外房地域分析ブログ

地域の暮らしと地域課題を数学とデータで考える

地方にある実家や親族の家を相続したものの、今後どのように扱えばよいのか分からず、そのままにしている方は少なくありません。

空き家について考えるとき、多くの方が最初に思い浮かべる選択肢は、次の4つです。

  1. 売却する
  2. 賃貸住宅として貸す
  3. 空き家のまま持ち続ける
  4. 建物を解体して土地として保有または売却する

一見すると、売却すれば問題は解決し、賃貸すれば家賃収入が得られ、持ち続ければ将来使うことができ、解体すれば管理負担が減るように見えます。

しかし、実際にはそれほど単純ではありません。

売却しようとしても買い手が見つからないことがあります。賃貸に出すには修繕費が必要です。持ち続ければ固定資産税や草刈り、建物管理の費用が発生します。解体すると高額な工事費がかかり、土地の固定資産税が変わる可能性もあります。

つまり、どの方法が最も得になるかは、目先の収入や支出だけでは判断できません。

この記事では、地方にある一般的な戸建て空き家を想定し、売る、貸す、持ち続ける、解体するという4つの選択肢を、10年間の費用と収入で比較します。

なお、この記事で示す金額は、特定の物件についての見積額ではありません。比較方法を分かりやすくするための仮定です。

実際の判断では、不動産事業者、建築事業者、税理士、司法書士、自治体などへの確認が必要になる場合があります。


空き家の問題は、時間とともに大きくなる

空き家について最も注意したいのは、「今すぐ困っていないから、そのままでもよい」と考えてしまうことです。

空き家は、何もしなければ同じ状態のまま保存されるわけではありません。

人が住まなくなった住宅では、換気が行われず、湿気がこもりやすくなります。水道を使用しなくなれば、排水口や配管に問題が生じることがあります。庭木や雑草は伸び、雨どいや屋根、外壁などの傷みも発見されにくくなります。

建物の状態が悪化すれば、売却価格や賃貸可能性も下がります。

さらに、倒壊や外壁材の落下、害虫、害獣、不法侵入などによって、近隣へ影響を与える可能性もあります。

2023年12月に施行された改正空家法では、放置すれば「特定空家」になるおそれのある住宅を「管理不全空家」として、市区町村が指導や勧告の対象にできる仕組みが設けられました。勧告を受けると、敷地に対する固定資産税などの住宅用地特例を受けられなくなる場合があります。

そのため、「何もしない」という状態も、実際には一つの選択です。

しかも、多くの場合、その選択には毎年費用がかかります。


まず整理したい4つの選択肢

空き家の処分方法を考える際には、最初から一つの方法に決めるのではなく、4つの選択肢を同じ基準で比較することが重要です。

選択肢 主な利点 主な負担・リスク
売却する 管理負担を終了できる 売却価格が低い、買い手が見つからない
賃貸する 家賃収入を得られる 修繕費、空室、入居者対応
持ち続ける 将来利用できる 税金、管理費、老朽化
解体する 建物管理の負担を減らせる 解体費、土地の税負担、売れない土地が残る

重要なのは、「売却価格がいくらか」だけではありません。

次のような項目をすべて含めて比較する必要があります。

  • 初期費用
  • 毎年の維持費
  • 修繕費
  • 税金
  • 保険料
  • 草刈りや庭木管理
  • 売却や賃貸の仲介費用
  • 空室期間
  • 将来の処分費用
  • 所有者自身が管理に使う時間
  • 現地までの交通費
  • 近隣トラブルのリスク
  • 10年後に残る資産価値

今回の比較に使う空き家の想定条件

今回は、次のような地方の戸建て住宅を仮定します。

項目 想定条件
建物 木造2階建て
築年数 約40年
延べ床面積 約100平方メートル
土地面積 約250平方メートル
現在の状態 数年間空き家
売却想定価格 土地・建物合計300万円
賃貸想定家賃 月額5万円
現在の固定資産税等 年額6万円
所有者の居住地 空き家まで片道約1時間30分
比較期間 10年間

ここでいう固定資産税等は、分かりやすくするための仮定です。実際の税額は、固定資産税評価額、土地面積、建物評価、都市計画税の有無、住宅用地特例などによって異なります。

また、売却価格300万円、家賃5万円という数字も、全国の相場を示すものではありません。

同じ築年数と広さであっても、駅や商店への距離、道路条件、災害リスク、接道、上下水道、建物状態などによって価格は大きく変わります。


選択肢1 空き家を売却する

売却の最大の利点は、将来の管理負担を終わらせられること

空き家を売却する最大の利点は、売却後の固定資産税、草刈り、修繕、見回りなどの負担を原則として終了できることです。

売却価格が低いと、「安く手放すのは損ではないか」と感じる方もいます。

しかし、空き家を持ち続ける場合には、毎年費用が発生します。

仮に年間15万円の維持費がかかる場合、10年間では150万円です。

さらに、屋根や外壁、水道設備などの修繕が発生すれば、支出はさらに増えます。

そのため、売却価格だけを見て判断するのではなく、売却しなかった場合に今後発生する費用も比較しなければなりません。

売却時に考えられる費用

空き家を300万円で売却できたとしても、300万円がそのまま手元に残るわけではありません。

一般的には、次のような費用が発生する可能性があります。

  • 不動産仲介手数料
  • 売買契約書の印紙税
  • 所有権移転に必要な書類の取得費
  • 相続登記や住所変更登記などの費用
  • 境界確認や測量費
  • 家財や残置物の処分費
  • 建物の簡易修繕費
  • 譲渡所得が発生した場合の税金

空き家の名義が亡くなった親のままになっている場合は、売却前に相続登記が必要になります。

2024年4月1日から相続登記が義務化され、不動産を相続したことを知った日などから原則3年以内に申請する必要があります。正当な理由なく義務に違反すると、10万円以下の過料の対象になる可能性があります。

売却の試算例

今回は次のように仮定します。

項目 金額
売却価格 3,000,000円
仲介・契約関係費用 250,000円
残置物処分 400,000円
登記・書類等 150,000円
簡易清掃・修繕 200,000円
手取り概算 2,000,000円

この例では、売却後に約200万円が残る計算です。

売却までに1年間かかり、その間に固定資産税、草刈り、見回りなどで15万円かかったとすると、最終的な手取りは185万円程度になります。

売却した場合の10年間の概算

売却による手取り 約200万円
売却までの維持費 約15万円
10年間の収支   約185万円

売却後は、原則として管理費や固定資産税は発生しません。

したがって、今回の仮定では、4つの選択肢の中で最も早く問題を終わらせられる方法になります。

売却が向いている空き家

次のような場合には、売却を優先して検討する合理性があります。

  • 所有者や家族が今後住む予定がない
  • 賃貸需要が弱い
  • 遠方に住んでいて管理が難しい
  • 建物の劣化が進んでいる
  • 修繕にまとまった費用がかかる
  • 相続人が複数いて将来の合意形成が難しくなる
  • 土地や建物の価格がさらに下がる可能性がある
  • 維持費を払い続けることに意味を感じない

一方で、急いで売却すると、相場より低い価格で手放す可能性もあります。

複数の不動産事業者へ査定を依頼し、「仲介で売る場合」と「事業者に直接買い取ってもらう場合」を分けて比較することが重要です。


選択肢2 空き家を賃貸住宅として貸す

家賃5万円なら年間60万円になるが、その全額が利益ではない

月額5万円で貸すことができれば、年間家賃収入は60万円です。

10年間、入居者が途切れず、家賃の未払いもなく、修繕も発生しなければ、家賃収入は600万円になります。

この数字だけを見ると、300万円で売却するより、貸した方が得に見えます。

しかし、現実の賃貸経営では、家賃収入から多くの費用を差し引く必要があります。

主な費用は次のとおりです。

  • 入居前の改修費
  • 台所、浴室、トイレ、給湯器などの修理
  • 壁紙や床の張り替え
  • 不動産事業者への仲介・管理費用
  • 固定資産税
  • 火災保険
  • 退去時の修繕費
  • 空室期間の家賃減少
  • 設備故障への対応
  • 庭木や外構の管理
  • 所得税などの税負担

築40年の住宅を貸すための改修費

築40年程度の住宅では、そのまま貸せるとは限りません。

見た目が古いだけでなく、次の設備が使用可能かを確認する必要があります。

  • 給湯設備
  • 水道管
  • 排水管
  • 浴室
  • トイレ
  • 台所
  • 電気設備
  • 雨漏り
  • シロアリ被害
  • 建具
  • 床の傾き
  • エアコン
  • 火災報知器

大規模な改修を行えば、費用は数百万円になることがあります。

一方、最低限の修繕に抑えれば初期費用は小さくなりますが、入居後に設備故障が続く可能性があります。

今回は、賃貸開始前の改修費を200万円と仮定します。

空室率を考える

家賃収入を計算するときは、常に満室であると仮定しない方が現実的です。

地方では、入居者が退去した後、次の入居者が決まるまで数か月以上かかることがあります。

そこで今回は、10年間のうち実際に家賃を受け取れる期間を85%と仮定します。

月額家賃5万円
×12か月
×10年間
×入居率85%
=510万円

10年間の家賃収入は、510万円です。

賃貸した場合の10年間の試算

項目 10年間の金額
家賃収入 5,100,000円
初期改修費 ▲2,000,000円
固定資産税等 ▲600,000円
管理委託費等 ▲510,000円
保険・点検等 ▲300,000円
追加修繕費 ▲800,000円
退去時費用等 ▲300,000円
10年間の概算収支 590,000円

今回の仮定では、10年間の利益は約59万円です。

ただし、10年後にも土地と建物が残ります。

そのため、賃貸の場合は、10年間の家賃収支だけでなく、10年後の資産価値も加えて考える必要があります。

仮に10年後、土地と建物を150万円で売却できるとすれば、

10年間の賃貸収支 約59万円
10年後の売却手取 約100万円
合計      約159万円

となります。

一方、10年後には建物がさらに老朽化し、売却前に解体費が必要になる可能性もあります。

賃貸は「家賃が入るか」ではなく「修繕費を回収できるか」で考える

賃貸の判断で重要なのは、月額家賃ではありません。

最初にかける改修費を何年で回収できるかです。

仮に改修費が200万円で、諸経費を差し引いた年間利益が25万円なら、改修費の回収だけで8年かかります。

200万円 ÷ 年間利益25万円 = 8年

8年目までに給湯器や屋根などの大きな修繕が発生すれば、回収期間はさらに長くなります。

賃貸が向いている空き家

賃貸が有力になるのは、次の条件がそろっている場合です。

  • 一定の賃貸需要がある
  • 建物状態が比較的良い
  • 少額の修繕で貸せる
  • 駐車場を確保できる
  • スーパー、学校、病院、勤務先などへの利便性がある
  • 管理を依頼できる不動産事業者がいる
  • 家賃に対して改修費が過大でない
  • 10年以上の長期保有を予定している
  • 空室が続いても資金的に耐えられる

反対に、改修費が高く、家賃が低く、入居需要が弱い場合には、賃貸は収益事業にならない可能性があります。

自治体の空き家バンクには、売りたい人だけでなく、貸したい人が物件を登録できる制度もあります。ただし、登録条件や契約への自治体の関与範囲は自治体ごとに異なるため、所在地の自治体へ確認する必要があります。


選択肢3 空き家のまま持ち続ける

「何もしない」場合にも費用は発生する

空き家を売らず、貸さず、解体もしない場合、当面は大きな初期費用を払わずに済みます。

このため、相続直後などには「しばらくそのままにしておこう」と考えやすくなります。

しかし、持ち続ける場合にも、毎年次のような費用がかかります。

  • 固定資産税等
  • 火災保険
  • 草刈り
  • 庭木の剪定
  • 建物の換気
  • 郵便物の確認
  • 雨漏りや破損の修理
  • 害虫・害獣対策
  • 現地までの交通費
  • 水道や電気の基本料金
  • 台風や大雨後の確認
  • 防犯対策

所有者自身が無償で作業している場合でも、時間と交通費はかかります。

年間維持費の試算

今回は、次のように仮定します。

項目 年間費用
固定資産税等 60,000円
火災保険等 30,000円
草刈り・庭木管理 50,000円
見回り交通費 30,000円
電気・水道基本料金 20,000円
小修繕・消耗品 30,000円
年間合計 220,000円

年間22万円であれば、10年間では220万円です。

さらに、10年間の途中で屋根補修や給排水設備への対応が必要になり、100万円の臨時支出が発生すると仮定します。

持ち続けた場合の10年間の費用

年間維持費22万円 × 10年間 = 220万円
臨時修繕         = 100万円
10年間の支出合計     = 320万円

10年後に物件を200万円で売却できたとしても、売却費用などを差し引いた手取りが150万円であれば、

10年間の維持・修繕費 ▲320万円
10年後の売却手取り  150万円
最終収支      ▲170万円

となります。

つまり、10年間持ち続けた結果、170万円程度の持ち出しになる試算です。

持ち続けることが必ずしも悪いとは限らない

ただし、保有がすべて不合理というわけではありません。

次のような目的がある場合は、一定期間持ち続ける意味があります。

  • 数年後に自分や家族が住む予定がある
  • 定期的に別荘や帰省先として使っている
  • 土地の将来利用が決まっている
  • 周辺で道路整備や開発計画がある
  • 家族間で処分方針を決めるための時間が必要
  • 売却前に相続や境界の問題を整理している
  • 建物に家族史上の価値があり、保存の意思がある

重要なのは、「なぜ持ち続けるのか」を明確にすることです。

目的も期限もないまま保有すると、数年後には建物状態が悪化し、売却も賃貸も難しくなる可能性があります。

保有するなら期限を決める

空き家を当面保有する場合は、次のように期限を決める方法が有効です。

今後2年間は保有する
↓
2年後までに家族が利用しなければ売却する
↓
その間は年2回、建物状態を点検する
↓
年間管理費が25万円を超えたら早期売却を再検討する

「いつか使うかもしれない」という理由だけでは、処分判断が先送りされやすくなります。

保有には、目的、期限、年間予算の3つを設定する必要があります。


選択肢4 建物を解体する

解体すれば問題がすべて解決するわけではない

老朽化した空き家では、建物を解体して更地にする方法があります。

建物がなくなれば、屋根や外壁の落下、倒壊、不法侵入、雨漏りなどの問題は大きく減ります。

庭や土地の管理は残りますが、建物の維持管理よりは単純になる可能性があります。

一方で、解体にはまとまった費用が必要です。

解体後も土地が売れなければ、固定資産税や草刈りの費用を払い続けることになります。

解体費用は建物だけでは決まらない

解体費用は、建物の床面積だけでは決まりません。

次の条件によって変わります。

  • 木造、鉄骨造、鉄筋コンクリート造
  • 建物の広さ
  • 前面道路の幅
  • 重機が入れるか
  • 隣家との距離
  • 家財や残置物の量
  • ブロック塀、物置、庭石、樹木の有無
  • アスベストの有無
  • 地中埋設物の有無
  • 浄化槽や井戸の処理
  • 廃材の運搬距離
  • 地域の処分費用

今回は、建物本体、家財処分、外構の一部撤去などを含め、解体関連費用を250万円と仮定します。

解体後の固定資産税に注意する

住宅の敷地には、一定の条件のもとで固定資産税の課税標準を軽減する住宅用地特例があります。

小規模住宅用地では、200平方メートル以下の部分について、固定資産税の課税標準が6分の1となる仕組みがあります。建物を解体して住宅用地でなくなると、この特例が適用されなくなる可能性があります。

ただし、「建物を解体すると固定資産税が必ず6倍になる」と単純に断定することはできません。

税額は、土地の評価額、面積、負担調整措置、都市計画税、自治体の取扱いなどによって変わるためです。

解体前には、市区町村の固定資産税担当部署へ、解体後の概算税額を確認することが重要です。

解体して土地を持ち続ける場合の試算

今回は、解体費250万円、解体後の税金と管理費を年間18万円と仮定します。

項目 10年間の金額
解体費用 ▲2,500,000円
固定資産税等 ▲1,300,000円
草刈り・土地管理 ▲500,000円
10年間の支出合計 ▲4,300,000円

10年後に土地を250万円で売却し、諸費用を差し引いた手取りが220万円だとすると、

10年間の支出   ▲430万円
10年後の売却手取 220万円
最終収支    ▲210万円

となります。

この例では、解体して土地を持ち続ける方法は、金銭面では最も不利です。

解体後すぐ売却できるなら結果は変わる

解体費250万円をかけても、更地にすることで土地が500万円で売却できるなら、結果は変わります。

土地売却価格  500万円
解体費用   ▲250万円
売却諸費用等  ▲50万円
概算手取り   200万円

建物付きでは300万円、解体後は500万円で売れるとしても、解体費を差し引けば手取りは同程度です。

したがって、解体前に確認すべきなのは、「更地ならいくらで売れるか」ではありません。

次の差額です。

解体後の土地売却手取り
-解体費
-解体までの維持費

この金額を、建物付きで売却した場合の手取りと比較します。

解体が向いているケース

次のような場合には、解体を検討する合理性があります。

  • 建物が著しく老朽化している
  • 倒壊や外壁落下などの危険がある
  • 建物付きでは売却が難しい
  • 土地としての需要がある
  • 隣地所有者が購入を希望している
  • 駐車場や資材置場など別用途がある
  • 自治体の解体補助制度を利用できる
  • 解体後すぐに土地を売却する予定がある

反対に、土地需要がほとんどなく、解体後も長期間保有する見込みであれば、解体費と毎年の土地管理費が重い負担になる可能性があります。


4つの方法を10年間で比較する

ここまでの仮定をまとめます。

選択肢 10年間の最終的な概算収支 10年後の状態
売却する 約185万円 所有関係・管理負担が終了
賃貸する 約159万円 売却まで含めた場合
持ち続ける 約▲170万円 10年後に売却した場合
解体して保有する 約▲210万円 10年後に土地売却した場合

この試算では、売却が最も有利です。

次に賃貸、持ち続ける、解体して保有するという順番になります。

しかし、これはすべての空き家に当てはまる結論ではありません。

条件を少し変えるだけで結果は逆転します。


賃貸が売却より有利になる条件

今回の試算では賃貸収入を月額5万円、入居率85%、初期改修費200万円としました。

次のような条件であれば、賃貸の方が有利になる可能性があります。

  • 改修費が100万円以下
  • 家賃が月額6万円以上
  • 長期間入居する需要がある
  • 建物の設備状態が良い
  • 管理費が低い
  • 10年後にも一定の売却価値が残る

反対に、改修費が300万円を超え、家賃が月額4万円程度で、入居率が低い場合には、賃貸収支は厳しくなります。


保有が合理的になる条件

保有が合理的なのは、単純な投資収益ではなく、将来の利用価値がある場合です。

たとえば、3年後に家族が移住する予定があり、その間だけ維持するのであれば、売却してから別の住宅を買い直すより合理的かもしれません。

また、年に数回利用しており、宿泊施設の代替として価値がある場合には、その利用価値も計算に入れる必要があります。

仮に年10泊利用し、周辺の宿泊費が1泊2万円なら、年間20万円相当の利用価値があると考えることもできます。

ただし、その利用価値と年間管理費を同じ基準で比較する必要があります。


解体が合理的になる条件

解体が有利になるのは、次の差が十分に大きい場合です。

更地の売却手取り
-建物付きの売却手取り
>解体に必要な総費用

たとえば、建物付きでは100万円でしか売れないものの、更地なら500万円で売れ、解体総費用が200万円なら、解体後売却の方が有利になる可能性があります。

更地売却500万円
-解体費200万円
=300万円

建物付きの売却手取りが100万円なら、解体した方が200万円有利です。

しかし、更地価格が250万円にしかならない場合は、

更地売却250万円
-解体費200万円
=50万円

となり、建物付きで100万円で売る方が有利です。


空き家判断では「利益」だけでなく時間も評価する

空き家問題では、金額に表れにくい負担もあります。

たとえば、年6回現地へ行き、往復3時間、現地作業2時間なら、1回5時間です。

5時間 × 年6回 = 年30時間

10年間では300時間です。

自分の時間を1時間1,500円として評価すれば、

300時間 × 1,500円 = 45万円

となります。

交通費や作業道具代とは別に、45万円相当の時間を使っていることになります。

高齢になると、草刈り、清掃、屋根の確認などの作業も難しくなります。

今は自分で管理できても、5年後、10年後には業者へ依頼しなければならない可能性があります。

そのため、比較では現在の費用だけでなく、将来の管理能力も考える必要があります。


売却・賃貸の前に確認すべきこと

1.名義を確認する

法務局で登記事項証明書を取得し、所有者名義を確認します。

亡くなった方の名義であれば、相続関係を整理する必要があります。

相続人が複数いる場合は、一人だけの判断で売却や賃貸を進められないことがあります。

2.固定資産税の明細を確認する

固定資産税納税通知書などから、土地と建物それぞれの評価額、税額、所在地を確認します。

複数の土地がまとめて記載されていることもあるため、対象物件の範囲を確認します。

3.境界と接道を確認する

境界が不明確な土地や、公道に十分接していない土地では、売却や再建築が難しい場合があります。

測量図、公図、地積測量図、道路種別などを確認します。

4.建物状態を確認する

屋根、外壁、基礎、床、配管、電気、シロアリ、雨漏りなどを確認します。

賃貸を検討する場合は、「住めるか」ではなく、「他人へ安全に貸せるか」という基準で確認する必要があります。

5.残置物を確認する

家具、衣類、食器、家電、仏壇、農機具などが残っている場合、処分費がかかります。

相続人の合意なく処分すると問題になる物もあるため、所有関係の確認が必要です。

6.地域の需要を確認する

売却価格や家賃は、建物の広さだけでは決まりません。

  • 駅までの距離
  • スーパーまでの距離
  • 病院までの距離
  • 学校までの距離
  • 駐車可能台数
  • 道路幅
  • 災害リスク
  • インターネット環境
  • 水道・下水道
  • 地域の人口動向

などを確認します。

7.自治体の制度を確認する

自治体によっては、空き家バンク、解体補助、改修補助、家財処分補助などを設けている場合があります。

ただし、対象となる建物、申請時期、契約前の申請、所得制限などの条件があります。

工事や契約を始めてからでは申請できない制度もあるため、必ず事前に確認します。


相続した空き家を売る場合の税制にも注意する

相続した空き家を売却した場合、一定の要件を満たすと、譲渡所得から最高3,000万円を控除できる特例があります。

ただし、取得した相続人が3人以上の場合は、一人当たりの控除上限が2,000万円となる場合があり、対象となる建物や売却時期などにも細かな要件があります。

この特例は、売却価格から3,000万円が支給される制度ではありません。

売却によって生じた譲渡所得から、一定額を控除する制度です。

また、すべての相続空き家が対象になるわけではありません。

売却を検討する場合は、契約前に税務署や税理士へ確認することが重要です。


空き家の判断に使える簡易チェック表

次の項目に「はい」が多い選択肢ほど、検討の優先度が高いと考えられます。

売却を優先しやすい条件

  • 今後住む予定がない
  • 遠方にあり管理が難しい
  • 年間維持費が負担である
  • 賃貸需要が弱い
  • 建物の劣化が進んでいる
  • 相続人が複数いる
  • 現金化して相続人間で分けたい
  • 早めに管理責任から離れたい

賃貸を検討しやすい条件

  • 比較的少ない修繕で貸せる
  • 月額家賃を十分に確保できる
  • 周辺に賃貸需要がある
  • 駐車場がある
  • 管理を依頼できる事業者がいる
  • 10年以上保有する予定がある
  • 修繕費を負担できる
  • 空室があっても生活資金に影響しない

保有を検討しやすい条件

  • 数年以内に利用予定がある
  • 家族が将来住む可能性が高い
  • 定期的に利用している
  • 年間管理費を負担できる
  • 管理する人がいる
  • 保有期限を決めている
  • 建物状態が比較的良い
  • 土地の将来利用計画がある

解体を検討しやすい条件

  • 倒壊や部材落下の危険がある
  • 建物付きでは売れない
  • 更地にすると土地需要がある
  • 隣地所有者が購入を希望している
  • 解体後すぐに売却できる
  • 補助制度を利用できる
  • 建物の修繕価値が低い
  • 解体後の固定資産税を確認済みである

結論――今回の試算では売却が有利だが、判断の核心は条件整理にある

今回の試算では、10年間の収支は次のようになりました。

選択肢 概算結果
売却 約185万円
賃貸 約159万円
持ち続ける 約▲170万円
解体して保有 約▲210万円

この条件では、早期に売却する方法が最も有利です。

しかし、これは「地方の空き家はすべて売るべきだ」という意味ではありません。

建物状態が良く、安定した賃貸需要があり、少ない修繕費で貸せるなら、賃貸が有利になる可能性があります。

数年後に家族が利用する予定があるなら、一定期間の保有にも意味があります。

建物が危険な状態で、更地として高く売れるなら、解体後売却が有利になる可能性もあります。

重要なのは、感情や印象だけで決めず、次の数字を集めることです。

  1. 建物付きの売却価格
  2. 更地にした場合の土地価格
  3. 解体費
  4. 賃貸前の改修費
  5. 想定家賃
  6. 想定空室率
  7. 年間固定資産税
  8. 年間管理費
  9. 10年間の修繕費
  10. 10年後の予想売却価格

最低でも、この10項目をそろえて比較する必要があります。

空き家の判断を先送りすると、選択肢が増えるのではなく、建物の劣化によって選択肢が減ることがあります。

現在は貸せる状態でも、数年後には大規模修繕が必要になるかもしれません。

現在は建物付きで売却できても、将来は解体を条件にしなければ売れなくなるかもしれません。

そのため、今すぐ売るかどうかを決められなくても、現在の建物状態、維持費、売却価格、賃貸可能性だけは早めに確認しておくことが大切です。


空き家の選択肢を数字で比較したい方へ

空き家は、売却価格だけを見ても適切な判断はできません。

売る、貸す、持ち続ける、解体するという選択肢について、初期費用、年間維持費、修繕費、家賃、空室、将来の売却価値などを同じ条件で比較する必要があります。

当サイトでは、空き家の状況や所有者の将来予定を整理し、複数の選択肢を数字で比較するための支援を行っています。

結論を一方的に決めるのではなく、判断に必要な条件を整理することが目的です。

空き家の維持費や今後の扱いについて整理したい場合は、空き家に関するご案内をご覧ください。

個別の状況について確認したい方は、お問い合わせからご相談いただけます。