病院や診療所で診察を受けられれば、それで医療が完結するわけではありません。薬による治療が必要な場合には、処方された医薬品を患者が適切に受け取り、正しく使用できることまで含めて考える必要があります。特に高齢者にとっては、医療機関までの移動に加え、薬を受け取るための移動や待ち時間も、通院に伴う重要な負担になります。
現在の日本では、医療機関で発行された処方箋を保険薬局へ持参し、薬剤師による調剤と服薬指導を受ける院外処方が広く普及しています。一方、医療機関内で薬を受け取る院内処方も存在し、条件によってはオンライン服薬指導や配送を利用することもできます。そのため、すべての患者が診察後に薬局へ移動するわけではありませんが、地域の薬局が医療へのアクセスを支える重要な存在であることに変わりはありません。
人口減少が進む地方では、病院や診療所の統廃合、医師不足、救急医療の維持などが大きな問題として取り上げられています。しかし、診察を受けた後に必要となる医薬品の供給体制については、医療機関そのものの存続問題ほど注目されていないように思われます。仮に病院や診療所が残っていても、近隣の薬局が閉局したり、営業時間が短縮されたりすれば、住民が薬を受け取るまでの時間や負担は変化する可能性があります。
では、2026年から30年後の2056年に、地方の薬局は現在と同じように身近な場所に残っているのでしょうか。
最初に結論を述べると、地方の薬局が一斉になくなると考える根拠はありません。しかし、現在と同じ店舗数、立地、営業時間、薬剤師の配置をすべての地域で維持できるとも限りません。人口構造や処方箋需要、薬剤師の確保状況、医療機関の配置、薬局の経営条件などによって、地域ごとに異なる変化が起こると考えるのが妥当でしょう。
将来は、従来の店舗を維持する方法だけでなく、調剤業務の一部集約、薬局間の連携、在宅訪問、オンライン服薬指導、医薬品の配送、地域交通との組み合わせなど、複数の方法によって住民の薬へのアクセスを支える必要性が高まる可能性があります。重要なのは、単に薬局という店舗が残るかどうかではなく、住民が必要な薬を安全に、適切な時間と負担で受け取れるかという問題です。
全国の薬局は増えている~人口減少だけでは将来を説明できない
厚生労働省の「令和6(2024)年度衛生行政報告例」によると、2024年度末の全国の薬局数は63,203施設で、前年度の62,828施設から375施設、割合にして0.6%増加しました。人口10万人当たりの薬局数は全国平均で51.1施設となっており、日本全体で見ると、少なくともこの時点では薬局数が減少しているわけではありません。
千葉県でも、2023年度末の2,669施設から2024年度末には2,681施設へと12施設増加しています。一方、鹿児島県では同じ期間に885施設から862施設へ23施設減少しており、都道府県によって増減の方向が異なります。この事実は、人口減少が直ちに薬局数の減少をもたらすわけではなく、地域の医療需要や経営環境などによって結果が変わることを示しています。
ただし、全国や都道府県の薬局数が増加しているからといって、人口減少地域でも薬局が維持されているとは限りません。新しい薬局が都市部や医療機関の周辺に開設される一方、人口の少ない地区では閉局が進んでいる可能性もあり、全国の増減だけでは地域内部の配置の変化を把握できないからです。
人口10万人当たりの薬局数についても、単純に都市部ほど多いわけではありません。2024年度末では佐賀県が65.1施設、高知県が61.0施設であるのに対し、東京都は50.9施設、千葉県は42.9施設でした。人口当たりの施設数が多くても、住民が広い地域に分散していれば移動距離が長くなることがあります。反対に、人口当たりの施設数が比較的少なくても、人口密度が高ければ徒歩圏内に複数の薬局が存在する場合があります。
したがって、全国の薬局数、人口当たりの薬局数、住民の自宅から薬局までの距離、実際の移動時間は、それぞれ異なる指標として扱う必要があります。薬局の数が多いことと、地域住民が薬を受け取りやすいことは、必ずしも同じではありません。
薬局の多くは比較的小規模な体制で運営されている
2025年9月の中央社会保険医療協議会で厚生労働省が示した資料では、薬局1店舗当たりの勤務薬剤師数は平均2.7人、1か月当たりの処方箋枚数は約1,100枚とされています。この数値は、比較的小規模な人的体制で運営されている薬局が多いことを理解するうえで重要です。
もっとも、平均値だけで個々の薬局の実態を判断することはできません。薬剤師が多数勤務する大規模な薬局もあれば、少人数で運営される薬局もあり、勤務形態や営業時間によって実際の配置人数は異なります。また、勤務薬剤師数と、別の統計で把握される薬局従事薬剤師数は、調査方法や集計対象が異なる場合があるため、数値を単純に比較することにも注意が必要です。
地方の小規模薬局を考える場合には、店舗数だけでなく、薬剤師が何人勤務しているか、営業時間中に必要な業務を処理できるか、特定の薬剤師が退職した場合に代替要員を確保できるかといった問題が重要になります。仮に地域に薬局が残っていても、薬剤師の確保が難しくなれば、営業時間の短縮や業務内容の変更を余儀なくされる可能性があります。
全国の薬剤師は増加しているが、地域の不足が解消されたわけではない
薬局の将来を考えるとき、人口減少とともに重要になるのが薬剤師の地域偏在です。ただし、ここでは全国の薬剤師数が不足しているかという問題と、特定地域で薬剤師を確保できるかという問題を区別しなければなりません。
厚生労働省の「令和6(2024)年医師・歯科医師・薬剤師統計」によると、2024年末の全国の届出薬剤師数は329,045人で、2022年末の323,690人から5,355人、1.7%増加しました。このうち薬局に従事する薬剤師は197,437人で、2022年の190,735人から6,702人、3.5%増加しています。
つまり、少なくとも2022年から2024年までの統計では、全国の薬剤師数も薬局に従事する薬剤師数も増加しています。薬剤師が全国的に減少していることを前提に、地方の薬局が存続できなくなると論じるのは適切ではありません。
一方、全国の薬剤師数が増加していても、特定の地域で必要な薬剤師を確保できるとは限りません。薬剤師の勤務地選択には、賃金や勤務条件、専門的な業務を経験できる環境、通勤時間、家族の生活環境、子育てや教育の条件などが関係します。そのため、地域に薬局が存在していても、採用活動が難航したり、退職者の補充ができなかったりすることがあります。
厚生労働省も薬剤師の地域偏在を政策課題として位置付け、薬剤師偏在指標や薬剤師確保計画の仕組みを整備しています。薬剤師偏在指標は単純な人口当たり薬剤師数ではなく、薬剤師に対する需要や業務量なども考慮するもので、薬局薬剤師と病院薬剤師についても区別した評価が行われています。
ただし、地域の薬剤師偏在指標が低いことと、その地域のすべての薬局で薬剤師が不足していることは同じではありません。地域全体の需給状況を示す指標と、個別薬局の採用状況や勤務体制は区別して判断する必要があります。
30年後の医薬品需要は、人口総数だけでは予測できない
国立社会保障・人口問題研究所の「日本の地域別将来推計人口(令和5年推計)」では、2020年の国勢調査を基準として、2050年までの市区町村別人口を5年ごとに推計しています。この資料を利用すれば、将来の総人口だけでなく、65歳以上人口や75歳以上人口など、年齢構成の変化を地域別に分析できます。
ただし、2026年から30年後は2056年であり、この推計の対象期間を超えています。そのため、同資料だけから2056年の市区町村人口を直接読み取ることはできず、まして薬局が何店舗残るかを正確に求めることもできません。2050年までの推計は長期的な方向性を考えるための重要な資料ですが、2056年の薬局数を確定的に予測できるものではありません。
ここで注意したいのは、地域人口が30%減少したとしても、医薬品の需要が同じように30%減少するとは限らないことです。医薬品の使用状況は年齢や健康状態、慢性疾患の有無、医療機関の受診状況などによって異なります。人口全体が減少する一方で、高齢者人口の減少が比較的小さい地域では、処方箋需要も人口全体ほどには減少しない可能性があります。
しかし、高齢化率が上昇することと、高齢者の絶対数が増えることも同じではありません。例えば、総人口が大幅に減少する地域では、75歳以上人口の割合が高くなっても、その人数自体は減少することがあります。高齢化が進むという理由だけで医薬品需要が維持されると考えることも、人口が減るという理由だけで需要が同じ割合で減少すると考えることも、いずれも適切ではありません。
数理的に考えるなら、地域の処方箋需要は、各年齢階級の人口に、その年齢階級の1人当たり年間処方箋発行回数を掛け、それらを合計する方法で推計するのが基本になります。さらに、将来の受診率、院内処方と院外処方の割合、医療機関の統廃合、処方日数の変化、地域外薬局の利用なども考慮する必要があります。
人口減少によって住民数が減っても、近隣の診療所が閉院して別の医療機関に患者が集まれば、その医療機関の周辺にある薬局では処方箋が増える場合があります。逆に、医療機関そのものが地域から撤退すれば、近隣薬局の需要が大きく減少する可能性があります。したがって、薬局需要を予測するには、居住人口と年齢構成に加えて、医療機関の立地や患者の受診行動まで分析する必要があります。
薬局経営には患者数が減っても削減しにくい費用がある
薬局の将来を考えるうえで、経済的に重要なのが固定費の存在です。薬局には薬剤師や事務職員の人件費、建物の賃料や維持費、調剤設備、レセプトコンピューター、通信設備、医薬品在庫の管理費用、光熱費などが必要になります。これらの費用には処方箋枚数によって変化する部分もありますが、患者が減少しても直ちに同じ割合では減らせない部分があります。
例えば、1か月の処方箋枚数が1,100枚から900枚に減少したとしても、店舗の賃料や必要な設備が同じであれば、その費用を処方箋の減少率に合わせて削減することはできません。薬剤師の勤務時間や事務職員の配置を調整できる場合もありますが、薬局として必要な業務を安全に行うための人員には一定の下限があります。
薬局の薬剤師数については、取り扱う処方箋枚数などを基準とする配置規定があり、原則的な算定では前年の1日平均取扱処方箋数を40で除して端数を切り上げる仕組みが用いられます。ただし、処方箋の種類による調整規定や実際の勤務体制に関する要件もあり、単純に処方箋枚数だけで適切な人員配置が決まるわけではありません。
薬局経営を単純な数理モデルで考えると、一定期間の営業利益は、処方箋1枚当たりの限界利益に処方箋枚数を掛けた金額から、固定費を差し引く形で近似できます。ここでいう限界利益とは、処方箋に対応する収入から医薬品仕入費などの変動費を差し引いたものであり、実際の調剤報酬や薬局の利益率とは異なります。
仮に、ある薬局の処方箋1枚当たりの限界利益を2,500円、月間固定費を200万円とすると、月間1,100枚の処方箋を受け付けた場合の利益は75万円となります。しかし、処方箋枚数が30%減少して770枚になると、同じ条件では月間7万5,000円の赤字になります。これは実際の薬局の平均的な収益を示すものではなく、固定費の影響を理解するための仮想的な計算です。
この例では、処方箋枚数の減少率は30%ですが、利益は黒字から赤字へ変化しています。需要の減少率と利益の減少率が一致しないことは、固定費を抱える事業に共通する経済的な性質です。ただし、赤字になった薬局が直ちに閉局するとは限らず、営業時間や人員配置の見直し、在宅業務の拡大、経営主体の変更、他店舗との連携などによって事業を継続できる場合もあります。
したがって、人口減少地域の薬局経営を考える場合には、処方箋需要だけでなく、固定費、薬剤師の確保費用、調剤報酬、在宅業務などによる収入、経営形態、店舗間の業務分担などを総合的に評価する必要があります。地域に薬を必要とする住民が存在していることと、現在の店舗形態のままで採算が成立することは、別の問題なのです。
薬局の存続を左右するのは人口だけでなく、診療所との関係や後継者問題でもある
地方の小規模薬局では、特定の病院や診療所との関係が経営に大きく影響することがあります。特に、一つの医療機関から発行される処方箋への依存度が高い薬局では、その医療機関の診療時間や診療科目、患者数、医師の引退、診療所の閉院などが薬局経営に直接影響する可能性があります。
人口が一定数残っていても、近隣の診療所が閉院すれば、患者は別の医療機関を受診するようになります。それに伴って処方箋を持参する薬局も変わることがあり、地域全体の医薬品需要が大きく減少しなくても、特定の薬局の収入が減少することがあります。
一方、複数の医療機関から処方箋を受け付けている薬局では、特定の診療所が閉院しても、その影響を分散できる可能性があります。ただし、こうした薬局でも薬剤師の確保や医薬品在庫の管理、在宅訪問への対応などに費用がかかるため、処方箋の受付先が多いことだけで長期的な経営安定が保証されるわけではありません。
さらに、地方では後継者問題も無視できません。経営者が高齢になり、事業を引き継ぐ人がいなければ、一定の患者数が残っていても閉局を選択する可能性があります。反対に、個人経営の薬局が他の企業へ事業承継されることで、店舗そのものは維持される場合もあります。
ここでは、企業の統合、店舗の統廃合、調剤業務の集約を区別することが重要です。薬局企業が買収や合併によって集約されても、地域の店舗数が直ちに減るとは限りません。また、一部の調剤業務を別の拠点に集めても、患者に対応する薬局が地域に残る場合があります。将来の薬局の変化を考える際には、経営主体が変わることと、地域住民が利用できる店舗がなくなることを混同してはいけません。
「近くに薬局がある」だけでは薬へのアクセスは保証されない
地域住民にとって重要なのは、行政区域内に薬局が何店舗存在するかだけではありません。自宅から薬局までの距離、移動時間、利用できる交通手段、営業時間、必要な医薬品の在庫、薬剤師による対応など、複数の条件がそろって初めて、実際に薬を受け取ることができます。
例えば、自宅から10キロメートル離れた場所に薬局が1店舗残っていたとしても、自動車を運転できる住民と、徒歩や公共交通に依存する高齢者では利用の難しさが異なります。距離だけで判断することも適切ではなく、道路事情や公共交通の運行本数、家族による送迎の有無などによって、実際の移動負担は大きく変わります。
また、薬局が近くにあっても、診療所の受付終了時間と薬局の営業時間が合わなければ、当日中に薬を受け取れない場合があります。医薬品の在庫がなく、取り寄せに時間がかかる場合も同様です。特に、早急な服薬が必要な急性疾患と、比較的計画的に薬を受け取れる慢性疾患では、薬の受取時間が持つ意味が異なります。
薬へのアクセスを科学的に分析するなら、少なくとも地理的アクセス、時間的アクセス、実効的アクセスの三つを区別する方法が考えられます。地理的アクセスは自宅や医療機関から薬局までの移動時間、時間的アクセスは処方箋の発行から薬を受け取るまでの時間、実効的アクセスは必要な薬を安全に、適切な時間内に受け取れたかという観点です。
これらは本記事で問題を整理するための分析上の分類であり、統一された公的指標を示すものではありません。しかし、薬局数という単一の指標よりも、実際の住民生活に近い評価が可能になります。薬局が1店舗減ったから直ちに医療アクセスが失われるわけでもなければ、1店舗残っているから十分な医薬品供給体制が維持されているとも限りません。
オンライン服薬指導と配送は、薬局への移動を減らせるのか
将来の地方薬局を考えるうえで、有力な選択肢の一つがオンライン服薬指導です。情報通信機器を利用して薬剤師が患者に服薬指導を行うことで、一定の条件の下では、患者が毎回薬局まで移動する負担を減らせる可能性があります。電子処方箋などの仕組みと組み合わせれば、処方情報のやり取りや薬の受取方法にも変化が生じると考えられます。
ただし、オンライン服薬指導は、薬剤師による専門的な判断を不要にする仕組みではありません。薬剤師は患者の状態や医薬品の特性を踏まえ、オンラインで適切な指導が可能かを判断する必要があります。また、オンライン服薬指導では映像と音声による双方向のやり取りが基本となり、患者本人が必要な情報を理解できることも重要になります。
地方の高齢者を考える場合には、スマートフォンや通信環境を利用できるかだけでなく、電子処方箋の利用、本人確認、通信機器の操作、支払いなどを円滑に行えるかという問題があります。高齢者の中にもデジタル機器を使いこなす人は多く、一律に利用が難しいと決めつけるべきではありませんが、操作に支援が必要な住民が存在することも想定しなければなりません。
さらに、オンラインで服薬指導が完了しても、薬そのものは患者の手元に届ける必要があります。配送では、医薬品の品質を維持できるか、必要な温度管理が可能か、患者が確実に受領できるか、いつ届くかといった条件が重要になります。厳格な管理が必要な医薬品や、速やかな使用が必要な医薬品については、一般的な配送だけで対応できない場合もあります。
特に、処方箋が発行された当日から服薬を開始する必要がある場合、配送によって患者の移動負担が減っても、薬の到着が遅れれば治療上の不利益につながる可能性があります。一方、症状が安定している慢性疾患では、適切な服薬管理と配送体制が確保されていれば、薬局への移動回数を減らすメリットが大きくなることも考えられます。
オンライン服薬指導や配送は、すべての薬局への来店を代替する仕組みではなく、患者の状態や医薬品の特性に応じて選択できる手段を増やすものと考えるのが適切です。また、オンライン化しても薬剤師の専門的な業務そのものがなくなるわけではないため、薬剤師の地域偏在や人員不足が自動的に解消されるものでもありません。
在宅訪問は重要だが、人口密度の低い地域では移動時間が制約になる
自宅で療養している患者に対して、薬剤師が訪問し、服薬状況や医薬品の管理状況を確認する仕組みも重要になります。特に、複数の医薬品を使用している患者、通院が難しい患者、服薬管理に支援が必要な患者などにとって、薬剤師が自宅で薬の使用状況を確認することには、単なる薬の受け渡しを超えた意味があります。
しかし、在宅訪問を増やせば地方の薬局問題がすべて解決するわけではありません。人口密度が低く住宅が広範囲に分散する地域では、薬剤師が患者宅を訪問するための移動時間が長くなる場合があり、同じ勤務時間で対応できる患者数が制限されることがあります。
薬剤師の勤務時間は、調剤、服薬指導、訪問、移動、記録、医師や他の医療職との連絡・調整などに配分されます。したがって、訪問先が離れている地域では、患者宅での指導時間だけでなく、往復の移動時間まで含めて業務量を評価しなければなりません。これは訪問看護や訪問介護などにも共通する、人口密度の低い地域特有の課題です。
患者が薬局まで移動する代わりに薬剤師が患者宅へ移動するため、患者本人の負担が軽減されても、地域全体の移動に必要な時間や費用がなくなるわけではありません。在宅訪問を持続可能な形で実施するには、訪問経路の調整、他の医療・介護職との連携、適切な報酬、薬剤師の勤務体制などを総合的に考える必要があります。
また、単に薬を自宅へ届ける配送と、薬剤師が患者宅で専門的な服薬管理を行う在宅訪問は、役割が異なります。地域の医薬品供給体制を考える際には、この二つを区別し、患者の状態に応じて必要なサービスを選択できるようにすることが重要です。
2026年の制度改正は、将来の薬局の経営形態を変える可能性がある
薬局の将来を考える場合、人口や需要だけでなく、制度変更にも注目する必要があります。薬局は一般的な小売店舗とは異なり、薬剤師の配置、医薬品の管理、調剤業務、調剤報酬などについて法令や公的制度による規律を受けています。そのため、制度の変更によって、同じ患者数でも経営上の条件や実施できる業務が変わることがあります。
2025年に成立した医薬品医療機器等法などの改正を受け、2026年6月には調剤業務の一部外部委託に関する省令が公布され、2027年5月20日に施行される予定となっています。この制度は、一定の条件の下で薬局が調剤業務の一部を他の薬局へ委託できるようにするもので、薬剤師が患者への説明や服薬管理などの対人業務に取り組みやすくすることも目的としています。
ただし、調剤業務を無条件に外部委託できるわけではありません。当面の対象業務や委託先の範囲には制限が設けられており、患者への説明や同意、安全管理なども必要になります。制度が整備されたからといって、すべての小規模薬局が調剤設備や薬剤師の配置を大幅に削減できるわけではありません。
それでも、従来は一つの薬局で行っていた業務の一部を他の薬局と分担できるようになれば、業務の効率化や薬剤師の働き方に変化が生じる可能性があります。地域内の複数薬局が役割を分担し、調剤業務の一部を集約しながら、患者に対応する窓口を維持するような仕組みも、制度上の制約や採算性を検証したうえで検討できるでしょう。
さらに、2026年度の調剤報酬改定では、地域の医薬品供給拠点としての薬局の機能を評価する観点から、従来の地域支援体制加算が見直され、地域支援・医薬品供給対応体制加算が設けられています。薬局の収益は処方箋枚数だけでなく、こうした公的な報酬体系や施設基準によっても左右されます。
30年という長期間を考えれば、薬局の制度や調剤技術、医療提供体制が今後も変化する可能性があります。現在の制度と経営構造が2056年までそのまま続くと仮定して薬局数を予測することは、現実的ではありません。
地域連携薬局の機能と、経営上の存続可能性は同じではない
厚生労働省は、地域の医療機関や他の薬局と連携し、入退院時の情報共有や在宅医療などに対応する薬局の機能を評価するため、地域連携薬局の認定制度を設けています。この制度は、薬局を単に処方箋に基づいて薬を調剤する場所としてではなく、患者の継続的な薬物療法を支える地域医療の一部として位置付けるものです。
人口減少地域では、複数の医療機関から処方箋を受け付け、在宅医療に対応し、必要に応じて他の薬局や医療・介護職と連携できる薬局が、地域にとって重要な役割を果たす可能性があります。特に、通院先が複数ある高齢者や、継続的な服薬管理が必要な患者にとって、医薬品に関する情報を整理し、関係者と共有できる機能には意味があります。
しかし、地域医療への貢献度が高いことと、薬局の経営が安定していることは同じではありません。地域連携の機能を充実させるには、薬剤師の確保、研修、情報共有、在宅訪問、必要な医薬品の供給などに対応するための費用や人員が必要です。
したがって、地域連携薬局として認定されていることだけを理由に、将来の存続可能性が高いと断定することはできません。薬局の社会的な必要性と、民間事業としての採算性を区別して評価することが重要です。
医薬品の供給能力は、薬局の店舗数とは別に考える必要がある
薬局が存在し、薬剤師が勤務していても、処方された医薬品を必要なときに調達できなければ、患者への供給は完了しません。医薬品の安定供給は、薬局の立地や人員配置とは別の重要な条件です。
医薬品の供給に制約が生じると、薬局では在庫の確認、卸売業者への発注、代替薬の検討、医療機関への問い合わせ、患者への説明など、通常より多くの業務が発生する場合があります。特定の医薬品が入手困難になれば、近隣の複数の薬局が同じ問題に直面することも考えられます。
また、規模の小さい薬局では、あらゆる医薬品を常時在庫することは現実的ではありません。必要な薬を迅速に取り寄せられるか、他の薬局と連携できるか、卸売業者による配送網が維持されるかといった点も、地域の医薬品供給体制を左右します。
今後、人口減少によって医薬品の配送先が減少したり、配送効率が低下したりする地域が生じれば、薬局そのものの経営状況とは別に、医薬品の物流が課題になる可能性もあります。ただし、将来の物流網の変化については、卸売業者の配送体制や制度変更などを調べなければ、地域ごとの影響を判断することはできません。
このように、薬へのアクセスを考える場合には、薬局の店舗数、薬剤師の確保、医薬品の在庫・調達能力、配送網を一体として検討する必要があります。
30年後に残りやすい薬局と、経営が難しくなる薬局
以上の条件を踏まえると、30年後の薬局の存続可能性は、現在の患者数だけでは判断できません。地域の複数の医療機関から処方箋を受け付け、薬剤師を安定的に確保し、在宅医療や他の薬局との連携にも対応できる薬局は、特定の医療機関への依存度が高い薬局よりも、需要変化への対応力を持つ可能性があります。
ただし、そうした機能を備えるには相応の費用が必要であり、必ずしも経営上有利になるとは限りません。反対に、小規模な薬局であっても、建物を所有している、固定費が低い、地域住民との継続的な関係がある、近隣に代替薬局が少ない、他の薬局との業務分担ができるなどの条件によって、経営を維持できる場合があります。
今後、経営が難しくなる可能性があるのは、地域人口や処方箋需要が減少し、特定の診療所への依存度が高く、薬剤師の採用が困難で、後継者も確保できないといった複数の不利な条件が重なる薬局でしょう。しかし、どの条件がどの程度閉局リスクを高めるかについては、個別薬局の経営情報や開局・閉局の履歴などを分析しなければ判断できません。
実証的に分析するなら、地域人口の減少率、75歳以上人口の変化、処方箋枚数、薬剤師の確保状況、診療所への依存度、経営者の年齢、後継者の有無、経営形態、調剤報酬の変化などを用いて、薬局の閉局までの期間や存続状況を調べる方法が考えられます。
もっとも、店舗が閉局した場合でも、近隣への移転、別企業への事業承継、複数店舗の統合などによって供給機能が維持されることがあります。そのため、閉局件数だけを調べるのではなく、閉局後に地域住民の薬へのアクセスがどのように変化したかまで検証する必要があります。
将来の医薬品供給は、広域的な連携が重要になる可能性がある
人口が大きく減少した地域で、すべての薬局を現在と同じ店舗数、同じ営業時間で維持することは、経営面や人員確保の面から難しくなる場合があります。一方、薬局を人口の多い中心市街地へ集中させるだけでは、自動車を運転できない住民や移動に制約がある高齢者の負担が増える可能性があります。
そこで検討する価値があるのは、一定規模の調剤拠点、地域に残る薬局、診療所との連携、在宅訪問、オンライン服薬指導、配送、地域交通を組み合わせる方法です。この場合、すべての地域に同じ規模の薬局を配置するのではなく、地域ごとの人口分布や医療需要に応じて、複数の供給手段を組み合わせることになります。
ただし、広域的な連携を進めれば必ず効率化できるわけではありません。調剤業務を一部の拠点に集約すれば設備や在庫の管理を効率化できる可能性がありますが、拠点から各地域への配送距離が長くなれば、物流費や所要時間が増加する場合もあります。薬剤師が訪問する範囲を広げれば、移動時間が増えて対応できる患者数が減少する可能性もあります。
したがって、地域の薬局配置を考える場合には、医療提供者側の経営効率だけでなく、患者の移動時間、家族の送迎負担、交通費、医薬品の配送費、薬を受け取るまでの時間、安全管理に必要な費用などを総合的に評価する必要があります。
薬局を維持するために必要な費用と、薬局がなくなった場合に住民や地域社会が負担する費用は、必ずしも同じ主体が負担するものではありません。例えば、店舗を集約することで薬局側の費用が減少しても、患者の交通費や家族による送迎時間が増えれば、地域全体としての負担が十分に減少しない場合があります。
これは民間事業としての採算性と、公共的な医療アクセスの確保を分けて考える必要があることを意味します。地域の薬局をどのような形で支えるべきかは、個別企業の経営判断だけでなく、地域医療政策や交通政策とも関係する問題です。
御宿町・いすみ市・勝浦市・大多喜町では何を調べるべきか
この問題を千葉県外房地域で考える場合、御宿町、いすみ市、勝浦市、大多喜町などは、人口減少と医療アクセスの関係を検討する対象となります。ただし、現時点の人口規模や高齢化率だけで、どの市町の薬局が将来残りにくいと判断することはできません。実際の薬局配置、診療所との関係、患者の移動手段、処方箋需要などを確認する必要があります。
まず、国立社会保障・人口問題研究所の市区町村別将来推計人口を利用し、2020年から2050年までの総人口、65歳以上人口、75歳以上人口の変化を比較することが考えられます。高齢化率の上昇だけではなく、高齢者人口の絶対数がどのように変化するかを確認することで、将来の医療需要をより適切に考察できます。
次に、現在の薬局の所在地、営業時間、在宅訪問への対応状況、診療所や病院との位置関係、公共交通の運行状況などを把握する必要があります。市町村内の薬局数だけでなく、隣接自治体の薬局を利用できるかという点も重要です。行政区域の境界と住民の実際の生活圏が一致するとは限らないため、複数市町を一体の医療生活圏として分析する視点が求められます。
特に有効なのは、現在存在する薬局が1店舗閉局した場合に、住民の移動時間がどれだけ変化するかを検証する方法です。道路網や公共交通を用いて、現在の最寄り薬局までの所要時間と、その薬局が利用できなくなった場合の代替薬局までの所要時間を比較すれば、地域の医薬品供給体制がどの程度脆弱なのかを具体的に評価できます。
例えば、ある地区では最寄り薬局が閉局しても、数分程度の追加移動で別の薬局を利用できるかもしれません。一方、別の地区では、最寄り薬局が1店舗なくなるだけで、公共交通を利用した移動が大幅に難しくなる可能性があります。この違いは、単純な薬局数だけでは把握できません。
将来の人口推計と現在の薬局配置を組み合わせれば、薬局へのアクセスが悪化した場合に影響を受ける可能性のある高齢者人口を推計することも考えられます。ただし、現状の薬局配置が2050年まで変わらないと仮定する場合や、特定の薬局の閉局を想定する場合には、それが実際の将来予測ではなく、条件付きのシナリオ分析であることを明示する必要があります。
こうした分析によって、人口減少の進む地域で薬局が何店舗必要なのかという問いを、どの地区の住民が、どれだけの時間と負担で薬を受け取れるのかという、より具体的な問題へと発展させることができます。
2056年の薬局はどうなるのか~将来を三つのシナリオで考える
30年後の薬局の姿を一つの結論に決めつけることは困難です。人口減少の程度、薬剤師の地域分布、診療所の存続、調剤技術、制度改正、配送体制などについて不確実性が大きいためです。そのため、将来を考える際には、条件の異なる複数のシナリオを設定する方が合理的です。
第一は、地域の処方箋需要が比較的維持され、薬剤師も確保できる場合です。この場合、経営主体の変更や業務の効率化が進んだとしても、既存の薬局配置が比較的維持される可能性があります。全国の薬局数や薬局従事薬剤師数が近年増加している事実を踏まえると、人口減少によって必ず薬局が減少するという前提を置くべきではありません。
第二は、人口や処方箋需要が減少する一方、薬局間の連携や調剤業務の効率化、オンライン服薬指導、配送などが普及する場合です。この場合、一部の店舗で統廃合や営業時間の見直しが進んでも、住民が薬を受け取るための手段を組み合わせることで、地域の医薬品供給機能を維持できる可能性があります。ただし、地域によっては患者の移動時間や薬の受取時間が増えることも考えられます。
第三は、人口と医療需要の減少に加え、診療所の閉院、薬剤師の確保難、後継者不在などが重なる場合です。この場合、個別薬局の経営継続が難しくなり、地域の薬局数が減少する可能性があります。代替薬局までの距離が長く、公共交通や配送体制も十分でなければ、住民が必要な薬を受け取るまでの時間や負担が増えることが考えられます。
ただし、これらのシナリオがどの程度の確率で実現するかは、現在示されている統計だけでは判断できません。特に2056年という長期の将来について、薬局数や閉局確率を具体的な数値で予測するには、個別薬局の開設・閉局履歴、経営情報、薬剤師の採用状況、地域の処方箋需要などを継続的に分析する必要があります。
したがって、現時点で合理的にいえるのは、すべての地域で現在の薬局配置が維持されるとも、人口減少によって一律に薬局が減少するとも断定できないということです。将来の姿は地域ごとの条件と制度・技術の変化によって異なり、その影響を定期的に検証することが重要になります。
病院が残っていても、必要な薬を受け取れなければ医療アクセスは完結しない
地方医療を考えるとき、病院数や医師数、診療科目、救急医療体制などは重要な指標です。しかし、住民の生活という観点からは、診察を受けられることだけでなく、その後に必要な治療を継続できることまで評価する必要があります。
特に高齢者の場合、自宅から医療機関へ移動し、診察を受け、必要に応じて薬局を利用し、薬を受け取って帰宅するまでが一連の医療行動になります。その途中で薬局への移動が難しくなったり、必要な薬が当日中に受け取れなくなったりすれば、医療機関そのものが残っていても、患者の負担は増加する可能性があります。
医療機関の集約が進む地域では、診療を受ける場所だけでなく、処方箋が発行される場所や薬局の立地にも変化が生じることがあります。医療提供者側の効率だけでなく、患者本人の移動時間、家族による送迎、交通費、待ち時間、配送による受取時間などまで含めて考えることが重要です。
また、薬局の問題は高齢者だけに限りません。自動車を利用できない人、障害のある人、育児や介護のため長時間の外出が難しい人、公共交通が少ない地区に住む人などにとっても、薬局へのアクセスは生活に直結する問題です。
地域医療の持続可能性を評価するなら、医療機関の存在と医薬品の供給体制を切り離さず、一連の医療サービスとして検討する必要があります。
地方の薬局で守るべきなのは、店舗数よりも薬へのアクセスである
2056年の地方で、現在と同じ数の薬局が同じ場所で営業を続けているとは限りません。人口減少、処方箋需要の変化、薬剤師の地域偏在、後継者問題などによって、一部の地域では店舗の統廃合や営業時間の短縮が進む可能性があります。しかし、全国の薬局数や薬局従事薬剤師数は近年増加しており、人口減少だけを理由に、地方の薬局が一律に減少すると予測することも適切ではありません。
さらに、調剤業務の一部外部委託、オンライン服薬指導、電子処方箋、在宅訪問、配送などの制度や技術が進展すれば、従来とは異なる方法で地域の医薬品供給機能を維持できる可能性もあります。一方で、薬剤師の確保、医薬品の安全管理、配送時間、通信機器の利用、運営費用などの制約があるため、こうした仕組みを導入すればすべての問題が解決するわけではありません。
今後の地方では、薬局という店舗を維持するための条件と、住民が薬を受け取れる機能を維持するための条件を分けて考えることが重要になります。現在の店舗配置を維持することが合理的な地域もあれば、複数の薬局や医療機関が連携し、配送や在宅訪問などを組み合わせた方が、住民の負担を抑えられる地域もあるでしょう。
その判断には、薬局数や人口の増減だけでなく、年齢別の医薬品需要、薬剤師の確保状況、薬局の経営条件、医薬品の調達能力、患者の移動時間などを総合的に分析する必要があります。特に人口減少地域では、行政区域内に薬局が何店舗あるかという評価から、必要な薬を安全に受け取るために住民がどれだけの時間と負担を要するかという評価へ、視点を広げることが求められます。
30年後も現在と同じ薬局の店舗数や立地を維持できるかどうかは、現時点では分かりません。しかし、どのような条件が薬局の存続を難しくし、どのような仕組みが住民の負担を軽減できるのかについては、現在の統計や制度をもとに検証を進めることができます。
人口減少社会で本当に守るべきなのは、現在と同じ店舗配置そのものではありません。住民が必要なときに、必要な医薬品を、安全に、適切な時間と無理のない負担で受け取れる地域の医薬品供給体制を維持することです。
地方の薬局の将来は、単に店舗が増えるか減るかという問題ではなく、人口減少が進む社会で、必要な医療機能をどのような形で残していくのかという、地域全体の持続可能性に関わる問題なのです。

