地域分析記事

地域の暮らしと地域課題を数学とデータで考える

 人が住まなくなった家は、ある日突然、廃屋になるわけではない。昨日まで誰かが開けていた雨戸が閉じたままになり、庭の草が少しずつ伸び、郵便受けには広告が重なっていく。数か月ならまだ「留守の家」に見えるが、一年、二年と時間がたつにつれて、家は不思議なほど早く町の風景から浮き始め、誰も住んでいないことが、外から見ても少しずつ分かるようになっていく。

 空き家問題というと、私たちは老朽化した建物や倒壊の危険、雑草、害虫、防犯といった問題を思い浮かべる。しかし商売という視点から見るなら、建物が壊れてから解体する仕事だけを見るのでは少し遅い。家がまだ使える状態にありながら、そこへ定期的に足を運び、異常がないか確かめる人がいなくなるという「管理の空白」が、空き家が生まれた瞬間から始まっているからである。

 この空白は、単純に人口が減ったから生じるのではない。より重要なのは、住宅と所有者の生活圏が離れていくことである。

空き家900万戸の時代に起きていること

 2023年の住宅・土地統計調査によれば、日本全国の空き家は900万戸、空き家率は13.8%となり、いずれも過去最高となった。賃貸用や売却用、別荘などを除き、明確な使用目的を持たない空き家も385万戸に達しているため、もはや一部の過疎地だけに起きている特殊な現象ではなく、日本の住宅市場そのものが大量の「使われない家」を抱える時代に入ったと考えた方がよい。

 さらに重要なのは、その家がなぜ空き家になったのかという点である。国土交通省の調査では、空き家の取得理由の過半数を相続が占めており、親が亡くなり、地方の実家を都市部に暮らす子どもが受け継ぐというケースは、珍しい例ではなく空き家発生の中心的な経路になっている。高齢になった親が施設へ入り、それまで暮らしていた家だけが残る場合もあれば、転勤や住み替えを契機に「いずれ使うかもしれない」と考えながら住宅を手放さない場合もあり、こうして人と住宅の関係は完全に切れるのではなく、細い糸でつながったまま遠距離になる。

 もっとも、日本の空き家所有者の大半が東京や大阪など遠く離れた地域に住んでいるわけではない。調査では、空き家まで徒歩圏内または交通機関などを利用して一時間以内という所有者が全体の四分の三程度を占めるため、「空き家の持ち主はみな遠隔地にいる」と考えるのは正しくない。その一方で、一時間を超える距離に住む所有者も二割を超え、管理上の問題として「遠方に住んでいるため往訪が難しい」と答える人も二割程度存在していることから、遠隔管理の市場は空き家所有者全体ではなく、その中に存在する一定の層を対象とする市場だと考える方が現実に近い。

 ここに、普通の地域ビジネスとは少し違う構造が現れる。一般の小売業や飲食業なら、店の近くに住んでいる人が顧客になるため、人口が減れば客も減り、人口密度が下がれば商売は難しくなる。しかし空き家管理では、サービスを受ける建物は地方にありながら、料金を払う人は県外や都市部に暮らしている可能性がある。

 つまり、家は地域に残り、財布は地域の外へ移動する。この関係が成立するなら、人口減少地域にありながら町外の人から地域へお金を呼び込む、少し変わったサービス市場が生まれることになる。

誰がお金を払うのか

 空き家の隣に住む人が雑草や防犯を心配しているからといって、その人が毎月の管理料を払うわけではない。自治会が困り、自治体が対応に追われていても、通常の民間サービスとして継続的に料金を負担する主体になるとは限らないため、この商売を考えるとき最初に確認すべきなのは、「困っている人は誰か」ではなく、「その困り事を解消するために実際にお金を払う人は誰か」ということである。

 もっとも有力なのは、やはり所有者本人か、その家を事実上管理している家族である。ただし、ここでいう所有者は、積極的に家を保有したい人ばかりではない。「売るか残すか決められない」「兄弟で話がまとまらない」「親の家なので気持ちの整理がつかない」「年に何度も様子を見に行くのは大変だ」といった事情を抱えながら、結論を先送りしている人も少なくない。

 実際の支払者が名義上の所有者本人とは限らないところも重要である。高齢の親名義の住宅を遠方の子どもが管理していたり、兄弟のうち一人が代表して維持費を負担していたりすることもあるため、このサービスの本当の顧客は「家を所有している人」というより、「その家を気にし続けなければならない人」だと考えた方が分かりやすい。

 東京から地方の実家を見るために何時間もかけて往復し、交通費を払い、休日を一日使う。その負担を年に数回繰り返している人にとって、月に数千円という費用は単なる住宅維持費ではなく、自分が現地へ行かなくても誰かが代わりに確認してくれる状態を買うための料金になる。

 ただし、ここで注意しなければならない。困っていることと、お金を払うことは同じではない。

「困っている人」は多いが、「お金を払う人」はまだ少ない

 空き家所有者への調査では、「管理の作業が大変」と感じる人は三割前後、「遠方に住んでいるため往訪が難しい」とする人も二割程度存在しているため、管理負担という問題そのものは明確に存在している。しかし現実には、空き家の管理を所有者本人や親族が行っている割合が非常に高く、不動産会社、建設会社、管理専門業者などへ主な管理を委託している割合は数%程度にとどまっている。

 この数字は、遠隔住宅管理という商売を考えるうえで極めて重要である。空き家900万戸という数字だけを見て、「巨大な市場がある」と考えるのは危険であり、900万戸がそのまま900万件の顧客になるわけではない。むしろ現状は、管理に困る人はすでに存在する一方で、その困り事を有料サービスへ置き換える習慣がまだ十分には形成されていない市場なのである。

 空き家所有者の中には、親族に頼めば済むと考える人もいれば、自分で年に数回見に行けばよいと判断する人もいる。また、管理費そのものを負担に感じている人も少なくなく、調査でも管理費用の負担を課題とする回答が二割程度あるため、「月五千円なら誰でも払う」という発想は成り立たない。

 だからこそ、この商売では空き家所有者全体を狙うより、料金を払う合理的な理由が強い人を探す必要がある。遠距離に住み、往復の交通費が高く、仕事や介護などで時間を取りにくく、将来的には売却や再利用を考えている人にとっては、外部委託の価値が大きくなる一方、自宅から十分程度の場所に空き家があり、本人が元気で月に一度見に行けるなら、有料管理サービスを利用する理由は弱い。

 需要は空き家の数だけでは決まらない。距離、時間、所有者の年齢、資産価値、交通費、家族構成、そして家を今後どうするつもりなのかという条件が重なったとき、初めて支払意思が生まれるのである。

売るのは「見回り」ではなく「現地に目がある状態」

 遠隔住宅管理というと、玄関を確認し、窓を開け、郵便物を整理し、庭を眺めて帰るだけの仕事に見える。作業そのものを並べれば高度な技術ではなく、それだけなら近所の知人に頼めば済むため、毎月料金を払って専門業者へ依頼する理由は弱い。

 商品になるのは、その確認を一定の基準で繰り返し、遠方の所有者に「今月も異常はなかった」と見える形で証明するところまで含めたときである。毎回同じ場所から建物を撮影し、外壁、屋根、窓、庭、郵便受けなどの変化を記録し、大雨や台風の後には必要に応じて臨時確認を行い、異常が見つかれば写真とともに知らせる。そして修繕が必要なら地域の事業者へつなぐところまで仕組みにすれば、それは単なる見回りではなく、所有者に代わって住宅と地域との関係を維持するサービスになる。

 遠隔地にいる顧客には、サービス提供者が本当に現地へ行ったのかを直接確認できないという問題もあるため、この商売では技術力と同じくらい「証拠」が重要になる。撮影日時の分かる写真、一定形式の報告、前月との比較、異常時の記録が蓄積されれば、所有者は離れた場所にいながら家の変化を時間の流れとして把握できる。

 考えてみれば、ここで売られているのは住宅の見回り作業そのものではない。数十キロ、数百キロ離れた町に、自分の代わりに一組の目が存在するという状態なのである。

月額五千円は高いのか、安いのか

 遠隔住宅管理の市場では、屋外巡回を中心とした簡易なサービスなら月額数千円程度、室内換気や通水などを含むサービスではそれより高い料金設定が実際に存在しているため、月額五千円程度という価格は現実離れした水準ではない。

 しかし、価格が市場に存在することと、多くの人がその価格を払うことは別問題である。空き家所有者の年間維持管理費を見ると、五万円未満という世帯もかなり多いため、月額五千円なら年間六万円となり、それだけで現在の年間管理費を超えてしまう所有者もいる。したがって、月五千円という価格は「安いから売れる」のではなく、所有者自身が現地へ行く場合の交通費や時間、精神的負担と比べて初めて価値が生まれる価格だと考えるべきである。

 たとえば往復の交通費が一回一万円かかり、一日を使って年に六回確認している人なら、交通費だけで年間六万円になるため、月五千円の管理サービスには十分な比較対象が生まれる。一方、自宅から車で十五分のところに空き家がある人なら、年間六万円を払う合理性はかなり小さい。

 ここでも結局、「空き家であること」より「所有者と空き家との距離」が重要になる。

月額五千円の商売は、本当に利益になるのか

 需要が存在すると分かったところで安心することはできない。必要とされることと、利益が出ることは別だからである。

 月額五千円で三十軒契約すれば月十五万円、百軒なら月五十万円になるため、売上だけを見ると地域の小規模事業として成り立ちそうに見える。しかし、三十軒が同じ住宅地に集まっている場合と、山間部や沿岸部に一軒ずつ散らばっている場合とでは、同じ十五万円でも利益はまったく違う。

 一軒の確認作業が二十分で済んだとしても、次の家まで三十分走れば、仕事の中心は住宅管理ではなく移動になってしまう。仮に人件費や車両費を含めて一時間当たり三千円程度の経済コストが発生すると考えれば、移動、確認、写真撮影、報告作成まで一軒当たり一時間前後で処理できなければ、月額五千円という料金では十分な利益を残しにくい。

 反対に、同じ地区に十軒、二十軒と契約が集まり、数分の移動で次の家へ行けるなら採算は大きく改善する。つまり、この商売では顧客数以上に顧客密度が重要であり、一軒獲得することより、同じ巡回経路の中で二軒目、三軒目を獲得することの方が経営上の価値が高い。

 人口減少地域で商売をするとき、最大の敵になるのは需要不足だけではなく、需要が薄く広く散らばっていることである。遠隔住宅管理は、この「密度の経済」を無視すると、契約が増えるほど忙しいのに利益が残らないという状態になりかねない。

基本料金だけで何でも引き受けてはいけない

 もう一つ注意すべきなのは、月額料金の中にどこまで作業を含めるかである。庭木が伸びた、雨樋が外れた、蜂の巣ができた、台風の後に屋根を確認してほしい、室内を清掃してほしいといった依頼まで基本料金に含めてしまえば、少数の手間のかかる住宅によって利益が簡単に消えてしまう。

 そのため、定期巡回、外観確認、写真報告などを基本料金とし、草刈り、清掃、災害後の臨時確認、修繕手配などは別料金とする方が合理的である。月額料金は安定した収入の土台となり、追加作業は必要が発生したときだけ料金を受け取る仕組みにすれば、所有者にとってもサービス内容が分かりやすく、事業者側も過剰な負担を抱えにくい。

 さらに、定期的に家を見ているからこそ小さな異常を早く見つけることができ、その結果として清掃、庭木管理、修繕、解体、不動産売却といった地域の別の仕事へ需要をつなぐこともできる。遠隔住宅管理そのものだけで大きな利益を狙うより、住宅に関する地域サービスの入口になる事業として考えた方が、経済的には強い可能性がある。

最大の難関は、空き家を見つけることではない

 空き家そのものを見つけるのは、それほど難しくない。町を歩けば、雨戸の閉じた家、伸びた庭木、使われなくなった駐車場が目に入る。しかし、その家の前に「私は東京に住んでいます。月五千円なら管理を頼みたいです」と所有者の連絡先が書かれているわけではない。

 ここに、この商売の面白さと難しさが同居している。仕事をする場所は地域なのに、営業すべき相手は地域の外にいる場合があるからである。

 したがって、遠隔住宅管理で本当に難しいのは巡回作業そのものではなく、遠方の所有者と出会う仕組みをつくることである。地域の不動産会社、相続に関わる専門家、工務店、解体業者などとつながり、家が空き家になる段階でサービスの存在を知ってもらえれば、何年も放置された後で所有者から連絡が来るのを待つよりはるかに効率がよい。

 しかも遠隔地の顧客ほど、価格だけで業者を選ぶことは難しい。知らない町の知らない事業者へ家の状況確認を任せ、ときには鍵を預けることもある以上、会社の規模よりも、誰が訪問するのか、何を確認するのか、どのように報告するのか、異常時にどう対応するのかが明確でなければならない。

 地域密着という言葉だけでは足りない。地域にいるという強みを、遠くにいる顧客にも見える形へ翻訳することが必要なのである。

管理し続けることが目的ではない

 空き家管理会社にとって最もありがたい顧客は、何十年も空き家を持ち続け、毎月管理料を払ってくれる人のように見える。しかし、社会全体から考えれば、それが望ましい状態とは限らない。

 空き家には、いつか出口が必要になる。再び住むのか、貸すのか、売るのか、取り壊すのか、その判断を永遠に先送りすることはできない。所有者調査でも、今後も空き家のまま所有する意向を持つ人が一定割合存在する一方、売却や除却を考えている人も少なくないため、遠隔住宅管理は「空き家を永久に保存するサービス」ではなく、所有者が次の判断をするまでの時間を安全に管理する仕事だと考えた方がよい。

 毎月の写真が数年分残っていれば、建物がどの程度傷んできたのかも見える。「そろそろ大きな修繕が必要になりそうだ」「維持費を考えると売却を検討した方がよいかもしれない」と判断する材料になり、必要になれば不動産、建築、解体など、それぞれの専門事業者へつなぐこともできる。

 遠隔住宅管理の本当の価値は、空き家を空き家のまま維持することではなく、「放置」と「処分」の間に存在する数年間を、管理可能な時間へ変えることにある。

制度の変化も「放置するだけ」を難しくしている

 空き家は個人の財産なので、使わなくても所有者が自由に放置してよいように見える。しかし現在の制度では、適切に管理されない空き家について行政から指導や勧告を受ける可能性があり、一定の条件では住宅用地に認められている固定資産税などの特例から外れることもある。

 もちろん、空き家になっただけで直ちに税負担が増えるわけではないため、「空き家を持っていると固定資産税が上がる」と単純化するのは正しくない。それでも、所有者に対して適正管理を求める制度が強化されている方向そのものは明確であり、「何もしないで放置する」という選択のコストは以前より重くなっている。

 この変化は遠隔住宅管理という商売を自動的に成長させるものではないが、所有者が家の状態を定期的に確認する理由の一つにはなるだろう。

空き家900万戸は、市場900万件ではない

 地域ビジネスを考えるとき、大きな数字は魅力的に見える。空き家900万戸と聞けば、その一%だけでも九万件の市場になると考えたくなるが、現実はそれほど単純ではない。

 近くに住んで自分で管理できる人、親族へ頼める人、費用を払いたくない人、ほとんど資産価値のない住宅を所有している人まで含まれているため、空き家戸数から直接市場規模を計算することはできない。遠隔住宅管理の顧客になりやすいのは、距離が遠く、管理負担が重く、ある程度の資産価値が残り、将来的な売却や活用を考えている所有者など、いくつかの条件が重なった層である。

 だから、この事業の可能性を判断するには、「町に空き家が何軒あるか」だけでは不十分であり、その所有者がどこに住んでいるのか、どれくらいの頻度で管理しているのか、現在いくら維持費を払っているのか、管理を外注する意思があるのか、さらに管理対象住宅がどの程度まとまって存在しているのかまで見なければならない。

 商機とは、困り事の数ではなく、困り事と支払意思と採算性が同じ場所で重なったところに生まれる。

人口が減るからこそ増える仕事もある

 人口が減る町では、商売も減ると考えたくなる。実際、多くの小売店や飲食店にとって人口減少は厳しい。しかし人口減少によって、反対に増える仕事も存在する。人がいなくなれば家が残り、子どもが町を離れれば親の住宅との距離が広がり、かつて家族が無償で担ってきた管理を、誰かが代わりに引き受けなければならなくなるからである。

 ここで興味深いのは、この市場では「そこに住んでいる人の数」と「顧客になり得る人の数」が一致しないことである。一万人の町に管理対象となり得る住宅が二百軒あり、その所有者が全国各地に散らばっているなら、その町は人口一万人の市場であると同時に、町外に暮らす所有者へサービスを販売できる市場でもある。

 もっとも、その二百軒すべてが顧客になるわけではなく、実際に料金を払う人はその一部だろう。それでも、地域内の所得だけを奪い合う商売とは違い、地域外から管理料を受け取り、そのお金を地域の巡回、清掃、修繕、庭木管理、不動産、解体などへ循環させる可能性があるところに、この事業の特徴がある。

 地方に足りないのは、いつも顧客とは限らない。困り事は地域に存在しているのに、お金を払う人が遠く離れた場所にいるため、両者がまだ出会っていないだけなのかもしれない。

 夕方、誰も帰ってこない家の前を通れば、そこには「空き家が一軒ある」としか見えない。しかし商売の目でその家の向こう側を想像すれば、遠く離れた町で「そろそろ一度見に行かなければ」と気にしている誰かがいる可能性がある。その人が欲しいのは、新しい住宅設備でも豪華なサービスでもなく、自分がいない町で、自分の代わりに家を気にしてくれる人である。

 空き家が増える町で生まれる新しい商売は、家を管理する仕事のように見えて、実は住宅と所有者の間に生まれた「距離」を埋める仕事なのかもしれない。そして、その距離に本当にお金を払う人がどれだけいるのかを冷静に見極めることこそ、この商売を単なる思いつきから事業へ変える最初の条件なのである。

地域の課題を、自分の判断に置き換えて考える

弊社では、住まい・車・移住などの大きな選択を、 費用や将来条件をもとに数字で比較し、判断できる形に整理しています。

数字で比較するサービスを見る

 親が亡くなり、御宿町や勝浦市、いすみ市などにある実家を相続することになった。しかし、自分はすでに別の地域で生活しており、自宅も所有している。子どもたちも実家へ戻る予定はなく、売却を考えても、すぐに買い手が見つかるとは限らない。こうした事情から、誰も住まない住宅を「とりあえず残しておこう」と判断する家庭は少なくないでしょう。

 空き家の維持費というと、固定資産税を思い浮かべる人が多いかもしれません。しかし、実際には火災保険、草刈り、庭木管理、建物修繕、台風後の点検、換気や通水、現地までの交通費、家財処分など、さまざまな費用と労力が関係します。さらに、最終的に売却するのか、解体するのかによっても負担は変わります。年間では数万円から十数万円程度の支出であっても、10年、20年、30年と積み重なれば、無視できない金額になります。しかも、その間に住宅は古くなり、所有者自身も年齢を重ねます。現在は自分で草刈りや住宅の点検ができても、30年後まで同じように管理できるとは限りません。

 この記事では、千葉県の外房地域を念頭に、誰も住まない実家を30年間所有する場合の費用、管理上の問題、法律や税制の影響を整理します。そのうえで、長期保有と早期売却をどのように比較すれば合理的な判断につながるのかを考えます。

最初に結論~使わない家を持ち続けることにも費用がかかる

 将来、自分や家族が住む予定のない地方の実家を、明確な目的なく30年間保有することには、相応の費用と管理責任が伴います。住宅は誰も住まなくても屋根や外壁が劣化し、庭の草木が成長し、台風や豪雨による被害を受ける可能性があります。人が住まなくなったからといって、維持管理の必要性までなくなるわけではありません。

 一方で、地方の住宅を相続したら必ずすぐに売却すべきだという結論も適切ではありません。将来の移住先として具体的な利用予定がある住宅、定期的に帰省や仕事で使用する住宅、賃貸や事業への活用が見込める住宅、土地に一定の市場価値がある住宅などは、保有する合理性があります。家族の生活や地域との関係を維持するために、一定の費用を負担するという選択も考えられます。重要なのは、住宅を30年間保有することで何を得られるのか、そのためにいくら支払い、誰が管理し、最後にどのような状態で処分するのかを具体的に考えることです。何となく所有を続けることと、費用やリスクを理解したうえで所有を選択することは、同じではありません。

千葉県でも増加する空き家~老朽化も重要な問題

 2023年の住宅・土地統計調査によると、千葉県の空き家数は39万4,100戸で、2018年と比較して1万1,600戸増加しました。このうち、賃貸用、売却用、別荘などの二次的住宅を除いた「その他の空き家」は15万8,500戸となり、5年間で1万4,100戸増加しています。また、千葉県が公表した同調査の住宅の構造等に関する集計では、世帯が所有する空き家の約8割が1990年以前に建築された住宅でした。これは、所有者が日常的に使用していない住宅の多くが、すでに相当の築年数を経過していることを示しています。

 例えば、現在築40年の住宅を30年間保有すれば、保有期間の終了時には築70年になります。現在の時点で雨漏りがなく、生活設備も使用できる住宅であっても、さらに30年間、大きな修繕なしに維持できるとは限りません。建物の状態を判断する際には、現在の築年数だけでなく、将来どの程度の期間にわたって使用可能な状態を維持する必要があるのかも考える必要があります。

 ただし、住宅・土地統計調査は標本調査に基づく推計であり、「その他の空き家」のすべてが相続によって取得された一戸建て住宅というわけではありません。また、千葉県全体の建築年代の構成比が、御宿町や勝浦市、いすみ市の住宅にそのまま当てはまるものでもありません。統計は地域全体の問題を理解するための手掛かりであり、個別住宅の維持費や売却価格を直接示すものではない点には注意が必要です。

外房でも空き家対策は行政課題になっている

 外房地域でも空き家対策は行政上の重要な課題となっています。いすみ市は2026年6月に空家等対策計画を策定し、人口減少や住宅・建築物の老朽化に伴って使われない住宅が増え、適切に管理されない空き家が防災、防犯、安全、環境、景観などに悪影響を及ぼすことを問題として挙げています。御宿町でも2026年度予算に空き家対策実態調査が計上され、空き家に残された家財道具などの処分に対する支援制度が設けられています。住宅を誰も使わなくなったという問題は、個々の所有者の財産管理にとどまらず、地域全体の住環境や土地利用にも関係しているのです。

 空き家が適切に管理されていれば、必ずしも周辺住民の生活に悪影響を与えるわけではありません。しかし、管理されない住宅が増えると、庭木の越境、雑草の繁茂、建物の破損、害虫や小動物の侵入などの問題が発生する可能性があります。こうした問題が広がれば、近隣住民や自治体の負担も増加します。人口が減少しても、住宅や土地が同じ速度で減少するわけではありません。利用する人が減った後にも管理を必要とする不動産が残り続けることは、人口減少地域に共通する構造的な問題といえるでしょう。

相続した住宅は放置できない~相続登記の義務化

 2024年4月1日から相続登記が義務化されました。不動産を相続によって取得したことを知った相続人は、原則として、その取得を知った日から3年以内に相続登記を申請する必要があります。この制度は義務化以前に発生した相続にも適用されます。2024年4月1日より前に相続した不動産について、すでに取得したことを知っていた場合は、原則として2027年3月31日までに相続登記を行う必要があります。正当な理由なく申請義務に違反した場合には、10万円以下の過料の対象となる可能性があります。

 相続人同士で遺産分割の話し合いがまとまらない場合には、相続人申告登記という制度もあります。ただし、これは相続登記の基本的な申請義務に対応する仕組みであり、遺産分割が成立した後の登記義務まで、すべて解消するものではありません。相続した住宅を長期間保有するなら、誰が所有者となるのか、固定資産税を誰が負担するのか、管理費をどのように分担するのか、売却するときに誰が意思決定するのかを明確にしておく必要があります。親の名義を残したまま、相続人の間で実質的な管理責任も決めずに何十年も経過させる対応は、現在の制度では適切とはいえません。

管理不全空家になると固定資産税にも影響する

 住宅が建っている土地には、一定の要件を満たす場合、固定資産税の住宅用地特例が適用されます。小規模住宅用地では200平方メートル以下の部分について固定資産税の課税標準が6分の1となるなど、土地の税負担を軽減する仕組みがあります。しかし、2023年12月に施行された改正空家法では、放置すれば特定空家等になるおそれがある住宅について、市町村が「管理不全空家等」として指導や勧告を行えるようになりました。管理不全空家等や特定空家等について法令に基づく勧告を受けた場合には、敷地に対する住宅用地特例が適用されなくなります。

 注意したいのは、空き家になったという事実だけで直ちに住宅用地特例が失われるわけではないことです。また、課税標準が6分の1になる特例を失ったからといって、実際の固定資産税額が必ず6倍になるわけでもありません。税額は固定資産税評価額や他の税負担調整措置などによって決まります。いずれにしても、住宅を残しておけば土地の固定資産税が安くなるという理由だけで、必要な管理を行わずに所有を続けることにはリスクがあります。住宅を残す選択をするのであれば、建物と敷地を適切に管理できる体制も必要になります。

実家の維持費は固定資産税だけではない

 実家を30年間保有する費用を考える場合、年間の固定資産税に加えて、保険料、草刈りや庭木管理、現地確認、建物修繕、家財整理、最終的な売却や解体に伴う費用を含める必要があります。さらに、家族が自分で管理する場合には、交通費や作業時間といった負担も考慮しなければなりません。費用を整理すると、基本的には「30年間の維持総費用=期間中の税金+保険料等+敷地管理費+現地管理費+建物修繕費+家財処分費+最終処分に関係する費用」と考えることができます。

 これは公的に定義された公式指標ではなく、住宅を長期保有した場合の負担を整理するための概念式です。また、すべての住宅に必ず解体費や売却費が発生するわけではないため、実際の計算では選択する処分方法に応じて費用項目を分ける必要があります。このように、取得から利用、維持管理、最終的な処分までを通して費用を考える方法は、LCC(Life Cycle Cost・ライフサイクルコスト。取得から処分までの期間に生じる総費用)の考え方に近いものです。相続住宅では購入代金を新たに支払わないため、将来の費用が見えにくくなる傾向がありますが、無償で相続したことと、費用をかけずに保有できることは別の問題です。

固定資産税は30年間でどのくらいになるのか

 住宅と土地を所有している限り、原則として固定資産税の課税対象になります。ただし、実際の税額は土地と建物の固定資産税評価額、敷地面積、住宅用地特例の適用状況などによって大きく異なるため、地方の一戸建てなら年間何万円と一律に決めることはできません。例えば、固定資産税が毎年5万円で変わらないと仮定すると、30年間では150万円になります。年間8万円なら240万円、年間3万円でも90万円です。年間の納税額が比較的小さく感じられても、長期間では一定の負担になります。

 もっとも、建物の評価額は経年によって変化し、土地の評価額や税制度も将来変わる可能性があります。したがって、現在の税額を30倍した数字は将来の確定支出ではなく、費用規模を把握するための単純計算です。実際に検討する際には、親が支払っていた固定資産税の納税通知書や課税明細書を確認し、土地と建物の税額を把握することから始めるのが合理的です。地域や土地の条件によっては都市計画税も関係するため、その有無も確認しておきたいところです。

火災保険と災害リスク~空き家には契約上の注意点がある

 外房地域では、台風、強風、豪雨などによる住宅被害を考える必要があります。海岸からの距離や周辺の地形によっては、高潮、浸水、飛来物、塩害なども考慮すべき問題になります。ただし、災害リスクは地域内で一様ではなく、同じ市町村であっても住宅の立地によって異なります。相続前に親が加入していた火災保険についても注意が必要です。誰も居住しない住宅では、使用実態や保険会社の商品によって契約条件が異なり、従来の住宅用火災保険をそのまま継続できない場合があります。相続後には、空き家として契約できるか、どのような損害が補償されるか、保険料はいくらになるかを確認する必要があります。

 保険に加入すれば保険料が発生しますが、加入しなければ災害による損害を自己負担する可能性が高まります。保険に加入した場合でも、すべての損害が補償されるわけではなく、免責金額や補償対象外の事故もあります。長期保有を考える場合には、毎年の保険料だけでなく、災害が発生した場合の自己負担額や、被害を受けた住宅をその後も維持する必要があるのかという問題も考えておく必要があります。

草刈りと庭木管理~30年間で何回作業することになるのか

 地方の実家で継続的な負担になりやすいのが、庭や敷地の管理です。建物を使わなくても草や庭木は成長するため、近隣への越境や道路へのはみ出しを防ぐには、定期的な作業が必要になる場合があります。例えば、毎年2回の草刈りを30年間続ければ合計60回、毎年3回なら90回になります。草刈りの頻度は敷地面積、植生、季節、周辺環境によって変わりますが、数十年間という期間で考えると、作業回数だけでも相当なものになります。

 自分で作業する場合は業者への支払いを減らせますが、草刈り機の購入や整備、燃料、刈った草の処分、現地までの移動などは必要です。業者へ依頼する場合には費用が発生するものの、作業品質や安全性の確保、所有者の体力的負担を軽減できるという利点があります。現在は自分で草刈りができても、10年後や20年後には作業を外注する必要が生じるかもしれません。したがって、30年間の維持費を考える際には、最初から最後まで同じ方法と同じ費用で管理できるとは限らないことを考慮すべきです。

現地管理と交通費~家族が行えば無料なのか

 東京や千葉市などから外房の実家へ定期的に通う場合には、移動に伴う費用も発生します。例えば、往復の交通費と車両関連費を1回5,000円と仮定し、年4回訪問すれば年間2万円、30年間では60万円になります。この金額はあくまで仮定であり、実際の費用は移動距離や交通手段によって変わります。また、現地での作業に必要な時間も無視できません。往復と作業で毎回半日から1日を費やすなら、年間4回で2日から4日、30年間では60日から120日に相当します。

 家族が自分で作業した場合、その時間に対して実際に賃金を支払うわけではありません。しかし、経済学的には、その時間を別の活動に利用できた可能性があります。このような失われた機会の価値を機会費用といいます。例えば、同じ時間を仕事や家族との生活、休養、地域活動などに使うこともできたはずです。機会費用を必ず現金支出として計上する必要はありませんが、住宅を持ち続けることで拘束される時間や労力を無視すると、保有負担を過小評価する可能性があります。

誰も住まない住宅は傷まないわけではない

 住宅の老朽化は、単純に人が住んでいるかどうかだけで決まるものではありません。建物の構造、築年数、建築時の施工状態、換気、湿気、日射、風雨、使用状況などによって劣化の進み方は異なります。空き家の場合には、換気不足による湿気、給排水設備の不使用、害虫や小動物の侵入、漏水や雨漏りの発見遅れなどが問題になる場合があります。特に重要なのは、住宅に不具合が発生することだけではなく、その不具合が長期間発見されない可能性があることです。居住していれば小さな雨漏りに早く気づくことができても、数か月に1回しか訪問しない住宅では、発見時には天井や壁の内部まで損傷が広がっているかもしれません。こうした事態を避けるには、利用していない住宅であっても適切な頻度で点検することが必要です。

 また、相続時点ですでに築30年や40年を超えている住宅を、さらに30年間保有するのであれば、屋根、外壁、雨どい、床、建具、給排水設備、電気設備などについて、大規模な修繕が必要になる可能性を考えておくべきでしょう。もちろん、空き家に対して居住用住宅と同じ水準の設備更新を行う必要があるとは限りません。利用目的がなく、最終的に売却や解体を予定している場合には、安全性や近隣への影響を確保するために必要な修繕と、居住性を高めるための改修を分けて判断することが重要です。

全国調査では空き家の維持管理費はどの程度なのか

 ここまでさまざまな維持管理費を説明しましたが、実際の空き家所有者が毎年どの程度の費用を負担しているのかも確認する必要があります。国土交通省が2025年8月に公表した「令和6年空き家所有者実態調査」では、年間の維持管理費について、費用がかかっていないと回答された空き家が12.1%、1万円未満が10.6%、1万円以上3万円未満が14.1%、3万円以上5万円未満が11.0%でした。これらを合計すると、年間5万円未満の空き家は47.8%になります。一方、5万円以上10万円未満は15.6%、10万円以上20万円未満は16.7%、20万円以上30万円未満は8.5%、30万円以上は8.5%でした。年間20万円以上の空き家も合計17.0%存在しており、実際の維持管理費には大きな差があることが分かります。

 さらに、使用目的のない空き家に限ると、年間維持管理費が5万円未満の割合は55.0%でした。これは、利用予定のない住宅について、所有者が比較的少額の維持管理費しか支出していない場合も多いことを示しています。ただし、維持管理費が少ないことは、適切な管理が行われていることを意味しません。同調査では、建物の腐朽や破損が大きい住宅ほど維持管理費が低い傾向も確認されています。管理の不足などが関係している可能性はありますが、この統計だけで費用の少なさが建物の劣化を引き起こしたと断定することはできません。

 また、この調査は全国の空き家を対象としたものであり、外房地域の費用水準を直接示しているわけではありません。調査における年間維持管理費と、この記事で扱う税金、保険、修繕、家財整理、最終処分まで含めた30年間の総費用は、費用の範囲や対象期間も異なります。したがって、全国調査の年間費用をそのまま30倍して、相続住宅の生涯負担を推計することは適切ではありません。実際の負担を知るには、毎年発生する費用と、不定期に発生する大きな支出を分けて把握する必要があります。

外房の実家を30年間保有する仮想モデル

 ここでは、実家を30年間保有した場合の費用構造を理解するため、管理負担の異なる3つの仮想モデルを設定します。いずれも外房地域の実際の住宅について調査した平均値ではなく、費用がどのように積み重なるのかを示すための計算例です。

費用項目 ケースA ケースB ケースC
年間固定資産税 3万円 5万円 8万円
年間保険料等 1.2万円 1.5万円 3万円
年間草刈り等 1万円 3万円 6万円
年間交通・管理費 1万円 2万円 5万円
年間経常費用 6.2万円 11.5万円 22万円
30年間の経常費用 186万円 345万円 660万円
修繕・処分費等の仮定 120万円 180万円 250万円
30年間の総費用 306万円 525万円 910万円

ケースA~比較的管理負担が小さい住宅

 ケースAでは、敷地管理が比較的容易で、建物の状態も良好な住宅を想定します。年間の固定資産税3万円、保険料等1万2,000円、草刈り等1万円、現地管理費1万円とすると、年間の経常費用は6万2,000円になります。この金額を30年間支払い続けると186万円です。さらに、期間中の修繕や家財処分、最終的な処分に関係する費用として合計120万円を仮定すると、総額は306万円となります。

ケースB~一定の管理が必要な住宅

 ケースBでは、年間固定資産税5万円、草刈り等3万円、保険料等1万5,000円、交通・管理費2万円を想定します。年間の経常費用は11万5,000円で、30年間では345万円になります。期間中の修繕、家財整理、最終処分などに合計180万円を仮定すると、総額は525万円です。年間の維持費だけを見ると極端に大きな金額には感じられなくても、30年間の総負担では500万円を超える計算になります。

ケースC~広い敷地や管理負担の大きい住宅

 ケースCでは、敷地が広く、草刈りや庭木管理に比較的多くの費用がかかる住宅を想定します。年間固定資産税8万円、草刈り等6万円、保険料等3万円、交通・管理費5万円とすると、年間の経常費用は22万円になります。30年間の経常費用は660万円となり、さらに修繕や最終処分等に250万円を仮定すれば、総額は910万円です。管理対象となる土地が広く、建物の老朽化が進み、管理を業者へ依頼する必要がある場合には、長期間の費用負担が大きくなる可能性があります。

これらの金額をどう理解すべきか

 3つのモデルから分かるのは、年間の支出が比較的小さくても、長期間積み重なれば数百万円単位の負担になり得るということです。ただし、ケースAの306万円を最低費用、ケースCの910万円を最高費用と考えることはできません。実際にはこれらを下回る住宅も、上回る住宅もあり得ます。また、修繕・処分費等として設定した120万円、180万円、250万円は、実際の外房地域の施工費や処分費を統計的に推計したものではありません。売却方法によっては解体費が不要になる一方、建物の状態や敷地条件によっては想定を上回る支出が必要になる可能性があります。このモデルは30年間の費用を予測するものではなく、所有者が自分の住宅の条件に置き換えて計算するための出発点として利用することが適切です。

30年間の計算では物価変動と支出時期にも注意が必要

 先ほどの仮想モデルでは、年間の維持費が30年間変わらないと仮定しています。しかし、実際には人件費や資材価格、保険料、建物の状態などが変化するため、長期間の費用が一定とは限りません。例えば、ケースBの年間経常費用11万5,000円が毎年2%ずつ上昇すると仮定すると、30年間の経常費用の合計は約467万円になります。年間費用が一定の場合の345万円よりも、約122万円多い計算です。もっとも、これは将来の維持費が必ず毎年2%上昇するという予測ではありません。固定資産税などは一般物価と同じ割合で変化するとは限らず、修繕費や保険料についても変動の仕方は異なります。あくまで費用上昇が長期負担にどの程度影響するかを示した仮定です。

 また、現在支払う100万円と30年後に支払う100万円は、経済的に同じ価値とは限りません。将来の支出を現在の金銭価値に換算する考え方を現在価値といいます。例えば、ケースBについて年間11万5,000円を各年末に30年間支払い、修繕・処分費等の180万円をすべて30年後に支払うと仮定します。割引率を年2%とした場合、525万円という単純合計に対して、現在価値は約357万円になります。これは30年間の実際の支払いが357万円で済むという意味ではありません。将来発生する支出を、一定の割引率によって現在の価値へ換算した結果です。現実には修繕が途中で発生することもあり、物価上昇を考慮する場合には名目金額と実質金額の区別も必要になります。

 一般家庭が相続住宅の保有を判断する場合、必ずしも複雑な金融計算を行う必要はありません。ただし、30年間の単純合計は将来の確定支出でも、現在価値を示す数字でもないことは理解しておく必要があります。

相続した住宅は無料で手に入れた資産なのか

 親から実家を相続した場合、通常の住宅購入のように新たな購入代金を支払うわけではありません。そのため、無料でもらった住宅という感覚になりやすいものです。しかし、購入代金を新たに支払わないことと、保有費用がかからないことは別です。利用しない住宅を所有し続ける場合には、収益を生まない資産に対して、税金、維持管理費、修繕費、時間などを投入し続けることになります。さらに、相続登記の費用や、場合によっては相続税なども関係します。

 経済的な判断では、相続した時点でいくら支払ったかだけではなく、これからどのような収入と支出が発生するかを考える必要があります。これは将来キャッシュフロー、すなわち将来の現金の出入りを比較する考え方です。なお、相続した不動産を売却する際の譲渡所得の計算では、親など被相続人の取得費を引き継ぐことが原則となります。相続時に購入代金を支払っていないからといって、税務上の取得費が自動的にゼロになるわけではありません。保有費用の経済計算と、売却時の税金計算は区別して考える必要があります。

家の価値と土地の価値は分けて考える

 地方の住宅では、建物が古くなって市場価値が低下していても、土地には一定の価値が残っている場合があります。反対に、土地が広くても買い手の需要が少なく、売却まで長い期間が必要になる場合もあります。ここで注意したいのは、固定資産税評価額があることと、その金額で市場売却できることは同じではないという点です。固定資産税評価額は課税のための評価であり、実際の売却価格は買い手の需要、立地、道路条件、建物状態、土地利用上の制限などによって決まります。

 また、外房地域を一つの不動産市場として扱うことも適切ではありません。御宿町、勝浦市、いすみ市の中でも、駅までの距離、海岸への近さ、周辺の生活環境、観光需要、二地域居住の需要などによって住宅の市場性は異なります。人口が減少している地域だからといって、すべての住宅が同じ割合で値下がりするわけではありません。人口減少は不動産需要に影響する要因の一つですが、住宅価格は世帯数、住宅供給、立地条件、利用目的など複数の要素で決まります。

 実家を長期間保有するかどうかを考える場合には、不動産会社などへ査定を依頼し、現時点での売却可能価格、売れるまでに必要と考えられる期間、古家付きで売却できるか、解体後の土地需要があるかを確認することが重要です。

売却価格だけでなく売れるまでの時間を考える

 地方の実家について、「売れないから持ち続けるしかない」と考えることがあります。しかし、希望する価格で売れないことと、価格などの条件を変更しても買い手が見つからないことは同じではありません。例えば、500万円で売却するつもりでも買い手が見つからず、300万円であれば売却できる住宅があるとします。このとき、500万円で売れるまで長期間待つことと、300万円で早期に売却することでは、維持費を含めた経済的な結果が変わります。

 仮に年間維持費が20万円で、10年後に500万円で売却できたとすると、10年間の維持費は200万円です。単純計算では売却収入500万円から維持費200万円を差し引いて300万円となるため、現在300万円で売却する場合と同じ金額になります。しかし、この比較ではお金を受け取る時期の違いを考慮していません。割引率を年2%とし、維持費を毎年末に支払い、10年後に500万円で売却すると仮定すれば、その売却収入から維持費を差し引いた現在価値は約231万円です。現在300万円で売却する場合と比較すると、約69万円の差が生じます。

 この計算では、売却に伴う税金、仲介手数料、登記関係費用などは両方の選択肢で考慮していません。また、10年後に確実に500万円で売れると保証されているわけでもありません。将来の売却価格が不確実であることを考えれば、長期保有には価格変動や売却不能のリスクもあります。一方、将来の利用価値が高い住宅や、維持費を上回る賃貸収入が期待できる住宅では、保有する方が合理的な場合もあります。したがって、売却価格の大小だけでなく、売却までの時間、保有期間中の費用、利用価値、将来の価格変動を合わせて比較することが重要です。

相続した空き家の売却には税制上の期限もある

 相続住宅の売却を検討する際には、税制上の特例にも注意が必要です。一定の要件を満たす被相続人の居住用家屋やその敷地等を売却した場合、譲渡所得から最高3,000万円を控除できる制度があります。2024年1月1日以後の譲渡で、対象となる不動産を相続または遺贈により取得した相続人が3人以上の場合には、控除限度額が2,000万円となります。

 この制度には、原則として相続開始から3年を経過する日の属する年の12月31日までに売却することなどの期限があります。対象となる家屋の建築時期、相続前の居住状況、売却価格、耐震性や解体に関する条件など、複数の要件も定められています。2026年10月時点では、制度の対象となる譲渡期間の期限は2027年12月31日です。重要なのは、この特例が誰にでも適用されるわけではないことです。また、3,000万円が現金で支給される制度でもなく、一定の条件を満たした場合に譲渡所得から控除する仕組みです。

 例えば、相続直後には特例を利用できる可能性があっても、住宅を長期間保有してから売却すると、期限の関係で利用できなくなる場合があります。したがって、保有するか売却するかの判断には、住宅の維持費だけでなく、税制上の条件と期限も関係することになります。実際に売却を検討する場合には、税務署や税理士などに個別の適用要件を確認することが重要です。

空き家バンクや賃貸という選択肢

 相続した実家を活用する方法として、市町村などが関与する空き家バンクがあります。空き家バンクは、売却や賃貸を希望する所有者と、住宅を探している人を結びつける仕組みであり、一般の不動産市場だけでは情報が届きにくい物件についても、利用希望者と接点を持てる可能性があります。ただし、空き家バンクに登録すれば必ず買い手や借り手が見つかるわけではありません。住宅の状態、交通条件、立地、売却価格、修繕の必要性などによって需要は異なります。また、物件によっては登録条件を満たさない場合もあります。

 賃貸を考える場合にも、家賃収入だけを見て判断することはできません。修繕費、設備更新費、空室期間、管理委託費、固定資産税、賃貸に伴う責任などを差し引いた実質的な収支を確認する必要があります。例えば、毎月3万円の家賃収入が期待できる住宅でも、賃貸に必要な改修費が大きく、借り手が見つかるまで長期間かかるのであれば、十分な収益を得られない可能性があります。反対に、住宅状態が良く、安定的な賃貸需要が存在する場合には、保有しながら活用することが有利になる場合もあります。大切なのは、使う予定がないから保有を続けるのではなく、売却、賃貸、定期利用などの具体的な選択肢について、現実に需要があるかを早い段階で確認することです。

家財を残したままでは売却や活用が難しくなる場合がある

 実家の相続では、建物や土地だけでなく、家の中に残された家具、衣類、食器、書籍、家電製品、仏壇、写真、農機具などの整理も問題になります。長年生活してきた住宅ほど家財の量が多く、処分には時間と費用がかかる場合があります。相続直後には親の持ち物を処分することに抵抗があっても、10年、20年と時間が経過すれば、相続人自身も高齢になります。その間に建物の状態が悪化し、家財の搬出が難しくなる可能性もあります。

 御宿町では、空き家の利活用や移住定住の促進を目的として、一定の要件を満たす家財道具等の処分費用に対する補助制度が設けられています。補助額は対象経費の2分の1で、上限は20万円です。ただし、補助制度には空き家バンクへの登録、不動産業者との媒介契約、住宅の購入や居住に関する条件などがあり、すべての空き家所有者が対象になるわけではありません。また、交付決定前に行った処分は原則として補助対象にならないため、利用を希望する場合には、作業を始める前に制度の要件を確認する必要があります。

 家財を処分する場合には、廃棄物の適正処理も重要です。一般家庭から発生した廃棄物の収集運搬については、必要な許可を有する業者へ依頼するなど、適法な処分方法を選ぶ必要があります。家財整理は単なる片付けではなく、住宅の売却や賃貸を可能にするための準備でもあります。将来的に処分する意思があるのであれば、できる時期に計画的に進める方が負担を軽減できる場合があります。

解体すれば空き家問題は解決するのか

 建物を解体すれば、屋根や外壁の劣化、雨漏り、建物倒壊などの問題はなくなります。しかし、土地そのものは残るため、草刈りや樹木管理、境界管理などが引き続き必要になる場合があります。さらに、住宅を取り壊すことで住宅用地特例が適用されなくなり、土地の固定資産税などが変化する可能性があります。したがって、解体費を支払えばその後の負担がすべてなくなるというわけではありません。

 解体を検討する場合には、建物の構造、床面積、接道状況、残置物、廃棄物処理、重機の搬入条件などによって費用が変わります。住宅の状態や建築年代によっては、アスベスト(石綿)の事前調査や、必要に応じた除去作業なども関係します。一方で、古家付きのまま売却できる住宅では、売主が解体費を負担する必要がない場合もあります。反対に、建物を撤去した方が土地としての需要が高まり、売却しやすくなる場合もあります。合理的に判断するためには、古家付きで売却した場合の手取り額と、解体後に売却した場合の手取り額を比較する必要があります。解体費だけでなく、売却にかかる期間や、解体後の土地管理費、税負担の変化まで考えることが重要です。

売却できない土地には国庫帰属という制度もある

 相続した不動産について、売却先が見つからず、利用する予定もない場合には、相続土地国庫帰属制度という仕組みがあります。これは、一定の要件を満たす相続土地について、審査を経たうえで国に引き取ってもらう制度です。ただし、建物が残っている土地は原則として申請できません。また、担保権などが設定されている土地、境界が明らかでない土地、土壌汚染がある土地、通常の管理に過大な費用や労力が必要となる土地なども、申請や承認に制限があります。

 申請には土地一筆当たり1万4,000円の審査手数料が必要であり、承認を受けた場合には、土地の性質に応じた10年分の標準的な管理費用相当額を負担金として納付する必要があります。したがって、相続した家や土地を無条件に無料で国へ引き取ってもらえる制度ではありません。建物の解体が必要になる場合には、その費用も含めて検討することになります。それでも、売却、譲渡、賃貸、解体などの方法だけでは対応が難しい土地について、条件に合致すれば利用を検討できる制度があることは知っておく価値があります。

30年間保有する合理性は利用目的によって変わる

 実家を相続した場合、まずはその住宅を今後どのように利用するのかを明確にする必要があります。判断を整理するには、利用目的を大きく四つに分けると分かりやすいでしょう。

1.自分や家族が将来住む住宅

 例えば、10年後に退職して実家へ移住する予定があり、住宅の立地や状態も生活に適しているのであれば、その期間に維持費を負担して保有することには合理性があります。ただし、移住までの維持費、住宅の改修費、将来の生活環境などを確認する必要があります。

2.定期的に利用する住宅

 帰省先、別荘、仕事場、二地域居住の拠点として定期的に利用する場合には、保有することで一定の利用価値を得られます。利用頻度と費用を比較し、必要なときだけ宿泊施設などを利用する場合との違いを考えることも有効です。

3.賃貸や事業に活用する住宅

 第三者への賃貸、店舗、仕事場などとして活用できる住宅では、収益を得られる可能性があります。ただし、改修費や管理費を含めた採算性、利用者の需要、法令上の条件を確認する必要があります。

4.誰も利用する予定がない住宅

 自分も子どもも利用する予定がなく、賃貸や事業としての活用も考えていない住宅については、長期保有の目的が不明確になりやすいものです。この場合には、売却、譲渡、解体後売却などを早い段階で比較し、管理負担を将来へ持ち越すことが合理的なのかを慎重に考える必要があります。

 どの選択が適切かは、住宅の立地、状態、費用、所有者の事情によって異なります。重要なのは、保有する場合にも処分する場合にも、具体的な理由を持って判断することです。

子どもがいつか使うかもしれないという期待

 親世代が先祖代々の実家を大切にしたいと考えることは自然なことです。しかし、住宅を受け継ぐ側の子どもが、その住宅を必要としているとは限りません。子どもには仕事や生活の拠点があり、すでに別の地域に自宅を持っている場合もあります。配偶者の生活圏、子どもの学校、通勤、医療環境などの事情によって、地方の実家へ戻ることが現実的でない家庭もあります。

 そのため、「子どもがいつか使うかもしれない」という期待だけで長期間保有する場合には、実際に子ども本人の意思を確認しておく必要があります。本人が利用する予定のない住宅を、固定資産税や草刈り、修繕費、管理責任とともに引き継がせることが、必ずしも子どもの利益になるとは限りません。また、相続人が複数いる場合には、世代を経るごとに共有者が増え、売却や処分に関する意思決定が複雑になる可能性があります。相続が繰り返されることで権利関係の整理が難しくなれば、不動産の処分にも時間と費用が必要になります。家族に必要な資産を残すことと、家族が利用しない不動産の管理義務を残すことは区別して考える必要があります。

実家を残すことと家族の思い出を残すことは別

 実家には家族の歴史があり、親や祖父母と過ごした記憶が残っています。そのため、住宅を売却したり解体したりすることに、心理的な抵抗を感じる人もいるでしょう。しかし、家族の思い出を大切にすることと、建物を永久に所有し続けることは必ずしも同じではありません。写真、家具の一部、仏壇、手紙、記録、土地や地域の歴史など、家族の記憶を残す方法はいくつもあります。

 住宅を保有することによって得られる心理的な価値は、金額だけでは評価できないものです。その価値を重視して費用を負担するという判断も、一つの合理的な選択になり得ます。ただし、その判断によって次の世代にどの程度の経済的負担や管理責任が生じるのかについては、家族の間で共有しておく必要があります。思い出を守るための選択が、結果として子どもや孫に想定していなかった負担を残すことにならないようにすることが大切です。

30年後には所有者自身も30歳年を取る

 相続住宅を30年間保有するということは、建物が30年古くなるだけでなく、所有者自身も30歳年齢を重ねるということです。例えば、50歳で実家を相続した人は30年後に80歳となり、60歳で相続した人は90歳になります。現在は自分で草刈りや住宅の点検ができ、車を運転して現地へ通うことができても、将来まで同じ作業を続けられるとは限りません。

 この問題は、単純な維持管理費の計算では見落とされやすいものです。現在は自主管理によって支出を抑えられていても、将来、業者へ管理を委託する必要が生じれば、現金支出が増加する可能性があります。また、高齢になってから家財整理や住宅の売却を進めようとしても、体力や判断能力、家族の協力体制などの問題によって、相続直後より負担が大きくなる場合があります。長期間保有する場合には、建物が何年使えるかだけでなく、誰が何歳まで管理できるのか、自分が管理できなくなった場合にどのような方法で管理を継続するのかも考えておく必要があります。

最も避けたいのは何も判断しないまま30年が過ぎること

 実家を残すという判断そのものが悪いわけではありません。また、売却や解体が必ず最も経済的に有利になるとも限りません。問題は、保有する理由も処分する方針も決めないまま、長い年月が過ぎてしまうことです。その間にも建物は老朽化し、敷地の草木は成長し、所有者は高齢になります。相続が繰り返されれば権利関係が複雑になる可能性もあり、地域の人口や住宅需要も変化するかもしれません。

 空き家は時間が経てば必ず売りにくくなると断定することはできませんが、建物の劣化や制度上の期限などによって、現在は利用できる選択肢が将来には利用できなくなる場合があります。例えば、相続直後であれば建物付きで売却できた住宅が、長期間の放置によって大規模な修繕を必要とする状態になることも考えられます。逆に、適切に管理し、利用需要が存在する住宅では、一定期間保有することが合理的になる場合もあります。重要なのは、将来の状況を確実に予測することではなく、現在分かっている情報を使って選択肢を比較し、定期的に判断を見直すことです。

相続した時点で確認したい項目

 実家の相続が発生したら、まず固定資産税の納税通知書、土地と建物の登記情報、建物の築年数、敷地面積、保険契約、修繕履歴などを確認する必要があります。相続人が複数いる場合には、所有関係や管理費の分担、将来の売却方針についても早い段階で話し合っておくことが望ましいでしょう。

 次に、草刈りや庭木管理の頻度、現地までの交通費、台風後の点検、換気や通水など、年間の管理作業を具体的に書き出します。現在は自分で作業していても、将来外注した場合にはいくら必要になるのか、少なくとも数社から見積もりを取るなどして費用を把握しておくと、長期負担を考えやすくなります。建物については、雨漏り、屋根や外壁の状態、給排水設備、床や土台の劣化などを確認し、必要に応じて専門業者へ調査を依頼します。今後30年間使用する予定がある住宅と、数年以内に売却する住宅では、必要な修繕の範囲も異なるため、建物の状態だけでなく利用目的に応じて判断することが重要です。

 さらに、不動産会社などへ現在の売却価格を査定してもらい、古家付きで売却した場合、解体後に土地として売却した場合、賃貸した場合の収支を比較します。売却までにどの程度の期間が必要と考えられるか、相続空き家の譲渡所得特別控除を利用できる可能性があるか、自治体の空き家バンクや補助制度を利用できるかについても確認しておきたいところです。

 最後に、最も重要なのは家族の意思です。子どもが将来その住宅を利用したいと考えているのか、管理を引き継ぐ意思があるのか、保有する場合の費用を負担できるのかを確認する必要があります。住宅の所有を続けるのであれば、何のために、いつまで、誰が、どの程度の費用を負担して持ち続けるのかを具体的にしておくことが重要です。

30年間持ち続けやすい家と持ち続けにくい家

 長期保有の合理性が比較的高いのは、将来の利用予定が具体的で、建物の状態が良く、敷地管理が容易であり、所有者や家族が維持費を十分に負担できる住宅です。地域に一定の住宅需要があり、必要になれば売却や賃貸へ切り替えられる可能性がある場合も、保有の選択肢を残しやすいと考えられます。一方、誰も住む予定がなく、遠方にあって管理に時間がかかり、敷地が広く、建物の老朽化が進み、子どもも引き継ぐ意思を持っていない住宅では、長期保有の合理性が低くなる可能性があります。

 もっとも、同じ条件の住宅であっても、所有者の資産状況や家族の価値観、地域との関係によって判断は異なります。経済的な費用を最小化することだけが唯一の判断基準ではありません。ただし、利用価値がほとんどなく、維持費と管理労働だけが継続して発生する場合には、なぜ所有し続けるのかを改めて考える必要があります。

現実的な結論~30年間の維持費と今整理する費用を比較する

 地方の実家を相続しても誰も住まない場合、その住宅を長期間保有すること自体は可能です。しかし、固定資産税だけ支払っていればよいという問題ではありません。建物は老朽化し、敷地には継続的な管理が必要になり、災害による損傷や家財整理、修繕などの負担が発生する可能性があります。

 この記事で示した仮想モデルでは、30年間の総費用が約300万円から900万円程度になるケースを考えました。ただし、この金額は外房の相続住宅に関する平均費用でも、将来の支出を予測した統計値でもありません。個別の住宅では、これより大幅に少ない場合も、多い場合もあります。全国の空き家所有者実態調査では、年間維持管理費が5万円未満の住宅も多く存在します。一方で、年間20万円以上を負担している住宅もあり、実際の費用には大きな差があります。さらに、毎年の維持費が少なくても、建物の修繕や解体、家財処分などの大きな支出が将来発生する可能性を考慮する必要があります。

 そして、金銭以上に見落とされやすいのが、管理する人の時間と年齢です。相続した人も30年間で30歳年を取り、現在できる草刈りや遠距離運転、建物の点検を将来も同じように続けられるとは限りません。人口減少地域では、人が減る速度と管理対象が減る速度は一致しません。住民や利用者が少なくなっても、住宅、土地、道路、ごみ集積所、自治会の施設、墓地などはすぐにはなくならず、何らかの管理を必要とする場合があります。

 こうした構造の中で、相続した実家をどう扱うかという問題は、単なる不動産の売却判断にとどまりません。家族の将来の生活、世代間の費用負担、地域社会に残る管理対象をどのように整理するかという問題でもあります。だからこそ、地方の実家については、どうやって次の世代へ残すかだけでなく、次の世代が必要としない管理負担を残さない方法はないかという視点も必要です。家を残すこと自体が目的なのではありません。家族が必要とする資産や、暮らしに役立つ価値を残すことが目的であるはずです。

 誰も利用する予定のない住宅については、30年間持ち続けることで得られる価値と、その間に発生する費用や管理責任を具体的に比較する必要があります。同時に、現在売却する場合の手取り額、家財整理や解体に必要な費用、税制上の条件などを調べ、今整理する場合の負担も把握することが重要です。住宅を残すにしても、売るにしても、解体するにしても、十分な情報に基づいて判断することには意味があります。最も避けたいのは、何も決めないまま管理責任だけが次の世代へ引き継がれていくことです。

 30年間持ち続ける費用と、今整理する費用を比較し、その住宅を誰が何のために使うのかを明確にすること。これが、人口減少時代における地方の実家相続で、重要な判断基準になるのではないでしょうか。

地域の課題を、自分の判断に置き換えて考える

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※2026年10月9日更新。2025年国勢調査の確報、2050年の人口・高齢化推計、自治体の高齢者支援制度、介護保険事業計画などを再確認し、統計・制度・数理的な観点から内容を加筆修正しました。

 外房で暮らしている人の中には、「元気なうちは、この家で一人で暮らしたい」と考えている人も少なくないでしょう。海や山が近く、長年暮らした地域に知人がいて、自分の家で自由に生活できることには大きな価値があります。住み慣れた地域で暮らし続けたいという希望は、年齢を重ねたからといって簡単に変わるものではありません。

 しかし、2050年まで視野を広げると、この問題は単純ではなくなります。食料品の買い物、通院、ごみ出し、庭の草刈り、住宅の修繕、薬の受け取り、台風後の家屋確認など、日常生活には多くの作業があります。夫婦二人であれば分担できたことも、一人暮らしになれば本人が行うか、家族、地域住民、事業者などに依頼しなければなりません。さらに、転倒や急病などで自分から助けを求められない場合も想定する必要があります。

 そこで重要になるのは、単に「高齢者が一人で暮らせるか」という問いではなく、「本人ができなくなった生活機能を、地域のサービスによってどこまで代替できるか」という視点です。

 本記事では、外房の中でも勝浦市、いすみ市、御宿町を主な検証対象とし、人口推計と現在の支援制度を照合しながら、2050年に高齢者が一人暮らしを続けるための条件を考えます。外房全域のすべての自治体や集落を網羅した分析ではありませんが、人口減少と高齢化が進む地域の生活条件を考えるうえで、共通する課題を整理することができます。

最初に結論~2050年でも一人暮らしは可能だが、条件は厳しくなる

 2050年の外房でも、高齢者が一人で暮らし続けることは条件次第で可能と考えられます。ただし、現在のように自動車を運転し、自分でスーパーや病院へ行き、庭仕事や住宅管理まで行う生活を、そのまま80歳、85歳、90歳まで継続できると想定するのは現実的ではありません。

 一人暮らしを継続しやすいのは、買い物を代替できる方法があり、運転できなくても通院手段を確保でき、ごみ出しや住宅管理を支援してもらえ、急病時には適切な対応を受けられる場合です。さらに、必要に応じて訪問医療や介護サービスを利用でき、本人が費用を負担できることも重要になります。

 逆に、生活に不可欠な機能の一部が利用できなくなり、他の方法でも補えない場合には、それまで問題なく暮らしていた自宅での生活が難しくなる可能性があります。もっとも、一つの機能が不足したからといって、直ちに一人暮らしが不可能になるわけではありません。代替手段の有無、不足の程度、継続期間、本人の健康状態などを総合的に判断する必要があります。

 重要なのは、高齢者自身の能力だけで生活の可否を判断するのではなく、地域で利用できる支援を含めて考えることです。

2050年の外房は現在より大幅に人口が減少する

 国立社会保障・人口問題研究所が2023年に公表した「日本の地域別将来推計人口」では、2020年国勢調査を基準として、2050年までの市町村別人口が推計されています。

 勝浦市、いすみ市、御宿町の人口を比較すると、次のようになります。

自治体 2020年実績 2025年実績 2050年推計
勝浦市 16,927人 15,101人 8,815人
いすみ市 35,544人 32,463人 20,218人
御宿町 6,874人 6,332人 4,381人

 2020年を100とした場合、2050年の人口は勝浦市52.1%、いすみ市56.9%、御宿町63.7%になります。これは30年間で、勝浦市が約48%、いすみ市が約43%、御宿町が約36%の人口を失う計算です。

 ここで重要なのは、2025年の国勢調査結果がすでに公表されていることです。2026年9月29日に公表された確報では、勝浦市15,101人、いすみ市32,463人、御宿町6,332人となっており、3市町すべてで2020年から人口が減少しています。

 2023年の将来推計における2025年人口は、勝浦市15,238人、いすみ市32,240人、御宿町6,455人でした。実際の国勢調査人口との差は、それぞれ137人の下振れ、223人の上振れ、123人の下振れであり、いずれも推計人口の約2%以内に収まっています。

 この結果は、少なくとも2025年時点では、人口減少という長期的な方向性が推計から大幅に外れていないことを示しています。ただし、2025年の人口が推計に近かったとしても、2050年の人口まで正確に予測できると証明されたわけではありません。出生率、死亡率、転入・転出、経済状況、住宅開発、政策などが変化すれば、将来人口も変わります。

 それでも、2050年の生活環境を現在と同じ人口規模のまま想定することには無理があります。小売店、交通事業者、医療機関、介護事業者、住宅修繕業者などは、利用者数だけでなく地域の労働力や採算性にも影響を受けるためです。

人口が減少しても高齢者の生活支援需要は比例して減らない

 人口減少を考える際に注意したいのは、総人口と高齢者人口、さらに75歳以上人口では変化の仕方が異なることです。

 国立社会保障・人口問題研究所の2050年推計を年齢別に見ると、次のようになります。

自治体 65歳以上人口 75歳以上人口 高齢化率
勝浦市 4,769人 3,358人 54.1%
いすみ市 11,723人 7,822人 58.0%
御宿町 2,950人 1,977人 67.3%

 この推計によれば、2050年には勝浦市で人口の半数以上、いすみ市で約6割、御宿町では約3分の2が65歳以上となります。特に御宿町の高齢化率67.3%という数字は、地域社会を支える世代構成を考えるうえで重要です。

 75歳以上人口に注目すると、2020年の勝浦市は3,961人、いすみ市は8,126人、御宿町は1,912人でした。2050年には勝浦市3,358人、いすみ市7,822人、御宿町1,977人と推計されています。勝浦市といすみ市では減少する一方、御宿町では2020年よりわずかに増える見通しです。

 つまり、地域全体の人口が減少しても、買い物、通院、介護、見守りなどの支援を必要とする可能性のある高齢者が、同じ割合で減少するとは限りません。むしろ、交通や生活サービスの提供者が減少する一方で、75歳以上の人口割合が上昇することにより、地域の支援体制への負担が相対的に重くなる可能性があります。

 ただし、75歳以上の人がすべて介護や生活援助を必要とするわけではありません。支援需要は、健康状態、身体機能、認知機能、世帯構成、所得、居住地区などによって異なります。高齢者人口だけから将来の介護需要や独居継続率を計算することはできません。

すでに増加している高齢者の一人暮らし

 高齢者の一人暮らしは、2050年になって初めて発生する問題ではありません。2020年国勢調査を基にした65歳以上の一人暮らし高齢者数を見ると、勝浦市は1,450人、いすみ市は2,612人、御宿町は654人となっています。

 2010年にはそれぞれ1,043人、1,757人、495人だったため、この10年間で3市町すべての一人暮らし高齢者が増加しました。高齢化だけでなく、配偶者との死別、子どもの独立、世帯規模の縮小などによって、高齢者が単独で生活する状況が広がってきたと考えられます。

 千葉県全体でも、2025年国勢調査では65歳以上の単独世帯が373,199世帯となり、2020年から50,370世帯増加しています。これは県全体の数値であり、外房の3市町が同じ割合で増加したことを意味するものではありませんが、高齢者の一人暮らしが地域を問わず重要な政策課題になっていることを示しています。

 一方、2010年から2020年までの増加率を2050年まで単純に延長することはできません。将来の単独世帯数を予測するには、高齢者人口に加えて婚姻状況、死亡率、施設入所、家族との同居、世帯形成などを考慮する必要があります。したがって、本記事では2050年の一人暮らし高齢者数を断定せず、人口構成と現在の生活支援制度から、独居を継続する条件を検討します。

「一人で住む」と「一人ですべて行う」は違う

 一人暮らしという言葉から、炊事、洗濯、買い物、通院、掃除、庭仕事まで、すべてを自分で行う生活を想像する人もいるでしょう。しかし、高齢期の自立を考える際には、一人で何でもできることと、自宅で生活を継続できることを区別する必要があります。

 例えば、食料品は移動販売で購入し、重い商品は宅配を利用し、通院には乗合交通を使い、庭の管理は専門業者へ依頼するという生活方法があります。介護が必要になった場合には訪問介護を利用し、通院が困難になれば訪問診療などの対象になるかを検討することもできます。このような支援を受けていても、本人は自宅で一人暮らしを続けています。

 高齢者の生活機能を評価する際には、食事、排泄、入浴、移動などの基本的な日常生活動作に加え、買い物、交通機関の利用、服薬、金銭管理などの手段的日常生活動作も重要になります。後者は、日常生活を自分で管理する能力を示す概念であり、身体機能だけでなく認知機能や判断能力の影響も受けます。

 したがって、これからの高齢者生活では、すべての行動を自分で行うことだけを自立と考えるのではなく、必要な部分に支援を取り入れながら、自分の生活を維持し、本人の意思に基づいて暮らすことも重要になります。

一人暮らしの継続可能性を生活機能に分解する

 高齢者が自宅で暮らし続けられるかを考える場合、生活に必要な機能を分解すると問題が整理しやすくなります。本記事では、買い物、食事、通院、移動、ごみ出し、住宅管理、行政・金融手続き、通信、緊急時対応、介護・医療という10の領域を考えます。

 これらの領域は互いに独立しているわけではありません。例えば、移動手段を失うと買い物と通院の両方に影響し、認知機能が低下すると服薬管理、金銭管理、サービスの予約など複数の活動が難しくなる可能性があります。また、通信環境が整っていても、それを本人が適切に利用できなければ、十分な支援につながらない場合があります。

 ここで、生活継続可能性を単純な足し算で表すことには注意が必要です。買い物と通院では必要な頻度も重要性も異なり、利用可能なサービスの量を同じ単位で加算することはできません。

 一つの考え方として、各生活機能について「必要な支援量に対して、実際に確保できる支援量がどれだけあるか」という充足率を設定する方法があります。例えば、ある人が月4回の通院支援を必要としているのに、実際には月2回しか確保できない場合、単純な数量上の充足率は50%です。他の機能が十分でも、不可欠な通院が不足していれば生活全体に制約が生じる可能性があります。

 ただし、この考え方は本記事で生活条件を整理するための概念的なモデルであり、公式に確立された独居継続判定指標ではありません。実際の継続可能性は、サービスの提供量だけでなく、利用時間、品質、費用、代替手段、本人の健康状態などを考慮して判断する必要があります。

第1の問題~買い物ができなくなったとき

 外房で高齢者が生活を続けるうえで、買い物は重要な課題になります。自動車を運転できる人にとって、数キロメートル離れたスーパーは日常的な買い物先かもしれません。しかし、運転をやめたり、身体機能が低下したりすると、同じ距離でも移動の負担は大きく変わります。

 例えば、スーパーまで5キロメートルの距離は、自動車であれば短時間で移動できても、徒歩では多くの高齢者にとって負担が大きくなります。歩行速度だけでなく、坂道、歩道の整備状況、交通量、天候、荷物の重量なども関係するためです。

 この問題に対して、いすみ市では高齢者等買い物支援対策事業が行われています。市は買い物が困難な人への移動販売を行う事業者を支援しており、2026年時点では「ヤックス移動販売スーパーらくちん便」と「移動スーパーとくし丸」が市内各地を巡回しています。

 ただし、市内を巡回していることと、すべての住宅で毎日買い物ができることは同じではありません。巡回する地区や曜日、訪問場所、商品の品ぞろえ、支払い方法などには条件があります。さらに、事業者の採算性や人員確保によって、将来も同じサービスが維持されるとは限りません。

 買い物支援を評価する際には、地域にスーパーが何店舗あるかだけでなく、本人が必要な食品や日用品を実際に入手できるかが重要です。移動販売、宅配、買い物代行、乗合交通など、複数の経路を確保できれば、一つのサービスが利用できなくなった場合にも対応しやすくなります。

スーパーがあることと食料を入手できることは別

 地域にスーパーが残っていても、自宅から移動できなければ、本人にとって十分な買い物環境とはいえません。逆に、スーパーが遠くても宅配や移動販売が定期的に利用でき、必要な食品を購入できるなら、日常生活を維持できる場合があります。

 もっとも、宅配が利用できることにも条件があります。注文方法を理解できるか、電話や通信機器を利用できるか、支払いができるか、商品を受け取れるかといった問題です。移動販売が来ても、本人が販売場所まで移動できなければ利用が難しくなることがあります。

 したがって、2050年の買い物環境を評価する際には、店舗数だけでなく、食料品を取得する方法、その利用頻度、費用、代替手段の有無まで確認する必要があります。

第2の問題~通院と医療サービス

 高齢者の生活では、買い物以上に代替が難しくなる場合があるのが通院です。食料品であれば家族や事業者に購入を依頼できますが、診察や検査、治療の中には本人が医療機関へ行かなければならないものがあります。

 特に循環器疾患、糖尿病、整形外科疾患、眼科疾患、慢性呼吸器疾患などで定期的な診療が必要になると、通院手段を継続して確保する必要があります。また、診療時間が決まっていること、検査や治療のため複数の医療機関を利用する場合があることも、買い物との大きな違いです。

 外房での高齢者生活を考える場合、医療機関が地域内に存在することと、自宅から必要なときに通院できることは区別しなければなりません。

いすみ市の市民乗合タクシーは重要な交通手段

 いすみ市では、2026年9月時点で市民乗合タクシーが運行されています。事前予約によって、定められた運行区域内の自宅などから病院や駅などへ移動でき、利用料金は一人1回300円、往復では600円です。

 運行日は月曜日から金曜日までで、祝日と年末年始は除かれます。また、夷隅、大原、岬の各地域で運行区域や利用方法が異なり、他の利用者と乗り合わせになる場合には、一般のタクシーのように目的地へ直行するとは限りません。

 この制度は、自動車を運転できなくなった人の移動を支える重要な仕組みです。しかし、平日以外の受診、急な発熱、予約変更、運行区域外の医療機関への通院など、すべての移動需要に対応できるわけではありません。

 仮に現在の運賃で週1回往復利用できた場合、年間交通費は300円×2回×52週で31,200円となります。これは現行料金を用いた単純な例であり、毎週希望する日時に予約できることや、2050年まで料金が維持されることを意味するものではありません。

勝浦市のタクシー助成は移動費の一部を支える制度

 勝浦市では、高齢者タクシー利用料助成事業が実施されています。対象は満80歳以上の市民、または75歳以上で自主的に運転免許を返納し、所定の証明書などを持つ人です。

 公表されている制度では400円のタクシー利用券が交付され、6月末までの申請で原則24枚となります。通常の24枚の場合、年間の助成額は9,600円相当です。ただし、申請時期によって交付枚数が変わり、一部地区には追加交付の特例もあります。

 この制度によってタクシー料金の負担を軽減できますが、年間9,600円相当の助成だけで、通院や買い物のすべてを保障することは困難です。そもそも地域にタクシー事業者や運転手が確保されていなければ、利用券を持っていても移動できません。

 勝浦市の高齢者福祉計画でも、自家用車を持たない高齢者にとって公共交通が重要であり、現在の交通サービスだけでは地域全体の不便を十分に解消できていないことが課題とされています。交通支援を評価する場合には、助成制度の存在だけでなく、実際の輸送能力を確認する必要があります。

通院が難しくなれば医療が自宅へ来る方法もある

 高齢者が通院できなくなった場合、訪問診療、訪問看護、居宅療養管理指導などを利用できる可能性があります。御宿町の第9期介護保険事業計画でも、一人暮らしや高齢者世帯では通院が困難になる人が多く、居宅療養管理指導が重要なサービスであると位置づけられています。

 ただし、訪問診療は希望すれば誰でも自由に利用できる制度ではありません。通院が困難であることなど、医学的な必要性や制度上の条件があり、地域に対応可能な医療機関が存在することも必要です。また、訪問診療で対応できる医療行為には限界があり、専門的な検査や手術、急性期治療などでは医療機関への搬送や受診が必要になります。

 訪問看護や居宅療養管理指導も、医師の指示や介護保険の認定状況など、サービスの種類に応じた条件があります。高齢者が自宅で生活するためには、通院のための交通手段と自宅で受ける医療の両方を確保することが重要です。

いすみ市の調査でも医療と交通への要望は大きい

 いすみ市の第9期介護保険事業計画に掲載された介護予防・日常生活圏域ニーズ調査では、市に優先して取り組んでほしい施策として、「安心して受診できる医療体制」が69.6%、「介護する家族への支援」が45.1%、「買い物や通院、余暇活動などに必要な移動手段」が43.3%となっています。

 この調査は無作為抽出された2,000人を対象に実施され、1,396人が回答しました。回収率は69.8%であり、要介護認定を受けていない人や要支援認定者などを対象としています。したがって、この割合を市内の高齢者全員の意見と完全に同一視することはできませんが、医療と移動手段が高齢者政策の重要課題として認識されていることは確認できます。

 この結果は、通院の問題が単なる将来の想像ではなく、すでに地域住民が必要性を感じている生活課題であることを示しています。

第3の問題~ごみ出しができなくなる

 高齢者の一人暮らしでは、ごみ出しも生活上の問題になります。ごみ袋を持って歩くこと自体が難しくなる場合があり、集積所までの距離、坂道、路面状況、収集時間、雨天などの条件が重なると、負担はさらに大きくなります。

 特に、これまで自動車で集積所まで運んでいた人が運転できなくなった場合には、それまで問題にならなかったごみ出しが困難になることがあります。また、瓶や缶、不燃ごみなどは重量や形状の面から運搬しにくい場合があります。

 ごみ出しができなくなると、自宅内にごみが蓄積し、衛生状態の悪化や害虫の発生、転倒の危険などにつながる可能性があります。そのため、ごみ出しは単なる家事ではなく、自宅で生活を続けるための基本的な生活機能と考える必要があります。

いすみ市にはごみ搬出を支援する制度がある

 いすみ市の「孫の手生活援助事業」は、高齢者が日常生活で必要とする軽易な作業を支援する制度です。対象は、75歳以上の一人暮らしで市町村民税非課税の人や、75歳以上の高齢者のみで構成される市町村民税非課税世帯です。

 援助内容には、家庭ごみの収集とごみステーションまでの搬出、住宅周辺の草取りや草刈り、生垣や庭木の手入れ、軽易な住宅修繕、日常生活用品の買い物代行などが含まれます。ごみをまとめるだけでなく、指定された収集日に集積所まで搬出する作業も対象となっている点は、地域の高齢者生活を考えるうえで重要です。

 ただし、この制度は対象者が限定されており、すべての高齢者が利用できるわけではありません。また、年間10,000円相当の助成券が交付される仕組みで、実際の利用料金は指定事業者が設定します。助成額を超える費用は利用者が負担する必要があります。

 いすみ市の第9期介護保険事業計画によれば、この事業の利用件数は2021年度47件、2022年度49件、2023年度55件でした。これは制度の利用実績であって、利用できる高齢者の割合や潜在需要の充足率を示す数字ではありません。制度が存在していても、対象者への周知、指定事業者の確保、利用料金などによって、実際の利用状況は変わります。

 この制度が示しているのは、高齢者が自宅で暮らせなくなる原因が介護だけではないということです。ごみ出しや庭仕事など、介護保険だけでは十分に対応しにくい生活上の作業も、在宅生活の継続に大きく関係しています。

第4の問題~一戸建て住宅と庭の管理

 外房で高齢者の一人暮らしを考える場合、住宅の管理は重要な問題です。都市部の集合住宅とは異なり、一戸建て住宅では庭、雑草、生垣、雨どい、屋根、外壁、排水設備など、所有者が管理する範囲が広くなる場合があります。

 若いころには自分で行っていた草刈りや庭木の剪定も、加齢による体力低下や転倒リスクの増加によって難しくなることがあります。特に脚立を使う作業や屋根の点検などは、高齢者が無理に実施すべきではありません。

 例えば、庭が100平方メートルの住宅と500平方メートルの住宅では、植生や地形が同じであれば、管理に必要な作業量は一般に後者の方が大きくなります。ただし、草刈りの費用は面積だけで決まるわけではなく、斜面の有無、草木の種類、機械の搬入条件、作業頻度などによって変わります。

 広い住宅や庭は若いころには魅力であっても、高齢期には管理費用や労力を伴う資産になります。住宅が広いほど老後が安心とは限らず、むしろ管理範囲の小さい住まいの方が生活を継続しやすい場合もあります。

家に住めることと家を維持できることは違う

 住宅そのものも、所有者の年齢とは無関係に劣化します。給湯器、エアコン、水道設備、屋根、外壁などには修繕や交換が必要になり、特に雨漏りや排水設備の不具合を放置すると、住宅の損傷が拡大する可能性があります。

 外房では台風や強風、大雨への備えも必要です。台風の後に屋根や外壁、庭木などを確認し、必要に応じて修繕を依頼できることは、住宅を長期的に維持するための条件になります。

 高齢者本人が住宅の管理作業を行えなくなった場合、外部へ依頼する方法はあります。しかし、依頼先が見つかるか、費用を負担できるか、適切な作業が行われたか確認できるかという問題が残ります。

 また、介護保険の訪問介護は、すべての家事や住宅管理を代行する制度ではありません。草むしりや庭木の剪定、大掃除、住宅の大規模修繕などは、通常の訪問介護の対象外となるため、自治体独自の支援制度や民間サービスを利用する必要があります。

 したがって、在宅生活の継続可能性は、本人が住宅内で日常生活を送れるかだけでなく、住宅そのものを安全な状態に維持できるかによっても左右されます。

第5の問題~支援する人も減る可能性がある

 2050年の外房で特に重要になるのは、高齢者を支えるサービスの供給能力です。高齢者の生活支援には、介護職員、看護師、配達員、タクシー運転手、住宅修繕業者、草刈り作業員など、多様な人材が必要です。

 地域の人口が減少すると、サービスを必要とする人だけでなく、サービスを提供する人も減少する可能性があります。とくに住宅が広い範囲に分散している地区では、利用者の自宅まで移動する時間が長くなり、1日に対応できる件数が限られることがあります。

 この問題を数理的に考える場合、生活支援の総需要は「支援を必要とする人数」「一人当たりの利用頻度」「1回当たりの作業時間」によって大きく変わります。一方、供給能力は「従事者数」「一人当たりの実働時間」「移動や事務作業を除いてサービスに使える時間」などによって決まります。

 例えば、高齢者一人当たりの支援需要が変わらなくても、従事者が減少したり、利用者間の移動時間が増えたりすれば、必要な支援を提供できなくなる可能性があります。反対に、共同配送、効率的な運行経路、複数サービスの連携、技術の導入などによって、生産性が改善する可能性もあります。

 したがって、人口減少が必ずサービスの消滅につながると断定することはできません。しかし、「費用を払えば必要なサービスをいつでも外注できる」という前提も適切ではありません。2050年の生活継続可能性を考えるには、利用者側の需要だけでなく、事業者側の採算性と人材確保を検証する必要があります。

第6の問題~緊急時に助けを呼べるか

 一人暮らしと二人暮らしで大きな違いが生じるのは、急病や事故などの緊急時です。夫婦二人で暮らしていれば、一方が転倒したり意識を失ったりしたときに、もう一方が異常に気づいて救急車を呼べる可能性があります。しかし、一人暮らしでは、本人が通報できない状態になることがあります。

 高齢者向けの緊急通報装置や見守りセンサーは、この問題への対策の一つです。勝浦市では、おおむね65歳以上の一人暮らしや高齢者のみの世帯などを対象として、緊急通報システムを提供しています。

 この制度では、緊急ボタンを押すことによる通報に加え、宅内の人の動きを感知するセンサーや火災センサーが利用されています。公式の説明では、センサーが24時間にわたって人の動きを感知しない場合、警備員が駆けつけて安否を確認する仕組みになっています。

 ただし、ここで注意しなければならないのは、24時間の見守りと、異常発生直後の検知は同じではないということです。本人が緊急ボタンを押せない場合、身体の動きが停止した瞬間に必ず通報されるとは限りません。また、勝浦市の当該システムでは固定電話回線が必要とされており、通信環境や停電時の動作も確認する必要があります。

 緊急通報装置は重要ですが、すべての危険を解消するものではありません。本人が通報できない状態になった場合の検知方法、異常を検知するまでの時間、現場へ到着するまでの時間、医療機関への搬送手段まで含めて考える必要があります。

近所の見守りだけに依存できるとは限らない

 外房のような地域では、近所付き合いや自治会などのつながりが高齢者の生活を支える場合があります。普段から顔を合わせている人がいれば、異変に気づく機会も増えるでしょう。

 しかし、人口減少と高齢化が進めば、隣家の住民も高齢者であったり、周辺に空き家が増えたり、自治会活動の担い手が不足したりする可能性があります。そのような状況では、近隣住民の善意や無償労働だけを前提に、継続的な見守り体制を設計することは難しくなります。

 いすみ市では、地域住民や事業者などが協力する高齢者見守りネットワーク事業が行われています。こうした人的な見守りに、電話、訪問サービス、緊急通報装置、センサーなどを組み合わせることが重要です。

 ただし、見守り手段を複数用意するだけでは十分ではありません。異変を発見した後、誰が本人に連絡し、誰が現場を確認し、必要なら誰が救急対応につなげるのかという役割分担まで決めておく必要があります。

第7の問題~食料を買えても適切な食事ができるとは限らない

 一人暮らしでは、食料品を入手できることと、毎日適切な食事を取れることも別の問題です。買い物ができても、調理する体力や能力が低下すれば、食事の準備が難しくなる場合があります。さらに、栄養バランスの偏り、食欲低下、嚥下機能の低下、慢性疾患に応じた食事管理なども考慮する必要があります。

 このような場合には配食サービスが重要になりますが、自治体によって事業の目的と提供頻度は異なります。

 勝浦市では、食事の調理が困難な65歳以上の一人暮らし高齢者や高齢者のみの世帯などを対象に、希望に応じて昼食を週3回まで届ける配食サービスが設けられています。弁当を直接手渡すことで、安否確認にもつなげています。

 一方、御宿町の「さわやか配食」は、社会福祉協議会が実施する事業で、2024年策定の高齢者保健福祉計画では、70歳以上の一人暮らし高齢者を対象に、7月と8月を除く毎月1回、昼食1食を届ける仕組みとされています。

 この場合、計画上の提供頻度は年間10回であり、毎日の食事を保障するサービスではありません。実施状況によって年間の提供回数が異なる場合もあり、一般的な食事宅配とは区別する必要があります。

 つまり、配食制度があるからといって、その制度だけで食生活のすべてを維持できるわけではありません。毎日の食事を確保するためには、本人の調理能力、食料品の入手方法、民間配食サービス、家事支援などを組み合わせる必要があります。

第8の問題~認知機能と金銭管理

 高齢者の一人暮らしを考える際には、身体能力だけでなく認知機能や判断能力も重要です。歩行や食事が自立していても、服薬、買い物の支払い、銀行口座の管理、契約、行政手続きなどが難しくなる場合があります。

 特に生活支援サービスを利用するには、事業者を探し、料金や契約内容を理解し、予約を行い、費用を支払う必要があります。本人がこれらの手続きを行えない場合、サービス自体が地域に存在していても、適切な支援につながらない可能性があります。

 認知機能が低下した人や認知症の人が、必ず一人暮らしを続けられなくなるわけではありません。本人の状態に応じた支援や環境調整によって、在宅生活を継続できる場合があります。ただし、病状や支援体制には個人差があるため、判断能力の低下を一律に扱うことも適切ではありません。

 地域包括支援センターへの相談、日常生活自立支援事業、成年後見制度など、必要性に応じた権利擁護や意思決定支援の仕組みも重要になります。本人の意思を尊重しながら、生活上の安全や財産管理をどのように確保するかを考える必要があります。

一人暮らしの継続可能性は最も弱い機能に左右される

 ここまで見てきた生活機能は、一つだけ整っていれば十分というものではありません。買い物ができても通院できなければ生活に支障が生じ、通院できても住宅管理ができなければ住環境が悪化する可能性があります。さらに、買い物と通院ができても、緊急時に助けを呼べなければ別の危険が残ります。

 この関係を理解するには、生活に不可欠な各機能について必要量と確保できる量を比較する方法が役立ちます。例えば、買い物、ごみ出し、住宅管理、緊急時対応は必要な水準を満たしていても、通院の支援が必要量の半分しか確保できなければ、通院が生活全体の制約になる可能性があります。

 このような考え方は、最も不足している機能が全体の継続可能性を左右するという制約条件モデルに近いものです。ただし、生活機能の間には代替関係があり、例えば通院が難しくなっても、訪問診療によって一部を補える場合があります。そのため、単純に最も低い数値だけを取り出せば、必ず正しい判定ができるわけではありません。

 生活継続可能性を数量的に評価するには、必要なサービス量、利用頻度、提供可能な時間、費用、代替経路などを把握しなければなりません。2050年の外房で何人が一人暮らしを継続できるか、あるいは継続できる確率が何%かを現時点の人口推計だけから計算することはできません。

「車を運転できる80歳」を地域設計の前提にしてはいけない

 外房では、自家用車があればスーパー、病院、役所、銀行、ホームセンターなどへ比較的自由に移動できます。そのため、運転能力を維持している人は、公共交通が乏しい地域でも生活上の不便を感じにくい場合があります。

 しかし、加齢による視力や身体機能の変化、病気、本人の判断などによって、運転を続けられなくなる可能性があります。何歳まで運転できるかには個人差があり、70歳代や80歳代という年齢だけで一律に判断することは適切ではありません。

 重要なのは、現在運転できることを理由に、将来も自動車が使えると想定しないことです。自動車依存度が高い地域ほど、運転できなくなった際の生活条件の変化が大きくなる可能性があります。

 高齢期の住まいを考える場合には、現在の利便性だけでなく、運転しない状態でも通院、買い物、行政手続きなどを継続できるかを確認する必要があります。

家族がいることと日常的に頼れることは違う

 子どもや親族がいる高齢者でも、家族が東京や千葉市、県外など離れた地域で生活している場合があります。月に1回程度訪問できるとしても、毎日のごみ出しや食事の準備、週に何度も必要な通院の付き添いまで担うことは容易ではありません。

 家族の支援は重要ですが、それを無制限に利用できる資源として考えることはできません。家族にも仕事、育児、健康状態、経済状況などの制約があるためです。

 また、家族による無償の支援にも、時間や交通費、仕事を休むことによる損失などの負担があります。高齢者本人の支出には現れなくても、家族全体で見れば費用が発生している場合があります。

 そこで、一人暮らしの生活条件を考える際には、「家族が1か月訪問できなくても、通常の生活が成り立つか」を一つの目安とする方法があります。これは科学的に確立された判定基準ではありませんが、日常生活をどの程度地域内のサービスで支えられるかを考えるための実用的な問いです。

 身近な家族がいなくても、必要なサービスが確保されていれば一人暮らしを継続できる場合があります。反対に、家族がいても支援を受けられる頻度が限られていれば、生活上の課題は残ります。

停電や災害への備えも生活継続の条件になる

 外房で住宅を維持する場合、台風、大雨、停電、通信障害などへの対応も考える必要があります。平常時には宅配、通信機器、訪問サービスなどを利用できていても、災害によって道路が通行できなくなったり、電気や通信が停止したりすれば、通常の支援が一時的に利用できなくなる可能性があります。

 特に緊急通報装置や通信機器を利用している人、医療上の理由から電源を必要とする機器を使用している人などは、機器ごとの停電時の対応を確認する必要があります。また、食料や飲料水の備蓄、避難手段、緊急連絡先、台風後の住宅確認なども重要になります。

 災害時の支援については、近隣住民や自治体、医療機関などとの事前の連携が必要です。ただし、災害発生時には支援する側も被災する可能性があるため、通常時と同じ水準のサービスを受けられるとは限りません。

 したがって、高齢者の自宅生活を評価する際には、平常時に生活できるかだけでなく、一定期間サービスが停止した場合にどのような対応が可能かも考える必要があります。

2050年に一人暮らしを続けやすい条件

 外房で比較的長く一人暮らしを継続しやすいのは、徒歩圏や短い移動距離の中に生活拠点があり、自動車を運転しなくても買い物や通院ができる環境に住んでいる人と考えられます。自宅から利用できる移動販売や宅配があり、必要なら訪問診療や訪問介護などにつながることも重要です。

 さらに、住宅の管理範囲が小さく、庭の草刈りや住宅修繕を依頼でき、緊急時には通報や安否確認を受けられる仕組みがあれば、在宅生活を支えやすくなります。本人が通信機器やサービスの予約方法を利用できること、あるいはそれらの手続きを支援する人がいることも必要です。

 ただし、これらの条件がそろっていても、健康状態や認知機能、介護の必要性が変化すれば、自宅生活の継続が難しくなる場合があります。生活環境が良いことは継続を支える要因ですが、それだけで将来の生活を保証するものではありません。

一人暮らしが難しくなりやすい条件

 反対に、住宅が分散する山間部や集落などで、店舗や医療機関が遠く、公共交通が乏しい地域では、本人が運転できなくなった場合に生活上の制約が大きくなる可能性があります。

 また、広い庭を持つ老朽住宅に住み、修繕業者や草刈り業者を確保しにくい場合には、住宅管理の負担が重くなります。宅配サービスが利用できない、通信機器を使えない、近隣住民も高齢化している、家族が遠方に住んでいるといった条件が重なると、支援を確保することが難しくなる場合があります。

 ただし、これらの条件が一つあるだけで一人暮らしが不可能になるわけではありません。地域独自の支援や民間サービス、本人の経済力、生活上の工夫などによって補える場合もあるためです。

 特に注意すべきなのは、「自動車と本人の身体能力だけに生活が依存している状態」です。現時点では問題がなくても、どちらかを失ったときに生活全体が大きく変化する可能性があります。

自宅に住み続けることが常に最善とは限らない

 「住み慣れた家で最後まで暮らしたい」という希望は尊重されるべきものです。しかし、そのために毎週高額なタクシー料金を支払い、広い庭の管理を外部に依頼し、老朽住宅を修繕し続け、遠方の家族が頻繁に訪問しなければならない場合には、住み替えも比較対象にする必要があります。

 住み替えというと、長年暮らした地域を離れることを想像しがちですが、必ずしもそうではありません。同じ市町村内でも、駅、スーパー、診療所、公共交通などに近い場所へ移る方法があります。これまでの人間関係を一定程度維持しながら、生活機能に近い場所へ移動するという考え方です。

 もちろん、住み替えが必ず合理的とは限りません。持ち家が希望する価格で売却できるか、住み替え先の住宅が確保できるか、賃貸住宅に入居できるか、本人が新しい環境に適応できるかなどの問題があります。

 また、住み替えによって交通費や住宅管理費が減少しても、家賃や管理費などが新たに発生する場合があります。そのため、現在の住まいを維持する費用と住み替え後の費用を、できるだけ同じ条件で比較する必要があります。

住み替えの判断は生活が困難になる前から考える

 高齢になってから住み替える場合、住宅の売却、荷物の整理、新居探し、契約、引っ越し、行政手続きなどを進める必要があります。これらは身体能力だけでなく、判断能力や経済的な準備も必要とする作業です。

 そのため、住み替えの可能性がある場合には、身体機能や判断能力に余裕がある段階から検討する方が、一般的には選択肢を確保しやすいと考えられます。70歳代から検討する方法もありますが、何歳が最適かは本人の健康状態、住宅事情、家族構成、資産状況などによって異なります。

 重要なのは、生活が維持できなくなってから初めて住まいを考えるのではなく、現在の住まいに長く住み続ける場合と、生活拠点に近い場所へ移る場合の双方を早めに比較しておくことです。

持ち家でも高齢期の住宅費はゼロではない

 一戸建て住宅を所有している人は、家賃がかからないことを老後の安心材料と考える場合があります。しかし、持ち家であっても固定資産税、火災保険、修繕費、設備交換費、庭管理費などが発生します。

 高齢期には、それまで自分で行っていた作業を外部に依頼する機会が増える可能性もあります。草刈りや清掃だけでなく、買い物代行、通院交通費、ごみ出し支援、介護保険外サービスなどの支出が生じる場合があります。

 例えば、これまで自家用車で通院していた人がタクシーを利用するようになれば、交通費の構造が変わります。さらに、庭木の管理や住宅設備の修繕が重なれば、年間の負担は一定ではなくなります。

 高齢者の生活費を考える場合には、日常の食費や光熱費だけでなく、住宅所有費、移動費、住宅管理費、生活支援費、医療・介護費まで含める必要があります。

30年間の費用を比較する場合の注意点

 仮に2020年から2050年までの30年間を対象に生活費を検討するなら、毎年同じ金額が発生すると仮定するだけでは不十分です。住宅の修繕には突発的な支出があり、介護サービスの必要量も年齢とともに一定の割合で増えるとは限らないためです。

 さらに、物価や人件費が上昇すれば、住宅修繕、交通、宅配、生活援助などの料金が変化する可能性があります。将来の費用を比較する場合には、名目金額と物価変動を調整した実質金額を区別する必要があります。

 住宅を維持する場合と住み替える場合を比較するには、少なくとも住宅管理費、交通費、生活支援費、住み替え費用、住宅売却価格、新居の家賃や管理費などを含めるべきです。ただし、金銭的に安い方法が本人にとって最良とは限りません。住み慣れた地域とのつながり、生活上の安心感、本人の希望など、金額で評価しにくい要素もあります。

 したがって、住み替えの合理性は単純な費用の大小だけで判断せず、生活の安全性、継続性、経済的負担、本人の満足度を合わせて考える必要があります。

高齢者施設を増やすだけでは問題は解決しない

 人口減少社会の高齢者政策では、介護施設や高齢者向け住宅の整備が注目されます。これらの施設は重要ですが、高齢者のすべてが直ちに施設へ入居するわけではありません。

 自宅で生活を続ける人がいる以上、移動販売、乗合交通、ごみ出し支援、住宅管理、訪問介護、訪問看護、配食、緊急通報などを組み合わせて提供する仕組みも必要です。

 これは介護政策だけで対応できる問題ではありません。交通政策、商業政策、住宅政策、廃棄物処理政策、医療政策、通信政策、防災政策などが関係します。

 例えば、介護保険のサービスが充実していても、買い物に利用する交通手段がなければ生活上の問題は残ります。反対に、買い物と交通が便利でも、訪問介護の事業者が不足していれば、要介護状態になったときに自宅生活を維持しにくくなります。

 高齢者の一人暮らしを支える政策では、個別サービスの整備に加え、各制度を連携させて一人の生活を支える仕組みが重要になります。

制度の数ではなく、実際に利用できるかを確認する

 地域に支援制度がいくつあるかを数えるだけでは、高齢者の生活継続可能性を十分に評価することはできません。本人が制度の対象になっているか、費用を負担できるか、希望する曜日に利用できるか、サービス提供者が確保されているかなど、実際の利用条件を確認する必要があります。

 いすみ市の孫の手生活援助事業は、対象者の年齢と課税状況に条件があり、助成額にも上限があります。勝浦市のタクシー助成では、対象年齢や免許返納などの条件があり、利用券を使い切った後の移動費負担も考える必要があります。御宿町のさわやか配食も、制度の主な目的や提供頻度を理解しなければ、毎日の食事を確保できると誤解する可能性があります。

 このように、制度の存在と、本人の生活に必要な支援が実際に確保できることは別です。また、制度が利用できるとしても、複数のサービスを組み合わせて継続的に使えるとは限りません。

 2050年の高齢者支援政策を評価するには、サービスの名称や制度数だけでなく、対象者、利用実績、供給能力、地域ごとの利用可能性、費用負担を調べる必要があります。

地域全体の支援体制は人口密度にも左右される

 勝浦市、いすみ市、御宿町では、同じ自治体内でも中心市街地と住宅が分散した地区で生活条件が異なります。医療機関や店舗、交通拠点が集まる場所と、それらから離れた集落では、サービス提供に必要な移動時間や費用が変わるためです。

 人口減少が進んだ場合、利用者が少なくなっても、訪問先が広い範囲に分散していれば、事業者の移動距離は必ずしも短くなりません。さらに、利用者数の減少によって事業の採算性が悪化すれば、提供区域の縮小や事業撤退が起こる可能性があります。

 一方で、地域内に生活拠点を形成したり、共同配送や乗合交通を効率化したりすることで、限られた人員でも一定のサービスを維持できる可能性があります。

 この問題を詳しく検証するには、市町村全体の人口だけでなく、地区ごとの人口分布、高齢者人口、医療機関や店舗までの移動時間、事業者の配置などを把握する必要があります。

 同じ自治体であっても、2050年に一人暮らしを継続しやすい地区と難しくなりやすい地区が生じる可能性があります。したがって、自治体単位の平均値だけで地域全体の生活条件を判断することには限界があります。

2050年の生活継続可能性はどこまで予測できるのか

 ここまでの人口推計や制度情報から、2050年の外房で高齢者の一人暮らしにどのような課題が生じるかを考えることはできます。しかし、特定の自治体で一人暮らしを続けられる人が何人になるか、あるいは継続できる確率が何%になるかを、現在の情報だけから正確に計算することはできません。

 そのためには、年齢、健康状態、認知機能、所得、居住地区、住宅の状態、家族支援、サービス利用状況などに関するデータが必要です。さらに、同じ人が時間の経過とともに自宅生活を継続したのか、転居したのか、施設へ入所したのかなどを把握することが望まれます。

 また、将来の制度や事業者数、交通網、医療提供体制は確定していません。人口推計には一定の根拠がありますが、生活支援サービスの供給量まで同じ精度で予測できるわけではありません。

 したがって、2050年については一つの将来像を断定するより、支援サービスが維持される場合、縮小する場合、技術や制度改革によって効率化する場合など、複数の条件を考える方が合理的です。

2050年の外房で考えられる3つの生活環境

支援サービスが維持される場合

 人口が減少しても、乗合交通、移動販売、訪問医療、訪問介護、ごみ出し支援などが維持され、地域の事業者も確保される場合には、高齢者が自宅で暮らし続けられる可能性があります。

 ただし、この場合でもすべての人が独居を継続できるわけではありません。本人の健康状態や認知機能、住宅の条件などによって必要な支援量が異なるためです。

サービスが縮小する場合

 人口減少によって店舗や事業者が撤退し、公共交通の便数が減少したり、訪問サービスの提供区域が狭くなったりする場合には、自宅生活の維持が難しくなる人が増える可能性があります。

 特に自動車を運転できず、住宅が生活拠点から離れている人では、通院や買い物の制約が大きくなることが考えられます。

技術と制度の改善が進む場合

 共同配送、予約システムの改善、遠隔での健康相談、見守り技術、訪問サービスの連携などが進めば、限られた人員でも生活支援を提供しやすくなる可能性があります。

 ただし、技術が導入されれば必ず生活問題が解決するわけではありません。通信環境、利用者の操作能力、導入費用、事業者の運営体制などに制約があるためです。

 この3つは将来を考えるための条件付きの想定であり、発生確率を計算した予測ではありません。どの方向へ進むかは、今後の政策、人口構成、地域経済、事業者の対応などによって変わります。

2050年の一人暮らしを考えるチェックリスト

 現在の自宅で将来一人になった場合を想定し、生活機能ごとに確認しておくと、必要な対策が見えやすくなります。

買い物と食事

  • 自動車を運転しなくても食料品を購入できるか。
  • 移動販売や食品宅配を利用できるか。
  • 食事の準備が難しくなった場合の方法はあるか。
  • 注文や支払いを一人で行えるか。

通院と医療

  • 自動車を使わずに医療機関へ行けるか。
  • 定期的な通院の交通費を負担できるか。
  • 必要な時間帯に交通手段を確保できるか。
  • 訪問診療や訪問看護を利用できる条件があるか。
  • 薬の受け取りや服薬管理を継続できるか。

ごみ出しと住宅管理

  • ごみ集積所まで安全に運べるか。
  • ごみ出し支援を利用できるか。
  • 庭の草刈りや庭木管理を依頼できるか。
  • 住宅の修繕業者を確保できるか。
  • 台風や大雨の後に住宅を確認できるか。

緊急時と日常の見守り

  • 急病時に自分で通報できるか。
  • 通報できない場合の見守り方法はあるか。
  • 緊急連絡先や現場確認の担当者が決まっているか。
  • 停電や通信障害が発生した場合に対応できるか。
  • 災害時に安全な場所へ避難できるか。

金銭管理と生活支援

  • 行政手続きや金融手続きを行えるか。
  • 必要な支援サービスを予約できるか。
  • サービス料金を継続的に負担できるか。
  • 判断能力が低下した場合の支援方法を考えているか。
  • 家族が一定期間来られなくても日常生活を維持できるか。

 これらの項目は、何項目に該当すれば一人暮らしが可能になるという公式の判定基準ではありません。本人の生活条件を整理し、支援が不足している部分を発見するための確認事項です。

外房の自治体に求められる政策

 2050年の外房で高齢者が一人暮らしを続けるためには、生活機能ごとの支援制度を整備するだけでなく、それらを連携させる政策が重要になります。

 第一に、買い物、通院、ごみ出し、住宅管理、緊急時対応などについて、地区ごとに実際に利用できるサービスを把握する必要があります。自治体内に制度が存在していても、すべての地区で同じように利用できるとは限らないためです。

 第二に、サービスを提供する事業者の人員や採算性を考慮する必要があります。高齢者の支援需要だけを推計しても、実際に提供する事業者が確保されなければ制度は機能しません。

 第三に、介護保険で対応できる支援と、自治体独自事業や民間サービスに依存する支援を区別し、必要に応じて連携させることが重要です。介護だけでは解決できない住宅管理や移動の問題を、どのように地域全体で支えるかが課題になります。

 第四に、現在の住まいで生活を続けるための支援と、生活拠点に近い場所へ住み替えるための支援を、対立する選択肢として考えないことです。本人の健康状態や経済状況、希望に応じて複数の選択肢を持てることが望まれます。

 そして第五に、制度の実施件数や利用者数だけでなく、支援を必要とする人のうち何人が実際に利用できているのか、利用できない理由は何かを検証する必要があります。制度を設けたことを成果とするのではなく、必要な生活機能がどの程度維持されているかを確認することが重要です。

2050年の外房で必要なのは「完全自立」ではなく「支援付き自立」

 2050年の外房では、人口減少と高齢化によって、現在と同じ方法で地域の生活サービスを維持することが難しくなる可能性があります。しかし、それは高齢者が一人暮らしを続けられなくなることを直ちに意味するものではありません。

 本人ができることは本人が行い、難しくなった部分を必要に応じて支援し、健康状態や生活環境の変化に合わせてサービスを調整する方法があります。本記事では、このような生活の考え方を「支援付き自立」と呼びます。

 これは特定の制度を示す正式名称ではなく、一人で暮らすことと、すべてを一人で行うことを区別するための考え方です。

 自立を維持するということは、誰の助けも借りないことではありません。本人の意思や生活上の希望を尊重しながら、必要な支援を組み合わせ、できる限り安全で安定した生活を継続することも重要です。

現実的な結論~2050年の外房で一人暮らしを続けられるのか

 2050年の外房で高齢者が一人暮らしを続けることはできるのでしょうか。人口推計と現在の支援制度から考えれば、条件が整った場合には可能ですが、現在と同じ生活方法を維持できるとは限りません。

 勝浦市、いすみ市、御宿町では、2050年に向けて人口が大幅に減少すると推計されています。一方、高齢化率は上昇し、とくに75歳以上の人口が総人口と同じ割合で減るわけではありません。このため、地域全体の人口が減少しても、生活支援の必要性がそれに比例して縮小するとは限らないのです。

 現在の外房には、移動販売、市民乗合タクシー、高齢者タクシー助成、買い物代行、ごみ出し支援、草刈り支援、配食、訪問医療、訪問看護、緊急通報など、高齢者の自宅生活を支える制度やサービスがあります。これらは重要な基盤ですが、対象者、助成額、利用可能な時間、事業者の供給能力などには制約があります。

 また、現在の制度が2050年まで同じ内容で継続される保証はありません。人口減少によってサービスが縮小する可能性がある一方、地域内での連携や技術の改善によって、限られた人員でも一定の支援を維持できる可能性もあります。

 したがって、「制度があるから将来も安心」と考えることも、「人口が減るから一人暮らしは不可能になる」と考えることも適切ではありません。重要なのは、買い物、通院、ごみ出し、住宅管理、食事、金銭管理、緊急時対応などの生活機能を、本人と地域のサービスによって継続的に確保できるかという点です。

 個人にとっては、何歳まで自動車を運転するかだけでなく、運転できなくなった後にどのように生活するかを早い段階から考えることが重要になります。また、自治体にとっては、高齢者人口の人数だけでなく、居住地区ごとの生活条件、支援需要、サービス提供者の確保、費用負担などを総合的に検証する必要があります。

 人口減少地域の高齢者問題は、単に高齢者が何人いるかという問題ではありません。少ない人口と限られた人材の中で、買い物、交通、医療、介護、住宅管理、ごみ収集、見守りという生活のネットワークをどこまで維持できるかという問題です。

 2050年の外房で問われるのは、高齢者が一人で何でもできるかではなく、一人ではできないことが増えても、その地域で必要な生活機能を確保し、本人が望む暮らしをどこまで続けられるかということではないでしょうか。

地域の課題を、自分の判断に置き換えて考える

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数字で比較するサービスを見る

 「地方の持ち家で、何歳まで暮らし続けられるのか」。地方に住む高齢者だけでなく、都市部から地方への移住を考える人にとっても重要な問題です。一般には、「健康なら80歳でも90歳でも自宅で暮らせる」「介護が必要になったら施設へ移ればよい」と考えられがちですが、実際の生活はそれほど単純ではありません。

 地方では、自宅の中で食事や着替えができるだけでは生活は成立しません。食料品を買い、病院へ通い、薬を受け取り、家屋や庭を管理し、行政や金融機関の手続きを行い、災害時には安全な場所へ避難する必要があります。これらの生活機能の多くが、自動車、家族、地域のサービスに依存している地域も少なくありません。

 一方、身体機能が低下しても、宅配、配食、訪問診療、訪問看護、介護サービス、家族による送迎、住宅改修などを利用できれば、自宅生活を続けられる場合があります。したがって、「何歳まで暮らせるのか」という問いを、年齢だけで答えることはできません。

 本記事では、厚生労働省、内閣府、総務省統計局、国土交通省、農林水産省、警察庁などの公的統計を基礎に、地方の持ち家で生活を続けるために何が必要なのか、どのような状態になったとき自宅生活を再検討すべきなのかを整理します。

最初に結論

 地方の高齢者が自宅で暮らせる年齢に、全国共通の上限はありません。70代で自宅生活が難しくなる人もいれば、90歳を超えて暮らし続けられる人もいます。その違いは、年齢そのものよりも、身体・認知機能、移動手段、医療や介護へのアクセス、買い物手段、住宅の安全性、住宅管理能力、家族や地域による支援、経済的余力などの組み合わせによって生じます。

 この関係は、単純な足し算で表すことはできません。概念的には、

自宅生活継続可能性=f(身体・認知機能、移動、医療・介護、買い物、住宅、安全、支援、経済力、それぞれの相互作用)

と考える方が適切です。

 例えば、運転ができなくなっても宅配と家族送迎が利用できれば生活を維持できる可能性があります。しかし、運転できない、公共交通がない、家族送迎もない、宅配も利用できないという条件が重なれば、生活への影響は一気に大きくなります。ある能力の低下を別のサービスで補える場合がある一方、代替できない重要な機能が失われれば、それが自宅生活全体のボトルネックになるからです。

 特に地方では、自動車を運転できなくなること、配偶者が入院または死亡すること、通院先が遠くなること、買い物の代替手段がなくなること、家屋や庭を管理できなくなることなどが重なると、生活が急速に不安定になる可能性があります。

 したがって、住み替えや支援導入を考える基準は特定の年齢ではなく、生活に必要な機能を本人、家族、地域サービスのいずれによっても維持できなくなった時点と考えるべきです。

1.平均寿命は「自立して暮らせる年齢」ではない

 2025年の日本人の平均寿命は、男性81.35年、女性87.33年です。しかし、平均寿命は「その年齢まで健康に自宅で暮らせる」という意味ではありません。

 日常生活の制限を考えるうえでは、平均寿命とは別に健康寿命を見る必要があります。健康寿命とは、「健康上の問題で日常生活が制限されることなく生活できる期間の平均」を示す指標で、2022年は男性72.57年、女性75.45年でした。

 平均寿命と健康寿命の間には一定の差がありますが、その期間のすべてで介護が必要になるわけではありません。腰痛や視力低下など何らかの制限があっても、自分で生活している人は多数存在します。また、健康寿命を超えたから自宅生活ができなくなるわけでもありません。

 ここから分かる重要な点は、長生きできる年齢と、支援なしで生活できる年齢は一致しないということです。さらに言えば、支援を利用しながら自宅で暮らせる年齢とも一致しません。

 したがって、「平均寿命が87歳だから85歳までは自宅で大丈夫」といった判断をすることはできません。平均寿命や健康寿命は集団全体の傾向を見る統計であり、個人の住み替え時期を直接予測する数字ではないからです。

2.80歳前後から生活条件の再点検が重要になる

 年齢だけで自宅生活の可否を判断すべきではありませんが、加齢によって介護や支援を必要とする人の割合が上昇することは統計上明確です。

 厚生労働省の資料では、75歳以上の要支援・要介護認定率は31.0%、85歳以上では57.7%です。ただし、これは「85歳になれば57.7%の確率で要介護になる」という意味ではありません。85歳以上の人口のうち、その時点で要支援または要介護認定を受けている人の割合です。

 また、要支援・要介護認定を受けた人が、すべて施設へ入所するわけでもありません。要支援や比較的軽度の要介護であれば、訪問介護、通所介護、福祉用具、住宅改修などを組み合わせながら、自宅で生活している人も多数います。

 ただし認定率は年齢とともに上昇し、とくに80歳代以降では身体機能や生活能力の低下が表面化する人が増えます。そのため、年齢を絶対的な境界としてではなく、生活を再点検する時期の目安として利用することには意味があります。

 本記事では、実務的な目安として、65~74歳頃は将来の生活設計を始め、75~79歳頃には運転、通院、住宅管理を具体的に点検し、80~84歳頃には宅配や代替交通などを実際に試し始め、85歳以降では本人や配偶者だけで生活機能を維持できるかを定期的に確認する、という考え方を提案します。

 これは医学的、公的な年齢基準ではありません。「80歳だから危険」「85歳だから一人暮らしはできない」という意味でもありません。年齢が上がるほど複数の生活機能が同時に低下する可能性が高くなるため、問題が発生してからではなく、事前に代替策を用意するための生活設計上の目安です。

3.地方では自動車が生活機能の一部になっている

 地方で自宅生活を考えるとき、最も重要な要素の一つが移動手段です。国土交通省の全国都市交通特性調査でも、高齢者を含め、三大都市圏より地方都市圏の方が自動車による移動への依存が大きい傾向が確認されています。

 地方では自動車は単なる移動手段ではありません。食料品の購入、通院、薬局、金融機関、ごみ出し、家族の送迎、地域活動など、複数の生活機能を一台の自動車が支えている場合があります。

 そのため、高齢者の運転を考える際には、二つのリスクを同時に評価する必要があります。一つは運転を続けることによる交通事故リスクであり、もう一つは運転をやめることによる生活機能喪失のリスクです。

 2025年の運転免許自主返納件数は全国で435,067件でした。しかし、この人数から返納後の生活が維持できているかどうかを判断することはできません。

 高齢者の運転中止と社会的孤立、外出減少、抑うつ症状などの関連を指摘する研究もあります。ただし、これは「免許を返納すると健康が悪化する」という単純な因果関係を意味しません。健康状態が悪化したために運転を中止したという逆方向の影響も考える必要があるからです。

 重要なのは、免許を返納する年齢を一律に決めることではなく、運転をやめた翌日から生活できる仕組みを先に作っておくことです。路線バスや鉄道の停留所まで歩けるのか、デマンド交通が自宅付近まで来るのか、タクシーを継続的に利用できる所得があるのか、家族送迎が可能なのか、病院送迎や介護タクシーが利用できるのか、食品や日用品の宅配が利用できるのかまで確認する必要があります。

 これらの代替手段が確保できない地域では、運転停止そのものが自宅生活の限界点になる可能性があります。

4.買い物は「スーパーまで何キロメートルか」だけでは判断できない

 地方では、近隣の小売店が閉店し、郊外の大型店舗へ買い物が集中している地域があります。農林水産省は、店舗まで直線距離で500メートル以上あり、かつ自動車を利用できない65歳以上の人を「食料品アクセス困難人口」として推計しています。

 2020年の食料品アクセス困難人口は全国で904万人、65歳以上人口の25.6%でした。75歳以上では566万人で、75歳以上人口の31.0%に相当します。

 ただし、この数字を「904万人全員が実際に買い物できない」と解釈してはいけません。500メートルという基準は直線距離であり、道路状況、坂道、階段、身体機能、宅配利用、家族の支援などは十分反映されません。また、都市部でも坂道や重量物の運搬などによって買い物が困難になることがあります。

 買い物能力は、少なくとも「店へ行けるか」「商品を持ち帰れるか」「代替サービスを利用できるか」という三段階で考える必要があります。

 店舗へ行くことができても、米、飲料、洗剤、灯油などの重量物を持ち帰れなければ生活には支障が生じます。一方、ネットスーパー、生協などの宅配、移動販売、買い物代行、家族による購入、配食サービスなどが利用できれば、本人が店舗へ行けなくても生活を続けられる場合があります。

 さらに、サービスが地域に存在するだけでは十分ではありません。配送区域、最低注文額、配送料、注文方法、支払方法、商品の受取方法が本人に適している必要があります。

 したがって、買い物能力を評価する場合には、「スーパーまで何キロメートルか」ではなく、食料を選び、注文または購入し、支払い、受け取り、最終的に室内まで運べるかという一連の生活機能として考える必要があります。

5.「病院がある」ことと「必要な医療を受けられる」ことは違う

 地方では近隣に診療所があっても、必要な診療科や検査をすべて受けられるとは限りません。一般的な慢性疾患の定期受診は近隣で可能でも、循環器内科、眼科、耳鼻咽喉科、泌尿器科、脳神経外科、がん治療、高度画像検査などでは、遠方の医療機関まで移動しなければならない場合があります。

 高齢になるほど複数の疾患を抱える人が増え、受診先が複数になる可能性もあります。そのため医療アクセスは、単純な直線距離だけでは評価できません。

 通院負担は概念的には、

通院負担=移動時間+待ち時間+診療時間+薬局での時間+付き添う人の時間的負担+交通費

として捉えることができます。

 診察そのものが15分でも、往復の移動や待ち時間を合わせれば半日必要になることがあります。本人が運転できなくなれば、家族が毎月何度も仕事を休んで送迎するという問題も生じます。

 また、訪問診療が利用できても、すべての検査や治療を自宅で行えるわけではありません。急変時の搬送先、夜間休日の対応、訪問看護、薬局、入院後の退院支援なども含めて考える必要があります。

 したがって自宅生活を評価する場合には、かかりつけ医の有無だけでなく、定期受診先まで移動できるか、緊急時の受入病院があるか、訪問診療や訪問看護が実際に利用できるか、家族以外の通院支援があるかまで一体として確認する必要があります。

6.持ち家でも住居費はゼロにはならない

 2023年住宅・土地統計調査では、高齢者のいる世帯の81.6%、高齢夫婦のみの世帯では87.6%が持ち家に居住しています。これは全国値であり、この数字だけから「地方の高齢者ほど持ち家率が高い」と結論づけることはできませんが、高齢者の生活基盤として持ち家が非常に大きな位置を占めていることは分かります。

 持ち家には家賃負担がないという利点があります。しかし住宅ローンを完済していても、固定資産税、火災保険や地震保険、屋根・外壁の修繕、給湯器や水回りの交換、浄化槽の管理、庭木の剪定、草刈り、害虫やシロアリ対策、台風や豪雨後の補修、不用品や家財の処分などの費用は残ります。

 さらに、若いときには自分でできた作業も、高齢になると外注しなければならなくなります。したがって加齢によって住宅ローンが減る一方、住宅管理を外部に依頼する費用が増える可能性があります。

 広い戸建て住宅では、実際に使う部屋が少なくなっても、屋根、外壁、庭、排水設備などの管理範囲はほとんど減りません。地方の持ち家は、「住宅ローンが終われば費用のかからない資産」と考えるよりも、継続的な管理能力と修繕費を必要とする生活設備として評価した方が現実的です。

7.住宅の中にも生活の限界点がある

 2023年住宅・土地統計調査では、高齢者等のための設備がある住宅は全国の住宅の約56.0%です。しかし、手すりがある住宅は約44.0%、段差のない屋内は約22.3%、廊下などが車いすで通行可能な住宅は約16.8%、道路から玄関まで車いすで通行可能な住宅は約13.4%にとどまります。

 これらは全国値であり、地方住宅だけを示す数字ではありません。しかし、築年数の古い戸建て、広い敷地、玄関の大きな段差、屋外階段、和室中心の間取りなどでは、身体機能が低下したときに生活上の問題が顕在化することがあります。

 住宅の安全性は、室内だけを見ても判断できません。寝室からトイレ、浴室、玄関、道路、そして送迎車まで安全に移動できるかという、連続した生活動線として評価する必要があります。

 手すりを設置して浴室を安全にしても、玄関前に急な階段があり道路まで出られなければ、通院や外出は困難です。逆に、大規模改修をしなくても、生活を1階へ集約し、寝室をトイレの近くへ移し、敷物を減らすことで危険を大きく下げられる場合もあります。

8.夫婦二人暮らしでも、生活機能が一人に集中している場合がある

 2024年には、65歳以上の人がいる世帯は全世帯の50.3%を占めています。高齢者世帯では単独世帯や夫婦のみの世帯が大きな割合を占めており、今後も高齢者だけで生活する世帯への対応は重要になります。

 夫婦二人暮らしだからといって、生活能力が二人分存在するとは限りません。夫だけが運転する、妻だけが料理や服薬管理をする、夫だけが住宅修繕を手配する、妻だけが家計や行政手続きを担当するといった役割分担が固定化されている場合があります。

 この状態では、二人とも比較的元気に見えていても、一方が急に入院しただけで生活全体が機能しなくなる可能性があります。

 したがって夫婦世帯を評価するときは、単純な人数ではなく「機能の重複性」を見る必要があります。運転、買い物、調理、服薬管理、通院手配、家計管理、住宅修繕、行政手続きについて、夫だけができるのか、妻だけができるのか、二人ともできるのか、あるいは外部サービスで代替できるのかを確認することが重要です。

 一つの重要な生活機能を一人しか担えず、外部代替も存在しない場合、その人の入院、認知機能低下、死亡などが世帯全体の自宅生活を揺るがす可能性があります。

9.自宅生活はどのように不安定になっていくのか

 自宅生活の限界は、必ずしもある日突然訪れるわけではありません。典型的な一つの概念モデルとして、小さな生活上の不便が積み重なり、徐々に生活範囲が縮小していく経路を考えることができます。ただし、すべての高齢者が同じ順序でこの経過をたどるという統計的なモデルではありません。

 初期には、長距離運転を避ける、重い物を買わなくなる、庭の手入れが遅れる、2階を使わなくなる、遠方の病院への受診を減らすといった変化が現れることがあります。この時点では、本人自身は「まだ問題なく暮らせている」と感じている場合があります。

 次の段階では、食事内容が単調になる、外出が減る、受診を先延ばしにする、掃除できない部屋が増える、住宅修繕を放置する、人との交流が減るなど、生活そのものが縮小していくことがあります。居住そのものは継続できていても、安全性や生活の質は低下しています。

 さらに、買い物や通院、行政手続き、住宅管理などを家族へ恒常的に依存するようになる場合があります。家族が近隣に住み、無理なく継続できるのであれば成立しますが、家族が就労していたり遠方に住んでいたりすれば、長期的に同じ支援を続けることは困難になる可能性があります。

 こうした状態で転倒、骨折、配偶者の入院、認知機能低下、自動車事故、住宅設備の故障、台風などが発生すると、それまで潜在化していた生活の脆弱性が一気に表面化します。

10.自宅生活の限界は年齢ではなく生活機能で判断する

 自宅生活を続けられるかどうかを判断するためには、年齢よりも具体的な生活機能を確認する方が有効です。

 移動については、安全に運転できるか、運転できなくても代替交通があるか、玄関から送迎車まで移動できるか、必要な通院回数を維持できるかを確認します。

 買い物と食事については、食品を定期的に確保できるか、重量物を入手できるか、調理または配食を利用できるか、注文、支払い、受取まで本人または他者が継続できるかを確認します。

 医療については、定期受診を中断していないか、服薬を適切に管理できるか、急変時の連絡先や搬送先があるか、入院後の退院先を確保できるかが重要です。

 住宅については、転倒しにくい環境か、トイレや浴室を安全に利用できるか、冷暖房を適切に使えるか、住宅の不具合を認識して業者へ依頼できるか、草刈りや庭木管理を外注できるかを確認します。

 認知・判断面では、金銭管理、契約内容の理解、訪問販売や詐欺への対応、火気、戸締まり、服薬などの管理能力が重要になります。

 さらに、家族が無理なく支援できるか、介護サービスが実際に利用できるか、緊急時に連絡できる人がいるか、家族以外の支援者が存在するかも確認する必要があります。

 一つの項目ができなくなっただけで、直ちに自宅生活が不可能になるわけではありません。しかし、複数の重要機能が「できない」、さらに「代替手段もない」という状態になった場合には、自宅生活そのものを再設計する必要があります。

11.自宅を離れる前にできることは多い

 自宅生活が不安定になったからといって、すぐに施設へ入ることだけが選択肢ではありません。重要なのは、「本人ができなくなったこと」を外部サービスや住宅改修によってどこまで代替できるかを検討することです。

 住宅では、生活を1階へ集約し、使用しない部屋を閉鎖し、寝室をトイレの近くへ移し、段差や敷物を減らすだけでも負担を軽減できる場合があります。

 移動では、元気なうちにデマンド交通へ登録し、タクシーを利用した場合の年間費用を計算し、通院先を可能な範囲で集約しておくことが考えられます。オンライン診療についても、疾患や診療内容によって利用可能か確認しておく価値があります。

 買い物では、運転できなくなってから初めて宅配を調べるのではなく、元気なうちにネットスーパー、生協、移動販売、配食などを試しておく方が安全です。

 住宅管理についても、草刈り、庭木管理、定期点検、雨どい清掃、不用品処分、台風後の確認などを外注する仕組みを用意できます。ただし、こうしたサービスには継続的な費用が必要です。

 そのため、「持ち家だから住み続ける方が安い」と最初から決めるのではなく、自宅の固定資産税、修繕費、庭管理費、交通費、介護関連費などを合計し、小規模住宅や高齢者向け住宅へ移った場合の費用と比較する必要があります。

12.住み替えを具体的に検討すべき状態

 本人と配偶者の両方が運転できない、日常の買い物を家族だけに依存している、通院を延期・中断するようになった、転倒を繰り返す、浴室や玄関が安全に使えない、住宅修繕を放置している、庭や敷地を管理できない、金銭や契約管理に不安がある、緊急時に来られる人がいない、家族の送迎や住宅管理負担が限界に近い、必要な介護サービスを地域で確保できないといった状態が複数重なった場合には、住み替えを具体的に比較する段階に入ったと考えるべきです。

 重要なのは、重大な事故や病気が起きてから転居先を探すのではなく、本人に判断能力と体力が残っている段階で選択肢を比較することです。

 住み替えには、自宅売却、賃貸住宅、高齢者向け住宅、子どもの近隣への転居、医療機関や商店に近い場所への転居などがあります。地方から大都市へ移ることだけが住み替えではありません。

 同じ自治体の中でも、郊外の大きな戸建てから駅や商店、医療機関に近い小規模住宅へ移ることで、生活を維持しやすくなる場合があります。

13.「住み慣れた家」が常に最善とは限らない

 住み慣れた自宅には、心理的安心、近隣との人間関係、思い出、所有権など、多くの価値があります。これらは金銭だけでは測れません。

 しかし、「自宅に住み続けること」そのものが目的になると、通院できない、買い物できない、住宅の一部しか使えない、家族が疲弊している、災害時に避難できないといった状態でも、転居を避け続けてしまう可能性があります。

 本来維持すべきなのは建物ではなく、本人の安全、生活の質、社会とのつながり、そして本人自身の意思決定です。

 住み続けていることと、暮らし続けられていることは同じではありません。

14.地方自治体には「制度一覧」ではなく「生活可能性の情報」が必要である

 自治体が高齢者に「早めに免許を返納しましょう」「住み慣れた地域で暮らしましょう」と呼びかけるだけでは十分ではありません。運転をやめた後に実際に病院や商店へ行けるのか、自宅で暮らし続けるためにどのようなサービスを利用できるのかを、住民が具体的に確認できなければならないからです。

 必要なのは、市町村全体の平均ではなく地区単位の情報です。商店への交通手段、医療機関への交通、デマンド交通の利用条件、タクシー助成、移動販売、宅配区域、訪問診療・訪問看護の提供区域、草刈りや住宅管理サービス、緊急通報サービス、高齢者向け住宅、住み替え相談、空き家売却・処分相談などを体系的に整理する必要があります。

 しかもサービス名だけでは不十分です。料金、利用条件、運行曜日、予約方法、対象地域まで公開されて初めて、住民は自分の生活に利用できるかを判断できます。

 同じ自治体であっても、駅周辺、中心市街地、郊外、山間部、海岸部では生活条件が異なります。市町村平均だけで「この町は高齢者が住みやすい」と評価するのではなく、実際に生活する地区から医療、交通、買い物、介護へ到達できるかを評価する必要があります。

15.全国統計を、そのまま地方の結論にはできない

 本記事で使用している平均寿命、健康寿命、要介護認定、住宅、世帯などの多くは全国統計です。そのため、これらの数字だけから、外房、東総、南房総など特定地域の高齢者が何歳まで自宅で生活できるかを直接判断することはできません。

 例えば、全国平均では一定割合の人が自動車以外の交通手段を利用できても、ある地区では最寄りのバス停まで1キロメートル以上あり、運行本数も少ない可能性があります。逆に地方であっても、駅、スーパー、診療所、薬局が徒歩圏内に集中している地区では、自動車を運転できなくなった後も生活しやすい場合があります。

 したがって地域の自宅生活可能性を本格的に評価するためには、市町村別・地区別の年齢別人口、要介護認定者数、医療機関、公共交通、商業施設、訪問系サービス、高齢者住宅、人口密度などを重ね合わせる必要があります。

 全国統計は「高齢になると何が問題になりやすいか」を示す材料であり、地域統計は「その問題が実際にどの程度発生しやすいか」を判断する材料です。この二つを区別することが重要です。

16.現実的な結論

 地方の高齢者が何歳まで持ち家で暮らせるかについて、一律の年齢を示すことはできません。平均寿命、健康寿命、要介護認定率は将来のリスクを考えるうえで有用ですが、個人が自宅を離れる年齢を決定する数字ではありません。

 自宅生活の限界は、身体機能だけで決まるのではなく、運転できない、買い物できない、通院できない、住宅を管理できない、配偶者や家族の支援を失うといった複数の条件が重なり、それらを外部サービスでも代替できなくなったときに現れやすくなります。

 特に地方では、一台の自動車が買い物、通院、行政手続き、金融、社会参加など複数の機能を同時に支えている場合があるため、運転停止が生活へ与える影響は大きくなります。一方、交通、宅配、医療、介護、住宅管理を地域サービスへ置き換えられる地域では、身体機能が低下しても長く自宅生活を続けられる可能性があります。

 したがって、本当に問うべきなのは、

「何歳まで住めるか」

ではありません。

「現在の生活を支えている機能は何か。その機能を失ったとき、何によって代替できるのか」

という問いです。

 自宅生活を続けたいのであれば、元気なうちに、運転をやめた状態で実際に移動してみる、宅配や配食を試してみる、住宅の危険箇所を確認する、草刈りや修繕を外注した場合の費用を把握する、配偶者がいない状態を想定して生活機能を点検する、住み替え先と費用を比較するといった準備を進めておく必要があります。

 地方での自宅生活は、本人の努力だけで維持できるものではありません。医療、交通、買い物、介護、住宅、家族や地域による支援という生活基盤が組み合わさって初めて成立します。

 そして、その基盤を本人、家族、地域サービスのいずれによっても維持できなくなった場合には、自宅そのものに残ることよりも、生活を安全に維持できる場所へ移る方が合理的な場合があります。

 重要なのは、「最後まで自宅に住めたか」ではありません。高齢になっても、安全に食べ、受診し、人とつながり、自分の意思で生活を選択できる状態を、どのように長く維持するかです。

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