※本記事は、2026年10月9日現在の国土交通省、文部科学省、関係自治体の公表資料を踏まえ、各地の運行実態、制度上の条件、費用削減効果などを再確認して加筆・更新したものです。
人口減少が進む地域では、従来の路線バスを同じ運行形態で維持することが難しくなっている。利用者が減少しても、車両の購入費、燃料費、整備費、保険料、運転手の人件費などが同じ割合で減るわけではなく、利用者一人当たりの運行経費は上昇しやすい。さらに近年は、利用者不足に加えて運転手不足そのものが減便や路線廃止の要因となっており、地域公共交通の維持は需要と供給の両面から制約を受けている。
国土交通白書2025によると、全国のバス運転手数は2021年の約11万6千人から、2030年には約9万3千人まで減少すると推計されている。2022年と同程度の輸送規模を維持し、時間外労働の上限規制の影響も考慮した場合、2030年には必要な運転手が約3万6千人不足し、不足率は必要人員全体の28%に達する見込みとされる。ただし、これは一定の前提条件に基づく将来推計であり、実際の不足人数が確定しているわけではない。それでも、既存の輸送体制を維持することが難しくなっているという構造的な問題を示す数値として重要である。
一方、人口が減少しても、高齢者の通院や買い物、児童生徒の通学といった生活上の移動需要がなくなるわけではない。むしろ学校、病院、商店などの統廃合が進めば、一人の住民が必要なサービスを受けるための移動距離が長くなる可能性がある。このような地域では、新しい交通手段を一から整備するだけでなく、すでに存在する車両や運転手を複数の目的に活用するという考え方が重要になる。
その対象として注目されるのが、児童生徒の通学のために運行されているスクールバスである。
子どもが減少しても、スクールバスの必要性が低下するとは限らない
人口減少とスクールバスの関係には、一見すると矛盾した構造がある。子どもの数が減少すれば通学する児童生徒も減るが、それによって小中学校の統廃合が進むと、学校までの距離が長くなり、新たな通学手段が必要になる場合がある。すなわち、児童生徒数の減少が学校統合を促し、その学校統合がスクールバスの導入や運行区域の拡大につながるという関係である。
この結果、一般の路線バスは利用者減少によって縮小する一方、行政が児童生徒の通学を確保するためにスクールバスを運行するという状況が、同じ地域で発生することがある。しかも、路線バスとスクールバスが同じ道路や近接する経路を走っていれば、地域全体として車両や運転手の使い方に重複が生じる可能性がある。
もっとも、学校統合が必ずスクールバスの増車を必要とするわけではない。統合後の学校の位置、児童生徒の居住分布、既存の路線バス、保護者による送迎などによって必要な輸送量は異なる。しかし、人口減少によって一般交通が縮小する地域であっても、行政が確保しなければならない通学需要が残ることは、地域交通政策を考える上で重要な事実である。
そうであれば、スクールバスを児童生徒だけの専用交通として維持することが、地域全体にとって常に合理的なのかという問題が生じる。2026年現在、この問いは単なる理論上の可能性ではなく、実際の自治体の運行制度を通じて検討できる段階にある。
群馬県下仁田町では、スクールバスと地域交通を一体的に運用してきた
スクールバスを地域住民の交通手段として活用している代表的な事例が、群馬県下仁田町である。下仁田町では2012年4月、町内4小学校の統合に伴ってスクールバスの増車と運行区域の拡大が必要となった。当時、町営路線バスは利用者減少によって運行の維持が難しくなっており、スクールバスと路線バスの経路や運行時間が重複することも課題となっていた。
そこで町は、スクールバスと一般住民向けの交通を完全に分離するのではなく、朝夕の登下校時間帯に一般住民もスクールバスへ乗車できる混乗方式を導入した。児童生徒の乗車を優先しながら、空席があれば一般住民も無料で利用できる仕組みであり、平日の日中や休日には町営の「しもにたバス」を運行することで、通学と住民の移動を組み合わせた交通体系を構築してきた。
この制度は、単にスクールバスの空席を開放するだけではなく、車両や運転手を異なる用途で共用することにも特徴がある。登下校時間帯はスクールバスとして利用し、それ以外の時間帯には地域の公共交通として運行することで、個別に車両や運転手を確保する場合と比べて、運行資源を効率的に利用できる可能性が生まれる。
国土交通白書2025によれば、下仁田町のスクールバスを利用する一般住民には通院目的の高齢者が多く、2024年度の一般混乗利用者は3,789人であった。この数値は、スクールバスの一般利用が制度上認められているだけでなく、現実に住民の移動手段として利用されていることを示している。ただし、3,789人という乗車実績だけで、利用者の満足度や医療機関へのアクセス改善、財政負担の削減まで証明できるわけではない。
下仁田町の取り組みは、2026年2月に関東運輸局地域交通優良団体等表彰を受け、町も同年3月に受賞を公表した。表彰資料では、学校関係者、交通事業者、住民などとの協議を重ねたことや、安全対策を実施しながら混乗を継続してきたことが紹介されている。
さらに、この資料には運行経費に関する定量的な比較も示されている。2011年度の1キロメートル当たりの運行経費は246円であったのに対し、再編後の2012年度には228円となり、約7%減少した。これは交通体系の再編によって経費効率が改善したことを示す実績であるが、燃料価格、運行距離、車両構成などの変化を完全に分離した分析ではないため、削減の全額を混乗化だけの効果と断定することはできない。また、運行距離当たりの経費が減少しても、総運行距離が増えれば年間総経費が減るとは限らない点にも注意が必要である。
下仁田町は2026年11月から日中の交通を予約型に変更する
下仁田町の事例で新たに注目すべきなのは、2026年10月1日に町が発表した運行体系の変更である。町は同年11月1日から、日中や休日の町営バスについて、利用者の予約に応じて運行するデマンドバス「ねぎまる」の実証運行を開始する予定としている。
新しい運行体系では、平日の始発から午前9時までと午後3時以降は、従来のスクールバスの定時運行を継続する。一方、平日の午前9時から午後3時までと、土日祝日の午前9時から午後5時までは、予約に基づくデマンド運行へ移行する計画である。予約型の運行区域は下仁田町内全域で、町内205か所のバス停を利用する方式とされ、運賃は町内在住者200円、70歳以上100円などと設定されている。
この変更は、スクールバスと住民交通を一体的に考える政策が、さらに別の段階へ進むことを意味している。朝夕の定時運行によって児童生徒の通学を確保しながら、日中は予約に応じて車両を運行することで、利用需要が少ない時間帯の効率化と利便性の向上を目指すものである。
ただし、2026年10月9日現在、この新方式は開始前である。運行経費がどの程度変化するか、利用者の待ち時間や移動可能な範囲が改善するか、予約が難しい高齢者にも利用しやすい制度になるかについては、実証運行後のデータを確認しなければならない。予約型交通は効率化の有力な選択肢ではあるが、固定路線を予約型に変えるだけで必ず経費が削減されるわけではない。
山形県遊佐町では、一般住民もスクールバスを無料で利用できる
山形県遊佐町でも、スクールバスを児童生徒だけでなく一般住民の移動手段として利用できる仕組みが設けられている。町は公式に一般住民の無料乗車を案内しており、2026年度のスクールバス時刻表についても公表している。
ただし、一般住民がすべてのスクールバスへ自由に乗車できるわけではない。利用できるのは時刻表に掲載された対象路線に限られ、児童生徒専用の臨時便などには一般住民は乗車できない。季節によって小中学校の通学範囲や運行時刻が変更されることもあり、学校の運行計画を優先した制度となっている。
遊佐町の特徴は、スクールバスに地域交通のすべてを担わせていないことである。町内では完全予約制の乗合タクシーも運行されており、平日の午前9時から午後3時まで、原則として1時間ごとに利用できる仕組みが整えられている。一般利用の運賃は500円で、対象となる利用者や利用目的には条件がある。
スクールバスは学校と集落を結ぶ移動に適している一方、通院や買い物では目的地や希望時刻が異なることがある。遊佐町は、スクールバスと予約型の乗合タクシーという性格の異なる交通手段を併存させることによって、地域住民の移動需要に対応している。この事例から分かるのは、一つの交通手段だけで地域のすべての移動を満たそうとするのではなく、複数の輸送手段の役割を整理するという考え方である。
千葉県大多喜町でも、スクールワゴンの一般混乗が実施されている
この問題は、外房地域にとって決して遠い地域の事例ではない。千葉県大多喜町では、2023年4月からスクールワゴンに一般住民も乗車できる予約制の「乗合ワゴン」を運行している。2026年10月1日にも同月の運行計画が公表されており、外房地域にも実際にスクールバスの輸送資源を一般住民に開放している自治体が存在する。
乗合ワゴンを利用できるのは、会所、平沢、宇筒原、弓木、田代、三条、紙敷の各地区に住む人である。一般住民が利用する場合には事前の利用登録と前日までの予約が必要で、一般の運賃は1乗車400円と定められている。ただし、児童生徒の乗車が優先されるため、予約しても定員などの事情によって利用できない場合がある。
この仕組みでは、学校が運行を予約した日に限って一般住民も利用できる。学校が運行を必要としない日はワゴンも運行されないため、一般の路線バスと同じように毎日一定の便数が確保されているわけではない。また、終着となる西小学校から市街地へ移動する場合には、別料金の路線バスへ乗り継ぐ必要がある。
大多喜町の事例は、スクールバスの一般利用について、対象地域を限定し、予約制と有料運行を組み合わせた制度が実際に成立していることを示している。一方、利用できる日や経路が学校の運行計画に左右されるため、住民のすべての移動需要に対応できるわけではない。特に病院の予約時刻や買い物の帰宅時刻と運行時刻が合わなければ、制度が存在しても利用しにくいという問題が残る。
それでも大多喜町で一般混乗が実施されている事実は、御宿町、いすみ市、勝浦市など、人口減少と高齢化が進む外房地域の交通政策を考える上で重要である。スクールバスの共用は、遠方の自治体でしか成立しない特殊な仕組みではなく、地域の実情に応じて採用可能な選択肢の一つなのである。
いすみ市でもスクールバスの有効活用が検討課題となっている
いすみ市の地域公共交通計画にも、スクールバスの有効活用に関する検討が盛り込まれている。いすみシャトルバスや市内循環バスだけでは対応が難しい移動需要について、教育委員会などと調整しながら、スクールバスへの一般住民の混乗や問い合わせによる利用などを検討するという方向である。
ただし、計画に記載されていることと、実際に一般混乗制度が導入されていることは区別しなければならない。交通政策の評価では、検討段階、制度設計段階、実証運行段階、本格運行段階を混同すると、施策がすでに実現したかのような誤解を招く可能性がある。
重要なのは、既存のスクールバスを単純に住民へ開放することではなく、地域内の路線バスやデマンド交通との役割分担を考えることである。既存の交通事業者と競合して利用者を分散させれば、結果として地域全体の交通体系を維持しにくくなる場合もある。地域交通の効率化を目的とするなら、個々の運行制度ではなく、地域全体の輸送量、費用、運転手数、利用者の移動機会を評価する必要がある。
スクールバスの活用には、複数の異なる方式がある
スクールバスを地域公共交通に活用する方法は、一つではない。児童生徒と一般住民が同じ便に乗車する混乗方式、通学に使わない時間帯に車両を住民交通として利用する時間帯共用方式、スクールバスを独立して運行せず、児童生徒の輸送を一般路線バスへ集約する方式などが考えられる。
混乗方式では、スクールバスの空席を利用できるため、新たな運行距離や車両を増やさずに住民の移動機会を確保できる可能性がある。ただし、学校と住民の目的地が一致しなかったり、児童生徒の乗車人数が多かったりする地域では、一般住民が利用できる範囲は限られる。
時間帯共用方式では、朝は通学、昼間は住民交通、午後は下校というように、一つの車両を異なる用途に利用できる。しかし、実際には車両の回送時間、清掃、整備、運転手の休憩、学校行事による運行変更などの制約があるため、通学時間以外をすべて住民交通へ振り向けられるとは限らない。
また、既存の路線バスが十分に機能している場合には、スクールバスを新たに運行するよりも、児童生徒が路線バスを利用できるよう運行時刻や経路を調整する方が合理的な場合がある。国土交通省と文部科学省も、スクールバスへの住民混乗や空き時間活用だけでなく、スクールバスの運行を地域公共交通へ集約する方式を政策上の選択肢として示している。
したがって、合理的な交通政策とは、スクールバスを一般路線バスへ変えることでも、スクールバスの台数を増やすことでもない。地域に存在する交通資源を把握し、どの需要をどの輸送手段で担うことが最も合理的なのかを判断することである。
制度上は、道路運送法と補助金の扱いを確認する必要がある
スクールバスの一般利用を検討する際には、運行主体、運賃の徴収、補助金の利用条件、車両の管理責任など、制度上の整理が欠かせない。スクールバスが自治体の所有する車両であるからといって、自治体の判断だけですべての用途に自由に使用できるわけではない。
国土交通省と文部科学省は2024年10月11日、スクールバスと地域交通の効果的な活用について、関係自治体に向けた連名通知を発出している。この通知では、スクールバス車両の空き時間の活用、一般住民の混乗、交通事業者への運行委託、既存の地域公共交通への集約などについて、制度上の取り扱いと留意事項が示された。
一般住民を無償で輸送する場合には、原則として旅客運送事業の許可や自家用有償旅客運送の登録は不要となるが、実質的に運送の対価を受け取っていないかなどを確認する必要がある。一方、一般住民から運賃を徴収する場合には、運行形態に応じて道路運送法上の許可や登録などが必要になる。利用者の負担額をどのように設定するかは、単なる料金政策ではなく、運送制度の選択にも関係する問題である。
さらに、文部科学省のへき地児童生徒援助費等補助金を受けて整備したスクールバスを、整備から6年以内に一般住民の利用へ供する場合には、原則として文部科学大臣の承認が必要となる。教育目的の補助対象経費と一般住民の輸送に伴う経費についても、制度に応じた区分や確認が必要である。
このため、実際の制度設計では、教育委員会と交通政策部門だけでなく、財政担当部門、交通事業者、学校、保護者、地域住民などとの調整が不可欠になる。スクールバス活用は車両の運用方法を変更するだけの問題ではなく、教育行政と交通行政の制度を横断して設計しなければならない政策なのである。
数理的に見ても、共用には経費削減の可能性がある
スクールバスと住民向け交通を別々に運行する場合には、それぞれの輸送に車両費、燃料費、整備費、人件費などが必要となる。利用者が少なくなっても、必要な運行便数や車両数を減らせなければ、固定的な費用は残るため、利用者一人当たりの負担は大きくなりやすい。
ここで、スクールバスを従来どおり運行することを前提に、別途運行していた住民向け交通の全部または一部を共用へ置き換えると考える。共用による年間の経費削減額は、廃止または縮小できる住民向け交通の年間経費から、共用に伴って新たに発生する運行経費と、制度変更や設備整備などの初期費用を年額換算した額を差し引くことで求められる。
したがって、独立した住民向け交通を維持する費用の方が、共用によって増える費用より大きければ、地域全体の運行経費を削減できる可能性がある。特に、既存のスクールバスの運行経路を変えず、空席に一般住民が乗車する方式であれば、追加の走行距離や車両数を抑えられる場合がある。
しかし、一般住民の利用に対応するために経路を延長したり、新しい停留所を整備したり、運転手の勤務時間が長くなったりすれば、追加費用が増加する。車両の定員を超える利用需要が発生して増車が必要になれば、共用による経済的な利点が小さくなることも考えられる。
また、運行経費と自治体の実質的な財政負担は同じではない。運賃収入、国や県の補助金、地方交付税措置などを考慮すると、運行経費が減少しても自治体の負担額が同じ割合で減るとは限らず、逆に総経費が多少増えても利用者の移動機会が大幅に改善する場合もある。
したがって、共用方式の経済性を評価する際には、単に車両の台数や利用者数を比較するだけでは不十分である。少なくとも年間総運行経費、車両1台当たりの運行距離、運転手の総勤務時間、延べ乗車人数、利用者一人当たりの公費負担などを、共用しない場合と比較する必要がある。
人口密度が低いほど共用が合理的とは限らない
人口減少地域では、一つの用途のために専用車両や運転手を確保することが非効率になりやすい。しかし、人口密度が低いほど必ず共用の効果が大きくなるというわけではない。交通の効率を決めるのは人口密度だけでなく、集落の配置、道路網、目的地の分布、時間帯ごとの需要、車両の定員など、複数の条件の組み合わせだからである。
例えば、人口密度が低くても、主要な集落が一本の幹線道路に沿って分布し、学校、病院、商店がその沿線に集まっていれば、比較的少ない運行経路で複数の需要に対応できる。一方、人口密度が多少高くても、住宅地が広く分散し、学校と病院が異なる方向に位置している場合には、共用による経路の長大化や利用者の移動時間の増加が問題となる。
特にスクールバスでは、児童生徒の登校時刻と下校時刻が重要な制約になる。高齢者の通院も午前中に集中しやすく、通学と通院の需要が時間帯によって競合する可能性がある。高齢者が午前中に病院へ向かい、診察を終えて帰宅しようとする時間が下校時刻と重なれば、単純な時間帯共用では対応が難しくなることもある。
そのため、人口減少地域における共用の合理性は、人口規模だけから判断することはできない。各集落から学校、病院、商店、駅へ向かう移動需要を時間帯別に把握し、運行経路、所要時間、乗車人数、車両と運転手の利用可能時間を合わせて分析する必要がある。
乗車人数だけでは、政策の成功を判断できない
下仁田町の2024年度混乗利用者3,789人という実績は、スクールバスが現実の住民交通として利用されていることを示す重要な数値である。しかし、公共交通政策の成果を判断するには、利用者数だけでは十分ではない。
例えば、従来は別の交通手段を利用していた人がスクールバスへ移っただけであれば、地域全体の移動回数は増えていない可能性がある。一方、これまで移動手段がなく通院や買い物を控えていた住民が、混乗制度によって新たに外出できるようになったのであれば、乗車人数が少なくても生活上の効果は大きいと考えられる。
また、年間延べ乗車人数と実際に利用した住民の人数は異なる。一人の住民が繰り返し利用している場合には、延べ乗車人数が多くても、制度の恩恵を受けている住民の範囲は限られる。交通政策としての公平性を考えるなら、利用者の年齢、居住地区、利用目的、利用頻度などを把握しなければならない。
さらに、利用者だけを対象に満足度を調査すると、運行時刻が合わない、停留所が遠い、予約方法が分からないといった理由で利用できなかった住民が分析から除外されてしまう。そのため、制度の評価では非利用者も含めた住民調査が重要になる。
政策の導入前後を比較する場合には、運行費用や乗車人数だけでなく、通院に必要な移動時間、買い物先への到達可能性、待ち時間、乗換回数、運行時間外に発生する移動需要なども確認する必要がある。可能であれば、人口構成や地理的条件が似ている他地域との比較を行うことで、混乗制度そのものがどの程度の効果をもたらしたかを、より客観的に推定できる。
最大の条件は、児童生徒の安全な通学を確保することである
スクールバス活用において、最も優先しなければならないのは児童生徒の安全と通学条件の維持である。一般住民を乗せることによって児童生徒が乗車できなくなったり、登校時刻が遅れたり、乗車時間が大幅に長くなったりするのであれば、共用制度として合理的とはいえない。
そのため、児童生徒の利用人数に応じた座席の確保、一般利用者との座席配置、乗降場所の安全性、緊急時の対応、保険の適用範囲などについて、事前の確認が必要となる。学校行事や災害、悪天候などによって登下校時刻が変更される場合にも、一般住民への案内や代替交通の確保を含めた運行管理が求められる。
国土交通省と文部科学省の連名通知でも、混乗を実施する前提として、児童生徒の安全と保護者や地域住民の理解を確保することが示されている。下仁田町では防犯カメラなどの安全設備を導入し、大多喜町では児童生徒優先の運用と予約制を組み合わせるなど、それぞれの地域で制度上の工夫が行われている。
ただし、安全対策の実施と安全性の実証は同じではない。制度導入後も事故や運行遅延、定員不足などの状況を継続的に把握し、必要に応じて運行方法を改善することが重要である。特に、児童生徒の安全確保に必要な費用を削減の対象と考えるべきではなく、一定の安全水準を維持した上で、どこまで運行を効率化できるかを検討する必要がある。
外房地域では、まず既存の輸送資源を把握する必要がある
御宿町、いすみ市、勝浦市、大多喜町などの外房地域で今後の交通政策を考える場合、従来の路線バスを維持できるかどうかという問題だけに議論を限定するのは十分ではない。地域内にはスクールバスのほか、自治体が運行するコミュニティバス、予約型の乗合交通、福祉関係施設の送迎車、医療機関の送迎車、民間の路線バス、タクシーなど、さまざまな輸送資源が存在している可能性がある。
これらの輸送手段は、それぞれ教育、福祉、医療、交通といった異なる目的で整備されているため、利用者の条件や運行時間、費用負担、管理責任が必ずしも一致していない。そのため、同じ道路を複数の車両が少人数ずつ乗せて走っていても、行政分野をまたいで運行を調整する仕組みが十分に整備されていない場合が考えられる。
将来の交通政策を具体的に検討するには、まず地域内の輸送資源を一覧化し、車両数、定員、運行経路、時間帯、利用者数、運転手数、年間経費を把握することが出発点となる。その上で、学校、病院、商店、駅、公共施設などの位置と住民の居住分布を重ね合わせ、交通需要が集中する区間と時間帯を分析する必要がある。
例えば、スクールバスが学校から離れた集落まで運行しており、その経路上に高齢者の通院や買い物の需要が存在するなら、混乗化によって移動機会を確保できる可能性がある。一方、通学経路と住民の目的地が大きく異なる場合には、スクールバスを延長するよりも、既存の路線バスや予約型交通を組み合わせる方が適切かもしれない。
大多喜町では、すでに一部地区で乗合ワゴンによる混乗が実施されている。この制度の利用実績、運行経費、住民の移動実態などを検証することは、外房地域でスクールバス活用の可能性と限界を考える上で有益である。実施例が存在するという事実を出発点として、どのような条件で有効に機能しているのかを明らかにすることが重要になる。
スクールバスだけで地域公共交通の問題は解決しない
スクールバスの一般利用には一定の有効性が期待できるものの、それだけで人口減少地域の移動問題を解決できるわけではない。スクールバスの運行経路は児童生徒の居住地と学校の位置によって決められるため、病院や商店、駅など、一般住民が利用したい施設と必ずしも一致しない。
さらに、学校の休業日や長期休暇、夜間などには運行されない場合があり、学校の統廃合が進めばスクールバス自体の経路や便数も変わる可能性がある。児童生徒数の減少によってスクールバスの運行が縮小された場合、それに依存していた一般住民の移動手段も同時に失われるおそれがある。
予約型交通にも、利用するための予約手続き、希望時刻と実際の乗車時刻の差、他の利用者との乗合による所要時間の増加など、固有の課題がある。特に高齢者や障害のある人など、移動に制約がある住民にとっては、運行制度が存在するだけでは十分でなく、停留所まで移動できるか、予約方法を理解できるか、目的地まで無理なく移動できるかが重要になる。
したがって、地域の公共交通は、一種類の輸送手段にすべての需要を集約することが常に合理的とは限らない。固定路線バス、スクールバス、予約型交通、タクシーなどを、それぞれの特徴に応じて組み合わせ、住民の生活に必要な移動を確保することが現実的な選択肢となる。
ただし、複数の交通手段を組み合わせれば必ず効率が改善するわけでもない。車両や運転手の配置が重複し、利用者に複雑な乗換えや予約を求める制度になれば、むしろ運行経費が増加し、利便性が低下する可能性もある。必要なのは交通手段の種類を増やすことではなく、地域全体として過不足の少ない輸送体系を設計することである。
スクールバスは人口減少社会の地域交通を再設計するための資源である
2026年10月9日現在、群馬県下仁田町ではスクールバスと一般住民の混乗が継続されており、山形県遊佐町でも指定されたスクールバスを一般住民が無料で利用できる。さらに千葉県大多喜町では、2023年からスクールワゴンの予約制一般混乗が実施されている。これらの事例は、スクールバスが児童生徒の通学手段であると同時に、一定の条件の下で地域住民の移動にも活用できることを示している。
下仁田町では、2012年の交通体系再編に伴って運行距離当たりの経費が約7%減少した実績も示されている。ただし、こうした成果が人口減少地域のすべてに当てはまるわけではなく、運行経路、車両数、勤務時間、利用需要などの条件によって効果は変わる。スクールバスの混乗化を進めるかどうかは、制度を導入すること自体を目的とせず、地域ごとの定量的な比較に基づいて判断する必要がある。
人口減少社会では、移動する人の総数が減少する一方で、生活に必要な移動距離が長くなったり、公共交通を必要とする住民が一定数残り続けたりすることが考えられる。また、運転手や車両の確保が難しくなる中では、従来と同じ輸送体系を維持することが必ずしも最適な選択とは限らない。
この問題を考える上で重要なのは、スクールバス、福祉関係の送迎車、地域の路線バスといった行政分野ごとの区分にとらわれず、それぞれを地域に存在する輸送資源として捉えることである。その上で、児童生徒の安全な通学を確保しながら、どの車両を、どの時間帯に、どの需要へ配分することが合理的なのかを検討する必要がある。
スクールバスは、人口減少地域における公共交通のすべてを代替するものではない。しかし、地域の輸送資源を共用し、交通体系を再設計する上で、有力な選択肢の一つであることは、すでに複数の自治体の実例によって確認できる。
人口減少社会の交通政策で問われているのは、単に何台のバスを残すかではなく、限られた車両、運転手、財源を使って、住民に必要な移動機会をどこまで確保できるかということである。
スクールバスの活用を考えることは、こうした地域公共交通の根本的な課題を見直すことにつながるのである。

