地域分析記事

地域の暮らしと地域課題を数学とデータで考える

集落は何世帯まで減ると維持が難しくなるのか

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地方を歩いていると、家そのものは残っているのに、人の姿をほとんど見かけない集落があります。空き家が増え、子どもの声が聞こえなくなり、かつて何十世帯も暮らしていた場所に十数世帯しか残っていないことも珍しくありません。

では、集落はいったい何世帯まで減ると維持することが難しくなるのでしょうか。

この問いに「20世帯」「10世帯」と一つの数字だけで答えることはできません。集落によって年齢構成も違えば、道路や水路の管理方法、自治会の仕組み、周辺集落との関係も違うからです。

ただし、農林水産省などの調査を見ると、世帯数が減るにつれて共同活動が弱くなり、特に10戸を下回るあたりから集落機能の低下が目立ち、4戸以下になると維持がかなり難しくなるという傾向は確認できます。農林水産省は、集落内の戸数が9戸以下になると、用排水路の管理や農地保全など、集落が担ってきた共同活動が著しく減退する状況がみられるとしています。

重要なのは、家が何軒残っているかではありません。

その地域を支える「人」が何人残っているかです。

集落は住宅の集合ではなく「共同作業の組織」である

普段、私たちは集落を住宅が集まった場所として見ています。しかし、集落が存続するためには、住宅が存在するだけでは足りません。

道路脇の草刈り、水路や側溝の清掃、ごみ集積所の管理、自治会活動、防災活動、祭礼、共同施設の維持、地域内の連絡、高齢者の見守りなど、目立たない仕事が年間を通じて発生しています。

農林業センサスでは農業集落を、農業生産だけでなく社会生活の基礎となる地域社会として捉えています。実際、2020年の調査でも、多くの農業集落で環境美化、農道や水路の管理、共有財産の管理、福祉・厚生などが寄り合いの議題となっています。

つまり人口減少の本当の問題は、

「住む人が少なくなること」

だけではなく、

「集落を動かすための仕事を分担できる人数が減ること」

にあります。

100世帯で行っていた仕事が50世帯になったからといって、仕事量が半分になるわけではありません。

道路の長さも、水路の長さも、ごみ集積所も、地域の面積もほとんど変わらないからです。

30世帯が20世帯になっても、すぐには集落は消えない

例えば30世帯の集落が20世帯まで減ったとします。

この段階では、多くの場合、集落そのものが直ちに維持できなくなるわけではありません。

自治会長、会計、防災担当、道路管理などの役割を分担することもまだ可能でしょう。草刈りや清掃などについても、住民がある程度参加できれば対応できます。

しかし問題は、一世帯当たりの負担が徐々に重くなることです。

30世帯で30人が参加していた作業を20世帯で行えば、単純化すれば一人当たりの負担は1.5倍になります。

さらに人口減少が高齢化と同時に進めば、20世帯あっても実際に草刈りや側溝清掃に参加できる世帯が10世帯しかない、ということも起こります。

したがって「20世帯あるから大丈夫」とは言えません。

世帯数よりも、

実際に地域活動を担える世帯数

を見る必要があります。

10世帯を下回ると何が起きるのか

一つの重要な境目として考えられるのが「10世帯前後」です。

農林水産省の資料では、集落内の戸数が9戸以下になると、用排水路管理や農地保全などの共同活動が著しく減退する傾向が示されています。

もちろん、この数字は農業集落についての統計であり、全国すべての住宅集落に機械的に当てはめられる数字ではありません。

それでも、「10世帯」という数字には実務的な意味があります。

仮に10世帯のうち、高齢のため共同作業が難しい世帯が4世帯、仕事などの事情で参加しにくい世帯が2世帯あれば、実際に地域活動の中心を担えるのは4世帯程度になります。

自治会長、会計、防災、環境美化などを毎年交代しても、数年で同じ人に役職が戻ってきます。

一つの家から複数の役割を出さなければならない場合も増えます。

すると、人口減少が単なる人数の問題から、

地域運営そのものの問題

へ変わってきます。

5世帯前後になると「集落単独」という考え方が難しくなる

さらに世帯数が減り、5世帯前後になった場合はどうでしょうか。

農林水産政策研究所の分析では、総戸数4戸以下、人口9人以下、高齢化率50%以上の農業集落では、寄り合いや農業用用排水路の保全などの集落活動が急激に弱まることが確認されています。また、総戸数4戸以下の農業集落では、農業の担い手が存在しない集落が約7割に達していました。

別の2023年の分析でも、農家戸数4戸以下の集落では、2020年に環境美化・自然環境保全活動が行われていない割合が33.3%となり、20戸以上の集落の12.1%よりかなり高くなっています。

ここまで小さくなると、問題は「住民が協力するかどうか」だけではありません。

そもそも協力できる人数が物理的に足りなくなります。

例えば5世帯のうち3世帯が80歳以上であれば、草刈り機を使った作業や側溝清掃、防災活動などを事実上2世帯で支えることになりかねません。

こうなると、「もっと地域住民が協力すればよい」という精神論では解決できません。

集落の構造そのものを変える必要があります。

世帯数だけでは判断できない理由

ここで注意したいのは、同じ10世帯でも集落の維持能力には大きな差があることです。

例えば、40~60歳代を中心とする10世帯と、80歳代を中心とする10世帯では、地域活動を担える力はまったく違います。

さらに、集落の面積によっても違います。

住宅が一か所にまとまっている10世帯と、山間部に数キロメートルにわたって散在する10世帯では、道路や水路、土地を管理する負担が異なります。

周辺地域との関係も重要です。

農林水産政策研究所の分析では、小規模な農業集落でも、他の集落と連携することによって農業用用排水路の保全活動を維持している例が確認されています。

つまり、

「小さな集落=必ず消滅する」

という関係ではありません。

周辺集落との共同運営ができれば、小規模でも機能の一部を維持することは可能です。

集落の維持能力を簡単な式で考えてみる

集落の持続可能性を考えるために、単純なモデルを置いてみます。

集落に30世帯あったとしても、地域活動に参加できる世帯が15世帯しかなければ、実質的な担い手は15世帯です。

そこで、

実働世帯率 = 地域活動に参加可能な世帯数 ÷ 全世帯数

と考えます。

30世帯中24世帯が活動できれば実働世帯率は80%です。

一方、15世帯残っていても活動可能なのが6世帯なら40%しかありません。

集落維持を考えるときには、単純な人口や世帯数より、

世帯数 × 実働世帯率

を見る方が現実に近くなります。

例えば20世帯あっても実働率30%なら実働世帯は6世帯です。

反対に10世帯でも実働率80%なら8世帯あります。

したがって、人口減少地域では「あと何人住んでいるか」だけではなく、「地域を支えられる人があと何人いるか」を調べる必要があります。

高齢化は人口減少以上に集落を変える

農林水産政策研究所は、世帯数や人口が少ないことに加えて、高齢化が進んだ集落ほど共同活動が低下することを示しています。総戸数4戸以下、人口9人以下、高齢化率50%以上という条件が重なると、活動が急激に弱まる傾向があります。

これは地方の将来を考えるうえで非常に重要です。

人口が毎年1%減るだけなら、数字の変化は緩やかに見えます。

しかし、地域活動を担ってきた60~70歳代が80歳代へ移行すると、同じ人口であっても地域を維持する能力は急速に低下する可能性があります。

集落の「人口減少」と「機能低下」は、必ずしも同じ速度では進まないのです。

ある時点までは普通に自治会も草刈りも続いていた地域が、数年の間に急に維持できなくなることも考えられます。

外房でも問題になるのは「消滅」より先に起こる機能低下

外房の地域を考える場合にも、「集落がなくなるか」という問いだけでは十分ではありません。

実際には、誰も住まなくなるよりはるか以前から変化が始まります。

自治会の役員が決まらない。

草刈りの参加者が集まらない。

道路脇や空き地の管理が難しくなる。

高齢者だけでは防災活動ができない。

近所同士で行ってきた見守りが成立しなくなる。

こうした変化が少しずつ積み重なります。

農林水産省も、高齢化が進んだ農業集落では生活の利便性が低い傾向があり、買い物、医療、教育へのアクセスや高齢者の見守りなどの生活環境を維持することが重要だとしています。

つまり、集落の存続を考えるとき、本当に注目すべきなのは「最後の一世帯がいついなくなるか」ではありません。

生活共同体としての機能がいつ失われ始めるか

です。

目安としては「20戸・10戸・5戸」の三段階で考えられる

これまでの調査結果を、一般の地域を考えるための目安として整理すると、次のように考えることができます。

20世帯前後までは、担い手の年齢構成が良ければ単独での地域運営を維持できる可能性が比較的高い。

しかし20世帯を下回る頃から、一世帯当たりの役割負担や共同作業負担が目立ち始めます。

10世帯前後になると、共同活動を従来の仕組みのまま維持することが難しくなる可能性が高まります。

そして、

5世帯前後では、集落単独であらゆる機能を維持する発想そのものを見直す必要が出てきます。

ただし、これは全国共通の絶対的な境界線ではありません。農業集落の統計を参考にした実務的な目安です。

実際の維持可能性を決めるのは、

世帯数、年齢構成、実働人口、集落面積、インフラ量、周辺集落との連携、行政による支援などの組み合わせです。

集落を残す方法は「人口を元に戻すこと」だけではない

人口減少対策というと、移住者を増やすことが最初に考えられます。

もちろん新しい住民が増えることには意味があります。

しかし、日本全体の人口が減少する中で、すべての小規模集落を移住だけで再び数十世帯に戻すことは現実的ではありません。

そこで必要になるのが、集落単位で行ってきた仕事を広域化する発想です。

一つの集落で自治会、防災、草刈り、水路管理などをすべて完結させるのではなく、複数集落で共同化する。

住民で維持できない作業は行政や事業者に移す。

自治会組織そのものも広域化する。

こうした仕組みに変えることで、「10世帯だから維持できない」という単純な関係を変えることはできます。

実際、小規模な農業集落でも他集落との連携によって保全活動を維持している例があり、人口減少社会では、集落の統合や連携がますます重要になると考えられます。

問題は「何世帯残るか」ではなく「何世帯で何を維持するか」

「集落は何世帯まで減ると維持できないのか」。

この問いに一つの数字で答えるなら、農業集落のデータからは10世帯を下回るあたりが重要な警戒点になります。

そして5世帯前後まで減少し、高齢化も進めば、従来型の共同活動を集落だけで維持することはかなり難しくなります。

しかし、本当に重要なのは世帯数そのものではありません。

人口30人の集落でも地域活動を担える人が3人しかいなければ、維持能力は低い。

人口15人でも比較的若い住民が多く、隣の集落と協力できれば、維持できる機能は増えます。

これから人口減少が進む地方で問われるのは、

「この集落を何世帯まで残せるか」

ではなく、

「少ない世帯数になったとき、どこまでを住民自身で維持し、どこからを周辺地域や行政と共同化するのか」

という問題なのではないでしょうか。

集落は、最後の住民がいなくなった日に突然消えるわけではありません。

そのずっと前から、草刈り、自治会、防災、見守り、道路や水路の管理といった小さな機能が一つずつ失われていきます。

地方の将来を見るなら、人口だけでなく、こうした「集落機能の残存率」を見ていく必要があります。

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