地方のスーパーが閉店すると、「人口が減ったから仕方がない」と説明されることがあります。確かに、商圏人口の減少は店舗経営に大きな影響を与えます。しかし、人口が減少している地域のスーパーがすべて撤退するわけではありません。反対に、人口が比較的維持されている地域でも、競争激化、人手不足、物流費の上昇、電気料金の負担、建物や設備の老朽化、本部による店舗網の再編などを理由として店舗が閉鎖されることがあります。
地方スーパーの撤退を理解するうえで重要なのは、「人口が何人いるか」だけを見るのではなく、その店舗が実際に獲得できる客数、客単価、粗利益、店舗維持費、物流費、設備更新費、そして将来の投資回収可能性まで見ることです。したがって、地方スーパーの問題は単純な人口減少問題ではありません。人口減少によって売上の上限が低下する一方、人件費、冷蔵・冷凍設備、物流、建物、情報システムなど、店舗を営業するために必要な費用は同じ割合では減少しません。この「売上は減っても固定的な費用は簡単には減らせない」という構造が、地方店舗の採算を悪化させる大きな理由です。
スーパーの利益構造をどう考えるか
スーパーの経営を理解するには、まず売上高と利益を分けて考える必要があります。売上高が増えていても、必ずしも利益が増えているとは限りません。会計上、売上総利益は概念的には「売上高-売上原価」で表されます。売上原価は単純な当期の仕入額そのものではなく、期首の商品在庫、当期の商品仕入れ、期末の商品在庫などを考慮して求めます。そのため、「売上高-商品仕入額=利益」と単純化しすぎると、店舗の実態を正しく把握できない場合があります。
店舗の採算を概念的に示すなら、「営業上得られる粗利益から、人件費、電気・燃料費、物流費、建物・設備費、販売管理費などを差し引いた残り」が店舗経営を支える利益になります。ただし、値引きは販売価格の低下として売上高に反映され、廃棄も在庫や売上原価と関係するため、厳密な会計では単純に独立した費用として並べればよいわけではありません。
地方スーパーの構造を理解するには、会計上の厳密な利益計算とは別に、損益分岐点という考え方が有効です。例えば、固定的な費用が年間2億円、売上高から売上に比例して増減する費用を差し引いた利益率が20%だと仮定すると、損益分岐点となる年間売上高は10億円です。この店舗の売上高が12億円なら、「12億円×20%-2億円=4,000万円」となり、一定の利益を確保できます。しかし売上高が10億円まで低下すると利益はほぼゼロとなり、9億円まで低下すれば約2,000万円の赤字になります。
つまり、売上が10%減ったから利益も10%減るとは限りません。一定の水準を下回ると、利益が急速に減少して赤字へ転落します。人口減少地域のスーパーを考える際には、この損益分岐点を下回るかどうかが重要になります。
スーパーの売上は何で決まるのか
スーパーの売上高は、概念的には「1日当たり来店客数×1人当たり購入額×営業日数」で考えることができます。例えば、1日1,500人が来店し、1人当たり2,000円を購入する店舗なら、1日の売上高は約300万円です。ところが来店客数が1,200人まで減少すると、客単価が同じなら1日の売上高は約240万円となり、1日60万円の差が生まれます。年間360日営業すると仮定した場合、その差は単純計算で約2億1,600万円になります。
もちろん実際には、食品価格の上昇によって客単価が上がったり、営業時間や品ぞろえを変更したりするため、客数の減少率と売上高の減少率が完全に一致するわけではありません。それでも客数の減少が長期間続けば、店舗の固定的な費用を支えることが難しくなります。
全国スーパーマーケット協会の2025年版資料では、標準的な店舗を考える参考値として、平日の1日客数が1,675人、客単価が2,191円、土日祝日の1日客数が1,800人、客単価が2,555円とされています。ただし、これは全国すべてのスーパーにそのまま当てはまる数字ではありません。店舗規模、立地、地域特性によって大きく異なるため、「地方スーパーにもこの程度の客数が必要」と直接判断することはできません。
人口と来店客数は同じ割合では変化しない
商圏人口が10%減ったからといって、店舗の来店客数が必ず10%減るわけではありません。競合店が閉店すれば残った店舗へ利用者が集中することがありますし、人口がほとんど変わらなくても、新しい大型店やドラッグストアが開業すれば既存店の客数が減ることがあります。来店客数は、「商圏人口×実際に来店可能な人の割合×その店舗を選択する割合×来店頻度」といった複数の要因で決まります。そのため、市町村人口だけでは店舗の商圏を十分に表せません。
特に自動車利用の多い地方では、行政区域と商圏は一致しません。住民が隣接する市町村の大型店へ買い物に行けば、町の人口が維持されていても地元店舗の売上は減少します。一方、人口が減少していても競合店が少なく、地域住民から高い支持を受けている店舗なら、一定の客数を維持できることがあります。
高齢化は単なる需要減少ではない
高齢者も当然食料品を必要とするため、高齢化した地域で食品需要そのものが消滅するわけではありません。しかし、高齢化によって世帯人数、買い物頻度、購入量、購入する商品の種類、移動手段が変化します。単身世帯や夫婦のみの高齢世帯では、1回当たりの購入量が少なくなりやすく、少量包装や総菜、冷凍食品などへの需要が高まる可能性があります。一方で、自動車を運転できなくなれば店舗までの移動頻度が低下し、生協、宅配、移動販売などへ利用が移る場合もあります。
したがって、高齢化は単純に「需要が減る」と捉えるべきではありません。需要の量だけでなく、商品の種類、包装単位、買い物頻度、来店手段が変化する問題として考える必要があります。
全国のスーパー売上増加と地方店舗の撤退は矛盾しない
経済産業省の商業動態統計では、2025年のスーパー販売額は前年比4.7%増加し、店舗数や1店舗当たり販売額も増加しました。しかし、この数字だけから「スーパー業界は好調だから地方店舗も安泰」と判断することはできません。全国の販売額は、食品価格の上昇、新規出店、大型店への顧客集中、高付加価値商品の販売拡大などによって増加します。例えば販売数量がほとんど変化しなくても、商品の平均価格が5%上がれば、名目上の売上高は約5%増えます。
しかし仕入価格、人件費、電気料金、物流費なども上昇していれば、売上高が増えても利益が増えるとは限りません。スーパーの経営状態を判断するときには、名目売上高だけではなく、売上総利益、営業利益、客数、販売数量などを併せて見る必要があります。また、商業動態統計については、2025年1月に2021年経済センサス-活動調査を基礎とした水準調整が行われています。このため、長期比較を行う際には統計上の不連続にも注意する必要があります。
ドラッグストアとの競争
近年、地方の食品スーパーにとって無視できない競争相手となっているのがドラッグストアです。経済産業省の統計によると、2025年のドラッグストア販売額は前年比5.5%増加しており、食品や調剤医薬品なども増加要因となっています。
ドラッグストアでは、医薬品や化粧品、日用品だけでなく、飲料、菓子、調味料、冷凍食品、牛乳、卵などを扱う店舗が増えています。食品以外の商品を販売できることから、一部の商品を集客目的で低価格に設定できる場合もあります。一方、食品スーパーは生鮮食品や総菜を大きな特徴としており、鮮度管理、加工、品出し、値引き、廃棄などの作業が必要です。ドラッグストアの出店によって牛乳、飲料、菓子、調味料、冷凍食品などの売上が移れば、スーパーの経営に影響を与える可能性があります。
ただし、「ドラッグストアが出店すればスーパーが撤退する」「利益率の高い商品だけがドラッグストアへ流れる」と一律に断定することはできません。商品カテゴリーごとの粗利益率、価格、商圏、店舗間距離、消費者の購買行動などを分析しなければ、実際の影響の大きさは判断できません。
地域外の大型店への顧客流出
地方では自動車を使って買い物をする世帯が多いため、道路事情の改善が地元店舗にとって必ずしも有利になるとは限りません。道路が整備され、近隣都市の大型店まで短時間で行けるようになれば、住民の買い物範囲が広がります。大型店には、品ぞろえ、価格、駐車場、飲食店や医療機関との併設などの利点があります。その結果、町内人口がほとんど変化していなくても、地元スーパーの店舗選択率が低下することがあります。
反対に、幹線道路沿いにあり、周辺地域から利用客を集められるスーパーであれば、行政区域を越えた広い商圏を形成することもできます。したがって、道路整備そのものが地元商業を衰退させるのではなく、その道路を通じて顧客がどちらへ移動するかが重要になります。
人手不足と人件費
スーパーでは、荷受け、品出し、発注、在庫管理、レジ、生鮮加工、総菜調理、清掃、値引き、衛生管理、顧客対応など、多くの業務を人に依存しています。セルフレジや自動発注を導入しても、すべての作業を無人化することはできません。
全国スーパーマーケット協会の2023年調査では、人手不足対策として採用活動を実施している企業の割合が98.1%でした。ただし、この数字を「スーパー企業の98.1%が人手不足である」と読み替えてはいけません。あくまで、人手不足への対応策として採用活動を実施している企業の割合です。
地方では若年人口の減少などによって、早朝、夕方、土日祝日に働ける人材を確保しにくい場合があります。採用が難しければ賃金を引き上げる必要があり、人件費が上昇します。人員を減らしすぎれば、品出しや加工、レジ、清掃などのサービス水準が低下し、さらに客数が減少する可能性もあります。省力化設備は重要な対策ですが、設備導入には初期投資が必要です。売上規模の小さい店舗では、省力化による人件費削減効果だけでは投資を十分に回収できない場合があります。
電気料金と冷蔵・冷凍設備
スーパーは、通常の小売店舗と比較して冷蔵・冷凍設備の電力使用量が大きい業態です。冷蔵ケース、冷凍ケース、バックヤードの冷蔵庫や冷凍庫、空調、照明、厨房設備などを継続的に稼働させる必要があります。
店舗の客数が減っても、冷蔵・冷凍設備を同じ割合で停止することはできません。営業時間を短縮しても、閉店後に冷蔵設備まで停止することはできないため、電力費の多くは残ります。したがって、売上が低下した店舗では「売上1円当たりの電力費」が上昇しやすくなります。地方店舗で問題になるのは電気料金そのものだけではなく、少ない売上で必要な設備を支えなければならないことです。
地方物流の非効率性
食品スーパーでは、生鮮食品、牛乳、豆腐、総菜材料などを継続的に配送する必要があります。物流費には、車両費、燃料費、運転者の人件費、荷役費、物流施設費、配送管理費などが含まれます。
人口密度が高く店舗が集中している地域であれば、短い走行距離で複数店舗へ配送できます。しかし地方では店舗間の距離が長く、1店舗当たりの配送量も少なくなりやすいため、商品1個当たりの物流費が高くなる可能性があります。チェーン全体で考えれば、店舗単独ではわずかに黒字でも、その1店舗を維持するために長距離の配送ルートを残す必要がある場合があります。本部が店舗網全体の物流効率を見直した結果、個別店舗の損益だけではなく配送網全体の効率を理由として閉店することも考えられます。
生鮮食品と総菜の値引き・廃棄
生鮮食品や総菜は食品スーパーにとって重要な差別化要因ですが、需要予測が外れれば売れ残りが発生します。商品を少なく仕入れれば欠品による販売機会損失が生じ、多く仕入れれば値引きや廃棄が増加します。
農林水産省によると、2024年度の事業系食品ロスは237万トンで、そのうち食品小売業は48万トンでした。ただし、この48万トンはスーパーだけの数値ではありません。食品小売業全体の数字として理解する必要があります。
店舗経営上の目的は、単純に「廃棄をゼロにすること」ではありません。廃棄を減らそうとして在庫を極端に減らせば、欠品が増えて売上を失います。重要なのは、欠品による機会損失と、過剰在庫による値引き・廃棄損失の合計を抑えることです。特に観光地では、曜日、天候、連休、季節によって客数が大きく変動します。需要変動が大きい地域ほど適正在庫の予測が難しくなり、在庫管理の難易度が高くなります。
老朽化した店舗が黒字でも閉店する理由
店舗が現在黒字であることと、将来も営業を続けることが合理的であることは同じではありません。冷蔵・冷凍設備、空調、照明、厨房、レジ、情報システム、屋根、外壁、給排水、駐車場などは、いずれ更新が必要になります。
例えば店舗改修に3億円必要で、改修によって年間2,000万円の追加的な利益またはキャッシュフローが得られると単純化すれば、投資額を回収するまで15年かかります。しかし、これは非常に簡易的な計算です。実際の企業は、将来得られる現金収支、資金調達費用、金利、設備の耐用期間、商圏人口の将来予測などを考慮します。将来の収益を現在の価値に換算して投資価値を評価する正味現在価値や、投資から得られる収益率を評価する内部収益率などの考え方も用いられます。
また、設備更新は必ずしも「改修したら利益が増える」という投資とは限りません。「改修しなければ営業を続けられない」という場合もあります。そのため、現在の店舗が黒字でも、今後10年、15年にわたって設備投資を回収できないと判断されれば、更新せず閉店する方が企業として合理的な場合があります。
賃貸借契約や土地・建物も閉店理由になる
店舗が賃借物件の場合、契約満了や賃料改定が閉店の契機になることがあります。店舗運営会社が営業継続を希望していても、建物所有者が建て替えや売却を選択する場合もあります。自社所有店舗でも、建物維持費、固定資産税、解体費、跡地利用などを含めた判断が行われます。そのため、閉店理由が「契約満了」「諸般の事情」などとしか公表されていない場合、外部の人間が「赤字だから閉店した」と断定することはできません。
チェーン全体では黒字店舗も閉店候補になる
チェーン企業では、個々の店舗の黒字・赤字だけで店舗存続を判断するとは限りません。限られた資金や人材をどこへ配置すれば企業全体の利益を最大化できるかという視点も重要です。地方店舗が年間1,000万円の利益を出していたとしても、その店舗を閉め、人材や投資資金を別の店舗へ移すことで年間3,000万円の利益が得られるなら、本部が撤退を選択する可能性があります。
企業が確認するのは、売上高、営業利益率だけではありません。投下した資金からどの程度の利益を得られるか、売場面積当たりの売上はいくらか、従業員1人当たりの売上はいくらか、改装投資を何年間で回収できるか、将来の商圏人口はどうなるか、物流拠点との位置関係はどうか、といった複数の指標を比較します。したがって、住民から見て「いつも客が入っている店」であっても、本部が求める投資効率を満たしていない可能性があります。
小さい店舗ほど不利とは限らない
小型店舗には、管理者の費用を少ない売上で負担しなければならない、1人の欠勤の影響が大きい、配送1回当たりの商品量が少ない、設備投資を回収しにくいといった不利があります。そのため、「小さな店舗なら固定費が少ないので必ず維持しやすい」とは言えません。
一方、小型店舗が常に大型店舗より非効率というわけでもありません。全国スーパーマーケット協会の2023年調査では、売場面積800平方メートル未満の店舗について、従業員1人当たり年間売上高は他の規模区分より低い傾向がありました。ところが同じ調査では、売場面積1平方メートル当たり年間売上高は、800平方メートル未満の店舗が約225万円、800~1,200平方メートルが約158万円、1,200~1,600平方メートルが約110万円、1,600平方メートル以上が約109万円となっており、小型店の方が売場面積当たり売上高は高い結果となっています。
したがって、この統計から「小型店舗は経営効率が悪い」と単純に結論づけることはできません。従業員当たり生産性では不利でも、売場面積当たり生産性では有利な場合があるからです。店舗の適正規模は、人件費、地代・家賃、物流費、商品構成、設備費、商圏人口、客数などを総合して判断する必要があります。地方では、需要に合った小型化が有効な場合もあれば、小型化しても物流費や人件費を十分に削減できず採算改善につながらない場合もあります。
業界統計にも限界がある
スーパー業界の統計を利用するときには、調査方法にも注意が必要です。全国スーパーマーケット協会の2023年年次統計調査では、国内でスーパーを保有する952社を対象とし、有効回答企業は283社、回収率は29.7%でした。また、店舗状況については各企業から標準的な店舗を回答してもらう方式が含まれています。
したがって、こうした業界統計はスーパー業界の傾向を把握するうえで非常に有用ですが、全国すべてのスーパーを完全に把握した全数調査ではありません。回答した企業と回答しなかった企業の経営状況が同じとは限らないため、標本の偏りが存在する可能性があります。そのため、業界平均や中央値を特定の地方店舗へそのまま適用することは避ける必要があります。
観光客が多ければスーパーは維持できるのか
観光地域では、週末、連休、夏季などに来訪者が増え、飲料、酒類、総菜、肉、魚、氷、行楽用品などの売上が増える可能性があります。このため観光需要はスーパーの売上を支える重要な要素になります。しかし、観光客数が多いことと、年間を通して店舗経営が安定することは同じではありません。観光需要は季節や天候に左右され、繁忙期だけ人員を増やさなければならない場合があります。また、観光客が地域へ入る前に大型店で買い物を済ませてしまえば、地域内のスーパーには十分な売上が発生しません。
したがって観光地では、年間観光客数そのものより、「地域内で実際に食品を購入する観光客が何人いるか」「1人当たりいくら購入するか」「何か月間需要が発生するか」を分析する必要があります。
競合店がなくなれば残ったスーパーは安泰なのか
競合店が閉店すると、残った店舗へ顧客が集中する可能性があります。しかし競合がなくなれば必ず店舗を維持できるわけではありません。地域全体の需要そのものが店舗の損益分岐点を下回っていれば、地域内で独占的な地位を得ても採算は確保できません。また、価格を大幅に引き上げれば、住民が遠方の大型店、宅配、インターネット販売などへ移行する可能性があります。
地方スーパーが競争している相手は、同じ町のスーパーだけではありません。近隣都市の大型店、ドラッグストア、コンビニエンスストア、生協、宅配、インターネット販売などを含めて考える必要があります。
ネットスーパーや移動販売は代替になるのか
ネットスーパーや食品宅配は、店舗まで移動しにくい人にとって有効な手段です。しかし地方では配送区域、配送料、最低注文額、配送時間、決済方法などの制約があります。特に人口密度が低い地域では、配送車が長い距離を走って少数の世帯へ商品を届けることになります。そのため1件当たりの配送費が高くなり、店舗型スーパーと同様に需要密度の問題を抱えます。
移動販売も重要な手段ですが、車両費、燃料費、人件費、保冷設備、決済費、売れ残りなどの費用が発生します。必要としている住民が多くても、集落が広範囲に分散していれば、1時間に対応できる利用者数が少なくなり、事業採算が悪化します。そのため移動販売では、既存店舗との在庫共有、注文予約、複数地区を組み合わせた巡回、自治体支援、福祉や高齢者見守りとの連携などを組み合わせる方法が考えられます。ただし、補助金によって開始できたとしても、利用者、運転者、車両更新費などを長期間確保できなければ継続できません。
スーパー撤退は住民に何をもたらすのか
スーパーの閉店による負担は、商品の価格だけでは測れません。近隣店舗がなくなれば、住民は遠方まで移動する必要があります。自動車を利用できる人にとって数キロメートルの増加で済んでも、自動車を運転できない高齢者などにとっては大きな生活上の問題になります。
実質的な買い物負担は、「商品代金+交通費+配送料+移動時間+家族による送迎や買い物代行の負担」として考える必要があります。遠方の大型店の商品価格が安くても、移動に必要な費用と時間を含めれば必ずしも安いとは限りません。
買い物頻度が減れば、保存しやすい食品の購入割合が増える可能性もあります。冷凍食品や加工食品そのものが直ちに健康上悪いという意味ではありませんが、生鮮食品を含む幅広い食品を選択する機会が減少する可能性があります。
食料品アクセス困難人口という指標
農林水産政策研究所では、食料品アクセス困難人口を、「店舗まで500メートル以上離れ、自動車の利用が困難な65歳以上の高齢者」として推計しています。対象となる店舗には、生鮮食品店、百貨店、総合スーパー、食料品スーパー、コンビニエンスストア、ドラッグストアなどが含まれます。
この指標は地域比較に有効ですが、500メートルという距離だけで実際の買い物環境を完全に評価することはできません。例えば500メートル以内にコンビニエンスストアがあれば統計上は比較的アクセスが確保されていると評価されても、価格、品ぞろえ、容量、生鮮食品の選択肢などがスーパーと同等とは限りません。さらに、直線距離と実際の道路距離は異なります。坂道、歩道、交通量、バスの運行本数、荷物を持って歩けるか、家族の支援があるか、宅配サービスを利用できるかなどによって実際の生活上の困難度は変わります。
スーパーを補助金で維持すればよいのか
地方のスーパーは民間企業ですが、地域によっては食料供給を支える生活基盤に近い機能を果たしています。ただし、これはスーパーが法律上の公共インフラに指定されているという意味ではありません。近年、国も円滑な食品アクセスの確保を政策課題として位置づけ、店舗、移動販売、宅配、交通などを組み合わせた対応を進めています。
自治体が特定の店舗へ継続的に公費を投入する場合には、「支援しなければ本当に撤退するのか」「支援によって何年間存続できるのか」「実際に恩恵を受ける住民は何人か」「代替手段より費用対効果が高いか」「競合事業者との公平性を確保できるか」などを検討する必要があります。例えば年間3,000万円を投入し、実際に恩恵を受ける住民が1,000人なら、単純計算では1人当たり年間3万円の公費負担になります。この金額が高いか安いかは、移動販売、買い物バス、タクシー助成、宅配支援などの代替策と比較しなければ判断できません。
したがって、「スーパーは必要だから税金で残すべきだ」「民間企業だから行政は関与すべきでない」という二者択一で考えるのは適切ではありません。必要なのは、地域住民が必要とする食料供給機能を明確にし、それを最も持続可能な方法で確保することです。
地方で取り得る現実的な対応
スーパー撤退への対応は、店舗を現在の形のまま残すことだけではありません。商圏に合わせた店舗の小型化、営業時間の見直し、予約販売、商品受け取り拠点、移動販売、宅配、デマンド交通、医療や福祉サービスとの連携などを組み合わせる方法があります。
小型化によって家賃や電気料金を減らせる可能性がありますが、配送や管理者の費用まで同じ割合で減るとは限りません。営業時間を短縮して人件費を削減しても、冷蔵設備の電力費は残ります。したがって、それぞれの施策について削減できる費用と失われる売上を比較する必要があります。
食品、日用品、宅配受け取り、行政サービス、金融サービスなどを組み合わせた複合拠点も考えられます。複数の需要を一つの場所へ集約できれば利用者を確保しやすくなる一方、業務が複雑化して人員や設備費が増える可能性もあります。
自治体が把握しておくべきこと
自治体はスーパーが閉店すると発表されてから対応を考えるのではなく、地域の食料品アクセスを継続的に把握する必要があります。重要なのは、地区別人口や高齢化率だけではありません。食料品店舗の位置、実際の道路距離、運転できない住民の人数、路線バスやデマンド交通、移動販売、生協や宅配の配送区域、タクシー料金、家族送迎の実態、災害時の食料供給などを組み合わせて評価する必要があります。
特に確認しておくべきなのは、「現在利用している店舗が閉店した場合、次の店舗までの距離と移動時間がどれだけ増えるのか」です。この情報があれば、店舗維持、交通支援、移動販売、宅配支援のどれが合理的なのかを比較しやすくなります。
移住や住宅購入でも店舗の将来性を見る必要がある
地方へ移住するときには、「今スーパーがある」というだけで生活環境を判断するのは十分ではありません。現在の最寄り店舗が閉店した場合に次の店舗までどの程度距離があるのか、自動車を運転できなくなった場合にどのような移動手段があるのか、生協や宅配を利用できるのか、移動販売があるのかまで確認することが重要です。
現在60歳前後で自動車を運転できる世帯であっても、10年後、20年後には状況が変わります。地方での住宅購入では、現在の買い物利便性だけでなく、自動車を利用できなくなった後まで生活を維持できるかという視点が必要です。
公開情報だけでは個別店舗の撤退理由を断定できない
地方スーパーの分析で最も注意すべきなのは、個別店舗の内部情報がほとんど公開されていないことです。通常、店舗単独の売上高、営業利益、人件費率、賃料、電気料金、廃棄率、設備更新額、本部の撤退基準、賃貸借契約、将来の閉店計画などは外部から確認できません。
そのため、「駐車場が空いている」「建物が古い」「近くにドラッグストアができた」といった観察だけで、赤字や閉店可能性を断定することはできません。同様に、人口が減少している地域で店舗が閉店したからといって、「人口減少が閉店原因だった」と直ちに因果関係を断定することもできません。人口減少と閉店が同時に起きていても、実際の直接的な理由が設備更新、人手不足、物流再編、契約満了などである可能性があります。
「人口減少だけでは説明できない」を科学的に証明するには
本稿で示した各要因は、経済学や店舗経営の理論から見て合理的であり、公的統計とも大きな矛盾はありません。しかし、どの要因がスーパー撤退にどの程度影響しているかを科学的に証明したものではありません。
本格的に因果関係を検証するなら、全国の店舗を数年間追跡し、各店舗が翌年も営業しているか、閉店したかを調べる必要があります。そのうえで、商圏人口の増減率、高齢化率、競合スーパー数、ドラッグストア数、物流拠点までの距離、店舗面積、建物年齢、地域の賃金水準などを同時に分析する必要があります。
さらに、競合店が新しく開店した地域と開店していない地域を比較するなど、他の条件をできるだけそろえた分析を行うことで、「ドラッグストア出店によって閉店確率がどの程度変化したのか」といった因果関係に近い評価が可能になります。したがって、本稿で説明しているのは「地方スーパーが撤退する可能性を高める合理的な経営要因」であり、それぞれの要因について全国共通の因果関係を証明したものではありません。
現実的な結論
地方スーパーが撤退する理由は、人口減少だけでは説明できません。人口減少は商圏全体の需要を縮小し、売上の上限を低下させる重要な要因ですが、実際に店舗存続を左右するのは、その売上によって人件費、電気料金、物流費、設備費などを負担し、企業が必要とする利益や投資回収を確保できるかどうかです。
また、全国のスーパー販売額が増加しているからといって、人口減少地域の個別店舗が安定しているとは限りません。食品価格上昇によって名目売上が増加しても、客数や販売数量が減少し、仕入価格や人件費などの上昇が売上増加を上回れば、経営状態は悪化する可能性があります。
現在黒字の店舗でも、数億円規模の設備更新を今後の商圏人口では回収できないと判断されれば閉店することがあります。チェーン全体の物流や人材配置を考えた結果、単独では黒字の店舗が閉鎖対象になる可能性もあります。一方、小型店舗が必ず不利とも限りません。従業員当たりの生産性では大型店舗に劣る場合があっても、売場面積当たりの売上では小型店舗が高い場合があります。したがって「大型化すればよい」「小型化すればよい」と一律に判断するのではなく、その地域の需要に合った店舗規模を考える必要があります。
地域の食料供給を維持するために最も重要なのは、「スーパーを残すこと」自体を目的にしないことです。住民が必要な食料を合理的な負担で継続的に入手できることが本来の目的です。スーパーを維持する方が合理的な地域もあれば、小型店舗へ転換した方が合理的な地域もあり、移動販売、宅配、交通支援を組み合わせた方が持続可能な地域もあります。
その判断には、何人が利用するのか、1日に何人が来店するのか、1人当たりいくら購入するのか、店舗を維持するためにいくら必要なのか、商品を誰が運ぶのか、従業員を確保できるのか、設備更新にいくら必要なのか、赤字が発生した場合に誰が何年間負担するのかを具体的に検証する必要があります。重要なのは、すべてのスーパーを一律に残すことでも、市場原理だけに任せることでもありません。地域ごとに必要な食料供給機能を明確にし、その機能を最も持続可能な方法で確保することです。
データ利用上の注意
本稿で使用しているスーパー販売額、ドラッグストア販売額、店舗数、客数、生産性、食品ロスなどの数字は、全国または業界全体を対象とした統計です。特定の地方店舗の売上高、利益、閉店理由を直接示すものではありません。
また、全国スーパーマーケット協会の年次統計調査は業界分析に有用ですが、全国すべての店舗を対象とした全数調査ではなく、回答企業を対象とした調査です。業界平均や中央値を特定の店舗へそのまま当てはめることはできません。個別地域を分析する場合には、国勢調査、住民基本台帳、経済センサス、商業動態統計、企業の公式発表、自治体資料、道路・公共交通情報、店舗の位置などを組み合わせて判断する必要があります。
主な参考資料
主な資料として、経済産業省「商業動態統計」「2025年小売業販売を振り返る」、全国スーパーマーケット協会「2025年版スーパーマーケット白書」「スーパーマーケット年次統計調査」、農林水産省「食品アクセス問題の現状」「事業系食品ロス量」、農林水産政策研究所「食料品アクセスマップ」、資源エネルギー庁「電気料金の仕組み」、総務省統計局「人口推計」などを参照しています。

