額は2760万円になる。購入価格の約5.52倍であり、月額換算では約7万6700円となる。予備費を使わなかった場合でも2510万円で、月額換算は約6万9700円になる。

 このケースでは、月6万円の家賃を30年間支払い続けた2160万円を上回る。しかも2760万円という数字には、住宅ローン金利、購入資金の機会費用、耐震補強が必要になった場合の大規模工事、解体費用、売却費用などを含めていない。建物や敷地の状態によっては、30年間の支出が3000万円を超えることも考えられる。

 ただし、高修繕ケースの2760万円が、格安中古住宅の最大費用を示しているわけではない。大規模な構造補修が必要になればさらに費用が増える可能性がある一方、実際にはこれほどの修繕を行わず、途中で売却や建て替えを選択する人もいるだろう。今回の3つのケースは、将来の支出に幅が生じる仕組みを示したものであり、住宅費の上限や下限を統計的に算出したものではない。

500万円の家には、3つの異なる30年間がある

 ここまでの試算をまとめると、購入価格が同じ500万円でも、建物の状態や修繕の内容によって30年間の想定支出には大きな差が生じる。

費用項目 低修繕 中修繕 高修繕
購入価格 500万円 500万円 500万円
取得時諸費用 70万円 70万円 70万円
入居時修繕 50万円 200万円 400万円
小規模修繕 120万円 200万円 300万円
屋根・外壁等 150万円 300万円 500万円
住宅設備更新 150万円 250万円 350万円
固定資産税 120万円 180万円 240万円
保険料 90万円 120万円 150万円
予備費 60万円 120万円 250万円
想定総額 1310万円 1940万円 2760万円
月額換算 約3.64万円 約5.39万円 約7.67万円

※金額は30年間の名目支出を合算した試算。予備費は全額使用するものとし、物価変動、借入金利、売却収入、処分費用などは含まない。

 低修繕ケースと高修繕ケースの差額は1450万円に達する。この差は、当初の購入価格500万円の約2.9倍に相当する。もっとも、税金や保険料、予備費の設定も変えているため、1450万円の差がすべて建物の修繕費によるものではない。それでも、住宅の取得後に発生する支出が、当初の購入価格を大きく上回る場合があることは分かる。

 例えば500万円の中古住宅と700万円の中古住宅があった場合、購入価格だけを見れば500万円の住宅が200万円安い。しかし700万円の住宅では屋根と水回りが更新済みで、500万円の住宅では購入後数年以内に300万円の工事が必要になるなら、取得時点の修繕計画だけで両者の価格差は逆転する。もちろん、700万円の住宅も修繕済みという説明だけで将来の故障がなくなるわけではなく、工事の内容や品質、建物全体の状態を確認する必要がある。

 中古住宅の購入で重要なのは、最も安い販売価格を探すことではない。価格と建物状態を合わせて評価し、購入後の修繕費を含めても長期間合理的に住める住宅を見つけることである。

固定資産税は「500万円の1.4%」ではない

 住宅費を試算するとき、固定資産税についても誤解が生じやすい。いすみ市の固定資産税率は1.4%であるが、500万円で住宅を購入したからといって、毎年500万円の1.4%である7万円を支払うとは限らない。

 固定資産税は、土地と家屋の固定資産評価額などに基づいて課税標準額を計算し、その課税標準額に税率を掛けて算出される。住宅用地には課税標準を軽減する特例があり、土地の利用状況や評価額によって税額が変わる。また、建物については築年数の経過とともに評価額が低下することがあるものの、実際の税額は建物の構造や評価方法などにも左右される。

 今回の試算では、固定資産税を30年間で120万円、180万円、240万円と設定したが、これは年平均にすると4万円、6万円、8万円である。この金額がいすみ市の500万円程度の中古戸建てにおける平均的な税負担だという統計的根拠はなく、あくまで比較のための設定である。

 また、建物を解体した場合には、土地の固定資産税が必ず安くなるとは限らない。住宅用地として受けていた課税標準の特例が適用されなくなり、土地の税負担が増えることがあるためである。管理不全空家等についても、一定の行政上の勧告を受ければ住宅用地特例の対象から外れる場合がある。

 したがって、購入を検討するときには、売主や不動産会社を通じて固定資産税の課税明細などを確認し、現在の税額と将来の土地利用の可能性を把握する必要がある。住宅の税負担は、売買価格だけから正確に推計できるものではない。

外房の中古住宅では、浄化槽や耐震性能も確認したい

 住宅の長期費用を考える際には、屋根や外壁、給湯器といった目に見えやすい設備だけでなく、その土地で暮らすために必要な維持管理にも注意しなければならない。

 例えば、公共下水道ではなく浄化槽を使用している住宅では、保守点検、清掃、法定検査などが必要になる。千葉県では2026年4月から、10人槽以下の浄化槽について定期検査の手数料が6000円とされているが、これは浄化槽の維持管理に必要な費用の一部にすぎない。保守点検や清掃、設備の故障などに伴う費用も考慮する必要があり、30年間では無視できない支出になる可能性がある。

 耐震性能も重要である。築35年の住宅なら1991年ごろに建築されたことになるが、建築時期が新耐震基準の導入後だからといって、現在の耐震性能を無条件に保証できるわけではない。建物の構造や施工状態、過去の増改築、劣化の程度によって安全性は異なるため、必要に応じて専門家による耐震診断を検討することが望ましい。

 また、沿岸地域では塩害や風雨、場所によっては浸水リスクにも注意が必要になる。ただし、外房地域の住宅がすべて同じ危険にさらされているわけではなく、海岸からの距離、標高、地形、周辺の排水状況などによって条件は大きく異なる。災害リスクについては、自治体の防災情報などを確認し、建物の立地条件と合わせて検討する必要がある。

 これらの費用やリスクは、今回の基本試算には個別に積み上げていない。したがって、実際の住宅を購入するときには、その住宅固有の設備や立地条件を追加して見積もる必要がある。

賃貸住宅の2160万円と、そのまま比較してよいのか

 ここまで、月6万円の賃貸住宅に30年間住めば2160万円になるという数字を比較対象として使用してきた。この計算自体は正しいが、持ち家と賃貸の経済性を判断するには、いくつかの条件をそろえる必要がある。

 第一に、30年間の家賃が変わらないという仮定である。実際には、家賃が上昇する可能性もあれば、地域の住宅需要が弱まり、同じ水準にとどまったり下がったりする可能性もある。仮に初年度の家賃が月6万円で、その後毎年2%ずつ上昇するとすれば、30年間の家賃合計は約2921万円になる。ただし、これは家賃上昇率を設定した計算例であり、いすみ市などの将来家賃を予測した数字ではない。

 第二に、持ち家の維持費も物価変動の影響を受けることである。将来の工事費や人件費、住宅設備の価格、保険料などが上昇すれば、今回の修繕費モデルよりも支出が増える可能性がある。賃貸住宅の家賃だけを上昇させ、持ち家の修繕費を現在の価格で固定して比較することは公平ではない。

 第三に、住宅の条件が同等とは限らないことである。月6万円の賃貸住宅と500万円の中古戸建てでは、建物面積、築年数、断熱性能、駅や商業施設への距離、駐車場の有無などが異なる場合がある。生活の利便性や住宅性能が違えば、単純な金額比較だけでは居住環境の価値を評価できない。

 さらに、賃貸では更新費用や家財保険などが発生する場合がある一方、持ち家では庭木の管理、敷地の補修、建物設備の維持などが所有者の負担になる。ただし、家具や家電、日常の生活費のように、持ち家でも賃貸でも共通して発生する費用を一方だけに加えるべきではない。

 したがって、今回の比較から分かるのは、格安中古住宅の長期的な現金支出が、条件によっては月6万円の賃貸住宅を下回り、別の条件では上回るということである。どちらが得かを厳密に判断するには、居住条件、物価上昇、資金調達、30年後の資産価値などを含めて比較する必要がある。

500万円を最初に支払うことにも経済的な意味がある

 もう一つ見落とせないのが、資金の時間価値である。住宅を現金で購入する場合、最初に500万円と諸費用を支払うことになるが、賃貸住宅では通常、その500万円を購入費用として支払う必要はない。購入に使わなかった資金を預貯金や運用に回したり、別の生活上の目的に利用したりできる点には経済的な価値がある。

 例えば、将来の100万円と現在の100万円は、経済学的には常に同じ価値とは限らない。資金を運用できる機会や物価の変化を考慮すれば、支出がいつ発生するかによって経済的な負担の評価も変わる。そのため、30年間に支払う金額を単純に合計した結果と、支出時期を考慮した現在価値による評価は区別する必要がある。

 住宅ローンを利用する場合には、さらに借入金利や返済期間が関係する。ただし、購入価格500万円をすでに総費用として計上している場合、住宅ローンの返済元本をもう一度全額加えると二重計上になる。借入による追加負担を評価する際には、元本の扱いに注意しながら金利や関連費用を計算しなければならない。

 今回の3ケースは、こうした金融面の条件を反映していない。したがって、30年間で1310万円、1940万円、2760万円という数字は、一定の仮定に基づく名目上の現金支出総額であり、経済学的な意味での最終的な純負担額とは異なる。

そして30年後、築65年の家が残る

 500万円で築35年の住宅を購入し、30年間住み続ければ、建物は築65年になる。その間に屋根や外壁、住宅設備を修繕してきたのだから、それなりの価値が残ると考えたくなるかもしれない。しかし、不動産の市場価値は、所有者がいくら修繕費を投じたかだけで決まるものではない。

 住宅の売却価格には、土地の立地や利用価値、建物の状態、周辺の取引事例、将来の需要などが関係する。500万円で購入した住宅に1000万円の修繕費をかけたとしても、30年後に1500万円で売却できるとは限らない。一方で、建物の価値が小さくなっていても、土地の需要が強い場所なら、一定の価格で取引できる可能性はある。

 例えば中修繕ケースでは、30年間の想定支出は1940万円である。30年後に300万円で売却でき、売却に伴う費用を考えなければ、単純な差引額は1640万円となる。100万円で売却した場合は1840万円、売却収入がなければ1940万円のままである。しかし、これらは30年後の売却価格を予測した数字ではなく、売却収入が長期的な負担額に与える影響を示した計算例にすぎない。

 また、売却には仲介手数料などの費用が発生する場合があり、建物を解体してから売却する必要があれば、その費用も考えなければならない。買い手が見つからなければ、売却収入を得ることができないまま、管理や税金の負担が続く可能性もある。

 地方の中古住宅を考えるとき、30年後に土地と建物が残ることと、30年後にそれを希望する価格で売却できることは、まったく別の問題なのである。

人口減少地域では、30年後の住宅需要をどう考えるか

 ここで、いすみ市の将来人口を考えてみたい。2020年の国勢調査で、いすみ市の人口は3万5544人だった。国立社会保障・人口問題研究所による2023年の地域別将来推計人口では、2050年の人口は2万218人と推計されている。これは2020年と比較して約43.1%の減少に相当する。

 もちろん、人口が43.1%減少するからといって、住宅価格も同じ割合で下落するわけではない。不動産価格は人口だけで決まるものではなく、世帯数、住宅の供給量、交通条件、生活利便性、移住需要などによって変化する。また、市全体では人口が減少しても、駅周辺や生活施設に近い地域へ住宅需要が集まる可能性もある。

 ただし、長期的な人口減少が住宅市場の需給構造を変化させる要因であることは否定できない。住宅を売りたい所有者が増える一方で、購入を希望する人が減れば、売却までの期間が長くなったり、希望価格での取引が難しくなったりすることが考えられる。

 今回の人口推計は2050年までであり、記事が想定する購入30年後の2056年について、住宅価格や売却確率を直接示すものではない。また、現在の人口推計と将来の不動産市場が必ず一致する保証もない。そのため、2056年にいすみ市の中古住宅が売れなくなると断定することはできないが、購入時に将来の需要減少を考慮する合理性は十分にある。

 地方住宅で重要なのは、30年後にいくらの価格が付くかという問題だけではない。実際に買い手が見つかるのか、売却できなければ誰が管理するのか、建物を解体した後の土地をどのように扱うのかという問題まで含めて考える必要がある。

建物を壊しても、土地の所有は終わらない

 自動車は不要になれば売却や廃車によって所有を終わらせることができるが、住宅の場合は建物を解体しても土地が残る。土地の所有権を持ち続ける限り、固定資産税や管理に関する問題が続く場合がある。

 住宅が建っている土地については、一定の要件を満たすことで固定資産税の課税標準が軽減されている場合がある。しかし、建物を解体すると住宅用地としての特例が適用されなくなり、土地の税負担が増える可能性がある。したがって、古い建物を解体すれば、その後の所有費用も必ず小さくなるとは限らない。

 また、相続した土地を一定の要件で国に引き取ってもらう相続土地国庫帰属制度は存在するものの、建物のある土地は対象にならず、その他にも土地の状態や権利関係に関する要件がある。そもそも、この制度は相続等によって取得した土地を対象とするものであり、自分で購入した住宅用地を誰でも自由に国へ返還できる制度ではない。

 つまり、中古住宅の所有には、購入費用や維持費だけでは説明できない長期的な責任が伴う。建物を利用しなくなった後も、売却、賃貸、相続、解体などの選択肢を考えなければならず、いずれも条件によって費用や手続きが異なる。

 だから地方で中古住宅を購入するときには、今の収入で購入できるかという問題に加え、30年後にその住宅と土地をどのように引き継ぎ、あるいは処分できるかまで考える必要がある。

安い中古住宅を選ぶために、本当に調べるべきこと

 ここまで読むと、500万円の中古住宅を購入すること自体が危険であるかのように感じるかもしれない。しかし、今回の分析から、そのような結論が導かれるわけではない。建物の状態が比較的良好で、必要な設備更新が行われており、長期間住み続けられる場所にあるなら、低価格の中古住宅は合理的な住まいの選択肢になり得る。

 むしろ問題なのは、500万円という売出価格だけで経済性を判断することである。中古住宅を購入する際には、建物の状態をできるだけ客観的に把握し、将来の修繕費を予測するための情報を集めることが重要になる。

 そのためには、屋根や外壁を最後に修繕した時期、給湯器や浴室などの設置年、給排水管の状態、過去の雨漏りやシロアリ被害、床下の湿気、基礎のひび割れ、増改築の履歴などを確認したい。外観がきれいに見える住宅でも、建物内部や床下に問題が残っている可能性があるため、見た目だけで建物全体の状態を判断することは難しい。

 必要に応じて、建築士などの専門家による建物状況調査を利用する方法もある。建物状況調査は、既存住宅の劣化や不具合などを一定の方法で確認するものであり、購入前のリスク把握に役立つ。ただし、調査によってすべての隠れた不具合を発見できるわけではなく、将来の故障が発生しないことを保証する制度でもない。

 国土交通省の制度では、中古住宅の取引に際し、宅地建物取引業者に建物状況調査に関する一定の説明義務などが課されているが、すべての中古住宅で調査そのものが実施されるわけではない。そのため、購入希望者自身が調査の有無や結果を確認し、必要なら追加の調査や修繕見積もりを検討することが望ましい。

 さらに、建物の状態だけでなく、土地の条件や将来の利用可能性も確認する必要がある。接道状況、再建築の可否、境界、未登記建物の有無、災害リスクなどは、購入後の利用や将来の売却に影響することがある。現在は生活に支障がなくても、30年後に売却しようとした際、こうした条件が買い手の判断に影響する可能性がある。

 中古住宅を購入する前の調査は、単なる建物の健康診断ではない。将来発生する可能性がある請求書を、購入前にできるだけ読み取ろうとする作業なのである。

200万円安く買うことより、300万円の修繕を避けること

 中古住宅の購入では、値引き交渉によって価格を下げることに関心が集まりやすい。もちろん、同じ条件の住宅を安く購入できるのであれば、その効果は大きい。しかし、将来の修繕費を考えると、購入価格の差よりも建物状態の差が重要になる場合がある。

 例えば、500万円の住宅を400万円に値引きして購入できたとしても、数年以内に屋根や給排水管の修繕で300万円が必要になれば、購入価格とその修繕費だけで700万円になる。一方、適切に修繕されている600万円の住宅で、当面の大規模工事を避けられるなら、結果として後者の方が支出を小さく抑えられる可能性がある。

 ただし、ここでも将来の修繕費を完全に予測できるわけではない。住宅設備の故障には偶然性があり、建物状況調査を実施しても把握できない問題が残ることもある。重要なのは不確実性をゼロにすることではなく、購入前に確認できる情報を増やし、重大な問題を抱えている可能性をできるだけ小さくすることである。

 また、購入価格が安い住宅ほど経済的な余裕が生まれるとは限らない。取得時の費用を抑えられても、購入後数年以内に大きな修繕費が必要になれば、家計への負担が集中する可能性がある。そのため、30年間の総支出だけでなく、購入直後に必要な現金と、修繕費のために確保しておく資金を分けて考える必要がある。

 結局のところ、安い中古住宅を上手に購入する方法とは、最も安い販売価格を探すことではなく、販売価格と建物状態と将来の維持費を一体として評価することである。

500万円という値札には、30年後の費用が書かれていない

 不動産広告には、購入希望者が知りたい情報が数多く掲載されている。価格、土地面積、建物面積、築年月、間取り、交通条件などを比較すれば、住宅の基本的な特徴を把握できる。しかし、そこに30年間の修繕費が正確に書かれていることはない。

 例えば、購入から8年後に給湯器を交換することになるのか、12年後に外壁を補修するのか、20年後に屋根の工事が必要になるのかは、現在の広告だけでは分からない。さらに30年後、その住宅を購入したい人が現れるかどうかも、現在の売出価格から直接判断することはできない。

 住宅の将来費用には、ある程度計画できる支出と、事前には予測しにくい支出がある。固定資産税や保険料、一定期間ごとの設備更新などは比較的計画を立てやすいが、雨漏りや配管の破損、災害による被害などは発生時期や金額が不確実である。しかも、複数の問題が重なると、その年の支出が大きくなることもある。

 今回の試算では、同じ500万円の中古住宅について、30年間の想定総額が1310万円、1940万円、2760万円という3つの結果になった。ただし、これは中古住宅の30年間の費用が必ずこの範囲に収まることを意味しない。建物の状態や維持管理の方法によっては1310万円より少なく済む可能性もあり、逆に2760万円を上回る可能性もある。

 だからこそ、購入価格だけでは住宅の本当の経済性を判断できないのである。

「安い家」ではなく「30年間安く住める家」を探す

 住宅を購入するとき、最初に目に入るのは売出価格である。500万円という数字には、住宅取得のハードルを大きく下げる魅力がある。都市部では購入が難しかった土地付き一戸建てでも、地方なら手が届く場合があり、それまで支払っていた家賃を住宅購入に振り向けようと考える人もいるだろう。

 しかし、住宅の価格には購入時に支払う金額と、所有している間に支払い続ける金額がある。さらに、所有を終えようとするときには、売却収入が得られる場合もあれば、解体や処分のために新たな支出が必要になる場合もある。この3つの段階を合わせて考えなければ、住宅の長期的な経済性を十分に評価することはできない。

 今回の分析では、購入価格500万円の中古住宅について、修繕費や税金などの条件を変えると、30年間の想定支出は1310万円から2760万円まで大きく変化した。この差は、特定の中古住宅の将来を予測したものではないが、購入後の維持費が住宅費全体に大きな影響を与えることを示している。

 さらに、30年後に土地と建物が残るとしても、その資産を希望する価格で売却できるとは限らない。人口減少が続く地域では、住宅の維持費だけでなく、将来の需要や所有を終える方法も重要な検討課題になる。

 それでも、格安中古住宅を購入すること自体が不合理なのではない。建物の状態を適切に調査し、必要な修繕費を見込み、長期間の生活に適した立地を選び、将来の売却や管理の可能性まで考慮すれば、低価格の中古住宅は経済的に魅力のある選択肢となり得る。

 住宅購入で本当に重要なのは、500万円という値札を見て得だと判断することではなく、その家に30年間住むために、どれほどのお金が必要になるのかを考えることである。安い家とは、単に購入価格が低い家ではない。取得時の費用と将来の維持費、最後に残る資産価値までを考えたとき、合理的な負担で暮らし続けられる家である。

 中古住宅を探すとき、私たちは今日の家を見に行っているように思っている。しかし、本当に確かめなければならないのは、その住宅が積み重ねてきた過去と、これから30年間に起こり得る変化である。

 500万円の家が本当に安かったのかどうか。その答えは購入した瞬間ではなく、住み続けるために支払った費用と、最後に残った価値によって決まるのである。

地域の課題を、自分の判断に置き換えて考える

弊社では、住まい・車・移住などの大きな選択を、 費用や将来条件をもとに数字で比較し、判断できる形に整理しています。

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 地方移住の魅力としてよく挙げられるのが、住宅価格や家賃の安さです。都市部では数千万円する戸建て住宅が、地方では数百万円で売られていることもあり、賃貸住宅についても都市部より低い家賃で広い住宅を借りられる地域があるため、「都市部で家賃を払い続けるより、地方で安い中古住宅を買った方が得なのではないか」と考える人は少なくありません。

 確かに、住宅の購入価格や家賃だけを比べれば、地方移住が大幅に有利に見えるケースがあります。しかし、実際の生活では住宅費だけを支払うわけではなく、自動車、固定資産税、住宅修繕、光熱費、庭や敷地の管理、通院や買い物のための移動、さらに将来その住宅を売却したり処分したりする費用まで含めて考えなければ、本当の経済負担は分かりません。

 そこでこの記事では、60歳前後の夫婦2人が都市近郊の賃貸住宅から地方の中古戸建てへ移住するモデルケースを設定し、住宅、交通、自動車、光熱・水道を中心とした10年間の主要生活固定費を比較します。ここで示す金額は全国共通の平均値ではなく、地方移住の経済性をどのように計算すればよいのかを考えるためのシミュレーションであり、地域、住宅状態、車種、年間走行距離、家族構成などによって結果は大きく変化します。

 なお、今回の基本計算では分かりやすさを優先し、金利、物価上昇、家賃上昇、資金運用による収益などの「お金の時間価値」は直接反映していません。また、食費、通信費、医療費、娯楽費などについても個人差が大きいため中心的な比較から外し、都市近郊と地方で差が生じやすい住宅、交通、自動車、光熱・水道を比較します。

住宅価格だけを比べると地方は大幅に安く見える

 例えば、都市近郊で月8万円の賃貸住宅に住んでいる夫婦が、地方で500万円の中古戸建てを購入するとします。都市近郊で月8万円の家賃を10年間支払えば家賃だけで960万円となるため、500万円の地方住宅と単純に比較すると、地方の方が460万円安く見えます。

8万円 × 12か月 × 10年 = 960万円

960万円 - 500万円 = 460万円

 しかし、この460万円をそのまま地方移住による節約額と考えることはできません。地方住宅を購入すれば、不動産取得時の諸費用、入居前修繕、固定資産税、火災・地震保険、屋根や外壁の修繕、給湯器や給排水設備の交換、庭や敷地の管理などが必要になり、公共交通が少ない地域では夫婦それぞれに自動車が必要になることもあるため、住宅価格の差より自動車費などの差の方が大きくなる可能性もあるからです。

 したがって、地方移住の経済性を見る場合には、「住宅がいくらで買えるか」だけではなく、「その地域で10年間生活するために合計でいくら必要になるか」という視点で比較する必要があります。

全国平均の家賃だけでは移住先を判断できない

 総務省統計局の2023年住宅・土地統計調査によると、借家のうち専用住宅の全国平均家賃は1か月当たり5万9,656円で、2018年と比べ7.1%上昇しています。しかし、この数字は全国平均であり、東京圏などの都市部と地方都市、農村部では家賃水準が大きく異なるほか、同じ自治体の中でも駅からの距離、住宅面積、築年数、駐車場の有無などによって条件は変わります。

 このため、実際に移住を検討する際には、全国平均をそのまま当てはめるのではなく、現在住んでいる地域で実際に負担している家賃と、移住候補地の住宅価格や募集家賃を個別に比較することが重要です。今回は比較を分かりやすくするため、都市近郊の家賃を月8万円と仮定します。

今回のモデルケース

都市近郊で暮らし続ける場合

項目 条件
世帯 60歳前後の夫婦2人
住宅 賃貸住宅
家賃 月8万円
更新料等 2年ごとに8万円
駐車場 月1万2,000円
自動車 1台
年間走行距離 6,000キロメートル
買い物 自動車、徒歩、公共交通
病院 自動車または公共交通で20分以内
比較期間 10年間

地方へ移住する場合

項目 条件
世帯 同じ夫婦2人
住宅 中古戸建て購入
購入価格 500万円
建物 築35年の木造戸建て
土地 250平方メートル
入居前修繕 200万円
自動車 普通車1台+軽自動車1台
年間走行距離 2台合計1万5,000キロメートル
買い物 自動車で片道10キロメートル程度
病院 自動車で片道20キロメートル程度
比較期間 10年間
10年後 住宅を売却すると仮定

 このモデルでは、食費や通常の日用品費については都市近郊と地方で大きく変わらないものとして比較から外しますが、実際には近隣店舗の価格、宅配利用、家庭菜園などによって差が生じるため、個別の移住計画では必要に応じて追加して計算する必要があります。

都市近郊で10年間暮らす住宅費

 家賃月8万円を10年間支払えば960万円となり、これに2年ごとの更新料を4回として32万円、2年間で2万円程度の火災保険等を5回として10万円、10年後の退去時負担を10万円と仮定すると、住宅関係の支出は合計1,012万円になります。

項目 10年間
家賃 960万円
更新料等 32万円
火災保険等 10万円
退去時負担 10万円
合計 1,012万円

 賃貸住宅では10年間家賃を払い続けても土地や建物は資産として残りませんが、その一方で、固定資産税や屋根、外壁、給排水設備などの大規模修繕を直接負担する必要はなく、仕事や家族構成、健康状態など生活条件が変化した場合にも比較的容易に転居できるという利点があります。

地方住宅では500万円の住宅が500万円では済まない

 地方で500万円の中古住宅を購入するとしても、実際の初期費用は購入価格だけではありません。登記関係費用、税金、司法書士報酬、不動産仲介関係費用、建物調査などを合わせて80万円、さらに築35年の住宅を最低限安心して使用するための入居前修繕を200万円と仮定します。

入居前修繕 試算額
屋根・雨どい 40万円
外壁補修 20万円
台所 35万円
浴室・給湯設備 45万円
トイレ 20万円
床・内装 20万円
電気・水道 20万円
合計 200万円

 購入価格500万円に購入諸費用80万円、入居前修繕200万円を加えると、入居までに必要な住宅関係費用は780万円となります。

500万円 + 80万円 + 200万円 = 780万円

 低価格の中古住宅では、住宅本体の価格が安いからといって登記、仲介、調査などの費用まで比例して安くなるとは限らず、結果として購入価格に対する諸費用の割合が高くなることがあります。そのため、「500万円の家だから600万円程度あれば十分」と考えるのではなく、購入前に諸費用と修繕費を分けて見積もる必要があります。

地方住宅では購入後も維持費が続く

 住宅を所有すると、購入後も固定資産税、火災・地震保険、敷地管理、小修繕などの支出が継続します。今回のモデルでは、固定資産税等を年間6万円、火災・地震保険等を5万円、草刈りや庭木管理を5万円、浄化槽管理を4万円、小修繕を5万円とし、年間25万円、10年間で250万円とします。

項目 年間 10年間
固定資産税等 6万円 60万円
火災・地震保険等 5万円 50万円
草刈り・庭木管理 5万円 50万円
浄化槽管理 4万円 40万円
小修繕 5万円 50万円
合計 25万円 250万円

 ここで注意したいのは、固定資産税は中古住宅の購入価格から単純に決まるわけではなく、固定資産税評価額、土地や建物の条件、住宅用地に対する軽減などによって変わることです。そのため、実際の購入判断では売主側の課税明細などを確認することが重要であり、下水道が整備されている地域では浄化槽管理費が不要になる一方、上下水道料金や地域特有の負担が生じる場合もあります。

築35年住宅では臨時修繕も考えておく

 中古住宅では、購入時に一定の修繕を行ったとしても、その後10年間に設備の故障や追加補修が発生する可能性があります。今回のモデルでは、購入時に交換していない設備や、その後の使用によって新たに劣化した部分を対象として、10年間で150万円の追加修繕を見込みます。

時期 内容 試算額
3年目頃 空調・給湯関連など 25万円
5年目頃 浄化槽・排水関係 20万円
7年目頃 外壁・雨どい補修 25万円
9年目頃 給排水設備 30万円
随時 その他の故障・補修 50万円
合計 150万円

 実際の修繕額は住宅の状態によって大きく変わり、屋根、基礎、配管などに重大な問題があれば数百万円単位の追加費用になることもありますが、反対に、購入前に十分な改修が行われている住宅であれば今回の150万円を大きく下回る可能性もあります。したがって、築年数だけを見るのではなく、建物の状態と過去の修繕履歴を確認することが重要です。

10年後にいくらで売れるかが大きな変数になる

 持ち家と賃貸を比較するときには、住宅購入に支払った金額だけでなく、10年後にどの程度の資産価値が残っているかも考える必要があります。今回のモデルでは、500万円で購入した住宅を10年後に300万円で売却し、仲介、片付け、登記その他の売却関連費用として50万円かかると仮定するため、売却手取額は250万円となります。

300万円 - 50万円 = 250万円

 ただし、この250万円は保証された金額ではなく、地方住宅の将来価格は人口動態、駅や商業施設との距離、土地価格、接道状況、上下水道、災害リスク、建物状態などに強く左右されます。特に低価格地域では建物価格がほぼゼロになり、土地そのものの価値が住宅全体の売却価格を左右することもあるため、「500万円で購入したのだから10年後にも300万円程度では売れるだろう」と考えるのは危険です。

 実際の移住計画では、国土交通省の不動産情報などを使って候補地域の実際の取引価格を確認し、将来売却価格については強気、標準、慎重という複数の条件で試算する方が安全です。

地方住宅の10年間の住宅負担

項目 試算額
購入価格 500万円
購入諸費用 80万円
入居前修繕 200万円
10年間の維持費 250万円
追加修繕 150万円
支出合計 1,180万円
10年後売却手取 ▲250万円
売却手取控除後負担 930万円

 都市近郊の賃貸住宅が1,012万円であるのに対し、地方住宅は930万円となるため、住宅だけを比較すれば地方の方が82万円少なくなります。しかし、その差は10年間で82万円、1か月当たりでは約6,800円にすぎません。

 最初に「都市近郊の家賃960万円」と「地方住宅の購入価格500万円」だけを比べた段階では460万円の差がありましたが、購入諸費用、修繕、税金、維持管理、売却価値まで含めると差は82万円まで縮小します。このことからも、地方移住の経済性を住宅の表示価格だけで判断すると、実際の負担を大きく見誤る可能性があることが分かります。

地方移住の損得を大きく左右する自動車

 地方移住では、住宅費以上に自動車が家計を左右する場合があります。都市近郊では夫婦で1台を共有し、徒歩や公共交通を併用できる家庭であっても、地方では勤務先、買い物、通院などの時間が異なるため、夫婦それぞれに自動車が必要になることがあるからです。

 政府の家計調査でも、自動車購入、燃料、整備、自動車保険などは自動車等関係費として家計支出の重要な一分野となっていますが、全国平均には自動車を保有していない世帯や購入時期の異なる世帯も含まれます。このため、地方移住を検討するときには平均額をそのまま使用するより、必要な台数と実際の年間走行距離を設定して計算する方が適切です。

都市近郊の自動車・交通費

項目 年間相当額 10年間
車両購入・買替え相当 25万円 250万円
燃料費 8万円 80万円
自動車保険 6万円 60万円
税金・車検 7万円 70万円
整備・タイヤ 5万円 50万円
駐車場 14万4,000円 144万円
公共交通費 6万円 60万円
合計 714万円

地方の自動車・交通費

項目 年間相当額 10年間
2台の購入・買替え相当 40万円 400万円
燃料費 20万円 200万円
自動車保険 11万円 110万円
税金・車検 12万円 120万円
整備・タイヤ 9万円 90万円
駐車場 0円 0円
公共交通費 2万円 20万円
合計 940万円

 この条件では、地方の自動車・交通費は都市近郊より10年間で226万円高くなります。住宅では地方が82万円有利でしたが、自動車・交通費では226万円不利になるため、住宅費と交通費を合わせると地方側が144万円高くなり、住宅価格の安さだけでは自動車2台分の負担を吸収できない結果になります。

940万円 - 714万円 = 226万円

226万円 - 82万円 = 144万円

自動車を2台から1台へ減らせれば結果は大きく変わる

 地方でも夫婦で1台を共有できるのであれば、2台目の車両購入費、自動車保険、税金、車検、整備などを削減できます。ただし、自動車を2台から1台にしたからといって地方で必要な走行距離そのものが半分になるわけではなく、買い物や通院までの距離は変わらないため、燃料費については2台目の費用をそのまま全額削減できると考えるのではなく、1台へ集約した後の年間走行距離を改めて計算する必要があります。

 今回、説明用として2台目を持つことによる追加負担を10年間で約300万円と置けば、地方側の総負担は2,270万円から1,970万円へ低下し、都市近郊の2,046万円より76万円少なくなります。

2,270万円 - 300万円 = 1,970万円

2,046万円 - 1,970万円 = 76万円

 このように、自動車を何台保有しなければならないかは、地方移住の経済性を大きく左右します。「地方だから安いか」という比較よりも、移住候補地で夫婦それぞれに自動車が必要なのか、1台を共有できるのかという生活動線の方が、実際の家計には大きな意味を持つ場合があります。

地方の戸建ては光熱費が安いとは限らない

 地方では住宅価格が安くても、都市部の集合住宅より住宅面積が広くなりやすく、築年数の古い戸建てでは断熱性能が低い場合もあります。環境省の家庭部門の調査でも、戸建住宅世帯は集合住宅世帯より年間のエネルギー支払額が高い傾向が確認されているため、地方へ移住すれば光熱費まで自動的に下がると考えるのは適切ではありません。

 今回のモデルでは、電気・ガス、水道その他を合わせて都市近郊を年間32万円、地方を年間40万円と仮定します。

項目 都市近郊 地方
電気・ガス等 年24万円 年30万円
水道・設備関連 年8万円 年10万円
年間合計 32万円 40万円
10年間 320万円 400万円

 この金額は全国統計から直接導いた平均値ではなく、あくまで今回のモデルにおける説明用の仮定です。実際の光熱費は気候、住宅面積、断熱性能、給湯方式、太陽光発電の有無などによって大きく異なるため、個別の移住計画では現在の実績値と候補住宅の条件から推定する必要があります。

住宅・交通・光熱費を合計すると地方が224万円高くなる

項目 都市近郊 地方
住宅 1,012万円 930万円
自動車・交通 714万円 940万円
光熱・水道等 320万円 400万円
10年間合計 2,046万円 2,270万円

 今回設定した条件では、地方移住後の主要生活固定費は10年間で2,270万円となり、都市近郊の2,046万円より224万円高くなります。10年間で224万円という差は、1年当たりでは22万4,000円、1か月当たりでは約1万8,700円に相当します。

224万円 ÷ 120か月 = 約1万8,700円

 ただし、この224万円は「地方移住すると平均して224万円高くなる」という統計的な結論ではありません。家賃8万円、地方住宅500万円、入居前修繕200万円、自動車2台、年間走行距離1万5,000キロメートル、10年後の売却手取250万円など、今回設定した条件を前提とした結果であり、条件が一つ変わるだけでも結論が逆転する可能性があります。

 したがって、この記事で重要なのは224万円という金額そのものではなく、住宅修繕、自動車台数、光熱費、将来売却価格などのどの要因が、地方移住の負担をどの程度増減させているのかを把握することです。

都市近郊の家賃はいくらなら損益が逆転するのか

 今回のモデルでは都市近郊の家賃を月8万円としていますが、その他の条件を変えず、更新料も家賃1か月分として連動すると仮定すると、地方側の2,270万円とほぼ同じになる都市近郊の家賃は月約9万8,000円です。

 したがって、このモデルでは都市近郊の家賃が月8万円程度であれば地方側の方が高くなりますが、家賃が月10万円前後になると両者の総負担は近づき、それを超えて高くなるほど地方移住が金銭的に有利になりやすくなります。逆に言えば、「地方住宅が500万円だから安い」と判断するより、現在支払っている家賃、駐車場代、自動車台数などを使って自分自身の損益分岐点を計算する方が、実際の移住判断には有効です。

移動時間や住宅管理時間も生活上のコストになる

 金銭支出とは別に、地方生活では買い物、通院、行政手続、庭や住宅の管理に時間を使う場合があります。例えば、地方移住によって買い物に週1時間、通院・薬局に月2時間、行政・金融関係に月1時間、住宅・敷地管理に月4時間の追加時間が発生すると仮定すると、年間136時間、10年間では1,360時間になります。

 この時間を仮に1時間1,500円で評価すると204万円相当になりますが、これは実際に204万円を支払うという意味ではなく、退職後の時間を1時間いくらと評価するかも人によって大きく異なります。そのため、現金支出2,270万円に204万円をそのまま加えるのではなく、10年間で1,360時間を運転や住宅管理に使う生活を本人が負担と感じるのか、それとも庭仕事や運転を生活の一部として楽しめるのかを考えるための参考値として扱う方が適切です。

都市部で通勤している場合は逆方向の時間効果もある

 地方移住によって退職したり在宅勤務へ移行したりするのであれば、都市部での通勤時間が減少する可能性があります。総務省の2021年社会生活基本調査でも、神奈川県、千葉県、東京都、埼玉県などでは平日の通勤・通学時間が長い傾向が示されており、都市近郊で長時間通勤をしている人にとっては、地方移住によって失われる時間より、取り戻せる時間の方が大きくなる場合があります。

 仮に現在の往復通勤時間が1時間30分、年間勤務日数が240日であれば、年間の通勤時間は360時間、10年間では3,600時間になります。

1.5時間 × 240日 × 10年 = 3,600時間

 地方移住によってこの時間が大幅に減るのであれば、買い物や通院のための移動時間が増えても、生活全体の移動時間は減少する可能性があります。そのため、時間を比較するときには、地方移住によって新たに増える時間だけでなく、通勤や混雑など移住によって減少する時間も同時に計算する必要があります。

20年、30年住めば購入が必ず有利になるわけではない

 住宅購入時の登記費用や仲介費用などは一度だけ発生するため、同じ住宅に長期間住めば1年当たりの初期費用は小さくなり、この意味では3年から5年で再移住する場合より20年以上住む方が住宅購入の経済性は高くなりやすいと考えられます。

 しかし、居住期間が長くなるほど、屋根、外壁、給排水設備、浴室、給湯器などの大規模修繕が必要になる可能性も高くなるため、「長く住めば必ず購入の方が安い」と単純には言えません。特に60歳前後で地方へ移住する場合には、10年間だけではなく、その後75歳、80歳となったときにもその住宅で暮らし続けるのか、途中でより便利な地域へ再移住するのかまで含めて考える必要があります。

お金の時間価値を考えると比較はさらに複雑になる

 今回の基本計算では、現在支払う100万円と10年後に受け取る100万円を同じ金額として扱っていますが、金融的には現在のお金と将来のお金の価値は同じではありません。例えば年2%程度の割引率で考えると、10年後に受け取る250万円の現在価値は約205万円となるため、10年後の住宅売却手取を現在の250万円と同じ価値として扱う今回の単純計算は、購入側をやや有利に見せる可能性があります。

 一方で、都市近郊の家賃960万円も全額を現在支払うわけではなく、10年間にわたって支払うため、こちらも現在価値へ換算しなければ厳密な比較にはなりません。より精密に比較する場合には、NPV(Net Present Value・正味現在価値)を用いて各年の支出と10年後の売却収入を現在価値へ換算する方法がありますが、一般的な移住判断では、まず現在価格による10年間の総負担を比較し、必要に応じて金利や資金運用の影響を加える方法でも実用上は十分です。

地方移住の3つのシナリオ

 地方住宅では、修繕費、自動車台数、将来売却価格などの不確実性が大きいため、一つの条件だけで判断せず、楽観、標準、慎重という複数のシナリオを作る方が安全です。

条件 楽観 標準 慎重
入居前修繕 50万円 200万円 400万円
自動車 1台 2台 2台
追加修繕 80万円 150万円 300万円
10年後売却手取 400万円 250万円 50万円
10年間総負担 約1,600万円 約2,270万円 約2,820万円

 標準シナリオ2,270万円に対して、慎重シナリオでは入居前修繕が200万円増え、追加修繕が150万円増え、10年後の売却手取が200万円減るため、10年間総負担は約2,820万円になります。このように、地方移住の経済性は住宅購入価格そのものより、修繕費、自動車台数、売却可能性といった条件によって大きく変化するため、標準条件だけではなく、慎重シナリオになっても家計を維持できるかを確認することが重要です。

地方移住が有利になりやすい条件

 今回の標準モデルでは地方側が224万円高くなりましたが、自動車を1台で生活できる、入居前修繕が少なくて済む、都市部で高い家賃や駐車場代を支払っている、比較的長期間居住する予定がある、将来も一定の住宅価値が残るといった条件が重なるほど、地方移住は金銭的に有利になりやすくなります。

 例えば、都市部の駐車場代が今回の月1万2,000円ではなく月3万円であれば、10年間では360万円となり、今回の条件より216万円増えることになります。この差だけでも標準モデルにおける地方側の224万円の不利の大部分が解消されるため、現在の家賃と駐車場代が高い世帯ほど、地方移住による住宅・駐車費の削減効果は大きくなります。

 反対に、地方でも自動車を2台保有しなければならず、築古住宅で大規模修繕が必要となり、さらに10年後にはほとんど売却できないという条件が重なれば、住宅の購入価格そのものが安くても、総負担では都市近郊を大きく上回る可能性があります。

60歳前後の移住では自動車を運転できなくなった後も考える

 60歳で地方へ移住する場合、今回の10年間比較が終わる70歳前後は、まだその後の生活が長く続く可能性があります。現在は夫婦とも問題なく自動車を運転できたとしても、75歳、80歳となったときに同じような生活を続けられるとは限らないため、現在スーパーまで自動車で15分だから問題ないという判断だけでは不十分です。

 将来自動車を運転しなくなった場合でも食品を購入できるのか、病院や薬局へ行けるのか、タクシーやデマンド交通を利用できるのか、食品宅配や移動販売が利用できるのかといった条件まで確認する必要があります。また、自治体に地域交通制度が存在していても、自宅の地区が運行区域外であったり、利用できる曜日や時間帯が限られていたりする場合があるため、「地域交通がある」という名称だけで判断せず、自宅から病院やスーパーまで実際に利用可能かを確認することが重要です。

移住前には実際の生活動線を試す

 地図上でスーパーまで10キロメートル、病院まで20キロメートルと表示されていても、実際の生活負担は距離だけでは決まりません。道路幅、信号、渋滞、坂道、積雪、夜間の暗さ、ガソリンスタンドの位置、病院や商業施設の駐車場から入口までの距離などによって、同じ10キロメートルでも負担は大きく変わります。

 そのため、移住候補地を訪れる際には観光地だけを見るのではなく、実際に朝の時間帯にスーパーへ行き、病院まで運転し、夜間や雨天時にも道路状況を確認すると、移住後の生活を具体的に想像しやすくなります。可能であれば数日から数週間程度試住し、買い物、通院、給油、ごみ出しなどの日常生活を実際に体験する方が、住宅価格や地図だけを見て判断するより移住後の生活とのずれを小さくできます。

費用が高くても地方移住が合理的な場合はある

 今回の標準モデルでは地方移住の方が10年間で224万円高くなりましたが、これは地方移住に価値がないという意味ではありません。月額に換算すれば約1万8,700円であり、その追加負担によって広い住宅、庭、静かな環境、趣味の作業空間、ペットとの生活、自然環境などが得られるのであれば、その人にとって十分に合理的な支出になる可能性があります。

 一方で、住宅が安いという理由だけで移住したものの、実際には毎日の運転、草刈り、住宅修繕、買い物や通院の移動を負担に感じるのであれば、金銭面だけでなく生活満足度の面でも不利になる場合があります。したがって、移住判断では金額と生活価値を一緒にして考えるのではなく、まず10年間に必要となる金額を計算したうえで、「その差額を支払ってでも得たい暮らしなのか」と考える方が整理しやすくなります。

地方移住で重要なのは住宅価格ではなく総負担

 今回のモデルケースでは、都市近郊の住宅、自動車・交通、光熱・水道を合わせた10年間の主要生活固定費は2,046万円となり、地方移住後は2,270万円となったため、標準条件では地方側が224万円高くなりました。しかし、この差を生んだ主要因は500万円という住宅購入価格ではなく、住宅修繕、自動車2台の保有、戸建住宅の光熱・管理負担であり、逆に自動車を1台で生活できる地域を選び、状態の良い住宅を購入し、現在の都市部で高い家賃や駐車場代を支払っているのであれば、地方側が有利になる可能性があります。

 したがって、地方移住を検討するときに確認すべきなのは「地方の家はいくらで買えるのか」という一点ではありません。現在の住宅費、自動車費、交通費、光熱費を実績から把握したうえで、移住後に必要となる住宅取得費、維持管理費、自動車費、10年間の臨時修繕、さらに10年後の売却や再移住までを同じ条件で比較することが重要です。

 地方移住は必ず生活費が安くなる方法でもなければ、必ず都市生活より不便になる選択でもありません。住宅、交通、家族構成、仕事、年齢、健康状態、地域の利便性、将来の住み替えまで含めて考えて初めて、その人にとって経済的に合理的な移住なのかを判断できます。

 特に60歳前後からの移住では、現在から10年間だけを見るのではなく、70歳、75歳、80歳になったときにもその住宅と地域で暮らし続けられるかという視点が欠かせません。住宅価格の安さは地方移住を考える入口の一つにすぎず、本当に比較すべきなのは、その場所で長く暮らし続けるために必要となる住宅、交通、維持管理を含めた総負担なのです。

参考にした主な公的統計・制度資料

 家賃については総務省統計局「2023年住宅・土地統計調査」、通勤・通学時間については総務省統計局「2021年社会生活基本調査」、住宅形態別のエネルギー支出については環境省「家庭部門のCO2排出実態統計調査」、地域別の不動産取引価格については国土交通省「不動産情報ライブラリ」などを参考にしています。

 ただし、これらの全国統計は個々の移住世帯の費用を直接示すものではなく、実際に移住を検討するときには全国平均よりも、現在の家計実績と移住候補地の住宅価格、税金、交通条件、修繕見積りを使って個別に計算することが重要です。

地域の課題を、自分の判断に置き換えて考える

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