地域分析記事

地域の暮らしと地域課題を数学とデータで考える

地域の小売店は人口何人を下回ると成立しにくくなるのか

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 町から店が一軒消えるとき、その変化はたいてい静かに始まる。ある日突然、商店街全体がなくなるわけではなく、最初は高齢になった店主が店を閉め、しばらくすると衣料品店のシャッターが下り、その数年後には本屋や靴店がなくなっている。それでも食品店やコンビニエンスストアが残っているうちは、町の生活は以前とそれほど変わっていないように見えるが、最後に日常の買い物を支えていた店まで閉じると、住民は初めて、その町がいつの間にか別の生活圏へ変わっていたことに気づく。

 では、店が成立しにくくなる人口には境界線があるのだろうか。人口5000人ならまだ大丈夫で、4000人を割ると危険になるのか、それとも人口1000人の町でも小売業は十分成立するのか。この問いには、参考になる公的統計が存在する。ただし、その数字をそのまま店舗経営の採算人口と読んでしまうと、地域商業の実態をかえって見誤ることになる。店が存在する条件と、店が利益を出しながら将来も営業を続けられる条件は、必ずしも同じではないからである。

人口500人規模でも飲食料品小売業は存在する

 国土交通省は、人口規模の異なる自治体にどのような生活サービス施設が存在するのかを分析している。2026年4月に公表された「第三次国土形成計画のモニタリング」では、2020年を対象とする令和3年経済センサスなどを用いて、自治体の人口規模と各種施設の立地確率との関係が示された。ここでいう立地確率とは、一定の人口規模に属する自治体のうち、その業種の事業所が一つ以上存在する自治体の割合を指している。

 その結果を見ると、飲食料品小売業は人口約500人という小規模な階級でも高い存在割合を示しており、図上では50%と80%の目安がともに約500人の位置に表示されている。一方、コンビニエンスストアでは、存在割合が50%となる人口規模は約2500人、80%となるのは約3500人である。スポーツ用品小売業ではそれぞれ約7500人と約1万7500人、男子服小売業では約1万2500人と約2万2500人に上昇し、総合スーパーになると約6万7500人と約8万7500人という、かなり大きな人口規模になる。

 この違いは、人口規模と商業施設の種類との間に一定の関係があることを示している。日常的に購入する商品を扱う事業所は比較的小さな人口規模でも存在する一方、購入頻度が低い商品を扱う専門店や、大きな設備と品ぞろえを必要とする店舗は、より大きな人口集積のある自治体で存在しやすい。ただし、飲食料品小売業の約500人という数字は、分析図の下限付近に位置する人口階級の目安であり、人口500人という正確な境界で店舗の成立条件が変わることを意味していない。

 また、2026年に公表された分析であっても、施設の観測時点は主として2020年である。その後の物価上昇、人件費や物流費の変化、店舗運営の省力化、インターネット通販の普及などをすべて反映した、2026年現在の出店判断を示すものではない。公表年と基礎データの対象年を区別することも、この数字を理解するうえでは重要である。

立地確率は店舗の採算人口を示しているわけではない

 ここで最も注意しなければならないのは、施設の存在割合と経営上の損益分岐点を混同しないことである。例えば、人口3500人程度の自治体でコンビニエンスストアの存在割合が80%であったとしても、それは人口3500人なら新しく出店した店舗の80%が黒字になるという意味ではない。また、その人口規模の自治体にある店舗が、将来も80%の確率で営業を続けるという意味でもない。

 立地確率は、人口の異なる多くの自治体をある時点で比較した結果である。そこには長年営業を続けてきた個人商店、家族経営によって人件費を抑えている店舗、過去に設備投資を終えた店舗、周辺自治体から顧客を集める店舗など、経営条件の異なる事業所が含まれる。既存店が現在まで営業を続けているという事実だけから、新規出店する事業者にとって十分な投資採算性があるとは判断できない。

 さらに、立地確率が50%や80%となる人口規模は、一定の人口階級に属する自治体を集計したものであり、店舗の成立条件を一人単位で測定した数字ではない。同じ人口階級でも自治体の数や地理的条件によって結果は変わり、施設の存在に影響する所得水準、観光需要、競合店の分布などをすべて調整した推定でもない。したがって、これらの人口規模を全国共通の危険水準として使用することはできず、地域商業の成立しやすさを比較するための統計的な目安と考える必要がある。

食料品店が一軒あることと、必要な食品を買えることは違う

 飲食料品小売業という分類にも、見落としやすい問題がある。日本標準産業分類では、飲食料品小売業に各種食料品店、野菜・果実店、食肉店、鮮魚店、酒屋、菓子店、パン屋、コンビニエンスストアなどが含まれる。そのため、自治体に飲食料品小売業が存在するという統計結果は、必ずしも住民が必要とする生鮮食品や日用品を一通り購入できることを意味しない。

 例えば、人口の少ない町に酒屋と菓子店が残っていても、野菜、肉、魚、牛乳、調味料などを日常的に購入できるとは限らない。反対に、総合的な品ぞろえを持つ小規模な食品店が一軒存在していれば、店舗数が少なくても住民の基本的な需要を相当程度支えられる場合がある。店舗の有無だけでなく、実際にどの商品を扱い、どの程度の価格で、どの時間帯に購入できるのかという機能面の違いが重要になる。

 このため、飲食料品小売業の存在割合が高いことを、そのまま買い物環境の充実と評価することは適切ではない。地域の生活機能を測定するのであれば、食品スーパー、コンビニエンスストア、青果店、鮮魚店などの業種を区別し、必要な商品を組み合わせて購入できる環境が確保されているかを調べなければならない。統計上は同じ一店舗でも、その店が住民生活に果たす役割には大きな違いがある。

千葉県南部の町に全国の立地確率をそのまま当てはめられるのか

 国土交通省の施設立地確率には、対象地域についても重要な制約がある。この分析は三大都市圏を除く自治体を対象としており、千葉県全域は分析対象から除外されている。したがって、御宿町、いすみ市、勝浦市、大多喜町など千葉県南部の自治体について、前述の人口規模が直接当てはまると解釈することはできない。

 千葉県南部には、沿岸部の観光地、市街地、農村集落、山間部など、性格の異なる地域が混在している。ある町の住民が隣接する市の大型店舗へ自動車で買い物に行くこともあれば、周辺自治体の住民が特定の商業施設に集まり、行政区域を越えた一つの買い物圏を形成していることもある。また、観光客や別荘利用者が一定の需要を生み出す地域では、住民基本台帳に記載された人口だけでは店舗の売上規模を説明できない。

 例えば、人口5000人の町であっても、近隣の人口数万人規模の市に大型商業施設が存在し、日常的に自動車で移動できる環境であれば、町内の小売需要が周辺地域へ流出する可能性がある。一方、人口がそれより少ない町であっても、周辺集落からの買い物客を集める交通上の結節点であれば、行政人口から想像する以上の商業需要が存在する場合がある。どちらの状況にあるかは、実際の店舗配置と住民の購買行動を調べなければ判断できない。

 したがって、全国の施設立地確率は比較の出発点にはなるものの、千葉県南部の地域商業を評価するためには、市町村境界を越えた商圏の設定が必要になる。行政人口をそのまま店舗の市場規模とみなすことは、特に自動車利用が一般的な地方では大きな誤差を生む可能性がある。

店を支えているのは行政人口ではなく商圏の購買力である

 小売店を支えているのは、市役所や町役場の統計表に載っている人口そのものではない。実際にその店を利用し、商品を購入する人が一年間に使う金額である。人口5000人の町に食品スーパーが一軒あっても、5000人全員がその店で買い物をするわけではなく、隣の市の大型店舗へ行く住民もいれば、通勤先で買い物を済ませる人もおり、宅配やインターネット通販を利用する住民もいる。

 反対に、人口2000人程度の町であっても、周辺地域から日常的に顧客が訪れ、観光客による消費が加われば、住民人口だけでは説明できない売上規模になることがある。店舗にとって重要なのは、一定の移動時間内にどれだけの購買力が存在し、そのうちどの程度を自店に取り込めるかという問題である。人口が同じでも所得、世帯構成、購買頻度、競争環境によって市場規模は変化するため、人口だけで売上高を推定することは難しい。

 さらに、同じ人口3000人でも、住宅が一つの市街地にまとまっている地域と、山間部や海岸沿いに集落が広く分散している地域では、小売店にとっての市場の大きさは同じではない。前者では比較的短い距離の中に顧客が集まり、店舗への需要を集中させやすいが、後者では行政区域内に3000人が存在していても、どこに店を置いても十分な顧客を近距離から集められない場合がある。

 この違いを考えるうえでは、単純な人口密度だけでなく、道路網と移動時間も重要になる。人口密度が低い地域でも幹線道路沿いに交通が集中していれば商業立地に適した地点が存在する一方、地図上の直線距離が短くても山や川によって移動が制約される地域では、近くに見える店舗が実際には利用しにくいこともある。商圏とは行政区域の輪郭ではなく、住民の移動と購買行動によって形成される経済的な範囲なのである。

小売店が成立する人口を数理的に考える

 店舗の成立条件を考えるには、人口と売上、費用の関係を数式に近い形で整理することが有効である。単純化すれば、小売店の年間売上高は、商圏人口に一人当たりの年間対象商品支出額と、その店舗が獲得できる需要の割合を掛けることで表せる。そこから商品の仕入れや売上に伴って変化する費用を差し引き、さらに人件費、店舗賃料、設備維持費などの固定費を差し引けば、年間の営業利益を概算できる。

 例えば、住民一人当たりの年間対象商品支出額を36万円、その店舗が獲得する割合を20%、売上高から変動費を差し引いた限界利益率を25%と仮定してみる。この場合、一人の住民から得られる年間売上高は7万2000円であり、そこから生じる限界利益は1万8000円となる。年間固定費が3000万円なら、固定費を回収するためには約1667人分の需要が必要であり、年間固定費が6000万円なら約3333人分の需要が必要になる。

 さらに、年間固定費が6000万円の店舗でも、需要獲得率を20%から40%へ高められれば、一人当たりの限界利益は3万6000円となり、必要な人口規模は約1667人分まで低下する。つまり、同じ費用構造であっても、顧客が地域内の店舗をどの程度利用するかによって、経営に必要な人口は大きく変化するのである。ここで計算した人口は、あくまで対象商品の需要をすべて一人当たり支出額に換算した理論上の人数であり、自治体の実際の住民数と一致するとは限らない。

 なお、これらの金額や割合は計算の仕組みを説明するために置いた仮定であり、実在するスーパーやコンビニエンスストアの平均的な経営数値ではない。また、年間固定費が6000万円、需要獲得率20%の条件で商圏人口を3000人とすると、年間限界利益は5400万円となり、固定費との差額は600万円の赤字になる。一方、人口4000人なら年間限界利益は7200万円となり、同じ条件では1200万円の黒字となる。人口による採算性の違いを具体的に説明できるが、実際の店舗では商品構成や費用、需要獲得率が人口規模にかかわらず一定とは限らないため、この計算結果を現実の採算基準として使うことはできない。

 この単純なモデルからでも、人口の減少だけでなく、域外への購買流出や固定費の上昇が採算性を悪化させることが理解できる。例えば、人口が変わらなくても隣町に大型店が開業し、地元店舗の需要獲得率が低下すれば、売上と利益は減少する。逆に、小規模な店舗が配達や共同仕入れを取り入れ、費用を抑えながら顧客を維持できれば、人口の少ない地域でも営業を続けられる可能性がある。

 したがって、「人口何人なら成立するのか」という問いに答えるためには、人口だけでなく、一人当たり支出額、需要獲得率、商品別の利益率、固定費、域外からの売上を組み合わせる必要がある。国土交通省の立地確率は全国的な存在状況を把握するための統計であり、個別店舗の経営判断には、このような収益と費用の分析を追加しなければならない。

人口が減ると、店は一斉になくなるのではない

 人口減少地域で起こる商業の変化を考えるとき、すべての業種が同じ人口規模で消えていくわけではないことは重要である。国土交通省の新しい分析でも、飲食料品小売業は小規模な人口でも存在しやすい一方、スポーツ用品小売業や男子服小売業などは比較的大きな人口規模で存在割合が高くなっている。これは、商品の購入頻度や顧客の広がり方が、業種ごとに異なることと整合的である。

 食料品は日常的に購入されるため、住民一人当たりの年間需要が比較的安定しており、同じ顧客が繰り返し来店することも期待できる。これに対して衣服、靴、スポーツ用品などは購入頻度が低く、十分な売上を確保するために広い地域から顧客を集める必要が生じやすい。ただし、専門店が必ず不利というわけではなく、商品単価や利益率が高い店舗、独自の商品を扱う店舗、通信販売によって広域の顧客を獲得する店舗などは、小規模な自治体でも成立する可能性がある。

 したがって、この統計だけから「人口が減少すると必ず専門店から順番に閉店する」と断定することはできない。国土交通省の分析は、人口規模の異なる多数の自治体を比較した横断的な統計であり、同じ町を長期間追跡して店舗が撤退した順序を確認したものではないからである。実際の撤退時期には、経営者の年齢、後継者の有無、建物の老朽化、賃貸契約、競合店の進出など、多くの要因が影響する。

 それでも、地域の人口が縮小すれば、すべての商品を町内で購入できる環境を維持することは難しくなりやすい。店舗数がゼロになるより前に、衣料品や専門商品の選択肢が少なくなり、次第に日用品や食品を扱う店舗の数も減少するという変化は十分に考えられる。人口減少は、最初から買い物ができなくなる現象として現れるのではなく、住民が商品や店舗を選べなくなる現象として先に表れる場合があるのである。

一軒残っていることと、地域商業が安定していることは違う

 施設の存在を測る統計には、もう一つ見えにくい問題がある。町に食品店が一軒残っていれば、統計上は飲食料品小売業が存在する自治体に分類されるが、その店の経営者が高齢で後継者がおらず、設備更新も難しくなっているとすれば、店舗が存在していることと、地域の買い物環境が将来にわたって安定していることは同じではない。

 人口減少地域では、顧客の減少と経営者の高齢化が同時に進むことがある。既存店舗は長年の顧客関係や所有する建物を活用することで営業を続けられても、同じ場所に新規出店する事業者には、店舗設備や什器、在庫などへの初期投資が必要になる。人口が少なく将来の市場縮小も予測される地域では、投資を回収できるかどうかの不確実性が大きくなり、既存店が閉店しても後継店舗が現れない可能性がある。

 さらに、人口5000人の町でスーパーが二店舗から一店舗になる場合と、一店舗からゼロになる場合では、店舗数としては同じ一店舗の減少でも、住民生活に与える影響は大きく異なる。二店舗が一店舗になれば競争や商品の選択肢は減るものの、町内で買い物をする機能は一定程度残る。一方、一店舗がゼロになれば、これまで徒歩や短距離の移動で買い物をしていた住民も、自動車、公共交通、宅配などの別の手段を利用しなければならなくなる可能性がある。

 この意味で、店舗数と生活利便性の関係は単純な比例関係ではない。最後の一店舗が失われる影響は、その前の一店舗が失われる影響より大きくなる場合があり、特に自動車を利用できない住民への影響は深刻になりやすい。店舗が一軒でも存在するかどうかに加えて、その店がいつまで営業を継続できるのかを把握することが、人口減少地域では重要になる。

「買える町」と「買いに行かなければならない町」の境界

 小売店の減少が深刻なのは、それが商業経営だけの問題ではなく、地域で暮らし続けるための条件を変えてしまうからである。農林水産政策研究所は、食料品を扱う対象店舗まで直線距離で500メートル以上離れ、かつ自動車の利用が困難な65歳以上の高齢者を、食料品アクセス困難人口として推計している。その結果、2020年の全国のアクセス困難人口は約904万3000人で、65歳以上人口の25.6%に相当するとされた。75歳以上に限れば約565万8000人、同年齢層の31.0%であり、高齢になるほど食料品へのアクセスが大きな課題となっている。

 この推計に用いられる500メートルは、実際の道路に沿った徒歩距離ではなく直線距離である。そのため、山や河川を迂回しなければならない地域や、歩道がなく安全に歩きにくい道路がある地域では、同じ距離でも実際の移動負担が異なる。また、自動車利用の困難さについても統計資料を用いて推計されており、904万人全員に直接調査して買い物の困難を確認した数字ではない。日常の買い物に支障を感じる人を把握するための重要な指標ではあるものの、実際の困難の程度を完全に測定したものではないのである。

 2015年の推計値と比べると、2020年のアクセス困難人口は数字の上では約9.7%多くなっている。ただし、2020年の推計では対象店舗にドラッグストアが追加され、自動車利用の推計方法や使用データにも変更が加えられているため、両年の数値をそのまま連続した時系列として比較することはできない。したがって、9.7%という差を、同じ条件で買い物に困る高齢者が増加した割合として扱うことは適切ではない。

 重要なのは、この問題が人口の少ない農村や山間部だけに限られないことである。人口が比較的多い地域でも、大型店舗が郊外へ移転し、住宅地の近くから食品店がなくなれば、自動車を利用できない高齢者にとっての買い物環境は悪化する。一方、人口の少ない町でも、住民が比較的まとまって暮らし、徒歩圏内に必要な商品を扱う店が存在していれば、行政人口から想像するほど不便ではない場合もある。

高齢化すると同じ人口でも商圏の性質は変わる

 人口規模が同じでも、住民の年齢構成や世帯構成が変われば、小売市場の性質は同じではない。人口5000人の町が十年間で4500人になった場合、人口減少率は10%だが、その間に子育て世帯や現役世代が大幅に減少し、高齢者の割合が上昇していれば、必要とされる商品、購入頻度、店舗までの移動方法などが変化している可能性がある。

 もっとも、高齢者が増えるほど小売需要が必ず小さくなるわけではない。食品や日用品などの需要は継続し、自動車で遠方の大型店舗へ行くことが難しくなれば、近隣店舗や宅配サービスへの需要が強まる場合もある。一方、単身高齢者世帯が増えれば一回当たりの購入量が小さくなり、少量の商品を頻繁に届ける必要が生じるなど、販売や配送の費用構造が変化する可能性もある。

 ここには、商業経営と住民生活の間に生じる難しい問題がある。地域の住民にとって近くの店舗が必要であっても、その必要性が店舗の十分な売上や利益につながるとは限らない。特に人口密度が低く、顧客が広い範囲に分散している地域では、店舗や配送に必要な人件費、燃料費、物流費などを少数の顧客で負担しなければならず、社会的には必要なサービスであっても民間事業として採算を取りにくくなる場合がある。

 そのため、将来の商業需要を予測する際には人口総数だけでなく、年齢階層別人口、世帯数、世帯所得、自動車利用の状況、地域内での居住分布などを組み合わせることが望ましい。人口が10%減少しても売上が必ず10%減るとは限らず、商品構成や購買行動の変化によって減少率が大きくなることも、小さくなることもある。

あえて境界線を考えるなら「2500~3500人」は一つの参考人口帯である

 それでは、最初の問いに戻ろう。地域の小売店は人口何人を下回ると成立しにくくなるのか。この問いに全国共通の一つの数字で答えることはできないが、コンビニエンスストアの存在状況に注目するなら、人口2500~3500人程度は一つの参考人口帯として考えることができる。国土交通省の2026年公表資料では、コンビニエンスストアの存在割合が50%となる人口規模が約2500人、80%となる人口規模が約3500人と示されているからである。

 しかし、この人口帯を日常の食料品小売業全体の危険水準とすることはできない。飲食料品小売業はより小さな人口規模でも高い存在割合を示しており、コンビニエンスストアとは明確に異なる立地特性を持っている。また、飲食料品小売業という分類には専門的な食品店も含まれるため、地域に何らかの食品関連店舗が存在することと、総合的な食品の購入機能が維持されることも区別する必要がある。

 さらに、2500~3500人という人口規模は国が定めた小売店の限界人口ではなく、企業の新規出店基準でもない。実際の店舗経営では、周辺地域を含む商圏人口、購買力、競争環境、物流条件、営業時間、必要な設備投資などによって採算性が変化する。人口1000人の地域でも観光客や周辺住民から十分な売上を得られれば複数の店舗が成立する可能性がある一方、人口1万人の自治体でも消費が近隣都市へ大きく流出していれば、中心市街地の商業が衰退することはあり得る。

 このように考えると、人口2500~3500人という数字は、一定の小売業態について施設の存在割合が変化する人口規模を把握するための参考値ではあっても、地域商業全体の存続を判定する基準ではない。人口とは店の運命を決める数字ではなく、小売機能を維持する条件がどの程度厳しくなっているかを示す、一つの指標と考える方が実態に近い。

店がなくなると人口が減るのか

 地域商業については、人口が減ったから店舗が減るという一方向の関係だけでなく、店舗が減ることで生活の利便性が低下し、それが人口流出の一因になる可能性も考えなければならない。住宅を購入したり移住先を選んだりするとき、人々は住宅価格だけで居住地を決めるわけではなく、スーパーまでの距離、病院や学校へのアクセス、公共交通、自動車を運転できなくなった後の暮らしなど、さまざまな生活条件を総合的に評価するからである。

 ただし、ある町で店舗数と人口が同時に減少したとしても、「店が閉店したから人口が減った」と単純な因果関係を断定することはできない。人口減少地域では雇用の縮小、学校統廃合、公共交通の減便、医療機能の変化などが同時に起こる場合があり、それらが店舗の撤退と人口流出の両方に影響している可能性がある。店舗の減少が人口流出を促したのか、人口流出が店舗の減少を促したのか、あるいは共通の経済条件によって両者が生じたのかを区別する必要がある。

 この関係を科学的に調べるのであれば、同じ自治体や地区について人口と店舗数の変化を長期間追跡し、雇用、所得、交通条件、周辺商業施設などの変化も併せて分析する必要がある。横断的な立地確率から撤退の因果関係を推定することはできないが、人口減少が店舗の採算条件を厳しくし、買い物環境の悪化が地域の居住魅力を弱めるという循環は、検証すべき合理的な仮説である。

 国土交通省の国土形成計画でも、人口減少と生活サービスの利便性低下が相互に関係する問題は重視されている。したがって、店舗の存続を商業者だけの問題として扱うのではなく、居住環境、移動手段、地域の人口構造を含めた問題として分析することが重要になる。

人口5000人の町に大型店を呼ぶことが正解なのか

 人口減少地域では、新しいスーパーを誘致できないかという議論が起こることがある。しかし、人口5000人の町が将来4000人、3000人へ縮小していくと予測されているとき、店舗面積や品ぞろえの大きさだけを求めれば、必要な売上規模と地域の購買力との間に次第に大きな隔たりが生じる可能性がある。出店当初は一定の需要があっても、将来の人口減少や従業員確保の難しさによって、長期的な営業継続が困難になることも考えられる。

 そこで重要になるのは、現在と同じ形の店舗を維持することだけではなく、住民が必要な商品を継続的に購入できる状態をどう確保するかという発想である。小規模店舗と宅配を組み合わせる方法、移動販売車が集落を巡回する方法、買い物バスや乗合交通を利用する方法、既存店が配達機能を持つ方法などは、人口密度が低下した地域で商業機能を別の形へ組み替える選択肢になる。

 ただし、これらの方法が大型店舗の維持より必ず低費用であるとは限らない。移動販売には車両費、燃料費、人件費がかかり、宅配には注文管理や配送の負担が生じる。買い物バスも利用者が少なければ一人当たりの運行費用が大きくなるため、どの方式を選ぶにしても利用者数、運行頻度、対象集落の分布、必要な公的負担などを比較する必要がある。

 こうした問題に対して、国の政策も変化している。2024年に改正された食料・農業・農村基本法では、国民が必要な食料を入手できることを重視する方向が明確になり、農林水産省は2026年度の予算等に基づいて、食品アクセスの確保に関する支援策を整理している。ここでは、店が遠い、移動手段がないといった物理的なアクセスの問題だけでなく、所得や食品価格の制約によって必要な食料を購入できない経済的なアクセスの問題も政策対象となっている。

 もっとも、食品アクセスが政策課題に位置づけられているからといって、自治体がすべての地区にスーパーを設置し、民間店舗の営業を永続的に維持しなければならないということではない。行政に求められるのは、地域の買い物環境を把握し、住民生活に必要な機能をどのような方法で確保することが合理的なのかを検討することである。店舗を維持するための支援と、住民が店舗へ移動できる環境を整えるための支援は、それぞれ効果や費用が異なるため、同じ条件で比較する必要がある。

地域の小売機能を把握するには何を調べればよいのか

 人口減少地域の買い物環境を評価する際には、行政人口と店舗数だけで判断するのではなく、少なくとも店舗の業種、商品の品ぞろえ、営業時間、周辺集落からの移動時間、住民の自動車利用状況などを把握する必要がある。特に、高齢者が多い集落から日常的な食品を購入できる店舗まで何分かかるのか、公共交通を利用して買い物と帰宅を無理なく行えるのかという点は、生活上の利便性を測るうえで重要になる。

 経済的な分析では、地域内の購買力がどれだけ町内の店舗で使われ、どれだけ周辺市町村へ流出しているのかを調べることが望ましい。地域の所得や人口が維持されていても、住民が近隣都市の大型店へ買い物に出かける割合が高まれば、町内の小売業には十分な売上が残らない。反対に、周辺地域の住民や観光客を集められる店舗が存在すれば、人口減少の影響を一定程度緩和できる可能性がある。

 また、現在の店舗数だけでなく、閉店した店舗の種類や位置、残存店舗の経営者の年齢、後継者の有無、新規出店の動向などを継続して観察することも重要である。現時点で一店舗が存在していても、その店が近い将来閉店する可能性が高ければ、統計上の存在状況だけでは将来の買い物環境を評価できない。店舗の存続可能性を考えるには、現在のサービス供給と将来の供給リスクを分けて把握しなければならない。

 御宿町、いすみ市、勝浦市、大多喜町のように、自治体ごとに人口規模や市街地の形状、交通条件が異なる地域を比較する場合も、単純な人口順位ではなく、買い物に要する移動時間や広域的な商圏の形成状況を確認する必要がある。人口の多い自治体ほど必ず生活利便性が高いとは限らず、店舗が特定の市街地に集中していれば、同じ自治体内でも買い物環境に大きな地域差が生じる可能性がある。

最後の店が閉まる前に、町はすでに変わっている

 人口減少を語るとき、私たちは1万人が9000人になった、5000人が4000人になったという人口そのものの数字に目を奪われやすい。しかし、住民が日常生活の中で経験する人口減少は、統計表の数字としてではなく、町から少しずつ選択肢が消えていく風景として現れる。人口が何人減ったかという数字が、すぐに暮らしの変化として実感されるわけではないが、買い物をするための移動距離や時間が増えれば、その変化は日常生活の負担として明確に感じられる。

 三軒あったスーパーが二軒になり、二軒が一軒になり、衣料品を買うには隣町まで行くようになり、本や靴を買うにはさらに遠い都市へ出なければならなくなる。やがて自動車を運転できることが、その町で暮らし続けるための事実上の条件となり、運転できない住民にとっては、行政区域の人口が何人残っているかよりも、最寄りの店まで何キロあり、そこまでどのような手段で移動できるかという問題の方が重要になる。

 地域の小売店が成立しにくくなる人口を考えることには意味がある。国土交通省の立地確率は、日常的な小売業と専門店では存在しやすい人口規模が異なることを示しており、人口減少が生活サービスの立地条件を変えることを理解するための重要な手掛かりになる。しかし、それは人口が一定の水準を下回れば店舗が必ず消えるという法則ではなく、商圏の購買力、店舗の費用構造、住民の移動手段などによって結果が変わる問題である。

 むしろ本当に見るべきなのは、人口何人で最後の一店舗が消えるのかという一点だけではない。人口6000人、4000人、3000人、2000人と縮小していく途中で、どの業種が成立しにくくなり、住民がどれだけ商品や店舗を選べなくなり、日常の買い物のためにどれだけ遠くまで移動しなければならなくなるのかを継続的に観察する方が、地域の変化を早く捉えることができる。

 そして、地域商業を維持するための対策も、必ずしも店舗の数を以前と同じ水準に戻すことだけではない。人口が減少しても食料や日用品を必要とする住民がいなくなるわけではなく、その需要をどこに、どのような方法で集め、あるいは住民のもとへ届けるかが問題になる。従来型の店舗を維持できない地域でも、交通、配送、小規模店舗などを組み合わせることで生活機能を確保できる可能性はあるが、その持続可能性は利用者数と費用負担を踏まえて判断する必要がある。

 町の商業が終わる日は、最後の店がシャッターを下ろした日ではない。そのずっと前から、住民が「この町では買えないから隣町へ行こう」と考える回数が少しずつ増え、町の内部で使われていた購買力が外へ流れ始めている。人口減少地域の小売問題とは、店がなくなる瞬間を探す問題ではなく、生活を支えていた選択肢がどのような順序で細くなり、それをどのような方法で維持できるのかを考える問題なのである。

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