地域分析記事

地域の暮らしと地域課題を数学とデータで考える

 地方の集落を歩いていると、ときどき道路の下にあるものの大きさを想像したくなる。山あいに十数軒の家が並び、その先は森になっているような場所にも水道管は延びている。蛇口をひねれば、何キロメートルも離れた浄水場で処理された水が届く。それは近代日本が築いてきた公共インフラの成果であり、私たちは日常生活のなかで、その仕組みをほとんど意識することなく安全な水を使っている。

 ところが人口が増え続けることを前提として整備されてきた水道施設は、人口が減り続ける社会に入ると、これまでとは異なる問題を抱えるようになる。水道の問題というと、多くの場合は水道管の老朽化や漏水が話題になるが、人口減少地域で深刻なのは、古くなった管そのものだけではない。その管を経済的に支える住民が減っていくことである。

 地方の水道を将来も維持するには、古い水道管を新しいものへ交換し続けるしかないのだろうか。それとも、人口の少ない地域では、集落の近くで水を処理したり、必要な水を車両で運んだりする小規模分散型の方が合理的になるのだろうか。この問いは、単なる技術の比較ではなく、人口減少時代の公共サービスをどのような形で残すべきかという、地方自治と地域経済の根本的な問題につながっている。

人口が半減しても、水道管の長さは半分にならない

 国土交通省が公表した2023年度の統計によれば、全国の水道管路の総延長は約74万6000キロメートルに達し、そのうち法定耐用年数である40年を超えた管路の割合は25.3%となっている。一方、年間に更新される管路は約4500キロメートルで、全体の0.61%程度にとどまる。現在40年を超えている約18万9000キロメートルの管路を今後20年間で更新すると仮定すれば、年間約9400キロメートル、更新率では約1.3%が必要となり、現状のおよそ2倍の速度で工事を進めなければならない計算になる。

 ただし、ここでいう法定耐用年数40年は、すべての水道管が40年を経過すると物理的に使用できなくなるという意味ではない。実際の管路の寿命は、管の材質、地盤、腐食環境、水圧、施工状況、過去の漏水履歴などによって異なる。40年を超えた管路をすべて直ちに交換する必要があるわけではなく、健全度や耐震性能を調べ、更新の優先順位を決めることが重要である。また、今後20年間に必要な更新率の試算も、現時点ですでに40年を超えている管路を対象とした単純計算であり、将来新たに老朽化する管路の更新需要をすべて含んだものではない。

 それでも、水道管路の維持に大きな費用が必要になるという構造は変わらない。しかも人口減少地域では、水道の利用者が減っても、水道管の長さは同じ割合では減らない。仮に100人が暮らす集落まで3キロメートルの管路を延ばしているなら、一人当たりの管路延長は30メートルである。人口が50人になっても住宅の配置がそのままなら、必要な管路はほぼ3キロメートルのままであり、一人当たりでは60メートルになる。さらに25人まで減れば120メートルとなり、人口が4分の1になるだけで、一人当たりが支える管路延長は4倍に増える。

 人口が増えていた時代には、この性質は問題になりにくかった。一本の水道管を大勢で共有できれば、一人当たりの設備負担を小さくできるからである。しかし人口減少は、その計算を逆向きにする。利用者が減るほど一人が支える管路は長くなり、料金収入が減る一方で、道路の下に埋まっている管路の更新需要は残り続ける。人口減少地域の水道では、やがて「どれだけ水を使うか」だけでなく、「一人の生活を維持するために何メートルの管を支えなければならないか」が重要な経営指標になってくる。

 もっとも、一人当たりの管路延長が2倍になれば、一人当たりの水道費用も必ず2倍になるわけではない。水道事業の費用には、管路や浄水場など人口にかかわらず発生しやすい固定費と、水の使用量に応じて変化する電力費や薬品費などがあり、その構成は事業ごとに異なる。さらに料金収入は人口だけで決まるものではなく、企業や宿泊施設などの水需要、料金体系、漏水量、実際に料金収入につながる有収水量によっても変化する。したがって、一人当たり管路延長は水道経営の効率性を考える有力な指標ではあるが、それだけで事業の採算性や最適な給水方式を決めることはできない。

 人口減少には、水質管理上の問題もある。水道管の太さや配水施設の容量が従来のままで使用水量だけが減れば、管内に水が滞留する時間が長くなる場合がある。その結果、残留塩素濃度の低下や濁水の発生などを防ぐため、追加的な管理が必要になることもある。人口減少は単に水道料金を支える人を減らすだけでなく、従来の施設規模と実際の水需要との不均衡を生み出すのである。

国が「同じ水道を造り直す」以外の選択肢を示した

 この問題は、すでに研究者だけが議論している未来予測ではない。2026年3月31日、国土交通省は「水道事業における分散型システムの導入手引き」を公表し、従来の水道管網をそのまま更新する方法だけではなく、小規模な水道施設や運搬送水などを比較検討する考え方を示した。背景にあるのは、人口減少による料金収入の縮小、水道事業を担う職員の不足、施設の老朽化、自然災害への対応といった複数の課題である。

 手引きでは、分散型システムの導入を優先的に検討する地域の選定指標として、現在または将来の給水人口が100人以下、一人当たり管路延長が30メートル以上、法定耐用年数を超えた管路の割合が50%以上、または老朽化状況を十分に把握できていないことが示されている。これらは分散型への移行を義務づける条件ではなく、従来型の管路更新以外の方法も比較する価値が高い地域を見つけるための目安である。指標に該当しなくても、地形や管路の配置などによっては分散型が合理的になる可能性があり、反対に指標を満たしていても、従来型の方が有利な地域はあり得る。

 ここでいう給水人口100人以下とは、水道事業全体の給水人口が100人以下であることを意味しない。数万人に給水している水道事業であっても、その末端に位置する数十人の集落を対象に、分散型の導入を検討できる。つまり、自治体全体の水道を小規模施設へ置き換えるのではなく、人口や地形の条件が異なる地区ごとに最適な給水方式を選ぶという考え方である。

 実際にどちらが合理的かは、水源までの距離、地形、高低差、水質、既存施設の残存寿命、工事費、電力費、維持管理人員、将来人口、災害危険度などによって変わる。同じ人口50人の集落でも、近くに十分な水量と適切な水質を持つ地下水源がある場所と、水源そのものを確保しにくい場所では答えが違う。単に人口が少ないという理由だけで、全国一律に分散型へ切り替えることは合理的ではない。

 それでも国がこうした手引きを公表した意味は大きい。これまで水道政策では、既存施設をどう維持し、どう更新するかという議論が中心だったが、人口減少が進む地域では「本当に今と同じ形で更新する必要があるのか」という問いそのものが政策のなかに入ってきたからである。国土交通省が掲げる方向も、集中型を廃止して分散型へ全面的に移行するというものではなく、「集約型・分散型のベストミックスによる施設の最適配置」である。

大きな浄水場と小さな浄水場を比べても答えは出ない

 分散型の話をすると、「小さな浄水施設では効率が悪いのではないか」という疑問が生じる。これはもっともである。浄水処理だけを考えれば、大規模施設には一般に規模の経済が働きやすい。一つの設備で大量の水を処理すれば、設備費や運転管理費を多くの利用者で分担できるため、水量当たりの処理費用を低くしやすい。人口が密集した都市部で、大規模な浄水場と広域配水網が合理的になるのは、この仕組みが働くためである。

 ところが人口の少ない地域では、浄水に必要な費用だけを比較しても十分ではない。水をつくったあと、その水を何キロメートル運び、どれだけの管路を維持しなければならないのかまで考える必要がある。山の向こうに20戸しかない集落のために数キロメートルの老朽管を掘り返し、新しい管へ交換するのであれば、その集落の近くに小規模な浄水施設を設置した方が、浄水設備単体では割高でも、給水システム全体では安くなる可能性がある。

 つまり本当に比較すべきなのは、「大きな浄水場」と「小さな浄水場」ではない。「大きな浄水場と長い管路」と「小さな浄水施設と短い管路」という二つのシステム全体である。建設費だけでなく、維持管理費、修繕費、電力費、薬品費、設備更新費などを含めたLCC(Life Cycle Cost・ライフサイクルコスト、施設の建設から維持管理・更新までに必要となる総費用)を比較して初めて、どちらが経済的に有利なのかが見えてくる。

 この比較では、将来発生する費用を現在の価値に換算することも重要になる。例えば、建設時に多額の費用が必要でも、その後の維持管理費が小さい方式と、初期費用は安いものの毎年の運転費が高い方式では、評価する期間によって結論が変わる。一般に、将来の費用を現在価値へ換算する際には割引率を用いるが、その設定によっても比較結果は変化する。さらに人口減少、電力価格の上昇、工事単価の変動、設備寿命などについて複数の条件を設定し、結論がどの程度変わるかを調べる感度分析が必要になる。

 したがって、ある時点の工事費が安いという理由だけで分散型を選ぶことも、大規模施設の浄水単価が安いという理由だけで集中型を維持することも、十分な判断とはいえない。必要なのは、その地域で長期間にわたり、安全な水を安定して供給するための総費用を比較することである。

国の試算では、小規模水道施設が約25%安くなる事例もある

 国土交通省の2026年3月の手引きには、既存施設を更新し続ける案、浄水を車両などで運ぶ運搬送水、小規模な水道施設を設置する案を比較したケーススタディが掲載されている。このうち、全体の計画給水人口が約200人で、北部の対象地区が38人という事例では、15年間の概算費用について興味深い結果が示されている。

 既存施設を更新する案の15年間の概算費用は約8億500万円、運搬送水の案は約11億3200万円、小規模水道施設を整備する案は約6億700万円となっている。小規模水道施設を選んだ場合、既存施設の更新案より約1億9800万円、割合にして約25%安くなる計算である。これは、単に小型の浄水装置が安いという意味ではなく、長い管路の更新を減らせることによって、システム全体の費用が下がる可能性を示している。

 ただし、この数字を全国の人口減少地域へそのまま当てはめることはできない。試算は特定の水源、施設配置、配水管延長、工事単価、運転条件などを前提としており、15年間の整備費と維持管理費を比較した概算である。長期にわたる設備交換の不確実性や将来費用の現在価値評価まで、すべてを反映した完全な経済分析と同一視することはできない。また、この事例では運搬送水に1日25回の運搬が必要となる想定であり、運転手の人件費などが費用を押し上げている。人口が少なければ運搬送水が必ず安くなるというわけでもない。

 この試算から読み取るべきことは、「分散型なら必ず安い」という結論ではない。長大な管路を更新する費用まで含めると、従来型より小規模施設の方が安くなる条件が実際に存在するということである。どの方式が有利になるかは、地域ごとの人口、水需要、水源、運搬距離、設備構成によって変化するのであり、分散型が有利になる地域の割合や、全国で削減できる費用の総額まで、この事例から推計することはできない。

分散型水道と「水を循環させる家」は同じものではない

 ここで一つ、区別しておかなければならないことがある。現在、国が導入を具体的に検討している分散型水道と、住宅や小さな地域の内部で使用した水を再生して循環させる「小規模分散型水循環システム」は、同じ技術でも、同じ実用化段階にある仕組みでもない。

 現在の分散型水道として現実的に想定されているのは、集落の近くにある地下水や河川水などを小規模施設で処理して給水する方法や、別の浄水場で処理した水を車両などで運び、集落内の配水施設から供給する方法である。これらは従来の水道と同様に、外部の水源から取水し、必要な処理を行って利用者へ届ける仕組みであり、水を繰り返し循環させることを必須とするものではない。長い管路を維持する代わりに、水を処理する場所や運ぶ方法を変えるという考え方である。

 一方、さらにその先には、住宅や数戸の単位で水を循環させる仕組みが考えられている。雨水を集め、生活排水を処理して再利用することで、外部から新たに供給する水の量を少なくする。従来の水道が「遠くにある水源から水を送り続ける仕組み」だとすれば、こちらは「水を使う場所の近くで処理し、用途に応じて再利用する仕組み」であり、水供給のあり方を大きく変える可能性を持っている。

 実際、石川県珠洲市では、2024年の能登半島地震や土砂災害によって水道管の復旧が困難となった地域で、住宅向け小規模分散型水循環システムの実証が進められている。宝立町善野地区では、国の実証事業を活用して導入希望世帯へ設備が設置され、2025年12月22日から運用が開始された。これは、長大な水道管を復旧することが難しい地域において、別の水供給方式を実際の生活のなかで検証する取り組みである。

 ただし、実際の住宅で運用が始まったことと、全国どこでも長期間にわたり安定して利用できる技術として完成したことは異なる。年間を通した水質の安定性、装置の故障率、フィルターや膜の交換周期、電力供給、維持管理人員、交換部品の調達、設備更新を含む長期費用などについて、なお検証が必要である。2026年3月の分散型システム導入手引きでも、住宅単位の浄水装置などは技術実証が進行していることなどから、中心的な比較対象には含められていない。

 したがって、地方の水道が近い将来すべて家庭内循環型へ変わると考えるのは早すぎる。しかし、長大な管路を当然の前提とせず、地域の条件に応じて水を処理する場所や運ぶ距離を変えるという考え方が、政策と技術開発の双方で具体化し始めていることは確かである。

小規模になっても、水質基準まで小さくすることはできない

 小規模分散型の水道を考えるうえで、最も慎重な判断が必要になるのが水質管理である。飲料水には、病原微生物や有害な化学物質を十分に管理することが求められる。集落の近くに地下水や湧水が存在していても、その水がそのまま飲料水に適しているとは限らない。降雨による濁り、周辺の土地利用、土壌や地質の影響、微生物汚染などを調査し、必要な浄水処理を選ばなければならない。

 2026年4月1日からは、水道水に含まれるPFOS(Perfluorooctane Sulfonic Acid・ペルフルオロオクタンスルホン酸)とPFOA(Perfluorooctanoic Acid・ペルフルオロオクタン酸)について、両物質の合計で1リットル当たり50ナノグラム以下という水質基準が施行された。水道事業者等には、この基準を守り、必要な水質検査を実施することが求められる。大規模な浄水場だけでなく、小規模な水道施設においても、法令上適用される水質基準を満たすことが必要である。

 このような化学物質への対応では、水源の選定が経済性にも影響する。近くに水源があるからといって、その水を安い費用で飲料水にできるとは限らない。汚染物質の種類によっては、高度な処理設備や吸着材などが必要となり、小規模施設であっても設備費や維持管理費が大きくなる可能性がある。分散型の経済合理性を検証する際には、水源までの距離だけでなく、原水の水質と必要な処理水準を必ず評価しなければならない。

 また、雨水や生活排水を処理して再利用する場合には、飲用水と非飲用水の違いが重要になる。トイレ洗浄、散水などに利用する水と、飲料水や調理用水として利用する水では、求められる安全性や管理条件が異なる。再生水を利用する設備では、用途に応じた水質管理に加えて、飲用水の配管との誤接続や逆流を防ぐ対策も必要になる。水を繰り返し利用できること自体が、その水をあらゆる用途に安全に使用できることを意味するわけではない。

 分散型水道の導入で守らなければならないのは、単に水が出るという状態ではない。従来の水道と同等に、生活に必要な量と用途に応じた安全性を確保し、それを長期間維持できることである。管路を短くするために水質管理の水準を下げてよいという議論にはならないのである。

地震に強いのは集中型か、分散型か

 分散化にはもう一つ魅力的に見える点がある。災害時の強さである。2024年の能登半島地震では、水道施設や送配水管が被災し、広い範囲で断水が発生した。大きなネットワークでは、重要な浄水場、送水管、配水池などが損傷すると、その先に暮らす多数の住民へ影響が広がることがある。特に、遠隔地の集落が一本の長い管路に依存している場合、その管路が途中で損傷すると、集落全体への給水が止まる危険がある。

 だからといって、「集中型水道は災害に弱く、分散型なら強い」と結論づけることはできない。集中型水道でも、複数の水源を確保し、管路を環状につなぎ、耐震性の高い管や緊急連絡管を整備すれば、一か所が損傷しても別の経路から給水できる可能性がある。反対に分散型では、小さな設備が多数存在することによって、それぞれの設備の故障、水源汚染、停電、部品不足、保守人員不足という別のリスクが生まれる。

 災害に対する強さを評価するには、少なくとも三つの視点が必要である。一つは断水が発生する確率、二つ目は断水した場合に影響を受ける人口や区域の広さ、三つ目は供給を再開するまでの時間である。分散型は被害が広域へ波及することを防げる可能性がある一方、個々の設備に代替水源や非常用電源がなければ、その集落だけが長期間断水することも考えられる。

 重要なのは、災害リスクの種類が変わることである。大規模集中型では重要施設の障害が広い範囲へ波及する危険があり、分散型では障害の影響範囲を限定できる可能性がある。しかし、山間部の小規模水源が土砂災害の危険性の高い場所にあれば、その水源自体が集中型の水源より危険になる場合もある。どちらが災害に強いかという問いにも、全国共通の答えはない。

 それでも、人口が少なく、一本の長い管路に集落全体が依存している地域では、管路を短くできること自体に災害対策上の価値がある。長距離の送水経路で損傷箇所を調査し、道路や地盤の復旧と並行して管路を修復するよりも、集落内の小規模施設を修復する方が早い条件も考えられる。分散化の価値は「絶対に壊れないこと」ではなく、壊れたときの影響範囲を限定し、地域の条件によっては復旧の選択肢を増やせる可能性にある。

設備を分散させても、管理まで分散させる必要はない

 しかし、小規模施設を山間部にいくつも設置すれば、別の現実が待っている。水道は設備を置けば終わるものではない。フィルターを交換し、ポンプを整備し、水質を検査し、異常があれば原因を調べなければならない。水源によって必要な処理も異なれば、降雨や季節によって条件が変化することもある。小規模だから管理が簡単になるとは限らず、むしろ少ない人数で多くの施設を維持しなければならない場合もある。

 しかも人口減少地域では、水道を利用する住民だけでなく、水道施設を管理する技術者も減っていく。十数人しか住んでいない集落ごとに専門技術者を常駐させることなど現実的ではない。分散型水道が広がるほど、「小さな施設を多数設置した場合、誰が継続的に管理するのか」という問題が大きくなる。設備費だけが安くても、維持管理体制を構築できなければ、持続可能な水道とはいえない。

 そこで重要になるのが、「施設は分散しても、管理は統合する」という考え方である。水道技術研究センターでも、小規模水道を物理的には地域ごとに残しながら、管理を統合する分散ネットワーク型や、一部の施設を統合する方式が検討されてきた。地形的な制約によって浄水施設の統合が難しい地域でも、運転情報や管理体制を集約することで、専門人材を効率的に活用できる可能性がある。

 例えば、各集落に小規模な浄水施設を設置し、その流量、水位、水質に関する測定値、ポンプの運転状態などを遠隔監視する。通常時には専門技術者が複数の施設を巡回し、異常が検知された場合には必要な対応を行う。こうした仕組みが機能すれば、水道施設そのものを地域に分散させながら、専門技術や管理組織を広域的に維持することができる。

 もちろん、遠隔監視によって現場作業が不要になるわけではない。センサーが故障する場合もあれば、通信や電力が途絶える場合もあり、現地での水質検査、設備交換、災害対応は残る。さらに複数施設を一括管理する場合には、情報システムの安全性や通信障害への備えも必要になる。それでも、技術者が不足する人口減少地域において、施設を統合することと管理を統合することを別々に考える意義は大きい。

 人口減少時代には、すべての設備を一か所へ集めるよりも、必要な設備を地域に残し、情報と専門人材を集約する方が合理的な地域も現れるだろう。その実現には、自治体ごとに管理体制を分けるのではなく、近隣自治体や水道事業者間の連携を進めることも重要になる。

水道管を減らすには、技術だけでなく制度の検討も必要になる

 分散型水道への転換は、単に古い配水管を撤去して小さな浄水設備を設置すれば実現するものではない。水道法に基づく施設基準や水質基準を満たす必要があり、新しい水源を開発したり、浄水処理方式を変更したりする場合には、事業の変更認可などが必要になることがある。河川から取水する場合には河川法などの手続きが関係し、地下水を利用する場合には地方公共団体の採取規制や周辺の地下水利用への影響も確認しなければならない。

 さらに、長い配水管を廃止する場合には、消防水利の確保という問題も生じる。これまで水道管に設置された消火栓を利用していた地域では、管路を短縮することで消火活動に必要な水を確保できなくなる可能性がある。その場合には、防火水槽など別の消防水利を整備する必要があり、その費用も含めて比較しなければならない。生活用水を供給する費用だけを減らしても、地域全体の防災機能を損なうのであれば、社会的に合理的な転換とはいえない。

 また、国土交通省の2026年3月の手引きは、原則として既存の水道事業のなかで施設配置を最適化することを想定しており、分散型を導入した地区を当然に給水区域から切り離したり、別の料金体系で運営したりすることを前提としていない。ここは制度面で重要な点である。対象となる集落の人口が100人以下であっても、水道事業全体が水道法の対象であれば、集落単位の施設を設置するだけで水道事業者の責任がなくなるわけではない。

 住民への説明も欠かせない。従来の水道から別の給水方式へ変更する場合、住民が重視するのは事業費の削減だけではなく、水の安全性、水圧、断水時の対応、設備の管理責任、将来の料金負担などである。自治体にとって最も安い案であっても、住民に過大な保守負担を求めたり、従来より著しく不便な給水方法となったりする場合には、単純に合理的とはいえない。経済合理性と生活の継続性を両立させることが、水道政策には求められる。

一つの自治体に、一種類の水道しかない必要はない

 ここまで考えると、人口減少地域の水道問題は、集中型か分散型かという二者択一ではないことが分かる。町の中心部には人口がある程度集中しており、既存の浄水場や管路を多くの住民が共有できるため、従来型の水道を維持する方が合理的かもしれない。しかし、そこから山を越えた十数戸の集落まで数キロメートルの管を更新し続けるのであれば、小規模浄水施設や運搬送水の方が安くなる可能性がある。そのさらに外側に数戸しか住宅がなければ、将来的には各戸型の浄水装置や水循環技術が選択肢になる場合も考えられる。

 つまり、一つの自治体のなかでも、水道の姿が一種類である必要はない。中心部には従来型の水道があり、周辺集落には小規模水道施設があり、さらに遠隔地では別の給水方式を利用するという組み合わせも考えられる。国土交通省が「集約型・分散型のベストミックス」と表現しているのは、まさに地域の条件に応じた施設配置を選ぶという考え方である。

 この問題は、人口減少が進む地方自治体にとって、今後ますます重要になるだろう。例えば同じ自治体内でも、市街地、農村集落、中山間地域、海岸沿いの集落では、人口密度や住宅配置だけでなく、水源、標高、地盤、道路条件、災害リスクが大きく異なる。自治体全体の人口減少率だけを見ても、どの地区で水道の維持が難しくなるのかは分からない。実際に検討すべきなのは、自治体単位の平均値ではなく、一つの給水区域や配水系統ごとの条件である。

 そのためには、地区別の現在人口と将来人口、管路延長、管路の経過年数、漏水履歴、施設の残存寿命、給水量、有収水量、維持管理費などを整理し、複数の給水方式を比較する必要がある。特に将来人口については、自治体全体の推計値をそのまま各集落へ比例配分するだけでは不十分であり、地区ごとの年齢構成、住宅の分布、移住や転出の状況を踏まえて考える必要がある。人口が同じ50人でも、住宅が一か所に集中している集落と、広い山間部に点在している集落では、必要な管路の長さがまったく違うからである。

 人口が増え続けた時代、日本の社会基盤は「つなぐこと」によって豊かになった。道路を延ばし、電線を延ばし、通信網を整備し、水道管や下水管を延ばした。ネットワークへ接続される人が増えるほど、一人当たりの設備負担を小さくでき、全国の小さな集落まで都市部と同じようなサービスを届けることが可能になった。

 ところが人口が減り始めると、同じネットワークが反対方向へ動き始める。人が減るほど、一人のために維持しなければならない道路、水道管、電線、公共施設の量が増えていく。人口減少とは、単に公共サービスの利用者が減る現象ではなく、過去につくった大きなネットワークを、より少ない人数で支える社会へ移行することである。

 そう考えると、水道政策で守るべきものも少し違って見えてくる。守るべきなのは、何十年前に敷設した水道管そのものではない。住民が蛇口をひねったとき、安全な水を生活に必要な量だけ安定して使えることである。その生活を維持する方法が、必ずしも従来と同じ長い管路である必要はない。

2050年、地図から消えるのは「水道」ではなく「管路」かもしれない

 2050年の山間集落を一つの仮想的な将来像として考えてみよう。住民は30人しかいないが、集落そのものは残っている。数十年前なら、遠くの浄水場から何キロメートルもの管を延ばすことが近代化だった。しかしその頃には、集落の近くに小型浄水設備が置かれ、設備の状態は遠隔監視され、専門技術者が複数の地域を巡回しているかもしれない。ある住宅では雨水や再生水が生活用水の一部として利用され、外部から供給する水の量そのものが少なくなっている可能性もある。

 ただし、これは現在の政策や技術開発の方向から考えられる将来シナリオであり、統計的に実証された2050年の予測ではない。実際にどれほどの集落で分散型が導入されるのか、全国の水道管が何キロメートル減るのか、家庭内水循環がどの程度普及するのかについて、確定的な数値を示せる段階にはない。技術の成熟度、人口の変化、水道事業の財政、国の支援制度、住民の意向によって、将来の姿は大きく変わる。

 もちろん、全国がこの形になるわけではない。水源が乏しい地域では従来型の水道を残す方が安全かもしれず、人口が比較的密集している地域なら既存管路を更新した方が安い。逆に、水源に恵まれ、住宅が点在し、給水人口に対して管路だけが長い地域では、分散型への転換が合理的になるかもしれない。正解は特定の技術への期待や政策思想から決まるのではなく、地域ごとの費用、人口、水質、災害リスクなどを比較した結果から判断すべきものである。

 だから人口減少時代の水道に必要なのは、「集中型を守るか、分散型へ変えるか」という思想的な対立ではない。何人が暮らし、何キロメートルの管を維持し、いつ更新が必要になり、別の方法ならどの程度の費用とリスクになるのかを、一つの給水区域ごとに計算することである。その際には初期投資だけでなく、数十年間の維持管理、設備更新、災害対応、水質管理まで含めて比較しなければならない。その計算を積み重ねることで、ある場所では長い管路を維持し、別の場所では管路を短縮するという選択が可能になる。

 将来、地方の地図から少しずつ姿を消していくものは、水道そのものではないのかもしれない。人口の少なくなった土地を何キロメートルも走る長い水道管の一部が更新されず、その代わりに水を使う場所の近くで処理し、必要に応じて運び、将来的には一部を循環させる小さな仕組みが利用される可能性がある。

 人口増加時代の水道は、遠く離れた人々を一本のネットワークへつなぐことによって発展した。しかし人口減少時代には、そのネットワークのどの部分を維持し、どの部分を短くするかという判断が、水道を守るうえで重要になってくる。すべての管路を残すことが、必ずしも住民の生活を最も確実に守る方法とは限らないのである。

 私たちが本当に守りたいのは、水道管なのではない。蛇口から安全な水が出るという生活である。その目的を長期間維持するためなら、むしろ水道管を減らすことが合理的になる地域が、これから日本の各地に現れる可能性がある。重要なのは、管路を減らすこと自体を目的にするのではなく、住民の安全性と生活の利便性を確保しながら、将来世代まで維持できる水供給の仕組みを選ぶことである。

地域の課題を、自分の判断に置き換えて考える

弊社では、住まい・車・移住などの大きな選択を、 費用や将来条件をもとに数字で比較し、判断できる形に整理しています。

数字で比較するサービスを見る

 地方の道路を車で走っていると、橋を渡ったことにさえ気づかないことがあります。大きな川を渡る長い橋ではなく、住宅地の間を流れる小さな川、田んぼの脇を通る水路、谷あいの細い沢などに架かる、長さ数メートルから十数メートルほどの橋です。毎日の買い物や通勤、通学に利用され、救急車やごみ収集車も通りますが、普段からその橋を社会インフラとして意識している人は、それほど多くないでしょう。

 しかし、こうした小さな橋も永久に使えるわけではありません。日本では高度経済成長期以降に道路や橋が集中的に整備され、その多くが建設から数十年を経過しています。国土交通省が2026年8月に公表した「2025年度道路メンテナンス年報」によると、建設後50年以上を経過した道路橋は、2018年度末の約13万橋から2025年度末には約24万橋へ増加し、建設年度が確認できる橋梁に占める割合も27%から44%へ上昇しました。国土交通省が過去に示した将来推計では、2033年に約63%に達すると見込まれており、橋梁の高齢化が長期的な課題であることは明らかです。

 もちろん、建設から50年が経過した瞬間に橋が危険になるわけではありません。橋の健全性は構造形式、使用材料、交通量、車両重量、塩害、雨水、施工品質、補修履歴などによって異なります。適切な維持管理によって長期間使用できる橋がある一方、比較的新しい橋でも重大な損傷が発生する場合があります。また、全国統計には建設年度が不明な橋梁も存在するため、経過年数だけで橋の安全性を判断することはできません。

 それでも、地方自治体が今後直面する課題は変わりません。橋が古くなること自体よりも、人口が減少するなかで、誰が、どのような財源と技術を使い、どの橋をいつまで維持するのかという問題が、これまで以上に重要になっていきます。

橋は造ったら終わりの施設ではない

 橋というと、建設するときに多額の費用が必要な施設という印象があります。しかし実際には、完成した後も長期間にわたる点検、補修、更新が必要です。橋面の舗装や排水設備、コンクリート内部の鉄筋、鋼材、支承、橋台などは、雨水や湿気、車両の荷重、温度変化、地震などの影響を受け続けます。外観からは分からない内部の腐食や疲労もあり、表面がきれいに見えるから安全とは限りません。

 日本では2013年度の道路法改正などを受け、2014年度から道路管理者に対して、道路橋などの定期点検を5年に1回を基本として実施することが義務付けられています。2018年度までに1巡目、2023年度までに2巡目の点検が終了し、2024年度からは3巡目が始まっています。点検では近接目視、またはそれと同等の健全性評価が可能な方法によって状態を確認し、診断結果を4段階に分類します。

 最も状態がよい区分Ⅰは健全、区分Ⅱは予防保全段階、区分Ⅲは早期措置段階、区分Ⅳは緊急措置段階とされています。区分Ⅲは構造物の機能に支障が生じる可能性があり、早期に措置を講じるべき状態であり、区分Ⅳは機能に支障が生じているか、その可能性が著しく高く、緊急の措置を必要とする状態です。ただし、区分Ⅲと判定された橋が直ちに通行不能になるわけではなく、具体的な対応は損傷の内容や構造上の安全性などによって判断されます。

 こうした制度の下で、橋の維持管理は点検、診断、措置、記録を繰り返す仕組みになっています。一度建設して50年間そのまま使用するのではなく、劣化の状況を継続的に把握し、必要な時期に適切な対策を実施することで、安全性と使用可能な期間を確保する考え方です。

 なお、国の道路橋統計や定期点検制度は、原則として橋長2メートル以上の道路橋を対象としています。農業用水路などに架かるすべての小規模構造物が、同じ制度や統計に含まれるわけではありません。地域全体の橋梁問題を分析する際には、施設の管理者と制度上の対象範囲も確認する必要があります。

人口が半分になっても橋は半分にならない

 橋の老朽化は全国共通の問題ですが、人口減少が進む地方では、維持管理の難しさが異なる形で表れます。都市部では利用者の多い橋が多数存在する一方、地方には一日に数十台程度しか車が通らない橋や、少数の世帯が主に利用する橋もあります。それでも、橋が必要とされる限り、点検や補修を省略できるわけではありません。

 例えば、人口1万人の町に100橋あり、その維持管理費用が年間を通じて一定だったと仮定します。30年後に人口が5,000人になっても、橋の数が自動的に50橋へ減少することはありません。100橋をそのまま維持し、必要な年間費用も変わらなければ、人口一人当たりの費用相当額は単純計算で2倍になります。

 もっとも、これは維持管理費用が一定であるという条件を置いたモデルです。実際の費用は補修時期、工事単価、劣化状況、管理方法などによって変化します。仮に人口が半減する一方で年間維持管理費が20%増加すれば、人口一人当たりの費用相当額は現在の2.4倍になります。逆に橋の集約や管理方法の効率化によって総費用を減らせれば、その増加を一定程度抑えることもできます。

 また、人口一人当たりの費用相当額が2倍になることは、住民一人当たりの税負担がそのまま2倍になることを意味しません。道路橋は国庫補助や地方交付税、地方債などを組み合わせて維持される場合があり、町外からの通勤者や観光客なども利用します。したがって、橋の管理費を自治体人口だけで割った数字は財政負担の構造を理解するための指標であって、住民が実際に支払う金額を示すものではありません。

 それでも、人口が減少しても道路や橋の数が同じ割合では減らないという構造的な問題は残ります。行政区域の面積や集落の分布が大きく変わらなければ、人口が少なくなっても広範囲の交通網を維持する必要があります。道路、水道、下水道などと同じく、橋も人口減少に応じて維持管理費を簡単に縮小できない社会インフラの一つなのです。

小さな橋だから安く架け替えられるとは限らない

 橋の維持管理を考える際に注意したいのは、小さな橋なら容易に補修や架け替えができるとは限らないことです。確かに、大規模な河川橋や長大橋に比べれば構造物そのものの規模は小さいでしょう。しかし、橋の工事費用は長さだけで決まるわけではありません。

 架け替えには現地調査、測量、地質調査、構造設計、河川管理者などとの協議、既存橋の撤去、基礎工事、新しい橋の建設などが必要になる場合があります。橋の場所によっては工事中の仮設道路や仮設橋、交通誘導、周辺道路の改良も必要です。地盤が悪い場所や施工機械を搬入しにくい場所、豪雨時に水位が大きく上昇する河川などでは、橋が短くても工事条件が複雑になる可能性があります。

 ただし、老朽化した橋がすべて架け替えを必要とするわけではありません。床版の補修、コンクリートの断面修復、鋼材の防食、支承の交換、補強工事などによって使用を継続できる場合もあります。損傷の程度によっては重量制限や通行規制を設けながら管理する方法も考えられますが、必要な安全性を確保できない場合には通行止めや更新を検討しなければなりません。

 つまり、自治体には補修する、補強する、架け替える、利用を制限する、別の道路へ交通を振り替える、廃止するという複数の選択肢があります。それぞれの費用と効果は橋ごとに異なり、単純に古い橋から順番に架け替える方法が最も合理的とは限りません。

 特に地方では、利用者が少ない一方で代替道路が存在しない橋もあります。数メートルの橋であっても、それが集落から幹線道路へ出る唯一の経路であれば、社会的な重要性は橋の長さや交通量だけでは判断できません。

橋が一本なくなると地域では何が起こるのか

 老朽化した橋が通行止めになった場合、地図上では近くの別の橋を使えばよいように見えることがあります。しかし、代替道路までの距離や道路幅、通行可能な車両、所要時間によって、住民生活への影響は大きく変わります。

 例えば、診療所まで車で10分だった地域が橋の通行止めによって15分かかるようになった場合、個人の通院時間が延びるだけではありません。訪問介護や訪問看護の職員が移動に使う時間が増えれば、一日に訪問できる件数が減少する可能性があります。ごみ収集車、宅配便、郵便、スクールバスなどについても、迂回により走行距離や労働時間、燃料費が増加することが考えられます。

 仮に一日に50台が利用する橋を廃止し、利用車両がすべて片道3キロメートル余計に走行するとすれば、年間の追加走行距離は約5万4,750キロメートルになります。これは説明のための仮定ですが、交通量が少なくても、迂回による社会的な費用が長期間積み重なることを示しています。実際の政策判断では、通行する車の種類、利用頻度、時間帯、追加所要時間、燃料費、道路の安全性などを個別に評価する必要があります。

 さらに重要なのが救急や消防への影響です。橋の廃止によって救急車の到着時間や搬送時間が延びる可能性がある場合、その影響は通常の通勤や買い物とは異なる観点から検討しなければなりません。ただし、搬送時間が数分延びることと患者の死亡率が一定割合上昇することは同義ではなく、疾患の種類、患者の状態、救急医療体制、代替経路などによって結果は異なります。単純な時間差から健康被害を断定することはできません。

 道路網を一つのネットワークとして考えると、橋は離れた道路を接続する重要な部分です。一本の橋がなくなっても別の経路で移動できる場合と、その橋を失うことで集落が道路網から切り離される場合とでは、社会的な影響は大きく異なります。橋の重要性を評価するには、通行台数だけでなく、迂回可能性、集落の孤立リスク、医療・介護・物流との関係を合わせて考える必要があります。

問題は財政だけではなく、技術者にもある

 地方自治体が橋を維持するうえで、財源と並んで重要になるのが専門技術者の確保です。橋の点検や補修には、損傷を発見する技術だけでなく、その原因を推定し、構造上の安全性を評価し、適切な対策を選択する能力が必要です。発注者である自治体側にも、設計内容や工事品質、点検結果を確認できる体制が求められます。

 国土交通省の2025年度道路メンテナンス年報によると、2026年5月時点で橋梁管理に携わる土木技術者が0人の自治体は、市・区で3%、町で20%、村で57%となっています。特に村では半数以上が該当しており、小規模自治体における技術者確保の難しさが数字にも表れています。

 一方、この状況を一方的な悪化として捉えることも正確ではありません。2014年11月時点には土木技術者が0人の割合が市・区で9%、町で29%、村で63%だったため、2026年にはいずれも減少しています。技術職員の確保や組織体制の見直しなどが進められている可能性があり、改善が見られる点も評価すべきでしょう。

 ただし、自治体に専門技術者がいないからといって、直ちに点検が実施できないわけではありません。専門企業への委託や都道府県による技術支援、国の研修制度、自治体間の共同発注などによって業務を実施する方法があります。問題は、点検や工事を外部へ委託する場合でも、発注内容を決定し、結果を評価し、次の対策につなげる行政側の管理能力が必要になることです。

 人口減少社会では、自治体職員だけでなく、地域の建設会社や技術者、施工管理者、交通誘導員などの確保も課題になり得ます。ただし、建設業の就業者数や技術者数が将来どの程度減少するかは、地域の雇用環境、賃金水準、技術革新、広域的な事業者の参入などによって変わります。したがって、30年後に工事を引き受ける企業がいなくなると断定することはできませんが、予算を確保できても必要な時期に工事を発注・施工できないリスクは、今後の管理計画に織り込む必要があります。

橋の費用は町だけが負担しているわけではない

 地方の橋梁問題を考えるとき、自治体財政の厳しさだけを取り上げると、実際の制度を十分に説明したことにはなりません。道路橋の維持管理には国の財政支援制度が存在し、2020年度には道路メンテナンス事業補助制度が創設されています。地方公共団体はこの制度などを活用しながら、橋の点検、修繕、更新、集約・撤去に取り組んでいます。

 国土交通省の2025年度の集計では、市区町村が実施した橋梁の委託点検について、報告対象となった橋梁の99%で道路メンテナンス事業補助制度が活用されていました。また、修繕を実施した報告対象橋梁では88%で同制度が活用されています。ただし、これらは橋梁数を基に集計した割合であり、工事費や点検費の99%、88%を国が負担しているという意味ではありません。

 国の補助制度が存在しても、自治体に負担が残ることや、国全体の財源に限界があることは変わりません。また、橋梁以外にも道路舗装、水道、下水道、学校、公共施設、防災設備などの維持管理費用が必要であり、それぞれの事業について優先順位を考えなければなりません。

 したがって、地方の橋梁問題は単純に人口の少ない町が橋を維持できるかという問題ではなく、国と地方の財政負担をどのように分担し、限られた予算をどの橋に配分するかという制度上の課題でもあります。国庫補助を活用しながら予防保全を進めることが重要である一方、必要性の低下した施設まで無条件に維持し続けることが合理的とは限りません。

大多喜町では橋の集約・撤去が既に計画されている

 この問題は全国的な将来予測にとどまりません。千葉県夷隅地域でも、橋の高齢化と維持管理の効率化は現実の政策課題になっています。その具体例として、大多喜町が2025年3月に改訂した「橋梁長寿命化修繕計画書」を見ると、地方の橋が置かれている状況を確認できます。

 計画によると、大多喜町が管理する橋梁は2024年度時点で76橋あり、そのうち建設後50年以上を経過した橋は29橋で、全体の38%を占めていました。さらに、2024年度時点の管理橋梁を対象とした計画上の見込みでは、20年後の2044年度に建設後50年以上となる橋が70橋、全体の約92%に達するとされています。

 この92%という数字は、2044年度に町の橋の92%が危険な状態になることを意味しません。建設から50年以上を経過する橋の割合であり、構造上の健全性や使用可能な期間は個々の橋によって異なります。しかし、管理する橋の大部分が同じ時期に高齢化していくことは、点検、補修、更新に必要な費用と人材を計画的に確保する必要性を示しています。

 注目したいのは、大多喜町が予防保全だけでなく、橋の集約・撤去も維持管理計画に盛り込んでいることです。計画では今後10年以内に3橋、それ以降に2橋を廃止し、橋梁の集約化を進める方針が示されています。対象を検討する際には、既に通行止めになっている橋、代替道路の整備によって利用が減少した橋、流失を繰り返す沈下橋などの条件が考慮されています。

 また、集約・撤去によって今後50年間の維持管理費を約1,560万円削減することが目標として示されています。ただし、この金額は計画上の費用縮減目標であり、既に実現した削減額ではありません。実際の効果は撤去の実施時期や費用、代替道路の管理状況などによって変化します。

 重要なのは、この方針がすべての古い橋を残せないという結論から直ちに導かれたものではないことです。町は橋の利用状況や代替道路の存在などを考慮し、管理方法を区分したうえで、必要な橋には予防保全を進め、集約が可能な橋については撤去を検討するという対応を取っています。さらに、撤去に際しては地域住民の理解と協力が必要であり、地元との合意形成を進めながら検討するとしています。

 御宿町、いすみ市、勝浦市などでも、それぞれ橋梁長寿命化修繕計画が公表されています。ただし、各自治体では管理橋梁数、橋の構造、交通量、地域の地形、財政規模が異なるため、同じ数の橋を保有しているからといって維持管理の負担も同じとは限りません。地域の橋梁問題をより正確に理解するには、橋の本数だけでなく、健全度、橋長、修繕予定、代替経路などを比較することが必要です。

 大多喜町の事例は、地方の橋梁問題が「いつか維持できなくなるかもしれない」という抽象的な懸念ではなく、既に具体的な管理方針や集約・撤去計画として自治体の行政運営に組み込まれていることを示しています。

予防保全によって未来は変えられる

 ここまで見ると、橋の老朽化によって地方の交通網が縮小していくように感じられるかもしれません。しかし、実際のデータを見ると、老朽化が進む一方で改善している指標もあります。

 国土交通省の2025年度道路メンテナンス年報によると、建設後50年以上の道路橋は2018年度末の約13万橋から2025年度末には約24万橋へ増加しました。一方、最新の点検結果で早期措置段階または緊急措置段階と判定された橋は、2018年度末の約6万9千橋から2025年度末には約5万1千橋へ減少しています。

 この二つの数値は、橋が古くなることと、安全性の低下が必ずしも同じ速度で進むわけではないことを示しています。補修、更新、撤去などの管理対策が進められていることは確かですが、判定区分Ⅲ・Ⅳの橋が減少した原因をすべて予防保全の成果と断定することはできません。管理対象や施設の構成の変化なども考慮する必要があります。

 予防保全とは、構造物の損傷が深刻になる前に適切な措置を講じ、大規模修繕や架け替えが必要になる時期をできるだけ遅らせる考え方です。例えば、排水不良を早期に改善し、鋼材の腐食やコンクリート内部の劣化が進行する条件を抑えられれば、将来必要となる修繕費用を減らせる可能性があります。

 このとき重要になるのが、橋を造ってから使用を終えるまでの総費用です。建設費だけでなく、定期点検、日常管理、補修、補強、更新、撤去までを含めた費用を比較し、長期的に合理的な管理方法を選ぶ必要があります。初期費用を抑えるために補修を先送りした結果、将来の大規模工事が必要になれば、かえって総費用が増える場合もあります。

 ただし、予防保全が常に最も安価になるわけではありません。利用状況が変化し、将来的に廃止や集約が適切と判断される橋に対して、長期間の使用を前提とした大規模補強を行うことが合理的とは限らないからです。予防保全の効果を最大限に生かすには、その橋が今後も地域に必要とされるかという判断と組み合わせることが重要です。

すべての橋を同じように維持する必要があるのか

 人口減少が進む地域では、今後すべての橋を同じ基準で管理することが最適とは限りません。橋によって健全性、交通量、迂回可能性、社会的な重要性が異なるため、それぞれに必要な管理水準を設定する考え方が求められます。

 例えば、一日に5,000台が利用する橋と50台しか利用しない橋があれば、交通量だけを基準とした費用対効果では前者の重要性が高く評価されやすいでしょう。しかし、後者が20世帯の集落から外部へ出る唯一の道路に位置している場合、その橋を廃止することで集落が孤立する可能性があります。一方、交通量が少なく、近くに安全な代替道路が整備されている橋であれば、集約による維持管理費用の削減を検討できるかもしれません。

 したがって、橋の優先順位は通行台数だけで決めるべきではありません。道路網の中での位置、救急車や消防車の通行、通学路としての役割、農業や地域産業への影響、代替経路の所要時間、災害時の避難や救援活動への重要性などを考慮する必要があります。

 また、費用対効果の分析では、橋を維持する費用だけでなく、撤去した場合に生じる社会的な損失も評価しなければなりません。橋の撤去によって将来の点検費や修繕費が減っても、住民の移動時間が増えたり、代替道路の改良が必要になったりすれば、その費用も含めた比較が必要です。

 逆に、橋を維持することによる便益を過大評価することも避けなければなりません。近隣に十分な代替道路があり、交通や生活への影響が小さい場合には、限られた財源を別の重要な橋へ配分する方が地域全体の利益につながる可能性があります。

 ここで行政に求められるのは、人口が少ない地区の橋だから優先順位を下げるという機械的な判断でも、すべての橋を永久に残すという一律の方針でもありません。各橋の安全性と社会的役割を客観的に評価し、その判断根拠を住民に説明することです。

橋の集約・撤去は既に全国的な政策課題になっている

 国土交通省は道路施設の長寿命化を進める一方、利用状況や地域の実情に応じた集約・撤去も選択肢として示しています。2022年には道路橋の集約・撤去事例集を公表し、その後も地方自治体が取り組みを検討するための支援を進めてきました。

 2025年度末の国土交通省の集計では、道路施設の集約・撤去・機能縮小などを検討した地方公共団体の割合は97%に達しています。ただし、これは検討に取り組んだ自治体の割合であり、97%の自治体が橋の撤去を決定したという意味ではありません。検討することと実際に廃止することは、明確に区別しなければなりません。

 また、橋を撤去するという判断には、技術的・経済的な合理性だけでなく、住民の生活や地域の将来に関わる問題が伴います。橋の利用者が少ないからといって、その人たちの生活上の必要性まで小さいとは限りません。特に高齢者世帯や自動車以外の移動手段が乏しい地区では、わずかな迂回でも大きな負担になる場合があります。

 一方、既に通行止めとなり、代替道路が整備され、今後の利用も限定的と考えられる橋を維持し続けることが、常に公共の利益にかなうとは限りません。点検や安全対策には継続的な費用が発生するため、将来の利用見通しと管理負担を踏まえた判断が必要になります。

 そのため、集約・撤去を進める場合には、橋の現状と利用実態を調査し、代替道路の安全性や災害時の通行可能性を検証したうえで、住民との合意形成を図ることが重要になります。橋を減らすこと自体を政策目標にするのではなく、必要な交通機能をどのように確保するかという観点から考えるべきでしょう。

高齢化が進む地域ほど橋を残す必要があるのか

 地方の交通インフラを考える際には、高齢化との関係も重要です。しかし、人口が減少する地域では、将来も高齢者の人数が増え続けるとは限りません。

 国立社会保障・人口問題研究所が2023年に公表した地域別将来推計人口では、2050年の65歳以上人口が2020年を下回る市区町村が全国の約7割に上るとされています。既に人口減少が進んだ地域では、高齢化率が高い状態のまま、高齢者の絶対数も減少することが考えられます。

 したがって、「高齢者が増えるから橋の維持がますます必要になる」と単純に説明することは正確ではありません。重要なのは高齢者数だけでなく、75歳以上人口の構成、単身世帯の割合、自動車の利用可能性、公共交通の運行状況、医療・介護サービスへのアクセスなどです。

 例えば、ある地区で住民の人数が減少しても、移動手段を持たない世帯の割合が高まれば、限られた道路や橋の重要性が相対的に増す場合があります。一方、人口減少によって通行台数や訪問サービスの需要そのものが減り、既存の道路網を見直す余地が生まれる地域もあるでしょう。

 つまり、橋の必要性は人口の絶対数や高齢化率だけでは判断できません。地域に住む人がどのような生活を送り、どの道路を使い、どの施設へ移動する必要があるのかという具体的な条件を確認する必要があります。

30年後の橋を守る方法は変わる可能性がある

 では、2050年代の地方の橋を誰が管理するのでしょうか。現在の制度では、道路管理者がそれぞれの管理責任を負いますが、将来もすべての自治体が現在と同じ職員体制や発注方法で管理を続けることが最も合理的とは限りません。

 考えられる方法の一つは、複数自治体による共同管理や共同発注です。小規模自治体がそれぞれ少数の橋を個別に点検・補修するよりも、広域的に業務をまとめることで、技術者の確保や発注事務の効率化、工事時期の調整などを進められる可能性があります。ただし、地理的に離れた橋を一括発注しても必ず費用が下がるとは限らず、移動費や施工条件の違いなどを考慮する必要があります。

 もう一つは、国や都道府県による技術支援の強化です。専門技術者が少ない自治体でも、広域的な技術支援や研修、必要に応じた国による診断・修繕の支援を活用することで、管理能力を補うことが考えられます。橋の所有者や管理者の責任を明確にしたまま、専門的な判断や事業実施を広域的に支える仕組みが重要になります。

 新技術の活用も選択肢です。ドローンによる撮影、画像解析、各種センサー、点検記録の電子化などは、点検作業の効率化や損傷状況の継続的な把握に役立つ可能性があります。人工知能を用いた画像解析も、損傷の見落とし防止や記録整理を支援する手段になり得ますが、橋の内部劣化や構造上の安全性を画像だけで完全に判断できるわけではありません。新技術は専門技術者の判断を補助するものであり、必要な点検や診断を無条件に省略できるという意味ではありません。

 大多喜町の橋梁長寿命化修繕計画でも新技術の導入が検討されており、2029年度までに管理橋梁の約2割で新技術を用いた点検や補修を実施し、維持管理費用を約6%縮減することを目標としています。これは既に削減が実現した数字ではありませんが、小規模自治体でも技術の導入による効率化を具体的に計画していることを示しています。

 今後は、広域連携、国や県の技術支援、予防保全、新技術の活用、橋の集約・撤去などを組み合わせることで、限られた財源と人材の中でも交通機能を維持できる可能性があります。ただし、その実現には継続的な制度運営と予算確保が必要であり、技術革新だけですべての問題が解決するわけではありません。

30年後に何本の橋が残るかは、まだ分からない

 ここで確認しておきたいのは、現在の統計だけから30年後に廃止される橋の本数や、架け替えが不可能になる自治体の数を予測することはできないという点です。

 将来の橋梁維持管理には、人口の増減、自治体財政、建設工事費、技術者の確保状況、橋の健全性、補修技術、国の補助制度、集落の分布など、多くの要因が関係します。人口が大きく減少したとしても、国の支援や管理技術の進歩によって重要な橋を維持できる地域がある一方、比較的人口減少が緩やかな自治体でも、多額の更新費用が特定の時期に集中すれば財政上の問題が生じる可能性があります。

 また、橋を架け替えられないことと、架け替えないことは異なります。財政や技術上の制約によって更新が困難な場合もあれば、代替道路が存在するため、公共事業としての合理性を検討した結果、架け替えを選択しない場合もあります。この違いを明確にしなければ、橋の撤去をすべて財政破綻の結果として捉える誤解につながります。

 必要なのは、危機を強調することだけではありません。管理する橋について、今後どの時期に点検や補修が必要となり、更新費用がどの程度発生し、人口や交通需要がどのように変化するのかを複数の条件で推計することです。その結果を基に、維持すべき橋、補強して使用する橋、代替道路を整備する橋、集約・撤去を検討する橋を区分し、長期的な財政計画に反映させることが求められます。

橋がなくなる前に地域で考えるべきこと

 地方に暮らしていると、近所にある小さな橋が地域の将来を左右するとは、なかなか考えないかもしれません。しかし、30年という時間で見れば、橋の高齢化と人口構造の変化は確実に進みます。地域によって人口減少の速度や高齢者の人数は異なりますが、現在ある橋を今後も維持するためには、点検や補修に必要な費用と技術を確保し続けなければなりません。

 一方、全国の橋が一斉に危険になっているわけではありません。国土交通省の統計では、建設後50年以上の橋が増加するなかでも、早期または緊急に措置が必要な橋は減少しており、維持管理によって改善できる余地があることも示されています。今後の課題は、こうした対策を継続しながら、人口減少や財政制約に応じて管理方法を見直すことです。

 大多喜町のように、予防保全と橋の集約・撤去を組み合わせた計画を策定している自治体もあります。こうした取り組みは、橋を減らすことを目的としたものではなく、限られた財源の中で必要な交通機能を維持するための選択肢として理解すべきでしょう。

 ただし、橋の必要性を行政だけで判断することには限界があります。普段の交通量が少なくても、特定の住民にとって重要な橋があり、災害時に代替経路として機能する橋もあります。地域の道路網を見直すときには、点検結果や修繕費用だけでなく、住民の生活実態、緊急車両の通行、公共交通や福祉サービスへの影響を把握することが不可欠です。

 30年後の地方の橋を誰が守るのかという問いに対して、現在の段階で一つの答えを示すことはできません。国や都道府県の支援、自治体同士の広域連携、専門企業による点検・補修、技術革新、住民との合意形成など、多くの仕組みを組み合わせる必要があるでしょう。

 目立たない小さな橋の向こうには、数軒の住宅しかないかもしれません。しかし、その数軒に暮らす人にとって、橋は病院へ行く道であり、食料を買いに行く道であり、救急車や消防車が入ってくる道でもあります。一方で、同じ地域の中には、代替道路の整備によって以前ほど利用されなくなった橋も存在するでしょう。

 重要なのは、すべての橋を無条件に残すことでも、人口が少ないからという理由だけで廃止することでもありません。橋の安全性、将来の維持管理費用、道路網の代替性、住民生活への影響をできる限り客観的に評価し、地域として納得できる判断を積み重ねることです。

 地方の小さな橋を30年後誰が守るのか。この問いは、人口が減少する地域において、限られた社会資源をどのように配分し、人々が暮らし続けるために必要な交通機能をどこまで確保するのかという、地域社会全体の課題なのです。

地域の課題を、自分の判断に置き換えて考える

弊社では、住まい・車・移住などの大きな選択を、 費用や将来条件をもとに数字で比較し、判断できる形に整理しています。

数字で比較するサービスを見る

 病院や診療所で診察を受けられれば、それで医療が完結するわけではありません。薬による治療が必要な場合には、処方された医薬品を患者が適切に受け取り、正しく使用できることまで含めて考える必要があります。特に高齢者にとっては、医療機関までの移動に加え、薬を受け取るための移動や待ち時間も、通院に伴う重要な負担になります。

 現在の日本では、医療機関で発行された処方箋を保険薬局へ持参し、薬剤師による調剤と服薬指導を受ける院外処方が広く普及しています。一方、医療機関内で薬を受け取る院内処方も存在し、条件によってはオンライン服薬指導や配送を利用することもできます。そのため、すべての患者が診察後に薬局へ移動するわけではありませんが、地域の薬局が医療へのアクセスを支える重要な存在であることに変わりはありません。

 人口減少が進む地方では、病院や診療所の統廃合、医師不足、救急医療の維持などが大きな問題として取り上げられています。しかし、診察を受けた後に必要となる医薬品の供給体制については、医療機関そのものの存続問題ほど注目されていないように思われます。仮に病院や診療所が残っていても、近隣の薬局が閉局したり、営業時間が短縮されたりすれば、住民が薬を受け取るまでの時間や負担は変化する可能性があります。

 では、2026年から30年後の2056年に、地方の薬局は現在と同じように身近な場所に残っているのでしょうか。

 最初に結論を述べると、地方の薬局が一斉になくなると考える根拠はありません。しかし、現在と同じ店舗数、立地、営業時間、薬剤師の配置をすべての地域で維持できるとも限りません。人口構造や処方箋需要、薬剤師の確保状況、医療機関の配置、薬局の経営条件などによって、地域ごとに異なる変化が起こると考えるのが妥当でしょう。

 将来は、従来の店舗を維持する方法だけでなく、調剤業務の一部集約、薬局間の連携、在宅訪問、オンライン服薬指導、医薬品の配送、地域交通との組み合わせなど、複数の方法によって住民の薬へのアクセスを支える必要性が高まる可能性があります。重要なのは、単に薬局という店舗が残るかどうかではなく、住民が必要な薬を安全に、適切な時間と負担で受け取れるかという問題です。

全国の薬局は増えている~人口減少だけでは将来を説明できない

 厚生労働省の「令和6(2024)年度衛生行政報告例」によると、2024年度末の全国の薬局数は63,203施設で、前年度の62,828施設から375施設、割合にして0.6%増加しました。人口10万人当たりの薬局数は全国平均で51.1施設となっており、日本全体で見ると、少なくともこの時点では薬局数が減少しているわけではありません。

 千葉県でも、2023年度末の2,669施設から2024年度末には2,681施設へと12施設増加しています。一方、鹿児島県では同じ期間に885施設から862施設へ23施設減少しており、都道府県によって増減の方向が異なります。この事実は、人口減少が直ちに薬局数の減少をもたらすわけではなく、地域の医療需要や経営環境などによって結果が変わることを示しています。

 ただし、全国や都道府県の薬局数が増加しているからといって、人口減少地域でも薬局が維持されているとは限りません。新しい薬局が都市部や医療機関の周辺に開設される一方、人口の少ない地区では閉局が進んでいる可能性もあり、全国の増減だけでは地域内部の配置の変化を把握できないからです。

 人口10万人当たりの薬局数についても、単純に都市部ほど多いわけではありません。2024年度末では佐賀県が65.1施設、高知県が61.0施設であるのに対し、東京都は50.9施設、千葉県は42.9施設でした。人口当たりの施設数が多くても、住民が広い地域に分散していれば移動距離が長くなることがあります。反対に、人口当たりの施設数が比較的少なくても、人口密度が高ければ徒歩圏内に複数の薬局が存在する場合があります。

 したがって、全国の薬局数、人口当たりの薬局数、住民の自宅から薬局までの距離、実際の移動時間は、それぞれ異なる指標として扱う必要があります。薬局の数が多いことと、地域住民が薬を受け取りやすいことは、必ずしも同じではありません。

薬局の多くは比較的小規模な体制で運営されている

 2025年9月の中央社会保険医療協議会で厚生労働省が示した資料では、薬局1店舗当たりの勤務薬剤師数は平均2.7人、1か月当たりの処方箋枚数は約1,100枚とされています。この数値は、比較的小規模な人的体制で運営されている薬局が多いことを理解するうえで重要です。

 もっとも、平均値だけで個々の薬局の実態を判断することはできません。薬剤師が多数勤務する大規模な薬局もあれば、少人数で運営される薬局もあり、勤務形態や営業時間によって実際の配置人数は異なります。また、勤務薬剤師数と、別の統計で把握される薬局従事薬剤師数は、調査方法や集計対象が異なる場合があるため、数値を単純に比較することにも注意が必要です。

 地方の小規模薬局を考える場合には、店舗数だけでなく、薬剤師が何人勤務しているか、営業時間中に必要な業務を処理できるか、特定の薬剤師が退職した場合に代替要員を確保できるかといった問題が重要になります。仮に地域に薬局が残っていても、薬剤師の確保が難しくなれば、営業時間の短縮や業務内容の変更を余儀なくされる可能性があります。

全国の薬剤師は増加しているが、地域の不足が解消されたわけではない

 薬局の将来を考えるとき、人口減少とともに重要になるのが薬剤師の地域偏在です。ただし、ここでは全国の薬剤師数が不足しているかという問題と、特定地域で薬剤師を確保できるかという問題を区別しなければなりません。

 厚生労働省の「令和6(2024)年医師・歯科医師・薬剤師統計」によると、2024年末の全国の届出薬剤師数は329,045人で、2022年末の323,690人から5,355人、1.7%増加しました。このうち薬局に従事する薬剤師は197,437人で、2022年の190,735人から6,702人、3.5%増加しています。

 つまり、少なくとも2022年から2024年までの統計では、全国の薬剤師数も薬局に従事する薬剤師数も増加しています。薬剤師が全国的に減少していることを前提に、地方の薬局が存続できなくなると論じるのは適切ではありません。

 一方、全国の薬剤師数が増加していても、特定の地域で必要な薬剤師を確保できるとは限りません。薬剤師の勤務地選択には、賃金や勤務条件、専門的な業務を経験できる環境、通勤時間、家族の生活環境、子育てや教育の条件などが関係します。そのため、地域に薬局が存在していても、採用活動が難航したり、退職者の補充ができなかったりすることがあります。

 厚生労働省も薬剤師の地域偏在を政策課題として位置付け、薬剤師偏在指標や薬剤師確保計画の仕組みを整備しています。薬剤師偏在指標は単純な人口当たり薬剤師数ではなく、薬剤師に対する需要や業務量なども考慮するもので、薬局薬剤師と病院薬剤師についても区別した評価が行われています。

 ただし、地域の薬剤師偏在指標が低いことと、その地域のすべての薬局で薬剤師が不足していることは同じではありません。地域全体の需給状況を示す指標と、個別薬局の採用状況や勤務体制は区別して判断する必要があります。

30年後の医薬品需要は、人口総数だけでは予測できない

 国立社会保障・人口問題研究所の「日本の地域別将来推計人口(令和5年推計)」では、2020年の国勢調査を基準として、2050年までの市区町村別人口を5年ごとに推計しています。この資料を利用すれば、将来の総人口だけでなく、65歳以上人口や75歳以上人口など、年齢構成の変化を地域別に分析できます。

 ただし、2026年から30年後は2056年であり、この推計の対象期間を超えています。そのため、同資料だけから2056年の市区町村人口を直接読み取ることはできず、まして薬局が何店舗残るかを正確に求めることもできません。2050年までの推計は長期的な方向性を考えるための重要な資料ですが、2056年の薬局数を確定的に予測できるものではありません。

 ここで注意したいのは、地域人口が30%減少したとしても、医薬品の需要が同じように30%減少するとは限らないことです。医薬品の使用状況は年齢や健康状態、慢性疾患の有無、医療機関の受診状況などによって異なります。人口全体が減少する一方で、高齢者人口の減少が比較的小さい地域では、処方箋需要も人口全体ほどには減少しない可能性があります。

 しかし、高齢化率が上昇することと、高齢者の絶対数が増えることも同じではありません。例えば、総人口が大幅に減少する地域では、75歳以上人口の割合が高くなっても、その人数自体は減少することがあります。高齢化が進むという理由だけで医薬品需要が維持されると考えることも、人口が減るという理由だけで需要が同じ割合で減少すると考えることも、いずれも適切ではありません。

 数理的に考えるなら、地域の処方箋需要は、各年齢階級の人口に、その年齢階級の1人当たり年間処方箋発行回数を掛け、それらを合計する方法で推計するのが基本になります。さらに、将来の受診率、院内処方と院外処方の割合、医療機関の統廃合、処方日数の変化、地域外薬局の利用なども考慮する必要があります。

 人口減少によって住民数が減っても、近隣の診療所が閉院して別の医療機関に患者が集まれば、その医療機関の周辺にある薬局では処方箋が増える場合があります。逆に、医療機関そのものが地域から撤退すれば、近隣薬局の需要が大きく減少する可能性があります。したがって、薬局需要を予測するには、居住人口と年齢構成に加えて、医療機関の立地や患者の受診行動まで分析する必要があります。

薬局経営には患者数が減っても削減しにくい費用がある

 薬局の将来を考えるうえで、経済的に重要なのが固定費の存在です。薬局には薬剤師や事務職員の人件費、建物の賃料や維持費、調剤設備、レセプトコンピューター、通信設備、医薬品在庫の管理費用、光熱費などが必要になります。これらの費用には処方箋枚数によって変化する部分もありますが、患者が減少しても直ちに同じ割合では減らせない部分があります。

 例えば、1か月の処方箋枚数が1,100枚から900枚に減少したとしても、店舗の賃料や必要な設備が同じであれば、その費用を処方箋の減少率に合わせて削減することはできません。薬剤師の勤務時間や事務職員の配置を調整できる場合もありますが、薬局として必要な業務を安全に行うための人員には一定の下限があります。

 薬局の薬剤師数については、取り扱う処方箋枚数などを基準とする配置規定があり、原則的な算定では前年の1日平均取扱処方箋数を40で除して端数を切り上げる仕組みが用いられます。ただし、処方箋の種類による調整規定や実際の勤務体制に関する要件もあり、単純に処方箋枚数だけで適切な人員配置が決まるわけではありません。

 薬局経営を単純な数理モデルで考えると、一定期間の営業利益は、処方箋1枚当たりの限界利益に処方箋枚数を掛けた金額から、固定費を差し引く形で近似できます。ここでいう限界利益とは、処方箋に対応する収入から医薬品仕入費などの変動費を差し引いたものであり、実際の調剤報酬や薬局の利益率とは異なります。

 仮に、ある薬局の処方箋1枚当たりの限界利益を2,500円、月間固定費を200万円とすると、月間1,100枚の処方箋を受け付けた場合の利益は75万円となります。しかし、処方箋枚数が30%減少して770枚になると、同じ条件では月間7万5,000円の赤字になります。これは実際の薬局の平均的な収益を示すものではなく、固定費の影響を理解するための仮想的な計算です。

 この例では、処方箋枚数の減少率は30%ですが、利益は黒字から赤字へ変化しています。需要の減少率と利益の減少率が一致しないことは、固定費を抱える事業に共通する経済的な性質です。ただし、赤字になった薬局が直ちに閉局するとは限らず、営業時間や人員配置の見直し、在宅業務の拡大、経営主体の変更、他店舗との連携などによって事業を継続できる場合もあります。

 したがって、人口減少地域の薬局経営を考える場合には、処方箋需要だけでなく、固定費、薬剤師の確保費用、調剤報酬、在宅業務などによる収入、経営形態、店舗間の業務分担などを総合的に評価する必要があります。地域に薬を必要とする住民が存在していることと、現在の店舗形態のままで採算が成立することは、別の問題なのです。

薬局の存続を左右するのは人口だけでなく、診療所との関係や後継者問題でもある

 地方の小規模薬局では、特定の病院や診療所との関係が経営に大きく影響することがあります。特に、一つの医療機関から発行される処方箋への依存度が高い薬局では、その医療機関の診療時間や診療科目、患者数、医師の引退、診療所の閉院などが薬局経営に直接影響する可能性があります。

 人口が一定数残っていても、近隣の診療所が閉院すれば、患者は別の医療機関を受診するようになります。それに伴って処方箋を持参する薬局も変わることがあり、地域全体の医薬品需要が大きく減少しなくても、特定の薬局の収入が減少することがあります。

 一方、複数の医療機関から処方箋を受け付けている薬局では、特定の診療所が閉院しても、その影響を分散できる可能性があります。ただし、こうした薬局でも薬剤師の確保や医薬品在庫の管理、在宅訪問への対応などに費用がかかるため、処方箋の受付先が多いことだけで長期的な経営安定が保証されるわけではありません。

 さらに、地方では後継者問題も無視できません。経営者が高齢になり、事業を引き継ぐ人がいなければ、一定の患者数が残っていても閉局を選択する可能性があります。反対に、個人経営の薬局が他の企業へ事業承継されることで、店舗そのものは維持される場合もあります。

 ここでは、企業の統合、店舗の統廃合、調剤業務の集約を区別することが重要です。薬局企業が買収や合併によって集約されても、地域の店舗数が直ちに減るとは限りません。また、一部の調剤業務を別の拠点に集めても、患者に対応する薬局が地域に残る場合があります。将来の薬局の変化を考える際には、経営主体が変わることと、地域住民が利用できる店舗がなくなることを混同してはいけません。

「近くに薬局がある」だけでは薬へのアクセスは保証されない

 地域住民にとって重要なのは、行政区域内に薬局が何店舗存在するかだけではありません。自宅から薬局までの距離、移動時間、利用できる交通手段、営業時間、必要な医薬品の在庫、薬剤師による対応など、複数の条件がそろって初めて、実際に薬を受け取ることができます。

 例えば、自宅から10キロメートル離れた場所に薬局が1店舗残っていたとしても、自動車を運転できる住民と、徒歩や公共交通に依存する高齢者では利用の難しさが異なります。距離だけで判断することも適切ではなく、道路事情や公共交通の運行本数、家族による送迎の有無などによって、実際の移動負担は大きく変わります。

 また、薬局が近くにあっても、診療所の受付終了時間と薬局の営業時間が合わなければ、当日中に薬を受け取れない場合があります。医薬品の在庫がなく、取り寄せに時間がかかる場合も同様です。特に、早急な服薬が必要な急性疾患と、比較的計画的に薬を受け取れる慢性疾患では、薬の受取時間が持つ意味が異なります。

 薬へのアクセスを科学的に分析するなら、少なくとも地理的アクセス、時間的アクセス、実効的アクセスの三つを区別する方法が考えられます。地理的アクセスは自宅や医療機関から薬局までの移動時間、時間的アクセスは処方箋の発行から薬を受け取るまでの時間、実効的アクセスは必要な薬を安全に、適切な時間内に受け取れたかという観点です。

 これらは本記事で問題を整理するための分析上の分類であり、統一された公的指標を示すものではありません。しかし、薬局数という単一の指標よりも、実際の住民生活に近い評価が可能になります。薬局が1店舗減ったから直ちに医療アクセスが失われるわけでもなければ、1店舗残っているから十分な医薬品供給体制が維持されているとも限りません。

オンライン服薬指導と配送は、薬局への移動を減らせるのか

 将来の地方薬局を考えるうえで、有力な選択肢の一つがオンライン服薬指導です。情報通信機器を利用して薬剤師が患者に服薬指導を行うことで、一定の条件の下では、患者が毎回薬局まで移動する負担を減らせる可能性があります。電子処方箋などの仕組みと組み合わせれば、処方情報のやり取りや薬の受取方法にも変化が生じると考えられます。

 ただし、オンライン服薬指導は、薬剤師による専門的な判断を不要にする仕組みではありません。薬剤師は患者の状態や医薬品の特性を踏まえ、オンラインで適切な指導が可能かを判断する必要があります。また、オンライン服薬指導では映像と音声による双方向のやり取りが基本となり、患者本人が必要な情報を理解できることも重要になります。

 地方の高齢者を考える場合には、スマートフォンや通信環境を利用できるかだけでなく、電子処方箋の利用、本人確認、通信機器の操作、支払いなどを円滑に行えるかという問題があります。高齢者の中にもデジタル機器を使いこなす人は多く、一律に利用が難しいと決めつけるべきではありませんが、操作に支援が必要な住民が存在することも想定しなければなりません。

 さらに、オンラインで服薬指導が完了しても、薬そのものは患者の手元に届ける必要があります。配送では、医薬品の品質を維持できるか、必要な温度管理が可能か、患者が確実に受領できるか、いつ届くかといった条件が重要になります。厳格な管理が必要な医薬品や、速やかな使用が必要な医薬品については、一般的な配送だけで対応できない場合もあります。

 特に、処方箋が発行された当日から服薬を開始する必要がある場合、配送によって患者の移動負担が減っても、薬の到着が遅れれば治療上の不利益につながる可能性があります。一方、症状が安定している慢性疾患では、適切な服薬管理と配送体制が確保されていれば、薬局への移動回数を減らすメリットが大きくなることも考えられます。

 オンライン服薬指導や配送は、すべての薬局への来店を代替する仕組みではなく、患者の状態や医薬品の特性に応じて選択できる手段を増やすものと考えるのが適切です。また、オンライン化しても薬剤師の専門的な業務そのものがなくなるわけではないため、薬剤師の地域偏在や人員不足が自動的に解消されるものでもありません。

在宅訪問は重要だが、人口密度の低い地域では移動時間が制約になる

 自宅で療養している患者に対して、薬剤師が訪問し、服薬状況や医薬品の管理状況を確認する仕組みも重要になります。特に、複数の医薬品を使用している患者、通院が難しい患者、服薬管理に支援が必要な患者などにとって、薬剤師が自宅で薬の使用状況を確認することには、単なる薬の受け渡しを超えた意味があります。

 しかし、在宅訪問を増やせば地方の薬局問題がすべて解決するわけではありません。人口密度が低く住宅が広範囲に分散する地域では、薬剤師が患者宅を訪問するための移動時間が長くなる場合があり、同じ勤務時間で対応できる患者数が制限されることがあります。

 薬剤師の勤務時間は、調剤、服薬指導、訪問、移動、記録、医師や他の医療職との連絡・調整などに配分されます。したがって、訪問先が離れている地域では、患者宅での指導時間だけでなく、往復の移動時間まで含めて業務量を評価しなければなりません。これは訪問看護や訪問介護などにも共通する、人口密度の低い地域特有の課題です。

 患者が薬局まで移動する代わりに薬剤師が患者宅へ移動するため、患者本人の負担が軽減されても、地域全体の移動に必要な時間や費用がなくなるわけではありません。在宅訪問を持続可能な形で実施するには、訪問経路の調整、他の医療・介護職との連携、適切な報酬、薬剤師の勤務体制などを総合的に考える必要があります。

 また、単に薬を自宅へ届ける配送と、薬剤師が患者宅で専門的な服薬管理を行う在宅訪問は、役割が異なります。地域の医薬品供給体制を考える際には、この二つを区別し、患者の状態に応じて必要なサービスを選択できるようにすることが重要です。

2026年の制度改正は、将来の薬局の経営形態を変える可能性がある

 薬局の将来を考える場合、人口や需要だけでなく、制度変更にも注目する必要があります。薬局は一般的な小売店舗とは異なり、薬剤師の配置、医薬品の管理、調剤業務、調剤報酬などについて法令や公的制度による規律を受けています。そのため、制度の変更によって、同じ患者数でも経営上の条件や実施できる業務が変わることがあります。

 2025年に成立した医薬品医療機器等法などの改正を受け、2026年6月には調剤業務の一部外部委託に関する省令が公布され、2027年5月20日に施行される予定となっています。この制度は、一定の条件の下で薬局が調剤業務の一部を他の薬局へ委託できるようにするもので、薬剤師が患者への説明や服薬管理などの対人業務に取り組みやすくすることも目的としています。

 ただし、調剤業務を無条件に外部委託できるわけではありません。当面の対象業務や委託先の範囲には制限が設けられており、患者への説明や同意、安全管理なども必要になります。制度が整備されたからといって、すべての小規模薬局が調剤設備や薬剤師の配置を大幅に削減できるわけではありません。

 それでも、従来は一つの薬局で行っていた業務の一部を他の薬局と分担できるようになれば、業務の効率化や薬剤師の働き方に変化が生じる可能性があります。地域内の複数薬局が役割を分担し、調剤業務の一部を集約しながら、患者に対応する窓口を維持するような仕組みも、制度上の制約や採算性を検証したうえで検討できるでしょう。

 さらに、2026年度の調剤報酬改定では、地域の医薬品供給拠点としての薬局の機能を評価する観点から、従来の地域支援体制加算が見直され、地域支援・医薬品供給対応体制加算が設けられています。薬局の収益は処方箋枚数だけでなく、こうした公的な報酬体系や施設基準によっても左右されます。

 30年という長期間を考えれば、薬局の制度や調剤技術、医療提供体制が今後も変化する可能性があります。現在の制度と経営構造が2056年までそのまま続くと仮定して薬局数を予測することは、現実的ではありません。

地域連携薬局の機能と、経営上の存続可能性は同じではない

 厚生労働省は、地域の医療機関や他の薬局と連携し、入退院時の情報共有や在宅医療などに対応する薬局の機能を評価するため、地域連携薬局の認定制度を設けています。この制度は、薬局を単に処方箋に基づいて薬を調剤する場所としてではなく、患者の継続的な薬物療法を支える地域医療の一部として位置付けるものです。

 人口減少地域では、複数の医療機関から処方箋を受け付け、在宅医療に対応し、必要に応じて他の薬局や医療・介護職と連携できる薬局が、地域にとって重要な役割を果たす可能性があります。特に、通院先が複数ある高齢者や、継続的な服薬管理が必要な患者にとって、医薬品に関する情報を整理し、関係者と共有できる機能には意味があります。

 しかし、地域医療への貢献度が高いことと、薬局の経営が安定していることは同じではありません。地域連携の機能を充実させるには、薬剤師の確保、研修、情報共有、在宅訪問、必要な医薬品の供給などに対応するための費用や人員が必要です。

 したがって、地域連携薬局として認定されていることだけを理由に、将来の存続可能性が高いと断定することはできません。薬局の社会的な必要性と、民間事業としての採算性を区別して評価することが重要です。

医薬品の供給能力は、薬局の店舗数とは別に考える必要がある

 薬局が存在し、薬剤師が勤務していても、処方された医薬品を必要なときに調達できなければ、患者への供給は完了しません。医薬品の安定供給は、薬局の立地や人員配置とは別の重要な条件です。

 医薬品の供給に制約が生じると、薬局では在庫の確認、卸売業者への発注、代替薬の検討、医療機関への問い合わせ、患者への説明など、通常より多くの業務が発生する場合があります。特定の医薬品が入手困難になれば、近隣の複数の薬局が同じ問題に直面することも考えられます。

 また、規模の小さい薬局では、あらゆる医薬品を常時在庫することは現実的ではありません。必要な薬を迅速に取り寄せられるか、他の薬局と連携できるか、卸売業者による配送網が維持されるかといった点も、地域の医薬品供給体制を左右します。

 今後、人口減少によって医薬品の配送先が減少したり、配送効率が低下したりする地域が生じれば、薬局そのものの経営状況とは別に、医薬品の物流が課題になる可能性もあります。ただし、将来の物流網の変化については、卸売業者の配送体制や制度変更などを調べなければ、地域ごとの影響を判断することはできません。

 このように、薬へのアクセスを考える場合には、薬局の店舗数、薬剤師の確保、医薬品の在庫・調達能力、配送網を一体として検討する必要があります。

30年後に残りやすい薬局と、経営が難しくなる薬局

 以上の条件を踏まえると、30年後の薬局の存続可能性は、現在の患者数だけでは判断できません。地域の複数の医療機関から処方箋を受け付け、薬剤師を安定的に確保し、在宅医療や他の薬局との連携にも対応できる薬局は、特定の医療機関への依存度が高い薬局よりも、需要変化への対応力を持つ可能性があります。

 ただし、そうした機能を備えるには相応の費用が必要であり、必ずしも経営上有利になるとは限りません。反対に、小規模な薬局であっても、建物を所有している、固定費が低い、地域住民との継続的な関係がある、近隣に代替薬局が少ない、他の薬局との業務分担ができるなどの条件によって、経営を維持できる場合があります。

 今後、経営が難しくなる可能性があるのは、地域人口や処方箋需要が減少し、特定の診療所への依存度が高く、薬剤師の採用が困難で、後継者も確保できないといった複数の不利な条件が重なる薬局でしょう。しかし、どの条件がどの程度閉局リスクを高めるかについては、個別薬局の経営情報や開局・閉局の履歴などを分析しなければ判断できません。

 実証的に分析するなら、地域人口の減少率、75歳以上人口の変化、処方箋枚数、薬剤師の確保状況、診療所への依存度、経営者の年齢、後継者の有無、経営形態、調剤報酬の変化などを用いて、薬局の閉局までの期間や存続状況を調べる方法が考えられます。

 もっとも、店舗が閉局した場合でも、近隣への移転、別企業への事業承継、複数店舗の統合などによって供給機能が維持されることがあります。そのため、閉局件数だけを調べるのではなく、閉局後に地域住民の薬へのアクセスがどのように変化したかまで検証する必要があります。

将来の医薬品供給は、広域的な連携が重要になる可能性がある

 人口が大きく減少した地域で、すべての薬局を現在と同じ店舗数、同じ営業時間で維持することは、経営面や人員確保の面から難しくなる場合があります。一方、薬局を人口の多い中心市街地へ集中させるだけでは、自動車を運転できない住民や移動に制約がある高齢者の負担が増える可能性があります。

 そこで検討する価値があるのは、一定規模の調剤拠点、地域に残る薬局、診療所との連携、在宅訪問、オンライン服薬指導、配送、地域交通を組み合わせる方法です。この場合、すべての地域に同じ規模の薬局を配置するのではなく、地域ごとの人口分布や医療需要に応じて、複数の供給手段を組み合わせることになります。

 ただし、広域的な連携を進めれば必ず効率化できるわけではありません。調剤業務を一部の拠点に集約すれば設備や在庫の管理を効率化できる可能性がありますが、拠点から各地域への配送距離が長くなれば、物流費や所要時間が増加する場合もあります。薬剤師が訪問する範囲を広げれば、移動時間が増えて対応できる患者数が減少する可能性もあります。

 したがって、地域の薬局配置を考える場合には、医療提供者側の経営効率だけでなく、患者の移動時間、家族の送迎負担、交通費、医薬品の配送費、薬を受け取るまでの時間、安全管理に必要な費用などを総合的に評価する必要があります。

 薬局を維持するために必要な費用と、薬局がなくなった場合に住民や地域社会が負担する費用は、必ずしも同じ主体が負担するものではありません。例えば、店舗を集約することで薬局側の費用が減少しても、患者の交通費や家族による送迎時間が増えれば、地域全体としての負担が十分に減少しない場合があります。

 これは民間事業としての採算性と、公共的な医療アクセスの確保を分けて考える必要があることを意味します。地域の薬局をどのような形で支えるべきかは、個別企業の経営判断だけでなく、地域医療政策や交通政策とも関係する問題です。

御宿町・いすみ市・勝浦市・大多喜町では何を調べるべきか

 この問題を千葉県外房地域で考える場合、御宿町、いすみ市、勝浦市、大多喜町などは、人口減少と医療アクセスの関係を検討する対象となります。ただし、現時点の人口規模や高齢化率だけで、どの市町の薬局が将来残りにくいと判断することはできません。実際の薬局配置、診療所との関係、患者の移動手段、処方箋需要などを確認する必要があります。

 まず、国立社会保障・人口問題研究所の市区町村別将来推計人口を利用し、2020年から2050年までの総人口、65歳以上人口、75歳以上人口の変化を比較することが考えられます。高齢化率の上昇だけではなく、高齢者人口の絶対数がどのように変化するかを確認することで、将来の医療需要をより適切に考察できます。

 次に、現在の薬局の所在地、営業時間、在宅訪問への対応状況、診療所や病院との位置関係、公共交通の運行状況などを把握する必要があります。市町村内の薬局数だけでなく、隣接自治体の薬局を利用できるかという点も重要です。行政区域の境界と住民の実際の生活圏が一致するとは限らないため、複数市町を一体の医療生活圏として分析する視点が求められます。

 特に有効なのは、現在存在する薬局が1店舗閉局した場合に、住民の移動時間がどれだけ変化するかを検証する方法です。道路網や公共交通を用いて、現在の最寄り薬局までの所要時間と、その薬局が利用できなくなった場合の代替薬局までの所要時間を比較すれば、地域の医薬品供給体制がどの程度脆弱なのかを具体的に評価できます。

 例えば、ある地区では最寄り薬局が閉局しても、数分程度の追加移動で別の薬局を利用できるかもしれません。一方、別の地区では、最寄り薬局が1店舗なくなるだけで、公共交通を利用した移動が大幅に難しくなる可能性があります。この違いは、単純な薬局数だけでは把握できません。

 将来の人口推計と現在の薬局配置を組み合わせれば、薬局へのアクセスが悪化した場合に影響を受ける可能性のある高齢者人口を推計することも考えられます。ただし、現状の薬局配置が2050年まで変わらないと仮定する場合や、特定の薬局の閉局を想定する場合には、それが実際の将来予測ではなく、条件付きのシナリオ分析であることを明示する必要があります。

 こうした分析によって、人口減少の進む地域で薬局が何店舗必要なのかという問いを、どの地区の住民が、どれだけの時間と負担で薬を受け取れるのかという、より具体的な問題へと発展させることができます。

2056年の薬局はどうなるのか~将来を三つのシナリオで考える

 30年後の薬局の姿を一つの結論に決めつけることは困難です。人口減少の程度、薬剤師の地域分布、診療所の存続、調剤技術、制度改正、配送体制などについて不確実性が大きいためです。そのため、将来を考える際には、条件の異なる複数のシナリオを設定する方が合理的です。

 第一は、地域の処方箋需要が比較的維持され、薬剤師も確保できる場合です。この場合、経営主体の変更や業務の効率化が進んだとしても、既存の薬局配置が比較的維持される可能性があります。全国の薬局数や薬局従事薬剤師数が近年増加している事実を踏まえると、人口減少によって必ず薬局が減少するという前提を置くべきではありません。

 第二は、人口や処方箋需要が減少する一方、薬局間の連携や調剤業務の効率化、オンライン服薬指導、配送などが普及する場合です。この場合、一部の店舗で統廃合や営業時間の見直しが進んでも、住民が薬を受け取るための手段を組み合わせることで、地域の医薬品供給機能を維持できる可能性があります。ただし、地域によっては患者の移動時間や薬の受取時間が増えることも考えられます。

 第三は、人口と医療需要の減少に加え、診療所の閉院、薬剤師の確保難、後継者不在などが重なる場合です。この場合、個別薬局の経営継続が難しくなり、地域の薬局数が減少する可能性があります。代替薬局までの距離が長く、公共交通や配送体制も十分でなければ、住民が必要な薬を受け取るまでの時間や負担が増えることが考えられます。

 ただし、これらのシナリオがどの程度の確率で実現するかは、現在示されている統計だけでは判断できません。特に2056年という長期の将来について、薬局数や閉局確率を具体的な数値で予測するには、個別薬局の開設・閉局履歴、経営情報、薬剤師の採用状況、地域の処方箋需要などを継続的に分析する必要があります。

 したがって、現時点で合理的にいえるのは、すべての地域で現在の薬局配置が維持されるとも、人口減少によって一律に薬局が減少するとも断定できないということです。将来の姿は地域ごとの条件と制度・技術の変化によって異なり、その影響を定期的に検証することが重要になります。

病院が残っていても、必要な薬を受け取れなければ医療アクセスは完結しない

 地方医療を考えるとき、病院数や医師数、診療科目、救急医療体制などは重要な指標です。しかし、住民の生活という観点からは、診察を受けられることだけでなく、その後に必要な治療を継続できることまで評価する必要があります。

 特に高齢者の場合、自宅から医療機関へ移動し、診察を受け、必要に応じて薬局を利用し、薬を受け取って帰宅するまでが一連の医療行動になります。その途中で薬局への移動が難しくなったり、必要な薬が当日中に受け取れなくなったりすれば、医療機関そのものが残っていても、患者の負担は増加する可能性があります。

 医療機関の集約が進む地域では、診療を受ける場所だけでなく、処方箋が発行される場所や薬局の立地にも変化が生じることがあります。医療提供者側の効率だけでなく、患者本人の移動時間、家族による送迎、交通費、待ち時間、配送による受取時間などまで含めて考えることが重要です。

 また、薬局の問題は高齢者だけに限りません。自動車を利用できない人、障害のある人、育児や介護のため長時間の外出が難しい人、公共交通が少ない地区に住む人などにとっても、薬局へのアクセスは生活に直結する問題です。

 地域医療の持続可能性を評価するなら、医療機関の存在と医薬品の供給体制を切り離さず、一連の医療サービスとして検討する必要があります。

地方の薬局で守るべきなのは、店舗数よりも薬へのアクセスである

 2056年の地方で、現在と同じ数の薬局が同じ場所で営業を続けているとは限りません。人口減少、処方箋需要の変化、薬剤師の地域偏在、後継者問題などによって、一部の地域では店舗の統廃合や営業時間の短縮が進む可能性があります。しかし、全国の薬局数や薬局従事薬剤師数は近年増加しており、人口減少だけを理由に、地方の薬局が一律に減少すると予測することも適切ではありません。

 さらに、調剤業務の一部外部委託、オンライン服薬指導、電子処方箋、在宅訪問、配送などの制度や技術が進展すれば、従来とは異なる方法で地域の医薬品供給機能を維持できる可能性もあります。一方で、薬剤師の確保、医薬品の安全管理、配送時間、通信機器の利用、運営費用などの制約があるため、こうした仕組みを導入すればすべての問題が解決するわけではありません。

 今後の地方では、薬局という店舗を維持するための条件と、住民が薬を受け取れる機能を維持するための条件を分けて考えることが重要になります。現在の店舗配置を維持することが合理的な地域もあれば、複数の薬局や医療機関が連携し、配送や在宅訪問などを組み合わせた方が、住民の負担を抑えられる地域もあるでしょう。

 その判断には、薬局数や人口の増減だけでなく、年齢別の医薬品需要、薬剤師の確保状況、薬局の経営条件、医薬品の調達能力、患者の移動時間などを総合的に分析する必要があります。特に人口減少地域では、行政区域内に薬局が何店舗あるかという評価から、必要な薬を安全に受け取るために住民がどれだけの時間と負担を要するかという評価へ、視点を広げることが求められます。

 30年後も現在と同じ薬局の店舗数や立地を維持できるかどうかは、現時点では分かりません。しかし、どのような条件が薬局の存続を難しくし、どのような仕組みが住民の負担を軽減できるのかについては、現在の統計や制度をもとに検証を進めることができます。

 人口減少社会で本当に守るべきなのは、現在と同じ店舗配置そのものではありません。住民が必要なときに、必要な医薬品を、安全に、適切な時間と無理のない負担で受け取れる地域の医薬品供給体制を維持することです。

 地方の薬局の将来は、単に店舗が増えるか減るかという問題ではなく、人口減少が進む社会で、必要な医療機能をどのような形で残していくのかという、地域全体の持続可能性に関わる問題なのです。

地域の課題を、自分の判断に置き換えて考える

弊社では、住まい・車・移住などの大きな選択を、 費用や将来条件をもとに数字で比較し、判断できる形に整理しています。

数字で比較するサービスを見る