地域分析記事

地域の暮らしと地域課題を数学とデータで考える

人口減少地域で「家の墓」を30年後まで維持できるのか~墓石・菩提寺・護持会を人口構造から考え直す

地方では、墓地の草刈り、墓石の清掃、墓地周辺の整備、寺院境内の清掃、護持会の行事などを、檀家や地域住民自身が担っているところがあります。

これまでは、それが特に問題にならない地域もありました。地域に一定数の現役世代が住み、親から子へ役割が引き継がれ、複数の世帯で作業を分担できたからです。

しかし、今後30年間を考えると、この仕組みをそのまま維持できるとは限りません。

重要なのは、墓や寺を「残すべきか、なくすべきか」という二者択一ではありません。

人口と世帯構造が変化したとき、現在の維持方法が物理的に成立するのか。

この点を、宗教観や昔からの慣習とはいったん切り離し、人口、労働、費用、管理という視点から検討する必要があります。

最初に結論

人口減少地域では今後、

「家ごとに墓を持ち、子孫が管理し、地域や檀家が共同作業で寺院と墓地を維持する」という仕組みについて、30年間そのまま継続できることを前提にしない方が合理的です。

これは、従来の墓制や寺院制度を否定するという意味ではありません。

国立社会保障・人口問題研究所の推計では、2050年に向けて単独世帯の割合が全都道府県で上昇します。2050年には21県で、世帯主が65歳以上の世帯が全世帯の50%を超え、32道府県では65歳以上の単独世帯が全世帯の20%を超えると推計されています。75歳以上の独居率についても、ほぼすべての都道府県で20%を超える見通しです。([IPSS][1])

したがって問題は、

「若い人が墓を守ろうとするか」

だけではありません。

そもそも管理作業を行える人が地域内に何人残るのか

という問題になります。

今から必要なのは、従来方式を守る方法だけを探すことではなく、

墓、遺骨、追悼、寺院運営、地域共同作業を一度別々の機能に分解し、人口が減っても維持できる仕組みに再設計すること

だと考えられます。


1.30年後には「世帯そのもの」が大きく変わる

国立社会保障・人口問題研究所の2023年地域別将来推計人口は、2020年国勢調査を基準として、市区町村別に2050年までの人口を推計しています。つまり、現在から約30年間という期間は、行政自身が地域人口を考える標準的な長期スパンでもあります。([IPSS][2])

同研究所の世帯推計を見ると、問題は単なる人口減少ではありません。

世帯が小さくなります。

全国推計でも、将来の高齢単独世帯について、子どもがいない人や兄弟姉妹の少ない人が増え、近親者が全くいない高齢単独世帯が増加すると想定されています。([IPSS][3])

ここが墓地問題にとって重要です。

例えば現在、

  • 80歳の親が墓を管理する
  • 55歳の子が草刈りを手伝う
  • 孫世代も盆や彼岸に帰省する

という家族が存在していたとしても、30年後まで同じ構造が続く保証はありません。

子が遠隔地に住んでいるかもしれません。

子ども自体がいない世帯もあります。

兄弟姉妹が少なければ、一人の親族に複数の墓や実家、親族関係の管理が集中することも考えられます。

したがって、

人口減少+高齢化+小世帯化+親族数の減少

を一体として考える必要があります。


2.墓の問題は「墓参り」だけではない

墓を維持する作業は、墓参りだけではありません。

地域や墓地によって異なりますが、一般的には、

  • 墓石の清掃
  • 除草
  • 落ち葉の処理
  • 樹木管理
  • 通路清掃
  • 墓石や外柵の補修
  • 管理費の支払い
  • 墓地使用者の名義承継
  • 寺院との連絡
  • 法要
  • 墓地全体の共同作業

などが発生します。

寺院墓地では、これに寺院や檀家組織の維持が関係する場合があります。

ここでいう護持会とは一般に、寺院や墓地などを維持するため檀家等が組織する団体を指しますが、全国一律の制度ではありません。

寺院によって名称、会費、作業内容、加入方法は異なります。

したがって「全国の護持会員が何人減少している」という統一的な公的統計は確認困難です。

一方、文化庁によると、2024年12月31日時点で仏教系の宗教法人は全国に7万6千法人余り存在しており、日本には依然として非常に多くの寺院等の宗教法人が存在します。([文化庁][4])

つまり、

墓を管理する家族側だけが問題なのではなく、多数の寺院・墓地を誰が維持するのかという供給側の問題も同時に存在する

わけです。


3.若い世代の人数が減れば、一人当たりの負担は増える

問題を単純化して考えてみます。

ある地域に、

墓地利用世帯 100世帯 共同作業参加可能者 50人

がいたとします。

1人当たりの平均負担を概念的に、

共同作業負担 =必要作業量 ÷ 作業可能人数

と考えます。

これは公式な指標ではなく、問題を整理するための概念式です。

必要作業量が変わらないまま作業可能者が50人から25人になれば、

50人の場合 100 ÷ 50 = 2

25人の場合 100 ÷ 25 = 4

となり、単純化すれば一人当たりの負担は2倍になります。

実際には高齢者が完全に作業不能になるわけではありませんし、機械化や外注もできます。

したがって現実がこの通りになるという意味ではありません。

しかし、

管理対象があまり減らず、管理する人だけが先に減少すると、一人当たり負担が増える

という構造自体は変わりません。

これは墓地だけの問題ではありません。

地域の草刈り、道路清掃、神社、集会所、水路、自治会、消防団などでも同じ現象が発生します。


4.墓は人口と同じ速度では減らない

ここにはもう一つ重要な問題があります。

人口が半分になったからといって、既存の墓石が直ちに半分になるわけではありません。

人口は減少しても、過去につくられた墓は残ります。

したがって一定期間、

管理対象となる墓の数 ÷ 管理可能な住民数

は上昇する可能性があります。

これが一般住宅との違いです。

住宅なら空き家になった後、売却や解体という選択肢があります。

墓の場合には、埋蔵されている遺骨、墓地使用権、墓地管理者との関係、改葬手続きなどが絡みます。

墓地、埋葬等に関する法律の下では、遺骨を別の墓地や納骨堂へ移す「改葬」には市町村長の許可が必要です。また無縁墳墓を改葬する場合にも一定の手続きが定められています。([厚生労働省][5])

したがって、

「誰も管理しなくなったので、そのまま撤去する」

というほど単純ではありません。


5.無縁墓はすでに行政課題になっている

この問題は30年後に突然始まる話でもありません。

厚生労働省は2025年3月、全国の自治体や一定の民営墓地を対象とした調査を踏まえ、「縁故者情報の事前把握に関する事例調査」を自治体へ通知しています。

その中で厚生労働省は、無縁墳墓について、管理が不十分になることによって墓地経営へ支障が生じる懸念があることを明示しています。また、墓地使用者以外の縁故者についても、連絡先をあらかじめ把握する取組が有効だとしています。([厚生労働省][6])

つまり国もすでに、

墓地使用者が亡くなってから次の管理者を探す方式だけでは問題が生じる

ことを政策課題として認識しています。

また厚生労働省は以前から、墓地の使用契約について、無縁墓になった場合にどのように扱うのか、管理料との関係や契約解除、合葬墓への移行などを事前に明確にする必要性を指摘しています。([厚生労働省][7])

したがって、墓の継承問題を「各家庭だけの問題」と見ることにも限界があります。


6.「墓じまいが増えているから全部なくせばよい」でもない

一方で、逆方向への飛躍にも注意が必要です。

政府の衛生行政報告例では、全国の改葬件数が毎年集計されています。2024年度についても都道府県別の改葬統計が公表されています。([e-Stat][8])

しかし、

改葬が増えている =墓そのものが社会から不要になっている

とは言えません。

改葬には、

  • 遠方の墓を自宅近くへ移す
  • 寺院墓地から別の墓地へ移す
  • 個人墓から合葬墓へ移す
  • 納骨堂へ移す

など、さまざまな場合があります。

したがって、改葬件数だけから国民の宗教意識や墓への考え方まで断定することはできません。

ここで考えるべきなのは思想ではなく、

今後も管理できる形へ墓の形態を変更しようとする需要が実際に存在している

という点でしょう。


7.本当の問題は「墓」よりも管理方式にある

30年後を考えると、論点を次の4つに分けた方が分かりやすくなります。

①遺骨をどこに置くか

個別墓 合葬墓 納骨堂 樹木葬 その他の適法な方法

②故人をどのように追悼するか

墓参 法要 家庭での追悼 寺院での供養 その他

③墓地を誰が維持するか

家族 寺院 墓地管理者 業者 自治体等

④寺院を誰が支えるか

檀家 利用者 寄付 宗教法人としての収入 その他

現在は、この4つが一体化している場合があります。

しかし、論理的には別の問題です。

例えば、

先祖を大切にすること

子孫が毎年墓地の草刈りを行うこと

は必ずしも同じことではありません。

また、

寺院の宗教活動を支えること

高齢住民が境内整備を無償労働で続けること

も必ずしも不可分ではありません。

ここを分離して考えることが、30年後の制度設計では重要になります。


8.「若い人に引き継ぐ」という解決策には限界がある

現在の方式では、

「高齢者ができなくなったら若い人がやればよい」

と考えやすいところがあります。

しかし人口減少地域では、この前提自体を検討する必要があります。

例えば、

高齢世代 80人 若年・中年世代 40人

という地域が、

30年後に、

高齢世代 50人 若年・中年世代 15人

となったとします。

高齢者が30人減ったからといって、作業が軽くなるとは限りません。

残された15人が、

自治会 墓地 寺院 道路清掃 消防 祭事 家族の介護

などを同時に担う可能性があります。

したがって、

若者が地域活動に参加しなくなった

という個人の意識問題として処理してしまうと、本質を見誤ります。

問題は、

一人の現役世代に何種類の地域維持作業を負担させるのか

だからです。


9.今から検討すべき方向は「人を増やす」より「作業を減らす」

人口減少地域では、今後の制度設計について重要な順序があります。

従来の考え方は、

必要作業量を維持する ↓ 参加者を集める

となりがちです。

しかし人口そのものが減る場合には、

最初に必要作業量を減らせないか

を考えた方が合理的です。

例えば、

年4回の共同作業 ↓ 年2回へ

全面人力除草 ↓ 防草化+必要部分のみ除草

各家が個別管理 ↓ 墓地全体で一括管理

無償労働 ↓ 管理費を徴収して業者委託

全員一律参加 ↓ 参加と金銭負担を選択可能にする

といった方法です。

どれが正しいということではありません。

重要なのは、

人口が減った後も同じ作業量を維持するという前提を外す

ことです。


10.個別墓を永久に継承する前提も検討対象になる

墓地についても同じです。

現在の墓地面積を将来も維持すると仮定すれば、

墓地管理負担 =墓地区画数 × 1区画当たり管理量

と概念的に考えることができます。

これも公式指標ではありません。

例えば1,000区画を管理する地域で、利用世帯が減り続ければ、一世帯当たりの管理費や共同作業負担が増える可能性があります。

そこで将来的には、

個別墓 ↓ 一定期間個別管理 ↓ 期間終了後に合葬

といった仕組みも一つの選択肢になります。

実際に、一部自治体では既に合葬式墓地を整備し、将来需要を推計しながら墓地政策そのものを再設計しています。

したがって、

「墓は永遠に同じ家系が管理するもの」

という前提を行政や墓地経営の設計条件にする必要はありません。


11.寺院についても「宗教」と「施設管理」を分ける必要がある

菩提寺についても同様です。

寺院には、

宗教活動 法要 墓地管理 建物管理 境内管理 文化財管理 地域行事

など多くの機能があります。

しかし人口が減少すれば、それらすべてを同じ人数の檀家が支え続けることは難しくなる可能性があります。

例えば寺院維持費を概念的に、

寺院年間維持費 =建物維持費 +境内管理費 +墓地管理費 +宗教活動費 +事務費 +その他

と考えます。

檀家数が半分になっても建物の屋根面積が半分になるわけではありません。

境内面積も半分にはなりません。

そのため、

人口減少より費用の減少が遅ければ、一世帯当たり負担は上昇します。

これは寺院の善悪とは無関係な固定費の問題です。


12.今から30年間を三段階に分けて考える

地域として現実的なのは、一気に制度を変えることではありません。

例えば今後30年を、

第1段階 現在~10年

現状把握

  • 墓地区画数
  • 使用者年齢
  • 承継予定者
  • 連絡可能な親族
  • 年間管理費
  • 共同作業回数
  • 延べ作業時間
  • 参加者年齢
  • 寺院維持費

を把握します。

第2段階 10~20年

縮小と省力化

  • 防草化
  • 機械化
  • 外注
  • 共同管理
  • 合葬墓
  • 納骨施設
  • 管理作業回数削減
  • 墓地面積の段階的縮小

などを検討します。

第3段階 20~30年

人口規模に合わせた体制へ移行します。

この方法なら、

「突然昔の制度を全部廃止する」

必要はありません。


13.費用負担と労働負担を分けることも重要

これから特に問題になるのが、

「作業に参加できない人はどうするのか」

です。

高齢者、障害のある人、遠隔地居住者、介護中の人、仕事のある人など、参加できない理由はさまざまです。

ここで、

参加できない =地域への協力意思がない

と判断する方式は持続しにくくなるでしょう。

むしろ、

地域維持負担 =金銭負担+労働負担

と考え、

作業できる人 →作業

作業できない人 →一定の金銭負担

どちらも難しい人 →減免

といった制度の方が人口構造には適応しやすくなります。

ただし、実際の制度については各墓地、寺院、宗教法人、地域組織ごとに法的関係や規約が異なるため、一律には決められません。


14.完全な民間委託にも問題はある

それでは全部を業者に委託すれば解決するのでしょうか。

必ずしもそうではありません。

外注すれば、

住民労働 ↓ 事業者への支払い

に変わります。

つまり負担が消えるのではなく、

時間負担が金銭負担に変わる

だけです。

さらに人口の少ない地域では、

  • 移動距離
  • 作業量の少なさ
  • 人手不足

によって、業者側の採算が悪くなる可能性もあります。

墓地管理についても、

委託費 =人件費 +移動費 +機械費 +処分費 +管理費 +事業者利益

が必要です。

したがって、

「外注すれば解決する」

という結論も適切ではありません。


15.合葬墓だけですべて解決するわけでもない

合葬墓や納骨堂には、

  • 個別墓より管理面積を小さくできる
  • 承継者を必要としない方式を採用できる
  • 家族の管理労力を減らせる

などの利点があります。

しかし、

誰が施設を管理するのか 建設費はいくらなのか 修繕費をどうするのか 運営主体が将来存続するのか

という問題は残ります。

したがって、

個別墓から合葬墓へ変更 =管理問題解決

ではありません。

より正確には、

家族単位で分散していた管理を、管理主体へ集約する方法

です。


16.今後必要なのは「墓じまい推進」ではない

ここは特に重要です。

人口減少地域の将来対策を、

墓じまいを増やす政策

と理解するのは適切ではありません。

個人墓を残したい家庭が維持可能なら、残すことに問題はありません。

親族が多く、近隣に居住し、費用負担も可能なら従来方式が成立する家庭もあるでしょう。

反対に、

承継者なし 遠距離 管理困難 高齢化

という家庭まで同じ方式を要求すると、無理が生じます。

したがって必要なのは、

選択肢を増やすこと

でしょう。

個別墓を続ける人 一定期間後に合葬する人 生前に改葬する人 寺院管理へ移す人

が、それぞれ選択できる状態です。


17.30年後から考えると「今」が重要になる

墓地問題には大きな時間差があります。

現在60歳の人は2050年代には80~90歳代です。

現在30歳の子世代も60歳前後になります。

つまり、

現在「若い人」と考えている世代までが高齢者になる頃の制度を、現在の高齢者が中心となって設計している

ということです。

今の70歳代が、

「自分が動けなくなれば50歳代がやる」

と考えても、その50歳代は20年後には70歳代です。

そこで再び次世代へ引き継ぐ方式では、人口が減少し続ける地域ではどこかで成立しなくなる可能性があります。

だからこそ、

次の世代へ同じ仕事を渡すのではなく、次の世代が引き継ぐ仕事そのものを減らす

という発想が必要になります。


18.地域で今から確認しておきたい数字

感覚だけで議論するより、例えば一つの墓地や寺院について次の数字を調べるだけでも将来像がかなり見えてきます。

  1. 現在の墓地区画数
  2. 実際に管理されている区画数
  3. 管理者の平均年齢
  4. 70歳以上の管理者数
  5. 承継予定者が確認できる区画数
  6. 年間共同作業回数
  7. 1回当たり参加人数
  8. 年間延べ作業時間
  9. 年間管理費
  10. 10年以内に承継問題が生じそうな区画数

例えば、

将来管理可能率 =承継見込みのある区画数 ÷ 現在の管理区画数

という独自指標を作ることもできます。

これは公式指標ではありません。

しかし、

現在200墓あり、承継者を確認できる墓が100墓しかない

のであれば、

「現在200墓とも管理されているから問題ない」

とは評価できなくなります。


19.公開資料だけでは分からないことも多い

一方、この問題には全国統計だけでは判断できない部分があります。

特に、

  • 護持会の作業参加人数
  • 檀家の平均年齢
  • 墓の承継者の有無
  • 草刈り時間
  • 一世帯当たり実質負担
  • 寺院ごとの財務状態

について全国的に統一された詳細統計はありません。

したがって、

「地方寺院の○%が30年以内になくなる」

「墓地の○%が無縁墓になる」

といった数字を、現在の公的資料だけから断定することはできません。

この記事でもそこまでは推計しません。

しかし、

人口、世帯、高齢化、独居の方向については公的推計が存在し、無縁墳墓についても既に国が対策を始めています。 ([IPSS][9])

したがって「何も変えなくても今後30年間維持できる」と仮定することにも十分な根拠はありません。


現実的な結論

人口減少地域における墓地と菩提寺の問題は、単なる「墓じまい」の問題ではありません。

より大きな、

地域の共同管理システムを、人口減少社会でどう維持するか

という問題です。

これまで、

家が墓を持つ ↓ 子が継ぐ ↓ 檀家として寺院を支える ↓ 住民が共同作業を行う

という一連の仕組みが成立していた地域でも、今後30年間同じ人口構造が続くわけではありません。

だからといって、直ちに寺院や墓をなくす必要もありません。

必要なのは、

残したいものと、そのために必要な作業を分けて考えること

です。

故人を追悼すること。

遺骨を適切に管理すること。

寺院が宗教活動を続けること。

墓地を草刈りすること。

墓石を一家ごとに永久管理すること。

地域住民が無償で共同作業すること。

これらをすべて一つの制度として将来まで維持する必然性はありません。

今後は、

「何を残すか」ではなく、「何を残すために、どの作業まで残す必要があるのか」

という順序で考える方が合理的です。

そして30年後になって管理する人がいなくなってから対応するのでは遅すぎます。

今後10年程度の間に、

現状把握 ↓ 承継確認 ↓ 省力化 ↓ 共同管理 ↓ 外注 ↓ 個別墓・合葬墓などの選択肢整備

を段階的に検討しておく。

これが、特定の宗教観や従来の風習に依存せず、現在確認できる人口動態から考えた場合の、比較的現実的な方向ではないでしょうか。

人口減少社会で必要なのは、次世代に「今まで通り続けてほしい」と頼むことではなく、次世代が無理なく維持できるところまで、現在の世代が仕組みを軽くしておくことです。

それは墓や寺を否定することではなく、むしろ人口が減った後にも必要なものを残すための再設計だと考えられます。

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はじめに

地方では、「町の本屋がなくなった」という話を聞くことが珍しくなくなりました。

千葉県の外房地域でも、茂原市、いすみ市、勝浦市、鴨川市、館山市などには現在も書店がありますが、市町村によって状況は大きく異なります。

一方、公共図書館についても、すべての自治体が同じ規模の図書館を持っているわけではありません。

市立・町立図書館を設置している自治体がある一方、公民館の一角に図書室を設けている自治体もあります。

さらに、2025年3月には茂原市立図書館が茂原ショッピングプラザアスモ内へ移転し、2026年7月1日には、いすみ市で初めて「いすみ市図書館」が開館しました。

外房の読書環境は、一方的に縮小しているわけではありません。

民間の書店は全国的な縮小圧力を受けていますが、公共図書館については再編、移転、新設、デジタル化など別の動きも起きています。

この記事では、

「外房から本を入手する場所はなくなってしまうのか」

という問題を、

  • 書店
  • 公共図書館
  • 公民館図書室
  • 通信販売
  • 電子書籍
  • 人口減少
  • 高齢化
  • 自動車依存
  • 地域拠点

という複数の視点から検討します。


最初に結論~書店と図書館は同じ問題ではない

最初に結論を示すと、今後の外房では、

民間書店は地域中心都市への集中がさらに進む可能性が高い一方、公共図書館・図書室は自治体による公共サービスとして一定程度維持される可能性が高い

と考えられます。

ただし、

書店がある =十分な読書環境がある

でも、

図書館がある =書店がなくても問題ない

でもありません。

両者は役割が異なるからです。

書店は、

「欲しい本を購入する場所」

であり、

図書館は、

「資料へアクセスする公共施設」

です。

したがって地域の読書環境は、

地域の本へのアクセス =書店へのアクセス +図書館へのアクセス +図書館間貸借 +インターネット通販 +電子書籍

という複数の経路で考える必要があります。

これは公式指標ではなく、本記事で地域の読書環境を整理するための考え方です。


全国の書店数は長期的に大きく減少している

まず、外房だけの問題ではないことを確認しておく必要があります。

日本出版インフラセンターの書店マスタを基にした出版科学研究所の統計では、登録書店数は2003年度に20,880店ありました。

2024年度には10,417店となり、さらに2025年度末には9,993店となっています。

つまり約20年間で、

20,880店 ↓ 9,993店

まで減ったことになります。

単純計算では半分以下に近い水準です。

特に重要なのは、一時的な景気後退による閉店ではないことです。

長期間にわたり減少が続いています。

したがって、

「景気が回復すれば昔のように町の本屋が戻る」

と考えることには慎重であるべきでしょう。


紙の出版市場そのものも縮小している

書店経営が難しくなっている背景には、人口減少だけではなく出版市場そのものの構造変化があります。

2025年の紙と電子を合わせた出版市場は約1兆5,462億円でした。

その中で紙の出版物市場は1兆円を下回りました。

一方、紙の書籍販売額は約5,939億円で、前年よりわずかに増加しました。

ここから分かるのは、

「本そのものが完全に読まれなくなった」

という単純な話ではありません。

むしろ、

  • 紙から電子へ
  • 書店からインターネット通販へ
  • 雑誌から別の情報媒体へ

という購入・情報取得手段の変化が進んでいます。

特に雑誌の縮小は書店にとって大きな問題です。

以前の町の書店では、書籍だけでなく、

  • 週刊誌
  • 月刊誌
  • 漫画雑誌
  • 学習雑誌
  • 趣味雑誌

などを定期的に買う顧客が重要でした。

この需要が減ると、来店頻度そのものが低下します。


書店経営を人口だけで説明してはいけない

地方書店の撤退は、

人口減少 ↓ 客が減る ↓ 閉店

だけで説明できません。

書店経営を簡単に表すなら、

書店利益 =書籍・雑誌等の売上 -仕入関連費 -人件費 -家賃 -電気料金 -物流費 -店舗維持費 -その他経費

となります。

人口が減れば売上にはマイナスですが、それだけではありません。

インターネット通販、電子書籍、コンビニエンスストアなどとの競争があります。

さらに地方では、

「町全体では本を買う人がいる」

ことと、

「1店舗を維持できるだけの売上が集中する」

ことは同じではありません。


外房では書店が地域中心都市へ集まりやすい

2026年8月時点で確認できる外房の代表的な書店を見ると、地域差が明確です。

茂原市には蔦屋書店茂原店があります。

館山市には宮沢書店本店や宮沢書店TSUTAYA館山店があります。

鴨川市には鴨川書店やTSUTAYA鴨川店があります。

いすみ市では井上書店、土屋鍾文堂、伊丹屋などの書店が確認できます。

勝浦市にも既存の書店があります。

御宿町にも地域の書店が確認できます。

一宮町には小規模な独立系書店も存在します。

つまり、

「外房にはもう書店がない」

という表現は正確ではありません。

一方、

どの町にも大型書店があり、多数の新刊から自由に選べる環境がある

とも言えません。


外房の書店問題は「ゼロか一か」だけでは測れない

書店については、

書店が存在する =1

存在しない =0

という評価だけでは不十分です。

実際の利便性は、

書店アクセス =店舗数 ×品揃え ×営業時間 ×交通利便性 ×利用者の移動能力

のような要素で決まります。

これも公式指標ではなく、分析のための概念です。

例えば町内に1軒の書店があっても、

  • 欲しい専門書がない
  • 新刊の種類が少ない
  • 自動車がなければ行けない

なら、大都市の書店とは機能が異なります。

逆に小規模書店でも、

  • 教科書
  • 学習参考書
  • 地域資料
  • 文具
  • 地元学校への納品

などを扱うことで、地域では重要な役割を果たしている場合があります。


小さな書店には大型店とは違う役割がある

地方の小規模書店を、

「大型書店より品揃えが少ないから不要」

と評価するのも適切ではありません。

地域書店には、

  • 学校教材
  • 教科書
  • 地域出版物
  • 文具
  • 地域住民からの取り寄せ
  • 行政・学校との取引

など、大型店とは異なる機能があります。

特に高齢者の場合、インターネット通販や電子書籍が使えるとは限りません。

したがって、

Amazonなどがある =地域書店が不要

という関係にはなりません。


ただし小規模書店を公費だけで維持するのも容易ではない

一方で、

「文化的に必要だから書店を補助金で維持すればよい」

という考え方にも限界があります。

民間書店を維持するには継続的な売上が必要です。

書店1店舗を維持する年間必要売上を考えると、

必要売上高 =固定費 ÷粗利益率

という関係があります。

家賃、人件費、光熱費などが存在する以上、一定以上の販売量がなければ営業を続けることはできません。

人口数千人規模の自治体すべてに大型書店を復活させる政策は、現実性が高いとは言えません。


では外房の図書館はどうなっているのか

ここから公共図書館を見ます。

千葉県統計年鑑の2023年度公共図書館統計では、外房・南房総地域に、

  • 茂原市立図書館
  • 勝浦市立図書館
  • 館山市図書館
  • 鴨川市立図書館
  • 南房総市図書館
  • 大多喜町立大多喜図書館天賞文庫

などがあります。

一方、

  • 一宮町
  • 睦沢町
  • 長生村
  • 白子町
  • 長柄町
  • 長南町
  • 御宿町

などでは、公民館や文化施設内の図書室が読書サービスを担っていました。

そして当時のいすみ市も、大原・岬・夷隅の各公民館図書室を中心とする体制でした。

この構造が2026年に変化しました。


いすみ市に2026年7月、市として初めて図書館が開館

いすみ市では2026年7月1日、大原文化センター2階に「いすみ市図書館」が開館しました。

これは重要な変化です。

それまでいすみ市の公共読書施設は公民館図書室を中心としていました。

新しい図書館では、開館時間が午前9時から午後7時となっています。

一方、公民館図書室は午前9時から午後5時です。

図書・雑誌は合わせて10冊まで、3週間借りることができます。

さらに、市内所蔵資料を予約し、図書館だけでなく近くの公民館図書室で受け取る仕組みもあります。

つまり、

大原に中央的図書館 +岬・夷隅の図書室

というネットワーク型に変わったと考えることができます。


いすみ市図書館の本当の意味は建物を一つ増やしたことではない

図書館新設というと、

「立派な建物ができた」

ことが注目されがちです。

しかし地域サービスとして重要なのは建物そのものではありません。

いすみ市の場合、

中央施設 +地域図書室 +蔵書検索 +予約 +取り寄せ

を組み合わせたことに意味があります。

これは人口密度の低い地域では重要です。

市域が広い自治体で、

「全住民が中央図書館まで行く」

ことを前提にするのは現実的ではありません。


外房の図書館規模には大きな差がある

2023年度の千葉県統計年鑑によると、主な施設の蔵書数は次のようになっていました。

施設 蔵書冊数 年間貸出冊数
茂原市立図書館 約23.5万冊 約21.9万冊
館山市図書館 約16.3万冊 約11.2万冊
南房総市図書館 約13.6万冊 約7.2万冊
鴨川市立図書館 約10.6万冊 約10.8万冊
大多喜図書館天賞文庫 約5.0万冊 約3.7万冊
勝浦市立図書館 約4.1万冊 約2.8万冊
当時のいすみ市大原公民館 約5.7万冊 約3.7万冊
長生村文化会館 約3.8万冊 約1.0万冊
睦沢町中央公民館図書室 約3.0万冊 約1.5万冊
長柄町公民館図書室 約2.5万冊 約1.8万冊
白子町青少年センター図書室 約1.6万冊 約0.5万冊
一宮町まちの図書室 約1.5万冊 約1.4万冊
長南町中央公民館 約0.9万冊 約0.2万冊
御宿町公民館 約0.6万冊 約0.2万冊

※2023年度の千葉県統計年鑑「公共図書館」を基礎として整理。2026年現在の蔵書数ではないため、新設・移転・購入・除籍によって現在とは異なる。

この表からも、同じ「図書館・図書室」と呼ばれる施設でも規模が大きく違うことが分かります。


蔵書数だけで図書館を評価してはいけない

ただし、

蔵書20万冊 > 蔵書5万冊

だから前者が5倍優れている、というわけではありません。

重要なのは、

  • 新しい本が継続して入るか
  • 必要な本を探せるか
  • 他館から取り寄せられるか
  • 専門職員に相談できるか
  • 子どもが利用できるか
  • 高齢者が行けるか
  • 学習スペースがあるか
  • 開館時間が利用者に合うか

です。

地方の小規模図書室では、すべての分野の本を大量に持つことはできません。

そこで重要になるのが図書館間のネットワークです。


千葉県では県立図書館から本を取り寄せられる

千葉県では、市町村立図書館や読書施設と県立図書館の間で資料を貸し借りする仕組みがあります。

これは外房の小規模自治体にとって重要です。

例えば、

自分の町の図書室にはない ↓ 県立図書館・他自治体から取り寄せる ↓ 近くの図書室で受け取る

という仕組みが機能すれば、

「小さな町だから数千冊しか利用できない」

という状態をある程度改善できます。

したがって地方図書館では、

自館蔵書数

だけではなく、

利用者がアクセス可能な図書館ネットワーク全体の蔵書

を見る必要があります。


御宿町のような小規模自治体ではネットワークの価値が大きい

御宿町の2023年度統計では、公民館の蔵書規模は約5,900冊でした。

単独の図書館として見れば大きな規模ではありません。

しかし現在の御宿町公民館では、千葉県立図書館資料の取り寄せも可能です。

また、冷暖房やWi-Fi(Wireless Fidelity・無線通信によるインターネット接続環境)があり、学習・読書スペースとしても利用されています。

ここから重要なことが分かります。

小規模自治体では、

巨大図書館を建設する

ことだけが選択肢ではありません。

小規模図書室 +県立図書館 +他市町村図書館 +電子資料

という方法もあります。


茂原市では図書館を商業施設へ移転した

茂原市立図書館は2025年3月21日、茂原ショッピングプラザアスモ内へ移転しました。

これは地方図書館の将来を考えるうえで興味深い例です。

従来の図書館は駅前のサンヴェルビルにありました。

移転先は商業施設です。

商業施設型図書館には、

  • 大きな駐車場
  • 買い物との組み合わせ
  • 子ども連れでの利用
  • 高齢者の利用
  • 建物の共同利用

などの利点があります。

特に自動車依存度の高い外房では、

「駅から近いこと」

だけがアクセスの良さとは限りません。


図書館とショッピングセンターの組み合わせは外房と相性がよい可能性がある

外房の生活では、

スーパー +ドラッグストア +飲食 +銀行ATM(Automated Teller Machine・現金自動預払機) +図書館

などを一度の移動で利用できれば、自動車移動の回数を減らせます。

高齢化地域ではこの効果は無視できません。

利用者移動負担を単純化すると、

生活サービス利用負担 =移動距離 ×訪問回数

と考えることができます。

複数サービスを一つの場所へ集約すれば、訪問回数を減らすことができます。

ただし、商業施設が将来撤退した場合のリスクも考えておかなければなりません。


図書館を新設すれば地域が活性化する、とは限らない

図書館をめぐっては、

「立派な図書館を作れば交流人口が増える」

という議論があります。

実際に全国には、図書館を中心とした複合施設で多数の来館者を集めている自治体があります。

しかし、

図書館建設 =地域活性化

ではありません。

図書館には、

  • 建設費
  • 賃借料
  • 職員費
  • 資料購入費
  • システム費
  • 光熱費
  • 修繕費

が必要です。

重要なのは建設時の来館者数ではなく、

20年、30年にわたり住民が使い続けられるか

です。


書店と図書館は競争相手なのか

「図書館で無料で本を借りられるから書店が売れなくなる」

という議論もあります。

しかし、両者の関係は単純ではありません。

図書館利用者は本への関心が高い人も多く、図書館で知った作家の本を購入することもあります。

一方でベストセラーを大量に貸し出せば、購入需要の一部と競合する可能性も否定できません。

したがって、

図書館 対 書店

という二者択一ではなく、

地域全体で本に触れる人口を維持する

という視点が重要です。


地方では書店と図書館の連携に意味がある

地方では、

図書館が地域書店から本を購入する

ことにも一定の意味があります。

図書館にとっては資料調達であり、地域書店にとっては売上になります。

また、

  • 図書館イベントで地域書店が販売
  • 地域作家の紹介
  • 郷土資料コーナー
  • 読書会
  • ビブリオバトル
  • 子どもの読み聞かせ

なども考えられます。

ただし、これによって地域書店の経営問題がすべて解決するわけではありません。

自治体図書館の年間購入額だけで一般書店を維持できるとは限らないからです。


電子書籍は地方の情報格差を小さくできる

地方にとって電子書籍には大きな利点があります。

物理的な距離がなくなるからです。

電子図書館なら、

自宅 ↓ インターネット ↓ 電子資料

という形で利用できます。

特に、

  • 自動車を運転できない人
  • 高齢者
  • 障害のある人
  • 山間部の住民

には意味があります。

千葉県立図書館でも電子書籍サービスが提供されており、2026年5月末時点で5,600点を超える電子資料が利用可能となっています。


ただし電子書籍ですべて解決するわけではない

電子書籍には限界があります。

すべての本が電子化されているわけではありません。

また、

  • スマートフォン
  • タブレット
  • インターネット
  • 利用者登録
  • 操作能力

が必要です。

高齢者の中には電子サービスを利用しにくい人もいます。

したがって、

電子書籍 =図書館不要

でも、

電子書籍 =書店不要

でもありません。


高齢化地域ほど「移動」が重要になる

外房では、この問題を読書だけで考えてはいけません。

今後、

免許返納 ↓ 自動車移動困難 ↓ 書店・図書館へ行けない

という問題が増える可能性があります。

特に、

店舗や図書館が10キロメートル離れている

場合、

自動車を持つ人には大きな問題でなくても、自動車を持たない人には非常に大きな距離になります。

したがって、

図書館アクセス =施設数

ではありません。

実際には、

図書館アクセス =距離 +交通手段 +開館時間 +身体条件

です。


今後の外房で大型書店が各町に増える可能性は高くない

人口動態と全国の書店数減少を考えると、

御宿町 大多喜町 長南町 長柄町 睦沢町 白子町

など人口規模の小さい自治体に、今後大型総合書店が次々と出店する可能性は高くないでしょう。

これは悲観論ではありません。

商圏規模から考えた経営上の問題です。

大型書店必要商圏 > 単独町村人口

となる場合、複数自治体を商圏として考える必要があります。


外房の書店は「生活圏単位」で考えた方がよい

今後の現実的な構造は、

茂原圏

茂原市を中心に長生郡から利用。

夷隅圏

いすみ市を中心とし、勝浦・御宿・大多喜にも地域書店が存在。

安房圏

館山・鴨川を主要な書籍購入拠点とする。

という形です。

行政区域ごとに大型店を置くよりも、

生活圏単位で一定規模の書店を維持する

方が現実的です。


一方、図書館はもう少し細かい配置が必要

書店と違って公共図書館には社会教育という役割があります。

したがって、

「人口が少ないから全部閉鎖して中心都市の図書館だけ利用すればよい」

とも言い切れません。

子どもや高齢者は自由に自動車で移動できないからです。

したがって外房では、

中心図書館 +地域図書室 +学校図書館 +図書館間貸借 +電子図書館

という構造が合理的です。


いすみ市方式は外房の一つの現実的モデルになり得る

2026年に始まったいすみ市の方式は興味深いものです。

大原に市立図書館を置き、

岬・夷隅には既存の公民館図書室を残す。

さらに、蔵書検索・予約を利用して近くの施設で受け取れるようにする。

これは、

すべての地域に大規模図書館を建設する

わけでも、

中央図書館だけに集約する

わけでもありません。

中央 +分散拠点

という方式です。

人口密度の低い自治体では合理性があります。


今後の図書館に必要なのは「本の倉庫」以上の役割

人口減少が進む地域で図書館を維持するには、

「本が並んでいる施設」

だけでは利用価値が弱くなる可能性があります。

今後は、

  • 読書
  • 学習
  • 調査
  • インターネット利用
  • 地域資料
  • 子育て
  • 高齢者の居場所
  • 市民活動

などを組み合わせる必要があります。

ただし、

何でも図書館に入れればよい

という意味ではありません。


図書館の役割を広げすぎる危険もある

図書館に、

観光 カフェ 交流 子育て イベント コワーキング

などをすべて求める議論があります。

しかし、本来の図書館機能が弱くなってしまえば本末転倒です。

図書館の基本機能は、

  • 資料収集
  • 保存
  • 貸出
  • 調査支援
  • 情報提供

です。

交流施設として人気があっても、必要な資料を探せないなら図書館として十分とはいえません。


今後、重要になるのは蔵書数より「アクセス可能資料数」

地方図書館では、今後この考え方が特に重要になります。

例えば小さな図書室に2万冊しかなくても、

県立図書館 +周辺市町村 +電子書籍

を利用できれば、実際に利用可能な資料ははるかに多くなります。

したがって、

地域読書資源 =自館蔵書 +相互貸借可能蔵書 +電子資料

として考える方が合理的です。

これは本記事での独自整理で、公式指標ではありません。


外房の書店と図書館を維持する現実的な5つの方向

1 地域中心都市の書店を維持する

各町に大型店を復活させるより、

茂原 いすみ 館山 鴨川

などの地域中心都市で一定規模の書店を維持する方が現実的です。


2 小規模書店は専門性を持つ

小規模店が大型店と品揃えだけで競争するのは難しくなっています。

そこで、

  • 地域本
  • 文芸
  • 子どもの本
  • 教科書
  • 学習参考書
  • 独立系出版物

など、地域ごとの特色を持つ方法があります。


3 図書館はネットワーク化する

単独施設ですべてを保有しようとせず、

県立図書館 +市町村図書館 +公民館図書室

を接続します。


4 電子資料を補完的に利用する

紙を廃止するのではなく、

紙 +電子

で利用機会を増やします。


5 図書館を生活動線の中へ置く

茂原市のような商業施設への配置は、その一つの方法です。

買い物と図書館利用を同時に行える場所は、自動車依存地域では一定の合理性があります。


現実性の低い主張

外房の書店・図書館問題について、次のような主張には注意が必要です。

「ネット通販があるから書店はいらない」

高齢者、子ども、地域文化、実際に本を見て選ぶ機能を無視しています。

「図書館があれば書店はいらない」

購入と貸出は役割が異なります。

「すべての町に大型書店を誘致すべきだ」

人口・商圏から成立しない可能性があります。

「立派な図書館を建てれば地域活性化する」

建設費だけでなく長期運営費を見る必要があります。

「電子図書館なら建物はいらない」

デジタル利用が難しい住民もいます。

「書店を補助金で支援すれば維持できる」

補助終了後の採算が必要です。


書店がなくなることには文化以外の問題もある

書店は文化施設として語られがちですが、経済的な側面もあります。

書店では、

「目的の本を買う」

だけではありません。

棚を見ることによって、

知らなかった本 ↓ 関心 ↓ 購入

という偶然の発見があります。

インターネットでは利用履歴に基づく推薦が中心になりやすいのに対し、書店では自分の関心外の本を偶然見る機会があります。

これは数値化しにくい価値です。

ただし、価値があることと、事業として黒字になることは別問題です。


図書館にも同じ問題がある

図書館についても、

社会的に必要 ≠ どの施設規模でも維持可能

です。

図書館の社会的価値と財政負担は両方を見る必要があります。

図書館の社会的便益を概念的に表すなら、

図書館便益 =資料利用価値 +学習機会 +情報格差縮小 +子どもの読書支援 +地域資料保存 +居場所機能 -運営費用

となります。

これも公式の計算式ではありません。

重要なのは、

「赤字だから不要」

でも、

「文化施設だから費用を考えなくてよい」

でもないということです。


外房の今後は「一つの大型施設」ではなく「ネットワーク」にある

外房は人口密度が低く、市町村が広く分散しています。

この地域条件を考えると、

大型書店1店 大型図書館1館

ですべてを解決するのは難しいでしょう。

現実的なのは、

地域書店 +市町村図書館 +公民館図書室 +学校図書館 +県立図書館 +電子書籍 +インターネット通販

を組み合わせることです。


現実的な結論~外房で本へのアクセスをどう残すか

外房の書店と図書館を調べると、二つの異なる流れが見えてきます。

民間書店については、全国的な店舗減少が続いています。

2025年度末には全国の登録書店数が1万店を下回りました。

人口減少が進む外房だけが、この流れから完全に逃れることは難しいでしょう。

今後は、

各自治体に大型書店を維持する構造から、茂原・いすみ・館山・鴨川など地域中心地の書店を周辺地域の住民も利用する構造

が一層強まる可能性があります。

一方、公共図書館では別の動きがあります。

茂原市では2025年に図書館を商業施設へ移転しました。

いすみ市では2026年7月に、市として初めて市立図書館が開館しました。

これは地方の読書環境が単純に縮小しているわけではなく、

施設の再配置とネットワーク化が進んでいる

ことを示しています。


外房の課題は「本がない」ことより「本まで到達できるか」である

今後、高齢化と人口減少が進む外房では、

蔵書が何冊あるか

だけでなく、

住民が実際にその本へ到達できるか

が重要になります。

本へのアクセスを阻害するものは、

本の不足だけではありません。

  • 距離
  • 自動車を運転できるか
  • 開館時間
  • インターネット利用能力
  • 身体状況

なども関係します。

したがって、今後の外房で必要なのは、

「豪華な図書館を作ること」

でも、

「町の本屋を昔の数まで復活させること」

でもありません。

より現実的なのは、

地域中心都市には持続可能な書店を残し、小規模自治体では図書館・図書室を維持しながら、県立図書館、周辺自治体、電子資料を結び、本へのアクセスを地域全体で保証すること

です。

書店の存在と図書館の存在を別々に考えるのではなく、

住民が「読みたい本を知り、探し、手に取ることができる仕組み」をどこまで維持できるか。

これが、人口減少が進む外房で書店と図書館の将来を考える際の、本質的な問題ではないでしょうか。

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地方のスーパーはなぜ撤退するのか~人口減少だけでは説明できない店舗経営の構造

地方のスーパーが閉店すると、「人口が減ったから仕方がない」と説明されることがあります。

確かに、商圏人口の減少は店舗経営に大きな影響を与えます。しかし、人口が減少している地域のスーパーがすべて撤退するわけではありません。反対に、人口が比較的維持されている地域でも、競争激化、人手不足、建物の老朽化、物流費の上昇などを理由に店舗が閉鎖されることがあります。

地方スーパーの撤退は、人口だけでなく、次の要素が重なって起こります。

  • 商圏内の人口と世帯数
  • 高齢化と1世帯当たりの購入量
  • 来店客数と客単価
  • 競合店との距離
  • ドラッグストアやコンビニエンスストアとの競争
  • 人件費と採用難
  • 電気料金と冷蔵・冷凍設備の維持費
  • 商品配送にかかる物流費
  • 生鮮食品や総菜の値引き・廃棄
  • 建物や設備の更新費
  • 本部が店舗に求める収益水準
  • 店舗網全体の再編方針

つまり、地方スーパーの撤退は、単純な「人口減少の結果」ではありません。

人口減少によって売上の上限が下がる一方で、人件費、電気料金、物流費、設備更新費などの固定的な負担が下がりにくくなり、最終的に必要な利益を確保できなくなる問題です。

最初に結論

地方スーパーが撤退する最大の構造的理由は、次の関係にあります。

店舗利益 =売上高 -商品仕入原価 -人件費 -電気・燃料費 -物流費 -建物・設備費 -廃棄・値引き損失 -その他の経費

人口が減少すると、店舗の売上高は減少しやすくなります。

しかし、売上が10%減少しても、従業員数、冷蔵設備、照明、配送回数、建物面積などを同じ10%だけ減らせるとは限りません。営業を続けるために必要な最低限の費用が残るからです。

さらに、近年は食品価格の上昇によって売上高が増えていても、販売数量や利益まで増えているとは限りません。

経済産業省の商業動態統計によると、2025年のスーパー販売額は前年比4.7%増加し、1店舗当たり販売額と店舗数も増加しました。しかし、これは全国集計です。都市部の新規出店や大型店の成長を含むため、人口減少地域にある個別店舗の経営改善を示すものではありません。

したがって、地方スーパーの問題を理解するには、

「全国のスーパー市場が成長しているか」

ではなく、

「その店舗の商圏で、必要な来店客数と粗利益を確保できているか」

を見る必要があります。

スーパーの売上は何で決まるのか

スーパーの売上高は、概念的には次のように分解できます。

売上高 =1日当たり来店客数 ×1人当たり購入額 ×営業日数

例えば、1日1,500人が来店し、1人当たり2,000円購入する店舗では、1日の売上高は約300万円です。

ところが、来店客数が1,200人に減少すると、客単価が変わらなければ売上高は約240万円となります。

1日当たりの差は60万円です。

年間360日営業すると仮定すれば、単純計算では年間約2億1,600万円の売上差になります。

実際には、値上げによって客単価が上昇したり、営業時間や品ぞろえを変更したりするため、売上高がこのまま減少するとは限りません。しかし、客数の減少が長期間続けば、店舗の採算を維持することは難しくなります。

全国スーパーマーケット協会の2025年版白書では、2024年の年次統計調査における中央値として、平日の1日客数が1,675人、客単価が2,191円、土日祝日の1日客数が1,800人、客単価が2,555円と示されています。これらは全国の調査対象店舗の中央値であり、地方の小規模店舗にそのまま当てはめることはできませんが、スーパーが相当数の来店客を前提にした事業であることは分かります。

人口減少だけでは不十分な理由

人口と来店客数は同じ割合では減らない

商圏人口が10%減少したからといって、店舗の来店客数が必ず10%減るわけではありません。

競合店が閉店すれば、残った店舗に利用者が集中することがあります。反対に、新しいドラッグストアや大型店が開業すれば、人口が変わらなくても来店客数が減ることがあります。

来店客数は、おおむね次の要素によって決まります。

来店客数 =商圏人口 ×来店可能率 ×店舗選択率 ×来店頻度

商圏人口が維持されていても、自動車で別の市町村に買い物へ行く人が増えれば、地元店舗の店舗選択率は下がります。

人口が減少していても、競合店が少なく、地域住民から支持されている店舗なら、一定の利用者を確保できる可能性があります。

高齢化すればスーパーの需要が増えるとは限らない

高齢者は食料品を必要とするため、高齢化地域でもスーパーの需要はなくなりません。

一方で、高齢化によって次の変化が起こることがあります。

  • 1世帯当たりの人数が減る
  • 1回当たりの購入量が減る
  • 自動車を運転できない人が増える
  • 重い商品を持ち帰りにくくなる
  • 店舗までの移動回数が減る
  • 宅配、生協、移動販売へ移行する
  • 調理済み食品の需要が増える
  • 少量商品への需要が増える

高齢者世帯が増えると、総菜や少量包装への需要は高まる可能性があります。しかし、少量包装は包装、加工、品出しなどの手間が相対的に大きくなることがあります。

したがって、高齢化は単なる需要減少ではなく、需要内容の変化として捉える必要があります。

全国売上の増加と地方店舗の撤退は矛盾しない

全国のスーパー販売額が増えているのに、なぜ地方のスーパーは閉店するのでしょうか。

この二つは矛盾しません。

全国の販売額は、次の要因でも増加します。

  • 食品価格の上昇
  • 都市部への新規出店
  • 大型店舗の増加
  • 高付加価値商品の販売
  • 総菜や冷凍食品の需要増加
  • 一部企業への売上集中
  • 店舗統合後の大型店への顧客集中

仮に販売数量が変わらなくても、平均価格が5%上がれば、名目上の売上高は約5%増えます。

しかし、仕入価格も上昇していれば、店舗の利益が同じ割合で増えるわけではありません。

重要なのは売上高そのものではなく、粗利益です。

粗利益 =売上高 -商品仕入原価

さらに、店舗が最終的に残せる利益は、粗利益から人件費、電気料金、物流費、設備費などを差し引いた金額です。

売上高が増えていても、費用の増加がそれを上回れば、店舗の利益は減少します。

原因1~商圏人口と世帯構成の変化

地方スーパーにとって、人口減少は売上の上限を下げる要因です。

特に影響が大きいのは、単なる人口総数ではなく、店舗周辺の商圏人口です。

同じ市町村の中でも、人口が比較的集まる中心部と、住宅が分散する周辺部では店舗経営の条件が異なります。

例えば、市町村全体の人口が2万人であっても、住民が広い範囲に分散していれば、店舗までの移動距離が長くなります。住民が隣接自治体の大型店を利用している場合、市町村人口のすべてが地元店舗の顧客になるわけではありません。

また、人口が同じでも、世帯構成によって食品需要は変わります。

  • 子育て世帯が多い地域
  • 単身高齢者が多い地域
  • 観光客が多い地域
  • 別荘や二地域居住が多い地域
  • 昼間人口が多い地域
  • 通勤によって昼間人口が減る地域

これらでは、来店時間、購入量、需要商品が異なります。

地方店舗を分析するときは、市町村人口だけではなく、店舗から一定時間で到達できる範囲の人口、世帯数、年齢構成、昼間人口、競合店舗を確認する必要があります。

原因2~ドラッグストアとの競争

近年、地方の食品スーパーにとって大きな競争相手になっているのがドラッグストアです。

ドラッグストアは医薬品、化粧品、日用品だけでなく、飲料、菓子、調味料、冷凍食品、牛乳、卵などを販売する店舗が増えています。

2025年の経済産業省の統計では、ドラッグストア販売額が前年比5.5%増加し、食品や調剤医薬品などが増加要因となりました。

ドラッグストアは、医薬品や化粧品など食品以外の商品からも利益を得られます。そのため、一部の食品を低価格で販売し、来店を促す戦略を取ることができます。

これに対して、食品スーパーは、生鮮食品や総菜の売上比率が高く、鮮度管理、加工、値引き、廃棄などの負担があります。

ドラッグストアが地域に出店すると、住民が食品をすべて移行するわけではありません。しかし、牛乳、飲料、菓子、冷凍食品、調味料など、保存しやすい商品がドラッグストアへ流れる可能性があります。

その結果、スーパーには管理が難しい生鮮食品や総菜の販売負担が残り、利益を得やすい商品の売上が減ることがあります。

原因3~大型店と地域外店舗への顧客流出

地方では、自動車を使って買い物をする世帯が多いため、行政区域の境界は必ずしも商圏の境界になりません。

住民は、町内の店舗よりも、

  • 品ぞろえが多い
  • 価格が安い
  • 駐車場が広い
  • 他の店舗と一緒に利用できる
  • 飲食店や医療機関にも立ち寄れる

といった条件を持つ近隣都市の大型店を選ぶことがあります。

道路が整備され、移動時間が短くなることは住民にとって便利です。一方、地元店舗にとっては、商圏外への顧客流出を促す場合があります。

このため、交通利便性の向上が、必ずしも地元商業の維持につながるわけではありません。

道路整備によって、地域外から顧客を呼び込める店舗もありますが、品ぞろえや価格で劣る店舗では、逆に顧客が外へ流出する可能性があります。

原因4~人手不足と人件費

スーパーは、多くの作業を人に依存しています。

主な業務には、次があります。

  • 商品の荷受け
  • 品出し
  • 発注
  • 在庫管理
  • レジ対応
  • 生鮮食品の加工
  • 総菜調理
  • 清掃
  • 値引き
  • 廃棄処理
  • 衛生管理
  • 売場変更
  • 顧客対応

セルフレジや自動発注を導入しても、すべての作業を無人化できるわけではありません。

全国スーパーマーケット協会の調査では、人手不足への採用対策に取り組む企業の割合が高く、2023年調査では採用活動に関する人手不足対策の実施率が98.1%でした。また、同調査では、同じ売場面積区分でも、都市圏店舗の従業員1人当たり年間売上高が地方圏を上回る傾向が示されています。

これは、地方店舗では従業員1人当たりの売上を確保しにくい可能性を示します。ただし、調査対象や店舗規模による違いがあるため、すべての地方店舗に当てはまるとは限りません。

地方では若年人口が少なく、早朝、夕方、土日、祝日に働ける人材を確保しにくい場合があります。

人手が不足すると、店舗は次の対応を迫られます。

  • 営業時間を短縮する
  • 売場面積を縮小する
  • 加工商品を減らす
  • 総菜の種類を減らす
  • レジを減らす
  • 本部や他店から応援を出す
  • 時給を引き上げる
  • 省力化設備を導入する

しかし、省力化設備には初期投資と維持費が必要です。小規模店舗では、投資額を回収できないこともあります。

原因5~電気料金と冷蔵・冷凍設備

スーパーは、一般の小売店と比べて、冷蔵・冷凍設備を長時間稼働させる必要があります。

冷蔵ケース、冷凍ケース、バックヤードの冷蔵庫、冷凍庫、空調、照明、調理設備などが必要です。

電気料金は、単純な使用量だけでなく、契約電力、燃料費、託送料金、再生可能エネルギー発電促進賦課金などの影響を受けます。資源エネルギー庁によると、自由化後の電気料金には、発電・調達費、人件費などのほか、送配電網の利用料金である託送料金や各種公租公課などが含まれます。

店舗の売上が減っても、食品を安全に保存するために冷蔵・冷凍設備を停止することはできません。

営業時間を短縮しても、冷蔵設備は閉店中も動かす必要があります。

そのため、来店客数が少ない店舗ほど、1人の顧客または1円の売上に対する電力費の割合が高くなりやすい構造があります。

原因6~地方物流の非効率性

スーパーでは、商品を継続的に配送する必要があります。

特に、生鮮食品、牛乳、豆腐、総菜材料などは、在庫を長期間持ちにくいため、一定の配送頻度が必要です。

物流費は、次の要素から構成されます。

物流費 =車両費 +燃料費 +運転者の人件費 +荷役費 +物流施設費 +配送管理費

人口密度が低い地域では、1回の配送で納品できる商品量が少なくなることがあります。

都市部であれば、短い距離で複数店舗へ配送できます。地方では店舗間の距離が長く、1店舗当たりの配送量も少ないため、商品1個当たりの物流費が高くなりやすくなります。

チェーン全体で見れば、遠隔地にある売上規模の小さい店舗を維持するために、専用の配送経路や長距離輸送が必要になることがあります。

店舗自体がわずかに黒字でも、物流網全体の効率を考えると、閉店や店舗統合が選ばれる場合があります。

原因7~生鮮食品と総菜の廃棄・値引き

食品スーパーは、生鮮食品や総菜を扱うことで、コンビニエンスストアやドラッグストアとの差別化を図っています。

一方、生鮮食品や総菜には、売れ残りの問題があります。

需要を正確に予測できなければ、次のどちらかが起こります。

  • 商品が足りず、販売機会を失う
  • 商品が余り、値引きや廃棄が増える

人口が少ない地域や、曜日・天候・観光客数による変動が大きい地域では、需要予測が難しくなる場合があります。

農林水産省によると、2024年度の事業系食品ロスは237万トンで、このうち食品小売業は48万トンでした。これはスーパーだけの数字ではありませんが、食品小売業全体で、売れ残りなどによる食品ロスが一定規模存在することを示します。

売れ残った商品を値引き販売すれば、廃棄量は減らせます。しかし、値引きによって粗利益は小さくなります。

また、値引き時刻が固定化すると、消費者が値引きを待つようになり、通常価格での販売が減る可能性もあります。

重要なのは、廃棄をゼロにすることではなく、欠品による機会損失と、過剰在庫による値引き・廃棄損失の合計を小さくすることです。

原因8~店舗と設備の老朽化

地方スーパーの撤退理由として見落とされやすいのが、建物と設備の更新問題です。

営業を継続するには、次の設備を更新する必要があります。

  • 冷蔵・冷凍ケース
  • 空調設備
  • 照明
  • レジシステム
  • 発注・在庫管理システム
  • 厨房設備
  • 防火設備
  • 給排水設備
  • 屋根・外壁
  • 駐車場舗装
  • 看板
  • 非常用電源
  • バリアフリー設備

日常の営業では利益が出ていても、数億円規模の改装や建て替えが必要になれば、企業は将来の投資回収可能性を検討します。

投資回収年数は、概念的には次のように表せます。

投資回収年数 =更新投資額 ÷更新後の年間利益増加額

例えば、改装に3億円必要で、改装による年間利益の増加が2,000万円と見込まれる場合、単純な回収年数は15年です。

しかし、商圏人口が今後も減少すると予測される地域では、15年間にわたって利益を維持できる保証はありません。

そのため、現在赤字だから閉店するのではなく、次の更新投資を回収できないため閉店することがあります。

原因9~賃貸借契約と土地・建物の問題

店舗が自社所有ではなく賃借物件の場合、契約更新や賃料改定が閉店の契機になることがあります。

また、店舗建物の所有者と運営会社が異なる場合、運営会社が営業継続を希望しても、建物所有者が建て替えや売却を選ぶ可能性があります。

一方、自社所有店舗であっても、建物の維持費、固定資産税、解体費、跡地利用などを含めて判断されます。

閉店理由が「契約満了」「諸般の事情」としか公表されない場合、公開情報だけで採算悪化を断定することはできません。

原因10~チェーン全体の店舗再編

チェーン店では、個別店舗だけでなく、企業全体の資本効率によって存廃が決まります。

本部は、限られた人材と資金を、より成長性の高い店舗に配分しようとします。

例えば、ある地方店舗がわずかに黒字でも、その店舗を閉じて、従業員や設備投資資金を都市部の大型店へ移した方が利益を増やせると判断される場合があります。

企業が比較するのは、単なる黒字・赤字ではありません。

  • 売上高営業利益率
  • 投下資本利益率
  • 改装投資の回収期間
  • 店舗当たり売上高
  • 従業員1人当たり売上高
  • 売場面積当たり売上高
  • 将来の商圏人口
  • 競合店の出店計画
  • 物流網との位置関係

このため、利用者が多いと感じている店舗でも、本部の基準を満たさず閉店することがあります。

小さな店舗ほど維持しやすいとは限らない

売場面積を小さくすれば、家賃や電気料金を抑えられる可能性があります。

しかし、小規模店舗には別の不利があります。

  • 大量仕入れの効果が小さい
  • 商品数を確保しにくい
  • 1人の欠勤の影響が大きい
  • 店長や管理者の費用を分散しにくい
  • 設備投資を売上で回収しにくい
  • 配送1回当たりの商品量が少ない
  • 値引き・廃棄を吸収しにくい

全国スーパーマーケット協会の2023年調査では、売場面積800平方メートル未満の店舗は、従業員1人当たり年間売上高が他の面積区分よりやや低い傾向が示されました。

小型化は有力な対応策ですが、単に店舗を小さくすれば採算が改善するとは限りません。

観光客が多ければ維持できるのか

外房のような観光地域では、夏季、週末、連休に来訪者が増えます。

観光需要はスーパーの売上を支える可能性があります。飲料、酒類、総菜、肉、魚、氷、行楽用品などの需要が増えるためです。

一方で、観光需要には次の問題があります。

  • 季節変動が大きい
  • 天候に左右される
  • 平日の売上を支えにくい
  • 繁忙期だけ人員を増やす必要がある
  • 需要予測を外すと廃棄が増える
  • 観光客が地域外の大型店で購入してから来訪することがある

年間数日や数週間の繁忙期だけでは、年間を通した固定費を支えられないことがあります。

観光客数だけでなく、地域内で実際に食料品を購入する割合と、年間を通した売上への寄与を確認する必要があります。

競合店がなくなれば残った店舗は安泰なのか

競合店の閉店は、残った店舗に顧客が集中する効果を持ちます。

しかし、競合店がないことが、必ずしも店舗の存続を保証するわけではありません。

地域全体の需要が、店舗を維持する最低水準を下回っていれば、独占状態でも採算を確保できないことがあります。

また、競合店がなくなった後に価格を大幅に上げれば、住民が遠方の大型店、宅配、インターネット通販へ移行する可能性があります。

スーパーには、地域内の競争だけでなく、地域外店舗や異業態との競争があります。

ネットスーパーは代替になるのか

ネットスーパーや食品宅配は、店舗まで移動できない人にとって有効な手段です。

しかし、地方では次の制約があります。

  • 配達区域外となる
  • 配達時間を指定しにくい
  • 配送料がかかる
  • 最低注文額が設定される
  • 当日配送に対応しない
  • 生鮮食品を自分で選べない
  • インターネット操作が必要になる
  • クレジットカードなど支払方法が限られる
  • 欠品時に代替商品を選びにくい

配送密度が低い地域では、1件当たりの配送費が高くなります。

ネットスーパーも、店舗型スーパーと同じように、需要密度の問題から逃れられません。

移動販売は撤退後の解決策になるのか

移動販売は、店舗へ行けない住民に商品を届ける有力な手段です。

一方、移動販売車には、次の費用がかかります。

移動販売の利益 =商品販売額 -商品仕入原価 -車両費 -燃料費 -人件費 -保冷設備費 -決済費用 -売れ残り損失

集落が分散している地域では、移動時間が長くなり、1時間当たりに対応できる利用者数が少なくなります。

利用者にとって必要性が高くても、事業者にとって採算が合うとは限りません。

そのため、移動販売を持続させるには、

  • 既存店舗との連携
  • 福祉サービスとの共同運行
  • 自治体による運行支援
  • 複数地区を組み合わせた巡回
  • 注文予約による廃棄削減
  • 高齢者見守りとの複合化

などが必要になることがあります。

ただし、補助金によって開始できても、運転者、車両更新、利用者数を長期間確保できなければ継続できません。

スーパー撤退が住民生活に与える影響

スーパーの閉店は、単なる店舗数の減少ではありません。

買い物距離が延びる

近隣店舗がなくなると、住民は遠方の店舗へ移動する必要があります。

自動車を運転できる人にとっては、数キロメートルの増加で済む場合があります。しかし、運転できない人には大きな影響があります。

食品価格以外の負担が増える

遠方の店舗が安くても、交通費と時間を含めると必ずしも安いとは限りません。

実質的な買い物費用 =商品代金 +燃料費・運賃 +配送料 +移動時間 +家族の送迎負担

商品の店頭価格だけでは、住民の負担を評価できません。

生鮮食品を買う頻度が下がる

買い物回数が減ると、保存しやすい食品の購入が増える可能性があります。

冷凍食品、加工食品、菓子、レトルト食品が直ちに健康へ悪影響を与えるとは限りません。しかし、生鮮食品を選択できる機会が減ることは、食生活の多様性に影響する可能性があります。

農林水産省は、食料品店の減少や高齢化により、高齢者を中心に買い物へ不便や苦労を感じる人が増えている問題を「食料品アクセス問題」と位置づけています。

家族の送迎負担が増える

本人が運転できない場合、家族が買い物を代行したり、店舗へ送迎したりする必要があります。

この負担は、統計上の買い物費用には表れにくいものです。

食料品アクセス困難人口という考え方

農林水産政策研究所は、食料品アクセス困難人口を、

「店舗まで500メートル以上離れ、自動車の利用が困難な65歳以上の高齢者」

として推計しています。

対象店舗には、生鮮食品店、百貨店、総合スーパー、食料品スーパー、コンビニエンスストア、ドラッグストアなどが含まれます。

ただし、この定義には注意が必要です。

500メートル以内にコンビニエンスストアがあれば、統計上はアクセス困難者に含まれない場合があります。しかし、コンビニエンスストアで、価格、品ぞろえ、容量を含めてスーパーと同等の買い物ができるとは限りません。

また、自動車を保有していても、本人が安全に運転できるとは限りません。

したがって、地域の買い物環境を評価するときは、500メートルという距離だけでなく、

  • 実際の道路距離
  • 坂道や歩道
  • 商品の品ぞろえ
  • 店舗価格
  • 荷物を運べるか
  • バスの運行本数
  • 家族の支援
  • 配達サービスの有無

まで確認する必要があります。

スーパーが残りやすい条件

地方でも、次の条件がそろえばスーパーを維持しやすくなります。

  • 一定範囲に人口が集中している
  • 競合店との差別化ができている
  • 地域外からも顧客を集められる
  • 幹線道路から入りやすい
  • 十分な駐車場がある
  • 生鮮食品や総菜に支持がある
  • 店舗規模が需要に合っている
  • 物流拠点から遠すぎない
  • 従業員を確保できる
  • 建物や設備が比較的新しい
  • 観光需要が年間売上に寄与する
  • 他店舗との配送効率が良い
  • 地域住民が継続的に利用する

特に重要なのは、商圏人口の総数だけでなく、一定時間内に来店できる顧客がどの程度いるかです。

スーパーが残りにくい条件

次の条件が重なる店舗は、存続が難しくなります。

  • 商圏人口が減少している
  • 住宅が広範囲に分散している
  • 高齢化により来店頻度が低下している
  • 近隣都市の大型店へ顧客が流出している
  • ドラッグストアとの価格競争が激しい
  • 人材を確保できない
  • 冷蔵・冷凍設備が老朽化している
  • 大規模な改装が必要である
  • 配送距離が長い
  • 売上の季節変動が大きい
  • 生鮮食品の廃棄率が高い
  • 店舗面積が需要に対して大きすぎる
  • 本部の店舗再編対象になっている

一つの条件だけで閉店が決まるとは限りません。

複数の問題が同時に発生し、更新投資の時期や契約満了をきっかけに閉店する場合が多いと考えられます。

スーパーを補助金で維持すべきか

スーパーは民間企業ですが、地方では生活インフラに近い役割を持ちます。

特に、代替店舗が遠く、自動車を運転できない住民が多い地域では、店舗の閉鎖が生活維持に直接影響します。

ただし、特定店舗へ恒常的に公費を投入する場合は、次を検討する必要があります。

  • 支援しなければ本当に撤退するのか
  • 支援額はいくらか
  • 何年間維持できるのか
  • 対象住民は何人か
  • 1人当たりの公費負担はいくらか
  • 移動販売や宅配より効率的か
  • 競合企業との公平性を保てるか
  • 店舗の経営改善策があるか
  • 経営情報をどこまで確認できるか
  • 支援終了後に存続できるか

例えば、年間3,000万円の公費を投入して、実質的な利用者が1,000人なら、単純計算で利用者1人当たり年間3万円です。

この金額が高いか安いかは、代替手段の費用と比較しなければ判断できません。

店舗維持、移動販売、買い物バス、タクシー助成、宅配支援などを同じ基準で比較する必要があります。

現実性の低い主張

人口を増やせばスーパーを維持できる

人口増加は需要を増やす可能性があります。

しかし、店舗維持に必要な規模の人口を短期間で増やすことは容易ではありません。また、移住者が必ず地元店舗を利用するとは限りません。

道の駅があれば代替できる

道の駅は農産物や地域商品を購入する場所として有効です。

しかし、肉、魚、加工食品、日用品、医薬品など、日常生活に必要な商品をすべて安定的に供給できるとは限りません。

コンビニエンスストアがあれば問題ない

コンビニエンスストアは、営業時間や立地の面で重要です。

一方、価格、容量、生鮮食品、日用品の品ぞろえでは、スーパーと同じ役割を果たせない場合があります。

ネットスーパーですべて解決できる

配達区域、配送料、注文方法、決済方法、物流採算などの制約があります。

自治体が運営すればよい

自治体が店舗を直接または間接的に支える場合でも、仕入れ、在庫管理、食品衛生、人材確保、廃棄、設備更新などの経営課題は残ります。

民間店舗の赤字が、公営化によって自動的に消えるわけではありません。

地方で現実的に取り得る対応

地域全体の生活を維持するには、スーパー1店舗を無条件に残すことだけが選択肢ではありません。

現実的には、複数の手段を組み合わせる必要があります。

店舗の小型化

需要に合わせて売場面積や商品数を縮小します。

ただし、小型化による売上減と固定費削減の効果を比較する必要があります。

営業時間の見直し

利用者が少ない時間帯を短縮し、人件費や照明・空調費を抑えます。

冷蔵設備の電力費は残るため、営業時間短縮だけで大幅な改善ができるとは限りません。

予約販売と受け取り拠点

事前注文によって需要を把握し、廃棄を減らします。

電話注文を併用すれば、インターネットを利用しない高齢者にも対応できます。

移動販売との併用

店舗を商品供給拠点とし、周辺集落へ移動販売車を運行します。

店舗単独と移動販売単独ではなく、在庫と人員を共有する方法です。

医療・介護・交通との連携

通院バス、デマンド交通、福祉サービスなどと買い物機会を組み合わせます。

ただし、目的外利用や運行制度上の制約を確認する必要があります。

複合店舗化

食品、日用品、行政手続、金融、宅配受け取り、地域交流などをまとめます。

複数の需要を集約することで、来店頻度を高められる可能性があります。

一方、業務が複雑になり、必要な人材や設備が増える可能性もあります。

自治体が確認すべきこと

自治体は、店舗の閉店が発表されてから対応するのではなく、地域の買い物環境を定期的に把握する必要があります。

確認項目としては、次が考えられます。

  • 食料品を扱う店舗の所在地
  • 地区別の人口と高齢化率
  • 店舗までの道路距離
  • 自動車を運転できない住民数
  • 路線バスとデマンド交通
  • 移動販売の曜日と区域
  • 生協・宅配・ネットスーパーの区域
  • タクシー料金
  • 家族送迎の実態
  • 店舗閉鎖時の代替店舗
  • 災害時の食料供給拠点
  • 小売・物流分野の人材確保状況

特に重要なのは、現在の店舗が閉店した場合に、次の店舗までの距離と時間がどれだけ増えるかを事前に把握することです。

住民が住宅購入・移住前に確認すべきこと

地方への移住や住宅購入では、現在スーパーがあるかだけでなく、次を確認する必要があります。

  1. 最寄りのスーパーまでの実際の道路距離
  2. 自動車を運転できなくなった場合の移動手段
  3. 第二候補のスーパーまでの距離
  4. 生協・宅配・ネットスーパーの配達区域
  5. 移動販売の運行日
  6. コンビニエンスストアとドラッグストアの品ぞろえ
  7. 冬季・荒天時の移動条件
  8. 家族に買い物を頼めるか
  9. 店舗が閉店した場合の代替手段
  10. 10年後、20年後も生活を維持できるか

現在自動車を運転できる人でも、将来の免許返納や健康状態の変化を考える必要があります。

公開資料から確認できないこと

個別店舗については、次の情報が通常公開されません。

  • 店舗単独の売上高
  • 店舗単独の営業利益
  • 廃棄率
  • 人件費率
  • 賃料
  • 電気料金
  • 設備更新額
  • 本部の撤退基準
  • 契約条件
  • 今後の閉店計画

したがって、客が少なく見える、建物が古い、競合店ができたという情報だけで、閉店の可能性を断定することはできません。

閉店理由が企業から明示されていない場合は、「人口減少が原因」「赤字店舗だった」などと断定すべきではありません。

現実的な結論

地方スーパーが撤退する理由は、人口減少だけでは説明できません。

人口減少は、店舗の売上上限を下げる重要な要因です。しかし、撤退を直接決めるのは、売上に対して人件費、物流費、電気料金、廃棄損失、設備更新費などを負担し、企業が必要とする利益を確保できるかどうかです。

全国のスーパー販売額が増加していても、地方の個別店舗が安定しているとは限りません。

食品価格の上昇によって名目売上が増えても、仕入価格や各種費用が増えれば、利益は改善しない可能性があります。

また、店舗が現在黒字でも、老朽設備の更新投資を将来の商圏人口から回収できないと判断されれば、閉店することがあります。

地方スーパーを生活インフラとして維持するには、単に「住民が必要としている」と訴えるだけでは足りません。

誰が利用するのか。 1日に何人が来店するのか。 1人がいくら購入するのか。 商品を誰が運ぶのか。 従業員を確保できるのか。 設備更新にいくら必要なのか。 赤字を誰が何年間負担するのか。

これらを具体的に検証する必要があります。

スーパーを残すことが最も合理的な地域もあれば、小型店舗、移動販売、宅配、交通支援を組み合わせた方が現実的な地域もあります。

重要なのは、すべての店舗を一律に残すことでも、市場原理だけに任せることでもありません。

地域ごとに、必要な食料供給機能を定め、その機能を最も持続可能な方法で維持することです。

データ利用上の注意

本記事で使用した販売額や店舗数は、全国または業界全体の統計です。

個別の地方店舗の売上、利益、閉店理由を直接示すものではありません。

また、経済産業省の商業動態統計は、2025年1月分に2021年経済センサス~活動調査を基礎とする水準調整が行われており、2024年12月以前の販売額との間に不連続がある点に注意が必要です。

地域や個別店舗を分析する場合は、国勢調査、住民基本台帳、経済センサス、企業の公式発表、自治体資料、交通情報などを組み合わせて判断する必要があります。

主な参考資料

  • 経済産業省「商業動態統計」
  • 経済産業省「2025年小売業販売を振り返る」
  • 全国スーパーマーケット協会「2025年版スーパーマーケット白書」
  • 全国スーパーマーケット協会「スーパーマーケット年次統計調査」
  • 農林水産省「食品アクセス問題の現状」
  • 農林水産政策研究所「食料品アクセスマップ」
  • 農林水産省「事業系食品ロス量(2024年度推計値)」
  • 資源エネルギー庁「電気料金の仕組み」
  • 総務省統計局「人口推計」

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給油・灯油・農業・災害への影響

はじめに

人口減少地域では、鉄道や路線バス、スーパー、金融機関など、日常生活を支える施設の減少が問題になります。

そのなかでも、ガソリンスタンドの減少は、自動車を利用する人だけの問題と考えられがちです。

しかし、ガソリンスタンドは、ガソリンや軽油を販売する店舗であるだけではありません。

地域によっては、次の機能を担っています。

  • 自家用車への給油
  • 農業機械への軽油・ガソリン供給
  • 漁船や作業車両への燃料供給
  • 高齢者世帯への灯油配送
  • 消防車、救急車、公用車などへの燃料供給
  • 災害時の非常用発電機への燃料供給
  • タイヤ、バッテリー、オイルなどの点検
  • 地域住民が異常を相談できる身近な自動車関連拠点

外房では、自動車が通勤、通院、買い物、介護、農業、観光などの基盤になっています。

このため、地域内のガソリンスタンドが減少すると、単に「給油場所まで遠くなる」だけでは済みません。

燃料を得るために燃料を消費するという非効率が生じ、高齢者、農家、事業者、行政機関、医療・福祉施設にまで影響が広がります。

最初に結論

外房でガソリンスタンドがなくなると、最も直接的には給油距離と所要時間が増えます。

しかし、より重大なのは、次の四つの問題です。

  1. 高齢者や移動手段を持たない世帯への灯油配送が難しくなる
  2. 農業、建設、漁業、運送などの事業継続費用が上がる
  3. 災害時に消防、医療、福祉、物流を動かす燃料供給力が弱くなる
  4. 最後に残った店舗ほど採算と地域維持の負担が集中する

一方、ガソリンスタンドを自治体が補助すれば、どの地域でも維持できるというほど単純ではありません。

人口減少、車両の燃費改善、電動車の普及、設備更新費、地下タンクの規制対応、人手不足、後継者不足が重なるためです。

したがって、現実的には、

  • すべての既存店舗をそのまま残す
  • 市場競争だけに任せる

という二択ではなく、地域に最低限必要な燃料供給拠点を選び、灯油配送、災害対応、農業用燃料、行政・福祉車両への供給を含めて維持する必要があります。

ガソリンスタンドは、人口減少地域では単なる小売店ではなく、生活と防災を支える地域インフラとして評価すべきです。

全国でガソリンスタンドが減少している

資源エネルギー庁によると、全国のSS(Service Station・サービスステーション、一般にいうガソリンスタンド)は、1994年度末の6万421か所をピークに減少を続けています。

2024年度には約2万7,000か所となり、ピーク時の半分以下に減少しています。

減少の背景には、主に次の要因があります。

  • 人口減少
  • 自動車保有台数や走行量の変化
  • 自動車の燃費改善
  • 若年人口の減少
  • 価格競争
  • 設備の老朽化
  • 地下タンクなどの更新費用
  • 経営者の高齢化
  • 後継者不足
  • 電気自動車などの普及

大規模店舗やセルフ式店舗へ需要が集中すると、販売量の少ない地域店舗は採算が悪化します。

その結果、地域内に複数あった店舗が減り、最後の1店舗に需要と地域的責任が集中することがあります。

しかし、最後の店舗だからといって、必ず経営が安定するわけではありません。

地域全体の燃料需要そのものが減っている場合、競合店舗がなくなっても必要な販売量を確保できないからです。

SS過疎地とは何か

資源エネルギー庁は、自治体内のサービスステーションが3か所以下となった市町村や、居住地から最寄りのサービスステーションまで15キロメートル以上ある地域を公表しています。

近隣にサービスステーションがない地域では、自家用車や農業機械への給油、高齢者世帯への冬季の灯油配送などに支障が生じる可能性があります。

この問題は「SS過疎地問題」と呼ばれています。

ただし、「自治体内に何店舗あるか」だけで実際の利用困難度を判断することはできません。

例えば、自治体内に3店舗あっても、特定の幹線道路沿いに集中していれば、山間部や海岸部の住民からは遠い場合があります。

反対に、自治体内の店舗数が少なくても、隣接自治体の店舗が近ければ、住民の給油距離はそれほど長くない場合があります。

必要なのは、市町村単位の店舗数だけではなく、次の条件です。

  • 居住地からの実際の道路距離
  • 営業時間
  • 定休日
  • ガソリン、軽油、灯油の取扱い
  • 灯油配送の有無
  • 農業用燃料への対応
  • 災害時の自家発電設備
  • 大型車や緊急車両への対応
  • 店舗までの公共交通
  • 隣接自治体を含む代替店舗

外房ではガソリンスタンドの役割が大きい

外房の生活は、自動車への依存度が比較的高い地域構造になっています。

鉄道駅の近くで生活の大半が完結する地域もありますが、集落、住宅地、医療機関、商業施設、行政施設が分散している地域では、自動車がないと日常生活が成立しにくくなります。

特に次のような移動では、自動車への依存が強くなります。

  • 日常の買い物
  • 病院や診療所への通院
  • 家族の送迎
  • 介護サービスの訪問
  • 通勤
  • 農地への移動
  • 資材や農産物の運搬
  • 観光客の移動
  • 宿泊施設の送迎
  • 台風や津波からの避難

この状況でガソリンスタンドが減ると、住民は給油のために遠方まで走行しなければなりません。

人口密度の高い都市では、店舗が1店なくなっても別の店舗へ移れます。

しかし、外房のように集落間の距離があり、幹線道路以外の店舗が少ない地域では、1店舗の閉店が地域全体の供給空白につながる可能性があります。

給油距離が延びると何が起きるのか

燃料を買うために燃料を使う

最寄りのガソリンスタンドまでの往復距離が10キロメートル増えたとします。

月2回給油する場合、年間の追加走行距離は、

10キロメートル×2回×12か月 =240キロメートル

です。

自動車の実燃費を1リットル当たり15キロメートルと仮定すると、給油だけのために消費する燃料は、

240キロメートル÷15キロメートル =16リットル

となります。

ガソリン価格を1リットル180円と仮定すると、燃料費だけで年間2,880円です。

往復距離が20キロメートル増えれば、単純計算で年間5,760円になります。

このほか、運転時間、車両の摩耗、事故リスクも増えます。

金額だけを見ると極端に大きくないように見えますが、問題は、住民全員が同じ負担を繰り返すことです。

また、給油を先延ばしにする人が増え、燃料残量が少ない状態で生活する人が増える可能性もあります。

時間費用が増える

追加の往復時間を1回30分、月2回とすると、年間では12時間になります。

時間価値を1時間1,000円として評価すれば、年間1万2,000円相当です。

燃料費と合わせれば、給油拠点の遠距離化による年間負担は、1世帯当たり1万円を超える場合があります。

ただし、これは仮定に基づく試算であり、実際の負担は距離、給油頻度、燃費、道路条件によって異なります。

高齢者ほど負担が大きくなる

給油距離の増加は、すべての住民へ均等に影響するわけではありません。

特に影響を受けやすいのは、次のような人です。

  • 夜間運転を避けている人
  • 長距離運転に不安がある高齢者
  • 運転可能な家族が1人しかいない世帯
  • 軽自動車や小型車で給油頻度が高い人
  • 車両を複数台保有する世帯
  • 日常的に農業機械を使用する農家
  • 灯油の持ち運びが困難な人

高齢者が自ら灯油を購入し、ポリタンクを車へ積み、住宅内まで運ぶことは身体的負担になります。

店舗の減少は、給油の問題だけでなく、暖房を安全に確保できるかという問題にもつながります。

灯油配送への影響

ガソリンスタンドの減少で見落とされやすいのが、灯油配送です。

資源エネルギー庁も、SS過疎地問題の一つとして、移動手段を持たない高齢者への冬場の灯油配送に支障が生じる可能性を挙げています。

外房は豪雪地域ではありませんが、冬季に灯油ストーブや石油ファンヒーターを利用する世帯はあります。

古い戸建住宅は断熱性能が低い場合があり、暖房需要が小さいとは限りません。

灯油配送は給油所販売より費用がかかる

灯油配送には、次の費用が発生します。

  • 配送車両費
  • 燃料費
  • 配送員の人件費
  • 注文受付と日程調整
  • 容器や設備の安全確認
  • 少量注文への対応
  • 不在時の再訪問
  • 山間部や狭い道路への移動

世帯が広い地域に分散しているほど、1件当たりの配送時間と費用は増えます。

一方、灯油需要は季節に偏ります。

年間を通じた安定収入になりにくいため、灯油配送だけで事業を維持するのは難しい場合があります。

配送撤退の影響

灯油配送がなくなると、住民は自ら店舗へ行き、灯油を運ばなければなりません。

しかし、18リットルの灯油は、灯油そのものだけで約14キログラムあります。容器の重量を加えれば、持ち運びはさらに重くなります。

高齢者や腰・膝に問題がある人にとっては、購入、車への積み込み、荷下ろし、室内への運搬が大きな負担です。

灯油配送の消滅は、暖房方法の変更や、電気暖房への切替えを促す可能性があります。

ただし、電気暖房へ変更すれば、停電時に使用できないという別の弱点が生じます。

農業への影響

外房では、水稲、野菜、施設園芸、畜産など、地域によってさまざまな農業が行われています。

農業では、自動車以外にも燃料が必要です。

  • トラクター
  • コンバイン
  • 田植機
  • 草刈機
  • 管理機
  • 運搬車
  • 乾燥機
  • 暖房機
  • 揚水ポンプ
  • 発電機

使用する燃料は、軽油、ガソリン、灯油、重油など、機械や設備によって異なります。

農作業は燃料切れを待てない

一般家庭の自動車なら、給油予定を数日前後させることができます。

しかし、農業では、収穫、耕起、田植え、防除などに適期があります。

天候の変化前に作業を終えなければならない場合、燃料供給の遅れが収量や品質に影響する可能性があります。

特に、複数の農業機械を使用する大規模経営では、燃料を確実に調達できることが事業継続の前提です。

小規模農家ほど共同調達が難しい場合がある

大規模農家や農業法人は、一定量をまとめて配送してもらえる可能性があります。

一方、小規模農家は使用量が少なく、配送効率が悪いため、個別配送を受けにくくなる可能性があります。

その場合、農家自身が携行缶などを用いて燃料を運ぶ必要が生じます。

燃料の保管や運搬には、消防法などに基づく安全管理が必要であり、無制限に自宅や農業倉庫へ貯蔵できるわけではありません。

店舗が減ったからといって、各農家が大量の燃料を保管することが現実的な代替策になるとは限りません。

農業コストへ転嫁される

給油距離や配送費が増えれば、農業経営の費用も増えます。

農業利益は、単純化すると次のように表せます。

農業利益 =農産物販売収入+補助金・交付金 -肥料費 -農薬費 -種苗費 -燃料費 -機械費 -修繕費 -人件費 -運送費 -その他経費

燃料費の増加額だけで経営が直ちに赤字になるとは限りません。

しかし、肥料、農薬、農業機械、電気料金なども上昇している場合、燃料調達費の増加は農業所得をさらに圧迫します。

漁業・建設・運送・観光への影響

ガソリンスタンドの減少は、農業以外の地域産業にも影響します。

漁業

漁船用燃料は通常の自動車向け給油とは供給経路が異なる場合がありますが、陸上作業車、冷蔵車、運搬車、発電機などにも燃料が必要です。

燃料供給網が弱くなれば、水揚げ後の運搬や冷蔵にも影響する可能性があります。

建設業

地域の建設会社は、トラック、重機、小型発電機、草刈機などを使用します。

平時の道路補修だけでなく、台風や豪雨後の倒木撤去、土砂除去、応急復旧にも燃料が必要です。

地域内の燃料供給力が弱いと、災害復旧に必要な事業者自身が動けなくなる可能性があります。

運送・配送

宅配便、食品配送、介護用品配送などは、自動車を前提としています。

給油拠点が遠くなれば、配送経路から外れて給油する時間が増え、配送効率が低下します。

個々の負担は小さくても、毎日複数台が走る事業者では年間費用が大きくなります。

観光

観光客が自家用車やレンタカーで訪れる地域では、給油場所の少なさが利便性に影響します。

特に営業時間が短い店舗しかない場合、夜間や早朝に給油できない可能性があります。

ただし、ガソリンスタンドが減ったことで観光客が直ちに大幅減少すると断定できる公的データは確認できません。

影響は、道路案内、充電設備、近隣都市との距離などによって異なります。

医療・介護への影響

外房では、病院や介護施設だけでなく、訪問診療、訪問看護、訪問介護、通所介護の送迎など、多くのサービスが車両に依存しています。

ガソリンスタンドが減ると、次の費用が増える可能性があります。

  • 訪問車両の給油時間
  • 送迎車両の回送距離
  • 夜間緊急訪問時の燃料管理
  • 複数事業所分の燃料在庫管理
  • 災害時の発電機用燃料確保

医療・介護事業者は、給油費を利用者へ自由に転嫁できない場合があります。

介護報酬や診療報酬が定額であるサービスでは、移動費用の増加が事業者側の負担になりやすいからです。

特に訪問件数が少なく、移動距離が長い地域では、燃料調達の不便さが訪問サービスの採算性をさらに悪化させる可能性があります。

災害時にはガソリンスタンドの重要性が高まる

外房では、地震、津波、台風、高潮、豪雨、土砂災害、大規模停電などを想定する必要があります。

災害時には、次の設備や車両が燃料を必要とします。

  • 消防車
  • 救急車
  • 警察車両
  • 自治体公用車
  • 自衛隊・応援部隊の車両
  • 医療・福祉施設の非常用発電機
  • 避難所の発電機
  • 給水車
  • 物資輸送車
  • 道路復旧用重機
  • 通信設備
  • 移動基地局
  • 住民の避難車両

千葉県地域防災計画では、県が千葉県石油商業組合、千葉県石油協同組合との協定に基づき、自家発電設備や公用車などの燃料を調達することとしています。

重要施設で燃料確保が困難な場合には、国へ優先供給を要請する仕組みも定められています。

また、千葉県は民間物流事業者と連携し、支援物資の輸送や保管を行う計画を設けています。

協定があっても必ず供給できるとは限らない

災害時協定は重要ですが、協定を締結していれば燃料が必ず届くわけではありません。

実際の供給には、次の条件が必要です。

  • ガソリンスタンドの建物や設備が損傷していない
  • 地下タンクや配管が使用可能
  • 電源が確保されている
  • 従業員が出勤できる
  • 道路が通行可能
  • タンクローリーが到着できる
  • 油槽所に在庫がある
  • 通信手段が利用できる
  • 優先順位の調整ができる

店舗数が少なければ、1店舗の被災や在庫切れが広い地域へ影響します。

複数店舗が存在することは、日常の競争だけでなく、災害時の代替性という意味も持ちます。

住民拠点SSの役割と限界

国は、自家発電設備を備え、停電時にも給油を継続できるガソリンスタンドを「住民拠点SS」として整備しています。

関東経済産業局によると、2025年2月28日時点で、千葉県内には522か所の住民拠点SSが整備されています。

住民拠点SSは、停電時にも給油できる可能性がある点で重要です。

しかし、自家発電設備があっても、次の場合には営業できません。

  • 店舗や給油設備が損壊した
  • 燃料在庫がなくなった
  • 道路が寸断された
  • 従業員を確保できない
  • 危険防止のため営業停止が必要
  • 通信や決済設備が利用できない

したがって、住民拠点SSは「災害時に必ず開く店舗」ではありません。

平時から所在地を確認するとともに、災害時には営業情報や在庫状況を確認する必要があります。

電気自動車が普及すれば問題は解決するのか

EV(Electric Vehicle・電気自動車)が普及すれば、ガソリンスタンドが減少しても問題は小さくなるという考えがあります。

長期的には、乗用車のガソリン需要を減らす効果があります。

しかし、短期から中期では、電気自動車だけで地域燃料問題を解決することは困難です。

すべての車両が電動化されるわけではない

地域には、次のような燃料車両や機械が残ります。

  • トラック
  • 重機
  • 農業機械
  • 漁業関連車両
  • 発電機
  • 除草・伐採機械
  • 消防・救急車両
  • 災害復旧車両

技術的に電動化できる機器でも、購入価格、航続距離、充電時間、耐久性の問題があります。

停電時には充電できない

太陽光発電や蓄電池を備えた施設を除き、停電時には普通の充電設備を使用できません。

一方、ガソリンスタンドも電源がなければ給油できないため、自家発電設備を備えた住民拠点SSが重要になります。

災害時には、電気と液体燃料のどちらか一方へ完全に依存するより、複数の供給手段を残す方が代替性は高くなります。

灯油需要は残る

自動車が電動化しても、住宅暖房、農業設備、非常用発電などの燃料需要が直ちになくなるわけではありません。

ガソリン販売量だけを基準に店舗を評価すると、灯油や災害対応などの社会的役割が見落とされます。

最後の1店舗を補助すればよいのか

地域内の最後のガソリンスタンドを公的に支援する方法は、一定の合理性があります。

しかし、補助金を出せば事業が自動的に持続するわけではありません。

支援が必要になる費用

  • 地下タンクや配管の更新
  • 計量機の更新
  • 自家発電設備
  • 配送車両
  • 消防・安全規制への対応
  • 従業員の人件費
  • 災害時の備蓄
  • キャッシュレス・在庫管理設備
  • 後継者育成

設備投資を補助しても、日々の販売量が不足すれば営業赤字は残ります。

反対に、営業赤字だけを補填しても、設備更新や事業承継ができなければ長期維持は困難です。

公費支援の判断基準

公費を投入する場合は、少なくとも次の点を明確にする必要があります。

  1. 支援しなければ最寄り店舗まで何キロメートルになるか
  2. 何世帯、何事業者が利用するか
  3. 年間販売量はどの程度か
  4. 灯油配送を何世帯が利用するか
  5. 農業・建設・漁業への供給量はどの程度か
  6. 災害時にどの施設・車両へ供給するか
  7. 支援額はいくらか
  8. 何年間維持できるか
  9. 後継者がいるか
  10. 近隣自治体との共同運営が可能か

「地域に必要だから残す」という理由だけでは、公費支援の規模と期間を決められません。

考えられる維持策

1.地域の中核給油所を選ぶ

すべての店舗を同じように支援するのではなく、地理的条件、設備、配送能力、災害対応力から、中核となる給油所を選定します。

ただし、一つの店舗へ集約しすぎると、その店舗が被災した場合の代替性が失われます。

最低限必要な複数拠点を広域的に考える必要があります。

2.自治体を越えた広域計画を作る

住民は自治体境界ではなく、最も近い店舗を利用します。

そのため、御宿町、勝浦市、いすみ市、大多喜町、長生地域などを個別に考えるだけでなく、生活圏単位で供給網を検討する方が合理的です。

分析すべきなのは、自治体内の店舗数ではなく、集落ごとの道路距離と到達時間です。

3.灯油配送を共同化する

複数店舗や地域事業者が、注文受付、配送日、配送地域を共同化すれば、空車走行や重複配送を減らせる可能性があります。

ただし、顧客情報の管理、価格、責任分担、事故時の対応を決める必要があります。

4.農業者・事業者の共同調達

農業法人、土地改良区、建設会社などが一定量をまとめて調達すれば、配送効率を上げられる可能性があります。

ただし、燃料保管設備、消防法への対応、費用分担、品質管理が必要です。

5.休日輪番制

店舗数が少ない地域では、各店舗が個別に無休営業するより、休日を調整して地域内のどこかが営業する輪番制が考えられます。

資源エネルギー庁は、SS過疎地における休業日の調整に関する事例も紹介しています。

ただし、住民への周知が不十分だと、営業店舗を探して長距離を移動することになります。

6.複合サービス化

ガソリンスタンドに、次の機能を組み合わせる方法があります。

  • 灯油配送
  • 自動車点検
  • 宅配受付
  • 日用品販売
  • 地域交通の拠点
  • 電気自動車の充電
  • 災害備蓄
  • 農業資材販売
  • 見守りサービス

複数の収益源を持つことで、燃料販売量の減少を補える可能性があります。

しかし、サービスを増やせば、人員、設備、在庫、許認可も必要です。

複合化すれば必ず黒字になるわけではありません。

住民ができる現実的な備え

平時から給油先を複数確認する

通常利用する店舗だけでなく、隣接自治体を含めて代替店舗を確認しておくことが重要です。

住民拠点SSの所在地も確認する必要があります。

燃料残量を少なくしすぎない

災害への備えとして、燃料計が空に近づくまで給油を待たない方法があります。

ただし、常に満タンを義務のように考える必要はありません。

自分の避難距離、通勤距離、給油環境に応じて、一定量を下回る前に給油する基準を決める方が現実的です。

携行缶での過剰備蓄を避ける

店舗が遠いからといって、一般家庭で大量のガソリンを保管することは危険です。

ガソリンは引火性が高く、保管容器や数量には法令上の制約があります。

自己判断による大量備蓄は、火災や蒸気への引火事故を招く可能性があります。

灯油暖房以外の手段も持つ

灯油配送に依存する世帯では、電気毛布、防寒用品、断熱対策など、灯油が届かない場合の補助手段を用意することが考えられます。

ただし、停電時には電気暖房も利用できないため、一つの方法へ完全に依存しないことが重要です。

公開資料から確認できること

公開資料からは、次の点を確認できます。

  • 全国のガソリンスタンド数は長期的に大幅に減少している
  • 国は店舗数3か所以下などの自治体をSS過疎地として把握している
  • 給油、農業機械、灯油配送への影響が公的課題として認識されている
  • ガソリンスタンドは災害時の燃料供給拠点として位置付けられている
  • 千葉県には石油関係団体との災害時燃料供給協定がある
  • 停電時にも給油可能な住民拠点SSが整備されている
  • 千葉県内にも多数の住民拠点SSがある

公開資料だけでは確認できないこと

一方、次の点は、公表資料だけで正確に把握することが難しい場合があります。

  • 各店舗の将来の廃業予定
  • 店舗別の販売量と採算
  • 従業員や後継者の状況
  • 灯油配送先の世帯数
  • 農業者への燃料供給量
  • 災害時に何日間営業を続けられるか
  • 店舗別の在庫量
  • 実際の給油待ち時間
  • 自治体が店舗維持へ投入できる予算
  • 1店舗の廃業が住民生活費へ与える正確な影響

したがって、外房の各市町村について「何年後に給油困難になる」と断定することはできません。

正確な地域分析には、店舗の現地確認、事業者への聞き取り、居住地別の道路距離分析が必要です。

成立しやすい維持策

地域の燃料供給拠点は、次の条件で維持しやすくなります。

  • 一定の販売量がある
  • 灯油配送や事業者向け販売がある
  • 幹線道路沿いにある
  • 農業、建設、物流需要がある
  • 自家発電設備がある
  • 後継者または雇用人材がいる
  • 設備更新費を確保できる
  • 自治体と災害時協定を結んでいる
  • 近隣店舗と営業日を調整できる
  • 燃料以外の収益源を持つ

成立しにくい維持策

反対に、次の条件では、補助を行っても持続が難しくなります。

  • 地域の燃料需要が急速に減少している
  • 設備が著しく老朽化している
  • 後継者がいない
  • 灯油配送の範囲が広すぎる
  • 店舗までのタンクローリー配送費が高い
  • 補助期間終了後の収支計画がない
  • 災害時の役割だけを理由に平時の赤字を放置する
  • 自治体ごとに個別対応し、隣接地域との連携がない
  • 住民側が地域店舗を利用しない
  • 設備投資と運営費の両方を試算していない

判断前のチェックリスト

地域のガソリンスタンド維持を検討する際には、次の項目を確認する必要があります。

  1. 地域内と周辺地域に何店舗あるか
  2. 最寄り店舗までの平均距離ではなく、集落別の距離は何キロメートルか
  3. ガソリン、軽油、灯油のすべてを扱っているか
  4. 灯油配送を行っているか
  5. 農業機械や事業者向けの給油に対応できるか
  6. 大型車両が利用できるか
  7. 自家発電設備があるか
  8. 災害時に優先供給する施設はどこか
  9. 年間販売量はどの程度か
  10. 設備更新費はいくらか
  11. 後継者はいるか
  12. 公費支援は何年間必要か
  13. 隣接自治体との共同支援が可能か
  14. 電気自動車充電設備との併設は有効か
  15. 店舗廃止後の代替策は実際に利用できるか

現実的な結論

外房でガソリンスタンドがなくなると、住民は遠くまで給油に行けば済むという単純な問題ではありません。

影響は、自家用車、灯油配送、農業、建設、物流、医療、介護、災害対応へ連鎖します。

特に人口減少地域では、ガソリンスタンドは次の三つの性格を同時に持っています。

  • 民間の小売事業
  • 地域産業を支える燃料供給拠点
  • 災害時の社会インフラ

民間事業である以上、採算を無視して存続を求めることはできません。

一方、完全に市場競争だけへ任せれば、店舗がなくなってから地域インフラとしての価値に気付く可能性があります。

重要なのは、閉店が決まってから補助金を検討することではありません。

平時のうちに、

  • どの集落が給油困難になるか
  • どの事業が影響を受けるか
  • 灯油配送を必要とする世帯が何世帯あるか
  • 災害時にどの施設へ燃料を供給するか
  • いくらの公費なら維持する合理性があるか

を把握する必要があります。

外房の燃料供給網を守るためには、すべての店舗をそのまま残すのではなく、生活圏単位で必要な拠点数を定め、灯油配送、農業用燃料、災害対応を含めて支える仕組みが現実的です。

ガソリン需要が減少する将来を見据えながらも、燃料が完全に不要になる前に供給網だけが消滅することを避けなければなりません。

問題は、ガソリン車を将来も残すべきかどうかだけではありません。

地域で暮らし、働き、災害から生活を守るために、移行期の燃料供給を誰が、いくらで、何年間支えるのかという問題です。

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移住者が増えても人口は減る

いすみ市の人口減少を自然増減・社会増減から分析する

※本記事は、2026年8月3日時点で確認できる、いすみ市、千葉県などの公的資料に基づいて作成しています。人口統計は、住民基本台帳、国勢調査、千葉県毎月常住人口調査など、資料によって対象者や基準日が異なります。そのため、異なる統計の数値を単純に足し引きせず、それぞれの統計が示す傾向を中心に分析します。

はじめに~「移住先として人気」と「人口減少」は矛盾しない

千葉県南東部に位置するいすみ市は、海、田園、農水産物、比較的温暖な気候などを背景に、移住先として紹介される機会の多い地域です。

いすみ市は、宝島社『田舎暮らしの本』の「2026年版 住みたい田舎ベストランキング」において、人口3万人以上5万人未満の市の総合部門などで第1位になったと公表しています。これは民間媒体による評価であり、人口統計そのものではありませんが、いすみ市が移住先として一定の注目を集めていることを示す一つの材料です。([いすみ市公式サイト][1])

しかし、いすみ市の人口は減り続けています。

いすみ市が公表している2026年7月1日現在の人口は3万3,761人、世帯数は1万6,853世帯です。男性は1万6,602人、女性は1万7,159人となっています。([いすみ市公式サイト][2])

一方、市の第3期地域創生総合戦略は、2023年と2024年には転入・転出による社会増を記録したものの、出生・死亡による自然減がそれを上回り、総人口の減少が続いていると説明しています。

ここには、地方の人口問題を考えるうえで重要な点があります。

移住者が増えることと、自治体の総人口が増えることは同じではありません。

本記事では、いすみ市の人口減少を、出生・死亡による「自然増減」と、転入・転出による「社会増減」に分け、公的データからその構造を検証します。


1.人口が増減する二つの要因

自治体の人口変化を理解するには、自然増減と社会増減を分ける必要があります。

自然増減

自然増減は、出生数から死亡数を差し引いたものです。

自然増減=出生数-死亡数

出生数が死亡数を上回れば自然増、死亡数が出生数を上回れば自然減となります。

社会増減

社会増減は、転入者数から転出者数を差し引いたものです。

社会増減=転入者数-転出者数

転入者数が転出者数を上回れば社会増、転出者数の方が多ければ社会減です。

概念上は、人口の増減は次のように整理できます。

人口増減=自然増減+社会増減+その他の統計上の増減

その他の増減には、職権による住民登録の記載・消除などが含まれる場合があります。

また、住民基本台帳人口と千葉県毎月常住人口調査では、基準日や集計方法が異なります。したがって、本記事では、住民基本台帳は人口構成の把握に、千葉県常住人口調査は出生・死亡・転入・転出の動向把握に用います。


2.いすみ市の人口は5年間で約2,500人減少した

いすみ市の「こども計画」に掲載された住民基本台帳人口によると、各年4月1日現在の人口は次のように推移しています。

総人口 15歳未満 15~64歳 65歳以上
2021年 36,955人 3,280人 18,352人 15,323人
2022年 36,345人 3,133人 17,947人 15,265人
2023年 35,651人 3,026人 17,531人 15,094人
2024年 35,075人 2,886人 17,182人 15,007人
2025年 34,468人 2,756人 16,877人 14,835人

2021年から2025年までの4年間で、総人口は2,487人減少しました。減少率は約6.7%です。

年平均に換算すると、単純平均で約622人ずつ減少したことになります。ただし、これは将来予測ではなく、2021年と2025年の差を年数で割った参考値です。

重要なのは、15歳未満、生産年齢人口に当たる15~64歳、65歳以上のすべてが減少していることです。

一般に高齢化というと、高齢者人口が増え続ける状況を想像しがちです。しかし、人口減少が長期間続く地域では、高齢者人口もやがて減少に転じます。

いすみ市の第3期地域創生総合戦略も、年少人口と生産年齢人口は一貫して減少し、65歳以上の老年人口も2020年以降は減少傾向に転じたとしています。

これは、いすみ市が単に「高齢者が増えている段階」ではなく、すべての年齢層が縮小する人口減少局面に入っていることを意味します。


3.人口減少の主因は自然減である

次に、千葉県常住人口調査を基に、2020年から2024年までの出生・死亡を確認します。

出生数 死亡数 自然増減
2020年 144人 568人 -424人
2021年 126人 630人 -504人
2022年 116人 728人 -612人
2023年 121人 751人 -630人
2024年 98人 735人 -637人

いすみ市では、この5年間を通じて死亡数が出生数を大幅に上回っています。2024年は出生98人に対し、死亡735人で、自然増減は637人の減少でした。

2024年の死亡数は出生数の約7.5倍です。

この差は、短期間の移住促進だけで埋めることが難しい規模です。

たとえば、社会増が年間100人になったとしても、自然減が600人を超える状態であれば、その他の増減を考慮しない単純計算では、人口は年間500人程度減少します。

したがって、いすみ市の人口減少は、転出者が多いことだけで説明できません。

現在の中心的な要因は、人口の年齢構成を背景とした自然減です。


4.社会増減は2023年からプラスに転じた

転入・転出の状況は、自然増減とは異なる動きをしています。

転入者数 転出者数 社会増減
2020年 1,063人 1,327人 -264人
2021年 980人 1,044人 -64人
2022年 1,205人 1,272人 -67人
2023年 1,212人 1,189人 +23人
2024年 1,231人 1,160人 +71人

2020年から2022年までは社会減でしたが、2023年は23人、2024年は71人の社会増となりました。

2024年は、転入者が1,231人、転出者が1,160人で、転入者が転出者を71人上回っています。

この変化は軽視すべきではありません。

仮に社会増がなければ、人口減少はさらに大きくなっていた可能性があります。社会増は総人口を増加させるまでには至っていませんが、人口減少の速度を緩和する効果を持っています。

一方で、次の点には注意が必要です。

  • 転入者全員が行政の移住施策を利用したとは限らない
  • 転勤、就職、結婚、施設入所なども転入に含まれる
  • 転入者がその後も長期間定住するとは限らない
  • 社会増の人数だけでは、転入者の年齢や世帯構成は分からない
  • 外国人住民の増加が社会増に影響している可能性もある

したがって、社会増になったという事実だけから、移住政策が全面的に成功したと結論づけることはできません。

逆に、総人口が減っていることだけを理由に、移住政策には効果がなかったと評価することも適切ではありません。


5.社会増71人では、自然減637人を埋められない

2024年の数値を並べると、いすみ市の人口減少の構造が明確になります。

人口変動の要因 2024年の増減
自然増減 -637人
社会増減 +71人
両者の単純合計 -566人

自然減637人に対して、社会増は71人でした。

社会増によって自然減の一部は補われましたが、補えた割合は約11%です。

この計算は、次のとおりです。

71人÷637人×100≒11.1%

つまり、2024年について単純化すれば、社会増によって自然減の約1割が緩和されたものの、残り約9割に相当する減少までは補えなかったと解釈できます。

ただし、人口統計には職権による記載・消除などの「その他の増減」があり、住民基本台帳と常住人口調査では基準も異なります。そのため、566人を住民基本台帳人口の年間減少数と完全に一致する数字として扱うことはできません。

それでも、自然減の規模が社会増を大きく上回っているという構造は明確です。


6.社会増を続けるだけで人口減少は止まるのか

2024年と同程度の自然減が続くと仮定した場合、人口減少を止めるには、少なくとも年間600人を超える規模の社会増が必要になります。

2024年の社会増は71人ですから、単純計算では現在の約9倍の社会増が必要です。

しかし、年間600人を超える転入超過を継続することは、人口3万人台の自治体にとって容易ではありません。

必要になるのは、住宅の確保だけではありません。

  • 移住者が働ける雇用
  • 子どもの教育環境
  • 医療・介護サービス
  • 買物環境
  • 鉄道・バス・自動車による移動手段
  • インターネットなどの通信環境
  • 地域との関係づくり
  • 空き家の改修と流通
  • 災害リスクに関する情報提供

こうした生活条件が整わなければ、転入者数が増えても、数年後に再び転出する可能性があります。

そのため、人口政策は「何人呼び込んだか」だけでなく、「何人が定住したか」「どの年代が移住したか」「地域で就業・起業したか」という視点で評価する必要があります。


7.子育て世代の転入が重要になる理由

転入者の年齢構成は、将来の人口動態に大きく影響します。

たとえば、60歳代以上の転入者が増えれば、現在の社会増には寄与します。しかし、出生数の増加には直接つながりにくく、将来は医療・介護・移動支援への需要が高まる可能性があります。

一方、20~40歳代の子育て世帯が転入すれば、社会増に加えて、将来の出生数や年少人口の維持にも影響する可能性があります。

ただし、若い世帯を増やせば直ちに出生数が増えるわけではありません。

結婚や出産に関する選択は、所得、雇用、住宅、保育、教育、医療、家族観など多くの条件に左右されます。

いすみ市の出生数は、2015年の183人から2024年の98人へ減少しました。9年間で85人、率にして約46%の減少です。

また、0~17歳の児童人口は、2021年の4,049人から2025年の3,507人へ減少しました。4年間で542人、約13.4%の減少です。

特に0~5歳人口は、同期間に1,082人から758人へ減っています。減少数は324人、減少率は約29.9%です。

この変化は、将来の保育所、学校、公共施設の配置にも影響します。

子どもの数が減る一方で、居住地域が市内に広く分散していれば、児童数に比例して施設や送迎の費用を減らせるとは限りません。


8.人口が減っても世帯数が同じ割合では減らない

2026年7月1日現在、いすみ市の人口は3万3,761人、世帯数は1万6,853世帯です。単純に割ると、1世帯当たりの人口は約2.00人です。([いすみ市公式サイト][2])

市の「こども計画」は、世帯数はおおむね横ばいである一方、1世帯当たり人員は減少しているとしています。また、単独世帯の割合は増加し、三世代世帯の割合は低下しています。

人口が減っても世帯数が大きく減らない場合、住宅、道路、ごみ収集、上下水道、消防、救急などの行政需要は、人口と同じ割合では縮小しません。

たとえば、4人世帯が二つの単身世帯に分かれれば、人口は減らなくても世帯数は増えます。

さらに、人口が市内の広い範囲に分散して居住していれば、道路、公共交通、ごみ収集などのサービス提供範囲は簡単には縮小できません。

したがって、人口が10%減れば行政コストも10%下がる、という単純な関係にはなりません。

人口減少下では、住民一人当たりのインフラ維持負担が相対的に増える可能性があります。


9.いすみ市の将来人口はどこまで減るのか

いすみ市の第3期地域創生総合戦略によると、国立社会保障・人口問題研究所の2023年推計では、いすみ市の人口は2050年に2万218人まで減少すると見込まれています。

これに対し、市は人口減少を緩やかにし、2050年の人口を2万3,000人以上に維持することを目標としています。

2050年 人口
国の研究機関による推計 20,218人
いすみ市の目標 23,000人以上
2,782人以上

市の目標は、人口を現在の水準に維持することではありません。

推計よりも人口減少を緩やかにし、2050年時点で約2,800人多く確保することを目指すものです。

ここから分かるのは、市自身も人口減少を短期間で完全に止めることを前提としていないということです。

政策上の現実的な課題は、人口増加への反転だけではなく、次の三つに整理できます。

  1. 人口減少の速度を緩和する
  2. 年齢構成の偏りを小さくする
  3. 人口が減っても生活機能を維持できる地域をつくる

この点で、第3期地域創生総合戦略が「人」「経済」「生活」を三つの基本目標としていることには合理性があります。市は、人口減少対策だけでなく、雇用、福祉、医療、介護、道路、防災、生活インフラを一体的に扱う方針を示しています。


10.移住政策は何を基準に評価すべきか

いすみ市は、第3期地域創生総合戦略において、2025年度から2027年度までの人口社会増の数値目標を累計300人としています。

また、移住・定住関係では、次のようなKPI(Key Performance Indicator・重要業績評価指標)を設定しています。

項目 2027年度までの指標
人口の社会増 累計300人
ふるさと定住支援住宅取得費補助金申請件数 累計70件
空き家バンク契約成立数 累計36件
移住相談件数 累計1,500件
相談を通じた移住者数 累計180人

これらは施策の実施状況を把握するうえで必要な指標です。

ただし、相談件数や補助金申請件数だけでは、移住政策の最終的な成果は判断できません。

評価には、少なくとも次の段階が必要です。

第1段階:活動量

  • 移住相談を何件受けたか
  • 移住フェアに何回出展したか
  • 空き家バンクに何件登録されたか

第2段階:直接的成果

  • 実際に何人が転入したか
  • 何世帯が住宅を取得したか
  • 空き家が何件成約したか

第3段階:中長期的成果

  • 5年後も定住しているか
  • 市内で就業・起業しているか
  • 子育て世帯が定着したか
  • 地域活動の担い手になったか
  • 税収や地域消費にどの程度寄与したか

公表されているKPIだけで確認できるのは、主として第1段階と第2段階です。

第3段階まで検証するには、転入後の追跡調査や、個人情報に配慮した定住状況の集計が必要になります。


11.人口が減ることと、地域が直ちに衰退することは同じではない

人口減少は、税収、労働力、公共交通、医療、介護、地域活動などに影響するため、軽視できません。

しかし、人口が減れば必ず地域経済や住民生活が同じ割合で悪化する、とも限りません。

重要なのは、残る人口と地域資源をどのように配置し、活用するかです。

たとえば、人口が減っても、

  • 市内消費が増える
  • 市外から所得を得る人が増える
  • 小規模でも収益性の高い事業が育つ
  • 空き家が住宅や事業所として再利用される
  • 医療・買物・交通が効率的に再編される
  • デジタル化により行政サービスが維持される

といった変化があれば、生活の質や地域経済を一定程度維持できる可能性があります。

逆に、人口が社会増になっていても、転入者が市外で買物をし、市内に雇用や事業を生み出さなければ、地域経済への効果は限定的かもしれません。

したがって、今後はいすみ市の人口を「何人か」だけでなく、次の指標も併せて見る必要があります。

  • 年齢別人口
  • 世帯構成
  • 市内就業者数
  • 市外通勤者数
  • 事業所数
  • 空き家の流通件数
  • 医療・介護需要
  • 公共交通利用者数
  • 市内消費額
  • 一人当たり・一世帯当たりの行政コスト

12.いすみ市の人口政策に必要な三つの視点

①社会増を一時的な現象で終わらせない

2023年、2024年の社会増は、人口減少対策にとって前向きな変化です。

ただし、2年間の社会増だけで長期的な傾向が確定したとは言えません。景気、住宅価格、テレワーク、外国人雇用、大都市圏の人口移動などによって、転入・転出は変動します。

少なくとも5年程度の推移を確認し、転入者の年齢、転入理由、定住率を分析する必要があります。

②若年層の転出を完全に防ぐことを目標にしない

進学や就職のために、10歳代後半から20歳代前半が都市部へ転出することは、教育・職業選択の面から見れば自然な動きでもあります。

若者を市外へ出さないことだけを目指すと、本人の選択肢を狭める可能性があります。

現実的には、

  • 市外へ進学しても戻りやすい雇用をつくる
  • 市外勤務をしながら居住できる交通・通信環境を整える
  • 起業や事業承継の選択肢をつくる
  • 子育て期に戻りやすい住宅環境を整える

といった政策が必要です。

③人口減少を前提に生活機能を再設計する

人口増加だけを前提に公共施設やインフラを維持することは困難です。

いすみ市は、将来人口が3万人を下回ることを見据え、保育所や公民館などの類似施設の統廃合を進める方針も示しています。([いすみ市公式サイト][3])

ただし、施設数を減らせば、それだけで効率化が実現するわけではありません。

施設の統合によって移動距離が長くなれば、高齢者、子ども、運転免許を持たない人に新たな負担が生じます。

公共施設の再編は、地域公共交通、送迎、オンライン手続き、訪問サービスなどと一体で考える必要があります。


13.データから導かれる結論

今回の分析から、いすみ市の人口動向について、次のことが確認できます。

第一に、いすみ市の人口は継続して減少しており、2021年から2025年までの住民基本台帳人口は2,487人減少しました。

第二に、人口減少の中心的な要因は自然減です。2024年は出生98人に対して死亡735人で、637人の自然減となりました。

第三に、社会増減は改善しており、2023年は23人、2024年は71人の社会増となりました。

第四に、社会増は人口減少を緩和していますが、自然減を相殺する規模には達していません。

第五に、人口減少は子どもや生産年齢人口だけの問題ではなく、65歳以上人口も含む全世代の縮小へ移行しています。

したがって、いすみ市の移住政策は、単純に「成功」「失敗」と二分できません。

社会増への転換は成果の一つと評価できますが、総人口の減少を止めるには至っていません。

今後の評価では、転入者数だけでなく、転入者の年齢、定住期間、就業状況、子育て、住宅、地域経済への影響まで確認する必要があります。


まとめ~目指すべきは人口増加だけではなく、人口減少に耐えられる地域である

いすみ市では、移住者を含む転入者が転出者を上回る社会増が生じています。

それでも、死亡数が出生数を大きく上回るため、総人口は減少しています。

これは矛盾ではありません。

むしろ、人口構造が高齢化した地方自治体では、社会増を実現しても、自然減によって総人口が減り続けることがあります。

社会増には、人口減少を緩和する効果があります。ただし、それだけで人口問題のすべてを解決することはできません。

今後のいすみ市に必要なのは、

  • 若者や子育て世帯が移住・定住できる雇用と住宅
  • 高齢者が車を運転できなくなっても暮らせる交通
  • 人口が減っても維持できる医療・介護・買物環境
  • 空き家を安全に流通させる仕組み
  • 公共施設と生活インフラの現実的な再配置
  • 小規模でも地域内に所得を残す事業

を組み合わせることです。

人口を増やすことだけでなく、人口が減少しても住民が暮らし続けられる地域をつくることが、より現実的で重要な課題になっています。


いすみ市への移住は、人口統計だけでは判断できない

いすみ市の社会増は、移住先としての一定の魅力を示しています。

しかし、実際に移住するかどうかは、人口の増減だけでは判断できません。

住宅価格が安くても、改修費、車の保有費、通院、買物、公共交通、災害リスクなどを含めると、長期的な生活費が想定以上になる場合があります。

反対に、現在の住居費が高い世帯や、在宅勤務が可能な世帯、地域で仕事を確保できる世帯では、外房への移住が経済的に合理的になる可能性もあります。

移住を検討する際には、一般的な地域評価だけでなく、

  • 住宅の取得・改修費
  • 10年間の維持費
  • 自動車の必要台数
  • 通院・買物の移動時間
  • 将来の免許返納後の交通手段
  • 固定資産税や保険料
  • 売却時の残存価値
  • どの条件で都市部との費用差が逆転するか

を世帯ごとに比較することが必要です。

地域の人口が増えているか減っているかという情報と、個人にとって暮らしやすいかどうかは、別の問題です。移住の判断では、地域データと個別の生活条件を分けて検討する必要があります。

地域の課題を、自分の判断に置き換えて考える

有限会社アードレでは、住まい・車・移住などの大きな選択を、 費用や将来条件をもとに数字で比較し、判断できる形に整理しています。

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