地域分析記事

地域の暮らしと地域課題を数学とデータで考える

 地方でスーパーが閉店したというニュースを見ても、それだけで地域から食料が消えるわけではない。自動車を運転できる人であれば隣町のスーパーへ行けるし、家族に買ってきてもらうこともできる。移動販売車が巡回している地域もあれば、宅配サービスを利用できる地域もある。そのため、スーパーの撤退は一見すると「店が一つ減った」という問題に見える。

 しかし、人口減少がさらに進む20年後、30年後まで視野を広げると、問題の性質はかなり違ってくる。問われるのは、スーパーという店舗が存在するかどうかだけではない。人口が減り続ける地域で、住民が必要な食品を継続的に購入し、受け取れる仕組みそのものを維持できるのかという問題だからである。

 国立社会保障・人口問題研究所が2023年に公表した「日本の地域別将来推計人口」は、2020年の国勢調査を基準として、2050年まで5年ごとの市区町村別人口を推計している。2026年現在から2050年までは約24年であり、記事のタイトルにある30年後は2056年頃に当たる。2050年までの公的推計を手掛かりに、その先の地域社会を考えることはできるが、人口推計は出生、死亡、人口移動などの仮定に基づくものであり、将来の人口を確定的に予言したものではない。

 それでも、地方の多くの自治体で人口減少と高齢化が進むという方向性は、将来の生活インフラを考えるうえで無視できない。特に重要なのは、人口が減ることで食品を購入する人が減るだけでなく、食品を販売し、運び、買いに行くための交通手段を維持する側にも負担が生じることである。

買い物に困る高齢者は、すでに全国で約904万人

 高齢者の買い物問題は、30年後に初めて発生する問題ではない。農林水産政策研究所が2024年2月に公表した推計によると、2020年時点の全国の食料品アクセス困難人口は約904万人で、65歳以上人口の25.6%を占めていた。このうち75歳以上は約566万人で、75歳以上人口の31.0%に相当する。

 ここでいう食料品アクセス困難人口とは、食品を扱う店舗まで直線距離で500メートル以上離れており、自動車の利用が困難な65歳以上の高齢者を、国勢調査や店舗の所在地情報などを用いて推計したものである。対象となる店舗には、スーパーだけでなく、食料品を扱うコンビニエンスストア、ドラッグストア、専門小売店なども含まれる。

 ただし、この904万人という数字は、実際に食品を購入できない人の人数ではない。家族による買い物支援や宅配、移動販売などを利用している人も含まれ得るため、食品を購入できるかどうかを直接測定した数字ではない。それでも、店舗までの距離と自動車利用の難しさを組み合わせた全国的な推計であり、買い物環境の脆弱性を示す重要な指標といえる。

 農林水産省が2026年3月に公表した2025年度の全国市町村アンケート調査でも、回答した市町村の89.3%が買い物困難者への対策を「必要」または「ある程度必要」と回答している。また、行政または民間事業者のいずれかによって対策が実施されている市町村の割合は86.8%であり、民間事業者が独自に参入している市町村は58.2%だった。

 これらの数字は、買い物困難者への対応が一部の過疎集落だけに限られた問題ではなく、全国の自治体に広く存在する政策課題であることを示している。一方、支援事業が実施されているからといって、必要な住民全員が十分なサービスを利用できているとは限らない。事業の実施率と住民の生活上の問題が解決されている割合は、区別して考える必要がある。

人口減少はスーパーの経営をどのように変えるのか

 スーパーを維持するためには、売上によって商品の仕入れ費用、人件費、店舗の維持費、光熱費などを賄う必要がある。人口1万人の地域と3,000人の地域では、一般に地域内の消費需要の規模が異なるため、同じ店舗を維持する条件も変わってくる。ただし、人口だけで店舗の採算が決まるわけではなく、住民の所得、購買頻度、競合店の立地、観光客や周辺自治体からの利用者、店舗面積などにも左右される。

 高齢化も店舗の需要構造を変える要因になる。子育て世帯では複数人分の食品や日用品をまとめて購入することがある一方、単身高齢者や高齢夫婦世帯では、少量の商品や調理の手間が少ない食品への需要が高まる場合がある。しかし、高齢者の割合が増えることと、地域全体の食品購入額が同じ割合で減ることは同義ではない。

 例えば、4人で暮らしていた世帯が複数の単身世帯に分かれた場合、一世帯当たりの食品購入額は小さくなっても、地域全体の購入額がそれに比例して減少するとは限らない。さらに、単身世帯が増えることで、小分け商品の需要や配送先の件数が増える可能性もある。したがって、将来の食品市場を予測するには、総人口だけでなく、年齢別人口、世帯人数、所得、食品購入額、購入頻度を組み合わせる必要がある。

 それでも、人口が大幅に減少し、地域外からの利用も十分に見込めない場合には、店舗の売上規模が縮小する可能性が高い。固定費を賄えなくなれば、営業時間の短縮、取扱商品の削減、人員の削減などが進み、それでも採算が合わなければ撤退を選択する事業者も出てくるだろう。大型店が撤退した後、小規模店に需要が移る場合もあるが、その小規模店も人口減少や経営者の高齢化によって存続が難しくなることが考えられる。

 ただし、スーパーの閉店が必ず地域全体の食品販売機能の消滅を意味するわけではない。店舗の再編によって別の事業者が需要を引き受ける場合もあり、店舗の撤退と住民の食品アクセス悪化の関係は、地域ごとに検証する必要がある。

高齢化率が上がっても、高齢者の人数は減る可能性がある

 人口減少地域の買い物問題を考えるうえで、見落としやすいのが高齢化率と高齢者の実人数の違いである。高齢化率とは、総人口に占める65歳以上人口の割合であり、その割合が上昇しても、高齢者数そのものが増えているとは限らない。

 例えば、総人口1万人、高齢化率40%の地域には4,000人の高齢者がいる。将来、総人口が5,000人に減少し、高齢化率が60%になった場合、高齢者は3,000人となる。高齢化率は20ポイント上昇しているにもかかわらず、高齢者の実人数は1,000人減少しているのである。

 この違いは、移動販売や宅配サービスの将来需要を考える際に重要になる。高齢者の割合が高くなれば支援を必要とする住民の割合が上昇する可能性があるが、利用者の実人数まで増加するとは限らない。つまり、支援の必要性が高い地域であっても、事業者から見れば利用者が減り続けるという状況が起こり得る。

 千葉県大多喜町は、その具体例の一つである。国立社会保障・人口問題研究所の2023年推計では、同町の総人口は2020年の8,885人から2050年には4,498人となり、約49.4%減少すると見込まれている。同じ推計で65歳以上人口は3,888人から2,564人へ減少する一方、高齢化率は43.8%から約57.0%へ上昇する。

 これは、2050年の大多喜町で買い物困難者が必ず減ることを意味するものではない。運転できない高齢者の割合や居住地の分布、同居家族の有無、店舗の立地によって、買い物支援の必要性は変わるからである。しかし、高齢化率だけを見て高齢者向けサービスの需要増加を予測することが不適切であることは明らかである。

 地域の将来を考える際には、高齢者が人口の何割を占めるかという割合と、実際に何人が、どこに住み、どのような支援を必要とするかという人数と分布を、分けて分析しなければならない。

スーパーがなくなっても、宅配が必ず成立するわけではない

 人口減少が店舗経営に影響する一方、食品を住民の自宅まで運ぶ物流にも影響が及ぶ。スーパーがなくなれば宅配を利用すればよいと考えることはできるが、宅配も商品が自動的に家庭へ移動してくるわけではない。商品を仕分けし、配送車両に積み込み、配送先へ運び、受け渡す工程が必要になる。

 国土交通省が2025年11月に取りまとめた「ラストマイル配送の効率化等に向けた検討会」の提言でも、運転手不足に加え、過疎地域などでの貨物量減少や積載効率の低下によって、物流サービスの持続的な提供が困難になることが課題として示されている。ラストマイル配送とは、物流拠点などから消費者の自宅を含む最終的な届け先まで商品を運ぶ工程のことである。

 ここで重要なのは、人口密度と配送需要密度を区別することである。人口密度は一定面積に住む人口の多さを示すが、配送需要密度は同じ面積で実際にどれだけの配送が発生するかを示す。人口が減少しても利用世帯が一定の場所に集中していれば、比較的効率よく配送できる可能性がある。反対に人口密度がそれほど低くなくても、利用世帯が広範囲に分散していれば配送効率は悪くなることがある。

 住宅が集中している地域では、一台の配送車で短時間に多くの家庭を回りやすい。しかし、同じ件数の配送先が山間部や海岸部の広い範囲に分散していれば、走行距離や移動時間が増えることがある。実際の配送効率は、住宅分布、道路網、配送拠点までの距離、注文頻度、再配達の有無などによって変化する。

 したがって、人口密度が低下すれば必ず一件当たりの配送距離が長くなる、という単純な関係ではない。より正確には、配送先の分散や需要の減少によって、一定の地域を維持するための走行距離や時間を十分な件数で分担できなくなると、一件当たりの配送費用が増加しやすいのである。

配送費用を数値で考えると、何が問題なのか

 配送の採算性は、配送収入から必要な費用を差し引いて考える必要がある。費用には運転者の人件費、車両の走行費、商品仕分けや保管に必要な費用、車両や拠点の固定費などが含まれる。食品を扱う場合には、さらに冷蔵・冷凍管理や品質管理の費用も必要になる。

 ここで、住宅の分散と利用件数の減少が配送費用に与える影響を、単純な仮想モデルで考えてみよう。これは実際の配送事業者や自治体の調査結果ではなく、費用構造を説明するための試算である。

 仮に運転者の人件費を1時間1,800円、平均走行速度を時速25キロメートル、配達先での作業時間を一件4分、車両の走行費を1キロメートル40円とする。さらに配送一回当たりのその他の固定費を3,000円と仮定し、商品原価や冷蔵管理などの追加費用は、この比較から除外する。

 住宅が集中した地域で60件を配送し、総走行距離が15キロメートルで済む場合、走行と配達に要する時間は合計4.6時間となり、配送総費用は11,880円、一件当たり198円になる。

 一方、同じ60件でも住宅が分散し、総走行距離が70キロメートルになる場合、所要時間は6.8時間となり、配送総費用は18,040円、一件当たり約301円になる。同じ配送件数でも、走行距離が長くなることで一件当たりの配送費用は約1.5倍になる計算である。

 さらに、配送区域を維持したまま利用件数が30件に減少し、総走行距離が70キロメートルのままだと仮定すると、総費用は14,440円となり、一件当たり約481円になる。最初の住宅集中地域と比較すれば、一件当たりの費用は約2.4倍である。

 もちろん、実際には配送件数の減少に合わせてルートを変更したり、配送曜日を減らしたり、他の荷物と共同配送したりできるため、この試算通りに費用が増えるとは限らない。また、これらは配送費用の比較であり、事業の利益率を示しているわけではない。採算性を判断するには、配送料、商品販売による利益、利用者数、補助金などの収入も必要になる。

 それでも、この計算から重要なことが分かる。人口減少地域の物流では、配送する商品の量だけでなく、配送先の数と分布が費用を大きく左右する。一件当たりの配送費用が上昇する一方、利用者が減って収入も減少すれば、事業の継続は難しくなり得るのである。

 逆に、共同配送や配送拠点の再編によって走行距離を短縮できれば、人口が減る地域でも費用を抑えられる可能性がある。人口減少と配送費用の関係は一方向に決まるものではなく、地域物流をどのように設計するかによって変化する。

ネットスーパーが普及すれば問題は解決するのか

 将来、デジタル技術の進歩によって、店舗へ行かずに食品を注文する方法がさらに普及する可能性はある。スマートフォンだけでなく、音声による注文、家族による代理注文、定期的な自動発注など、買い物の方法が変わることも考えられる。

 しかし、注文方法が便利になっても、最後には米、野菜、肉、牛乳などの食品を物理的に運ばなければならない。インターネットは注文情報を運ぶことはできても、食品そのものを運ぶことはできない。注文のデジタル化は利用者の負担を減らす可能性がある一方、商品の保管、仕分け、輸送、受け渡しという物流の工程をなくすわけではない。

 特に食品には、一般の商品とは異なる制約がある。冷蔵品や冷凍品には適切な温度管理が必要であり、生鮮食品には鮮度の問題がある。書籍や衣類のように数日分の注文をまとめて配送できる商品とは異なり、すべての食品で配送頻度を大幅に減らせるとは限らない。

 また、高齢者が自宅で注文できたとしても、配送費用が高ければ利用を続けられない可能性がある。ネットスーパーが提供されていることと、すべての高齢者が無理なく利用できることは別の問題である。

 もちろん、将来の物流技術が現在と同じ水準にとどまるとも限らない。配送ルートの自動最適化や自動運転配送などによって、一部の費用が低下する可能性もある。しかし、技術の導入には設備投資や保守費用が必要であり、道路条件、安全性、制度上の条件も満たさなければならない。新しい技術が人口密度の低いすべての地域で経済的に成立するかどうかは、現時点では判断できない。

 したがって、30年後の買い物問題を考える際には、ネットスーパーがすべてを解決すると楽観視することも、人口減少によって物流は必ず衰退すると決めつけることも適切ではない。技術の進歩を考慮しながら、地域ごとの配送費用と住民の負担能力を検証する必要がある。

移動販売車はどこまで地域を支えられるのか

 スーパーが撤退した地域で利用されている方法の一つが移動販売である。決められた曜日や時間に販売車が地域を巡回する仕組みは、自動車を運転できない高齢者にとって重要な買い物手段になる。利用者が販売員と会話する機会にもなるため、地域によっては高齢者の見守りや社会的な交流という役割も持っている。

 農林水産省の2025年度調査でも、移動販売車の取り組みでは、行政実施の約5割、民間事業者実施の約3割で、市町村との見守り体制が構築されていると報告されている。このことは、移動販売が単なる商品販売だけでなく、地域の生活支援と結びついていることを示している。

 しかし、移動販売にも採算性の問題がある。販売車を走らせるためには、車両、燃料、商品仕入れ、積み込み、販売員の人件費などが必要になる。一つの販売地点に十分な利用者が集まれば効率よく販売できるが、利用者が減少すれば、一人当たりに必要な運営費が増える場合がある。

 例えば、ある集落で50人が利用していた移動販売が、人口減少によって10人、5人しか利用しなくなった場合、販売地点を維持するための移動時間や費用を、少ない売上で負担しなければならない。ただし、実際の採算性は人数だけで決まらず、一人当たりの購入額、販売地点間の距離、巡回頻度、補助金の有無などにも左右される。

 移動販売の利点は、店舗を常設するための建物や設備を必ずしも必要としないことである。一方、商品を運び、販売する人が必要であることは店舗や宅配と変わらない。地域の利用者が極端に少なくなった場合には、民間事業だけでサービスを維持することが難しくなる可能性がある。

 そのため、移動販売を導入する際には、現在の利用者数だけでなく、5年後、10年後の需要を見積もり、販売と見守りなどの機能をどのように組み合わせるか、行政がどこまで費用を負担するかについても検討する必要がある。

本当に重要なのは、自動車を運転できなくなったとき

 地方では、自動車を運転できる間は買い物問題が表面化しにくい。スーパーまで10キロメートル離れていても、自動車で移動できれば日常の買い物に大きな支障を感じない人もいる。しかし、高齢になると視力、認知機能、身体能力、健康状態などが変化し、運転を継続することが難しくなる場合がある。

 もちろん、すべての高齢者が一定の年齢で運転できなくなるわけではない。運転能力には個人差があり、運転をやめる時期も健康状態や生活環境によって異なる。しかし、自動車に依存した買い物環境では、運転できなくなることによって食品へのアクセスが急激に悪化する可能性がある。

 スーパーまでの距離が10キロメートルであること自体は変わらなくても、自動車という移動手段を失えば、その距離は生活上の大きな障壁になる。したがって、買い物困難を評価する際には、店舗までの距離だけではなく、自動車を使わずに店舗へ行けるか、家族などの支援を受けられるか、宅配や移動販売を利用できるかを併せて考える必要がある。

 公共交通も重要な要素である。バスや乗合タクシーが利用できれば、自動車を運転しない高齢者でも店舗へ移動できる可能性がある。しかし、人口減少によって利用者が減れば、公共交通も運行を維持するための費用負担が大きくなる場合がある。タクシーを利用する方法もあるが、買い物のたびに高額な交通費が必要になれば、所得の限られた住民にとって継続的な利用は難しい。

 ここで問題になるのは、店舗、物流、公共交通が別々に存在しているのではなく、互いに影響し合っていることである。店舗が減れば移動距離が長くなり、自動車を運転できない人の負担が増える。公共交通が減れば店舗へ行きにくくなり、宅配などの必要性が高まる。一方、宅配や移動販売が充実すれば、店舗や公共交通への依存度が変わることもある。

 このような関係を考えると、地域の買い物問題は商業施設の数だけで評価できない。店舗の配置、交通手段、配送サービス、家族による支援、住民の所得を含めた生活全体の問題なのである。

食品が届いても、買えるとは限らない

 買い物問題には、物理的なアクセスと経済的なアクセスという二つの側面がある。物理的なアクセスとは、必要な食品を販売する場所や配送手段が存在し、住民がそれを利用できることである。一方、経済的なアクセスとは、必要な食品を無理のない費用で購入できることである。

 2024年に改正された「食料・農業・農村基本法」の下でも、円滑な食品アクセスの確保は重要な政策課題として位置づけられている。農林水産省は、地理的・物理的な理由で食品の購入が難しい人への対応だけでなく、経済的な理由で十分な食品を入手できない人への対応も進めている。

 例えば、スーパーが撤退した地域で宅配サービスを導入できたとしても、配送料が高額になれば利用できない住民が出てくる可能性がある。人口が減って配送費用が上昇し、その費用が商品価格や配送料に転嫁されれば、低所得の高齢者ほど負担が大きくなることも考えられる。

 逆に、配送を維持するために公的資金を投入すれば、利用者の負担を抑えることは可能かもしれない。しかし、その費用は自治体や国などが負担することになり、財政的に継続できるかという別の問題が生じる。

 したがって、買い物支援を評価する際には、サービスが存在するかどうかだけでは不十分である。利用者が必要な食品を購入できる価格になっているか、配送料や交通費を含めた負担がどの程度か、行政の支援が長期的に維持できるかを検討しなければならない。

 食品を運べる仕組みと、住民が実際に食品を買える仕組みは、両方が成立して初めて生活インフラとして機能する。

30年後に残すべきなのは「店舗」か「買い物機能」か

 人口が大きく減少する地域では、現在と同じ数や規模のスーパーをそのまま維持することが難しくなる可能性がある。しかし、スーパーがなくなるからといって、住民が買い物できなくなる未来を当然のものとして受け入れる必要はない。

 重要なのは、スーパーという施設を守ることだけを目的にするのではなく、住民が継続的に食品を入手できる機能を守ることである。その方法は一つではなく、地域の人口規模や住宅分布、道路条件、住民の生活実態によって変わってくる。

 例えば、地域の中心部に小規模な物流拠点を設け、複数の小売事業者や卸売事業者の商品を集約する方法が考えられる。そこから移動販売や共同配送によって周辺集落へ商品を届ければ、個々の事業者が長距離を走るより配送を効率化できる可能性がある。

 ただし、複数の車両や事業を自由に統合できるわけではない。宅配便、食品配送、旅客輸送、福祉関係の送迎では、それぞれ事業の目的や適用される制度が異なる。旅客と貨物を同じ車両で運ぶ貨客混載には、事業形態に応じた許可や安全管理などの条件があり、自治体や福祉事業者の車両についても、本来の事業目的や補助制度、運行管理などを確認する必要がある。

 また、食品配送では温度管理や衛生管理が求められるため、空いている車両を単純に使い回せばよいというものでもない。異なる事業者が共同配送を行う場合には、費用の分担、商品の管理、事故時の責任なども調整する必要がある。

 こうした制約を考えると、すべての車両を一つにまとめることよりも、配送拠点、配送計画、受発注、配送ルートなどを事業者間で共同化する方が、実現しやすい地域もあるだろう。

 人口減少が進む地域では、一つの事業だけで十分な需要を確保できなくても、複数のサービスが協力することで運営費を抑えられる可能性がある。ただし、共同化には調整費用も伴うため、どの地域でも必ず費用が下がるとは限らない。事業者ごとの費用と、地域全体で負担する費用を比較し、どの仕組みが最も持続可能かを検討する必要がある。

週7日いつでも買える社会から、曜日を決めて届く社会へ

 人口密度や配送需要密度が低い地域では、都市部と同じ頻度で商品を配送することが経済的に難しい場合がある。そのため、将来的には配送日を地区ごとに決め、複数の注文をまとめて届ける仕組みが広がる可能性もある。

 例えば、月曜日は第一地区、火曜日は第二地区、水曜日は第三地区というように配送地域を分けたり、住民が事前に注文した商品を週に数回まとめて届けたりする方法である。配送の回数を減らし、一定の利用者を同じ日に集約できれば、走行距離や人件費を抑えられる場合がある。

 しかし、配送回数を減らせば必ず採算が改善するわけではない。利用者が極端に少なければ、週2回にしても必要な費用を回収できない可能性がある。また、生鮮食品や冷蔵食品を扱う場合には、配送間隔が長くなることによる鮮度や保存の問題もある。

 高齢者の生活にも配慮が必要である。週に数回しか配送されない場合、食品をまとめて購入するための冷蔵庫や冷凍庫の容量、食品を保存・調理する能力、事前に代金を支払える経済的余裕などが必要になる。急な体調不良や買い忘れへの対応も考えなければならない。

 したがって、単純に配送回数を減らして費用を抑えることを目的にするのではなく、住民が必要とする最低限のサービス水準を維持しながら、配送頻度、費用、商品品質、利用料金を調整することが重要になる。

 毎日配送して赤字が膨らみ、最終的に事業が撤退するよりも、週に数回でも安定して配送できる仕組みの方が望ましい場合はある。ただし、その仕組みが成立するかどうかは、地域の人口構造と事業収支の両面から判断しなければならない。

 人口減少地域で目指すべきなのは、単に利便性を下げることではない。生活に必要なサービスの水準を確保しながら、その仕組みを長期的に維持することなのである。

買い物問題は福祉政策だけでは解決できない

 高齢者の買い物問題は、しばしば福祉の問題として取り上げられる。しかし、実際には商業政策、物流政策、公共交通政策、都市計画、住宅政策、社会保障政策など、多くの分野が関係している。

 スーパーの存続は商業政策、食品の配送は物流政策、店舗への移動は公共交通政策、高齢者の生活支援は福祉政策に関係する。さらに、住民がどこに暮らしているかという人口分布は、都市計画や住宅政策とも関係している。つまり、一人の高齢者が夕食の食材を買えるかどうかという問題の背後には、複数の社会システムが存在しているのである。

 そのため、自治体が高齢者向けの買い物支援事業を一つ始めただけでは、長期的な解決にならない可能性がある。移動販売を導入しても、道路や物流拠点が維持できなければ継続は難しい。バス路線を残しても、住民が店舗へ行ける時間帯に運行していなければ十分な効果は得られない。宅配サービスを提供しても、料金が高すぎれば利用できない人が残る。

 さらに、30年という時間で考えれば、現在の高齢者を支援するだけでは不十分である。2040年、2050年にどれだけの人が住み、どこに居住し、そのうち何人が自動車を運転できず、どの程度の食品配送需要が生じるのかを見通す必要がある。

 こうした検討には、公的な将来人口推計だけでなく、住民の買い物行動、食品販売店の分布、公共交通の利用状況、宅配・移動販売の利用実態などの地域データが必要になる。

 特に、行政の支援を長期的に続ける場合には、利用者一人当たりの公的負担額を把握することが重要である。民間事業者の赤字を補助することでサービスを維持する方法もあるが、人口減少によって補助額が増え続ければ、自治体の財政にも負担が及ぶ。そのため、事業費をどこまで抑えられるかだけでなく、生活上の効果に見合う支出であるかを検証する必要がある。

人口が減るほど、住民がどこに暮らすかが重要になる

 買い物問題を長期的に考えると、最終的には地域の人口分布という問題に行き着く。人口が減少しても、住宅が広い範囲に散らばったままであれば、道路、水道、電気、通信、医療、介護、公共交通、食品配送などのサービスを維持するための費用が、一人当たりでは大きくなる場合がある。

 例えば、1,000人が比較的狭い範囲に集中して住んでいる地域と、同じ1,000人が広い範囲に分散している地域では、食品配送の移動距離や公共交通の運行条件が異なる。ただし、実際の費用は居住範囲の広さだけで決まるわけではなく、地形や道路網、既存施設の配置、インフラの整備状況にも左右される。

 このような人口分布の問題に対して、生活サービスを地域の中心部に集約し、その周辺を交通や配送によって結ぶ方法が考えられる。すべての集落にスーパーを置くことは難しくても、食品、医療、行政、交通などの機能を持つ生活拠点を確保し、周辺集落から利用できるようにするという発想である。

 もっとも、住民が生活拠点の近くへ移り住めば、すべての問題が解決するわけではない。住居の移転には経済的負担が伴い、長年暮らしてきた地域や人間関係を離れることを望まない住民もいる。新たな住宅や交通施設を整備するための初期費用も必要であり、人口集約による維持費の削減効果と比較しなければならない。

 したがって、人口減少地域の将来を考える際には、居住を一律に集約するのではなく、地域の実情に応じて複数の方法を組み合わせる必要がある。生活拠点の近くに住む人には徒歩や公共交通を中心とした買い物環境を整え、周辺集落に住み続ける人には配送や移動販売などを提供する方法も考えられる。

 重要なのは、すべての住民に同じ方法を提供することではなく、居住地の違いによって食品へのアクセスが極端に不利にならないよう、地域全体の仕組みを設計することである。

御宿町・いすみ市・勝浦市・大多喜町では何を調べるべきか

 この問題を千葉県の外房地域や房総丘陵地域に当てはめる場合、自治体全体の人口だけでは十分な分析ができない。御宿町、いすみ市、勝浦市、大多喜町では、住宅の分布、地形、道路条件、駅や市街地からの距離、商業施設の配置が異なるため、同じ人口減少率でも買い物環境への影響は違ってくる可能性がある。

 例えば、住宅が比較的集中している地区と、山間部や丘陵部に住宅が分散している地区では、店舗までの距離だけでなく、配送効率や公共交通の利用条件も異なる。自治体全体の平均人口密度を比較するだけでは、こうした違いを十分に把握できない。

 必要なのは、地域ごとの将来人口を推計するだけでなく、食品を販売する店舗がどこにあり、その店舗まで自動車を使わずに移動できる住民が何人いるのかを把握することである。特に65歳以上だけでなく75歳以上の人口分布、単身世帯数、同居家族の状況、移動販売や宅配の利用可能性を調べることが重要になる。

 さらに、2040年、2050年の人口推計を用いて、買い物支援を必要とする住民の数と分布がどのように変化するかを試算することが考えられる。ただし、高齢者人口に一定の割合を掛けるだけでは正確な推計にならない。運転可能性、健康状態、家族の支援、店舗の立地などが将来変化することも考慮する必要がある。

 物流面では、実際の配送件数、配送先の分布、走行距離、所要時間、配送費用を把握し、利用者が減少した場合に一件当たりの費用がどう変わるかを検証する必要がある。さらに、共同配送や配送曜日の集約によって費用をどの程度減らせるか、行政の支援が必要であれば一人当たりの負担額はいくらになるかを試算することが望ましい。

 こうした分析によって、単に「この地域では人口が減るからスーパーがなくなる」と予測するのではなく、どの地区で、どのような条件が重なった場合に食品へのアクセスが難しくなるのかを具体的に検討できる。

 人口推計が示すのは、将来の住民の数と年齢構成であり、それだけで店舗の閉店時期や配送サービスの存続を予測できるわけではない。しかし、人口推計に店舗配置、交通網、配送需要、世帯構成などの情報を組み合わせれば、将来の買い物環境を検証するための基礎をつくることはできる。

30年後、高齢者は買い物を続けられるのか

 結論として、スーパーがなくなった地域でも、30年後に高齢者が買い物を続けることは不可能ではない。しかし、人口が減り続ける地域で、その仕組みが自然に維持されると考えることも適切ではない。

 人口減少によって地域の食品購入需要が縮小すれば、店舗の経営が難しくなる場合がある。店舗が撤退すれば、宅配や移動販売などの必要性が高まる可能性があるが、実際にそれらの利用者が十分に増えるとは限らない。配送先が分散し、利用件数が減少すれば、一件当たりの配送費用が増えることもある。

 さらに、高齢化が進んでも高齢者の実人数は減少する地域があり、支援を必要とする住民の割合が高まる一方で、サービスの利用者数は減るという状況も考えられる。自動車を運転できなくなる住民への対応に加え、公共交通の維持、食品価格や配送費用の負担、行政財政の持続可能性まで含めて検討する必要がある。

 一方、共同配送、地域物流拠点の整備、移動販売と見守りの連携、生活拠点と周辺集落を結ぶ交通網、配送技術の進歩などによって、人口減少の影響を緩和できる可能性もある。どの方法が適切かは地域によって異なり、将来の技術や制度も変化するため、一つの仕組みが全国の人口減少地域に共通する解決策になるとは限らない。

 重要なのは、スーパーという施設を維持することだけを目的にするのではなく、住民が必要な食品を継続的に入手できる機能を維持することである。そのためには、店舗、宅配、移動販売、公共交通、福祉を別々に考えるのではなく、地域全体の生活インフラとして検討する必要がある。

 人口減少社会では、すべての地域に現在と同じ利便性を残すことは難しいかもしれない。しかし、利便性を一律に削減するのではなく、住民の生活に必要なサービス水準を確保し、その費用をできるだけ効率的に負担する方法を考えることはできる。

 そして、将来の買い物問題を考えるうえで最も避けるべきなのは、スーパーが撤退し、住民の生活に支障が生じてから初めて代替手段を検討することである。

 人口減少が相当程度見込まれている地域であれば、店舗の撤退が現実になる前から、現在の商業施設の分布、住民の年齢構成、買い物行動、公共交通、配送体制を調べ、将来の需要を見通しておく必要がある。将来人口に不確実性があるとしても、それは何も準備しなくてよい理由にはならない。

 30年後の買い物問題は、30年後になってから考える問題ではない。2040年、2050年に誰が、どこに住み、どのような手段で食品を入手するのか。その姿を複数の条件で想定し、必要な費用と実現可能性を比較しながら、地域の商業と物流を再設計していくことが求められる。

 スーパーが一軒なくなることだけが、地方の買い物問題の本質ではない。人口が減っても、住民が必要な食品を購入し、受け取り続けられる地域を、どのような費用負担と仕組みで維持していくのか。それこそが、これからの地方に問われる課題なのである。

地域の課題を、自分の判断に置き換えて考える

弊社では、住まい・車・移住などの大きな選択を、 費用や将来条件をもとに数字で比較し、判断できる形に整理しています。

数字で比較するサービスを見る

 人口減少が進む地方では、鉄道、路線バス、水道、医療、介護など、生活を支えるさまざまなサービスの維持が課題になっている。そのなかで、普段はあまり意識されないものの、住民の生活に大きな影響を与えるのが郵便と宅配である。現在の日本では、都市部だけでなく山間部や海沿いの小さな集落でも、手紙や荷物を自宅で受け取ることができる。インターネット通販で商品を注文すれば、人口の少ない地域でも都市部と大きく変わらない感覚で宅配サービスを利用できる場合が多い。

 しかし、人口が減り続けても、この仕組みを現在と同じ条件で維持できるのだろうか。問題を考えるうえで重要なのは、単純な人口減少ではなく、配送しなければならない地域の広がりに対して、実際の配送先や荷物の数がどのように変化するかという関係である。人口が減っても道路の総延長が同じ割合で短くなるわけではなく、集落の端に残った住宅にも配送する必要がある。一方で、郵便物の電子化、宅配需要の変化、配送員の不足などが同時に進んでおり、地域物流の将来は人口の増減だけでは予測できなくなっている。

 国土交通省は以前から、過疎地域における配送効率の低下や物流サービスの持続可能性を政策課題として扱ってきた。2026年3月に閣議決定された「総合物流施策大綱(2026年度~2030年度)」でも、人口減少や物流人材の不足に対応するため、配送の効率化、事業者間の連携、受取方法の多様化などが重要な施策として位置づけられている。地方の郵便・宅配問題は、遠い将来に突然発生するものではなく、すでに制度や事業のあり方を見直す段階に入っている。

人口が半分になっても、配達区域は半分にならない

 地方物流の構造を理解するため、面積100平方キロメートル、人口1万人の地域を考えてみる。この地域で毎日1000個の郵便物や荷物を配達していたものが、30年後には人口5000人、配達物500個になったと仮定する。荷物の個数だけを見れば、配送需要は半分に減少したことになる。しかし、地域の面積は変わらず、道路も基本的には残っているため、配達に必要な走行距離や作業時間まで半分になるとは限らない。

 ここで注意したいのは、人口密度と配送先密度は必ずしも同じではないという点である。人口密度は地域の人口を面積で割ったものであり、面積が一定なら人口半減によって人口密度も半分になる。しかし、人口が減った理由が一世帯当たりの人数減少であれば、住宅の数や位置関係はほとんど変わらない可能性がある。反対に、住宅が点在する地域で空き家が増えれば、実際に荷物を届ける住宅の間隔が広がる場合もある。

 したがって、物流にとって重要なのは人口密度だけでなく、一定期間に荷物を届ける地点の密度と、その空間的な配置である。配送先が広い地域に分散しているのか、中心集落に集中しているのかによって、必要な走行距離は大きく変わる。人口が同じ5000人でも、まとまった住宅地に居住している地域と、山間部の複数の集落に分散している地域では、配達の効率が同じになるとは考えられない。

配送先が減ると、走行距離はどのように変わるのか

 配送先密度と距離の関係は、数理的にも説明できる。仮に配送先が平面上にほぼ均一かつ無作為に分布しているとすると、配送先間の代表的な距離は、配送先密度の平方根に反比例する。つまり、同じ面積で配送先の密度が半分になった場合、代表的な距離は理論上約1.41倍になる。この数値は、密度が半減したときの距離の変化を理解するための単純化されたモデルであり、実際の道路上で配達距離が必ず41%増えるという意味ではない。

 現実の配送経路は道路網、河川、山地、住宅の配置、配送拠点の位置などによって制約される。配送先が減れば、訪問する必要のなくなった道路を経路から外せる場合もあり、総走行距離そのものは短くなる可能性がある。ただし、配送個数の減少に比べて走行距離の減少が小さければ、一個当たりの配送距離は増加する。例えば、荷物が半分になっても走行距離が従来の8割にしか減らなければ、一個当たりの走行距離は従来の1.6倍になる。

 国土交通省が2014年に示した物流事業者の実績例では、荷物一個当たりのトラック走行距離は、過疎地域で約1.2キロメートル、都市部で約0.2キロメートルとなり、約6倍の差が確認されている。条件によっては最大約7倍となる場合も示されている。ただし、これは特定の事業者による当時の実績例であり、全国の過疎地域すべてに当てはまる現在の平均値ではない。それでも、人口や配送先が分散した地域では、一個の荷物を届けるための走行負担が大きくなり得ることを示している。

 都市部では、一つの集合住宅に複数の荷物を届けることができる。一方、人口密度の低い地域では、数キロメートル走って一軒に荷物を届け、さらに離れた住宅へ向かわなければならない場合がある。物流の効率を決めるのは荷物の総数だけではなく、荷物一個を届けるために必要な距離、時間、労働力、費用なのである。

郵便と宅配は同じ物流でも制度が違う

 郵便と宅配は、ともに手紙や荷物を届けるサービスとして利用されているが、制度上は明確な違いがある。宅配便は基本的に民間事業者が提供する商業サービスであり、運賃、配達日数、受取方法などは関係法令や運送約款、契約条件などに基づいて決められる。一方、郵便には、全国的に一定水準のサービスを提供するという公共的な役割があり、日本郵便は郵便法などの法制度に基づいて郵便サービスを提供している。

 日本には約2万4000の郵便局があり、そのネットワークが都市部から人口の少ない地域まで広がっている。郵便法では、郵便物の配達について原則として週5日以上の配達が可能であることや、通常の国内郵便物について原則4日以内に送達することなどを基準として定めている。ただし、休日などの日数の扱いや、地理的・交通上の条件による例外があり、すべての地域に同一の日数が無条件に適用されるわけではない。

 この制度的な違いは、将来の配送方法を考えるうえで重要になる。例えば、宅配便で配送日を集約する方式を導入することと、法定の郵便サービスの配達頻度を減らすことは同じではない。郵便の配達方法を法令上の基準より低い水準に変更するのであれば、必要な制度改正を伴う。さらに、日本郵便が提供しているゆうパックなどの荷物サービスについても、郵便法上の郵便物とすべて同じ義務が課されているわけではないため、サービスごとの整理が必要である。

 つまり、郵便には全国的なサービスを維持するための制度的な仕組みが存在するものの、そのことが現在と同じ料金、配達頻度、配達速度を将来にわたって無条件に保証するわけではない。郵便の公共性と、その公共サービスをどのような方法で持続させるかは、分けて考えなければならない問題である。

2026年の郵政制度改正が示す方向性

 郵便局ネットワークの維持を考えるうえでは、2026年の法制度改正も見逃せない。同年6月19日に郵政民営化法等の一部を改正する法律が成立し、6月25日に公布された。この改正では、郵政事業の経営を適正かつ効率的に行うことに加え、郵便局ネットワークを活用した地域住民の生活支援や、郵政事業のユニバーサルサービスの確保が重視されている。なお、施行時期は規定によって異なるため、成立・公布された内容のすべてが直ちに施行されたわけではない。

 改正法では、日本郵便が行う基盤的サービス提供業務や地域貢献業務の位置づけが見直され、地域貢献基金や郵便局ネットワークの維持・活用を支援する交付金の仕組みなども設けられた。郵便局を単なる手紙や荷物の取扱拠点ではなく、地域の生活を支える基盤として活用する方向性が、制度面でも明確になったといえる。

 もっとも、法制度による支援が整備されたからといって、地方物流の採算性が自動的に改善するわけではない。支援制度を活用しながら、どのような業務を郵便局が担い、どの部分を民間の宅配事業者や地域事業者が担うのかを具体的に設計する必要がある。また、郵便局の地域貢献機能が拡大することと、民間宅配便の玄関配達が法的に保障されることも別の問題である。

郵便物は減少しているが、宅配需要は異なる動きをしている

 日本郵便が2026年5月に公表した2025年度の郵便物・荷物の総引受物数は、約160億5332万通・個で、前年度から5.0%減少した。このうち郵便物は約117億5103万通で前年比6.5%減少している。請求書、通知書、企業間の書類、個人間の連絡などが電子化されるなかで、従来型の郵便需要は長期的に減少している。

 一方、同じ日本郵便の2025年度実績では、ゆうパックの取扱個数は前年比1.3%増加し、ゆうパケットも4.7%増加した。日本郵便の荷物全体では減少しているものの、荷物の種類によって動向が異なることが分かる。国土交通省の統計でも、2024年度の全国の宅配便取扱個数は50億3147万個に達している。ただし、この全国宅配便統計と日本郵便の総引受物数は集計対象が異なり、単純に足したり、同じ市場規模として比較したりすることはできない。

 宅配需要を支えている要因の一つが、インターネット通販の普及である。経済産業省の調査では、2024年の物販系の電子商取引市場は約15.2兆円に達している。電子商取引とは、インターネットなどを通じて商品やサービスを売買する取引を指す。こうした市場の拡大は、全国的な小口配送需要を支える一方、従来の郵便物とは異なる配送網への負荷を生み出している。

 地方にとって重要なのは、郵便物数の減少と宅配需要の変化を一括して扱わないことである。郵便物が減少する一方で通販による小口荷物が増えると、同じ配送網を利用していても、必要な車両、仕分け作業、荷物の積載方法、配達時間などが変わる。単純に郵便と荷物の合計個数だけを見ても、物流事業の負担を正確に評価できない。

人口が減っても宅配需要が同じ割合で減るとは限らない

 人口減少地域の宅配需要を予測する際には、地域人口と一人当たりの利用量を分けて考える必要がある。地域全体の宅配個数は、単純化すれば人口に一人当たりの年間宅配利用個数を掛けたものとして表せる。したがって、人口が半分になっても一人当たりの利用量が2倍になれば、地域全体の宅配個数は理論上維持される。

 例えば、人口1万人の地域で一人当たり年間50個の荷物を受け取るとすれば、地域全体では年間50万個となる。30年後に人口が5000人に減少しても、一人当たりの利用量が100個に増えれば、年間の荷物数は同じ50万個になる。一人当たり75個なら年間37万5000個となり、人口減少率50%に対して荷物数の減少率は25%にとどまる。これらは需要変化の仕組みを説明する仮定上の計算であり、将来の実績を予測したものではない。

 ただし、人口が減れば一人当たりの通販利用量が必ず増えるわけではない。高齢化によってインターネットを利用しにくい住民が増える可能性もあり、所得水準の低下や消費額の減少が宅配需要を抑える場合もある。一方、近隣店舗の撤退によって通販への依存度が高まったり、家族が離れて暮らす高齢者のために日用品を注文したりすることで、利用量が増える可能性もある。

 つまり、人口減少地域の将来の荷物数は、人口減少率だけでは決まらない。年齢構成、世帯構成、所得、店舗の立地、通販利用率、商品の購入頻度などを総合的に分析しなければ、物流需要を過大評価する可能性も過小評価する可能性もある。

店舗が減るほど、宅配の生活上の重要性は高まる

 人口減少地域では、宅配便は単に買い物を便利にするサービスではなく、生活に必要な商品を入手するための重要な手段になる可能性がある。地域にスーパーやホームセンターが存在する間は、自家用車や家族の送迎などを利用して買い物ができる住民も多い。しかし、人口減少や商圏の縮小によって店舗が撤退すれば、住民は遠方の店舗へ移動するか、移動販売や宅配などの代替手段を利用する必要がある。

 特に高齢者や運転免許を返納した人、身体的な理由で外出が難しい人にとって、食品、衛生用品、介護用品、衣類、日用品などを自宅で受け取れることの価値は大きい。処方薬についても、制度上の要件を満たした服薬指導や配送管理などを前提に、配送が利用される場合がある。商品によって必要な管理や制度上の条件は異なるものの、自宅への配送が生活を維持する重要な手段となる地域は今後増えるかもしれない。

 ここには、経済的な効率と社会的な必要性の間に緊張関係が生じる。配送先が分散している地域ほど物流事業者の費用負担が大きくなる可能性がある一方で、移動手段や買い物施設が限られる地域ほど、住民にとって自宅配送の価値が高くなる場合がある。ただし、人口密度の低いすべての地域で宅配の必要性が一律に高いわけではなく、実際の必要性は店舗の分布や公共交通、住民の生活条件によって変わる。

 そのため、宅配サービスを単純な採算性だけで評価することには限界がある。物流事業者の経営を持続させるという視点と、住民が生活必需品を確保できるようにするという視点を、同時に検討する必要がある。

物流を維持できるかは、一個当たりの配達原価で決まる

 地方物流の持続可能性を考えるには、荷物数や走行距離を個別に見るだけでは十分ではない。重要なのは、配送に必要な総費用を配達個数で割った一個当たりの配達原価と、その費用を運賃収入などによって回収できるかという関係である。配送費用には、配送員の人件費、車両費、燃料費、保険料、車両整備費、配送拠点の維持費、仕分け費用などが含まれる。

 例えば、ある配送区域で一日の配送関連費用が5万円、配達荷物が100個であれば、単純計算で一個当たり500円となる。荷物が50個に減少しても費用が4万円までしか減らなければ、一個当たりの原価は800円となり、60%上昇する。逆に、配送経路の再編や共同配送によって費用を大幅に削減できれば、荷物数が減少しても原価上昇を抑えられる可能性がある。

 また、配送効率は複数の指標に分けて評価する必要がある。配送員の労働生産性を見るのであれば、一時間当たりに何個配達できたかが重要になる。車両の走行効率を見るのであれば、一キロメートル当たりに何個配達できたかが有効である。一方、事業の採算性を考えるには、一個当たりの配達原価、平均収入、必要な設備投資などを比較しなければならない。

 こうした指標は互いに関係しているものの、同じものではない。走行距離が短くても荷物の受け渡しに長い時間を要すれば労働生産性は低下する可能性があり、一日の配達個数が増えても追加の人件費や仕分け費用が大きければ利益が増えるとは限らない。人口減少地域の物流を評価する場合には、配送量だけでなく、費用と収入の構造まで把握することが必要になる。

最大の制約は配送員の確保になる可能性がある

 物流業界では、燃料価格、車両費、施設費などの上昇に加え、配送業務を担う人材の確保が大きな経営課題となっている。2024年からトラック運転者の時間外労働規制が強化されたことも、物流の効率化を進める背景の一つである。労働時間の制約を踏まえながら必要な輸送量を確保するには、荷待ち時間の削減、積載効率の向上、輸配送の共同化などを進める必要がある。

 かつて政府の資料では、十分な対策が講じられなければ2030年度に約34%の輸送能力が不足する可能性が示されていた。ただし、この数字は無対策に近い条件を置いた推計であり、2030年に荷物の34%が必ず届かなくなることを意味しない。2026年の総合物流施策大綱では、2024年度に想定されていた約14%の輸送能力不足について、官民の対策などによっておおむね克服したと整理している。一方で、2030年度に向けた供給制約は引き続き課題とされており、対応の継続が必要な状況にある。

 また、この34%という数値は国内物流全体に関する推計であり、人口減少地域の宅配便だけを対象とした不足率ではない。地方の配送問題を分析する際には、全国的な物流の人手不足と、個別地域での配達員の確保状況を区別する必要がある。

 人口減少地域では、荷物を受け取る住民だけでなく、配送員として働くことのできる生産年齢人口も減少する可能性がある。そのため、荷物が減るから配送員も同じ割合で減らせばよいという単純な関係にはならない。配達先が広い範囲に残る場合には、一定の人員や車両が必要であり、少人数化によって一人当たりの担当区域が広がれば、作業時間や移動負担が増大するおそれがある。

 将来の地方物流では、荷物をどれだけ集められるかだけでなく、誰が運ぶのか、何人で運ぶのか、どのような勤務条件で運ぶのかという問題が、配送網の維持可能性を左右することになる。

再配達率は地方の方が低い。それでも負担は残る

 宅配便の配送効率を考えるうえで、再配達は無視できない問題である。国土交通省が2026年7月に公表した調査では、同年4月の全国の再配達率は約7.6%で、2025年10月の約8.3%から低下している。宅配ボックス、置き配、受取日時の変更など、さまざまな受取方法が利用されるようになったことも、再配達を減らすための重要な取り組みである。

 ただし、再配達については意外な統計結果がある。同じ2026年4月の調査では、都市部の再配達率が8.5%、都市部近郊が7.2%、地方が6.0%となっており、地方の方が都市部より低い。この結果は、地方ほど不在による再配達が多いという単純な見方が適切ではないことを示している。ただし、これは大手宅配関連事業者を対象としたサンプル調査であり、すべての過疎集落の状況を表すものではない。

 一方で、再配達率が低いことと、再配達による費用負担が小さいことは別の問題である。都市部では不在だった住宅の近くに別の配送先が多数存在する場合があるが、人口密度の低い地域では、一軒の再配達のために長い距離を移動しなければならないこともある。仮に再配達一件ごとに独立した往復6キロメートルの追加走行が必要で、一日に10件発生すれば、追加走行は合計60キロメートルとなる。ただし、実際には複数の再配達先をまとめて回ることができるため、この計算は負担の大きさを示す仮定上の例にすぎない。

 重要なのは再配達率という割合だけでなく、再配達によって追加された走行距離、作業時間、人件費などを把握することである。地方では再配達率が低くても、一件当たりの追加費用が高ければ、全体として無視できない負担になる可能性がある。

複数の宅配会社が同じ地域を回る仕組みは合理的なのか

 現在の宅配便では、複数の事業者がそれぞれの配送網を持ち、同じ地域に別々の車両で荷物を届けている。都市部では各社の荷物量が多いため、それぞれ独立した配送網を維持する合理性がある。しかし、人口が少なく配送需要も小さい地域では、複数の配送会社がそれぞれ少数の荷物を持って同じ集落を回ることが、地域全体として非効率になる場合がある。

 例えば、三つの配送会社が同じ日に同じ集落へ荷物を届ける場合、それぞれが長いアクセス道路を走行する必要がある。このような地域では、各社が荷物を共同拠点まで運び、そこから先を一つの事業者がまとめて配送する共同配送方式によって、走行距離や配送員の負担を削減できる可能性がある。国土交通省も過疎地域の物流サービスを維持するため、以前から事業者間の連携や共同配送などを検討してきた。

 ただし、共同配送には新たな費用も発生する。荷物を集約するための仕分け施設、情報システム、事業者間の受け渡し、配達状況の管理、事故や紛失が発生した場合の責任分担などを整備しなければならない。共同配送によって削減できる走行費用や人件費が、こうした追加費用を上回らなければ、経済的な効果は得られない。

 また、利用者にとっては、荷物の追跡、日時指定、配達品質、問い合わせ対応などが従来と同程度に維持されることも重要になる。将来、どの宅配会社から発送された荷物でも最後に届ける車両は同じという地域が増える可能性はあるが、実際に合理的かどうかは、配送個数、道路網、集落の配置、情報連携に必要な費用などを比較して判断する必要がある。

地域の共同受取拠点は有効だが、住民の移動負担も考える必要がある

 人口減少がさらに進んだ地域では、すべての荷物を毎回玄関まで届ける方法に加え、共同受取拠点を活用する方法も考えられる。例えば、郵便局、スーパー、コンビニエンスストア、道の駅、公民館などを受取場所として利用し、複数の住民の荷物をまとめて届ける仕組みである。利用者が自分で受け取りに行ける場合は拠点を利用し、外出が難しい人には自宅配送を継続するという組み合わせも考えられる。

 ただし、配送事業者の走行距離が短くなったとしても、それだけで地域全体の負担が減るとは限らない。住民が荷物を受け取るために自家用車で長距離を移動する必要があれば、配送事業者から住民へ移動負担を移しただけになる可能性がある。特に、運転免許を持たない高齢者や移動困難者にとっては、共同受取拠点が設置されても利用できない場合がある。

 したがって、共同受取拠点の合理性を判断する際には、配送事業者の費用だけでなく、住民の移動距離、移動時間、交通費、利用可能な交通手段なども含めて評価する必要がある。例えば、日常的に買い物へ訪れるスーパーや、通院時に利用する施設に受取拠点があれば、追加の移動負担を小さくできる可能性がある。一方、生活動線から外れた場所に受取拠点を設置しても、十分に利用されないおそれがある。

 人口減少地域で重要なのは、すべての住民を同じ配送方法に統一することではなく、生活条件に応じて複数の受取方法を選べる仕組みを構築することである。

配送日をまとめる方法には効果と制約がある

 人口密度の低い地域では、荷物を毎日少量ずつ配達するより、配送日を集約して一度に多くの荷物を届けた方が、走行効率を改善できる場合がある。例えば、一日に50個ずつ配送していた荷物を二日分まとめて100個配送できれば、同じ区域への走行回数を減らせる可能性がある。ただし、この方法が必ず費用削減につながるわけではない。

 配送日を集約すれば、荷物を一時的に保管するスペースや管理作業が必要になるほか、一日の荷物量が増えて仕分けや配達に時間がかかる場合もある。冷蔵品、食品、医療に関係する物資、配達期限のある商品などは、配送を遅らせることが難しい。さらに、通常の郵便物には法令上の配達頻度や送達日数の基準が存在するため、民間宅配便と同じ考え方で一律に配送日を減らすことはできない。

 そのため、配送日の集約は地域のすべての荷物に適用するのではなく、急ぐ必要のない商品や、利用者が余裕のある配達日を選択した荷物などを対象として検討することが現実的である。配送サービスの効率化は、単に配達回数を減らすことではなく、住民が必要とするサービス水準をどこまで維持できるかと組み合わせて考える必要がある。

ドローンが地方物流の問題をすべて解決するわけではない

 人口減少地域の物流問題では、ドローンによる配送が解決策として取り上げられることがある。確かに、道路の移動距離が長い山間部や離島、交通条件の悪い地域などでは、空路によって小型の荷物を運ぶことが有効になる場合がある。国土交通省も物流の効率化策の一つとしてドローンの活用を進めており、技術的な開発や実証事業が行われてきた。

 しかし、ドローンが一般的な配送車両を全面的に代替すると考えるのは現実的ではない。積載できる重量や大きさ、飛行距離、悪天候への対応、離着陸地点の確保、安全管理、運航コストなどに制約がある。特に、多数の荷物を連続して配達する場合には、一回の運航で運べる荷物量が限られることが問題になる。

 また、技術的に配送できることと、事業として採算が取れることは別である。機体の購入費や整備費、運航管理、保険、安全対策などを含めた費用を評価しなければ、通常の車両配送より経済的かどうかは判断できない。ドローンは、すべての地域で一律に利用する技術というより、道路条件や輸送する物資の性質によって選択される補完的な手段と考える方が適切である。

 将来の地方物流では、トラック、軽貨物車、共同配送、受取拠点、宅配ボックス、置き配、場合によってはドローンなどを組み合わせる方式が現実的な選択肢となる。重要なのは新しい技術を導入すること自体ではなく、それによって必要な物流を持続可能な費用と労働力で提供できるかどうかである。

郵便・宅配を地域の生活支援と組み合わせられるか

 人口減少地域では、郵便や宅配とは別に、移動販売、買い物支援、高齢者の見守り、生活用品の配達などが行われている場合がある。これらのサービスは目的や制度が異なるものの、同じ地域の道路を利用し、同じ住民の自宅を訪問していることも考えられる。そのため、一部の業務を連携させることで、地域全体の移動や配送に必要な負担を軽減できる可能性がある。

 例えば、地域の配送事業者が買い物支援事業者と荷物の受け渡しを連携させたり、郵便局が生活に必要なサービスの窓口として機能したりする方法が考えられる。2026年の郵政制度改正によって郵便局の地域貢献が重視されたことも、こうした方向性を検討する制度的な背景となっている。

 ただし、異なる業務を統合すれば必ず効率化するとは限らない。配達員に見守りや生活支援の役割を追加する場合には、必要な研修、個人情報の保護、事故時の責任、業務時間、報酬などを明確にする必要がある。医療や介護に関係する業務であれば、資格や専門性に関する制度上の制約も生じる。単純に一人の配送員へ多くの業務を追加すればよいという問題ではない。

 地域物流と生活支援の連携を考える際には、事業者ごとの採算性だけではなく、地域全体でどの程度の費用や移動時間を削減できるのか、住民の生活にどのような改善があるのかを比較する必要がある。

地方物流の維持可能性は、市町村の人口だけでは判断できない

 地方政策では、市町村の総人口や人口減少率が重要な指標として利用される。しかし、郵便や宅配の効率を考える場合には、市町村全体の人口密度だけでは十分な情報を得られない。人口1万人が10平方キロメートルの範囲に集中している地域と、300平方キロメートルに分散している地域では、物流事業者が必要とする走行距離や配送時間が大きく異なる可能性がある。

 さらに、同じ人口密度でも、幹線道路沿いに集落が連続している地域と、山間部に小規模な集落が点在している地域では配送条件が異なる。人口が減少しても中心集落への居住集中が進めば、一部の配送区域では効率が改善する可能性がある。一方、人口減少率が比較的小さくても住宅が広範囲に分散していれば、配送原価が高くなる場合がある。

 したがって、将来の地方物流を予測するためには、人口減少率だけでなく、世帯数、住宅の配置、集落の分布、道路網、配送拠点までの距離、年齢構成、宅配便の利用量、商業店舗の分布などを重ねて分析する必要がある。加えて、配達員の確保状況や配送事業者の営業体制も、物流網の維持可能性を左右する重要な要因となる。

 例えば、千葉県の御宿町、いすみ市、勝浦市、大多喜町を考える場合でも、市町村ごとの人口密度を比較するだけでは、配送効率の違いを十分に説明できない。海岸沿いの住宅地、駅周辺の市街地、農村集落、内陸の山間部では、住宅の配置や道路条件、物流拠点へのアクセスが異なるためである。

 より実証的な分析を行うのであれば、国勢調査の小地域別人口・世帯数、将来人口推計、道路網、店舗分布、郵便局などの物流拠点の位置を組み合わせる必要がある。さらに、物流事業者の協力によって実際の配達個数、走行距離、配送時間などを把握できれば、地域ごとの配送原価や効率化の余地を推計しやすくなる。ただし、実測値が得られない場合には、推定モデルの仮定と不確実性を明示することが欠かせない。

30年後に問題となるのは、荷物が届くかではなくサービス水準である

 人口減少地域の郵便・宅配を考えるとき、将来も荷物が届くのかという問いだけでは不十分である。より現実的に問題となるのは、現在と同じ料金、同じ配達日数、同じ配達頻度、同じ受取方法でサービスを利用できるかという点である。

 物流事業者は、配送原価の上昇に対して、運賃の見直し、配送の効率化、共同配送、受取方法の変更などによって対応することが考えられる。しかし、その方法は事業者やサービスの種類によって異なり、郵便については法制度との整合性も必要になる。すべての配送サービスが現在と同じ条件で維持されると考えることも、人口が減少すれば必ず自宅配送がなくなると考えることも、根拠が十分ではない。

 重要なのは、配送サービスの水準を変更した場合に、事業者と住民の双方にどのような影響が生じるかを検討することである。配達日数を延ばすことで費用を削減できても、生活必需品の受け取りに支障が生じるのであれば、別の配送方法や支援制度を組み合わせる必要がある。反対に、急ぐ必要のない荷物について利用者が配送日や受取場所を柔軟に選べるようになれば、サービスの利便性を大きく損なわずに配送効率を改善できる可能性がある。

 地方物流の将来は、現在のサービスをすべて維持するか、廃止するかという二者択一ではない。必要なサービスの範囲を明確にしたうえで、どの部分を共同化し、どの部分を個別配送として残し、どの程度の費用を事業者や利用者、必要に応じて社会全体で負担するのかを検討することが求められる。

人口減少社会では、物流の仕組みを地域ごとに設計する必要がある

 郵便と宅配は、今後も地域社会にとって重要な生活基盤であり続けると考えられる。特に、買い物施設や移動手段が限られる地域では、自宅へ商品を届ける仕組みが生活を支えるうえで大きな役割を果たす可能性がある。しかし、その重要性が高いことと、現在の配送方法をそのまま維持できることは同じではない。

 人口減少によって配送先が減り、住宅が広い地域に分散したままであれば、一個当たりの配送費用は上昇する可能性がある。一方、共同配送や受取拠点の活用、一人当たり宅配需要の増加、住宅の集約などによって、費用上昇を抑えられる場合もある。つまり、人口減少そのものが物流網の衰退を一方的に決定するわけではなく、地域の空間構造や配送方法、需要の変化によって将来の姿は異なる。

 制度面でも、郵便のユニバーサルサービスを維持するための仕組みと、民間宅配便の持続可能性を確保する方法は区別する必要がある。2026年の郵政制度改正や総合物流施策大綱は、人口減少社会のなかで郵便局ネットワークや物流機能を維持することが、国の政策課題であることを示している。しかし、制度的な支援があることだけで問題が解決するわけではなく、実際の費用対効果や住民の必要性を地域ごとに検証することが不可欠である。

 人口が減っても道路の距離が同じ割合で短くなるわけではない。一方で、配送先の分布や需要の変化に応じて、配達経路を見直すことはできる。将来の地方物流に必要なのは、人口が多かった時代の配送網を単純に縮小することではなく、残された需要と労働力、地域の道路条件、住民の生活上の必要性を踏まえて、配送の仕組みそのものを再設計することである。

 30年後も郵便や宅配が地域社会に残る可能性は十分にある。しかし、同じ事業者が、同じ人数で、同じ頻度と料金体系を維持しながら、すべての住宅に現在と同じ方法で届け続けられるとは限らない。

 人口減少社会で問われるのは、郵便や宅配を残すか、なくすかではない。人口密度や配送先密度が低下する地域でも、住民に必要な物流を、どのような費用負担と配送方法によって維持できるのかという問題である。

 物流の将来は、配送会社だけでなく、地方自治体、地域の事業者、そしてサービスを利用する住民にも関わっている。スーパーや商店が減少し、自家用車を利用できない住民が増える地域では、物流網そのものが生活を維持する重要な基盤になる可能性がある。だからこそ、人口が何人減るかという数字だけではなく、残された住民がどこに暮らし、どのような物資を必要とし、それを誰がどのように届けるのかを具体的に考える必要がある。

 人口が減少しても、必要な物流を持続可能な形で支えられる地域をつくれるか。そのための設計と選択が、これからの地方社会に求められている。

地域の課題を、自分の判断に置き換えて考える

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数字で比較するサービスを見る

 地方のスーパーが閉店すると、「ネットスーパーを利用すればよい」「移動販売が来ればよい」「車で隣町まで行けばよい」と考えられがちです。しかし、実際の生活における「買い物」は、単に食品を販売する店がどこかに存在していれば成立するものではありません。

 食料品や日用品を継続的に購入するためには、店舗や販売場所まで移動できること、必要な商品を選べること、価格を負担できること、購入した商品を自宅まで運べること、注文や支払いができること、そして必要な曜日や時間に商品を入手できることなど、複数の条件がそろう必要があります。スーパーが一軒なくなったとしても、別の方法によってこれらの条件を満たせれば生活を維持できますが、反対に、ネットスーパーや移動販売といったサービスが地域に存在していても、配達区域、巡回曜日、商品数、送料、最低注文額、予約方法、支払方法などが住民の生活条件に合わなければ、「実際に買い物できる地域」とは言い切れません。

 この記事では、御宿町、勝浦市、いすみ市など外房地域を中心に、スーパーが減少・撤退した場合の買い物を、移動販売、宅配、公共交通、自家用車、家族送迎などに分解し、生活者の立場から考えます。

最初に結論~問題は「スーパーがあるか」だけではない

 人口減少地域でスーパーが減ったとしても、買い物を続ける方法そのものがなくなるとは限りません。しかし、一つの代替手段だけでスーパーが担っていた機能を完全に置き換えることは難しいと考える方が現実的です。移動販売には、自宅近くまで販売車が来るため移動負担が小さく、商品を実際に見ながら選べるという利点があります。宅配には、米や飲料など重い商品を自宅まで運んでもらえる利点があり、公共交通があれば店舗まで移動でき、自家用車であれば時間、購入量、店舗選択の自由度が高くなります。

 一方、それぞれに弱点があります。移動販売には曜日や品ぞろえの制約があり、宅配には配送区域や料金、注文方法の制約があります。公共交通には待ち時間や運行時間帯の問題があり、自家用車は運転できることを前提とします。したがって人口減少地域で重要なのは、「スーパーを一軒残せるか」だけではなく、住民が複数の方法を組み合わせながら、生鮮食品や日用品を継続的に入手できる仕組みを維持できるかという問題です。

 買い物環境は、単純な足し算の数式で評価できるものではありません。例えば店舗へ行けても価格を負担できなければ購入できず、宅配サービスがあっても注文方法を利用できなければ使えません。そのため、移動可能性、商品入手可能性、価格負担可能性、運搬可能性、注文・支払可能性、曜日・時間の利用可能性といった複数の条件を確認し、その中に重大な弱点がないかを見る方が実態に近いと考えられます。

外房では「自動車を使えるか」が大きな分岐点になる

 外房の買い物問題を考えるうえで、特に重要なのが自動車です。千葉県が高齢者について整理した資料では、地方部で日常の買い物に「自動車・バイクを自分で運転する」と回答した割合は59.9%、「家族・近所の車に同乗、送迎」は19.7%でした。ただし、この二つを単純に足して「約8割が自動車を利用している」とすることはできません。調査は複数の移動手段を回答できる形式であり、同じ人が自分で運転する場合と家族に送迎してもらう場合の両方を回答している可能性があるためです。

 それでも、自ら自動車・バイクを運転するという回答が約6割に達し、家族などによる送迎も一定割合存在することから、千葉県地方部の買い物が自動車に強く支えられていることは読み取れます。一方、同じ資料ではバス3.4%、電車1.4%となっており、公共交通だけで日常の買い物を支えている人は比較的少数です。

 農林水産政策研究所の研究でも、食料品店までの距離が長くなるほど買い物に不便や苦労を感じる人が増える一方、自分で自動車を運転できることは、その不便を大きく軽減する要因となることが示されています。国が用いる「食料品アクセス困難人口」の考え方でも、単純な店舗距離だけではなく、自動車を利用できるかどうかが重要な条件として扱われています。つまり地方の買い物問題では、「スーパーまで何キロメートルあるか」だけではなく、「その人がそこまで自力で移動できるか」が大きな意味を持ちます。

 現在は問題なく10キロメートル先のスーパーへ行ける人でも、免許返納、病気、視力や身体機能の低下などによって運転できなくなれば、同じ家に住み続けていても買い物環境は突然変化します。そのため、自動車を所有していることと、将来にわたって買い物に困らないことは同じではありません。

外房では高齢化を無視できない

 この問題が外房で特に重要なのは、人口減少だけではなく高齢化が同時に進んでいるためです。千葉県の2026年4月1日現在の年齢別人口資料によると、市町村別平均年齢は御宿町が62.1歳で県内最高となっており、勝浦市も58.6歳と高い水準にあります。前年の2025年には御宿町61.1歳、勝浦市58.2歳だったため、高齢化は現在も進行しています。

 御宿町の2026年7月31日現在の人口は6,609人、3,631世帯、勝浦市は2026年6月末現在で人口14,678人、7,976世帯となっています。人口規模そのものが大きくないうえ、高齢者の比率が高いことは、将来の買い物環境を考える際の重要な条件です。

 さらに、国立社会保障・人口問題研究所の2023年推計では、2020年から2050年にかけて、勝浦市の人口は16,927人から8,815人、いすみ市は35,544人から20,218人、御宿町は6,874人から4,381人へ減少すると推計されています。これは2020年国勢調査を基準にした将来推計であり、将来の実績値を確定するものではありませんが、人口規模が大きく縮小する可能性を示しています。減少率にすると、おおむね勝浦市48%、いすみ市43%、御宿町36%の減少です。

 人口が減れば地域全体の食料品需要や小売売上も縮小する可能性が高く、店舗経営にとって商圏人口の縮小は厳しい条件になります。ただし、「人口が減るから買い物問題も自然に小さくなる」と考えることはできません。地域全体の需要は減少しても、そこに住み続ける一人一人には引き続き食料が必要です。むしろ人口密度が下がるほど、店舗、販売車、配送車、公共交通などが一人の利用者を支えるために移動しなければならない距離が長くなり、一人当たりの供給コストが高くなる可能性があります。ここに人口減少地域特有の難しさがあり、利用者は減る一方、残った住民にサービスを届けるための距離や時間は必ずしも減りません。

移動販売は有力だが万能ではない

 スーパー撤退後の買い物手段として重要なのが移動販売です。いすみ市では、日常生活に必要な食料品や日用雑貨の購入が難しい住民を対象とした買い物支援が行われています。2024年6月から千葉薬品の「ヤックス移動販売スーパーらくちん便」が月曜日から金曜日まで市内を巡回し、さらに2025年7月から「とくし丸」も週5日、市内を巡回しています。

 移動販売の大きな特徴は、人が店舗へ移動するのではなく、商品を積んだ販売車が住民の近くまで来ることです。身体的な移動が難しくなった高齢者にとって、この仕組みは大きな意味を持ち、実際の商品を見ながら選べることも、インターネット通販にはない利点です。

 一方、移動販売車に積載できる商品数には限界があり、大型スーパーと同じ品ぞろえを再現することは難しく、毎日好きな時間に購入できるわけでもありません。利用者は巡回曜日や時間に生活を合わせる必要があります。さらに重要なのが事業の持続性です。いすみ市では以前からNPO(Non-Profit Organization・非営利組織)による移動販売が行われていましたが、市の過去の計画資料では、利用者の減少によって週5日5コースから週4日4コースへ変更された経緯が記録されています。

 この事例から直接分かるのは、利用者が減少すると運行規模そのものが縮小する場合があるということです。一般に移動販売では、人件費、燃料費、車両費、商品管理費などが必要になるため、住宅が広範囲に分散し、一か所当たりの利用人数や購入額が小さくなるほど採算条件は厳しくなります。つまり、「必要としている人がいる」ことと、「民間事業として長期的に維持できる」ことは別の問題です。

「移動スーパーが来れば解決」とは限らない

 例えば移動販売車が週1回来る地域を考えると、米、調味料、野菜、肉、魚、牛乳、パン、日用品などを計画的に購入できれば、日常生活のかなりの部分を補うことができます。しかし、急に必要になった食品、買い忘れた商品、大量購入したい商品、特定のメーカーや規格の商品など、すべてを移動販売だけで確保できるとは限りません。

 そのため現実には、移動販売に加えて、コンビニエンスストア、ドラッグストア、宅配、家族送迎などを組み合わせることになります。重要なのは、「移動販売車が来ているか」という一点ではなく、一週間あるいは一か月の生活に必要な食料・日用品を、無理のない負担で継続して調達できるかという視点です。

宅配は「商品を家まで運ぶ」点で強い

 宅配の大きな利点は、購入した商品を自宅まで運んでもらえることです。特に米、飲料、調味料など重量のある商品では効果が大きく、高齢者や身体機能が低下した住民にとって重要な手段になります。

 千葉県が茂原市で過去に実施した買い物弱者対策の実証事業では、利用者アンケート回答者のうち70歳代以上が63%を占めていました。この事業自体も、自家用車を持たない人や、重い商品を持ち帰ることが難しい高齢者などを主な対象として行われたものです。実際のアンケートでは、宅配を利用する理由として「無料で配達してくれるから」が45%、「自宅が遠いから」が32%、「買い物に行けないから」が16%、「買物商品が多くなったから」が13%などとなっていました。この結果からも、宅配は単なる利便サービスではなく、店舗までの距離や商品の運搬負担を補う機能を持っていることが分かります。

 ただし、宅配にも配達区域、最低注文額、送料、注文締切、配達曜日、支払方法、電話注文の可否などの条件があります。そのため、宅配サービスが地域に存在することと、すべての住民が実際に利用できることは同じではありません。

ネットスーパーだけでは解決しない

 人口減少地域の買い物問題では、「インターネットで注文すればよい」という意見もあります。ネットスーパーやインターネット通販は今後さらに重要な手段になると考えられますが、それだけですべての住民の問題を解決できるわけではありません。利用するためには、まず自宅が配送対象区域に入っている必要があり、そのうえで、インターネットを利用でき、端末を操作し、商品を画面から選択し、会員登録や認証を行い、支払いを済ませ、商品を受け取る必要があります。

 総務省の通信利用に関する統計では、インターネットを利用した「商品・サービスの購入・取引」の割合は、70~74歳で41.1%、75~79歳で27.6%、80歳以上では20.4%となっています。年齢が上がるほど利用割合は低くなっています。しかも、インターネットを利用できることと、ネットスーパーで商品の検索、注文、認証、決済までを一人で安定して行えることは同じではありません。会員登録、パスワード管理、クレジットカードや電子決済、画面上の商品選択などが利用上の障壁になる人もいます。

 さらに人口密度が低い地域ほど、一件の注文を届けるための移動距離が長くなりやすくなります。人口減少地域では「店舗へ行きにくいから宅配が必要になる」一方、「注文が少なく住宅が分散しているため宅配の採算が悪化する」という矛盾が生じます。

公共交通でスーパーへ行く方法

 もう一つの方法は、商品を住民へ届けるのではなく、人を店舗へ運ぶことです。いすみ市では市民乗合タクシーが運行されています。2026年9月時点の制度でも、事前予約によって運行区域内の自宅などから目的地まで移動でき、料金は大人一人1回300円です。月曜日から金曜日まで運行し、複数の予約が入った場合には乗り合わせとなります。

 勝浦市でもデマンドタクシーが運行されており、商業施設、医療機関、金融機関などへの移動手段として利用されています。また御宿町では、勝浦市のデマンドタクシーを御宿町内の共通乗降場所まで乗り入れる仕組みが導入され、勝浦市側の商業施設や医療機関などへ移動できる範囲が広がっています。

 この方向性は重要ですが、公共交通が存在することと、買い物手段として十分実用的であることは別に考える必要があります。自宅から乗車し、スーパーへ行き、買い物をし、帰りの便を待って帰宅するまでには一定の時間がかかります。自家用車なら30分から1時間程度で済む買い物が、予約、乗り合わせ、待ち時間などを含めると数時間になる場合も考えられます。そのため公共交通を評価するときには、「スーパーまで行けるか」だけではなく、予約のしやすさ、運行曜日、待ち時間、所要時間、運賃、帰宅までの時間を含めて考える必要があります。

買い物では「運べる量」も重要

 公共交通による買い物で見落とされやすいのが、購入後の商品を自宅まで運ぶ問題です。例えば、米5キログラム、牛乳、ペットボトル飲料、野菜、肉、魚、トイレットペーパーなどを一度に購入すれば、重量も容積も相当なものになります。健康な人が自家用車で買い物をする場合には大きな問題にならなくても、高齢者が鉄道やバスを利用し、それを自宅まで持ち帰るとなれば負担は大きくなります。

 つまり交通政策では、「人が店舗へ到達できるか」と「購入した商品を自宅へ持ち帰れるか」という二つの問題を分けて考える必要があります。この意味で、人を商品まで運ぶ仕組みと、商品を人まで運ぶ仕組みには、それぞれ異なる役割があります。

コンビニエンスストアやドラッグストアはスーパーの代わりになるのか

 スーパーがなくなった地域でも、コンビニエンスストアやドラッグストアが残っていれば、一定量の食品や日用品を購入できます。近年は食品販売を強化するドラッグストアも増えています。しかし、スーパー、コンビニエンスストア、ドラッグストアでは、商品構成や価格体系が異なり、弁当、飲料、菓子、冷凍食品、加工食品などを確保できても、鮮魚、精肉、野菜などの生鮮食品を幅広く選べるとは限りません。

 また、同じ食品であっても容量、価格、品種、特売の有無などが異なるため、「食品を販売している店舗がある」というだけで、従来と同じ食生活を維持できるとは限りません。重要なのは店舗数そのものではなく、住民が必要とする食品群を、継続的かつ負担可能な価格で取得できるかです。

家族送迎は「無料」ではない

 地方では、高齢の親を家族が車でスーパーへ連れて行くことも珍しくありません。家族送迎は行政の公共交通支出として表面化しないため、低コストの方法に見えることがあります。しかし実際には、家族の時間、ガソリン代、車両維持費、待ち時間、仕事や家事の調整といった負担が生じています。

 例えば、高齢の親を週1回スーパーへ連れて行き、往復と買い物で2時間かかるとすると、年間では2時間×52週で104時間になります。これは単純計算ですが、8時間を1日とすれば13日分に相当します。したがって、「行政支出が発生していないこと」と「社会的費用が存在しないこと」は同じではなく、高齢者本人の負担だけでなく、家族が無償で負担している時間や移動コストまで含めて考える必要があります。

最も弱いのは「単一手段依存」の地域

 買い物環境を考えるうえで危険なのは、一つの方法だけに依存することです。例えば、自動車だけに依存している地域では、免許返納や病気によって運転できなくなると生活条件が急変します。移動販売だけなら、事業者の撤退や運休日に影響を受けます。家族送迎だけなら、家族の転居や就労状況の変化によって利用できなくなる可能性があります。ネットスーパーだけなら、配送区域の変更やデジタル利用能力の問題が生じます。

 一方で、移動販売、宅配、近隣店舗、デマンド交通、家族送迎など複数の方法が存在すれば、一つの手段が使えなくなっても他の方法で補える可能性があります。これは地域の買い物環境に「冗長性」を持たせるという考え方であり、冗長性とは、一つの手段が失われても、別の手段によって生活機能を維持できる状態を意味します。

国の政策も「店舗の有無」から「食品アクセス」へ広がっている

 買い物問題を店舗数だけで考えないという方向は、国の政策とも一致しています。2024年に改正された食料・農業・農村基本法では、「食料の円滑な入手の確保」が政策上の重要事項として位置付けられました。地理的条件や経済的条件などによって食料を入手しにくい人が生じないよう、国や地方公共団体、食品事業者などが必要な施策を進める考え方です。

 農林水産省も現在、食品へのアクセスを、単に店舗までの距離という物理的条件だけでなく、経済的な問題を含めて捉えています。全国の市町村を対象とした調査でも、約9割の自治体が食品アクセス対策について「必要」または「ある程度必要」と回答しています。つまり、「スーパーがあるか」ではなく、「住民が実際に必要な食品を入手できるか」という視点は、外房だけの特殊な問題ではなく、全国的な政策課題になっています。

30年後に重要なのは「店舗数」より買い物機能

 今後30年間の外房を考える場合、「スーパーを何店舗残すか」という発想だけでは十分ではないでしょう。人口が大きく減少する地域では、すべての店舗を現在と同じ規模、同じ営業形態で維持することが難しくなる可能性があります。

 その場合には、大型店舗、地域拠点店舗、小型店舗、移動販売、宅配、コンビニエンスストア、ドラッグストア、公共交通を、別々の事業としてではなく、一つの生活インフラとして考える必要があります。例えば、一つの大型スーパーを地域内に維持できなくても、周辺の拠点店舗から移動販売や宅配を行い、必要に応じてデマンド交通で住民を店舗まで運ぶことで、食品アクセスを維持できる可能性があります。逆に、大型店舗が一軒残っていたとしても、自動車を運転できない住民がそこへ行く方法を持たなければ、生活機能としては十分とはいえません。

店を残す政策と買い物を残す政策は違う

 スーパーへの補助などによって店舗そのものを残す方法もあり、地域によっては、それが最も効率的な場合もあるでしょう。しかし利用者が長期的に減少する地域では、店舗の固定費を支え続ける政策が常に最適とは限りません。一方で、採算が合わないからという理由だけで店舗閉鎖を受け入れれば、自動車を利用できない住民の生活が難しくなる可能性があります。

 したがって政策として比較すべきなのは、「店舗を残す費用」と「移動販売、宅配、公共交通などによって買い物機能を維持する費用」です。その際には、行政負担だけではなく、事業者負担、住民の金銭負担、家族の送迎負担、移動時間、待ち時間などを含めた社会全体の費用を見る必要があります。

現実的には「人を運ぶ」と「商品を運ぶ」の併用になる

 人口密度が低下していく地域では、一つの方法だけですべての住民を支えることは難しくなるでしょう。比較的元気で移動できる人には、デマンド交通、路線バス、家族送迎などを使って店舗へ行く方法があり、身体的に移動が難しい人には、移動販売や宅配の方が適しています。

 つまり地域全体としては、「人を商品まで運ぶ仕組み」と「商品を人まで運ぶ仕組み」を組み合わせることになります。どちらが常に優れているという問題ではなく、地域人口、住宅密度、利用者数、店舗までの距離、道路状況、利用者の身体状況によって、効率的な方法は変わります。

成立しやすい地域と成立しにくい地域

 買い物支援が比較的成立しやすいのは、一定数の利用者がいて住宅がある程度まとまっており、既存スーパーを商品供給拠点として利用でき、移動販売、宅配、公共交通、自治体が連携できる地域です。一台の販売車や配送車が短時間で複数世帯を回ることができれば、一世帯当たりの移動距離や運行コストを抑えやすくなります。

 反対に、人口が非常に少なく、住宅が広範囲に分散し、道路距離が長く、利用者一人当たりの購入額が小さく、商品供給拠点となる店舗も遠い地域では、サービスの維持は難しくなります。この場合には、「需要は確実に存在するのに、民間事業としては採算が取れない」という状態が起こり得ます。そのため、「必要なら民間企業が参入するはずだ」という市場原理だけでは解決できない地域が存在し、食料へのアクセスが生活に不可欠な機能である以上、採算性と公共性をどこまで分担するかが行政上の課題になります。

外房について、まだ分からないこともある

 ここまでの公的資料から、外房で人口減少、高齢化、自動車依存が進み、移動販売やデマンド交通などの代替手段が重要になっていることは確認できます。しかし、「外房のどの地域で、どの程度買い物が困難なのか」まで正確に判断するには、さらに細かな地域データが必要です。

 例えば、御宿町、勝浦市、いすみ市について、最寄り食料品店から500メートル以上離れて暮らす高齢者が何人いるのか、そのうち自動車を利用できない人が何人いるのか、移動販売の停車場所からどの範囲に何人が住んでいるのか、各宅配サービスがどの地域まで配送しているのか、デマンド交通を使って買い物すると実際に往復何分かかるのか、といった情報が必要です。

 農林水産政策研究所は、店舗までの距離や高齢人口などを用いた食料品アクセスマップを整備しています。こうした地理的データと、現在の店舗、移動販売ルート、宅配区域、公共交通を重ね合わせれば、外房の食品アクセスをさらに定量的に評価できます。したがって、現時点で確実に言えるのは、「外房全体で買い物ができなくなる」ということでも、「移動販売があれば問題は解決する」ということでもありません。地域ごとに条件が大きく異なるため、集落や地区単位で評価する必要があります。

買い物環境を見るチェックリスト

 地方へ移住する場合や、高齢期の住まいを考える場合には、現在の最寄りスーパーまでの距離だけを見るのでは不十分です。自動車を運転できなくなった状態を前提として、最寄りスーパーまでの距離、徒歩で利用できる店舗、移動販売の有無と巡回曜日、宅配サービスの配送区域、配送料、最低注文額、電話注文の可否、インターネット注文だけなのか、生鮮食品を購入できるか、公共交通でスーパーへ行けるか、帰宅便までどれだけ待つか、重い商品を持ち帰れるか、家族送迎が必要か、さらに家族が将来遠方へ転居しても生活できるかまで確認する必要があります。

 特に重要なのは、「現在、自動車を運転できる生活」ではなく、「自動車を運転できなくなった生活」を一度具体的に想定してみることです。

外房の買い物問題から見えてくること

 外房では人口減少と高齢化が同時に進んでいます。人口が減れば、小売店にとって商圏人口と売上規模は縮小し、店舗経営の条件は厳しくなります。一方、そこに暮らし続ける住民一人一人にとって、食料を購入する必要性がなくなるわけではありません。むしろ人口密度が低下することで、一人当たりの配送や移動の効率が悪くなる可能性があります。

 このため今後重要になるのは、大型スーパーを現在と同じ形で残し続けることだけではありません。店舗、移動販売、宅配、公共交通、地域の小売店、コンビニエンスストア、ドラッグストアなどを組み合わせ、少ない人口でも食品へのアクセスを維持できる地域構造へ変えていくことが求められます。

現実的な結論

 スーパーが撤退した地域でも、生活を続けること自体は可能です。しかし、そのためには複数の条件が必要であり、移動販売だけ、ネットスーパーだけ、公共交通だけ、家族送迎だけで解決するわけではありません。それぞれに長所と弱点があるため、地域の人口、住宅分布、高齢化、店舗配置に応じて複数の手段を組み合わせる必要があります。

 そして人口減少地域で本当に問うべきなのは、「スーパーが何軒あるか」ではなく、「自動車を運転できなくなった住民でも、必要な食品を無理のない価格、時間、身体的負担で継続的に入手できるか」ということです。店舗数が減ることと、買い物という生活機能まで失われることは同じではありません。

 これからの地域政策では、店舗そのものを守るという発想だけでなく、住民が食品へアクセスできる仕組み全体を守るという考え方が必要になります。30年後の外房で重要なのは、「昔と同じ店舗網を何軒残せたか」ではなく、人口が減り、高齢化がさらに進んだとしても、必要な食品を必要な人へ届ける仕組みを維持できたかではないでしょうか。

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