地域分析記事

地域の暮らしと地域課題を数学とデータで考える

人口減少時代の外房で、地域経済と生活圏をどう維持するか

 地方の人口減少が語られるとき、対策として最初に挙げられやすいのが、移住者の増加、企業誘致、観光客の呼び込みである。もちろん、人口や交流人口を増やす政策には意味がある。若い世代の転入や新規事業者の進出は、地域の消費、雇用、税収を支える可能性があり、観光客が宿泊し、地元の飲食店や小売店を利用すれば、地域事業者の売上にもつながる。

 しかし、人口減少が長期的に続く地域において、「人口を増やせば地域経済が再生する」という考え方だけでは不十分である。人口を増やすことが難しい期間にも、住民は食料を買い、病院へ通い、介護を受け、道路や水道を利用しなければならない。商店、交通、医療、介護、建設、修理、物流といった生活サービスが先に縮小すれば、地域は人口が減ったから衰退するだけでなく、生活しにくくなることによって、さらに人口を失う可能性がある。本稿では、特定の自治体や政策を批判することを目的としない。政府統計、公的計画、千葉県および御宿町などの資料を踏まえ、人口減少時代の地域経済を「人口の多さ」だけではなく、「生活圏として必要な機能を維持できるか」という観点から考える。

1.地方創生の目的を改めて考える

 地方創生政策では、これまで人口減少の抑制、東京一極集中の是正、地方への移住、雇用創出などが主要な目標とされてきた。これらは現在も重要であり、地方への人や企業の分散、若者や子育て世代に選ばれる地域づくり、地域経済の所得向上などを進める必要性は変わっていない。その一方、2025年6月に閣議決定された「地方創生2.0基本構想」では、人口減少を正面から受け止め、人口が減少する中でも社会と経済が機能するための適応策を進める姿勢が明確になった。自治体間の広域連携、官民連携、生活サービスを維持する地域生活圏の形成なども重視されている。

 したがって、地方政策が「人口を増やす政策」から「人口減少を受け入れる政策」へ単純に転換したと考えるのは適切ではない。より正確には、人口減少を抑制し、人や企業の地方分散を進める政策に加えて、人口減少が続く期間にも生活機能を維持する適応策が、地方創生の重要な柱として明確になったと考えるべきである。人口増加は重要な政策手段の一つだが、それ自体を唯一の最終目的にすると、人口が減り続ける期間の生活基盤が政策上の空白になりかねない。地域経済の目的は、統計上の人口を増やすことだけではなく、住民が働き、所得を得て、必要な商品やサービスを購入し、医療や介護を受けながら、その地域で生活を継続できる仕組みを維持することにある。

2.東京圏への人口集中は終わっていない

 総務省統計局の「住民基本台帳人口移動報告」によると、2025年の日本人移動者について、東京圏は11万2,738人の転入超過だった。前年より転入超過数は縮小したものの、東京圏への人口集中が解消したとはいえない。

 一方、千葉県全体を一つの地域として見るだけでは、県内の人口構造を正確に把握することはできない。2025年国勢調査では、千葉県全体の人口は国勢調査開始以来初めて前回調査を下回った一方、人口が増加した自治体は県北西部を中心とする一部の市に集中している。東京都への通勤圏として人口を維持しやすい地域がある一方、房総半島南部や外房では人口減少と高齢化が進んでおり、同じ千葉県でも人口動態は大きく異なる。県全体が東京圏に含まれるからといって、県内すべての市町村が東京一極集中の利益を同じように受けているわけではない。地域経済を考える際には、都道府県単位だけではなく、実際に住民が買い物、通院、通勤、通学を行う生活圏単位で見る必要がある。

3.外房・夷隅地域で進む人口減少

 千葉県夷隅地域振興事務所によると、2025年8月1日現在の夷隅地域の人口は6万1,921人で、内訳は勝浦市1万4,967人、いすみ市3万2,657人、大多喜町7,935人、御宿町6,362人となっている。その後も人口減少は続いており、外房・夷隅地域では人口規模そのものが縮小している。

 御宿町の第5次総合計画では、1995年に8,000人を超えていた人口が、2020年には7,000人を下回ったことが示されている。また、2020年時点では65歳以上人口の割合が約半数を占めており、高齢化率は極めて高い水準にある。御宿町の介護保険事業計画でも、2022年9月末時点の住民基本台帳人口は7,100人、高齢化率は51.8%とされている。重要なのは、高齢化率が上昇しているからといって、高齢者数そのものが増え続けているとは限らないことである。実際には年少人口、生産年齢人口、老年人口のいずれも減少しており、総人口の減少速度が高齢者人口の減少速度を上回ることによって、高齢者の割合が上昇する構造になっている。

 人口統計を扱う際には、国勢調査人口、住民基本台帳人口、千葉県毎月常住人口調査など、統計の定義を区別する必要がある。異なる統計系列の数字を単純につなぎ合わせて減少率を算出することは適切ではない。しかし、複数の公的資料が一貫して、外房・夷隅地域における人口減少と高齢化を示していることは明らかである。

4.人口減少が地域経済へ与える本当の影響

 人口が減れば、一般には地域内の消費需要も縮小しやすくなる。食料品、日用品、飲食、住宅修繕、理美容、交通、娯楽などの需要が減れば、地域内の店舗や事業者は売上を維持しにくくなる。しかし重要なのは、地域経済への影響が人口減少率と同じ割合で表れるとは限らないことである。

 地域内の消費規模を単純化すると、「人口 × 1人当たり消費額 × 地域内で消費される割合」と考えることができる。人口をN、1人当たり消費額をc、地域内購買率をrとすれば、地域内需要Dは、概念的にはD=N×c×rと表せる。仮に人口が5%増加しても、地域外の大型店や通信販売などへの支出が増え、地域内購買率が10%低下すれば、1.05×0.90=0.945となり、地域内需要は約5.5%減少する。逆に、人口が減少しても、地域内で購入できる商品やサービスを増やし、域外へ流出していた支出を地域内に残すことができれば、地域経済の縮小速度を抑えられる可能性がある。したがって、「人口が増えれば地域経済も必ず成長する」「人口が減れば同じ割合で地域経済も縮小する」という単純な関係ではない。

 さらに、店舗や事業所には固定費がある。利益を単純化すれば、「利益=1件当たりの利益×利用件数-固定費」と考えられる。人口が少しずつ減っていても、一定の需要を下回った時点で採算が合わなくなれば、事業は徐々に縮小するのではなく、閉店や撤退という形で急に消えることがある。したがって、人口減少の問題は単なる人数の減少ではない。人口や利用者数が少なくなることで、事業やサービスを維持する採算性、人材確保、運営効率が悪化し、生活サービスが非連続的に失われる可能性があることが重要である。

5.地域を支えるのは大企業だけではない

 地域振興というと、大規模工場、物流施設、大型商業施設などの誘致が注目されやすい。しかし、住民の日常生活を直接支えているのは、小売店、飲食店、介護事業所、診療所、運送事業者、建設業者、設備業者、自動車整備業者などの中小企業や小規模事業者である。

 2025年版中小企業白書では、中小企業が物価高、金利上昇、構造的な人手不足に直面していることが指摘されている。また、中小企業の労働分配率はすでに8割近い水準にあり、収益改善を伴わない賃上げには限界があることも示されている。人手不足だから賃金を上げれば解決するという考え方は単純すぎる。もちろん、賃金を引き上げることは人材確保や離職防止に有効な場合がある。しかし、売上や付加価値、生産性が伸びていない事業者が、人件費だけを継続的に引き上げれば、収益が圧迫され、最終的にはサービス縮小や廃業につながる可能性もある。必要なのは、賃金を抑えることでも、無理な賃上げを求めることでもない。適切な価格転嫁、共同仕入れ、共同配送、省力化設備への投資、デジタル化、業務の標準化や集約化などによって、限られた人数でも事業を継続でき、付加価値を高められる構造をつくることである。

6.守るべきなのは企業そのものではなく生活機能である

 人口減少地域では、新規創業支援と同時に、既存事業者が提供してきた生活サービスをどう維持するかが重要になる。長年営業してきた商店や修理業者が廃業する理由は、赤字だけではない。経営者の高齢化、後継者不足、設備更新費の負担、従業員不足などによって、一定の需要が残っていても事業を続けられなくなることがある。

 ただし、すべての企業を行政が延命すべきだという意味ではない。生産性が低く、代替事業者が存在し、利用者への影響が小さい事業まで無条件に維持することは、限られた財源の有効利用という点から望ましくない場合もある。重要なのは、企業という組織そのものではなく、その企業が提供している地域に必要な機能である。地域に一つしかない設備業者、配送事業者、整備工場、食品店などがなくなることで生活や事業活動に大きな支障が出るのであれば、事業承継、他社との統合、共同運営、新規参入、移動販売などを含め、サービス機能を別の形で残す必要がある。自治体の産業政策でも、新規企業数だけではなく、生活関連サービスの継続率、事業承継件数、サービス空白地域、修理や配送に必要な時間、地域内調達率などを把握することが重要になる。新しい企業を呼び込むことだけでなく、地域住民に不可欠なサービスが失われないことも重要な政策成果である。

7.交通は単独の事業ではなく、生活基盤である

 外房地域では、自家用車が主要な移動手段になっている。しかし、高齢化が進めば、すべての住民が将来にわたって自動車を運転できるとは限らない。免許返納、病気、障害、経済的事情などによって、公共交通や移動支援を必要とする住民は今後も存在する。

 国土交通省も、人口減少と担い手不足によってバス路線などの廃止や縮小が進む一方、免許返納や学校・病院の統廃合によって、地域によっては移動手段に対する社会的必要性が高まると整理している。したがって、利用者数が減少しているからといって、公共交通の必要性まで比例して低下しているとは限らない。夷隅地域では、JR(Japan Railways・旧国鉄を継承した鉄道事業者)外房線、いすみ鉄道、小湊鉄道、路線バスなどが地域交通を担ってきた。いすみ鉄道では全線で運転を見合わせ、代行バス輸送が続く中、2026年には千葉県、いすみ市、大多喜町、勝浦市、御宿町、いすみ鉄道などによる地域公共交通のあり方を検討する会議が設置されている。

 鉄道やバスを運賃収入と運行費用だけで評価すると、その交通手段が支えている通院、通学、買い物、観光、雇用などへの効果が見えにくい。一方、公共交通だから無条件に維持すべきだという結論にも慎重である必要がある。鉄道、路線バス、予約制乗合交通、タクシー、福祉輸送、スクールバス、病院送迎などを比較し、地域の需要に対してどの方式が最も少ない社会的費用で必要な移動を確保できるかを検討すべきである。重要なのは、特定の鉄道やバスそのものを守ることではない。住民が病院、学校、商店、行政機関などへ移動できる状態を守ることである。

8.医療は市町村ごとに完結できない

 人口減少地域では、医療機関の維持も大きな課題になる。千葉県では、山武長生夷隅保健医療圏が医師少数区域に位置付けられており、医師確保が地域医療政策上の重要課題となっている。医師や看護師などの医療従事者を各市町村が個別に確保し、同じ診療機能をそれぞれ整備することには限界がある。人口が減少する地域で医療機能を細かく分散させれば、人材も設備も分散し、一つ一つの施設の維持が困難になる場合がある。

 一方で、すべての医療を大規模病院へ集約すればよいわけでもない。遠距離移動が難しい高齢者などにとっては、近くに相談できる診療所や訪問診療がなければ、必要な医療に到達できなくなる可能性がある。現実的には、身近な診療所、総合診療、訪問診療、オンライン診療、地域病院、救急病院、高度専門医療機関などの役割を分担し、それらを救急搬送や公共交通で結び付ける必要がある。医療施設を市町村ごとに完結させるのではなく、保健医療圏や実際の生活圏を単位として考えることが重要である。

9.移住者を増やすだけでは定住につながらない

 移住促進は人口減少地域にとって重要な政策だが、安価な住宅や移住補助金を用意するだけでは長期的な定住につながるとは限らない。移住者は住宅だけで生活するわけではなく、仕事、医療、交通、買い物、教育、子育て、地域社会との関係など、複数の条件がそろって初めて生活を継続できる。移住政策は、地域を知ってもらい移住者を呼び込む段階、移住後の生活を安定させ定住につなげる段階、その人の所得や消費、活動が地域経済や地域社会と結び付く段階に分けて考える必要がある。

 例えば、住民票上の人口が増加しても、移住者が地域外企業の仕事を完全な遠隔勤務で行い、買い物も大半を通信販売や地域外で済ませていれば、地域内事業者への経済効果は限定される可能性がある。一方、住民票を移していない二地域居住者や別荘利用者であっても、地域の飲食店や商店を利用し、住宅管理や修繕を地元業者に依頼し、地域活動に参加すれば地域経済に貢献する。このため、御宿町のように別荘や観光利用が存在する地域では、住民基本台帳人口だけで地域需要を測ることにも限界がある。実際の生活サービス需要を考える際には、常住人口だけではなく、二地域居住者、別荘利用者、宿泊客、日帰り客なども含めた「実効的な利用人口」という視点が重要になる。

10.観光客が増えても、地域が豊かになるとは限らない

 外房地域にとって観光は重要な産業である。海岸、温暖な気候、農水産物、景観、歴史、鉄道など、多様な地域資源があり、観光客の増加は宿泊、飲食、小売、交通などの需要を生み出す可能性がある。しかし、観光客数の増加と地域住民の所得増加は同じではない。観光客が日帰りで短時間しか滞在しなければ地域内消費は限定される。宿泊しても、食材、備品、予約サービス、人材などの多くを地域外から調達していれば、売上のかなりの部分は地域外へ流出する。

 観光による地域への経済効果は、単純化すれば「観光客数 × 1人当たり消費額 × 地域内に残る割合」で考えることができる。そのため、観光政策では来訪者数だけでなく、宿泊者数、平均滞在日数、1人当たり消費額、地元雇用者数、地域内事業者への支出割合、食材や備品の地域内調達率、通年雇用の有無などを見る必要がある。ただし、地域内調達率は理論的には重要な指標であっても、実際に把握することは容易ではない。観光事業者の仕入れ先や委託先まで継続的に調査する必要があるため、統計整備の負担も大きい。それでも、観光客数だけを成果指標にするより、観光消費がどれだけ地域所得に変換されているかを見る方が、地域経済政策としては重要である。

 観光客が増えていても、交通整理、ごみ処理、公共施設維持などの行政コストが増加し、地域内所得が増えていなければ、地域政策としての純効果は限定される可能性がある。観光そのものを否定するのではなく、「観光客を増やす」ことから「観光消費を地域に残す」ことへ、評価の視点を広げる必要がある。

11.空き家は資源であると同時に負債でもある

 総務省の2023年住宅・土地統計調査では、全国の空き家は約900万戸に達している。このうち、賃貸用、売却用、二次的住宅などを除く空き家は約386万戸に上る。空き家は、移住者向け住宅、店舗、事務所、宿泊施設、福祉施設などへ転用できる可能性がある。しかし、空き家が存在することと、実際に利用できる住宅が存在することは同じではない。

 建物の老朽化、耐震性、雨漏り、接道条件、上下水道、相続登記、所有者との連絡、残置物、改修費など、利用に至るまでには多くの課題がある。さらに、改修後の利用者が長期間確保できなければ、投資費用を回収することも難しい。したがって、空き家政策では登録件数や成約件数だけではなく、改修費、利用開始後の継続年数、維持管理費、固定資産税、地域の住宅需要などを含めて評価する必要がある。住宅だけを安く供給すれば地域が再生するという単純な構図ではなく、雇用、交通、医療、買い物などの生活条件と一体で設計する必要がある。

12.自治体ごとの競争には限界がある

 人口減少が進むと、自治体間で移住者、企業、観光客を奪い合う構造が生まれやすい。一つの自治体が人口を増やしても、それが隣接自治体からの転入によるものであれば、広域圏全体として人口減少が改善したわけではない。同様に、それぞれの自治体が個別に病院、交通、公共施設、観光施設などを整備すれば、限られた人材と財源が分散し、一施設当たりの利用者数が少なくなる可能性がある。地方創生2.0でも、人口減少下で生活サービスや地域経済を維持するため、自治体間の広域連携や地域生活圏という考え方が重視されている。

 外房地域でも、市町村の独立性を保ちながら、交通、医療、ごみ処理、公共施設、観光案内、事業承継支援、共同配送などの一部を広域的に運営する余地がある。住民の生活圏は行政区域と必ずしも一致しない。買い物は隣の市、病院は別の市、仕事はさらに遠方という生活は珍しくないからである。行政サービスについても、自治体ごとにすべてを完結させることより、実際の住民の生活圏に合わせて役割を分担することが重要になる。

13.人口減少時代に必要な五つの政策転換

第一に、人口目標だけでなく生活維持目標を置く

 人口増減だけで政策を評価するのではなく、住民が必要なサービスへ到達できる時間、費用、利用可能性を把握する必要がある。例えば、スーパーや診療所までの距離だけではなく、「自動車を使えない住民が公共交通を利用して午前中に通院し帰宅できるか」「食料品店へ30分以内で到達できる住民が何%いるか」といった指標も重要である。将来的にはGIS(Geographic Information System・地理情報システム)を活用し、人口分布と交通網、医療機関、商業施設などを重ね合わせることで、生活サービスへの到達可能性をより具体的に測ることができる。

第二に、新規誘致だけでなく必要なサービス機能の維持を評価する

 企業誘致や創業件数だけではなく、事業承継、共同化、省力化、新規参入などを通じ、必要なサービスが地域から消失しないようにする。重要なのは既存企業そのものを守ることではなく、その企業が担っている生活機能を継続させることである。

第三に、交通を個別事業から統合的な移動サービスへ変える

 鉄道、バス、タクシー、福祉輸送、病院送迎、スクールバスなどを完全に別々の制度として考えるのではなく、予約、運行情報、車両、人材などを可能な範囲で連携させる。人口密度が低い地域では、大型車両を定時運行するより、小型車両による予約制乗合交通の方が効率的な場合もある。

第四に、観光消費の地域内循環を測る

 観光客数だけではなく、宿泊、飲食、農水産物、交通、体験サービスなどに地域の事業者がどれだけ関与しているかを見る必要がある。地域外資本の企業であっても、地元雇用や地元調達が多ければ地域経済への効果は大きくなる。逆に、地元企業であっても仕入れや雇用の多くが地域外であれば、地域内への波及効果は小さくなる可能性がある。

第五に、自治体単独主義から生活圏連携へ移行する

 市町村ごとに同じ施設や専門機能を維持するのではなく、複数自治体で役割を分担する。すべてを一か所へ集約するのではなく、住民に身近な窓口や基本的なサービスは残しながら、高度な専門機能や高額な設備を共同化することが現実的である。

14.人口増加策を否定する必要はない

 ここまでの議論は、移住政策、企業誘致、観光振興を否定するものではない。人口が増えれば地域の需要と担い手が増える可能性があり、若い世代や子育て世帯の移住は、学校、地域活動、住宅市場、将来の労働力にも影響する。問題は、人口増加策だけに依存することである。移住者を募集しながら交通、医療、買い物、雇用が縮小していけば、移住後の定着は難しい。観光客を増やしても、地元事業者が人手不足で営業できなければ、観光需要を地域所得へ十分に変換できない。企業を誘致しても、地域内の人材、企業、取引先との関係が弱ければ、事業所が地域経済から孤立する可能性もある。

 人口増加策と人口減少への適応策は、どちらか一方を選ぶものではない。人口減少をできる限り抑制しながら、それでも人口が減少する期間には生活機能を維持できる構造をつくるという、二つの政策を同時に進める必要がある。

15.外房の地域経済に必要なのは、縮小ではなく再設計である

 人口減少地域の政策は、「何を廃止するか」という議論になりやすい。しかし、単純な撤退や削減だけでは、残された住民の生活条件が悪化し、さらなる人口流出を引き起こす可能性がある。一方で、すべての施設やサービスを従来と同じ形で維持することも、人口、人材、財源が減少する中では困難である。必要なのは、現在の形をそのまま保存することでも、単純に削減することでもなく、必要な機能を残すために提供方法を変えることである。

 店舗を維持できない地域では、移動販売、宅配、共同配送を組み合わせる。路線バスの利用者が少ない地域では、予約制乗合交通やタクシー補助を検討する。すべての診療科を地域内に置くことができなければ、身近な総合診療、訪問診療、オンライン診療と広域病院への交通を組み合わせる。自治体単独で事業を維持できなければ、複数自治体による共同運営を検討する。これは地域を諦める政策ではない。人口規模や人口構成が変化した現実に合わせて、地域社会を持続可能な形へ再設計する政策である。

結論

 人口を増やすことは、地方創生の重要な要素である。しかし、人口増加だけを地域再生の条件とすれば、多くの人口減少地域は、長期間にわたって政策上の失敗地域として扱われることになる。地域経済の持続可能性は、人口だけで決まるものではない。地域内でどれだけ所得と消費が循環するか、住民が医療、買い物、交通などの生活サービスへ到達できるか、必要な事業者や人材を維持できるか、自治体の境界を越えて機能を分担できるかによって大きく変わる。

 ただし、人口が減少しても、すべてのサービスを現在と同じ水準で維持できるとは限らない。人口密度、年齢構成、財政力、人材、地理条件などによって維持可能性は異なる。重要なのは、「人口が減っても必ず維持できる」と楽観することでも、「人口が減るから衰退は避けられない」と悲観することでもなく、どの機能を、どの範囲で、どの方法なら維持できるのかを具体的に検証することである。そのためには、人口、観光客数、企業誘致件数といった分かりやすい数字だけでなく、住民が医療や買い物へ到達できる時間、必要なサービスの継続率、地域内調達率、交通の利用可能性、事業承継の状況などを政策の成果として測る必要がある。

 さらに、御宿町のように観光、別荘、二地域居住が存在する地域では、住民票人口だけを地域経済の基礎とするのではなく、地域サービスを実際に利用する人々を含めた需要構造を見る必要がある。外房地域の将来を考えるとき、目標とすべきなのは、過去と同じ人口規模へ戻すことだけではない。人口減少をできる限り抑えながら、人口が減少する場合にも住民の生活が成立し、地域経済と必要なサービスが可能な限り機能し続ける仕組みをつくることである。

 人口減少という現実を認めることは、地域の衰退を受け入れることではない。人口、需要、人材、財源、交通、医療、商業といった条件を正確に把握し、その人口規模に適した地域の形へ再設計することこそが、人口減少時代の地方創生に求められている。

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はじめに~「仕事がない」と「働き手がいない」は同じではない

 地方について語るとき、「仕事がない」という言葉がよく使われます。若者が地域を離れる理由として、就職先が少ないこと、希望する職種が見つからないこと、都市部より賃金が低いことなどが挙げられます。実際、千葉県東部や外房、南房総には、東京都心に近い県西部と比べて企業や事業所の選択肢が限られる地域がありますが、地方の雇用問題を詳しく見ると、単純に仕事の数が少ないだけではありません。

 地方では、「就職希望者に対して求人が少ない仕事」「求人はあるのに応募者が集まらない仕事」「住民には必要とされているのに民間事業として採算を取りにくい仕事」が、同じ地域の中で同時に存在しています。つまり、「仕事そのものが少ない」という問題と、「仕事はあるが働く人がいない」という問題、さらに「社会的には必要だが事業として成立しにくい」という問題を分けて考えなければなりません。

 本記事では、千葉県東部、外房、南房総を念頭に置きながら、求人、求職、人口構造、商圏、移動費、人件費、制度などから地方の仕事を現実的に考えます。

地方の問題は「仕事不足」と「ミスマッチ」が重なっている

 地方では、すべての仕事が不足しているわけでも、すべての仕事で人手不足になっているわけでもありません。仕事そのものが不足する地域がある一方、特定の職種では人材不足が深刻であり、その両方に職種、技能、勤務地、賃金、勤務時間などのミスマッチが重なっています。

 千葉労働局が2026年10月2日に公表した2026年8月分の統計では、千葉県の有効求人倍率は季節調整値で受理地別0.99倍、就業地別1.27倍、正社員有効求人倍率は0.77倍でした。ここで注意したいのが「受理地別」と「就業地別」の意味で、受理地別は求人を受理した公共職業安定所、一般にハローワークと呼ばれる職業紹介機関の所在地を基準に求人を集計したものであり、求職者の住所を基準とした数字ではありません。一方の就業地別は、求人票に記載された実際の就業場所を基準として求人を集計します。

 例えば、東京都内の本社が千葉県内の店舗で働く人の求人を東京のハローワークに一括して提出した場合、受理地別では東京都の求人になりますが、就業地別では千葉県の求人として集計されます。そのため、受理地別0.99倍と就業地別1.27倍の差だけから、「求職者の居住地と求人の地域が一致していない」と判断することはできませんが、千葉県内を実際の勤務場所とする求人が、県内のハローワークが受理した求人だけを見た場合より多いことは確認できます。

 さらに職業別に見ると、同じ千葉県内でも需給状況には非常に大きな差があります。2026年8月の月間有効求人倍率では、建設・採掘の職業が6.39倍、保安の職業が6.17倍、サービスの職業が2.00倍、輸送・機械運転の職業が1.78倍、生産工程の職業が1.66倍でした。一方、事務的職業は0.26倍、管理的職業は0.25倍、運搬・清掃・包装等の職業は0.73倍、農林漁業の職業は0.86倍でした。

 ただし、県全体の0.99倍は季節変動の影響を調整した季節調整値であるのに対し、職業別の数字は季節調整を行っていない月間値であるため、両者を完全に同じ条件の数字として比較することはできません。それでも、建設や保安では求人が求職者を大幅に上回り、事務では求職者が求人を大幅に上回っているという職種間の差は明瞭です。

 したがって、地方雇用の問題を「仕事があるか、ないか」だけで考えるのは適切ではありません。求人のある職種と求職者が希望する職種、働く場所と居住地、企業が支払える賃金と働く人が必要とする所得、住民が必要とするサービスと事業者が採算を取れる価格という、複数の不一致を考える必要があります。

有効求人倍率で分かることと、分からないこと

 有効求人倍率は、月間有効求人数を月間有効求職者数で割った指標です。したがって0.5倍なら求職者2人に対しておおむね1人分の求人、2倍なら求職者1人に対しておおむね2人分の求人がある状態を意味します。ただし、有効求人倍率は労働市場全体を完全に表す数字ではなく、基本的にはハローワークを通じた求人と求職を対象としているため、企業が自社のウェブサイトだけで募集する場合、民間の求人サイトや人材紹介会社を利用する場合、知人の紹介で採用する場合、自営業やフリーランスとして働く場合などを完全には把握できません。

 そのため、「建設・採掘が6.39倍だから、地域の建設業全体で求職者1人に6.39件の仕事がある」と単純に理解するのではなく、「ハローワーク統計に表れた求人と求職の間には、それほど大きな需給差がある」と見るのが適切です。

「地方には仕事がない」という言葉には複数の意味がある

 「仕事がない」という言葉は、一つの状態だけを意味するわけではありません。人口が少なく企業や事業所の数そのものが少ないため求人件数が限られる場合もあれば、求人はあっても介護、建設、運輸、宿泊、飲食などに偏り、事務、企画、研究、情報処理など本人が希望する仕事が見つからない場合もあります。

 また、求人が存在していても、賃金、休日、勤務時間、通勤距離、身体的負担が生活条件に合わなければ応募には結び付きません。自動車通勤が事実上必要な地域では、燃料代だけでなく、車両購入費、保険、車検、整備、タイヤなども実質的な就業コストになるため、名目上の賃金だけを比較しても就職条件を正しく評価できません。

 地方移住では本人だけでなく、配偶者を含めた世帯全体の就業も重要です。一人分の仕事が見つかっても配偶者が働けなければ世帯所得が成立せず、移住や定住を断念することがあるため、「求人がある」という統計だけでは、その地域で生活できるかどうかまでは判断できません。

千葉県全体でも「誰でも簡単に就職できる」とはいえない

 2026年8月の千葉県では、受理地別の有効求人倍率が0.99倍で、正社員有効求人倍率も0.77倍でした。県内全体として極端な求人超過状態にあるわけではなく、「人手不足だから地方では仕事を選ばなければ簡単に就職できる」という説明も適切ではありません。

 しかも、同じ県内でも地域、職種、資格、経験、雇用形態によって状況は大きく異なります。本記事で示す職業別有効求人倍率は千葉県全体の数字であり、御宿町、いすみ市、勝浦市など特定地域について同じ倍率が成立していることを意味しないため、地域単位で事業や就職を判断する場合には、管轄ハローワークの求人状況や実際の事業者数まで確認する必要があります。

人手不足が深刻な仕事~建設・住宅修繕

 2026年8月の千葉県では、建設・採掘の職業の月間有効求人倍率は6.39倍で、職業別では極めて高い水準でした。この数字だけから南房総の建設業を直接評価することはできませんが、県全体として人材確保が難しい職種であることは明らかです。

 外房や南房総では、人口が減少しても住宅、道路、水道、電気設備、橋、公共施設などが人口と同じ割合で消えていくわけではありません。老朽住宅の修繕、空き家の管理や解体、屋根や外壁の補修、給排水設備の更新、高齢者住宅の手すり設置や段差解消、台風や豪雨後の修繕、道路や上下水道の維持など、人口減少社会だからこそ残る仕事があります。

 千葉県の第5次南房総地域半島振興計画の対象は、館山市、勝浦市、鴨川市、富津市、南房総市、いすみ市、大多喜町、御宿町、鋸南町の6市3町で、この地域の人口は1960年の約34万人から2025年には約22万人まで約35%減少し、65歳以上の割合は約43%となっています。人口が減っても既存住宅や社会インフラを維持する必要は残るため、人口減少がそのまま建設需要の消滅を意味するわけではありません。

 一方で、求人倍率が高いことと新規参入が容易であることは別問題です。建設や住宅修繕には技術、経験、工具、車両、各種資格、保険、見積能力、安全管理などが必要で、工事内容によっては建設業許可その他の制度への対応も必要になるため、「人が足りない分野だから参入すれば仕事になる」と単純には判断できません。

人手不足が深刻な仕事~介護・医療・福祉

 人口高齢化が進む地域では、介護、看護、訪問診療、配食、送迎などの必要性が高まります。千葉県は福祉・介護分野の人材不足を重要な課題と位置付けており、過去の需給推計では2025年度に7,113人不足するとの見込みも示されていました。ただし、これは実際に7,113人不足したことを確認した実績値ではなく、一定の前提条件に基づく将来推計として区別する必要があります。

 また、介護サービスの多くは介護報酬という公的な価格体系の影響を受けるため、需要が増えたり人件費が上昇したりしたからといって、事業者が自由に料金を引き上げられるわけではありません。人件費、燃料費、車両費、物価などが上昇しても価格転嫁できる範囲には限界があり、とりわけ訪問介護や訪問看護では、利用者宅が広い地域に分散していることが採算を悪化させます。

 例えば、サービスそのものは60分でも前後の移動に40分を要し、さらに記録や準備が必要なら、勤務時間のうち売上を直接生む時間の割合は大きく低下します。人口密度の低い地域で訪問サービスの効率が悪化する問題は単なる印象論ではなく、中山間地域などに共通する制度上、経営上の課題です。

人手不足が深刻な仕事~運輸、送迎、物流

 2026年8月の千葉県では、輸送・機械運転の職業の月間有効求人倍率は1.78倍でした。地方では食品や日用品の配送、農水産物や建設資材の輸送、宅配便、通院や介護施設の送迎、スクールバス、観光客の移動など、人口が減少しても一定の移動需要が残ります。

 特に自動車依存度の高い地域では、運転手不足の影響が生活そのものに及びます。鉄道や路線バスの利用者が減ったとしても、高齢者や自動車を運転できない住民の移動需要が同じ割合で消えるわけではありません。

 しかし、地方交通は「必要性が高い」ことと「民間採算が成立する」ことが一致しにくい代表的な分野でもあります。運転手1人と車両1台を動かす費用は、乗客が1人でも10人でも大幅には変わらないため、乗客密度が低くなるほど1人当たりの運行費用は上昇します。地方交通の問題は、需要が完全に存在しないのではなく、需要が薄く広範囲に分散していることにあります。

人手不足が深刻な仕事~保安、警備、施設管理

 2026年8月の千葉県では、保安の職業の月間有効求人倍率は6.17倍で、建設・採掘と並んで高い水準でした。公共施設、病院、介護施設、商業施設、駐車場、工事現場、イベント、災害時の交通誘導など、人口減少地域でも一定の保安需要が残ります。

 その一方で、警備には夜間、休日、屋外、不規則な勤務が含まれることがあり、求人倍率が高いからといって応募者が自動的に増えるわけではありません。求人件数だけでなく、賃金や勤務条件、身体的負担と求職者側の希望条件を同時に見る必要があります。

求人が少ない仕事~事務職では求職者側の競争が強い

 2026年8月の千葉県では、事務的職業の月間有効求人倍率は0.26倍でした。単純化すれば、事務職を希望する求職者約4人に対して求人が約1人分という状態です。

 小規模事業所の多い地域では、経理、総務、営業事務などを経営者や家族が兼任している場合があり、専任の事務職員を雇う必要性が都市部の大規模企業ほど高くないことがあります。さらに、会計、給与計算、予約管理などがデジタル化されたり、都市部の本社や外部事業者に集約されたりすれば、地域内の事務職求人は増えにくくなります。

 身体的負担が比較的小さく勤務時間が安定しやすい仕事を希望する人が多ければ、少数の事務求人へ求職者が集中します。これは「地方の人に働く意欲がない」という問題ではなく、地域で必要とされる仕事と求職者が希望する仕事の構成が違うというミスマッチです。

農林漁業は担い手不足でも求人倍率が高いとは限らない

 2026年8月の千葉県では、農林漁業の職業の月間有効求人倍率は0.86倍でした。一方、2020年国勢調査を基礎とした南房総地域の就業構造では、第1次産業の就業者割合は9.2%で、千葉県平均の2.5%を大きく上回っています。

 担い手や後継者が不足している農林漁業で求人倍率が極端に高くならない理由としては、雇用者としてハローワークに求人を出す働き方だけではなく、自営業、家族経営、季節雇用、独立就農、漁業経営などの比重が大きいことが考えられます。外国人材を活用する事業者も存在するため、後継者不足や経営者不足がそのままハローワークの求人倍率に表れるとは限りません。

 ただし、これらは求人倍率が低い理由として合理的に考えられる要因であり、それぞれがどの程度影響しているかまで求人統計だけで証明できるわけではありません。「求人倍率が低いから農業や漁業では人材が足りている」と判断するのも、「後継者不足だから雇用求人も不足している」と判断するのも、どちらも早計です。

社会的需要と「お金を払う需要」は違う

 地方で事業を考える際に特に重要なのは、「困っている人がいる」「必要としている人がいる」という社会的需要と、「一定の料金を継続して支払う利用者がいる」という市場需要を区別することです。例えば、買い物に困っている高齢者が100人いるとしても、その100人全員が1回2,000円の買い物代行を利用するとは限りません。家族に依頼する人、既存の宅配を使う人、自分で何とかする人、公的な支援を利用する人もいるため、事業者にとって重要なのは「困っている人の数」ではなく、「料金を払って実際に利用する人の数」です。

 したがって、買い物代行、空き家管理、草刈り、高齢者見守り、デジタル機器設定などについて、地域に潜在的な必要性があるとはいえても、直ちに「有料需要が高い」とまでは断定できません。事業化する場合には、地域ごとの利用意向、料金許容度、利用頻度まで調査する必要があります。

地方事業の採算を決めるのは「単価」ではなく「総所要時間」

 地方の小規模事業は、1件当たりの料金だけを見て採算を判断すると誤ります。重要なのは、作業時間に加えて移動、準備、報告、予約調整、会計などを含む総所要時間と、車両や設備を含めた総費用です。

 会計上は、おおむね「営業利益=売上-材料費-総人件費-車両関連費-燃料費-保険料-広告費-通信・事務費-減価償却費-その他の営業費用」と整理できます。従業員の人件費に勤務時間全体の賃金を含めている場合、移動時間の人件費を別にもう一度差し引けば二重計上になるため、移動時間の問題は「料金を請求できる時間の割合が低下する」と考えた方が分かりやすくなります。

 例えば、1件5,000円の作業を3件行えば売上は1万5,000円ですが、作業が合計3時間、移動が3時間、準備、報告、会計などに1時間かかれば総稼働時間は7時間となり、経費を引く前の時間当たり売上高は約2,143円にすぎません。ここから燃料、車両の減価償却、整備、保険、工具、広告などを負担するため、「1件5,000円だから時給5,000円」と考えるのではなく、「1万5,000円を得るために合計何時間といくらの経費を使ったか」を確認する必要があります。

 自営業者の場合には、この会計上の利益からさらに自分自身の労働に対する対価や機会費用を考えなければ、本当の意味で採算が取れているか判断できません。また、所得税や個人として負担する社会保険まで差し引いた金額を示す場合は、「営業利益」ではなく「最終的な手残り」と区別した方が正確です。

買い物代行~必要でも民間だけでは成立しにくい

 自動車を運転できない高齢者にとって、買い物支援には一定の潜在需要があります。しかし、仮に1回2,000円で、買い物、移動、商品の受け渡しまで90分かかれば、経費を引く前の時間当たり売上高は約1,333円です。複数世帯の注文をまとめて同じ店で購入し、同じ地域へ配送できれば効率は上がりますが、利用者ごとに希望店舗、購入品、時間帯が違えば集約は容易ではありません。

 このため、完全な個別対応型サービスより、共同購入、既存店舗の配送、自治体や社会福祉協議会との連携などの方が合理的になる場合があります。必要性の高さだけでは事業性を判断できず、利用者が実際に負担できる料金と、1件当たりの総所要時間を同時に考える必要があります。

通院送迎~需要があっても自由に有償営業できるわけではない

 高齢者が多く公共交通が限られる地域では、通院送迎に強い社会的需要が生じる可能性があります。しかし、自家用車を使って利用者から料金を受け取り、人を輸送する行為は道路運送法との関係を確認しなければなりません。

 原則として、自家用車で自由に有償送迎事業を始められるわけではなく、事業内容によって旅客自動車運送事業の許可、自家用有償旅客運送の登録などの制度が関係します。一方で、無償運送、実費相当の負担、他のサービスに付随する送迎など、許可や登録を要しない場合についても国が整理しているため、「料金を受け取ればすべて違法」「少額なら自由」といった単純な理解も適切ではありません。

 さらに通院送迎には、移動時間だけでなく、予約時刻への対応、診察終了までの待機、乗降介助、車椅子対応、感染対策、キャンセル、事故への備えなども必要になります。利用者にとって必要性が高くても、それらの時間と責任を料金で回収できなければ、民間事業としての継続は難しくなります。

空き家管理~空き家数より契約密度が重要

 人口減少地域では、空き家の巡回、換気、郵便物確認、写真報告、台風後の点検、草刈りなどに潜在的な需要があります。しかし、空き家が多いという事実だけでは空き家管理事業の成立を意味しません。

 例えば月額3,000円の契約でも、月1回の移動、巡回、写真撮影、報告に1時間かかれば十分な利益を確保することは難しくなります。同じ地区で多数の契約を集めて巡回経路を短縮したり、基本巡回と草刈り、清掃、修繕、台風後点検を別料金にしたりすることで、初めて採算が改善する可能性があります。

 したがって重要なのは地域の空き家総数ではなく、そのうち何%の所有者が料金を支払い、どの範囲に契約住宅を集められるかという契約率と顧客密度です。

草刈り・庭木管理~需要があっても年間事業になるとは限らない

 高齢化や空き家増加に伴い、草刈りや庭木管理にも潜在需要が残ると考えられます。しかし、需要が春から秋へ集中すること、雨天や猛暑で作業できないこと、草刈り機や車両が必要なこと、刈草処分費が発生すること、傾斜地や飛石による事故リスクがあることなどを考慮しなければなりません。

 一時的に依頼が集中する仕事でも、冬季に仕事が少なければ年間所得は安定しません。そのため、草刈り単独ではなく、空き家巡回、清掃、小修繕など年間を通した別の業務と組み合わせる方が合理的な場合があります。

観光業~観光客数と地域雇用は同じではない

 外房や南房総では観光が重要な産業ですが、観光客が増えればそのまま安定した地域雇用が増えるとは限りません。夏、休日、特定イベントなどに需要が集中する場合、日帰り客の割合が高い場合、1人当たり消費額が低い場合、平日の稼働率が低い場合には、年間雇用を維持するだけの売上を確保できないことがあります。

 さらに、宿泊施設や観光事業者が地域外資本であったり、食材や備品を地域外から調達したりすれば、観光消費額の全額が地域所得として残るわけではありません。そのため地域経済を見る場合には、観光客数だけでなく、宿泊率、1人当たり消費額、年間稼働率、地域内調達率などを確認する必要があります。

地方の飲食店が難しい理由

 地方は都市部より家賃が安いことがあり、飲食店を開業しやすいように見えます。しかし、家賃が低くても商圏人口、平日客、昼夜の交通量、客単価、食材費、光熱費、人件費、廃棄率、駐車場、観光需要の季節変動などが不利であれば経営は成立しません。

 また、「競合店が少ない」という状況についても注意が必要です。競合が少ないのは参入余地が大きいからとは限らず、そもそも市場規模が小さく、十分な売上を得られないため誰も参入していない可能性もあります。

地域内需要だけに依存する事業の限界

 地域住民だけを顧客とする事業は、人口減少の影響を直接受けます。仮に人口が毎年2%ずつ減り、サービスの利用率が変わらないとすれば、理論上の顧客数も毎年2%ずつ減少します。この減少は単純な足し算ではなく、毎年2%ずつ減少した場合、5年後には現在の約90.4%、10年後には約81.7%となるため、10年間では約18.3%減少します。

 そのため地方事業では、地域外から売上を得られる仕組みを持つか、地域内で一定の継続需要を確保することが重要です。農水産物の域外販売、食品加工、通信販売、データ処理、設計、編集、オンライン教育などは前者に当たり、医療、介護、住宅修繕、物流、住宅管理、地域交通、インフラ保守などは後者に近い分野です。

 ただし、「不可欠な仕事」であることと「儲かる仕事」であることは同じではありません。公共性が高いほど料金設定や制度による制約が強く、市場だけでは供給量を維持できない場合があります。

南房総地域では仕事の総量不足も存在する

 地方雇用をミスマッチだけで説明できない重要な理由が、南房総地域の就従比です。2020年国勢調査を基礎とした第5次南房総地域半島振興計画では、地域内で働く就業者数を地域に住む就業者数で割った就従比は0.94とされています。

 1を下回るということは、地域に居住する就業者数より地域内の就業場所が少ないことを意味し、千葉県自身も地域内の就業の場が不足していると整理しています。このため、地方の問題を「仕事は十分あるがミスマッチだけが問題」と説明することも正確ではありません。

 より正確には、「地域全体としての仕事不足」と「特定職種の深刻な人手不足」が同時に存在し、そこへ賃金、技能、勤務条件、勤務地などのミスマッチが重なっていると考える必要があります。

人手不足でも賃金を上げられない構造

 経済理論上、人手不足が続けば賃金を上げることで労働供給を増やす方向に市場は動きます。しかし、小規模事業者では賃上げ分を販売価格へ十分転嫁できなければ、雇用そのものを維持できません。

 中小企業政策でも、人材確保と企業の「稼ぐ力」の向上は重要課題とされており、特に地方の小規模事業者では、顧客側も地域住民や小規模事業者であることが多いため、料金を大幅に引き上げれば利用者が減少する可能性があります。その結果、「人材が不足するため賃金を上げたいが、料金を上げれば利用者が減り、売上が減るため十分な賃上げができず、さらに人が集まりにくくなる」という循環が生じることがあります。

 この問題は経営者の努力だけで解決できるとは限らず、生産性向上、共同化、公的支援、業務集約、サービス設計の変更などを組み合わせる必要があります。

新規創業より事業承継が合理的な場合もある

 地方活性化では新規創業が注目されがちですが、既存事業者に後継者がいない場合には、ゼロから事業を作るより既存事業を引き継ぐ方が合理的なことがあります。事業承継なら、顧客、設備、取引先、地域での信用、技術やノウハウ、過去の売上などを利用できる可能性があります。

 一方で、老朽設備、借入金、低採算な契約、経営者個人の人間関係に依存した取引なども引き継ぐ危険があります。したがって、「後継者がいない事業だから有望」なのではなく、過去の財務状況、将来需要、顧客構成、設備更新費、利益率などを確認し、「後継者不足」と「事業としての収益性」を分けて評価する必要があります。

地方で不足する仕事と採算が難しい仕事

分野 地域での必要性 人材面 主な採算上の問題
建設・修繕 高齢化した住宅・インフラの維持需要が残る 県全体では深刻な求人超過 技術、資格、設備、車両、安全管理
医療・介護 高齢地域では必要性が高い 人材確保が重要課題 公定価格、移動時間、人件費
運輸・送迎 自動車依存地域で必要性が高い 運転人材不足 利用者密度、車両費、待機時間
警備・保安 一定の継続需要 県全体では深刻な求人超過 夜間、休日、屋外勤務
農林漁業 地域差が大きい 後継者問題と雇用需給は別 季節性、価格変動、設備投資
観光・宿泊 外房・南房総では重要 地域・季節差が大きい 稼働率、季節性、客単価
買い物支援 高齢地域で潜在需要 事業者の有無は地域差 支払可能額、移動時間
空き家管理 空き家増加に伴う潜在需要 地域差 契約率、顧客密度、巡回距離
草刈り・庭管理 高齢化地域で潜在需要 地域差 季節性、事故、処分費
事務職 求職希望が多い 人手不足とは言いにくい 求人自体が少ない

 この整理から分かるのは、「社会的に必要である」「求人が多い」「民間事業として利益が出る」という三つは同じ概念ではないということです。地域で困っている人が多いサービスでも採算が取れないことがあり、反対に求人倍率が高い仕事でも、必要な資格や経験がなければ新規参入できません。

地方で事業を始める前に確認すべきこと

 地方で新しい事業を考える場合には、単に「困っている人が多い」「競合が少ない」と考えるのではなく、実際に料金を払う顧客が何人いるのか、その顧客がどこに分布しているのか、1件当たりの作業、移動、準備、報告を含めた総所要時間はどの程度か、年間を通じて需要があるか、利用者が無理なく支払える料金はいくらかを確認する必要があります。

 さらに、送迎、介護、建設、廃棄物処理などでは許認可や資格の有無を確認し、家族支援、自治体サービス、宅配、既存事業者などの代替手段との競合も考えなければなりません。1人で営む事業であれば、自分が病気や事故で働けなくなった場合の継続性、地域人口が減少した場合でも売上を確保するための地域外収入、撤退時の車両、設備、在庫、借入金などの処理費用まで含めて考える必要があります。

 特に重要なのは、需要調査を「このサービスは必要ですか」と尋ねるだけで終わらせないことです。「月2,000円なら利用するか」「月1回なら利用するか」「年間契約をするか」という具体的な価格と頻度を示さなければ、事業として成立する需要を把握することはできません。

地方で将来も必要性が残りやすい仕事

 人口減少下でも、住宅や設備の修繕、医療・介護、物流・配送、農水産物の加工や流通、防災・災害復旧、住宅管理、地域交通、廃棄物処理、インフラ保守などは一定の社会的必要性が残る可能性があります。また、小規模事業者の事務支援やデジタル手続き支援なども、地域の事業者構成によっては需要が生じます。

 しかし、「将来も必要な仕事」と「将来も利益が出る仕事」は区別しなければなりません。人口密度が低い地域では、顧客を同一地区へ集める、訪問日をまとめる、共同配送する、複数サービスを組み合わせる、既存事業者と連携する、自治体委託を利用するなど、1件当たりの移動費と固定費を低下させる仕組みが重要になります。

現実的な結論~地方では三つの仕事が一致していない

 「地方には仕事がない」という言葉には一面の真実があります。南房総地域の就従比が1を下回っているように、地域全体として就業場所が不足している地域は実際に存在し、事務、企画、管理など希望者の多い職種では求人が少ないという問題もあります。

 しかし、その一方で建設、保安、介護、運輸などでは人材不足が続いており、住民に必要な買い物支援、通院移動、空き家管理などでは、需要が存在しても民間事業として十分な収益を確保できない可能性があります。したがって地方雇用の問題は、「仕事そのものが不足している問題」「働く人を必要としているのに応募者が集まらない問題」「社会的には必要だが事業収益を確保しにくい問題」の三つに分けて考える必要があります。

 これらをすべて「地方には仕事がない」という一言でまとめると、政策も事業判断も誤る可能性があります。求人の少ない職種については地域外から仕事を受注できる仕組みや企業業務の地域移転、人手不足職種については賃金、勤務時間、住宅、教育訓練、労働環境の改善、採算の取れない生活サービスについては共同化、拠点化、公的委託など、それぞれ異なる対策が必要です。

 地方で新しい事業を始める場合も、「地域に困っている人がいる」という理由だけでは十分ではありません。誰が料金を払い、いくらなら利用し、年間何件を確保でき、移動や準備を含めても利益が残り、5年後や10年後にも需要が存在するのかを数字で確認する必要があります。

 地方には、仕事そのものが不足する地域があります。しかし、それだけが問題ではありません。求職者が希望する仕事、地域社会が必要とする仕事、事業者が継続的に利益を確保できる仕事の三つが一致しにくいことこそ、地方の雇用と事業を難しくしている大きな構造問題です。

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