地域分析記事

地域の暮らしと地域課題を数学とデータで考える

 地方のスーパーが閉店すると、「人口が減ったから仕方がない」と説明されることがあります。確かに、商圏人口の減少は店舗経営に大きな影響を与えます。しかし、人口が減少している地域のスーパーがすべて撤退するわけではありません。反対に、人口が比較的維持されている地域でも、競争激化、人手不足、物流費の上昇、電気料金の負担、建物や設備の老朽化、本部による店舗網の再編などを理由として店舗が閉鎖されることがあります。

 地方スーパーの撤退を理解するうえで重要なのは、「人口が何人いるか」だけを見るのではなく、その店舗が実際に獲得できる客数、客単価、粗利益、店舗維持費、物流費、設備更新費、そして将来の投資回収可能性まで見ることです。したがって、地方スーパーの問題は単純な人口減少問題ではありません。人口減少によって売上の上限が低下する一方、人件費、冷蔵・冷凍設備、物流、建物、情報システムなど、店舗を営業するために必要な費用は同じ割合では減少しません。この「売上は減っても固定的な費用は簡単には減らせない」という構造が、地方店舗の採算を悪化させる大きな理由です。

スーパーの利益構造をどう考えるか

 スーパーの経営を理解するには、まず売上高と利益を分けて考える必要があります。売上高が増えていても、必ずしも利益が増えているとは限りません。会計上、売上総利益は概念的には「売上高-売上原価」で表されます。売上原価は単純な当期の仕入額そのものではなく、期首の商品在庫、当期の商品仕入れ、期末の商品在庫などを考慮して求めます。そのため、「売上高-商品仕入額=利益」と単純化しすぎると、店舗の実態を正しく把握できない場合があります。

 店舗の採算を概念的に示すなら、「営業上得られる粗利益から、人件費、電気・燃料費、物流費、建物・設備費、販売管理費などを差し引いた残り」が店舗経営を支える利益になります。ただし、値引きは販売価格の低下として売上高に反映され、廃棄も在庫や売上原価と関係するため、厳密な会計では単純に独立した費用として並べればよいわけではありません。

 地方スーパーの構造を理解するには、会計上の厳密な利益計算とは別に、損益分岐点という考え方が有効です。例えば、固定的な費用が年間2億円、売上高から売上に比例して増減する費用を差し引いた利益率が20%だと仮定すると、損益分岐点となる年間売上高は10億円です。この店舗の売上高が12億円なら、「12億円×20%-2億円=4,000万円」となり、一定の利益を確保できます。しかし売上高が10億円まで低下すると利益はほぼゼロとなり、9億円まで低下すれば約2,000万円の赤字になります。

 つまり、売上が10%減ったから利益も10%減るとは限りません。一定の水準を下回ると、利益が急速に減少して赤字へ転落します。人口減少地域のスーパーを考える際には、この損益分岐点を下回るかどうかが重要になります。

スーパーの売上は何で決まるのか

 スーパーの売上高は、概念的には「1日当たり来店客数×1人当たり購入額×営業日数」で考えることができます。例えば、1日1,500人が来店し、1人当たり2,000円を購入する店舗なら、1日の売上高は約300万円です。ところが来店客数が1,200人まで減少すると、客単価が同じなら1日の売上高は約240万円となり、1日60万円の差が生まれます。年間360日営業すると仮定した場合、その差は単純計算で約2億1,600万円になります。

 もちろん実際には、食品価格の上昇によって客単価が上がったり、営業時間や品ぞろえを変更したりするため、客数の減少率と売上高の減少率が完全に一致するわけではありません。それでも客数の減少が長期間続けば、店舗の固定的な費用を支えることが難しくなります。

 全国スーパーマーケット協会の2025年版資料では、標準的な店舗を考える参考値として、平日の1日客数が1,675人、客単価が2,191円、土日祝日の1日客数が1,800人、客単価が2,555円とされています。ただし、これは全国すべてのスーパーにそのまま当てはまる数字ではありません。店舗規模、立地、地域特性によって大きく異なるため、「地方スーパーにもこの程度の客数が必要」と直接判断することはできません。

人口と来店客数は同じ割合では変化しない

 商圏人口が10%減ったからといって、店舗の来店客数が必ず10%減るわけではありません。競合店が閉店すれば残った店舗へ利用者が集中することがありますし、人口がほとんど変わらなくても、新しい大型店やドラッグストアが開業すれば既存店の客数が減ることがあります。来店客数は、「商圏人口×実際に来店可能な人の割合×その店舗を選択する割合×来店頻度」といった複数の要因で決まります。そのため、市町村人口だけでは店舗の商圏を十分に表せません。

 特に自動車利用の多い地方では、行政区域と商圏は一致しません。住民が隣接する市町村の大型店へ買い物に行けば、町の人口が維持されていても地元店舗の売上は減少します。一方、人口が減少していても競合店が少なく、地域住民から高い支持を受けている店舗なら、一定の客数を維持できることがあります。

高齢化は単なる需要減少ではない

 高齢者も当然食料品を必要とするため、高齢化した地域で食品需要そのものが消滅するわけではありません。しかし、高齢化によって世帯人数、買い物頻度、購入量、購入する商品の種類、移動手段が変化します。単身世帯や夫婦のみの高齢世帯では、1回当たりの購入量が少なくなりやすく、少量包装や総菜、冷凍食品などへの需要が高まる可能性があります。一方で、自動車を運転できなくなれば店舗までの移動頻度が低下し、生協、宅配、移動販売などへ利用が移る場合もあります。

 したがって、高齢化は単純に「需要が減る」と捉えるべきではありません。需要の量だけでなく、商品の種類、包装単位、買い物頻度、来店手段が変化する問題として考える必要があります。

全国のスーパー売上増加と地方店舗の撤退は矛盾しない

 経済産業省の商業動態統計では、2025年のスーパー販売額は前年比4.7%増加し、店舗数や1店舗当たり販売額も増加しました。しかし、この数字だけから「スーパー業界は好調だから地方店舗も安泰」と判断することはできません。全国の販売額は、食品価格の上昇、新規出店、大型店への顧客集中、高付加価値商品の販売拡大などによって増加します。例えば販売数量がほとんど変化しなくても、商品の平均価格が5%上がれば、名目上の売上高は約5%増えます。

 しかし仕入価格、人件費、電気料金、物流費なども上昇していれば、売上高が増えても利益が増えるとは限りません。スーパーの経営状態を判断するときには、名目売上高だけではなく、売上総利益、営業利益、客数、販売数量などを併せて見る必要があります。また、商業動態統計については、2025年1月に2021年経済センサス-活動調査を基礎とした水準調整が行われています。このため、長期比較を行う際には統計上の不連続にも注意する必要があります。

ドラッグストアとの競争

 近年、地方の食品スーパーにとって無視できない競争相手となっているのがドラッグストアです。経済産業省の統計によると、2025年のドラッグストア販売額は前年比5.5%増加しており、食品や調剤医薬品なども増加要因となっています。

 ドラッグストアでは、医薬品や化粧品、日用品だけでなく、飲料、菓子、調味料、冷凍食品、牛乳、卵などを扱う店舗が増えています。食品以外の商品を販売できることから、一部の商品を集客目的で低価格に設定できる場合もあります。一方、食品スーパーは生鮮食品や総菜を大きな特徴としており、鮮度管理、加工、品出し、値引き、廃棄などの作業が必要です。ドラッグストアの出店によって牛乳、飲料、菓子、調味料、冷凍食品などの売上が移れば、スーパーの経営に影響を与える可能性があります。

 ただし、「ドラッグストアが出店すればスーパーが撤退する」「利益率の高い商品だけがドラッグストアへ流れる」と一律に断定することはできません。商品カテゴリーごとの粗利益率、価格、商圏、店舗間距離、消費者の購買行動などを分析しなければ、実際の影響の大きさは判断できません。

地域外の大型店への顧客流出

 地方では自動車を使って買い物をする世帯が多いため、道路事情の改善が地元店舗にとって必ずしも有利になるとは限りません。道路が整備され、近隣都市の大型店まで短時間で行けるようになれば、住民の買い物範囲が広がります。大型店には、品ぞろえ、価格、駐車場、飲食店や医療機関との併設などの利点があります。その結果、町内人口がほとんど変化していなくても、地元スーパーの店舗選択率が低下することがあります。

 反対に、幹線道路沿いにあり、周辺地域から利用客を集められるスーパーであれば、行政区域を越えた広い商圏を形成することもできます。したがって、道路整備そのものが地元商業を衰退させるのではなく、その道路を通じて顧客がどちらへ移動するかが重要になります。

人手不足と人件費

 スーパーでは、荷受け、品出し、発注、在庫管理、レジ、生鮮加工、総菜調理、清掃、値引き、衛生管理、顧客対応など、多くの業務を人に依存しています。セルフレジや自動発注を導入しても、すべての作業を無人化することはできません。

 全国スーパーマーケット協会の2023年調査では、人手不足対策として採用活動を実施している企業の割合が98.1%でした。ただし、この数字を「スーパー企業の98.1%が人手不足である」と読み替えてはいけません。あくまで、人手不足への対応策として採用活動を実施している企業の割合です。

 地方では若年人口の減少などによって、早朝、夕方、土日祝日に働ける人材を確保しにくい場合があります。採用が難しければ賃金を引き上げる必要があり、人件費が上昇します。人員を減らしすぎれば、品出しや加工、レジ、清掃などのサービス水準が低下し、さらに客数が減少する可能性もあります。省力化設備は重要な対策ですが、設備導入には初期投資が必要です。売上規模の小さい店舗では、省力化による人件費削減効果だけでは投資を十分に回収できない場合があります。

電気料金と冷蔵・冷凍設備

 スーパーは、通常の小売店舗と比較して冷蔵・冷凍設備の電力使用量が大きい業態です。冷蔵ケース、冷凍ケース、バックヤードの冷蔵庫や冷凍庫、空調、照明、厨房設備などを継続的に稼働させる必要があります。

 店舗の客数が減っても、冷蔵・冷凍設備を同じ割合で停止することはできません。営業時間を短縮しても、閉店後に冷蔵設備まで停止することはできないため、電力費の多くは残ります。したがって、売上が低下した店舗では「売上1円当たりの電力費」が上昇しやすくなります。地方店舗で問題になるのは電気料金そのものだけではなく、少ない売上で必要な設備を支えなければならないことです。

地方物流の非効率性

 食品スーパーでは、生鮮食品、牛乳、豆腐、総菜材料などを継続的に配送する必要があります。物流費には、車両費、燃料費、運転者の人件費、荷役費、物流施設費、配送管理費などが含まれます。

 人口密度が高く店舗が集中している地域であれば、短い走行距離で複数店舗へ配送できます。しかし地方では店舗間の距離が長く、1店舗当たりの配送量も少なくなりやすいため、商品1個当たりの物流費が高くなる可能性があります。チェーン全体で考えれば、店舗単独ではわずかに黒字でも、その1店舗を維持するために長距離の配送ルートを残す必要がある場合があります。本部が店舗網全体の物流効率を見直した結果、個別店舗の損益だけではなく配送網全体の効率を理由として閉店することも考えられます。

生鮮食品と総菜の値引き・廃棄

 生鮮食品や総菜は食品スーパーにとって重要な差別化要因ですが、需要予測が外れれば売れ残りが発生します。商品を少なく仕入れれば欠品による販売機会損失が生じ、多く仕入れれば値引きや廃棄が増加します。

 農林水産省によると、2024年度の事業系食品ロスは237万トンで、そのうち食品小売業は48万トンでした。ただし、この48万トンはスーパーだけの数値ではありません。食品小売業全体の数字として理解する必要があります。

 店舗経営上の目的は、単純に「廃棄をゼロにすること」ではありません。廃棄を減らそうとして在庫を極端に減らせば、欠品が増えて売上を失います。重要なのは、欠品による機会損失と、過剰在庫による値引き・廃棄損失の合計を抑えることです。特に観光地では、曜日、天候、連休、季節によって客数が大きく変動します。需要変動が大きい地域ほど適正在庫の予測が難しくなり、在庫管理の難易度が高くなります。

老朽化した店舗が黒字でも閉店する理由

 店舗が現在黒字であることと、将来も営業を続けることが合理的であることは同じではありません。冷蔵・冷凍設備、空調、照明、厨房、レジ、情報システム、屋根、外壁、給排水、駐車場などは、いずれ更新が必要になります。

 例えば店舗改修に3億円必要で、改修によって年間2,000万円の追加的な利益またはキャッシュフローが得られると単純化すれば、投資額を回収するまで15年かかります。しかし、これは非常に簡易的な計算です。実際の企業は、将来得られる現金収支、資金調達費用、金利、設備の耐用期間、商圏人口の将来予測などを考慮します。将来の収益を現在の価値に換算して投資価値を評価する正味現在価値や、投資から得られる収益率を評価する内部収益率などの考え方も用いられます。

 また、設備更新は必ずしも「改修したら利益が増える」という投資とは限りません。「改修しなければ営業を続けられない」という場合もあります。そのため、現在の店舗が黒字でも、今後10年、15年にわたって設備投資を回収できないと判断されれば、更新せず閉店する方が企業として合理的な場合があります。

賃貸借契約や土地・建物も閉店理由になる

 店舗が賃借物件の場合、契約満了や賃料改定が閉店の契機になることがあります。店舗運営会社が営業継続を希望していても、建物所有者が建て替えや売却を選択する場合もあります。自社所有店舗でも、建物維持費、固定資産税、解体費、跡地利用などを含めた判断が行われます。そのため、閉店理由が「契約満了」「諸般の事情」などとしか公表されていない場合、外部の人間が「赤字だから閉店した」と断定することはできません。

チェーン全体では黒字店舗も閉店候補になる

 チェーン企業では、個々の店舗の黒字・赤字だけで店舗存続を判断するとは限りません。限られた資金や人材をどこへ配置すれば企業全体の利益を最大化できるかという視点も重要です。地方店舗が年間1,000万円の利益を出していたとしても、その店舗を閉め、人材や投資資金を別の店舗へ移すことで年間3,000万円の利益が得られるなら、本部が撤退を選択する可能性があります。

 企業が確認するのは、売上高、営業利益率だけではありません。投下した資金からどの程度の利益を得られるか、売場面積当たりの売上はいくらか、従業員1人当たりの売上はいくらか、改装投資を何年間で回収できるか、将来の商圏人口はどうなるか、物流拠点との位置関係はどうか、といった複数の指標を比較します。したがって、住民から見て「いつも客が入っている店」であっても、本部が求める投資効率を満たしていない可能性があります。

小さい店舗ほど不利とは限らない

 小型店舗には、管理者の費用を少ない売上で負担しなければならない、1人の欠勤の影響が大きい、配送1回当たりの商品量が少ない、設備投資を回収しにくいといった不利があります。そのため、「小さな店舗なら固定費が少ないので必ず維持しやすい」とは言えません。

 一方、小型店舗が常に大型店舗より非効率というわけでもありません。全国スーパーマーケット協会の2023年調査では、売場面積800平方メートル未満の店舗について、従業員1人当たり年間売上高は他の規模区分より低い傾向がありました。ところが同じ調査では、売場面積1平方メートル当たり年間売上高は、800平方メートル未満の店舗が約225万円、800~1,200平方メートルが約158万円、1,200~1,600平方メートルが約110万円、1,600平方メートル以上が約109万円となっており、小型店の方が売場面積当たり売上高は高い結果となっています。

 したがって、この統計から「小型店舗は経営効率が悪い」と単純に結論づけることはできません。従業員当たり生産性では不利でも、売場面積当たり生産性では有利な場合があるからです。店舗の適正規模は、人件費、地代・家賃、物流費、商品構成、設備費、商圏人口、客数などを総合して判断する必要があります。地方では、需要に合った小型化が有効な場合もあれば、小型化しても物流費や人件費を十分に削減できず採算改善につながらない場合もあります。

業界統計にも限界がある

 スーパー業界の統計を利用するときには、調査方法にも注意が必要です。全国スーパーマーケット協会の2023年年次統計調査では、国内でスーパーを保有する952社を対象とし、有効回答企業は283社、回収率は29.7%でした。また、店舗状況については各企業から標準的な店舗を回答してもらう方式が含まれています。

 したがって、こうした業界統計はスーパー業界の傾向を把握するうえで非常に有用ですが、全国すべてのスーパーを完全に把握した全数調査ではありません。回答した企業と回答しなかった企業の経営状況が同じとは限らないため、標本の偏りが存在する可能性があります。そのため、業界平均や中央値を特定の地方店舗へそのまま適用することは避ける必要があります。

観光客が多ければスーパーは維持できるのか

 観光地域では、週末、連休、夏季などに来訪者が増え、飲料、酒類、総菜、肉、魚、氷、行楽用品などの売上が増える可能性があります。このため観光需要はスーパーの売上を支える重要な要素になります。しかし、観光客数が多いことと、年間を通して店舗経営が安定することは同じではありません。観光需要は季節や天候に左右され、繁忙期だけ人員を増やさなければならない場合があります。また、観光客が地域へ入る前に大型店で買い物を済ませてしまえば、地域内のスーパーには十分な売上が発生しません。

 したがって観光地では、年間観光客数そのものより、「地域内で実際に食品を購入する観光客が何人いるか」「1人当たりいくら購入するか」「何か月間需要が発生するか」を分析する必要があります。

競合店がなくなれば残ったスーパーは安泰なのか

 競合店が閉店すると、残った店舗へ顧客が集中する可能性があります。しかし競合がなくなれば必ず店舗を維持できるわけではありません。地域全体の需要そのものが店舗の損益分岐点を下回っていれば、地域内で独占的な地位を得ても採算は確保できません。また、価格を大幅に引き上げれば、住民が遠方の大型店、宅配、インターネット販売などへ移行する可能性があります。

 地方スーパーが競争している相手は、同じ町のスーパーだけではありません。近隣都市の大型店、ドラッグストア、コンビニエンスストア、生協、宅配、インターネット販売などを含めて考える必要があります。

ネットスーパーや移動販売は代替になるのか

 ネットスーパーや食品宅配は、店舗まで移動しにくい人にとって有効な手段です。しかし地方では配送区域、配送料、最低注文額、配送時間、決済方法などの制約があります。特に人口密度が低い地域では、配送車が長い距離を走って少数の世帯へ商品を届けることになります。そのため1件当たりの配送費が高くなり、店舗型スーパーと同様に需要密度の問題を抱えます。

 移動販売も重要な手段ですが、車両費、燃料費、人件費、保冷設備、決済費、売れ残りなどの費用が発生します。必要としている住民が多くても、集落が広範囲に分散していれば、1時間に対応できる利用者数が少なくなり、事業採算が悪化します。そのため移動販売では、既存店舗との在庫共有、注文予約、複数地区を組み合わせた巡回、自治体支援、福祉や高齢者見守りとの連携などを組み合わせる方法が考えられます。ただし、補助金によって開始できたとしても、利用者、運転者、車両更新費などを長期間確保できなければ継続できません。

スーパー撤退は住民に何をもたらすのか

 スーパーの閉店による負担は、商品の価格だけでは測れません。近隣店舗がなくなれば、住民は遠方まで移動する必要があります。自動車を利用できる人にとって数キロメートルの増加で済んでも、自動車を運転できない高齢者などにとっては大きな生活上の問題になります。

 実質的な買い物負担は、「商品代金+交通費+配送料+移動時間+家族による送迎や買い物代行の負担」として考える必要があります。遠方の大型店の商品価格が安くても、移動に必要な費用と時間を含めれば必ずしも安いとは限りません。

 買い物頻度が減れば、保存しやすい食品の購入割合が増える可能性もあります。冷凍食品や加工食品そのものが直ちに健康上悪いという意味ではありませんが、生鮮食品を含む幅広い食品を選択する機会が減少する可能性があります。

食料品アクセス困難人口という指標

 農林水産政策研究所では、食料品アクセス困難人口を、「店舗まで500メートル以上離れ、自動車の利用が困難な65歳以上の高齢者」として推計しています。対象となる店舗には、生鮮食品店、百貨店、総合スーパー、食料品スーパー、コンビニエンスストア、ドラッグストアなどが含まれます。

 この指標は地域比較に有効ですが、500メートルという距離だけで実際の買い物環境を完全に評価することはできません。例えば500メートル以内にコンビニエンスストアがあれば統計上は比較的アクセスが確保されていると評価されても、価格、品ぞろえ、容量、生鮮食品の選択肢などがスーパーと同等とは限りません。さらに、直線距離と実際の道路距離は異なります。坂道、歩道、交通量、バスの運行本数、荷物を持って歩けるか、家族の支援があるか、宅配サービスを利用できるかなどによって実際の生活上の困難度は変わります。

スーパーを補助金で維持すればよいのか

 地方のスーパーは民間企業ですが、地域によっては食料供給を支える生活基盤に近い機能を果たしています。ただし、これはスーパーが法律上の公共インフラに指定されているという意味ではありません。近年、国も円滑な食品アクセスの確保を政策課題として位置づけ、店舗、移動販売、宅配、交通などを組み合わせた対応を進めています。

 自治体が特定の店舗へ継続的に公費を投入する場合には、「支援しなければ本当に撤退するのか」「支援によって何年間存続できるのか」「実際に恩恵を受ける住民は何人か」「代替手段より費用対効果が高いか」「競合事業者との公平性を確保できるか」などを検討する必要があります。例えば年間3,000万円を投入し、実際に恩恵を受ける住民が1,000人なら、単純計算では1人当たり年間3万円の公費負担になります。この金額が高いか安いかは、移動販売、買い物バス、タクシー助成、宅配支援などの代替策と比較しなければ判断できません。

 したがって、「スーパーは必要だから税金で残すべきだ」「民間企業だから行政は関与すべきでない」という二者択一で考えるのは適切ではありません。必要なのは、地域住民が必要とする食料供給機能を明確にし、それを最も持続可能な方法で確保することです。

地方で取り得る現実的な対応

 スーパー撤退への対応は、店舗を現在の形のまま残すことだけではありません。商圏に合わせた店舗の小型化、営業時間の見直し、予約販売、商品受け取り拠点、移動販売、宅配、デマンド交通、医療や福祉サービスとの連携などを組み合わせる方法があります。

 小型化によって家賃や電気料金を減らせる可能性がありますが、配送や管理者の費用まで同じ割合で減るとは限りません。営業時間を短縮して人件費を削減しても、冷蔵設備の電力費は残ります。したがって、それぞれの施策について削減できる費用と失われる売上を比較する必要があります。

 食品、日用品、宅配受け取り、行政サービス、金融サービスなどを組み合わせた複合拠点も考えられます。複数の需要を一つの場所へ集約できれば利用者を確保しやすくなる一方、業務が複雑化して人員や設備費が増える可能性もあります。

自治体が把握しておくべきこと

 自治体はスーパーが閉店すると発表されてから対応を考えるのではなく、地域の食料品アクセスを継続的に把握する必要があります。重要なのは、地区別人口や高齢化率だけではありません。食料品店舗の位置、実際の道路距離、運転できない住民の人数、路線バスやデマンド交通、移動販売、生協や宅配の配送区域、タクシー料金、家族送迎の実態、災害時の食料供給などを組み合わせて評価する必要があります。

 特に確認しておくべきなのは、「現在利用している店舗が閉店した場合、次の店舗までの距離と移動時間がどれだけ増えるのか」です。この情報があれば、店舗維持、交通支援、移動販売、宅配支援のどれが合理的なのかを比較しやすくなります。

移住や住宅購入でも店舗の将来性を見る必要がある

 地方へ移住するときには、「今スーパーがある」というだけで生活環境を判断するのは十分ではありません。現在の最寄り店舗が閉店した場合に次の店舗までどの程度距離があるのか、自動車を運転できなくなった場合にどのような移動手段があるのか、生協や宅配を利用できるのか、移動販売があるのかまで確認することが重要です。

 現在60歳前後で自動車を運転できる世帯であっても、10年後、20年後には状況が変わります。地方での住宅購入では、現在の買い物利便性だけでなく、自動車を利用できなくなった後まで生活を維持できるかという視点が必要です。

公開情報だけでは個別店舗の撤退理由を断定できない

 地方スーパーの分析で最も注意すべきなのは、個別店舗の内部情報がほとんど公開されていないことです。通常、店舗単独の売上高、営業利益、人件費率、賃料、電気料金、廃棄率、設備更新額、本部の撤退基準、賃貸借契約、将来の閉店計画などは外部から確認できません。

 そのため、「駐車場が空いている」「建物が古い」「近くにドラッグストアができた」といった観察だけで、赤字や閉店可能性を断定することはできません。同様に、人口が減少している地域で店舗が閉店したからといって、「人口減少が閉店原因だった」と直ちに因果関係を断定することもできません。人口減少と閉店が同時に起きていても、実際の直接的な理由が設備更新、人手不足、物流再編、契約満了などである可能性があります。

「人口減少だけでは説明できない」を科学的に証明するには

 本稿で示した各要因は、経済学や店舗経営の理論から見て合理的であり、公的統計とも大きな矛盾はありません。しかし、どの要因がスーパー撤退にどの程度影響しているかを科学的に証明したものではありません。

 本格的に因果関係を検証するなら、全国の店舗を数年間追跡し、各店舗が翌年も営業しているか、閉店したかを調べる必要があります。そのうえで、商圏人口の増減率、高齢化率、競合スーパー数、ドラッグストア数、物流拠点までの距離、店舗面積、建物年齢、地域の賃金水準などを同時に分析する必要があります。

 さらに、競合店が新しく開店した地域と開店していない地域を比較するなど、他の条件をできるだけそろえた分析を行うことで、「ドラッグストア出店によって閉店確率がどの程度変化したのか」といった因果関係に近い評価が可能になります。したがって、本稿で説明しているのは「地方スーパーが撤退する可能性を高める合理的な経営要因」であり、それぞれの要因について全国共通の因果関係を証明したものではありません。

現実的な結論

 地方スーパーが撤退する理由は、人口減少だけでは説明できません。人口減少は商圏全体の需要を縮小し、売上の上限を低下させる重要な要因ですが、実際に店舗存続を左右するのは、その売上によって人件費、電気料金、物流費、設備費などを負担し、企業が必要とする利益や投資回収を確保できるかどうかです。

 また、全国のスーパー販売額が増加しているからといって、人口減少地域の個別店舗が安定しているとは限りません。食品価格上昇によって名目売上が増加しても、客数や販売数量が減少し、仕入価格や人件費などの上昇が売上増加を上回れば、経営状態は悪化する可能性があります。

 現在黒字の店舗でも、数億円規模の設備更新を今後の商圏人口では回収できないと判断されれば閉店することがあります。チェーン全体の物流や人材配置を考えた結果、単独では黒字の店舗が閉鎖対象になる可能性もあります。一方、小型店舗が必ず不利とも限りません。従業員当たりの生産性では大型店舗に劣る場合があっても、売場面積当たりの売上では小型店舗が高い場合があります。したがって「大型化すればよい」「小型化すればよい」と一律に判断するのではなく、その地域の需要に合った店舗規模を考える必要があります。

 地域の食料供給を維持するために最も重要なのは、「スーパーを残すこと」自体を目的にしないことです。住民が必要な食料を合理的な負担で継続的に入手できることが本来の目的です。スーパーを維持する方が合理的な地域もあれば、小型店舗へ転換した方が合理的な地域もあり、移動販売、宅配、交通支援を組み合わせた方が持続可能な地域もあります。

 その判断には、何人が利用するのか、1日に何人が来店するのか、1人当たりいくら購入するのか、店舗を維持するためにいくら必要なのか、商品を誰が運ぶのか、従業員を確保できるのか、設備更新にいくら必要なのか、赤字が発生した場合に誰が何年間負担するのかを具体的に検証する必要があります。重要なのは、すべてのスーパーを一律に残すことでも、市場原理だけに任せることでもありません。地域ごとに必要な食料供給機能を明確にし、その機能を最も持続可能な方法で確保することです。

データ利用上の注意

 本稿で使用しているスーパー販売額、ドラッグストア販売額、店舗数、客数、生産性、食品ロスなどの数字は、全国または業界全体を対象とした統計です。特定の地方店舗の売上高、利益、閉店理由を直接示すものではありません。

 また、全国スーパーマーケット協会の年次統計調査は業界分析に有用ですが、全国すべての店舗を対象とした全数調査ではなく、回答企業を対象とした調査です。業界平均や中央値を特定の店舗へそのまま当てはめることはできません。個別地域を分析する場合には、国勢調査、住民基本台帳、経済センサス、商業動態統計、企業の公式発表、自治体資料、道路・公共交通情報、店舗の位置などを組み合わせて判断する必要があります。

主な参考資料

 主な資料として、経済産業省「商業動態統計」「2025年小売業販売を振り返る」、全国スーパーマーケット協会「2025年版スーパーマーケット白書」「スーパーマーケット年次統計調査」、農林水産省「食品アクセス問題の現状」「事業系食品ロス量」、農林水産政策研究所「食料品アクセスマップ」、資源エネルギー庁「電気料金の仕組み」、総務省統計局「人口推計」などを参照しています。

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※この記事は、2026年10月2日時点で確認できる人口統計、千葉県の水道再編、地域医療、公共交通、食品アクセスなどの状況を踏まえて内容を更新しています。

はじめに

 外房で暮らし続けるために必要なものは、住宅と自動車だけではありません。水道、電気、通信、道路、公共交通、医療、介護、買い物、ごみ収集、生活排水処理、行政窓口、消防・救急、金融、郵便、ガソリンスタンドなど、日常生活を支える複数の機能が安定して動いて初めて地域での生活は成立しますが、人口が減少すると利用者や料金収入が減る一方で、道路、水道管、橋、ごみ収集区域などの地理的な範囲まで同じ割合で縮小するわけではありません。そのため、人口減少地域では住民一人当たり、あるいは一世帯当たりのインフラ維持負担が増加しやすくなります。

 重要なのは、「外房に何が必要か」を理想論として列挙することではなく、どのサービスを住民の近くに残さなければならないのか、どの機能は市町村を越えて共同化できるのか、施設を集約した場合に生じる移動負担をどのように補うのかを、人口、年齢構成、地理、財政、人材、利用状況、災害リスクから総合的に考えることです。本記事では、便宜上、長生地域、夷隅地域、安房地域を広い意味で「外房」として扱いますが、「外房」は統計上の一つの行政区域ではないため、あくまでも分析上の地域設定として使用します。

最初に結論~必要なのは「施設数の維持」ではなく「生活機能の維持」

 人口減少が進む外房で必要なのは、すべての集落に現在と同じ施設を残すことでも、逆に多くの施設を一か所へ集約することでもありません。重要なのは住民が必要なサービスを実際に利用できる状態を維持することであり、そのためには、水道、電気、通信、道路、ごみ収集など住宅の近くまで届かなければ意味を持たない基礎機能、市町村または複数市町村で共有する診療所、薬局、スーパー、行政窓口、介護、公共交通などの地域拠点機能、さらに高度医療、専門医療、鉄道、大規模水道施設、災害時物流など広域で維持する機能を分けて考える必要があります。

 施設が存在していても住民がそこまで移動できなければ実質的には利用できませんし、反対に近隣施設が統合されても、デマンド型交通、送迎、訪問診療、宅配、移動販売、オンライン手続きなどによって利用可能性を確保できれば、地域全体としての生活機能を維持できる場合があります。したがって、地域サービスは単純な施設数ではなく、「設備が維持されているか」「必要な人材がいるか」「住民が到達できるか」「料金を負担できるか」「災害時に代替手段があるか」といった複数の条件を組み合わせて評価する必要があります。

分析対象となる地域

 長生地域は茂原市、一宮町、睦沢町、長生村、白子町、長柄町、長南町、夷隅地域は勝浦市、いすみ市、大多喜町、御宿町、安房地域は館山市、鴨川市、南房総市、鋸南町で構成されます。ただし、住民の実際の生活圏は行政区域とは必ずしも一致せず、長生地域では茂原市、夷隅地域ではいすみ市や勝浦市、安房地域では館山市や鴨川市が一定の拠点になっている一方、専門医療や大規模な買い物では千葉市、市原市、木更津市などへ移動する住民もいます。

 このため、市町村ごとの病院、スーパー、金融機関、駅などの施設数を数えるだけでは生活利便性を正確に把握できず、住民が実際に利用している施設と、そこまでの道路距離、所要時間、利用可能な交通手段を含めて評価する必要があります。

人口減少はインフラ需要を消すのではなく、維持効率を低下させる

 2025年国勢調査の人口等基本集計の確報では、2025年10月1日現在の千葉県人口は625万7,225人で、2020年から2万7,255人減少し、千葉県全体としては国勢調査開始以来初めて人口減少となりました。しかし、人口が減少したからといって、水道管、道路、橋、通信設備、ごみ収集区域などを同じ割合で減らせるわけではなく、例えば人口が20%減少しても住宅が地域内に広く分散して残れば、水道管や道路の総延長を20%短縮することはできません。

 固定的な維持費を必要とするネットワーク型インフラでは、利用者だけが減少すると一人当たりの負担が上昇します。単純化すれば、インフラ費用には道路や管路など人口に関係なく必要となる部分と、利用者数に応じて増減する部分があり、人口が減っても前者が残るためです。さらに、高齢化や単身世帯の増加を考えれば人口総数だけを見るのも不十分で、運転できる人がどれだけいるか、同居家族による送迎が可能か、住宅が集中しているか分散しているかといった条件によっても、必要となる地域サービスは大きく変わります。

1.水道~広域化後は「統合したか」より「統合後に維持できるか」が重要

 水道は生活インフラの中でも代替が極めて難しい機能であり、水が安定して供給されなければ飲料、調理、入浴、洗濯、トイレだけでなく、医療、介護、消防などにも影響が及びます。千葉県では人口減少、料金収入の減少、施設老朽化、技術職員不足などを背景に水道事業の広域化が進められ、夷隅地域では2025年4月1日に勝浦市、いすみ市、大多喜町、御宿町の水道事業が統合され、安房地域でも2026年4月1日に水道事業の統合が実施されています。

 さらに2026年4月には、九十九里地域や南房総地域に関係する用水供給事業についても再編が進んでいるため、現在は単に「広域化を検討する段階」というより、地域によっては「広域化した後の経営、施設配置、人材、料金、災害対応を検証する段階」に入っています。ただし、広域化すれば自動的に水道料金が下がったり、老朽施設の問題が解消したりするわけではなく、浄水場や管理業務の統合によって重複費用を削減できる可能性がある一方で、施設を減らし過ぎれば、一つの施設や幹線管路の故障による影響範囲が広がる可能性もあります。

 したがって、今後は老朽管を一律に交換するのではなく、病院、避難所、福祉施設、人口集中地区、代替供給が難しい地区などを優先しながら更新するとともに、非常時の連絡管、応急給水、資材備蓄、技術者確保まで含めて評価する必要があります。人口密度の低い地区では少数世帯のために長い管路を維持することもありますが、この問題を単純な採算性だけで判断することはできない一方、将来も現在と同じ施設構成を維持できるのかについては現実的な検討を避けることはできません。

2.道路と橋~外房では交通施設であると同時に生活インフラ

 外房では道路が通勤、通学、通院、買い物だけでなく、救急搬送、訪問介護、ごみ収集、宅配、郵便、移動販売、給油、農業、観光など多くのサービスを支えており、道路が使えなくなることは単なる移動の不便ではなく、複数の地域サービスが同時に機能しにくくなることを意味します。長生地域では千葉県の長生土木事務所が7市町村の道路、河川などの建設、維持管理、災害対応を担当していますが、今後の課題は新しい道路を増やすこと以上に、既存道路、橋、トンネル、側溝、法面、街路灯などを限られた人員と財源でどこまで安全に維持できるかです。

 道路の重要度は単純な交通量だけでは評価できず、利用者が少ない道路でも、その道路しか使えない集落に通じている場合や、救急搬送、病院、避難所への接続に重要な場合は高い優先度を持ちます。今後は交通量、沿道人口、救急搬送利用、災害危険度、代替経路の有無、病院や避難所への接続状況などを組み合わせて道路ごとの重要度を評価し、その結果を補修や更新の優先順位に反映する仕組みが必要になります。

3.地域交通~「路線がある」ことと「生活に使える」ことは違う

 外房線、内房線、路線バス、コミュニティバス、デマンド型乗合交通、タクシーなどは、運転できない住民にとって重要な生活インフラですが、交通機関が存在しているだけでは十分ではありません。通院に利用するためには診療開始時間までに病院へ到着でき、診察後に帰宅できることが必要であり、買い物に利用する場合も、店舗で必要な滞在時間を確保したうえで荷物を持って帰宅できる便がなければ、実際の生活交通としては機能しません。

 このため、鉄道、路線バス、デマンド交通、タクシー、病院送迎をそれぞれ別の交通手段として考えるのではなく、住宅から目的地までの一連の移動として設計する必要があります。デマンド型交通も万能ではなく、電話予約しかできない、予約締切が早い、市町村境を越えられない、利用できる目的地が限られるといった条件があると、制度上は交通手段が存在していても実生活では利用しにくくなります。したがって評価すべきなのは車両台数や路線数だけではなく、「自宅から病院まで何分で到達できるか」「午前中の診察に間に合うか」「診察後に帰宅できる便があるか」といった住民側の利用可能性です。

4.医療と救急~病院数よりも到達可能性と役割分担を見る

 外房では人口減少が続いても、高齢化によって慢性疾患、救急搬送、在宅医療、訪問看護、服薬管理などの需要が同じ割合で減少するとは限りません。千葉県の地域医療資料では、山武長生夷隅保健医療圏の人口は2025年の約40万1千人から2040年には約31万9千人へ、安房保健医療圏では約11万5千人から約8万8千人へ減少すると推計されており、計算すると山武長生夷隅では約20%、安房では約23%の人口減少となります。ただし、2025年人口と2040年人口は同一方法による実績値ではないため、2040年の数字は確定した未来ではなく、一定の人口動向を前提とした将来推計として扱う必要があります。

 山武長生夷隅保健医療圏は医師少数区域に位置付けられており、医師や医療従事者の確保が重要な課題となっています。また、安房地域では高度な医療機能が特定医療機関へ集中しているため、専門医療を維持しやすい一方で、住民の居住地によっては移動距離が長くなるという問題もあります。このため、すべての市町村に総合病院を置くことを目標にするのではなく、日常的な慢性疾患を診る診療所、検査や入院を担う地域病院、救急受入医療機関、高度医療を担う広域病院、訪問診療、訪問看護、薬局、回復期・慢性期医療、介護施設を適切に役割分担する必要があります。

 病院の集約には専門職を集中させやすい利点がありますが、患者の移動時間、家族の送迎時間、救急搬送距離が長くなる可能性があるため、医療再編を病院の運営費だけで評価することはできません。病院運営費、患者の移動時間、医療従事者の負担などは単位が異なるため、そのまま足し算するのではなく、費用として評価する場合には時間などを一定の方法で金額換算し、金額換算しない場合には複数の指標を別々に比較する多基準評価として扱う方が合理的です。

5.消防・救急~救急車の到着時間だけでは評価できない

 消防・救急は高齢者の多い地域ほど重要であり、急性心疾患、脳卒中、転倒、骨折などでは救急車が早く到着することだけでなく、その後速やかに受入医療機関が決まり、必要な治療へ到達できることが重要になります。救急対応時間は、通報から出動までの時間、現場到着までの時間、現場活動時間、搬送先決定までの時間、病院までの搬送時間という複数の段階に分けて考えることができ、これらはすべて時間という共通単位であるため、救急体制を分析する指標として比較的扱いやすいものです。

 ただし、救急対応の最終到達点を「救急車が病院に着いた時点」とするのか、「医療機関への引継ぎが終了した時点」とするのか、「実際に治療が開始された時点」とするのかによって評価結果は変わります。このため、外房の救急体制を検証する場合には、消防署や救急車の数だけを見るのではなく、地区別、時間帯別、疾患別に、現場到着時間、搬送先決定時間、病院到着時間を確認する必要があります。

6.買い物と食品アクセス~スーパーの所在地だけでは評価できない

 買い物環境は地域内にスーパーがあるかどうかだけでは判断できず、自宅から店舗までの距離、移動手段、道路の勾配、荷物の重量、宅配区域、最低注文額、配送料、注文方法、決済方法などによって実際の利用可能性が変わります。2025年1月の全国調査では、公共交通または徒歩で食品店へ15分以内に行けないと回答した人が37.8%、健康的な食生活に必要な食品を手頃な価格で購入できていないと回答した人が45.4%でしたが、これは全国調査であり、外房住民の37.8%や45.4%が同じ状態にあることを意味するものではありません。

 外房における実態を知るためには、市町村や地区ごとにスーパー、コンビニ、ドラッグストア、移動販売、宅配区域と高齢者人口、自動車利用可能性を組み合わせて分析する必要があります。固定店舗は品ぞろえと価格面で優れていますが商圏人口が縮小すれば撤退リスクがあり、宅配は運転できない世帯に有効である一方で注文手段や配送区域の制約があります。移動販売は集落を直接回れる反面、利用者が少なければ燃料費、人件費、移動時間、商品廃棄などの負担が大きくなるため、固定店舗、宅配、移動販売、買い物代行、地域交通を地域ごとに組み合わせることが現実的です。

7.ごみ収集~人口が減っても収集距離は同じ割合では減らない

 ごみ収集は普段は目立ちにくいサービスですが、停止すれば生活衛生に直接影響します。人口が減少しても住宅が地域内に分散していれば収集車が走る距離は大きく減らず、一方で一つの集積所から回収するごみの量は減少するため、走行距離当たりの収集量が減って効率が低下する可能性があります。

 さらに高齢化すると、ごみ集積所までごみを運べない、粗大ごみを住宅から搬出できない、複雑な分別に対応しにくいといった問題が増えるため、通常の定期収集だけではなく、高齢者や障害者への戸別収集、粗大ごみ搬出支援、不法投棄対策、災害ごみの仮置場、収集作業員の確保まで含めて考える必要があります。ごみ処理施設を広域化すれば設備投資を集約できる可能性がありますが、処理施設までの収集車の走行距離が長くなる場合もあるため、施設運営費だけではなく収集・運搬費を含む総費用で判断しなければなりません。

8.下水道・浄化槽・し尿処理~水道と同時に考えるべき生活基盤

 生活用水を供給する水道だけでなく、使った水をどのように処理するかも重要な生活インフラです。人口密度が高い地区では下水道による集合処理に一定の合理性がありますが、住宅が広く分散する地区では長い管路を維持する費用が大きくなる場合があるため、人口減少地域では既存下水道をどこまで更新するのか、浄化槽による個別処理をどこで活用するのか、し尿や汚泥をどこで処理するのかを長期的に考える必要があります。

 水道と同様に、現在設備が存在しているからといって将来も同じ方式で維持できるとは限りません。管路の更新費、処理施設費、各戸の設備費、維持管理費を比較し、地域の人口密度や住宅分布に適した処理方法を選ぶ必要があります。

9.介護・在宅生活支援~医療だけでは地域生活を維持できない

 高齢化した地域では、病院まで行けるかどうかだけではなく、自宅で日常生活を継続できるかが重要になります。訪問介護、訪問看護、通所介護、ケアマネジャー、配食、買い物支援、福祉用具、住宅修繕、庭や敷地の管理などが不足すると、本人が比較的健康であっても自宅生活を続けることが難しくなる場合があります。

 特に単身高齢者や高齢夫婦世帯では、これまで本人や家族が担っていた送迎、買い物、行政手続き、ごみ出し、住宅管理などを地域サービスで補う必要が生じますが、人口減少地域では需要が分散するためサービス事業者が成立しにくい場合があります。したがって、需要が存在することと民間事業として採算が取れることを分けて考え、自治体が支援する場合にも、誰に、どのサービスを、年間どれだけの費用で提供するのかを明確にする必要があります。

10.電気と燃料~通常時より停電時の代替能力が重要

 外房では台風、強風、倒木などによって道路や電力設備が影響を受ける可能性があり、停電が長引けば照明だけではなく、冷蔵庫、給湯、井戸ポンプ、通信機器、在宅医療機器、電動ベッド、空調、店舗の決済なども停止します。このため、医療機関や避難所の非常用電源、在宅医療機器利用者への個別支援、通信端末の充電拠点、給水設備を動かす電源、燃料供給、ガソリンスタンドの営業継続などを平常時から準備する必要があります。

 太陽光発電や蓄電池は有効な選択肢の一つですが、発電量、蓄電容量、設備費、機器寿命などの制約があり、「再生可能エネルギーを導入すれば災害時も安心」と単純化することはできません。重要なのは特定の設備を導入すること自体ではなく、停電が一定時間続いた場合に、水、通信、医療、燃料など生活に必要な機能をどの程度維持できるかです。

11.通信~行政、医療、買い物を支える基礎インフラ

 インターネットや携帯電話は娯楽設備ではなく、行政手続き、銀行取引、医療予約、買い物、災害情報、家族との連絡、仕事、教育などを支える生活基盤になっています。ただし、通信回線が利用できるだけではデジタル化は成立せず、スマートフォンやパソコンなどの端末を所有できること、本人または支援者が操作できることも必要です。

 したがって、高齢化した地域で行政窓口を廃止してオンラインへ全面移行するのは現実的ではなく、オンライン、電話、対面、郵送、代理申請などを併存させる方が利用可能性を高めます。また災害時には停電や基地局障害で通信が使えなくなる可能性もあるため、防災行政無線、ラジオ、広報車、掲示板、地域の見守りなど、通信障害時の代替手段も残しておく必要があります。

12.行政、金融、郵便~建物ではなく「手続きできるか」で考える

 行政サービスは市役所や町役場が存在していれば十分というものではなく、住民票、税、介護、医療、福祉、年金、相続、死亡届、住宅、廃棄物などの手続きは複雑で、高齢者や単身者の場合には窓口へ行けない、必要書類が分からない、オンライン申請ができないという問題が生じます。金融機関や郵便局についても店舗数だけで判断するのではなく、現金を引き出せるか、公共料金を支払えるか、本人確認や相続手続きができるか、自動車がなくても到達できるかまで確認する必要があります。

 今後、窓口の統廃合が進む場合には、移動窓口、予約相談、電話相談、郵送、代理申請などを組み合わせることで、建物そのものを維持するのではなく、住民が必要な手続きを実際に完了できる状態を維持するという考え方が必要です。

「第一優先、第二優先」と単純に順位を付けるのは難しい

 水道、電気、道路、医療、交通などの重要度を一列に並べ、「第一優先」「第二優先」と断定することには注意が必要です。例えば断水1日、停電3時間、救急搬送10分延長、スーパーまで15キロメートル、バス週2便という異なる問題を直接比較するためには、生命への影響、代替可能性、影響人口、発生頻度、復旧時間、費用などを共通基準で評価しなければなりません。

 したがって、外房で優先的に検討すべき分野としては、水道・生活排水、電気・燃料、道路・橋、通信、医療・救急、介護、地域交通、食品・日用品、ごみ収集、行政・金融・郵便、災害時の代替機能などを挙げたうえで、地区ごとの人口構成、地理条件、既存施設、交通環境などに応じて優先順位を決める方が合理的です。

地域サービスの評価は「足し算」だけでは不十分

 地域サービスの持続可能性を、「施設」「人材」「交通」「料金」「災害対策」などの点数を単純に足し合わせて評価すると、重要な問題を見落とす可能性があります。例えば病院設備が十分で、医師も確保され、料金負担にも問題がなくても、住民が病院まで移動できなければ、その住民にとって医療サービスは実質的に利用できません。

 このような生活サービスには、最も弱い条件が全体を制約する「ボトルネック型」の性格があります。そのため、総合点が高いかどうかだけではなく、「どれか一つでも最低水準を下回っている条件がないか」を確認する評価方法の方が、地域住民が実際に生活できるかどうかを考えるうえでは実態に近いと考えられます。

外房固有の実態を把握するにはGIS分析が必要

 全国調査や千葉県全体の統計から、人口減少、高齢化、食品アクセス、医師不足などの問題が存在することは確認できますが、それだけで御宿町、勝浦市、いすみ市、茂原市、館山市など個別地域の生活条件を直接説明したことにはなりません。そのため、より具体的に分析するには、GIS(Geographic Information System・地理情報システム)を利用して人口、年齢、住宅分布、道路、鉄道駅、バス停、病院、診療所、薬局、スーパー、金融機関、避難所などを地図上で重ねる必要があります。

 例えば、「65歳以上人口のうち、自動車を使わず30分以内に医療機関へ到達できる割合」「食品店まで15分以内に到達できない人口」「救急搬送で一定時間以上を必要とする地区」などを算出できれば、単純な施設数の比較よりも、どの地域でどの生活機能が不足しているのかを具体的に把握できます。

現実性の低い対策

 すべての集落に現在と同じ施設を残し続けることは、人口、利用者、人材、財政が減少する中では難しくなりますが、反対に施設を大規模に集約して交通手段を用意しない方法も、運転できない住民の生活を困難にします。また、観光収入が増えれば水道、医療、交通、ごみ収集など住民向けサービスまで自動的に維持できるわけではなく、観光によって生まれた経済効果が地域インフラの維持費へどのようにつながるのかを別途検討する必要があります。

 デジタル化も万能ではなく、通信回線、端末、操作能力がそろわなければ利用できず、医療、介護、ごみ出し、住宅管理など現地で人間が対応しなければならないサービスも残ります。ボランティアだけに依存する仕組みにも長期的な安定性には限界があり、責任、事故、保険、燃料費、担い手自身の高齢化を考えれば、必要性の高いサービスには一定の公的または事業的基盤が必要です。自動運転も将来的な可能性はありますが、道路条件、車両費、運行管理、通信、保守、事故対応などの課題があるため、現在生じている通院や買い物の問題を先送りする理由にはなりません。

外房で現実的に進めるべきこと

 最も現実的なのは、既存の施設と人材を前提に、生活圏単位で段階的に機能を再編することです。市町村境にこだわらず住民が実際に利用する病院、スーパー、鉄道駅、金融機関、行政窓口を把握し、そこへの移動手段まで含めて設計するとともに、「病院を一つ残す」「バス路線を残す」といった施設中心の基準ではなく、「救急医療へ何分以内に到達できるか」「食料品を週何回購入できるか」「断水時に何時間以内に給水できるか」「行政相談をどの程度利用できるか」といった住民側から見た最低サービス水準を設定する必要があります。

 施設を集約する場合には交通や訪問サービスを同時に整備しなければならず、施設だけを減らして住民の移動手段を用意しなければ、行政上は効率化であっても住民側から見れば実質的なサービス低下になります。水道、医療、ごみ処理、消防、交通、専門職採用などについては、小規模自治体が単独で維持するより複数自治体で共同運営した方が合理的な場合がありますが、広域化が必ず費用削減になるわけではなく、移動距離、収集距離、災害時の影響範囲なども含めて判断する必要があります。

 さらに、移動販売、買い物代行、デマンド交通、介護、住宅管理などでは、必要性が高くても民間事業として採算が成立しない場合があります。その場合は補助の必要性を曖昧にするのではなく、「誰のどの生活機能を、年間どれだけの費用で守るのか」を明示し、その費用と社会的効果を比較できる仕組みにすることが重要です。

地域を見るときに確認すべき項目

 外房のある地区で将来も生活を続けられるかを判断する場合、水道料金や管路更新計画だけを見るのでは不十分で、病院や診療所までの所要時間、夜間・休日の救急搬送先、公共交通の運行時間、デマンド交通の予約条件、スーパーや薬局までの距離、宅配や移動販売の対象区域、ごみ収集方法、下水・浄化槽の維持体制、介護サービスの供給状況、ガソリンスタンド、行政窓口、金融・郵便サービス、携帯電話や固定通信、災害時の代替道路、非常用電源、応急給水拠点まで一体として確認する必要があります。

 特に重要なのは、「現在家族が送迎している」「現在は本人が自動車を運転している」といった条件を恒久的な前提にしないことです。現在は問題なく生活できていても、高齢化によって本人が運転できなくなった場合や、家族による送迎ができなくなった場合にも生活が成立するかどうかまで考えて、地域の持続可能性を判断する必要があります。

現実的な結論

 外房で今後も暮らし続けるために必要なのは、都市部と同じ数の施設を各市町村に残すことではありません。人口減少と専門人材不足が進む中では、水道、医療、ごみ処理、消防などの広域化や施設集約は一定程度避けにくいと考えられますが、集約だけを進めれば、運転できない高齢者、障害者、単身世帯などに負担が集中するため、施設の維持と住民の利用可能性を別々に考えることはできません。

 水道施設があることより、必要な水が安定して届くことが重要であり、病院があることより、必要な時に医療へ到達できることが重要です。同様に、バスが走っていることより実際の通院や買い物に利用できること、オンライン申請が用意されていることより住民が実際に申請を完了できること、スーパーが存在することより必要な食品を自宅まで持ち帰れることの方が、生活を維持するという観点では重要になります。

 この視点に立てば、外房の生活基盤を維持するために必要なのは人口増加だけではなく、人口が減少しても最低限の生活機能を維持できる地域構造へ移行することだと分かります。そのためには、地域拠点への適切な機能集約、市町村を越えた共同運営、移動支援、訪問型サービス、デジタルと対面の併用、災害時の代替機能を組み合わせ、どの機能を住宅の近くに残し、どの機能を広域で共有し、距離が広がった部分を交通、訪問、宅配、通信によってどのように補うかを具体的に設計することが、人口減少が進む外房で今後も生活を維持していくための中心的な課題です。

地域の課題を、自分の判断に置き換えて考える

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 「地方の持ち家で、何歳まで暮らし続けられるのか」。地方に住む高齢者だけでなく、都市部から地方への移住を考える人にとっても重要な問題です。一般には、「健康なら80歳でも90歳でも自宅で暮らせる」「介護が必要になったら施設へ移ればよい」と考えられがちですが、実際の生活はそれほど単純ではありません。

 地方では、自宅の中で食事や着替えができるだけでは生活は成立しません。食料品を買い、病院へ通い、薬を受け取り、家屋や庭を管理し、行政や金融機関の手続きを行い、災害時には安全な場所へ避難する必要があります。これらの生活機能の多くが、自動車、家族、地域のサービスに依存している地域も少なくありません。

 一方、身体機能が低下しても、宅配、配食、訪問診療、訪問看護、介護サービス、家族による送迎、住宅改修などを利用できれば、自宅生活を続けられる場合があります。したがって、「何歳まで暮らせるのか」という問いを、年齢だけで答えることはできません。

 本記事では、厚生労働省、内閣府、総務省統計局、国土交通省、農林水産省、警察庁などの公的統計を基礎に、地方の持ち家で生活を続けるために何が必要なのか、どのような状態になったとき自宅生活を再検討すべきなのかを整理します。

最初に結論

 地方の高齢者が自宅で暮らせる年齢に、全国共通の上限はありません。70代で自宅生活が難しくなる人もいれば、90歳を超えて暮らし続けられる人もいます。その違いは、年齢そのものよりも、身体・認知機能、移動手段、医療や介護へのアクセス、買い物手段、住宅の安全性、住宅管理能力、家族や地域による支援、経済的余力などの組み合わせによって生じます。

 この関係は、単純な足し算で表すことはできません。概念的には、

自宅生活継続可能性=f(身体・認知機能、移動、医療・介護、買い物、住宅、安全、支援、経済力、それぞれの相互作用)

と考える方が適切です。

 例えば、運転ができなくなっても宅配と家族送迎が利用できれば生活を維持できる可能性があります。しかし、運転できない、公共交通がない、家族送迎もない、宅配も利用できないという条件が重なれば、生活への影響は一気に大きくなります。ある能力の低下を別のサービスで補える場合がある一方、代替できない重要な機能が失われれば、それが自宅生活全体のボトルネックになるからです。

 特に地方では、自動車を運転できなくなること、配偶者が入院または死亡すること、通院先が遠くなること、買い物の代替手段がなくなること、家屋や庭を管理できなくなることなどが重なると、生活が急速に不安定になる可能性があります。

 したがって、住み替えや支援導入を考える基準は特定の年齢ではなく、生活に必要な機能を本人、家族、地域サービスのいずれによっても維持できなくなった時点と考えるべきです。

1.平均寿命は「自立して暮らせる年齢」ではない

 2025年の日本人の平均寿命は、男性81.35年、女性87.33年です。しかし、平均寿命は「その年齢まで健康に自宅で暮らせる」という意味ではありません。

 日常生活の制限を考えるうえでは、平均寿命とは別に健康寿命を見る必要があります。健康寿命とは、「健康上の問題で日常生活が制限されることなく生活できる期間の平均」を示す指標で、2022年は男性72.57年、女性75.45年でした。

 平均寿命と健康寿命の間には一定の差がありますが、その期間のすべてで介護が必要になるわけではありません。腰痛や視力低下など何らかの制限があっても、自分で生活している人は多数存在します。また、健康寿命を超えたから自宅生活ができなくなるわけでもありません。

 ここから分かる重要な点は、長生きできる年齢と、支援なしで生活できる年齢は一致しないということです。さらに言えば、支援を利用しながら自宅で暮らせる年齢とも一致しません。

 したがって、「平均寿命が87歳だから85歳までは自宅で大丈夫」といった判断をすることはできません。平均寿命や健康寿命は集団全体の傾向を見る統計であり、個人の住み替え時期を直接予測する数字ではないからです。

2.80歳前後から生活条件の再点検が重要になる

 年齢だけで自宅生活の可否を判断すべきではありませんが、加齢によって介護や支援を必要とする人の割合が上昇することは統計上明確です。

 厚生労働省の資料では、75歳以上の要支援・要介護認定率は31.0%、85歳以上では57.7%です。ただし、これは「85歳になれば57.7%の確率で要介護になる」という意味ではありません。85歳以上の人口のうち、その時点で要支援または要介護認定を受けている人の割合です。

 また、要支援・要介護認定を受けた人が、すべて施設へ入所するわけでもありません。要支援や比較的軽度の要介護であれば、訪問介護、通所介護、福祉用具、住宅改修などを組み合わせながら、自宅で生活している人も多数います。

 ただし認定率は年齢とともに上昇し、とくに80歳代以降では身体機能や生活能力の低下が表面化する人が増えます。そのため、年齢を絶対的な境界としてではなく、生活を再点検する時期の目安として利用することには意味があります。

 本記事では、実務的な目安として、65~74歳頃は将来の生活設計を始め、75~79歳頃には運転、通院、住宅管理を具体的に点検し、80~84歳頃には宅配や代替交通などを実際に試し始め、85歳以降では本人や配偶者だけで生活機能を維持できるかを定期的に確認する、という考え方を提案します。

 これは医学的、公的な年齢基準ではありません。「80歳だから危険」「85歳だから一人暮らしはできない」という意味でもありません。年齢が上がるほど複数の生活機能が同時に低下する可能性が高くなるため、問題が発生してからではなく、事前に代替策を用意するための生活設計上の目安です。

3.地方では自動車が生活機能の一部になっている

 地方で自宅生活を考えるとき、最も重要な要素の一つが移動手段です。国土交通省の全国都市交通特性調査でも、高齢者を含め、三大都市圏より地方都市圏の方が自動車による移動への依存が大きい傾向が確認されています。

 地方では自動車は単なる移動手段ではありません。食料品の購入、通院、薬局、金融機関、ごみ出し、家族の送迎、地域活動など、複数の生活機能を一台の自動車が支えている場合があります。

 そのため、高齢者の運転を考える際には、二つのリスクを同時に評価する必要があります。一つは運転を続けることによる交通事故リスクであり、もう一つは運転をやめることによる生活機能喪失のリスクです。

 2025年の運転免許自主返納件数は全国で435,067件でした。しかし、この人数から返納後の生活が維持できているかどうかを判断することはできません。

 高齢者の運転中止と社会的孤立、外出減少、抑うつ症状などの関連を指摘する研究もあります。ただし、これは「免許を返納すると健康が悪化する」という単純な因果関係を意味しません。健康状態が悪化したために運転を中止したという逆方向の影響も考える必要があるからです。

 重要なのは、免許を返納する年齢を一律に決めることではなく、運転をやめた翌日から生活できる仕組みを先に作っておくことです。路線バスや鉄道の停留所まで歩けるのか、デマンド交通が自宅付近まで来るのか、タクシーを継続的に利用できる所得があるのか、家族送迎が可能なのか、病院送迎や介護タクシーが利用できるのか、食品や日用品の宅配が利用できるのかまで確認する必要があります。

 これらの代替手段が確保できない地域では、運転停止そのものが自宅生活の限界点になる可能性があります。

4.買い物は「スーパーまで何キロメートルか」だけでは判断できない

 地方では、近隣の小売店が閉店し、郊外の大型店舗へ買い物が集中している地域があります。農林水産省は、店舗まで直線距離で500メートル以上あり、かつ自動車を利用できない65歳以上の人を「食料品アクセス困難人口」として推計しています。

 2020年の食料品アクセス困難人口は全国で904万人、65歳以上人口の25.6%でした。75歳以上では566万人で、75歳以上人口の31.0%に相当します。

 ただし、この数字を「904万人全員が実際に買い物できない」と解釈してはいけません。500メートルという基準は直線距離であり、道路状況、坂道、階段、身体機能、宅配利用、家族の支援などは十分反映されません。また、都市部でも坂道や重量物の運搬などによって買い物が困難になることがあります。

 買い物能力は、少なくとも「店へ行けるか」「商品を持ち帰れるか」「代替サービスを利用できるか」という三段階で考える必要があります。

 店舗へ行くことができても、米、飲料、洗剤、灯油などの重量物を持ち帰れなければ生活には支障が生じます。一方、ネットスーパー、生協などの宅配、移動販売、買い物代行、家族による購入、配食サービスなどが利用できれば、本人が店舗へ行けなくても生活を続けられる場合があります。

 さらに、サービスが地域に存在するだけでは十分ではありません。配送区域、最低注文額、配送料、注文方法、支払方法、商品の受取方法が本人に適している必要があります。

 したがって、買い物能力を評価する場合には、「スーパーまで何キロメートルか」ではなく、食料を選び、注文または購入し、支払い、受け取り、最終的に室内まで運べるかという一連の生活機能として考える必要があります。

5.「病院がある」ことと「必要な医療を受けられる」ことは違う

 地方では近隣に診療所があっても、必要な診療科や検査をすべて受けられるとは限りません。一般的な慢性疾患の定期受診は近隣で可能でも、循環器内科、眼科、耳鼻咽喉科、泌尿器科、脳神経外科、がん治療、高度画像検査などでは、遠方の医療機関まで移動しなければならない場合があります。

 高齢になるほど複数の疾患を抱える人が増え、受診先が複数になる可能性もあります。そのため医療アクセスは、単純な直線距離だけでは評価できません。

 通院負担は概念的には、

通院負担=移動時間+待ち時間+診療時間+薬局での時間+付き添う人の時間的負担+交通費

として捉えることができます。

 診察そのものが15分でも、往復の移動や待ち時間を合わせれば半日必要になることがあります。本人が運転できなくなれば、家族が毎月何度も仕事を休んで送迎するという問題も生じます。

 また、訪問診療が利用できても、すべての検査や治療を自宅で行えるわけではありません。急変時の搬送先、夜間休日の対応、訪問看護、薬局、入院後の退院支援なども含めて考える必要があります。

 したがって自宅生活を評価する場合には、かかりつけ医の有無だけでなく、定期受診先まで移動できるか、緊急時の受入病院があるか、訪問診療や訪問看護が実際に利用できるか、家族以外の通院支援があるかまで一体として確認する必要があります。

6.持ち家でも住居費はゼロにはならない

 2023年住宅・土地統計調査では、高齢者のいる世帯の81.6%、高齢夫婦のみの世帯では87.6%が持ち家に居住しています。これは全国値であり、この数字だけから「地方の高齢者ほど持ち家率が高い」と結論づけることはできませんが、高齢者の生活基盤として持ち家が非常に大きな位置を占めていることは分かります。

 持ち家には家賃負担がないという利点があります。しかし住宅ローンを完済していても、固定資産税、火災保険や地震保険、屋根・外壁の修繕、給湯器や水回りの交換、浄化槽の管理、庭木の剪定、草刈り、害虫やシロアリ対策、台風や豪雨後の補修、不用品や家財の処分などの費用は残ります。

 さらに、若いときには自分でできた作業も、高齢になると外注しなければならなくなります。したがって加齢によって住宅ローンが減る一方、住宅管理を外部に依頼する費用が増える可能性があります。

 広い戸建て住宅では、実際に使う部屋が少なくなっても、屋根、外壁、庭、排水設備などの管理範囲はほとんど減りません。地方の持ち家は、「住宅ローンが終われば費用のかからない資産」と考えるよりも、継続的な管理能力と修繕費を必要とする生活設備として評価した方が現実的です。

7.住宅の中にも生活の限界点がある

 2023年住宅・土地統計調査では、高齢者等のための設備がある住宅は全国の住宅の約56.0%です。しかし、手すりがある住宅は約44.0%、段差のない屋内は約22.3%、廊下などが車いすで通行可能な住宅は約16.8%、道路から玄関まで車いすで通行可能な住宅は約13.4%にとどまります。

 これらは全国値であり、地方住宅だけを示す数字ではありません。しかし、築年数の古い戸建て、広い敷地、玄関の大きな段差、屋外階段、和室中心の間取りなどでは、身体機能が低下したときに生活上の問題が顕在化することがあります。

 住宅の安全性は、室内だけを見ても判断できません。寝室からトイレ、浴室、玄関、道路、そして送迎車まで安全に移動できるかという、連続した生活動線として評価する必要があります。

 手すりを設置して浴室を安全にしても、玄関前に急な階段があり道路まで出られなければ、通院や外出は困難です。逆に、大規模改修をしなくても、生活を1階へ集約し、寝室をトイレの近くへ移し、敷物を減らすことで危険を大きく下げられる場合もあります。

8.夫婦二人暮らしでも、生活機能が一人に集中している場合がある

 2024年には、65歳以上の人がいる世帯は全世帯の50.3%を占めています。高齢者世帯では単独世帯や夫婦のみの世帯が大きな割合を占めており、今後も高齢者だけで生活する世帯への対応は重要になります。

 夫婦二人暮らしだからといって、生活能力が二人分存在するとは限りません。夫だけが運転する、妻だけが料理や服薬管理をする、夫だけが住宅修繕を手配する、妻だけが家計や行政手続きを担当するといった役割分担が固定化されている場合があります。

 この状態では、二人とも比較的元気に見えていても、一方が急に入院しただけで生活全体が機能しなくなる可能性があります。

 したがって夫婦世帯を評価するときは、単純な人数ではなく「機能の重複性」を見る必要があります。運転、買い物、調理、服薬管理、通院手配、家計管理、住宅修繕、行政手続きについて、夫だけができるのか、妻だけができるのか、二人ともできるのか、あるいは外部サービスで代替できるのかを確認することが重要です。

 一つの重要な生活機能を一人しか担えず、外部代替も存在しない場合、その人の入院、認知機能低下、死亡などが世帯全体の自宅生活を揺るがす可能性があります。

9.自宅生活はどのように不安定になっていくのか

 自宅生活の限界は、必ずしもある日突然訪れるわけではありません。典型的な一つの概念モデルとして、小さな生活上の不便が積み重なり、徐々に生活範囲が縮小していく経路を考えることができます。ただし、すべての高齢者が同じ順序でこの経過をたどるという統計的なモデルではありません。

 初期には、長距離運転を避ける、重い物を買わなくなる、庭の手入れが遅れる、2階を使わなくなる、遠方の病院への受診を減らすといった変化が現れることがあります。この時点では、本人自身は「まだ問題なく暮らせている」と感じている場合があります。

 次の段階では、食事内容が単調になる、外出が減る、受診を先延ばしにする、掃除できない部屋が増える、住宅修繕を放置する、人との交流が減るなど、生活そのものが縮小していくことがあります。居住そのものは継続できていても、安全性や生活の質は低下しています。

 さらに、買い物や通院、行政手続き、住宅管理などを家族へ恒常的に依存するようになる場合があります。家族が近隣に住み、無理なく継続できるのであれば成立しますが、家族が就労していたり遠方に住んでいたりすれば、長期的に同じ支援を続けることは困難になる可能性があります。

 こうした状態で転倒、骨折、配偶者の入院、認知機能低下、自動車事故、住宅設備の故障、台風などが発生すると、それまで潜在化していた生活の脆弱性が一気に表面化します。

10.自宅生活の限界は年齢ではなく生活機能で判断する

 自宅生活を続けられるかどうかを判断するためには、年齢よりも具体的な生活機能を確認する方が有効です。

 移動については、安全に運転できるか、運転できなくても代替交通があるか、玄関から送迎車まで移動できるか、必要な通院回数を維持できるかを確認します。

 買い物と食事については、食品を定期的に確保できるか、重量物を入手できるか、調理または配食を利用できるか、注文、支払い、受取まで本人または他者が継続できるかを確認します。

 医療については、定期受診を中断していないか、服薬を適切に管理できるか、急変時の連絡先や搬送先があるか、入院後の退院先を確保できるかが重要です。

 住宅については、転倒しにくい環境か、トイレや浴室を安全に利用できるか、冷暖房を適切に使えるか、住宅の不具合を認識して業者へ依頼できるか、草刈りや庭木管理を外注できるかを確認します。

 認知・判断面では、金銭管理、契約内容の理解、訪問販売や詐欺への対応、火気、戸締まり、服薬などの管理能力が重要になります。

 さらに、家族が無理なく支援できるか、介護サービスが実際に利用できるか、緊急時に連絡できる人がいるか、家族以外の支援者が存在するかも確認する必要があります。

 一つの項目ができなくなっただけで、直ちに自宅生活が不可能になるわけではありません。しかし、複数の重要機能が「できない」、さらに「代替手段もない」という状態になった場合には、自宅生活そのものを再設計する必要があります。

11.自宅を離れる前にできることは多い

 自宅生活が不安定になったからといって、すぐに施設へ入ることだけが選択肢ではありません。重要なのは、「本人ができなくなったこと」を外部サービスや住宅改修によってどこまで代替できるかを検討することです。

 住宅では、生活を1階へ集約し、使用しない部屋を閉鎖し、寝室をトイレの近くへ移し、段差や敷物を減らすだけでも負担を軽減できる場合があります。

 移動では、元気なうちにデマンド交通へ登録し、タクシーを利用した場合の年間費用を計算し、通院先を可能な範囲で集約しておくことが考えられます。オンライン診療についても、疾患や診療内容によって利用可能か確認しておく価値があります。

 買い物では、運転できなくなってから初めて宅配を調べるのではなく、元気なうちにネットスーパー、生協、移動販売、配食などを試しておく方が安全です。

 住宅管理についても、草刈り、庭木管理、定期点検、雨どい清掃、不用品処分、台風後の確認などを外注する仕組みを用意できます。ただし、こうしたサービスには継続的な費用が必要です。

 そのため、「持ち家だから住み続ける方が安い」と最初から決めるのではなく、自宅の固定資産税、修繕費、庭管理費、交通費、介護関連費などを合計し、小規模住宅や高齢者向け住宅へ移った場合の費用と比較する必要があります。

12.住み替えを具体的に検討すべき状態

 本人と配偶者の両方が運転できない、日常の買い物を家族だけに依存している、通院を延期・中断するようになった、転倒を繰り返す、浴室や玄関が安全に使えない、住宅修繕を放置している、庭や敷地を管理できない、金銭や契約管理に不安がある、緊急時に来られる人がいない、家族の送迎や住宅管理負担が限界に近い、必要な介護サービスを地域で確保できないといった状態が複数重なった場合には、住み替えを具体的に比較する段階に入ったと考えるべきです。

 重要なのは、重大な事故や病気が起きてから転居先を探すのではなく、本人に判断能力と体力が残っている段階で選択肢を比較することです。

 住み替えには、自宅売却、賃貸住宅、高齢者向け住宅、子どもの近隣への転居、医療機関や商店に近い場所への転居などがあります。地方から大都市へ移ることだけが住み替えではありません。

 同じ自治体の中でも、郊外の大きな戸建てから駅や商店、医療機関に近い小規模住宅へ移ることで、生活を維持しやすくなる場合があります。

13.「住み慣れた家」が常に最善とは限らない

 住み慣れた自宅には、心理的安心、近隣との人間関係、思い出、所有権など、多くの価値があります。これらは金銭だけでは測れません。

 しかし、「自宅に住み続けること」そのものが目的になると、通院できない、買い物できない、住宅の一部しか使えない、家族が疲弊している、災害時に避難できないといった状態でも、転居を避け続けてしまう可能性があります。

 本来維持すべきなのは建物ではなく、本人の安全、生活の質、社会とのつながり、そして本人自身の意思決定です。

 住み続けていることと、暮らし続けられていることは同じではありません。

14.地方自治体には「制度一覧」ではなく「生活可能性の情報」が必要である

 自治体が高齢者に「早めに免許を返納しましょう」「住み慣れた地域で暮らしましょう」と呼びかけるだけでは十分ではありません。運転をやめた後に実際に病院や商店へ行けるのか、自宅で暮らし続けるためにどのようなサービスを利用できるのかを、住民が具体的に確認できなければならないからです。

 必要なのは、市町村全体の平均ではなく地区単位の情報です。商店への交通手段、医療機関への交通、デマンド交通の利用条件、タクシー助成、移動販売、宅配区域、訪問診療・訪問看護の提供区域、草刈りや住宅管理サービス、緊急通報サービス、高齢者向け住宅、住み替え相談、空き家売却・処分相談などを体系的に整理する必要があります。

 しかもサービス名だけでは不十分です。料金、利用条件、運行曜日、予約方法、対象地域まで公開されて初めて、住民は自分の生活に利用できるかを判断できます。

 同じ自治体であっても、駅周辺、中心市街地、郊外、山間部、海岸部では生活条件が異なります。市町村平均だけで「この町は高齢者が住みやすい」と評価するのではなく、実際に生活する地区から医療、交通、買い物、介護へ到達できるかを評価する必要があります。

15.全国統計を、そのまま地方の結論にはできない

 本記事で使用している平均寿命、健康寿命、要介護認定、住宅、世帯などの多くは全国統計です。そのため、これらの数字だけから、外房、東総、南房総など特定地域の高齢者が何歳まで自宅で生活できるかを直接判断することはできません。

 例えば、全国平均では一定割合の人が自動車以外の交通手段を利用できても、ある地区では最寄りのバス停まで1キロメートル以上あり、運行本数も少ない可能性があります。逆に地方であっても、駅、スーパー、診療所、薬局が徒歩圏内に集中している地区では、自動車を運転できなくなった後も生活しやすい場合があります。

 したがって地域の自宅生活可能性を本格的に評価するためには、市町村別・地区別の年齢別人口、要介護認定者数、医療機関、公共交通、商業施設、訪問系サービス、高齢者住宅、人口密度などを重ね合わせる必要があります。

 全国統計は「高齢になると何が問題になりやすいか」を示す材料であり、地域統計は「その問題が実際にどの程度発生しやすいか」を判断する材料です。この二つを区別することが重要です。

16.現実的な結論

 地方の高齢者が何歳まで持ち家で暮らせるかについて、一律の年齢を示すことはできません。平均寿命、健康寿命、要介護認定率は将来のリスクを考えるうえで有用ですが、個人が自宅を離れる年齢を決定する数字ではありません。

 自宅生活の限界は、身体機能だけで決まるのではなく、運転できない、買い物できない、通院できない、住宅を管理できない、配偶者や家族の支援を失うといった複数の条件が重なり、それらを外部サービスでも代替できなくなったときに現れやすくなります。

 特に地方では、一台の自動車が買い物、通院、行政手続き、金融、社会参加など複数の機能を同時に支えている場合があるため、運転停止が生活へ与える影響は大きくなります。一方、交通、宅配、医療、介護、住宅管理を地域サービスへ置き換えられる地域では、身体機能が低下しても長く自宅生活を続けられる可能性があります。

 したがって、本当に問うべきなのは、

「何歳まで住めるか」

ではありません。

「現在の生活を支えている機能は何か。その機能を失ったとき、何によって代替できるのか」

という問いです。

 自宅生活を続けたいのであれば、元気なうちに、運転をやめた状態で実際に移動してみる、宅配や配食を試してみる、住宅の危険箇所を確認する、草刈りや修繕を外注した場合の費用を把握する、配偶者がいない状態を想定して生活機能を点検する、住み替え先と費用を比較するといった準備を進めておく必要があります。

 地方での自宅生活は、本人の努力だけで維持できるものではありません。医療、交通、買い物、介護、住宅、家族や地域による支援という生活基盤が組み合わさって初めて成立します。

 そして、その基盤を本人、家族、地域サービスのいずれによっても維持できなくなった場合には、自宅そのものに残ることよりも、生活を安全に維持できる場所へ移る方が合理的な場合があります。

 重要なのは、「最後まで自宅に住めたか」ではありません。高齢になっても、安全に食べ、受診し、人とつながり、自分の意思で生活を選択できる状態を、どのように長く維持するかです。

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