はじめに~千葉県全体の数字では東部・南房総の実情は見えない
千葉県は、東京都に隣接し、600万人を超える人口を持つ大都市圏の県です。
県西部には、千葉市、船橋市、市川市、松戸市、柏市、流山市、浦安市など、東京都心への通勤・通学圏として人口を維持している都市があります。そのため、千葉県全体の人口や経済規模だけを見ると、県内の地域課題は比較的小さいように見えるかもしれません。
しかし、同じ千葉県内でも、人口動態、年齢構成、産業、医療、交通の状況には大きな地域差があります。
2025年国勢調査の千葉県速報では、県人口は625万8,512人となり、2020年から2万5,968人減少しました。千葉県の人口が国勢調査で前回調査を下回ったのは、1920年の第1回調査以降初めてです。一方、世帯数は10万2,083世帯増え、1世帯当たり人員は2.18人まで減少しました。人口が減る一方で世帯数が増えるということは、単身世帯や少人数世帯の増加が進んでいることを示します。
さらに、2020年から2025年に人口が増加したのは県西部を中心とする12市に限られ、25市17町村では人口が減少しました。銚子市では5年間に7,005人、率にして11.99%、香取市では6,256人、8.65%減少しています。
千葉県全体の人口減少率は0.41%にとどまっていますが、この数字をもって、県内のすべての地域が同じ速度で人口減少していると考えることはできません。
県西部で人口が増加する一方、東総、九十九里、外房、南房総では、人口減少と高齢化が同時に進んでいます。
本記事では、印象や観光地としてのイメージではなく、公的統計から確認できる範囲で、千葉県東部・南房総の現在を整理します。
本記事で扱う地域
「千葉県東部」「外房」「南房総」という言葉には、法律上統一された一つの地域区分があるわけではありません。
そこで本記事では、千葉県の地方創生総合戦略で使用されている地域区分を参考に、次の3地域を主な対象とします。
香取・東総ゾーン
- 銚子市
- 旭市
- 匝瑳市
- 香取市
- 神崎町
- 多古町
- 東庄町
九十九里ゾーン
- 茂原市
- 東金市
- 山武市
- 大網白里市
- 九十九里町
- 芝山町
- 横芝光町
- 一宮町
- 睦沢町
- 長生村
- 白子町
- 長柄町
- 長南町
南房総・外房ゾーン
- 館山市
- 勝浦市
- 鴨川市
- 南房総市
- いすみ市
- 大多喜町
- 御宿町
- 鋸南町
千葉県は、2018年から2022年までの人口動態を、この地域区分で分析しています。香取・東総、九十九里、南房総・外房の3地域では、いずれも出生数と死亡数の差による自然減が発生していました。
なお、医療については、地域区分が異なります。
千葉県の保健医療計画では、銚子市、旭市、匝瑳市、香取市などを「香取海匝保健医療圏」、茂原市、東金市、勝浦市、いすみ市、長生郡などを「山武長生夷隅保健医療圏」、館山市、鴨川市、南房総市、鋸南町を「安房保健医療圏」としています。
地域を比較する際には、人口政策、医療、交通など、資料ごとに地域区分が異なる点に注意が必要です。
最初に結論~問題は人口が減ることだけではない
千葉県東部・南房総の課題は、単に人口が減少していることではありません。
より深刻なのは、次の変化が同時に進んでいることです。
- 出生数より死亡数が多い自然減
- 若年層や生産年齢人口の減少
- 高齢者割合の上昇
- 人口密度の低下
- 単身世帯や少人数世帯の増加
- 医療・介護需要の増加
- 医療従事者の地域偏在
- 鉄道、バス、タクシー利用者の減少
- 自動車を運転できない住民の増加
- 空き家と管理困難住宅の増加
- 商業、公共施設、行政サービスの維持負担
- 農業、漁業、観光、医療などの担い手不足
人口が減っても、住宅や集落、道路、上下水道、医療施設、公共施設が同じ範囲に残れば、住民1人当たりの維持負担は重くなります。
一方で、人口減少地域であっても、すべての市町村、すべての地区が同じ状況ではありません。
鉄道駅周辺、主要道路沿い、病院やスーパーの近くでは人口や生活機能が比較的維持される可能性があります。反対に、海岸部、丘陵地、山間部、古い住宅団地などでは、同じ自治体内でも人口減少や高齢化が早く進むことがあります。
したがって、地域課題を考える際には、市町村の人口だけでなく、年齢構成、地区別人口、世帯構成、生活施設まで確認する必要があります。
千葉県全体が人口減少局面に入った意味
2025年国勢調査速報における千葉県の人口は、2020年から0.41%減少しました。
県全体の減少率だけを見ると、急激な人口減少には見えません。
しかし、県西部の人口増加が東部・南部の減少を補っているため、県全体の数字では地域差が小さく見えます。
2025年国勢調査速報で人口が増えたのは、千葉市、流山市、柏市、印西市、船橋市など県西部を中心とする12市です。一方、人口が減ったのは42市町村に及びました。
千葉県では、これまで東京都心に近い地域への人口流入によって、県全体の自然減を社会増が補ってきました。
2024年10月1日現在の人口推計でも、千葉県は出生数より死亡数が多い自然減である一方、転入者が転出者を上回る社会増の県でした。
ただし、社会増は県内に均等に配分されていません。
千葉県の2018年から2022年までの分析では、東葛・湾岸ゾーンは自然減を大幅な社会増が上回っていました。一方、香取・東総ゾーン、九十九里ゾーン、南房総・外房ゾーンは、自然減に加えて社会減となっていました。
この違いは重要です。
人口変化は、概念的には次のように分解できます。
人口増減 =出生数-死亡数+転入数-転出数
出生数より死亡数が多くても、転入者が十分に多ければ人口は維持できます。
しかし、自然減と社会減が同時に起きる地域では、出生数の減少、高齢者の死亡、若年層の転出が重なります。
千葉県東部・南房総の多くは、人口減少を移住者だけで補うことが難しい段階に入っていると考えられます。
外国人人口の増加が人口減少を部分的に補っている
香取・東総、九十九里、南房総・外房では、地域全体として人口が減少していても、外国人については社会増となっていました。
千葉県の2018年から2022年までの分析では、香取・東総ゾーンの外国人社会増は1,737人、九十九里ゾーンは1,723人、南房総・外房ゾーンは490人でした。
これは、農業、食品加工、製造、宿泊、介護などで働く外国人が、地域の人口と産業を部分的に支えている可能性を示します。
ただし、外国人人口の増加を地域人口問題の解決とみなすことはできません。
確認すべきなのは、人数だけではなく、次の点です。
- どの産業で働いているか
- 在留資格は何か
- 家族と暮らしているか
- 短期間で転出していないか
- 地域内で住宅を確保できているか
- 日本語教育や医療にアクセスできているか
- 子どもが地域の学校へ通っているか
- 長期的に定住する意思があるか
外国人労働者が増えても、短期雇用や事業所内の寮生活に限られれば、地域社会や地域内消費への波及は限定的です。
一方、家族を伴って定住し、地域内で生活、消費、就学する世帯が増えれば、人口構造や生活サービスの維持に一定の影響を与えます。
高齢化率が50%を超える町がある
千葉県の2025年4月1日現在の年齢別人口調査によると、県全体では、0歳から14歳の年少人口が11.0%、15歳から64歳の生産年齢人口が61.4%、65歳以上の老年人口が27.6%でした。
しかし、市町村別に見ると大きな差があります。
65歳以上の老年人口割合が最も高かったのは御宿町の52.8%でした。次いで、鋸南町50.4%、南房総市48.0%、長南町47.3%、勝浦市47.3%となっています。
御宿町では、住民のおよそ2人に1人以上が65歳以上という計算になります。
さらに、年少人口割合は、御宿町が5.4%、鋸南町が5.8%、勝浦市が5.9%、銚子市が6.4%でした。
これは、単に高齢者が多いだけではありません。
子どもと現役世代の人数が少ないため、将来の人口再生産、地域雇用、学校、公共交通、商業、医療・介護人材の確保が難しくなります。
高齢化率は、高齢者が増えた場合だけでなく、若者が減った場合にも上昇します。
したがって、高齢化率が高い地域については、次の3つを分けて確認する必要があります。
- 高齢者の実人数が増えているのか
- 若年層と現役世代が減っているのか
- 両方が同時に進んでいるのか
高齢化の原因によって、必要な対策は異なります。
高齢者が多いことより、支える人口が少ないことが問題になる
高齢者が多い地域では、医療、介護、移動支援、住宅管理などの需要が増えます。
一方、それらのサービスを担う生産年齢人口は減少します。
たとえば、介護職員、看護師、運転手、建設作業員、電気工事業者、水道業者、買い物支援員、配達員などが不足すれば、需要があってもサービスを提供できません。
地域課題を考える際には、単純な高齢化率よりも、次の数字が重要になります。
- 75歳以上人口
- 85歳以上人口
- 単身高齢者世帯
- 要介護・要支援認定者
- 自動車運転免許を持たない人
- 医療・介護従事者数
- 訪問診療事業所数
- タクシーやバスの運転手数
- 住宅修繕事業者数
- 家族と同居していない高齢者数
これらを組み合わせなければ、実際の生活上の負担は見えてきません。
たとえば、高齢化率が高くても、病院、スーパー、駅が近く、集合住宅に住んでいれば生活を維持できる可能性があります。
反対に、高齢化率がやや低くても、住民が広く分散し、自動車がなければ病院や買い物へ行けない地域では、生活上のリスクが大きくなります。
人口密度の低さがサービス維持を難しくする
千葉県東部・南房総では、人口減少に加えて、人口密度の低さが問題になります。
2024年の千葉県毎月常住人口調査年報によると、県内で人口密度が最も低かったのは大多喜町の1平方キロメートル当たり62.2人でした。次いで長南町99.6人、長柄町131.5人、鋸南町137.4人、南房総市142.6人となっています。
人口密度が低い地域では、同じ人数にサービスを提供する場合でも、移動距離が長くなります。
具体的には、次の費用が増えます。
- 路線バスやデマンド交通の運行費
- 訪問診療や訪問介護の移動時間
- 救急車の搬送時間
- ごみ収集
- 水道や道路の維持
- 宅配や配食
- 学校の送迎
- 除草や空き家管理
- 災害時の避難支援
人口1万人の町でも、駅周辺に人口が集まっている場合と、広い山間部に分散している場合では、行政や民間事業者の負担は異なります。
今後の地域政策では、市町村人口だけでなく、「どこに何人が住んでいるか」を重視する必要があります。
世帯数が増えても地域が成長しているとは限らない
千葉県全体では、2020年から2025年の間に人口が減少した一方、世帯数は増加しました。
世帯数の増加は、住宅需要や人口増加のように見えることがあります。
しかし、1世帯当たり人員が減少している場合、主な要因は次のような世帯分離である可能性があります。
- 単身世帯の増加
- 高齢者の一人暮らし
- 子どもの独立
- 未婚者の増加
- 夫婦のみ世帯の増加
- 施設入所前の単独生活
- 外国人単身労働者の増加
勝浦市では、2024年の1世帯当たり人員が1.99人と、県内でも特に少ない水準でした。
世帯数が維持されていても、人口が減り、単身高齢者世帯が増えていれば、住宅管理、移動、見守り、医療、介護の需要は増えます。
したがって、世帯数の増加を、そのまま地域の活力や住宅需要の強さと判断することはできません。
雇用~地域に仕事があっても若者が残るとは限らない
千葉県全体の産業別有業者数では、卸売業・小売業、製造業、医療・福祉の順に多くなっています。千葉県の資料では、製造業や医療・福祉の有業者数が増える一方、卸売業・小売業などでは減少が見られました。
ただし、県東部・南房総の雇用構造は、県西部とは異なります。
香取・東総地域
農業、漁業、食品加工、医療、製造などが重要です。
千葉県の資料では、香取・東総ゾーンの農業産出額は県内ゾーンの中で最も大きく、県全体の3分の1以上を占めています。
これは、地域に産業基盤がないということではありません。
問題は、農業産出額が大きくても、雇用者数、若年層の所得、後継者、食品加工、物流、地域内消費へ十分につながっているかです。
農産物を原料のまま域外へ出荷する場合、加工、流通、販売による付加価値は地域外へ流れる可能性があります。
九十九里・外房地域
茂原市や東金市などには商業、医療、製造、行政機能があります。
一方、沿岸部では観光、宿泊、飲食、農漁業など、季節変動の影響を受けやすい産業もあります。
一宮町など一部地域では、サーフィン、飲食店、移住、二地域居住といった新しい動きが見られます。千葉県も、一宮町などでサーフショップや飲食店が開業していることを地域の特徴として挙げています。
ただし、一部の地域で店舗や移住者が増えていることを、外房全体の人口回復とみなすことはできません。
南房総地域
観光、医療、介護、農業、漁業、小売などが主要な雇用になります。
しかし、観光雇用は季節変動があり、医療・介護は人手不足になりやすく、農漁業は高齢化と後継者不足を抱えています。
地域に仕事が存在していても、その仕事が次の条件を満たさなければ、若い世帯の定着にはつながりません。
- 家族を養える所得がある
- 年間を通じて働ける
- 住宅が確保できる
- 子育てと両立できる
- 技能や経験が蓄積される
- 昇給や職業選択の余地がある
- 配偶者にも仕事がある
雇用者数だけでなく、雇用の質を確認する必要があります。
農業産出額が大きくても地域人口は増えない
香取・東総地域は、千葉県内でも農業生産の大きな地域です。
しかし、農業産出額が大きいことと、地域人口が維持されることは同じではありません。
農業が地域人口を支えるためには、次の条件が必要です。
- 農業所得が安定している
- 新規就農者が定着できる
- 住居を確保できる
- 農地を集約できる
- 加工・物流・販売の仕事が地域内にある
- 配偶者の雇用先がある
- 子どもの教育環境がある
- 病院や買い物へアクセスできる
大規模農業が生産額を維持しても、機械化や経営統合によって必要な就業者数が減る場合があります。
また、外国人労働者や季節労働者に依存している場合、地域の定住人口増加には直結しません。
農業産出額、農業就業者数、農業所得、加工業従事者数を分けて見る必要があります。
観光客数と住民所得を混同しない
外房・南房総は、海水浴、サーフィン、温泉、海産物、道の駅、観光施設などを持つ観光地域です。
観光客が訪れることは、宿泊、飲食、小売、交通などに需要を生みます。
しかし、観光客数が多いことだけでは、地域住民の所得や人口維持への効果は判断できません。
確認すべきなのは次の項目です。
- 宿泊客か日帰り客か
- 1人当たり消費額
- 地元事業者への支出割合
- 地元雇用者数
- 正規雇用か短期雇用か
- 季節変動
- 食材や備品の地域内調達率
- 税収への影響
- 道路、ごみ、救急医療への負担
- 住宅の民泊・別荘転用
日帰り客が増えても、地域内での消費が少なければ、渋滞やごみ処理費だけが増える可能性があります。
また、住宅が民泊や別荘へ転用されると、観光需要が増えても、地域で働く人が住める賃貸住宅が減ることがあります。
観光の効果は、来訪者数ではなく、地域内に残った所得で評価する必要があります。
医療~同じ千葉県内でも医師の分布に差がある
千葉県東部・南房総の医療は、地域によって状況が大きく異なります。
県の保健医療計画では、香取海匝保健医療圏の人口は約27万人、面積は717.46平方キロメートルです。
山武長生夷隅保健医療圏は人口約42万人に対し、面積は1,161.72平方キロメートルあります。
安房保健医療圏は人口約12万人、面積575.91平方キロメートルです。
特に山武長生夷隅保健医療圏は、広い地域に人口、医療機関、集落が分散しています。
医師偏在指標では、山武長生夷隅が120.4と、県内で最も低い水準でした。香取海匝は180.3、安房は285.1で、安房は医師多数区域、山武長生夷隅は医師少数区域とされています。
ただし、安房医療圏の指標が高いからといって、南房総地域のすべての住民が医療へ容易にアクセスできるとは限りません。
医師が鴨山市街や館山市街、特定の大病院に集中していれば、周辺地域の住民には長距離移動が必要です。
医療を評価する際には、人口当たり医師数だけでなく、次の点を確認する必要があります。
- 医療機関の所在地
- 診療科
- 常勤医師か非常勤医師か
- 救急対応
- 入院可能な病床
- 産科、小児科
- 透析
- がん治療
- リハビリテーション
- 訪問診療
- 自宅からの移動時間
- 公共交通による通院可能性
医師数が多くても、自動車を運転できない住民が通院できなければ、生活上の医療アクセスは十分とはいえません。
高度医療を地域内ですべて完結させることは難しい
人口が少なく広域に分散した地域で、すべての診療科と高度医療を維持することは現実的ではありません。
高度救急、専門手術、周産期医療、小児専門医療などは、一定の患者数と医療従事者数がなければ維持できません。
そのため、地域医療では次の役割分担が必要です。
- 地域の診療所による日常診療
- 地域病院による入院・救急対応
- 中核病院による専門診療
- 県内外の高度医療機関への搬送・紹介
- 回復期医療
- 在宅医療
- 訪問看護
- 介護との連携
問題は、医療機関の集約そのものではありません。
集約後に、住民が中核病院まで移動できるか、退院後に地域へ戻れるか、家族が送迎や付き添いを続けられるかが重要です。
人口減少地域では、病院の配置と交通政策を別々に考えることはできません。
交通~鉄道があることと、自動車なしで暮らせることは同じではない
千葉県東部・南房総には、JR(Japan Railways・旅客鉄道会社)の外房線、内房線、総武本線、成田線、東金線などがあります。
しかし、鉄道駅が存在することと、自動車なしで生活できることは同じではありません。
実際の生活では、次の移動が必要です。
- 自宅から駅まで
- 駅から病院まで
- 駅からスーパーまで
- 通勤先まで
- 子どもの学校や習い事
- 市役所や金融機関
- 介護施設
- 鉄道運休時の代替交通
駅から数キロメートル離れた住宅では、最初と最後の移動手段が必要になります。
また、鉄道の本数が少ない場合、乗車時間より待ち時間の方が長くなることがあります。
千葉県内のJR線乗車人員は、新型コロナウイルス感染症の影響を受けた2020年度に大きく減少し、2021年度には一部回復しましたが、感染拡大前の2019年度の水準には戻っていませんでした。
今後、人口と通勤・通学需要が減れば、鉄道やバスの維持はさらに難しくなる可能性があります。
自動車依存は現在の便利さと将来の不安を同時に生む
外房、東総、南房総では、自動車があれば、鉄道やバスの本数が少なくても生活できます。
スーパー、病院、職場が離れていても、自動車で移動できるため、現役世代には一定の便利さがあります。
しかし、高齢になり、自動車を運転できなくなると、生活条件は急に変わります。
問題になるのは次のような地域です。
- 病院まで片道10~20キロメートル以上ある
- バス停まで歩けない
- 鉄道駅まで遠い
- タクシー事業者が少ない
- 家族が近くに住んでいない
- 買い物宅配の対象外である
- 急な受診が多い
- 週数回の通院が必要である
免許返納後の交通費は、月1回の通院だけで判断できません。
買い物、行政手続き、理美容、金融機関、知人との交流など、日常生活全体の移動が必要です。
自動車依存地域では、免許返納の問題は交通問題であると同時に、住宅立地の問題でもあります。
公共交通を増やせば解決するとは限らない
人口減少地域では、コミュニティバスやデマンド交通が注目されます。
しかし、利用者が少なく、居住地が広く分散している場合、1人を運ぶための費用が高くなります。
公共交通の評価では、運行しているかどうかだけでなく、次の数字を見る必要があります。
- 年間利用者数
- 1便当たり利用者数
- 1人当たり行政負担額
- 運行距離
- 予約不成立数
- 目的地
- 高齢者以外の利用
- 運転手数
- タクシーとの競合
- 病院予約時間との整合
- 市町村境を越えられるか
制度が存在しても、利用対象、運行時間、区域、予約方法によっては、自動車の代わりにならないことがあります。
公共交通は、すべての住民を自宅前から目的地まで運ぶ仕組みではなく、生活拠点と居住地を結ぶ仕組みとして設計する必要があります。
住宅~空き家が多くても住める住宅が多いとは限らない
人口減少地域では空き家が増えます。
そのため、「空き家を安く提供すれば移住者が増える」と考えられがちです。
しかし、空き家には次のような問題があります。
- 耐震性が不足している
- 雨漏りや腐食がある
- 断熱性能が低い
- 水回りが古い
- 家財が残されている
- 相続登記が終わっていない
- 所有者が貸したくない
- 浄化槽や井戸の維持が必要
- 海岸部で塩害がある
- 土砂災害や津波の危険がある
- 病院や買い物から遠い
空き家の数と、移住者や若年世帯がすぐに住める住宅の数は異なります。
必要なのは、空き家総数ではなく、次の分類です。
- そのまま住める住宅
- 小規模改修で住める住宅
- 大規模改修が必要な住宅
- 解体が必要な住宅
- 所有関係が不明な住宅
- 災害リスクの高い住宅
- 交通・医療アクセスが悪い住宅
安い空き家を買っても、修繕、自動車、通院、維持管理を含めれば、総費用が高くなる可能性があります。
人口減少地域でもすべてを一律に縮小する必要はない
千葉県東部・南房総では、人口減少と高齢化が進んでいます。
しかし、人口が減るからといって、すべての地域から施設やサービスを撤退させればよいわけではありません。
必要なのは、どの機能をどこに維持するかを選ぶことです。
今後、優先すべき生活拠点の条件として、次が考えられます。
- 病院または診療所がある
- スーパーや日用品店がある
- 鉄道駅または主要バス路線がある
- 行政サービスへアクセスできる
- 災害リスクが相対的に低い
- 集合住宅や賃貸住宅がある
- 高齢者が徒歩または短距離移動で生活できる
- 周辺地区から交通を接続できる
すべての集落に同じ施設を置くのではなく、複数市町村で医療、買い物、交通、教育を分担する必要があります。
地域ごとに異なる課題
香取・東総地域
香取・東総地域では、農業、漁業、食品加工、医療など、地域外から所得を得られる産業があります。
一方で、銚子市や香取市では人口減少が大きく、若年層の流出と自然減が重なっています。
課題は、農水産物の生産額を、地域内の加工、物流、販売、雇用へつなげることです。
九十九里地域
九十九里地域には、茂原市、東金市などの地域拠点があり、東京方面への通勤圏となる地域もあります。
一宮町などでは移住やサーフィン関連事業の動きがありますが、長生郡の内陸部などでは高齢化と人口密度低下が進んでいます。
同じ九十九里ゾーンでも、沿岸部、駅周辺、内陸部では条件が異なります。
南房総・外房地域
南房総・外房地域では、高齢化率が非常に高い市町が複数あります。
一方、館山市、鴨川市などには、医療、商業、観光の拠点があります。
課題は、拠点機能を維持しながら、周辺地区から通院、買い物、行政サービスへ移動できる仕組みを作ることです。
数字だけでは判断できないこと
統計は重要ですが、数字だけで地域の暮らしやすさを決めることはできません。
たとえば、人口が増えている地区でも、住宅費が上昇し、交通渋滞や医療不足が起きている可能性があります。
人口が減っている地区でも、近隣住民の助け合い、宅配、訪問医療などによって生活が維持されている場合があります。
また、市町村単位の統計では、次の違いが見えにくくなります。
- 駅前と山間部
- 海岸部と内陸部
- 新しい住宅地と古い集落
- 一戸建てと集合住宅
- 自動車を運転できる人とできない人
- 家族が近くにいる人といない人
統計から確認できるのは地域の構造です。
個人が実際に暮らせるかどうかは、自宅の場所、健康状態、家族関係、所得、自動車利用などによって変わります。
現実的な地域課題の整理
千葉県東部・南房総について、現時点で公的統計から確認できる主な課題は、次のように整理できます。
第1の課題~自然減と社会減の同時進行
香取・東総、九十九里、南房総・外房では、出生数より死亡数が多いだけでなく、転出が転入を上回る地域があります。
第2の課題~高齢者ではなく現役世代の不足
高齢化率が高いこと以上に、医療、介護、交通、住宅修繕を担う現役世代が少ないことが問題になります。
第3の課題~人口の分散
人口密度が低く、住宅や集落が広範囲に分散しているため、サービス提供費用が高くなります。
第4の課題~医療と交通の分離
中核病院に医療を集約しても、住民が通院できなければ医療アクセスは改善しません。
第5の課題~産業と定住の分離
農業、観光、医療などの仕事があっても、所得、住宅、教育がそろわなければ若年世帯は定着しません。
第6の課題~空き家と住宅需要の不一致
空き家は多くても、安全で便利な賃貸住宅や、若年世帯向け住宅が不足している可能性があります。
これから重視すべき数字
今後の地域政策を評価する際には、総人口だけでなく、次の数字を継続して確認する必要があります。
- 15歳から39歳までの人口
- 20歳代女性の転出入
- 子育て世帯数
- 外国人世帯数
- 75歳以上の単身世帯
- 医療・介護従事者数
- 公共交通の1便当たり利用者
- 通院に必要な時間
- 地域内で働く人の所得
- 5年後の移住者定着率
- 居住可能な空き家数
- 観光消費の地域内残存額
- 公共施設1施設当たり利用者数
- 生活拠点までの距離
人口が増えたか減ったかだけでは、地域政策の成果は判断できません。
現実的な結論~人口増加より、生活を維持できる構造が必要
千葉県東部・南房総では、人口減少と高齢化がすでに進んでいます。
一部の市町村では、高齢者が人口の半数前後を占めています。人口密度も低く、医療、交通、買い物、住宅管理などのサービスを維持する負担は今後さらに重くなる可能性があります。
一方で、農業、漁業、食品加工、観光、医療、福祉など、地域外から需要や所得を得られる産業もあります。
問題は、地域資源が存在しないことではありません。
地域資源と、雇用、住宅、交通、医療、教育が十分につながっていないことです。
千葉県東部・南房総が目指すべきなのは、すべての市町村で人口を増加させることではありません。
より現実的な目標は、人口が減少しても、次の生活条件を維持することです。
- 病院へ通える
- 食料や日用品を購入できる
- 自動車を使えなくても最低限移動できる
- 住宅を管理または処分できる
- 地域内で一定の仕事がある
- 子育て世帯が生活できる
- 災害時に避難できる
- 必要に応じて生活拠点へ住み替えられる
人口減少を完全に止めることは難しくても、生活サービスの崩壊を防ぐことはできます。
そのためには、数字を使って地域を順位付けするのではなく、どの地区に、どの年代の人が、どの程度住み、どのサービスを必要としているのかを把握する必要があります。
千葉県東部・南房総の地域課題は、単なる「過疎」の問題ではありません。
人口、住宅、医療、交通、産業を一つの構造として考える問題です。
今後の地域政策では、観光客数、移住相談件数、補助金利用件数などの見栄えのよい数字だけではなく、住民が実際に生活を続けられるかどうかを測る数字が必要になります。


