地域分析記事

地域の暮らしと地域課題を数学とデータで考える

人口減少地域で「家の墓」を30年後まで維持できるのか~墓石・菩提寺・護持会を人口構造から考え直す

地方では、墓地の草刈り、墓石の清掃、墓地周辺の整備、寺院境内の清掃、護持会の行事などを、檀家や地域住民自身が担っているところがあります。

これまでは、それが特に問題にならない地域もありました。地域に一定数の現役世代が住み、親から子へ役割が引き継がれ、複数の世帯で作業を分担できたからです。

しかし、今後30年間を考えると、この仕組みをそのまま維持できるとは限りません。

重要なのは、墓や寺を「残すべきか、なくすべきか」という二者択一ではありません。

人口と世帯構造が変化したとき、現在の維持方法が物理的に成立するのか。

この点を、宗教観や昔からの慣習とはいったん切り離し、人口、労働、費用、管理という視点から検討する必要があります。

最初に結論

人口減少地域では今後、

「家ごとに墓を持ち、子孫が管理し、地域や檀家が共同作業で寺院と墓地を維持する」という仕組みについて、30年間そのまま継続できることを前提にしない方が合理的です。

これは、従来の墓制や寺院制度を否定するという意味ではありません。

国立社会保障・人口問題研究所の推計では、2050年に向けて単独世帯の割合が全都道府県で上昇します。2050年には21県で、世帯主が65歳以上の世帯が全世帯の50%を超え、32道府県では65歳以上の単独世帯が全世帯の20%を超えると推計されています。75歳以上の独居率についても、ほぼすべての都道府県で20%を超える見通しです。([IPSS][1])

したがって問題は、

「若い人が墓を守ろうとするか」

だけではありません。

そもそも管理作業を行える人が地域内に何人残るのか

という問題になります。

今から必要なのは、従来方式を守る方法だけを探すことではなく、

墓、遺骨、追悼、寺院運営、地域共同作業を一度別々の機能に分解し、人口が減っても維持できる仕組みに再設計すること

だと考えられます。


1.30年後には「世帯そのもの」が大きく変わる

国立社会保障・人口問題研究所の2023年地域別将来推計人口は、2020年国勢調査を基準として、市区町村別に2050年までの人口を推計しています。つまり、現在から約30年間という期間は、行政自身が地域人口を考える標準的な長期スパンでもあります。([IPSS][2])

同研究所の世帯推計を見ると、問題は単なる人口減少ではありません。

世帯が小さくなります。

全国推計でも、将来の高齢単独世帯について、子どもがいない人や兄弟姉妹の少ない人が増え、近親者が全くいない高齢単独世帯が増加すると想定されています。([IPSS][3])

ここが墓地問題にとって重要です。

例えば現在、

  • 80歳の親が墓を管理する
  • 55歳の子が草刈りを手伝う
  • 孫世代も盆や彼岸に帰省する

という家族が存在していたとしても、30年後まで同じ構造が続く保証はありません。

子が遠隔地に住んでいるかもしれません。

子ども自体がいない世帯もあります。

兄弟姉妹が少なければ、一人の親族に複数の墓や実家、親族関係の管理が集中することも考えられます。

したがって、

人口減少+高齢化+小世帯化+親族数の減少

を一体として考える必要があります。


2.墓の問題は「墓参り」だけではない

墓を維持する作業は、墓参りだけではありません。

地域や墓地によって異なりますが、一般的には、

  • 墓石の清掃
  • 除草
  • 落ち葉の処理
  • 樹木管理
  • 通路清掃
  • 墓石や外柵の補修
  • 管理費の支払い
  • 墓地使用者の名義承継
  • 寺院との連絡
  • 法要
  • 墓地全体の共同作業

などが発生します。

寺院墓地では、これに寺院や檀家組織の維持が関係する場合があります。

ここでいう護持会とは一般に、寺院や墓地などを維持するため檀家等が組織する団体を指しますが、全国一律の制度ではありません。

寺院によって名称、会費、作業内容、加入方法は異なります。

したがって「全国の護持会員が何人減少している」という統一的な公的統計は確認困難です。

一方、文化庁によると、2024年12月31日時点で仏教系の宗教法人は全国に7万6千法人余り存在しており、日本には依然として非常に多くの寺院等の宗教法人が存在します。([文化庁][4])

つまり、

墓を管理する家族側だけが問題なのではなく、多数の寺院・墓地を誰が維持するのかという供給側の問題も同時に存在する

わけです。


3.若い世代の人数が減れば、一人当たりの負担は増える

問題を単純化して考えてみます。

ある地域に、

墓地利用世帯 100世帯 共同作業参加可能者 50人

がいたとします。

1人当たりの平均負担を概念的に、

共同作業負担 =必要作業量 ÷ 作業可能人数

と考えます。

これは公式な指標ではなく、問題を整理するための概念式です。

必要作業量が変わらないまま作業可能者が50人から25人になれば、

50人の場合 100 ÷ 50 = 2

25人の場合 100 ÷ 25 = 4

となり、単純化すれば一人当たりの負担は2倍になります。

実際には高齢者が完全に作業不能になるわけではありませんし、機械化や外注もできます。

したがって現実がこの通りになるという意味ではありません。

しかし、

管理対象があまり減らず、管理する人だけが先に減少すると、一人当たり負担が増える

という構造自体は変わりません。

これは墓地だけの問題ではありません。

地域の草刈り、道路清掃、神社、集会所、水路、自治会、消防団などでも同じ現象が発生します。


4.墓は人口と同じ速度では減らない

ここにはもう一つ重要な問題があります。

人口が半分になったからといって、既存の墓石が直ちに半分になるわけではありません。

人口は減少しても、過去につくられた墓は残ります。

したがって一定期間、

管理対象となる墓の数 ÷ 管理可能な住民数

は上昇する可能性があります。

これが一般住宅との違いです。

住宅なら空き家になった後、売却や解体という選択肢があります。

墓の場合には、埋蔵されている遺骨、墓地使用権、墓地管理者との関係、改葬手続きなどが絡みます。

墓地、埋葬等に関する法律の下では、遺骨を別の墓地や納骨堂へ移す「改葬」には市町村長の許可が必要です。また無縁墳墓を改葬する場合にも一定の手続きが定められています。([厚生労働省][5])

したがって、

「誰も管理しなくなったので、そのまま撤去する」

というほど単純ではありません。


5.無縁墓はすでに行政課題になっている

この問題は30年後に突然始まる話でもありません。

厚生労働省は2025年3月、全国の自治体や一定の民営墓地を対象とした調査を踏まえ、「縁故者情報の事前把握に関する事例調査」を自治体へ通知しています。

その中で厚生労働省は、無縁墳墓について、管理が不十分になることによって墓地経営へ支障が生じる懸念があることを明示しています。また、墓地使用者以外の縁故者についても、連絡先をあらかじめ把握する取組が有効だとしています。([厚生労働省][6])

つまり国もすでに、

墓地使用者が亡くなってから次の管理者を探す方式だけでは問題が生じる

ことを政策課題として認識しています。

また厚生労働省は以前から、墓地の使用契約について、無縁墓になった場合にどのように扱うのか、管理料との関係や契約解除、合葬墓への移行などを事前に明確にする必要性を指摘しています。([厚生労働省][7])

したがって、墓の継承問題を「各家庭だけの問題」と見ることにも限界があります。


6.「墓じまいが増えているから全部なくせばよい」でもない

一方で、逆方向への飛躍にも注意が必要です。

政府の衛生行政報告例では、全国の改葬件数が毎年集計されています。2024年度についても都道府県別の改葬統計が公表されています。([e-Stat][8])

しかし、

改葬が増えている =墓そのものが社会から不要になっている

とは言えません。

改葬には、

  • 遠方の墓を自宅近くへ移す
  • 寺院墓地から別の墓地へ移す
  • 個人墓から合葬墓へ移す
  • 納骨堂へ移す

など、さまざまな場合があります。

したがって、改葬件数だけから国民の宗教意識や墓への考え方まで断定することはできません。

ここで考えるべきなのは思想ではなく、

今後も管理できる形へ墓の形態を変更しようとする需要が実際に存在している

という点でしょう。


7.本当の問題は「墓」よりも管理方式にある

30年後を考えると、論点を次の4つに分けた方が分かりやすくなります。

①遺骨をどこに置くか

個別墓 合葬墓 納骨堂 樹木葬 その他の適法な方法

②故人をどのように追悼するか

墓参 法要 家庭での追悼 寺院での供養 その他

③墓地を誰が維持するか

家族 寺院 墓地管理者 業者 自治体等

④寺院を誰が支えるか

檀家 利用者 寄付 宗教法人としての収入 その他

現在は、この4つが一体化している場合があります。

しかし、論理的には別の問題です。

例えば、

先祖を大切にすること

子孫が毎年墓地の草刈りを行うこと

は必ずしも同じことではありません。

また、

寺院の宗教活動を支えること

高齢住民が境内整備を無償労働で続けること

も必ずしも不可分ではありません。

ここを分離して考えることが、30年後の制度設計では重要になります。


8.「若い人に引き継ぐ」という解決策には限界がある

現在の方式では、

「高齢者ができなくなったら若い人がやればよい」

と考えやすいところがあります。

しかし人口減少地域では、この前提自体を検討する必要があります。

例えば、

高齢世代 80人 若年・中年世代 40人

という地域が、

30年後に、

高齢世代 50人 若年・中年世代 15人

となったとします。

高齢者が30人減ったからといって、作業が軽くなるとは限りません。

残された15人が、

自治会 墓地 寺院 道路清掃 消防 祭事 家族の介護

などを同時に担う可能性があります。

したがって、

若者が地域活動に参加しなくなった

という個人の意識問題として処理してしまうと、本質を見誤ります。

問題は、

一人の現役世代に何種類の地域維持作業を負担させるのか

だからです。


9.今から検討すべき方向は「人を増やす」より「作業を減らす」

人口減少地域では、今後の制度設計について重要な順序があります。

従来の考え方は、

必要作業量を維持する ↓ 参加者を集める

となりがちです。

しかし人口そのものが減る場合には、

最初に必要作業量を減らせないか

を考えた方が合理的です。

例えば、

年4回の共同作業 ↓ 年2回へ

全面人力除草 ↓ 防草化+必要部分のみ除草

各家が個別管理 ↓ 墓地全体で一括管理

無償労働 ↓ 管理費を徴収して業者委託

全員一律参加 ↓ 参加と金銭負担を選択可能にする

といった方法です。

どれが正しいということではありません。

重要なのは、

人口が減った後も同じ作業量を維持するという前提を外す

ことです。


10.個別墓を永久に継承する前提も検討対象になる

墓地についても同じです。

現在の墓地面積を将来も維持すると仮定すれば、

墓地管理負担 =墓地区画数 × 1区画当たり管理量

と概念的に考えることができます。

これも公式指標ではありません。

例えば1,000区画を管理する地域で、利用世帯が減り続ければ、一世帯当たりの管理費や共同作業負担が増える可能性があります。

そこで将来的には、

個別墓 ↓ 一定期間個別管理 ↓ 期間終了後に合葬

といった仕組みも一つの選択肢になります。

実際に、一部自治体では既に合葬式墓地を整備し、将来需要を推計しながら墓地政策そのものを再設計しています。

したがって、

「墓は永遠に同じ家系が管理するもの」

という前提を行政や墓地経営の設計条件にする必要はありません。


11.寺院についても「宗教」と「施設管理」を分ける必要がある

菩提寺についても同様です。

寺院には、

宗教活動 法要 墓地管理 建物管理 境内管理 文化財管理 地域行事

など多くの機能があります。

しかし人口が減少すれば、それらすべてを同じ人数の檀家が支え続けることは難しくなる可能性があります。

例えば寺院維持費を概念的に、

寺院年間維持費 =建物維持費 +境内管理費 +墓地管理費 +宗教活動費 +事務費 +その他

と考えます。

檀家数が半分になっても建物の屋根面積が半分になるわけではありません。

境内面積も半分にはなりません。

そのため、

人口減少より費用の減少が遅ければ、一世帯当たり負担は上昇します。

これは寺院の善悪とは無関係な固定費の問題です。


12.今から30年間を三段階に分けて考える

地域として現実的なのは、一気に制度を変えることではありません。

例えば今後30年を、

第1段階 現在~10年

現状把握

  • 墓地区画数
  • 使用者年齢
  • 承継予定者
  • 連絡可能な親族
  • 年間管理費
  • 共同作業回数
  • 延べ作業時間
  • 参加者年齢
  • 寺院維持費

を把握します。

第2段階 10~20年

縮小と省力化

  • 防草化
  • 機械化
  • 外注
  • 共同管理
  • 合葬墓
  • 納骨施設
  • 管理作業回数削減
  • 墓地面積の段階的縮小

などを検討します。

第3段階 20~30年

人口規模に合わせた体制へ移行します。

この方法なら、

「突然昔の制度を全部廃止する」

必要はありません。


13.費用負担と労働負担を分けることも重要

これから特に問題になるのが、

「作業に参加できない人はどうするのか」

です。

高齢者、障害のある人、遠隔地居住者、介護中の人、仕事のある人など、参加できない理由はさまざまです。

ここで、

参加できない =地域への協力意思がない

と判断する方式は持続しにくくなるでしょう。

むしろ、

地域維持負担 =金銭負担+労働負担

と考え、

作業できる人 →作業

作業できない人 →一定の金銭負担

どちらも難しい人 →減免

といった制度の方が人口構造には適応しやすくなります。

ただし、実際の制度については各墓地、寺院、宗教法人、地域組織ごとに法的関係や規約が異なるため、一律には決められません。


14.完全な民間委託にも問題はある

それでは全部を業者に委託すれば解決するのでしょうか。

必ずしもそうではありません。

外注すれば、

住民労働 ↓ 事業者への支払い

に変わります。

つまり負担が消えるのではなく、

時間負担が金銭負担に変わる

だけです。

さらに人口の少ない地域では、

  • 移動距離
  • 作業量の少なさ
  • 人手不足

によって、業者側の採算が悪くなる可能性もあります。

墓地管理についても、

委託費 =人件費 +移動費 +機械費 +処分費 +管理費 +事業者利益

が必要です。

したがって、

「外注すれば解決する」

という結論も適切ではありません。


15.合葬墓だけですべて解決するわけでもない

合葬墓や納骨堂には、

  • 個別墓より管理面積を小さくできる
  • 承継者を必要としない方式を採用できる
  • 家族の管理労力を減らせる

などの利点があります。

しかし、

誰が施設を管理するのか 建設費はいくらなのか 修繕費をどうするのか 運営主体が将来存続するのか

という問題は残ります。

したがって、

個別墓から合葬墓へ変更 =管理問題解決

ではありません。

より正確には、

家族単位で分散していた管理を、管理主体へ集約する方法

です。


16.今後必要なのは「墓じまい推進」ではない

ここは特に重要です。

人口減少地域の将来対策を、

墓じまいを増やす政策

と理解するのは適切ではありません。

個人墓を残したい家庭が維持可能なら、残すことに問題はありません。

親族が多く、近隣に居住し、費用負担も可能なら従来方式が成立する家庭もあるでしょう。

反対に、

承継者なし 遠距離 管理困難 高齢化

という家庭まで同じ方式を要求すると、無理が生じます。

したがって必要なのは、

選択肢を増やすこと

でしょう。

個別墓を続ける人 一定期間後に合葬する人 生前に改葬する人 寺院管理へ移す人

が、それぞれ選択できる状態です。


17.30年後から考えると「今」が重要になる

墓地問題には大きな時間差があります。

現在60歳の人は2050年代には80~90歳代です。

現在30歳の子世代も60歳前後になります。

つまり、

現在「若い人」と考えている世代までが高齢者になる頃の制度を、現在の高齢者が中心となって設計している

ということです。

今の70歳代が、

「自分が動けなくなれば50歳代がやる」

と考えても、その50歳代は20年後には70歳代です。

そこで再び次世代へ引き継ぐ方式では、人口が減少し続ける地域ではどこかで成立しなくなる可能性があります。

だからこそ、

次の世代へ同じ仕事を渡すのではなく、次の世代が引き継ぐ仕事そのものを減らす

という発想が必要になります。


18.地域で今から確認しておきたい数字

感覚だけで議論するより、例えば一つの墓地や寺院について次の数字を調べるだけでも将来像がかなり見えてきます。

  1. 現在の墓地区画数
  2. 実際に管理されている区画数
  3. 管理者の平均年齢
  4. 70歳以上の管理者数
  5. 承継予定者が確認できる区画数
  6. 年間共同作業回数
  7. 1回当たり参加人数
  8. 年間延べ作業時間
  9. 年間管理費
  10. 10年以内に承継問題が生じそうな区画数

例えば、

将来管理可能率 =承継見込みのある区画数 ÷ 現在の管理区画数

という独自指標を作ることもできます。

これは公式指標ではありません。

しかし、

現在200墓あり、承継者を確認できる墓が100墓しかない

のであれば、

「現在200墓とも管理されているから問題ない」

とは評価できなくなります。


19.公開資料だけでは分からないことも多い

一方、この問題には全国統計だけでは判断できない部分があります。

特に、

  • 護持会の作業参加人数
  • 檀家の平均年齢
  • 墓の承継者の有無
  • 草刈り時間
  • 一世帯当たり実質負担
  • 寺院ごとの財務状態

について全国的に統一された詳細統計はありません。

したがって、

「地方寺院の○%が30年以内になくなる」

「墓地の○%が無縁墓になる」

といった数字を、現在の公的資料だけから断定することはできません。

この記事でもそこまでは推計しません。

しかし、

人口、世帯、高齢化、独居の方向については公的推計が存在し、無縁墳墓についても既に国が対策を始めています。 ([IPSS][9])

したがって「何も変えなくても今後30年間維持できる」と仮定することにも十分な根拠はありません。


現実的な結論

人口減少地域における墓地と菩提寺の問題は、単なる「墓じまい」の問題ではありません。

より大きな、

地域の共同管理システムを、人口減少社会でどう維持するか

という問題です。

これまで、

家が墓を持つ ↓ 子が継ぐ ↓ 檀家として寺院を支える ↓ 住民が共同作業を行う

という一連の仕組みが成立していた地域でも、今後30年間同じ人口構造が続くわけではありません。

だからといって、直ちに寺院や墓をなくす必要もありません。

必要なのは、

残したいものと、そのために必要な作業を分けて考えること

です。

故人を追悼すること。

遺骨を適切に管理すること。

寺院が宗教活動を続けること。

墓地を草刈りすること。

墓石を一家ごとに永久管理すること。

地域住民が無償で共同作業すること。

これらをすべて一つの制度として将来まで維持する必然性はありません。

今後は、

「何を残すか」ではなく、「何を残すために、どの作業まで残す必要があるのか」

という順序で考える方が合理的です。

そして30年後になって管理する人がいなくなってから対応するのでは遅すぎます。

今後10年程度の間に、

現状把握 ↓ 承継確認 ↓ 省力化 ↓ 共同管理 ↓ 外注 ↓ 個別墓・合葬墓などの選択肢整備

を段階的に検討しておく。

これが、特定の宗教観や従来の風習に依存せず、現在確認できる人口動態から考えた場合の、比較的現実的な方向ではないでしょうか。

人口減少社会で必要なのは、次世代に「今まで通り続けてほしい」と頼むことではなく、次世代が無理なく維持できるところまで、現在の世代が仕組みを軽くしておくことです。

それは墓や寺を否定することではなく、むしろ人口が減った後にも必要なものを残すための再設計だと考えられます。

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政治参加の拡大と、分断・誤情報・「敵と味方」の政治

SNS(Social Networking Service・ソーシャル・ネットワーキング・サービス)は、政治と市民の関係を大きく変えた。

かつて政治家が多数の有権者へ直接語りかけるには、新聞、テレビ、政党組織、集会などを介する必要があった。しかし現在では、一人の政治家がスマートフォンから発信した短い文章や動画が、数時間のうちに数十万、場合によっては数百万人へ届く。

同時に、有権者自身も政治的な意見を発信し、政治家へ直接質問し、他の有権者とつながることができるようになった。

これは民主主義にとって明らかな前進の側面を持つ。

しかし、その同じ仕組みが、社会の分断、誤情報の拡散、政治的な敵味方の単純化、既存制度への不信を増幅する可能性も指摘されている。

特にSNSと親和性が高いとされるのが「ポピュリズム」である。

問題は、ポピュリズムそのものを善悪で評価することではない。

重要なのは、

SNSという情報環境の中にポピュリズムが置かれたとき、民主主義のどの機能が強まり、どの機能が弱くなるのか

を分けて考えることである。

2026年までに蓄積された研究を見ると、その答えは「民主化か民主主義の破壊か」という単純な二択ではない。


1.そもそもポピュリズムとは何か

ポピュリズムには複数の定義があるが、政治学では一般に、

「普通の人々」あるいは「真の人民」と、「腐敗したエリート」を対置し、政治は人民の意思を反映すべきだと考える政治的発想

として捉えられることが多い。

ここで注意すべきなのは、ポピュリズムが右派だけに存在する思想ではないことである。

反移民や国家主義と結び付いた右派ポピュリズムもあれば、経済格差や富裕層・大企業への批判を中心とする左派ポピュリズムも存在する。

そのためポピュリズムそのものを、保守・革新、右・左という一本の軸だけで分類することは難しい。

2025年の政治学研究でも、ポピュリズムは世界各国の民主主義に共通して現れる現象であり、一定の定義上の合意が形成されつつある一方、その政治的結果は政治制度や社会状況によって異なることが確認されている。

さらに2026年に発表されたデジタル・ポピュリズム研究の系統的レビューでは、2015年から2025年初頭までの実証研究を横断的に検討した結果、デジタル・プラットフォームが現代のポピュリズムにとって重要な情報インフラになっていることが示されている。

つまり、

SNSがポピュリズムを生み出したわけではないが、ポピュリズムが広がりやすい情報環境をSNSが提供している

と考える方が正確である。


2.SNSがもたらした最大のメリット――政治参加への参入障壁を下げた

SNSの民主主義への影響を考える際、負の側面だけを見るのは適切ではない。

世界各国の496本の研究を検討した大規模な系統的レビューでは、デジタルメディアの利用と、

  • 政治情報への接触
  • 政治参加
  • 市民による政治的動員

との間に肯定的な関連が多数確認されている。

特に新興民主主義国や権威主義的な政治体制では、デジタルメディアが政治参加や情報取得を広げる効果が比較的強く観察された。

これは重要な意味を持つ。

従来の政治では、

政治家 ↓ 新聞・テレビ ↓ 有権者

という情報伝達が中心だった。

SNSでは、

政治家 ↕ 有権者 ↕ 有権者

という水平的なネットワークが加わる。

従来なら新聞社やテレビ局に取り上げられなければ全国的な論点になりにくかった問題でも、市民自身が情報を発信できる。

地方の問題、少数者の問題、行政サービスの不備、災害現場の状況などが、既存メディアを経由せず社会的議題になる可能性が生まれたのである。

この意味でSNSは、政治的発言の「入口」を大きく広げた。


3.実際にSNSは政治参加を増やすのか

この問題については、興味深い実験研究がある。

2020年の米国大統領選挙期間中にFacebookとInstagramの利用を停止させる実験を分析した研究では、SNSへのアクセスを停止した参加者で政治参加を示す指標が低下した。

特に政治について議論したり、政治的な活動に参加したりする行動への影響が確認された。

この結果は、

SNSは単なる娯楽媒体ではなく、少なくとも一部の人々にとって政治参加を促進する社会インフラになっている

ことを示している。

したがって、

「SNS政治=民主主義に有害」

と単純に結論づけることは実証研究とは一致しない。


4.しかし「参加者が増えること」と「民主主義の質が上がること」は同じではない

ここにSNS時代の重要な問題がある。

民主主義には少なくとも二つの側面がある。

第一は、

多くの人が政治に参加できること。

第二は、

異なる意見を持つ人々が、事実を共有しながら妥協可能な結論を形成すること。

SNSは第一の機能を強化する一方、第二の機能については問題を生じさせる可能性がある。

前述の496研究を分析したレビューでも、デジタルメディアには政治参加などのプラスの関連がある一方、

  • 政治的不信
  • ポピュリズム
  • 政治的分極化

との関連も確認された。

しかも、これらの負の関連は、成熟した民主主義国家で比較的強く観察されている。

ここから、

政治参加の「量」が増えても、民主的議論の「質」まで自動的に高まるわけではない

という重要な区別が生まれる。


5.SNSとポピュリズムが結び付きやすい理由

ポピュリズムの基本的な語りは、複雑な政治状況を比較的分かりやすい対立構造に変換する。

典型的には、

「普通の国民」対「既得権益」

「国民」対「政治エリート」

「われわれ」対「彼ら」

という構図である。

これは短文、短い動画、画像などで情報を消費するSNSとの相性が良い。

2026年の研究では、ポピュリスト的なSNS投稿は、統治や政策遂行を中心に語る投稿よりも「怒り」や「恐怖」に訴える傾向が強いことが報告されている。

このこと自体が直ちに悪いわけではない。

政治的不正や社会的不平等に対する怒りが政治改革の原動力になることもあるからだ。

しかし、怒りを動員することが政治的競争で有利になると、

問題を解決する政治より、怒りを継続させる政治の方が支持を集めやすくなる

という逆説が生じる可能性がある。


6.最大の問題の一つ――「政策対立」が「人間集団の対立」に変わる

政治的分極化には二つの異なる概念がある。

例えば、

「税率を何%にするか」

「社会保障をどこまで拡大するか」

という政策上の意見の違いは、民主主義では当然存在する。

問題となるのは、

「反対政党を支持している人間そのものが嫌いだ」

という感情的対立である。

これは「感情的分極化」と呼ばれる。

2024年に発表された大規模実験では、政治的に同質な集団、いわゆるエコーチェンバー的な環境が、集団間の分極化を強める因果的効果を持つことが示された。

さらに2025年のScience誌掲載研究では、SNS上で敵対的な党派感情を強める投稿への接触を増減させる実験によって、そのようなコンテンツへの接触を増やすと感情的分極化と否定的感情が高まることが示された。

ここで重要なのは、

SNS全体が自動的に人を過激化させる

とまでは研究から言えないことである。

どのような情報を、どの程度、どのアルゴリズムで提示するかによって結果は変わる。

実際、2020年米国大統領選挙時のFacebookとInstagramを対象にした大規模実験では、フィードのアルゴリズムを変更しても、一部の政治的態度について大きな変化が確認されなかった。

したがって、

「アルゴリズムだけが社会の分断を生み出した」

という説明も単純化しすぎである。


7.誤情報はなぜポピュリズムと結び付きやすいのか

ポピュリスト政治においてもう一つ重要なのが、既存制度への不信である。

政府、議会、官僚、大学、専門家、新聞、テレビなどが「エリート側」と認識されると、それらが提供する情報そのものが疑われやすくなる。

ここに誤情報が入り込む余地が生まれる。

問題は単に「嘘を信じる人がいる」ことではない。

より深刻なのは、

何を事実判定の基準にするのかという社会的合意そのものが失われること

である。

研究でも、政治的な偽情報やヘイトスピーチへの接触と政治的分極化との関連が報告されている。

さらに2024年の研究では、陰謀論的な情報がSNS上でどのように注目を集め、継続的なエンゲージメントを獲得するかが分析されている。

民主主義では政府を疑うこと自体は必要である。

むしろ権力を監視することは民主主義の基本原則である。

しかし、

「政府が間違っている可能性がある」

という健全な懐疑と、

「政府が言うことだからすべて嘘だ」

という全面的不信は異なる。

後者が広がれば、民主主義に必要な共通の事実認識が形成できなくなる。


8.「多数派の意思」だけでは民主主義にならない

ポピュリズムと民主主義を考える上で、さらに重要なのがこの点である。

民主主義は単純な多数決だけでは成立しない。

現代の立憲民主主義には、

  • 選挙
  • 法の支配
  • 権力分立
  • 表現の自由
  • 報道の自由
  • 少数者の権利
  • 司法の独立
  • 公正な選挙制度

などが必要になる。

ところがポピュリズムが極端になると、

「自分たちこそ本当の国民である」

という発想が生まれる場合がある。

すると反対する人々は、

「別の政策を支持する国民」

ではなく、

「国民の利益を妨害する敵」

として扱われる可能性がある。

ここが民主主義との緊張点である。

選挙で多数を獲得することと、反対派の権利まで保障する民主主義を維持することは同義ではない。


9.それでもポピュリズムには民主主義的な役割がある

一方、ポピュリズムを民主主義の「病気」とだけ評価するのも適切ではない。

既存政党が扱わなくなった問題を政治課題として提示する機能を持つからである。

例えば、

生活費の上昇、

地方の衰退、

雇用不安、

移民政策、

所得格差、

行政や政治家への不信

などについて、主要政党が十分に対応していないと感じる有権者が増えれば、その不満を政治システム内部へ戻す役割をポピュリスト政党が果たすことがある。

つまりポピュリズムは、

民主主義に対する脅威であると同時に、既存民主主義が十分に機能していないことを知らせる警報装置

でもあり得る。

ポピュリズムを排除するだけでは、その背景に存在する政治的不満そのものは解消されない。


10.SNSは「民意」を正確に表しているのか

もう一つ注意しなければならないのは、

SNS上で目立つ意見=社会全体の多数意見

とは限らないことである。

SNSでは投稿する人と投稿しない人がいる。

さらに政治について頻繁に発信する人は、一般人口から無作為抽出された標本ではない。

2025年に発表されたTikTokの大規模データ分析でも、コンテンツ制作への参入は容易になったものの、実際の発信量や注目は少数の非常に活発な利用者に集中する傾向が確認されている。

これは政治情報を考える上でも重要である。

SNSである意見が大量に流れているからといって、

「国民の大多数がそう考えている」

とは統計的には言えない。

SNSは世論調査ではない。

むしろ、

発言意欲 × 投稿頻度 × 拡散力 × 推薦アルゴリズム

によって可視性が決まる情報空間である。

したがって、SNS上の政治的盛り上がりと国民全体の世論は区別して分析する必要がある。


11.アルゴリズムが政治を左右する新しい時代

従来のマスメディアでは編集者がニュースの掲載順位を決めていた。

SNS時代には、その一部を推薦アルゴリズムが担っている。

利用者が何を見るかは、

フォロー関係だけではなく、

閲覧履歴、

クリック、

「いいね」、

コメント、

視聴時間、

共有

など多数の要因から決定される。

2026年には、TikTok上で政治情報の推薦に党派的な非対称性が存在することを示した大規模研究も発表された。研究者は、アルゴリズム推薦型プラットフォームにおける政治情報への接触に偏りが生じ得るとして、民主的議論との関係を指摘している。

ただし、これも「SNS企業が特定思想を意図的に支持している」と直ちに意味するわけではない。

重要なのは、

アルゴリズムによる情報配信そのものが政治的結果を持ち得る

ということである。


12.SNS時代に民主主義を守るには何が必要か

問題への対応として、単純にSNSを規制すればよいわけではない。

過度な規制は表現の自由や政治参加を損なう可能性がある。

逆に完全な自由放任では、誤情報、組織的情報操作、人工的な拡散などへの対応が困難になる。

現実的には、

「発言内容を国家が管理する」のではなく、「情報がどのような仕組みで拡散されているかの透明性を高める」

方向が重要だろう。

例えば、

政治広告の透明化、

推薦アルゴリズムの検証、

ボットや組織的情報操作への対応、

研究者によるプラットフォームデータへのアクセス、

ファクトチェック、

メディア・リテラシー教育、

複数の情報源を比較する習慣

などである。

実際、2026年時点の研究動向でも、SNSとポピュリズムの関係について研究は急速に蓄積している一方、国・文化・プラットフォームによる差が大きく、因果関係を確定するためには研究設計やデータへのアクセスをさらに改善する必要があると指摘されている。


13.結論――問題は「ポピュリズム」そのものより、民主主義が複雑さを失うことにある

SNS時代のポピュリズムを考えるとき、

「SNSが民主主義を破壊した」

あるいは、

「SNSによって真の民意が政治に反映されるようになった」

というどちらか一方の説明では不十分である。

最新の研究から見えてくるのは、むしろ二面性である。

SNSは政治参加のコストを下げ、これまで政治に声を届けにくかった人々にも発言の機会を提供した。

既存政党や既存メディアが見落としてきた問題を社会的議題にする力も持っている。

その意味では民主主義を拡張した。

しかし同時に、

怒り、

恐怖、

敵味方の区分、

短い断定、

陰謀論、

政治的不信

といった情報も高速で拡散できる。

その結果、

「何を政策として選ぶか」

という政治から、

「誰が敵で誰が味方なのか」

という政治へ移行する危険が生まれる。

民主主義にとって本当に危険なのは、政治的対立そのものではない。

民主主義はそもそも異なる利害や価値観を持つ人々が共存するための制度だからである。

危険なのは、

反対意見を持つ人を、同じ社会の一員ではなく排除すべき敵と考えるようになること

である。

ポピュリズムが既存政治の問題を可視化し、市民を政治へ参加させるのであれば、それは民主主義の修正機能になり得る。

一方で、

「自分たちだけが本当の国民である」

「反対する者は敵である」

「専門家や報道機関の情報はすべて信用できない」

という方向へ進めば、民主主義を支える制度そのものを弱める可能性がある。

SNS時代に必要なのは、ポピュリズムを禁止することでも、政治的感情を排除することでもない。

必要なのは、

政治参加を広げるSNSの利点を残しながら、異なる意見を持つ人々が共通の事実を基礎として議論できる環境を維持すること

である。

SNSによって「発言できる民主主義」は大きく進んだ。

次に問われているのは、

「聞き合い、検証し、妥協できる民主主義」をSNS時代にどう構築するか

なのではないだろうか。


地域の課題を、自分の判断に置き換えて考える

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人口減少地域で「家の墓」を30年後まで維持できるのか~墓石・菩提寺・護持会を人口構造から考え直す

地方では、墓地の草刈り、墓石の清掃、墓地周辺の整備、寺院境内の清掃、護持会の行事などを、檀家や地域住民自身が担っているところがあります。

これまでは、それが特に問題にならない地域もありました。地域に一定数の現役世代が住み、親から子へ役割が引き継がれ、複数の世帯で作業を分担できたからです。

しかし、今後30年間を考えると、この仕組みをそのまま維持できるとは限りません。

重要なのは、墓や寺を「残すべきか、なくすべきか」という二者択一ではありません。

人口と世帯構造が変化したとき、現在の維持方法が物理的に成立するのか。

この点を、宗教観や昔からの慣習とはいったん切り離し、人口、労働、費用、管理という視点から検討する必要があります。

最初に結論

人口減少地域では今後、

「家ごとに墓を持ち、子孫が管理し、地域や檀家が共同作業で寺院と墓地を維持する」という仕組みについて、30年間そのまま継続できることを前提にしない方が合理的です。

これは、従来の墓制や寺院制度を否定するという意味ではありません。

国立社会保障・人口問題研究所の推計では、2050年に向けて単独世帯の割合が全都道府県で上昇します。2050年には21県で、世帯主が65歳以上の世帯が全世帯の50%を超え、32道府県では65歳以上の単独世帯が全世帯の20%を超えると推計されています。75歳以上の独居率についても、ほぼすべての都道府県で20%を超える見通しです。([IPSS][1])

したがって問題は、

「若い人が墓を守ろうとするか」

だけではありません。

そもそも管理作業を行える人が地域内に何人残るのか

という問題になります。

今から必要なのは、従来方式を守る方法だけを探すことではなく、

墓、遺骨、追悼、寺院運営、地域共同作業を一度別々の機能に分解し、人口が減っても維持できる仕組みに再設計すること

だと考えられます。


1.30年後には「世帯そのもの」が大きく変わる

国立社会保障・人口問題研究所の2023年地域別将来推計人口は、2020年国勢調査を基準として、市区町村別に2050年までの人口を推計しています。つまり、現在から約30年間という期間は、行政自身が地域人口を考える標準的な長期スパンでもあります。([IPSS][2])

同研究所の世帯推計を見ると、問題は単なる人口減少ではありません。

世帯が小さくなります。

全国推計でも、将来の高齢単独世帯について、子どもがいない人や兄弟姉妹の少ない人が増え、近親者が全くいない高齢単独世帯が増加すると想定されています。([IPSS][3])

ここが墓地問題にとって重要です。

例えば現在、

  • 80歳の親が墓を管理する
  • 55歳の子が草刈りを手伝う
  • 孫世代も盆や彼岸に帰省する

という家族が存在していたとしても、30年後まで同じ構造が続く保証はありません。

子が遠隔地に住んでいるかもしれません。

子ども自体がいない世帯もあります。

兄弟姉妹が少なければ、一人の親族に複数の墓や実家、親族関係の管理が集中することも考えられます。

したがって、

人口減少+高齢化+小世帯化+親族数の減少

を一体として考える必要があります。


2.墓の問題は「墓参り」だけではない

墓を維持する作業は、墓参りだけではありません。

地域や墓地によって異なりますが、一般的には、

  • 墓石の清掃
  • 除草
  • 落ち葉の処理
  • 樹木管理
  • 通路清掃
  • 墓石や外柵の補修
  • 管理費の支払い
  • 墓地使用者の名義承継
  • 寺院との連絡
  • 法要
  • 墓地全体の共同作業

などが発生します。

寺院墓地では、これに寺院や檀家組織の維持が関係する場合があります。

ここでいう護持会とは一般に、寺院や墓地などを維持するため檀家等が組織する団体を指しますが、全国一律の制度ではありません。

寺院によって名称、会費、作業内容、加入方法は異なります。

したがって「全国の護持会員が何人減少している」という統一的な公的統計は確認困難です。

一方、文化庁によると、2024年12月31日時点で仏教系の宗教法人は全国に7万6千法人余り存在しており、日本には依然として非常に多くの寺院等の宗教法人が存在します。([文化庁][4])

つまり、

墓を管理する家族側だけが問題なのではなく、多数の寺院・墓地を誰が維持するのかという供給側の問題も同時に存在する

わけです。


3.若い世代の人数が減れば、一人当たりの負担は増える

問題を単純化して考えてみます。

ある地域に、

墓地利用世帯 100世帯 共同作業参加可能者 50人

がいたとします。

1人当たりの平均負担を概念的に、

共同作業負担 =必要作業量 ÷ 作業可能人数

と考えます。

これは公式な指標ではなく、問題を整理するための概念式です。

必要作業量が変わらないまま作業可能者が50人から25人になれば、

50人の場合 100 ÷ 50 = 2

25人の場合 100 ÷ 25 = 4

となり、単純化すれば一人当たりの負担は2倍になります。

実際には高齢者が完全に作業不能になるわけではありませんし、機械化や外注もできます。

したがって現実がこの通りになるという意味ではありません。

しかし、

管理対象があまり減らず、管理する人だけが先に減少すると、一人当たり負担が増える

という構造自体は変わりません。

これは墓地だけの問題ではありません。

地域の草刈り、道路清掃、神社、集会所、水路、自治会、消防団などでも同じ現象が発生します。


4.墓は人口と同じ速度では減らない

ここにはもう一つ重要な問題があります。

人口が半分になったからといって、既存の墓石が直ちに半分になるわけではありません。

人口は減少しても、過去につくられた墓は残ります。

したがって一定期間、

管理対象となる墓の数 ÷ 管理可能な住民数

は上昇する可能性があります。

これが一般住宅との違いです。

住宅なら空き家になった後、売却や解体という選択肢があります。

墓の場合には、埋蔵されている遺骨、墓地使用権、墓地管理者との関係、改葬手続きなどが絡みます。

墓地、埋葬等に関する法律の下では、遺骨を別の墓地や納骨堂へ移す「改葬」には市町村長の許可が必要です。また無縁墳墓を改葬する場合にも一定の手続きが定められています。([厚生労働省][5])

したがって、

「誰も管理しなくなったので、そのまま撤去する」

というほど単純ではありません。


5.無縁墓はすでに行政課題になっている

この問題は30年後に突然始まる話でもありません。

厚生労働省は2025年3月、全国の自治体や一定の民営墓地を対象とした調査を踏まえ、「縁故者情報の事前把握に関する事例調査」を自治体へ通知しています。

その中で厚生労働省は、無縁墳墓について、管理が不十分になることによって墓地経営へ支障が生じる懸念があることを明示しています。また、墓地使用者以外の縁故者についても、連絡先をあらかじめ把握する取組が有効だとしています。([厚生労働省][6])

つまり国もすでに、

墓地使用者が亡くなってから次の管理者を探す方式だけでは問題が生じる

ことを政策課題として認識しています。

また厚生労働省は以前から、墓地の使用契約について、無縁墓になった場合にどのように扱うのか、管理料との関係や契約解除、合葬墓への移行などを事前に明確にする必要性を指摘しています。([厚生労働省][7])

したがって、墓の継承問題を「各家庭だけの問題」と見ることにも限界があります。


6.「墓じまいが増えているから全部なくせばよい」でもない

一方で、逆方向への飛躍にも注意が必要です。

政府の衛生行政報告例では、全国の改葬件数が毎年集計されています。2024年度についても都道府県別の改葬統計が公表されています。([e-Stat][8])

しかし、

改葬が増えている =墓そのものが社会から不要になっている

とは言えません。

改葬には、

  • 遠方の墓を自宅近くへ移す
  • 寺院墓地から別の墓地へ移す
  • 個人墓から合葬墓へ移す
  • 納骨堂へ移す

など、さまざまな場合があります。

したがって、改葬件数だけから国民の宗教意識や墓への考え方まで断定することはできません。

ここで考えるべきなのは思想ではなく、

今後も管理できる形へ墓の形態を変更しようとする需要が実際に存在している

という点でしょう。


7.本当の問題は「墓」よりも管理方式にある

30年後を考えると、論点を次の4つに分けた方が分かりやすくなります。

①遺骨をどこに置くか

個別墓 合葬墓 納骨堂 樹木葬 その他の適法な方法

②故人をどのように追悼するか

墓参 法要 家庭での追悼 寺院での供養 その他

③墓地を誰が維持するか

家族 寺院 墓地管理者 業者 自治体等

④寺院を誰が支えるか

檀家 利用者 寄付 宗教法人としての収入 その他

現在は、この4つが一体化している場合があります。

しかし、論理的には別の問題です。

例えば、

先祖を大切にすること

子孫が毎年墓地の草刈りを行うこと

は必ずしも同じことではありません。

また、

寺院の宗教活動を支えること

高齢住民が境内整備を無償労働で続けること

も必ずしも不可分ではありません。

ここを分離して考えることが、30年後の制度設計では重要になります。


8.「若い人に引き継ぐ」という解決策には限界がある

現在の方式では、

「高齢者ができなくなったら若い人がやればよい」

と考えやすいところがあります。

しかし人口減少地域では、この前提自体を検討する必要があります。

例えば、

高齢世代 80人 若年・中年世代 40人

という地域が、

30年後に、

高齢世代 50人 若年・中年世代 15人

となったとします。

高齢者が30人減ったからといって、作業が軽くなるとは限りません。

残された15人が、

自治会 墓地 寺院 道路清掃 消防 祭事 家族の介護

などを同時に担う可能性があります。

したがって、

若者が地域活動に参加しなくなった

という個人の意識問題として処理してしまうと、本質を見誤ります。

問題は、

一人の現役世代に何種類の地域維持作業を負担させるのか

だからです。


9.今から検討すべき方向は「人を増やす」より「作業を減らす」

人口減少地域では、今後の制度設計について重要な順序があります。

従来の考え方は、

必要作業量を維持する ↓ 参加者を集める

となりがちです。

しかし人口そのものが減る場合には、

最初に必要作業量を減らせないか

を考えた方が合理的です。

例えば、

年4回の共同作業 ↓ 年2回へ

全面人力除草 ↓ 防草化+必要部分のみ除草

各家が個別管理 ↓ 墓地全体で一括管理

無償労働 ↓ 管理費を徴収して業者委託

全員一律参加 ↓ 参加と金銭負担を選択可能にする

といった方法です。

どれが正しいということではありません。

重要なのは、

人口が減った後も同じ作業量を維持するという前提を外す

ことです。


10.個別墓を永久に継承する前提も検討対象になる

墓地についても同じです。

現在の墓地面積を将来も維持すると仮定すれば、

墓地管理負担 =墓地区画数 × 1区画当たり管理量

と概念的に考えることができます。

これも公式指標ではありません。

例えば1,000区画を管理する地域で、利用世帯が減り続ければ、一世帯当たりの管理費や共同作業負担が増える可能性があります。

そこで将来的には、

個別墓 ↓ 一定期間個別管理 ↓ 期間終了後に合葬

といった仕組みも一つの選択肢になります。

実際に、一部自治体では既に合葬式墓地を整備し、将来需要を推計しながら墓地政策そのものを再設計しています。

したがって、

「墓は永遠に同じ家系が管理するもの」

という前提を行政や墓地経営の設計条件にする必要はありません。


11.寺院についても「宗教」と「施設管理」を分ける必要がある

菩提寺についても同様です。

寺院には、

宗教活動 法要 墓地管理 建物管理 境内管理 文化財管理 地域行事

など多くの機能があります。

しかし人口が減少すれば、それらすべてを同じ人数の檀家が支え続けることは難しくなる可能性があります。

例えば寺院維持費を概念的に、

寺院年間維持費 =建物維持費 +境内管理費 +墓地管理費 +宗教活動費 +事務費 +その他

と考えます。

檀家数が半分になっても建物の屋根面積が半分になるわけではありません。

境内面積も半分にはなりません。

そのため、

人口減少より費用の減少が遅ければ、一世帯当たり負担は上昇します。

これは寺院の善悪とは無関係な固定費の問題です。


12.今から30年間を三段階に分けて考える

地域として現実的なのは、一気に制度を変えることではありません。

例えば今後30年を、

第1段階 現在~10年

現状把握

  • 墓地区画数
  • 使用者年齢
  • 承継予定者
  • 連絡可能な親族
  • 年間管理費
  • 共同作業回数
  • 延べ作業時間
  • 参加者年齢
  • 寺院維持費

を把握します。

第2段階 10~20年

縮小と省力化

  • 防草化
  • 機械化
  • 外注
  • 共同管理
  • 合葬墓
  • 納骨施設
  • 管理作業回数削減
  • 墓地面積の段階的縮小

などを検討します。

第3段階 20~30年

人口規模に合わせた体制へ移行します。

この方法なら、

「突然昔の制度を全部廃止する」

必要はありません。


13.費用負担と労働負担を分けることも重要

これから特に問題になるのが、

「作業に参加できない人はどうするのか」

です。

高齢者、障害のある人、遠隔地居住者、介護中の人、仕事のある人など、参加できない理由はさまざまです。

ここで、

参加できない =地域への協力意思がない

と判断する方式は持続しにくくなるでしょう。

むしろ、

地域維持負担 =金銭負担+労働負担

と考え、

作業できる人 →作業

作業できない人 →一定の金銭負担

どちらも難しい人 →減免

といった制度の方が人口構造には適応しやすくなります。

ただし、実際の制度については各墓地、寺院、宗教法人、地域組織ごとに法的関係や規約が異なるため、一律には決められません。


14.完全な民間委託にも問題はある

それでは全部を業者に委託すれば解決するのでしょうか。

必ずしもそうではありません。

外注すれば、

住民労働 ↓ 事業者への支払い

に変わります。

つまり負担が消えるのではなく、

時間負担が金銭負担に変わる

だけです。

さらに人口の少ない地域では、

  • 移動距離
  • 作業量の少なさ
  • 人手不足

によって、業者側の採算が悪くなる可能性もあります。

墓地管理についても、

委託費 =人件費 +移動費 +機械費 +処分費 +管理費 +事業者利益

が必要です。

したがって、

「外注すれば解決する」

という結論も適切ではありません。


15.合葬墓だけですべて解決するわけでもない

合葬墓や納骨堂には、

  • 個別墓より管理面積を小さくできる
  • 承継者を必要としない方式を採用できる
  • 家族の管理労力を減らせる

などの利点があります。

しかし、

誰が施設を管理するのか 建設費はいくらなのか 修繕費をどうするのか 運営主体が将来存続するのか

という問題は残ります。

したがって、

個別墓から合葬墓へ変更 =管理問題解決

ではありません。

より正確には、

家族単位で分散していた管理を、管理主体へ集約する方法

です。


16.今後必要なのは「墓じまい推進」ではない

ここは特に重要です。

人口減少地域の将来対策を、

墓じまいを増やす政策

と理解するのは適切ではありません。

個人墓を残したい家庭が維持可能なら、残すことに問題はありません。

親族が多く、近隣に居住し、費用負担も可能なら従来方式が成立する家庭もあるでしょう。

反対に、

承継者なし 遠距離 管理困難 高齢化

という家庭まで同じ方式を要求すると、無理が生じます。

したがって必要なのは、

選択肢を増やすこと

でしょう。

個別墓を続ける人 一定期間後に合葬する人 生前に改葬する人 寺院管理へ移す人

が、それぞれ選択できる状態です。


17.30年後から考えると「今」が重要になる

墓地問題には大きな時間差があります。

現在60歳の人は2050年代には80~90歳代です。

現在30歳の子世代も60歳前後になります。

つまり、

現在「若い人」と考えている世代までが高齢者になる頃の制度を、現在の高齢者が中心となって設計している

ということです。

今の70歳代が、

「自分が動けなくなれば50歳代がやる」

と考えても、その50歳代は20年後には70歳代です。

そこで再び次世代へ引き継ぐ方式では、人口が減少し続ける地域ではどこかで成立しなくなる可能性があります。

だからこそ、

次の世代へ同じ仕事を渡すのではなく、次の世代が引き継ぐ仕事そのものを減らす

という発想が必要になります。


18.地域で今から確認しておきたい数字

感覚だけで議論するより、例えば一つの墓地や寺院について次の数字を調べるだけでも将来像がかなり見えてきます。

  1. 現在の墓地区画数
  2. 実際に管理されている区画数
  3. 管理者の平均年齢
  4. 70歳以上の管理者数
  5. 承継予定者が確認できる区画数
  6. 年間共同作業回数
  7. 1回当たり参加人数
  8. 年間延べ作業時間
  9. 年間管理費
  10. 10年以内に承継問題が生じそうな区画数

例えば、

将来管理可能率 =承継見込みのある区画数 ÷ 現在の管理区画数

という独自指標を作ることもできます。

これは公式指標ではありません。

しかし、

現在200墓あり、承継者を確認できる墓が100墓しかない

のであれば、

「現在200墓とも管理されているから問題ない」

とは評価できなくなります。


19.公開資料だけでは分からないことも多い

一方、この問題には全国統計だけでは判断できない部分があります。

特に、

  • 護持会の作業参加人数
  • 檀家の平均年齢
  • 墓の承継者の有無
  • 草刈り時間
  • 一世帯当たり実質負担
  • 寺院ごとの財務状態

について全国的に統一された詳細統計はありません。

したがって、

「地方寺院の○%が30年以内になくなる」

「墓地の○%が無縁墓になる」

といった数字を、現在の公的資料だけから断定することはできません。

この記事でもそこまでは推計しません。

しかし、

人口、世帯、高齢化、独居の方向については公的推計が存在し、無縁墳墓についても既に国が対策を始めています。 ([IPSS][9])

したがって「何も変えなくても今後30年間維持できる」と仮定することにも十分な根拠はありません。


現実的な結論

人口減少地域における墓地と菩提寺の問題は、単なる「墓じまい」の問題ではありません。

より大きな、

地域の共同管理システムを、人口減少社会でどう維持するか

という問題です。

これまで、

家が墓を持つ ↓ 子が継ぐ ↓ 檀家として寺院を支える ↓ 住民が共同作業を行う

という一連の仕組みが成立していた地域でも、今後30年間同じ人口構造が続くわけではありません。

だからといって、直ちに寺院や墓をなくす必要もありません。

必要なのは、

残したいものと、そのために必要な作業を分けて考えること

です。

故人を追悼すること。

遺骨を適切に管理すること。

寺院が宗教活動を続けること。

墓地を草刈りすること。

墓石を一家ごとに永久管理すること。

地域住民が無償で共同作業すること。

これらをすべて一つの制度として将来まで維持する必然性はありません。

今後は、

「何を残すか」ではなく、「何を残すために、どの作業まで残す必要があるのか」

という順序で考える方が合理的です。

そして30年後になって管理する人がいなくなってから対応するのでは遅すぎます。

今後10年程度の間に、

現状把握 ↓ 承継確認 ↓ 省力化 ↓ 共同管理 ↓ 外注 ↓ 個別墓・合葬墓などの選択肢整備

を段階的に検討しておく。

これが、特定の宗教観や従来の風習に依存せず、現在確認できる人口動態から考えた場合の、比較的現実的な方向ではないでしょうか。

人口減少社会で必要なのは、次世代に「今まで通り続けてほしい」と頼むことではなく、次世代が無理なく維持できるところまで、現在の世代が仕組みを軽くしておくことです。

それは墓や寺を否定することではなく、むしろ人口が減った後にも必要なものを残すための再設計だと考えられます。

地域の課題を、自分の判断に置き換えて考える

有限会社アードレでは、住まい・車・移住などの大きな選択を、 費用や将来条件をもとに数字で比較し、判断できる形に整理しています。

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はじめに

地方では、「町の本屋がなくなった」という話を聞くことが珍しくなくなりました。

千葉県の外房地域でも、茂原市、いすみ市、勝浦市、鴨川市、館山市などには現在も書店がありますが、市町村によって状況は大きく異なります。

一方、公共図書館についても、すべての自治体が同じ規模の図書館を持っているわけではありません。

市立・町立図書館を設置している自治体がある一方、公民館の一角に図書室を設けている自治体もあります。

さらに、2025年3月には茂原市立図書館が茂原ショッピングプラザアスモ内へ移転し、2026年7月1日には、いすみ市で初めて「いすみ市図書館」が開館しました。

外房の読書環境は、一方的に縮小しているわけではありません。

民間の書店は全国的な縮小圧力を受けていますが、公共図書館については再編、移転、新設、デジタル化など別の動きも起きています。

この記事では、

「外房から本を入手する場所はなくなってしまうのか」

という問題を、

  • 書店
  • 公共図書館
  • 公民館図書室
  • 通信販売
  • 電子書籍
  • 人口減少
  • 高齢化
  • 自動車依存
  • 地域拠点

という複数の視点から検討します。


最初に結論~書店と図書館は同じ問題ではない

最初に結論を示すと、今後の外房では、

民間書店は地域中心都市への集中がさらに進む可能性が高い一方、公共図書館・図書室は自治体による公共サービスとして一定程度維持される可能性が高い

と考えられます。

ただし、

書店がある =十分な読書環境がある

でも、

図書館がある =書店がなくても問題ない

でもありません。

両者は役割が異なるからです。

書店は、

「欲しい本を購入する場所」

であり、

図書館は、

「資料へアクセスする公共施設」

です。

したがって地域の読書環境は、

地域の本へのアクセス =書店へのアクセス +図書館へのアクセス +図書館間貸借 +インターネット通販 +電子書籍

という複数の経路で考える必要があります。

これは公式指標ではなく、本記事で地域の読書環境を整理するための考え方です。


全国の書店数は長期的に大きく減少している

まず、外房だけの問題ではないことを確認しておく必要があります。

日本出版インフラセンターの書店マスタを基にした出版科学研究所の統計では、登録書店数は2003年度に20,880店ありました。

2024年度には10,417店となり、さらに2025年度末には9,993店となっています。

つまり約20年間で、

20,880店 ↓ 9,993店

まで減ったことになります。

単純計算では半分以下に近い水準です。

特に重要なのは、一時的な景気後退による閉店ではないことです。

長期間にわたり減少が続いています。

したがって、

「景気が回復すれば昔のように町の本屋が戻る」

と考えることには慎重であるべきでしょう。


紙の出版市場そのものも縮小している

書店経営が難しくなっている背景には、人口減少だけではなく出版市場そのものの構造変化があります。

2025年の紙と電子を合わせた出版市場は約1兆5,462億円でした。

その中で紙の出版物市場は1兆円を下回りました。

一方、紙の書籍販売額は約5,939億円で、前年よりわずかに増加しました。

ここから分かるのは、

「本そのものが完全に読まれなくなった」

という単純な話ではありません。

むしろ、

  • 紙から電子へ
  • 書店からインターネット通販へ
  • 雑誌から別の情報媒体へ

という購入・情報取得手段の変化が進んでいます。

特に雑誌の縮小は書店にとって大きな問題です。

以前の町の書店では、書籍だけでなく、

  • 週刊誌
  • 月刊誌
  • 漫画雑誌
  • 学習雑誌
  • 趣味雑誌

などを定期的に買う顧客が重要でした。

この需要が減ると、来店頻度そのものが低下します。


書店経営を人口だけで説明してはいけない

地方書店の撤退は、

人口減少 ↓ 客が減る ↓ 閉店

だけで説明できません。

書店経営を簡単に表すなら、

書店利益 =書籍・雑誌等の売上 -仕入関連費 -人件費 -家賃 -電気料金 -物流費 -店舗維持費 -その他経費

となります。

人口が減れば売上にはマイナスですが、それだけではありません。

インターネット通販、電子書籍、コンビニエンスストアなどとの競争があります。

さらに地方では、

「町全体では本を買う人がいる」

ことと、

「1店舗を維持できるだけの売上が集中する」

ことは同じではありません。


外房では書店が地域中心都市へ集まりやすい

2026年8月時点で確認できる外房の代表的な書店を見ると、地域差が明確です。

茂原市には蔦屋書店茂原店があります。

館山市には宮沢書店本店や宮沢書店TSUTAYA館山店があります。

鴨川市には鴨川書店やTSUTAYA鴨川店があります。

いすみ市では井上書店、土屋鍾文堂、伊丹屋などの書店が確認できます。

勝浦市にも既存の書店があります。

御宿町にも地域の書店が確認できます。

一宮町には小規模な独立系書店も存在します。

つまり、

「外房にはもう書店がない」

という表現は正確ではありません。

一方、

どの町にも大型書店があり、多数の新刊から自由に選べる環境がある

とも言えません。


外房の書店問題は「ゼロか一か」だけでは測れない

書店については、

書店が存在する =1

存在しない =0

という評価だけでは不十分です。

実際の利便性は、

書店アクセス =店舗数 ×品揃え ×営業時間 ×交通利便性 ×利用者の移動能力

のような要素で決まります。

これも公式指標ではなく、分析のための概念です。

例えば町内に1軒の書店があっても、

  • 欲しい専門書がない
  • 新刊の種類が少ない
  • 自動車がなければ行けない

なら、大都市の書店とは機能が異なります。

逆に小規模書店でも、

  • 教科書
  • 学習参考書
  • 地域資料
  • 文具
  • 地元学校への納品

などを扱うことで、地域では重要な役割を果たしている場合があります。


小さな書店には大型店とは違う役割がある

地方の小規模書店を、

「大型書店より品揃えが少ないから不要」

と評価するのも適切ではありません。

地域書店には、

  • 学校教材
  • 教科書
  • 地域出版物
  • 文具
  • 地域住民からの取り寄せ
  • 行政・学校との取引

など、大型店とは異なる機能があります。

特に高齢者の場合、インターネット通販や電子書籍が使えるとは限りません。

したがって、

Amazonなどがある =地域書店が不要

という関係にはなりません。


ただし小規模書店を公費だけで維持するのも容易ではない

一方で、

「文化的に必要だから書店を補助金で維持すればよい」

という考え方にも限界があります。

民間書店を維持するには継続的な売上が必要です。

書店1店舗を維持する年間必要売上を考えると、

必要売上高 =固定費 ÷粗利益率

という関係があります。

家賃、人件費、光熱費などが存在する以上、一定以上の販売量がなければ営業を続けることはできません。

人口数千人規模の自治体すべてに大型書店を復活させる政策は、現実性が高いとは言えません。


では外房の図書館はどうなっているのか

ここから公共図書館を見ます。

千葉県統計年鑑の2023年度公共図書館統計では、外房・南房総地域に、

  • 茂原市立図書館
  • 勝浦市立図書館
  • 館山市図書館
  • 鴨川市立図書館
  • 南房総市図書館
  • 大多喜町立大多喜図書館天賞文庫

などがあります。

一方、

  • 一宮町
  • 睦沢町
  • 長生村
  • 白子町
  • 長柄町
  • 長南町
  • 御宿町

などでは、公民館や文化施設内の図書室が読書サービスを担っていました。

そして当時のいすみ市も、大原・岬・夷隅の各公民館図書室を中心とする体制でした。

この構造が2026年に変化しました。


いすみ市に2026年7月、市として初めて図書館が開館

いすみ市では2026年7月1日、大原文化センター2階に「いすみ市図書館」が開館しました。

これは重要な変化です。

それまでいすみ市の公共読書施設は公民館図書室を中心としていました。

新しい図書館では、開館時間が午前9時から午後7時となっています。

一方、公民館図書室は午前9時から午後5時です。

図書・雑誌は合わせて10冊まで、3週間借りることができます。

さらに、市内所蔵資料を予約し、図書館だけでなく近くの公民館図書室で受け取る仕組みもあります。

つまり、

大原に中央的図書館 +岬・夷隅の図書室

というネットワーク型に変わったと考えることができます。


いすみ市図書館の本当の意味は建物を一つ増やしたことではない

図書館新設というと、

「立派な建物ができた」

ことが注目されがちです。

しかし地域サービスとして重要なのは建物そのものではありません。

いすみ市の場合、

中央施設 +地域図書室 +蔵書検索 +予約 +取り寄せ

を組み合わせたことに意味があります。

これは人口密度の低い地域では重要です。

市域が広い自治体で、

「全住民が中央図書館まで行く」

ことを前提にするのは現実的ではありません。


外房の図書館規模には大きな差がある

2023年度の千葉県統計年鑑によると、主な施設の蔵書数は次のようになっていました。

施設 蔵書冊数 年間貸出冊数
茂原市立図書館 約23.5万冊 約21.9万冊
館山市図書館 約16.3万冊 約11.2万冊
南房総市図書館 約13.6万冊 約7.2万冊
鴨川市立図書館 約10.6万冊 約10.8万冊
大多喜図書館天賞文庫 約5.0万冊 約3.7万冊
勝浦市立図書館 約4.1万冊 約2.8万冊
当時のいすみ市大原公民館 約5.7万冊 約3.7万冊
長生村文化会館 約3.8万冊 約1.0万冊
睦沢町中央公民館図書室 約3.0万冊 約1.5万冊
長柄町公民館図書室 約2.5万冊 約1.8万冊
白子町青少年センター図書室 約1.6万冊 約0.5万冊
一宮町まちの図書室 約1.5万冊 約1.4万冊
長南町中央公民館 約0.9万冊 約0.2万冊
御宿町公民館 約0.6万冊 約0.2万冊

※2023年度の千葉県統計年鑑「公共図書館」を基礎として整理。2026年現在の蔵書数ではないため、新設・移転・購入・除籍によって現在とは異なる。

この表からも、同じ「図書館・図書室」と呼ばれる施設でも規模が大きく違うことが分かります。


蔵書数だけで図書館を評価してはいけない

ただし、

蔵書20万冊 > 蔵書5万冊

だから前者が5倍優れている、というわけではありません。

重要なのは、

  • 新しい本が継続して入るか
  • 必要な本を探せるか
  • 他館から取り寄せられるか
  • 専門職員に相談できるか
  • 子どもが利用できるか
  • 高齢者が行けるか
  • 学習スペースがあるか
  • 開館時間が利用者に合うか

です。

地方の小規模図書室では、すべての分野の本を大量に持つことはできません。

そこで重要になるのが図書館間のネットワークです。


千葉県では県立図書館から本を取り寄せられる

千葉県では、市町村立図書館や読書施設と県立図書館の間で資料を貸し借りする仕組みがあります。

これは外房の小規模自治体にとって重要です。

例えば、

自分の町の図書室にはない ↓ 県立図書館・他自治体から取り寄せる ↓ 近くの図書室で受け取る

という仕組みが機能すれば、

「小さな町だから数千冊しか利用できない」

という状態をある程度改善できます。

したがって地方図書館では、

自館蔵書数

だけではなく、

利用者がアクセス可能な図書館ネットワーク全体の蔵書

を見る必要があります。


御宿町のような小規模自治体ではネットワークの価値が大きい

御宿町の2023年度統計では、公民館の蔵書規模は約5,900冊でした。

単独の図書館として見れば大きな規模ではありません。

しかし現在の御宿町公民館では、千葉県立図書館資料の取り寄せも可能です。

また、冷暖房やWi-Fi(Wireless Fidelity・無線通信によるインターネット接続環境)があり、学習・読書スペースとしても利用されています。

ここから重要なことが分かります。

小規模自治体では、

巨大図書館を建設する

ことだけが選択肢ではありません。

小規模図書室 +県立図書館 +他市町村図書館 +電子資料

という方法もあります。


茂原市では図書館を商業施設へ移転した

茂原市立図書館は2025年3月21日、茂原ショッピングプラザアスモ内へ移転しました。

これは地方図書館の将来を考えるうえで興味深い例です。

従来の図書館は駅前のサンヴェルビルにありました。

移転先は商業施設です。

商業施設型図書館には、

  • 大きな駐車場
  • 買い物との組み合わせ
  • 子ども連れでの利用
  • 高齢者の利用
  • 建物の共同利用

などの利点があります。

特に自動車依存度の高い外房では、

「駅から近いこと」

だけがアクセスの良さとは限りません。


図書館とショッピングセンターの組み合わせは外房と相性がよい可能性がある

外房の生活では、

スーパー +ドラッグストア +飲食 +銀行ATM(Automated Teller Machine・現金自動預払機) +図書館

などを一度の移動で利用できれば、自動車移動の回数を減らせます。

高齢化地域ではこの効果は無視できません。

利用者移動負担を単純化すると、

生活サービス利用負担 =移動距離 ×訪問回数

と考えることができます。

複数サービスを一つの場所へ集約すれば、訪問回数を減らすことができます。

ただし、商業施設が将来撤退した場合のリスクも考えておかなければなりません。


図書館を新設すれば地域が活性化する、とは限らない

図書館をめぐっては、

「立派な図書館を作れば交流人口が増える」

という議論があります。

実際に全国には、図書館を中心とした複合施設で多数の来館者を集めている自治体があります。

しかし、

図書館建設 =地域活性化

ではありません。

図書館には、

  • 建設費
  • 賃借料
  • 職員費
  • 資料購入費
  • システム費
  • 光熱費
  • 修繕費

が必要です。

重要なのは建設時の来館者数ではなく、

20年、30年にわたり住民が使い続けられるか

です。


書店と図書館は競争相手なのか

「図書館で無料で本を借りられるから書店が売れなくなる」

という議論もあります。

しかし、両者の関係は単純ではありません。

図書館利用者は本への関心が高い人も多く、図書館で知った作家の本を購入することもあります。

一方でベストセラーを大量に貸し出せば、購入需要の一部と競合する可能性も否定できません。

したがって、

図書館 対 書店

という二者択一ではなく、

地域全体で本に触れる人口を維持する

という視点が重要です。


地方では書店と図書館の連携に意味がある

地方では、

図書館が地域書店から本を購入する

ことにも一定の意味があります。

図書館にとっては資料調達であり、地域書店にとっては売上になります。

また、

  • 図書館イベントで地域書店が販売
  • 地域作家の紹介
  • 郷土資料コーナー
  • 読書会
  • ビブリオバトル
  • 子どもの読み聞かせ

なども考えられます。

ただし、これによって地域書店の経営問題がすべて解決するわけではありません。

自治体図書館の年間購入額だけで一般書店を維持できるとは限らないからです。


電子書籍は地方の情報格差を小さくできる

地方にとって電子書籍には大きな利点があります。

物理的な距離がなくなるからです。

電子図書館なら、

自宅 ↓ インターネット ↓ 電子資料

という形で利用できます。

特に、

  • 自動車を運転できない人
  • 高齢者
  • 障害のある人
  • 山間部の住民

には意味があります。

千葉県立図書館でも電子書籍サービスが提供されており、2026年5月末時点で5,600点を超える電子資料が利用可能となっています。


ただし電子書籍ですべて解決するわけではない

電子書籍には限界があります。

すべての本が電子化されているわけではありません。

また、

  • スマートフォン
  • タブレット
  • インターネット
  • 利用者登録
  • 操作能力

が必要です。

高齢者の中には電子サービスを利用しにくい人もいます。

したがって、

電子書籍 =図書館不要

でも、

電子書籍 =書店不要

でもありません。


高齢化地域ほど「移動」が重要になる

外房では、この問題を読書だけで考えてはいけません。

今後、

免許返納 ↓ 自動車移動困難 ↓ 書店・図書館へ行けない

という問題が増える可能性があります。

特に、

店舗や図書館が10キロメートル離れている

場合、

自動車を持つ人には大きな問題でなくても、自動車を持たない人には非常に大きな距離になります。

したがって、

図書館アクセス =施設数

ではありません。

実際には、

図書館アクセス =距離 +交通手段 +開館時間 +身体条件

です。


今後の外房で大型書店が各町に増える可能性は高くない

人口動態と全国の書店数減少を考えると、

御宿町 大多喜町 長南町 長柄町 睦沢町 白子町

など人口規模の小さい自治体に、今後大型総合書店が次々と出店する可能性は高くないでしょう。

これは悲観論ではありません。

商圏規模から考えた経営上の問題です。

大型書店必要商圏 > 単独町村人口

となる場合、複数自治体を商圏として考える必要があります。


外房の書店は「生活圏単位」で考えた方がよい

今後の現実的な構造は、

茂原圏

茂原市を中心に長生郡から利用。

夷隅圏

いすみ市を中心とし、勝浦・御宿・大多喜にも地域書店が存在。

安房圏

館山・鴨川を主要な書籍購入拠点とする。

という形です。

行政区域ごとに大型店を置くよりも、

生活圏単位で一定規模の書店を維持する

方が現実的です。


一方、図書館はもう少し細かい配置が必要

書店と違って公共図書館には社会教育という役割があります。

したがって、

「人口が少ないから全部閉鎖して中心都市の図書館だけ利用すればよい」

とも言い切れません。

子どもや高齢者は自由に自動車で移動できないからです。

したがって外房では、

中心図書館 +地域図書室 +学校図書館 +図書館間貸借 +電子図書館

という構造が合理的です。


いすみ市方式は外房の一つの現実的モデルになり得る

2026年に始まったいすみ市の方式は興味深いものです。

大原に市立図書館を置き、

岬・夷隅には既存の公民館図書室を残す。

さらに、蔵書検索・予約を利用して近くの施設で受け取れるようにする。

これは、

すべての地域に大規模図書館を建設する

わけでも、

中央図書館だけに集約する

わけでもありません。

中央 +分散拠点

という方式です。

人口密度の低い自治体では合理性があります。


今後の図書館に必要なのは「本の倉庫」以上の役割

人口減少が進む地域で図書館を維持するには、

「本が並んでいる施設」

だけでは利用価値が弱くなる可能性があります。

今後は、

  • 読書
  • 学習
  • 調査
  • インターネット利用
  • 地域資料
  • 子育て
  • 高齢者の居場所
  • 市民活動

などを組み合わせる必要があります。

ただし、

何でも図書館に入れればよい

という意味ではありません。


図書館の役割を広げすぎる危険もある

図書館に、

観光 カフェ 交流 子育て イベント コワーキング

などをすべて求める議論があります。

しかし、本来の図書館機能が弱くなってしまえば本末転倒です。

図書館の基本機能は、

  • 資料収集
  • 保存
  • 貸出
  • 調査支援
  • 情報提供

です。

交流施設として人気があっても、必要な資料を探せないなら図書館として十分とはいえません。


今後、重要になるのは蔵書数より「アクセス可能資料数」

地方図書館では、今後この考え方が特に重要になります。

例えば小さな図書室に2万冊しかなくても、

県立図書館 +周辺市町村 +電子書籍

を利用できれば、実際に利用可能な資料ははるかに多くなります。

したがって、

地域読書資源 =自館蔵書 +相互貸借可能蔵書 +電子資料

として考える方が合理的です。

これは本記事での独自整理で、公式指標ではありません。


外房の書店と図書館を維持する現実的な5つの方向

1 地域中心都市の書店を維持する

各町に大型店を復活させるより、

茂原 いすみ 館山 鴨川

などの地域中心都市で一定規模の書店を維持する方が現実的です。


2 小規模書店は専門性を持つ

小規模店が大型店と品揃えだけで競争するのは難しくなっています。

そこで、

  • 地域本
  • 文芸
  • 子どもの本
  • 教科書
  • 学習参考書
  • 独立系出版物

など、地域ごとの特色を持つ方法があります。


3 図書館はネットワーク化する

単独施設ですべてを保有しようとせず、

県立図書館 +市町村図書館 +公民館図書室

を接続します。


4 電子資料を補完的に利用する

紙を廃止するのではなく、

紙 +電子

で利用機会を増やします。


5 図書館を生活動線の中へ置く

茂原市のような商業施設への配置は、その一つの方法です。

買い物と図書館利用を同時に行える場所は、自動車依存地域では一定の合理性があります。


現実性の低い主張

外房の書店・図書館問題について、次のような主張には注意が必要です。

「ネット通販があるから書店はいらない」

高齢者、子ども、地域文化、実際に本を見て選ぶ機能を無視しています。

「図書館があれば書店はいらない」

購入と貸出は役割が異なります。

「すべての町に大型書店を誘致すべきだ」

人口・商圏から成立しない可能性があります。

「立派な図書館を建てれば地域活性化する」

建設費だけでなく長期運営費を見る必要があります。

「電子図書館なら建物はいらない」

デジタル利用が難しい住民もいます。

「書店を補助金で支援すれば維持できる」

補助終了後の採算が必要です。


書店がなくなることには文化以外の問題もある

書店は文化施設として語られがちですが、経済的な側面もあります。

書店では、

「目的の本を買う」

だけではありません。

棚を見ることによって、

知らなかった本 ↓ 関心 ↓ 購入

という偶然の発見があります。

インターネットでは利用履歴に基づく推薦が中心になりやすいのに対し、書店では自分の関心外の本を偶然見る機会があります。

これは数値化しにくい価値です。

ただし、価値があることと、事業として黒字になることは別問題です。


図書館にも同じ問題がある

図書館についても、

社会的に必要 ≠ どの施設規模でも維持可能

です。

図書館の社会的価値と財政負担は両方を見る必要があります。

図書館の社会的便益を概念的に表すなら、

図書館便益 =資料利用価値 +学習機会 +情報格差縮小 +子どもの読書支援 +地域資料保存 +居場所機能 -運営費用

となります。

これも公式の計算式ではありません。

重要なのは、

「赤字だから不要」

でも、

「文化施設だから費用を考えなくてよい」

でもないということです。


外房の今後は「一つの大型施設」ではなく「ネットワーク」にある

外房は人口密度が低く、市町村が広く分散しています。

この地域条件を考えると、

大型書店1店 大型図書館1館

ですべてを解決するのは難しいでしょう。

現実的なのは、

地域書店 +市町村図書館 +公民館図書室 +学校図書館 +県立図書館 +電子書籍 +インターネット通販

を組み合わせることです。


現実的な結論~外房で本へのアクセスをどう残すか

外房の書店と図書館を調べると、二つの異なる流れが見えてきます。

民間書店については、全国的な店舗減少が続いています。

2025年度末には全国の登録書店数が1万店を下回りました。

人口減少が進む外房だけが、この流れから完全に逃れることは難しいでしょう。

今後は、

各自治体に大型書店を維持する構造から、茂原・いすみ・館山・鴨川など地域中心地の書店を周辺地域の住民も利用する構造

が一層強まる可能性があります。

一方、公共図書館では別の動きがあります。

茂原市では2025年に図書館を商業施設へ移転しました。

いすみ市では2026年7月に、市として初めて市立図書館が開館しました。

これは地方の読書環境が単純に縮小しているわけではなく、

施設の再配置とネットワーク化が進んでいる

ことを示しています。


外房の課題は「本がない」ことより「本まで到達できるか」である

今後、高齢化と人口減少が進む外房では、

蔵書が何冊あるか

だけでなく、

住民が実際にその本へ到達できるか

が重要になります。

本へのアクセスを阻害するものは、

本の不足だけではありません。

  • 距離
  • 自動車を運転できるか
  • 開館時間
  • インターネット利用能力
  • 身体状況

なども関係します。

したがって、今後の外房で必要なのは、

「豪華な図書館を作ること」

でも、

「町の本屋を昔の数まで復活させること」

でもありません。

より現実的なのは、

地域中心都市には持続可能な書店を残し、小規模自治体では図書館・図書室を維持しながら、県立図書館、周辺自治体、電子資料を結び、本へのアクセスを地域全体で保証すること

です。

書店の存在と図書館の存在を別々に考えるのではなく、

住民が「読みたい本を知り、探し、手に取ることができる仕組み」をどこまで維持できるか。

これが、人口減少が進む外房で書店と図書館の将来を考える際の、本質的な問題ではないでしょうか。

地域の課題を、自分の判断に置き換えて考える

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はじめに

千葉県の外房は、温暖な気候、比較的長い日照時間、水田や畑地、首都圏への距離の近さなどから、「農業に向いている地域」と語られることがあります。

一方で、実際の農村を歩けば、農業者の高齢化、後継者不足、耕作されなくなった農地、資材価格の上昇、鳥獣被害なども目立ちます。

では、外房の農業には本当に将来性があるのでしょうか。

結論からいえば、外房農業が一律に衰退するとも、大規模化や有機農業、観光農業によって一気に成長産業へ転換できるとも考えにくいのが現実です。

今後起きる可能性が高いのは、

農業経営体の数は減少する一方、残った経営体への農地集積が進み、米を中心とする土地利用型農業、大規模畜産、一部の高収益園芸、有機農業、直売型農業などが地域ごとに異なる形で残っていく

という構造変化です。

特に重要なのは、「外房農業」という一つの産業が存在するわけではないという点です。

茂原市・長生郡、いすみ市、大多喜町、勝浦市、御宿町では、農業の規模も主要品目もかなり異なります。さらに南の鴨川・安房地域まで含めれば、その違いは一層大きくなります。

この記事では、農林水産省の2024年(令和6年)市町村別農業産出額、2025年農林業センサス、千葉県および各農業事務所の公表資料を中心に、外房農業の現在地と今後を検討します。農林水産省の2024年市町村別農業産出額は2026年7月24日に公表され、詳細品目別データは同年8月3日に更新されています。したがって、記事作成時点で利用できる新しい公的データの一つです。


最初に結論~外房は「畜産地域」でも「米だけの地域」でもない

外房農業について最初に押さえておきたいのは、地域によって農業構造が大きく異なることです。

2024年の農林水産省「市町村別農業産出額(推計)」の詳細データを筆者が集計すると、おおむね次のようになります。

地域 農業産出額 畜産産出額 畜産比率
長生地域 約158.3億円 約18.7億円 約11.8%
夷隅地域 約167.0億円 約93.7億円 約56.1%
夷隅地域からいすみ市を除く 約30.4億円 約2.9億円 約9.5%
安房地域 約243.4億円 約51.1億円 約21.0%

※農林水産省「令和6年市町村別農業産出額(推計)」詳細品目別データから独自集計。公式の地域合計指標ではありません。端数処理や秘匿値があるため概算です。

この数字は非常に示唆的です。

夷隅地域だけを見ると畜産比率が56%を超えます。しかし、いすみ市を除くと約9.5%まで低下します。

つまり、

「夷隅地域は畜産中心である」

というより、

「いすみ市に大規模な畜産生産が集中しているため、地域全体の数字が大きく変わっている」

と理解した方が正確です。

これは外房農業を分析するうえで非常に重要なポイントです。


いすみ市の畜産比率が突出している

2024年のいすみ市の農業産出額は約136.6億円、そのうち畜産は約90.8億円です。

したがって、

畜産比率 =90.8億円 ÷ 136.6億円 ≒66.5%

となります。

さらに鶏部門だけで約78.1億円に達しています。

一方、同じ夷隅地域でも、

  • 勝浦市 農業産出額約8.6億円、畜産約0.4億円
  • 大多喜町 約20.1億円、畜産約2.5億円
  • 御宿町 約1.7億円、畜産は極めて小さい

という構造です。

したがって、「いすみ市の畜産比率が高い」ことと「外房全体の畜産比率が高い」ことは、明確に区別する必要があります。

いすみ市には、アキタフーズグループのいすみポートリーの大規模養鶏農場があります。現在の同社公式事業所案内でも、いすみ市山田にウインドレス農場が置かれていることが確認できます。また、グループは2026年1月から、農場と鶏卵の洗卵・選別・パッキング拠点を同一法人で一体運営する体制へ再編しています。

ただし、ここには統計上の注意があります。

農林水産省の市町村別農業産出額は企業別産出額を公表していません。また一部品目には秘匿処理があります。

そのため、

「いすみ市の鶏産出額78.1億円のうち、いすみポートリーが何億円を占める」

とまでは公表資料から確認できません。

大規模養鶏施設の存在と市の統計構造は整合しますが、市の鶏産出額をすべて一企業に帰属させることはできないというのが正確な扱いです。


千葉県自体は日本有数の農業県である

外房だけを見る前に、千葉県全体の位置を確認しておく必要があります。

2024年の千葉県農業産出額は4,533億円で全国4位です。

内訳は、

  • 園芸 38.5%
  • 畜産 32.3%
  • 米 22.2%

となっています。

主要品目では、

  • 野菜 1,430億円
  • 米 1,005億円
  • 豚 568億円
  • 鶏卵 397億円
  • 生乳 251億円

などがあります。

したがって千葉県は、「野菜県」「畜産県」「米産地」のどれか一つではありません。

複数の農業部門を持つ総合的な農業県と考える方が適切です。

ただし、この県全体の構造をそのまま外房へ当てはめることはできません。

県東部の海匝地域では大規模園芸や畜産が発達しているのに対し、長生・夷隅・安房では水田比率が高く、小規模経営と高齢農業者の割合が高いという違いがあります。


外房の土地利用では、依然として水田が大きい

金額だけを見ると、大規模畜産や高単価の園芸作物が目立ちます。

しかし「農地を何に使っているか」という土地利用を見ると、外房の別の姿が見えてきます。

2025年農林業センサスなどを基にした千葉県の地域比較では、水田率は、

  • 千葉県全体 59.3%
  • 長生地域 71.1%
  • 夷隅地域 82.3%
  • 安房地域 67.6%

です。

夷隅地域では実に8割以上が水田です。

つまり、いすみ市の産出額だけを見ると「養鶏の町」に見えますが、土地利用の実態では依然として水田農業の地域でもあります。

ここでは、

農業産出額の構成

農地面積の構成

を混同してはいけません。

大規模養鶏は比較的小さな土地から大きな産出額を生み出せる一方、水稲は広い土地を利用しても単位面積当たりの売上はそれほど大きくありません。

したがって、地域農業を考える場合には、

農業の重要性 =産出額だけ

ではなく、

農業の重要性 =産出額 +農地管理 +景観維持 +治水・水管理 +地域雇用 +食品供給

という視点が必要になります。

これは公式指標ではなく、地域農業を考えるための概念的な整理です。


外房農業の最大の問題は農家数の減少である

農業の将来を考える場合、作物以上に重要なのが「誰が作るのか」です。

千葉県全体では、2025年の基幹的農業従事者は37,269人でした。

2020年には50,328人だったため、わずか5年間で25.9%減少しています。

また、2025年の基幹的農業従事者の67.6%が65歳以上で、平均年齢は67.2歳です。

外房ではさらに高齢化しています。

65歳以上の基幹的農業者率は、

  • 長生 78.6%
  • 夷隅 78.4%
  • 安房 77.0%

です。

県平均67.8%を10ポイント程度上回っています。

これはかなり大きな差です。


主業農家も少ない

個人経営体のうち主業経営体の割合を見ると、

  • 千葉県 28.0%
  • 長生 15.3%
  • 夷隅 14.6%
  • 安房 20.3%

です。

つまり長生・夷隅では、農業を主な所得源とする経営体の割合が県平均よりかなり低くなっています。

夷隅地域について県は、2025年時点で主業経営体158に対して、副業的経営体が804あり、65歳以上の農業者や定年帰農者が多い地域構造を反映していると説明しています。基幹的農業従事者1,080人のうち65歳以上は78.3%でした。

したがって、

「農家の数を現在のまま維持する」

こと自体が、今後はかなり難しくなります。


後継者不足も深刻である

後継者を確保している農業経営体の割合は、

  • 千葉県 32.2%
  • 長生 31.4%
  • 夷隅 25.7%
  • 安房 28.7%

です。

夷隅では約4経営体に1経営体程度しか後継者を確保できていない計算になります。

もちろん、「後継者がいない=すぐ廃業」という意味ではありません。

第三者承継、法人への農地貸付、農作業受託という選択肢もあります。

しかし、現在の農家のすべてを次世代がそのまま引き継ぐ可能性は低いと考えるべきでしょう。


新規就農だけですべてを補うのは難しい

「都会から若者を呼べば農業は維持できる」という議論もあります。

しかし、数字を見る必要があります。

夷隅地域の2024年度の新規就農者は14人でした。

新規就農者を増やすこと自体は重要です。

しかし、高齢農業者が多数存在する地域で毎年十数人の新規就農者が入ったとしても、離農者すべてを人数で置き換えることは難しいでしょう。

したがって今後重要なのは、

農業者数を維持すること

より、

少ない農業者で、どこまで農地と生産を維持できるか

です。


農地集約は避けにくい

今後の外房では、農地の集約が重要になります。

3ヘクタール以上を経営する農業経営体の割合は、

  • 千葉県 20.1%
  • 長生 15.7%
  • 夷隅 16.9%
  • 安房 9.6%

です。

県東部の香取地域31.2%、海匝27.1%などと比べても低い水準です。

外房には小区画の水田、中山間地、谷津田、傾斜地などもあり、北海道型の巨大農場へ単純に統合することはできません。

しかし、

10戸の農家がそれぞれ農機を所有する

より、

1~2経営体が農地をまとめて管理する

方が、機械投資や労働時間を減らせるケースは増えるでしょう。


水稲農業は「消える」のではなく「経営者が減る」

外房の水田農業については、

「米は儲からないからなくなる」

という単純な予測も正確ではありません。

水田そのものが消えるというより、

水稲を作る経営体が減り、1経営体当たりの作付面積が増える

可能性が高いと考えられます。

農業経営を非常に単純化すると、

水稲所得 =米販売収入 +交付金等 -種苗費 -肥料費 -農薬費 -燃料費 -農機費 -乾燥調製費 -土地改良費 -労働費

となります。

面積が小さいほど、トラクター、田植機、コンバインなどの固定費負担が重くなります。

そのため今後は、

  • 自分で機械を所有する農家
  • 作業を受託する農家・法人
  • 農地を貸す所有者

へ役割が分かれていく可能性があります。


2024年の農業産出額増加を「農業復活」と解釈してはいけない

千葉県の農業産出額は、

2023年 4,029億円

から、

2024年 4,533億円

へ504億円増加しました。

特に米は569億円から1,005億円へ大きく増加しています。

しかし、この数字だけから、

「千葉県の米農業が急速に拡大した」

とは言えません。

農業産出額は、

農業産出額 ≒生産量 × 農家庭先価格

で決まります。

価格が上昇すれば、生産量が増えていなくても産出額は増えます。

したがって、金額の増加と生産能力の増加は別の問題です。

2024年の数値を農業復活の証拠として扱うのは適切ではありません。


園芸農業には可能性があるが、誰でも高収益になるわけではない

外房では水稲以外にも、

  • トマト
  • いちご
  • ねぎ
  • さやいんげん
  • そらまめ
  • 花き
  • 菜花

など多様な生産があります。

農林水産省も、山武・長生地域について水稲だけでなく、ねぎ、だいこん、にんじん、トマト、いちご、すいかなど多数の園芸作物を挙げています。

夷隅・安房・君津についても、水稲、いちご、さやいんげん、レタス、花き、びわなど多様な農業が存在します。

園芸作物の魅力は、米より小さい面積でも高い売上を得られる可能性があることです。

しかし、

売上が高い ≠ 利益が高い

という点には注意が必要です。


施設園芸には大きな投資が必要になる

例えば施設野菜なら、

農業所得 =売上 -苗・種子 -肥料 -農薬 -ハウス償却費 -暖房・電力費 -包装資材 -運賃 -雇用費 -機械費

となります。

高単価な作物ほど、

  • 栽培技術
  • 選果
  • 包装
  • 販売
  • 労働力

が必要になるケースもあります。

高齢農家が水田をやめたからといって、簡単に高収益施設園芸へ移行できるわけではありません。


外房には「有機農業」という明確な特色もある

いすみ市では、有機稲作を地域政策として長期間進めています。

2017年10月からは、市内学校給食の米を全量、地域で生産された有機米「いすみっこ」としています。

また、いすみ市は2024年度にオーガニックビレッジを宣言し、有機農業の地域的拡大を進めています。千葉県も、有機米の安定生産技術やスマート農業技術の導入を進める方針を示しています。

これは外房農業の興味深い成功例です。

ただし、ここでも過度な一般化は避ける必要があります。


有機農業が外房全体の解決策になるわけではない

有機農業には、

  • 高付加価値化
  • 環境負荷軽減
  • 地域ブランド
  • 学校給食との連携

などのメリットがあります。

一方、千葉県自身も、有機栽培には慣行栽培より管理に手間がかかり、雑草防除や安定生産などの課題があるとしています。

したがって、

有機農業 =高価格 =高利益

とは限りません。

より正確には、

有機農業利益 =販売価格 × 販売量 -追加労働費 -除草等管理費 -認証・流通費 -収量低下リスク

です。

重要なのは、作る技術と同時に、安定して買う需要が存在することです。

いすみ市の場合、学校給食という一定量の需要が存在した点が重要です。

これは単なる「ブランド化」よりも、経営上意味のある仕組みです。


直売所も重要だが万能ではない

外房では道の駅、農産物直売所、観光客向け販売なども重要です。

直売は一般に、

農家販売価格 =小売価格-流通段階の一部

となるため、卸売市場だけに出荷する場合より販売単価を高くできる可能性があります。

しかし、

直売所がある ≠ 農家が十分な所得を得られる

ではありません。

直売では、

  • 小分け包装
  • 値付け
  • 商品補充
  • 売れ残り回収
  • 売場管理

などの作業が農家側に移ります。

また地域人口が減れば、地元需要だけで直売所売上を維持することも難しくなります。

観光客需要も季節・曜日・景気に左右されます。


観光農業も一部では有効だが、主力農業にはなりにくい

いちご狩り、農業体験、収穫体験などは、外房の観光との相性が良い分野です。

しかし観光農園は、

農業 +接客業 +観光業

です。

生産技術だけでは成立しません。

駐車場、予約管理、接客、人員、安全管理、広告なども必要になります。

したがって、

「東京から近いから観光農業」

だけで地域農業全体を支えるのは現実的ではありません。

成立する農家にとっては有効でも、地域農業全体の代替策にはなりにくいでしょう。


畜産は地域農業の重要な柱だが、集中リスクもある

いすみ市の養鶏のような大規模畜産には、土地利用型農業とは異なる特徴があります。

比較的小さな土地でも大きな売上を生み、

  • 雇用
  • 飼料輸送
  • 鶏卵加工
  • 包装
  • 物流

など関連産業も生み出します。

一方で、

  • 飼料価格
  • 電気料金
  • 防疫
  • 鳥インフルエンザ
  • 臭気
  • 糞尿処理
  • 設備投資

などへの依存も大きくなります。

したがって、大規模畜産は外房農業の重要な一部ではありますが、農地管理問題の直接的な解決策ではありません。

養鶏場の規模が拡大しても、周辺の水田が自動的に維持されるわけではないからです。


長生地域では畜産より耕種農業が中心

2024年の農業産出額を長生地域について独自集計すると、

農業産出額 約158.3億円

うち、

  • 耕種 約139.4億円
  • 米 約92.1億円
  • 野菜 約37.1億円
  • 畜産 約18.7億円

となります。

畜産比率は約11.8%です。

長生地域について県の資料でも、水稲・園芸を中心とした構造が示されています。

畜産については、2022年時点で乳用牛22戸897頭のほか、養豚3戸、採卵鶏3戸、ブロイラー3戸などが確認されており、県は「管内の畜産は酪農が中心」と説明しています。

したがって長生地域まで含めて、

「外房は養鶏を中心とした畜産地域」

と表現するのは適切ではありません。


長柄町・長南町のような例外もある

一方で、市町村単位まで細かく見ると違いがあります。

2024年推計では畜産比率はおおむね、

  • 茂原市 約6%
  • 一宮町 約3%
  • 白子町 約5%
  • 長柄町 約40%
  • 長南町 約23%

となります。

同じ長生地域でもかなり違います。

したがって外房農業の記事では、

県 →地域 →市町村 →経営体

という階層を分けて分析することが重要です。


耕作放棄地は今後さらに重要な問題になる

千葉県全体の荒廃農地は2024年時点で11,908ヘクタールでした。

このうち、

再生利用可能と判断された土地 8,132ヘクタール

再生利用困難と見込まれる土地 3,776ヘクタール

です。

ここから重要なのは、

すべての荒廃農地を農地へ戻すことが合理的とは限らない

ということです。


「全部守る農政」から「守る農地を選ぶ農政」へ

今後人口と農業者が減少すれば、すべての農地を同じ水準で維持することは難しくなります。

したがって農地は、

A 優先して農業利用を維持する農地

  • 大区画化しやすい
  • 水利条件が良い
  • 集約可能
  • 担い手がいる

B 小規模でも高付加価値農業に利用できる農地

  • 有機農業
  • 園芸
  • 果樹
  • 観光農業

C 農地として維持する費用が極めて大きい土地

  • 急傾斜
  • 狭小
  • 不整形
  • 接道困難
  • 水利維持困難

のように分ける必要が出てくるでしょう。

これは農地を放棄するという意味ではありません。

限られた人員と予算を、農業生産を維持できる場所へ重点的に投入するという考え方です。


スマート農業は有効だが、人が不要になるわけではない

外房では、

  • 自動操舵
  • ドローン
  • 水田水管理
  • 自動草刈り
  • センサー

などの技術は有効です。

特に水田のまとまりがある地域では、作業時間を減らせる可能性があります。

夷隅農業事務所でも、有機水稲でのほ場水管理システムなどの実証が行われています。

しかし、

スマート農業 ≠ 無人農業

です。

機械の保守、畦畔管理、水路管理、草刈り、収穫後作業などは残ります。

また、圃場が分散している地域では、機械性能より移動時間の方が問題になる場合もあります。


今後最も現実的なのは「農家を増やす」より「経営を再編する」こと

外房農業の将来を考えると、政策目標を

農家戸数を維持する

ことだけに置くのは現実的ではありません。

より重要なのは、

農地面積、農業生産、地域管理機能をどのように維持するか

です。

そのためには、

農家戸数減少 ↓ 農地貸付増加 ↓ 担い手・法人への集積 ↓ 1経営体当たり面積拡大 ↓ 機械利用効率向上

という方向が合理的です。

もちろん、すべての土地で成立するわけではありません。


外房農業で成立しやすいと考えられる5つの方向

1 水田農業の集約化

最も現実性が高いのはこれです。

新産業を突然作るのではなく、現在すでに存在する水田を、少数の担い手が管理する方向です。


2 米の高付加価値化

すべてを有機米にするのではなく、

一般米 +特別栽培米 +有機米

のように需要別に分ける方が現実的です。

いすみ市の有機米の取組は、その一つのモデルといえます。


3 地域条件に合った園芸

市場への大量出荷だけでなく、

  • 直売
  • 地元スーパー
  • 飲食店
  • 学校給食
  • 観光

など複数販売先を持つことが重要になります。


4 既存大規模畜産の競争力維持

いすみ市などでは、大規模養鶏はすでに地域農業産出額の重要な部分を占めています。

ここは新規参入を大量に増やすというより、防疫、飼料、物流、環境対策を含め、現在存在する産業基盤を維持することの方が現実的です。


5 農作業受託業の拡大

今後重要性が増す可能性が高いのが、

「農産物を作る農家」

だけではなく、

「農作業を請け負う事業者」

です。

例えば、

  • 耕起
  • 田植え
  • 防除
  • 稲刈り
  • 草刈り
  • ドローン散布

だけを請け負う事業です。

高齢農家が農業を完全にやめなくても、重い作業だけ外部委託できるため、農地維持期間を延ばせる可能性があります。


逆に、現実性の低い主張

外房農業について、次のような主張には注意が必要です。

「移住者を増やせば農業は復活する」

人数規模が足りません。

「有機農業にすれば儲かる」

追加労働と販路が必要です。

「観光農業にすれば解決する」

観光需要には限界があります。

「スマート農業なら人手不足は解消する」

水管理、草刈り、施設管理など人間の作業は残ります。

「法人化すれば農業は黒字になる」

法人化は経営形態であって、収益を保証するものではありません。

「大規模化すれば必ず効率化する」

圃場分散や中山間地では規模拡大がかえって移動コストを増やす場合があります。


外房農業の最大の強みは「東京に近いこと」だけではない

外房の農業には確かに首都圏市場への近さという利点があります。

しかし、それ以上に重要なのは、

  • 既存の水田
  • 水利施設
  • 農業技術
  • 集出荷組織
  • 直売所
  • 地域ブランド
  • 畜産施設
  • 首都圏への物流

がすでに存在していることです。

ゼロから新しい農業地域を作る必要がないという点は大きな資産です。


一方、最大の弱点は「担い手の減少速度」

外房農業の一番大きな問題は、市場がまったくないことでも、農地がないことでもありません。

農業を実際に行う人が急速に減っていることです。

長生・夷隅・安房では、基幹的農業者の約8割が65歳以上です。

したがって今後10~15年は、かなり大きな世代交代期になります。

これは予測というより、現在の年齢構成から導かれる構造的な問題です。


今後10~20年に起こりそうな変化

現在の統計から考えると、外房農業では次のような変化が比較的起こりやすいと考えられます。

農家戸数 ↓

一方で、

1経営体当たり農地面積 ↑

さらに、

農作業委託 ↑

法人経営 ↑

高齢農家の離農 ↑

高収益作物への選択集中 ↑

維持困難農地 ↑

という方向です。

つまり、

「農業がなくなる」のではなく、「農業の担い手構造が大きく変わる」

可能性が高いということです。


外房農業を評価する指標も変える必要がある

地域農業を、

農家戸数

だけで評価すると、今後はほぼ確実に悪化したように見えます。

しかし、

農家戸数が減っても、

  • 耕作面積
  • 農業産出額
  • 農地利用率
  • 生産量

が維持されれば、必ずしも農業機能が同じ割合で失われたとは限りません。

今後重要なのは、

地域農業維持率 =実際に利用されている農地 ÷利用可能な農地

や、

担い手当たり管理面積

などを見ることです。

これらはここでの分析用概念であり、公式統計指標ではありません。


地域ごとに異なる戦略が必要になる

茂原・長生地域

水田と園芸を基本に、

  • 水田集約
  • 園芸
  • 農作業受託
  • 直売

を組み合わせる。

いすみ市

  • 水田
  • 有機米
  • 大規模養鶏
  • 園芸
  • 直売

という複合構造を維持する。

勝浦・御宿

農業規模そのものが小さいため、大規模産地化より、既存農地維持と地域需要への供給を重視する。

大多喜町

中山間地という条件から、単純な規模拡大より、集約可能な農地と維持困難農地を分けて考える。

安房地域

園芸、花き、畜産、水田などの複合農業を生かす。

というように、同じ政策を全地域へ適用するのは合理的ではありません。


現実的な結論~外房農業の未来は「拡大」より「再編」にある

外房農業の今後について、過度に悲観する必要はありません。

千葉県は依然として全国有数の農業県であり、外房にも水田、園芸、畜産、有機農業、直売など複数の農業基盤があります。

しかし、

「移住者が増える」

「有機農業が広がる」

「スマート農業を導入する」

「ブランド農産物を作る」

という一つの方法だけで、現在の農業構造を維持することも難しいでしょう。

より現実的なのは、

農家数の減少を前提として農地と経営を再編すること

です。

今後の外房農業は、

小規模農家が大量に存在する構造

から、

少数の比較的大きな水田経営 +高収益園芸 +大規模畜産 +有機・高付加価値農業 +農作業受託 +小規模直売農家

という多層的な構造へ変わっていく可能性があります。

そして、すべての農地を同じ方法で維持するのではなく、

生産を続ける農地、集約する農地、高付加価値化する農地、維持方法そのものを再検討する土地を区別すること

が必要になります。


いすみ市の数字から分かる重要なこと

最後に、この記事で特に注意したいのが、いすみ市です。

2024年の農業産出額を見ると、

農業産出額 約136.6億円

畜産 約90.8億円

で、畜産比率は約66.5%になります。

しかし、夷隅地域からいすみ市を除けば、畜産比率は独自集計で約9.5%にまで低下します。

このことから、

「いすみ市で畜産産出額が大きい」

という事実を、

「外房は畜産中心の農業地域である」

と読み替えてはいけません。

外房農業の本質はむしろ、

水田を中心とした土地利用の上に、市町村ごとに園芸、大規模養鶏、酪農、果樹、有機農業などが重なっていること

にあります。

この地域差を無視せず、

「何を作れば儲かるか」

だけではなく、

誰が農地を管理し、どの農地を残し、どの規模なら経営として持続できるか

を考えることが、これからの外房農業を分析するうえで最も重要ではないでしょうか。


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地方議会を誰が監視するのか

首長・行政を監視する議会と、議会を監視する住民

地方自治について考えるとき、首長や行政組織の役割に注目が集まりやすい。

しかし、日本の地方自治制度は、首長だけによって運営される仕組みではない。住民から直接選挙された首長と、同じく住民から選ばれた地方議会が、それぞれ独立した立場から自治体運営に関わる仕組みになっている。

地方自治法上、地方議会には条例、予算、決算、一定の契約や財産処分など、自治体の重要事項について議決する権限が与えられている。議員には議案を審議し、行政の説明を求め、自治体運営を検証する役割がある。つまり地方議会は、首長や行政機関に対する重要な監視装置の一つである。

ところが、ここで一つの問題が生じる。

行政を監視する議会そのものは、誰が監視するのだろうか。

その最終的な答えは、選挙だけではない。

人口減少、候補者不足、無投票選挙、地域社会内部の人間関係、情報格差などを考えると、地方議会についても、住民が継続的に検証できる仕組みを整えていく必要がある。


1.地方自治は「首長対議会」の仕組みである

日本の自治体では、首長と地方議会の双方を住民が直接選挙する。

国政における議院内閣制とは異なり、地方自治では首長と議会がそれぞれ独立した選挙によって民主的な正統性を持つ。

そのため、地方議会は単に行政から提出された議案を承認する機関ではない。

本来は、

  • 予算案を審査する
  • 条例案を審査する
  • 決算を検証する
  • 行政事業の必要性を検討する
  • 首長や行政職員に説明を求める
  • 住民の意見を政策へ反映する

といった機能を担う。

全国市議会議長会も、地方議会には多様化する民意を集約し、市政へ反映するとともに、行政監視や政策提起能力を高める役割があるとしている。

したがって、

強い行政には、機能する議会が必要である。

これは地方自治制度の重要な原則である。

しかし同時に、

強い議会には、それを検証できる住民が必要である。

この第二の視点も重要になる。


2.議会が存在するだけでは「監視」が機能するとは限らない

制度上議会が置かれていることと、議会が実際に行政監視機能を十分に発揮していることは同じではない。

例えば自治体から、

「道路を整備したい」

「新しい公共施設を建設したい」

「補助金制度を新設したい」

という提案が出されたとする。

議会の役割は単に賛否を示すことではない。

本来であれば、

「人口予測から見て必要なのか」

「建設後の維持管理費はいくらなのか」

「別の政策手段はないのか」

「将来世代の負担はどうなるのか」

などを検証する必要がある。

特に人口減少自治体では、公共施設、道路、上下水道、学校、福祉、交通などについて、現在の需要だけでなく20年後、30年後まで考えた判断が必要となる。

その意味では、地方議会に求められる能力も従来以上に高度になっている。

単なる地域要望の伝達だけではなく、

財政、人口、公共政策、福祉、産業、都市計画などを総合的に検討する政策判断能力

が求められる。


3.ところが地方議会では「なり手不足」が進んでいる

現在、地方議会が抱えている大きな問題の一つが議員のなり手不足である。

全国都道府県議会議長会の資料では、地方議会について、投票率の低下や無投票当選の増加、小規模市町村における定数割れなどが課題として指摘されている。人口減少と高齢化がさらに進めば、議会そのものを維持することが難しくなる自治体が出てくる可能性も指摘されている。

また、第33次地方制度調査会に関係する資料では、当時の状況として60歳以上の議員割合が、都道府県43.0%、市56.5%、町村76.9%とされ、女性議員の割合も都道府県11.8%、市17.5%、町村11.7%にとどまっていた。無投票当選についても、町村や都道府県で高い割合が示されている。

もちろん、高齢の議員が多いこと自体が問題なのではない。

問題は、

議員になる人の選択肢が狭くなっている可能性

である。

会社員、子育て世代、介護を担う人、若年層、女性、自営業者など、多様な生活背景を持つ住民が立候補しにくければ、議会の構成も偏りやすくなる。

全国市議会議長会も、若者や女性、会社員など、多様な人材の議会参画を促すことを課題として挙げている。


4.「候補者不足」は議会監視にも影響する

選挙によって議員を監視する仕組みは、

有権者が複数の候補者から選択できること

を前提としている。

ところが候補者数と議員定数がほぼ同じになれば、この競争性は弱くなる。

無投票になれば、住民はその選挙で候補者を比較し、投票によって選択すること自体ができない。

もちろん無投票当選だから、その議員に問題があるという意味ではない。

しかし制度として考えれば、

候補者A 候補者B 候補者C 候補者D

を比較して住民が選択する場合と、

定数と同人数しか立候補しない場合では、

民主的な選択圧力が異なる。

したがって、議員のなり手不足は単なる「人員不足」ではない。

議会を選挙によって評価する機能そのものに関係する問題

でもある。


5.小さな地域ほど「人間関係」が政治に影響しやすい

人口規模の小さな自治体には、大都市とは異なる利点がある。

議員と住民の距離が近い。

住民が議員へ直接意見を伝えやすい。

地域事情を議員が詳しく理解している。

これらは地方自治にとって大きな長所である。

しかし同じ構造には逆方向の作用もある。

人口が少ない地域では、

地域団体 業界団体 自治会 事業者 親族 同級生 知人

などの人的ネットワークが重なりやすい。

ここから直ちに不正が生じるわけではない。

しかし政策判断が、

「自治体全体にとって何が最適か」

ではなく、

「どの地区に何を持ってくるか」

「誰の要望を実現するか」

という方向へ傾く余地は生まれる。

これはいわゆる利益誘導政治の問題と関係する。


6.利益誘導そのものを単純に悪と考えるべきではない

ここは慎重に区別する必要がある。

地方議員が、

「この道路を補修してほしい」

「この地域にバス路線を残してほしい」

「農業支援を充実させてほしい」

と行政へ要望すること自体は、本来の政治活動の一部である。

議員は住民の要望を政策へ反映する役割を持っているからである。

問題になるのは、

公共的利益と特定利益の境界が不透明になる場合

である。

例えば、

1000万円を使って50世帯が利益を受ける事業と、

同じ1000万円で5000人が利益を受ける事業があったとする。

当然、人数だけで政策の優劣を決めることはできない。

過疎地支援、福祉、防災などでは、少人数のために高い費用をかける合理的理由もある。

重要なのは、

「なぜこの事業を選択したのか」

という政策判断の根拠が住民から確認できることである。

つまり問題は利益配分そのものではない。

政策決定過程の透明性

である。


7.議会を監視する最大の問題は「情報格差」である

行政と議員は、多くの情報を持っている。

予算資料 行政計画 契約資料 事業評価 人口統計 内部説明資料 専門家の意見

などである。

これに対して一般住民が得られる情報は限定されることがある。

この差を、

行政・議会側の情報量を (I_g)

住民側の情報量を (I_c)

とすると、

[ I_g \gg I_c ]

になりやすい。

この情報の非対称性が大きくなるほど、住民が議員の政策判断を評価することは難しくなる。

例えば議員が、

「この施設は必要です」

と言ったとしても、

住民が、

建設費 年間維持費 利用者数 将来人口 類似施設 代替案

を確認できなければ、その判断を検証できない。

したがって、

議会監視の前提は情報公開である。


8.「議事録を公開している」だけでは十分ではない

現在、多くの地方議会では議事録、議会中継、議会広報などの公開が進んでいる。

これは重要な進歩である。

一方、全国都道府県議会議長会は、議会に関心のある住民だけに情報が届く状態では不十分であり、議会を遠い存在と考えている住民にも情報を届ける必要があると指摘している。また、議事録の早期公開やオープンデータ化なども議会デジタル化の方向として挙げている。

例えば500ページの議事録をホームページに掲載して、

「情報は公開されています」

と言っても、多くの住民が実際に確認することは難しい。

そこで重要になるのは、

公開から可視化への転換

である。

例えば、

議案名 賛成議員 反対議員 主な賛成理由 主な反対理由 予算額 将来負担 関連する契約

を一覧にする。

このような形なら、住民は議会の意思決定を追跡しやすい。


9.議員ごとの活動も「見える化」する

議会を評価するには、議会全体だけでなく個々の議員についても情報が必要になる。

例えば、

項目 公開内容
本会議 出席状況
一般質問 質問内容
議案 賛否
議員提出議案 提案内容
委員会 発言・活動
政務活動費 使用内容
公約 選挙時公約
政策成果 任期中の取り組み

などである。

地方自治法では、条例によって政務活動費を議員や会派に交付できる制度も定められている。

したがって公費が使われる以上、

何に使われたのか、

政策形成にどのようにつながったのか、

という説明可能性を高めることには合理性がある。

重要なのは議員を「取り締まる」ことではない。

住民が、

次の選挙で判断するための材料を持てるようにすること

である。


10.議会モニターという方法

住民による議会監視は、選挙だけに限定する必要はない。

第33次地方制度調査会関連資料では、住民に開かれた議会を実現する取り組みとして、

政策サポーター 議会モニター 住民との意見交換

などが例示されている。

例えば住民から無作為または公募で議会モニターを選び、

議会広報は分かりやすいか 議論は十分だったか 資料は理解できたか 重要な論点が説明されていたか

などを評価してもらう。

このような制度なら、議員を政治的に攻撃するのではなく、

議会運営そのものを住民が検証する仕組み

を作ることができる。


11.ただし「住民の声」にも偏りがある

一方、

「住民参加を増やせばすべて解決する」

という考え方も危険である。

議会説明会に参加する住民は、もともと政治への関心が高い可能性がある。

インターネットアンケートでも、回答者の年代や属性が偏る可能性がある。

全国都道府県議会議長会も、デジタル手段で寄せられた意見について、それがどの程度住民全体を代表するか慎重に分析する必要があると指摘している。

例えば100人のアンケート結果が、

賛成80 反対20

だったとしても、

回答者が特定の地区や特定年代に集中していれば、

「住民の80%が賛成」

とは言えない。

したがって住民参加には、

無作為抽出 年代別集計 地区別集計 紙とインターネットの併用

など統計的な設計も必要になる。


12.議会の監視には「対立」より「検証」が必要である

議会監視という言葉から、

住民対議員

という対立構造を想像するかもしれない。

しかし本来必要なのは対立ではない。

重要なのは、

検証可能性

である。

行政が政策を提案する。

議会が審議する。

判断理由を公開する。

住民が確認する。

次の政策や選挙で評価する。

この循環が機能すればよい。

これを単純化すると、

[ 行政 \rightarrow 議会 \rightarrow 住民 \rightarrow 選挙 ]

となる。

さらに住民から議会への意見を加えれば、

[ 行政 \leftrightarrow 議会 \leftrightarrow 住民 ]

という構造になる。

地方自治の健全性は、この情報循環がどこまで機能しているかで考えることができる。


13.これからの地方議会に必要なのは「監視されやすい議会」である

議員にとって、

「監視される」

という言葉は否定的に聞こえるかもしれない。

しかし民主主義制度では、監視可能性はむしろ正当性を高める。

議案が公開される。

賛否が確認できる。

議論の内容が見える。

議員活動が分かる。

政策判断の根拠が示される。

こうした議会なら、住民は議員の仕事を具体的に評価できる。

その結果、

「議員は何をしているのか分からない」

という議会に対する不信を減らす効果も期待できる。

全国都道府県議会議長会も、議会活動の可視化は住民の信頼向上や主権者教育、将来の議員育成にもつながり得るとしている。


14.人口減少時代ほど地方議会は重要になる

人口が減れば、地方議会の役割が小さくなるわけではない。

むしろ逆である。

人口減少社会では、

学校を残すのか 公共施設を統合するのか 道路をどこまで維持するのか 公共交通をどうするのか 上下水道をどう維持するのか 医療や福祉サービスをどこまで確保するのか

といった、

何を残し、何を縮小するか

という難しい意思決定が増える。

人口増加時代の政治は、

「何を新しく作るか」

を議論することが多かった。

人口減少時代の政治では、

「限られた財源をどこへ配分するか」

が重要になる。

その判断を行政だけに委ねるのではなく、議会が十分に検証する必要がある。

そして、その議会の判断を住民が確認できる必要がある。


15.地方議会改革は「定数削減」だけではない

地方議会改革について語られる際、

議員定数 議員報酬

が議論の中心になることが多い。

もちろん財政的な検討は必要である。

しかし議員数を減らせば、自動的に議会の質が向上するわけではない。

むしろ議員のなり手不足が進む地域で定数を大きく減らせば、

一人の議員が代表する住民数が増え、

地域や属性の多様性が失われる可能性もある。

一方で報酬を単純に下げれば、

議員活動だけでは生活できず、

資産のある人や別の収入源を持つ人しか立候補できないという別の問題も考えられる。

地方制度調査会関連の議論でも、会社員の立候補環境、副業・兼業、育児・介護、議員報酬などを含め、多様な人材が議会へ参加しやすい環境整備が検討されている。

したがって議会改革は、

「議員を減らす」

という一次元の問題ではない。


16.議会の質を考える五つの指標

地方議会の状態を評価するなら、例えば次の五つに分けることができる。

①競争性

選挙に十分な候補者がいるか。

②多様性

年代、性別、職業、居住地域などが著しく偏っていないか。

③透明性

議案、賛否、議事録、政務活動費などを住民が容易に確認できるか。

④政策能力

データや財政資料を使って政策を検証できているか。

⑤住民との接続

議会報告、意見交換、モニター制度などが機能しているか。

仮にこれを数式的に表すなら、

[ Q=f(C,D,T,P,R) ]

と考えることができる。

ここで、

(Q):議会の質 (C):競争性 (D):多様性 (T):透明性 (P):政策形成・監視能力 (R):住民との関係性

である。

重要なのは、どれか一つだけ高ければよいわけではないことである。


17.「良い議会」とは行政に何でも反対する議会ではない

行政監視という言葉から、

「議会は行政に反対するべきだ」

と考えるのも適切ではない。

優れた政策であれば賛成してよい。

問題のある政策であれば修正を求める。

必要なら反対する。

つまり重要なのは、

賛成率でも反対率でもない。

判断の質である。

行政提案に90%賛成する議会だから問題だとも言えない。

逆に半数の議案に反対する議会だから優れているとも言えない。

重要なのは、

「なぜ賛成したのか」

「なぜ反対したのか」

が政策的根拠によって説明されていることである。


結論

行政を監視する議会、議会を監視する住民

地方自治では、

行政 議会 住民

の三者の関係を考える必要がある。

行政だけを監視すればよいわけではない。

議会だけを批判すればよいわけでもない。

重要なのは相互に検証できる仕組みである。

行政は議会から検証される。

議会は住民から検証される。

住民は選挙によって議員を評価する。

そして議員は住民の意見を再び政策へ反映する。

この循環が地方自治の基本構造である。

しかし人口減少と高齢化が進む地域では、候補者不足や無投票選挙によって、従来の選挙だけに依存した監視機能が弱くなる可能性がある。地方議会関係団体自身も、議員のなり手不足、多様な人材の参画、情報公開、住民参加を重要な課題として挙げている。

だからこそ、これからの地方議会には、

「行政をよく監視する議会」であることと同時に、「住民がよく監視できる議会」であること

が求められるのではないだろうか。

議員を疑うためではない。

行政を敵視するためでもない。

誰が意思決定し、

何を根拠に判断し、

どのような結果になったのか。

それを住民が確認できる地方自治をつくるためである。

人口減少時代には、一つの政策判断が地域の20年後、30年後を左右する。

だからこそ地方議会は、これまで以上に重要になる。

そして議会が重要になるほど、

その議会を住民が検証できる仕組みも、同じだけ重要になる。

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過疎地域に路線バスの復活は必要か~

過疎地域の路線バスは、昭和後期から平成初期にかけて減便が進み、平成中期以降は路線そのものの廃止が目立つようになりました。

背景には、人口減少だけでなく、自家用車の普及、郊外型商業施設の増加、学校や病院の統廃合、運転士不足、燃料費・車両費の上昇、バス事業者の経営再編があります。

一方、今後の地方では、高齢者の免許返納、世帯の小規模化、医療・商業施設の集約、人手不足、観光客の移動、地域内消費の維持などを考えると、公共交通の重要性は再び高まる可能性があります。

ただし、昭和期と同じ大型バスを、同じ経路とダイヤで復活させればよいわけではありません。

必要なのは、

需要が集中する区間には、定時定路線の路線バスを再構築し、需要が薄い地区には、デマンド交通、乗合タクシー、スクールバス、医療・福祉輸送などを組み合わせること

です。

地方経済に必要なのは、過去の路線網の全面復活ではなく、生活圏に合わせた「効率的な路線バスの再設計」です。

最初に結論

過疎地域において、路線バスが今後の地方経済に必須になるかどうかは、次のように整理できます。

必須になる可能性が高い区間

  • 鉄道駅と中心市街地
  • 地域の中核病院
  • 高校や統合後の学校
  • スーパーや商業集積
  • 市役所・支所
  • 観光拠点
  • 人口が比較的集中する住宅地
  • 複数の集落から需要を集約できる道路

これらを結ぶ区間では、一定の運行頻度を持つ路線バスが、地域経済と住民生活を支える基幹交通になり得ます。

路線バスが適さない可能性が高い区間

  • 人口が極端に少ない集落
  • 利用時間が毎日変わる地域
  • 住宅が広く分散している地区
  • 1便当たりの利用者が1人未満になる区間
  • 道路幅が狭く、大型車両が非効率な地域
  • 通院日や買い物日だけ需要が発生する地区

これらでは、固定路線を毎日運行するよりも、予約制のデマンド交通や乗合タクシーの方が合理的です。

したがって、結論は、

地方に路線バスは必要だが、すべての旧路線を復活させる必要はない

となります。

路線バス利用者はどれほど減ったのか

日本の乗合バス輸送人員は、昭和43年度に約101億人でピークを迎えました。

その後は長期的な減少が続き、平成24年度には約41億人となっています。約44年間で、およそ60%減少した計算です。

一方、乗合バスの車両数は、昭和43年度の約6万4,700両から平成24年度の約5万9,000両への減少にとどまりました。

つまり、輸送人員が約60%減ったのに対し、車両数は約13%しか減っていません。

これは、1台当たりの輸送効率が大幅に低下したことを意味します。([国土交通省][1])

平成以降に限定しても、乗合バス輸送人員は、

  • 1990年度:約65億人
  • 2000年度:約48億人
  • 2010年度:約42億人

と減少しました。

1990年度から2010年度までの20年間で約35%減少しています。同じ時期、人口は約4%増加した一方、マイカー保有台数は約76%増えました。地方部ほど自家用車への依存が強く、公共交通の利用率が低下したことが示されています。([国土交通省][2])

直近では、2023年度の乗合バス輸送人員は約38億人です。

これは新型コロナウイルス感染症流行後の回復を含む数字ですが、昭和43年度のピークと比べると4割弱の水準です。([国土交通省][3])

昭和から平成初期~まず減便が進んだ理由

昭和後期から平成初期にかけては、路線の全面廃止よりも、まず便数削減や区間短縮が進みました。

その理由は、利用者減少に対して、事業者が段階的に供給量を調整したためです。

自家用車の普及

最大の要因はモータリゼーションです。

自動車が普及すると、住民は時刻表に合わせる必要がなくなり、自宅から目的地まで直接移動できるようになりました。

特に地方では、

  • 自宅からバス停まで遠い
  • バスの本数が少ない
  • 駅での乗り換えが必要
  • 帰宅時刻に合う便がない
  • 買い物荷物を持ち帰りにくい

という条件が重なり、自家用車の利便性が圧倒的に高くなりました。

郊外化

住宅、スーパー、病院、公共施設が郊外へ移転すると、従来の駅前や中心市街地を通るバス路線と、実際の移動需要が一致しなくなります。

旧来のバス路線は、

集落 →旧市街地 →駅

という構造で作られていました。

しかし、生活圏が、

住宅地 →郊外スーパー →郊外病院 →幹線道路沿いの店舗

へ変わると、既存路線では目的地へ直接行けなくなります。

利便性低下の連鎖

利用者が減ると、事業者は便数を減らします。

便数が減ると、待ち時間が長くなり、さらに利用者が減ります。

これを数式で表すと、

利用者減少 →便数削減 →平均待ち時間増加 →利便性低下 →さらなる利用者減少

という循環になります。

これを公共交通の「負の循環」と考えることができます。

例えば、等間隔で運行されるバスでは、利用者が時刻表を確認せずに来ると仮定した場合、平均待ち時間はおおむね次のようになります。

平均待ち時間 =運行間隔 ÷ 2

30分間隔なら平均待ち時間は約15分です。

1時間間隔なら約30分です。

2時間間隔なら約60分です。

1日数便まで減ると、利用者は時刻表に生活を合わせなければならず、通院や買い物の滞在時間も制約されます。

この段階まで便数が減ると、「バスはあるが実用的には使えない」という状態になります。

平成中期以降~路線撤退が目立つようになった理由

需要減少が限界を超えた

減便によって費用を削減しても、運転士、車両、営業所、整備設備、運行管理者などの最低限の費用は残ります。

そのため、一定水準を下回ると、減便だけでは赤字を解消できません。

路線収支は、概念的に次のように表せます。

路線収支 =運賃収入 +補助金 -運転士人件費 -燃料費 -車両費 -整備費 -運行管理費 -営業所費用 -その他の経費

運賃収入は、次のように分解できます。

運賃収入 =1便当たり利用者数 ×平均運賃 ×年間運行便数

例えば、平均運賃300円、年間3,000便を運行する路線を考えます。

1便当たり利用者が10人なら、

300円×10人×3,000便 =900万円

です。

1便当たり利用者が3人なら、

300円×3人×3,000便 =270万円

です。

運転士1人の人件費、車両費、燃料費、整備費を考えれば、270万円の運賃収入だけで年間運行費を賄うことは困難です。

規制緩和と撤退手続の変化

公共交通分野では、2000年から2002年にかけて、需給調整規制を廃止する規制緩和が行われました。

乗合バス事業でも、参入と退出に関する制度が変更され、競争促進と事業効率化が重視されるようになりました。([国土交通省][4])

ただし、平成中期以降の路線廃止を、規制緩和だけで説明するのは適切ではありません。

すでにその前から、利用者減少、赤字、減便は進んでいました。

規制緩和は、需要減少によって維持困難になった路線について、事業者が撤退を選択しやすくなった制度的要因の一つと位置づけるべきです。

路線廃止の規模

国土交通省資料では、2008年度から2022年度までに、全国で約2万キロメートルの路線バス路線が廃止されたとされています。([国土交通省 土地総合情報システム][5])

単純平均すると、

2万キロメートル ÷ 15年間 ≒年間1,330キロメートル

です。

ただし、この数字は廃止された区間の累計であり、同じ時期に新設・再編された路線を差し引いた純減とは限りません。

また、平成14年度から16年度頃には、年間1万7,000キロメートルを超える休廃止が報告された資料もありますが、この数字は当時の集計範囲や休止を含むため、近年の約2万キロメートルという累計値と単純比較できません。([国土交通省][6])

令和に入って撤退が加速した新しい理由

令和期の特徴は、利用者不足だけでなく、運転士不足によって、利用者がいても運行できない路線が増えたことです。

運転士不足

国土交通省は、バス・タクシー運転者の賃金水準の低さ、第二種運転免許取得者の減少、運転者の高齢化を、コロナ前から続く構造問題として挙げています。

関東運輸局の調査では、2018年時点で自動車運転職の有効求人倍率は全職業平均の約2倍であり、いわゆる「2024年問題」によって不足がさらに顕在化したと整理されています。([国土交通省 土地総合情報システム][7])

従来は、

利用者が少ない →赤字 →減便・撤退

という構造が中心でした。

現在は、

運転士が足りない →必要便数を運行できない →採算路線も減便 →利用者が離れる

という供給制約が加わっています。

乗合バス事業者の多くが赤字

2023年度には、国土交通省の調査対象となった乗合バス事業者の73.7%が赤字でした。

黒字事業者は26.3%にとどまります。([国土交通省][3])

調査対象は原則として保有車両30両以上の事業者であるため、すべての小規模事業者を含む数字ではありません。

それでも、路線バス事業全体の収益性が厳しいことを示しています。

今後、なぜ公共交通の必要性が高まるのか

高齢者の免許返納が増える

運転免許の返納件数は、制度開始以降増加し、令和元年には年間60万件を超えました。

今後、高齢者人口が増えれば、自家用車を運転できない住民の移動手段を確保する重要性はさらに高まります。([国土交通省][8])

ただし、高齢者人口が増えるだけでバス利用者が自動的に増えるわけではありません。

  • 家族送迎
  • 高齢者施設の送迎
  • 病院送迎
  • タクシー
  • 宅配
  • 移動販売

などに分散する可能性があります。

路線バスを使ってもらうには、病院、店舗、駅など、実際の目的地へ行ける路線設計が必要です。

病院・学校・スーパーが集約される

地方では、病院、学校、スーパー、行政施設などが減少し、中心地域へ集約される傾向があります。

病院数は全国的に減少しており、地方部ではその傾向が特に強いと国土交通省資料は指摘しています。公立学校も1990年度の約4万1,400校から、2023年度には約3万3,400校まで減少しました。([国土交通省][8])

施設が集約されると、住民の移動距離は長くなります。

同時に、目的地が少数の拠点へ集中するため、交通需要をまとめやすくなる面もあります。

例えば、複数の小規模病院へばらばらに移動するより、中核病院へ利用者が集中すれば、一定時刻にバスを運行する合理性が高まることがあります。

世帯内の送迎能力が低下する

地方では、公共交通がなくても、家族が自動車で送迎することで生活を維持してきました。

しかし、

  • 単身高齢者の増加
  • 高齢夫婦世帯の増加
  • 子どもの地域外居住
  • 共働き世帯の増加
  • 介護離職の回避
  • 家族自身の高齢化

によって、家族送迎を無制限に期待することは難しくなっています。

送迎には、燃料費だけでなく、家族の時間費用が発生します。

家族送迎の社会的費用 =燃料費 +車両費 +送迎者の時間価値 +予定変更による機会損失

例えば、往復1時間の送迎を週2回行うと、

1時間×週2回×52週 =年間104時間

です。

送迎者の時間価値を1時間1,500円と仮定すれば、

104時間×1,500円 =年間15万6,000円

となります。

これは家計の現金支出には表れにくいものの、地域全体では大きな労務負担です。

路線バスは地方経済にどのような効果を持つのか

地域内消費を維持する

移動できなければ、住民は地域内のスーパー、商店、飲食店、医療機関を利用できません。

公共交通は、それ自体が利益を生む産業であるだけでなく、地域内での消費を成立させる基盤です。

経済効果は、概念的に次のように考えられます。

公共交通の地域経済効果 =移動によって実現した消費 +通院・就業・通学継続の価値 +家族送迎負担の削減 +自動車保有負担の削減 +観光消費 -公共交通運行費用

運賃収入だけを見れば赤字でも、地域全体では便益が費用を上回る場合があります。

雇用へのアクセスを確保する

地方の人手不足は、求人がないことだけでなく、求人先まで移動できないことでも発生します。

高校生、若年者、外国人労働者、運転免許を持たない人が、工場、病院、介護施設、ホテル、スーパーへ通勤できなければ、地域内に求人があっても就業できません。

公共交通の不足は、

求人がある →しかし通勤できない →採用できない →事業縮小

という構造を生みます。

そのため、通勤時間帯の路線バスは、福祉政策だけでなく、労働供給政策として評価する必要があります。

観光消費を増やす

鉄道駅から観光地、宿泊施設、海岸、温泉、道の駅などへの二次交通がなければ、自動車を持たない観光客は訪問しにくくなります。

地方観光では、鉄道や高速バスで地域まで到達できても、最後の数キロメートルを移動できない問題があります。

ただし、観光客向けバスは季節変動が大きいため、住民路線と完全に分けるよりも、

  • 平日は通院・通学
  • 休日は観光
  • 繁忙期は増便

といった車両と運転士の共用が合理的です。

路線バスの採算を数理的に考える

収支均衡に必要な利用者数

1便当たりの必要利用者数は、次のように表せます。

必要利用者数 =1便当たり運行費用 ÷平均運賃

例えば、1便当たりの運行費用が1万2,000円、平均運賃が400円なら、

1万2,000円 ÷ 400円 =30人

です。

運賃収入だけで採算を取るには、1便平均30人が必要です。

しかし、地方路線で毎便30人を確保するのは容易ではありません。

補助金や他分野の負担を含める場合は、

必要利用者数 =(1便当たり運行費用-1便当たり公的負担) ÷平均運賃

となります。

1便当たり運行費用が1万2,000円、公的負担が8,000円なら、

(1万2,000円-8,000円)÷400円 =10人

です。

この場合、1便平均10人で運賃収入部分を賄えます。

乗車密度を見る必要がある

単純な利用者数だけでは、路線効率を正確に評価できません。

同じ10人でも、

  • 全員が始点から終点まで乗る
  • 途中で入れ替わる
  • 一部区間だけ利用する

では収入と混雑状況が異なります。

重要なのは、

輸送人キロ =利用者数×乗車距離

です。

また、供給量は、

座席キロ =座席数×運行距離

と表せます。

輸送効率は、

輸送効率 =輸送人キロ÷座席キロ

で評価できます。

40席のバスが20キロメートル走れば、

40席×20キロメートル =800座席キロ

です。

平均して5人が20キロメートル乗れば、

5人×20キロメートル =100人キロ

となり、

100÷800 =12.5%

です。

このような低い利用率が続くなら、小型バスや乗合タクシーへの変更が合理的です。

大型バスを復活させればよいわけではない

路線バスの復活という言葉から、40人から60人乗りの大型車を想定する必要はありません。

需要に応じて、

  • 大型バス
  • 中型バス
  • 小型バス
  • ワゴン車
  • 乗合タクシー

を使い分けるべきです。

車両を小さくすると、

  • 燃料費
  • 車両購入費
  • 整備費
  • 狭い道路への対応

で有利になる可能性があります。

一方、運転士1人が必要である点は変わりません。

そのため、車両を半分の大きさにしても、運行費が半分になるとは限りません。

地方バスの主要費用が運転士人件費である場合、車両小型化だけでは根本的な解決になりません。

効率的な路線バスの条件

幹・枝・葉に分ける

今後の地域交通では、すべての集落から中心地まで1本の固定路線で結ぶのではなく、交通網を三段階に分ける方法が合理的です。

幹の交通

  • 鉄道駅
  • 中心市街地
  • 中核病院
  • 高校
  • 大型商業施設
  • 観光拠点

を結ぶ定時定路線です。

一定の頻度と速達性を確保します。

枝の交通

複数の集落や住宅地を、幹線バスの乗り継ぎ拠点へ結びます。

小型バスやコミュニティバスが適しています。

葉の交通

住宅が分散した地区から、最寄りの停留所や生活拠点までを結びます。

デマンド交通、乗合タクシー、公共ライドシェアなどが候補です。

国土交通省も、基幹的な定時定路線と地域内交通を組み合わせる「幹・枝・葉」の考え方を示しています。([国土交通省][9])

ダイヤを目的地に合わせる

路線バスは、単に一定間隔で走らせればよいわけではありません。

地方では、需要が特定時刻に集中します。

  • 病院の受付開始前
  • 高校の始業前
  • スーパーの開店後
  • 鉄道の到着・出発時刻
  • 工場や介護施設の勤務交代
  • 市役所の開庁時間

これらに合わせてダイヤを設計する必要があります。

往路だけでなく復路を設計する

通院バスでよく起こる問題は、病院へ行く便はあっても、診察終了後に長時間待たなければ帰れないことです。

利用可能性は、往路だけでなく、

総所要時間 =往路時間 +待ち時間 +目的地滞在時間 +復路待ち時間 +復路時間

で評価すべきです。

自動車なら2時間で済む通院が、バスでは6時間かかるなら、形式上は利用可能でも、実用性は低いといえます。

デマンド交通だけで解決できるのか

デマンド交通は、予約に応じて運行経路を調整する交通です。

需要が薄い地域では有効ですが、万能ではありません。

デマンド交通が向く条件

  • 利用者が少ない
  • 利用時間が分散している
  • 集落が広く分散している
  • 定時定路線では空車が多い
  • 主な目的地が限定されている

向かない条件

  • 朝夕に利用者が集中する
  • 高校生や通勤者が毎日利用する
  • 鉄道接続を厳密に守る必要がある
  • 予約が同じ時間帯に集中する
  • 予約管理が複雑になる
  • 乗り合いによる迂回時間が長くなる

同じ時間帯に20人が移動するなら、複数台のデマンド車両より、1台の路線バスの方が効率的です。

したがって、需要が集中する幹線をデマンド交通へ全面転換すると、かえって運転士と車両が多く必要になる可能性があります。

スクールバス・病院送迎との統合

地方では、路線バスとは別に、

  • スクールバス
  • 病院送迎車
  • 高齢者施設送迎
  • 福祉バス
  • 企業送迎
  • 宿泊施設送迎

が運行されています。

これらが別々の車両、運転士、予算で動けば、地域全体として非効率になります。

例えば、午前中に空いているスクールバスを、通院や買い物に活用できれば、車両利用率を上げられます。

実際に国土交通省の調査では、過疎地域でスクールバスと路線バスを組み合わせる事例が検討されています。([国土交通省 土地総合情報システム][10])

ただし、統合には、

  • 道路運送法上の扱い
  • 車両保険
  • 児童の安全
  • 運行時刻
  • 個人情報
  • 運賃徴収
  • 委託契約

などの調整が必要です。

「空いている車両を使えばよい」というほど単純ではありません。

自動運転は解決策になるのか

自動運転は、将来的に運転士不足を緩和する可能性があります。

しかし、現時点で過疎地域のバス問題を全面的に解決するとは考えにくい状況です。

必要になるものは、

  • 自動運転車両
  • 道路側設備
  • 遠隔監視
  • 通信回線
  • 除雪・落下物対応
  • 事故時対応
  • 車内安全確認
  • 高齢者の乗降支援
  • システム保守

です。

運転士が不要になっても、監視員や運行管理者が必要になる場合があります。

したがって、自動運転は長期的な選択肢ですが、当面は、

  • 路線再編
  • ダイヤ改善
  • 共同運行
  • 小型化
  • 運転士待遇改善
  • 輸送資源統合

を先に進める必要があります。

補助金を入れれば維持できるのか

地方路線バスの多くは、公的支援なしでは維持できません。

しかし、赤字額をそのまま補填するだけでは、効率化の動機が弱くなる可能性があります。

評価すべき指標は、単なる収支率だけではありません。

  • 1便当たり利用者数
  • 1人当たり公費負担
  • 1乗車当たり公費負担
  • 1人キロ当たり公費負担
  • 通院・通学可能人口
  • 自動車を利用できない住民のカバー率
  • 家族送迎時間の削減
  • 地域内消費額
  • 就業機会の維持
  • 代替交通との費用比較

例えば、年間補助額が3,000万円で、年間利用者が3万人なら、

3,000万円÷3万人 =1乗車当たり1,000円

です。

利用者が1万人なら、

3,000万円÷1万人 =1乗車当たり3,000円

です。

この金額を、

  • タクシー助成
  • デマンド交通
  • 家族送迎支援
  • 移動販売
  • 訪問診療

などの代替策と比較する必要があります。

路線バス復活が成立しやすい条件

効率的な路線バスの復活は、次の条件で成立しやすくなります。

  1. 沿線に一定の人口が集中している
  2. 駅、病院、学校、商業施設を1本で結べる
  3. 通勤・通学需要が毎日発生する
  4. 鉄道との接続が良い
  5. 1便当たり一定数の利用者を確保できる
  6. 観光需要を組み合わせられる
  7. スクールバスや企業送迎を統合できる
  8. 行政区域を越えて広域運行できる
  9. 小型車両を使える
  10. 運転士を安定的に確保できる
  11. 利用実績に応じてダイヤを改善できる
  12. 住民が実際に利用する意思を持つ

特に重要なのは、自治体境界ではなく生活圏に沿って路線を作ることです。

住民が隣の市の病院やスーパーを利用しているなら、市町村内だけを循環するバスでは需要に合いません。

成立しにくい条件

次の条件が重なる場合、固定路線バスの復活は難しくなります。

  • 住宅が極端に分散している
  • 1便当たり利用者が1~2人
  • 目的地が複数方向に分かれる
  • 住民が自家用車利用を変えない
  • 運行本数が1日1~2便にとどまる
  • 鉄道や病院と接続しない
  • 行政区域内だけで完結させる
  • 無料または極端な低運賃にする
  • 実証運行後の財源がない
  • 運転士確保策がない
  • 利用実績を検証しない
  • 既存の送迎車両と重複する

この場合は、デマンド交通やタクシー助成を中心にした方が合理的です。

外房地域で考える場合

外房では、鉄道駅、病院、スーパー、行政施設、観光地が離れている地域が多く、自家用車への依存度が高くなります。

一方で、人口密度が低く、自治体ごとに小規模な交通を運行しても、十分な利用者を確保しにくい可能性があります。

外房で現実的なのは、例えば次のような構造です。

基幹路線

  • 茂原駅~長生郡内の主要拠点
  • 大原駅~いすみ市内の病院・商業施設
  • 勝浦駅~市内病院・住宅地
  • 御宿駅~住宅地・商業施設
  • 鴨川方面の中核医療機関への広域交通

支線

  • 各集落から鉄道駅
  • 各集落から地域拠点
  • 高齢者住宅地からスーパー
  • 学校統合後の通学路線

末端交通

  • デマンド交通
  • 乗合タクシー
  • 公共ライドシェア
  • 福祉輸送
  • 家族送迎支援

ただし、具体的な路線を決めるには、現在の乗降データ、人口分布、病院受診先、買い物先、鉄道時刻、既存送迎車両を確認する必要があります。

公開資料だけで、特定の路線が採算に合うと断定することはできません。

現実性の低い主張

以前の路線をそのまま復活させれば利用者が戻る

生活拠点が変わっているため、旧路線をそのまま戻しても需要に合わない可能性があります。

高齢者が増えるから利用者も増える

高齢者が家族送迎、施設送迎、宅配を使えば、バス需要は増えません。

無料にすれば利用者が増える

運賃が無料でも、目的地、時間、便数が合わなければ利用されません。

デマンド交通にすればすべて効率化できる

需要が集中する区間では、固定路線の方が効率的です。

小型車両にすれば赤字がなくなる

運転士人件費と運行管理費は残ります。

自動運転ですぐ解決できる

導入費、監視、保守、安全管理が必要です。

補助金を増やせば維持できる

運転士がいなければ、予算があっても運行できません。

自治体が行うべき分析

路線再編前に、最低限次のデータを集める必要があります。

  1. 停留所別乗降者数
  2. 便別利用者数
  3. 曜日・時間帯別利用者数
  4. 利用者の年齢と目的
  5. 病院・学校・スーパーへの移動需要
  6. 鉄道との接続状況
  7. 自動車を利用できない住民数
  8. 既存のスクールバス・福祉車両
  9. 1便当たり運行費用
  10. 1乗車当たり公費負担
  11. 運転士数と年齢構成
  12. 車両更新時期
  13. 廃止した場合の代替費用
  14. 家族送迎の時間負担
  15. 観光客の移動需要

路線バスは、運行したかどうかではなく、

住民が必要な時刻に、必要な場所へ移動できたか

で評価すべきです。

現実的な結論

過疎地域の路線バスは、昭和後期から平成初期にかけて、主に自家用車の普及と利用者減少によって減便されました。

平成中期以降は、低需要路線の採算悪化、規制制度の変化、自治体財政、事業者再編などが重なり、路線廃止が目立つようになりました。

令和期には、これに運転士不足という供給側の制約が加わっています。

今後、高齢者の免許返納、家族送迎能力の低下、病院・学校・スーパーの集約が進めば、地方の移動需要はなくなるのではなく、少数の拠点への移動として再編されます。

この需要を支えるため、一定の人口と目的地が集まる区間では、路線バスが地方経済に不可欠になる可能性があります。

ただし、必要なのは昭和型の路線網の復活ではありません。

  • 幹線は定時定路線
  • 支線は小型バス
  • 分散集落はデマンド交通
  • 通学・通院・福祉・観光輸送は共同化
  • 鉄道、病院、商業施設とダイヤを連動
  • 自治体境界を越えて生活圏単位で設計

という再構築が必要です。

地方経済にとって公共交通は、単なる赤字事業ではありません。

住民が買い物をし、病院へ通い、学校へ通い、仕事へ行き、観光客が地域内を移動するための経済基盤です。

一方で、利用者がほとんどいない路線を大型バスで維持することは、財政的にも人材面でも持続しません。

したがって、今後の課題は、

路線バスを残すか廃止するかではなく、どの区間を定時定路線として守り、どの区間を別の交通手段へ転換するか

を、実際の移動データと費用から判断することです。

効率的な路線バスの復活は、地方経済の再生に必要な条件の一つです。

しかし、それが有効なのは、路線、便数、車両、乗り継ぎ、他分野の送迎を一体で設計し直した場合に限られます。

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地方のスーパーはなぜ撤退するのか~人口減少だけでは説明できない店舗経営の構造

地方のスーパーが閉店すると、「人口が減ったから仕方がない」と説明されることがあります。

確かに、商圏人口の減少は店舗経営に大きな影響を与えます。しかし、人口が減少している地域のスーパーがすべて撤退するわけではありません。反対に、人口が比較的維持されている地域でも、競争激化、人手不足、建物の老朽化、物流費の上昇などを理由に店舗が閉鎖されることがあります。

地方スーパーの撤退は、人口だけでなく、次の要素が重なって起こります。

  • 商圏内の人口と世帯数
  • 高齢化と1世帯当たりの購入量
  • 来店客数と客単価
  • 競合店との距離
  • ドラッグストアやコンビニエンスストアとの競争
  • 人件費と採用難
  • 電気料金と冷蔵・冷凍設備の維持費
  • 商品配送にかかる物流費
  • 生鮮食品や総菜の値引き・廃棄
  • 建物や設備の更新費
  • 本部が店舗に求める収益水準
  • 店舗網全体の再編方針

つまり、地方スーパーの撤退は、単純な「人口減少の結果」ではありません。

人口減少によって売上の上限が下がる一方で、人件費、電気料金、物流費、設備更新費などの固定的な負担が下がりにくくなり、最終的に必要な利益を確保できなくなる問題です。

最初に結論

地方スーパーが撤退する最大の構造的理由は、次の関係にあります。

店舗利益 =売上高 -商品仕入原価 -人件費 -電気・燃料費 -物流費 -建物・設備費 -廃棄・値引き損失 -その他の経費

人口が減少すると、店舗の売上高は減少しやすくなります。

しかし、売上が10%減少しても、従業員数、冷蔵設備、照明、配送回数、建物面積などを同じ10%だけ減らせるとは限りません。営業を続けるために必要な最低限の費用が残るからです。

さらに、近年は食品価格の上昇によって売上高が増えていても、販売数量や利益まで増えているとは限りません。

経済産業省の商業動態統計によると、2025年のスーパー販売額は前年比4.7%増加し、1店舗当たり販売額と店舗数も増加しました。しかし、これは全国集計です。都市部の新規出店や大型店の成長を含むため、人口減少地域にある個別店舗の経営改善を示すものではありません。

したがって、地方スーパーの問題を理解するには、

「全国のスーパー市場が成長しているか」

ではなく、

「その店舗の商圏で、必要な来店客数と粗利益を確保できているか」

を見る必要があります。

スーパーの売上は何で決まるのか

スーパーの売上高は、概念的には次のように分解できます。

売上高 =1日当たり来店客数 ×1人当たり購入額 ×営業日数

例えば、1日1,500人が来店し、1人当たり2,000円購入する店舗では、1日の売上高は約300万円です。

ところが、来店客数が1,200人に減少すると、客単価が変わらなければ売上高は約240万円となります。

1日当たりの差は60万円です。

年間360日営業すると仮定すれば、単純計算では年間約2億1,600万円の売上差になります。

実際には、値上げによって客単価が上昇したり、営業時間や品ぞろえを変更したりするため、売上高がこのまま減少するとは限りません。しかし、客数の減少が長期間続けば、店舗の採算を維持することは難しくなります。

全国スーパーマーケット協会の2025年版白書では、2024年の年次統計調査における中央値として、平日の1日客数が1,675人、客単価が2,191円、土日祝日の1日客数が1,800人、客単価が2,555円と示されています。これらは全国の調査対象店舗の中央値であり、地方の小規模店舗にそのまま当てはめることはできませんが、スーパーが相当数の来店客を前提にした事業であることは分かります。

人口減少だけでは不十分な理由

人口と来店客数は同じ割合では減らない

商圏人口が10%減少したからといって、店舗の来店客数が必ず10%減るわけではありません。

競合店が閉店すれば、残った店舗に利用者が集中することがあります。反対に、新しいドラッグストアや大型店が開業すれば、人口が変わらなくても来店客数が減ることがあります。

来店客数は、おおむね次の要素によって決まります。

来店客数 =商圏人口 ×来店可能率 ×店舗選択率 ×来店頻度

商圏人口が維持されていても、自動車で別の市町村に買い物へ行く人が増えれば、地元店舗の店舗選択率は下がります。

人口が減少していても、競合店が少なく、地域住民から支持されている店舗なら、一定の利用者を確保できる可能性があります。

高齢化すればスーパーの需要が増えるとは限らない

高齢者は食料品を必要とするため、高齢化地域でもスーパーの需要はなくなりません。

一方で、高齢化によって次の変化が起こることがあります。

  • 1世帯当たりの人数が減る
  • 1回当たりの購入量が減る
  • 自動車を運転できない人が増える
  • 重い商品を持ち帰りにくくなる
  • 店舗までの移動回数が減る
  • 宅配、生協、移動販売へ移行する
  • 調理済み食品の需要が増える
  • 少量商品への需要が増える

高齢者世帯が増えると、総菜や少量包装への需要は高まる可能性があります。しかし、少量包装は包装、加工、品出しなどの手間が相対的に大きくなることがあります。

したがって、高齢化は単なる需要減少ではなく、需要内容の変化として捉える必要があります。

全国売上の増加と地方店舗の撤退は矛盾しない

全国のスーパー販売額が増えているのに、なぜ地方のスーパーは閉店するのでしょうか。

この二つは矛盾しません。

全国の販売額は、次の要因でも増加します。

  • 食品価格の上昇
  • 都市部への新規出店
  • 大型店舗の増加
  • 高付加価値商品の販売
  • 総菜や冷凍食品の需要増加
  • 一部企業への売上集中
  • 店舗統合後の大型店への顧客集中

仮に販売数量が変わらなくても、平均価格が5%上がれば、名目上の売上高は約5%増えます。

しかし、仕入価格も上昇していれば、店舗の利益が同じ割合で増えるわけではありません。

重要なのは売上高そのものではなく、粗利益です。

粗利益 =売上高 -商品仕入原価

さらに、店舗が最終的に残せる利益は、粗利益から人件費、電気料金、物流費、設備費などを差し引いた金額です。

売上高が増えていても、費用の増加がそれを上回れば、店舗の利益は減少します。

原因1~商圏人口と世帯構成の変化

地方スーパーにとって、人口減少は売上の上限を下げる要因です。

特に影響が大きいのは、単なる人口総数ではなく、店舗周辺の商圏人口です。

同じ市町村の中でも、人口が比較的集まる中心部と、住宅が分散する周辺部では店舗経営の条件が異なります。

例えば、市町村全体の人口が2万人であっても、住民が広い範囲に分散していれば、店舗までの移動距離が長くなります。住民が隣接自治体の大型店を利用している場合、市町村人口のすべてが地元店舗の顧客になるわけではありません。

また、人口が同じでも、世帯構成によって食品需要は変わります。

  • 子育て世帯が多い地域
  • 単身高齢者が多い地域
  • 観光客が多い地域
  • 別荘や二地域居住が多い地域
  • 昼間人口が多い地域
  • 通勤によって昼間人口が減る地域

これらでは、来店時間、購入量、需要商品が異なります。

地方店舗を分析するときは、市町村人口だけではなく、店舗から一定時間で到達できる範囲の人口、世帯数、年齢構成、昼間人口、競合店舗を確認する必要があります。

原因2~ドラッグストアとの競争

近年、地方の食品スーパーにとって大きな競争相手になっているのがドラッグストアです。

ドラッグストアは医薬品、化粧品、日用品だけでなく、飲料、菓子、調味料、冷凍食品、牛乳、卵などを販売する店舗が増えています。

2025年の経済産業省の統計では、ドラッグストア販売額が前年比5.5%増加し、食品や調剤医薬品などが増加要因となりました。

ドラッグストアは、医薬品や化粧品など食品以外の商品からも利益を得られます。そのため、一部の食品を低価格で販売し、来店を促す戦略を取ることができます。

これに対して、食品スーパーは、生鮮食品や総菜の売上比率が高く、鮮度管理、加工、値引き、廃棄などの負担があります。

ドラッグストアが地域に出店すると、住民が食品をすべて移行するわけではありません。しかし、牛乳、飲料、菓子、冷凍食品、調味料など、保存しやすい商品がドラッグストアへ流れる可能性があります。

その結果、スーパーには管理が難しい生鮮食品や総菜の販売負担が残り、利益を得やすい商品の売上が減ることがあります。

原因3~大型店と地域外店舗への顧客流出

地方では、自動車を使って買い物をする世帯が多いため、行政区域の境界は必ずしも商圏の境界になりません。

住民は、町内の店舗よりも、

  • 品ぞろえが多い
  • 価格が安い
  • 駐車場が広い
  • 他の店舗と一緒に利用できる
  • 飲食店や医療機関にも立ち寄れる

といった条件を持つ近隣都市の大型店を選ぶことがあります。

道路が整備され、移動時間が短くなることは住民にとって便利です。一方、地元店舗にとっては、商圏外への顧客流出を促す場合があります。

このため、交通利便性の向上が、必ずしも地元商業の維持につながるわけではありません。

道路整備によって、地域外から顧客を呼び込める店舗もありますが、品ぞろえや価格で劣る店舗では、逆に顧客が外へ流出する可能性があります。

原因4~人手不足と人件費

スーパーは、多くの作業を人に依存しています。

主な業務には、次があります。

  • 商品の荷受け
  • 品出し
  • 発注
  • 在庫管理
  • レジ対応
  • 生鮮食品の加工
  • 総菜調理
  • 清掃
  • 値引き
  • 廃棄処理
  • 衛生管理
  • 売場変更
  • 顧客対応

セルフレジや自動発注を導入しても、すべての作業を無人化できるわけではありません。

全国スーパーマーケット協会の調査では、人手不足への採用対策に取り組む企業の割合が高く、2023年調査では採用活動に関する人手不足対策の実施率が98.1%でした。また、同調査では、同じ売場面積区分でも、都市圏店舗の従業員1人当たり年間売上高が地方圏を上回る傾向が示されています。

これは、地方店舗では従業員1人当たりの売上を確保しにくい可能性を示します。ただし、調査対象や店舗規模による違いがあるため、すべての地方店舗に当てはまるとは限りません。

地方では若年人口が少なく、早朝、夕方、土日、祝日に働ける人材を確保しにくい場合があります。

人手が不足すると、店舗は次の対応を迫られます。

  • 営業時間を短縮する
  • 売場面積を縮小する
  • 加工商品を減らす
  • 総菜の種類を減らす
  • レジを減らす
  • 本部や他店から応援を出す
  • 時給を引き上げる
  • 省力化設備を導入する

しかし、省力化設備には初期投資と維持費が必要です。小規模店舗では、投資額を回収できないこともあります。

原因5~電気料金と冷蔵・冷凍設備

スーパーは、一般の小売店と比べて、冷蔵・冷凍設備を長時間稼働させる必要があります。

冷蔵ケース、冷凍ケース、バックヤードの冷蔵庫、冷凍庫、空調、照明、調理設備などが必要です。

電気料金は、単純な使用量だけでなく、契約電力、燃料費、託送料金、再生可能エネルギー発電促進賦課金などの影響を受けます。資源エネルギー庁によると、自由化後の電気料金には、発電・調達費、人件費などのほか、送配電網の利用料金である託送料金や各種公租公課などが含まれます。

店舗の売上が減っても、食品を安全に保存するために冷蔵・冷凍設備を停止することはできません。

営業時間を短縮しても、冷蔵設備は閉店中も動かす必要があります。

そのため、来店客数が少ない店舗ほど、1人の顧客または1円の売上に対する電力費の割合が高くなりやすい構造があります。

原因6~地方物流の非効率性

スーパーでは、商品を継続的に配送する必要があります。

特に、生鮮食品、牛乳、豆腐、総菜材料などは、在庫を長期間持ちにくいため、一定の配送頻度が必要です。

物流費は、次の要素から構成されます。

物流費 =車両費 +燃料費 +運転者の人件費 +荷役費 +物流施設費 +配送管理費

人口密度が低い地域では、1回の配送で納品できる商品量が少なくなることがあります。

都市部であれば、短い距離で複数店舗へ配送できます。地方では店舗間の距離が長く、1店舗当たりの配送量も少ないため、商品1個当たりの物流費が高くなりやすくなります。

チェーン全体で見れば、遠隔地にある売上規模の小さい店舗を維持するために、専用の配送経路や長距離輸送が必要になることがあります。

店舗自体がわずかに黒字でも、物流網全体の効率を考えると、閉店や店舗統合が選ばれる場合があります。

原因7~生鮮食品と総菜の廃棄・値引き

食品スーパーは、生鮮食品や総菜を扱うことで、コンビニエンスストアやドラッグストアとの差別化を図っています。

一方、生鮮食品や総菜には、売れ残りの問題があります。

需要を正確に予測できなければ、次のどちらかが起こります。

  • 商品が足りず、販売機会を失う
  • 商品が余り、値引きや廃棄が増える

人口が少ない地域や、曜日・天候・観光客数による変動が大きい地域では、需要予測が難しくなる場合があります。

農林水産省によると、2024年度の事業系食品ロスは237万トンで、このうち食品小売業は48万トンでした。これはスーパーだけの数字ではありませんが、食品小売業全体で、売れ残りなどによる食品ロスが一定規模存在することを示します。

売れ残った商品を値引き販売すれば、廃棄量は減らせます。しかし、値引きによって粗利益は小さくなります。

また、値引き時刻が固定化すると、消費者が値引きを待つようになり、通常価格での販売が減る可能性もあります。

重要なのは、廃棄をゼロにすることではなく、欠品による機会損失と、過剰在庫による値引き・廃棄損失の合計を小さくすることです。

原因8~店舗と設備の老朽化

地方スーパーの撤退理由として見落とされやすいのが、建物と設備の更新問題です。

営業を継続するには、次の設備を更新する必要があります。

  • 冷蔵・冷凍ケース
  • 空調設備
  • 照明
  • レジシステム
  • 発注・在庫管理システム
  • 厨房設備
  • 防火設備
  • 給排水設備
  • 屋根・外壁
  • 駐車場舗装
  • 看板
  • 非常用電源
  • バリアフリー設備

日常の営業では利益が出ていても、数億円規模の改装や建て替えが必要になれば、企業は将来の投資回収可能性を検討します。

投資回収年数は、概念的には次のように表せます。

投資回収年数 =更新投資額 ÷更新後の年間利益増加額

例えば、改装に3億円必要で、改装による年間利益の増加が2,000万円と見込まれる場合、単純な回収年数は15年です。

しかし、商圏人口が今後も減少すると予測される地域では、15年間にわたって利益を維持できる保証はありません。

そのため、現在赤字だから閉店するのではなく、次の更新投資を回収できないため閉店することがあります。

原因9~賃貸借契約と土地・建物の問題

店舗が自社所有ではなく賃借物件の場合、契約更新や賃料改定が閉店の契機になることがあります。

また、店舗建物の所有者と運営会社が異なる場合、運営会社が営業継続を希望しても、建物所有者が建て替えや売却を選ぶ可能性があります。

一方、自社所有店舗であっても、建物の維持費、固定資産税、解体費、跡地利用などを含めて判断されます。

閉店理由が「契約満了」「諸般の事情」としか公表されない場合、公開情報だけで採算悪化を断定することはできません。

原因10~チェーン全体の店舗再編

チェーン店では、個別店舗だけでなく、企業全体の資本効率によって存廃が決まります。

本部は、限られた人材と資金を、より成長性の高い店舗に配分しようとします。

例えば、ある地方店舗がわずかに黒字でも、その店舗を閉じて、従業員や設備投資資金を都市部の大型店へ移した方が利益を増やせると判断される場合があります。

企業が比較するのは、単なる黒字・赤字ではありません。

  • 売上高営業利益率
  • 投下資本利益率
  • 改装投資の回収期間
  • 店舗当たり売上高
  • 従業員1人当たり売上高
  • 売場面積当たり売上高
  • 将来の商圏人口
  • 競合店の出店計画
  • 物流網との位置関係

このため、利用者が多いと感じている店舗でも、本部の基準を満たさず閉店することがあります。

小さな店舗ほど維持しやすいとは限らない

売場面積を小さくすれば、家賃や電気料金を抑えられる可能性があります。

しかし、小規模店舗には別の不利があります。

  • 大量仕入れの効果が小さい
  • 商品数を確保しにくい
  • 1人の欠勤の影響が大きい
  • 店長や管理者の費用を分散しにくい
  • 設備投資を売上で回収しにくい
  • 配送1回当たりの商品量が少ない
  • 値引き・廃棄を吸収しにくい

全国スーパーマーケット協会の2023年調査では、売場面積800平方メートル未満の店舗は、従業員1人当たり年間売上高が他の面積区分よりやや低い傾向が示されました。

小型化は有力な対応策ですが、単に店舗を小さくすれば採算が改善するとは限りません。

観光客が多ければ維持できるのか

外房のような観光地域では、夏季、週末、連休に来訪者が増えます。

観光需要はスーパーの売上を支える可能性があります。飲料、酒類、総菜、肉、魚、氷、行楽用品などの需要が増えるためです。

一方で、観光需要には次の問題があります。

  • 季節変動が大きい
  • 天候に左右される
  • 平日の売上を支えにくい
  • 繁忙期だけ人員を増やす必要がある
  • 需要予測を外すと廃棄が増える
  • 観光客が地域外の大型店で購入してから来訪することがある

年間数日や数週間の繁忙期だけでは、年間を通した固定費を支えられないことがあります。

観光客数だけでなく、地域内で実際に食料品を購入する割合と、年間を通した売上への寄与を確認する必要があります。

競合店がなくなれば残った店舗は安泰なのか

競合店の閉店は、残った店舗に顧客が集中する効果を持ちます。

しかし、競合店がないことが、必ずしも店舗の存続を保証するわけではありません。

地域全体の需要が、店舗を維持する最低水準を下回っていれば、独占状態でも採算を確保できないことがあります。

また、競合店がなくなった後に価格を大幅に上げれば、住民が遠方の大型店、宅配、インターネット通販へ移行する可能性があります。

スーパーには、地域内の競争だけでなく、地域外店舗や異業態との競争があります。

ネットスーパーは代替になるのか

ネットスーパーや食品宅配は、店舗まで移動できない人にとって有効な手段です。

しかし、地方では次の制約があります。

  • 配達区域外となる
  • 配達時間を指定しにくい
  • 配送料がかかる
  • 最低注文額が設定される
  • 当日配送に対応しない
  • 生鮮食品を自分で選べない
  • インターネット操作が必要になる
  • クレジットカードなど支払方法が限られる
  • 欠品時に代替商品を選びにくい

配送密度が低い地域では、1件当たりの配送費が高くなります。

ネットスーパーも、店舗型スーパーと同じように、需要密度の問題から逃れられません。

移動販売は撤退後の解決策になるのか

移動販売は、店舗へ行けない住民に商品を届ける有力な手段です。

一方、移動販売車には、次の費用がかかります。

移動販売の利益 =商品販売額 -商品仕入原価 -車両費 -燃料費 -人件費 -保冷設備費 -決済費用 -売れ残り損失

集落が分散している地域では、移動時間が長くなり、1時間当たりに対応できる利用者数が少なくなります。

利用者にとって必要性が高くても、事業者にとって採算が合うとは限りません。

そのため、移動販売を持続させるには、

  • 既存店舗との連携
  • 福祉サービスとの共同運行
  • 自治体による運行支援
  • 複数地区を組み合わせた巡回
  • 注文予約による廃棄削減
  • 高齢者見守りとの複合化

などが必要になることがあります。

ただし、補助金によって開始できても、運転者、車両更新、利用者数を長期間確保できなければ継続できません。

スーパー撤退が住民生活に与える影響

スーパーの閉店は、単なる店舗数の減少ではありません。

買い物距離が延びる

近隣店舗がなくなると、住民は遠方の店舗へ移動する必要があります。

自動車を運転できる人にとっては、数キロメートルの増加で済む場合があります。しかし、運転できない人には大きな影響があります。

食品価格以外の負担が増える

遠方の店舗が安くても、交通費と時間を含めると必ずしも安いとは限りません。

実質的な買い物費用 =商品代金 +燃料費・運賃 +配送料 +移動時間 +家族の送迎負担

商品の店頭価格だけでは、住民の負担を評価できません。

生鮮食品を買う頻度が下がる

買い物回数が減ると、保存しやすい食品の購入が増える可能性があります。

冷凍食品、加工食品、菓子、レトルト食品が直ちに健康へ悪影響を与えるとは限りません。しかし、生鮮食品を選択できる機会が減ることは、食生活の多様性に影響する可能性があります。

農林水産省は、食料品店の減少や高齢化により、高齢者を中心に買い物へ不便や苦労を感じる人が増えている問題を「食料品アクセス問題」と位置づけています。

家族の送迎負担が増える

本人が運転できない場合、家族が買い物を代行したり、店舗へ送迎したりする必要があります。

この負担は、統計上の買い物費用には表れにくいものです。

食料品アクセス困難人口という考え方

農林水産政策研究所は、食料品アクセス困難人口を、

「店舗まで500メートル以上離れ、自動車の利用が困難な65歳以上の高齢者」

として推計しています。

対象店舗には、生鮮食品店、百貨店、総合スーパー、食料品スーパー、コンビニエンスストア、ドラッグストアなどが含まれます。

ただし、この定義には注意が必要です。

500メートル以内にコンビニエンスストアがあれば、統計上はアクセス困難者に含まれない場合があります。しかし、コンビニエンスストアで、価格、品ぞろえ、容量を含めてスーパーと同等の買い物ができるとは限りません。

また、自動車を保有していても、本人が安全に運転できるとは限りません。

したがって、地域の買い物環境を評価するときは、500メートルという距離だけでなく、

  • 実際の道路距離
  • 坂道や歩道
  • 商品の品ぞろえ
  • 店舗価格
  • 荷物を運べるか
  • バスの運行本数
  • 家族の支援
  • 配達サービスの有無

まで確認する必要があります。

スーパーが残りやすい条件

地方でも、次の条件がそろえばスーパーを維持しやすくなります。

  • 一定範囲に人口が集中している
  • 競合店との差別化ができている
  • 地域外からも顧客を集められる
  • 幹線道路から入りやすい
  • 十分な駐車場がある
  • 生鮮食品や総菜に支持がある
  • 店舗規模が需要に合っている
  • 物流拠点から遠すぎない
  • 従業員を確保できる
  • 建物や設備が比較的新しい
  • 観光需要が年間売上に寄与する
  • 他店舗との配送効率が良い
  • 地域住民が継続的に利用する

特に重要なのは、商圏人口の総数だけでなく、一定時間内に来店できる顧客がどの程度いるかです。

スーパーが残りにくい条件

次の条件が重なる店舗は、存続が難しくなります。

  • 商圏人口が減少している
  • 住宅が広範囲に分散している
  • 高齢化により来店頻度が低下している
  • 近隣都市の大型店へ顧客が流出している
  • ドラッグストアとの価格競争が激しい
  • 人材を確保できない
  • 冷蔵・冷凍設備が老朽化している
  • 大規模な改装が必要である
  • 配送距離が長い
  • 売上の季節変動が大きい
  • 生鮮食品の廃棄率が高い
  • 店舗面積が需要に対して大きすぎる
  • 本部の店舗再編対象になっている

一つの条件だけで閉店が決まるとは限りません。

複数の問題が同時に発生し、更新投資の時期や契約満了をきっかけに閉店する場合が多いと考えられます。

スーパーを補助金で維持すべきか

スーパーは民間企業ですが、地方では生活インフラに近い役割を持ちます。

特に、代替店舗が遠く、自動車を運転できない住民が多い地域では、店舗の閉鎖が生活維持に直接影響します。

ただし、特定店舗へ恒常的に公費を投入する場合は、次を検討する必要があります。

  • 支援しなければ本当に撤退するのか
  • 支援額はいくらか
  • 何年間維持できるのか
  • 対象住民は何人か
  • 1人当たりの公費負担はいくらか
  • 移動販売や宅配より効率的か
  • 競合企業との公平性を保てるか
  • 店舗の経営改善策があるか
  • 経営情報をどこまで確認できるか
  • 支援終了後に存続できるか

例えば、年間3,000万円の公費を投入して、実質的な利用者が1,000人なら、単純計算で利用者1人当たり年間3万円です。

この金額が高いか安いかは、代替手段の費用と比較しなければ判断できません。

店舗維持、移動販売、買い物バス、タクシー助成、宅配支援などを同じ基準で比較する必要があります。

現実性の低い主張

人口を増やせばスーパーを維持できる

人口増加は需要を増やす可能性があります。

しかし、店舗維持に必要な規模の人口を短期間で増やすことは容易ではありません。また、移住者が必ず地元店舗を利用するとは限りません。

道の駅があれば代替できる

道の駅は農産物や地域商品を購入する場所として有効です。

しかし、肉、魚、加工食品、日用品、医薬品など、日常生活に必要な商品をすべて安定的に供給できるとは限りません。

コンビニエンスストアがあれば問題ない

コンビニエンスストアは、営業時間や立地の面で重要です。

一方、価格、容量、生鮮食品、日用品の品ぞろえでは、スーパーと同じ役割を果たせない場合があります。

ネットスーパーですべて解決できる

配達区域、配送料、注文方法、決済方法、物流採算などの制約があります。

自治体が運営すればよい

自治体が店舗を直接または間接的に支える場合でも、仕入れ、在庫管理、食品衛生、人材確保、廃棄、設備更新などの経営課題は残ります。

民間店舗の赤字が、公営化によって自動的に消えるわけではありません。

地方で現実的に取り得る対応

地域全体の生活を維持するには、スーパー1店舗を無条件に残すことだけが選択肢ではありません。

現実的には、複数の手段を組み合わせる必要があります。

店舗の小型化

需要に合わせて売場面積や商品数を縮小します。

ただし、小型化による売上減と固定費削減の効果を比較する必要があります。

営業時間の見直し

利用者が少ない時間帯を短縮し、人件費や照明・空調費を抑えます。

冷蔵設備の電力費は残るため、営業時間短縮だけで大幅な改善ができるとは限りません。

予約販売と受け取り拠点

事前注文によって需要を把握し、廃棄を減らします。

電話注文を併用すれば、インターネットを利用しない高齢者にも対応できます。

移動販売との併用

店舗を商品供給拠点とし、周辺集落へ移動販売車を運行します。

店舗単独と移動販売単独ではなく、在庫と人員を共有する方法です。

医療・介護・交通との連携

通院バス、デマンド交通、福祉サービスなどと買い物機会を組み合わせます。

ただし、目的外利用や運行制度上の制約を確認する必要があります。

複合店舗化

食品、日用品、行政手続、金融、宅配受け取り、地域交流などをまとめます。

複数の需要を集約することで、来店頻度を高められる可能性があります。

一方、業務が複雑になり、必要な人材や設備が増える可能性もあります。

自治体が確認すべきこと

自治体は、店舗の閉店が発表されてから対応するのではなく、地域の買い物環境を定期的に把握する必要があります。

確認項目としては、次が考えられます。

  • 食料品を扱う店舗の所在地
  • 地区別の人口と高齢化率
  • 店舗までの道路距離
  • 自動車を運転できない住民数
  • 路線バスとデマンド交通
  • 移動販売の曜日と区域
  • 生協・宅配・ネットスーパーの区域
  • タクシー料金
  • 家族送迎の実態
  • 店舗閉鎖時の代替店舗
  • 災害時の食料供給拠点
  • 小売・物流分野の人材確保状況

特に重要なのは、現在の店舗が閉店した場合に、次の店舗までの距離と時間がどれだけ増えるかを事前に把握することです。

住民が住宅購入・移住前に確認すべきこと

地方への移住や住宅購入では、現在スーパーがあるかだけでなく、次を確認する必要があります。

  1. 最寄りのスーパーまでの実際の道路距離
  2. 自動車を運転できなくなった場合の移動手段
  3. 第二候補のスーパーまでの距離
  4. 生協・宅配・ネットスーパーの配達区域
  5. 移動販売の運行日
  6. コンビニエンスストアとドラッグストアの品ぞろえ
  7. 冬季・荒天時の移動条件
  8. 家族に買い物を頼めるか
  9. 店舗が閉店した場合の代替手段
  10. 10年後、20年後も生活を維持できるか

現在自動車を運転できる人でも、将来の免許返納や健康状態の変化を考える必要があります。

公開資料から確認できないこと

個別店舗については、次の情報が通常公開されません。

  • 店舗単独の売上高
  • 店舗単独の営業利益
  • 廃棄率
  • 人件費率
  • 賃料
  • 電気料金
  • 設備更新額
  • 本部の撤退基準
  • 契約条件
  • 今後の閉店計画

したがって、客が少なく見える、建物が古い、競合店ができたという情報だけで、閉店の可能性を断定することはできません。

閉店理由が企業から明示されていない場合は、「人口減少が原因」「赤字店舗だった」などと断定すべきではありません。

現実的な結論

地方スーパーが撤退する理由は、人口減少だけでは説明できません。

人口減少は、店舗の売上上限を下げる重要な要因です。しかし、撤退を直接決めるのは、売上に対して人件費、物流費、電気料金、廃棄損失、設備更新費などを負担し、企業が必要とする利益を確保できるかどうかです。

全国のスーパー販売額が増加していても、地方の個別店舗が安定しているとは限りません。

食品価格の上昇によって名目売上が増えても、仕入価格や各種費用が増えれば、利益は改善しない可能性があります。

また、店舗が現在黒字でも、老朽設備の更新投資を将来の商圏人口から回収できないと判断されれば、閉店することがあります。

地方スーパーを生活インフラとして維持するには、単に「住民が必要としている」と訴えるだけでは足りません。

誰が利用するのか。 1日に何人が来店するのか。 1人がいくら購入するのか。 商品を誰が運ぶのか。 従業員を確保できるのか。 設備更新にいくら必要なのか。 赤字を誰が何年間負担するのか。

これらを具体的に検証する必要があります。

スーパーを残すことが最も合理的な地域もあれば、小型店舗、移動販売、宅配、交通支援を組み合わせた方が現実的な地域もあります。

重要なのは、すべての店舗を一律に残すことでも、市場原理だけに任せることでもありません。

地域ごとに、必要な食料供給機能を定め、その機能を最も持続可能な方法で維持することです。

データ利用上の注意

本記事で使用した販売額や店舗数は、全国または業界全体の統計です。

個別の地方店舗の売上、利益、閉店理由を直接示すものではありません。

また、経済産業省の商業動態統計は、2025年1月分に2021年経済センサス~活動調査を基礎とする水準調整が行われており、2024年12月以前の販売額との間に不連続がある点に注意が必要です。

地域や個別店舗を分析する場合は、国勢調査、住民基本台帳、経済センサス、企業の公式発表、自治体資料、交通情報などを組み合わせて判断する必要があります。

主な参考資料

  • 経済産業省「商業動態統計」
  • 経済産業省「2025年小売業販売を振り返る」
  • 全国スーパーマーケット協会「2025年版スーパーマーケット白書」
  • 全国スーパーマーケット協会「スーパーマーケット年次統計調査」
  • 農林水産省「食品アクセス問題の現状」
  • 農林水産政策研究所「食料品アクセスマップ」
  • 農林水産省「事業系食品ロス量(2024年度推計値)」
  • 資源エネルギー庁「電気料金の仕組み」
  • 総務省統計局「人口推計」

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