地域分析記事

地域の暮らしと地域課題を数学とデータで考える

 地方で高齢期を暮らすことを考えるとき、近くに病院や介護施設があるか、介護保険によるサービスを利用できるかという問題は、生活の安心を左右する重要な条件になります。しかし、施設の所在地や事業所の数だけを調べても、将来の介護環境を十分に評価することはできません。介護サービスを継続的に提供するためには、建物や設備だけでなく、そこで働く介護職員を確保し、必要な時間と人数を配置できることが前提になるからです。

 介護事業所が存在し、介護保険制度が維持されていたとしても、職員不足によって新規利用者を受け入れられなかったり、希望する曜日や時間帯にサービスを提供できなかったりする可能性があります。特に人口減少が進む地方では、高齢者の介護需要と、介護を担う労働力の変化が必ずしも一致しないため、将来のサービス提供体制を人口や施設数だけから判断することには限界があります。

 千葉県が2026年3月に公表した資料によると、県内の介護職員数は2023年度の90,024人から2024年度には88,338人となり、公表統計上は1,686人減少しました。一方、厚生労働省の「第9期介護保険事業計画に基づく介護職員の必要数」を基にした推計では、2040年度に千葉県全体で28,266人の需給差が生じると見込まれています。

 ただし、この数字は千葉県全体について一定の条件を置いて推計されたものであり、勝浦市、いすみ市、御宿町、大多喜町などの外房地域で同じ割合の介護職員が不足するという意味ではありません。また、介護職員の不足人数と、実際に利用できなくなる介護サービスの量も同一ではありません。

 この記事では、千葉県の介護人材需給推計、介護サービス事業所の整備状況、特別養護老人ホームの入所待機者数、国立社会保障・人口問題研究所の地域別将来推計人口などを用いながら、外房で将来も介護サービスを利用できるかどうかを、制度、人口動態、労働力、地域の地理的条件という複数の観点から検討します。

千葉県では2040年度に約2万8千人の介護職員不足が見込まれる

 最初に確認しておきたいのは、介護職員不足が単なる印象や将来への不安ではなく、行政の需給推計でも重要な課題として示されていることです。千葉県の公表資料によると、2026年度の介護職員需要は106,260人、供給見込人数は95,414人で、その差は10,846人と推計されています。2030年度には需要115,450人、供給99,259人で16,191人の不足となり、2040年度には需要127,991人、供給99,725人で28,266人の不足が見込まれています。

 2040年度の不足人数28,266人を必要人数127,991人で割ると、約22.1%になります。これは、推計された介護職員の必要人数に対して、供給見込人数が約22%不足するという意味です。逆に考えると、供給見込人数は必要人数の約77.9%に相当します。

 ただし、介護職員が必要人数より22.1%少ないという推計から、介護サービスの22.1%が提供できなくなる、あるいは利用者の22.1%が介護を受けられなくなると結論することはできません。 実際に提供できるサービスの量は、職員の勤務時間、常勤・非常勤の構成、利用者の要介護度、業務効率、職種別の配置基準などによって変わるためです。介護職員の人数に関する需給差は、サービス提供能力への圧力を示す重要な指標ですが、そのままサービス利用不能率を表すものではありません。

 もう一つ重要なのは、これらの数字が将来の確定値ではないことです。需要は介護保険事業計画におけるサービス量の見込みなどを基に推計され、供給についても入職、離職、再就業などの条件が考慮されています。介護報酬、賃金、労働参加率、外国人介護人材の受入れ、生産性向上などの条件が変化すれば、実際の需給差も変わり得ます。したがって、2040年度の不足28,266人は、現時点で示されている将来シナリオの一つとして理解する必要があります。

介護職員数は減り続けているわけではない

 介護人材不足という言葉から、千葉県の介護職員数が長年にわたり減少し続けているように受け取る人もいるかもしれません。しかし、実際の公表統計を見ると、そのような単純な推移にはなっていません。千葉県の介護職員数は、2018年度の85,135人から長期的には増加し、2020年度には87,657人、2021年度には89,466人、2022年度には88,960人、2023年度には90,024人となりました。その後、2024年度には88,338人となり、前年度から1,686人、約1.9%減少しています。

 この推移から分かるのは、介護職員数が毎年一定の方向に変化しているわけではないということです。2024年度の減少は注目すべき動きですが、1年間の減少だけを根拠に、その後も継続的な減少が起きると判断することはできません。実際、県の2040年度の供給見込人数99,725人は、2024年度の実績88,338人を上回っています。現在の推計が示している中心的な問題は、介護職員が将来必ず減り続けることではなく、介護職員を増やしても、必要人数の増加に追いつかない可能性があることです。

 なお、介護職員数の統計的な性質にも注意が必要です。厚生労働省の「介護サービス施設・事業所調査」では、従事者数などを把握する詳細票について、2018年調査以降は標本調査による推計値が用いられています。また、調査方法や回収状況の違いもあるため、年次比較では統計上の変動を考慮する必要があります。したがって、公表値の減少をそのまま全事業所における職員の実数減少と同一視したり、減少の原因を一つに特定したりすることは適切ではありません。

 将来の介護人材を評価するには、単年度の職員数だけではなく、複数年度の推移、入職者と離職者、介護分野への再就業、労働時間、常勤換算の職員数などを組み合わせて考える必要があります。

2040年度の必要人数と現在の職員数は区別しなければならない

 千葉県の2022年度の介護職員数88,960人と、2040年度の必要人数127,991人を比較すると、その差は39,031人になります。しかし、この39,031人を2040年度の介護職員不足人数として扱うのは正確ではありません。将来の供給見込人数を考慮していないためです。

 千葉県の推計では、供給見込人数は2026年度の95,414人から2030年度には99,259人へ増加し、2040年度には99,725人になるとされています。このため、2040年度の正式な推計需給差は、必要人数127,991人から供給見込人数99,725人を差し引いた28,266人です。

 特に注目したいのは、2030年度から2040年度までの変化です。この10年間で介護職員の必要人数は115,450人から127,991人へ12,541人増加する一方、供給見込人数は99,259人から99,725人へ466人しか増加しない計算になっています。その結果、推計需給差は16,191人から28,266人へ拡大します。

 つまり、2040年度の問題を理解するうえで重要なのは、職員数の絶対的な増減だけではなく、介護需要の増加速度と、介護職員の供給増加速度との間に生じる差です。実際の職員数が増加したとしても、それ以上に介護需要が増えれば、人材不足は深刻化し得ます。

高齢者人口が減少しても介護需要が同じように減るとは限らない

 介護需要を予測するとき、65歳以上の人口だけで判断することには限界があります。高齢者の中でも、65歳から74歳、75歳から84歳、85歳以上では、健康状態や要介護認定率、必要とされる介護サービスの内容が異なるためです。また、同じ年齢でも身体機能や認知機能、家族の支援状況によってサービスの必要性は変わります。

 千葉県の公表資料では、要介護・要支援認定者数について、2020年度の約29万5千人から2040年度には約41万1千人へ増加する見込みが示されています。ただし、これは県全体の推計であり、外房の各自治体でも同じ増加率になるという意味ではありません。

 介護需要を考える際には、総人口や65歳以上人口に加えて、75歳以上人口、85歳以上人口、要介護・要支援認定者数、要介護度別の人数、認知症のある高齢者数、実際のサービス利用率などを見ることが重要です。さらに、独居高齢者や高齢夫婦のみの世帯では、同じ要介護度であっても家族による介護や送迎を期待できる程度が異なるため、在宅サービスの必要性にも差が生じます。

 したがって、人口減少地域であっても、介護需要が人口と同じ割合で減少するとは限りません。特に高齢者人口の内部構成が変化する地域では、単純な人口減少率よりも、年齢構成や介護を必要とする人の割合を確認する必要があります。

外房を含む山武長生夷隅圏域では75歳以上人口が増加する

 外房の介護問題を考えるうえで参考になるのが、千葉県の「山武長生夷隅圏域」の人口推計です。この圏域には、勝浦市、いすみ市、御宿町、大多喜町のほか、茂原市、東金市なども含まれています。そのため、圏域全体の人口動態を外房4市町だけの変化と同一視することはできませんが、広域的な介護需要の方向性を考える資料になります。

 千葉県の公表資料によると、山武長生夷隅圏域の65歳以上人口は、2020年の147,498人から2030年には149,557人となり、2040年には146,708人になると推計されています。2020年と2040年を比較すると790人、約0.5%の減少であり、65歳以上人口全体はほぼ横ばいです。

 これに対して75歳以上人口は、2020年の73,668人から2030年には93,737人となり、2040年には89,596人になると見込まれています。2030年から2040年にかけては減少するものの、2040年の75歳以上人口は2020年より15,928人多く、増加率は約21.6%になります。

 この違いは、外房の介護需要を分析するうえで重要です。65歳以上人口だけを見ると、2040年まで高齢者の人数がほとんど変わらないように見えますが、その内部では75歳以上の割合が高まると推計されています。一般に、年齢が高くなるほど要介護認定を受ける割合が上昇する傾向があるため、65歳以上人口が横ばいでも介護需要が同じ水準で推移するとは限りません。

 ただし、75歳以上人口が約21.6%増えるからといって、必要な介護職員数も21.6%増えると計算することはできません。実際の必要人数は、要介護認定率、要介護度、健康状態、サービス利用率、家族による支援、事業所の生産性などによって変わります。したがって、この人口推計から直接読み取れるのは高齢者人口の年齢構成の変化であり、将来の介護職員不足人数そのものではありません。

 さらに、国立社会保障・人口問題研究所の「日本の地域別将来推計人口(令和5年推計)」では、市区町村別の人口を2050年まで5年ごとに確認できます。勝浦市、いすみ市、御宿町、大多喜町についても、それぞれの人口規模、年齢構成、後期高齢者人口の推移を別々に分析する必要があります。広域圏域の平均的な変化と、個々の自治体の実態は必ずしも一致しないからです。

外房の介護職員不足人数を県全体の数字から計算することはできない

 千葉県の介護職員不足推計は県全体の数字であり、山武長生夷隅圏域や外房4市町について、2040年度に必要な介護職員数、供給見込人数、不足人数をそれぞれ示したものではありません。したがって、県全体の不足28,266人を市町村別人口の割合で配分し、外房で不足する人数を算出する方法には問題があります。

 その理由は、介護職員の配置が人口比率だけで決まるわけではないためです。市町村によって高齢者の年齢構成、要介護認定率、施設介護と在宅介護の利用割合、事業所の分布、職員の勤務形態などが異なります。また、介護職員が居住している自治体と勤務している自治体が同じとは限らず、施設や事業所が複数の自治体から利用者を受け入れる場合もあります。

 例えば、人口規模が小さい自治体でも、周辺自治体の住民が利用する介護施設が多く設置されていれば、その自治体に必要な介護職員数は人口比率から推測される人数より多くなる可能性があります。反対に、住民が隣接自治体の施設を利用している地域では、自治体内の事業所数だけを見ても供給状況を評価できません。

 そのため、外房の介護人材不足を数値として把握するには、介護サービスの種類別に、利用者数、事業所数、定員、職員配置、勤務時間、受入状況、通勤圏などを調査する必要があります。現在確認できる県全体の需給推計だけから、外房で2040年度に何人不足すると断定することはできません。

介護サービスの利用見込みは圏域単位でも確認できる

 千葉県の第9期高齢者保健福祉計画では、介護サービスの種類ごとに圏域別の利用見込みが示されています。例えば、入所定員29人以下の特別養護老人ホームで提供される地域密着型介護老人福祉施設入所者生活介護について、山武長生夷隅圏域の利用見込みは2023年度が219人/月、2024年度が223人/月、2025年度が224人/月、2026年度が225人/月となっています。

 ここで注意したいのは、これらが介護保険事業計画に掲載された利用見込みであり、各年度に実際に利用した人数の確定値ではないことです。また、地域密着型介護老人福祉施設入所者生活介護は、数ある介護サービスの一つにすぎません。この数値だけから、訪問介護、通所介護、短期入所などを含む地域全体の介護需要を判断することはできません。

 それでも、圏域単位で介護サービスの利用見込みが示されていることには意味があります。県全体の介護職員不足推計に加えて、地域ごとのサービス種類別利用実績や利用見込みを組み合わせれば、どの分野で供給制約が生じやすいかを検証するための基礎資料になるからです。

 今後、外房の将来の介護環境をより正確に把握するには、圏域単位の集計をさらに市町村単位へ分解し、必要に応じて個別事業所の状況まで確認することが求められます。

介護事業所の数が多くても利用できるとは限らない

 介護保険サービスには、訪問介護、通所介護、短期入所生活介護、特別養護老人ホームなどの施設サービスに加え、認知症対応型共同生活介護、小規模多機能型居宅介護、定期巡回・随時対応型訪問介護看護といった地域密着型サービスがあります。それぞれ対象となる利用者、サービス内容、職員配置基準、利用条件が異なるため、単純に事業所数だけを合計して地域の介護供給能力を評価することはできません。

 千葉県の2025年4月1日時点の資料によると、県内には定期巡回・随時対応型訪問介護看護が72か所、夜間対応型訪問介護が11か所、認知症対応型通所介護が91か所、小規模多機能型居宅介護が151か所、看護小規模多機能型居宅介護が49か所あります。また、地域密着型通所介護は998か所、認知症対応型共同生活介護は504か所となっています。

 これらの数字から県内に多様な介護サービスが整備されていることは確認できますが、事業所数は利用可能な人数や時間を直接表しているわけではありません。職員不足によって受入人数を制限している事業所、曜日によって提供可能なサービス量が異なる事業所、利用者の居住地によって訪問できる範囲が限定される事業所などが存在する可能性があります。

 また、県内に事業所が多数存在していても、その分布が均等であるとは限りません。都市部に事業所が集中していれば、県全体の事業所数が十分に見えても、人口密度の低い地域では利用できる事業所が限られる場合があります。逆に、ある自治体内に事業所が少なくても、近隣自治体の事業所を利用できる場合には、実際の選択肢が広がることもあります。

 介護サービスの利用可能性を判断するには、事業所の所在地だけでなく、定員、稼働状況、職員配置、新規利用の受入可否、提供区域などを確認することが重要です。

特別養護老人ホームの待機者数から何が分かるのか

 施設介護についても、建物や定員の数字だけからサービスの充足状況を判断することはできません。千葉県の公表資料によると、2024年度の特別養護老人ホームの入所定員は、広域型29,750人、地域密着型2,077人を合わせて31,827人となっています。一方、2025年度の県内入所待機者数は9,799人で、そのうち在宅で待機している人は4,832人です。なお、待機者数の調査期日は2025年7月1日であり、定員数とは調査時点が異なります。

 この9,799人という数字は、ただちに9,799床が不足しているという意味ではありません。特別養護老人ホームは原則として要介護3以上の人が新規入所の対象となり、要介護1・2の人については特例入所の条件があります。また、入所の必要性や緊急性、現在の生活状況などを踏まえて入所者が決定されるため、待機者数と必要な追加定員数が一致するわけではありません。

 さらに、待機者の中には、すでに別の介護施設や医療機関などに入っている人も含まれます。複数施設への申込みや入所希望時期の違い、施設側の受入条件などもあるため、待機者の総数だけから不足する施設の規模を計算することは適切ではありません。

 ただし、一定数の入所希望者が待機しているという事実は、施設が存在しても希望者全員が直ちに入所できるわけではないことを示しています。また、新たに施設を整備しても、必要な介護職員や看護職員などを確保できなければ、定員どおりの受入れを実現できない場合があります。

 したがって、特別養護老人ホームの供給体制を評価する際には、施設数や定員だけでなく、実際の空床、入所待機者の状態、職員配置、稼働可能な定員などを確認する必要があります。

外房では在宅介護の移動時間が重要な制約になり得る

 介護人材不足は、特別養護老人ホームなどの施設介護だけの問題ではありません。自宅で生活を続けるためには、訪問介護、通所介護、訪問看護、短期入所、小規模多機能型居宅介護など、複数のサービスを組み合わせることがあります。そのため、介護職員の不足は、施設に入所する人だけでなく、在宅生活を続けたい人にも影響する可能性があります。

 特に訪問介護では、職員が利用者の自宅へ移動する時間を考慮する必要があります。介護職員が同じ時間数働いていても、利用者宅が近接している地域と、利用者宅が広い範囲に分散している地域では、1日に訪問できる件数が異なる可能性があります。人口密度が低く、居住地が分散している地域では、移動距離や移動時間がサービス提供能力に影響する場合があります。

 例えば、ある事業所で1人の訪問介護職員が一定時間勤務するとしても、そのすべてを利用者への直接介護に充てられるわけではありません。事業所と利用者宅の移動、利用者宅同士の移動、記録、連絡調整などに必要な時間があり、これらの時間が増えるほど、同じ勤務時間内で提供できる直接介護時間は少なくなります。

 ただし、外房の訪問介護職員について、都市部より平均移動時間が何分長いのか、何件程度訪問数が少なくなるのかを示す統一的な公的統計は、今回確認した資料からは得られていません。そのため、具体的な移動時間や経営採算への影響を数値として断定することはできません。

 それでも、訪問介護が職員の労働時間と移動時間の双方を必要とするサービスであることは変わりません。今後、外房で在宅介護の供給能力を分析するのであれば、事業所数や職員数に加えて、実際の訪問区域、利用者の居住地、平均移動時間、1日当たりの訪問件数などを調査することが重要になります。

介護人材不足は離職率だけでは説明できない

 介護人材不足の原因として、賃金や労働条件、離職率の問題が取り上げられることがあります。千葉県の2026年3月公表資料では、2024年度の介護サービス分野の離職率は14.2%、産業計は11.2%と示されています。ただし、介護サービス分野の数値は介護労働安定センターの「介護労働実態調査」による介護職員・訪問介護員の2職種計であり、産業計は厚生労働省の「雇用動向調査」に基づいています。調査対象や方法が異なるため、単純な比較には注意が必要です。

 また、離職率が高いことだけをもって介護職員数が減少すると判断することもできません。ある介護事業所を退職した人が別の介護事業所へ転職する場合、その事業所では離職者として計上されても、介護分野全体から人材が失われたとは限らないからです。介護人材全体の増減を評価するには、新規就業、他産業からの転職、介護分野内での転職、再就業、退職などを区別して考える必要があります。

 さらに、地方では生産年齢人口の減少によって、介護分野に限らず労働力の確保が難しくなる可能性があります。介護職員の確保は、医療、福祉、運輸、小売、宿泊など、他の産業が必要とする労働力との関係も考慮する必要があります。

 そのため、介護人材不足を改善するには、離職防止だけでなく、新規就業者の確保、資格取得支援、職場環境の改善、再就業の促進、勤務時間の確保など、複数の対策を組み合わせる必要があります。外房ではさらに、通勤距離や交通手段、地域内の住宅事情なども就業継続を左右する条件になり得ますが、その影響の大きさについては地域別の実証的な確認が必要です。

情報通信技術や介護ロボットによって不足を解消できるのか

 ICT(Information and Communication Technology・情報通信技術)や介護ロボットの活用は、介護現場の生産性向上を図るための重要な対策です。記録業務の電子化、情報共有の効率化、見守り機器の活用、移乗支援機器の導入などによって、職員の業務負担を軽減できる可能性があります。

 ただし、介護業務には食事、排泄、入浴、移乗、移動、認知症への対応、利用者との意思疎通など、人が直接関わる業務も多く含まれています。技術によって一部の業務を効率化できても、すべての介護業務を機械に置き換えられるわけではありません。また、機器の導入には費用や研修が必要であり、運用方法によって効果も異なります。

 介護人材の必要人数を考える際には、職員数だけでなく、職員1人当たりが一定時間内に提供できるサービス量も重要になります。しかし、生産性向上がどの程度の人材不足を補えるかは、対象業務、技術の種類、導入状況によって異なるため、一般的な数字として断定することは困難です。

 したがって、情報通信技術や介護ロボットは介護人材不足への対応策の一つとして評価できますが、それだけで2040年度の推計不足人数28,266人が解消されると判断できる根拠はありません。人材確保、職場環境の改善、サービス提供体制の再編などと組み合わせて考える必要があります。

外国人介護人材の受入れにも継続的な就労環境が必要になる

 外国人介護人材の受入れも、介護職員の供給を支える手段の一つです。日本では在留資格「介護」、特定技能、技能実習などの制度が活用されてきましたが、それぞれ就労条件や資格要件、在留上の取扱いが異なります。制度の変更によって受入れの仕組みも変わり得るため、将来の供給人数を考える際には制度改正の影響も考慮する必要があります。

 外国人介護人材が地域で継続して働くためには、日本語による意思疎通、介護技術の習得、資格取得への支援、住居の確保、通勤手段、生活相談などの環境が重要になります。介護現場では利用者の身体状態や認知機能を把握し、適切に情報を共有する必要があるため、単に就業人数を増やすだけでは十分ではありません。

 特に公共交通機関の利用が難しい地域では、通勤手段や住宅の位置が働き続けられるかどうかに影響する可能性があります。ただし、外房で外国人介護職員がどの程度不足を補っているのか、将来どの程度の人数を確保できるのかについては、地域別の実績や受入事業所の状況を確認しなければ判断できません。

 外国人介護人材は重要な供給経路の一つですが、将来の介護提供体制を外国人材の増加だけに依存させるのではなく、日本人を含む既存職員の定着、再就業、業務効率化などと併せて検討する必要があります。

介護サービスの供給能力は職員数だけでは決まらない

 ここまで見てきたように、介護サービスの供給能力は、事業所数と介護職員数だけで決まるものではありません。実際には、施設や設備の処理能力、勤務可能な職員数、職員の労働時間、利用者1人当たりに必要な介護時間、移動や事務作業に費やされる時間など、複数の条件によって制約されます。

 訪問介護の提供可能件数を単純化して考えるならば、一定期間の職員数に1人当たりの労働時間と直接介護に充てられる時間の割合を掛け、それを1件当たりに必要な直接介護時間で割ることで、概算の供給可能件数を考えることができます。ただし、これは供給制約を理解するための単純化した考え方であり、介護保険制度上の公式な算定式ではありません。実際には職種別配置基準、サービス提供区域、利用者の状態、必要な介護技術なども考慮しなければなりません。

 重要なのは、施設や設備に余裕があっても必要な職員を配置できなければサービス提供量が制限され、人員に余裕があっても設備や移動条件に制約があれば利用者を受け入れられない場合があるということです。介護サービスは、複数の条件が組み合わさって成立しており、そのうちの一つが不足すれば、他の条件が十分であっても供給能力を拡大できないことがあります。

 したがって、介護サービスを整備する政策を評価する際にも、施設数を増やしたかどうかだけではなく、実際にどれだけのサービスを安定的に提供できるようになったかを確認する必要があります。

制度として利用できることと実際に利用できることは異なる

 介護保険制度に基づくサービスであっても、希望するサービスを無制限に利用できるわけではありません。サービスの種類によって要介護・要支援認定などの条件があり、在宅サービスには原則として要介護度などに応じた区分支給限度基準額が設けられています。限度額を超えるサービス利用については、原則として超過部分が全額自己負担になります。

 また、地域密着型サービスは、原則として事業所が所在する市町村の被保険者を対象とする制度です。市町村を越えた利用が認められる場合もありますが、必要な手続や条件があるため、近隣自治体に事業所が存在するという理由だけで、誰でも同じ条件で利用できるとは限りません。

 さらに、介護サービスには介護職員だけでなく、看護職員、介護支援専門員、リハビリテーション専門職などが関わるものもあります。例えば訪問看護の提供能力は看護職員の確保状況にも左右されるため、介護職員の需給推計だけで介護保険サービス全体の供給能力を完全に評価することはできません。

 このように、実際の利用可能性は、制度上の利用資格、自己負担、事業所の所在、職員配置、提供可能な時間、サービスの対象区域などの条件によって決まります。介護保険制度が存在し、自治体の計画にサービスが掲載されていても、個々の利用者が希望する時期に希望する内容のサービスを必ず利用できるという意味ではありません。

外房の高齢者世帯では家族による支援を当然視できない

 高齢者の生活を支えるうえで、家族による介護や送迎が重要な役割を果たす場合があります。しかし、今後の外房の介護環境を考える際には、家族が常に不足部分を補えると想定することは適切ではありません。高齢者の一人暮らしや夫婦のみの世帯、子どもが遠方に居住している世帯では、家族による日常的な支援を受けることが難しい場合があります。

 特に、通所介護や医療機関への移動について、本人が自動車を運転できない場合には、送迎サービスや公共交通機関、家族の協力などが必要になることがあります。通所介護では事業所による送迎が通常のサービスに含まれますが、送迎対象区域や運行体制などによって利用条件が異なる場合があります。そのため、施設までの直線距離が短いという理由だけで、実際の利用が容易だとは判断できません。

 また、介護サービスの利用には、本人の要介護度だけでなく、生活状況や家族の介護力、住環境なども関係します。自宅で生活を続けるために必要な支援が複数のサービスにまたがる場合には、それらを組み合わせて利用できるかどうかが重要になります。

 したがって、外房で高齢期を暮らすことを考える際には、近くに介護施設があるかどうかだけでなく、本人や家族がどのような条件でサービスを利用できるのかを確認する必要があります。

外房の介護サービスを評価するために必要な地域別データ

 外房の将来の介護提供体制をより正確に判断するためには、千葉県全体の介護職員需給推計と、地域別のサービス供給状況を組み合わせる必要があります。特に勝浦市、いすみ市、御宿町、大多喜町については、市町村別の高齢者人口と要介護・要支援認定者数を把握し、訪問介護、通所介護、短期入所、施設介護などのサービス種類別に利用実績と供給能力を確認することが重要です。

 その際には、事業所の数や定員に加え、実際の受入可能人数、新規利用の待機期間、職員の常勤換算人数、欠員状況、休止・廃止した事業所の数なども確認したいところです。特に訪問介護については、サービス提供区域、利用者の居住地、職員の移動時間、希望する曜日や時間帯に対応できるかどうかが、地域の利用可能性を評価する指標になります。

 さらに、介護サービスを希望した人のうち、職員不足を理由に利用を断られた人がどの程度いるのかを把握できれば、人材不足が実際のサービス利用を制限しているかどうかを、より直接的に検証できます。ただし、このような情報が市町村別の公開統計として十分に整備されているとは限らず、必要に応じて自治体や事業所への調査を行うことも考えられます。

 また、介護職員が勤務する自治体と居住する自治体の関係や、利用者が他市町村のサービスを利用している状況も重要です。生活圏が自治体の境界を越えている場合には、個別の市町村だけでなく、広域的な介護サービス提供体制として評価する必要があります。

 将来の介護サービスを考えるために本当に必要なのは、施設や職員が何人存在するかという数字に加え、実際に必要なサービスをどの程度提供できているのかという実績です。 この視点から地域別の情報を蓄積していくことが、外房の介護環境を実証的に評価するための基礎になります。

2050年以降の介護職員不足を数字で示すことはできない

 国立社会保障・人口問題研究所の「日本の地域別将来推計人口(令和5年推計)」では、2020年の国勢調査を基準として、市区町村別の人口と年齢構成を2050年まで5年ごとに推計しています。そのため、外房の各自治体についても、2050年までの総人口や高齢者人口の変化を検討することができます。

 しかし、今回利用した千葉県の介護人材需給推計は2040年度までであり、2050年度の千葉県全体や外房各市町村について、必要な介護職員数、供給見込人数、不足人数を示すものではありません。人口推計が2050年まで存在するという理由だけで、介護職員の不足人数も同じ年まで推計されていると考えることはできません。

 また、2026年を基準とすると2040年は約14年後、2050年は約24年後であり、30年後に当たるのは2056年です。2040年度までの介護人材需給推計と、2050年までの人口推計を組み合わせる場合には、それぞれの対象年と推計の前提を明確に区別する必要があります。

 2040年以降については、その時点での人口構造の変化に加えて、介護保険制度、介護報酬、人材確保策、技術導入、労働市場などの状況も変わっている可能性があります。そのため、将来の介護職員不足人数を現在の推計から機械的に延長するのではなく、今後更新される介護保険事業計画や人材需給推計を継続的に確認する必要があります。

外房の介護サービスは将来利用できなくなるのか

 ここまでの公的資料から確認できるのは、千葉県全体では2040年度に介護職員の必要人数と供給見込人数との間に大きな差が生じると推計されていること、そして外房を含む山武長生夷隅圏域では、65歳以上人口がほぼ横ばいでも75歳以上人口の構成が変化すると見込まれていることです。

 一方、外房の各自治体で2040年度に介護職員が何人不足するのか、どのサービスで新規利用の受入れが難しくなるのか、現在と比較して利用可能なサービス量がどの程度減少するのかについては、今回確認した公表資料だけでは判断できません。

 したがって、「外房では将来、介護サービスが利用できなくなる」と断定することは適切ではありません。同時に、現在ある施設や事業所が将来も同じサービスを同じ規模で提供できると保証されているわけでもありません。実際の提供体制は、人材確保、サービス需要、事業所の経営状況、利用者の居住地、制度の変更などによって左右されるためです。

 また、介護サービスの利用が難しくなる場合でも、その現れ方は一様ではないと考えられます。施設入所の待機期間が長くなる場合もあれば、在宅サービスの利用回数や曜日の選択肢が限られる場合、訪問区域の見直しによって一部の地域で利用しにくくなる場合なども想定されます。ただし、これらは介護サービスの供給が制約された場合に考えられる形であり、外房で必ず発生すると予測したものではありません。

 将来のリスクを現実的に評価するためには、介護職員不足の推計人数だけを見るのではなく、それが地域のサービス供給能力や利用者の生活にどのような形で影響し得るのかを、サービス種類別に検討することが重要です。

結論~介護施設が残ることと介護サービスを利用できることは同じではない

 千葉県の公的な需給推計では、介護職員の不足人数は2026年度の10,846人から2030年度には16,191人、2040年度には28,266人へ拡大すると見込まれています。2040年度の必要人数127,991人に対して供給見込人数は99,725人であり、必要人数の約22.1%に相当する需給差が生じる計算です。ただし、これは一定の前提条件に基づく県全体の推計であり、将来の確定値でも、実際に提供できなくなるサービスの割合でもありません。

 外房を含む山武長生夷隅圏域では、2040年の65歳以上人口が2020年とほぼ同水準になる一方、75歳以上人口は増加する見込みです。この人口構造の変化を考えると、地域の人口が減少するという理由だけで、介護サービスの必要性も同じように減少すると考えることはできません。

 また、介護サービスの供給能力は、施設数、職員数、勤務時間、職員の技能、利用者の状態、移動条件などの組合せで決まります。特に外房のように市街地と人口の少ない地域が混在する地域では、訪問型サービスの提供区域や移動時間なども確認する必要がありますが、現時点でその影響を具体的な不足人数や利用不能率として示すだけの地域別データは十分ではありません。

 したがって、現在の資料から導ける結論は、外房の介護サービスが将来利用できなくなるという断定ではなく、将来の介護サービスの利用可能性を評価するうえで、施設の有無だけでなく、介護職員を継続的に確保し、必要なサービスを提供し続けられる体制があるかどうかを確認する必要があるということです。

 これまで地方で高齢期の生活を考える際には、病院、商店、公共交通機関、介護施設などが地域に存在するかどうかが重要な判断材料とされてきました。しかし、人口減少と高齢化が進む社会では、施設が残っていることと、その施設を運営する人材が十分に確保されていることを区別して考える必要があります。

 建物は維持されていても職員が不足すれば、提供できるサービスの量や時間が制約される可能性があります。反対に、人材確保や業務効率化、地域間の連携が進めば、人口減少が続く地域でも一定の介護サービスを維持できる可能性があります。どちらの方向に進むかは、地域の人口構造だけではなく、介護人材の確保状況と、サービス提供体制をどのように維持していくかによって変わります。

 人口減少社会では、介護施設が存在し続けることと、必要な介護サービスを必要なときに利用できることは同じではありません。

 2040年に向けて外房の介護環境を考えるうえでは、施設数や定員の増減だけを確認するのではなく、そこで働く人材、実際の受入能力、地域ごとの利用状況を継続的に検証することが必要です。制度として介護サービスが存在することに加え、それを住民が現実に利用できる体制が維持されているかどうかが、将来の地域生活の安心を判断する重要な条件になると考えられます。

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