地方では、自動車を所有しているだけで毎年まとまった費用がかかります。
車両の購入費、自動車税、保険、車検、整備、燃料、タイヤ、バッテリーなどを合計すれば、軽自動車でも10年間に数百万円を支払う可能性があります。
そのため、免許返納を考える時期になると、次のような疑問が生じます。
自動車を維持し続けるより、必要なときだけバスやタクシーを使う方が安いのではないか。
この考え方は、一定の条件では正しいといえます。
年間走行距離が短く、通院や買い物の回数が少なく、自宅から病院やスーパーまで近い人なら、自動車を手放してタクシーを使う方が、金銭的には安くなる可能性があります。
しかし、地方では、通院だけでなく、買い物、金融機関、行政手続き、家族との往来、駅までの移動などにも自動車を使います。
自動車を手放した後の費用を、通院用のタクシー代だけで計算すると、返納後の交通費を過小評価します。
また、家族に送迎してもらう場合も、燃料代、車両費、待ち時間、仕事を休む負担まで考えれば、完全に無料とはいえません。
本記事では、地方で軽自動車または小型乗用車を10年間維持するケースと、免許返納後にバス、タクシー、家族送迎、宅配などを組み合わせるケースを比較します。
ただし、車両価格、任意保険料、燃料価格、タクシー運賃、自治体の助成制度は、地域、年齢、車種、契約条件によって大きく異なります。
そのため、本記事では単一の金額を「正解」とせず、低費用・標準・高費用の3ケースで考えます。
最初に結論~利用回数が少なければ返納後が安く、移動回数が多ければ自動車が安くなる
自動車を維持する費用と、免許返納後の交通費のどちらが安いかは、主に次の4条件で決まります。
- 1か月に何回外出するか
- 1回の往復距離がどの程度か
- バスやデマンド交通を利用できるか
- 車両購入費を含めて比較するか
年間の移動回数が少なく、1回の移動距離も短ければ、タクシー中心でも自動車保有費を下回る可能性があります。
反対に、次のような世帯では、自動車を手放した後の交通費が予想以上に増えることがあります。
- 夫婦それぞれが通院する
- 買い物へ週2回以上行く
- 病院やスーパーまで10キロメートル以上ある
- 市町村外の専門病院へ通う
- バス停まで歩けない
- タクシーを往復利用する
- 家族が遠方から送迎する
- 宅配、買い物代行、配食を頻繁に使う
標準的なモデルでは、軽自動車1台の10年間費用をおおむね280万~420万円、小型乗用車を350万~520万円程度と想定できます。
一方、免許返納後の交通費は、外出が少ない世帯なら10年間で100万~250万円程度に収まる可能性がありますが、タクシー利用が多い世帯では400万~700万円を超える場合があります。
したがって、結論は次のようになります。
自動車を保有しているだけで高いとは限らず、タクシーを使えば必ず安いとも限らない。月間の外出回数と1回当たりの往復費用を計算して初めて、どちらが有利か判断できる。
1.自動車維持費は燃料代だけではない
自動車を維持する費用というと、ガソリン代や車検代を思い浮かべる人が多いかもしれません。
しかし、実際には次の費用がかかります。
車両に関する費用
- 車両購入費
- 購入時の諸費用
- ローン金利
- 将来の買い替え費用
- 売却時の残存価格
税金・法定費用
- 自動車税
- 軽自動車税
- 自動車重量税
- 自賠責保険
- 車検時の検査手数料
保険
- 対人賠償
- 対物賠償
- 人身傷害
- 車両保険
- 弁護士費用特約など
自賠責保険は法律上加入が義務付けられている強制保険ですが、補償は主として事故の相手方の人身損害に限られます。自分のけがや車両損害、相手方の物的損害などを補うには、一般に任意保険を別途検討する必要があります。
維持・整備費
- 定期点検
- 車検整備
- エンジンオイル
- タイヤ
- バッテリー
- ワイパー
- ブレーキ部品
- 電球・電子部品
- 故障修理
- 洗車・防錆対策
使用に伴う費用
- ガソリンまたは軽油
- 駐車場
- 有料道路
- 高速道路
- 出先の駐車料金
この中で、走行距離を減らしても大きく減らないのが、車両価格、税金、保険、車検などの固定費です。
年間1万キロメートル走る人も、年間2,000キロメートルしか走らない人も、自動車を所有する限り、一定の固定費を負担します。
2.自動車税は排気量や登録時期によって異なる
自家用乗用車の自動車税は、主に総排気量によって決まります。
令和元年10月1日以降に初回新規登録された自家用乗用車では、年額は次のようになっています。
| 総排気量 | 年額 |
|---|---|
| 1リットル以下 | 2万5,000円 |
| 1リットル超~1.5リットル以下 | 3万500円 |
| 1.5リットル超~2リットル以下 | 3万6,000円 |
| 2リットル超~2.5リットル以下 | 4万3,500円 |
初回登録時期が古い車では異なる税率が適用されることがあります。また、一定年数を経過した環境負荷の大きい車には、重課が行われる場合があります。
軽自動車では、普通乗用車とは異なる軽自動車税が課されます。
税額は車種、用途、初度検査年月、重課・軽課の適用によって変わるため、この記事の試算では、軽自動車の税負担を年間約1万~1万3,000円、小型乗用車を年間約2万5,000~3万6,000円の範囲で設定します。
ここで重要なのは、年間1万円程度の税金だけを見て、軽自動車の維持費が安いと判断しないことです。
車両購入費、任意保険、車検整備、燃料、故障修理を含めると、税金は総費用の一部にすぎません。
3.車検代と整備費を一つにまとめてはいけない
車検は、自動車が保安基準に適合しているかを確認し、車検証の有効期間を更新するための制度です。
令和7年4月1日以降は、車検証の有効期間満了日の2か月前から満了日までの間に受検しても、従来の有効期間を失わずに更新できるようになっています。
車検時に支払う費用には、性格の異なるものが含まれます。
法定費用
- 自動車重量税
- 自賠責保険
- 検査手数料
車検基本料金
- 点検料金
- 検査代行料
- 書類作成費など
整備費
- ブレーキ部品交換
- オイル交換
- タイヤ交換
- バッテリー交換
- その他の修理
自動車重量税は、車両重量、経過年数、環境性能によって変わります。
令和8年度にも、環境性能に優れた一定の自動車を対象として、自動車重量税の免除または軽減措置があります。
一方、年式の古い車は、重量税や自動車税の負担が増えることがあります。
そのため、「車検は毎回10万円」と一律に置くのではなく、法定費用と整備費を分けて考える方が正確です。
本記事では、10年間の車検・点検・整備費を次の範囲で設定します。
| 車両 | 10年間の想定 |
|---|---|
| 軽自動車 | 45万~80万円 |
| 小型乗用車 | 55万~100万円 |
この中には、大規模な事故修理やエンジン、変速機、駆動用バッテリーなどの高額故障は含めません。
4.燃料費は走行距離と実燃費で決まる
燃料費は、次の式で計算できます。
年間燃料費=年間走行距離÷実燃費×燃料単価
例えば、年間5,000キロメートル走り、実燃費が1リットル当たり18キロメートル、ガソリン価格を1リットル当たり170円と仮定します。
5,000÷18×170=約4万7,000円
10年間では約47万円です。
年間1万キロメートルなら、単純計算で約94万円になります。
資源エネルギー庁は、石油製品の小売価格を定期的に調査・公表していますが、ガソリン価格は原油価格、為替、補助制度、地域、給油所によって変動します。
したがって、10年間の試算で現在の価格が続くと断定するのは適切ではありません。
本記事では比較用に、ガソリン価格を1リットル当たり160~200円、実燃費を1リットル当たり15~22キロメートルの範囲で考えます。
5.軽自動車を10年間維持する費用
標準ケースの前提
- 地方在住の1世帯
- 軽自動車1台
- 10年間保有
- 年間走行距離5,000キロメートル
- 駐車場代なし
- 実燃費18キロメートル
- ガソリン価格170円
- 大規模事故なし
- 10年間に車両を1回取得
- 売却価格を差し引いた実質車両費120万円
標準ケース
| 費用項目 | 10年間 |
|---|---|
| 車両購入・諸費用から売却額を控除 | 120万円 |
| 軽自動車税 | 11万円 |
| 自賠責・重量税・検査手数料 | 18万円 |
| 任意保険 | 45万円 |
| 車検・点検・修理 | 55万円 |
| タイヤ・バッテリー・消耗品 | 30万円 |
| 燃料費 | 47万円 |
| 合計 | 326万円 |
年間平均では約32万6,000円です。
月平均では約2万7,000円になります。
ただし、これは駐車場代がなく、年間走行距離が比較的短く、大規模故障もないケースです。
3つのケース
| ケース | 10年間 |
|---|---|
| 低費用 | 250万~280万円 |
| 標準 | 300万~360万円 |
| 高費用 | 400万~500万円 |
高費用ケースには、車両価格の上昇、任意保険料の増加、タイヤ交換、高額修理、年間走行距離の増加などを含みます。
6.小型乗用車を10年間維持する費用
標準ケースの前提
- 排気量1~1.5リットル
- 10年間保有
- 年間走行距離7,000キロメートル
- 駐車場代なし
- 実燃費17キロメートル
- ガソリン価格170円
- 売却価格を差し引いた実質車両費180万円
標準ケース
| 費用項目 | 10年間 |
|---|---|
| 車両購入・諸費用から売却額を控除 | 180万円 |
| 自動車税 | 30万5,000円 |
| 自賠責・重量税・検査手数料 | 25万円 |
| 任意保険 | 55万円 |
| 車検・点検・修理 | 70万円 |
| タイヤ・バッテリー・消耗品 | 40万円 |
| 燃料費 | 70万円 |
| 合計 | 約471万円 |
年間平均では約47万円です。
月平均では約3万9,000円になります。
3つのケース
| ケース | 10年間 |
|---|---|
| 低費用 | 330万~380万円 |
| 標準 | 420万~480万円 |
| 高費用 | 520万~650万円 |
車両価格、走行距離、保険内容、故障状況によって、結果は大きく変わります。
7.すでに所有している車を使い続ける場合は計算が変わる
自動車保有と免許返納を比較するとき、最も間違いやすいのが車両購入費の扱いです。
すでに購入代金を支払い終えた車を所有している人は、
車両代はもう払っているから、今後の維持費には含めなくてよい
と考えるかもしれません。
確かに、過去に支払った購入代金は、返納するかどうかにかかわらず戻らない費用です。
これはサンクコスト、すなわち既に支出して回収できない費用です。
今後10年間の判断では、過去の購入代金をそのまま加える必要はありません。
しかし、次の費用は考える必要があります。
- 現在売却すれば得られる金額
- 今後の故障修理費
- 次回買い替え費用
- 車齢上昇による税・整備負担
- 返納時点の処分費用
例えば、現在100万円で売却できる車を保有し続け、10年後の売却額がほぼゼロになるなら、100万円分の価値を使用したことになります。
したがって、すでに車を所有している場合も、現在の売却可能額を機会費用として考える方が合理的です。
8.免許返納後に必要となる交通費
免許返納後の費用には、次のものがあります。
公共交通
- 鉄道運賃
- 路線バス運賃
- コミュニティバス運賃
- デマンド交通運賃
- 駅までの移動費
タクシー
- 距離制運賃
- 時間距離併用運賃
- 迎車料金
- 予約料金
- 深夜早朝割増
- 待機料金
千葉県では、令和8年3月16日にタクシー運賃が改定され、それまで分かれていた地区の運賃体系が一本化されました。今後も運賃改定があり得るため、10年間の試算では現在の初乗り運賃だけを固定して計算するのではなく、実際の利用区間について事業者へ概算料金を確認する方が安全です。
家族送迎
- 家族の燃料費
- 車両の消耗
- 駐車料金
- 有料道路料金
- 付き添い時間
- 休業・有給休暇の使用
自宅で代替する費用
- 食品宅配
- ネットスーパー
- 配食サービス
- 買い物代行
- 訪問診療
- 訪問理美容
- 行政手続きの郵送費
- 宅配の追加料金
返納後の費用を正確に見るには、タクシー代だけでなく、これらを合計する必要があります。
9.免許返納後の交通費を3つのケースで試算する
以下は全国一律の料金ではなく、比較用のモデルです。
自治体の助成、公共交通の運賃、タクシー料金、家族構成によって実際の金額は変わります。
ケースA~外出が少なく、公共交通を利用できる
前提
- 通院 月1回
- 買い物 月2回
- その他の外出 月1回
- 1か月4往復
- バス・デマンド交通を中心に利用
- 一部だけタクシー
- 食品宅配を併用
| 費用項目 | 年間 | 10年間 |
|---|---|---|
| バス・デマンド交通 | 2万4,000円 | 24万円 |
| タクシー | 6万円 | 60万円 |
| 食品宅配・配達追加費 | 3万6,000円 | 36万円 |
| 家族送迎の実費 | 2万円 | 20万円 |
| 合計 | 14万円 | 140万円 |
このケースでは、軽自動車を保有するより、免許返納後の方が100万~200万円程度安くなる可能性があります。
ケースB~通院と買い物にタクシーを定期利用する
前提
- 本人の通院 月2回
- 配偶者の通院 月1回
- 買い物 月4回
- その他の外出 月1回
- 月8往復程度
- 1往復平均4,500円
- 宅配も併用
| 費用項目 | 年間 | 10年間 |
|---|---|---|
| タクシー | 43万2,000円 | 432万円 |
| バス・鉄道 | 3万円 | 30万円 |
| 食品宅配等 | 4万8,000円 | 48万円 |
| 家族送迎の実費 | 3万円 | 30万円 |
| 合計 | 54万円 | 540万円 |
このケースでは、軽自動車より高くなり、小型乗用車と同程度になる可能性があります。
ケースC~市外通院や頻回通院がある
前提
- 市外の病院へ月2回
- 近隣の診療所へ月2回
- 買い物 月4回
- その他の外出 月2回
- 長距離タクシーと家族送迎を併用
| 費用項目 | 年間 | 10年間 |
|---|---|---|
| タクシー | 55万円 | 550万円 |
| 鉄道・バス | 6万円 | 60万円 |
| 家族送迎の実費 | 10万円 | 100万円 |
| 宅配・買い物代行 | 5万円 | 50万円 |
| 合計 | 76万円 | 760万円 |
このケースでは、自動車を保有していた方が、金銭面では安い可能性があります。
ただし、運転能力や事故リスクに問題がある場合は、費用だけを理由に運転を続けるべきではありません。
10.10年間の比較
| 移動方法 | 10年間の標準的なモデル |
|---|---|
| 軽自動車を保有 | 300万~360万円 |
| 小型乗用車を保有 | 420万~480万円 |
| 返納後・低利用 | 120万~200万円 |
| 返納後・中利用 | 350万~550万円 |
| 返納後・高利用 | 600万~800万円以上 |
この表から分かるのは、自動車と返納後交通のどちらかが常に安いわけではないということです。
返納後に公共交通を利用できる人は、費用を大幅に減らせる可能性があります。
反対に、自宅から病院やスーパーまで遠く、タクシーを頻繁に使う人は、自動車保有費を上回る可能性があります。
11.損益分岐点は月何回か
自動車とタクシーの費用を比較するには、年間費用から損益分岐点を求める方法があります。
軽自動車の年間費用を35万円と仮定します。
タクシーの1往復費用を4,000円とすると、
35万円÷4,000円=87.5往復
年間約88往復です。
月平均では約7.3往復になります。
つまり、他の公共交通費や宅配費を無視すれば、月7回程度までのタクシー利用なら、年間35万円の軽自動車より安い計算です。
1往復6,000円なら、
35万円÷6,000円=約58往復
月平均では約4.8往復です。
1往復1万円なら、
35万円÷1万円=35往復
月平均では約2.9往復です。
| タクシー1往復 | 軽自動車年35万円との分岐 |
|---|---|
| 3,000円 | 月約9.7回 |
| 4,000円 | 月約7.3回 |
| 6,000円 | 月約4.8回 |
| 1万円 | 月約2.9回 |
実際には、バス代、宅配費、家族送迎、買い物代行などが加わるため、タクシーを利用できる回数はこれより少なくなります。
12.年間走行距離が短い人ほど返納が有利とは限らない
年間走行距離が短い車は、燃料費が少ないため、維持費も非常に安いように見えます。
しかし、走行距離が短くても、次の固定費は残ります。
- 税金
- 自賠責保険
- 任意保険
- 車検
- 定期点検
- バッテリー
- 経年劣化
- 車両価値の低下
年間2,000キロメートルしか走らない場合、ガソリン代は少額でも、年間30万円前後の総費用が発生する可能性があります。
一方、その2,000キロメートルが、病院やスーパーまでの必要不可欠な移動である場合、タクシーへ置き換えると高額になることがあります。
したがって、年間走行距離だけでは判断できません。
重要なのは、走行回数と1回当たりの距離です。
同じ年間2,000キロメートルでも、
- 近距離を週5回走る人
- 長距離を月2回走る人
では、タクシーへ置き換えた場合の費用が異なります。
13.夫婦2人世帯では計算が変わる
夫婦2人が1台の自動車を共用している場合、自動車を手放すと、2人分の移動をタクシーや公共交通へ置き換える必要があります。
例えば、夫が月2回、妻が月2回通院し、買い物が月4回なら、すでに月8往復です。
さらに、歯科、理美容、金融機関、行政手続き、家族訪問などを含めれば、月10往復を超える可能性があります。
1往復4,000円なら、月10回で4万円、年間48万円です。
この時点で、軽自動車の標準的な年間保有費を上回る可能性があります。
ただし、夫婦が同じ日に同じ目的地へ行ける場合は、1回のタクシーで2人が移動できます。
反対に、通院先や予約日が異なる場合は、2人分の費用が別々に発生します。
夫婦世帯では、個人の外出回数ではなく、世帯全体の往復回数を数える必要があります。
14.家族送迎は金額に換算する
家族送迎を無料として扱うと、返納後の費用を過小評価します。
最低でも、次の費用は計算に入れるべきです。
- 走行距離に応じた燃料費
- 車両の消耗
- 駐車料金
- 高速道路料金
さらに、家族の時間も考えます。
例えば、1回の通院送迎で4時間かかり、月2回行えば、年間96時間です。
時間の価値を1時間1,000円と置けば、年間9万6,000円、10年間で96万円になります。
これは家族へ実際に現金を支払うという意味ではありません。
家族が失う仕事、休息、家事、育児の時間を、経済的な負担として可視化するための考え方です。
家族送迎を比較するときは、次の2つを分けます。
| 負担 | 内容 |
|---|---|
| 現金支出 | 燃料、駐車、高速道路 |
| 非金銭的負担 | 時間、疲労、仕事への影響 |
15.安全性は費用比較より優先される
自動車を維持する方が金銭的に安いという結果が出ても、それだけで運転継続が合理的とは限りません。
次のような状態がある場合は、費用とは別に運転能力を検討する必要があります。
- 視力や視野の低下
- 反応時間の低下
- ペダルの踏み間違い
- 車線変更への不安
- 夜間運転が難しい
- 道順を間違える
- 接触事故が増えた
- 医師や家族から運転を止められている
- 薬の副作用で眠気がある
- 意識消失や発作の危険がある
免許返納は、交通費を安くするための制度ではありません。
本人と周囲の安全を守ることが第一の目的です。
費用比較は、返納するかどうかを決める唯一の基準ではなく、返納後の生活を準備するための資料として使うべきです。
16.返納前に1か月だけ自動車を使わず生活してみる
最も正確な方法は、実際に自動車を使わず生活してみることです。
1か月間、自動車を使わず、次の費用を記録します。
- バス
- 鉄道
- タクシー
- 家族送迎
- 食品宅配
- 買い物代行
- 配食
- 通院付き添い
- キャンセルした外出
その1か月の費用を12倍すれば、年間費用の概算が出ます。
ただし、季節や通院予定によって変動するため、可能であれば3か月程度試す方が正確です。
同時に、次の点も確認します。
- 雨の日に移動できるか
- 病院の予約時刻に間に合うか
- 診察後に帰れるか
- 荷物を持って歩けるか
- タクシーをすぐ呼べるか
- 家族送迎を継続できるか
- 夜間の急な外出に対応できるか
机上の計算では、費用は比較できても、身体的負担や待ち時間までは分かりません。
17.自分の世帯で計算する方法
自動車を維持する年間費用
次を合計します。
年間自動車費=車両費の年換算+税金+保険+車検・整備の年換算+燃料+駐車場+その他
車両費の年換算は、次のように計算します。
車両費の年換算=購入総額-売却見込額÷保有年数
正確には、括弧を付けて次のようにします。
車両費の年換算=(購入総額-売却見込額)÷保有年数
返納後の年間交通費
返納後交通費=バス・鉄道+タクシー+家族送迎実費+宅配・代行+その他
判断方法
返納後交通費が年間自動車費を下回れば、金銭面では返納後が有利
ただし、安全性、移動時間、家族負担、災害時対応を別に評価します。
18.どのような人は返納後の方が安くなりやすいか
- 自宅から病院やスーパーまで近い
- 駅やバス停まで歩ける
- デマンド交通を利用できる
- 外出が月数回程度
- 食品宅配を利用できる
- 夫婦で同じ日に外出できる
- タクシー助成がある
- 自動車の年間走行距離が少ない
- 車両の買い替え時期が近い
- 駐車場代を支払っている
都市部や駅周辺では、返納後の方が大幅に安くなる可能性があります。
地方でも、中心市街地や医療・商業施設に近い住宅であれば、返納後の費用を抑えやすくなります。
19.どのような人は自動車の方が安くなりやすいか
- 病院やスーパーまで遠い
- バスの本数が少ない
- 夫婦それぞれの外出が多い
- 市外の病院へ定期通院している
- 買い物が週2回以上必要
- タクシーの迎車に時間がかかる
- 自治体交通の対象区域外
- 家族送迎を頼めない
- 宅配対象外の商品を頻繁に購入する
- 介護や家族の送迎にも自動車を使う
ただし、自動車の方が安い場合でも、安全に運転できることが前提です。
現実的な結論~費用の分岐点は月間の外出回数で決まる
地方で自動車を10年間維持する場合、本記事の標準モデルでは、軽自動車で約300万~360万円、小型乗用車で約420万~480万円となりました。
一方、免許返納後の交通費は、公共交通を中心に利用できる低利用ケースでは約120万~200万円に抑えられる可能性があります。
しかし、タクシーを月8回程度利用し、宅配や家族送迎を併用する場合は、10年間で350万~550万円程度になる可能性があります。
市外通院や頻回通院がある場合は、600万~800万円を超えることも考えられます。
したがって、
自動車は高いから返納した方が得である
とも、
地方では自動車がなければ暮らせないため、持ち続ける方が得である
とも一律にはいえません。
判断の中心になるのは、次の条件です。
- 世帯全体で月に何回移動するか
- 1往復にいくらかかるか
- 公共交通をどこまで使えるか
- 市外通院があるか
- 車両購入費を含めるか
- 家族送迎の時間をどう評価するか
軽自動車の年間総費用を35万円、タクシーの1往復を4,000円とすると、単純な分岐点は月7回程度です。
1往復6,000円なら月5回程度、1万円なら月3回程度で、自動車の年間費用に近づきます。
ただし、免許返納の判断では、金銭面だけを見てはいけません。
安全性に不安がある場合は、多少交通費が増えても、運転をやめる方が合理的です。
そのうえで、公共交通、タクシー、宅配、家族送迎を組み合わせ、返納後の生活を成立させる必要があります。
最も確実なのは、免許を返納する前に、自動車を使わない生活を1~3か月試すことです。
実際にかかった交通費と不便を記録すれば、自分の世帯にとって、自動車と免許返納後の交通のどちらが現実的かが見えてきます。
免許返納は、単に自動車を手放す問題ではありません。
医療、買い物、住宅の立地、家族の支援、老後の家計をまとめて見直す生活設計の問題なのです。




