※本記事は、いすみ市、千葉県、国立社会保障・人口問題研究所などが公表している資料を基に、人口統計の定義や基準日の違いに注意して分析したものです。人口については、住民基本台帳人口、国勢調査、千葉県毎月常住人口調査など複数の統計があり、それぞれ対象者、基準日、集計方法が異なります。そのため、異なる統計の数値を単純に足し引きするのではなく、それぞれの統計が示す人口構造や人口移動の傾向を中心に検討します。
はじめに~「移住先として注目されること」と「人口が増えること」は同じではない
千葉県南東部に位置するいすみ市は、海や田園、農水産物、比較的温暖な気候などを背景として、移住先として紹介される機会の多い地域です。いすみ市は、宝島社『田舎暮らしの本』の「2026年版 住みたい田舎ベストランキング」において、人口3万人以上5万人未満の市の総合部門などで第1位になったと公表しています。これは民間媒体による評価であり、人口統計や行政の移住政策の効果を直接示すものではありませんが、いすみ市が移住先として一定の注目を集めていることを示す材料の一つではあります。
しかし、いすみ市の総人口は減少を続けています。2026年7月1日現在の住民基本台帳人口は3万3,761人でしたが、その後も人口減少は続き、2026年9月1日現在では3万3,666人となっています。一方、いすみ市の第3期地域創生総合戦略では、2023年と2024年について、転入者数が転出者数を上回る「社会増」が生じたとされています。ここで重要なのは、転入者が転出者を上回る社会増となっても、自治体の総人口が必ず増えるわけではないということです。人口の変化には、転入・転出だけでなく、出生・死亡も大きく影響します。
本記事では、いすみ市の人口減少を、出生・死亡による「自然増減」と、転入・転出による「社会増減」に分けて検討します。また、「社会増になったこと」と「移住政策が成功したこと」は同じではないという点にも注意しながら、今後どのような指標で地域の人口政策を評価すべきかを考えます。
1.人口が増減する仕組み
自治体の人口変化を理解するためには、まず自然増減と社会増減を分ける必要があります。自然増減とは出生数から死亡数を差し引いたもので、出生数が死亡数を上回れば自然増、死亡数が出生数を上回れば自然減となります。
自然増減=出生数-死亡数
社会増減は、転入者数から転出者数を差し引いたものです。転入者数が転出者数を上回れば社会増、転出者数が転入者数を上回れば社会減となります。
社会増減=転入者数-転出者数
概念的には、人口増減は「自然増減+社会増減+その他の統計上の増減」と考えることができます。その他の増減には、職権による住民登録の記載や消除などが含まれる場合があります。ただし、住民基本台帳人口と千葉県毎月常住人口調査では、基準日や集計方法が異なります。このため、本記事では住民基本台帳人口を主として人口規模や年齢構成の把握に使用し、出生、死亡、転入、転出については千葉県などが公表する人口動態資料を使用します。
2.いすみ市の人口は4年間で約2,500人減少した
いすみ市の「こども計画」に掲載された住民基本台帳人口によると、各年4月1日現在の人口は次のように推移しています。
| 年 | 総人口 | 15歳未満 | 15~64歳 | 65歳以上 |
|---|---|---|---|---|
| 2021年 | 36,955人 | 3,280人 | 18,352人 | 15,323人 |
| 2022年 | 36,345人 | 3,133人 | 17,947人 | 15,265人 |
| 2023年 | 35,651人 | 3,026人 | 17,531人 | 15,094人 |
| 2024年 | 35,075人 | 2,886人 | 17,182人 | 15,007人 |
| 2025年 | 34,468人 | 2,756人 | 16,877人 | 14,835人 |
2021年4月1日から2025年4月1日までの4年間で、総人口は2,487人減少しました。減少率は約6.7%です。単純に4年間で割ると、年平均では約622人ずつ人口が減少した計算になります。ただし、これは過去の変化を平均した参考値であり、将来人口を予測する数値ではありません。
より重要なのは、15歳未満、15~64歳、65歳以上のすべての年齢層で人口が減少していることです。一般に「高齢化」という言葉からは、高齢者人口が増え続ける状況を想像しがちですが、人口減少が長期間続く地域では、やがて高齢者人口そのものも減少へ転じます。いすみ市の第3期地域創生総合戦略でも、年少人口と生産年齢人口は減少を続け、65歳以上の老年人口についても2020年以降は減少傾向へ転じたとされています。つまり、いすみ市は単に「高齢者が増え、若者が減っている段階」だけではなく、すべての主要年齢層が縮小する人口減少局面へ移行していると考えられます。
3.人口減少の最大の要因は自然減である
千葉県常住人口調査などを基に、2020年から2024年までの出生数と死亡数を見ると、いすみ市では一貫して死亡数が出生数を大きく上回っています。
| 年 | 出生数 | 死亡数 | 自然増減 |
|---|---|---|---|
| 2020年 | 144人 | 568人 | -424人 |
| 2021年 | 126人 | 630人 | -504人 |
| 2022年 | 116人 | 728人 | -612人 |
| 2023年 | 121人 | 751人 | -630人 |
| 2024年 | 98人 | 735人 | -637人 |
2024年には、出生98人に対して死亡735人となり、自然増減は637人の減少でした。死亡数は出生数の約7.5倍です。人口規模が3万人台の自治体で毎年600人を超える自然減が発生する状態では、一定数の転入超過があっても総人口を増加へ反転させることは容易ではありません。例えば、年間100人の社会増があったとしても、自然減が600人を超えていれば、その他の統計上の増減を除いた単純計算では、人口はなお年間500人程度減少します。
したがって、現在のいすみ市の人口減少を「若者が市外へ流出しているから」といった社会減だけで説明することはできません。現在の人口減少を最も大きく左右しているのは、高齢化した人口構成を背景とする大幅な自然減です。
4.社会増減は2023年、2024年にプラスとなった
転入と転出については、自然増減とは異なる変化が見られます。
| 年 | 転入者数 | 転出者数 | 社会増減 |
|---|---|---|---|
| 2020年 | 1,063人 | 1,327人 | -264人 |
| 2021年 | 980人 | 1,044人 | -64人 |
| 2022年 | 1,205人 | 1,272人 | -67人 |
| 2023年 | 1,212人 | 1,189人 | +23人 |
| 2024年 | 1,231人 | 1,160人 | +71人 |
2020年から2022年までは転出者数が転入者数を上回る社会減でしたが、2023年には23人、2024年には71人の社会増となりました。2024年だけを見ると、1,231人が転入し、1,160人が転出した結果、71人の転入超過となっています。この変化は人口政策上、無視すべきものではありません。社会増がなければ人口減少はさらに大きくなっていたと考えられるためです。
しかし、社会増になったという事実だけから、「移住政策が成功した」「移住希望者が急増した」と判断することはできません。統計上の転入者には、地方移住を目的とする人だけではなく、転勤、就職、結婚、家族との同居、施設入所などによる転入も含まれます。また、外国人住民の転入が社会増に影響している可能性もあり、さらに転入した人が数年後も市内に居住しているとは限りません。したがって、社会増は人口移動が改善していることを示す重要な指標ですが、それだけで行政の移住施策の効果を測定することはできません。反対に、総人口が減っているという理由だけで、移住・定住政策に効果がなかったと評価することも適切ではありません。
5.社会増71人では自然減637人を補えない
2024年の人口変動を単純化すると、人口減少の構造が分かりやすくなります。
| 人口変動の要因 | 2024年の増減 |
|---|---|
| 自然増減 | -637人 |
| 社会増減 | +71人 |
| 単純合計 | -566人 |
自然減637人に対して、社会増は71人でした。71人を637人で割ると約11.1%となるため、2024年について単純化すれば、社会増によって自然減の約1割が補われた一方、残る約9割分については相殺できなかったと考えることができます。ただし、この566人という数字を住民基本台帳人口の年間減少数と完全に一致する数字として扱うことはできません。人口統計には職権による記載・消除などの増減があり、統計によって基準日や対象者も異なるからです。それでも、自然減の規模が社会増を大幅に上回っているという人口構造そのものは明確です。
6.人口減少を社会増だけで止めるには何人必要なのか
仮に2024年と同程度の自然減637人が続き、その他の人口変動を考慮しないとすると、総人口の減少をその年だけ止めるには、おおむね637人以上の社会増が必要になります。2024年の社会増は71人だったため、単純計算では約9倍の転入超過が必要です。しかし、これはあくまで1年間の人口会計を固定した静的な計算です。実際の将来人口は、転入者の年齢、性別、その後の出生、死亡、転出などによって変化します。例えば、30歳前後の600人が転入する場合と、70歳代の600人が転入する場合では、10年後、20年後の人口構成や出生数、死亡数は大きく異なります。
そのため、本格的な将来人口推計では、年齢や性別ごとの人口を追跡し、出生率、死亡率、人口移動率などを組み合わせて推計する必要があります。国立社会保障・人口問題研究所の地域別将来人口推計でも、このような年齢別人口構造を考慮した方法が用いられています。また、人口3万人台の自治体が年間600人を超える社会増を継続的に実現することは容易ではありません。必要なのは住宅を用意することだけではなく、雇用、教育、医療、介護、買物、交通、通信環境、地域との関係、空き家の流通、災害リスクへの対応などを総合的に整えることです。
転入者数だけを増やしても、その後短期間で再び転出するのであれば人口維持への効果は限定的です。人口政策を見る際には、「何人転入したか」だけでなく、「何人が3年後、5年後にも居住しているか」「どの年代が転入したか」「市内で就業や起業をしているか」といった点まで確認する必要があります。
7.子育て世代の転入が重要とされる理由
社会増の人数が同じであっても、転入者の年齢構成によって将来人口への影響は異なります。60歳代以上の転入者も現在の人口を増やし、住宅需要や地域消費などに寄与しますが、出生数の増加には直接つながりにくく、将来的には医療、介護、移動支援への需要が高まる可能性があります。一方、20~40歳代の世帯が転入し、長期間定住すれば、社会増だけでなく将来の年少人口や出生数に影響する可能性があります。ただし、若い世帯が転入すれば自動的に出生数が増加するわけではありません。結婚や出産の選択は、所得、雇用の安定性、住宅費、保育、教育、医療、働き方、家族観など数多くの条件に左右されます。
いすみ市の出生数は、2015年の183人から2024年には98人へ減少しました。9年間で85人、率にすると約46%の減少です。また、0~17歳の児童人口は2021年の4,049人から2025年には3,507人となり、4年間で542人、約13.4%減少しました。特に0~5歳人口は、同じ期間に1,082人から758人へ324人減少しており、減少率は約29.9%に達します。
こうした変化は、将来の保育所、小中学校、公共施設などの配置にも影響します。しかし、子どもの人数が減ったからといって、行政サービスの費用を人数と同じ割合で削減できるとは限りません。人口が広い地域に分散していれば、施設統合による移動距離の増加や送迎負担など、新たな問題が生じるからです。
8.人口が減っても世帯数は同じ割合では減らない
2026年7月1日現在のいすみ市は、人口3万3,761人、世帯数1万6,853世帯でした。単純計算すると、1世帯当たり人口は約2.00人です。いすみ市の資料でも、人口が減少する一方で世帯数は大幅には減少せず、1世帯当たりの人数が減少するとともに、単独世帯の割合が高まっていることが示されています。
人口が減っても世帯数が同程度には減少しない場合、行政需要も人口に比例して減るとは限りません。住宅が点在している以上、ごみ収集、道路、上下水道、消防、救急などのサービスを提供する範囲は簡単には縮小できないからです。例えば、インフラなどに一定の固定的な維持費が必要だとすると、人口が減少すれば一人当たりに換算した負担は相対的に増加する可能性があります。ただし、実際にいすみ市で一人当たり行政コストがどの程度増加するかについては、人口統計だけでは判断できず、歳出、施設維持費、道路延長、ごみ収集費、上下水道事業などの財政データを別途分析する必要があります。したがって、「人口が10%減れば行政コストも10%減る」と考えることは適切ではなく、人口減少社会では、人口の規模だけでなく、住宅の分布や世帯構成、施設配置なども行政効率を左右します。
9.2050年、いすみ市の人口はどこまで減るのか
いすみ市の第3期地域創生総合戦略によると、国立社会保障・人口問題研究所の2023年推計では、いすみ市の人口は2050年に2万218人まで減少すると見込まれています。一方、いすみ市は人口減少を緩和し、2050年時点で2万3,000人以上を維持することを目標としています。
| 2050年 | 人口 |
|---|---|
| 国立社会保障・人口問題研究所による推計 | 20,218人 |
| いすみ市の目標 | 23,000人以上 |
| 差 | 2,782人以上 |
ここで重要なのは、2万3,000人という数字が「将来予測」ではなく、市が政策によって目指す「目標」であることです。市は現在と同程度の人口を維持することを前提としているのではなく、人口減少そのものは一定程度避けられないものとして、その減少幅を抑えようとしています。したがって、人口政策の現実的な目的は、単純に人口増加へ反転させることだけではありません。人口減少の速度を緩和し、年齢構成の極端な偏りを抑え、そのうえで人口が減っても医療、交通、買物、行政サービスなどを維持できる地域構造をつくることが重要になります。
10.移住政策は何を基準に評価すべきか
いすみ市の第3期地域創生総合戦略では、2025年度から2027年度までの人口社会増について累計300人という目標が設定されています。また、移住・定住関係についても複数のKPI(Key Performance Indicator・重要業績評価指標)が設定されています。
| 項目 | 2027年度までの指標 |
|---|---|
| 人口の社会増 | 累計300人 |
| ふるさと定住支援住宅取得費補助金申請件数 | 累計70件 |
| 空き家バンク契約成立数 | 累計36件 |
| 移住相談件数 | 累計1,500件 |
| 相談を通じた移住者数 | 累計180人 |
これらの指標は政策の実施状況を確認するうえで重要ですが、相談件数や補助金申請件数だけで移住政策の最終的な効果まで判断することはできません。政策評価を考える場合、まず「移住相談を何件受けたか」「移住イベントへ何回参加したか」といった活動量があり、その次に「実際に何人転入したか」「何世帯が住宅を取得したか」「空き家が何件契約されたか」という直接的成果があります。さらにその先に、「3年後、5年後にも定住しているか」「市内で就業や起業をしているか」「子育て世帯が定着したか」「地域活動の担い手になったか」「地域消費や税収へどの程度寄与したか」という中長期的成果があります。
現在公表されているKPIから比較的確認しやすいのは、主として活動量と直接的成果です。政策の本当の効果を検証するには、個人情報に十分配慮したうえで、転入後の定住状況や就業状況などを継続的に分析する必要があります。
11.社会増になったことと、移住政策が成功したことは同じではない
2023年と2024年に社会増となったことは事実ですが、そこから「行政の移住政策によって社会増が実現した」と因果関係まで断定することはできません。社会増には、景気、住宅価格、テレワーク、企業の雇用、外国人住民の増減、東京圏からの人口移動、家族関係など、多数の要因が影響するからです。
行政施策の効果をより厳密に検証するのであれば、いすみ市だけの前後比較では不十分です。人口規模、東京圏からの距離、交通条件、住宅価格、産業構造、高齢化率などが比較的似ている自治体についても人口移動を調べ、政策導入前後で差がどの程度変化したのかを比較する必要があります。その意味では、現在確認できる事実は「いすみ市では2023年、2024年に転入者数が転出者数を上回った」というところまでです。この変化には移住政策が寄与している可能性がありますが、その寄与度を現在の人口統計だけから分離して測定することはできません。
12.人口が減ることと、地域が同じ割合で衰退することは同じではない
人口減少は、税収、労働力、公共交通、医療、介護、商業、地域活動などへ影響するため、軽視することはできません。一方で、人口が10%減れば地域経済や住民の生活水準も必ず10%低下するという単純な関係でもありません。人口が減少しても、一人当たり所得や市内消費が増えたり、市外から所得を得る住民が増えたり、少人数でも収益性の高い事業が成長したりすれば、地域経済への影響を一定程度緩和できる可能性があります。また、空き家が住宅や事業所として再利用され、公共交通や医療、行政サービスの提供方法が人口規模に合わせて再設計されれば、人口減少下でも一定の生活水準を維持できる可能性があります。
逆に、人口が社会増となっても、その転入者の多くが市外で勤務し、市外で買物をするのであれば、市内経済への効果は人口増加ほど大きくないかもしれません。したがって、地域の将来を評価する際には、人口総数だけではなく、年齢別人口、世帯構成、市内就業者数、市外通勤者数、事業所数、空き家流通件数、医療・介護需要、公共交通利用者数、市内消費額、一人当たり行政コストなどを組み合わせて見る必要があります。
13.今後の人口政策に必要な三つの視点
①社会増が継続するかを確認する
2023年と2024年に社会増となったことは、人口移動の面では改善を示す変化です。しかし、2年間だけの数字から長期的な構造変化が確定したとは言えません。特に2020年前後は新型コロナウイルス感染症の拡大によって人口移動や働き方が大きく変化した時期でもあり、短期間の比較には注意が必要です。今後も複数年にわたって社会増減を確認するとともに、単純な転入・転出人数だけではなく、転入者の年齢、国籍、世帯構成、転入理由、その後の定住状況などを分析する必要があります。社会増が継続的な変化なのか、一時的な変動なのかを判断するには、より長期間のデータが必要です。
②若者の転出を完全に止めることだけを目標にしない
進学や就職によって10歳代後半から20歳代前半の若者が都市部へ転出することは、本人の教育や職業選択という観点では必ずしも悪いことではありません。若者を地域から出さないことだけを人口政策の目標にすると、本人の選択肢を狭める可能性があります。より現実的なのは、市外へ進学しても将来戻ることのできる雇用を増やしたり、市外勤務をしながらいすみ市へ居住できる交通・通信環境を整えたり、起業や事業承継を選択できる環境をつくったりすることです。若者が一度市外へ出ても、就職、結婚、子育てなどの人生段階で戻ることのできる地域をつくるという視点が重要です。
③人口減少を前提に生活機能を再設計する
現在の人口規模が将来も維持されることを前提として、すべての公共施設やインフラをそのまま維持し続けることは困難になる可能性があります。いすみ市も将来人口の減少を見据え、保育所や公民館など類似する公共施設について統廃合を進める方向を示しています。ただし、施設を減らせばそれだけで効率化できるわけではありません。施設の統合によって移動距離が長くなれば、高齢者、子ども、運転免許を持たない住民には新たな負担が生じます。そのため、公共施設の再編は、地域公共交通、送迎サービス、訪問サービス、オンライン行政手続きなどと一体的に設計する必要があります。
14.データから導かれる結論
いすみ市の人口動態について確認できる最も重要な事実は、総人口が継続的に減少している一方で、2023年と2024年には転入者数が転出者数を上回る社会増が生じたということです。しかし、2024年には出生98人に対して死亡735人となり、637人の自然減が発生しました。社会増71人では、この自然減を相殺することはできませんでした。したがって、「社会増なのになぜ人口が減るのか」という現象に矛盾はありません。人口は転入と転出だけで決まるのではなく、出生と死亡を含む複数の要因によって変化するからです。
また、現在のデータから「移住政策が成功した」「移住者が急増した」とまで結論づけることもできません。統計から直接確認できるのは社会増であり、その中には転勤、就職、結婚、外国人住民の移動などさまざまな理由による転入が含まれます。一方で、総人口が減少していることだけを理由として、移住・定住政策を失敗と評価することもできません。社会増71人には、人口減少をその分だけ緩和した効果があります。重要なのは、人口増減を「増えた」「減った」の二択で評価することではなく、自然増減と社会増減を分離し、その背景まで確認することです。
まとめ~目指すべきは人口増加だけではなく、人口減少に対応できる地域である
いすみ市では、2023年と2024年に転入者数が転出者数を上回る社会増となりました。しかし、死亡数が出生数を大きく上回る自然減の規模がそれ以上に大きいため、総人口は現在も減少を続けています。今後の人口政策では、単純に転入者数だけを増やすのではなく、若者や子育て世帯が定住できる雇用と住宅、高齢になって自動車を運転できなくなっても生活できる交通手段、人口が減少しても維持可能な医療・介護・買物環境、空き家を安全に流通させる仕組み、公共施設と生活インフラの現実的な再配置、小規模でも地域内に所得を残す事業などを組み合わせて考える必要があります。
そして、人口政策の成果を見る際にも、「何人転入したか」だけでなく、転入者の年齢、世帯構成、定住期間、市内就業、起業、子育て、地域消費などを継続的に検証する必要があります。社会増は重要な成果の一つですが、それだけで人口問題が解決するわけではありません。いすみ市の社会増から確認できるのは、少なくとも転入を促す何らかの要因が存在する可能性があるということです。しかし、社会増だけから「移住先としての魅力」や「行政の移住政策の効果」を直接測定することはできません。その評価には、他自治体との比較や転入後の定住状況など、さらに詳しい分析が必要です。
人口が増えているか減っているかという情報と、個人にとってその地域が暮らしやすいかどうかも別の問題です。住宅取得費が安くても、自動車の保有費、住宅改修費、通院や買物の移動、将来の免許返納後の交通手段、固定資産税、保険料、住宅の売却可能性などまで含めれば、長期的な生活費は世帯によって大きく異なります。反対に、都市部で高い住宅費を負担している世帯や、場所に左右されにくい働き方ができる世帯にとっては、いすみ市への移住が経済的に合理的となる場合もあります。
人口減少が避けにくい地域にとって重要なのは、人口を増やすことだけを唯一の成功指標とすることではありません。人口減少の速度をできる限り緩和しながら、人口規模が小さくなっても、住民が安心して生活でき、地域経済と行政サービスを持続できる仕組みをつくることが、より現実的な課題です。

