地域分析記事

地域の暮らしと地域課題を数学とデータで考える

過疎地域に路線バスの復活は必要か

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 過疎地域の路線バスは、昭和後期から平成初期にかけて減便が進み、平成中期以降は路線そのものの廃止が目立つようになりました。その背景には、人口減少だけでなく、自家用車の普及、住宅や商業施設の郊外化、学校や病院の統廃合、バス事業者の経営再編、燃料費や車両費の上昇など、複数の要因があります。さらに令和に入ると、利用者が少ないから運行できないという従来の問題に加えて、運転士が不足しているため、一定の利用者が存在していても必要な便数を維持できないという供給側の問題が深刻になってきました。

 一方、今後の地方では、高齢者が運転を継続できなくなった場合の移動手段、世帯の小規模化、病院・学校・商業施設の集約、地域内の人手不足、観光客の二次交通、地域内消費の維持などを考えると、公共交通の重要性そのものが低下するとは考えにくい状況です。ただし、昭和期と同じ大型バスを、以前と同じ経路とダイヤで復活させればよいわけではありません。必要なのは、需要が集中する区間には定時定路線の交通を配置し、需要が薄く分散する地域ではデマンド交通、乗合タクシー、公共ライドシェア、スクールバス、医療・福祉輸送などを組み合わせることです。地方経済に必要なのは、過去の路線網の全面復活ではなく、現在の人口分布と生活圏に合わせた地域交通の再設計だと考えるべきでしょう。

最初に結論

 過疎地域で路線バスが必要かどうかを、「残すか、廃止するか」という二者択一で考えることは適切ではありません。鉄道駅、中心市街地、中核病院、高校、大型商業施設、行政施設、観光拠点、比較的人口が集中する住宅地などを結び、一定方向・一定時間帯に需要を集約できる区間では、定時定路線型のバスが合理的になる可能性があります。一方、人口が極端に少なく住宅が広く分散している地区、利用時間や目的地が大きくばらつく地区、通院日や買い物日など特定の日だけ需要が発生する地区では、固定路線を毎日走らせるよりも、予約制のデマンド交通や乗合タクシーなどが合理的な場合があります。

 したがって、結論は「地方に路線バスは必要か」という単純な問題ではありません。一定の需要を集約できる区間では定時定路線を維持または再構築し、それ以外の地域では需要密度に応じた別の交通手段へ転換することが重要です。

路線バス利用者はどれほど減ったのか

 日本の乗合バス輸送人員は、1968年度に約101億人でピークを迎えました。その後は長期的な減少が続き、2012年度には約41億人となっています。約44年間で約60%減少したことになります。一方、乗合バスの車両数は、1968年度の約6万4,700両から2012年度の約5万9,000両への減少にとどまっています。この数値から計算すると、車両数の減少率は約9%です。輸送人員が約60%減少したのに対し、車両数は約9%しか減っておらず、単純比較では1台当たりの輸送量が大幅に低下したことになります。

 なお、一部の国土交通省資料では、この車両数の変化を約13%減と記載したものがありますが、資料に掲載されている約6万4,700両から約5万9,000両という数値を直接計算すると約9%減となります。このため、本稿では掲載数値から計算した値を用います。

 平成以降に限定しても、乗合バス輸送人員は1990年度の約65億人から2000年度には約48億人、2010年度には約42億人へ減少しています。1990年度から2010年度までの20年間では約35%減少しました。同時期に日本の人口が大きく減少していたわけではなく、自家用車の普及が進んだことから、人口減少だけではこの利用者減少を説明できません。

 2023年度の乗合バス輸送人員は約38億人で、新型コロナウイルス感染症流行後の回復を含めても、1968年度のピーク時の4割弱にとどまります。ただし、これらは全国の乗合バスを合計した統計です。都市部と地方部を含むため、「過疎地域でも全国平均と同じ割合で利用者が減少した」と直接結論づけることはできません。過疎地域を分析する際には、地域別・路線別のデータを見る必要があります。

昭和後期から平成初期に減便が進んだ理由

 最大の要因の一つはモータリゼーション、つまり自家用車の急速な普及です。自家用車であれば時刻表に合わせる必要がなく、自宅から目的地まで直接移動できます。特に地方では、バス停まで距離がある、本数が少ない、鉄道との乗り継ぎが必要、帰宅時間に合う便がない、買い物の荷物を持ち帰りにくいといった条件が重なり、自家用車の相対的な利便性が非常に高くなりました。

 同時に、住宅、スーパー、病院、公共施設などの立地も変化しました。従来は「集落から旧市街地を経て駅へ向かう」という交通構造が一般的でしたが、郊外の幹線道路沿いに大型スーパー、病院、商業施設などが立地するようになると、旧来のバス路線と実際の生活動線が一致しなくなりました。

 さらに、利用者減少と減便には相互作用があります。利用者が減ると事業者は便数を削減し、便数が減ると待ち時間や移動制約が増え、それによってさらに利用者が自家用車などへ移ります。この「利用者減少→減便→利便性低下→さらなる利用者減少」という循環は、地方公共交通を考えるうえで重要です。

 等間隔で運行され、利用者が時刻表を確認せずランダムに停留所へ到着すると仮定した場合、平均待ち時間は「運行間隔÷2」で表せます。30分間隔なら約15分、1時間間隔なら約30分です。ただし、1~2時間に1本しかない低頻度路線では、実際の利用者は時刻表に合わせて行動するため、この式をそのまま実際の待ち時間と考えることはできません。重要なのは、便数が極端に少なくなると、「バス路線は存在するが日常生活では使いにくい」という状態になることです。路線の有無だけではなく、実際に生活に利用できる時間帯と頻度が確保されているかを見る必要があります。

平成中期以降に路線廃止が目立つようになった理由

 減便によって運行量を削減しても、運転士、車両、営業所、整備、運行管理などの固定的な費用は残ります。そのため、需要が一定水準を下回ると、便数を削減するだけでは赤字を解消できなくなります。路線収支は概念的には、「運賃収入+補助金-人件費-燃料費-車両費-整備費-運行管理費-営業所費用-その他経費」と考えることができます。運賃収入は、おおむね「平均的な利用人数×平均運賃×運行回数」によって決まります。

 例えば、平均運賃300円、年間3,000便を運行すると仮定します。1便平均10人が利用すれば年間運賃収入は900万円ですが、平均3人なら270万円です。270万円だけで運転士人件費、車両費、燃料費、整備費などを賄うことは一般的には難しく、利用者が少なくなれば公的支援または運行形態の変更が必要になります。

 制度面では、2000年代初頭に乗合バス事業の需給調整規制が廃止され、参入・退出に関する制度が変更されました。ただし、平成中期以降の路線廃止を規制緩和だけで説明することはできません。規制緩和以前から利用者減少と赤字は進んでおり、制度変更は、需要減少によって維持困難になった路線から事業者が撤退しやすくなった要因の一つと考えるのが適切です。

全国で進んだ路線廃止

 国土交通省資料によれば、2008年度から2022年度までの15年間に廃止された路線バスの路線延長は全国で約2万700キロメートルに達します。単純平均すれば年間約1,380キロメートルです。その後も廃止は続いており、2008年度から2023年度まででは累計約2万3,000キロメートルとなっています。ただし、この数字は廃止された区間の累計であり、同期間に新設または再編された路線を差し引いた純減距離ではありません。

 また、過去の資料には短期間に非常に大きな休廃止距離を示したものもありますが、休止を含むか、どの事業者を対象にするかなど集計条件が異なる場合があります。異なる統計を比較する場合には、定義と対象範囲を確認する必要があります。

令和期の最大の変化は運転士不足

 現在の地域公共交通では、利用者不足だけでなく運転士不足が重大な問題になっています。以前は「利用者が少ない→赤字になる→減便・撤退する」という構造が中心でしたが、現在では「運転士を確保できない→必要な便数を運行できない→採算性の比較的高い路線まで減便する→利用者の利便性が低下する」という供給制約が加わっています。

 国土交通省の推計では、バス運転者は2021年の約11万6,000人から2030年には約9万3,000人まで減少する可能性があり、2022年程度の輸送規模を維持しようとすれば、2030年には約3万6,000人が不足する可能性が示されています。したがって、今後の公共交通政策では「利用者を増やせば路線を維持できる」という考え方だけでは不十分です。運転士を何人必要とする運行方式なのか、限られた人員をどの路線に優先配置するのかという問題も重要になります。

バス事業者の多くが赤字

 2023年度の国土交通省調査では、対象となった乗合バス事業者の73.7%が赤字で、黒字事業者は26.3%でした。これは路線バス事業の経営環境が厳しいことを示しています。ただし、この73.7%という数字は「調査対象事業者の73.7%」という意味であり、「全国の路線の73.7%」や「全国の輸送量の73.7%が赤字」という意味ではありません。また、原則として一定規模以上の事業者を対象とした統計であり、小規模な事業者をすべて含んでいるわけでもありません。したがって、この数字から読み取れるのは、全国の乗合バス事業者の多くが厳しい経営状況にあるということです。

高齢化すればバス利用者は増えるのか

 高齢化と公共交通需要の関係は単純ではありません。運転免許証の自主返納は2019年に年間約60万件まで増加しましたが、その後は減少し、近年は40万件台で推移しています。このため、「免許返納者が毎年増え続けている」と表現するのは正確ではありません。より重要なのは、高齢運転者が病気、身体機能の低下、家族の勧めなどによって自動車を運転できなくなった場合に、代替交通を確保できるかという問題です。

 ただし、高齢化率の上昇と高齢者数の増加も同じ意味ではありません。過疎地域では総人口減少が速いため、高齢化率が上昇していても高齢者の絶対数が減少する地域があります。そのため、「高齢化が進むからバス需要が必ず増える」とは言えません。さらに、自家用車を使えなくなった高齢者の移動需要は、路線バスだけではなく、家族送迎、病院や高齢者施設の送迎、タクシー、デマンド交通、移動販売、宅配、訪問診療などへ分散する可能性があります。したがって、路線バスを利用してもらうためには、単にバスを走らせるのではなく、病院、スーパー、鉄道駅など実際に利用したい目的地へ、利用しやすい時刻で結ぶことが必要です。

病院・学校・商業施設の集約と公共交通

 人口減少地域では、病院、学校、スーパー、行政施設などが減少し、比較的大きな拠点へ集約される傾向があります。施設が集約されれば、住民一人当たりの移動距離は長くなる可能性があります。一方、目的地が少数の拠点へ集中することで、交通需要をまとめやすくなる場合もあります。例えば、複数の小規模病院へ利用者が分散していた地域で医療機能が一つの中核病院へ集約されれば、特定方向への需要がまとまり、一定時刻に定時定路線交通を運行する合理性が高まることがあります。

 したがって、人口減少は必ずしも「公共交通需要の消滅」を意味しません。総需要は減少しても、特定方向への需要が集約される可能性があり、その場合には交通網を再設計する余地があります。

世帯内の送迎能力も低下する

 地方では、公共交通が少なくても家族が自動車で送迎することによって生活を支えてきた地域があります。しかし、単身高齢世帯、高齢夫婦世帯、子どもが地域外で生活する世帯、共働き世帯などが増えれば、家族による送迎を当然の前提とすることは難しくなります。

 送迎には燃料費だけでなく、送迎者の時間という見えにくい費用があります。例えば往復1時間の送迎を週2回行えば、年間で約104時間になります。送迎者の時間価値を1時間1,500円と仮定すれば、年間15万6,000円相当です。この金額は直接家計から現金として支出されるわけではありませんが、家族が仕事、家事、休息などに使えた時間を失っているという意味で機会費用が発生しています。公共交通を評価する際には、このような家族送迎負担も考慮する必要があります。

公共交通を運賃収入だけで評価してよいのか

 路線バスは運賃収入だけを見ると赤字であっても、地域全体では別の便益を生み出している可能性があります。住民が買い物へ行けること、病院へ通えること、学校へ通えること、仕事を続けられること、家族の送迎負担が減ること、観光客が地域内を移動できることなどです。国土交通政策でも、公共交通によって医療、福祉、教育、商業など他の行政分野にもたらされる効果を評価する「クロスセクター効果」という考え方が重視されています。

 ただし、「地域内消費+就業継続の価値+家族送迎削減額+自動車保有費削減額+観光消費」などをそのまま単純に足し算すればよいわけではありません。例えば、公共交通によって就職でき、その所得によって地域内消費が増えた場合、就業効果と消費効果の一部を二重に計上する可能性があります。したがって、これらは単純な会計式ではなく、公共交通によって生じる社会的便益の項目として整理し、重複を避けて評価する必要があります。

雇用へのアクセスという役割

 地方の人手不足は、求人そのものが不足している場合だけではありません。求人先まで移動できないため、働きたい人と事業所を結び付けられない場合もあります。特に高校生、若年者、運転免許を持たない人、地域によっては外国人労働者などにとって、工場、病院、介護施設、ホテル、スーパーなどへの交通手段がなければ、地域内に求人が存在していても就業できません。このため通勤時間帯の公共交通は、単なる福祉政策ではなく、地域の労働供給を支える経済政策として評価する必要があります。

観光と二次交通

 鉄道や高速バスで地域まで到達できても、その先の観光地、宿泊施設、海岸、温泉、道の駅などへ移動できなければ、自動車を持たない観光客にとってその地域は訪問しにくくなります。一方、観光客だけを対象にした路線は季節や曜日によって需要が大きく変動します。そのため、住民交通と観光交通を完全に分離するのではなく、平日は通院・通学、休日は観光、繁忙期には増便するなど、車両や人員を効率的に利用する方法も検討する価値があります。

路線バスの採算を数理的に考える

 運賃収入だけで運行費用を回収すると仮定した場合、1便当たりに必要な利用者数は、おおむね「1便当たり運行費用÷平均運賃」で求めることができます。例えば、1便当たりの運行費用を1万2,000円、平均運賃を400円と仮定すれば、運賃収入だけで費用を回収するためには平均30人が必要です。

 ただし、この1万2,000円という数字は説明用の仮定にすぎません。実際の費用は、路線距離、運転時間、回送距離、運転士の拘束時間、車両費、営業所費、整備費などによって大きく変わります。「地方路線は30人乗らなければ成立しない」という意味ではありません。また、公的支援を含めて考える場合には、運行費用から公的負担分を差し引いた残りを運賃収入でどの程度賄うかという考え方になります。重要なのは、補助金の有無だけではなく、同じ金額で他の交通手段を提供した場合と比較してどちらが効率的かを見ることです。

利用者数だけではなく輸送距離を見る

 1便当たりの人数だけでは、路線の効率を十分に評価できません。同じ10人でも、全員が始点から終点まで乗る場合と、短い区間だけ利用する場合では輸送量が異なるためです。公共交通の輸送量を見る代表的な指標に「輸送人キロ」があります。10人が平均10キロメートル移動すれば100人キロです。

 一方、バスが提供できる輸送能力は「乗車定員×走行距離」で考えることができ、国土交通統計では能力人キロという考え方が使われます。例えば乗車定員40人の車両が20キロメートル走れば800能力人キロです。平均5人が20キロメートル乗車すれば輸送人キロは100人キロとなり、単純な利用率は12.5%です。

 このような低い利用率が恒常的に続く場合には、大型バスのまま運行を続けるより、小型車両や別の交通方式を検討する合理性が高まります。ただし、ピーク時間帯の利用、災害時の役割、通学需要なども含めて判断する必要があります。

車両を小さくすれば解決するのか

 「路線バス」という言葉から、40~60人以上が乗れる大型バスだけを想定する必要はありません。需要に応じて大型バス、中型バス、小型バス、ワゴン車、乗合タクシーなどを使い分けることが重要です。車両を小型化すれば、車両価格、燃料費、整備費、狭い道路への対応などで有利になる場合があります。しかし、運転士が1人必要であることは基本的に変わりません。そのため、車両を半分の大きさにしても運行費用が半分になるとは限らず、人件費の割合が高い路線では、小型化だけでは赤字問題を解決できません。

「幹・枝・葉」で考える

 今後の地域交通では、すべての集落から中心地まで1本の固定路線で直接結ぶのではなく、需要密度に応じて交通網を階層化する考え方が有効です。「幹」に当たる交通は、鉄道駅、中心市街地、中核病院、高校、大型商業施設、観光拠点などを結ぶ定時定路線で、一定量の需要が集約できる区間では、ある程度の頻度と速達性を確保します。

 「枝」に当たる交通は、複数の住宅地や集落から幹線交通の乗り継ぎ拠点までを結ぶもので、小型バスやコミュニティバスなどが候補になります。「葉」に当たる交通は、住宅が広く分散した地区から最寄りの交通拠点や生活拠点までを結ぶもので、デマンド交通、乗合タクシー、公共ライドシェアなどが候補となります。このように、定時定路線と地域内交通を組み合わせる考え方は、現在の国の地域公共交通政策とも整合しています。

ダイヤは目的地に合わせる

 地方では、一定間隔でバスを走らせるだけでは十分ではありません。需要が病院の受付開始前、高校の始業前、鉄道の到着・出発時刻、工場や介護施設の勤務交代時間などに集中することがあり、そのため、運行本数だけでなく「必要な時刻に必要な場所へ到着できるか」が重要です。

 また、往路だけではなく復路も重要です。病院へ行くバスが存在しても、診察後に帰りのバスまで数時間待たなければならないのであれば、実用的な交通とは言いにくくなります。自動車なら往復を含め2時間程度で済む通院が、公共交通では6時間かかるのであれば、形式上は移動可能であっても利用されにくいでしょう。公共交通は「路線が存在するか」ではなく、生活全体に必要となる総所要時間で評価する必要があります。

デマンド交通は万能ではない

 デマンド交通は、利用者の予約に応じて運行経路や時刻を調整する方式で、人口密度が低く、利用者の出発地点や時間が分散している地域では有効です。一方、朝夕の通勤・通学のように同一方向・同一時間帯へ利用者が集中する場合、デマンド交通へ全面的に転換すると効率が悪くなる可能性があります。

 例えば、同じ時間帯に同じ方向へ多数の利用者が移動し、その需要を一つの経路へ集約できる場合には、複数のデマンド車両を走らせるよりも、1台の定時定路線車両でまとめて輸送する方が、必要な運転士数や車両数を少なくできる場合があります。ただし、「20人いれば必ず路線バスが有利」といった固定的な境界を設けることも適切ではありません。20人の出発地が広範囲に分散していれば、1本のバス路線へ集約するために大きな迂回が必要になるからです。重要なのは人数だけではなく、時間、方向、出発地点、目的地がどの程度集約できるかです。

スクールバスや送迎車との統合

 地方では、路線バスとは別にスクールバス、病院送迎車、高齢者施設送迎、福祉バス、企業送迎、宿泊施設送迎など、多数の車両が運行されています。これらがそれぞれ別の車両、運転士、予算で運行されれば、地域全体では輸送資源が重複する可能性があります。例えば、登下校時間以外に使われていないスクールバスを住民交通へ活用することができれば、車両利用率を高められる場合があります。

 実際に、路線バスとスクールバスを統合し、一般住民と児童生徒が同じ交通手段を利用する事例もあります。ただし、道路運送法上の位置付け、保険、児童の安全、運行時刻、運賃、委託契約、事故時の責任などを調整する必要があり、「空いている車両をそのまま住民に開放すればよい」という単純な問題ではありません。

自動運転は解決策になるのか

 自動運転は長期的には運転士不足を緩和する可能性があります。しかし、現時点で過疎地域の交通問題を自動運転だけで全面的に解決できる状況ではありません。自動運転車両そのものに加えて、遠隔監視、通信設備、システム保守、事故時対応、落下物や悪天候への対応、車内安全確認、高齢者や障害者の乗降支援などが必要になるからです。したがって、自動運転の普及を待つのではなく、当面は路線再編、ダイヤ改善、輸送資源の共同利用、小型化、運転士確保、デマンド交通との役割分担などを進める必要があります。

補助金を入れれば維持できるのか

 人口密度の低い地域の公共交通は、公的支援なしでは維持できない場合が多くあります。しかし、赤字額をそのまま補填すればよいわけではありません。例えば年間補助額3,000万円で年間利用者3万人なら、単純計算の公費負担は1乗車当たり1,000円です。同じ補助額で年間利用者が1万人なら3,000円になります。この金額を、乗合タクシー、デマンド交通、タクシー助成、公共ライドシェア、移動販売、訪問診療などの代替策と比較することが重要です。

 評価指標としては、1便当たり利用者数、1乗車当たり公費負担、1人キロ当たり公費負担、通院・通学可能人口、自動車を利用できない住民のカバー率、家族送迎時間の削減などが考えられます。収支率だけが高くても、必要な住民が利用できなければ公共交通としての役割を果たしていません。反対に、収支率が低くても、医療や教育へのアクセスを維持することで他の行政費用を減らしている可能性があります。

路線バスを再構築しやすい地域

 定時定路線型の交通が成立しやすいのは、沿線に一定の人口があり、駅、病院、学校、商業施設など主要な目的地を同じ方向へ結ぶことができ、通勤・通学など定期的な需要が発生する地域です。鉄道との接続を改善できる、観光需要を組み合わせられる、スクールバスや企業送迎など既存の輸送資源と連携できる、自治体境界を越えて生活圏単位で運行できるといった条件が加われば、成立可能性はさらに高くなります。

 重要なのは、市町村境界ではなく実際の生活圏です。住民が日常的に隣接自治体の病院やスーパーへ移動しているにもかかわらず、市町村内だけを循環する交通を整備しても、住民の移動需要には十分に対応できません。

固定路線が成立しにくい地域

 住宅が広く分散し、利用者の目的地が複数方向に分かれ、時間帯もばらばらである場合、固定路線バスは非効率になりやすくなります。また、運行本数を1日1~2便程度しか確保できず、鉄道や病院などの時刻とも接続せず、既存のスクールバスや福祉車両と重複する場合には、「路線バスを走らせている」という事実だけが残り、実際には利用されない可能性があります。

 このような地域では、特定の「1便当たり利用者数」を機械的な基準にするのではなく、固定路線、デマンド交通、乗合タクシー、タクシー助成などを、1人当たり総費用と利用可能性の両面から比較する必要があります。

外房地域で考える場合

 外房地域では、鉄道駅、病院、スーパー、行政施設、観光地などが離れている地域が多く、自家用車への依存度が高い一方、人口密度の低さから自治体ごとに小規模な固定路線を運行しても十分な利用者を確保できない可能性があります。

 交通ネットワークの仮説としては、茂原駅と長生郡内の主要拠点、大原駅といすみ市内の医療・商業拠点、勝浦駅と住宅地・医療施設、御宿駅と住宅地・商業施設、さらに鴨川方面の中核医療機関などを結ぶ交通を「幹」として考えることができます。そこへ各集落や住宅地から駅や地域拠点へ向かう小型交通を「枝」として接続し、さらに人口が分散する地域ではデマンド交通、乗合タクシー、公共ライドシェア、福祉輸送などを「葉」として組み合わせる構造が考えられます。

 ただし、これは交通ネットワークの考え方を示した仮説であり、具体的な路線の採算性や必要性が実証されたわけではありません。実際に外房地域で路線を設計するには、停留所別・便別の乗降人数、人口分布、年齢構成、病院の受診先、買い物先、通学先、通勤先、鉄道時刻、観光客の移動、既存のスクールバスや福祉車両などを確認する必要があります。

現実性の低い主張

 「以前の路線をそのまま復活させれば利用者が戻る」という考え方には注意が必要です。住宅や病院、スーパーなどの位置が変化していれば、以前と同じ路線を復活させても現在の生活動線には合わない可能性があります。また、「高齢者が増えるからバス利用者も増える」という考え方も単純すぎます。高齢化率が上昇しても高齢者数そのものが減少する地域があり、家族送迎や施設送迎、デマンド交通、タクシーなどへ需要が分散する可能性もあります。

 「無料にすれば利用者が増える」とも限りません。運賃が無料でも、目的地、運行時刻、便数が合わなければ利用されないからです。「デマンド交通にすればすべて効率化できる」という考えも適切ではなく、時間と方向が集中する需要では、定時定路線の方が少ない車両と運転士で大量輸送できる場合があります。

 また、「小型車両なら赤字がなくなる」ということもありません。車両費や燃料費を削減できても、運転士人件費や運行管理費は残ります。「自動運転になればすぐ解決する」という見方にも注意が必要で、遠隔監視、保守、安全管理など、新たな費用と人員が必要になります。そして「補助金を増やせば維持できる」という考えにも限界があります。運転士不足が深刻化すれば、予算があっても運行できない可能性があるからです。

自治体が調べるべきデータ

 交通再編を行う前には、停留所別乗降者数、便別利用者数、曜日・時間帯別利用者数、利用目的、病院・学校・スーパーへの移動需要、鉄道との接続状況、自動車を利用できない住民数などを把握する必要があります。さらに、既存のスクールバスや福祉車両、1便当たり運行費用、1乗車当たり公費負担、運転士数と年齢構成、車両更新時期、路線を廃止した場合の代替交通費用、家族送迎の時間負担、観光客の移動需要なども必要です。

 特に重要なのは「現在バスに何人乗っているか」だけではありません。現在の路線が不便なため利用されていない潜在需要が存在する可能性があるからです。公共交通の成果は、バスを何便走らせたかではなく、住民が必要な時刻に必要な場所へ実際に移動できたかによって評価する必要があります。

2026年以降の制度から見た方向性

 2026年の地域公共交通政策でも、単独の路線バスを維持するだけではなく、バス、タクシー、デマンド交通、公共ライドシェア、スクールバス、福祉輸送など、地域に存在する輸送資源を総合的に活用する方向が強まっています。2026年6月には地域公共交通に関する法律改正が公布され、同年10月16日の施行が予定されています。改正では、交通空白の解消、交通事業者間の共同化・協業化、地域に存在する輸送資源の活用、モビリティデータの利用などが重視されています。

 つまり、現在の政策の中心は「昔の路線バスを復活させること」ではありません。地域内に存在する人、車両、予算、データを組み合わせ、最も効率的に移動を確保する交通体系へ再編することです。

現実的な結論

 過疎地域の路線バスは、昭和後期から平成初期にかけて、自家用車の普及、生活圏の変化、利用者減少などによって減便されました。平成中期以降には採算悪化、事業者再編、制度変更などが重なり、路線廃止が進みました。そして令和期には、これらに運転士不足という新たな供給制約が加わっています。

 一方、人口が減少しても、住民の移動そのものがなくなるわけではありません。病院、学校、スーパーなどが集約されれば、移動距離が長くなる一方、特定の拠点へ需要をまとめられる可能性もあります。したがって、一定の人口と目的地が同一方向に集約できる区間では、定時定路線型のバスを維持または再構築する合理性があります。一方、住宅が広く分散し、利用時間や目的地がばらばらな地域では、デマンド交通、乗合タクシー、公共ライドシェアなどを組み合わせた方が合理的な場合があります。

 必要なのは、昭和型の路線網をそのまま復活させることではありません。幹線は定時定路線、支線は小型交通、分散地域はデマンド交通などと役割を分け、通学、通院、福祉、観光などの輸送資源を可能な範囲で共同化し、鉄道、病院、学校、商業施設などとダイヤを連動させ、自治体境界ではなく実際の生活圏を基準に設計することです。

 公共交通は単なる「赤字事業」ではありません。住民が買い物をし、病院へ通い、学校へ通い、仕事を続け、観光客が地域内を移動するための社会基盤です。しかし、利用者がほとんどいない路線を大型バスで維持し続けることも、財政、人材、環境の面から持続可能とは言えません。

 今後の課題は「路線バスを残すか廃止するか」ではなく、「どの区間を定時定路線として維持し、どの区間を別の交通手段へ転換し、それらをどのようにつなぐか」を、実際の移動データと費用から判断することです。効率的に再設計された路線バスは、一定の需要を集約できる地域では、地方の生活機能と地域経済を維持する有力な交通手段の一つになり得ます。しかし、それが有効になるのは、路線、便数、車両、乗り継ぎ、他分野の送迎、運転士確保までを一体として設計した場合です。

 過疎地域に必要なのは「バスを復活させること」そのものではありません。限られた人口、財源、車両、運転士を使い、住民が必要な場所へ実際に移動できる仕組みを再構築することです。

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