地域分析記事

地域の暮らしと地域課題を数学とデータで考える

生活インフラ・地域サービス

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 市町村の将来について話し合う会議では、しばしば一枚の人口グラフが議論の空気を決める。現在一万人の町が十年後には八千人になり、その先には六千人になるという右肩下がりの線を見せられると、この線を何とか上向かせなければならないという感覚が生まれる。移住者を呼び込み、若い世帯に住んでもらい、出生数を増やし、企業を誘致して働く場所をつくる。人口が減ることが問題なら、人口を増やすことが解決策になるという考え方は、確かに分かりやすい。

 もちろん、実際の自治体が文字どおり「人口最大化」だけを目的として動いているわけではない。近年は国の地方創生政策でも、人口減少を前提として地域社会をどう維持するかという考え方が強くなり、住民の幸福や暮らしやすさを政策評価に取り込もうとする動きも広がっている。それでも、人口の増減が自治体の将来を語る際の非常に強い指標であり続けていることも事実である。「人口が増えた町」は成功しているように見え、「人口が減った町」は何かに失敗したように見える。この感覚は、自治体政策を考える私たちの中にかなり深く入り込んでいる。

 そこで、一度だけ評価の物差しを入れ替えてみたい。人口をできるだけ減らさないことを中心に据えるのではなく、「その町で暮らす住民一人一人が得られる生活上の価値を、持続可能な範囲でできるだけ高くすること」を自治体経営の中心目標に置いたら、町の姿はどのように変わるのだろうか。

人口一万人の町は、人口八千人の町より豊かなのか

 仮に二つの町があるとする。一方は人口一万人を維持しているが、病院まで車で四十分かかり、買い物にも自動車が欠かせず、高齢者が運転免許を返納すると日常生活そのものが難しくなる。空き家は増え続けているのに住宅地は広く分散し、道路、水道、公共施設を少ない利用者で支えている。

 もう一方の町では人口が八千人まで減っているものの、住宅や商業、医療、行政機能がある程度まとまり、日常の買い物には十五分程度で行くことができ、公共交通や乗合サービスによって自動車を運転できなくなっても生活を続けられる。医療へのアクセスも改善し、老朽化した公共施設は整理され、自治体財政にも一定の余裕が残っている。

 人口だけで評価すれば、一万人の町の方が優れている。しかし、そこに暮らす人間から見たとき、本当にそう言い切れるだろうか。この疑問から見えてくるのは、人口には確かに重要な意味があるものの、それ自体が住民生活の最終目的ではないということである。

 人口が多ければ税収を確保しやすくなり、スーパーや飲食店も営業しやすくなる。学校、病院、公共交通なども一定数の利用者がいるから成立するのであり、人口が減り過ぎればそれらを維持できなくなる。この意味で人口は極めて重要である。しかし、その重要性は「人が多いほど無条件に良い」から生じているのではなく、人口が地域のサービスや経済や人間関係を支える基盤になっているから生じている。

 そう考えると、人口は自治体の最終目的というより、良い生活を成立させるための重要な条件の一つだと考えた方が自然になる。

人口を目的から「制約条件」へ移してみる

 この考え方を採用すると、人口政策をやめる必要はない。むしろ人口が持つ意味を、より正確に考えられるようになる。

 病院を維持するためには一定の診療圏人口が必要であり、商店にも一定の購買人口が必要になる。公共交通にも利用者が必要で、地域産業を維持するには働く人がいなければならない。したがって、自治体には生活サービスを成立させるために必要な人口規模や人口構成が存在する。

 しかし、その必要水準を超えて人口を増やすことが、常に同じ大きさの利益を住民にもたらすとは限らない。人口を一万人から一万一千人に増やすための政策よりも、現在住んでいる一万人の通院時間を短くしたり、交通費を下げたり、生活必需品を買える場所を維持したりする政策の方が、住民生活に大きな効果を及ぼす場合もあり得る。

 人口をこうした「制約条件」として見ると、政策の問いも変わる。「人口を何人まで増やすか」ではなく、「医療、商業、交通、教育、地域経済を成立させるためには、どのような人口構成が必要なのか」を考えるようになるからである。

自治体の成績表が変わる

 自治体の目標が変われば、政策の成績を測る方法も変わる。転入者が何人増えたか、出生数がどれだけ増えたか、人口減少率がどれだけ改善したかという数字は引き続き重要だが、それだけでは自治体の成果を十分に説明できなくなる。

 代わりに重要になるのは、住民の日常生活そのものに近い数字である。病院まで到達するために必要な時間がどれだけ短くなったのか、高齢者が自動車を使わずに買い物できる割合がどれだけ増えたのか、子どもが保護者の送迎なしに学校や公共施設へ移動できる範囲がどれだけ広がったのか、住宅費と交通費を支払った後に手元へ残る所得がどう変化したのか、といった指標である。

 近年、こうした考え方に近い政策評価はすでに現れ始めている。地域の豊かさを所得や人口だけで測るのではなく、健康、住宅、教育、安全、環境、行政サービスへのアクセス、人とのつながり、生活満足度など複数の側面から評価するWell-Being(ウェルビーイング・身体的、精神的、社会的に良好な状態)の考え方が、国や国際機関でも使われるようになっている。

 ここで重要なのは、「幸福度」という曖昧な感覚だけに政策を置き換えることではない。所得、時間、交通、医療、住宅、安全性など、実際に測定可能な生活条件と、住民自身が感じる満足度の両方を見ることで、人口という一つの数字では捉えられなかった地域の実像を測ろうとすることである。

「移住者百人」の意味まで変わる

 政策の評価軸が変われば、移住政策にも別の姿が見えてくる。

 人口を主な成果指標にすれば、二十人の移住者は基本的に二十人である。しかし地域生活の維持という視点に立つと、その二十人が地域にどのような機能を加えるのかによって意味は異なる。地域に医師が不足しているなら医師一人の移住が医療アクセスを変えるかもしれず、電気工事業者がいなくなる地域なら一人の技術者が生活インフラの維持に大きく貢献する可能性がある。スーパーや飲食店を引き継ぐ人、介護や福祉を担う人、地域交通を運営する人も同様である。

 これは人間そのものに価値の高低をつける話ではない。政策が見るべきなのは人間の価値ではなく、その地域で不足している機能に対して、どの政策がどの程度の効果を与えるかということである。

 その意味では、人口千人を増やす政策より、地域唯一の食品店一軒を存続させる政策の方が、ある町では多くの住民の日常生活を支えることもある。人口という数字では小さく見える変化が、生活価値という視点では非常に大きな変化として現れるのである。

町を小さくすることが、生活を大きくする場合もある

 生活価値を中心に置いた自治体経営では、町の空間的な形も変わる可能性がある。

 人口が減少しているにもかかわらず、住宅地、道路、水道管、公共施設などが人口の多かった時代と同じ範囲に広がったままであれば、少ない人数で広大な都市設備を支えることになる。人口密度が低くなれば、一人当たりに必要なインフラ維持費が高くなり、公共交通も利用者を集めにくくなる。

 そこで住宅、医療、買い物、行政サービス、交通拠点などを一定の地域へ少しずつ集めることができれば、住民の移動距離を短縮しながら、公共交通や商業サービスを成立させやすくできる場合がある。国が進めてきた「コンパクト・プラス・ネットワーク」も、人口減少のなかで都市機能と居住をある程度集約し、それらを交通で結ぶという方向性を持っている。

 もちろん、集約すれば必ず行政費が下がり、住民生活が良くなるわけではない。地形、歴史的な集落構造、土地価格、住民の移転負担などによって結果は変わる。それでも、人口が減る地域で「すべての場所を以前と同じ形で維持すること」が無条件に最善だとは考えにくくなっている。

 町の地図が少し小さくなったとしても、その中で病院、商店、交通、行政サービスが以前より近くなるのであれば、地図上の縮小をそのまま生活上の衰退と呼ぶことはできない。人口減少社会では、「町が小さくなること」と「暮らしが悪くなること」を別の問題として考える必要がある。

しかし「一人当たり最大化」には危険な罠がある

 ここまで読むと、人口の代わりに住民一人当たり生活価値を最大化すれば、ほとんど問題が解決するようにも見える。しかし、この考え方には重大な弱点がある。「一人当たり」という言葉には、平均値によって社会の一部を見えなくしてしまう危険があるからである。

 例えば中心市街地の千人に対するサービスを改善する政策と、山間部に住む十人を支援する政策を比較すれば、一人当たりの行政効率では前者が有利になる場合が多い。障害のある人への支援や、医療・介護を大量に必要とする高齢者へのサービスも、単純な費用対効果だけで評価すれば不利になりやすい。

 もし住民全体の平均的な生活価値だけを最大化すれば、多数派の生活を少し便利にする代わりに、少数の住民の生活を大幅に悪化させても、平均値だけは改善するという事態が起こり得る。その町を「良い町」と呼ぶことには大きな問題がある。

 したがって自治体政策に必要なのは、単純な平均値の最大化ではない。平均的な生活条件を改善すると同時に、もっとも条件の悪い住民が一定水準以下に落ちないようにする仕組みが必要になる。医療、交通、教育、買い物などについて最低限保障する水準を定め、その水準を守ったうえで全体の生活価値を高めるという考え方である。

 ここまで来ると、自治体経営は単なる効率化ではなくなる。効率性を求めながら、公平性をどこまで保障するのかという、政治そのものの問題になる。

そもそも「生活価値」は一つの数字にできるのか

 さらに難しい問題がある。生活価値というものを、本当に一つの数字として測ることができるのかという問題である。

 例えば、平均所得が五%上昇した一方で通院時間が十分長くなった町と、所得は変わらないが医療へのアクセスが大きく改善した町を比較するとき、どちらの生活価値が高くなったと判断すればよいのだろうか。住宅費、健康、教育、自然環境、安全性、人とのつながりなどを一つの指数にまとめようとすれば、それぞれにどの程度の重みを置くか決めなければならない。

 しかし「健康は所得の何倍重要なのか」という問いに、統計だけで唯一の答えを出すことはできない。そこには必ず価値判断が入り込む。

 したがって「生活価値最大化」という言葉は、一つの万能指数をつくり、その数字だけを上げればよいという意味に理解すべきではない。むしろ人口だけでは見えなかった複数の生活指標を並べ、住民や議会が何を重視するのかを明らかにしながら政策を判断するための考え方として使った方がよい。

 人口一万人という数字は誰が見ても一万人だが、「良い暮らし」とは何かについては社会的な議論が必要になる。その意味では、生活価値を中心に据える自治体経営は、人口目標よりも簡単になるのではなく、むしろ難しくなる。

現在の住民だけ幸せなら、それでよいのか

 さらに時間という視点を加えると、もう一つの問題が現れる。

 例えば自治体が積み立ててきた基金を大きく取り崩し、交通を無料にし、公共施設を増やし、行政サービスを充実させれば、現在暮らしている住民の生活満足度を短期間で高められるかもしれない。しかし十年後に財政余力を失い、道路や上下水道の更新費を負担できなくなれば、その政策を成功と呼ぶことはできない。

 したがって最大化すべきものは「現在の住民一人当たり生活価値」だけではない。現在の住民の暮らしを改善しながら、将来世代にも同程度の生活基盤を残せるかどうかを見る必要がある。

 人口、財政、インフラ、自然環境、地域産業、人材は、現在だけのために存在しているわけではない。生活価値という考え方に持続可能性を組み込まなければ、未来から資源を借りて現在を豊かに見せる政策まで高く評価してしまうことになる。

人口減少そのものに問題がないわけではない

 ここで一つ誤解してはいけないのは、生活価値を重視すれば人口減少を気にしなくてよいということではない。

 人口が急激に減れば、税収、労働力、商業需要、医療、交通、教育など多くの分野に負担が生じる。年齢構成が大きく偏れば、人口総数以上に地域サービスの維持が難しくなる場合もある。研究でも、人口減少は生活満足度などに負の圧力を与える可能性が示されており、人口減少そのものを無害な現象と考えることはできない。

 それでも重要なのは、「人口が減少した」という事実と、「町が悪くなった」という評価を完全に同一視しないことである。

 人口八千人の町が十年後に七千人になったとしても、その間に救急医療への到達時間が短縮され、高齢者が自動車なしで生活できるようになり、空き家が減少し、子どもが移動しやすくなり、住民の可処分所得が増え、自治体の将来負担も軽くなったのであれば、その十年間を単純な失敗と呼ぶことは難しい。

 人口は減った。しかし町は暮らしやすくなった。この二つは十分に両立し得る。

「人数を増やす自治体」から「暮らしを設計する自治体」へ

 人口減少が長期的に続く地域では、人口を増やす政策と同時に、人口が減った場合にも暮らしを維持できる設計を進めなければならない。人口が再び増加することだけを前提に道路、学校、病院、住宅、公共交通を考えるのではなく、人口が減少しても必要な機能を維持できる形に町そのものを組み替えていくのである。

 そのとき自治体間の競争も少し違ったものになる。人口十万人の自治体が人口九万人の自治体より優れているとは限らず、人口を何人獲得したかだけで政策の巧拙を判断することもできなくなる。むしろ住民一人が日常生活でどれだけ多くの選択肢を持てるのか、病気や老化によって生活条件が変化してもその町に住み続けられるのか、行政サービスを将来世代まで維持できるのかという点が自治体の本当の実力として見えてくる。

 人口という数字には強い視覚的な力がある。一万人より九千人、九千人より八千人の方が町そのものが小さくなったように感じられる。しかし人間は人口表の中で暮らしているわけではない。朝起きて家を出て、仕事へ行き、買い物をし、病院へ行き、誰かと話し、家へ帰る。その一日の連続の中に自治体が存在している。

 スーパーまで十五分なのか四十分なのか、病気になったときに治療へたどり着けるのか、運転免許を返納した後も自分の家で生活できるのか、子どもがこの町から出ていったとしても、ここで過ごした時間を良いものだったと思えるのか。自治体の価値とは、本来そうした日常の小さな条件が積み重なったところにある。

 だから自治体の目標を人口から生活価値へ移すということは、人口問題を無視することではない。人口を王様の座から降ろし、財政、交通、医療、住宅、教育、地域経済と並ぶ重要な変数の一つとして扱うことである。

 そして最終的に目指すものも、単純な「住民一人当たり生活価値の最大化」だけでは足りない。より正確には、人口構成、財政、インフラ、環境などの制約の中で住民の生活価値を高めながら、条件の悪い住民の最低生活水準を守り、さらに将来世代にも暮らしを維持できる基盤を残すことになる。

 効率性だけでもなく、公平性だけでもなく、現在だけでも未来だけでもない。その三つを同時に考える自治体経営である。

 人口減少時代に必要なのは、「どうすれば町をもっと大きくできるか」という問いだけではない。

 小さくなっていく町の中で、一人の暮らしをどこまで豊かにできるのか。

 自治体の本当の成績表は、人口グラフの向こう側にあるのかもしれない。

地域の課題を、自分の判断に置き換えて考える

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停電という言葉から、多くの人が最初に思い浮かべるのは「照明がつかなくなること」かもしれません。しかし、現在の住宅で電気が担っている役割は照明だけではありません。冷蔵庫、エアコン、給湯器、調理器具、電話、インターネット、給水ポンプ、医療機器まで、生活のさまざまな機能が電気を前提として組み立てられています。

とりわけ外房のように、高齢者世帯が多く、自動車への依存度が高く、住宅が広い範囲に分散している地域では、24時間の停電が単なる「不便」では終わらない可能性があります。

2019年9月の令和元年房総半島台風では、千葉県内で最大64万1千軒という大規模停電が発生し、それに伴って広範囲の断水も起きました。千葉県はその後の検証で、長期間の停電だけでなく、通信遮断や断水が同時に発生したことを重要な教訓として挙げています。つまり外房で考えるべきなのは、「電気が24時間来なかったらどうするか」だけではありません。電気を入口として、水、通信、食事、医療、移動という生活機能がどこまで連鎖的に失われるかを考える必要があります。

停電直後は、まだ「少し不便」なだけに見える

停電して最初の数十分であれば、多くの住宅ではそれほど深刻な状況には見えません。

昼間なら室内は明るく、水道も出る住宅があります。スマートフォンにはまだ十分な電池が残っています。冷蔵庫も扉を閉めていれば庫内温度はすぐには上昇しません。

この段階では、「そのうち復旧するだろう」と考える人も多いでしょう。

しかし、この判断が難しいところです。

普通の停電であれば数分から数時間で復旧することもありますが、台風によって電柱、電線、倒木などが広範囲に被害を受けた場合には事情が変わります。令和元年房総半島台風では倒木や飛来物が電線に接触し、大規模で長期間の停電が発生しました。経済産業省による検証でも、広い範囲に多数の事故地点が存在したため、被害全体を把握すること自体が容易ではなかったことが示されています。

したがって、外房で停電が発生したとき、「何時間で復旧するのか」が住民には分からないということ自体が、一つのリスクになります。

数時間たつと「電気がない」から「生活機能がない」に変わっていく

停電が数時間続くと、問題の性質が変わってきます。

夏なら最も早く深刻化するのが室温です。エアコンも扇風機も使えません。高齢者の場合、暑さを感じる感覚や体温調節機能が若い世代より低下している場合があるため、暑い室内に長時間とどまることは単なる不快感では済まなくなります。

冬にも別の問題があります。エアコン暖房は当然止まり、石油ファンヒーターも電気を必要とする機種が一般的です。ガスや灯油が家にあったとしても、それだけで住宅の暖房や給湯が維持できるとは限りません。

ここには、現代住宅の興味深い特徴があります。

エネルギー源そのものが電気でなくても、機器を制御するために電気が必要なのです。

ガス給湯器であっても制御や点火には電源が必要なものがあり、電気が止まればお湯が出なくなる場合があります。つまり、「うちはオール電化ではないから大丈夫」という単純な問題ではありません。

水道があるのに、水が出ない住宅もある

さらに注意したいのが水です。

水道管そのものに異常がなくても、住宅や建物の給水設備が電気に依存していれば、停電によって蛇口から水が出なくなる場合があります。

国土交通省も、増圧給水ポンプなどを使用している建物では、自家発電設備がなければ停電によって給水できなくなる場合があるとしています。実際、過去の災害では停電によるポンプ停止によって、建物そのものが浸水していなくても給水設備が使えなくなる事例が問題となりました。

外房では、これにもう一つの問題が加わります。

住宅によっては井戸を利用しています。井戸水は水道本管が断水しても利用できるという強みがありますが、電動ポンプで汲み上げている井戸なら停電時には水を取り出せません。

水が止まれば、飲み水だけの問題ではありません。

手を洗えない。食器を洗えない。トイレを流しにくくなる。入浴できない。

停電から数時間しかたっていないのに、住宅の衛生環境まで変わり始める可能性があります。

半日を過ぎると冷蔵庫が「食品保管庫」ではなくなってくる

停電が長期化すると、次に問題になるのが食料です。

高齢者世帯では、毎日スーパーへ行くのではなく、数日分の肉、魚、牛乳、総菜などを冷蔵庫に保管している家庭も珍しくありません。しかし冷蔵庫は電気がなければ冷却を続けられません。

厚生労働省は、家庭で食品を保存するときの目安として冷蔵庫を10℃以下、冷凍庫をマイナス15℃以下に維持することを示しています。また、災害時にはライフラインの寸断によって食品を低温保存できなくなり、食中毒が発生しやすくなると注意を呼びかけています。

重要なのは、「停電から何時間たったらすべて捨てる」という単純な時間だけで判断できないことです。

停電前の庫内温度、外気温、冷蔵庫の性能、食品の量、扉を何回開けたかによって状態は変わります。厚生労働省も停電時には冷蔵庫などの扉の開閉を控え、庫内温度への影響を抑えることを求めています。

つまり停電時には、「冷蔵庫に食べ物がある」ことと「安全に食べられる食べ物がある」ことが次第に別の意味になっていきます。

特に高齢者の場合、食中毒によって体調を崩したときの影響が大きくなる可能性があります。食料備蓄を考える場合には、冷蔵庫の中身だけではなく、電気も水も使わなくても食べられる食品を別に確保しているかどうかが重要になります。

12時間を超える頃から、スマートフォンも無限には使えない

現在の災害対策ではスマートフォンが重要な情報源になっています。

停電情報を見る。自治体からの防災情報を確認する。家族と連絡する。天気予報を見る。地図を見る。場合によっては懐中電灯の代わりにも使う。

ところが、スマートフォンそのものも電気で動いています。

停電直後に電池が100%残っていたとしても、長時間使えば当然減っていきます。停電情報を何度も確認し、家族に連絡し、画面を点灯させ続ければ消耗はさらに早くなります。

ここで問題になるのは単に「スマートフォンの充電がなくなる」ということではありません。

高齢者が一人で暮らしている場合、スマートフォンが使えなくなることによって、家族との連絡手段、行政からの情報、救援を求める手段を同時に失う可能性があることです。

令和元年房総半島台風では、停電とともに通信障害も長期化しました。千葉県の検証では、社会福祉施設との通信が途絶えたため、安否確認や必要な支援内容の把握に数日を要した事例も記録されています。

これは非常に重要な教訓です。

災害時には、「電話を持っているか」ではなく、「電話を使える状態が何時間続くか」を考えなければなりません。

在宅医療を受ける人にとっては、停電の意味がまったく違う

高齢者住宅の問題を考えるとき、最も慎重に扱う必要があるのが在宅医療です。

家庭で人工呼吸器、酸素濃縮装置、吸引器などの電気を必要とする医療機器を使用している人にとって、停電は生活上の不便ではなく、医療そのものに影響します。

厚生労働省は過去の大規模停電を受け、人工呼吸器の内部バッテリーの持続時間、外部バッテリーの準備、酸素濃縮装置利用者への酸素ボンベの確保、停電時の連絡体制などを事前に確認するよう医療機関などに求めています。

したがって、在宅医療機器を使用している家庭では、「停電したらどうするか」を災害発生後に考えるのでは遅い場合があります。

何時間バッテリーが持つのか。予備電源をどうするのか。停電が長期化した場合にはどこへ移動するのか。誰に連絡するのか。

これらがあらかじめ決められているかどうかで、同じ24時間でも意味は大きく変わります。

24時間後に見えてくるのは「停電」ではなく地域の構造である

そして停電が丸一日続いたとします。

家の中は暗い。しかし本当に重要なのは暗さではありません。

夏なら室温が問題になり、冬なら暖房が問題になります。冷蔵庫の食品は状態を確認しなければならなくなり、水が出ない住宅では衛生環境が悪化します。スマートフォンの電池も減っています。在宅医療機器を使用する世帯では電源確保が切迫した問題になります。

さらに外房では、ここから地域特有の問題が現れます。

近くに徒歩で行ける店がない。高齢者が車を運転できなければ水や食料を取りに行けない。道路が倒木などで通れなければ家族も簡単には来られない。給油所そのものが停電していれば、車があっても燃料を補給できない場合があります。

つまり、一戸の住宅の停電が地域全体の停電になった瞬間、「自分の家だけ準備していればよい」という考え方にも限界が生じます。

住宅、店舗、通信、医療、給油、交通が同じ電力網と道路網の上に存在しているからです。

外房では「24時間自立できる家」という考え方が必要になる

これまで住宅を評価するときには、広さ、価格、日当たり、駅までの距離、病院までの距離などが重視されてきました。

しかし、高齢化と災害を前提に外房で長く暮らすのであれば、別の評価軸を加える必要があるのではないでしょうか。

それは、その住宅が外部からの供給を失っても、一定時間生活を継続できるかという「住宅の自立性」です。

飲料水がある。常温保存できる食料がある。スマートフォンを充電できる。夜間の照明がある。暑さや寒さを逃れる方法がある。医療機器を使用しているなら予備電源と避難先が決まっている。

重要なのは、これらを大量に買いそろえることではありません。

その家で暮らしている人が「電気が止まったとき、何が止まるのか」を一度調べておくことです。

水道の蛇口は停電時にも使えるのか。井戸ならポンプはどうなるのか。給湯器は使えるのか。固定電話は停電時にも使える方式なのか。スマートフォンを何回充電できるのか。冷暖房がなくなった場合、どこへ移動できるのか。

住宅ごとに答えは違います。

だからこそ、防災用品の一般的なリストよりも、自分の住宅について「電気を切ったら何が使えなくなるか」を調べる方が実践的です。

高齢社会では「復旧まで待つ」という防災だけでは足りない

令和元年房総半島台風が示したのは、巨大災害だけが問題なのではありません。

電線に倒木や飛来物が接触し、地域の電力供給が長期間失われる。それだけで、断水、通信障害、福祉施設への連絡困難などが連鎖して発生しました。千葉県はこの経験を受け、現在も台風接近前の倒木や飛来物への対策を呼びかけています。

人口が多く、店舗や医療機関が近く、徒歩でも移動できる都市部と、住宅が分散し、自動車移動を前提としている外房では、同じ24時間の停電でも影響は同じではありません。

そして、高齢者にとっての24時間と若い世代にとっての24時間も同じではありません。

重い水を運ぶことができるか。暑い住宅から別の場所へ移動できるか。倒木のある道路を迂回して運転できるか。スマートフォンだけで行政情報を得られるか。避難所まで自力で行けるか。

電力会社が何時間で電気を復旧できるかだけでは、高齢社会の停電問題を説明できないのです。

外房でこれから必要になるのは、「停電しない地域」を期待することだけではなく、「停電しても一定時間は暮らしを維持できる地域」をつくるという考え方ではないでしょうか。

停電から24時間。

そのとき問われているのは、冷蔵庫や照明が使えるかどうかだけではありません。

水、食料、通信、医療、移動という生活を構成する機能が、一人の高齢者の周囲にどれだけ残っているのか。

24時間の停電は、普段は見えない外房の生活基盤を一気に表面化させる出来事なのです。

地域の課題を、自分の判断に置き換えて考える

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外房で一人暮らしを続けることを考えたとき、多くの人が最初に心配するのは、買い物や通院、車を運転できなくなった後の移動ではないでしょうか。

しかし、高齢期の生活をもう少し先まで考えると、さらに難しい問題が出てきます。

病気になって入院するとき、誰が病院との連絡を取るのか。介護施設へ入るとき、緊急連絡先や身元引受人を求められたらどうするのか。認知症などによって自分で契約できなくなったら、誰が財産を管理するのか。そして、自宅や病院で亡くなった後、誰が遺体を引き取り、火葬し、家を片付け、電気や電話を解約するのでしょうか。

配偶者や子どもがいる家庭では、これらの仕事の多くを「家族が行うもの」と考えてきました。

ところが、高齢化と単身化が進む外房では、その前提そのものが成立しない人が今後増えていきます。

問題は単なる「孤独死」ではありません。

高齢者の人生の最終段階で、これまで家族が無償で担ってきた大量の事務を誰が引き受けるのか。

外房における高齢者一人暮らしを考えるうえで、これは避けて通れない生活インフラの問題です。

外房では全国より早く「家族がいない老後」が現実になる

外房でこの問題を考える必要がある最大の理由は、高齢化の進行速度です。

千葉県が2026年に示した南房総・外房ゾーンの資料では、この地域の65歳以上人口の割合は43%で、県平均より15ポイント高くなっています。さらに2050年には人口が約11万人まで減少し、高齢化率は53%に達すると予測されています。

夷隅地域だけを見ても、2025年4月時点の65歳以上人口割合は45.3%です。そして御宿町では52.8%に達しており、千葉県内の市区町村で最も高くなっています。勝浦市も47.3%です。

つまり御宿町では、すでに住民の半分以上が65歳以上です。

高齢者が多いこと自体が直ちに問題なのではありません。重要なのは、高齢者を支える側になる15~64歳人口の割合も御宿町では41.8%と県内で最も低いことです。

高齢者が増える一方で、子ども、現役世代、近隣住民など「誰かを支援できる人口」が減少していけば、これまで家族や地域の善意に依存していた仕組みは次第に成立しにくくなります。

さらに外房は、首都圏からの移住・二地域居住先として選ばれてきた地域でもあります。千葉県も、南房総・外房ゾーンについて、多数の別荘群があり、移住・二地域居住先として人気が高い地域だとしています。

移住した時点では夫婦二人であっても、20年、30年が経過すれば、どちらかが先に亡くなり、一人暮らしになる可能性があります。子どもが東京都内や神奈川県、あるいはさらに遠方に住んでいれば、戸籍上は「身寄りがある」としても、日常的に支援できるとは限りません。

したがって外房で考えるべき「身寄りのない高齢者」とは、親族が一人も存在しない人だけではありません。

必要なときに実際に動いてくれる人がいない高齢者まで含めて考える必要があります。

入院するとき、保証人がいなければ病院に入れないのか

ここには、しばしば誤解があります。

「身元保証人がいなければ入院できない」と考える人は少なくありませんが、身元保証人がいないことだけを理由として、必要な入院を拒否することが認められているわけではありません。

厚生労働省は、「身元保証人等がいないことのみを理由に医療機関において入院を拒否すること」について通知を出しており、身寄りがない患者にも必要な医療を提供できるよう、医療機関向けのガイドラインを整備しています。

したがって、

家族がいない → 保証人がいない → 入院できない

という単純な関係ではありません。

しかし、ここで問題が解決するわけではありません。

病院が家族や身元保証人に期待してきた仕事を分解すると、医療費の支払い、入院中に必要な日用品の準備、緊急時の連絡、本人の意思確認が難しい場合の情報提供、退院先の調整、死亡時の遺体引取りなど、性質の異なる仕事が混在しています。

保証人がいなければ入院させてはいけないという制度ではなくても、こうした仕事そのものが消えるわけではないのです。

そこで病院では、医師や看護師だけではなく、医療ソーシャルワーカー、地域包括支援センター、ケアマネジャー、自治体福祉部門、成年後見人など、本人の状況に応じた複数の関係者を組み合わせて対応することになります。

つまり身寄りのない高齢者の医療では、「家族の代わりになる一人」を探すよりも、これまで家族一人が担ってきた複数の役割を、制度ごとに分解して担当することが重要になります。

介護施設も「保証人がいない」だけでは入所拒否の理由にならない

介護施設についても基本的な考え方は同じです。

厚生労働省は、介護保険施設について、法令上、身元保証人等を求める規定はなく、身元保証人等がいないことはサービス提供を拒否する正当な理由には該当しないと明示しています。

それでも現場で身元保証人や緊急連絡先が求められることが多いのには理由があります。

例えば入居者が急変して病院へ搬送されたとき、誰に連絡するのか。利用料が支払えなくなったときどうするのか。判断能力が低下して重要な契約ができなくなったとき誰が手続きするのか。施設内で亡くなったとき誰が遺体を引き取るのか。

施設側から見れば、こうしたリスクを誰が引き受けるのかを事前に明確にしたいわけです。

したがって制度上の「入所できる」と、実務上の「問題なく入所生活を継続できる」は別問題です。

これも外房では重要になります。

高齢者人口が多い地域では介護需要が増える一方、支える現役世代は減少します。施設職員自身が不足するなかで、施設が本来の介護サービスに加えて、家族が行っていたさまざまな生活事務まで全面的に肩代わりすることは容易ではありません。

認知症になったら誰が契約や財産管理をするのか

一人暮らしでも、本人に十分な判断能力がある間は、自分で入院契約を結び、介護サービスを申し込み、銀行からお金を引き出し、電気料金を支払うことができます。

問題は認知症などによって判断能力が低下した場合です。

そこで使われる制度の一つが成年後見制度です。

成年後見制度には、判断能力が低下した後に家庭裁判所が成年後見人などを選任する法定後見制度と、判断能力が十分なうちに将来代理してもらう人を契約によって定めておく任意後見制度があります。法務省によれば、任意後見契約は公正証書によって締結します。

成年後見人は、本人の財産管理や契約などについて重要な役割を果たせます。

しかし、成年後見人を「家族の完全な代用品」と考えるのも正確ではありません。

特に重要なのが死亡後です。

本人が死亡すると成年後見は原則として終了します。一定の必要な死後事務について成年後見人が対応できる場合はありますが、生前と同じ権限で、その後のすべてを処理し続けられる制度ではありません。法務省も、成年被後見人の死亡によって成年後見は当然に終了し、成年後見人は原則として法定代理権を失うと説明しています。

ここは非常に重要です。

成年後見制度を利用していれば、死後のことまですべて安心というわけではありません。

では死亡した後、誰が遺体を引き取るのか

身寄りのない高齢者問題が最も深刻に現れるのが死亡後です。

一般的な家庭であれば、家族が病院から連絡を受け、遺体を引き取り、葬儀会社へ連絡し、死亡届を提出し、火葬し、納骨します。

その後も仕事は続きます。

住居を片付け、電気、ガス、水道、電話、携帯電話、インターネットなどを解約し、賃貸住宅なら明渡しを行います。預金や不動産について相続手続きが必要になる場合もあります。

つまり人が一人亡くなるということは、社会との間に結ばれていた大量の契約関係を終了させることでもあります。

ところが家族がいなければ、その作業を行う人がいません。

最後の安全網となる制度の一つが市町村です。

「墓地、埋葬等に関する法律」第9条では、遺体の埋葬または火葬を行う者がいない、あるいは誰なのか判明しない場合には、死亡地の市町村長が埋葬または火葬を行わなければならないと定めています。

したがって、本当に誰も遺体を引き取る人がいなくても、最終的に遺体が永久に病院に残されるわけではありません。

行政による仕組みがあります。

しかし、これも「市町村が死後のことを全部やってくれる」という意味ではありません。

法律が確保しているのは、あくまで最終的な埋葬・火葬などを行うための安全網です。

本人が希望していた葬儀を行うこと、指定した墓に納骨すること、家財を整理すること、各種契約を細かく解約すること、友人へ死亡を知らせることまでを、市町村が家族のように包括的に代行する制度ではありません。

ここに制度上の大きな空白があります。

「死ぬところ」までは制度があるが、「死んだ後の生活整理」は別問題になる

身寄りのない高齢者をめぐる制度を整理すると、一つの特徴が見えてきます。

医療には医療制度があります。

介護には介護保険制度があります。

判断能力が低下すれば成年後見制度があります。

そして引取り手がいない遺体については、市町村が最終的に火葬する仕組みがあります。

ところが、

入院 → 介護 → 判断能力低下 → 死亡 → 葬儀 → 納骨 → 家財整理 → 契約解除

という人生最後の一連の流れを、一つの公的制度が最初から最後まで担当しているわけではありません。

それぞれ別の制度です。

その制度と制度の間を、これまでは家族がつないできました。

身寄りのない高齢者問題の本質は、ここにあります。

「制度がない」というより、制度同士をつないでいた家族がいなくなる問題なのです。

その空白を埋める「高齢者等終身サポート事業」

こうした事情から近年広がっているのが、高齢者等終身サポート事業です。

事業者によって内容は異なりますが、入院や施設入所時の身元保証等、日常生活の支援、死亡後の葬儀・火葬・納骨、住居や遺品の整理、各種契約の解約などを契約によって支援します。

政府も2024年に「高齢者等終身サポート事業者ガイドライン」を策定し、この分野で提供されるサービスや契約上の留意点を整理しています。

このようなサービスは、今後身寄りのない高齢者が増える社会では重要性が高まるでしょう。

ただし、利用者側には別の問題も生じます。

サービスは無料ではありません。

また、老後の生活支援を依頼する事業者に財産管理や死後事務まで任せる場合、利用者と事業者との間には大きな情報格差が生じます。

判断能力が十分な60代、70代の段階では比較検討できても、本当にサービスが必要になる80代、90代では、自分で契約内容や事業者の経営状態を判断することが難しくなっている可能性があります。

したがって将来は、単に民間サービスを増やせばよいという問題ではなく、第三者による監督や地域の相談体制を含めた仕組みが重要になります。

地域包括支援センターは「家族の代わり」なのか

高齢者の相談窓口として重要なのが地域包括支援センターです。

一人暮らしで今後の生活に不安がある場合、介護、医療、権利擁護などについて地域の関係機関につなぐ入口として重要な存在です。

ただし、地域包括支援センターの職員が個々の住民の保証人となり、財産を預かり、死亡後の葬儀や遺品整理まで私的に引き受ける仕組みではありません。

ここでも、「相談して制度につないでくれる人」と「実際に契約・支払い・死後事務を行う人」を区別する必要があります。

したがって身寄りのない高齢者には、一人の万能な支援者を用意するというより、

地域包括支援センター 医療機関 介護事業者 自治体 成年後見人 司法書士・弁護士等の専門職 高齢者等終身サポート事業者 葬祭事業者

などが、それぞれの役割を担当するネットワークが必要になります。

本当に準備が必要なのは「元気なうち」である

この問題には厄介な性質があります。

本人が困ってからでは、本人自身が準備できない可能性があることです。

例えば認知症が進行して契約内容を十分理解できなくなってから、「将来の財産管理を誰かに任せたい」と考えても、自由に契約できるとは限りません。

突然の入院後に意識状態が悪化してから、自分の葬儀や遺品整理について契約することもできません。

したがって身寄りのない人、あるいは子どもが遠方にいて将来頼ることが難しい人ほど、元気なうちに考えておく必要があります。

特に、

誰を緊急連絡先とするのか。

判断能力が低下した場合、財産管理を誰に任せるのか。

死亡した場合、誰に連絡してもらうのか。

葬儀や火葬をどうするのか。

墓や納骨をどうするのか。

自宅や家財をどう処分するのか。

預金や不動産を誰に引き継ぐのか。

こうした問題は、それぞれ別々に考えるのではなく、一つの人生設計として考えた方が合理的です。

外房で必要になるのは「介護インフラ」だけではない

人口減少地域の高齢化対策というと、介護施設を増やす、訪問介護を確保する、病院を維持するといった話になりがちです。

もちろんそれらは重要です。

しかし、身寄りのない高齢者が増えれば、それだけでは足りません。

病院へ運ぶ救急車があっても、その後の連絡調整をする人が必要です。

介護施設があっても、契約や財産管理を支える仕組みが必要です。

亡くなった後には、葬送と財産整理を担う仕組みも必要です。

つまり高齢社会に必要なインフラは、

医療インフラ、介護インフラ、交通インフラに加えて、「人生最後の事務を処理する社会的インフラ」

まで含めて考える必要があります。

外房ではこの問題が全国より早く顕在化する可能性があります。

南房総・外房ゾーンの高齢化率は現在すでに43%で、2050年には53%と予測されています。御宿町では2025年時点ですでに52.8%です。

その一方で、支える現役世代は減っていきます。

高齢者同士が高齢者を支える「老老介護」だけでなく、これからは、

高齢者の死後を、さらに高齢になった兄弟姉妹や友人が処理する

という状況も増えていくでしょう。

これは個人の努力だけでは解決しにくい問題です。

「子どもがいるから大丈夫」とも限らない

身寄りの問題を考えるとき、「子どものいない高齢者の話」と考えてしまうと問題を狭く捉えることになります。

子どもがいても海外に住んでいるかもしれません。

東京で仕事をしていて、外房まで頻繁に来ることができない場合もあります。

親子関係が疎遠になっていることもあります。

子ども自身が70歳を超えている可能性もあります。

したがって将来の地域政策では、戸籍上の親族の有無よりも、

実際に支援できる人が存在するか

という視点が重要になります。

「家族がいること」を社会保障制度の暗黙の前提としてよいのかという問題でもあります。

外房は「老後移住の入口」だけでなく「老後の出口」まで考える必要がある

外房は、温暖な気候、海、自然、比較的ゆったりした居住環境などから、首都圏からの移住先として魅力があります。千葉県も南房総・外房地域を移住・二地域居住先として位置付けています。

しかし老後移住を評価するとき、

「60代で移住して快適に暮らせるか」

だけでは十分ではありません。

75歳になって車を運転できなくなったとき。

80歳で配偶者が亡くなったとき。

85歳で入院したとき。

90歳で介護施設へ移るとき。

そして自分自身が亡くなったとき。

そこまで生活設計に含めて初めて、「老後も住み続けられる地域」と評価できます。

これは外房だけの問題ではありません。

しかし、高齢化と人口減少が全国より早く進んでいる外房だからこそ、全国に先駆けて仕組みを作る意味があります。

行政・医療・介護・民間をつなぐ地域単位の仕組みが必要になる

将来的に考えられる方向は、すべてを自治体が直接行うことではないでしょう。

自治体がすべての高齢者の保証人になり、財産を管理し、葬儀まで担当することは現実的ではありません。

むしろ必要なのは、元気な段階から相談できる窓口を用意し、その人の状況に応じて、成年後見制度、法律専門職、医療機関、介護事業者、終身サポート事業者などにつなげておく仕組みです。

重要なのは、緊急入院してから初めて「この人には連絡できる家族がいない」と分かる状態を減らすことです。

例えば65歳や70歳程度から、

緊急連絡先はあるか。

将来の財産管理者は決まっているか。

入院・入所時の支援者はいるか。

死後事務を誰が担当するか。

遺言はあるか。

納骨先は決まっているか。

といったことを本人の意思に基づいて確認し、必要な支援へつなげる仕組みがあれば、問題が発生してから対応するより社会的コストは小さくなる可能性があります。

高齢者一人暮らしが成立する条件は「家の中」だけでは決まらない

高齢者が一人で生活できるかどうかを考えるとき、身体能力や認知機能だけに注目しがちです。

しかし実際には、それだけではありません。

買い物ができる。

病院へ行ける。

介護を受けられる。

お金を管理できる。

緊急時に連絡できる。

入院できる。

施設へ移れる。

死亡後の処理を任せられる。

これらが一続きになって初めて、高齢者の一人暮らしは成立します。

その意味では「身寄り」は、家族関係の問題であると同時に生活インフラの問題でもあります。

外房はこの問題を全国より先に経験する

これから外房で問われるのは、

「身寄りのない高齢者を誰が世話するのか」

だけではありません。

もっと正確には、

「家族が担ってきた機能を、社会のどの仕組みに分解して移すのか」

という問題です。

入院は病院。

介護は介護事業者。

相談は地域包括支援センター。

財産管理は成年後見制度など。

死後事務はあらかじめ契約した事業者や専門職。

そして、本当に埋葬・火葬を行う人がいなければ、最後には死亡地の市町村が法律に基づいて対応します。

制度を一つずつ見れば、ある程度の仕組みは存在します。

問題は、それらを一人の人生に沿ってつなぐ人がいないことです。

これまでは、その役割を配偶者や子どもが担っていました。

しかし外房の高齢化と単身化がさらに進めば、「家族がいること」を前提とした社会の設計そのものを見直す必要が出てきます。

外房が本当に「老後も安心して暮らせる地域」になるためには、病院や介護施設の数だけを評価しても足りません。

元気なときから、入院、認知症、施設入所、死亡、そして死後の整理までを切れ目なくつなげられる仕組みが地域に存在するか。

そこまでを生活インフラとして考える時代に入っているのではないでしょうか。

地域の課題を、自分の判断に置き換えて考える

有限会社アードレでは、住まい・車・移住などの大きな選択を、 費用や将来条件をもとに数字で比較し、判断できる形に整理しています。

数字で比較するサービスを見る

地方のスーパーが閉店すると、「ネットスーパーを利用すればよい」「移動販売が来ればよい」「車で隣町まで行けばよい」と考えられがちです。

しかし、実際の生活はそれほど単純ではありません。

食料品の買い物には、

店舗まで移動できること 商品を選べること 価格を負担できること 商品を持ち帰れること 注文や支払いができること 必要な日に商品を入手できること

まで含まれます。

スーパーが一軒なくなっても、別の方法でこれらの条件を満たせれば生活は続けられます。

反対に、ネットスーパーや移動販売というサービスが存在していても、利用できる曜日、配達区域、商品数、料金、予約方法などが生活条件に合わなければ、「買い物できる地域」とは言い切れません。

この記事では、御宿町、勝浦市、いすみ市など外房地域を中心に、スーパー撤退後の買い物を、移動販売、宅配、公共交通、自家用車、家族送迎などに分解して考えます。

最初に結論~問題は「スーパーがあるか」だけではない

結論からいえば、人口減少地域でスーパーが減った場合でも、買い物を続ける方法はあります。

しかし、

一つの代替手段だけで、スーパーが担っていた機能を完全に置き換えることは難しい

と考えた方が現実的です。

移動販売には移動しなくても商品を選べる利点があります。

宅配には重い商品を運ばなくてよい利点があります。

公共交通があれば店舗まで移動できます。

自動車なら時間や購入量の自由度が高くなります。

ところが、それぞれに弱点があります。

したがって人口減少地域で重要なのは、

「スーパーを一軒残せるか」

だけではなく、

住民が複数の方法を組み合わせて、生鮮食品や日用品を継続的に入手できる仕組みを残せるか

という問題です。

この記事では、この状態を分析するため、

買い物可能性 =店舗への移動可能性 +宅配利用可能性 +商品の選択可能性 +価格負担可能性 +注文・支払可能性

として考えます。

これは公式の指標ではなく、買い物環境を整理するための概念的な式です。

外房では自動車を使えるかどうかが大きい

外房の買い物問題を考えるうえで、最も重要な要素の一つが自動車です。

千葉県が高齢者について整理した資料では、地方部で日常の買い物に「自動車・バイクを自分で運転する」と回答した割合は59.9%、「家族・近所の車に同乗、送迎」が19.7%でした。

合わせると約8割に達します。

一方、バスは3.4%、電車は1.4%でした。これは外房だけの数字ではありませんが、千葉県地方部の買い物が自動車に強く依存していることを示しています。

つまり地方の買い物問題には、

スーパーまで何kmあるか

だけではなく、

その人が運転できるか

という条件が大きく影響します。

現在は問題なく10km先のスーパーへ行ける人でも、免許返納、病気、視力低下、身体機能の低下などによって運転できなくなれば、同じ家に住み続けていても買い物環境は突然変わります。

したがって、

自動車を所有している =将来も買い物に困らない

とは限りません。

外房では高齢化を無視できない

この問題が外房で重要なのは、高齢化がすでに進んでいるからです。

千葉県の2025年度の年齢別人口資料では、市町村別平均年齢が最も高いのは御宿町の61.1歳でした。勝浦市も58.2歳で県内でも高い水準です。

御宿町の2026年7月31日現在の人口は6,609人、3,631世帯です。

勝浦市は2026年6月末現在で人口14,678人、7,976世帯です。

さらに国立社会保障・人口問題研究所の2023年推計では、2020年から2050年にかけて、勝浦市の人口は16,927人から8,815人、いすみ市は35,544人から20,218人へ減少すると推計されています。

御宿町は6,874人から4,381人という推計です。いずれも2020年国勢調査を基準とした将来推計であり、実績値ではありません。

人口が減れば、小売店の商圏人口も小さくなります。

しかし問題は、

人口が半分になる =食料を買う必要性も半分になる

ということではありません。

一人一人には引き続き食料が必要です。

その一方で、一店舗あたりの顧客数や売上が減れば、店舗を維持する採算条件は厳しくなります。

ここに人口減少地域特有の矛盾があります。

移動販売は有力だが万能ではない

スーパー撤退後の方法として非常に重要なのが移動販売です。

いすみ市では、日常生活に必要な食料品や日用雑貨の買い物が困難な人を対象とした買い物支援を行っています。

2024年6月から千葉薬品の「ヤックス移動販売スーパーらくちん便」が月曜日から金曜日まで市内を巡回し、さらに2025年7月から「とくし丸」が週5日、市内を巡回しています。

移動販売の最大の特徴は、

人が店へ行くのではなく、店が人の近くまで来る

ことです。

これは身体的な移動が難しくなった高齢者には大きな意味があります。

商品を実際に見ながら選べることも、インターネット通販にはない利点です。

一方で、移動販売にも限界があります。

通常の大型スーパーと比べれば積載できる商品数には限界があります。

毎日いつでも購入できるわけではありません。

巡回ルートや時間に生活を合わせる必要があります。

さらに重要なのは事業の持続性です。

いすみ市では以前からNPO(Non-Profit Organization・非営利組織)による移動販売が行われていましたが、市の過去の計画資料には、利用者減少のため週5日5コースから週4日4コースへ変更した経緯も記録されています。

この事例が示すのは、

需要がある =事業が採算的に維持できる

ではないということです。

高齢者に必要なサービスほど、利用者が広い地域に少人数ずつ分散している可能性があります。

販売車が長距離を走っても、一か所当たりの売上が小さければ、燃料費、人件費、車両費などを回収することが難しくなります。

「移動スーパーが来れば解決」とは限らない

例えば移動販売車が週1回来る地域を考えてみます。

週1回でも、

米 調味料 野菜 肉 魚 牛乳 パン 日用品

などを計画的に購入できれば、かなりの部分を補うことができます。

しかし、

急に必要になった食品 買い忘れ 薬以外の日用品 大量購入 特殊な商品

まですべて対応できるとは限りません。

そこで実際には、

移動販売 +コンビニエンスストア +ドラッグストア +宅配 +家族送迎

などを組み合わせることになります。

重要なのは、一つ一つのサービスを見るのではなく、

一週間の生活に必要な食料・日用品を全部調達できるか

を見ることです。

宅配は「自宅まで届く」点では強い

宅配の大きな利点は、商品を自宅まで運んでもらえることです。

米、飲料、調味料など重量のある商品では特に有効です。

千葉県が過去に実施した買い物弱者対策の実証事業でも、利用者の70歳代以上が63%を占め、宅配を利用する理由として、車に乗れないことや重い商品を持ち帰れないことが挙げられていました。

つまり宅配は単なる便利なサービスではなく、

商品を運ぶ身体的負担を外部化する仕組み

でもあります。

ただし、宅配にも利用条件があります。

配達区域 最低注文額 送料 注文締切 配達曜日 支払方法 インターネット操作 電話注文の可否

などです。

そのため、

宅配サービスが地域に存在する =全住民が使える

ではありません。

特に高齢者の場合、スマートフォンやウェブサイトからの商品検索、会員登録、パスワード管理、決済方法などが利用上の障壁になる可能性があります。

ネットスーパーだけでは解決しない理由

人口減少地域の買い物問題では、「インターネットで注文すればよい」という意見もあります。

確かに、将来的には重要な手段です。

しかしネットスーパーを実際に利用するには、

配達対象地域である インターネットを利用できる 端末を操作できる 商品を画面から選べる 支払いができる 商品受取ができる

という条件が必要です。

そして人口密度が低い地域ほど、配送距離が長くなりやすくなります。

一軒の注文を届けるために長距離を走れば、物流費が増えます。

つまり人口減少地域では、

需要が小さいから宅配が必要になる一方で、

需要密度が低いから宅配の採算が悪くなる、

という矛盾が発生します。

公共交通でスーパーへ行く方法

もう一つの方法は、人を店まで運ぶことです。

いすみ市では市民乗合タクシーが運行されています。

2026年6月時点の制度では、事前予約によって運行区域内の自宅などから目的地まで移動でき、料金は大人一人1回300円です。月曜日から金曜日まで運行しています。複数の予約があれば乗り合わせになるため、通常のタクシーと同じではありません。

勝浦市でもデマンド交通などの施策が進められています。

御宿町では、勝浦市のデマンドタクシーを町内の共通乗降場所まで乗り入れる仕組みが導入され、買い物、医療機関、金融機関などへの移動可能範囲を広げています。

これは重要な方向です。

ただし、公共交通でスーパーへ行く場合には、

自宅 ↓ 乗車 ↓ スーパー ↓ 買い物 ↓ 待ち時間 ↓ 帰宅

という一連の時間を考える必要があります。

自家用車なら30分で終わる買い物が、予約や待ち時間を含めると数時間になる可能性があります。

したがって、

交通が存在する =買い物に実用的

とは限りません。

買い物では「運べる量」も重要

公共交通の問題として見落とされやすいのが購入量です。

例えば、

米5kg 牛乳2本 ペットボトル飲料 野菜 肉 魚 トイレットペーパー

を一度に購入すると、かなりの重量と容積になります。

健康な人が自家用車で買い物する場合にはほとんど問題になりません。

しかし、高齢者がバスや鉄道で持ち帰るとなると事情は変わります。

つまり交通政策を考える場合も、

「スーパーまで行けるか」

だけでなく、

買った商品を家まで持ち帰れるか

を考える必要があります。

この意味では、

人を店へ運ぶ仕組み

と、

商品を家へ運ぶ仕組み

は別の役割を持っています。

コンビニエンスストアやドラッグストアは代わりになるのか

スーパーがなくなっても、コンビニエンスストアやドラッグストアが残っていれば一定の商品を購入できます。

特に近年のドラッグストアは、食品を扱う店舗も多くなっています。

しかし、

スーパー コンビニエンスストア ドラッグストア

では、商品構成も価格体系も異なります。

弁当、飲料、菓子、冷凍食品などを確保できても、生鮮食品を十分に購入できるとは限りません。

したがって、

食品を売る店がある =通常の食生活を維持できる

とも限りません。

重要なのは店舗数ではなく、

必要な食品群を継続的に取得できるか

です。

家族送迎は無料ではない

地方では家族が車で買い物に連れて行くことも多くあります。

家族送迎は行政統計上「公共交通費」として現れません。

しかし実際には、

家族の時間 ガソリン代 車両維持費 待ち時間 仕事や家事の調整

が発生します。

例えば高齢の親を週1回スーパーへ連れて行くとして、往復と買い物に2時間かかれば、年間では、

2時間 × 52週 =104時間

になります。

これは分析のための単純計算ですが、約13日分の8時間労働に相当します。

したがって、

行政支出が発生していない =社会的費用がゼロ

ではありません。

買い物支援を考える際には、家族が無償で負担している時間も考える必要があります。

最も弱いのは「単一手段依存」の地域

買い物環境を考えるうえで危険なのは、一つの方法に依存することです。

例えば、

自動車だけ

移動販売だけ

家族送迎だけ

ネットスーパーだけ

という状態です。

一つが使えなくなると生活が急に成立しなくなるからです。

反対に、

週1~2回の移動販売 +宅配 +近隣の小売店 +デマンド交通

など複数の選択肢があれば、一つが使えなくなっても他の方法で補うことができます。

これは地域の買い物環境に「冗長性」を持たせる考え方です。

冗長性とは、ある手段が失われても別の手段で機能を維持できる状態です。

30年後に重要なのは「店舗数」より買い物機能

今後30年間の外房を考える場合、

スーパーを何店舗残すか

という発想だけでは十分ではないでしょう。

人口が大きく減る地域では、すべての店舗を現在と同じ形で維持することは難しくなる可能性があります。

その場合には、

大型店舗 移動販売 宅配 小型店舗 コンビニエンスストア ドラッグストア 公共交通

を一つの生活インフラとして考える必要があります。

例えば、一つの大型スーパーを維持できなくても、

地域拠点店舗 +移動販売 +宅配

によって食品アクセスを維持できる可能性があります。

逆に店舗だけ残っていても、自動車を運転できない高齢者がそこへ行けなければ、生活機能としては不十分です。

店を残す政策と買い物を残す政策は違う

ここで重要な区別があります。

スーパーを残すことと、住民の買い物を維持することは同じではありません。

スーパーへの補助によって店舗を残す方法もあります。

しかし利用者が減り続ければ、長期的な維持費は増える可能性があります。

一方で、店舗閉鎖をそのまま受け入れてしまえば、自動車を利用できない住民が生活できなくなる可能性があります。

そのため政策として考えるべきなのは、

どの店を残すか

だけではなく、

地域住民が食品へアクセスするための総費用をどう小さくするか

です。

行政負担 事業者負担 住民負担 家族負担 移動時間

を合わせて考える必要があります。

現実的には「人を運ぶ」と「商品を運ぶ」の併用になる

人口密度が下がっていく地域では、一つの方法ですべての住民を支えることは難しいでしょう。

比較的元気で移動できる人には、

デマンド交通 路線バス 家族送迎

などで店舗へ行く方法があります。

移動が難しい人には、

移動販売 宅配

が有効です。

つまり、

人を商品まで運ぶ

方法と、

商品を人まで運ぶ

方法を組み合わせることになります。

どちらが常に優れているという問題ではありません。

地域人口、住宅密度、利用人数、店舗距離によって効率は変わります。

成立しやすい地域

買い物支援が比較的成立しやすいのは、

一定数の利用者がいる 住宅がある程度まとまっている 既存スーパーを商品供給拠点として使える 移動販売と自治体が連携できる 宅配と公共交通を併用できる

といった地域です。

特に利用者がある程度まとまっていれば、一台の販売車や配送車が短時間で複数世帯を回ることができます。

成立しにくい地域

反対に難しいのは、

人口が非常に少ない 住宅が広範囲に分散している 道路距離が長い 利用者一人当たりの購入額が小さい 販売拠点となる店舗も遠い

といった地域です。

この場合、

需要はあるのに採算が取れない

という状態が起こります。

だからこそ、

「必要なら民間企業がやるはずだ」

という考え方だけでは解決できません。

買い物環境を見るチェックリスト

地方へ移住する場合や、高齢期の住まいを考える場合には、最寄りスーパーまでの距離だけを見るのではなく、次の項目を確認した方がよいでしょう。

・現在の最寄りスーパーまでの距離 ・自動車を運転できなくなった場合の移動方法 ・移動販売の有無 ・巡回曜日 ・宅配サービスの有無 ・配送料 ・最低注文額 ・電話注文が可能か ・インターネット注文だけか ・生鮮食品を購入できるか ・公共交通でスーパーへ行けるか ・帰宅便までの待ち時間 ・重い商品を持ち帰れるか ・家族送迎が必要か ・家族が遠方へ転居しても生活できるか

特に重要なのは、

「今、自動車を運転できる状態」ではなく、「自動車を運転できなくなった状態」で生活を想定すること

です。

外房の買い物問題から見えてくること

外房では人口減少と高齢化が同時に進んでいます。

人口が減れば、スーパーにとって商圏は縮小します。

しかし住民一人一人に必要な食料がなくなるわけではありません。

このため今後重要になるのは、

大型スーパーを今までと同じ形で残し続けること

だけではありません。

むしろ、

店舗 移動販売 宅配 公共交通 地域の小売店

を組み合わせ、

少ない人口でも食品へのアクセスを維持できる地域構造へ変えていくこと

ではないでしょうか。

現実的な結論

スーパーが撤退した地域でも、生活を続けること自体は可能です。

しかし、それには条件があります。

移動販売だけでもありません。

ネットスーパーだけでもありません。

公共交通だけでもありません。

家族送迎だけでもありません。

重要なのは、それらを組み合わせることです。

そして人口減少地域で問うべきなのは、

「スーパーが何軒あるか」

ではなく、

「自動車を運転できなくなった住民でも、必要な食品を適切な価格と負担で継続的に入手できるか」

です。

人口が減った地域では、店舗そのものをすべて維持することが難しくなる可能性があります。

しかし、

店舗が減ること =買い物機能まで失ってよい

ということではありません。

これからの地域政策では、

店を維持することから、買い物という生活機能を維持することへ

考え方を広げる必要があります。

そして30年後の外房で重要なのは、

「昔と同じ店舗網を残せたか」

ではなく、

少ない人口でも、必要な食品に誰もがアクセスできる仕組みを残せたか

ではないでしょうか。

地域の課題を、自分の判断に置き換えて考える

有限会社アードレでは、住まい・車・移住などの大きな選択を、 費用や将来条件をもとに数字で比較し、判断できる形に整理しています。

数字で比較するサービスを見る

はじめに

地方では、「町の本屋がなくなった」という話を聞くことが珍しくなくなりました。

千葉県の外房地域でも、茂原市、いすみ市、勝浦市、鴨川市、館山市などには現在も書店がありますが、市町村によって状況は大きく異なります。

一方、公共図書館についても、すべての自治体が同じ規模の図書館を持っているわけではありません。

市立・町立図書館を設置している自治体がある一方、公民館の一角に図書室を設けている自治体もあります。

さらに、2025年3月には茂原市立図書館が茂原ショッピングプラザアスモ内へ移転し、2026年7月1日には、いすみ市で初めて「いすみ市図書館」が開館しました。

外房の読書環境は、一方的に縮小しているわけではありません。

民間の書店は全国的な縮小圧力を受けていますが、公共図書館については再編、移転、新設、デジタル化など別の動きも起きています。

この記事では、

「外房から本を入手する場所はなくなってしまうのか」

という問題を、

  • 書店
  • 公共図書館
  • 公民館図書室
  • 通信販売
  • 電子書籍
  • 人口減少
  • 高齢化
  • 自動車依存
  • 地域拠点

という複数の視点から検討します。


最初に結論~書店と図書館は同じ問題ではない

最初に結論を示すと、今後の外房では、

民間書店は地域中心都市への集中がさらに進む可能性が高い一方、公共図書館・図書室は自治体による公共サービスとして一定程度維持される可能性が高い

と考えられます。

ただし、

書店がある =十分な読書環境がある

でも、

図書館がある =書店がなくても問題ない

でもありません。

両者は役割が異なるからです。

書店は、

「欲しい本を購入する場所」

であり、

図書館は、

「資料へアクセスする公共施設」

です。

したがって地域の読書環境は、

地域の本へのアクセス =書店へのアクセス +図書館へのアクセス +図書館間貸借 +インターネット通販 +電子書籍

という複数の経路で考える必要があります。

これは公式指標ではなく、本記事で地域の読書環境を整理するための考え方です。


全国の書店数は長期的に大きく減少している

まず、外房だけの問題ではないことを確認しておく必要があります。

日本出版インフラセンターの書店マスタを基にした出版科学研究所の統計では、登録書店数は2003年度に20,880店ありました。

2024年度には10,417店となり、さらに2025年度末には9,993店となっています。

つまり約20年間で、

20,880店 ↓ 9,993店

まで減ったことになります。

単純計算では半分以下に近い水準です。

特に重要なのは、一時的な景気後退による閉店ではないことです。

長期間にわたり減少が続いています。

したがって、

「景気が回復すれば昔のように町の本屋が戻る」

と考えることには慎重であるべきでしょう。


紙の出版市場そのものも縮小している

書店経営が難しくなっている背景には、人口減少だけではなく出版市場そのものの構造変化があります。

2025年の紙と電子を合わせた出版市場は約1兆5,462億円でした。

その中で紙の出版物市場は1兆円を下回りました。

一方、紙の書籍販売額は約5,939億円で、前年よりわずかに増加しました。

ここから分かるのは、

「本そのものが完全に読まれなくなった」

という単純な話ではありません。

むしろ、

  • 紙から電子へ
  • 書店からインターネット通販へ
  • 雑誌から別の情報媒体へ

という購入・情報取得手段の変化が進んでいます。

特に雑誌の縮小は書店にとって大きな問題です。

以前の町の書店では、書籍だけでなく、

  • 週刊誌
  • 月刊誌
  • 漫画雑誌
  • 学習雑誌
  • 趣味雑誌

などを定期的に買う顧客が重要でした。

この需要が減ると、来店頻度そのものが低下します。


書店経営を人口だけで説明してはいけない

地方書店の撤退は、

人口減少 ↓ 客が減る ↓ 閉店

だけで説明できません。

書店経営を簡単に表すなら、

書店利益 =書籍・雑誌等の売上 -仕入関連費 -人件費 -家賃 -電気料金 -物流費 -店舗維持費 -その他経費

となります。

人口が減れば売上にはマイナスですが、それだけではありません。

インターネット通販、電子書籍、コンビニエンスストアなどとの競争があります。

さらに地方では、

「町全体では本を買う人がいる」

ことと、

「1店舗を維持できるだけの売上が集中する」

ことは同じではありません。


外房では書店が地域中心都市へ集まりやすい

2026年8月時点で確認できる外房の代表的な書店を見ると、地域差が明確です。

茂原市には蔦屋書店茂原店があります。

館山市には宮沢書店本店や宮沢書店TSUTAYA館山店があります。

鴨川市には鴨川書店やTSUTAYA鴨川店があります。

いすみ市では井上書店、土屋鍾文堂、伊丹屋などの書店が確認できます。

勝浦市にも既存の書店があります。

御宿町にも地域の書店が確認できます。

一宮町には小規模な独立系書店も存在します。

つまり、

「外房にはもう書店がない」

という表現は正確ではありません。

一方、

どの町にも大型書店があり、多数の新刊から自由に選べる環境がある

とも言えません。


外房の書店問題は「ゼロか一か」だけでは測れない

書店については、

書店が存在する =1

存在しない =0

という評価だけでは不十分です。

実際の利便性は、

書店アクセス =店舗数 ×品揃え ×営業時間 ×交通利便性 ×利用者の移動能力

のような要素で決まります。

これも公式指標ではなく、分析のための概念です。

例えば町内に1軒の書店があっても、

  • 欲しい専門書がない
  • 新刊の種類が少ない
  • 自動車がなければ行けない

なら、大都市の書店とは機能が異なります。

逆に小規模書店でも、

  • 教科書
  • 学習参考書
  • 地域資料
  • 文具
  • 地元学校への納品

などを扱うことで、地域では重要な役割を果たしている場合があります。


小さな書店には大型店とは違う役割がある

地方の小規模書店を、

「大型書店より品揃えが少ないから不要」

と評価するのも適切ではありません。

地域書店には、

  • 学校教材
  • 教科書
  • 地域出版物
  • 文具
  • 地域住民からの取り寄せ
  • 行政・学校との取引

など、大型店とは異なる機能があります。

特に高齢者の場合、インターネット通販や電子書籍が使えるとは限りません。

したがって、

Amazonなどがある =地域書店が不要

という関係にはなりません。


ただし小規模書店を公費だけで維持するのも容易ではない

一方で、

「文化的に必要だから書店を補助金で維持すればよい」

という考え方にも限界があります。

民間書店を維持するには継続的な売上が必要です。

書店1店舗を維持する年間必要売上を考えると、

必要売上高 =固定費 ÷粗利益率

という関係があります。

家賃、人件費、光熱費などが存在する以上、一定以上の販売量がなければ営業を続けることはできません。

人口数千人規模の自治体すべてに大型書店を復活させる政策は、現実性が高いとは言えません。


では外房の図書館はどうなっているのか

ここから公共図書館を見ます。

千葉県統計年鑑の2023年度公共図書館統計では、外房・南房総地域に、

  • 茂原市立図書館
  • 勝浦市立図書館
  • 館山市図書館
  • 鴨川市立図書館
  • 南房総市図書館
  • 大多喜町立大多喜図書館天賞文庫

などがあります。

一方、

  • 一宮町
  • 睦沢町
  • 長生村
  • 白子町
  • 長柄町
  • 長南町
  • 御宿町

などでは、公民館や文化施設内の図書室が読書サービスを担っていました。

そして当時のいすみ市も、大原・岬・夷隅の各公民館図書室を中心とする体制でした。

この構造が2026年に変化しました。


いすみ市に2026年7月、市として初めて図書館が開館

いすみ市では2026年7月1日、大原文化センター2階に「いすみ市図書館」が開館しました。

これは重要な変化です。

それまでいすみ市の公共読書施設は公民館図書室を中心としていました。

新しい図書館では、開館時間が午前9時から午後7時となっています。

一方、公民館図書室は午前9時から午後5時です。

図書・雑誌は合わせて10冊まで、3週間借りることができます。

さらに、市内所蔵資料を予約し、図書館だけでなく近くの公民館図書室で受け取る仕組みもあります。

つまり、

大原に中央的図書館 +岬・夷隅の図書室

というネットワーク型に変わったと考えることができます。


いすみ市図書館の本当の意味は建物を一つ増やしたことではない

図書館新設というと、

「立派な建物ができた」

ことが注目されがちです。

しかし地域サービスとして重要なのは建物そのものではありません。

いすみ市の場合、

中央施設 +地域図書室 +蔵書検索 +予約 +取り寄せ

を組み合わせたことに意味があります。

これは人口密度の低い地域では重要です。

市域が広い自治体で、

「全住民が中央図書館まで行く」

ことを前提にするのは現実的ではありません。


外房の図書館規模には大きな差がある

2023年度の千葉県統計年鑑によると、主な施設の蔵書数は次のようになっていました。

施設 蔵書冊数 年間貸出冊数
茂原市立図書館 約23.5万冊 約21.9万冊
館山市図書館 約16.3万冊 約11.2万冊
南房総市図書館 約13.6万冊 約7.2万冊
鴨川市立図書館 約10.6万冊 約10.8万冊
大多喜図書館天賞文庫 約5.0万冊 約3.7万冊
勝浦市立図書館 約4.1万冊 約2.8万冊
当時のいすみ市大原公民館 約5.7万冊 約3.7万冊
長生村文化会館 約3.8万冊 約1.0万冊
睦沢町中央公民館図書室 約3.0万冊 約1.5万冊
長柄町公民館図書室 約2.5万冊 約1.8万冊
白子町青少年センター図書室 約1.6万冊 約0.5万冊
一宮町まちの図書室 約1.5万冊 約1.4万冊
長南町中央公民館 約0.9万冊 約0.2万冊
御宿町公民館 約0.6万冊 約0.2万冊

※2023年度の千葉県統計年鑑「公共図書館」を基礎として整理。2026年現在の蔵書数ではないため、新設・移転・購入・除籍によって現在とは異なる。

この表からも、同じ「図書館・図書室」と呼ばれる施設でも規模が大きく違うことが分かります。


蔵書数だけで図書館を評価してはいけない

ただし、

蔵書20万冊 > 蔵書5万冊

だから前者が5倍優れている、というわけではありません。

重要なのは、

  • 新しい本が継続して入るか
  • 必要な本を探せるか
  • 他館から取り寄せられるか
  • 専門職員に相談できるか
  • 子どもが利用できるか
  • 高齢者が行けるか
  • 学習スペースがあるか
  • 開館時間が利用者に合うか

です。

地方の小規模図書室では、すべての分野の本を大量に持つことはできません。

そこで重要になるのが図書館間のネットワークです。


千葉県では県立図書館から本を取り寄せられる

千葉県では、市町村立図書館や読書施設と県立図書館の間で資料を貸し借りする仕組みがあります。

これは外房の小規模自治体にとって重要です。

例えば、

自分の町の図書室にはない ↓ 県立図書館・他自治体から取り寄せる ↓ 近くの図書室で受け取る

という仕組みが機能すれば、

「小さな町だから数千冊しか利用できない」

という状態をある程度改善できます。

したがって地方図書館では、

自館蔵書数

だけではなく、

利用者がアクセス可能な図書館ネットワーク全体の蔵書

を見る必要があります。


御宿町のような小規模自治体ではネットワークの価値が大きい

御宿町の2023年度統計では、公民館の蔵書規模は約5,900冊でした。

単独の図書館として見れば大きな規模ではありません。

しかし現在の御宿町公民館では、千葉県立図書館資料の取り寄せも可能です。

また、冷暖房やWi-Fi(Wireless Fidelity・無線通信によるインターネット接続環境)があり、学習・読書スペースとしても利用されています。

ここから重要なことが分かります。

小規模自治体では、

巨大図書館を建設する

ことだけが選択肢ではありません。

小規模図書室 +県立図書館 +他市町村図書館 +電子資料

という方法もあります。


茂原市では図書館を商業施設へ移転した

茂原市立図書館は2025年3月21日、茂原ショッピングプラザアスモ内へ移転しました。

これは地方図書館の将来を考えるうえで興味深い例です。

従来の図書館は駅前のサンヴェルビルにありました。

移転先は商業施設です。

商業施設型図書館には、

  • 大きな駐車場
  • 買い物との組み合わせ
  • 子ども連れでの利用
  • 高齢者の利用
  • 建物の共同利用

などの利点があります。

特に自動車依存度の高い外房では、

「駅から近いこと」

だけがアクセスの良さとは限りません。


図書館とショッピングセンターの組み合わせは外房と相性がよい可能性がある

外房の生活では、

スーパー +ドラッグストア +飲食 +銀行ATM(Automated Teller Machine・現金自動預払機) +図書館

などを一度の移動で利用できれば、自動車移動の回数を減らせます。

高齢化地域ではこの効果は無視できません。

利用者移動負担を単純化すると、

生活サービス利用負担 =移動距離 ×訪問回数

と考えることができます。

複数サービスを一つの場所へ集約すれば、訪問回数を減らすことができます。

ただし、商業施設が将来撤退した場合のリスクも考えておかなければなりません。


図書館を新設すれば地域が活性化する、とは限らない

図書館をめぐっては、

「立派な図書館を作れば交流人口が増える」

という議論があります。

実際に全国には、図書館を中心とした複合施設で多数の来館者を集めている自治体があります。

しかし、

図書館建設 =地域活性化

ではありません。

図書館には、

  • 建設費
  • 賃借料
  • 職員費
  • 資料購入費
  • システム費
  • 光熱費
  • 修繕費

が必要です。

重要なのは建設時の来館者数ではなく、

20年、30年にわたり住民が使い続けられるか

です。


書店と図書館は競争相手なのか

「図書館で無料で本を借りられるから書店が売れなくなる」

という議論もあります。

しかし、両者の関係は単純ではありません。

図書館利用者は本への関心が高い人も多く、図書館で知った作家の本を購入することもあります。

一方でベストセラーを大量に貸し出せば、購入需要の一部と競合する可能性も否定できません。

したがって、

図書館 対 書店

という二者択一ではなく、

地域全体で本に触れる人口を維持する

という視点が重要です。


地方では書店と図書館の連携に意味がある

地方では、

図書館が地域書店から本を購入する

ことにも一定の意味があります。

図書館にとっては資料調達であり、地域書店にとっては売上になります。

また、

  • 図書館イベントで地域書店が販売
  • 地域作家の紹介
  • 郷土資料コーナー
  • 読書会
  • ビブリオバトル
  • 子どもの読み聞かせ

なども考えられます。

ただし、これによって地域書店の経営問題がすべて解決するわけではありません。

自治体図書館の年間購入額だけで一般書店を維持できるとは限らないからです。


電子書籍は地方の情報格差を小さくできる

地方にとって電子書籍には大きな利点があります。

物理的な距離がなくなるからです。

電子図書館なら、

自宅 ↓ インターネット ↓ 電子資料

という形で利用できます。

特に、

  • 自動車を運転できない人
  • 高齢者
  • 障害のある人
  • 山間部の住民

には意味があります。

千葉県立図書館でも電子書籍サービスが提供されており、2026年5月末時点で5,600点を超える電子資料が利用可能となっています。


ただし電子書籍ですべて解決するわけではない

電子書籍には限界があります。

すべての本が電子化されているわけではありません。

また、

  • スマートフォン
  • タブレット
  • インターネット
  • 利用者登録
  • 操作能力

が必要です。

高齢者の中には電子サービスを利用しにくい人もいます。

したがって、

電子書籍 =図書館不要

でも、

電子書籍 =書店不要

でもありません。


高齢化地域ほど「移動」が重要になる

外房では、この問題を読書だけで考えてはいけません。

今後、

免許返納 ↓ 自動車移動困難 ↓ 書店・図書館へ行けない

という問題が増える可能性があります。

特に、

店舗や図書館が10キロメートル離れている

場合、

自動車を持つ人には大きな問題でなくても、自動車を持たない人には非常に大きな距離になります。

したがって、

図書館アクセス =施設数

ではありません。

実際には、

図書館アクセス =距離 +交通手段 +開館時間 +身体条件

です。


今後の外房で大型書店が各町に増える可能性は高くない

人口動態と全国の書店数減少を考えると、

御宿町 大多喜町 長南町 長柄町 睦沢町 白子町

など人口規模の小さい自治体に、今後大型総合書店が次々と出店する可能性は高くないでしょう。

これは悲観論ではありません。

商圏規模から考えた経営上の問題です。

大型書店必要商圏 > 単独町村人口

となる場合、複数自治体を商圏として考える必要があります。


外房の書店は「生活圏単位」で考えた方がよい

今後の現実的な構造は、

茂原圏

茂原市を中心に長生郡から利用。

夷隅圏

いすみ市を中心とし、勝浦・御宿・大多喜にも地域書店が存在。

安房圏

館山・鴨川を主要な書籍購入拠点とする。

という形です。

行政区域ごとに大型店を置くよりも、

生活圏単位で一定規模の書店を維持する

方が現実的です。


一方、図書館はもう少し細かい配置が必要

書店と違って公共図書館には社会教育という役割があります。

したがって、

「人口が少ないから全部閉鎖して中心都市の図書館だけ利用すればよい」

とも言い切れません。

子どもや高齢者は自由に自動車で移動できないからです。

したがって外房では、

中心図書館 +地域図書室 +学校図書館 +図書館間貸借 +電子図書館

という構造が合理的です。


いすみ市方式は外房の一つの現実的モデルになり得る

2026年に始まったいすみ市の方式は興味深いものです。

大原に市立図書館を置き、

岬・夷隅には既存の公民館図書室を残す。

さらに、蔵書検索・予約を利用して近くの施設で受け取れるようにする。

これは、

すべての地域に大規模図書館を建設する

わけでも、

中央図書館だけに集約する

わけでもありません。

中央 +分散拠点

という方式です。

人口密度の低い自治体では合理性があります。


今後の図書館に必要なのは「本の倉庫」以上の役割

人口減少が進む地域で図書館を維持するには、

「本が並んでいる施設」

だけでは利用価値が弱くなる可能性があります。

今後は、

  • 読書
  • 学習
  • 調査
  • インターネット利用
  • 地域資料
  • 子育て
  • 高齢者の居場所
  • 市民活動

などを組み合わせる必要があります。

ただし、

何でも図書館に入れればよい

という意味ではありません。


図書館の役割を広げすぎる危険もある

図書館に、

観光 カフェ 交流 子育て イベント コワーキング

などをすべて求める議論があります。

しかし、本来の図書館機能が弱くなってしまえば本末転倒です。

図書館の基本機能は、

  • 資料収集
  • 保存
  • 貸出
  • 調査支援
  • 情報提供

です。

交流施設として人気があっても、必要な資料を探せないなら図書館として十分とはいえません。


今後、重要になるのは蔵書数より「アクセス可能資料数」

地方図書館では、今後この考え方が特に重要になります。

例えば小さな図書室に2万冊しかなくても、

県立図書館 +周辺市町村 +電子書籍

を利用できれば、実際に利用可能な資料ははるかに多くなります。

したがって、

地域読書資源 =自館蔵書 +相互貸借可能蔵書 +電子資料

として考える方が合理的です。

これは本記事での独自整理で、公式指標ではありません。


外房の書店と図書館を維持する現実的な5つの方向

1 地域中心都市の書店を維持する

各町に大型店を復活させるより、

茂原 いすみ 館山 鴨川

などの地域中心都市で一定規模の書店を維持する方が現実的です。


2 小規模書店は専門性を持つ

小規模店が大型店と品揃えだけで競争するのは難しくなっています。

そこで、

  • 地域本
  • 文芸
  • 子どもの本
  • 教科書
  • 学習参考書
  • 独立系出版物

など、地域ごとの特色を持つ方法があります。


3 図書館はネットワーク化する

単独施設ですべてを保有しようとせず、

県立図書館 +市町村図書館 +公民館図書室

を接続します。


4 電子資料を補完的に利用する

紙を廃止するのではなく、

紙 +電子

で利用機会を増やします。


5 図書館を生活動線の中へ置く

茂原市のような商業施設への配置は、その一つの方法です。

買い物と図書館利用を同時に行える場所は、自動車依存地域では一定の合理性があります。


現実性の低い主張

外房の書店・図書館問題について、次のような主張には注意が必要です。

「ネット通販があるから書店はいらない」

高齢者、子ども、地域文化、実際に本を見て選ぶ機能を無視しています。

「図書館があれば書店はいらない」

購入と貸出は役割が異なります。

「すべての町に大型書店を誘致すべきだ」

人口・商圏から成立しない可能性があります。

「立派な図書館を建てれば地域活性化する」

建設費だけでなく長期運営費を見る必要があります。

「電子図書館なら建物はいらない」

デジタル利用が難しい住民もいます。

「書店を補助金で支援すれば維持できる」

補助終了後の採算が必要です。


書店がなくなることには文化以外の問題もある

書店は文化施設として語られがちですが、経済的な側面もあります。

書店では、

「目的の本を買う」

だけではありません。

棚を見ることによって、

知らなかった本 ↓ 関心 ↓ 購入

という偶然の発見があります。

インターネットでは利用履歴に基づく推薦が中心になりやすいのに対し、書店では自分の関心外の本を偶然見る機会があります。

これは数値化しにくい価値です。

ただし、価値があることと、事業として黒字になることは別問題です。


図書館にも同じ問題がある

図書館についても、

社会的に必要 ≠ どの施設規模でも維持可能

です。

図書館の社会的価値と財政負担は両方を見る必要があります。

図書館の社会的便益を概念的に表すなら、

図書館便益 =資料利用価値 +学習機会 +情報格差縮小 +子どもの読書支援 +地域資料保存 +居場所機能 -運営費用

となります。

これも公式の計算式ではありません。

重要なのは、

「赤字だから不要」

でも、

「文化施設だから費用を考えなくてよい」

でもないということです。


外房の今後は「一つの大型施設」ではなく「ネットワーク」にある

外房は人口密度が低く、市町村が広く分散しています。

この地域条件を考えると、

大型書店1店 大型図書館1館

ですべてを解決するのは難しいでしょう。

現実的なのは、

地域書店 +市町村図書館 +公民館図書室 +学校図書館 +県立図書館 +電子書籍 +インターネット通販

を組み合わせることです。


現実的な結論~外房で本へのアクセスをどう残すか

外房の書店と図書館を調べると、二つの異なる流れが見えてきます。

民間書店については、全国的な店舗減少が続いています。

2025年度末には全国の登録書店数が1万店を下回りました。

人口減少が進む外房だけが、この流れから完全に逃れることは難しいでしょう。

今後は、

各自治体に大型書店を維持する構造から、茂原・いすみ・館山・鴨川など地域中心地の書店を周辺地域の住民も利用する構造

が一層強まる可能性があります。

一方、公共図書館では別の動きがあります。

茂原市では2025年に図書館を商業施設へ移転しました。

いすみ市では2026年7月に、市として初めて市立図書館が開館しました。

これは地方の読書環境が単純に縮小しているわけではなく、

施設の再配置とネットワーク化が進んでいる

ことを示しています。


外房の課題は「本がない」ことより「本まで到達できるか」である

今後、高齢化と人口減少が進む外房では、

蔵書が何冊あるか

だけでなく、

住民が実際にその本へ到達できるか

が重要になります。

本へのアクセスを阻害するものは、

本の不足だけではありません。

  • 距離
  • 自動車を運転できるか
  • 開館時間
  • インターネット利用能力
  • 身体状況

なども関係します。

したがって、今後の外房で必要なのは、

「豪華な図書館を作ること」

でも、

「町の本屋を昔の数まで復活させること」

でもありません。

より現実的なのは、

地域中心都市には持続可能な書店を残し、小規模自治体では図書館・図書室を維持しながら、県立図書館、周辺自治体、電子資料を結び、本へのアクセスを地域全体で保証すること

です。

書店の存在と図書館の存在を別々に考えるのではなく、

住民が「読みたい本を知り、探し、手に取ることができる仕組み」をどこまで維持できるか。

これが、人口減少が進む外房で書店と図書館の将来を考える際の、本質的な問題ではないでしょうか。

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地方のスーパーはなぜ撤退するのか~人口減少だけでは説明できない店舗経営の構造

地方のスーパーが閉店すると、「人口が減ったから仕方がない」と説明されることがあります。

確かに、商圏人口の減少は店舗経営に大きな影響を与えます。しかし、人口が減少している地域のスーパーがすべて撤退するわけではありません。反対に、人口が比較的維持されている地域でも、競争激化、人手不足、建物の老朽化、物流費の上昇などを理由に店舗が閉鎖されることがあります。

地方スーパーの撤退は、人口だけでなく、次の要素が重なって起こります。

  • 商圏内の人口と世帯数
  • 高齢化と1世帯当たりの購入量
  • 来店客数と客単価
  • 競合店との距離
  • ドラッグストアやコンビニエンスストアとの競争
  • 人件費と採用難
  • 電気料金と冷蔵・冷凍設備の維持費
  • 商品配送にかかる物流費
  • 生鮮食品や総菜の値引き・廃棄
  • 建物や設備の更新費
  • 本部が店舗に求める収益水準
  • 店舗網全体の再編方針

つまり、地方スーパーの撤退は、単純な「人口減少の結果」ではありません。

人口減少によって売上の上限が下がる一方で、人件費、電気料金、物流費、設備更新費などの固定的な負担が下がりにくくなり、最終的に必要な利益を確保できなくなる問題です。

最初に結論

地方スーパーが撤退する最大の構造的理由は、次の関係にあります。

店舗利益 =売上高 -商品仕入原価 -人件費 -電気・燃料費 -物流費 -建物・設備費 -廃棄・値引き損失 -その他の経費

人口が減少すると、店舗の売上高は減少しやすくなります。

しかし、売上が10%減少しても、従業員数、冷蔵設備、照明、配送回数、建物面積などを同じ10%だけ減らせるとは限りません。営業を続けるために必要な最低限の費用が残るからです。

さらに、近年は食品価格の上昇によって売上高が増えていても、販売数量や利益まで増えているとは限りません。

経済産業省の商業動態統計によると、2025年のスーパー販売額は前年比4.7%増加し、1店舗当たり販売額と店舗数も増加しました。しかし、これは全国集計です。都市部の新規出店や大型店の成長を含むため、人口減少地域にある個別店舗の経営改善を示すものではありません。

したがって、地方スーパーの問題を理解するには、

「全国のスーパー市場が成長しているか」

ではなく、

「その店舗の商圏で、必要な来店客数と粗利益を確保できているか」

を見る必要があります。

スーパーの売上は何で決まるのか

スーパーの売上高は、概念的には次のように分解できます。

売上高 =1日当たり来店客数 ×1人当たり購入額 ×営業日数

例えば、1日1,500人が来店し、1人当たり2,000円購入する店舗では、1日の売上高は約300万円です。

ところが、来店客数が1,200人に減少すると、客単価が変わらなければ売上高は約240万円となります。

1日当たりの差は60万円です。

年間360日営業すると仮定すれば、単純計算では年間約2億1,600万円の売上差になります。

実際には、値上げによって客単価が上昇したり、営業時間や品ぞろえを変更したりするため、売上高がこのまま減少するとは限りません。しかし、客数の減少が長期間続けば、店舗の採算を維持することは難しくなります。

全国スーパーマーケット協会の2025年版白書では、2024年の年次統計調査における中央値として、平日の1日客数が1,675人、客単価が2,191円、土日祝日の1日客数が1,800人、客単価が2,555円と示されています。これらは全国の調査対象店舗の中央値であり、地方の小規模店舗にそのまま当てはめることはできませんが、スーパーが相当数の来店客を前提にした事業であることは分かります。

人口減少だけでは不十分な理由

人口と来店客数は同じ割合では減らない

商圏人口が10%減少したからといって、店舗の来店客数が必ず10%減るわけではありません。

競合店が閉店すれば、残った店舗に利用者が集中することがあります。反対に、新しいドラッグストアや大型店が開業すれば、人口が変わらなくても来店客数が減ることがあります。

来店客数は、おおむね次の要素によって決まります。

来店客数 =商圏人口 ×来店可能率 ×店舗選択率 ×来店頻度

商圏人口が維持されていても、自動車で別の市町村に買い物へ行く人が増えれば、地元店舗の店舗選択率は下がります。

人口が減少していても、競合店が少なく、地域住民から支持されている店舗なら、一定の利用者を確保できる可能性があります。

高齢化すればスーパーの需要が増えるとは限らない

高齢者は食料品を必要とするため、高齢化地域でもスーパーの需要はなくなりません。

一方で、高齢化によって次の変化が起こることがあります。

  • 1世帯当たりの人数が減る
  • 1回当たりの購入量が減る
  • 自動車を運転できない人が増える
  • 重い商品を持ち帰りにくくなる
  • 店舗までの移動回数が減る
  • 宅配、生協、移動販売へ移行する
  • 調理済み食品の需要が増える
  • 少量商品への需要が増える

高齢者世帯が増えると、総菜や少量包装への需要は高まる可能性があります。しかし、少量包装は包装、加工、品出しなどの手間が相対的に大きくなることがあります。

したがって、高齢化は単なる需要減少ではなく、需要内容の変化として捉える必要があります。

全国売上の増加と地方店舗の撤退は矛盾しない

全国のスーパー販売額が増えているのに、なぜ地方のスーパーは閉店するのでしょうか。

この二つは矛盾しません。

全国の販売額は、次の要因でも増加します。

  • 食品価格の上昇
  • 都市部への新規出店
  • 大型店舗の増加
  • 高付加価値商品の販売
  • 総菜や冷凍食品の需要増加
  • 一部企業への売上集中
  • 店舗統合後の大型店への顧客集中

仮に販売数量が変わらなくても、平均価格が5%上がれば、名目上の売上高は約5%増えます。

しかし、仕入価格も上昇していれば、店舗の利益が同じ割合で増えるわけではありません。

重要なのは売上高そのものではなく、粗利益です。

粗利益 =売上高 -商品仕入原価

さらに、店舗が最終的に残せる利益は、粗利益から人件費、電気料金、物流費、設備費などを差し引いた金額です。

売上高が増えていても、費用の増加がそれを上回れば、店舗の利益は減少します。

原因1~商圏人口と世帯構成の変化

地方スーパーにとって、人口減少は売上の上限を下げる要因です。

特に影響が大きいのは、単なる人口総数ではなく、店舗周辺の商圏人口です。

同じ市町村の中でも、人口が比較的集まる中心部と、住宅が分散する周辺部では店舗経営の条件が異なります。

例えば、市町村全体の人口が2万人であっても、住民が広い範囲に分散していれば、店舗までの移動距離が長くなります。住民が隣接自治体の大型店を利用している場合、市町村人口のすべてが地元店舗の顧客になるわけではありません。

また、人口が同じでも、世帯構成によって食品需要は変わります。

  • 子育て世帯が多い地域
  • 単身高齢者が多い地域
  • 観光客が多い地域
  • 別荘や二地域居住が多い地域
  • 昼間人口が多い地域
  • 通勤によって昼間人口が減る地域

これらでは、来店時間、購入量、需要商品が異なります。

地方店舗を分析するときは、市町村人口だけではなく、店舗から一定時間で到達できる範囲の人口、世帯数、年齢構成、昼間人口、競合店舗を確認する必要があります。

原因2~ドラッグストアとの競争

近年、地方の食品スーパーにとって大きな競争相手になっているのがドラッグストアです。

ドラッグストアは医薬品、化粧品、日用品だけでなく、飲料、菓子、調味料、冷凍食品、牛乳、卵などを販売する店舗が増えています。

2025年の経済産業省の統計では、ドラッグストア販売額が前年比5.5%増加し、食品や調剤医薬品などが増加要因となりました。

ドラッグストアは、医薬品や化粧品など食品以外の商品からも利益を得られます。そのため、一部の食品を低価格で販売し、来店を促す戦略を取ることができます。

これに対して、食品スーパーは、生鮮食品や総菜の売上比率が高く、鮮度管理、加工、値引き、廃棄などの負担があります。

ドラッグストアが地域に出店すると、住民が食品をすべて移行するわけではありません。しかし、牛乳、飲料、菓子、冷凍食品、調味料など、保存しやすい商品がドラッグストアへ流れる可能性があります。

その結果、スーパーには管理が難しい生鮮食品や総菜の販売負担が残り、利益を得やすい商品の売上が減ることがあります。

原因3~大型店と地域外店舗への顧客流出

地方では、自動車を使って買い物をする世帯が多いため、行政区域の境界は必ずしも商圏の境界になりません。

住民は、町内の店舗よりも、

  • 品ぞろえが多い
  • 価格が安い
  • 駐車場が広い
  • 他の店舗と一緒に利用できる
  • 飲食店や医療機関にも立ち寄れる

といった条件を持つ近隣都市の大型店を選ぶことがあります。

道路が整備され、移動時間が短くなることは住民にとって便利です。一方、地元店舗にとっては、商圏外への顧客流出を促す場合があります。

このため、交通利便性の向上が、必ずしも地元商業の維持につながるわけではありません。

道路整備によって、地域外から顧客を呼び込める店舗もありますが、品ぞろえや価格で劣る店舗では、逆に顧客が外へ流出する可能性があります。

原因4~人手不足と人件費

スーパーは、多くの作業を人に依存しています。

主な業務には、次があります。

  • 商品の荷受け
  • 品出し
  • 発注
  • 在庫管理
  • レジ対応
  • 生鮮食品の加工
  • 総菜調理
  • 清掃
  • 値引き
  • 廃棄処理
  • 衛生管理
  • 売場変更
  • 顧客対応

セルフレジや自動発注を導入しても、すべての作業を無人化できるわけではありません。

全国スーパーマーケット協会の調査では、人手不足への採用対策に取り組む企業の割合が高く、2023年調査では採用活動に関する人手不足対策の実施率が98.1%でした。また、同調査では、同じ売場面積区分でも、都市圏店舗の従業員1人当たり年間売上高が地方圏を上回る傾向が示されています。

これは、地方店舗では従業員1人当たりの売上を確保しにくい可能性を示します。ただし、調査対象や店舗規模による違いがあるため、すべての地方店舗に当てはまるとは限りません。

地方では若年人口が少なく、早朝、夕方、土日、祝日に働ける人材を確保しにくい場合があります。

人手が不足すると、店舗は次の対応を迫られます。

  • 営業時間を短縮する
  • 売場面積を縮小する
  • 加工商品を減らす
  • 総菜の種類を減らす
  • レジを減らす
  • 本部や他店から応援を出す
  • 時給を引き上げる
  • 省力化設備を導入する

しかし、省力化設備には初期投資と維持費が必要です。小規模店舗では、投資額を回収できないこともあります。

原因5~電気料金と冷蔵・冷凍設備

スーパーは、一般の小売店と比べて、冷蔵・冷凍設備を長時間稼働させる必要があります。

冷蔵ケース、冷凍ケース、バックヤードの冷蔵庫、冷凍庫、空調、照明、調理設備などが必要です。

電気料金は、単純な使用量だけでなく、契約電力、燃料費、託送料金、再生可能エネルギー発電促進賦課金などの影響を受けます。資源エネルギー庁によると、自由化後の電気料金には、発電・調達費、人件費などのほか、送配電網の利用料金である託送料金や各種公租公課などが含まれます。

店舗の売上が減っても、食品を安全に保存するために冷蔵・冷凍設備を停止することはできません。

営業時間を短縮しても、冷蔵設備は閉店中も動かす必要があります。

そのため、来店客数が少ない店舗ほど、1人の顧客または1円の売上に対する電力費の割合が高くなりやすい構造があります。

原因6~地方物流の非効率性

スーパーでは、商品を継続的に配送する必要があります。

特に、生鮮食品、牛乳、豆腐、総菜材料などは、在庫を長期間持ちにくいため、一定の配送頻度が必要です。

物流費は、次の要素から構成されます。

物流費 =車両費 +燃料費 +運転者の人件費 +荷役費 +物流施設費 +配送管理費

人口密度が低い地域では、1回の配送で納品できる商品量が少なくなることがあります。

都市部であれば、短い距離で複数店舗へ配送できます。地方では店舗間の距離が長く、1店舗当たりの配送量も少ないため、商品1個当たりの物流費が高くなりやすくなります。

チェーン全体で見れば、遠隔地にある売上規模の小さい店舗を維持するために、専用の配送経路や長距離輸送が必要になることがあります。

店舗自体がわずかに黒字でも、物流網全体の効率を考えると、閉店や店舗統合が選ばれる場合があります。

原因7~生鮮食品と総菜の廃棄・値引き

食品スーパーは、生鮮食品や総菜を扱うことで、コンビニエンスストアやドラッグストアとの差別化を図っています。

一方、生鮮食品や総菜には、売れ残りの問題があります。

需要を正確に予測できなければ、次のどちらかが起こります。

  • 商品が足りず、販売機会を失う
  • 商品が余り、値引きや廃棄が増える

人口が少ない地域や、曜日・天候・観光客数による変動が大きい地域では、需要予測が難しくなる場合があります。

農林水産省によると、2024年度の事業系食品ロスは237万トンで、このうち食品小売業は48万トンでした。これはスーパーだけの数字ではありませんが、食品小売業全体で、売れ残りなどによる食品ロスが一定規模存在することを示します。

売れ残った商品を値引き販売すれば、廃棄量は減らせます。しかし、値引きによって粗利益は小さくなります。

また、値引き時刻が固定化すると、消費者が値引きを待つようになり、通常価格での販売が減る可能性もあります。

重要なのは、廃棄をゼロにすることではなく、欠品による機会損失と、過剰在庫による値引き・廃棄損失の合計を小さくすることです。

原因8~店舗と設備の老朽化

地方スーパーの撤退理由として見落とされやすいのが、建物と設備の更新問題です。

営業を継続するには、次の設備を更新する必要があります。

  • 冷蔵・冷凍ケース
  • 空調設備
  • 照明
  • レジシステム
  • 発注・在庫管理システム
  • 厨房設備
  • 防火設備
  • 給排水設備
  • 屋根・外壁
  • 駐車場舗装
  • 看板
  • 非常用電源
  • バリアフリー設備

日常の営業では利益が出ていても、数億円規模の改装や建て替えが必要になれば、企業は将来の投資回収可能性を検討します。

投資回収年数は、概念的には次のように表せます。

投資回収年数 =更新投資額 ÷更新後の年間利益増加額

例えば、改装に3億円必要で、改装による年間利益の増加が2,000万円と見込まれる場合、単純な回収年数は15年です。

しかし、商圏人口が今後も減少すると予測される地域では、15年間にわたって利益を維持できる保証はありません。

そのため、現在赤字だから閉店するのではなく、次の更新投資を回収できないため閉店することがあります。

原因9~賃貸借契約と土地・建物の問題

店舗が自社所有ではなく賃借物件の場合、契約更新や賃料改定が閉店の契機になることがあります。

また、店舗建物の所有者と運営会社が異なる場合、運営会社が営業継続を希望しても、建物所有者が建て替えや売却を選ぶ可能性があります。

一方、自社所有店舗であっても、建物の維持費、固定資産税、解体費、跡地利用などを含めて判断されます。

閉店理由が「契約満了」「諸般の事情」としか公表されない場合、公開情報だけで採算悪化を断定することはできません。

原因10~チェーン全体の店舗再編

チェーン店では、個別店舗だけでなく、企業全体の資本効率によって存廃が決まります。

本部は、限られた人材と資金を、より成長性の高い店舗に配分しようとします。

例えば、ある地方店舗がわずかに黒字でも、その店舗を閉じて、従業員や設備投資資金を都市部の大型店へ移した方が利益を増やせると判断される場合があります。

企業が比較するのは、単なる黒字・赤字ではありません。

  • 売上高営業利益率
  • 投下資本利益率
  • 改装投資の回収期間
  • 店舗当たり売上高
  • 従業員1人当たり売上高
  • 売場面積当たり売上高
  • 将来の商圏人口
  • 競合店の出店計画
  • 物流網との位置関係

このため、利用者が多いと感じている店舗でも、本部の基準を満たさず閉店することがあります。

小さな店舗ほど維持しやすいとは限らない

売場面積を小さくすれば、家賃や電気料金を抑えられる可能性があります。

しかし、小規模店舗には別の不利があります。

  • 大量仕入れの効果が小さい
  • 商品数を確保しにくい
  • 1人の欠勤の影響が大きい
  • 店長や管理者の費用を分散しにくい
  • 設備投資を売上で回収しにくい
  • 配送1回当たりの商品量が少ない
  • 値引き・廃棄を吸収しにくい

全国スーパーマーケット協会の2023年調査では、売場面積800平方メートル未満の店舗は、従業員1人当たり年間売上高が他の面積区分よりやや低い傾向が示されました。

小型化は有力な対応策ですが、単に店舗を小さくすれば採算が改善するとは限りません。

観光客が多ければ維持できるのか

外房のような観光地域では、夏季、週末、連休に来訪者が増えます。

観光需要はスーパーの売上を支える可能性があります。飲料、酒類、総菜、肉、魚、氷、行楽用品などの需要が増えるためです。

一方で、観光需要には次の問題があります。

  • 季節変動が大きい
  • 天候に左右される
  • 平日の売上を支えにくい
  • 繁忙期だけ人員を増やす必要がある
  • 需要予測を外すと廃棄が増える
  • 観光客が地域外の大型店で購入してから来訪することがある

年間数日や数週間の繁忙期だけでは、年間を通した固定費を支えられないことがあります。

観光客数だけでなく、地域内で実際に食料品を購入する割合と、年間を通した売上への寄与を確認する必要があります。

競合店がなくなれば残った店舗は安泰なのか

競合店の閉店は、残った店舗に顧客が集中する効果を持ちます。

しかし、競合店がないことが、必ずしも店舗の存続を保証するわけではありません。

地域全体の需要が、店舗を維持する最低水準を下回っていれば、独占状態でも採算を確保できないことがあります。

また、競合店がなくなった後に価格を大幅に上げれば、住民が遠方の大型店、宅配、インターネット通販へ移行する可能性があります。

スーパーには、地域内の競争だけでなく、地域外店舗や異業態との競争があります。

ネットスーパーは代替になるのか

ネットスーパーや食品宅配は、店舗まで移動できない人にとって有効な手段です。

しかし、地方では次の制約があります。

  • 配達区域外となる
  • 配達時間を指定しにくい
  • 配送料がかかる
  • 最低注文額が設定される
  • 当日配送に対応しない
  • 生鮮食品を自分で選べない
  • インターネット操作が必要になる
  • クレジットカードなど支払方法が限られる
  • 欠品時に代替商品を選びにくい

配送密度が低い地域では、1件当たりの配送費が高くなります。

ネットスーパーも、店舗型スーパーと同じように、需要密度の問題から逃れられません。

移動販売は撤退後の解決策になるのか

移動販売は、店舗へ行けない住民に商品を届ける有力な手段です。

一方、移動販売車には、次の費用がかかります。

移動販売の利益 =商品販売額 -商品仕入原価 -車両費 -燃料費 -人件費 -保冷設備費 -決済費用 -売れ残り損失

集落が分散している地域では、移動時間が長くなり、1時間当たりに対応できる利用者数が少なくなります。

利用者にとって必要性が高くても、事業者にとって採算が合うとは限りません。

そのため、移動販売を持続させるには、

  • 既存店舗との連携
  • 福祉サービスとの共同運行
  • 自治体による運行支援
  • 複数地区を組み合わせた巡回
  • 注文予約による廃棄削減
  • 高齢者見守りとの複合化

などが必要になることがあります。

ただし、補助金によって開始できても、運転者、車両更新、利用者数を長期間確保できなければ継続できません。

スーパー撤退が住民生活に与える影響

スーパーの閉店は、単なる店舗数の減少ではありません。

買い物距離が延びる

近隣店舗がなくなると、住民は遠方の店舗へ移動する必要があります。

自動車を運転できる人にとっては、数キロメートルの増加で済む場合があります。しかし、運転できない人には大きな影響があります。

食品価格以外の負担が増える

遠方の店舗が安くても、交通費と時間を含めると必ずしも安いとは限りません。

実質的な買い物費用 =商品代金 +燃料費・運賃 +配送料 +移動時間 +家族の送迎負担

商品の店頭価格だけでは、住民の負担を評価できません。

生鮮食品を買う頻度が下がる

買い物回数が減ると、保存しやすい食品の購入が増える可能性があります。

冷凍食品、加工食品、菓子、レトルト食品が直ちに健康へ悪影響を与えるとは限りません。しかし、生鮮食品を選択できる機会が減ることは、食生活の多様性に影響する可能性があります。

農林水産省は、食料品店の減少や高齢化により、高齢者を中心に買い物へ不便や苦労を感じる人が増えている問題を「食料品アクセス問題」と位置づけています。

家族の送迎負担が増える

本人が運転できない場合、家族が買い物を代行したり、店舗へ送迎したりする必要があります。

この負担は、統計上の買い物費用には表れにくいものです。

食料品アクセス困難人口という考え方

農林水産政策研究所は、食料品アクセス困難人口を、

「店舗まで500メートル以上離れ、自動車の利用が困難な65歳以上の高齢者」

として推計しています。

対象店舗には、生鮮食品店、百貨店、総合スーパー、食料品スーパー、コンビニエンスストア、ドラッグストアなどが含まれます。

ただし、この定義には注意が必要です。

500メートル以内にコンビニエンスストアがあれば、統計上はアクセス困難者に含まれない場合があります。しかし、コンビニエンスストアで、価格、品ぞろえ、容量を含めてスーパーと同等の買い物ができるとは限りません。

また、自動車を保有していても、本人が安全に運転できるとは限りません。

したがって、地域の買い物環境を評価するときは、500メートルという距離だけでなく、

  • 実際の道路距離
  • 坂道や歩道
  • 商品の品ぞろえ
  • 店舗価格
  • 荷物を運べるか
  • バスの運行本数
  • 家族の支援
  • 配達サービスの有無

まで確認する必要があります。

スーパーが残りやすい条件

地方でも、次の条件がそろえばスーパーを維持しやすくなります。

  • 一定範囲に人口が集中している
  • 競合店との差別化ができている
  • 地域外からも顧客を集められる
  • 幹線道路から入りやすい
  • 十分な駐車場がある
  • 生鮮食品や総菜に支持がある
  • 店舗規模が需要に合っている
  • 物流拠点から遠すぎない
  • 従業員を確保できる
  • 建物や設備が比較的新しい
  • 観光需要が年間売上に寄与する
  • 他店舗との配送効率が良い
  • 地域住民が継続的に利用する

特に重要なのは、商圏人口の総数だけでなく、一定時間内に来店できる顧客がどの程度いるかです。

スーパーが残りにくい条件

次の条件が重なる店舗は、存続が難しくなります。

  • 商圏人口が減少している
  • 住宅が広範囲に分散している
  • 高齢化により来店頻度が低下している
  • 近隣都市の大型店へ顧客が流出している
  • ドラッグストアとの価格競争が激しい
  • 人材を確保できない
  • 冷蔵・冷凍設備が老朽化している
  • 大規模な改装が必要である
  • 配送距離が長い
  • 売上の季節変動が大きい
  • 生鮮食品の廃棄率が高い
  • 店舗面積が需要に対して大きすぎる
  • 本部の店舗再編対象になっている

一つの条件だけで閉店が決まるとは限りません。

複数の問題が同時に発生し、更新投資の時期や契約満了をきっかけに閉店する場合が多いと考えられます。

スーパーを補助金で維持すべきか

スーパーは民間企業ですが、地方では生活インフラに近い役割を持ちます。

特に、代替店舗が遠く、自動車を運転できない住民が多い地域では、店舗の閉鎖が生活維持に直接影響します。

ただし、特定店舗へ恒常的に公費を投入する場合は、次を検討する必要があります。

  • 支援しなければ本当に撤退するのか
  • 支援額はいくらか
  • 何年間維持できるのか
  • 対象住民は何人か
  • 1人当たりの公費負担はいくらか
  • 移動販売や宅配より効率的か
  • 競合企業との公平性を保てるか
  • 店舗の経営改善策があるか
  • 経営情報をどこまで確認できるか
  • 支援終了後に存続できるか

例えば、年間3,000万円の公費を投入して、実質的な利用者が1,000人なら、単純計算で利用者1人当たり年間3万円です。

この金額が高いか安いかは、代替手段の費用と比較しなければ判断できません。

店舗維持、移動販売、買い物バス、タクシー助成、宅配支援などを同じ基準で比較する必要があります。

現実性の低い主張

人口を増やせばスーパーを維持できる

人口増加は需要を増やす可能性があります。

しかし、店舗維持に必要な規模の人口を短期間で増やすことは容易ではありません。また、移住者が必ず地元店舗を利用するとは限りません。

道の駅があれば代替できる

道の駅は農産物や地域商品を購入する場所として有効です。

しかし、肉、魚、加工食品、日用品、医薬品など、日常生活に必要な商品をすべて安定的に供給できるとは限りません。

コンビニエンスストアがあれば問題ない

コンビニエンスストアは、営業時間や立地の面で重要です。

一方、価格、容量、生鮮食品、日用品の品ぞろえでは、スーパーと同じ役割を果たせない場合があります。

ネットスーパーですべて解決できる

配達区域、配送料、注文方法、決済方法、物流採算などの制約があります。

自治体が運営すればよい

自治体が店舗を直接または間接的に支える場合でも、仕入れ、在庫管理、食品衛生、人材確保、廃棄、設備更新などの経営課題は残ります。

民間店舗の赤字が、公営化によって自動的に消えるわけではありません。

地方で現実的に取り得る対応

地域全体の生活を維持するには、スーパー1店舗を無条件に残すことだけが選択肢ではありません。

現実的には、複数の手段を組み合わせる必要があります。

店舗の小型化

需要に合わせて売場面積や商品数を縮小します。

ただし、小型化による売上減と固定費削減の効果を比較する必要があります。

営業時間の見直し

利用者が少ない時間帯を短縮し、人件費や照明・空調費を抑えます。

冷蔵設備の電力費は残るため、営業時間短縮だけで大幅な改善ができるとは限りません。

予約販売と受け取り拠点

事前注文によって需要を把握し、廃棄を減らします。

電話注文を併用すれば、インターネットを利用しない高齢者にも対応できます。

移動販売との併用

店舗を商品供給拠点とし、周辺集落へ移動販売車を運行します。

店舗単独と移動販売単独ではなく、在庫と人員を共有する方法です。

医療・介護・交通との連携

通院バス、デマンド交通、福祉サービスなどと買い物機会を組み合わせます。

ただし、目的外利用や運行制度上の制約を確認する必要があります。

複合店舗化

食品、日用品、行政手続、金融、宅配受け取り、地域交流などをまとめます。

複数の需要を集約することで、来店頻度を高められる可能性があります。

一方、業務が複雑になり、必要な人材や設備が増える可能性もあります。

自治体が確認すべきこと

自治体は、店舗の閉店が発表されてから対応するのではなく、地域の買い物環境を定期的に把握する必要があります。

確認項目としては、次が考えられます。

  • 食料品を扱う店舗の所在地
  • 地区別の人口と高齢化率
  • 店舗までの道路距離
  • 自動車を運転できない住民数
  • 路線バスとデマンド交通
  • 移動販売の曜日と区域
  • 生協・宅配・ネットスーパーの区域
  • タクシー料金
  • 家族送迎の実態
  • 店舗閉鎖時の代替店舗
  • 災害時の食料供給拠点
  • 小売・物流分野の人材確保状況

特に重要なのは、現在の店舗が閉店した場合に、次の店舗までの距離と時間がどれだけ増えるかを事前に把握することです。

住民が住宅購入・移住前に確認すべきこと

地方への移住や住宅購入では、現在スーパーがあるかだけでなく、次を確認する必要があります。

  1. 最寄りのスーパーまでの実際の道路距離
  2. 自動車を運転できなくなった場合の移動手段
  3. 第二候補のスーパーまでの距離
  4. 生協・宅配・ネットスーパーの配達区域
  5. 移動販売の運行日
  6. コンビニエンスストアとドラッグストアの品ぞろえ
  7. 冬季・荒天時の移動条件
  8. 家族に買い物を頼めるか
  9. 店舗が閉店した場合の代替手段
  10. 10年後、20年後も生活を維持できるか

現在自動車を運転できる人でも、将来の免許返納や健康状態の変化を考える必要があります。

公開資料から確認できないこと

個別店舗については、次の情報が通常公開されません。

  • 店舗単独の売上高
  • 店舗単独の営業利益
  • 廃棄率
  • 人件費率
  • 賃料
  • 電気料金
  • 設備更新額
  • 本部の撤退基準
  • 契約条件
  • 今後の閉店計画

したがって、客が少なく見える、建物が古い、競合店ができたという情報だけで、閉店の可能性を断定することはできません。

閉店理由が企業から明示されていない場合は、「人口減少が原因」「赤字店舗だった」などと断定すべきではありません。

現実的な結論

地方スーパーが撤退する理由は、人口減少だけでは説明できません。

人口減少は、店舗の売上上限を下げる重要な要因です。しかし、撤退を直接決めるのは、売上に対して人件費、物流費、電気料金、廃棄損失、設備更新費などを負担し、企業が必要とする利益を確保できるかどうかです。

全国のスーパー販売額が増加していても、地方の個別店舗が安定しているとは限りません。

食品価格の上昇によって名目売上が増えても、仕入価格や各種費用が増えれば、利益は改善しない可能性があります。

また、店舗が現在黒字でも、老朽設備の更新投資を将来の商圏人口から回収できないと判断されれば、閉店することがあります。

地方スーパーを生活インフラとして維持するには、単に「住民が必要としている」と訴えるだけでは足りません。

誰が利用するのか。 1日に何人が来店するのか。 1人がいくら購入するのか。 商品を誰が運ぶのか。 従業員を確保できるのか。 設備更新にいくら必要なのか。 赤字を誰が何年間負担するのか。

これらを具体的に検証する必要があります。

スーパーを残すことが最も合理的な地域もあれば、小型店舗、移動販売、宅配、交通支援を組み合わせた方が現実的な地域もあります。

重要なのは、すべての店舗を一律に残すことでも、市場原理だけに任せることでもありません。

地域ごとに、必要な食料供給機能を定め、その機能を最も持続可能な方法で維持することです。

データ利用上の注意

本記事で使用した販売額や店舗数は、全国または業界全体の統計です。

個別の地方店舗の売上、利益、閉店理由を直接示すものではありません。

また、経済産業省の商業動態統計は、2025年1月分に2021年経済センサス~活動調査を基礎とする水準調整が行われており、2024年12月以前の販売額との間に不連続がある点に注意が必要です。

地域や個別店舗を分析する場合は、国勢調査、住民基本台帳、経済センサス、企業の公式発表、自治体資料、交通情報などを組み合わせて判断する必要があります。

主な参考資料

  • 経済産業省「商業動態統計」
  • 経済産業省「2025年小売業販売を振り返る」
  • 全国スーパーマーケット協会「2025年版スーパーマーケット白書」
  • 全国スーパーマーケット協会「スーパーマーケット年次統計調査」
  • 農林水産省「食品アクセス問題の現状」
  • 農林水産政策研究所「食料品アクセスマップ」
  • 農林水産省「事業系食品ロス量(2024年度推計値)」
  • 資源エネルギー庁「電気料金の仕組み」
  • 総務省統計局「人口推計」

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はじめに

日本では、少子高齢化と人口減少が進む一方、年金、医療、介護、子育て支援など、社会保障の充実を求める声が強まっています。

そのなかで、しばしば次のような主張が示されます。

「外国人や移民を受け入れなければ、社会保障制度は維持できない」

反対に、

「移民を受け入れると、社会保障費が増え、かえって国民負担が重くなる」

という主張もあります。

この二つは、どちらも一部の条件では成立する可能性があります。しかし、どちらか一方を無条件に正しいと考えることはできません。

移民受入れと社会保障の関係は、単純な人数ではなく、受け入れる人の年齢、就業率、賃金、滞在期間、家族構成、社会保険への加入状況、将来の定住率などによって大きく変わるからです。

本記事では、移民や外国人労働者の受入れを政治的な賛否からではなく、人口、財政、労働市場、社会保障の収支という観点から冷静に検証します。

最初に結論

移民を拒否することと、社会保障を充実させることは、完全な意味での二者択一ではありません。

日本人の就業率向上、生産性向上、賃金上昇、社会保障制度改革、負担増、給付の重点化などによって、移民受入れを抑えながら社会保障を維持する道は理論上存在します。

ただし、移民受入れを大幅に抑制したまま、現在以上の社会保障給付を維持・拡大し、国民負担も増やさず、経済規模も維持するという組合せは、人口構造上かなり困難です。

一方で、移民を増やせば自動的に社会保障が安定するわけでもありません。

外国人労働者の就業率や賃金が低ければ、税・社会保険料収入は限定されます。教育、住宅、行政、日本語教育、医療、子育てなどの費用も必要です。また、若年期に受け入れた人も、長期定住すれば将来は高齢者になります。

したがって、現実的な結論は次のようになります。

移民受入れは、社会保障財政を一定期間支える手段にはなり得ますが、社会保障問題を単独で解決する方法ではありません。

問題の本質は、外国人を受け入れるか拒否するかだけではなく、

「誰が働き、どれだけ所得を得て、どれだけ税・社会保険料を負担し、どの給付を受けるか」

という人口と所得の構造にあります。

「移民拒否」という言葉の範囲を整理する

日本では、「移民」という言葉が明確に定義されないまま議論されることが少なくありません。

一時的な外国人労働者、技能実習生、留学生、専門職、永住者、家族帯同者、難民などは、滞在目的も期間も異なります。

社会保障への影響を分析する場合、少なくとも次の区分が必要です。

  • 数年間働いて帰国する外国人労働者
  • 長期間働き、永住する外国人
  • 配偶者や子どもを伴って定住する世帯
  • 高度専門職や高所得労働者
  • 低賃金分野で働く労働者
  • 人道上の理由から受け入れる難民
  • 留学生や家族滞在者

例えば、20代の単身労働者が数年間働く場合、社会保険料を支払う一方、高齢者医療や介護の利用は通常少なくなります。

一方、家族を伴って定住する場合は、子どもの教育や医療、住宅、地域行政などの費用も発生します。その後、高齢化すれば年金、医療、介護の受給者にもなります。

したがって、「外国人1人当たりの収支」という単純な数字だけでは、長期的な影響を評価できません。

日本の人口構造はどこまで厳しいのか

国立社会保障・人口問題研究所の「日本の将来推計人口(令和5年推計)」では、出生中位・死亡中位の推計において、日本の総人口は2020年の1億2,615万人から、2070年には8,700万人まで減少すると見込まれています。

同じ推計では、65歳以上人口の割合は2020年の28.6%から、2070年には38.7%へ上昇します。外国人の入国超過については、2040年の長期的な投影水準を年間約16万4,000人と置いていますが、それでも人口減少と高齢化は止まりません。

ここで重要なのは、外国人を一定数受け入れることを前提にした公的推計でも、日本の総人口は減少し、高齢化率は上昇するという点です。

つまり、現在想定されている程度の外国人流入では、人口減少を緩和する効果はあっても、人口構造を根本的に逆転させるほどの効果はありません。

また、日本人人口だけを対象とした参考推計では、2070年の人口は7,761万人、高齢化率は40.9%とされています。外国人を含む基本推計より人口が少なく、高齢化率も高くなります。

この差から、外国人流入には人口減少と高齢化を一定程度緩和する効果があることが分かります。ただし、その効果は問題を解消するほど大きくはありません。

社会保障財政を決める基本構造

社会保障の収支は、おおむね次のように整理できます。

社会保障の収支 =税収+社会保険料収入 -年金給付 -医療給付 -介護給付 -子育て・福祉給付 -制度運営費

さらに、税収と社会保険料収入は、次の要素に左右されます。

税・社会保険料収入 =働く人の数 ×就業率 ×平均所得 ×実効負担率

したがって、社会保障を維持するために重要なのは、人口の総数だけではありません。

  • 働く年齢の人が何人いるか
  • 実際に何人が就業しているか
  • どれだけの所得を得ているか
  • 所得からどれだけ税・保険料を納めるか
  • どれだけ給付を受けるか

が重要です。

仮に働く人が増えても、賃金が低ければ税・社会保険料収入はあまり増えません。

反対に、労働者数が多少減っても、生産性と賃金が上昇すれば、一定の税・保険料収入を維持できる可能性があります。

これが、移民の人数だけで社会保障の持続可能性を判断できない理由です。

日本の社会保障費はすでに大きい

厚生労働省によれば、2026年度予算ベースの社会保障給付費は144.1兆円で、国内総生産に対する割合は20.8%です。社会保障財源には保険料だけでなく、多額の公費が投入されています。

社会保障の負担は、現役世代の保険料だけで完結しているわけではありません。

国や地方自治体の税収、公債による財源、事業主負担なども含めて制度が支えられています。

例えば、後期高齢者医療では、窓口負担を除いた医療費の約4割が、現役世代が負担する支援金で賄われています。

高齢者が増え、現役世代が減ると、現役世代1人当たりの負担は重くなりやすくなります。

この状態で社会保障給付をさらに拡充する場合、次のいずれかが必要です。

  • 保険料を引き上げる
  • 税負担を増やす
  • 国債を増やす
  • 給付対象を重点化する
  • 給付単価を抑える
  • 就業者を増やす
  • 賃金と生産性を引き上げる
  • 外国人労働者を受け入れる
  • 高齢者の就業期間を延ばす

移民受入れは、このなかの一つの手段にすぎません。

日本ではすでに外国人労働者が増えている

厚生労働省によると、2025年10月末時点の外国人労働者数は257万1,037人で、前年より26万8,450人増加しました。

外国人を雇用する事業所は37万1,215事業所に達し、いずれも届出制度開始後の過去最多です。

在留資格別では、専門的・技術的分野が約86万6,000人、身分に基づく在留資格が約64万6,000人、技能実習が約49万9,000人などとなっています。

また、2025年6月末時点の在留外国人数は395万6,619人で、前年末より5.0%増加しています。

したがって、日本は現実には「外国人を全く受け入れていない国」ではありません。

すでに製造業、建設、介護、宿泊・飲食、農業、物流など、多くの分野で外国人労働者への依存が進んでいます。

議論すべきなのは、受け入れるか受け入れないかという抽象的な二択ではなく、

  • 受入れ人数
  • 在留資格
  • 職種
  • 賃金水準
  • 転職の自由
  • 家族帯同
  • 永住条件
  • 社会保険加入
  • 日本語教育
  • 地域への定着

をどのように設計するかです。

移民は社会保障の支え手になるのか

若く就業していれば、短期的には支え手になりやすい

一般に、若い就業者は、年金、医療、介護の給付よりも、税や社会保険料の負担が大きくなりやすい傾向があります。

経済協力開発機構は、移民の財政効果について、就業率と賃金が重要であり、移民が労働市場へ十分に統合されている場合、税や社会保険料の負担が社会保護、医療、教育などの支出を上回ることが多いとしています。

ただし、経済協力開発機構の国際比較では、移民の財政効果は多くの国で国内総生産比として小さく、国全体の財政を根本的に変えるほど大きくないともされています。

つまり、移民は財政を一定程度支える可能性がありますが、巨額の社会保障費を単独で賄う存在ではありません。

財政効果は賃金によって大きく変わる

同じ100万人の外国人労働者を受け入れても、平均年収が200万円の場合と500万円の場合では、税・社会保険料収入が大きく異なります。

単純化した例を考えます。

外国人労働者100万人が平均年収300万円で働き、税・社会保険料などの実効負担率を20%と仮定すると、年間の税・社会保険料負担は概算で、

100万人×300万円×20% =6兆円ではなく、6,000億円

です。

平均年収が500万円であれば、

100万人×500万円×20% =1兆円

となります。

社会保障給付費144.1兆円と比較すると、外国人労働者100万人による負担増は一定の意味を持つものの、制度全体を支えるには限定的です。

なお、この計算は個人単位の単純化した試算です。実際には所得税、住民税、消費税、事業主負担、所得控除、家族構成、社会保険加入状況などが異なるため、正確な財政効果を示すものではありません。

移民が財政負担になる条件

移民が常に財政上のプラスになるとは限りません。

次のような条件では、財政効果が小さくなったり、マイナスになったりする可能性があります。

  • 就業率が低い
  • 賃金が低い
  • 非正規雇用が多い
  • 社会保険への未加入が多い
  • 日本語教育や職業訓練が不十分
  • 子どもの教育支援費が大きい
  • 住宅支援や生活支援が必要
  • 長期失業が多い
  • 高齢になってから定住する
  • 難民など、就業まで長期間を要する人が多い

欧州連合の研究では、移民の財政効果が自国生まれ住民より悪い国の場合、その主因は社会保障給付を多く受けることよりも、所得が低く税負担が少ないことにあるとされています。また、財政収支を左右する重要な要素は年齢です。

これは重要な指摘です。

移民の財政負担を減らすために、給付制限だけを強めても、根本的な解決にならない可能性があります。

就業機会、賃金、技能、日本語能力、転職の自由、差別の防止などを通じて、所得を高める方が財政面でも重要だからです。

低賃金の外国人労働者を増やす政策の矛盾

外国人労働者を低賃金の労働力として受け入れる政策には、社会保障財政上の矛盾があります。

企業にとっては低い賃金で人手を確保できても、労働者の所得が低ければ、所得税、住民税、厚生年金保険料、健康保険料などの負担額も低くなります。

さらに、低賃金労働が広がれば、日本人を含む労働市場全体の賃金上昇を遅らせる可能性があります。

ただし、外国人労働者の増加が日本人全体の賃金を必ず押し下げると断定できるわけではありません。

影響は、職種、地域、技能、景気、人手不足の程度、外国人と日本人の仕事が代替関係にあるか補完関係にあるかによって異なります。

内閣府も、外国人労働者の増加が賃金へ与える影響について、職種や技能構成を含めた分析が必要だとしています。2023年時点で外国人労働者は全雇用者の約3.4%であり、労働市場での重要性が増している一方、賃金差や雇用条件が政策課題として示されています。

外国人労働者を社会保障の支え手とするなら、低賃金に固定するのではなく、生産性と賃金を上げる政策が必要です。

移民も将来は高齢化する

若い外国人を受け入れると、当面は現役世代が増えます。

しかし、永住する人は将来高齢者になります。

その時点では、年金、医療、介護の受給者になる可能性があります。

したがって、移民による社会保障改善効果を評価する場合は、1年間の収支ではなく、生涯全体で考える必要があります。

生涯の財政収支は、おおむね次のように表せます。

生涯財政収支 =生涯に納める税・社会保険料 -生涯に受ける年金・医療・介護・教育・福祉・行政サービス

若年期に受け入れ、高い就業率と所得を維持し、長期間保険料を納める人は、財政上の貢献が大きくなりやすくなります。

一方、低賃金で短期間しか加入しない場合や、就業が不安定な場合は、効果が小さくなります。

さらに、外国人を継続的に受け入れて年齢構成を若く保つ政策は、毎年新たな若年層を受け入れ続ける必要があります。

これは、移民が一度きりの解決策ではなく、継続的な人口政策になることを意味します。

人口を維持するための移民数は大きくなり得る

人口減少を完全に止めるためには、死亡数と出生数の差を外国人の純流入で補う必要があります。

例えば、年間の自然減が90万人である場合、人口を単純に維持するには、理論上、年間90万人程度の純流入が必要になります。

ただし、外国人の出生、死亡、出国、日本人の出入国などもあるため、実際の計算はより複雑です。

現在の将来人口推計が置いている外国人の年間入国超過約16万4,000人は、人口減少を緩和しますが、人口を維持する水準ではありません。

人口維持を移民だけで達成しようとすれば、現在より大幅に多い受入れが必要となる可能性があります。

その場合、住宅、学校、医療、日本語教育、行政、地域交通、宗教・文化対応などの整備も必要です。

単に入国者数を増やせばよいわけではありません。

社会保障を維持するために人口そのものを維持する必要はない

一方で、人口減少を完全に止めなければ社会保障が維持できない、という考えも正確ではありません。

社会保障の持続可能性は、人口総数ではなく、

  • 就業者1人当たりの生産性
  • 賃金
  • 税・社会保険料負担
  • 高齢者1人当たりの給付
  • 医療・介護の効率
  • 就業期間
  • 資産所得や消費への課税
  • 国全体の経済規模

によって決まります。

例えば、就業者数が10%減っても、1人当たりの実質所得が15%上昇すれば、課税・保険料の基礎となる所得総額は単純には減りません。

計算すると、

就業者数90%×所得115% =103.5%

となり、所得総額は元の水準を約3.5%上回ります。

ただし、現実には生産性上昇が必ず賃金上昇や社会保険料収入に結び付くとは限りません。

企業利益だけが増え、労働所得が増えなければ、保険料収入は十分に増えない可能性があります。

生産性向上策には、賃金分配や税制の設計も必要です。

移民を抑えて社会保障を維持する選択肢

移民受入れを抑えながら社会保障を維持する場合、次の政策を組み合わせる必要があります。

女性の就業継続を支える

日本では女性の就業率は上昇していますが、出産、育児、介護による離職や短時間勤務、低賃金の問題が残っています。

保育、学童保育、介護支援、男女間賃金格差の縮小を進めれば、就業者数と所得を増やせる可能性があります。

ただし、すでに就業している女性が多いため、単純な人数増加の余地は以前より小さくなっています。

今後は、就業率だけでなく、所得、雇用の安定、管理職比率などが重要です。

高齢者の就業期間を延ばす

健康状態や職種に配慮しながら、働く意思と能力のある高齢者が就業を続けられれば、保険料を支払う期間が長くなり、年金受給開始時期も調整できます。

ただし、肉体労働者や健康上の問題を抱える人まで一律に就業延長を求めるのは現実的ではありません。

生産性と賃金を上げる

機械化、デジタル化、業務再編、人材育成などによって1人当たりの付加価値を高め、賃金上昇につなげる必要があります。

ただし、介護、保育、医療、運輸、飲食など、人が直接対応する必要がある分野では、機械化だけで人手不足を解消することは困難です。

給付を重点化する

所得や資産が十分にある高齢者への給付を一部見直し、低所得者や医療・介護必要度の高い人へ重点化する方法があります。

ただし、社会保険制度への信頼や、現役時代に保険料を納めた人の公平感への配慮が必要です。

税と社会保険料を引き上げる

社会保障を充実させるには、最終的には何らかの財源が必要です。

消費税、所得税、資産課税、社会保険料、事業主負担などの増加が選択肢になります。

しかし、現役世代の可処分所得を減らし、消費や出生意欲をさらに抑える可能性もあります。

医療・介護の費用構造を見直す

予防医療、重複受診・重複投薬の抑制、医療機関の役割分担、介護予防、デジタル化などにより、一定の効率化は可能です。

ただし、高齢者数が増えるなかで、効率化だけで給付費全体を大幅に削減できるとは限りません。

移民拒否と社会保障充実が強いトレードオフになる条件

次の条件を同時に求めるほど、移民抑制と社会保障充実のトレードオフは強くなります。

  • 現在の年金水準を維持する
  • 医療・介護給付を拡充する
  • 子育て支援も拡充する
  • 税や保険料を上げない
  • 年金支給開始年齢を上げない
  • 高齢者の自己負担を増やさない
  • 外国人労働者を増やさない
  • 経済成長率を高める
  • 国債残高も増やさない

これらをすべて同時に実現することは、数学的な財政収支の制約から困難です。

給付を増やし、負担を増やさず、支え手も増やさない場合、不足分は国債か制度外の削減で埋めるしかありません。

国債は将来の税負担やインフレ、金利上昇リスクを伴います。

したがって、移民を抑制する政策を選ぶ場合は、その代わりに、

  • 税・保険料負担の増加
  • 給付の重点化
  • 就業期間延長
  • 生産性向上
  • 医療・介護制度改革
  • 一定の経済規模縮小の受容

のいずれかを受け入れる必要があります。

移民受入れにも費用と限界がある

移民受入れには、財政上の利益だけでなく、費用もあります。

初期費用

  • 日本語教育
  • 生活オリエンテーション
  • 住宅支援
  • 行政手続
  • 医療通訳
  • 子どもの教育支援
  • 職業訓練
  • 相談窓口

地域的な集中

移民が特定の自治体や学校区へ集中すると、国全体では小さな費用でも、地域自治体には大きな負担となることがあります。

税収は国に入る一方、教育、保健、福祉、ごみ処理、住宅相談などの費用は市町村が負担する場合があります。

国全体の財政収支だけでは、地域負担を評価できません。

労働市場への影響

特定の業種へ外国人労働者が集中すると、その業種で賃金上昇が抑えられる可能性があります。

一方、人手不足で事業継続が困難な産業では、外国人労働者によって企業やサービスが維持され、日本人雇用も守られる可能性があります。

影響は一方向ではありません。

社会統合

長期定住を前提とするなら、外国人を単なる労働力として扱うことはできません。

教育、住宅、参政・地域参加、差別防止、子どもの進学、老後の生活などを含む社会統合政策が必要です。

これを行わずに低賃金労働者だけを受け入れると、社会的分断や貧困の固定化を招く可能性があります。

「移民を受け入れれば少子化が解決する」は正確ではない

外国人の流入は、短期的には若年人口と出生数を増やす可能性があります。

しかし、受入れ国で生活が長くなるにつれて、移民の出生率が受入れ国の水準へ近づく傾向も指摘されています。

また、住宅費、教育費、雇用不安など、日本人が子どもを持ちにくい原因が残れば、外国人世帯も同じ制約を受けます。

したがって、移民政策と少子化対策は別の政策です。

移民を受け入れても、日本人を含む国内居住者が子育てしにくい環境を改善しなければ、長期的な出生率改善は限定されます。

「移民を拒否すれば国民の給付を守れる」とも限らない

外国人への給付を制限すれば、その分だけ社会保障財政が大幅に改善すると考える人もいます。

しかし、日本の社会保障費の中心は、高齢者向けの年金、医療、介護です。

現在の外国人人口は総人口の一部であり、多くは比較的若い年齢層です。

外国人向け給付だけを削減しても、144兆円規模の社会保障全体を根本的に改善する効果は限られる可能性が高いと考えられます。

ただし、日本では国籍、在留資格、年齢、所得、滞在期間別に、税・社会保険料負担とすべての行政サービス費を対応させた包括的な生涯財政収支は十分に公表されていません。

したがって、「外国人は必ず財政上の利益である」「外国人は必ず財政負担である」という日本固有の断定は、公開資料だけでは困難です。

現実的な政策は「受入れか拒否か」ではなく設計で決まる

社会保障財政の観点から比較的合理性が高い移民政策には、次の条件が考えられます。

賃金を日本人と同等以上にする

外国人を安価な労働力として扱わず、同一の仕事には同等の賃金を支払う必要があります。

これにより、税・社会保険料収入も増え、賃金ダンピングへの懸念も小さくなります。

社会保険加入を徹底する

健康保険、厚生年金、雇用保険などへの適切な加入を徹底し、企業による未加入や不適切な控除を防ぐ必要があります。

転職の自由を確保する

特定の企業へ過度に拘束される制度では、労働者が低賃金や劣悪な環境から移動できません。

転職の自由は、賃金上昇と労働条件改善を促し、税・保険料収入の増加にもつながり得ます。

日本語教育を人的投資と考える

日本語教育は単なる福祉費ではありません。

日本語能力が上がれば、生産性、賃金、資格取得、安全性、地域参加が改善する可能性があります。

短期的な費用と長期的な税収増を併せて評価する必要があります。

自治体へ財源を配分する

外国人住民が集中する自治体には、学校、日本語指導、行政通訳、保健、住宅相談などの追加費用が発生します。

国税や社会保険料収入だけでなく、自治体の実務負担に応じた財源移転が必要です。

永住・家族帯同を含めて長期設計する

労働力として数年間利用し、不要になれば帰国を求める制度は、社会的にも人道的にも持続しにくい制度です。

長期定住を認めるなら、教育、住宅、老後、国籍、家族形成まで含めた制度設計が必要です。

外房など地方地域では別の問題が生じる

外国人労働者が増えても、人口減少地域の社会保障や生活サービスが自動的に維持されるわけではありません。

外国人は、雇用機会、交通、住宅、教育環境がある地域へ集まりやすいためです。

外房や房総地域で外国人材を受け入れる場合、次の条件が必要になります。

  • 通勤手段
  • 適切な住宅
  • 医療アクセス
  • 日本語教育
  • 子どもの学校教育
  • 雇用の継続性
  • 地域住民との交流
  • 災害時の情報提供
  • 転職先の存在

農業、介護、宿泊、食品加工など、季節変動や低賃金が大きい仕事だけに依存すると、定住しにくくなります。

地方で必要なのは、外国人労働者の人数を増やすことだけではなく、生活者として定着できる所得とサービスを整えることです。

成立しやすい社会保障モデル

移民受入れを一定程度活用しながら社会保障を維持するモデルは、次の条件で成立しやすくなります。

  • 比較的若い年齢で受け入れる
  • 就業率が高い
  • 賃金が日本人と同水準である
  • 長期的な技能形成が行われる
  • 社会保険加入が徹底される
  • 子どもの教育支援が充実する
  • 地方自治体の負担へ財源措置を行う
  • 日本人の賃金を押し下げない
  • 生産性向上と併行する
  • 高齢化後の給付まで長期試算する

成立しにくいモデル

反対に、次のような政策は持続しにくいと考えられます。

  • 低賃金労働者だけを大量に受け入れる
  • 社会保険加入を徹底しない
  • 日本語教育を企業や本人任せにする
  • 地方自治体へ費用を転嫁する
  • 家族や子どもの生活を制度上考慮しない
  • 外国人を景気調整の雇用弁として扱う
  • 社会保障財政の改善額を試算しない
  • 受入れ人数だけを目標にする
  • 移民だけで人口減少を止めようとする
  • 日本人の少子化対策や賃金政策を怠る

判断前のチェックリスト

移民政策と社会保障を議論するときは、次の点を確認する必要があります。

  1. 受け入れる人の平均年齢は何歳か
  2. 就業率はどの程度か
  3. 平均賃金はいくらか
  4. 社会保険加入率はどの程度か
  5. 平均滞在期間は何年か
  6. 家族帯同率はどの程度か
  7. 子どもの教育費を誰が負担するか
  8. 日本語教育費を誰が負担するか
  9. 地方自治体の追加費用はいくらか
  10. 将来の年金・医療・介護給付を含めているか
  11. 日本人労働者の賃金や雇用へどう影響するか
  12. 人手不足業種の生産性向上を妨げないか
  13. 永住や帰化をどのように扱うか
  14. 受入れを何年間継続するのか
  15. 景気後退時の失業や生活支援をどうするか

現実的な結論

移民拒否と社会保障の充実は、完全な二者択一ではありません。

日本は、移民受入れを抑えながらでも、就業率向上、生産性向上、賃金上昇、税制改革、給付の重点化、高齢者就業などを組み合わせれば、社会保障を一定程度維持できます。

しかし、

  • 社会保障給付を充実させる
  • 国民負担を増やさない
  • 給付削減もしない
  • 就業年齢も延ばさない
  • 外国人労働者も増やさない
  • 国債も増やさない

という組合せは、人口と財政の制約から現実性が低いと考えられます。

一方で、移民を増やせば社会保障問題が解決するという主張も正確ではありません。

移民の財政効果は、人数ではなく、年齢、就業率、賃金、社会保険加入、家族構成、滞在期間によって決まります。

低賃金労働者を大量に受け入れるだけでは、税・社会保険料収入は十分に増えず、日本人を含む賃金上昇を妨げる可能性もあります。

社会保障を持続可能にするために必要なのは、移民受入れの賛否を感情的に争うことではありません。

日本人か外国人かを問わず、

「働く人が適正な賃金を得て、税と社会保険料を負担できる経済構造を作れるか」

が本質です。

移民政策は社会保障政策の代替ではなく、労働政策、賃金政策、教育政策、住宅政策、地域政策と一体で設計すべき政策です。

日本の未来に必要なのは、「移民を受け入れるか拒否するか」という単純な二択ではなく、

どの程度受け入れ、どのような権利と義務を設定し、誰が費用を負担し、社会全体として何を維持するのかを、数字で示すことです。

そのため、日本における移民の正確な純財政効果については、公開資料だけでは判断困難な部分があります。

国際研究の結果を日本へ適用する場合も、社会保障制度、税制、移民の属性、労働市場が異なることに注意が必要です。

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はじめに

外房で暮らすために必要なものは、住宅と自動車だけではありません。

水道、電気、通信、道路、公共交通、医療、買い物、ごみ収集、行政窓口、消防・救急、金融、郵便、ガソリンスタンドなど、日常生活を支える複数の機能が安定して動いて、初めて地域での暮らしが成立します。

人口が減少しても、これらのサービスが直ちになくなるとは限りません。一方で、人口が減れば利用者や料金収入が減り、人材確保が難しくなり、広い地域に施設や設備を維持する負担が重くなります。

重要なのは、「外房に何が必要か」を理想論で列挙することではありません。

どのサービスが生活継続に不可欠なのか、どの機能を各市町村が単独で維持できるのか、どの機能は広域化や集約が避けられないのか、住民の移動負担をどう補うのかを、現実の人口、地理、財政、人材、利用状況から検討する必要があります。

本記事では、外房に必要な生活インフラ・地域サービスを、長生地域、夷隅地域、安房地域を中心に整理します。

最初に結論~外房に必要なのは「すべてを各地に残すこと」ではない

外房に必要なのは、すべての集落にすべての施設を残すことではありません。

現実的に必要なのは、次の三層を組み合わせた生活基盤です。

第一は、各家庭や各集落の近くで維持しなければ生活できない基礎機能です。

これには、水道、電気、通信、道路、ごみ収集、消防・救急、日常的な買い物手段などが含まれます。

第二は、市町村または複数市町村で共有する地域拠点機能です。

診療所、薬局、スーパー、行政窓口、金融、介護、公共交通の乗り継ぎ拠点などが該当します。

第三は、外房全域または県内の都市部と連携して維持する広域機能です。

入院医療、高度医療、専門医療、大規模な水道施設、鉄道、幹線バス、災害時の物流や通信復旧などが該当します。

人口減少地域では、施設を分散したまま維持し続けることが難しくなります。しかし、単に施設を集約すると、住民の移動距離や家族の送迎負担が増えます。

したがって、外房の生活インフラ政策は、次の式で評価する必要があります。

地域サービスの実質的な維持可能性 =施設・設備の維持 +必要な人材の確保 +住民が利用できる交通手段 +料金の負担可能性 +災害時の代替手段 +サービスが停止した場合の支援体制

施設が残っていても、そこまで移動できなければ、住民にとっては利用できないサービスです。

反対に、近隣の施設が統合されても、予約型交通、送迎、訪問サービス、オンライン手続き、移動販売などが適切に整備されれば、生活機能を維持できる場合があります。

分析する外房の範囲

本記事では、主として次の地域を対象とします。

長生地域は、茂原市、一宮町、睦沢町、長生村、白子町、長柄町、長南町です。

夷隅地域は、勝浦市、いすみ市、大多喜町、御宿町です。

安房地域は、館山市、鴨川市、南房総市、鋸南町です。

千葉県の毎月常住人口調査でも、長生、夷隅、安房はこの区分で集計されています。

ただし、住民の生活圏は行政区分と一致しません。

長生地域では茂原市、夷隅地域ではいすみ市や勝浦市、安房地域では館山市や鴨川市が一定の地域拠点となっています。専門医療や大規模な買い物については、千葉市、市原市、木更津市など外房外へ移動する住民もいます。

したがって、市町村ごとの施設数だけで地域生活の利便性を判断することはできません。

人口減少はインフラ需要をなくすのではなく、維持効率を悪化させる

2025年10月1日現在の国勢調査速報では、千葉県人口は625万8,512人で、2020年調査より2万5,968人減少しました。千葉県全体としては、国勢調査開始後初めて人口減少に転じています。一方、世帯数は増加し、1世帯当たり人員は2.18人まで低下しました。

県全体の人口減少率だけを見ると、大きな変化ではないように見えるかもしれません。しかし、市町村別では、人口増加が県北西部の一部自治体に偏り、外房を含む多くの地域では人口減少が続いています。

さらに、人口が減少しても、水道管、道路、橋、配水場、通信設備、ごみ収集区域などの面積が同じ割合で小さくなるわけではありません。

たとえば、人口が20%減少しても、住宅が地域内に分散したままであれば、水道管や道路の延長を20%削減できるとは限りません。

このため、人口減少地域では、住民一人当たり、または一世帯当たりの維持負担が上昇しやすくなります。

また、世帯数が増えても、単身世帯や高齢夫婦世帯が増えている場合、地域サービスを支える利用者や担い手が増えたとは限りません。

人口だけでなく、年齢構成、世帯構成、居住地の分散、運転可能者の有無を確認する必要があります。

1.水道~外房で最も基礎的で、単独維持が難しくなるインフラ

水道は、生活インフラの中でも代替が難しい機能です。

買い物であれば宅配、行政手続きであればオンライン化、移動であればタクシーなどの代替策があります。しかし、水道が安定して供給されなければ、飲料、調理、入浴、洗濯、トイレ、医療、介護、消防など、生活の広い範囲が停止します。

千葉県は、人口減少が進む中でも安定して水を供給するため、2019年に水道事業基盤強化に係る千葉県基本計画を策定し、2023年には千葉県水道広域化推進プランを策定しました。

県の広域化方針では、九十九里地域では経営の一体化、夷隅地域と安房地域では事業統合や施設統廃合の検討が進められてきました。

ただし、広域化すれば自動的に水道料金が下がり、経営問題が解消するわけではありません。

千葉県自身も、広域化の試算は仮定条件に基づくものであり、各地域の実情を反映した精緻なシミュレーション、技術的・財政的課題、地域の合意形成が必要であるとしています。

外房の水道で必要なのは、次の機能です。

老朽管の計画的な更新

水道管の更新を先送りすると、漏水、断水、道路陥没、復旧費用の増加につながる可能性があります。

ただし、すべての管路を同じ優先順位で更新することは現実的ではありません。

病院、避難所、福祉施設、人口が集中する地区、代替供給が難しい地区などを優先し、管路の重要度に応じた更新計画が必要です。

広域化と施設集約

浄水場、配水場、管理部門、料金徴収、保守点検などを共同化すれば、重複業務を減らせる可能性があります。

一方で、施設を減らしすぎると、一つの施設や幹線管路が停止した際の影響範囲が広がることがあります。

したがって、効率性だけでなく、非常時の代替経路や応急給水能力を含めて評価する必要があります。

小規模・分散地区への供給

人口密度の低い山間部や半島部では、少数の利用者のために長い管路を維持する場合があります。

こうした地区については、単純な採算だけで供給可否を決めるべきではありません。しかし、将来も同じ設備構成を維持できるかは、現実的に検討しなければなりません。

外房の水道政策は、「広域化するか、しないか」という二択ではなく、管理の共同化、施設の統廃合、災害時の相互応援、資材の共同購入、人材の共同確保などを段階的に組み合わせる必要があります。

2.道路と橋~自動車依存地域では生活設備そのもの

外房では、道路は単なる移動手段ではありません。

通勤、通学、通院、買い物、訪問介護、救急搬送、ごみ収集、宅配、郵便、給油、農業、観光など、多くの地域サービスが道路を前提にしています。

長生地域では、千葉県の長生土木事務所が7市町村の道路や河川の建設、維持管理、災害対策などを担当しています。道路損傷については、道路緊急ダイヤルやオンライン通報の仕組みも設けられています。

道路維持で重要なのは、新しい道路を増やすことだけではありません。

むしろ人口減少地域では、既存道路、橋、トンネル、側溝、法面、街路灯などを、どこまで安全に維持できるかが重要です。

外房では、沿岸部、山間部、河川沿い、狭い生活道路など、地域によって道路条件が異なります。

必要な対策は次のとおりです。

  • 救急搬送や避難に必要な道路の優先保全
  • 病院、スーパー、駅、行政拠点への経路確保
  • 橋梁や法面の定期点検
  • 台風や豪雨後の倒木、土砂、冠水への対応
  • ごみ収集車、移動販売車、福祉車両が通行できる幅員の確保
  • 道路損傷を住民が通報できる仕組み
  • 災害時に一つの経路が寸断された場合の代替経路確保

ただし、利用が極めて少ない道路をすべて同じ水準で維持することは、財政的にも人材面でも難しくなります。

今後は、道路ごとに生活上の重要度を評価し、補修の優先順位を公開する必要があります。

3.地域交通~鉄道やバスを残すだけでは生活交通にならない

外房線、地域路線バス、コミュニティバス、乗合タクシーは、運転できない人にとって重要な生活基盤です。

しかし、路線が存在していることと、生活に使えることは同じではありません。

通院に使うには、診療時間に間に合うこと、帰りの便があること、駅やバス停から病院まで移動できることが必要です。

買い物に使うには、荷物を持って乗降できること、店舗での滞在時間を確保できること、帰宅便があることが必要です。

国土交通省の地域交通に関する資料でも、人口減少による利用者減少、路線バスの低い収支、高齢者の移動手段確保が課題として挙げられています。

過去の南房総地域の交通施策でも、幹線交通とデマンド型乗合タクシーを組み合わせ、交通結節点で接続する考え方が採用されてきました。

外房で現実的に必要なのは、次のような階層型交通です。

幹線交通

外房線、内房線、主要な路線バスなど、地域拠点間を結ぶ交通です。

運行本数だけでなく、通勤、通学、通院に使える時間帯を確保する必要があります。

地域内交通

コミュニティバスやデマンド型乗合交通によって、住宅地と駅、病院、スーパー、行政拠点を結びます。

ただし、予約方法が電話だけ、予約締切が早い、運行区域をまたげない、目的地が限定されると、実際の利用は難しくなります。

個別支援交通

介護タクシー、福祉有償運送、病院送迎、家族送迎などです。

身体機能が低下した人には必要ですが、利用料金、人材、車両数に限界があります。

したがって、外房の地域交通は、単独のコミュニティバスを導入すれば解決する問題ではありません。

鉄道、路線バス、デマンド交通、タクシー、病院送迎を、時刻と乗り継ぎを含めて一つの仕組みとして設計する必要があります。

4.医療と救急~病院数よりも、到達可能性と役割分担が重要

外房では、高齢化や人口減少が進む一方、医療需要が一律に減るとは限りません。

高齢者人口の割合が上昇すれば、慢性疾患、救急搬送、在宅医療、訪問看護、服薬管理などの需要が高まる場合があります。

千葉県の保健医療計画では、長生地域と夷隅地域は山武地域と合わせて山武長生夷隅保健医療圏に区分され、安房地域は安房保健医療圏として整理されています。

2025年から2040年にかけて、山武長生夷隅保健医療圏の人口は約40万1千人から約31万9千人へ、安房保健医療圏は約11万5千人から約8万8千人へ減少する推計が示されています。

また、山武長生夷隅保健医療圏は医師少数区域として示されており、人口当たりの医師確保が課題です。

安房医療圏では、高齢者割合が県内でも高く、亀田総合病院への手術機能の集約、医療人材確保、病床機能の調整などが課題として挙げられています。

外房に必要な医療インフラは、すべての市町村に総合病院を置くことではありません。

必要なのは、次の役割分担です。

  • 日常的な慢性疾患を診る診療所
  • 検査、入院、手術を担う地域病院
  • 救急搬送を受け入れる医療機関
  • 高度医療を担う広域病院
  • 在宅医療、訪問看護、薬局
  • 回復期、慢性期、介護施設
  • 医療機関まで患者を運ぶ交通

医療機関の集約には、専門職を集中させやすい利点があります。

一方、患者の移動距離、家族の送迎時間、救急搬送時間が長くなる可能性があります。

したがって、病院再編や機能集約を評価するときは、病院側の経営だけでなく、次の合計を確認しなければなりません。

医療提供の実質費用 =病院の運営費 +医療従事者の負担 +救急搬送負担 +患者の移動時間 +家族の送迎・付き添い負担 +地域交通の維持費

外房に必要なのは、病床数の単純な維持ではなく、住民が必要な医療へ実際に到達できる仕組みです。

5.買い物と食品アクセス~店舗の有無だけでは判断できない

買い物環境は、スーパーの所在地だけでは評価できません。

自宅から店舗までの距離、移動手段、坂道、荷物の重量、配送区域、最低注文額、配送料、支払方法、注文方法などが重要です。

農林水産省は、国内市場の縮小などを背景に、食品への経済的・物理的アクセスが難しい人が増加しているとしています。

2025年1月に実施された全国調査では、公共交通または徒歩で食品店へ15分以内に行けないと答えた人が37.8%、健康的な食事に必要な食品を手頃な価格で購入できていないと答えた人が45.4%とされています。ただし、これは全国調査であり、外房の住民割合を直接示すものではありません。

外房の買い物支援では、次の手段を組み合わせる必要があります。

固定店舗

品ぞろえと価格面では最も効率的ですが、商圏人口が減れば撤退リスクが高まります。

宅配

自動車を運転できない世帯には有効です。

ただし、インターネットや電話で注文できること、配送区域内であること、受け取りができることが条件です。

移動販売

集落を巡回できる利点がありますが、利用者が少ない地域では、燃料費、人件費、商品廃棄、移動時間の負担が大きくなります。

必要性が高くても、民間事業単独では採算が合わない場合があります。

買い物代行

個別の要望に対応できますが、注文確認、店舗までの移動、買い物、配送、代金精算を含めると、一件当たりの所要時間が長くなります。

外房の買い物支援では、「店舗を誘致する」「移動販売を始める」という単独策ではなく、固定店舗、宅配、移動販売、交通支援を地域ごとに組み合わせる必要があります。

6.ごみ収集と生活衛生~目立たないが停止できないサービス

ごみ収集は、日常的に利用される一方、サービスが維持されている間は重要性が見えにくいインフラです。

人口が減少しても、住宅が分散していれば収集距離は大きく減りません。

むしろ一か所当たりのごみ量が減り、収集効率が低下する場合があります。

高齢者世帯では、ごみ集積所まで運べない、ごみ袋を持って坂道を歩けない、分別方法が理解しにくいといった問題もあります。

外房で必要なのは、次の仕組みです。

  • 定期的な一般ごみ収集
  • 高齢者や障害者への戸別収集
  • 粗大ごみの搬出支援
  • 不法投棄対策
  • 災害ごみの仮置場計画
  • ごみ処理施設の広域運営
  • 収集作業員と運転手の確保

ごみ処理施設を広域化すれば、設備投資を集約できる可能性があります。

一方で、収集車の走行距離や運搬時間が増える場合があります。

施設費だけでなく、収集・運搬費を含めた総費用で判断する必要があります。

7.電気と燃料~停電時の地域生活をどう支えるか

外房では、台風、強風、倒木などにより、電力設備や道路が影響を受ける可能性があります。

停電が長引くと、照明だけでなく、冷蔵庫、給湯、井戸ポンプ、通信機器、医療機器、電動ベッド、空調、店舗の決済などが停止します。

したがって、電気については通常時の供給だけでなく、停電時の代替手段が重要です。

必要な対策としては、次が考えられます。

  • 避難所や医療施設の非常用電源
  • 燃料の備蓄と補給契約
  • 在宅医療機器利用者の個別支援計画
  • 携帯電話や情報端末の充電拠点
  • 給水設備を動かす非常用電源
  • ガソリンスタンドの営業継続支援
  • 復旧優先施設の事前指定

太陽光発電や蓄電池は、一部の停電対策にはなりますが、天候、容量、設備費、機器寿命などの制約があります。

「再生可能エネルギーを導入すれば災害時も安心」と単純化することはできません。

8.通信~外房では通信が行政・医療・買い物を支える基盤になる

インターネットや携帯電話は、もはや娯楽だけの設備ではありません。

行政手続き、銀行取引、医療予約、薬の確認、買い物、災害情報、家族との連絡、仕事、教育など、多くの機能が通信を前提にしています。

一方で、通信を利用できる地域であっても、高齢者が端末を操作できるとは限りません。

デジタル化には、三つの条件が必要です。

第一は、通信回線が利用できることです。

第二は、スマートフォンやパソコンなどの端末を保有できることです。

第三は、本人または支援者が操作できることです。

この三つのどれかが欠けると、オンライン手続きは生活支援になりません。

外房に必要なのは、行政窓口をすべて廃止してオンライン化することではなく、オンライン、電話、対面、代理申請を併存させることです。

また、災害時には停電や基地局障害で通信が使えなくなる可能性があります。

防災行政無線、ラジオ、広報車、掲示板、地域の見守りなど、通信障害時の代替手段も残す必要があります。

9.行政、郵便、金融~高齢化地域では「手続きへの到達可能性」が重要

行政サービスは、市役所や町役場の建物が存在していれば十分ではありません。

住民票、税、介護、医療、福祉、年金、相続、死亡届、住宅、廃棄物など、手続き内容は複雑です。

高齢者や単身者には、窓口まで行けない、必要書類が分からない、オンライン申請ができないという問題があります。

郵便局や金融機関についても、店舗数だけでなく、次を確認する必要があります。

  • 現金を引き出せるか
  • 公共料金を支払えるか
  • 年金や相続の相談ができるか
  • 本人確認手続きができるか
  • 車がなくても行けるか
  • 訪問や代理手続きが可能か

今後、窓口の統廃合が進む場合には、移動窓口、予約相談、電話相談、郵送、代理申請などを組み合わせる必要があります。

10.消防・救急~施設数だけでなく到着時間と人員を確認する

消防署や救急車は、地域生活の安全を支える重要なインフラです。

特に高齢化地域では、急病、転倒、脳卒中、心疾患などに対する救急需要が増える可能性があります。

消防・救急で重要なのは、次の一連の時間です。

救急対応時間 =通報から出動までの時間 +現場到着までの時間 +現場活動時間 +搬送先選定時間 +病院までの搬送時間

救急車が現場に早く到着しても、受入先が決まらなければ、医療開始は遅れます。

反対に、高度医療機関があっても、自宅から遠く、搬送時間が長ければ地域住民の利用条件は厳しくなります。

必要なのは、消防署や病院の数の比較ではなく、時間帯別、地区別、疾患別の搬送体制の確認です。

外房で優先順位が高い生活インフラ・地域サービス

以上を踏まえると、外房で特に優先順位が高いのは、次の七分野です。

第一優先~水道、電気、道路、通信

これらは多くの地域サービスの前提となる基礎インフラです。

一つが停止すると、医療、買い物、行政、介護にも影響します。

第二優先~救急医療と地域医療への移動

病院の維持だけでなく、救急搬送、通院交通、訪問診療、薬局を一体として整備する必要があります。

第三優先~運転できない人の移動手段

デマンド交通、タクシー、病院送迎、買い物支援を組み合わせる必要があります。

第四優先~食品と日用品へのアクセス

スーパーの誘致だけでなく、宅配、移動販売、地域交通を含めて設計します。

第五優先~ごみ収集と住宅周辺管理

ごみ出し、粗大ごみ、草刈り、住宅修繕など、高齢者が自力で行えなくなる生活作業への支援が必要です。

第六優先~行政・金融・郵便へのアクセス

窓口の集約と、移動・訪問・代理・電話支援を組み合わせます。

第七優先~災害時の代替機能

非常用電源、応急給水、燃料、通信、道路、避難所を、通常時から準備します。

現実性の低い対策

外房の生活インフラを考える際には、効果を立証しにくい案にも注意が必要です。

すべての集落に同じ施設を残す

人口、利用者、人材、財政が減少する中で、すべての施設を同じ規模で維持することは難しいと考えられます。

観光収入だけで生活サービスを維持する

観光客数が増えても、その収入が水道、医療、交通、ごみ収集などの維持費へ十分に回るとは限りません。

観光客の増加が、住民向けサービスの持続性を直接保証するものではありません。

デジタル化ですべて代替する

通信環境、端末、操作能力がそろわなければ利用できません。

医療、介護、ごみ出し、救急、住宅管理など、現地での人手が必要なサービスも残ります。

ボランティアだけに依存する

住民の善意は重要ですが、高齢化した地域で長期間、安定的に担い手を確保できるとは限りません。

責任、事故、保険、燃料費、時間負担もあります。

自動運転がすぐに交通問題を解決する

自動運転には、道路条件、法制度、運行管理、車両費、保守、通信、事故対応などの課題があります。

将来の可能性はありますが、現時点の通院や買い物問題を先送りする理由にはなりません。

外房で現実的に進めるべき対策

最も現実的なのは、既存の施設と人材を前提に、段階的に機能を再編することです。

1.生活圏単位でサービスを把握する

行政区域ではなく、住民が実際に利用している病院、スーパー、駅、金融機関、行政窓口を地図上で把握します。

GIS(Geographic Information System・地理情報システム)を利用すれば、人口、年齢、道路、施設、所要時間を重ねて分析できます。

2.サービスごとに最低水準を定める

たとえば、「病院を一つ残す」という表現では不十分です。

  • 救急車が何分以内に到着できるか
  • 食料品を週何回購入できるか
  • 断水時に何時間以内に給水できるか
  • ごみを週何回収集するか
  • 行政相談を月何回受けられるか

という利用者側の基準が必要です。

3.拠点集約と移動支援を同時に行う

施設を集約する場合は、交通や訪問サービスを同時に整備しなければなりません。

施設だけを減らし、移動手段を用意しない集約は、住民サービスの実質的な縮小になります。

4.市町村を越えた共同運営を増やす

水道、医療、ごみ処理、消防、交通、専門職採用などは、小規模自治体単独よりも広域で運営した方が合理的な場合があります。

ただし、広域化の効果は事業ごとに異なります。

管理費の削減だけでなく、住民の移動距離や運搬費の増加も確認する必要があります。

5.民間事業が成立しない部分を明確にする

移動販売、買い物代行、デマンド交通、住宅管理などは、需要があっても採算が合わない場合があります。

その場合、補助金を投入するかどうかを曖昧にせず、誰の生活を、年間いくらで支えるのかを明示する必要があります。

判断前のチェックリスト

外房の市町村や地区で、生活インフラが維持できるかを判断する際には、次を確認する必要があります。

  • 水道の供給主体と更新計画
  • 水道料金と将来見通し
  • 停電時の給水・通信手段
  • 病院と診療所までの所要時間
  • 夜間・休日の救急搬送先
  • 公共交通の実際の運行時間
  • デマンド交通の予約条件
  • スーパー、薬局までの距離
  • 宅配や移動販売の対象区域
  • ごみ集積所までの距離
  • 高齢者向け戸別収集の有無
  • ガソリンスタンドの所在地と営業時間
  • 行政窓口までの交通手段
  • 金融・郵便サービスの利用条件
  • 携帯電話と固定通信の利用可能性
  • 災害時の代替道路
  • 非常用電源と応急給水拠点
  • 家族による送迎や支援がなくなった場合の代替手段

現実的な結論

外房に必要な生活インフラ・地域サービスは、都市部と同じ数の施設を維持することではありません。

人口が減少し、専門人材の確保が難しくなる中では、水道、医療、ごみ処理、消防、交通などの広域化や拠点集約は、一定程度避けにくいと考えられます。

しかし、集約だけを進めれば、運転できない高齢者や障害者、単身世帯に負担が集中します。

外房で今後も暮らし続けるために必要なのは、施設の維持と住民の利用可能性を分けずに考えることです。

水道施設があることではなく、水が安定して届くこと。

病院があることではなく、必要な時に到達できること。

バスが走っていることではなく、通院や買い物に使えること。

オンライン手続きがあることではなく、住民が実際に申請できること。

スーパーがあることではなく、食品を自宅まで持ち帰れること。

これらを基準にすれば、外房で本当に不足しているサービスと、形だけ残っているサービスを区別できます。

外房の生活基盤を維持するには、人口増加だけを期待するのではなく、人口が減少しても最低限の生活機能を維持できる地域構造へ移行する必要があります。

その中心になるのは、地域拠点への適切な機能集約、市町村を越えた共同運営、住民の移動支援、訪問型サービス、災害時の代替機能です。

すべてを残すことも、すべてを集約することも現実的ではありません。

どの機能を身近に残し、どの機能を広域で共有し、距離が広がった部分をどのように補うか。

この具体的な設計こそが、外房で生活を維持するための最も重要な課題です。

地域の課題を、自分の判断に置き換えて考える

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