地域分析記事

地域の暮らしと地域課題を数学とデータで考える

外房で病院や診療所が減ったらどこまで通院できるのか~医療機関までの距離と高齢者生活を考える

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 地方で暮らし続けられるかを考えるとき、「近くに病院があるか」は重要な条件です。しかし、病院や診療所の看板が地域に残っていれば、それだけで医療へアクセスできるとは限りません。実際の通院には、必要な診療科があること、受診したい日に診療していること、予約を取れること、医師がいること、自宅から移動できること、診察後に帰宅できること、そして必要な頻度で通院を繰り返せることなど、複数の条件が必要です。特に高齢になると、医療機関まで10キロメートル、20キロメートルという距離だけでなく、自動車を運転できるか、家族が送迎できるか、鉄道やバスの時刻が診療時間と合うか、タクシー料金を継続して負担できるかといった問題が加わります。そのため、高齢者の医療アクセスを考える際には、医療機関の数や距離だけを見るのでは不十分です。

 この記事では、勝浦市、いすみ市、大多喜町、御宿町などの外房南部を念頭に置きながら、千葉県の現行制度でこれらの地域を含む「山武長生夷隅保健医療圏」の公的資料を中心に、病院や診療所が存在することと、高齢者が実際に通院を続けられることは同じなのかを考えます。

 なお、2026年現在、千葉県では新たな地域医療構想の策定と千葉県保健医療計画の中間見直しが進められており、山武長生夷隅を含む医療圏のあり方も検討対象となっています。2026年8月の山武長生夷隅地域保健医療連携・地域医療構想調整会議でも、新たな地域医療構想や保健医療計画の中間見直しが議題となりました。したがって、この記事で用いる「山武長生夷隅保健医療圏」は、あくまで現行の行政上の分析単位であり、将来も現在と同じ区域が維持されると決まっているわけではありません。

最初に結論

 外房の将来医療を考えるうえで重要なのは、病院や診療所の数をそのまま維持することではなく、住民が必要とする医療機能へ現実的に到達できる状態を維持できるかという点です。山武長生夷隅保健医療圏では、外来医師偏在指標が85.9とされ、診療所における外来医療需要に対して医師が相対的に少ない地域として扱われてきました。また、医師全体の偏在指標は145.1で、全国335二次医療圏中302位とされ、「医師少数区域」に位置付けられています。目標医師数は640人ですが、計画策定に用いられた現状医師数は545人でした。

 一方、山武長生夷隅保健医療圏は医療機関そのものが極端に少ない地域というわけでもありません。2022年の医療施設調査では一般診療所が267施設ありました。問題は、施設が存在することと、必要な診療科、医師、検査、入院、専門医療などの機能が十分に存在することは同じではないという点です。

 さらに、千葉県保健医療計画が用いている2017年度患者調査などを基礎とした推計では、山武長生夷隅保健医療圏の居住者による外来患者は1日約1万9,900人で、そのうち約4,500人が圏域外へ流出し、圏域外から約1,000人が流入するとされていました。差し引きでは約3,500人の流出超過ですが、これは2026年現在の実測値ではなく、過去の患者調査などを基礎とした推計であることに注意が必要です。この資料から言えるのは、少なくとも計画策定の基礎となった時点ですでに、山武長生夷隅の医療が圏域内部だけで完結していたわけではないということです。将来、医療機関や診療科が縮小した場合には、地域外へ移動しなければ受けられない医療が増える可能性があります。

「外房」と山武長生夷隅保健医療圏は同じではない

 日常的に使われる「外房」と、行政上設定されている医療圏は一致しません。山武長生夷隅保健医療圏は、茂原市、東金市、勝浦市、山武市、いすみ市、大網白里市、九十九里町、芝山町、横芝光町、一宮町、睦沢町、長生村、白子町、長柄町、長南町、大多喜町、御宿町の6市10町1村から構成されています。面積は約1,162平方キロメートルに及び、勝浦市、いすみ市、御宿町、大多喜町などの南部だけでなく、東金市、山武市、大網白里市、茂原市なども含む非常に広い区域です。

 そのため、医療圏全体の平均的な数字から、勝浦市や御宿町の住民が医療機関まで何分かかるのかを直接判断することはできません。特に医療アクセスでは、平均値だけでなく地理的な分布が重要であり、同じ市町村の中でも、駅周辺と山間部、幹線道路沿いと公共交通の少ない集落では条件が大きく異なります。この記事で示す医師数や医療施設数は原則として医療圏全体の数字であり、外房南部だけを表した統計ではないという点は、常に区別して読む必要があります。

2050年には人口が大きく減っても、75歳以上人口は高水準が続く

 国立社会保障・人口問題研究所の2023年推計を基にした千葉県資料では、山武長生夷隅区域の人口は、2020年の約41万人から2025年約38万8千人、2030年約36万6千人、2035年約34万3千人、2040年約31万9千人、2045年約29万5千人、2050年約27万3千人へ減少すると見込まれています。2020年から2050年までの減少幅は約13万7千人で、割合にするとおよそ33%です。

 一方、75歳以上人口は、2020年約7万4千人、2025年約8万7千人、2030年約9万4千人、2035年約9万3千人、2040年約9万人、2045年約8万7千人、2050年約8万8千人と推計されています。総人口が約3分の1減少する一方で、75歳以上人口は2050年でも2020年を上回る計算です。

 ただし、ここから「高齢者が減らないので医療需要も減らない」と単純に結論づけることはできません。将来の医療需要は、年齢だけでなく疾患構造、受療率、医療技術、在宅医療への移行、診療報酬制度などにも左右され、外来患者総数自体は人口減少の影響を受けて減少する可能性もあります。重要なのは、総人口が33%減るからといって、すべての医療需要が同じ33%減るとは限らないということです。特に75歳以上人口が高水準で推移する地域では、慢性疾患、入院、救急、在宅医療など、高齢者に関連する医療需要が人口全体とは異なる動きをする可能性があります。

人口統計は同じ基準の数字を比較する必要がある

 人口を見る際には、統計の定義にも注意が必要です。山武長生夷隅保健医療圏について、2020年人口として示される約41万人は国勢調査を基礎とした数字ですが、千葉県資料には2023年4月1日時点の人口として42万2,832人という数字も掲載されています。一見すると人口減少地域なのに2020年から2023年に人口が増加したように見えますが、これは単純な人口増加を意味するものではありません。2023年の数字は住民基本台帳を基礎とした人口であり、国勢調査人口とは統計上の定義が異なるためです。

 したがって、異なる人口統計をそのまま時系列で比較し、「増えた」「減った」と判断することは適切ではありません。地域分析では、同じ統計体系、同じ定義の数字を用いて比較する必要があります。

現行計画の基礎推計では外来患者の流出超過がみられる

 千葉県保健医療計画で用いられている推計では、山武長生夷隅保健医療圏の居住者を基準とした外来患者数は1日約1万9,900人で、このうち圏域外への流出が約4,500人、圏域外からの流入が約1,000人とされています。主な流出先としては、千葉保健医療圏が約1,400人、香取海匝保健医療圏が約700人、安房保健医療圏が約700人、印旛保健医療圏が約600人、市原保健医療圏が約400人などと推計されています。

 ただし、これらは2017年度患者調査などを基礎として算出された推計値であり、「現在、毎日3,500人が地域外へ通院している」という意味ではありません。人口構成、医療機関の機能、交通条件、患者の受療行動はその後変化している可能性があります。それでも、医療計画の基礎資料の段階で相当数の患者が圏域を越えて移動していたという事実は重要であり、将来の医療体制を考える際には、医療圏の中だけで施設数を数えるのではなく、他の医療圏との患者移動を含めて考える必要があります。

診療所の数が多くても、医師や診療機能が十分とは限らない

 山武長生夷隅保健医療圏では、2022年の医療施設調査で一般診療所が267施設ありました。人口10万人当たりで見ても、診療所数そのものが県内で極端に少ない地域とは言えません。

 一方、千葉県の外来医療に関する資料には、2017年度医療施設調査に基づく一般診療所263施設、2016年医師・歯科医師・薬剤師統計に基づく診療所従事医師253人という数字も掲載されています。この263施設と253人は同じ年の数字ではないため、「263診療所に253人の医師がいる」という一時点の状態として単純に比較することはできません。

 さらに、診療所はすべて同じ医療を提供しているわけではありません。2020年の医師・歯科医師・薬剤師統計を基にした主たる診療科別の診療所医師数を見ると、内科119人、整形外科23人、眼科24人、小児科12人、耳鼻いんこう科12人、消化器内科11人、産婦人科8人、皮膚科7人、外科6人、精神科3人、泌尿器科3人、循環器内科2人、腎臓内科2人、脳神経外科2人などとなっています。つまり、「近所に診療所があること」と「必要な診療科を近所で受診できること」は別の問題であり、施設数だけでは住民が必要とする医療機能を評価することはできません。

皮膚科や精神科など、診療科による差も大きい

 山武長生夷隅保健医療圏における一般診療所勤務医師の人口10万人当たり人数は、2020年の資料で皮膚科1.7人、精神科0.7人、眼科5.7人、耳鼻いんこう科2.9人となっています。同じ資料の千葉県平均は、皮膚科3.6人、精神科2.5人、眼科5.4人、耳鼻いんこう科3.1人です。眼科は県平均とほぼ同水準ですが、皮膚科や精神科には大きな差があります。

 したがって、医療アクセスを分析する場合には「病院・診療所が何施設あるか」だけでなく、「どの診療科が、どこに、何人程度いるか」を見る必要があります。高齢者であれば、内科だけでなく、整形外科、眼科、循環器内科、泌尿器科など複数の診療科を継続的に利用する場合もあり、一つの医療機関だけで通院問題が完結するとは限りません。

医師全体でも「医師少数区域」

 山武長生夷隅保健医療圏の医師偏在指標は145.1で、全国335二次医療圏中302位とされ、「医師少数区域」に位置付けられています。現状医師数545人に対し、2026年度末までの目標医師数は640人です。

 ただし、640人という数字は、「この人数になれば地域のすべての医療需要が完全に満たされる」という意味ではありません。医師偏在指標は、人口構造、受療率、医師の性別・年齢構成などを考慮し、全国的な医師配置の偏りを評価するための指標です。目標医師数も、医師少数区域からの脱却など政策上の基準を基に設定されています。そのため、640人に達したとしても、診療科ごとの偏在、市町村間の偏在、勤務時間、救急医療、在宅医療などの問題まで自動的に解決するわけではありません。

「病院がなくなる」前に医療機能が少しずつ遠くなることがある

 地方医療について考えるとき、「病院が閉院するかどうか」という二者択一で捉えがちです。しかし住民にとっての医療アクセスは、もっと段階的に変化します。例えば、診療所が週5日診療から週3日診療になる、特定の診療科だけ終了する、常勤医が非常勤医になる、午後診療がなくなる、病床が削減される、専門検査が他院への紹介になる、手術や入院だけ別の病院へ移る、といった変化があります。

 この場合、医療機関そのものは地域に残っています。それでも患者側から見ると、「利用できる医療機能までの距離や時間が伸びた」ことになります。したがって地域医療アクセスは、施設が存在するかどうかだけでなく、「必要な診療機能へ実際に到達できるか」という観点から評価する必要があります。

では「何キロメートルまでなら通院できる」のか

 この記事の題名に関係する最も重要な部分ですが、千葉県や厚生労働省の資料には、「高齢者は医療機関まで何キロメートル以内なら通院できる」という全国共通の基準はありません。5キロメートルなら問題なく、10キロメートルを超えると困難になり、20キロメートルなら通院できないという明確な境界を公的資料から設定することはできません。

 高齢者本人が自動車を運転できる場合、家族が送迎できる場合、鉄道駅の近くに住んでいる場合、公共交通がほとんどない場合、歩行が困難な場合では、同じ距離でも通院可能性が大きく異なります。そのため、外房では医療機関まで何キロメートル以内なら安心できる、と一律に結論づけることは適切ではありません。

距離だけでなく、移動時間と反復可能性を見る

 例えば、自宅から15キロメートル離れた医療機関でも、自動車で20分程度で移動でき、本人が運転できるのであれば通院負担は比較的小さい場合があります。一方、自宅から2キロメートルしか離れていなくても、歩行が困難で、バスがなく、家族送迎もなく、タクシー代を継続的に負担することが難しければ、実際の通院は困難になる可能性があります。

 したがって、高齢者の通院可能性を考える際には、医療機関の存在、必要な診療科、診療可能日時、移動手段、所要時間、交通費、本人の身体能力、必要な通院頻度などを総合して評価する必要があります。これは単純な足し算で算出できる数値ではなく、これらの条件は互いに影響します。厳密に分析するのであれば、それぞれを説明変数として通院可能性を推定する統計モデルや、道路・公共交通ネットワークを使った到達時間分析などが必要になります。

高齢者医療では「1回行けるか」より「繰り返し行けるか」が重要

 高齢期には、高血圧、糖尿病、心疾患、整形外科疾患、眼疾患などで長期間の通院が必要になる場合があります。そのため、通院問題では一度だけ病院へ到達できるかではなく、数週間ごと、あるいは数か月ごとに何年間も通い続けられるかが重要です。年間の移動負担を単純化すれば、「1回当たりの往復移動時間」と「年間受診回数」の積として考えることができ、複数の診療科を受診すれば、その負担はさらに増えます。

 例えば、専門医を受診するため地域外へ移動する場合、1回だけなら家族に送迎を頼めても、毎月あるいは数か月ごとに何年間も続けられるとは限りません。「家族に車で連れて行ってもらえる」という条件だけで、長期的な通院問題が解決しているとは言えないのです。

同じ医療圏内でも生活圏としては遠い

 山武長生夷隅保健医療圏は約1,162平方キロメートルという広い区域です。そのため、行政上は同じ医療圏にある医療機関でも、すべての住民にとって日常的に通いやすい距離にあるとは限りません。

 医療行政上の圏域は、医療提供体制を計画するための区域です。一方、住民の日常生活では、道路網、鉄道、バス、地形、医療機関の診療時間などによって実際の生活圏が形成されます。したがって、「同じ医療圏の中に病院がある」という事実だけでは、住民の医療アクセスを十分に評価できません。

一部の高度・専門医療は圏域外との連携が前提になる

 千葉県資料では、山武長生夷隅保健医療圏における2020年度医療施設調査などを基にした医療機器数として、全身用CT(Computed Tomography・コンピュータ断層撮影装置)49台、MRI(Magnetic Resonance Imaging・磁気共鳴画像装置)21台、PET(Positron Emission Tomography・陽電子放出断層撮影装置)0台、放射線治療装置1台、マンモグラフィ14台などが示されています。特にPETについては圏域内に保有医療機関がなく、千葉県も隣接医療圏との連携を重要としています。

 これは、すべての医療機能を一つの医療圏の中に配置することが現実的とは限らないことを示しています。高度な設備や専門医療では、患者数や専門職の確保、設備投資などを考えると一定の集約化が合理的な場合があります。問題は集約化そのものではなく、医療機能を集約するのであれば、その医療機関まで患者が到達できる交通や紹介体制も同時に確保する必要があるということです。

各市町村にすべての医療を残せばよいわけでもない

 高齢者が多い地域だからといって、各市町村にあらゆる診療科や病院機能を残せば問題が解決するわけではありません。病院を維持するためには医師だけでなく、看護師、薬剤師、診療放射線技師、臨床検査技師、臨床工学技士、リハビリテーション職、事務職など多くの人材が必要であり、さらに病床、手術室、検査機器、夜間勤務体制なども維持しなければなりません。

 人口が減少する地域で高度な医療機能を小規模施設へ分散させれば、各施設が十分な人員や設備を確保できない場合があります。症例数が少なすぎれば、医療従事者の経験や設備利用の効率という別の問題も生じます。したがって、住民の近くに医療機能を置くことと、医療の質や人員を確保するために一定の機能を集約することの間には、現実的な調整が必要です。

反対に「集約すれば効率的」で終わらせることもできない

 医療機関を集約すれば、人材や設備を集中させやすくなる場合があります。しかし、医療提供側の効率化が住民側の負担軽減と必ず一致するとは限りません。病院が遠くなれば、患者本人の移動時間だけでなく、家族の送迎時間、タクシー料金、仕事を休む時間などが増える可能性があります。

 行政や医療機関の会計上は効率化しても、その一部の費用や時間が患者や家族へ移転しているだけという場合もあります。したがって、地域医療の再編を評価するときには、医療機関側の費用だけでなく、患者や家族が負担する時間と費用まで含めて考える必要があります。

外房では医療政策と交通政策を切り離しにくい

 病院や診療科が集約されるほど、交通の重要性は高くなります。逆に、路線バスの減便、鉄道の運行本数の減少、タクシー事業者の減少、本人の運転能力の低下などが重なると、医療施設そのものが存在していても利用できなくなる可能性があります。

 そのため地方の医療アクセスは、医療提供体制だけではなく地域交通との組み合わせとして考える必要があります。例えば、専門診療を一定の病院へ集約する政策を実施するのであれば、鉄道やバスだけでなく、デマンド交通、乗合タクシー、患者送迎、福祉交通などをどのように組み合わせるのかが重要になります。

自動車を運転できる現在だけで判断すると問題を見落とす

 外房では自動車で医療機関へ通院している住民も多いと考えられます。そのため、60代や70代前半では「病院まで15キロメートルあっても車なら問題ない」と感じる場合があります。しかし、高齢期の居住可能性を考えるのであれば、「現在運転できるか」だけでなく、「運転できなくなった後にも同じ医療へアクセスできるか」を考える必要があります。

 自動車中心の医療アクセスは、免許返納だけでなく、視力低下、認知機能の変化、身体機能低下、骨折、入院後の体力低下などによって成立しなくなる可能性があります。したがって地方移住や高齢期の住宅選びでは、現在の自動車移動時間だけでなく、自動車を利用できなくなった場合の通院方法まで確認しておくことが重要です。

オンライン診療で通院問題がすべて解決するわけではない

 オンライン診療には、患者の移動負担を減らせる利点があります。状態が安定している患者の一部では、対面診療の回数を減らせる可能性があります。しかし、採血、画像検査、処置、身体診察、緊急対応、手術、リハビリテーションなど、医療機関への来院が必要になる診療は残ります。また、高齢者の中には情報通信機器の利用に支援が必要な人もいます。

 そのため、「オンライン診療が普及すれば地方の通院問題がなくなる」と考えるのは適切ではありません。オンライン診療は、適切な疾患や患者について移動回数を減らす手段の一つとして位置付ける方が現実的です。

在宅医療も重要だが、供給側にも移動負担がある

 高齢化が進む地域では、患者が医療機関へ行くのではなく、医師や看護師などが患者宅へ訪問する在宅医療の重要性も高まります。しかし在宅医療にも医師、看護師、車両、移動時間などが必要であり、人口密度が低く、住宅が広い地域に分散していれば、一人の医師や看護師が一定時間内に訪問できる患者数は少なくなります。

 つまり、通院医療では患者側に発生していた移動負担の一部が、在宅医療では医療従事者側へ移ることになります。在宅医療は重要な選択肢ですが、それだけですべての地域医療アクセス問題を解決できるわけではありません。

高齢期に見るべきなのは「病院までの距離」より「必要な医療へのアクセス」

 高齢期の生活環境を評価するとき、「最寄り病院まで何キロメートルか」という一つの数字だけでは不十分です。まず、普段の慢性疾患を診てもらえる内科などのかかりつけ医があるかを確認し、次に眼科、整形外科、皮膚科、循環器内科など、自分が必要とする専門診療科がどこにあるのかを見る必要があります。

 さらに、CTやMRIなどの検査が必要になった場合にどこへ行くのか、入院や手術が必要になった場合はどの病院が担当するのか、自動車を運転できなくなった場合にどう通院するのか、家族が送迎できない場合の代替手段があるのか、訪問診療や訪問看護を利用できるのかまで確認して初めて、実際の医療アクセスを評価できます。

高齢期の居住地を考えるためのチェックリスト

  • 最寄りの内科へ自動車以外でも行けるか
  • 定期的に必要な専門診療科がどこにあるか
  • 診療曜日や診療時間を確認しているか
  • 紹介先となる病院までどの程度の時間がかかるか
  • 家族の送迎がなくても通院できるか
  • タクシーを継続利用した場合の費用を負担できるか
  • 鉄道やバスの時刻が診療時間と合っているか
  • 入院後や身体機能が低下した場合の通院方法があるか
  • 訪問診療や訪問看護の対象地域に入っているか
  • 自動車を運転できなくなった後の交通手段があるか
  • 一度だけではなく、毎月あるいは数か月ごとに何年間も通えるか

 重要なのは、現在病院へ行けるかだけではありません。10年後、20年後に本人の身体能力や家族構成、地域交通が変化しても、必要な医療を継続して利用できるかという視点が必要です。

どのような地域なら医療アクセスを維持しやすいのか

 一般論としては、診療所と中核病院の役割分担があり、専門医療を集約しても交通手段が確保され、かかりつけ医と専門医の連携ができ、訪問診療や訪問看護を利用でき、公共交通やタクシーなど複数の移動手段が存在する地域ほど、医療アクセスを維持しやすいと考えられます。

 反対に、人口が広い範囲へ分散し、診療所の後継者が少なく、専門診療科が遠く、自動車以外の交通手段が乏しく、家族送迎への依存度が高い地域では、医療施設の数を維持しただけでは実際の通院可能性を維持できない可能性があります。

本当に「どこまで通院できるか」を調べるには空間分析が必要

 この記事では、公的資料から一律に「何キロメートル以内なら通院可能」という数字を設定することはしていません。しかし、外房について実際に「どこまで通院できるのか」を詳しく検証する方法はあります。例えば、勝浦市、いすみ市、御宿町、大多喜町について、人口の分布、病院・診療所の位置、診療科、道路網、鉄道駅、バス停、運行時刻などを組み合わせれば、それぞれの地域から必要な医療機関まで何分で到達できるかを分析できます。

 具体的には、内科まで30分以内、整形外科まで30分以内、眼科まで45分以内、救急病院まで60分以内といった到達圏を地図上に作り、その圏内に高齢者が何人住んでいるかを推計する方法があります。自動車利用時だけでなく、公共交通利用時について同じ分析をすれば、「運転できる間」と「運転できなくなった後」の差も把握できます。このような分析を行って初めて、「外房ではどこに住めば何分以内に医療へ到達できるのか」という問題に定量的に答えることができ、医療圏全体の平均値だけではそこまでの判断はできません。

「病院を残すか、なくすか」だけの議論では足りない

 人口減少地域では、病院や診療所の統合、再編、病床削減などが議論されることがあります。しかし、住民生活から見て重要なのは、病院が残ったか閉院したかという二者択一だけではありません。必要な医療機能まで何分で行けるのか、自動車がなくても行けるのか、月に何回でも継続できるのか、専門医療が必要になった場合にも移動できるのかという評価が必要です。

 医療施設の集約化には、人材や設備を集中できる利点があります。一方で、患者の移動負担を増加させる可能性があります。逆に医療機能を細かく分散すれば住民との距離は近くなりますが、人材や設備を十分に配置できなくなる可能性があります。したがって、地域医療政策では「施設を残すか減らすか」という施設数だけの議論ではなく、「どの医療機能をどこに配置し、その場所まで住民がどのように到達するのか」を一体として考える必要があります。

現実的な結論

 山武長生夷隅保健医療圏では、総人口が2020年の約41万人から2050年には約27万3千人へ減少すると推計されています。一方、75歳以上人口は約7万4千人から約8万8千人となる推計で、人口全体とは異なる動きをします。医師全体の偏在指標は145.1で全国335二次医療圏中302位とされ、現在の千葉県保健医療計画では医師少数区域に位置付けられています。外来医師偏在指標も85.9であり、診療所医師の確保も課題となっています。

 一方、2022年の一般診療所数は267施設あり、単純に「医療機関そのものがほとんどない地域」と表現するのも正確ではありません。問題は施設数ではなく、それぞれがどのような診療機能を持ち、住民がそこへ到達できるかです。また、現行計画が用いる過去の患者調査などを基礎とした推計では、外来患者の圏域外流出が流入を大きく上回っていました。このことからも、山武長生夷隅の医療を一つの圏域だけで完結させることを前提にするのではなく、周辺医療圏との連携と交通を含めて考える必要があります。

 したがって将来の外房について、「人口が減るから医療機関も同じ割合で減らしてよい」とも、「現在の病院や診療所の数さえ残せば安心」とも言えません。人口減少社会で重要になるのは、すべての医療施設を現在と同じ形で残すことではなく、地域に必要な医療機能を確保し、その医療機能まで高齢者が現実に到達できる仕組みを維持することです。

 住民側も、「病院まで車で15分だから大丈夫」と現在の状態だけで判断するのではなく、自動車を運転できなくなった後、家族が送迎できなくなった後、身体機能が低下した後にも、その医療を利用できるかまで考える必要があります。地方の医療問題は、病院があるか、ないかだけではありません。医療が存在することと、必要な人が実際に利用し続けられることは同じではありません。

 外房で10年後、20年後、さらにその先まで暮らし続けられるかを考えるなら、医療施設の数だけでなく、「必要な医療へ何分で到達できるのか」「自動車を使えなくても通えるのか」「その通院を長期間繰り返せるのか」という視点から地域を見る必要があります。

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