地域分析記事

地域の暮らしと地域課題を数学とデータで考える

 山あいの細い道路を、一台の軽バンがゆっくり登っていく。荷室にはいくつもの段ボール箱が積まれているが、山の上の集落で降ろす荷物は二つか三つしかない。谷に沿って曲がる道路を走り、橋を渡り、さらに支道へ入り、一軒の家の前で停車して荷物を渡せば、配送員はまた同じ道を戻らなければならない。この光景を物流という仕組みから眺めると、人口減少地域が抱える問題の輪郭が見えてくる。困っているのは荷物が多すぎるからではなく、むしろ少なすぎるからなのである。

 ドローン配送という言葉から、多くの人が最初に思い浮かべるのは離島だろう。海によって道路が完全に途切れている以上、空を飛ぶ機械との相性はいかにもよさそうに見える。しかし、物流の効率を決めるのは、単純に道路があるかないかではない。むしろ重要なのは、一個の荷物を届けるために、車両と人間を何分間拘束しなければならないかという問題である。その観点から考えると、ドローンが社会的な意味を先に持つ場所は、海の向こうの島ではなく、道路ではつながっているはずなのに、少量の荷物を届けるため長い時間を必要とする中山間地域なのかもしれない。

荷物が減れば、物流も小さくできるとは限らない

 人口が半分になれば宅配便の荷物も減るのだから、配送に必要な労力も半分になりそうに思える。しかし、物流には規模の縮小がそのまま効率化につながらないという厄介な性質がある。百軒の住宅が密集する市街地なら、一台の車が短い距離を移動しながら次々に荷物を降ろせるため、一個の荷物に必要な走行時間は小さい。これに対して、十軒の家が谷の向こうや山腹に離れて存在している地域では、荷物の数が十分の一になったとしても、道路そのものの長さまで十分の一になるわけではなく、むしろ一個を届けるための移動時間は大きくなっていく。

 国土交通省も、過疎地域では貨物量の減少と積載効率の低下によって物流サービスを持続的に提供することが難しくなっていると認識しており、2025年には「ラストマイル配送の効率化等に向けた検討会」が設置された。2024年度の宅配便取扱個数は約50億個に達しているが、全国で荷物が多いことと、人口の薄い地域で一件一件を効率よく届けられることは別問題であり、地方物流ではむしろ「何個運ぶか」より「一個を届けるため何分使うか」の比重が大きくなっている。

 この構造を象徴する事例として、北海道上士幌町について国土交通省の検討資料に示された数字は興味深い。市街地では荷物全体のおよそ8割を配送するのに配送時間の約2割しか使わないのに対し、農村部では荷物の約2割を届けるために配送時間の約8割を費やすという。これは上士幌町という特定地域の事例であり、全国の過疎地域にそのまま当てはまる法則ではないが、人口密度が低くなると配送量より配送時間の方が問題になるという構造をよく示している。

 もし地方物流の本質がここにあるのなら、ドローンの性能を見るときにも視点を変える必要がある。何キログラム積めるか、時速何キロメートルで飛べるかだけではなく、一個の荷物を届けるために失われていた配送員の時間を何分取り戻せるかという尺度で評価しなければ、本当の価値は見えてこない。

地図では近い家を、道路は遠くする

 山間部では、二つの地点が直線で2キロメートルしか離れていなくても、川や尾根が間にあれば、自動車は5キロメートル、場合によっては10キロメートル以上走らなければならない。道路とは地形に沿って引かれた一本の線であり、車はその線から外れることができないのに対し、ドローンは条件が整えば二地点をより直接的に結ぶことができるため、中山間地域ではこの差が時間差として表れやすい。

 日本郵便が東京都奥多摩町で行った実証では、山間部の直線距離約2キロメートルをドローンで結び、自動車で移動する場合のおよそ半分の時間で到着したと報告されている。もちろん一回の実証から全国の山村について同じ割合の時間短縮が可能だとはいえないが、谷沿いに遠回りする道路と直線的に飛行できる航空経路の違いは、中山間地域においてドローンが比較優位を持ち得る理由を端的に示している。

 ここで離島との違いを考えると、ドローン配送についての直感が少し変わってくる。離島は確かに海によって道路から切り離されているものの、既存の定期船が十分な積載率で機能している地域では、食品、飲料、日用品、建材などをまとめて大量に運ぶことができる。数キログラムの荷物をドローンで何往復もするより、一度に大量の物資を運べる船舶の方が単位重量当たりの輸送効率で有利になる場合が多く、日本郵便も離島では一定規模の輸配送量をまとめる必要があることから、まず既存物流ネットワークの活用を考えるという趣旨の見方を示している。

 もっとも、これは離島にドローンが向かないという意味ではない。船便が少ない島、港から集落までさらに長い陸上輸送が必要な島、緊急性の高い医薬品を少量だけ運ぶ場合などでは、ドローンが極めて有効になる可能性がある。重要なのは「離島か山村か」という地理区分そのものではなく、大量輸送ができる既存手段があるか、一個の荷物のためにどれだけ遠回りしなければならないかという物流条件なのである。

ドローンが置き換えるのはトラックではなく、最も長い寄り道かもしれない

 山梨県小菅村で進められてきた物流の仕組みは、この問題を考えるうえで示唆に富む。村外から届いた荷物を地域内の配送拠点へいったん集め、すべてをドローンで運ぶのではなく、住宅がまとまっている区域では陸上輸送を使い、地理的条件から配送効率の悪い区間にドローンを組み合わせる。そこには宅配便だけでなく、買い物代行や地域内配送なども組み込まれ、2021年から社会実装へ進んだのち、周辺自治体との共同配送へも展開してきた。

 この仕組みが興味深いのは、「トラック対ドローン」という対立になっていないことである。一度に多くの荷物を積み、住宅がまとまった区域を順番に回る仕事では、現在でも自動車は極めて優秀な輸送手段である。一方、数キログラムしかない荷物一つを積んで山道を何十分も往復する仕事になると、人間が運転する車両の長所である大量輸送能力がほとんど生かされない。

 地域物流を一本の木に例えるなら、都市から地域まで荷物を運ぶ太い幹には大型トラックが必要であり、集落を結ぶ太い枝には軽貨物車が適している。その先で山の向こうへ細く長く延び、数軒の家のためだけに存在する枝にまで同じ車両を走らせるから非効率が生まれるのであり、その部分だけをドローンへ受け渡すことができれば、物流網の大部分を変えなくても、人間の時間を最も多く奪っていた場所だけを改良できる。

 ドローン配送の未来というと、空を無数の機体が飛び交い、玄関先へ荷物が自動的に降りてくる光景が想像されがちだが、人口減少地域で先に実用性を持つのは、むしろこのような地味な仕組みではないだろうか。トラックをなくすのではなく、トラックが最も苦手とする仕事だけを空へ逃がすのである。

ドローンが必要になる背景を考えるには、技術だけを見るのでは不十分です。そもそも人口が減った地域で、現在の郵便や宅配は人口減少地域でも維持できるのかという問題があります。

「一機に一人」では物流革命にならない

 ただし、ドローンが空を飛べるというだけでは、物流費は安くならない。一台のドローンを飛ばすたびに一人の操縦者が付き続けなければならないなら、配送員を操縦者へ置き換えただけになり、機体購入費、整備費、電池、通信、保険などを加えれば、かえって従来配送より高くなる可能性すらある。この問題はドローン物流の採算性を考えるうえで極めて重要であり、近年の制度整備も機体性能だけでなく、人間一人がどれだけ多くの機体を安全に管理できるかという方向へ移り始めている。

 国土交通省が2025年に策定した多数機同時運航のガイドラインでは、当初、一人の操縦者が最大5機を管理することが想定されていたが、2026年6月の改訂では、段階的な検証と安全対策を条件として同時運航機数の一律上限が撤廃された。その目的には運航効率と事業採算性の向上が明確に掲げられており、ドローン物流が「飛行できるか」という技術実証の段階から、「何機を何人で動かせば事業になるか」という経営と運航設計の段階へ移りつつあることが分かる。

 日本郵便も2026年に兵庫県豊岡市で複数機の同時運航を用いた物流実証を進め、使用機体には最大5.5キログラムを積載し、荷物搭載時でも40キロメートル以上飛行できる仕様のものが採用されている。兵庫県、豊岡市、日本郵便は同年、中山間地域の物流機能維持を目的とした連携協定も締結しており、ここでも目的は未来的な飛行技術の披露ではなく、人口減少地域で物流そのものを維持できるかという現実的な課題に置かれている。

人が少ない地域だからこそ使いやすいという逆説

 もう一つ興味深いのは、人口の少なさが従来物流には不利である一方、一定の条件下ではドローン運航には有利に働く可能性があることである。日本では2022年から、人がいる地域の上空を操縦者の目の届かない状態で飛行する、いわゆるレベル4飛行が制度上可能になったが、市街地のように歩行者や住宅が多い場所では、第三者に対する安全確保の要求も当然高くなる。

 一方、中山間地域などで利用されるレベル3.5飛行では、機上カメラなどによって飛行経路下の安全を確認することで、従来必要だった補助者や看板などの配置を簡素化できる。したがって、「人口が少ないから簡単に飛ばせる」と一般化することはできないものの、人口密度が低く、山林や農地など第三者が飛行経路下へ立ち入る可能性の低い場所では、従来の配送を不利にしていた地理的条件の一部が、逆にドローン運航上の利点へ変わる場合がある。

 人が少ないため宅配車一台を効率よく使えなくなった地域が、その人の少なさゆえに新しい輸送手段を導入しやすくなるとすれば、これは人口減少地域を考えるうえで象徴的な逆転である。地方の弱点をすべて都市と同じ条件へ戻そうとするのではなく、その弱点を別の技術の長所へ変換できるかという発想が必要になる。

それでも、空だけでは暮らしは支えられない

 もちろん、ドローンが地方物流の万能薬になるわけではない。現在想定されている配送用ドローンが得意なのは、主として軽量で比較的小さな荷物であり、米袋を何十袋も運んだり、飲料水、家具、灯油、建材といった重量物を日常的に大量輸送したりする用途では、依然として自動車や船舶の方が適している。風雨、気温、視界などによって飛行できない場合もあり、機体ごとに積載量や飛行距離、降雨や風に対する運用限界も存在する。

 したがって、過疎地域で必要なのは「ドローンだけで完結する物流網」ではなく、飛べない日は車両へ戻すことができる冗長性を備えた物流網である。国土交通省が進めるドローン配送拠点への支援でも、地方公共団体や物流事業者が連携し、トラックなどの陸上輸送とドローンを組み合わせることが前提となっており、政策的にも全面的な空輸への転換ではなく、既存物流の弱い部分を補完する技術として位置づけられている。

 将来、山間部を走る宅配車が消えるとは考えにくい。むしろ変わるのは、一台の車が必ずすべての家を訪問しなければならないという現在の配送方法だろう。朝、地域の物流拠点へトラックがまとめて荷物を運び、住宅が比較的密集する区域は軽貨物車が回り、軽くて急ぎで道路では大きく遠回りしなければならない荷物だけがドローンへ移される。悪天候の日や大きな荷物は従来通り車で運び、宅配便、買い物代行、地域商店の商品、条件によっては医薬品なども同じ配送基盤へ載せることができれば、人口が減っても複数の物流サービスを別々に維持する必要は小さくなる。

問題は「店があるか」ではなく「暮らしが届くか」

 地方の買い物問題は、スーパーが閉店した日に突然始まるわけではない。最初は店が少し遠くなり、次にバスの便が減り、自動車を運転できなくなった高齢者が買い物へ行きにくくなり、その後、宅配便の維持が難しくなって配送日数が延び、一部の商品を届けてもらいにくくなる。そのような小さな不便が一つずつ積み重なった末に、住民の中で「ここではもう普通に暮らせない」という判断が生まれる。

 そう考えれば、日用品物流は単なる民間の宅配サービスではない。水道や道路ほど目立つ存在ではなくても、牛乳や洗剤、紙おむつ、食品や薬が必要なときに届くということ自体が、地域で生活を続けるための基礎条件である。

 ドローン配送による作業時間削減については、2025年に国土交通省の検討会へ提出された事業者側資料で、一定割合の荷物をドローンへ移すことで全国的に大きなドライバー作業時間を削減できるという試算も示されている。ただし、これは約170自治体への導入やドローン配送可能率など複数の仮定に基づいた推計であり、将来確実に実現する数字として扱うべきものではない。それでも、その試算が示している考え方は重要で、ドローンの価値を「何個運んだか」ではなく、「人間が運転する必要のなくなった時間が何時間生まれたか」で測ろうとしている。

 過疎地域の物流で本当に問うべきなのは、ドローン一便とトラック一便の料金を単純に比べてどちらが安いかという問題ではないのだろう。一人の配送員が一日に回れる家が減り続けたとき、その人が最も時間を奪われる十軒をドローンに任せることで、残りの百軒への配送を維持できるのか。もしその十軒のためだけに別の配送員を確保せずに済むなら、ドローンそのものが単独で利益を生まなくても、地域物流網全体としては経済的な意味を持つ可能性がある。

 その意味で、ドローンは赤字の配送路線を突然黒字へ変える魔法の機械ではなく、採算限界へ近づいている物流網から最も負担の大きい部分を取り除き、その仕組み全体をもう少し長く維持するための装置として考えた方が現実に近い。

離島より先に「普通の山村」で始まる未来

 では、ドローン配送は本当に離島より先に過疎地域の日用品物流を救うのだろうか。現在までの実証や物流理論からは、少量配送が中心で、住宅が分散し、道路の迂回が大きく、第三者が飛行経路へ立ち入る可能性も比較的低い中山間地域では、ドローンの比較優位が先に現れる可能性をかなり合理的に説明することができる。ただし、それが全国的な採算データによって証明された段階にはまだ達しておらず、「離島より中山間地域が必ず先になる」と断定することはできない。

 おそらく最初に起きるのは、無数のドローンが住宅地の上空を飛び交うような劇的な変化ではない。物流会社ごとに別々だった荷物が地域の一つの拠点へ集まり、住宅密度の高い場所はこれまで通り車で配送され、その中から軽く、急ぎで、道路では遠回りになり、配送員の時間を大きく奪う荷物だけが選ばれて空を飛ぶという、かなり地味な変化だろう。

 既存の定期船が大量輸送を効率的に担える離島では、船という強力な輸送手段がすでに存在している。一方、人口の薄い山村には、数個の荷物のために数十分の山道を走るという、大型トラックにも軽貨物車にも効率の悪い仕事が毎日のように残されており、ドローンはその空白に入り込むことができる。

 そう考えると、ドローン配送の本当の競争相手はトラックでも船でもないのかもしれない。山道を三十分走って一個の荷物を届け、さらに三十分かけて元の道を戻る、その一時間こそが競争相手なのである。

 人口が減る町で最後まで守らなければならないのは、人口という数字そのものではない。食品を買えること、薬が届くこと、荷物を送れること、必要な物が必要なときに手に入り、ここに住んでいても普通の生活を続けられると思えることである。山の上を飛ぶ小さな機体が本当に価値を持つとすれば、それは未来的な乗り物だからではなく、人口減少社会の物流網からこぼれ落ちようとしている最後の細い枝を、地上の仕組みとともにつなぎ止めることができるからなのである。

地域の課題を、自分の判断に置き換えて考える

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数字で比較するサービスを見る

 地方でスーパーが閉店したというニュースを見ても、それだけで地域から食料が消えるわけではない。自動車を運転できる人であれば隣町のスーパーへ行けるし、家族に買ってきてもらうこともできる。移動販売車が巡回している地域もあれば、宅配サービスを利用できる地域もある。そのため、スーパーの撤退は一見すると「店が一つ減った」という問題に見える。

 しかし、人口減少がさらに進む20年後、30年後まで視野を広げると、問題の性質はかなり違ってくる。問われるのは、スーパーという店舗が存在するかどうかだけではない。人口が減り続ける地域で、住民が必要な食品を継続的に購入し、受け取れる仕組みそのものを維持できるのかという問題だからである。

 国立社会保障・人口問題研究所が2023年に公表した「日本の地域別将来推計人口」は、2020年の国勢調査を基準として、2050年まで5年ごとの市区町村別人口を推計している。2026年現在から2050年までは約24年であり、記事のタイトルにある30年後は2056年頃に当たる。2050年までの公的推計を手掛かりに、その先の地域社会を考えることはできるが、人口推計は出生、死亡、人口移動などの仮定に基づくものであり、将来の人口を確定的に予言したものではない。

 それでも、地方の多くの自治体で人口減少と高齢化が進むという方向性は、将来の生活インフラを考えるうえで無視できない。特に重要なのは、人口が減ることで食品を購入する人が減るだけでなく、食品を販売し、運び、買いに行くための交通手段を維持する側にも負担が生じることである。

買い物に困る高齢者は、すでに全国で約904万人

 高齢者の買い物問題は、30年後に初めて発生する問題ではない。農林水産政策研究所が2024年2月に公表した推計によると、2020年時点の全国の食料品アクセス困難人口は約904万人で、65歳以上人口の25.6%を占めていた。このうち75歳以上は約566万人で、75歳以上人口の31.0%に相当する。

 ここでいう食料品アクセス困難人口とは、食品を扱う店舗まで直線距離で500メートル以上離れており、自動車の利用が困難な65歳以上の高齢者を、国勢調査や店舗の所在地情報などを用いて推計したものである。対象となる店舗には、スーパーだけでなく、食料品を扱うコンビニエンスストア、ドラッグストア、専門小売店なども含まれる。

 ただし、この904万人という数字は、実際に食品を購入できない人の人数ではない。家族による買い物支援や宅配、移動販売などを利用している人も含まれ得るため、食品を購入できるかどうかを直接測定した数字ではない。それでも、店舗までの距離と自動車利用の難しさを組み合わせた全国的な推計であり、買い物環境の脆弱性を示す重要な指標といえる。

 農林水産省が2026年3月に公表した2025年度の全国市町村アンケート調査でも、回答した市町村の89.3%が買い物困難者への対策を「必要」または「ある程度必要」と回答している。また、行政または民間事業者のいずれかによって対策が実施されている市町村の割合は86.8%であり、民間事業者が独自に参入している市町村は58.2%だった。

 これらの数字は、買い物困難者への対応が一部の過疎集落だけに限られた問題ではなく、全国の自治体に広く存在する政策課題であることを示している。一方、支援事業が実施されているからといって、必要な住民全員が十分なサービスを利用できているとは限らない。事業の実施率と住民の生活上の問題が解決されている割合は、区別して考える必要がある。

人口減少はスーパーの経営をどのように変えるのか

 スーパーを維持するためには、売上によって商品の仕入れ費用、人件費、店舗の維持費、光熱費などを賄う必要がある。人口1万人の地域と3,000人の地域では、一般に地域内の消費需要の規模が異なるため、同じ店舗を維持する条件も変わってくる。ただし、人口だけで店舗の採算が決まるわけではなく、住民の所得、購買頻度、競合店の立地、観光客や周辺自治体からの利用者、店舗面積などにも左右される。

 高齢化も店舗の需要構造を変える要因になる。子育て世帯では複数人分の食品や日用品をまとめて購入することがある一方、単身高齢者や高齢夫婦世帯では、少量の商品や調理の手間が少ない食品への需要が高まる場合がある。しかし、高齢者の割合が増えることと、地域全体の食品購入額が同じ割合で減ることは同義ではない。

 例えば、4人で暮らしていた世帯が複数の単身世帯に分かれた場合、一世帯当たりの食品購入額は小さくなっても、地域全体の購入額がそれに比例して減少するとは限らない。さらに、単身世帯が増えることで、小分け商品の需要や配送先の件数が増える可能性もある。したがって、将来の食品市場を予測するには、総人口だけでなく、年齢別人口、世帯人数、所得、食品購入額、購入頻度を組み合わせる必要がある。

 それでも、人口が大幅に減少し、地域外からの利用も十分に見込めない場合には、店舗の売上規模が縮小する可能性が高い。固定費を賄えなくなれば、営業時間の短縮、取扱商品の削減、人員の削減などが進み、それでも採算が合わなければ撤退を選択する事業者も出てくるだろう。大型店が撤退した後、小規模店に需要が移る場合もあるが、その小規模店も人口減少や経営者の高齢化によって存続が難しくなることが考えられる。

 ただし、スーパーの閉店が必ず地域全体の食品販売機能の消滅を意味するわけではない。店舗の再編によって別の事業者が需要を引き受ける場合もあり、店舗の撤退と住民の食品アクセス悪化の関係は、地域ごとに検証する必要がある。

高齢化率が上がっても、高齢者の人数は減る可能性がある

 人口減少地域の買い物問題を考えるうえで、見落としやすいのが高齢化率と高齢者の実人数の違いである。高齢化率とは、総人口に占める65歳以上人口の割合であり、その割合が上昇しても、高齢者数そのものが増えているとは限らない。

 例えば、総人口1万人、高齢化率40%の地域には4,000人の高齢者がいる。将来、総人口が5,000人に減少し、高齢化率が60%になった場合、高齢者は3,000人となる。高齢化率は20ポイント上昇しているにもかかわらず、高齢者の実人数は1,000人減少しているのである。

 この違いは、移動販売や宅配サービスの将来需要を考える際に重要になる。高齢者の割合が高くなれば支援を必要とする住民の割合が上昇する可能性があるが、利用者の実人数まで増加するとは限らない。つまり、支援の必要性が高い地域であっても、事業者から見れば利用者が減り続けるという状況が起こり得る。

 千葉県大多喜町は、その具体例の一つである。国立社会保障・人口問題研究所の2023年推計では、同町の総人口は2020年の8,885人から2050年には4,498人となり、約49.4%減少すると見込まれている。同じ推計で65歳以上人口は3,888人から2,564人へ減少する一方、高齢化率は43.8%から約57.0%へ上昇する。

 これは、2050年の大多喜町で買い物困難者が必ず減ることを意味するものではない。運転できない高齢者の割合や居住地の分布、同居家族の有無、店舗の立地によって、買い物支援の必要性は変わるからである。しかし、高齢化率だけを見て高齢者向けサービスの需要増加を予測することが不適切であることは明らかである。

 地域の将来を考える際には、高齢者が人口の何割を占めるかという割合と、実際に何人が、どこに住み、どのような支援を必要とするかという人数と分布を、分けて分析しなければならない。

スーパーがなくなっても、宅配が必ず成立するわけではない

 人口減少が店舗経営に影響する一方、食品を住民の自宅まで運ぶ物流にも影響が及ぶ。スーパーがなくなれば宅配を利用すればよいと考えることはできるが、宅配も商品が自動的に家庭へ移動してくるわけではない。商品を仕分けし、配送車両に積み込み、配送先へ運び、受け渡す工程が必要になる。

 国土交通省が2025年11月に取りまとめた「ラストマイル配送の効率化等に向けた検討会」の提言でも、運転手不足に加え、過疎地域などでの貨物量減少や積載効率の低下によって、物流サービスの持続的な提供が困難になることが課題として示されている。ラストマイル配送とは、物流拠点などから消費者の自宅を含む最終的な届け先まで商品を運ぶ工程のことである。

 ここで重要なのは、人口密度と配送需要密度を区別することである。人口密度は一定面積に住む人口の多さを示すが、配送需要密度は同じ面積で実際にどれだけの配送が発生するかを示す。人口が減少しても利用世帯が一定の場所に集中していれば、比較的効率よく配送できる可能性がある。反対に人口密度がそれほど低くなくても、利用世帯が広範囲に分散していれば配送効率は悪くなることがある。

 住宅が集中している地域では、一台の配送車で短時間に多くの家庭を回りやすい。しかし、同じ件数の配送先が山間部や海岸部の広い範囲に分散していれば、走行距離や移動時間が増えることがある。実際の配送効率は、住宅分布、道路網、配送拠点までの距離、注文頻度、再配達の有無などによって変化する。

 したがって、人口密度が低下すれば必ず一件当たりの配送距離が長くなる、という単純な関係ではない。より正確には、配送先の分散や需要の減少によって、一定の地域を維持するための走行距離や時間を十分な件数で分担できなくなると、一件当たりの配送費用が増加しやすいのである。

配送費用を数値で考えると、何が問題なのか

 配送の採算性は、配送収入から必要な費用を差し引いて考える必要がある。費用には運転者の人件費、車両の走行費、商品仕分けや保管に必要な費用、車両や拠点の固定費などが含まれる。食品を扱う場合には、さらに冷蔵・冷凍管理や品質管理の費用も必要になる。

 ここで、住宅の分散と利用件数の減少が配送費用に与える影響を、単純な仮想モデルで考えてみよう。これは実際の配送事業者や自治体の調査結果ではなく、費用構造を説明するための試算である。

 仮に運転者の人件費を1時間1,800円、平均走行速度を時速25キロメートル、配達先での作業時間を一件4分、車両の走行費を1キロメートル40円とする。さらに配送一回当たりのその他の固定費を3,000円と仮定し、商品原価や冷蔵管理などの追加費用は、この比較から除外する。

 住宅が集中した地域で60件を配送し、総走行距離が15キロメートルで済む場合、走行と配達に要する時間は合計4.6時間となり、配送総費用は11,880円、一件当たり198円になる。

 一方、同じ60件でも住宅が分散し、総走行距離が70キロメートルになる場合、所要時間は6.8時間となり、配送総費用は18,040円、一件当たり約301円になる。同じ配送件数でも、走行距離が長くなることで一件当たりの配送費用は約1.5倍になる計算である。

 さらに、配送区域を維持したまま利用件数が30件に減少し、総走行距離が70キロメートルのままだと仮定すると、総費用は14,440円となり、一件当たり約481円になる。最初の住宅集中地域と比較すれば、一件当たりの費用は約2.4倍である。

 もちろん、実際には配送件数の減少に合わせてルートを変更したり、配送曜日を減らしたり、他の荷物と共同配送したりできるため、この試算通りに費用が増えるとは限らない。また、これらは配送費用の比較であり、事業の利益率を示しているわけではない。採算性を判断するには、配送料、商品販売による利益、利用者数、補助金などの収入も必要になる。

 それでも、この計算から重要なことが分かる。人口減少地域の物流では、配送する商品の量だけでなく、配送先の数と分布が費用を大きく左右する。一件当たりの配送費用が上昇する一方、利用者が減って収入も減少すれば、事業の継続は難しくなり得るのである。

 逆に、共同配送や配送拠点の再編によって走行距離を短縮できれば、人口が減る地域でも費用を抑えられる可能性がある。人口減少と配送費用の関係は一方向に決まるものではなく、地域物流をどのように設計するかによって変化する。

ネットスーパーが普及すれば問題は解決するのか

 将来、デジタル技術の進歩によって、店舗へ行かずに食品を注文する方法がさらに普及する可能性はある。スマートフォンだけでなく、音声による注文、家族による代理注文、定期的な自動発注など、買い物の方法が変わることも考えられる。

 しかし、注文方法が便利になっても、最後には米、野菜、肉、牛乳などの食品を物理的に運ばなければならない。インターネットは注文情報を運ぶことはできても、食品そのものを運ぶことはできない。注文のデジタル化は利用者の負担を減らす可能性がある一方、商品の保管、仕分け、輸送、受け渡しという物流の工程をなくすわけではない。

 特に食品には、一般の商品とは異なる制約がある。冷蔵品や冷凍品には適切な温度管理が必要であり、生鮮食品には鮮度の問題がある。書籍や衣類のように数日分の注文をまとめて配送できる商品とは異なり、すべての食品で配送頻度を大幅に減らせるとは限らない。

 また、高齢者が自宅で注文できたとしても、配送費用が高ければ利用を続けられない可能性がある。ネットスーパーが提供されていることと、すべての高齢者が無理なく利用できることは別の問題である。

 もちろん、将来の物流技術が現在と同じ水準にとどまるとも限らない。配送ルートの自動最適化や自動運転配送などによって、一部の費用が低下する可能性もある。しかし、技術の導入には設備投資や保守費用が必要であり、道路条件、安全性、制度上の条件も満たさなければならない。新しい技術が人口密度の低いすべての地域で経済的に成立するかどうかは、現時点では判断できない。

 したがって、30年後の買い物問題を考える際には、ネットスーパーがすべてを解決すると楽観視することも、人口減少によって物流は必ず衰退すると決めつけることも適切ではない。技術の進歩を考慮しながら、地域ごとの配送費用と住民の負担能力を検証する必要がある。

移動販売車はどこまで地域を支えられるのか

 スーパーが撤退した地域で利用されている方法の一つが移動販売である。決められた曜日や時間に販売車が地域を巡回する仕組みは、自動車を運転できない高齢者にとって重要な買い物手段になる。利用者が販売員と会話する機会にもなるため、地域によっては高齢者の見守りや社会的な交流という役割も持っている。

 農林水産省の2025年度調査でも、移動販売車の取り組みでは、行政実施の約5割、民間事業者実施の約3割で、市町村との見守り体制が構築されていると報告されている。このことは、移動販売が単なる商品販売だけでなく、地域の生活支援と結びついていることを示している。

 しかし、移動販売にも採算性の問題がある。販売車を走らせるためには、車両、燃料、商品仕入れ、積み込み、販売員の人件費などが必要になる。一つの販売地点に十分な利用者が集まれば効率よく販売できるが、利用者が減少すれば、一人当たりに必要な運営費が増える場合がある。

 例えば、ある集落で50人が利用していた移動販売が、人口減少によって10人、5人しか利用しなくなった場合、販売地点を維持するための移動時間や費用を、少ない売上で負担しなければならない。ただし、実際の採算性は人数だけで決まらず、一人当たりの購入額、販売地点間の距離、巡回頻度、補助金の有無などにも左右される。

 移動販売の利点は、店舗を常設するための建物や設備を必ずしも必要としないことである。一方、商品を運び、販売する人が必要であることは店舗や宅配と変わらない。地域の利用者が極端に少なくなった場合には、民間事業だけでサービスを維持することが難しくなる可能性がある。

 そのため、移動販売を導入する際には、現在の利用者数だけでなく、5年後、10年後の需要を見積もり、販売と見守りなどの機能をどのように組み合わせるか、行政がどこまで費用を負担するかについても検討する必要がある。

本当に重要なのは、自動車を運転できなくなったとき

 地方では、自動車を運転できる間は買い物問題が表面化しにくい。スーパーまで10キロメートル離れていても、自動車で移動できれば日常の買い物に大きな支障を感じない人もいる。しかし、高齢になると視力、認知機能、身体能力、健康状態などが変化し、運転を継続することが難しくなる場合がある。

 もちろん、すべての高齢者が一定の年齢で運転できなくなるわけではない。運転能力には個人差があり、運転をやめる時期も健康状態や生活環境によって異なる。しかし、自動車に依存した買い物環境では、運転できなくなることによって食品へのアクセスが急激に悪化する可能性がある。

 スーパーまでの距離が10キロメートルであること自体は変わらなくても、自動車という移動手段を失えば、その距離は生活上の大きな障壁になる。したがって、買い物困難を評価する際には、店舗までの距離だけではなく、自動車を使わずに店舗へ行けるか、家族などの支援を受けられるか、宅配や移動販売を利用できるかを併せて考える必要がある。

 公共交通も重要な要素である。バスや乗合タクシーが利用できれば、自動車を運転しない高齢者でも店舗へ移動できる可能性がある。しかし、人口減少によって利用者が減れば、公共交通も運行を維持するための費用負担が大きくなる場合がある。タクシーを利用する方法もあるが、買い物のたびに高額な交通費が必要になれば、所得の限られた住民にとって継続的な利用は難しい。

 ここで問題になるのは、店舗、物流、公共交通が別々に存在しているのではなく、互いに影響し合っていることである。店舗が減れば移動距離が長くなり、自動車を運転できない人の負担が増える。公共交通が減れば店舗へ行きにくくなり、宅配などの必要性が高まる。一方、宅配や移動販売が充実すれば、店舗や公共交通への依存度が変わることもある。

 このような関係を考えると、地域の買い物問題は商業施設の数だけで評価できない。店舗の配置、交通手段、配送サービス、家族による支援、住民の所得を含めた生活全体の問題なのである。

食品が届いても、買えるとは限らない

 買い物問題には、物理的なアクセスと経済的なアクセスという二つの側面がある。物理的なアクセスとは、必要な食品を販売する場所や配送手段が存在し、住民がそれを利用できることである。一方、経済的なアクセスとは、必要な食品を無理のない費用で購入できることである。

 2024年に改正された「食料・農業・農村基本法」の下でも、円滑な食品アクセスの確保は重要な政策課題として位置づけられている。農林水産省は、地理的・物理的な理由で食品の購入が難しい人への対応だけでなく、経済的な理由で十分な食品を入手できない人への対応も進めている。

 例えば、スーパーが撤退した地域で宅配サービスを導入できたとしても、配送料が高額になれば利用できない住民が出てくる可能性がある。人口が減って配送費用が上昇し、その費用が商品価格や配送料に転嫁されれば、低所得の高齢者ほど負担が大きくなることも考えられる。

 逆に、配送を維持するために公的資金を投入すれば、利用者の負担を抑えることは可能かもしれない。しかし、その費用は自治体や国などが負担することになり、財政的に継続できるかという別の問題が生じる。

 したがって、買い物支援を評価する際には、サービスが存在するかどうかだけでは不十分である。利用者が必要な食品を購入できる価格になっているか、配送料や交通費を含めた負担がどの程度か、行政の支援が長期的に維持できるかを検討しなければならない。

 食品を運べる仕組みと、住民が実際に食品を買える仕組みは、両方が成立して初めて生活インフラとして機能する。

30年後に残すべきなのは「店舗」か「買い物機能」か

 人口が大きく減少する地域では、現在と同じ数や規模のスーパーをそのまま維持することが難しくなる可能性がある。しかし、スーパーがなくなるからといって、住民が買い物できなくなる未来を当然のものとして受け入れる必要はない。

 重要なのは、スーパーという施設を守ることだけを目的にするのではなく、住民が継続的に食品を入手できる機能を守ることである。その方法は一つではなく、地域の人口規模や住宅分布、道路条件、住民の生活実態によって変わってくる。

 例えば、地域の中心部に小規模な物流拠点を設け、複数の小売事業者や卸売事業者の商品を集約する方法が考えられる。そこから移動販売や共同配送によって周辺集落へ商品を届ければ、個々の事業者が長距離を走るより配送を効率化できる可能性がある。

 ただし、複数の車両や事業を自由に統合できるわけではない。宅配便、食品配送、旅客輸送、福祉関係の送迎では、それぞれ事業の目的や適用される制度が異なる。旅客と貨物を同じ車両で運ぶ貨客混載には、事業形態に応じた許可や安全管理などの条件があり、自治体や福祉事業者の車両についても、本来の事業目的や補助制度、運行管理などを確認する必要がある。

 また、食品配送では温度管理や衛生管理が求められるため、空いている車両を単純に使い回せばよいというものでもない。異なる事業者が共同配送を行う場合には、費用の分担、商品の管理、事故時の責任なども調整する必要がある。

 こうした制約を考えると、すべての車両を一つにまとめることよりも、配送拠点、配送計画、受発注、配送ルートなどを事業者間で共同化する方が、実現しやすい地域もあるだろう。

 人口減少が進む地域では、一つの事業だけで十分な需要を確保できなくても、複数のサービスが協力することで運営費を抑えられる可能性がある。ただし、共同化には調整費用も伴うため、どの地域でも必ず費用が下がるとは限らない。事業者ごとの費用と、地域全体で負担する費用を比較し、どの仕組みが最も持続可能かを検討する必要がある。

週7日いつでも買える社会から、曜日を決めて届く社会へ

 人口密度や配送需要密度が低い地域では、都市部と同じ頻度で商品を配送することが経済的に難しい場合がある。そのため、将来的には配送日を地区ごとに決め、複数の注文をまとめて届ける仕組みが広がる可能性もある。

 例えば、月曜日は第一地区、火曜日は第二地区、水曜日は第三地区というように配送地域を分けたり、住民が事前に注文した商品を週に数回まとめて届けたりする方法である。配送の回数を減らし、一定の利用者を同じ日に集約できれば、走行距離や人件費を抑えられる場合がある。

 しかし、配送回数を減らせば必ず採算が改善するわけではない。利用者が極端に少なければ、週2回にしても必要な費用を回収できない可能性がある。また、生鮮食品や冷蔵食品を扱う場合には、配送間隔が長くなることによる鮮度や保存の問題もある。

 高齢者の生活にも配慮が必要である。週に数回しか配送されない場合、食品をまとめて購入するための冷蔵庫や冷凍庫の容量、食品を保存・調理する能力、事前に代金を支払える経済的余裕などが必要になる。急な体調不良や買い忘れへの対応も考えなければならない。

 したがって、単純に配送回数を減らして費用を抑えることを目的にするのではなく、住民が必要とする最低限のサービス水準を維持しながら、配送頻度、費用、商品品質、利用料金を調整することが重要になる。

 毎日配送して赤字が膨らみ、最終的に事業が撤退するよりも、週に数回でも安定して配送できる仕組みの方が望ましい場合はある。ただし、その仕組みが成立するかどうかは、地域の人口構造と事業収支の両面から判断しなければならない。

 人口減少地域で目指すべきなのは、単に利便性を下げることではない。生活に必要なサービスの水準を確保しながら、その仕組みを長期的に維持することなのである。

買い物問題は福祉政策だけでは解決できない

 高齢者の買い物問題は、しばしば福祉の問題として取り上げられる。しかし、実際には商業政策、物流政策、公共交通政策、都市計画、住宅政策、社会保障政策など、多くの分野が関係している。

 スーパーの存続は商業政策、食品の配送は物流政策、店舗への移動は公共交通政策、高齢者の生活支援は福祉政策に関係する。さらに、住民がどこに暮らしているかという人口分布は、都市計画や住宅政策とも関係している。つまり、一人の高齢者が夕食の食材を買えるかどうかという問題の背後には、複数の社会システムが存在しているのである。

 そのため、自治体が高齢者向けの買い物支援事業を一つ始めただけでは、長期的な解決にならない可能性がある。移動販売を導入しても、道路や物流拠点が維持できなければ継続は難しい。バス路線を残しても、住民が店舗へ行ける時間帯に運行していなければ十分な効果は得られない。宅配サービスを提供しても、料金が高すぎれば利用できない人が残る。

 さらに、30年という時間で考えれば、現在の高齢者を支援するだけでは不十分である。2040年、2050年にどれだけの人が住み、どこに居住し、そのうち何人が自動車を運転できず、どの程度の食品配送需要が生じるのかを見通す必要がある。

 こうした検討には、公的な将来人口推計だけでなく、住民の買い物行動、食品販売店の分布、公共交通の利用状況、宅配・移動販売の利用実態などの地域データが必要になる。

 特に、行政の支援を長期的に続ける場合には、利用者一人当たりの公的負担額を把握することが重要である。民間事業者の赤字を補助することでサービスを維持する方法もあるが、人口減少によって補助額が増え続ければ、自治体の財政にも負担が及ぶ。そのため、事業費をどこまで抑えられるかだけでなく、生活上の効果に見合う支出であるかを検証する必要がある。

人口が減るほど、住民がどこに暮らすかが重要になる

 買い物問題を長期的に考えると、最終的には地域の人口分布という問題に行き着く。人口が減少しても、住宅が広い範囲に散らばったままであれば、道路、水道、電気、通信、医療、介護、公共交通、食品配送などのサービスを維持するための費用が、一人当たりでは大きくなる場合がある。

 例えば、1,000人が比較的狭い範囲に集中して住んでいる地域と、同じ1,000人が広い範囲に分散している地域では、食品配送の移動距離や公共交通の運行条件が異なる。ただし、実際の費用は居住範囲の広さだけで決まるわけではなく、地形や道路網、既存施設の配置、インフラの整備状況にも左右される。

 このような人口分布の問題に対して、生活サービスを地域の中心部に集約し、その周辺を交通や配送によって結ぶ方法が考えられる。すべての集落にスーパーを置くことは難しくても、食品、医療、行政、交通などの機能を持つ生活拠点を確保し、周辺集落から利用できるようにするという発想である。

 もっとも、住民が生活拠点の近くへ移り住めば、すべての問題が解決するわけではない。住居の移転には経済的負担が伴い、長年暮らしてきた地域や人間関係を離れることを望まない住民もいる。新たな住宅や交通施設を整備するための初期費用も必要であり、人口集約による維持費の削減効果と比較しなければならない。

 したがって、人口減少地域の将来を考える際には、居住を一律に集約するのではなく、地域の実情に応じて複数の方法を組み合わせる必要がある。生活拠点の近くに住む人には徒歩や公共交通を中心とした買い物環境を整え、周辺集落に住み続ける人には配送や移動販売などを提供する方法も考えられる。

 重要なのは、すべての住民に同じ方法を提供することではなく、居住地の違いによって食品へのアクセスが極端に不利にならないよう、地域全体の仕組みを設計することである。

御宿町・いすみ市・勝浦市・大多喜町では何を調べるべきか

 この問題を千葉県の外房地域や房総丘陵地域に当てはめる場合、自治体全体の人口だけでは十分な分析ができない。御宿町、いすみ市、勝浦市、大多喜町では、住宅の分布、地形、道路条件、駅や市街地からの距離、商業施設の配置が異なるため、同じ人口減少率でも買い物環境への影響は違ってくる可能性がある。

 例えば、住宅が比較的集中している地区と、山間部や丘陵部に住宅が分散している地区では、店舗までの距離だけでなく、配送効率や公共交通の利用条件も異なる。自治体全体の平均人口密度を比較するだけでは、こうした違いを十分に把握できない。

 必要なのは、地域ごとの将来人口を推計するだけでなく、食品を販売する店舗がどこにあり、その店舗まで自動車を使わずに移動できる住民が何人いるのかを把握することである。特に65歳以上だけでなく75歳以上の人口分布、単身世帯数、同居家族の状況、移動販売や宅配の利用可能性を調べることが重要になる。

 さらに、2040年、2050年の人口推計を用いて、買い物支援を必要とする住民の数と分布がどのように変化するかを試算することが考えられる。ただし、高齢者人口に一定の割合を掛けるだけでは正確な推計にならない。運転可能性、健康状態、家族の支援、店舗の立地などが将来変化することも考慮する必要がある。

 物流面では、実際の配送件数、配送先の分布、走行距離、所要時間、配送費用を把握し、利用者が減少した場合に一件当たりの費用がどう変わるかを検証する必要がある。さらに、共同配送や配送曜日の集約によって費用をどの程度減らせるか、行政の支援が必要であれば一人当たりの負担額はいくらになるかを試算することが望ましい。

 こうした分析によって、単に「この地域では人口が減るからスーパーがなくなる」と予測するのではなく、どの地区で、どのような条件が重なった場合に食品へのアクセスが難しくなるのかを具体的に検討できる。

 人口推計が示すのは、将来の住民の数と年齢構成であり、それだけで店舗の閉店時期や配送サービスの存続を予測できるわけではない。しかし、人口推計に店舗配置、交通網、配送需要、世帯構成などの情報を組み合わせれば、将来の買い物環境を検証するための基礎をつくることはできる。

30年後、高齢者は買い物を続けられるのか

 結論として、スーパーがなくなった地域でも、30年後に高齢者が買い物を続けることは不可能ではない。しかし、人口が減り続ける地域で、その仕組みが自然に維持されると考えることも適切ではない。

 人口減少によって地域の食品購入需要が縮小すれば、店舗の経営が難しくなる場合がある。店舗が撤退すれば、宅配や移動販売などの必要性が高まる可能性があるが、実際にそれらの利用者が十分に増えるとは限らない。配送先が分散し、利用件数が減少すれば、一件当たりの配送費用が増えることもある。

 さらに、高齢化が進んでも高齢者の実人数は減少する地域があり、支援を必要とする住民の割合が高まる一方で、サービスの利用者数は減るという状況も考えられる。自動車を運転できなくなる住民への対応に加え、公共交通の維持、食品価格や配送費用の負担、行政財政の持続可能性まで含めて検討する必要がある。

 一方、共同配送、地域物流拠点の整備、移動販売と見守りの連携、生活拠点と周辺集落を結ぶ交通網、配送技術の進歩などによって、人口減少の影響を緩和できる可能性もある。どの方法が適切かは地域によって異なり、将来の技術や制度も変化するため、一つの仕組みが全国の人口減少地域に共通する解決策になるとは限らない。

 重要なのは、スーパーという施設を維持することだけを目的にするのではなく、住民が必要な食品を継続的に入手できる機能を維持することである。そのためには、店舗、宅配、移動販売、公共交通、福祉を別々に考えるのではなく、地域全体の生活インフラとして検討する必要がある。

 人口減少社会では、すべての地域に現在と同じ利便性を残すことは難しいかもしれない。しかし、利便性を一律に削減するのではなく、住民の生活に必要なサービス水準を確保し、その費用をできるだけ効率的に負担する方法を考えることはできる。

 そして、将来の買い物問題を考えるうえで最も避けるべきなのは、スーパーが撤退し、住民の生活に支障が生じてから初めて代替手段を検討することである。

 人口減少が相当程度見込まれている地域であれば、店舗の撤退が現実になる前から、現在の商業施設の分布、住民の年齢構成、買い物行動、公共交通、配送体制を調べ、将来の需要を見通しておく必要がある。将来人口に不確実性があるとしても、それは何も準備しなくてよい理由にはならない。

 30年後の買い物問題は、30年後になってから考える問題ではない。2040年、2050年に誰が、どこに住み、どのような手段で食品を入手するのか。その姿を複数の条件で想定し、必要な費用と実現可能性を比較しながら、地域の商業と物流を再設計していくことが求められる。

 スーパーが一軒なくなることだけが、地方の買い物問題の本質ではない。人口が減っても、住民が必要な食品を購入し、受け取り続けられる地域を、どのような費用負担と仕組みで維持していくのか。それこそが、これからの地方に問われる課題なのである。

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