地域分析記事

地域の暮らしと地域課題を数学とデータで考える

地方の薬局は30年後も近くに残るのか~人口減少と薬剤師偏在から薬へのアクセスを考える

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病院や診療所で診察を受ければ、それで医療が完結するわけではありません。

薬を処方された場合、患者はその後に薬局へ行き、薬を受け取る必要があります。高齢者にとっては、病院まで行くことだけでなく、診察後に別の場所へ移動して薬を受け取ることまで含めて「通院」です。

人口減少が進む地方では、病院や診療所の将来が問題になる一方、薬局についてはあまり注目されません。しかし、医療機関が残っていても、近くに薬局がなくなれば、地域住民にとって医療へのアクセスは確実に変化します。

では、地方の薬局は30年後も現在と同じように近くに残っているのでしょうか。

最初に結論を述べると、地方から薬局そのものが一斉になくなる可能性は低いものの、「自宅や診療所の近くに薬局があり、営業時間中に薬剤師がいて、必要な薬をその場で受け取れる」という現在の形がすべての地域で維持されるとは考えにくいでしょう。

むしろ将来は、店舗の集約、営業時間の短縮、在宅訪問、オンライン服薬指導、薬の配送、広域的な薬局間連携などを組み合わせ、「薬局という店舗を残す」ことから「処方薬を受け取れる機能を残す」ことへ重点が移っていく可能性があります。

全国には6万を超える薬局があるが、地域差は大きい

厚生労働省の資料では、日本全国の薬局数は6万店を超えています。一見すると、薬局不足はそれほど深刻ではないようにも見えます。

しかし、全国の総数だけでは地方の実態は分かりません。

厚生労働省の統計では、薬局が一つもない町村も存在しています。また、薬剤師についても全国に均等に配置されているわけではなく、都市部へ集中する傾向があります。厚生労働省は薬剤師についても「偏在」という問題を政策課題として扱っています。

つまり、

全国に薬局が多い ≠ どの地域にも十分な薬局がある

ということです。

さらに、厚生労働省が2025年の中央社会保険医療協議会で示した資料では、薬局1店舗当たりの勤務薬剤師数は平均2.7人、処方箋枚数は1か月当たり約1,100枚とされています。比較的小規模な薬局が多いことが分かります。

地方の小規模薬局を考える場合、この「店舗数」だけでなく「何人の薬剤師で運営しているか」が重要になります。

30年後を考えるとき、人口だけを見てはいけない

国立社会保障・人口問題研究所の「日本の地域別将来推計人口(令和5年推計)」では、2020年の国勢調査を基準として、市区町村別人口を2050年まで推計しています。

2026年から30年後は2056年です。そのため、市区町村単位で「2056年に薬局が何店残るか」を現在の公的資料から正確に推計することはできません。

しかし、2050年までの人口推計を見るだけでも、多くの地方では人口減少が長期間続くことを前提に考える必要があります。

ここで注意しなければならないのは、

人口が30%減る = 薬の需要も30%減る

とは限らないことです。

医薬品を多く利用するのは高齢者層です。人口全体が減少しても、一定期間は高齢者の割合が高い状態が続く地域があります。

したがって、地域人口が減ったからといって、処方箋需要が同じ割合で減少するとは限りません。

問題になるのは、むしろ需要よりも供給側です。

薬局経営には、患者数が減っても残る費用がある

薬局にも固定的な費用があります。

店舗を営業するには、薬剤師や事務職員の人件費、建物の賃料や維持費、調剤設備、レセプトコンピューター、通信設備、医薬品在庫、電気料金などが必要です。

患者が1割減ったからといって、これらの費用をすべて1割減らせるわけではありません。

極端に考えれば、1日に100人の患者が来る薬局でも30人しか来ない薬局でも、営業する以上は一定時間、薬剤師を配置しなければなりません。

そのため、

患者数の減少率 ≠ 薬局運営費の減少率

となります。

これは人口減少地域のスーパー、病院、公共交通などにも共通する構造です。

患者数が一定水準を下回ると、地域には薬を必要とする住民がいても、店舗として採算を維持することが難しくなる可能性があります。

つまり、

需要がある ≠ 現在と同じ店舗形態で事業が成立する

という問題です。

薬剤師が確保できなければ店舗だけあっても機能しない

さらに重要なのが薬剤師です。

薬局は建物だけでは営業できません。

厚生労働省は薬剤師の地域偏在を把握するため、薬剤師偏在指標を整備しています。地域によって薬剤師の確保状況が異なること自体が、すでに政策上の課題になっています。

人口減少地域では、薬局経営の採算だけでなく、そこで働く薬剤師を継続的に確保できるかという問題が加わります。

例えば、経営者が高齢になって後継者がいない場合、患者が一定数残っていたとしても閉局する可能性があります。

チェーン薬局であっても、薬剤師を確保できなければ営業時間の短縮や店舗統合という判断が必要になるでしょう。

したがって将来の薬局を考える場合には、

薬局数 +薬剤師数 +営業時間 +必要な医薬品を供給できる能力

を一体として見る必要があります。

「近くに薬局がある」だけでは十分ではない

生活者にとって重要なのは、行政区域内に薬局が何店舗あるかではありません。

例えば、自宅から10km離れた場所に薬局が1軒残っていたとしても、自動車を運転できない高齢者にとって利用できるとは限りません。

診察を受けた病院から薬局まで移動しなければならない場合もあります。

また、営業時間が短くなれば、診療時間との組み合わせによっては当日に薬を受け取れないことも考えられます。

そこで、地域住民にとっての「薬へのアクセス」を、分析のために次のように整理できます。

薬へのアクセス =薬局・調剤拠点の存在 +薬剤師の確保 +必要な薬の在庫・調達能力 +営業時間 +患者の移動手段 +在宅訪問 +配送 +オンライン利用能力

これは公的な指標ではなく、問題構造を理解するための概念的整理です。

この式から分かるのは、薬局が1店舗減ったから直ちに地域医療が維持できなくなるわけでもなければ、1店舗残ったから安心ともいえないということです。

オンライン服薬指導があれば解決するのか

将来の有力な選択肢の一つがオンライン服薬指導です。

薬剤師と情報通信機器を使って服薬指導を行うことで、患者が毎回薬局まで移動しなくてもよい場面を増やせます。

厚生労働省も、オンライン服薬指導や電子処方箋などを含む薬局業務のデジタル化を進めています。

地方では非常に重要な仕組みになる可能性があります。

ただし、

オンライン服薬指導ができる = 薬局へのアクセス問題がすべて解決する

わけではありません。

薬そのものは患者の手元へ届ける必要があります。

スマートフォンや通信環境を利用できることも前提になります。

高齢者が自分で電子処方箋、オンライン予約、ビデオ通話、決済などを操作できるかという問題もあります。

さらに、薬剤師そのものが不足していれば、オンラインに切り替えただけでは人的資源は増えません。

デジタル化は「患者の移動」を減らすことはできますが、「薬剤師が必要」という構造までなくすものではありません。

在宅訪問も万能ではない

在宅療養者に対して薬剤師が訪問する仕組みも重要になります。

特に自動車を運転できない高齢者、寝たきりの人、複数の薬を使用している人にとって、薬剤師が自宅を訪問して薬の管理まで確認することには大きな意味があります。

一方で、訪問サービスには地方特有の問題があります。

利用者の家が離れていれば、薬剤師は移動しなければなりません。

訪問薬剤師の勤務時間を単純化すると、

勤務時間 =服薬管理・指導時間 +移動時間 +調剤時間 +記録・連絡・調整時間

となります。

これも公式指標ではなく、構造を理解するための整理です。

人口密度が低い地域では、患者が減っても一人当たりの移動距離は短くなりません。

これは訪問看護や訪問介護と同じ問題です。

患者が薬局へ行かなくてよくなる代わりに、薬剤師が患者のところへ移動することになります。

したがって、在宅訪問を増やせばすべて解決するわけではありません。

30年後に残りやすい薬局と残りにくい薬局

以上を考えると、将来も残りやすいのは、単に現在患者数が多い薬局だけではないでしょう。

地域の複数医療機関から処方箋を受け付けられ、在宅医療にも対応し、必要に応じてオンライン服薬指導や配送を利用できる薬局ほど、地域医療の拠点として残る可能性があります。

厚生労働省も、外来時だけでなく在宅医療や入退院時の情報連携などに対応する「地域連携薬局」の制度を設けています。

反対に、特定の一つの診療所からの処方箋への依存度が高く、地域人口が減り、後継者がおらず、薬剤師の採用も難しい小規模薬局は、今後厳しい条件になる可能性があります。

ただし、個別薬局の将来の閉店・存続可能性は経営情報が公開されていないため、外部から正確に判断することはできません。

将来は「各地区に1店舗」より広域ネットワークになる可能性がある

人口が大幅に減少した地域で、すべての薬局を現在と同じ店舗数、同じ営業時間で維持することは現実的でない場合があります。

一方で、薬局を大きな都市へ集中させるだけでは、自動車を運転できない高齢者の負担が増えます。

そこで現実的なのは、

一定規模の調剤拠点 +診療所との連携 +在宅訪問 +オンライン服薬指導 +配送 +地域交通

を組み合わせる方法でしょう。

これは、現在の薬局をすべてそのまま残す考え方とは異なります。

守る対象を、

「薬局という店舗」から「住民が必要な薬を安全に受け取れる機能」へ変える

ということです。

病院が残っていても、薬を受け取れなければ医療アクセスは完成しない

地方医療を考えるとき、病院数や医師数が注目されやすいのですが、住民の生活から考えると、その後の処方薬まで含める必要があります。

特に高齢者の場合、

自宅から病院へ行き、診察を受け、薬局へ移動し、薬を受け取り、自宅へ戻るところまでが一連の医療行動です。

したがって、

病院で診察を受けられる ≠ 必要な薬まで受け取れる

と考える必要があります。

今後、地方の医療機関が集約されれば、病院と薬局の立地も変わっていく可能性があります。そのとき、医療提供者側の効率だけでなく、患者本人の移動時間、家族による送迎、交通費、待ち時間まで含めて評価する必要があります。

地方の薬局はなくなるのではなく、「形」が変わる可能性が高い

30年後の地方で、現在と同じ数の薬局が、現在と同じ場所で、現在と同じ営業時間を維持している可能性は高いとはいえません。

人口減少、患者数の変化、薬剤師の地域偏在、後継者問題、店舗経営の固定費などを考えれば、一定の集約は避けにくいでしょう。

しかし、それは直ちに「地方では薬を受け取れなくなる」という意味でもありません。

調剤拠点を集約しながら、電子処方箋、オンライン服薬指導、在宅訪問、配送、地域交通などを組み合わせれば、薬局店舗が減っても薬へのアクセスを維持できる地域はあります。

重要なのは、薬局数を守ることそのものではありません。

30年後も、住民が必要なときに、必要な薬を、安全に、無理のない移動と負担で受け取れるか。

地方の薬局問題は、この視点から考える必要があります。

人口減少社会で守るべきなのは「現在と同じ店舗配置」ではなく、地域住民が処方薬へ到達できる仕組みそのものではないでしょうか。

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