地域分析記事

地域の暮らしと地域課題を数学とデータで考える

高齢になって自分で病院へ通うことが難しくなっても、医師や看護師が自宅まで来てくれれば、住み慣れた地域で暮らし続けられる。

在宅医療を考えると、この仕組みは非常に重要です。

特に訪問看護では、看護師などが患者の自宅へ出向き、主治医の指示に基づいて健康状態の観察、医療処置、服薬管理、療養上の支援などを行います。

しかし、地方では一つ見落としやすい問題があります。

訪問看護は「患者が移動しなくてよい医療」である一方、医療従事者が患者の代わりに移動する医療でもある

ということです。

人口が減り、住宅が広い地域に分散したまま残れば、利用者一人を訪問するための移動距離や時間はなくなりません。

さらに、高齢者の増加によって在宅医療の需要が増える一方、訪問看護師を十分に確保できなければ、

訪問看護ステーションが地域に存在していても、必要な頻度で来てもらえない

という問題が生じる可能性があります。

この記事では、外房を含む山武長生夷隅地域を念頭に、公的資料を基に、30年後の訪問看護を考えます。

最初に結論

現時点の公的資料だけから、

「2050年には外房で訪問看護が受けられなくなる」

と断定することはできません。

反対に、

「訪問看護ステーションが増えているから、将来も問題なく利用できる」

とも言えません。

全国では訪問看護ステーションが増加しています。

厚生労働省の2024年「介護サービス施設・事業所調査」では、2024年10月1日時点の訪問看護ステーションは全国18,042事業所で、前年の16,423事業所から1,619事業所、9.9%増加しました。

一方、千葉県が山武長生夷隅保健医療圏についてまとめた保健医療計画では、

65歳以上人口10万人当たりの訪問看護ステーション数は千葉県平均を下回っている

とされています。千葉県は同時に、この地域では今後も在宅医療等の需要増加が見込まれるとしています。

つまり外房を含む地域では、

需要が増える可能性がある一方、訪問看護の供給基盤は県平均より薄い

という構造を考える必要があります。

訪問看護とは何をするサービスなのか

訪問看護は、単に高齢者の話し相手になるサービスではありません。

主治医の指示を受け、利用者の自宅などを訪問し、

・健康状態の観察 ・病状悪化の予防 ・療養生活の支援 ・医療処置 ・服薬管理 ・リハビリテーション ・緊急時への対応 ・看取りへの支援 ・医師や介護職との連携

などを行います。

訪問看護の利用者は高齢者だけではなく、小児、難病患者、精神疾患のある人などにも及びます。

したがって、

高齢者人口だけを見れば将来の訪問看護需要が分かる

というものでもありません。

厚生労働省の調査資料でも、医療保険による訪問看護利用者は高齢者だけに限られず、幅広い年齢層に存在しています。

全国では訪問看護ステーションは増えている

訪問看護について、

「人口減少だからステーションも減っている」

と考えるのは、少なくとも現在の全国統計とは一致しません。

厚生労働省によると、2024年10月1日時点の訪問看護ステーションは18,042事業所でした。

2023年は16,423事業所だったため、

18,042-16,423=1,619事業所

増加しています。

増加率は9.9%です。

したがって、現状を正確に表現するなら、

訪問看護ステーションそのものは全国的に増えている

ということになります。

しかし、ここで重要なのは、

事業所数が増えること = 全国どこでも同じように訪問看護を利用できること

ではない点です。

1事業所に看護師が何人いるのか

訪問看護サービスの供給能力を考えるには、事業所数だけでは不十分です。

実際に訪問する看護職員が必要だからです。

厚生労働省の2024年データを用いた調査では、訪問看護ステーション1事業所当たりの看護師・准看護師数は、常勤換算で全国平均5.7人でした。

千葉県は5.6人です。

全国平均との差は小さいものの、

一つの訪問看護ステーションに数十人の看護師がいるのが標準というわけではありません。

さらに、日本看護協会の調査を基にした厚生労働省資料では、所在地を問わず、看護職員5人未満の訪問看護事業所が最も多い結果となっています。

町村部では回答148事業所のうち71事業所、48.0%が看護職員5人未満でした。

これは外房の訪問看護ステーションそのものを調査した数字ではありません。

したがって、

「外房の半数の事業所が5人未満」

とは言えません。

ただし、全国的に訪問看護が比較的小規模な事業所によって支えられていることは確認できます。

小規模事業所では「1人減る影響」が大きい

仮に看護職員が20人いる事業所で1人退職すれば、単純な人数比では5%の減少です。

一方、5人の事業所から1人減れば20%の減少です。

これは単純な算術例であり、実際の訪問能力を直接示す公式指標ではありません。

しかし、小規模な訪問看護ステーションほど、

病気 退職 産休・育休 研修 夜間対応

などによる一人の欠員が、事業所全体の運営へ与える影響が相対的に大きくなりやすいことは理解できます。

したがって、

訪問看護ステーションが1か所存在する

という事実だけから、その地域の供給能力を判断することはできません。

外房を含む地域では県平均より訪問看護ステーションが少ない

千葉県保健医療計画では、勝浦市、いすみ市、大多喜町、御宿町などを含む山武長生夷隅保健医療圏について、

65歳以上人口10万人当たりの訪問診療実施診療所・病院数は千葉県平均を上回る一方、訪問看護ステーション数は千葉県平均を下回る

と整理しています。

さらに千葉県は、

今後も在宅医療等の需要が増加すると見込まれる

ため、在宅医療の拡充と体制整備を進める必要があるとしています。

ここには重要な意味があります。

医師の訪問診療体制が比較的確保されていても、

医師が診察することと、日常的な療養を訪問看護で支えることは別

だからです。

在宅医療は医師だけでは成立しません。

看護師、薬剤師、介護職、リハビリテーション職などによる連携が必要になります。

訪問看護は「移動する医療」である

病院の場合、患者が医療機関へ移動します。

訪問看護では逆です。

看護師が利用者の自宅へ移動します。

そのため勤務時間は概念的には、

訪問看護師の勤務時間 =看護を提供する時間 +利用者宅への移動時間 +記録・連絡・調整などの時間

に分けられます。

これは公式統計の算定式ではなく、訪問看護の構造を理解するための概念的整理です。

重要なのは、

移動時間には直接看護を提供できない

ことです。

例えば同じ8時間勤務でも、利用者宅が近接している地域と、住宅が広範囲に分散している地域では、訪問可能件数が同じとは限りません。

人口密度が低い地域では「利用者が少ないから楽」とは限らない

人口減少地域では、利用者数そのものが都市部より少ない場合があります。

一見すると、

利用者が少ない ↓ 必要な訪問看護師も少ない

と考えられます。

しかし、この関係は単純ではありません。

利用者数が少なくても、その利用者が広い地域に分散していれば、一件ごとの移動時間が長くなります。

つまり、

利用者数の減少率 ≠ 訪問に必要な労働時間の減少率

です。

これは、このブログでこれまで扱ってきた、

人口が減る速度と管理対象が減る速度は一致しない

という問題にも似ています。

訪問看護の場合は、

人口が減る速度と、必要な移動距離が減る速度は一致しない

可能性があります。

「移動負担」を数字だけで断定することはできない

ただし、ここでは慎重さも必要です。

今回確認した千葉県の公的資料から、

「外房の訪問看護師は1日平均○km走行している」

「都市部より移動時間が○分長い」

という統一的な地域データは確認できませんでした。

そのため、

外房では訪問時間の○%が移動で失われている

といった数字は示しません。

公開資料だけでは判断困難です。

実際の移動負担は、

事業所所在地 利用者の居住場所 道路状況 訪問エリア 利用者数 訪問頻度

などによって異なります。

30年後の人口構造はどうなるのか

国立社会保障・人口問題研究所の「日本の地域別将来推計人口(令和5年推計)」では、市区町村別人口が2050年まで推計されています。

山武長生夷隅地域についても、前の記事で確認したように、総人口の減少が続く一方、高齢者、とりわけ75歳以上人口が地域生活で大きな割合を占める状態が続くと見込まれています。

ただし、

2050年の外房に訪問看護利用者が何人いるか

訪問看護師が何人必要になるか

という市町村別の公式推計は、今回確認した資料では存在しません。

したがってこの記事では、

「2050年には訪問看護師が○人不足する」

という独自推計は行いません。

在宅医療を増やすほど訪問する人が必要になる

高齢者が病院へ長期間入院するのではなく、自宅などで療養できる体制を整えることには大きな意味があります。

しかし、

病院から在宅へ移せば医療従事者が不要になる

わけではありません。

むしろ、患者が複数の自宅に分散するため、

医師 看護師 薬剤師 リハビリテーション職 介護職

などがそれぞれ移動する必要があります。

千葉県も、山武長生夷隅地域について在宅医療需要の増加を見込み、在宅医療提供体制の整備が必要だとしています。

したがって、

入院から在宅へ = 低コストで簡単に医療を維持できる

とは限りません。

「24時間対応」はさらに人員を必要とする

在宅療養では、昼間だけ医療ニーズが発生するとは限りません。

夜間に、

発熱する 呼吸状態が悪化する 点滴やカテーテルに問題が起こる 痛みが強くなる 転倒する

といったことがあります。

そのため訪問看護には24時間連絡可能な体制を持つ事業所もあります。

千葉県の保健医療計画策定資料では、2023年4月時点で県内に24時間対応可能な訪問看護ステーションが544か所あるとされています。

ただし、24時間対応とは、

24時間いつでも看護師が直ちに訪問できる

ことと同義ではありません。

連絡体制や緊急訪問体制には事業所ごとの差があります。

さらに、小規模な事業所で夜間・休日を継続して担当する場合、職員への負担も考えなければなりません。

ステーションが増えても廃止・休止する事業所はある

全国では訪問看護ステーション数が増えていますが、すべての事業所が永続的に運営されているわけではありません。

厚生労働省の訪問看護事業所の事業継続に関する調査資料では、訪問看護事業所の廃止や休止も確認されています。

つまり、

新規開設 -廃止・休止

の結果として全体の事業所数が増えているのであり、

現在ある最寄りの訪問看護ステーションが30年後にもそのまま存在する

ことを保証する数字ではありません。

これは地方のサービスを考えるうえで重要です。

大きな事業所と小さな事業所では経営条件も異なる

厚生労働省の調査資料では、看護職員数の多い訪問看護事業所ほど収益が高い傾向が示されています。

これも、

「小規模事業所はすべて赤字」

という意味ではありません。

しかし、訪問看護では一定の規模を持つことによって、

夜間対応 休暇時の交代 研修 緊急訪問 管理業務

などを複数職員で分担しやすくなると考えられます。

一方、人口の少ない地域で利用者数を確保するためには、訪問範囲を広げる必要が生じる可能性があります。

ここに地方特有の矛盾があります。

規模を大きくするには利用者が必要 ↓ 人口密度が低いので広い地域から利用者を集める ↓ 訪問距離が延びる

という構造です。

これは分析上の整理であり、外房の全事業所が実際にこの状態にあるという意味ではありません。

ICTで移動時間そのものは消せない

ICT(情報通信技術)を利用すれば、

記録 情報共有 医師との連絡 予定管理 オンライン会議

などを効率化できます。

これは訪問看護の生産性向上に有効です。

しかし、

患者の身体を観察する

点滴や処置を行う

褥瘡を確認する

自宅で療養状態を確認する

ためには、必要に応じて実際に患者宅へ行かなければなりません。

そのため、

ICTを導入する = 訪問看護の移動問題がなくなる

とは言えません。

移動しなければならないサービスである以上、地理的条件は残ります。

オンライン診療とも役割が違う

オンライン診療によって、医師への相談や診察の一部を遠隔化できる場合があります。

しかし訪問看護は、

患者の身体状態を直接観察する 医療処置を行う 療養環境を確認する 家族の介護状況を見る

といった役割を持っています。

したがってオンライン化によって、すべての訪問を置き換えることはできません。

むしろ、

オンライン診療 +訪問看護 +必要時の通院・入院

を組み合わせる形が重要になります。

地方で必要なのは「事業所数」ではなく実際の訪問能力

地域の訪問看護体制を評価するときは、

訪問看護ステーションが3か所ある

という数字だけでは十分ではありません。

分析上は、

地域の実質的な訪問看護供給力 =看護職員数 ×実際に訪問できる勤務時間 ×対応可能日数 -移動時間 -記録・連携などに必要な時間

と考えることができます。

これは公式指標ではなく、分析のための概念的整理です。

さらに、

24時間対応 精神科訪問看護 小児対応 看取り リハビリテーション

など、事業所によって提供できるサービスも違います。

したがって、

訪問看護ステーションがある ≠ 自分に必要な訪問看護を利用できる

のです。

利用者にとっては「来てもらえる距離」が重要になる

病院では、

自宅から病院まで何kmか

が問題になります。

訪問看護では逆に、

訪問看護ステーションから自宅まで何kmか

が重要になります。

さらに、

その事業所が自宅を訪問対象地域としているか

を確認する必要があります。

地図上で最寄りの訪問看護ステーションだからといって、必ず契約できるとは限りません。

受入れ状況、職員数、疾患、医療処置、訪問エリアなどによって利用できない場合もあります。

高齢者一人暮らしでは訪問看護の重要性がさらに高くなる

家族と同居している場合には、

体温を測る 薬を確認する 病状変化に気づく 病院へ連絡する

といったことを家族が補う場合があります。

一人暮らしでは、その役割を家族に当然のように期待できません。

したがって単身高齢者が増える地域では、

訪問診療 訪問看護 訪問介護 配食 緊急通報

などを組み合わせる必要性が高まります。

ただし、ここでも重要なのは、

サービスの種類を増やすことだけではなく、それぞれを担う人が確保できるか

です。

訪問看護だけで在宅生活を維持できるわけではない

訪問看護は重要ですが、利用者宅に24時間看護師がいるサービスではありません。

訪問と訪問の間には、本人や家族が生活する時間があります。

したがって在宅生活の継続可能性は、

訪問看護 +訪問診療 +介護サービス +服薬支援 +食事 +緊急対応 +家族・地域支援 +住環境

などによって決まります。

訪問看護だけを増やせば、一人暮らしの高齢者問題が解決するわけではありません。

30年後に成立しやすい地域の条件

人口減少地域でも訪問看護を維持しやすい条件としては、

・一定数の看護職員を確保できる ・小規模事業所同士で連携できる ・夜間や休暇時の応援体制がある ・利用者が過度に広範囲へ分散していない ・医師、薬局、介護事業者との連携がある ・ICTで記録・情報共有を効率化できる ・必要に応じて複数市町村をまたいだ連携ができる

などが考えられます。

一方、

・職員が少ない ・利用者宅が広範囲に分散している ・夜間対応を少人数で担う ・一人退職しただけで訪問枠が大きく減る ・医療・介護事業者との連携が弱い

地域では、継続が難しくなる可能性があります。

「各町に1か所残せばよい」とも言えない

行政的には、

「町内に訪問看護ステーションを確保する」

という考え方は分かりやすいものです。

しかし小規模なステーションを各地域に分散させれば、

一つ一つの事業所が十分な職員数を確保できない可能性があります。

反対に大規模なステーションへ統合すれば、人員配置や夜間対応はしやすくなる可能性がありますが、

訪問距離が長くなる

という問題が生じます。

つまり、

分散 =近いが小規模になりやすい

集約 =規模を確保しやすいが遠くなりやすい

というトレードオフがあります。

したがって、単純に「統合すれば効率的」とも「各町に残せば安心」とも言えません。

判断前に確認したいこと

高齢期に外房などの地方で在宅生活を考える場合には、現在の事業所数だけではなく、次の点を確認する必要があります。

  • [ ] 自宅を訪問対象とする訪問看護ステーションがあるか
  • [ ] 現在、新規利用を受け付けているか
  • [ ] 看護師による訪問に対応しているか
  • [ ] 必要な医療処置に対応できるか
  • [ ] 夜間・休日の連絡体制があるか
  • [ ] 緊急訪問が必要な場合の対応を確認したか
  • [ ] 主治医との連携ができるか
  • [ ] 訪問診療・介護サービスも利用できるか
  • [ ] 家族がいなくても療養を継続できる仕組みがあるか
  • [ ] 現在の最寄り事業所だけに依存していないか

現実的な結論

現在、全国の訪問看護ステーション数は増えています。

2024年10月1日時点では全国18,042事業所となり、前年から9.9%増加しました。

したがって、

訪問看護そのものが現在衰退している

とは言えません。

一方、外房を含む山武長生夷隅保健医療圏では、65歳以上人口10万人当たりの訪問看護ステーション数が千葉県平均を下回り、千葉県自身が今後の在宅医療需要の増加を見込んでいます。

さらに、全国の訪問看護ステーションは比較的小規模な事業所が多く、千葉県でも1事業所当たり看護師・准看護師数は2024年に常勤換算5.6人でした。

したがって30年後を考えるとき、重要なのは、

訪問看護ステーションを何か所残せるか

だけではありません。

重要なのは、

実際に訪問できる看護師を何人確保し、その人たちが限られた勤務時間の中で、どの範囲まで訪問できるか

です。

在宅医療は、患者が病院へ行かなくてよい医療です。

しかしその代わりに、

医療従事者が患者のところへ行かなければならない医療

でもあります。

人口減少地域では、

人口が減る ↓ 住宅や集落は広い範囲に残る ↓ 一人当たりの移動負担が必ずしも減らない

という問題が生じます。

そのため、

訪問看護サービスが存在すること ≠ 必要なときに実際に来てもらえること

と考える必要があります。

30年後の地方の在宅医療を支えるために必要なのは、単に訪問看護ステーションを増やすことではありません。

限られた看護職員で、移動を含めて持続可能な訪問体制をどう構築するか。

そこまで考えて初めて、「住み慣れた地域で暮らし続ける」という在宅医療の理念を、現実の生活として維持できるのではないでしょうか。

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外房で病院や診療所が減ったら、どこまで通院できるのか~医療機関までの距離と高齢者生活を考える

地方で暮らし続けられるかを考えるとき、「近くに病院があるか」は重要な条件です。

しかし、病院や診療所の看板が地域に残っていれば、それだけで医療へアクセスできるのでしょうか。

実際の通院には、

・必要な診療科がある ・診療日に受診できる ・予約を取れる ・医師がいる ・自宅から移動できる ・診察後に帰宅できる ・定期的な通院を繰り返せる

という複数の条件が必要です。

特に高齢になると、10km、20kmという距離そのものだけでなく、自動車を運転できるか、家族が送迎できるか、鉄道やバスの時刻が診療時間に合うかという問題が加わります。

この記事では、勝浦市、いすみ市、大多喜町、御宿町などを含む外房を念頭に置きながら、千葉県が設定する「山武長生夷隅保健医療圏」の公的資料を中心に、

病院や診療所が存在することと、高齢者が実際に通院できることは同じなのか

を考えます。

最初に結論

外房の将来医療で重要なのは、

病院・診療所の数だけを維持することではなく、必要な診療を、住民が現実的に到達できる範囲で受けられる状態を維持できるか

です。

山武長生夷隅保健医療圏では、千葉県の計画策定時点で一般診療所が263か所あり、一般診療所で診療に従事する医師は253人でした。

しかし同圏域の外来医師偏在指標は85.9で、全国330医療圏中255位です。

千葉県はこの地域について、

「診療所における外来医療のニーズに対して、診療所医師が少ない地域」

と評価しています。

さらに、外来患者については圏域外へ1日約4,500人が流出する一方、圏域内への流入は約1,000人で、差し引き約3,500人の流出超過と推計されています。

つまり、現在でも地域住民の医療が、この医療圏だけで完結しているわけではありません。

将来、医療機関や診療科が減少した場合に問題になるのは、単なる施設数の減少ではなく、

圏域外へ移動しなければ受けられない医療がさらに増える可能性

です。

「外房」の範囲と今回使う統計

日常的に使われる「外房」と、行政上の医療圏は一致しません。

千葉県の山武長生夷隅保健医療圏は、

茂原市 東金市 勝浦市 山武市 いすみ市 大網白里市 九十九里町 芝山町 横芝光町 一宮町 睦沢町 長生村 白子町 長柄町 長南町 大多喜町 御宿町

の6市10町1村で構成されています。

面積は1,161.72平方キロメートルで、千葉県全体の22.5%を占めます。一方、2023年4月1日時点の人口は422,832人で、県人口の6.5%です。

したがって、かなり広い面積に人口が分散する医療圏です。

ただしこの記事で示す医療機関数や医師数は、原則として山武長生夷隅保健医療圏全体の数字です。

勝浦市、御宿町、いすみ市など南側の外房地域だけを表した数字ではありません。

ここは区別する必要があります。

2050年には人口が減っても、75歳以上人口は今より多い

国立社会保障・人口問題研究所の2023年推計を基にした千葉県資料では、山武長生夷隅区域の人口は、

2020年 約41万人 2025年 約38万8千人 2030年 約36万6千人 2035年 約34万3千人 2040年 約31万9千人 2045年 約29万5千人 2050年 約27万3千人

へ減少すると見込まれています。

2020年から2050年までの減少は約13万7千人です。

割合にすると、

(41万人-27万3千人)÷41万人×100 ≒33%

となります。

一方、75歳以上人口は、

2020年 約7万4千人 2025年 約8万7千人 2030年 約9万4千人 2035年 約9万3千人 2040年 約9万人 2045年 約8万7千人 2050年 約8万8千人

と推計されています。

2050年の総人口は2020年より約3分の1減る一方、75歳以上人口は2020年を上回る推計です。

したがって、

人口が減る =通院する高齢者も同じ割合で減る

とは考えられません。

これは外房の医療を30年先まで考える上で重要な構造です。

現在でも外来患者は地域外へ流出している

千葉県保健医療計画では、山武長生夷隅保健医療圏の居住者を基準にした推計外来患者数は1日約19,900人です。

そのうち、

圏域外への流出 約4,500人/日 圏域外からの流入 約1,000人/日

で、

差し引き約3,500人/日の流出超過

とされています。

主な流出先として、

千葉保健医療圏 約1,400人/日 香取海匝保健医療圏 約700人/日 安房保健医療圏 約700人/日 印旛保健医療圏 約600人/日 市原保健医療圏 約400人/日

などが推計されています。

この数字は平成29年度患者調査などを基に厚生労働省が算出したもので、現在の日々の実数ではありません。

それでも、

地域住民の外来医療が、すでに他の医療圏との移動によって支えられている

ことを示す資料として重要です。

263診療所あるから十分とは言えない

千葉県の資料では、山武長生夷隅医療圏に一般診療所が263か所あり、診療所で診療に従事する医師は253人です。

この数字だけを見ると、かなり多くの医療機関が存在するようにも見えます。

しかし、診療所はすべて同じ医療を提供しているわけではありません。

主たる診療科別の診療所医師数を見ると、

内科 119人 整形外科 23人 眼科 24人 小児科 12人 耳鼻いんこう科 12人 消化器内科 11人 産婦人科 8人 皮膚科 7人 外科 6人 精神科 3人 泌尿器科 3人 循環器内科 2人 腎臓内科 2人 脳神経外科 2人

などとなっています。

これは2020年の「医師・歯科医師・薬剤師統計」による数字です。

つまり、

近所に診療所がある =必要な診療科が近所にある

ではありません。

皮膚科・精神科は県平均よりかなり少ない

山武長生夷隅医療圏について、一般診療所に勤務する医師の人口10万人当たり人数は、

皮膚科 1.7人 精神科 0.7人 眼科 5.7人 耳鼻いんこう科 2.9人

です。

千葉県平均は、

皮膚科 3.6人 精神科 2.5人 眼科 5.4人 耳鼻いんこう科 3.1人

です。

眼科と耳鼻いんこう科は県平均と大きな差がありませんが、皮膚科と精神科について千葉県は「約2分の1以下」と説明しています。

したがって医療アクセスを考える場合、

病院・診療所の総数

だけを見るのでは不十分です。

必要なのは、

診療科ごとのアクセス

です。

医師全体でも「医師少数区域」

千葉県保健医療計画の医師確保に関する資料では、山武長生夷隅保健医療圏の医師偏在指標は145.1で、全国335医療圏中298位です。

千葉県は同圏域を、

「医師少数区域」

に設定しています。

2020年末時点の医療施設従事医師数は545人でした。

千葉県は2026年度末の目標医師数を640人としています。

差は95人です。

ただし、この640人という数字は「必要なすべての医師需要を完全に満たす人数」という意味ではありません。

千葉県の計画では、医師少数区域について、全国の下位33.3%の基準から脱するために必要な人数などを基準に設定しています。

したがって、

640人に達すれば将来の医師不足が完全に解消する

とは解釈できません。

「病院がなくなる」というより、機能が遠くなる問題

地方医療については、

「病院が閉院するか」

という二者択一で考えがちです。

しかし生活者にとっては、もっと段階的な変化があります。

例えば、

近所の診療所が週5日から週3日になる 特定の診療科だけ終了する 常勤医が非常勤になる 午後診療がなくなる 入院機能が縮小する 専門検査が他院紹介になる 手術は別の医療圏へ行く

といった変化です。

この場合、医療機関そのものは地域に残っています。

それでも患者側から見ると、

利用できる医療機能までの距離が伸びた

ことになります。

したがって地域医療アクセスは、施設数だけでなく、

医療アクセス =必要な診療機能への到達可能性

として考える方が実態に近くなります。

では「何kmまでなら通院できる」のか

この記事の題名にある「どこまで通院できるのか」について、最も注意が必要な部分です。

今回確認した千葉県・厚生労働省の資料には、

高齢者は病院まで○km以内なら通院可能

という統一的な基準はありません。

5kmなら大丈夫、10kmを超えたら困難、20kmなら通院不能という客観的な線を、公的資料から設定することはできません。

距離だけでは、

自動車を運転できる人 家族が送迎できる人 鉄道駅に近い人 バス停から遠い人 歩行が困難な人

で条件が違うためです。

したがって、

外房では医療機関まで○km以内に住めば安心

とはこの記事では結論づけません。

公開資料だけでは判断困難です。

本当に重要なのは「距離」より移動時間と反復可能性

例えば片道15kmの医療機関でも、自動車を運転できれば通院できる場合があります。

一方、自宅から2kmしか離れていなくても、

徒歩が困難 バスがない 家族送迎がない タクシー料金を継続的に負担できない

という場合には通院が難しくなります。

したがって高齢者の通院可能性は、分析上、

通院可能性 =医療機関の存在 +必要な診療科 +診療可能日時 +移動手段 +所要時間 +費用負担 +本人の身体能力 +継続して通える頻度

と整理できます。

これは公式指標ではなく、この記事で問題を整理するための概念式です。

重要なのは、

一度だけ病院へ行けること

ではなく、

毎月、あるいは数週間ごとに繰り返し通えること

です。

高齢者医療では「定期通院」が問題になる

高齢期には、高血圧、糖尿病、心疾患、整形外科疾患、眼疾患などで継続的な診療が必要になる場合があります。

このとき通院負担は、

1回の移動負担 × 年間通院回数

として累積します。

例えば専門医への受診で地域外へ移動する場合、1回だけなら家族に頼めても、それを何年も繰り返せるかは別問題です。

したがって、

家族に車で連れて行ってもらえる = 長期間の通院問題が解決している

とは限りません。

これは人口減少地域で特に考える必要があります。

医療圏そのものが非常に広い

山武長生夷隅保健医療圏の面積は約1,162平方キロメートルです。

千葉県全体の約22.5%を占める一方、人口は県全体の6.5%です。

このため「同じ医療圏内」という表現にも注意が必要です。

例えば、同じ山武長生夷隅保健医療圏にある医療機関だからといって、すべての住民にとって近距離とは限りません。

医療行政上の圏域と、

住民が日常的に通える生活圏

は同じではありません。

高度な医療ほど地域内で完結しない

千葉県資料によると、山武長生夷隅医療圏には、計画作成時点で病院23施設、一般診療所263施設がありました。

一方、医療機器を見ると、2020年度医療施設調査などに基づく資料では、

全身用CT(Computed Tomography・コンピュータ断層撮影) 49台 MRI(Magnetic Resonance Imaging・磁気共鳴画像装置) 21台 PET(Positron Emission Tomography・陽電子放出断層撮影) 0台 放射線治療装置 1台 マンモグラフィ 14台

となっています。

千葉県は、PETについて圏域内に保有医療機関がなく、隣接医療圏との連携が重要としています。

つまり、

すべての医療を地域内に置くこと

を前提とした医療体制ではありません。

専門性の高い医療では、ある程度の集約化と地域間連携が必要です。

問題は、

集約した医療機関まで患者が到達できる仕組みも同時に維持できるか

です。

病院を各町に残せばよい、とは限らない

ここで単純に、

「高齢者が増えるのだから、各市町村に病院を残せばよい」

という結論にはできません。

病院には医師だけでなく、

看護師 薬剤師 診療放射線技師 臨床検査技師 臨床工学技士 リハビリテーション職 事務職

など多くの職種が必要です。

設備、病床、検査機器、夜間勤務なども必要になります。

人口が減る地域で、小規模な医療機関にすべての機能を分散させれば、それぞれの医療機関で人員や設備を確保できるとは限りません。

したがって、

近くに何でもある医療

と、

医療の質・人員を確保するための集約化

の間にはトレードオフがあります。

反対に「集約すれば効率的」でも終われない

一方、

「人口が減るなら病院を集約すればよい」

という考えも十分ではありません。

医療機関側の効率が上がっても、

患者の移動距離 家族の送迎時間 タクシー料金 仕事を休む時間 公共交通の利用負担

が増えれば、社会全体では別の負担が発生します。

このブログでこれまで扱ってきた考え方と同じです。

医療機関側の効率化 ≠ 住民側の負担軽減

です。

外房では「医療」と「交通」を別々に考えられない

病院が集約されるほど、交通の重要性は高くなります。

逆に、

路線バスが減る 鉄道の運行本数が減る タクシー事業者が減る 本人が運転できなくなる

という変化が重なると、医療施設そのものが存続していてもアクセスできなくなる可能性があります。

つまり地方では、

医療アクセス =医療提供体制+地域交通

です。

病院政策だけで通院問題を解決することはできません。

自動車を運転できる間だけを見ると問題を見落とす

外房では、自動車で通院している住民も少なくありません。

そのため60代、70代前半では、

「病院まで15kmでも車なら問題ない」

と感じることがあります。

しかし高齢期の居住可能性を考える場合、

現在運転できるか

ではなく、

運転できなくなった後にも同じ医療へアクセスできるか

を見る必要があります。

自動車中心の医療アクセスは、

免許返納 視力低下 認知機能低下 身体機能低下 入院後の体力低下

などによって突然成立しなくなる可能性があります。

したがって地方移住や高齢期の住宅選びでは、現在の自動車移動時間だけでなく、非運転時の通院手段も確認する必要があります。

オンライン診療ですべて解決するわけではない

オンライン診療には、移動負担を軽減できる利点があります。

特に状態が安定した患者の一部では、通院回数を減らせる可能性があります。

しかし、

採血 画像検査 処置 身体診察 緊急対応 手術 リハビリテーション

など、対面でなければ行えない医療は残ります。

そのため、

オンライン診療が普及する = 地方の通院問題がなくなる

とは考えられません。

オンライン診療は、通院を完全に代替する仕組みではなく、適切な患者・疾病について移動回数を減らす一つの方法として考える必要があります。

在宅医療も重要だが万能ではない

山武長生夷隅医療圏には、2023年4月1日時点で在宅療養支援診療所が16か所あり、このうち機能強化型は7か所でした。

高齢化が進む地域では、患者が病院へ行くのではなく、医師や看護師などが患者宅へ行く在宅医療の重要性が高まります。

しかし在宅医療でも、

医師 看護師 車両 移動時間 訪問可能範囲

が必要です。

人口が広い地域に分散していれば、医療従事者側にも移動負担が発生します。

したがって、

在宅医療を増やせば通院問題がすべて解決する

とも言えません。

高齢者に必要なのは「医療施設への距離」ではなく「医療へのアクセス」

今後の地方居住を判断するとき、

最寄り病院まで○km

という情報だけでは不十分です。

少なくとも、

1 普段の内科

慢性疾患の診療や薬の処方を継続できるか。

2 専門診療

眼科、皮膚科、精神科、整形外科、循環器内科など必要な診療科がどこにあるか。

3 検査

CT、MRIなど必要な検査がどこで受けられるか。

4 入院

入院が必要になった場合、どの病院へ行くのか。

5 非運転時

自動車を運転できなくなった後にどう通うか。

6 家族不在時

家族が送迎できない場合に代替手段があるか。

を見る必要があります。

判断前のチェックリスト

地方で高齢期を暮らす場合、現在の医療環境について次の点を確認すると実用的です。

  • [ ] 最寄りの内科まで自動車以外で行けるか
  • [ ] 定期的に必要な専門診療科がどこにあるか
  • [ ] 午前・午後の診療曜日を確認したか
  • [ ] 紹介が必要な病院までの距離を確認したか
  • [ ] 家族送迎なしでも通院できるか
  • [ ] タクシーを継続利用した場合の費用を負担できるか
  • [ ] 公共交通の時刻が診療時間と合っているか
  • [ ] 退院後の通院方法を考えているか
  • [ ] 訪問診療の対象地域に入っているか
  • [ ] 運転できなくなった後の通院手段を決めているか

重要なのは、現在病院へ行けるかではありません。

10年、20年後に身体能力や交通条件が変わっても通院を継続できるか

です。

どのような地域なら比較的維持しやすいのか

医療アクセスを維持しやすいのは、

診療所と中核病院の役割分担がある 専門医療を集約しても交通手段が確保される かかりつけ医と専門医が連携できる 訪問診療・訪問看護を利用できる 公共交通やタクシーなど複数の移動手段がある 住民が医療機関に比較的集まりやすい居住構造

などの条件を持つ地域です。

逆に、

人口が広域に分散している 診療所の後継者がいない 専門診療科が遠い 自動車以外の交通が少ない 家族送迎への依存が大きい

地域では、医療施設数だけを維持しても通院可能性を維持できない可能性があります。

「病院を残すか、なくすか」だけの議論では足りない

人口減少地域では、医療機関の統合・再編が議論されることがあります。

しかし住民生活から見ると、本当に重要なのは、

病院が残ったか 閉院したか

だけではありません。

必要なのは、

必要な医療機能まで何分で行けるのか

自動車がなくても行けるのか

月に何回でも継続できるのか

専門医療が必要になった場合にも移動できるのか

という評価です。

医療アクセスを、

施設の数

ではなく、

医療機能への到達可能性

で考える必要があります。

現実的な結論

山武長生夷隅保健医療圏では、総人口が2020年の約41万人から2050年には約27万3千人へ減少すると推計されています。

一方、75歳以上人口は約7万4千人から約8万8千人となる推計です。

現在でも外来医師偏在指標は全国330医療圏中255位で、千葉県は診療所医師が少ない地域と評価しています。

医師全体の偏在指標でも、山武長生夷隅保健医療圏は「医師少数区域」に設定されています。

さらに、外来患者は1日約3,500人の流出超過と推計されており、現在の医療も圏域外との連携によって成立しています。

したがって将来の外房について、

人口が減るから病院も減らしてよい

とも、

病院を今の数だけ残せば安心

とも言えません。

人口減少社会で重要になるのは、

少なくなる人口に対して、すべての医療施設を同じ形で残すことではなく、必要な医療機能を確保し、その場所まで高齢者が実際に到達できる仕組みを残すこと

です。

そして、高齢期の生活を考える住民側も、

「病院まで車で15分だから大丈夫」

だけではなく、

運転できなくなった後にも、その医療を利用できるか

まで考える必要があります。

地方の医療問題は、

病院があるか、ないか

だけではありません。

医療が存在すること ≠ 必要な人が実際に通院できること

です。

外房で30年後も暮らし続けられるかを考えるなら、この違いを無視することはできません。

地域の課題を、自分の判断に置き換えて考える

有限会社アードレでは、住まい・車・移住などの大きな選択を、 費用や将来条件をもとに数字で比較し、判断できる形に整理しています。

数字で比較するサービスを見る

地方で高齢期を暮らすことを考えるとき、「近くに介護施設があるか」「介護保険のサービスがあるか」は重要です。

しかし、もう一つ確認しなければならない問題があります。

そのサービスを実際に提供する職員がいるか。

介護事業所の建物があり、介護保険制度が存続していても、働く人が足りなければ、希望したサービスを希望した時期・頻度で利用できるとは限りません。

千葉県の最新の公表資料を見ると、この問題は将来の仮定だけではありません。

千葉県内の介護職員数は、

2020年度 87,657人 2021年度 89,466人 2022年度 88,960人 2023年度 90,024人 2024年度 88,338人

となっています。

2024年度は前年度より1,686人少なくなりました。

一方、厚生労働省と千葉県の需給推計では、今後必要になる介護職員数は増加すると見込まれています。

この記事では、外房を含む人口減少地域で、

「介護サービスが制度として存在すること」と「実際に利用できること」は同じなのか

を、公表されている数字だけから考えます。

最初に結論

現在の公的資料から確認できる範囲では、千葉県では今後、介護サービスに必要な職員数と供給可能な職員数との間に大きな差が生じると推計されています。

厚生労働省の「第9期介護保険事業計画に基づく介護職員の必要数」を基にした千葉県の推計では、

2026年度 需要 106,260人 供給 95,414人 不足 10,846人

2030年度 需要 115,450人 供給 99,259人 不足 16,191人

2040年度 需要 127,991人 供給 99,725人 不足 28,266人

となっています。

2040年度について単純に計算すると、

28,266 ÷ 127,991 × 100 ≒ 22.1%

です。

つまり推計どおりなら、必要とされる介護職員数に対して約22%に相当する人数が不足する計算になります。

これは千葉県全体の推計であり、外房だけの数字ではありません。

したがって、

「2040年には外房でも22%不足する」

とは言えません。

外房についてどの程度の不足になるかは、現在公開されている県の需給推計だけでは判断できません。

しかし、県全体で大きな需給差が予測されている以上、外房の介護サービスについても、人材確保を無視して将来を考えることはできません。

介護職員は増え続けているわけではない

介護人材不足という言葉から、

「今でも介護職員が毎年減少している」

と思われるかもしれません。

実際の統計はもう少し複雑です。

千葉県の介護職員数は2018年度の85,135人から2023年度の90,024人まで、長期的には増えていました。

したがって、

高齢化している =介護職員が一直線に減少してきた

という説明は正確ではありません。

問題は、職員数そのものだけではなく、

介護需要の増加速度に、介護職員の供給が追いつくか

ということです。

2024年度には介護職員数が88,338人となり、2023年度から減少しました。

ただし、1年間の減少だけを見て「今後も毎年減り続ける」と断定することもできません。

将来を見るには、需要と供給の双方を見る必要があります。

2040年度には約12万8千人必要と推計されている

2022年度の千葉県の介護職員数は88,960人でした。

これに対して介護職員需要は、

2026年度 106,260人 2030年度 115,450人 2040年度 127,991人

へ増加すると推計されています。

2022年度の88,960人と2040年度の必要数127,991人を比較すると、

127,991 - 88,960 = 39,031人

となります。

ただし、これは「39,031人不足する」という意味ではありません。

供給側も増えることが想定されており、2040年度の供給推計は99,725人です。

したがって公式推計上の需給差は、

127,991 - 99,725 = 28,266人

です。

ここは、

現在の職員数と将来必要数との差

と、

将来の需要と将来供給との差

を区別する必要があります。

なぜ高齢者人口だけでは判断できないのか

介護需要は単純に65歳以上人口だけで決まるわけではありません。

千葉県は、2020年から2040年にかけて75歳以上人口の増加が見込まれ、さらに85歳以上人口の増加も重要な課題として位置付けています。

介護について重要なのは、

総人口

よりも、

高齢者人口 75歳以上人口 85歳以上人口 要介護・要支援認定者数 認知症高齢者数

などです。

千葉県の資料では、要介護等認定者数について、2020年度の約29万5千人から2040年度には約41万1千人まで増加する見込みが示されています。

したがって、

地域人口が減少する =介護需要も同じ割合で減少する

とは限りません。

これは人口減少地域を考えるうえで重要な点です。

外房では人口減少と高齢化を同時に考える必要がある

国立社会保障・人口問題研究所の「日本の地域別将来推計人口(令和5年推計)」は、2020年国勢調査を基準として、市区町村別の人口を2050年まで5年ごとに推計しています。

このため、勝浦市、いすみ市、大多喜町、御宿町を含め、外房各自治体についても2050年までの人口・年齢構成を確認することができます。

ただし注意したいのは、

2050年までの市町村別人口推計は存在しても、2050年の市町村別介護職員需給推計が存在するわけではない

という点です。

千葉県について確認できる介護人材の公式な需給推計は、今回利用した資料では2040年度までです。

したがってこの記事では、

「2050年に外房で介護職員が○人不足する」

という数字は示しません。

公開資料から確認できないためです。

外房だけの介護職員不足数は分からない

千葉県の介護保険計画では、外房の多くを含む地域を「山武長生夷隅圏域」として介護サービスの利用実績や利用見込みを集計しています。

例えば地域密着型介護老人福祉施設入所者生活介護について、山武長生夷隅圏域では、

2023年度 219人/月 2024年度 222人/月 2025年度 223人/月 2026年度 224人/月

という利用見込みが示されています。

このようにサービス需要については圏域単位の資料があります。

一方、

山武長生夷隅圏域で2040年度に介護職員が何人必要で、何人供給でき、何人不足するか

という形の公式な需給推計は、今回確認した公表資料では確認できませんでした。

したがって、県全体の28,266人という不足数を、人口比率などで単純に外房へ配分することは適切ではありません。

介護施設の分布、利用者の要介護度、職員配置、地域間通勤、サービス種類などが異なるためです。

「事業所がある」と「利用できる」は違う

介護サービスにはさまざまな形があります。

例えば、

訪問介護 通所介護 短期入所 特別養護老人ホーム 認知症対応型共同生活介護 小規模多機能型居宅介護 定期巡回・随時対応型訪問介護看護

などです。

千葉県では地域密着型サービスの事業所も整備されています。

2025年4月1日時点で県全体では、

定期巡回・随時対応型訪問介護看護 72か所 夜間対応型訪問介護 11か所 認知症対応型通所介護 91か所 小規模多機能型居宅介護 151か所 看護小規模多機能型居宅介護 49か所 地域密着型通所介護 998か所 認知症対応型共同生活介護 504か所

などが確認できます。

しかし、事業所数だけでは利用可能性を判断できません。

事業所が存在していても、

職員を確保できない 受け入れ人数に限界がある 希望曜日に利用できない 訪問範囲外になる

といった場合には、実際の利用可能性は低下します。

したがって、

介護サービスが存在する ≠ 必要な人が必要なだけ利用できる

と考える必要があります。

特別養護老人ホームでも「施設数」だけでは判断できない

千葉県の特別養護老人ホームの入所定員は、2024年度時点で合計31,827人です。

一方、2025年度の県内入所待機者は9,799人とされています。

そのうち在宅の待機者は4,832人です。

ただし「待機者数」は単純に「ただちに約9,800床不足している」という意味ではありません。

申込者の状況や入所の必要性、複数施設への申込みなどを考慮する必要があります。

それでも、施設が存在するだけで希望者全員が直ちに入所できる状況ではないことは確認できます。

さらに施設を増設したとしても、そこで働く職員を確保できなければ、建物だけで介護サービスを提供することはできません。

人材不足は施設介護だけの問題ではない

介護人材不足というと、特別養護老人ホームなどの施設を想像しやすいですが、外房のような地域では在宅サービスも重要です。

自宅で生活を続ける場合には、

訪問介護 通所介護 訪問看護 定期巡回サービス 小規模多機能型居宅介護

などを組み合わせることがあります。

ここで必要になるのが人です。

例えば訪問型サービスでは、

職員が利用者宅へ移動する時間

も必要になります。

人口密度の低い地域ほど、利用者宅同士の距離が長くなる可能性があります。

ただし、

外房では都市部より訪問介護の移動時間が何分長い

という統一的な公的統計は、今回確認した資料からは示せません。

したがって具体的な時間や採算額を推測することは避けます。

それでも、訪問サービスでは介護そのものだけでなく移動にも職員時間を使用するという構造自体は変わりません。

介護人材の供給は約10万人で頭打ちになる推計

千葉県の推計で特に注目したいのは、需要だけではありません。

供給推計は、

2026年度 95,414人 2030年度 99,259人 2040年度 99,725人

です。

2030年度から2040年度までの10年間では、

99,725 - 99,259 = 466人

しか増えない推計です。

一方、需要は同じ期間に、

127,991 - 115,450 = 12,541人

増えます。

つまり公式推計では、

必要人数は増える一方、供給人数はほぼ横ばい

という構造になっています。

ここが介護人材問題の中心です。

離職率だけが原因ではない

千葉県資料によると、2024年度の介護サービス分野の離職率は14.2%でした。

同年度の産業計は11.2%です。

ただし、

「離職率が高いから介護人材不足になる」

だけで説明するのは不十分です。

千葉県自身も、

新規就業促進 定着促進 生産年齢人口の減少

などを含めて人材確保の問題を整理しています。

つまり、

入ってくる人 辞める人 再就業する人 働き続ける人 そもそもの労働人口

を同時に考える必要があります。

ICTや介護ロボットだけで解決するとは言えない

ICT(Information and Communication Technology・情報通信技術)や介護ロボットによる生産性向上も、国や千葉県の介護政策で重要な対策とされています。

しかし、

ICTを導入する = 介護職員不足が解消する

とは言えません。

介護には、

食事 排泄 入浴 移乗 移動 見守り 認知症への対応 利用者とのコミュニケーション

など、人が直接関わる業務が多くあります。

技術によって記録作業や情報共有、見守りなどを効率化できても、公式の需給推計自体が2040年度に28,266人の不足を見込んでいます。

したがって技術導入は重要な対策の一つですが、単独で不足を解決できると判断できる資料はありません。

外国人介護人材だけで解決するとも言えない

外国人介護人材の受入れも人材確保策の一つです。

しかし、

外国人を増やす = 介護人材問題が解決する

という単純な関係ではありません。

外国人職員についても、教育、資格、日本語、住宅、交通、職場定着、地域生活などを含めた継続的な就労環境が必要です。

したがって、外国人介護人材は人材供給を支える一つの経路として考える必要がありますが、それだけを前提に将来の介護提供体制を組み立てるのは合理的ではありません。

介護サービスの本当の供給能力をどう考えるか

介護サービスを考えるため、概念的には次のように整理できます。

介護サービス供給力 =介護施設・事業所 +介護職員 +職員一人当たりの提供可能量 +移動可能性 +設備・住宅

これは公式統計上の指標ではなく、分析のための概念的整理です。

重要なのは、どれか一つだけではサービスが成立しないことです。

施設を増やしても人がいなければ動きません。

人がいても、訪問先が広く分散していれば提供できる件数には限界があります。

制度があっても、地域に事業者がなければ使えません。

外房で特に考えておくべきこと

外房で高齢期の生活を考える場合、

「介護施設が近くにあるから大丈夫」

だけで判断するのは十分ではありません。

確認したいのは、

・希望する介護サービスを提供する事業所があるか ・現在受け入れ可能か ・訪問対象地域に入っているか ・将来的に事業所を維持できるか ・介護職員を確保できているか ・本人が通所施設まで移動できるか ・家族送迎を前提にしていないか ・施設入所が必要になった場合に選択肢があるか

などです。

特に一人暮らし、高齢夫婦のみ、子どもが遠方に住む世帯では、家族が不足部分を埋めることを当然の前提にしない方がよいでしょう。

2040年以降について分かることと分からないこと

この記事で最も注意しなければならないのが「30年後」です。

国立社会保障・人口問題研究所では、市区町村別人口について2050年まで推計しています。

しかし、今回確認した介護職員の公式需給推計は2040年度までです。

そのため、

2050年度の千葉県の介護職員不足数

や、

2050年度の外房各市町村の介護職員不足数

をこの記事で数字として示すことはできません。

公開資料だけでは判断困難です。

2040年以降については人口構造の変化を確認しながら、その時点で更新される介護保険事業計画や人材需給推計を見る必要があります。

現実的な結論

介護サービスについて最も危険なのは、

制度が存在しているから将来も同じように利用できる

と考えることです。

千葉県の公的推計では、介護職員の需給差は、

2026年度 10,846人 2030年度 16,191人 2040年度 28,266人

へ拡大すると見込まれています。

しかも2040年度には、需要127,991人に対して供給99,725人という推計です。

一方で、これは千葉県全体の数字であり、外房だけの不足数ではありません。

したがって、

「外房では介護サービスが使えなくなる」

と断定することも、

「施設があるので問題ない」

と断定することも、現在の資料からは適切ではありません。

より正確に言えば、

外房で将来も介護サービスを利用できるかどうかは、施設数だけではなく、その地域で介護職員を確保し続けられるかによって左右される

ということです。

これまで地方の生活を考えるときには、

病院があるか スーパーがあるか バスがあるか 介護施設があるか

という「施設の存在」が重視されてきました。

これからはそれに加えて、

その施設やサービスを動かす人がいるか

を確認する必要があります。

人口減少社会では、

建物が残る速度と、そこで働く人が確保できる速度は同じではありません。

介護サービスについても、

サービスが存在すること ≠ 必要なときに実際に利用できること

という視点から、30年先の地域生活を考える必要があります。

地域の課題を、自分の判断に置き換えて考える

有限会社アードレでは、住まい・車・移住などの大きな選択を、 費用や将来条件をもとに数字で比較し、判断できる形に整理しています。

数字で比較するサービスを見る

親が亡くなり、地方の実家を相続する。

しかし、自分はすでに別の地域に自宅を持っている。

子どももその家に住む予定はない。

売ろうと思っても、すぐに買い手が見つかるとは限らない。

こうして、

「誰も住まないが、とりあえず持っておく家」

が生まれます。

空き家というと、固定資産税だけを考えがちです。

しかし実際には、

固定資産税 火災・災害への備え 草刈り 庭木管理 建物修繕 台風後の確認 換気・通水 現地までの交通費 家財処分 最終的な売却または解体

などが関係します。

一つ一つは小さな負担でも、10年、20年、30年と積み重なれば話は変わります。

この記事では、御宿町、勝浦市、いすみ市など外房を念頭に、

「誰も住まない実家を30年間持ち続ける」という選択が、どのような管理と費用を意味するのか

を考えます。

最初に結論~「使わない家を持っているだけ」でも費用は発生する

結論からいえば、

将来自分も子どもも利用する予定がない地方の実家を、明確な目的なく30年間保有することには相応の費用と管理責任が伴います。

しかも問題は固定資産税だけではありません。

家は誰も住まなくても、

屋根は劣化します。

外壁も傷みます。

庭の草は伸びます。

樹木も成長します。

台風も来ます。

設備も古くなります。

つまり、

人が住まない =維持費がなくなる

ではありません。

一方で、

「地方の家は必ずすぐ売るべきだ」

とも言えません。

将来住む可能性がある。

定期的に利用している。

賃貸や事業利用の可能性がある。

土地として価値がある。

家族にとって重要な拠点である。

こうした場合には保有する合理性があります。

重要なのは、

30年間持つことによって何を得るのか、そのためにいくら支払い、何回管理し、最後にどう処分するのか

を考えることです。

千葉県でも空き家は増えている

2023年の住宅・土地統計調査によると、千葉県の空き家は39万4,100戸でした。

2018年と比べて1万1,600戸増えています。

このうち、賃貸・売却用住宅や別荘などを除いた「その他の空き家」は15万8,500戸で、2018年より1万4,100戸増加しました。

さらに千葉県の2023年調査では、世帯が所有している空き家のうち、約8割が1990年以前に建築された住宅です。

つまり相続する段階で、

築30年 築40年 築50年以上

という住宅も珍しくない構造になっています。

これは重要です。

30年間保有する場合、

築40年の家 ↓ 30年後には築70年

になります。

「現在まだ使える」という状態と、

「30年間、大きな修繕なしに維持できる」

ことは別です。

外房でも空き家対策が行政課題になっている

いすみ市は2026年に空家等対策計画を策定しています。

市は、人口減少や住宅・建築物の老朽化によって使用されていない住宅が増え、適切に管理されない空き家が防災、防犯、安全、環境、景観などへ悪影響を及ぼすことを課題として挙げています。

御宿町でも2026年度予算に空き家対策実態調査が計上され、空き家家財等処分への支援も継続されています。

したがって、

「地方の実家を誰も使わなくなった」

という問題は、個々の家庭だけの問題ではありません。

同じ状態の住宅が地域全体で増えれば、

景観 防災 草木管理 防犯 土地利用

にも影響します。

相続した家は「放っておけばよい財産」ではない

2024年4月1日から相続登記が義務化されています。

不動産を相続によって取得したことを知った人は、原則としてその取得を知った日から3年以内に相続登記を申請する必要があります。義務化前に発生した相続についても対象です。

つまり、

「親名義のまま何十年も置いておく」

という従来見られた対応は、現在の制度ではそのままにできません。

相続した時点から、

誰が所有するのか 誰が税金を支払うのか 誰が管理するのか

を明確にしておく必要があります。

管理状態が悪ければ固定資産税にも影響する可能性がある

住宅が建っている土地には、一定の要件のもと固定資産税などの住宅用地特例があります。

しかし2023年の空家法改正により、放置すれば特定空家になるおそれがある住宅を「管理不全空家」として市町村が指導・勧告できる仕組みが設けられました。

管理不全空家や特定空家について勧告を受けると、敷地に対する住宅用地特例を受けられなくなる場合があります。

したがって、

建物を残しておけば税金が安いから、管理せず残しておく

という考え方にも注意が必要です。

家を残すなら、

残すこと自体ではなく、適切に管理すること

が必要です。

実家維持費をどう考えるか

本記事では、

実家維持総費用 =税金 +保険等 +修繕 +草刈り・庭木管理 +現地管理・交通 +家財管理 +最終処分費

として考えます。

これは公的な公式指標ではなく、30年間の負担を整理するための概念式です。

重要なのは、

年間いくらか

だけではありません。

30年間の総額で考えることです。

固定資産税は毎年発生する

住宅と土地を所有している限り、原則として固定資産税の対象になります。

実際の税額は、

固定資産評価額 住宅用地特例 土地面積 建物の評価

などによって大きく異なります。

したがって、

地方の一戸建てなら年間○万円

と一律には言えません。

まず確認すべきなのは、親が毎年支払っていた固定資産税額です。

仮に年間5万円なら、

5万円 × 30年 =150万円

です。

年間8万円なら、

8万円 × 30年 =240万円

になります。

この段階ですでに、

「年間ではそれほど高くない」

「30年間でも小さい」

は違うことが分かります。

火災保険・災害への備えも考える必要がある

外房では台風や強風、豪雨などによる住宅被害も考える必要があります。

ただし、空き家については住宅の利用状況や保険会社の商品によって契約条件が異なるため、現在の住宅用火災保険がそのまま継続できるとは限りません。

そのため相続後には、

現在の契約を継続できるか 空き家扱いになるか 補償範囲はどうなるか

を保険会社へ確認する必要があります。

保険へ加入するにしても、加入しないにしてもリスクは残ります。

加入すれば保険料が発生します。

加入しなければ台風などによる損傷を自己負担する可能性があります。

草刈りは30年間続く

地方の実家で意外に大きな負担になるのが庭と敷地です。

家そのものを使用しなくても、

草 竹 庭木 生垣

は成長します。

例えば年2回草刈りを行うとすると、

30年間で、

2回 × 30年 =60回

です。

年3回なら90回です。

本人が行えば業者代はかかりません。

しかし、

現地までの交通費 作業時間 草刈り機 燃料 刈った草の処理

などが必要です。

年齢を重ねれば、自分で続けられなくなる可能性もあります。

自分で草刈りするから無料、とは限らない

例えば東京や千葉市などから外房の実家へ年4回管理に行くとします。

往復交通費と車両費を仮に1回5,000円としても、

5,000円 × 4回 =年間2万円

です。

30年間では60万円です。

さらに往復と作業に毎回半日から1日使う場合、時間負担も発生します。

家族が行えば、

行政支出でも 業者費用でも

ありません。

しかし、

家族の労務費がゼロという意味ではありません。

墓地管理や自治会作業と同様、空き家管理でも「無償労働」が見えにくい費用になります。

住宅は誰も住まない方が傷みにくいとは限らない

空き家では、

換気不足 湿気 設備の不使用 漏水発見の遅れ 害虫・小動物 雨漏り発見の遅れ

などが問題になります。

特に重要なのは、

故障が発生すること

だけではなく、

故障に気づくまで時間がかかること

です。

居住していれば小さな雨漏りに早く気づけても、数か月訪問しない空き家では発見が遅れる場合があります。

そのため、誰も住まない家だから管理しなくてよいのではなく、誰も住まないからこそ定期確認が必要になります。

30年間なら大規模修繕を考えない方が不自然

相続時点ですでに築年数が経過している住宅なら、30年間の間には、

屋根 外壁 雨どい 給湯設備 水道設備 電気設備 床 建具

などの修繕が必要になる可能性があります。

もちろん、実際にどの工事が必要になるかは住宅ごとに異なります。

ここで重要なのは、

毎年修繕費が発生する

ということではありません。

ある年に、

20万円 50万円 100万円

とまとまった支出が発生する可能性があるということです。

30年間の費用を考える場合には、

年間維持費

とは別に、

大規模修繕予備費

を考えておく必要があります。

30年間の仮想モデルを作ってみる

ここでは実際の市場価格ではなく、費用構造を理解するための単純な仮想モデルを作ります。

ケースA~比較的管理負担が小さい家

年間固定資産税 3万円 年間保険等   1万2,000円 年間草刈り等  1万円 年間現地管理等 1万円

30年間の経常費用は、

(3万円+1万2,000円+1万円+1万円)×30年 =186万円

さらに30年間の修繕・最終処分等として120万円を仮定すると、

合計306万円

になります。

ケースB~標準的な仮想例

年間固定資産税 5万円 年間草刈り等  3万円 年間保険等   1万5,000円 年間交通・管理 2万円

30年間で、

(5万円+3万円+1万5,000円+2万円)×30年 =345万円

さらに修繕・家財処分・最終的な解体等を合計180万円と仮定すると、

約525万円

になります。

ケースC~広い敷地・管理負担が大きい例

年間固定資産税 8万円 年間草刈り等  6万円 年間保険等   3万円 年間交通・管理 5万円

30年間の経常費用は660万円です。

さらに修繕・最終処分等として250万円を仮定すると、

約910万円

になります。

これらは実際の外房の住宅について調査した平均値ではありません。

あくまで、

小さな年間費用でも30年間積み上げると数百万円単位になり得る

ことを示すための仮想計算です。

実際には、固定資産税、敷地面積、建物状態、草刈り方法、交通距離、解体条件などによって大きく変わります。

「年間10万円程度だから大丈夫」では判断できない

例えば年間維持費が10万円なら、

10万円 × 30年 =300万円

です。

年間20万円なら600万円です。

さらに最後に、

家財処分 測量 仲介 登記 解体

などの費用が加わる可能性があります。

したがって、

年間支出

だけではなく、

30年間のLCC(Life Cycle Cost・取得から処分までの総費用)

として見る方が合理的です。

相続の場合には取得費がゼロに見えやすいため、この視点が特に重要です。

相続したから「無料で家を手に入れた」とは限らない

親から住宅を相続すると、購入代金は支払いません。

そのため、

無料でもらった家

のように感じることがあります。

しかし経済的には、

購入価格0円 =保有費用0円

ではありません。

むしろ相続後に誰も利用しない場合、

収益を生まない資産に対して、

税金 維持管理 修繕 時間

を投入し続ける状態になります。

重要なのは、

取得価格

ではなく、

将来キャッシュフロー

です。

家の価値と土地の価値を分けて考える

地方住宅では、

家屋そのものにはほとんど市場価値がなくても、土地に一定の価値が残る

場合があります。

反対に、

土地は広いが需要が少なく、売却まで長期間かかる

場合もあります。

そのため、

固定資産税評価額がある =その価格で売れる

ではありません。

不動産会社へ査定を依頼し、

実際にいくらなら売れそうか どの程度の期間が必要か 古家付きで売れるか 解体が必要か

を確認することが重要です。

「将来値上がりするかもしれない」で30年間保有するリスク

不動産には将来価格が上昇する可能性もあります。

しかし人口減少地域で、

いつか高く売れるかもしれない

だけを理由に、30年間維持費を支払う場合には慎重な判断が必要です。

例えば30年間で維持費500万円を支払い、

現在300万円で売れる土地が、

30年後に500万円で売れたとしても、

単純には利益とはいえません。

途中の維持費や管理労務を考える必要があるからです。

不動産投資として考えるなら、

将来売却価格

だけでなく、

保有期間中のキャッシュフロー

を見る必要があります。

売れないなら持つしかない、とは限らない

地方の実家について、

「売れないから仕方なく持っている」

という状態もあります。

しかし売却価格を高く設定しすぎている可能性もあります。

例えば、

500万円なら買い手がいない。

300万円ならいる。

100万円ならいる。

ということもあり得ます。

このとき、

500万円で売れるまで10年間待つ

ことと、

300万円で早期に売却する

ことでは、維持費を含めると結果が変わります。

仮に年間維持費20万円なら、

10年間で200万円です。

500万円で10年後に売るより、

300万円ですぐ売る方が、

少なくとも単純な維持費だけを見れば同程度になる場合があります。

つまり、

売却価格だけではなく「売れるまでの時間」も価格の一部

として考える必要があります。

空き家バンクという選択肢もある

空き家を市場へ出す方法として、市町村などが関与する空き家バンクもあります。

国も全国版空き家・空き地バンクなどを通じ、空き家の流通や活用を促進しています。

ただし、

空き家バンクへ登録する =必ず買い手が見つかる

ではありません。

住宅の状態 立地 価格 交通 修繕必要性

によって需要は変わります。

重要なのは、

「いつか考える」

のではなく、

相続後比較的早い段階で市場へ出した場合に需要があるか確認すること

です。

空き家は時間が経てば売りやすくなるとは限らない

住宅が古くなれば、

雨漏り 腐食 設備故障 庭木繁茂

などによって状態が悪化する可能性があります。

千葉県の世帯所有空き家の約8割が1990年以前の建築であることを考えても、既存空き家の老朽化は重要な問題です。

例えば、

相続時ならそのまま使える家

でも、

10年間無人 ↓ 修繕が必要 ↓ 20年間無人 ↓ 建物利用が難しい

となる可能性があります。

つまり、

何もしない

ことも一つの選択ですが、

時間の経過によって選択肢が減る可能性

があります。

家財を残したままにする問題

実家を相続すると、

家具 衣類 食器 本 仏壇 写真 農機具 家電

などが残っている場合があります。

これらの整理にも時間と費用がかかります。

御宿町では2026年度も定住促進策の中で空き家家財等処分への補助を予算化しています。

これは逆に言えば、

家そのものだけでなく、

家の中に残った物の処分も空き家活用の障害になり得る

ということです。

相続直後は親の物を捨てにくくても、20年後には自分自身も高齢になっています。

大量の家財整理は、できる時期に進めた方が負担は小さい場合があります。

解体すればすべて解決するのか

建物を取り壊せば、

雨漏り 建物倒壊 建物修繕

などの問題はなくなります。

しかし、

土地は残ります。

草刈りも必要です。

土地の固定資産税も残ります。

さらに、住宅がなくなることで住宅用地特例が適用されなくなり、土地の固定資産税等の負担が変わる可能性があります。

したがって、

家を壊す =その後の費用がゼロ

でもありません。

解体する場合には、

解体費 その後の土地管理費 税負担 土地売却可能性

を一緒に確認する必要があります。

管理しないまま残すという選択肢はリスクが大きくなった

現在の空家法では、特定空家になる前段階の「管理不全空家」についても自治体が指導・勧告できます。

勧告を受ければ住宅用地特例が外れる可能性があります。

つまり、

使わない 売らない 壊さない 管理もしない

という状態を長期間続けることは、制度上もリスクが高くなっています。

相続した時点で四つに分類すると分かりやすい

実家を相続したら、まず将来用途を次の四つに分けると判断しやすくなります。

1.自分または家族が住む

明確な利用予定があるなら維持する意味があります。

ただし、予定時期とそれまでの管理費を考えます。

2.定期的に利用する

別荘、帰省拠点、仕事場などとして実際に利用する場合です。

利用価値と維持費を比較します。

3.貸す・活用する

賃貸、事業利用などです。

改修費と需要を確認する必要があります。

4.誰も利用する予定がない

最も慎重に考えるべきケースです。

明確な利用目的がなければ、

売却 譲渡 解体後売却

なども早期に比較した方がよいでしょう。

「子どもがいつか使うかもしれない」は確認した方がよい

親世代が、

この家は子どもへ残してあげたい

と考えていても、

子ども側が必要としているとは限りません。

仕事がある。

自宅を所有している。

配偶者の生活圏がある。

子どもの学校がある。

こうした事情があります。

したがって、

先祖代々の家だから残す

だけではなく、

次の世代が本当にその資産を必要としているのか

を確認することが重要です。

必要としていない住宅を、

税金 草刈り 修繕

と一緒に引き継がせることは、

資産承継

ではなく、

管理義務の承継

になる場合があります。

「家を残すこと」と「家族の思い出を残すこと」は別

実家には家族の歴史があります。

そのため売却や解体を、

親を忘れること

のように感じる場合があります。

しかし、

思い出を残すこと ≠ 建物を永久に所有すること

です。

写真。

家具の一部。

仏壇。

記録。

土地の歴史。

残す方法はいくつもあります。

これは墓地管理にも似ています。

先祖を大切にすることと、

子孫が永久に物理的管理を続けること

は分けて考えることができます。

30年後、自分自身も30歳年を取る

実家を相続する時点で50歳なら、

30年後は80歳です。

60歳なら90歳です。

現在なら、

草刈りできる。

車で行ける。

屋根を確認できる。

家財を運べる。

としても、30年間同じことができるとは限りません。

つまり、

家の老朽化だけでなく、管理者自身の高齢化

も考える必要があります。

これは非常に重要です。

今管理できるから、

30年間管理できる

ではありません。

管理を子どもへ引き継げばよいのか

自分ができなくなれば子どもへ任せればよい、という考え方もあります。

しかし、

子どもが遠方に住んでいる 本人が利用する意思がない さらに孫世代は地域との関係が薄い

という可能性があります。

すると、

祖父母 ↓ 親 ↓ 子

と、誰も住まない住宅の管理だけが承継されます。

この構造をどこかで止めなければ、

所有者数が増えたり、

意思決定が難しくなったり、

処分がさらに困難になる可能性があります。

最も避けたいのは「誰も判断しないまま30年」

実家問題でリスクが高いのは、

残すと決めること

でも、

売ると決めること

でもありません。

何も決めないまま時間だけが経過すること

です。

その間にも、

建物は古くなる。

庭は伸びる。

所有者も高齢になる。

相続人も増える。

地域人口も減る可能性があります。

30年後の方が処分しやすくなる保証はありません。

30年間持ち続けやすい家

保有する合理性が比較的高いのは、

将来利用予定が具体的 定期的に使用している 土地需要が一定程度ある 建物状態がよい 敷地管理が容易 近隣に管理を依頼できる 年間維持費を十分負担できる

住宅でしょう。

「いつか使うかもしれない」ではなく、利用目的が明確であることが重要です。

30年間持ち続けにくい家

反対に、

誰も住む予定がない 遠方にある 庭や敷地が広い 建物が古い 定期的な台風被害が心配 売却需要が小さい 子どもも不要と言っている 管理者自身が高齢

という条件が重なるほど、長期保有の合理性は低くなります。

特に、

利用価値ゼロ+維持費あり+管理労働あり

という状態を何十年も続けることには慎重な検討が必要です。

判断するときのチェックリスト

実家を相続した場合、次の項目を確認するとよいでしょう。

・年間固定資産税はいくらか ・現在の建物築年数は何年か ・30年後には築何年になるか ・火災保険等を継続できるか ・年間何回草刈りが必要か ・庭木管理が必要か ・自分で管理できるのはあと何年か ・管理を外注すると年間いくらか ・自宅から実家までの往復費用はいくらか ・年間何回現地確認が必要か ・雨漏りや外壁修繕が必要か ・家財はどれだけ残っているか ・現在売却した場合の査定価格はいくらか ・古家付きで売れるか ・土地だけなら売れるか ・賃貸需要はあるか ・子どもは本当に相続したいか ・解体費用はいくらか ・解体後の土地管理費はいくらか ・10年後に売る合理的理由があるか ・30年間保有して何に利用するのか

最後の質問が最も重要です。

「30年間で何に使うのか」を言葉にできるか

例えば、

毎月利用する。

10年後に移住する。

子どもが住む。

賃貸する。

という具体的用途があれば、維持費は利用価値を得るための支出です。

しかし、

特に使わないが何となく残しておく

場合には、

30年間の費用を何のために支払っているのか

を考える必要があります。

現実的な結論

地方の実家を相続しても誰も住まない場合、その家を持ち続けること自体は可能です。

しかし、

固定資産税だけ払えばよい

という問題ではありません。

草は伸びます。

家は老朽化します。

台風も来ます。

現地確認も必要です。

最後には、

売る 譲る 壊す

という判断も必要になります。

仮想モデルではありますが、本記事の例では30年間の総負担が約300万円から900万円程度になるケースを示しました。

これは外房住宅の平均費用ではありません。

重要なのは金額そのものではなく、

年間数万円から数十万円程度に見える管理費でも、30年間では大きな金額になる

という構造です。

そして金銭以上に見落とされやすいのが、

管理する人の時間

です。

相続した人自身も30年間で30歳年を取ります。

現在できる草刈りや遠距離運転を、30年後にもできるとは限りません。

人口減少地域では、

人が減っても住宅はすぐには減りません。

これは、このブログで繰り返し扱っている、

人口が減る速度と管理対象が減る速度は一致しない

という問題そのものです。

墓。

自治会。

ごみ集積所。

道路。

そして実家。

いずれも、

人が減っても管理対象だけが残る

可能性があります。

だからこそ、地方の実家についても、

「どうやって次の世代へ残すか」

だけではなく、

「次の世代へ管理する必要のない状態で渡せないか」

を考える必要があります。

家を残すことが目的ではありません。

家族が必要な資産を残すことが目的です。

誰も利用しない住宅については、

30年間持ち続ける費用と、

今整理する費用を比較する。

これが、人口減少時代の実家相続では重要になるのではないでしょうか。

地域の課題を、自分の判断に置き換えて考える

有限会社アードレでは、住まい・車・移住などの大きな選択を、 費用や将来条件をもとに数字で比較し、判断できる形に整理しています。

数字で比較するサービスを見る

家庭から出るごみは、決められた日に集積所へ持って行けば、収集車が運んでくれます。

普段はそれほど意識しません。

しかし、ごみ集積所そのものは誰が管理しているのでしょうか。

ネットを掛ける。

散乱したごみを片付ける。

カラスや猫への対策をする。

収集されなかったごみを確認する。

集積所を掃除する。

設備が壊れれば修理する。

新しく転入した人に利用方法を伝える。

こうした作業の一部を、自治体ではなく自治会・町内会や利用住民が担っている地域があります。

人口減少と高齢化が進む外房では、この仕組みを今後30年間そのまま続けられるのでしょうか。

問題は単純に、

「ごみ収集を続けられるか」

だけではありません。

家から集積所へ持って行く人、集積所を管理する人、そこからごみを回収する人という三つの役割を、将来も維持できるか

という問題です。

最初に結論~ごみ収集は残っても、現在の集積所管理方式は見直しが必要になる

結論からいえば、人口減少地域で30年後も家庭ごみの収集そのものが必要であることは変わりません。

人が住んでいる以上、ごみは発生します。

しかし、

現在と同じ数のごみ集積所を、現在と同じように自治会や地域住民の無償作業で管理し続けることが難しくなる地域は増える

と考えた方が現実的でしょう。

その理由は、

人口が減る 高齢者が増える 自治会員が減る 実際に管理作業ができる人はさらに減る

一方で、

集積所の数や管理作業量が同じ速度では減らない可能性があるからです。

今後必要になるのは、

集積所を統合する

だけではありません。

地域によって、

集積所方式 戸別収集 高齢者向けごみ出し支援 自治体による管理 民間委託

などを組み合わせ、

「住民がごみを出せること」と「収集を効率的に行うこと」を両立する仕組み

へ変えていく必要があります。

「ごみ収集」と「集積所管理」は別の仕事

この区別は重要です。

一般に市町村は家庭ごみの収集・処理を行います。

しかし、収集車が来る場所であるごみ集積所の日常管理まで、必ず自治体が担当しているわけではありません。

勝浦市は2026年3月更新の公式案内で、

ごみは決められた集積所へ収集日の朝8時30分までに出すこと、

そして、

集積所は共同で使用し、その管理は地域住民が行っている

と案内しています。

市に寄せられた過去の問い合わせへの回答でも、自治会代表者や利用者が、ごみの分別、集積所の管理・清掃を行う仕組みが説明されています。

いすみ市の2026年版「くらしのガイドブック」でも、

集積所は自治会や地域住民が管理し、その利用範囲も管理団体が決める

とされています。

つまり、

自治体 =収集・処理

地域住民 =集積所の日常管理

という役割分担が存在しています。

勝浦市には約880か所のごみ集積所がある

勝浦市の一般廃棄物処理基本計画では、市内に約880か所のごみ集積所があり、収集・運搬は民間事業者へ委託しているとされています。

この数字を人口との関係で考えてみます。

勝浦市の人口は2020年国勢調査で16,927人でした。

国立社会保障・人口問題研究所の2023年推計では、2050年には8,815人になると推計されています。

およそ半分です。

では人口が約半分になれば、

880か所の集積所も440か所程度になるのでしょうか。

必ずしもそうではありません。

住宅が同じ場所に残り、人が広く分散して暮らしていれば、人口が減ったからといって簡単に集積所を半減することはできません。

ここに人口減少地域特有の問題があります。

人口が半分になっても、ごみ集積所が半分になるとは限らない

例えば100世帯が暮らす地区に10か所の集積所があるとします。

人口減少によって30年後に50世帯になったとしても、住宅が地区全体に分散したままであれば、

10か所 ↓ 5か所

へ単純に減らせるとは限りません。

集積所を減らせば、残された住民の移動距離が長くなるためです。

特に、

高齢者 歩行が難しい人 自動車を使えない人

にとって、ごみ集積所までの距離は重要です。

したがって、

集積所を減らす =管理効率が上がる

一方で、

集積所を減らす =住民のごみ出し負担が増える

という関係があります。

本当に減るのは「利用者」より「管理できる人」かもしれない

地域の管理負担を考える場合、人口だけを見るのでは不十分です。

例えば50人の住民がいる地域でも、

高齢のため作業できない 仕事で不在 身体的な事情がある

人を除けば、実際に集積所管理を担当できる人は20人かもしれません。

本記事では、この問題を次のように整理します。

ごみ集積所管理負担 =集積所の管理作業量 ÷ 実際に管理できる人数

これは公式指標ではなく、分析上の概念式です。

仮に管理作業量が100で、管理可能人数が50人なら、

100 ÷ 50 =2

です。

人口減少後も作業量が80残り、管理できる人が20人になれば、

80 ÷ 20 =4

となります。

地域全体の作業量は減っていても、一人当たり負担は2倍になります。

外房ではすでに高齢化が非常に進んでいる

これは遠い未来だけの話ではありません。

千葉県の2025年度年齢別人口統計では、65歳以上の老年人口割合は、

御宿町 52.8% 勝浦市 47.3%

となっています。

御宿町は県内で最も高い水準です。

高齢者が多いこと自体が問題なのではありません。

重要なのは、

集積所までごみを運べる人、清掃できる人、ネットを交換できる人などの実働可能人数

がどう変化するかです。

70歳代でも問題なく作業できる人はいます。

しかし80歳代、90歳代まで同じ役割を担うことを地域制度の前提にはできません。

ごみを出すこと自体が難しくなる高齢者も増える

さらに大きな問題があります。

集積所を誰が管理するか以前に、

自宅から集積所までごみを持って行けない人

が増える可能性があります。

例えば、

重いごみ袋を持てない 歩行器を使っている 集積所まで坂道がある 数百メートル離れている 雨の日には歩けない

という状態です。

ごみ収集車が毎週来ていても、自宅から集積所へ運べなければ、ごみ収集サービスを実質的に利用できません。

つまり、

ごみ収集制度がある ≠ すべての住民がごみを出せる

ということです。

いすみ市には「ごみステーションまで運ぶ」支援がある

いすみ市では、75歳以上の一人暮らしなど一定の条件を満たす人を対象に「孫の手生活援助事業」が実施されています。

その対象作業には、

家庭ごみを集め、

指定された収集日にごみステーションまで搬出する

ことが含まれています。

同じ制度では、

草刈り 庭木管理 軽易な住宅修繕 買い物代行

も対象です。

これは、高齢者が地域で暮らし続けるためには、

介護だけでなく、

ごみ 買い物 住宅管理

のような日常生活機能を支える必要があることを示しています。

「ごみ出し支援」は介護とは少し違う

ごみを集積所まで運べないからといって、必ずしも常時介護が必要とは限りません。

料理はできる。

洗濯もできる。

トイレも一人でできる。

しかし、

重いごみ袋を200メートル運ぶことだけができない。

こうした人もいます。

つまり、ごみ出し困難は、

全面的な生活能力の喪失

ではなく、

生活の一部分だけが成立しなくなる問題

として現れる場合があります。

このような小さな問題を補助できれば、一人暮らしを長く続けられる可能性があります。

全国では戸別収集を行う自治体もある

高齢者などのごみ出し困難者に対して、自宅前などからごみを回収する自治体もあります。

千葉県が公表している2025年度調査では、松戸市が一定の要件を満たすごみ出し困難世帯を対象に戸別訪問による収集を行っています。

野田市でも、高齢者や障害者などを対象に安否確認を行いながら戸別収集する制度があります。

つまり、

家 ↓ 集積所 ↓ 収集車

という現在一般的な形だけが、ごみ収集の唯一の方法ではありません。

家 ↓ 収集車

という方式もあります。

戸別収集ならすべて解決するのか

では、人口減少地域ではすべて戸別収集にすればよいのでしょうか。

それも単純ではありません。

集積所方式なら、収集車は一か所で複数世帯分を回収できます。

戸別収集では住宅一軒一軒を回る必要があります。

特に外房のように住宅が広い範囲へ分散している地域では、

走行距離 収集時間 燃料 車両 作業員

が増える可能性があります。

環境省の過去の検討でも、戸別収集には高齢者支援としての利点がある一方、収集コスト増加の可能性が指摘されています。

したがって、

戸別収集 =必ず効率的

ではありません。

ステーション方式は効率がよいが、住民労働に依存している面がある

集積所方式の強みは、収集効率です。

例えば20世帯分のごみを一か所にまとめれば、収集車は一度停車するだけで済みます。

しかしその効率は、

住民が家から集積所まで運ぶ 住民が集積所を管理する

ことによって成立しています。

言い換えれば、

行政や収集事業者の効率化の一部を、住民側の移動と管理作業が支えている

とも考えられます。

これは必ずしも悪い仕組みではありません。

住民に十分な体力と人数があり、集積所が近ければ合理的です。

問題になるのは、その前提が崩れたときです。

「行政支出が安い」と「社会全体で安い」は同じではない

例えば戸別収集へ変更すると、自治体の収集費は増えるかもしれません。

一方でステーション方式を維持すると、

家族が高齢者宅へごみを取りに行く 近所の人が代わりに運ぶ 自治会員が清掃する

といった負担が発生します。

行政会計には表れなくても、

家族の時間 住民の労働 自動車移動

には社会的な費用があります。

したがって、

行政のごみ収集費 だけではなく、

行政費用 +住民負担 +自治会作業 +家族負担

で考える必要があります。

自治会に入らない人のごみはどうするのか

集積所を自治会が管理している地域では、難しい問題も生じます。

自治会に加入していない住民も家庭ごみを出します。

一方で、

清掃 ネット交換 設備管理

を自治会員だけが負担していれば、不公平感が生じることがあります。

しかし、

ごみを出すなら自治会に入らなければならない

という単純な整理も適切ではありません。

家庭ごみの収集は住民生活に不可欠な公共サービスだからです。

今後は、

自治会の任意活動

と、

全住民が必要とする生活インフラの管理

を分けて考える必要があります。

30年後には自治会員そのものがさらに減る可能性がある

現在は、

集積所当番 ネット管理 清掃

を順番に担当できている地域でも、

世帯数が減ると同じ人へ当番が頻繁に回ってきます。

例えば30世帯で月ごとに当番を交代するなら、約2年半に1回です。

15世帯になれば約1年3か月に1回です。

10世帯なら10か月に1回です。

これは単純化した例ですが、

世帯数が減る ↓ 一人当たり当番頻度が増える

という構造を示しています。

しかも、そのうち実際に当番を担当できない高齢世帯が増えれば、残された世帯の負担はさらに増えます。

ごみ集積所を統合するという方法

管理人数が減れば、集積所を統合する方法があります。

これは合理的な選択肢の一つです。

例えば10か所を5か所に減らせば、

ネット 清掃 修繕

などの管理対象を減らせます。

しかし問題は距離です。

現在100メートル先にある集積所が、統合によって500メートル先になれば、高齢者には大きな負担になる可能性があります。

つまり、

管理拠点を減らすこと

と、

住民が利用しやすいこと

の間にはトレードオフがあります。

集積所は「数」だけではなく配置で考える必要がある

今後重要になるのは、

何か所あるか

ではなく、

誰がどの集積所を利用し、そこまで何メートル移動する必要があるか

です。

例えばGIS(Geographic Information System・地理情報システム)を利用し、

住宅位置 高齢者人口 道路勾配 集積所 収集ルート

を重ねれば、将来的に統合しやすい集積所と、残す必要がある集積所を分析できます。

人口が減ったから一律に集積所を減らすのではなく、

利用可能性

を基準に配置する考え方です。

管理対象を減らす工夫も必要

集積所の管理負担を減らすには、人を増やす以外の方法もあります。

例えば、

耐久性の高いボックス型集積所 カラス対策設備 清掃しやすい床面 ネット交換回数を減らせる設備

などです。

初期費用は発生します。

しかし、毎週誰かが細かな管理を行う必要が減れば、長期的な労働負担を下げられる可能性があります。

人口減少地域では、

安い設備を住民が頻繁に管理する

より、

多少費用をかけても管理作業が少ない設備へ変える

という考え方も必要でしょう。

ごみ出しと見守りを組み合わせる方法

高齢者向け戸別収集には、もう一つ重要な機能があります。

安否確認です。

定期的にごみを回収する際、

いつも出ているごみがない 呼びかけても応答がない

などの異変に気づく可能性があります。

千葉県の調査でも、安否確認を兼ねた高齢者向け戸別収集の事例が確認されています。

千葉県の廃棄物処理計画も、高齢化社会への対応として、こうした安否確認を兼ねた戸別収集等の取組について市町村への情報提供や助言を進める方針を示しています。

つまり、

ごみ収集 +見守り

という二つの機能を組み合わせられる可能性があります。

全世帯戸別収集ではなく「必要な人だけ」も考えられる

人口密度の低い地域で全世帯を戸別収集にすると、費用が大きくなる可能性があります。

そこで、

通常住民 → 集積所

ごみ出し困難者 → 戸別支援

という二層構造も考えられます。

すでにいすみ市の生活援助制度は、この考え方に近いものです。

自力でごみを出せる人まで支援するのではなく、

自力では難しい部分だけ補う

という方法です。

これは高齢者の一人暮らしを支えるうえでも合理的です。

地域によって答えは変わる

住宅が密集している地区と、山間部に住宅が点在する地区では最適な方式が違います。

住宅密集地域なら戸別収集でも比較的短い距離で回れる可能性があります。

一方、住宅が数百メートルずつ離れている地域では、戸別収集コストが高くなるでしょう。

したがって、

外房全域を一つの方式へ統一する

必要はありません。

地域ごとに、

集積所維持型 集積所統合型 高齢者個別支援型 戸別収集型

を選ぶ方が合理的です。

30年後を考えると「収集できる人」も問題になる

もう一つ忘れてはいけないのが、収集側の労働力です。

人口が減る地域では、

ごみ収集車運転手 収集作業員 清掃業者

も確保しにくくなる可能性があります。

住民側だけではありません。

そのため、

収集ルートを効率化する 集積所を適切に再配置する 作業員の負担を減らす

ことも必要です。

住民負担を減らすため戸別収集を増やした結果、収集作業員を大量に必要とする仕組みにしてしまえば、別の持続可能性問題が生じます。

ごみ集積所の将来を判断するためのチェックリスト

自分の地域のごみ集積所が30年後も維持できるか考える場合、次の項目を見るとよいでしょう。

・集積所はいくつあるか ・それぞれ何世帯が利用しているか ・管理主体は誰か ・自治会員以外も利用しているか ・清掃は誰がしているか ・当番制か ・年間何時間程度の作業があるか ・設備修理費は誰が負担するか ・カラス対策は誰がするか ・高齢者が増えているか ・ごみを持って行けない世帯はあるか ・最も遠い住宅から何メートルあるか ・集積所を統合できるか ・統合した場合、高齢者の移動距離はどうなるか ・ごみ出し支援制度はあるか ・戸別収集へ変更した場合の費用はいくらか ・10年後に管理できる人は何人残るか

重要なのは、

現在困っているか

だけではありません。

10年後、20年後に誰が同じ作業をするのか

を考えることです。

成立しやすい集積所管理

今後も比較的維持しやすいのは、

利用世帯が一定数まとまっている 集積所までの距離が短い 管理設備が簡素 住民当番が少ない 清掃負担が小さい 高齢者向け支援制度がある

地域です。

こうした地区ではステーション方式の効率性を活かせます。

成立しにくい集積所管理

反対に、

少数世帯が広範囲に分散 利用者の多くが高齢者 集積所が遠い 坂道が多い 管理設備が老朽化 自治会員が少ない 当番を担当できる世帯が限定される

地域では、現在の仕組みを維持することが難しくなります。

その場合には、

集積所統合だけではなく、

個別支援や戸別収集も検討する必要があります。

30年後のごみ政策は「収集方式」だけの問題ではない

ごみ行政というと、

焼却施設 リサイクル ごみ袋料金

などが注目されます。

しかし高齢化した地域では、

家庭の玄関から収集車まで、ごみをどう移動させるか

という極めて身近な問題が重要になります。

これは、

廃棄物政策 高齢者福祉 地域交通 自治会政策

が交差する問題です。

環境部門だけでは解決できない可能性があります。

自治会を維持するためにごみ集積所を守るのではない

最終目的は自治会という組織を維持することではありません。

住民が衛生的に生活できることです。

現在は、その一部をごみ集積所と自治会が担っています。

しかし自治会が管理できなくなるなら、

別の方法へ変えても構いません。

自治体管理。

民間委託。

戸別支援。

集積所統合。

設備改善。

これらを組み合わせればよいのです。

重要なのは、

昔と同じ管理方式

ではなく、

少ない人数でも、ごみを確実に排出・収集できる機能

を残すことです。

現実的な結論

地方のごみ集積所は誰が管理するのでしょうか。

外房の一部自治体では現在、自治会や地域住民・利用者が日常的な管理を担っています。

これは、多数の住民が地域活動に参加できる時代には合理的な仕組みでした。

しかし人口減少と高齢化が進むと、

利用世帯が減る 管理できる人はさらに減る 一方で集積所は残る

という状況が起こります。

そこで、

高齢者になったら若い人が代わりにやればよい

という考え方では不十分です。

若い人そのものが減っているからです。

また、

全部戸別収集すればよい

とも限りません。

収集費と労働力が必要になるからです。

現実的なのは、

利用者が多い地域では現在の集積所を維持する。

人口が減った地域では集積所を統合する。

自力でごみを出せない人には個別支援を行う。

管理負担の大きい設備は改良する。

必要な地域では戸別収集を導入する。

という組み合わせでしょう。

人口が減っても、

ごみそのものはゼロになりません。

さらに、

人口が半分になる =集積所も管理作業も半分になる

とは限りません。

これからの地方で重要なのは、

「今あるごみ集積所をどう守るか」

だけではなく、

30年後の住民数と身体能力でも、ごみを衛生的かつ現実的な負担で出せる仕組みに変えられるか

ではないでしょうか。

地域維持の問題を考えるとき、

人口が何人残るか

だけでは十分ではありません。

管理対象量 ÷ 実際に管理できる人数

という視点で、ごみ集積所も考える必要があります。

そして将来の地域社会では、

住民に同じ仕事を引き継がせることより、

住民が引き継がなければならない仕事そのものを減らすこと

が、ますます重要になるでしょう。

地域の課題を、自分の判断に置き換えて考える

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