海に沈む夕日、雨上がりの石畳、朝霧の向こうに浮かぶ山、港で網をほどく漁師の背中。自治体の公式SNS(Social Networking Service・ソーシャル・ネットワーキング・サービス)を眺めていると、日本の小さな町が、こちらの想像以上に美しく見えることがある。以前なら観光パンフレットの一ページに収まっていた風景が、いまでは十数秒の動画になって全国へ流れ、町の名前さえ知らなかった人が指先一つで「いいね」を押す。
ところが、その町を実際に訪れてみると、画面の中とは少し違う風景に出会うことがある。あれほど多くの人に見られていた町なのに、駅を降りれば人影は少なく、商店街にはシャッターが並び、夕方になると町全体が静かになる。その反対に、自治体の公式アカウントが派手に話題になるわけでもないのに、休日になれば道路が渋滞し、駅から多くの人が歩き出し、飲食店には行列ができる町もある。
もちろん、駅前が静かだからといって、その町に観光客が来ていないとは限らない。観光客が駅を利用せず自家用車で訪れている場合もあれば、中心市街地ではなく海岸や山間部の観光施設に集まっている場合もある。また、地域の静けさ自体が旅行者にとっての魅力になっていることもある。それでも、画面の中でよく見かける町と、現実に人が集まる町を、私たちはいつの間にか同じものとして考えるようになっていないだろうか。
「見られる」ということと「訪れられる」ということの間には、思っている以上に長い距離がある。そして、その距離を考えるには、フォロワー数、観光客数、宿泊客数、観光消費額といった、一見分かりやすい数字を慎重に読み直す必要がある。
人口より多くのフォロワーを持つ町
三重県南伊勢町は、その距離を考える上で興味深い町である。町が運営する公式Instagramでは、海や漁業、食、季節の景色だけではなく、そこで暮らす人々の日常そのものが発信されている。観光名所や特産品を紹介するだけでなく、地域の人々の暮らしや仕事の様子を伝えることによって、町の外側にいる人々が地域を身近に感じられるような情報発信が行われている。
町の公表資料によれば、2025年12月には公式Instagramのフォロワー数が1万284となり、比較対象となった同年11月末の町人口1万166人を上回った。さらに2026年8月にはフォロワー数が1万3840となり、同月末の人口9858人に対して約1.40倍に達している。人口1万人に満たない町が、自らの人口規模を大きく超えるフォロワー数を持つようになったのである。
この数字は、自治体広報のあり方が以前とはかなり変わったことを象徴している。かつて自治体広報の中心は、役場から住民へ制度や行事を知らせることだった。しかしSNSでは、住民票を持たない人も町の情報を受け取ることができる。町を離れた出身者も、一度旅行した人も、まだ訪れたことのない人も、同じ画面を通して一つの町と接点を持てるのである。
ただし、人口を超えるフォロワー数があるからといって、人口を超える人数が町外から実際に投稿を見ていると判断することはできない。フォロワーには町民も含まれるだろうし、一人が複数のアカウントを持つ場合や、企業・団体のアカウントもある。また、フォローしている人がすべての投稿を見ているわけでもない。フォロワー数は町の情報発信が持つ潜在的な広がりを考える材料にはなるが、実際の閲覧人数や町外の関心人口を直接数えたものではないのである。
それでも、人口1万人に満たない町が1万を超えるフォロワーを獲得したことは、地域の情報発信という観点から注目に値する。小さな自治体であっても、発信する内容や運営方法によって、行政区域の内側にとどまらない接点を形成できる可能性を示しているからだ。
ここだけを見れば、SNS上の成功がそのまま町への人の流れを生み出しているようにも思える。しかし、観光統計を詳しく調べてみると、話はもう少し複雑になる。
観光客は減ったのに、宿泊客は増えていた
南伊勢町の観光入込客数は、2021年の19万630人から、2022年には19万4327人、2023年には25万6252人へ増加したものの、2024年には24万7073人となった。2023年から2024年にかけての減少率は約3.6%であり、観光客総数だけを見れば、2024年は前年を下回ったことになる。
しかし、この数字を日帰り客と宿泊客に分けてみると、異なる変化が起きている。日帰り客は2023年の24万654人から2024年には22万9847人へ減少し、減少率は約4.5%だった。一方、宿泊客は1万5598人から1万7226人へ増加し、増加率は約10.4%に達している。つまり、観光客の総数が減少した年に、地域へ泊まる人は増えていたのである。
さらに、観光客総数に占める宿泊客の割合を計算すると、2023年の約6.09%から2024年には約6.97%へ上昇している。この割合は依然として1割に満たないものの、観光客の構成に変化が生じていることは確認できる。単純に観光客が減ったと表現するだけでは、こうした内訳の変化を見落としてしまう。
この違いは、観光政策の成果を考える上で重要である。一般に、宿泊を伴う旅行では、宿泊料金に加えて夕食や朝食、買い物、観光施設の利用などの支出が発生する可能性がある。そのため、日帰り客が減少しても宿泊客が増加すれば、地域の観光消費額が増える場合も考えられる。
ただし、宿泊客が増えたからといって、観光消費額が必ず増えたと結論づけることはできない。実際に判断するには、日帰り客と宿泊客それぞれの平均消費額を把握し、人数と組み合わせて計算する必要がある。また、旅行者が支払った金額のすべてが地域の所得として残るわけでもない。宿泊施設や飲食店が地域外から仕入れを行っていたり、利益の一部が地域外へ移転したりすれば、その分だけ地域内への経済的な波及は小さくなる。
観光客数が増えること、観光消費額が増えること、地域住民の所得が増えることは、それぞれ異なる現象である。これらが同じ方向に動く場合もあるが、必ずしも一致するわけではない。南伊勢町の数字は、観光客の総数という一つの指標だけでは、地域に起きている変化を十分に説明できないことを示している。
さらに注意したいのは、ここで比較している観光統計は2024年までのものであり、人口を超えたフォロワー数は2025年12月、その後の1万3840という数字は2026年8月のものだという点である。異なる期間の数字を並べただけでは、フォロワーが増えた時期に観光客数がどう変化したのかを直接判断することはできない。
したがって、この事例から「SNSの人気が高まっても観光客は増えなかった」と結論づけるのは適切ではない。むしろ重要なのは、SNS上の反応と観光需要を比較するには同じ期間のデータが必要であり、さらに観光客の内訳や消費まで確認しなければ、地域への影響を評価できないということである。
町公式Instagramがなくても、軽井沢には人が来る
そこで、まったく違うタイプの町を見てみたい。
長野県軽井沢町が町役場の公式SNSとして案内しているのは、X(旧Twitterとして知られる投稿サービス)、Facebook、LINE(メッセージングサービス)、YouTubeなどであり、少なくとも町役場が公開している公式SNS一覧にはInstagramは掲げられていない。それでも軽井沢町の2024年の観光客利用者延数は約800万5000人に達している。
神奈川県箱根町ではさらに規模が大きく、2024年の入込観光客数は約2031万人となり、そのうち宿泊客は約398万人、日帰り客は約1633万人だった。さらに2025年には観光客総数が約2112万人へ増加し、宿泊客は約415万人、日帰り客は約1697万人となっている。いずれも町の人口規模をはるかに超える観光需要が形成されていることが分かる。
もっとも、ここで注意しなければならないことがある。軽井沢の約800万人は「利用者延数」であり、異なる800万人の個人が一度ずつ訪れたことを意味する数字ではない。箱根町の入込観光客数についても、宿泊施設や交通機関、観光施設などの資料を基に推計されており、町の入口で一人一人の顔を確認して数えた数字ではない。
南伊勢町を含め、自治体によって観光地点の設定や集計方法が異なる場合もある。来訪した実人数を数えているのか、施設などの利用者延数を数えているのかによって、数字の意味は変わる。したがって、軽井沢と箱根と南伊勢を単純に一列に並べて、観光客数の大小だけで地域の魅力を順位付けすることはできない。
それでも、軽井沢や箱根が大きな観光需要を持つ地域であること自体は疑いない。そこには鉄道や道路があり、宿泊施設があり、飲食店があり、長い年月をかけて形成された地域ブランドがある。温泉、自然、別荘文化、歴史、観光施設といったものが重なり、町の名前そのものが旅行の目的になっている。
また、軽井沢町役場の公式SNS一覧にInstagramがないことは、軽井沢に関する情報がInstagram上で発信されていないことを意味しない。観光協会、宿泊施設、飲食店、旅行者、地域の事業者などが、それぞれ情報を発信している可能性がある。町役場の公式アカウントだけで地域全体の情報発信力を測ることも、やはり適切ではないのである。
軽井沢や箱根の事例から言えるのは、少なくとも町役場が特定のSNSを運営することは、大規模な観光需要が成立するための必須条件ではないということだ。こうした町が持っているのは、単なる情報発信力ではない。人が実際に身体を運ぶ理由と、運ぶ手段と、到着した後に時間を過ごす場所が、一つの地域システムとしてすでに出来上がっているのである。
「いいね」は身体を運んでくれない
SNSには、現実の旅行にはない決定的な特徴がある。身体を動かさなくても成立することだ。
北海道の雪景色を千葉県の自宅から眺めることができ、紀伊半島の入り江を東京の通勤電車の中で見ることもできる。気に入れば数秒で「いいね」を押し、あとで見たいと思えば保存できる。しかし、その場所へ本当に行こうとすれば事情は変わる。休みを確保し、交通手段を調べ、費用を払い、場合によっては宿を予約し、家族や同行者の日程まで合わせなければならない。
画面の中では指一本で越えられた距離が、現実世界では時間と費用と手間という摩擦に変わる。町に興味を持つことと、その町を旅行先として選ぶことは、似ているようで異なる行動なのである。
ある町をSNSで知った人が全員そこを訪れるわけではない。町を知り、その中の一部が興味を持ち、さらにその一部が交通や予算を調べ、条件が合った人だけが実際に訪れる。そして来訪した人の中から食事をする人、宿泊する人、地域の商品を買う人が現れ、その一部が再び訪れることになる。
マーケティングでは、このような認知から関心、検討、行動へと進む過程を段階的に捉えることがある。ただし、実際の旅行者が必ず同じ順序で行動するわけではない。偶然訪れた町に魅力を感じて後から公式アカウントをフォローする人もいれば、何度も訪れた地域の情報をSNSで見始める人もいる。SNSが旅行のきっかけになることもあれば、旅行した経験によってSNSへの関心が生まれることもあるのである。
自治体にとって本当に知りたいのは、フォロワー数だけではなく、情報を受け取った人のうち、どれほどの人が地域への関心を深め、実際の行動につなげたのかということではないだろうか。
フォロワーが10万人いても、その大部分が画面の中から町を眺めるだけなら、直接的な観光消費への寄与は限られるかもしれない。反対にフォロワー数がそれほど多くなくても、実際に訪れた人が数泊して地元の店で食事をし、再び戻ってくるのであれば、地域との関係はずっと深くなる。
「見た」という数字と「興味を持った」という数字と「来た」という数字と「泊まった」という数字と「また来た」という数字は、似ているようでまったく違う。これらを一つの「人気」という言葉にまとめてしまうと、地域で何が起きているのかが見えにくくなるのである。
フォロワー数は、町だけを測っているのではない
さらに厄介なのは、SNSのフォロワー数が町そのものの魅力だけで決まるわけではないことである。
2023年に発表された地方自治体の観光情報発信に関する研究では、Xを対象に自治体アカウントを比較し、フォローや投稿の共有を応募条件とするキャンペーンによってフォロワーを獲得している例が確認されている。つまり、フォロワー数には地域への自発的な関心だけではなく、アカウントの運営方法や利用者に与えられる誘因も影響している可能性がある。
もちろん、この研究はXを対象としたものであり、その結果をInstagramにそのまま当てはめることはできない。しかし、投稿内容や発信頻度、写真や動画の見せ方、担当者の工夫、人気キャラクターの活用、キャンペーンの有無などが、SNS上の反応に影響することは十分に考えられる。
同じ町であっても、写真の撮り方、動画編集、投稿する時間、更新頻度、担当職員の経験によって数字は変わる。極端に言えば、町の魅力を測っているつもりが、実際には広報担当者の技術や運営体制を大きく反映している場合もあり得る。反対に、地域そのものに観光価値があっても、公式アカウントの更新頻度が低ければ、フォロワー数は伸びにくいかもしれない。
また、フォロワー数が多いことと、投稿が実際によく閲覧されていることも同じではない。長年にわたって集まったフォロワーの中には、現在は利用していないアカウントも含まれる可能性がある。情報発信の実態を評価するには、投稿が表示された回数、到達したアカウント数、保存や共有、外部サイトへの移動など、目的に応じた数字も必要になる。
だからといって、自治体SNSのフォロワー数に意味がないわけではない。情報を必要とする人へ届ける能力もまた、現在の自治体には必要な力だからである。ただし、「発信のうまい自治体」と「人を呼べる地域」と「住みたいと思われる町」は、それぞれ別の能力である。
優れた映画の予告編を作る能力と、優れた映画そのものを作る能力が同じではないように、町を美しく見せる能力と、そこへ行った人を満足させる能力も同じではない。情報発信の成果を考えるには、その違いを理解しておく必要がある。
人口で割れば「人気指数」になるのか
南伊勢町のようにフォロワー数が人口を上回ると、単純なフォロワー数よりも、人口に対する比率を見たくなる。2026年8月の数字なら、1万3840のフォロワーを人口9858人で割ると約1.40になる。
小さな町が、自らの人口の1.4倍に相当するフォロワー数を持っているという事実は、確かに興味深い。しかし、この1.40をそのまま「地域人気指数」のように扱うことはできない。
なぜなら、分子にあるのはInstagram上のアカウント数であり、分母にあるのは住民基本台帳上の住民数だからである。フォロワーの中には町民もいるだろうし、町外の出身者も、観光経験者も、まだ訪れたことのない人もいる。一人が複数のアカウントを持つこともあり、企業や団体のアカウントが含まれることもある。
さらに、全国の自治体をこの比率で比較する場合には、人口構成や情報発信の目的の違いも考えなければならない。住民向けの防災情報や行政手続きの案内を中心に発信している自治体と、観光や地域文化の紹介を中心に発信している自治体では、想定している受け手が異なる。人口に対するフォロワー比率が低いからといって、行政広報として劣っているとは限らないのである。
人口100万人の都市が5万人のフォロワーを持つ場合と、人口1万人の町が1万人を超えるフォロワーを持つ場合とでは、その数字が持つ意味も異なる。小さな町では、比較的少数のフォロワー増加でも人口比率が大きく変化するし、もともと町外への発信を重視している自治体ほど高い数字になりやすい可能性もある。
したがって、「フォロワー数÷人口」が示しているのは、町の人気そのものというより、人口規模に対して公式アカウントがどれほどの規模に達しているかという補助的な指標だと考える方がよい。
それでも、この指標には意味がある。大切なのは、数値をランキングに変えて勝ち負けを決めることではなく、「なぜ人口の小さな町に、これほど多くのフォロワーが集まったのか」と問い直すことである。その理由を知るには、フォロワーの居住地、年齢構成、関心の内容、来訪経験などを調べる必要があるだろう。
SNSで人気なのに人が来ないとすれば、どこで止まっているのか
ここまで考えると、「SNSで人気なのに人が来ない町には共通点がある」と決めつけることはできない。全国の多くの自治体について、フォロワー数、閲覧状況、観光客数、宿泊施設、交通利便性、大都市圏からの距離などを統計的に比較しなければ、そのような一般化はできないからである。
しかし、一つの仮説を立てることはできる。
SNSで「行ってみたい」と思わせるところまでは成功しているのに、その先にある「どうやって行くのか」「到着したら何をするのか」「どこで食べるのか」「どこに泊まるのか」という段階で、旅行の検討が止まってしまう町があるのではないか。
例えば、夕日の美しい海岸を動画で見て心を動かされたとしても、最寄り駅からの交通手段が分かりにくく、食事のできる場所や宿泊施設の情報も見つけにくければ、「いつか行きたい」という気持ちは、そのままスマートフォンの保存一覧の中で眠り続けるかもしれない。
特に地方の小規模自治体では、公共交通の本数、駅から観光地点までの移動手段、休日の飲食店の営業状況、宿泊施設の予約方法などが、旅行先を選ぶ際の制約になる可能性がある。一方で、自家用車で訪れる人が中心の地域では、公共交通の利便性よりも駐車場や道路、観光地点間の移動のしやすさが重要になる場合もある。どこに問題があるかは、地域の条件と旅行者の属性によって異なるのである。
もし旅行を検討した人が交通や予約の段階で諦めているのであれば、自治体が次に考えるべき課題は、フォロワーをさらに増やすこととは限らない。情報発信という入口が十分に機能しているなら、その先にある二次交通、宿泊、飲食、予約のしやすさ、周遊の仕組みを改善した方が、実際の来訪につながる可能性がある。
もっとも、交通や宿泊施設を整備すれば必ず観光客が増えるというわけでもない。利用者が少ない地域で過大な施設整備を行えば、維持管理費が自治体や地域事業者の負担になるおそれもある。まず必要なのは、旅行を検討した人がどの段階で断念したのか、どのような障害を感じたのかを調べ、その結果に応じて費用対効果の高い対策を選ぶことである。
長い間、「地方には魅力があるのに発信できていない」と言われてきた。しかしSNS時代には、魅力を伝えることには成功しているのに、現実の地域側がその関心を十分に受け止められないという、逆方向の問題も考えなければならない。
本当に人が集まっているかは、別の数字が教えてくれる
では、町に本当に人が集まっているかを知りたければ、何を見ればよいのだろう。
残念ながら、答えはSNSの画面ほど華やかではない。観光入込客数だけでなく、宿泊客数、交通機関の利用状況、滞在時間、地域内の消費額、再訪率など、異なる数字を重ね合わせる必要がある。
年間100万人が訪れても、短時間で通過し、地域ではほとんど消費しない町があるかもしれない。その一方で来訪者が20万人でも、数泊して地元の宿や飲食店を利用する人が多ければ、地域経済への影響は大きくなる可能性がある。
ただし、ここでも単純な人数や消費額だけでは判断できない。観光客が地域の宿泊施設に支払った料金のうち、地元の雇用、地元産品の仕入れ、地域事業者の利益などとして残る金額がどれほどあるかによって、地域経済への実質的な貢献は変わるからである。
さらに、観光客の増加によって道路の混雑、公共施設の維持管理費、自然環境への負荷、住民生活への負担などが大きくなる場合もある。地域にとって望ましい観光の姿は、単に最大限の人数を呼び込むことではない。地域の所得や雇用を改善しながら、住民の暮らしと観光を両立できるかどうかも重要になる。
近年では、携帯電話の基地局情報やGPS(Global Positioning System・全地球測位システム)などの位置情報を利用し、人がどこから来て、どこに滞在し、どのように移動したのかを分析する方法も広がっている。従来の「何人来たか」という数字に加えて、「どんな動きをしたか」を見る方向へ、地域分析の手法は変わりつつある。
もっとも、人流データも万能ではない。携帯電話の保有状況、利用サービス、位置推定の精度、滞在の判定方法などによって結果が左右されることがあり、得られた数字をそのまま実際の人数とみなせるとは限らない。個人情報の保護にも配慮し、統計的な偏りを理解した上で利用する必要がある。
こうなると、観光政策で本当に知りたい数字も変わってくる。町を知った人が何人いるのかだけではなく、そこから何人が興味を持ち、実際に訪れ、何時間滞在し、どの地域を歩き、いくら使い、何年後に戻ってきたのか。その連続した流れを可能な範囲で捉えなければ、情報発信の成果が地域の成果に結び付いたのかどうかは分からない。
SNSの誘客効果は、どうすれば確かめられるのか
ここで、もう少し踏み込んで考えてみたい。ある自治体のフォロワー数が増え、同じ時期に観光客も増えたとすれば、それはSNSの成功によるものなのだろうか。
答えは、必ずしもそうではない。
もともと観光資源が豊富で知名度の高い町は、観光客数もフォロワー数も多くなる可能性がある。また、大型イベントやテレビ番組で地域が紹介されれば、観光客とフォロワーが同時に増えることも考えられる。この場合、二つの数字が同じ方向に動いたとしても、SNSが観光客を増やしたとは証明できない。
反対に、訪れた人が旅行の思い出として公式アカウントをフォローすることもある。観光客が増えたからフォロワーも増えるという、逆方向の関係が成立する場合もあるのである。
統計学では、二つの変数が一緒に変化することを相関と呼ぶが、それだけで一方が他方の原因だと判断することはできない。SNSの発信が観光客を増やしたのか、それとも観光客が多いからSNSのフォロワーが増えたのかを区別するには、より慎重な分析が必要になる。
例えば、全国の複数の自治体について、数年分のフォロワー数、閲覧状況、観光客数、宿泊客数、人口、交通利便性、宿泊施設の規模、観光資源、イベント、天候などのデータを収集する方法が考えられる。その上で、自治体ごとの変わりにくい特徴や全国共通の年次変動を統計的に調整し、SNSの変化と観光需要の関係を調べるのである。
さらに、ある広報施策を始めた自治体と、条件の近い自治体を比較すれば、施策導入前後にどのような違いが生じたのかを検討できる。ただし、こうした分析でも観測できない要因の影響が残るため、観察データだけで完全な因果関係を証明できるとは限らない。
実務的には、公式SNSから観光案内ページへのアクセス数、交通案内の閲覧数、予約ページへの移動数、実際の予約件数などを測る方法もある。しかし、それらの数字だけでは、SNSを見なかった場合にも予約した人が何人いたのかは分からない。情報発信の効果を正確に評価するには、施策がなかった場合との比較を意識する必要がある。
少なくとも、南伊勢町、軽井沢町、箱根町という性格の異なる三つの町を並べただけで、全国の自治体公式SNSと観光客数の間に相関がある、あるいは相関がないと結論づけることはできない。この三つの事例が教えてくれるのは、異なる指標を安易に同一視してはならないということであって、全国的な因果関係についての答えそのものではないのである。
それでもSNSには、従来の統計にはないものが映っている
ここまで数字の限界を書いてくると、自治体SNSのフォロワー数など見ても仕方がないように感じられるかもしれない。しかし、そうではない。SNSには、従来の観光統計では捉えにくかった人々との接点が映っている。
観光入込客数が数えるのは基本的に、すでに地域へ来た人である。しかしSNSには、町を知ったばかりの人、まだ訪れたことはないが興味を持っている人、以前訪れて好感を持った人、故郷を離れて暮らしている人、遠くから町を応援している人も含まれる可能性がある。
もちろん、フォロワー数だけでは、それぞれが何人いるのかは分からない。未訪問者、観光経験者、出身者、町民などの構成を把握するには、フォロワーへの調査や適切な分析が必要になる。それでも、住民と観光客という二つの区分だけでは収まらない人々との接点を持てることは、SNSの重要な特徴である。
近年の地域政策では、移住して定住する人でもなく、一度だけ訪れる観光客でもない、地域と継続的に多様な形で関わる人々を「関係人口」として捉える考え方がある。住んではいないが毎年訪れる人、地元の商品を継続して購入する人、地域活動に参加する人、ふるさと納税を通じて地域を応援する人などは、その関わり方によって地域の重要な支え手になり得る。
ただし、SNSのフォロワーをそのまま関係人口として数えることは適切ではない。一度フォローしただけで、その後に投稿を見ていないアカウントもあるだろうし、地域との継続的な関わりが存在しない場合もある。フォロワー数は、関係人口の実人数というより、将来的な関係が生まれる可能性を持った接点の規模と捉える方が正確である。
この点で、南伊勢町の情報発信は興味深い。町の景観や特産品だけでなく、日々の暮らしや地域の人々を継続して紹介することは、単なる観光宣伝とは異なる関わりを生み出す可能性がある。たとえすぐには観光客数へ反映されなくても、地域への理解や親しみ、継続的な関心を育てているのであれば、それ自体が広報活動の一つの成果となり得る。
ただし、そうした効果が実際にどれほど生まれているのかは、フォロワー数だけからは判断できない。投稿に接した人の意識がどう変化したのか、地域との関わりが継続したのかを確認して初めて、広報活動の質的な成果が見えてくる。
自治体は、何を成功と呼ぶべきなのか
もう一つ考えておきたいのは、そもそも自治体の公式SNSは、観光客を増やすためだけに存在しているわけではないということである。
住民に防災情報を届けること、行政制度の変更を知らせること、地域行事への参加を促すこと、移住希望者に生活情報を提供すること、町外へ観光の魅力を伝えること。自治体によって発信の目的は異なり、一つのアカウントが複数の役割を持つ場合もある。
例えば、防災情報を確実に住民へ届けることを目的とするアカウントなら、全国から多くのフォロワーを集めることより、必要な住民が情報を受け取れることの方が重要である。観光情報の発信を目的とする場合には、認知度や閲覧数に加えて、旅行の検討、来訪、宿泊、地域消費などへのつながりを評価する必要がある。
移住促進を目的とするなら、さらに異なる指標が求められるだろう。移住相談件数、現地見学者数、移住者数だけでなく、移住後の定着状況や生活満足度も重要になる。フォロワーが何万人に増えても、地域に暮らす人々の課題が解決するとは限らないのである。
また、自治体の施策には費用が伴う。情報発信のための職員の作業時間、外部委託費、広告費などを考えれば、フォロワー数を増やすこと自体がどれほどの価値を持つのかも検証しなければならない。ただし、行政広報には防災や住民の知る権利を支える役割もあるため、すべての効果を観光消費額や金銭的な収益に換算すればよいというものでもない。
大切なのは、最初に何を達成したいのかを明確にし、その目的に合った数字で成果を評価することである。目的が違う自治体を、フォロワー数だけで一列に並べても、そこから得られる政策的な知見は限られる。
地域の情報発信力を高めること、観光客を呼ぶこと、地域内の消費を増やすこと、住民の暮らしを良くすること。これらは互いに関係しているが、決して同じ目標ではない。自治体の成功を考えるには、それぞれを区別しながら、どのようにつながっているのかを見ていく必要がある。
「人気の町」という言葉を、一度疑ってみる
自治体公式SNSで人気の町と、実際に人が集まる町は同じなのか。
現時点の事例だけから、全国の自治体について両者が一致するとも、一致しないとも結論づけることはできない。それを確かめるには、多数の自治体を対象として、同じ期間のフォロワー数や閲覧状況、観光客数、宿泊客数、人口、交通、宿泊施設、大都市圏からの距離、観光資源、投稿頻度などを比較する必要がある。
さらに、SNSの人気が高まったから観光客が増える場合もあれば、もともと観光客の多い町だからSNSのフォロワーも増える場合がある。二つの数字が同じ方向に動いても、どちらが原因なのか、あるいは別の要因が両方を動かしたのかは、単純な数字の比較では分からない。
南伊勢町の公式Instagramにおける2026年8月時点の1万3840というフォロワー数と、軽井沢町の2024年の約800万という観光客利用者延数と、箱根町の2025年の約2112万という入込観光客数は、一見するとすべて「人気」を表す数字に見える。しかし実際には、それぞれ違う対象を、違う方法で、違う時期に測定した数字である。
これらをそのまま一列のランキングに並べることはできない。比較するのであれば、何を数えた数字なのか、どのような集計方法なのか、何を成果として評価したいのかを、最初に明らかにしなければならない。
南伊勢町では、2024年に観光客総数が減少する一方で、宿泊客数は増加していた。軽井沢や箱根では、長い年月をかけて形成された観光基盤が、多くの来訪者を受け止めている。そして自治体公式SNSは、これまで地域と接点のなかった人にも、その町の日常や魅力を届けられるようになっている。
それぞれの現象は、どれか一つが優れていて、ほかが劣っているという関係ではない。情報発信の成果、観光需要の規模、地域経済への貢献、住民生活への影響は、それぞれ異なる数字で評価する必要があるのである。
画面の中では、人口1万人に満たない小さな町でも、一枚の美しい写真によって多くの関心を集めることができる。しかしスマートフォンを閉じれば、その町には道路があり、バス停があり、店があり、宿があり、そこで暮らしている人がいる。情報が届く範囲を広げることと、人が実際に移動し、地域で時間を過ごし、消費し、再び関わることは、別の現象なのである。
「いいね」が増えることと、町に人の足音が増えることは同じではない。けれど、その二つの間にある距離を丁寧に調べることができれば、なぜ人が町を知り、なぜ行こうと思い、なぜ実際に訪れ、あるいはなぜ画面の中で引き返すのかが少しずつ見えてくるはずだ。
そして、その距離を知ることは、単に観光客を増やす方法を考えるためだけではない。誰に町を知ってほしいのか、どのような関係を築きたいのか、地域の限られた資源をどこに使うべきなのかを考えることにもつながっていく。
自治体公式SNSの本当の価値は、フォロワー数の大きさだけでは測れない。画面の中で生まれた関心が、地域の現実とどのように結び付き、人々の行動や暮らしに何をもたらすのか。その過程を確かめることにこそ、これからの地域分析と自治体広報に求められる視点があるのではないだろうか。

