地域分析記事

地域の暮らしと地域課題を数学とデータで考える

スクールバスは人口減少地域の公共交通になり得るか

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人口が減少する地域では、路線バスを従来と同じ形で維持することが難しくなっている。

原因は単純な利用者減少だけではない。バスを利用する住民が減っても、車両、燃料、整備、運転手といった運行に必要な費用が同じ割合で減るわけではない。さらに近年は、利用者不足に加えて運転手不足そのものが、路線の減便や廃止につながるようになっている。

国土交通白書2025によると、路線バスやタクシーなどの地域公共交通では担い手不足が深刻化しており、バス運転手は2021年の11万6千人から2030年には9万3千人まで減少すると推計されている。2022年と同程度の輸送規模を維持すると仮定した場合、2030年には必要なバス運転手が約3万6千人不足するとの推計も示されている。

人口が減る一方で、高齢者が病院やスーパーへ行く必要がなくなるわけではない。むしろ学校、病院、商店などの統廃合が進めば、一人の住民が生活するために移動しなければならない距離は長くなる可能性がある。

そこで注目されるのが、すでに地域を走っている「スクールバス」である。

子どもが減ると、スクールバスが不要になるとは限らない

人口減少とスクールバスには、一見すると矛盾した関係がある。

子どもの数が減れば、スクールバスを利用する児童生徒も減るように思える。しかし実際には、児童生徒数の減少によって小中学校が統合されれば、通学する学校までの距離は長くなる。

つまり、

児童生徒が減る → 学校が統合される → 通学距離が長くなる → スクールバスが必要になる

ということが起こり得る。

地域から一般の路線バスがなくなっていく一方で、行政が児童生徒の通学を確保するためのバスを走らせる。この二つの現象が同じ地域で同時に起こる可能性がある。

そうであるならば、スクールバスを「児童生徒だけの交通」と考え続けることが、人口減少社会でも合理的なのかという問題が出てくる。

そして2026年現在、スクールバスを実際に地域住民の交通として利用している自治体が存在する。

群馬県下仁田町では、現在もスクールバスと路線バスを混乗運行している

現在の状況を最も明確に確認できる事例の一つが、群馬県下仁田町である。

下仁田町の公式サイトでは、町営の「しもにたバス」を町内5地域に運行し、朝と夕方の一部についてはスクールバスと路線バスを混乗で運行していることが明記されている。児童生徒が優先となるものの、一般住民も利用できる仕組みである。2025年4月1日からの時刻表でも、この運行体系が示されている。

この仕組みは最近始まったものではない。

国土交通白書2025によると、下仁田町では2012年に町内4小学校の統合に伴ってスクールバスの増車と運行地域の拡大が必要になった。一方、町営路線バスは利用者減少によって維持が難しくなっていた。

そこで町は、町営バスとスクールバスを別々に走らせ続けるのではなく、両者を統合する方法を選択した。

平日の登下校時間帯にはスクールバスが運行し、空席があれば一般住民も利用する。昼間や休日には路線バスが運行するという仕組みである。

さらに重要なのは、実際に住民が利用していることである。

国土交通白書2025によれば、下仁田町のスクールバス混乗利用者は通院目的の高齢者が多く、2024年度だけで3,789人の一般混乗利用があった。単なる制度上の可能性ではなく、実際の地域交通として機能していることが分かる。

この取り組みは現在も続いており、下仁田町は2026年3月、スクールバスと一般利用者との混乗、昼間の「しもにたバス」との一体的な運用などが評価され、関東運輸局地域交通優良団体等表彰を受賞したことを町公式サイトで公表している。

したがって下仁田町は、2026年現在について確認できる「スクールバスを地域公共交通として利用している自治体」の実例と考えてよい。

山形県遊佐町では、一般住民もスクールバスを無料で利用できる

もう一つ、現在の制度を自治体公式サイトで明確に確認できるのが山形県遊佐町である。

遊佐町は公式サイトで、

スクールバスには一般住民も無料で乗車できる

ことを現在も案内している。

ただし、すべての便に自由に乗車できるわけではない。一般住民が利用できるのは時刻表に掲載された路線に限られ、児童生徒だけが利用する臨時便などには一般住民は乗車できない。子どもの安全と通学を優先した上で、利用可能な便を地域住民にも開放しているのである。

公開されている令和7年度のスクールバス時刻表にも、「一般の方も無料で利用できる」と明記されている。

さらに遊佐町では、スクールバスだけですべての住民交通を担わせているわけではない。

町内では予約制のデマンドタクシーも運行しており、平日に町内を移動する手段として利用されている。スクールバスとデマンドタクシーという性格の異なる交通手段を組み合わせることで、地域住民の移動を支えている。

ここに、人口減少地域の交通を考える重要なヒントがある。

「スクールバスを路線バスにする」と考える必要はない

スクールバス活用というと、

「スクールバスをそのまま一般の路線バスにすればよい」

と考えやすい。

しかし実際の自治体を見ると、もっと柔軟である。

下仁田町では登下校時間帯のスクールバスと一般交通を重ね、昼間には別の運行形態を組み合わせている。遊佐町では、一般住民が利用できるスクールバスとデマンドタクシーが併存している。

つまり重要なのは、

スクールバスを路線バスに変えることではなく、スクールバスを地域に存在する一つの「輸送資源」として考えること

なのである。

これまで地方では、教育行政はスクールバス、交通行政は路線バス、福祉行政は福祉車両というように、それぞれの目的ごとに交通を整備することが多かった。

人口も運転手も十分に存在するのであれば、それでも成立する。

しかし人口が減り、運転手が不足する地域では、同じ道路を複数の車両がそれぞれ少人数を乗せて走る仕組みを維持できなくなる可能性がある。

国土交通省も、高齢者の移動手段を確保する政策の中で、地域に存在する輸送資源を活用して移動需要に対応する方向を進めている。

数理的に考えても「共用」には意味がある

スクールバスと住民向けバスを別々に運行する場合、それぞれに車両費、燃料費、整備費、保険料、運転手の人件費などが必要になる。人口が減って利用者が少なくなっても、これらの費用が利用者数に比例して減るわけではない。

一方で、スクールバスと住民向け交通について、運行時間や経路を調整し、車両や運転手の一部を共用できれば、別々に運行する場合よりも地域全体の運行費用を抑えられる可能性がある。

つまり人口減少地域では、利用者一人当たりの効率だけでなく、一台の車両や一人の運転手を、複数の移動需要にどこまで活用できるかという視点が重要になる。

人口減少によって乗客が減少しても、車両費や運転手などの費用は一定程度残る。

一方、運行時間や経路を調整し、車両や運転手を共用できれば、スクールバスと住民向けバスを別々に運行する場合よりも、地域全体の運行費用を抑えられる可能性がある。

もちろん実際の交通政策では、単純に費用を足し引きできるわけではない。

それでも人口密度が低下するほど、一つの用途だけのために車両と運転手を確保する効率は低下する。

したがって人口減少が進むほど、

一つの車両を何人が利用するか

だけではなく、

一つの交通資源を何種類の地域需要に利用できるか

という視点が重要になってくる。

下仁田町の事例は、まさにこの考え方を現実の交通として実施したものと見ることができる。

最大の条件は、子どもの通学を犠牲にしないことである

ただし、スクールバスの一般利用には明確な優先順位が必要である。

第一目的は児童生徒の安全な通学である。

一般住民を乗せた結果、児童生徒が乗れなくなったり、登校時間が遅れたりするのであれば、制度として成立しない。

下仁田町でもスクールバス混乗便については児童生徒を優先すると明示している。遊佐町でも、一般住民が利用できる路線を限定し、児童生徒専用の臨時便については一般利用を認めていない。

これは非常に重要である。

スクールバス活用は、

「空いているから誰でも乗せればよい」

という話ではない。

児童生徒の安全、定員、運行時間、乗降場所、保険、運行主体、道路運送制度などを整理した上で設計しなければならない。

通学と高齢者の移動は、時間帯を分けられる可能性がある

スクールバスには別の利点もある。

児童生徒の需要は、主として朝の登校時間と午後の下校時間に集中する。

一方、高齢者の通院や買い物は、それ以外の時間帯にも発生する。

この時間差を利用できれば、

朝は通学、

昼間は住民交通、

午後は下校

という形で、一つの車両を異なる需要に利用できる可能性が生まれる。

すべての地域で成立するわけではないが、人口が少なく専用車両を何台も維持できない地域ほど検討価値は高い。

さらに、住民が児童生徒と同じ便に乗る「混乗」と、スクールバスを使用していない時間に住民交通として使用する「時間帯利用」は分けて考えることができる。

地域の人口、道路、学校、病院、スーパーの位置関係によって、どちらが合理的なのかは異なる。

外房でも「地域の車両を全部並べてみる」必要がある

この問題は、外房のように人口密度が低く、集落が広い範囲に分散する地域でも重要になる。

将来の地域交通を考えるとき、

「路線バスを残せるか」

だけを議論するのでは不十分である。

地域内には、

スクールバス、自治体の車両、福祉関係の送迎車、医療機関の送迎車、民間路線バス、タクシー

など、さまざまな輸送手段が存在する可能性がある。

それらを行政分野別に見るのではなく、一度すべて「地域の輸送資源」として地図上に載せ、どこを、何時に、何人が移動しているのかを分析する。

その上で、重複している区間や空いている時間帯を探す。

人口減少地域の公共交通政策は、次第にこのような発想へ変わっていく必要があるのではないだろうか。

スクールバスだけで公共交通問題は解決しない

もちろん、スクールバスは万能ではない。

学校と住宅地を結ぶ通学経路と、高齢者が行きたい病院、スーパー、駅などの位置が一致するとは限らない。

学校自体がさらに統合されれば運行経路も変わる。

休日、夜間、学校休業日などには別の交通手段が必要になる場合もある。

だからこそ、遊佐町のようにデマンド交通を組み合わせたり、下仁田町のように時間帯によってスクールバスと地域交通を使い分けたりする発想が重要になる。

将来の人口減少地域では、一種類の交通機関ですべての住民を運ぶことよりも、

複数の小さな交通手段を組み合わせて、一つの地域交通網を作る

方が現実的になる可能性が高い。

スクールバスは人口減少社会の「地域の足」になり得る

2026年8月18日現在、群馬県下仁田町ではスクールバスと一般交通の混乗が実際に続けられており、山形県遊佐町でも一般住民が指定されたスクールバスを無料で利用できる。

したがって、

「スクールバスは人口減少地域の公共交通になり得るか」

という問いに対しては、もはや理論上の可能性だけを論じる段階ではない。

条件付きではあるが、すでに地域公共交通として機能している自治体が存在する。

これが2026年現在の答えである。

ただし、より重要なのはスクールバスそのものではない。

人口減少社会では、利用者だけでなく、運転手、車両、財源も減っていく。

そのとき必要になるのは、

「これは学校のバス」

「これは高齢者のバス」

「これは公共交通のバス」

と分けて考えることではなく、地域に残された車両と人員を、住民全体の生活を支える資源として再設計することである。

人口が減っても、人が暮らしている限り移動はなくならない。

むしろ学校、病院、商店が減るほど、生活に必要な移動距離は長くなる可能性がある。

人口減少社会とは、移動する人が単純にいなくなる社会ではなく、少ない人数を、より効率よく運ばなければならない社会なのである。

スクールバスは、その問題を考える上で非常に重要な地域資源の一つになっている。

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