地域分析記事

地域の暮らしと地域課題を数学とデータで考える

 人口減少が進む地域では、自治会や町内会への加入者が減り、役員のなり手が見つからないという話を聞くことがあります。高齢化が進んだ集落では、以前は当たり前のように行われていた共同作業に参加できる人が減り、長年地域を支えてきた住民の負担が重くなっている場合もあります。しかし、本当に問題なのは、自治会の加入世帯数や役員の人数が減ることだけなのでしょうか。

 地域には、道路沿いの草刈り、ごみ集積所の清掃、水路の維持管理、防災訓練、防犯活動、回覧物の配布、集会所の管理、高齢者の見守り、祭りや地域行事など、これまで住民が共同で担ってきた仕事があります。これらの活動は内容も必要性も異なりますが、いずれも地域の人手、時間、費用によって支えられてきました。

 人口が半分になったとき、地域で必要な共同作業も半分になれば、一人当たりの負担が大きく増えるとは限りません。しかし、実際には人口が減少する速度と、管理しなければならない道路、土地、水路、ごみ集積所、集会施設などが減少する速度は一致しません。さらに、人口が半分になっても、共同作業に参加できる人数が半分にとどまるとは限りません。高齢化や世帯構成の変化によって、実際に作業を担える人数が、それ以上の速度で減少する可能性もあります。ここに、人口減少地域の自治会・町内会が抱える構造的な問題があります。

最初に結論~30年後も現在と同じ自治会活動を維持するのは難しい地域が増える

 結論からいえば、外房を含む人口減少地域で、30年後に自治会・町内会がすべて消滅するとは考えられません。防災、生活環境の維持、住民間の連絡、地域課題の調整など、地域単位で協力する仕組みには今後も必要性があると考えられるからです。しかし、現在と同じ区域、同じ役職数、同じ共同作業、同じ活動頻度を、今後30年間にわたって維持できると考えるのは現実的ではありません。特に、人口減少と高齢化が進み、住宅が広い範囲に分散し、管理する土地や施設が多い地域では、従来の運営方法を継続することが難しくなる可能性があります。

 もっとも、人口が減るからといって、すべての自治会で必ず活動負担が増えるわけではありません。作業内容の削減、管理方法の変更、機械化、外注、行政との役割分担の見直しなどによって、必要な作業量を減らせる場合もあります。したがって、必要なのは、これまでの自治会活動をすべて残す方法を考えることではなく、住民生活に不可欠な機能を特定したうえで、何を住民が担い続け、何を減らし、何を行政や民間へ移し、どの区域を共同化・再編するのかを検討することです。

 墓地や菩提寺、地域の共同施設の管理にも通じる問題ですが、次世代に同じ仕事をそのまま引き継がせるのではなく、次世代が引き継がなければならない仕事そのものを減らすという発想が重要になります。

自治会・町内会は何を担っているのか

 自治会・町内会の活動内容は地域によって異なります。千葉県も、自治会・町内会などの地縁団体について、環境美化、防災・防犯、地域の見守り、健康づくり、行事など多様な活動を担う一方で、加入率の低下、担い手不足、活動の停滞などの問題が生じていると整理しています。

 ただし、自治会が実施している活動を、すべて同じ重要度で評価することは適切ではありません。例えば、夏祭りや親睦旅行を中止しても、住民の日常生活が直ちに成立しなくなるわけではありません。一方、ごみ集積所の管理者がいなくなったり、道路の通行に支障が生じるほど草木が繁茂したりすれば、生活環境や安全に直接影響する可能性があります。また、防災訓練や住民同士の交流は、日常生活への直接的な影響が見えにくくても、災害発生時の協力関係や情報伝達に役立つ場合があります。そのため、行事だから不要、清掃だから必要といった単純な分類も適切ではありません。

 重要なのは、それぞれの活動について、誰の生活を支えているのか、実施しなかった場合にどのような影響が生じるのか、代わりに担える主体が存在するのかを整理することです。自治会の存続を考える際には、まず組織の形を守ることよりも、地域に必要な機能と、その機能を維持するために必要な仕事を明らかにする必要があります。

外房では2050年までに人口が大きく減ると推計されている

 国立社会保障・人口問題研究所が2023年に公表した「日本の地域別将来推計人口」によると、外房の多くの自治体では、2050年まで人口減少が続くと推計されています。この推計は2020年の国勢調査を基準とし、2050年までの人口を5年ごとに推計したものです。

 勝浦市の人口は2020年の16,927人から2050年には8,815人となり、2020年比52.1%、人口減少率47.9%と推計されています。いすみ市は35,544人から20,218人となり、2020年比56.9%、人口減少率43.1%、御宿町は6,874人から4,381人となり、2020年比63.7%、人口減少率36.3%です。また、大多喜町についても、2020年の8,885人から2050年には4,498人となり、2020年比50.6%、人口減少率49.4%と推計されています。

 これらの数値は2050年の実績人口を保証するものではありません。出生、死亡、転入、転出などの前提条件によって、実際の人口は推計から上振れすることも下振れすることもあります。また、2026年から30年後は2056年ですが、この将来推計が対象としているのは2050年までです。そのため、2050年の推計値をそのまま2056年の人口として扱うことはできません。それでも、外房の市町で長期的な人口減少が重要な地域課題になることを考えるうえで、無視できない推計です。

 ここで重要なのは、人口が40%減少しても、草刈りが必要な面積、道路の延長、ごみ集積所や集会施設の数が、同じように40%減少するとは限らないことです。道路は人口が減ったからといって簡単に短くなるわけではなく、既存の住宅地や農地へ通じる道路も残ります。ごみ集積所も、利用世帯が減ったからといって、ただちに統廃合できるとは限りません。住宅が広い範囲に分散していれば、集積所を減らすことで、ごみを運ぶ距離が長くなる住民も出てきます。

 さらに、空き家や利用されなくなった土地が増えれば、草木の繁茂や管理不全が新たな問題になる可能性があります。ただし、管理対象が残ることと、必要な作業時間が一定であることは同じではありません。土地の利用状況、作業方法、機械化の程度などによって、作業量は変化します。したがって、人口減少地域の自治会を評価する際には、人口推計だけでなく、地域に残る管理対象と、その維持に必要な作業量を合わせて確認する必要があります。

勝浦市では2021年に市道の草刈りが議会で問題になっていた

 地域住民が担う共同作業の将来を考えるうえで、勝浦市の事例は参考になります。2021年の勝浦市議会では、市道の除草について具体的な議論が行われました。当時の市長答弁では、市道の総延長が246,402メートルであるのに対し、市が除草する区間の延長は32,054メートルで、その割合は13.01%と説明されています。

 ただし、この数値は、市道の残り約87%をすべて地域住民が除草していることを意味するものではありません。道路の構造や沿道の状況によって除草の必要性は異なり、常に草刈りが必要な区間ばかりではないからです。一方、議会では、農地に接する市道などで農地所有者や耕作者、地域住民による草刈りが行われている実情も紹介されました。また、議員からは、ある区では年5回、区民総出で草刈りを行っているものの、作業の負担が重くなってきているという区長から聞いた話が示されています。

 この年5回という回数は、議員が紹介した特定地区の事例であり、勝浦市全体の平均的な草刈り回数ではありません。しかし、地域住民が道路周辺の環境管理に相当の労力を費やしている地区が存在することを示す具体例です。当時の議会では、農地所有者や耕作者の高齢化、耕作放棄地の増加、所有者が地域に住んでいない土地の増加なども念頭に、5年後、10年後の市道の維持管理をどうするかという問題が提起されていました。

 この議論が重要なのは、人口減少が進んでも草木の生育が止まるわけではないからです。共同作業の参加者が減少しても、道路や水路周辺に必要な除草作業が同じ程度残れば、一人当たりの作業負担は増える可能性があります。もっとも、道路沿いの草刈りについては、住民が実際に作業していることと、法律上の維持管理責任を負っていることを区別しなければなりません。この点は、今後の自治会運営を考えるうえで重要な論点になります。

人口減少率と共同作業の減少率は一致しない

 地域維持の負担を考えるために、簡単な数理モデルを使ってみます。地域全体で必要な年間作業量を100単位とし、その作業を50人で均等に分担している場合、一人当たりの作業量は100÷50で2単位です。その後、住民の減少によって作業に参加できる人数が25人になり、一方で必要な作業量は100単位から90単位にしか減少しなかったとします。この場合、一人当たりの作業量は90÷25で3.6単位になります。最初の2単位と比較すると3.6単位は1.8倍であり、一人当たりの負担は80%増加します。

 これは仮定に基づく計算であり、実際の自治会で負担が80%増加するという予測ではありません。しかし、必要な作業量の減少率よりも、実際に作業できる人数の減少率が大きければ、一人当たりの負担が増えるという関係は数学的に成立します。

 ここで注意したいのは、総人口と共同作業に参加できる人数が同じではないことです。人口には乳幼児や児童、身体的な理由で作業が難しい人、仕事や介護で参加時間を確保できない人なども含まれています。また、自治会への加入世帯が多くても、実際の共同作業に参加する人が少ない場合もあります。したがって、自治会の持続可能性を考えるうえで重要なのは、単純な総人口や加入世帯数ではなく、必要な仕事に対して、どれだけの人員と作業時間を安全かつ継続的に確保できるかという点です。

高齢化率だけでは実際の担い手数を判断できない

 地方では、高齢者には比較的自由な時間があるため、地域活動を担ってもらえばよいという考え方が見られることがあります。しかし、高齢者であることと、共同作業に参加できることは同じではありません。70歳でも草刈りを続けている人はいますし、80歳を超えても地域活動に積極的に参加する人もいます。一方、年齢が若くても、健康状態や仕事、家庭の事情によって参加が難しい人もいます。作業能力や参加可能時間には個人差があり、年齢だけで一律に判断することは適切ではありません。

 特に刈払機を使用する草刈りでは、転倒、飛散物、機械による負傷などの危険があります。夏季には熱中症の危険もあり、参加者の健康状態や作業環境、安全管理への配慮が必要です。また、人口減少地域では高齢化率が上昇していても、高齢者の絶対数は減少している場合があります。高齢化率は総人口に占める高齢者の割合であり、実際に何人の高齢者が存在し、そのうち何人が共同作業を担えるかを直接示すものではありません。

 自治会の維持に必要なのは、一定年齢以下の住民数を機械的に数えることではなく、作業内容ごとに必要な技能、身体的負担、時間帯を整理し、安全に参加できる人数を把握することです。

ごみ集積所も行政だけで管理しているわけではない

 地域生活に直結する共同管理の代表例が、ごみ集積所です。勝浦市は2026年3月更新の公式案内で、ごみ集積所は共同で使用し、その管理は地域住民が行っていると説明しています。いすみ市の2026年版「くらしのガイドブック」でも、ごみ集積所は自治会や地域住民が管理し、利用範囲についても管理団体が決める仕組みが案内されています。

 つまり、行政がごみ収集車を運行していることと、ごみ集積所の日常管理まで行政が行っていることは同じではありません。ごみの収集・運搬と、集積所の清掃、利用者間の調整、分別ルールの周知などは、それぞれ異なる仕事だからです。このような仕組みは外房だけの特殊な事例ではありません。国立環境研究所も、ごみ集積所を利用する住民や建物管理者などが設置・管理を担い、自治会が清掃当番の調整や利用ルールの周知に重要な役割を果たしている地域が多いことを指摘しています。

 一方、法律上の整理にも注意が必要です。廃棄物の処理及び清掃に関する法律では、市町村に一般廃棄物処理計画に従った収集、運搬、処分の義務が定められています。自治会が集積所の日常管理に協力しているからといって、市町村の廃棄物処理に関する責任がなくなるわけではありません。また、ごみ集積所の設置者や管理主体は、自治会、住民グループ、集合住宅の管理者、土地所有者など、地域によって異なります。そのため、自治会が管理できなくなった場合に誰が代わりに管理するのかという問題も、個々の集積所の設置・利用条件を確認したうえで検討する必要があります。

自治会に加入しない人が増えると、ごみ集積所はどうなるのか

 自治会・町内会への加入は、全国一律に法律で義務づけられているものではありません。2005年の最高裁判決でも、自治会が強制加入団体ではないという性格が示され、当該事案では会員の退会が認められています。しかし、自治会への加入が任意であることと、地域の共同設備を利用する際の管理負担や利用ルールを、すべて免れることができるかという問題は別です。

 例えば、10世帯が利用するごみ集積所を、そのうち5世帯だけが清掃し、設備の維持費も負担している場合、残りの5世帯も同じように利用を続ければ、負担する側に不公平感が生じる可能性があります。一方で、自治会に加入していないという理由だけで生活に不可欠なごみ排出の機会が事実上失われるような状況にも問題があります。

 この問題は理論上の仮定にとどまりません。国立環境研究所が2019年につくば市の自治会長を対象に行った調査では、402人の回答を分析した結果、約7割の自治会が未加入者によるごみ集積所の利用を許可していないと回答しています。また、2020年に全国の市町村を対象に行った別の調査では、約70%の市町村で、自治会未加入者がごみ集積所を利用できないといったトラブルが報告されています。ただし、前者はつくば市の自治会を対象とした調査であり、後者は全国の市町村を対象とした調査です。調査対象と質問内容が異なるため、数値を直接比較したり、外房の各自治会にそのまま当てはめたりすることはできません。それでも、自治会加入の任意性と、生活に必要な共同設備の維持管理をどのように両立させるかが、現実の地域課題であることは確認できます。

 解決策としては、自治会への加入と集積所の利用管理を区別し、利用者による清掃当番、合理的な費用負担、管理作業の外注、行政による支援などを検討する方法があります。ただし、利用料や管理条件を定める場合には、集積所の権利関係、地域の規則、負担の合理性などを確認する必要があります。大切なのは、自治会へ加入するかどうかという問題だけで対立を深めるのではなく、ごみを適切に排出できる生活環境と、公平で持続可能な管理の仕組みを両立させることです。

ごみ集積所を統合すれば解決するとは限らない

 例えば、50世帯が居住する地域に、ごみ集積所が2か所あり、住民が交代で清掃しているとします。30年後に世帯数が30世帯まで減少した場合、集積所を1か所に統合すれば管理箇所を減らせる可能性があります。しかし、住宅が広い範囲に分散している場合、集積所の統合によってごみを運ぶ距離が長くなり、自動車を運転できない高齢者や身体的な制約のある住民に新たな負担が生じることがあります。

 逆に、集積所を2か所のまま維持すれば、利用世帯の減少によって清掃当番の頻度が高くなったり、設備の修理費を少ない世帯で負担したりする可能性があります。つまり、集積所の統合によって管理費用が減っても、住民のごみ運搬負担が増える場合があり、反対に住民の利便性を維持すれば、管理側の負担が残るという関係があります。

 国立環境研究所は、高齢化や地域コミュニティの弱体化に対応するごみ集積所管理支援について、設備の改良、ごみを出しやすくする工夫、住民の助け合いを支える仕組みなどを整理しています。今後は、集積所を減らすか残すかという二者択一だけでなく、管理しやすい設備への変更、ごみ出し支援、対象者を限定した戸別収集、行政と地域による共同管理なども含めて検討する必要があります。ただし、戸別収集を増やせば収集車の走行距離や収集時間が増える可能性もあるため、住民側の利便性だけでなく、収集経費や人員確保への影響も評価することが重要です。

道路や水路の管理責任は本来誰にあるのか

 地域住民が草刈りや清掃を行っている場所については、実際に作業する人と、法律上の管理責任を負う主体を区別する必要があります。市道については、道路法第42条で、道路管理者が道路を良好な状態に維持・修繕し、一般交通に支障を及ぼさないよう努めることが定められています。したがって、市道の維持管理は、基本的に道路管理者である市の責任として考える必要があります。

 ただし、道路管理者に維持管理上の責任があることと、道路沿いのすべての草木を行政が常に除草しなければならないことは同じではありません。必要な管理水準や除草の範囲は、交通への支障、安全性、道路の構造などによって判断されます。また、私有地の草木については、原則として土地所有者や管理権限を持つ者の責任が問題となります。農業用水路についても、土地改良区、農業者、自治体など、施設の所有・管理・利用関係によって役割分担が異なります。自治会が所有する集会所であれば、所有者としての維持管理責任や、規約に基づく管理体制を確認する必要があります。

 そのため、長年地域住民が草刈りを行ってきたという事実だけから、今後も自治会が当然にすべての作業を引き受けるべきだと判断することはできません。一方、行政の責任を明確にすれば、住民の共同作業がすべて不要になるわけでもありません。地域住民による自主的な環境美化や、道路管理者との協力によって、生活環境を効率的に維持できる場合もあります。重要なのは、法的な管理責任、地域住民の任意の協力、費用負担、安全管理を整理し、どこまでを自治会活動として継続するのが合理的かを明確にすることです。

最大の問題は役員不足だけでなく、実際に作業する人数が減ること

 自治会の担い手不足というと、会長や副会長、会計などの役員になってくれる人が見つからないという問題が注目されます。役員不足は組織運営に直接影響するため重要ですが、人口減少地域では、実際の共同作業を担う人員が減ることも深刻な問題になります。

 例えば、会長や会計などの役員が決まっていても、草刈りに10人、集会所の清掃に5人、防災活動に20人が必要な地域で、実際の参加可能者が不足すれば、従来の活動を続けることは難しくなります。さらに、役員を引き受ける人と共同作業を担う人が重複している場合、少数の住民に事務作業と身体的な作業が集中する可能性があります。役員が不足しているという表面的な問題の背後に、自治会活動全体を支える人員や時間が不足している場合も考えられます。

 そのため、自治会の将来を評価する際には、加入世帯数や役員充足率だけでなく、実際に共同作業へ参加できる人数と時間を把握することが重要です。指標を設けるなら、作業参加可能人数を対象住民人数で割った「実働可能率」や、作業可能者がいる世帯数を対象世帯数で割った「実働可能世帯率」が考えられます。これらは本記事で提案する分析上の指標であり、公的に定められた統計指標ではありません。なお、作業参加可能人数を加入世帯数で割ると、単位は「人/世帯」となり、厳密には割合ではありません。人数を基準とする指標と世帯数を基準とする指標を混同しないことも必要です。

一人当たりの負担より、必要作業時間と確保可能時間を比較する

 地域活動の負担をより正確に把握するには、人数だけでなく、年間に必要な作業時間を調べる方法が適しています。例えば、草刈りを1回につき10人で4時間行い、年間5回実施している地域なら、その作業には年間200人・時間が必要です。ここでいう人・時間とは、作業人数と作業時間を掛けた延べ作業量を表す単位です。

 同様に、ごみ集積所の清掃、集会所の管理、防災訓練の準備、会計処理などについても、年間の作業回数、参加人数、作業時間を把握すれば、自治会全体で必要な延べ作業時間を推計できます。仮に年間1,200人・時間の共同作業が必要な地域で、住民が実際に確保できる時間が年間800人・時間しかない場合、作業時間の充足率は800÷1,200で約66.7%となります。この場合、必要な作業時間に対して約3分の1が不足していることになります。

 ただし、これは単純な時間の比較であり、作業の種類、必要な技能、安全条件、実施時期などが一致することまでは保証しません。例えば、会計事務を担当できる人が多くても、刈払機を安全に使用できる人が不足していれば、草刈りの問題は解消しません。また、年間の合計時間が足りていても、全員が同じ日時に参加できなければ、共同作業を実施できない場合があります。

 したがって、実際には作業の種類ごとに、必要作業時間と確保可能時間を分けて評価することが望ましいでしょう。自治会の将来を考えるうえでは、単に何人が住んでいるかではなく、必要な作業を誰が、いつ、どの程度、安全に実施できるのかを把握することが重要になります。

「若い人に引き継げばよい」だけでは解決しない

 人口減少地域では、若い世代に自治会活動を引き継いでもらえばよいという意見が出ることがあります。しかし、若い世代そのものが減少している地域では、後継者を求めるだけでは問題を解決できません。さらに、現役世代には仕事、子育て、介護、通勤などがあり、地域活動に参加できる時間が限られている場合があります。以前は平日の日中に高齢者が担っていた仕事を、そのまま現役世代へ移すことができるとは限りません。

 例えば、60人で行っていた共同作業を30人で続けようとすれば、作業方法や必要時間が同じである限り、一人当たりの負担は増加します。参加者を増やす努力は重要ですが、地域全体で参加可能な人数が減少している場合には、それだけでは限界があります。むしろ、60人で行っていた仕事のうち、何を廃止できるか、何を機械化できるか、何を外注できるか、どこを複数の自治会で共同化できるかを検討し、30人でも対応できる作業量へ減らしていくことが必要です。

 次世代への引き継ぎとは、現在の仕事をすべて次世代に渡すことではありません。人口構成や生活環境が変化した地域に適した仕事の量と運営方法へ変更することも、重要な引き継ぎの一つです。

デジタル化で減らせる仕事と減らせない仕事

 自治会活動の負担軽減策として、デジタル化も考えられます。回覧板、会議案内、出欠確認、資料配布、会計処理、連絡網などは、電子化によって印刷、配布、集計に必要な時間を減らせる可能性があります。会議をオンラインで実施したり、資料を電子的に共有したりすれば、移動時間や事務作業を削減できる場合もあります。

 ただし、すべての住民が同じようにデジタル機器を利用できるとは限りません。従来の紙による連絡手段を一定程度残す必要がある地域では、電子化と紙の併用によって、かえって事務負担が増える可能性もあります。また、AI(Artificial Intelligence・人工知能)を使って文書作成や会計資料の整理を効率化できても、草刈りや水路清掃、ごみ集積所の清掃など、現場で行う物理的な作業そのものがなくなるわけではありません。

 もちろん、機械化や作業方法の改善によって、草刈りなどの必要時間を減らす余地はあります。しかし、それには設備の導入費、維持費、操作できる人材、安全管理など、新たな条件が伴います。自治会活動のデジタル化は、主として情報伝達や事務処理の負担を軽減する方法であり、物理的な地域管理を効率化する対策とは分けて考える必要があります。

草刈りなどを外注すれば解決するのか

 共同作業の負担を減らす方法として、造園業者や建設業者などへの外注が考えられます。例えば、住民20人が半日かけて行っていた草刈りを専門業者へ委託すれば、住民の身体的な負担や機械操作に伴う危険を減らせる可能性があります。また、専門的な機械を使うことで、作業時間を短縮できる場合もあります。

 しかし、これまで無償または少額の費用で行ってきた共同作業を外注すれば、新たに委託費用が発生します。つまり、住民の労働力不足という問題の一部が、自治会や行政の財源確保という問題へ移ることになります。さらに、自治会加入世帯数が減少している場合、同じ外注費を少ない世帯で負担しなければならなくなる可能性があります。例えば年間30万円の外注費を50世帯で負担するなら一世帯当たり6,000円ですが、30世帯になれば一世帯当たり10,000円です。これは単純な仮定に基づく例であり、実際の草刈り委託費を示すものではありません。

 外注を検討する際には、年間何回作業を行う必要があるのか、管理対象の面積や延長はどの程度か、どの作業まで委託するのか、費用を誰が負担するのかを明確にする必要があります。また、業者側にも人手不足が生じている地域では、費用を確保できても、継続的に受注してもらえるとは限りません。外注は有力な選択肢ですが、地域の事業者の供給能力や、長期間継続できる契約条件まで考える必要があります。

行政がすべて担えばよいのか

 自治会の共同作業が維持できなくなった場合、行政が代わりに行えばよいという考え方もあります。しかし、自治会員が減少している地域では、自治体全体の人口も減少している場合が多く、行政サービスを維持する財政的・人的な条件も変化していきます。

 人口減少は住民税などの税基盤に影響する可能性がありますが、人口が40%減少したからといって自治体の財源も40%減少するとは限りません。地方自治体の財源には、住民税だけでなく、固定資産税、地方交付税、国や県からの支出金などが含まれるためです。一方、道路、水道、ごみ収集、公共施設、福祉、防災などの行政サービスは、人口が減少しても一定の水準を維持する必要があります。地域住民が従来担ってきた作業まで行政が引き受ければ、追加的な人件費や委託費が必要になる場合があります。

 ただし、行政が作業をまとめて発注したり、複数地域で管理業務を共同化したりすることで、自治会ごとに実施するより効率的になる可能性もあります。そのため、行政への移管は単純に費用の増加として評価するのではなく、地域全体で必要な労働時間や支出がどのように変化するかを比較することが重要です。

 住民が無償で作業している場合でも、その時間には経済的な価値があります。住民負担を行政負担へ移すことで予算上の支出が増えたとしても、住民の作業時間や安全上の負担が大きく減れば、社会全体としては合理的な場合もあります。したがって、自治会と行政の役割分担を考える際には、自治会費や行政予算だけでなく、住民の時間、安全性、利便性、継続可能性まで含めて判断する必要があります。

自治会を統合すれば維持しやすくなるのか

 人口減少によって小規模化した自治会を統合することも、一つの方法です。例えば、20世帯の地区、15世帯の地区、15世帯の地区が、それぞれ会長、副会長、会計などの役員を置いている場合、三つの組織を一つに統合すれば、役員数や会議回数、会計事務などを減らせる可能性があります。特に、各自治会で同じような文書作成や会計処理を行っている場合には、組織統合や事務の共同化によって、重複する作業を減らせることが考えられます。

 しかし、自治会を統合しても、ごみ集積所や道路、水路、草刈りが必要な土地まで自動的に減るわけではありません。むしろ、担当区域が広がることで、役員や作業参加者の移動距離が長くなる場合もあります。また、地区ごとの生活条件や慣習が異なる場合には、統合後の意思決定が複雑になったり、住民の参加意識が低下したりする可能性もあります。

 そのため、組織を全面的に統合する方法だけでなく、会計事務、回覧物の作成、共同作業の発注、防災備品の管理など、一部の業務だけを複数自治会で共同化する方法も考えられます。自治会の統合は、主として組織運営や事務管理の効率化に効果が期待できる方法であり、物理的な管理対象を削減するためには、別の対策を組み合わせる必要があります。

既存の公的支援制度も検討する

 地域の共同作業を継続する方法としては、自治会費だけに依存せず、既存の公的支援制度を活用できるか検討することも重要です。例えば、農林水産省の多面的機能支払交付金は、農地や農業用水路などの地域資源を維持する共同活動を支援する制度です。一定の条件を満たす活動組織では、農地や水路周辺の草刈り、泥上げなどが支援対象となる場合があります。また、道路についても、道路管理者と地域団体などが協力する道路協力団体制度など、地域による道路環境の維持に関係する仕組みがあります。

 ただし、こうした制度は、自治会の草刈りや清掃を無条件ですべて補助するものではありません。対象施設、活動内容、団体の要件、手続きなどが定められており、市道、農業用水路、私有地などで適用できる制度は異なります。さらに、補助制度によって費用の一部が確保できても、現場で作業する人員が自動的に増えるわけではありません。制度利用のための事務負担が発生する場合もあります。

 そのため、支援制度の活用を検討する際には、補助金額だけでなく、実際に削減できる住民負担、事務手続き、継続性、外注への利用可能性なども確認する必要があります。

自治会活動にはライフサイクルコストの考え方も必要

 自治会が管理する設備や施設については、LCC(Life Cycle Cost・ライフサイクルコスト、取得から廃止までに必要となる総費用)に近い考え方が必要になります。例えば、地域の集会所を維持する場合、毎年の電気代や水道代だけでなく、保険料、清掃、草刈り、設備修繕、建物の大規模改修、将来の解体費用なども考慮しなければなりません。さらに、会計処理、予約管理、清掃当番の調整など、役員や住民が無償で担っている時間もあります。自治会の決算書に支出として記載されていなくても、こうした時間は住民の負担として存在しています。

 人口減少によって集会所の利用者が少なくなっている場合、従来と同じ設備を維持し続けることが合理的とは限りません。周辺施設との共同利用、施設規模の縮小、管理方法の変更、場合によっては廃止も検討対象になります。一方、災害時の避難や物資の保管など、集会所が地域の安全に重要な役割を果たしている場合、平常時の利用回数だけを基準に廃止を判断することも適切ではありません。

 施設の評価では、維持費用だけでなく、災害時の役割、住民の移動距離、代替施設の有無、地域活動への影響などを合わせて考える必要があります。これは、集会所だけでなく、防犯灯、共同設備、地域で管理する土地などについても同様です。現在の支出額が小さくても、将来の修繕費や管理人員まで含めれば、維持負担が大きくなる可能性があります。

30年後も残すべき仕事を先に決める

 人口減少地域の自治会改革では、すべての活動を従来どおり継続することを前提にするのではなく、必要性と負担を一度整理することが重要です。まず、災害時の安否確認や情報伝達、ごみ集積所の適切な利用、危険箇所の把握、最低限の生活環境の維持など、日常生活や安全に直結する機能については、誰がどのような方法で継続するかを優先的に検討する必要があります。

 次に、草刈り、集会所管理、防犯活動、回覧、地域行事などについては、実施頻度や方法を見直す余地があります。例えば、年5回実施している草刈りを、安全性を確認したうえで年3回に変更できるか、すべての区域を同じ頻度で管理する必要があるか、作業時期や機械の利用方法を改善できないかといった検討が考えられます。ただし、草刈り回数を減らすことが常に適切とは限りません。見通しの悪化、歩行者や車両の安全、排水機能への影響などを確認したうえで、必要な管理水準を設定する必要があります。

 一方、頻繁な会議、形式的な役職、慣例として続けているだけの作業については、住民生活への影響を確認しながら縮小や廃止を検討する余地があります。もっとも、祭りや集会などの交流活動には、住民同士の信頼関係を維持し、防災や見守り活動につながる役割がある場合もあります。目先の作業時間を減らした結果、地域の協力関係が弱まり、長期的には別の負担が増える可能性も考慮すべきです。したがって、単純に費用や作業時間が多い活動から削減するのではなく、その活動を続けることによる効果と、やめることによる影響を比較する必要があります。

自治会の将来を判断するには何を調べればよいのか

 自治会が30年後も必要な地域機能を維持できるかを考えるには、加入世帯数だけでは十分ではありません。まず、過去10年間の世帯数、加入世帯数、住民の年齢構成、役員数、実際の共同作業参加人数を調べることが考えられます。特に、会員数が減少しているだけなのか、実際に作業を担う人数も減少しているのかを区別する必要があります。

 次に、年間の共同作業回数、参加人数、延べ作業時間、草刈り面積、道路や水路の管理延長、ごみ集積所数、集会所などの施設数を把握します。これによって、自治会がどの程度の管理対象を抱え、その管理にどれだけの労力が必要なのかを確認できます。さらに、自治会費収入、年間支出、積立金、施設の修繕見込み、外注した場合の費用などを整理すれば、現在の活動を財政面からどの程度継続できるかを検討できます。

 ただし、こうした数値を集めれば、自動的に自治会の存続年数を予測できるわけではありません。作業参加者の減少速度、管理方法の変更、行政支援、外注費などには不確実性があります。そのため、将来については単一の予測値を示すよりも、現在の活動を維持した場合、活動を一部削減した場合、外注や行政との共同管理を導入した場合など、複数の条件を設定して比較する方が適切です。

 例えば、現在の参加人数が今後10年間で20%減少する場合と40%減少する場合を想定し、それぞれについて必要作業時間を確保できるかを検討すれば、自治会がどの程度の人員減少まで対応できるかを把握できます。このような分析を行うことで、単に将来への不安を述べるのではなく、どの作業がいつ不足しそうなのか、どのような対策が有効なのかを具体的に議論できるようになります。

市町村全体の人口推計だけで自治会の将来は予測できない

 ここで注意したいのは、市町村全体の人口減少率を、そのまま個々の自治会に適用できないという点です。同じ勝浦市内でも、中心市街地、住宅団地、農地に囲まれた集落、山間部などでは、人口構成や住宅の分布、管理する土地の広さ、移動距離などが異なります。御宿町、いすみ市、大多喜町についても同様に、地域によって条件が異なります。

 人口減少率が同じでも、住宅がまとまっている地域では、ごみ集積所や共同施設の管理を効率化しやすい可能性があります。一方、住宅が広い範囲に分散している地域では、少ない世帯で長い道路や水路を管理しなければならない場合があります。また、人口が比較的維持されている地域でも、自治会への加入率や共同作業への参加率が低ければ、活動を継続することが難しくなる可能性があります。

 統計学的にも、市町村単位で観察された傾向を、その内部にあるすべての自治会にそのまま当てはめることは適切ではありません。集団全体の特徴から個々の集団や構成員の特徴を推測してしまうことは、生態学的誤謬と呼ばれる問題につながるためです。したがって、外房の自治会が30年後も維持できるかを実証的に考えるには、市町村全体の人口推計に加えて、自治会単位の人口、世帯数、活動内容、作業量、財政状況などを把握する必要があります。

維持しやすい自治会と難しくなる自治会の違い

 今後も比較的活動を維持しやすいと考えられるのは、一定数の世帯がまとまって居住し、複数の世代が地域活動に参加でき、必要な共同作業量が限られている地域です。また、役員数や会議を合理化し、不要な行事を整理し、必要な仕事の一部を外注できる体制があれば、人口が減少しても活動を継続できる可能性があります。周辺自治会との共同化や、行政との役割分担が明確になっていることも重要な条件です。

 一方、世帯数が少なく、住宅が広く分散し、管理する道路や草地、水路、ごみ集積所、集会施設が多い地域では、少数の住民に負担が集中する可能性があります。さらに、役職数や行事の回数が人口の多かった時代のまま維持され、共同作業を無償労働に大きく依存している地域では、加入世帯数の減少によって運営が難しくなる可能性があります。

 ただし、これらは自治会の存続を決定する条件ではなく、持続可能性を評価するための要因です。実際には、住民同士の協力関係、行政の支援、管理対象の性質、地域の経済状況なども影響します。重要なのは、人口が多い地域なら維持でき、少ない地域なら維持できないという単純な関係ではなく、必要な仕事の量と、それを担うために確保できる人員・財源との均衡です。

自治会改革は何から始めるべきか

 人口減少地域で自治会の運営方法を見直す場合、最初から組織の統合や解散を議論する必要はありません。まず、現在行っている活動と、その活動に必要な時間や費用を明らかにすることが現実的です。

 最初の段階では、年間行事、共同作業、役員業務、管理施設を整理し、それぞれについて実施回数、参加人数、作業時間、費用、必要性を確認します。この段階で、慣例として続けているだけの作業や、他の仕事と重複している業務が見つかる可能性があります。次に、住民が担うべき仕事と、行政や土地所有者などが本来責任を負う仕事を整理します。道路や水路、ごみ集積所などについて管理主体が不明確な場合は、関係する自治体の担当部署と確認することが重要です。

 そのうえで、活動の縮小、作業頻度の変更、設備の改良、外注、周辺自治会との共同化などを比較します。特に、住民の安全に関わる草刈りや倒木処理などについては、慣例だけで作業を継続するのではなく、必要性と危険性を確認したうえで実施方法を決める必要があります。

 さらに、5年後、10年後の加入世帯数や作業参加可能人数を複数の条件で想定し、現在の運営方法を続けた場合にどの程度の負担が生じるかを確認します。こうした見直しを定期的に行えば、活動が維持できなくなってから急いで対応するのではなく、まだ参加者や財源に余裕がある段階から、少しずつ運営方法を変えることができます。

自分の地域で確認しておきたいこと

 自治会の将来を考える際には、まず10年前と現在で加入世帯数がどの程度変化したか、実際に共同作業へ参加している人が何人いるか、参加者の高齢化や固定化が進んでいないかを確認することが重要です。また、役員が毎年交代できているか、同じ人が長期間役員を務めていないか、現役世代が参加しやすい活動時間になっているかも確認する必要があります。

 共同作業については、年間何回草刈りを行っているか、作業に何人・何時間必要か、ごみ集積所や集会所をいくつ管理しているか、作業回数を減らせる場所はないか、外注すると年間いくら必要かを調べることが考えられます。財政面では、自治会費収入や積立金がどの程度あり、管理施設の修繕費や外注費を将来も負担できるかを確認することが重要です。さらに、隣接する自治会と共同化できる仕事がないか、行政や民間事業者による代替手段が存在するかも検討する必要があります。

 そして、最も重要なのは、現在共同作業を担っている住民が、今後10年、20年と年齢を重ねた場合にも、同じ活動を安全に続けられるかという点です。この問いに対して明確な見通しを持てない場合は、従来の活動を前提とするのではなく、必要な仕事の量や実施方法を見直す時期に来ている可能性があります。

これから必要なのは自治会という組織を守ることだけではない

 自治会・町内会は、地域住民の生活を支えるために形成されてきた組織です。しかし、組織を存続させること自体が最終的な目的ではありません。住民にとって重要なのは、安全に道路を通行できること、ごみを適切に排出できること、災害時に必要な情報が届くこと、生活環境が維持されること、困ったときに相談や協力ができる仕組みがあることです。

 現在、それらの機能を自治会が担っているのであれば、自治会は地域生活にとって重要な存在です。しかし、人口減少によって現在の組織形態では維持できなくなるのであれば、自治会の統合、行政との共同管理、民間委託、地域横断的な組織、個人単位の生活支援サービスなど、別の方法を検討する必要があります。

 ここで重要なのは、自治会活動を維持することと、地域生活に必要な機能を維持することを区別する考え方です。自治会が従来どおり存続していても、草刈りやごみ集積所の管理が十分に行われなければ、生活環境の維持という目的は達成できません。反対に、自治会の組織形態が変化しても、必要な地域機能が維持されていれば、住民生活の面からは一定の成果が得られたと評価できます。

 この意味で、人口減少時代の自治会改革は、単に組織の存続を考える問題ではなく、地域の生活基盤をどのような方法で維持するかという公共政策上の問題でもあります。

現実的な結論~引き継ぐべき仕事そのものを減らす

 人口減少地域の自治会・町内会が30年後も維持できるかという問いに対して、現時点で一律の答えを出すことはできません。外房では、勝浦市、いすみ市、御宿町、大多喜町などで2050年までに人口が大きく減少すると推計されており、地域活動の担い手をどのように確保するかは長期的な課題です。また、勝浦市では2021年の段階で、住民が担う道路沿いの草刈りについて、将来の継続を懸念する議論が行われていました。

 しかし、人口推計だけから個々の自治会の存続年数や活動停止の確率を求めることはできません。将来を考えるには、自治会単位の世帯数、実際に作業できる人数、必要な作業時間、管理対象の規模、財政状況などを把握する必要があります。人口が減少しても、道路や水路、ごみ集積所、集会施設などの管理対象が同じ速度で減るとは限りません。その一方で、共同作業に参加できる人数は、高齢化や生活環境の変化によって、総人口とは異なる速度で減少する可能性があります。

 このような地域では、加入者を増やすことや、若い世代に参加してもらうことだけで問題を解決しようとしても限界があります。必要なのは、管理対象を整理し、作業回数を見直し、役職や行事を合理化し、事務作業を電子化し、必要に応じて外注や行政との役割分担を進めることです。自治会の統合や周辺地域との共同化も、その一つの選択肢になります。

 同時に、住民が実際に作業しているという事実と、法律上の管理責任を負っているということは区別しなければなりません。行政、土地所有者、自治会、利用者などの役割を明確にしたうえで、住民の任意の協力に依存する範囲を検討する必要があります。そして、将来の持続可能性を評価する際には、単純な人口減少率よりも、必要な作業量と、実際に確保できる作業能力との関係に注目することが重要です。

 例えば、年間に必要な作業時間が1,000人・時間ある地域で、住民が安全に確保できる時間が500人・時間まで減少すれば、従来の方法では仕事の半分しか担えない可能性があります。この場合、参加を呼びかけるだけでなく、必要な作業時間そのものを削減するか、不足する部分を別の方法で補う必要があります。

 人口減少が進んだ後も、草は伸びます。ごみは出ます。道路や水路は残り、災害が発生する可能性もなくなりません。だからこそ、これからの自治会・町内会に求められるのは、昔から続けてきた仕事をすべて守ることではなく、少なくなった住民でも、安全に、無理なく、必要な地域機能を維持できる仕組みへ変えていくことです。

 そのためには、次世代に仕事を引き継いでもらうことだけでなく、次世代が引き継がなければならない仕事そのものを減らすことが重要になります。30年後の自治会を考えるということは、30年後も現在と同じ活動を続けられるかを問うことではなく、人口が減少した地域でも住民が生活を続けられるように、今から何を変えておくべきかを考えることではないでしょうか。

地域の課題を、自分の判断に置き換えて考える

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 地方のスーパーが閉店すると、「ネットスーパーを利用すればよい」「移動販売が来ればよい」「車で隣町まで行けばよい」と考えられがちです。しかし、実際の生活における「買い物」は、単に食品を販売する店がどこかに存在していれば成立するものではありません。

 食料品や日用品を継続的に購入するためには、店舗や販売場所まで移動できること、必要な商品を選べること、価格を負担できること、購入した商品を自宅まで運べること、注文や支払いができること、そして必要な曜日や時間に商品を入手できることなど、複数の条件がそろう必要があります。スーパーが一軒なくなったとしても、別の方法によってこれらの条件を満たせれば生活を維持できますが、反対に、ネットスーパーや移動販売といったサービスが地域に存在していても、配達区域、巡回曜日、商品数、送料、最低注文額、予約方法、支払方法などが住民の生活条件に合わなければ、「実際に買い物できる地域」とは言い切れません。

 この記事では、御宿町、勝浦市、いすみ市など外房地域を中心に、スーパーが減少・撤退した場合の買い物を、移動販売、宅配、公共交通、自家用車、家族送迎などに分解し、生活者の立場から考えます。

最初に結論~問題は「スーパーがあるか」だけではない

 人口減少地域でスーパーが減ったとしても、買い物を続ける方法そのものがなくなるとは限りません。しかし、一つの代替手段だけでスーパーが担っていた機能を完全に置き換えることは難しいと考える方が現実的です。移動販売には、自宅近くまで販売車が来るため移動負担が小さく、商品を実際に見ながら選べるという利点があります。宅配には、米や飲料など重い商品を自宅まで運んでもらえる利点があり、公共交通があれば店舗まで移動でき、自家用車であれば時間、購入量、店舗選択の自由度が高くなります。

 一方、それぞれに弱点があります。移動販売には曜日や品ぞろえの制約があり、宅配には配送区域や料金、注文方法の制約があります。公共交通には待ち時間や運行時間帯の問題があり、自家用車は運転できることを前提とします。したがって人口減少地域で重要なのは、「スーパーを一軒残せるか」だけではなく、住民が複数の方法を組み合わせながら、生鮮食品や日用品を継続的に入手できる仕組みを維持できるかという問題です。

 買い物環境は、単純な足し算の数式で評価できるものではありません。例えば店舗へ行けても価格を負担できなければ購入できず、宅配サービスがあっても注文方法を利用できなければ使えません。そのため、移動可能性、商品入手可能性、価格負担可能性、運搬可能性、注文・支払可能性、曜日・時間の利用可能性といった複数の条件を確認し、その中に重大な弱点がないかを見る方が実態に近いと考えられます。

外房では「自動車を使えるか」が大きな分岐点になる

 外房の買い物問題を考えるうえで、特に重要なのが自動車です。千葉県が高齢者について整理した資料では、地方部で日常の買い物に「自動車・バイクを自分で運転する」と回答した割合は59.9%、「家族・近所の車に同乗、送迎」は19.7%でした。ただし、この二つを単純に足して「約8割が自動車を利用している」とすることはできません。調査は複数の移動手段を回答できる形式であり、同じ人が自分で運転する場合と家族に送迎してもらう場合の両方を回答している可能性があるためです。

 それでも、自ら自動車・バイクを運転するという回答が約6割に達し、家族などによる送迎も一定割合存在することから、千葉県地方部の買い物が自動車に強く支えられていることは読み取れます。一方、同じ資料ではバス3.4%、電車1.4%となっており、公共交通だけで日常の買い物を支えている人は比較的少数です。

 農林水産政策研究所の研究でも、食料品店までの距離が長くなるほど買い物に不便や苦労を感じる人が増える一方、自分で自動車を運転できることは、その不便を大きく軽減する要因となることが示されています。国が用いる「食料品アクセス困難人口」の考え方でも、単純な店舗距離だけではなく、自動車を利用できるかどうかが重要な条件として扱われています。つまり地方の買い物問題では、「スーパーまで何キロメートルあるか」だけではなく、「その人がそこまで自力で移動できるか」が大きな意味を持ちます。

 現在は問題なく10キロメートル先のスーパーへ行ける人でも、免許返納、病気、視力や身体機能の低下などによって運転できなくなれば、同じ家に住み続けていても買い物環境は突然変化します。そのため、自動車を所有していることと、将来にわたって買い物に困らないことは同じではありません。

外房では高齢化を無視できない

 この問題が外房で特に重要なのは、人口減少だけではなく高齢化が同時に進んでいるためです。千葉県の2026年4月1日現在の年齢別人口資料によると、市町村別平均年齢は御宿町が62.1歳で県内最高となっており、勝浦市も58.6歳と高い水準にあります。前年の2025年には御宿町61.1歳、勝浦市58.2歳だったため、高齢化は現在も進行しています。

 御宿町の2026年7月31日現在の人口は6,609人、3,631世帯、勝浦市は2026年6月末現在で人口14,678人、7,976世帯となっています。人口規模そのものが大きくないうえ、高齢者の比率が高いことは、将来の買い物環境を考える際の重要な条件です。

 さらに、国立社会保障・人口問題研究所の2023年推計では、2020年から2050年にかけて、勝浦市の人口は16,927人から8,815人、いすみ市は35,544人から20,218人、御宿町は6,874人から4,381人へ減少すると推計されています。これは2020年国勢調査を基準にした将来推計であり、将来の実績値を確定するものではありませんが、人口規模が大きく縮小する可能性を示しています。減少率にすると、おおむね勝浦市48%、いすみ市43%、御宿町36%の減少です。

 人口が減れば地域全体の食料品需要や小売売上も縮小する可能性が高く、店舗経営にとって商圏人口の縮小は厳しい条件になります。ただし、「人口が減るから買い物問題も自然に小さくなる」と考えることはできません。地域全体の需要は減少しても、そこに住み続ける一人一人には引き続き食料が必要です。むしろ人口密度が下がるほど、店舗、販売車、配送車、公共交通などが一人の利用者を支えるために移動しなければならない距離が長くなり、一人当たりの供給コストが高くなる可能性があります。ここに人口減少地域特有の難しさがあり、利用者は減る一方、残った住民にサービスを届けるための距離や時間は必ずしも減りません。

移動販売は有力だが万能ではない

 スーパー撤退後の買い物手段として重要なのが移動販売です。いすみ市では、日常生活に必要な食料品や日用雑貨の購入が難しい住民を対象とした買い物支援が行われています。2024年6月から千葉薬品の「ヤックス移動販売スーパーらくちん便」が月曜日から金曜日まで市内を巡回し、さらに2025年7月から「とくし丸」も週5日、市内を巡回しています。

 移動販売の大きな特徴は、人が店舗へ移動するのではなく、商品を積んだ販売車が住民の近くまで来ることです。身体的な移動が難しくなった高齢者にとって、この仕組みは大きな意味を持ち、実際の商品を見ながら選べることも、インターネット通販にはない利点です。

 一方、移動販売車に積載できる商品数には限界があり、大型スーパーと同じ品ぞろえを再現することは難しく、毎日好きな時間に購入できるわけでもありません。利用者は巡回曜日や時間に生活を合わせる必要があります。さらに重要なのが事業の持続性です。いすみ市では以前からNPO(Non-Profit Organization・非営利組織)による移動販売が行われていましたが、市の過去の計画資料では、利用者の減少によって週5日5コースから週4日4コースへ変更された経緯が記録されています。

 この事例から直接分かるのは、利用者が減少すると運行規模そのものが縮小する場合があるということです。一般に移動販売では、人件費、燃料費、車両費、商品管理費などが必要になるため、住宅が広範囲に分散し、一か所当たりの利用人数や購入額が小さくなるほど採算条件は厳しくなります。つまり、「必要としている人がいる」ことと、「民間事業として長期的に維持できる」ことは別の問題です。

「移動スーパーが来れば解決」とは限らない

 例えば移動販売車が週1回来る地域を考えると、米、調味料、野菜、肉、魚、牛乳、パン、日用品などを計画的に購入できれば、日常生活のかなりの部分を補うことができます。しかし、急に必要になった食品、買い忘れた商品、大量購入したい商品、特定のメーカーや規格の商品など、すべてを移動販売だけで確保できるとは限りません。

 そのため現実には、移動販売に加えて、コンビニエンスストア、ドラッグストア、宅配、家族送迎などを組み合わせることになります。重要なのは、「移動販売車が来ているか」という一点ではなく、一週間あるいは一か月の生活に必要な食料・日用品を、無理のない負担で継続して調達できるかという視点です。

宅配は「商品を家まで運ぶ」点で強い

 宅配の大きな利点は、購入した商品を自宅まで運んでもらえることです。特に米、飲料、調味料など重量のある商品では効果が大きく、高齢者や身体機能が低下した住民にとって重要な手段になります。

 千葉県が茂原市で過去に実施した買い物弱者対策の実証事業では、利用者アンケート回答者のうち70歳代以上が63%を占めていました。この事業自体も、自家用車を持たない人や、重い商品を持ち帰ることが難しい高齢者などを主な対象として行われたものです。実際のアンケートでは、宅配を利用する理由として「無料で配達してくれるから」が45%、「自宅が遠いから」が32%、「買い物に行けないから」が16%、「買物商品が多くなったから」が13%などとなっていました。この結果からも、宅配は単なる利便サービスではなく、店舗までの距離や商品の運搬負担を補う機能を持っていることが分かります。

 ただし、宅配にも配達区域、最低注文額、送料、注文締切、配達曜日、支払方法、電話注文の可否などの条件があります。そのため、宅配サービスが地域に存在することと、すべての住民が実際に利用できることは同じではありません。

ネットスーパーだけでは解決しない

 人口減少地域の買い物問題では、「インターネットで注文すればよい」という意見もあります。ネットスーパーやインターネット通販は今後さらに重要な手段になると考えられますが、それだけですべての住民の問題を解決できるわけではありません。利用するためには、まず自宅が配送対象区域に入っている必要があり、そのうえで、インターネットを利用でき、端末を操作し、商品を画面から選択し、会員登録や認証を行い、支払いを済ませ、商品を受け取る必要があります。

 総務省の通信利用に関する統計では、インターネットを利用した「商品・サービスの購入・取引」の割合は、70~74歳で41.1%、75~79歳で27.6%、80歳以上では20.4%となっています。年齢が上がるほど利用割合は低くなっています。しかも、インターネットを利用できることと、ネットスーパーで商品の検索、注文、認証、決済までを一人で安定して行えることは同じではありません。会員登録、パスワード管理、クレジットカードや電子決済、画面上の商品選択などが利用上の障壁になる人もいます。

 さらに人口密度が低い地域ほど、一件の注文を届けるための移動距離が長くなりやすくなります。人口減少地域では「店舗へ行きにくいから宅配が必要になる」一方、「注文が少なく住宅が分散しているため宅配の採算が悪化する」という矛盾が生じます。

公共交通でスーパーへ行く方法

 もう一つの方法は、商品を住民へ届けるのではなく、人を店舗へ運ぶことです。いすみ市では市民乗合タクシーが運行されています。2026年9月時点の制度でも、事前予約によって運行区域内の自宅などから目的地まで移動でき、料金は大人一人1回300円です。月曜日から金曜日まで運行し、複数の予約が入った場合には乗り合わせとなります。

 勝浦市でもデマンドタクシーが運行されており、商業施設、医療機関、金融機関などへの移動手段として利用されています。また御宿町では、勝浦市のデマンドタクシーを御宿町内の共通乗降場所まで乗り入れる仕組みが導入され、勝浦市側の商業施設や医療機関などへ移動できる範囲が広がっています。

 この方向性は重要ですが、公共交通が存在することと、買い物手段として十分実用的であることは別に考える必要があります。自宅から乗車し、スーパーへ行き、買い物をし、帰りの便を待って帰宅するまでには一定の時間がかかります。自家用車なら30分から1時間程度で済む買い物が、予約、乗り合わせ、待ち時間などを含めると数時間になる場合も考えられます。そのため公共交通を評価するときには、「スーパーまで行けるか」だけではなく、予約のしやすさ、運行曜日、待ち時間、所要時間、運賃、帰宅までの時間を含めて考える必要があります。

買い物では「運べる量」も重要

 公共交通による買い物で見落とされやすいのが、購入後の商品を自宅まで運ぶ問題です。例えば、米5キログラム、牛乳、ペットボトル飲料、野菜、肉、魚、トイレットペーパーなどを一度に購入すれば、重量も容積も相当なものになります。健康な人が自家用車で買い物をする場合には大きな問題にならなくても、高齢者が鉄道やバスを利用し、それを自宅まで持ち帰るとなれば負担は大きくなります。

 つまり交通政策では、「人が店舗へ到達できるか」と「購入した商品を自宅へ持ち帰れるか」という二つの問題を分けて考える必要があります。この意味で、人を商品まで運ぶ仕組みと、商品を人まで運ぶ仕組みには、それぞれ異なる役割があります。

コンビニエンスストアやドラッグストアはスーパーの代わりになるのか

 スーパーがなくなった地域でも、コンビニエンスストアやドラッグストアが残っていれば、一定量の食品や日用品を購入できます。近年は食品販売を強化するドラッグストアも増えています。しかし、スーパー、コンビニエンスストア、ドラッグストアでは、商品構成や価格体系が異なり、弁当、飲料、菓子、冷凍食品、加工食品などを確保できても、鮮魚、精肉、野菜などの生鮮食品を幅広く選べるとは限りません。

 また、同じ食品であっても容量、価格、品種、特売の有無などが異なるため、「食品を販売している店舗がある」というだけで、従来と同じ食生活を維持できるとは限りません。重要なのは店舗数そのものではなく、住民が必要とする食品群を、継続的かつ負担可能な価格で取得できるかです。

家族送迎は「無料」ではない

 地方では、高齢の親を家族が車でスーパーへ連れて行くことも珍しくありません。家族送迎は行政の公共交通支出として表面化しないため、低コストの方法に見えることがあります。しかし実際には、家族の時間、ガソリン代、車両維持費、待ち時間、仕事や家事の調整といった負担が生じています。

 例えば、高齢の親を週1回スーパーへ連れて行き、往復と買い物で2時間かかるとすると、年間では2時間×52週で104時間になります。これは単純計算ですが、8時間を1日とすれば13日分に相当します。したがって、「行政支出が発生していないこと」と「社会的費用が存在しないこと」は同じではなく、高齢者本人の負担だけでなく、家族が無償で負担している時間や移動コストまで含めて考える必要があります。

最も弱いのは「単一手段依存」の地域

 買い物環境を考えるうえで危険なのは、一つの方法だけに依存することです。例えば、自動車だけに依存している地域では、免許返納や病気によって運転できなくなると生活条件が急変します。移動販売だけなら、事業者の撤退や運休日に影響を受けます。家族送迎だけなら、家族の転居や就労状況の変化によって利用できなくなる可能性があります。ネットスーパーだけなら、配送区域の変更やデジタル利用能力の問題が生じます。

 一方で、移動販売、宅配、近隣店舗、デマンド交通、家族送迎など複数の方法が存在すれば、一つの手段が使えなくなっても他の方法で補える可能性があります。これは地域の買い物環境に「冗長性」を持たせるという考え方であり、冗長性とは、一つの手段が失われても、別の手段によって生活機能を維持できる状態を意味します。

国の政策も「店舗の有無」から「食品アクセス」へ広がっている

 買い物問題を店舗数だけで考えないという方向は、国の政策とも一致しています。2024年に改正された食料・農業・農村基本法では、「食料の円滑な入手の確保」が政策上の重要事項として位置付けられました。地理的条件や経済的条件などによって食料を入手しにくい人が生じないよう、国や地方公共団体、食品事業者などが必要な施策を進める考え方です。

 農林水産省も現在、食品へのアクセスを、単に店舗までの距離という物理的条件だけでなく、経済的な問題を含めて捉えています。全国の市町村を対象とした調査でも、約9割の自治体が食品アクセス対策について「必要」または「ある程度必要」と回答しています。つまり、「スーパーがあるか」ではなく、「住民が実際に必要な食品を入手できるか」という視点は、外房だけの特殊な問題ではなく、全国的な政策課題になっています。

30年後に重要なのは「店舗数」より買い物機能

 今後30年間の外房を考える場合、「スーパーを何店舗残すか」という発想だけでは十分ではないでしょう。人口が大きく減少する地域では、すべての店舗を現在と同じ規模、同じ営業形態で維持することが難しくなる可能性があります。

 その場合には、大型店舗、地域拠点店舗、小型店舗、移動販売、宅配、コンビニエンスストア、ドラッグストア、公共交通を、別々の事業としてではなく、一つの生活インフラとして考える必要があります。例えば、一つの大型スーパーを地域内に維持できなくても、周辺の拠点店舗から移動販売や宅配を行い、必要に応じてデマンド交通で住民を店舗まで運ぶことで、食品アクセスを維持できる可能性があります。逆に、大型店舗が一軒残っていたとしても、自動車を運転できない住民がそこへ行く方法を持たなければ、生活機能としては十分とはいえません。

店を残す政策と買い物を残す政策は違う

 スーパーへの補助などによって店舗そのものを残す方法もあり、地域によっては、それが最も効率的な場合もあるでしょう。しかし利用者が長期的に減少する地域では、店舗の固定費を支え続ける政策が常に最適とは限りません。一方で、採算が合わないからという理由だけで店舗閉鎖を受け入れれば、自動車を利用できない住民の生活が難しくなる可能性があります。

 したがって政策として比較すべきなのは、「店舗を残す費用」と「移動販売、宅配、公共交通などによって買い物機能を維持する費用」です。その際には、行政負担だけではなく、事業者負担、住民の金銭負担、家族の送迎負担、移動時間、待ち時間などを含めた社会全体の費用を見る必要があります。

現実的には「人を運ぶ」と「商品を運ぶ」の併用になる

 人口密度が低下していく地域では、一つの方法だけですべての住民を支えることは難しくなるでしょう。比較的元気で移動できる人には、デマンド交通、路線バス、家族送迎などを使って店舗へ行く方法があり、身体的に移動が難しい人には、移動販売や宅配の方が適しています。

 つまり地域全体としては、「人を商品まで運ぶ仕組み」と「商品を人まで運ぶ仕組み」を組み合わせることになります。どちらが常に優れているという問題ではなく、地域人口、住宅密度、利用者数、店舗までの距離、道路状況、利用者の身体状況によって、効率的な方法は変わります。

成立しやすい地域と成立しにくい地域

 買い物支援が比較的成立しやすいのは、一定数の利用者がいて住宅がある程度まとまっており、既存スーパーを商品供給拠点として利用でき、移動販売、宅配、公共交通、自治体が連携できる地域です。一台の販売車や配送車が短時間で複数世帯を回ることができれば、一世帯当たりの移動距離や運行コストを抑えやすくなります。

 反対に、人口が非常に少なく、住宅が広範囲に分散し、道路距離が長く、利用者一人当たりの購入額が小さく、商品供給拠点となる店舗も遠い地域では、サービスの維持は難しくなります。この場合には、「需要は確実に存在するのに、民間事業としては採算が取れない」という状態が起こり得ます。そのため、「必要なら民間企業が参入するはずだ」という市場原理だけでは解決できない地域が存在し、食料へのアクセスが生活に不可欠な機能である以上、採算性と公共性をどこまで分担するかが行政上の課題になります。

外房について、まだ分からないこともある

 ここまでの公的資料から、外房で人口減少、高齢化、自動車依存が進み、移動販売やデマンド交通などの代替手段が重要になっていることは確認できます。しかし、「外房のどの地域で、どの程度買い物が困難なのか」まで正確に判断するには、さらに細かな地域データが必要です。

 例えば、御宿町、勝浦市、いすみ市について、最寄り食料品店から500メートル以上離れて暮らす高齢者が何人いるのか、そのうち自動車を利用できない人が何人いるのか、移動販売の停車場所からどの範囲に何人が住んでいるのか、各宅配サービスがどの地域まで配送しているのか、デマンド交通を使って買い物すると実際に往復何分かかるのか、といった情報が必要です。

 農林水産政策研究所は、店舗までの距離や高齢人口などを用いた食料品アクセスマップを整備しています。こうした地理的データと、現在の店舗、移動販売ルート、宅配区域、公共交通を重ね合わせれば、外房の食品アクセスをさらに定量的に評価できます。したがって、現時点で確実に言えるのは、「外房全体で買い物ができなくなる」ということでも、「移動販売があれば問題は解決する」ということでもありません。地域ごとに条件が大きく異なるため、集落や地区単位で評価する必要があります。

買い物環境を見るチェックリスト

 地方へ移住する場合や、高齢期の住まいを考える場合には、現在の最寄りスーパーまでの距離だけを見るのでは不十分です。自動車を運転できなくなった状態を前提として、最寄りスーパーまでの距離、徒歩で利用できる店舗、移動販売の有無と巡回曜日、宅配サービスの配送区域、配送料、最低注文額、電話注文の可否、インターネット注文だけなのか、生鮮食品を購入できるか、公共交通でスーパーへ行けるか、帰宅便までどれだけ待つか、重い商品を持ち帰れるか、家族送迎が必要か、さらに家族が将来遠方へ転居しても生活できるかまで確認する必要があります。

 特に重要なのは、「現在、自動車を運転できる生活」ではなく、「自動車を運転できなくなった生活」を一度具体的に想定してみることです。

外房の買い物問題から見えてくること

 外房では人口減少と高齢化が同時に進んでいます。人口が減れば、小売店にとって商圏人口と売上規模は縮小し、店舗経営の条件は厳しくなります。一方、そこに暮らし続ける住民一人一人にとって、食料を購入する必要性がなくなるわけではありません。むしろ人口密度が低下することで、一人当たりの配送や移動の効率が悪くなる可能性があります。

 このため今後重要になるのは、大型スーパーを現在と同じ形で残し続けることだけではありません。店舗、移動販売、宅配、公共交通、地域の小売店、コンビニエンスストア、ドラッグストアなどを組み合わせ、少ない人口でも食品へのアクセスを維持できる地域構造へ変えていくことが求められます。

現実的な結論

 スーパーが撤退した地域でも、生活を続けること自体は可能です。しかし、そのためには複数の条件が必要であり、移動販売だけ、ネットスーパーだけ、公共交通だけ、家族送迎だけで解決するわけではありません。それぞれに長所と弱点があるため、地域の人口、住宅分布、高齢化、店舗配置に応じて複数の手段を組み合わせる必要があります。

 そして人口減少地域で本当に問うべきなのは、「スーパーが何軒あるか」ではなく、「自動車を運転できなくなった住民でも、必要な食品を無理のない価格、時間、身体的負担で継続的に入手できるか」ということです。店舗数が減ることと、買い物という生活機能まで失われることは同じではありません。

 これからの地域政策では、店舗そのものを守るという発想だけでなく、住民が食品へアクセスできる仕組み全体を守るという考え方が必要になります。30年後の外房で重要なのは、「昔と同じ店舗網を何軒残せたか」ではなく、人口が減り、高齢化がさらに進んだとしても、必要な食品を必要な人へ届ける仕組みを維持できたかではないでしょうか。

地域の課題を、自分の判断に置き換えて考える

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※本記事は2026年10月8日現在の情報に基づき、書店数、出版市場、地域の書店・図書館の動向、制度上の位置づけを再確認したうえで、統計的・経済的な考察を加えて更新しました。

はじめに~町から本屋が消えることの意味

 地方では、「以前はあった町の本屋がなくなった」という話を聞くことが珍しくなくなりました。書店の閉店は、単に買い物をする場所が一つ減るという問題ではありません。実際に本を手に取って選ぶ機会が失われ、子どもが新しい本と出会う場所が減り、高齢者や自動車を利用できない住民にとっては、読書そのものが不便になる可能性があります。千葉県の外房地域でも、書店の状況は市町村によって異なります。茂原市やいすみ市などには現在も書店がありますが、すべての自治体に大型書店が存在するわけではなく、書籍の購入先が生活圏の中心都市へ集まる傾向も考えられます。

 一方、公共図書館については、2025年3月に茂原市立図書館が商業施設へ移転し、2026年7月にはいすみ市で初めて市立図書館が開館するなど、単純な施設縮小とは異なる動きも起きています。この問題を考えるときには、民間書店と公共図書館を区別する必要があります。書店は販売による収益を確保しなければ存続できませんが、公共図書館は社会教育や情報提供のために自治体が設置・運営する施設であり、経営上の目的も財政上の仕組みも異なります。また、現在ではインターネット通販、電子書籍、図書館間の相互貸借など、本を入手する経路も多様化しています。

 本記事では、外房の長生・夷隅地域を主な対象とし、生活圏や比較対象として館山市・鴨川市などの安房地域も取り上げます。全国の書店数と出版市場の変化を確認したうえで、地域書店の採算性、公共図書館の役割、人口減少、高齢化、交通条件、電子資料の普及を総合的に検討し、今後の外房で本へのアクセスを維持するためには何が必要なのかを考えます。

最初に結論~書店と図書館は同じようには減らない

 今後の外房では、民間書店については人口規模の大きい中心都市や広域商圏への集中が進む可能性があります。一方、公共図書館や公民館図書室については、自治体の政策や財政判断によって維持・再編され、施設の集約と地域サービスの分散を組み合わせる方向が有力な選択肢になると考えられます。ただし、これは現在の統計と制度から導いた見通しであり、個々の書店や図書館の存続を予測したものではありません。

 重要なのは、地域に書店や図書館が存在するという事実だけで、読書環境が十分だとは判断できないことです。書店があっても欲しい本が置かれていない場合があり、図書館があっても自宅から遠く、開館時間や利用資格が合わなければ、十分に利用できない住民が生じます。反対に、小規模な図書室であっても、県立図書館や周辺自治体との連携が機能していれば、施設内の蔵書を超える資料へアクセスできます。したがって、本記事では、地域の読書環境を「書店の数」や「図書館の数」だけではなく、住民が読みたい本を知り、探し、購入または借り受け、実際に利用できる機会として捉えます。書店、公共図書館、公民館図書室、図書館間貸借、通販、電子書籍は、それぞれ役割と利用条件が異なるため、単純に施設数や蔵書数を足し合わせるだけでは正確な評価になりません。

全国の書店数は22年間で半分以下になった

 日本出版インフラセンターの書店マスタを基にした出版科学研究所の統計によると、全国の登録書店数は2003年度の20,880店から、2024年度には10,417店まで減少しました。さらに2025年度末、すなわち2026年3月末時点では9,993店となり、登録書店数が1万店を下回りました。2003年度と2025年度末を比較すると、減少した店舗数は10,887店で、減少率は約52.1%です。現在の店舗数は2003年度の約47.9%に相当するため、全国の登録書店数は、この22年間で半分以下になったことになります。また、2024年度末から2025年度末までの1年間でも424店減少しており、減少率は約4.1%でした。

年度 全国の登録書店数
2003年度 20,880店
2010年度 16,966店
2015年度 14,468店
2020年度 12,343店
2023年度 10,918店
2024年度 10,417店
2025年度 9,993店

 この統計で注意したいのは、登録書店数が日本全国の書店を完全に網羅した実地調査の店舗数とは限らないことです。それでも、同じ登録体系における長期的な減少は明確であり、町の書店を取り巻く環境が構造的に変化していることを示しています。もちろん、この全国統計を使って「外房の書店も同じ割合で減った」と判断することはできません。地域別の実態を正確に分析するには、同じ定義で把握した店舗数を過去から現在まで追跡する必要があります。しかし、全国的に長期間の減少が続いていることから、人口減少地域で書店の維持が重要な課題になるという問題設定には十分な合理性があります。

紙の出版市場も縮小しているが、すべての本が同じように減っているわけではない

 書店数が減少している背景には、人口動態だけではなく、出版市場そのものの変化があります。出版科学研究所の推計によると、2025年の紙と電子を合わせた出版市場は1兆5,462億円で、前年比1.6%減少しました。このうち紙の出版物は9,647億円で、前年より4.1%減少し、年間市場規模が1兆円を下回っています。一方、紙の出版物を内訳で見ると、書籍は5,939億円で前年とほぼ同水準を維持したのに対し、雑誌は3,708億円で前年比10.0%減少しました。電子出版市場は5,815億円と前年比2.7%増加していますが、そのうち5,273億円は電子コミックであり、電子市場の拡大が一般書籍や専門書の利用機会の拡大を同じ程度に意味するわけではありません。

2025年の出版市場 推定販売金額 前年比
紙の書籍 5,939億円 ほぼ横ばい
紙の雑誌 3,708億円 10.0%減
紙の出版物合計 9,647億円 4.1%減
電子出版物 5,815億円 2.7%増
紙と電子の合計 1兆5,462億円 1.6%減

 ここで、販売金額と販売数量を区別する必要があります。売上金額は平均販売単価と販売数量によって決まるため、書籍の値上げによって市場金額が維持される場合もあります。紙の書籍市場がほぼ横ばいだったという事実だけでは、販売冊数や読書人口が増えているとは判断できません。特に地方書店の経営にとって重要なのは、雑誌需要の減少です。かつて町の書店では、週刊誌、月刊誌、漫画雑誌、学習雑誌などを定期的に購入する顧客が、継続的な来店を支えていました。こうした購入習慣が変化すると、雑誌そのものの売上が減るだけでなく、来店時に別の商品を購入する機会も減少します。出版市場の変化は、本の購入場所や利用頻度を通じて、書店の経営基盤に影響すると考えられます。

書店の閉店を人口減少だけで説明してはいけない

 地方書店の撤退を、人口減少による顧客数の減少だけで説明するのは不十分です。人口が減っても、住民1人当たりの書籍購入額が増えれば地域全体の需要は維持される可能性がありますし、人口が比較的安定している地域でも、通販や電子書籍への移行によって実店舗の売上が減ることがあります。書店の経営には、書籍・雑誌・文具などの販売収入に対して、仕入れ関連費用、人件費、賃借料、光熱費、物流費、在庫管理費などが発生します。特に人件費や家賃など、売上が少なくても一定額が必要になる固定費は、小規模店舗の存続可能性を左右します。

 損益分岐点を単純化すると、年間の固定費を限界利益率で割ることで、必要な年間売上高を求められます。限界利益率とは、売上高から売上に応じて変化する費用を差し引いた割合のことであり、一般的な粗利益率と必ずしも同じではありません。例えば、年間固定費が1,000万円で、限界利益率を20%と仮定した場合、損益分岐点となる年間売上高は5,000万円です。年間300日営業すると、1日当たり約16万7,000円の売上が必要になります。これは外房の実店舗の経営数値ではなく、固定費と利益率によって必要な販売規模がどの程度変化するかを説明するための仮定です。

 実際の経営では、書籍と文具の利益率の違い、学校教材の納品、返品条件、在庫負担、店舗所有の有無なども関係します。さらに、地域内に本を購入する住民が一定数存在しても、その需要が複数の書店、インターネット通販、電子書籍などに分散していれば、個々の店舗に十分な売上が集中するとは限りません。このため、人口規模だけから書店の採算性を判断することはできません。重要なのは、住民数に加えて、購買頻度、購入単価、実店舗を選ぶ割合、競合店舗、商圏の広がりを検討することです。

外房の書店は実際にどうなっているのか

 外房とその周辺には現在も書店が存在します。茂原市には蔦屋書店茂原店があり、いすみ市にも土屋鍾文堂など、地域の需要を支える書店があります。館山市や鴨川市にも書籍の購入先が存在しており、「外房や南房総にはもう書店がない」という認識は正確ではありません。ただし、店舗の存在と地域の書店環境が充実していることは別問題です。小規模な書店と大型総合書店では、店頭に置けるタイトル数、専門書の取り扱い、新刊の選択肢、営業時間などが異なります。さらに、同じ地域に書店が存在していても、自宅からの距離や交通手段によって実際の利便性には大きな差が生じます。

 地域の状況を示す具体例として、文教堂茂原店は2026年7月5日の営業をもって閉店しました。全国の書店数減少を抽象的な問題として捉えるだけではなく、茂原市でも実際に店舗の撤退が起きていることは注目すべき事実です。ただし、この1店舗の閉店だけで、茂原市全体の書籍需要やすべての書店の経営状況を判断することはできません。また、小規模な自治体に書店が存在する場合でも、教科書や文具を中心に扱う店舗と、一般書籍を広く扱う店舗では地域に提供する機能が異なります。地域別の書店数を比較する際には、店舗の有無だけでなく、取り扱い商品、取り寄せサービス、一般客への販売形態などを把握する必要があります。

 書店の開閉店や営業時間は変化するため、特定店舗の存続状況を長期間固定された情報として扱うことにも注意が必要です。地域の書店環境を継続的に分析するには、同じ条件で定期的に店舗情報を更新する仕組みが求められます。

小規模書店には大型書店とは異なる役割がある

 地方の小規模書店は、大型店より品揃えが少ないという理由だけで評価することはできません。学校向けの教科書や教材、学習参考書、文具、地域出版物の販売に加え、住民から注文を受けて本を取り寄せるなど、地域に密着した機能を担っている場合があります。特に学校教材の販売は、一般の店頭販売とは需要の発生方法が異なります。学校や教育機関との継続的な取引があれば、日々の来店客数だけに依存しない売上を確保できる可能性があります。一方で、特定の取引先への依存度が高い場合には、学校統廃合や契約条件の変更によって経営に影響が生じることも考えられます。

 また、地域書店には、通販では得にくい対面サービスや偶然の発見という価値があります。目的の本が決まっていなくても、棚を眺めることで知らなかった著者や分野に関心を持つことがあります。もっとも、インターネット上でも利用履歴に依存しない推薦や新しい本との出会いは可能であり、偶然の発見が書店だけの機能というわけではありません。地域書店の社会的な価値を認めることと、その店舗が採算上存続できることも区別しなければなりません。書店を文化的に重要な施設だと評価しても、それだけで継続的な売上が生まれるわけではなく、地域需要に合った事業構造を考える必要があります。

すべての町に大型書店を復活させることは現実的か

 人口規模の小さい自治体に大型総合書店を誘致する場合、町内人口だけでは十分な商圏を形成できない可能性があります。必要な売上を確保するには、周辺市町村からの来店、観光客の利用、学校や企業との取引なども含めて検討する必要があります。例えば、必要な年間売上高が5,000万円の店舗を仮定し、商圏内の住民がその店舗で年間平均5,000円の買い物をするとすれば、単純計算では1万人分の購買需要が必要です。ただし、実際には住民の全員が利用するわけではなく、一部の顧客が多額を購入する場合もあるため、これは商圏規模と売上の関係を考えるための例示にすぎません。

 今後の外房では、茂原市を中心とする長生地域、いすみ市・勝浦市などを含む夷隅地域、館山市・鴨川市を中心とする安房地域について、行政境界を超えた買い物行動を把握することが重要になります。これらは書籍購入圏を分析するための大まかな地域区分であり、実際の商圏が行政区域や従来の地域区分と完全に一致するわけではありません。また、中心都市に書店が集まることが経済的に合理的であっても、地域住民全体にとって望ましいとは限りません。中心都市まで移動できない人の不利益や、地域の小規模書店が失われることによる生活上の影響は、店舗経営の採算性とは別に評価すべき問題です。

公共図書館は民間書店とは制度が異なる

 公共図書館は、図書館法に基づく社会教育施設として、資料の収集、整理、保存、貸出、調査相談、情報提供などの役割を担います。民間書店とは異なり、資料の販売による利益の確保を主目的とする施設ではありません。公立図書館では、図書館法により図書館資料の利用について入館料その他図書館資料の利用に対する対価を徴収してはならないとされています。ただし、公立図書館に社会的な役割があることと、すべての市町村に独立した図書館の設置が一律に義務づけられていることは同じではありません。図書館法は公立図書館の運営などを定めていますが、すべての自治体が現在と同じ規模の図書館を維持しなければならないという制度にはなっていません。

 実際、外房やその周辺でも、市町村立図書館を設置している自治体がある一方、公民館や文化施設内の図書室を中心に読書サービスを提供している自治体があります。公民館図書室は、図書館法上の独立した図書館と同じ位置づけとは限りませんが、地域の資料貸出や学習支援の拠点として重要な役割を果たすことがあります。そのため、今後の公共図書館については、民間書店のように採算性だけで存廃を判断することは適切ではない一方、社会的に必要だからどの施設も現在の規模で維持できると考えることもできません。人口構成、利用状況、施設の老朽化、職員の確保、資料購入費、自治体財政などを総合的に考える必要があります。

外房の図書館・図書室には大きな地域差がある

 千葉県統計年鑑では、県内の公共図書館に関する蔵書数、貸出数などの統計が公表されており、2026年10月現在、2024年度分までの実績を確認できる状態にあります。これらの統計を地域別に比較することは重要ですが、公共図書館と公民館図書室の施設区分や集計対象を統一しなければ、正確な比較になりません。茂原市、館山市、鴨川市、南房総市などの市立図書館と、御宿町や長生郡の各町村にある公民館図書室では、施設規模や運営形態が異なります。大多喜町の天賞文庫のように、地域の歴史や資料の蓄積を担う図書館もあり、単純な蔵書冊数の比較だけでは各施設の役割を評価できません。

 原稿で取り上げていた2023年度の施設別蔵書数と貸出冊数は、2026年現在の状況を直接示すものではありません。特に、いすみ市では2026年7月に市立図書館が開館し、茂原市では2025年3月に施設が移転しているため、それ以前の統計と現在の施設運営を同じ条件で比較することはできません。また、施設別の過去の概数についても、統計原表との照合が完了していないものを確定値として掲載することは避ける必要があります。将来の評価では、蔵書数と貸出冊数だけでなく、住民1人当たりの貸出冊数、年間の新規購入冊数、蔵書の更新状況、予約資料の提供日数、実際の利用者数なども確認するべきです。貸出が少ない施設であっても、館内閲覧や学習、調査相談、地域資料の保存に利用されている場合があるため、貸出冊数だけでその価値を決めることは適切ではありません。

いすみ市では2026年7月に初めて市立図書館が開館した

 いすみ市では2026年7月1日、大原文化センター2階に「いすみ市図書館」が開館しました。これは市として初めての市立図書館であり、既存の施設を活用した再編・整備という点でも注目されます。それまでのいすみ市では、大原・岬・夷隅の公民館図書室が主な公共読書サービスを担っていました。新しい市立図書館の開館時間は午前9時から午後7時までで、岬・夷隅の公民館図書室は午前9時から午後5時までとなっています。図書・雑誌の貸出は、図書館と図書室を合わせて10冊、期間は3週間です。また、市内施設の蔵書を検索し、予約した資料を図書館や公民館図書室で受け取ることもできます。

 ここで重要なのは、新しい図書館が開館したという施設整備の事実だけではありません。大原に図書館機能を設けながら岬・夷隅の図書室を残し、蔵書検索や予約、受け取りを組み合わせたことによって、中央施設と地域拠点を連携させる仕組みが整備された点にあります。ただし、利用登録ができることと、あらゆる資料を同じ条件で取り寄せられることは異なります。いすみ市では、所蔵資料の予約に加えて、所蔵していない資料のリクエスト制度がありますが、未所蔵資料のリクエストは市内に住民登録のある人が対象です。また、他自治体から取り寄せた資料には通常とは異なる貸出期間が設定されています。このように、図書館ネットワークの利便性は、単に検索できる資料が多いことだけでは判断できません。利用資格、取り寄せに必要な期間、受け取り場所、貸出期間などを含めて評価する必要があります。

いすみ市の方式は人口密度の低い地域のモデルになるか

 いすみ市の方式は、市内のすべての地区に大規模な図書館を建設するのでもなく、中央図書館だけに機能を集約するのでもありません。比較的機能を充実させた中央施設と、既存の地域図書室を結び、資料とサービスを共有する仕組みです。人口密度が低く市域が広い自治体では、住民全員が中央施設へ直接出向くことを前提とするサービス設計には限界があります。そのため、近隣の図書室で予約資料を受け取れる仕組みには、移動負担を軽減できる可能性があります。特に高齢者や子ども、自動車を利用できない住民にとって、居住地に近い拠点が残される意味は大きいでしょう。

 しかし、この方式が実際に優れているかどうかは、開館したという事実だけで結論づけられません。再編前後の貸出冊数、利用者数、地区別の利用状況、予約・取り寄せ件数、運営費、利用者の満足度などを継続的に比較する必要があります。さらに、図書館開館による効果を厳密に分析するのであれば、人口構成や従来の貸出水準が似ている他自治体との比較も有効です。単純に開館前後の数値が増減しただけでは、図書館整備による効果なのか、人口変化や利用習慣の変化によるものなのかを区別できないためです。いすみ市の方式は、現時点で成功が実証されたモデルというよりも、今後の利用実績と費用を検証する価値が高い実践例として位置づけるのが適切です。

御宿町のような小規模自治体では図書館ネットワークが重要になる

 御宿町には独立した大規模な町立図書館ではなく、公民館内に図書室があります。公民館の公式利用案内では、図書室の貸出受付時間は午前9時から午後5時まで、貸出期間は2週間、冊数は1回5冊までで、町内の人を対象とする条件が示されています。こうした利用条件は、市立図書館を持つ自治体とは異なるため、施設があるかどうかだけでは読書サービスの水準を比較できません。御宿町を含む小規模自治体にとって重要なのは、自館の蔵書だけに頼らず、千葉県立図書館や他自治体の資料を利用できる仕組みです。千葉県では、市町村立図書館などの読書施設を通じて県立図書館の資料を取り寄せる相互貸借の制度が運用されています。

 この仕組みが利用できれば、町内の図書室に置かれていない資料でも、他の図書館から取り寄せられる場合があります。ただし、すべての資料が対象となるわけではなく、貸出制限や取り寄せに必要な期間、受け取り方法などは施設ごとに異なります。利用者が実際に必要な本を入手できるかどうかを確認することが重要です。小規模自治体にとって、大きな建物を新設し、すべての分野の本を自館で保有する方法が常に最適とは限りません。既存の図書室を維持しながら県立図書館や周辺自治体の資料を利用できる体制を整える方が、財政負担と利用機会の両面で合理的になる場合があります。ただし、その合理性を判断するためには、相互貸借による資料調達費、運搬費、職員の業務量、予約から受け取りまでの日数なども評価しなければなりません。施設の規模を小さくすることで建物の維持費が減っても、資料提供に必要な運営費が増える可能性があるためです。

茂原市では図書館を商業施設へ移転した

 茂原市立図書館は2025年3月21日、それまでの駅前のサンヴェルビルから、茂原ショッピングプラザアスモの2階へ移転しました。開館時間は午前10時から午後7時までで、商業施設の駐車場を利用できることなどが特徴です。図書館を商業施設に配置する方法には、買い物と図書館利用を一度の外出で済ませられるという利点があります。自動車利用が多い地域では、商業施設の駐車場を利用できることが来館の負担を軽減する可能性があり、家族で買い物をする際に子どもが図書館へ立ち寄る機会も考えられます。

 一方で、商業施設への移転によってすべての利用者の利便性が改善するとは限りません。以前の図書館を鉄道や徒歩で利用していた住民にとっては、移転によって移動時間が増える場合もあります。図書館の立地を評価するには、駐車場の利便性だけでなく、公共交通機関、徒歩、自転車などの利用条件も考える必要があります。また、商業施設内に公共図書館を置く場合には、建物の維持管理、賃借条件、施設全体の運営方針に影響を受ける可能性があります。仮に商業施設の機能が縮小した場合でも図書館を継続できるのか、長期的な運営上のリスクも検討する必要があります。茂原市の事例は、自動車依存のある地域における公共施設配置の一つの選択肢ですが、その効果を判断するには移転前後の利用者数や地区別のアクセス条件を比較することが不可欠です。

図書館を新しくすれば地域が活性化するとは限らない

 全国には、図書館を中心とした複合施設に多くの来館者を集めている自治体があります。しかし、図書館の建設や移転が、そのまま地域経済の活性化や人口増加につながると考えることはできません。新しい図書館には建設費や改修費のほか、職員費、資料購入費、システム運営費、光熱費、修繕費などが必要です。施設を整備した直後には話題性によって来館者が増える場合があっても、その後も継続して利用されるかどうかは別の問題です。

 地域政策として図書館を評価する場合には、整備直後の来館者数だけでなく、10年、20年という期間にわたる利用実績と維持管理費を考える必要があります。また、図書館の来館者が増えたとしても、それが地域の消費額や雇用、移住にどれだけ影響したのかは、別途検証しなければなりません。図書館は、必ずしも商業施設と同じ意味での経済的利益を生み出すために設置されるわけではありません。住民の学習機会、調査能力、情報へのアクセス、地域資料の保存など、直接的な売上に表れない便益もあります。そのため、経済的な波及効果が小さいという理由だけで図書館の価値を否定することも、来館者数が多いという理由だけで過大に評価することも適切ではありません。

図書館を評価するには蔵書数と貸出冊数だけでは足りない

 図書館の比較では、蔵書数や貸出冊数がよく使われます。これらは資料の規模や貸出サービスの利用状況を把握するための基本的な指標ですが、それだけで図書館の質や地域への貢献を測ることはできません。例えば、蔵書が20万冊ある図書館と5万冊の図書館を比較しても、前者が4倍優れているとはいえません。利用対象人口、地域の年齢構成、資料の新しさ、専門分野の充実度、開館時間、職員による調査支援などが異なるためです。また、蔵書数が多くても、古い資料が多く新刊の購入が少ない場合には、利用者の需要を十分に満たせない可能性があります。

 統計的な比較では、住民1人当たりの蔵書数や年間貸出冊数に加えて、蔵書回転率を確認する方法があります。蔵書回転率は年間貸出冊数を蔵書数で割った値であり、蔵書規模に対してどの程度の貸出が行われているかを示します。ただし、郷土資料や保存資料など貸出を主目的としない資料を多く保有する施設では、回転率が低くても資料の価値が小さいとは限りません。さらに、住民1,000人当たりの年間新規購入冊数、住民1人当たりの運営費、資料予約の充足率、開館日数、実際の利用者数なども組み合わせることで、施設の特徴を多面的に把握できます。

 人口減少地域では、住民1人当たりの数値だけが改善しても、実際のサービスが充実したとは限りません。例えば、貸出冊数が減少していても、それ以上の割合で人口が減っていれば、1人当たり貸出冊数は増加します。このため、総量と人口当たり指標を併用して判断する必要があります。

地方の図書館では「保有する資料」と「利用できる資料」を区別する

 小規模図書館や公民館図書室の評価では、自館の蔵書数だけでなく、相互貸借や電子資料を通じて実際に利用できる資料の範囲を考える必要があります。例えば、ある図書室の蔵書が2万冊だったとしても、県立図書館や周辺自治体から資料を取り寄せられるなら、利用者が入手可能な資料の種類は自館の蔵書より広くなります。ただし、相互貸借によって利用できる資料が増えても、近くの棚からすぐに借りられる資料と、数日以上かけて取り寄せる資料とでは利便性が異なります。

 また、自館の蔵書、相互貸借可能資料、電子資料の数を単純に加えると、同じ本が複数の施設に存在する場合に重複して集計される可能性があります。厳密には、利用資格や提供条件を満たす資料を重複なく数え、その資料を利用できるまでの時間も評価することが必要です。そのため、今後の地域図書館政策では、蔵書の絶対数だけでなく、住民が実際に利用できる資料の種類、提供までの日数、予約方法、受け取り場所を一体として考える方が合理的です。

電子書籍は地方の情報格差を縮小できるか

 電子書籍には、書店や図書館まで移動しなくても資料を利用できるという利点があります。自動車を利用できない人や遠隔地に住む人にとって、物理的な移動が不要になることは重要です。特に、文字の拡大や読み上げに対応した電子資料は、視覚的な負担を軽減できる場合があります。千葉県立図書館では電子書籍サービスが提供されており、2026年1月30日時点で5,613点の電子資料が利用可能と公表されています。県立図書館の資料貸出券と必要な利用登録があれば、所定の条件に従って自宅などから電子資料を利用できます。

 ただし、電子書籍であればすべての本を自由に読めるわけではありません。出版社との契約、資料の電子化状況、利用可能な端末、通信環境、認証方法などによって利用条件は異なります。紙で出版されている資料が必ず電子化されているわけでもなく、電子図書館が扱う資料の範囲は民間の電子書籍販売サービスとも異なります。高齢者についても、年齢だけを理由に電子書籍を利用できないと判断するのは適切ではありませんが、端末操作や利用登録、パスワード管理などに負担を感じる人が存在することは考慮する必要があります。逆に、移動に困難があっても電子資料を利用できる人には、従来より便利になる可能性があります。したがって、電子書籍の導入は、紙の本や対面サービスを廃止する理由ではなく、資料利用の選択肢を増やす方法として位置づけることが妥当です。

外房では高齢化と自動車利用の条件が重要になる

 外房で読書環境を考える際には、施設そのものの数よりも、住民がどのような交通手段で到達できるかが重要になる場合があります。自動車を日常的に利用している住民にとっては、10キロメートル程度離れた書店や図書館も日常の買い物先の一つかもしれません。しかし、自動車を運転できない住民にとっては、同じ距離でも公共交通の便数や乗り継ぎ、運賃などによって利用の難しさが大きく変わります。特に高齢化が進む地域では、運転免許の返納、身体機能の変化、家族による送迎の難しさなどによって、これまで利用できていた書店や図書館へ行きにくくなる可能性があります。ただし、高齢者のすべてが移動に困難を抱えているわけではなく、年齢階級だけで利用能力を決めつけることも適切ではありません。

 施設へのアクセスを定量的に評価するなら、自宅から一定時間内に到達できる住民の割合を把握する方法が考えられます。例えば、書店や図書館まで30分以内に到達できる人口割合を、自動車利用者と公共交通利用者に分けて比較することができます。30分という基準は分析のための仮定であり、実際には15分、30分、45分など複数の基準で比較すると、地域差がより明確になります。また、交通条件を調べる際には、道路上の距離だけではなく、バスや鉄道の運行本数、待ち時間、運賃、帰宅手段、施設の開館時間などを考慮する必要があります。書店や図書館が存在していても、帰りの公共交通が利用できない時間帯では、実際のアクセスは制約されるためです。このように考えると、外房の読書環境の問題は、文化施設の配置だけではなく、地域交通、高齢者福祉、公共施設再編とも関係することが分かります。

書店と図書館は競争相手なのか

 図書館で無料で本を借りられることが、書店の販売に影響するのではないかという議論があります。確かに、購入する予定だった本を図書館で借りることによって、販売需要の一部が減少する可能性はあります。しかし、図書館で作品を知ったことをきっかけに、同じ著者の別の本を購入する場合も考えられます。つまり、図書館と書店の関係には、購入の代わりに借りるという代替関係と、読書への関心を高めて購入を促すという補完関係の両方が存在し得ます。どちらの効果が大きいかは、利用者の属性、資料の種類、購入習慣、図書館の貸出方針などによって異なると考えられます。

 そのため、地域に図書館があることが書店の経営にとって必ず不利になるとも、図書館を整備すれば書店の売上が増えるとも断定できません。両者の関係を実証的に把握するには、図書館の利用状況と地域書店の販売動向を比較し、人口や所得、通販利用などの影響も考慮する必要があります。公共図書館と民間書店は、役割が異なる施設として共存を考える方が現実的です。地域全体で読書機会を維持するという目的は共有できても、書店の採算性と図書館の公共的な役割を同じ基準で評価することは避けるべきです。

地域書店と図書館の連携にはどの程度の効果があるか

 地域の図書館が地元書店から資料を購入することは、図書館にとっては資料調達であり、書店にとっては売上の一部になります。また、図書館で地域作家を紹介したり、読書会や読み聞かせを開催したりすることで、地域住民の読書への関心を高めることも考えられます。ただし、自治体が図書館用の資料を購入する際には、予算、契約手続き、価格条件、納入能力などを考慮する必要があります。地域書店の支援だけを目的として調達先を決めることは適切ではなく、公平性や経済性にも配慮しなければなりません。

 また、図書館が地元書店から本を購入したとしても、その購入金額だけで書店の固定費を賄えるとは限りません。地域書店の維持を目的とするなら、学校教材の販売、文具の取り扱い、一般書籍の注文販売、地域イベントとの連携など、複数の収益源を検討する必要があります。書店と図書館の連携は、地域で本に触れる機会を維持するという点では意味がありますが、それだけで書店の経営問題が解決するわけではありません。事業としての持続可能性は、実際の販売収入と必要経費によって判断する必要があります。

小規模書店を補助金で維持する政策には限界がある

 書店が地域にとって重要な存在であるとしても、公費を投入すれば必ず維持できるわけではありません。補助金によって一時的な経費負担を軽減できたとしても、補助が終了した後に継続的な売上を確保できなければ、長期的な存続は難しくなります。また、すべての地域書店を一律に支援する場合には、公共的な必要性、費用負担、事業者間の公平性などが問題になります。地域書店の文化的な役割を評価するとしても、一般の小売業と比較してなぜ支援が必要なのか、どのような住民利益が得られるのかを明確にする必要があります。

 政策の選択肢としては、単に赤字を補填する方法だけでなく、地域の読書機会を増やす事業への支援、学校や図書館との連携、空き店舗の活用、共同配送や注文販売の効率化なども考えられます。ただし、これらも地域の需要や運営能力によって成否が異なるため、一般的な成功事例をそのまま外房に当てはめることはできません。重要なのは、書店という事業者そのものの維持と、住民が本を購入できる機会の維持を区別することです。両者が一致する場合もありますが、人口減少地域では、より少ない費用で必要なサービスを提供する方法が存在する可能性もあります。

図書館の社会的価値と財政負担は両方評価する

 公共図書館についても、社会的に必要であることが、現在の施設規模や運営方法を無条件に維持する理由になるわけではありません。図書館には資料の貸出だけでなく、住民の学習機会、調査活動、子どもの読書支援、地域資料の保存、情報格差の縮小などの役割がありますが、それらを提供するためには継続的な財政負担が必要です。経済学的に考えれば、図書館の社会的な便益と、施設整備・運営に必要な費用を比較することが重要になります。ただし、資料利用価値、学習機会、地域資料保存などは異なる性質の便益であり、単純に数値を足し合わせて運営費から差し引けば、社会的価値が求められるわけではありません。

 厳密な費用便益分析では、評価できる便益を金銭的な価値に換算するか、非金銭的な成果を別の指標として評価する必要があります。例えば、同じ運営費でどれだけの住民が資料を利用できるか、どれだけの予約に対応できるか、移動困難な住民へのサービスがどの程度改善するかなどを比較する方法があります。図書館は赤字だから不要だとする考え方も、公共施設だから費用を考えなくてよいとする考え方も適切ではありません。限られた財源の中で、どのサービスを、誰に、どの程度提供するべきかを検討する必要があります。

図書館の役割を広げすぎることにも注意が必要

 近年、図書館に対して、読書や調査支援だけでなく、子育て支援、高齢者の居場所、観光案内、交流イベント、仕事や学習のための共有スペースなど、多様な機能を求める議論があります。複数の公共サービスを一つの施設に集めることには、利用者の移動負担を軽減し、施設を効率的に活用できる可能性があります。一方で、機能を増やすことによって図書館本来のサービスが弱くなれば、施設としての目的が曖昧になるおそれがあります。例えば、交流イベントが充実していても、必要な資料を探せず、専門的な調査相談に対応できなければ、図書館としての機能が十分とはいえません。

 図書館の基本的な役割は、資料を収集・保存し、住民が必要な情報へアクセスできるようにすることです。交流や学習の場としての機能を追加する場合でも、資料購入費や専門職員の配置が犠牲にならないように考える必要があります。人口減少地域では複合施設化が合理的な選択になる場合がありますが、施設に機能を集めること自体を目的とするのではなく、住民に必要なサービスが継続的に提供されるかどうかを判断基準にするべきでしょう。

今後の外房で現実的な読書サービスの配置

 ここまでの分析を踏まえると、外房で今後すべての自治体に大型総合書店を設置することは、人口規模や経営採算性からみて現実性が高いとはいえません。民間書店については、広域から一定の購買需要が集まる中心都市に店舗が立地し、小規模な町村では地域密着型の店舗や注文販売などが役割を担う形が考えられます。その際には、茂原市、いすみ市、勝浦市、館山市、鴨川市などの生活圏を、単なる行政区域ではなく、実際の購買行動と交通条件に基づいて把握する必要があります。住民がどの都市で買い物をしているのか、どの程度の時間と費用をかけて移動しているのかによって、適切な店舗配置の考え方は変わります。

 一方、公共図書館や図書室については、必ずしも大型施設を増やす必要はありません。中心的な図書館、地域の図書室、県立図書館、電子資料を連携させ、住民が居住地に近い場所でも必要な資料を利用できる仕組みが有力な選択肢になります。また、学校図書館も地域にとって重要な読書資源ですが、学校図書館法上は主として児童・生徒や教員の利用を目的としています。一般住民への開放は教育活動に支障がない範囲で認められるものであり、すべての学校図書館を一般住民が自由に利用できる施設として数えることはできません。

 地域の図書サービスを広げるためには、既存の公共施設での予約資料の受け取り、移動図書館、地域への配送、電子資料の利用支援なども検討対象になります。ただし、それぞれに運営費や職員負担が発生するため、サービスの利用見込みと費用を比較したうえで導入を判断する必要があります。

外房の読書環境を数字で判断するために必要な指標

 今後、外房の書店や図書館の状況を継続的に分析するためには、施設の数や蔵書数だけではなく、住民が実際に本へアクセスできる条件を数値化する必要があります。

分析対象 主な指標 分析の目的
書店の立地 店舗数、商圏人口、移動時間 購入機会の地域差
書店の経営 推定購買需要、固定費、限界利益率 店舗の持続可能性
図書館の規模 蔵書数、新規購入冊数 資料保有・更新状況
図書館の利用 貸出冊数、実利用者数、予約件数 サービスの利用実態
図書館の効率性 住民1人当たり運営費、資料提供費 財政負担との関係
図書館ネットワーク 相互貸借件数、提供日数 自館外資料の利用可能性
地理的アクセス 到達時間、交通手段、到達可能人口率 移動条件による格差
電子資料 利用可能点数、実利用者数 デジタルサービスの利用実態

 例えば、自治体ごとの人口当たり蔵書数や年間貸出冊数を比較すれば、図書館サービスの規模を一定程度把握できます。しかし、人口が少ない自治体ほど1人当たりの数値が大きくなる場合もあるため、総数との併用が必要です。また、図書館まで30分以内で移動できる住民の割合を、自動車利用と公共交通利用に分けて比較すれば、施設が存在していても利用しにくい地区を把握しやすくなります。さらに、予約した資料が平均何日で受け取れるのかを測定すれば、自館の蔵書以外を利用する仕組みの実効性も評価できます。

 ただし、これらの指標を組み合わせれば自動的に最適な政策が決まるわけではありません。高齢者や子ども、障害のある人など、移動や資料利用に制約がある住民については、平均値だけでは見えない問題があるためです。地域の平均的な利便性と、利用が難しい住民の状況を併せて確認する必要があります。

今後の外房で検証すべき三つの課題

 第一は、地域書店の実態把握です。全国の書店数が大きく減少したことは確認できますが、外房の各市町村でいつ、どのような書店が閉店し、どの程度の販売機能が残っているのかについては、同一基準による時系列データが不足しています。今後は、店舗数に加えて、一般書籍の取り扱い、教材販売、注文対応、営業時間などを把握する必要があります。

 第二は、公共図書館の再編効果の検証です。いすみ市図書館の開館や茂原市立図書館の移転が、地域住民の資料利用を実際に改善したのかを継続的に確認する必要があります。開館前後の貸出数だけでなく、地区別の利用、年齢構成、予約件数、移動負担、運営費などを調べれば、再編による利点と課題をより具体的に評価できます。

 第三は、人口減少と高齢化によるアクセス格差の把握です。書店や図書館の施設数が変わらなくても、自動車を運転できない住民が増えれば、地域全体の実質的な利用可能性は低下する場合があります。施設の立地、公共交通、訪問サービス、電子資料などを組み合わせて、どの住民にどのような不便が生じるのかを明らかにする必要があります。これらの課題は、単に書店や図書館を維持するかどうかという問題ではありません。人口減少地域で、必要な生活サービスをどの範囲まで、どのような費用負担で提供するのかという、地域政策全体に関係する問題でもあります。

現実的な結論~外房から本へのアクセスをどう残すか

 全国の登録書店数は、2003年度の20,880店から2025年度末には9,993店へ減少し、22年間で半分以下になりました。紙の出版市場も縮小しており、特に雑誌需要の減少は、従来の町の書店の経営構造に影響していると考えられます。外房でも2026年7月に文教堂茂原店が閉店するなど、実際の店舗撤退が起きています。こうした状況を考えると、今後、人口規模の小さいすべての自治体に大型書店を維持することは容易ではありません。地域中心都市の書店を周辺住民も利用する構造が進む可能性はありますが、地域の小規模書店が担っている教材販売や取り寄せなどの機能を含めて、どのような購買環境が必要なのかを考えるべきでしょう。

 一方、公共図書館については、民間書店とは異なる動きが見られます。茂原市では2025年3月に市立図書館が商業施設へ移転し、いすみ市では2026年7月に初めて市立図書館が開館しました。これらは、地方の読書環境が一方的に縮小するだけではなく、既存施設の再配置や図書館ネットワークの整備によって、サービスの提供方法を変える動きが存在することを示しています。ただし、これらの事例から、外房全体の公共図書館が将来にわたって維持されると断定することはできません。人口減少、施設の老朽化、運営費、資料購入費、職員の確保などによって、今後は施設の統合や運営方法の変更が必要になる場合もあります。重要なのは、施設を現在の形で残すこと自体ではなく、住民が必要な資料や情報へアクセスできるサービスを、持続可能な方法で提供することです。

 今後の外房で現実的な方向は、民間書店については広域的な購買需要と地域ごとの専門性を考慮し、公共図書館については中心施設と地域図書室を連携させながら、県立図書館の資料や電子書籍を補完的に活用することだと考えられます。さらに、自動車を利用できない住民や移動が困難な人への対応を組み合わせることで、施設数だけでは測れない地域の読書環境を改善できる可能性があります。

 外房の課題は、単に「書店が何店舗あるか」「図書館に何冊の本があるか」という問題ではありません。人口が減少し、高齢化が進む地域で、住民が必要な本を知り、探し、購入または借り受け、実際に読むことができる環境をどこまで維持できるかという問題です。書店が存在することと、図書館が存在することを別々に評価するだけでは、地域の読書環境の実態は把握できません。施設の配置、資料の利用条件、移動時間、費用、情報機器の利用能力まで含めて考える必要があります。

 今後の外房で問われるのは、かつての書店数をそのまま復活させることでも、立派な図書館を建設することでもありません。限られた人口と財源の中で、地域に暮らす人が本や情報へ到達できる仕組みを、どれだけ公平かつ持続可能な形で維持できるかということです。そして、その仕組みの実効性を、施設数や建物の規模ではなく、実際の利用状況と住民のアクセス条件から検証し続けることが、人口減少時代の外房に求められる読書環境政策ではないでしょうか。

地域の課題を、自分の判断に置き換えて考える

弊社では、住まい・車・移住などの大きな選択を、 費用や将来条件をもとに数字で比較し、判断できる形に整理しています。

数字で比較するサービスを見る

 地方のスーパーが閉店すると、「人口が減ったから仕方がない」と説明されることがあります。確かに、商圏人口の減少は店舗経営に大きな影響を与えます。しかし、人口が減少している地域のスーパーがすべて撤退するわけではありません。反対に、人口が比較的維持されている地域でも、競争激化、人手不足、物流費の上昇、電気料金の負担、建物や設備の老朽化、本部による店舗網の再編などを理由として店舗が閉鎖されることがあります。

 地方スーパーの撤退を理解するうえで重要なのは、「人口が何人いるか」だけを見るのではなく、その店舗が実際に獲得できる客数、客単価、粗利益、店舗維持費、物流費、設備更新費、そして将来の投資回収可能性まで見ることです。したがって、地方スーパーの問題は単純な人口減少問題ではありません。人口減少によって売上の上限が低下する一方、人件費、冷蔵・冷凍設備、物流、建物、情報システムなど、店舗を営業するために必要な費用は同じ割合では減少しません。この「売上は減っても固定的な費用は簡単には減らせない」という構造が、地方店舗の採算を悪化させる大きな理由です。

スーパーの利益構造をどう考えるか

 スーパーの経営を理解するには、まず売上高と利益を分けて考える必要があります。売上高が増えていても、必ずしも利益が増えているとは限りません。会計上、売上総利益は概念的には「売上高-売上原価」で表されます。売上原価は単純な当期の仕入額そのものではなく、期首の商品在庫、当期の商品仕入れ、期末の商品在庫などを考慮して求めます。そのため、「売上高-商品仕入額=利益」と単純化しすぎると、店舗の実態を正しく把握できない場合があります。

 店舗の採算を概念的に示すなら、「営業上得られる粗利益から、人件費、電気・燃料費、物流費、建物・設備費、販売管理費などを差し引いた残り」が店舗経営を支える利益になります。ただし、値引きは販売価格の低下として売上高に反映され、廃棄も在庫や売上原価と関係するため、厳密な会計では単純に独立した費用として並べればよいわけではありません。

 地方スーパーの構造を理解するには、会計上の厳密な利益計算とは別に、損益分岐点という考え方が有効です。例えば、固定的な費用が年間2億円、売上高から売上に比例して増減する費用を差し引いた利益率が20%だと仮定すると、損益分岐点となる年間売上高は10億円です。この店舗の売上高が12億円なら、「12億円×20%-2億円=4,000万円」となり、一定の利益を確保できます。しかし売上高が10億円まで低下すると利益はほぼゼロとなり、9億円まで低下すれば約2,000万円の赤字になります。

 つまり、売上が10%減ったから利益も10%減るとは限りません。一定の水準を下回ると、利益が急速に減少して赤字へ転落します。人口減少地域のスーパーを考える際には、この損益分岐点を下回るかどうかが重要になります。

スーパーの売上は何で決まるのか

 スーパーの売上高は、概念的には「1日当たり来店客数×1人当たり購入額×営業日数」で考えることができます。例えば、1日1,500人が来店し、1人当たり2,000円を購入する店舗なら、1日の売上高は約300万円です。ところが来店客数が1,200人まで減少すると、客単価が同じなら1日の売上高は約240万円となり、1日60万円の差が生まれます。年間360日営業すると仮定した場合、その差は単純計算で約2億1,600万円になります。

 もちろん実際には、食品価格の上昇によって客単価が上がったり、営業時間や品ぞろえを変更したりするため、客数の減少率と売上高の減少率が完全に一致するわけではありません。それでも客数の減少が長期間続けば、店舗の固定的な費用を支えることが難しくなります。

 全国スーパーマーケット協会の2025年版資料では、標準的な店舗を考える参考値として、平日の1日客数が1,675人、客単価が2,191円、土日祝日の1日客数が1,800人、客単価が2,555円とされています。ただし、これは全国すべてのスーパーにそのまま当てはまる数字ではありません。店舗規模、立地、地域特性によって大きく異なるため、「地方スーパーにもこの程度の客数が必要」と直接判断することはできません。

人口と来店客数は同じ割合では変化しない

 商圏人口が10%減ったからといって、店舗の来店客数が必ず10%減るわけではありません。競合店が閉店すれば残った店舗へ利用者が集中することがありますし、人口がほとんど変わらなくても、新しい大型店やドラッグストアが開業すれば既存店の客数が減ることがあります。来店客数は、「商圏人口×実際に来店可能な人の割合×その店舗を選択する割合×来店頻度」といった複数の要因で決まります。そのため、市町村人口だけでは店舗の商圏を十分に表せません。

 特に自動車利用の多い地方では、行政区域と商圏は一致しません。住民が隣接する市町村の大型店へ買い物に行けば、町の人口が維持されていても地元店舗の売上は減少します。一方、人口が減少していても競合店が少なく、地域住民から高い支持を受けている店舗なら、一定の客数を維持できることがあります。

高齢化は単なる需要減少ではない

 高齢者も当然食料品を必要とするため、高齢化した地域で食品需要そのものが消滅するわけではありません。しかし、高齢化によって世帯人数、買い物頻度、購入量、購入する商品の種類、移動手段が変化します。単身世帯や夫婦のみの高齢世帯では、1回当たりの購入量が少なくなりやすく、少量包装や総菜、冷凍食品などへの需要が高まる可能性があります。一方で、自動車を運転できなくなれば店舗までの移動頻度が低下し、生協、宅配、移動販売などへ利用が移る場合もあります。

 したがって、高齢化は単純に「需要が減る」と捉えるべきではありません。需要の量だけでなく、商品の種類、包装単位、買い物頻度、来店手段が変化する問題として考える必要があります。

全国のスーパー売上増加と地方店舗の撤退は矛盾しない

 経済産業省の商業動態統計では、2025年のスーパー販売額は前年比4.7%増加し、店舗数や1店舗当たり販売額も増加しました。しかし、この数字だけから「スーパー業界は好調だから地方店舗も安泰」と判断することはできません。全国の販売額は、食品価格の上昇、新規出店、大型店への顧客集中、高付加価値商品の販売拡大などによって増加します。例えば販売数量がほとんど変化しなくても、商品の平均価格が5%上がれば、名目上の売上高は約5%増えます。

 しかし仕入価格、人件費、電気料金、物流費なども上昇していれば、売上高が増えても利益が増えるとは限りません。スーパーの経営状態を判断するときには、名目売上高だけではなく、売上総利益、営業利益、客数、販売数量などを併せて見る必要があります。また、商業動態統計については、2025年1月に2021年経済センサス-活動調査を基礎とした水準調整が行われています。このため、長期比較を行う際には統計上の不連続にも注意する必要があります。

ドラッグストアとの競争

 近年、地方の食品スーパーにとって無視できない競争相手となっているのがドラッグストアです。経済産業省の統計によると、2025年のドラッグストア販売額は前年比5.5%増加しており、食品や調剤医薬品なども増加要因となっています。

 ドラッグストアでは、医薬品や化粧品、日用品だけでなく、飲料、菓子、調味料、冷凍食品、牛乳、卵などを扱う店舗が増えています。食品以外の商品を販売できることから、一部の商品を集客目的で低価格に設定できる場合もあります。一方、食品スーパーは生鮮食品や総菜を大きな特徴としており、鮮度管理、加工、品出し、値引き、廃棄などの作業が必要です。ドラッグストアの出店によって牛乳、飲料、菓子、調味料、冷凍食品などの売上が移れば、スーパーの経営に影響を与える可能性があります。

 ただし、「ドラッグストアが出店すればスーパーが撤退する」「利益率の高い商品だけがドラッグストアへ流れる」と一律に断定することはできません。商品カテゴリーごとの粗利益率、価格、商圏、店舗間距離、消費者の購買行動などを分析しなければ、実際の影響の大きさは判断できません。

地域外の大型店への顧客流出

 地方では自動車を使って買い物をする世帯が多いため、道路事情の改善が地元店舗にとって必ずしも有利になるとは限りません。道路が整備され、近隣都市の大型店まで短時間で行けるようになれば、住民の買い物範囲が広がります。大型店には、品ぞろえ、価格、駐車場、飲食店や医療機関との併設などの利点があります。その結果、町内人口がほとんど変化していなくても、地元スーパーの店舗選択率が低下することがあります。

 反対に、幹線道路沿いにあり、周辺地域から利用客を集められるスーパーであれば、行政区域を越えた広い商圏を形成することもできます。したがって、道路整備そのものが地元商業を衰退させるのではなく、その道路を通じて顧客がどちらへ移動するかが重要になります。

人手不足と人件費

 スーパーでは、荷受け、品出し、発注、在庫管理、レジ、生鮮加工、総菜調理、清掃、値引き、衛生管理、顧客対応など、多くの業務を人に依存しています。セルフレジや自動発注を導入しても、すべての作業を無人化することはできません。

 全国スーパーマーケット協会の2023年調査では、人手不足対策として採用活動を実施している企業の割合が98.1%でした。ただし、この数字を「スーパー企業の98.1%が人手不足である」と読み替えてはいけません。あくまで、人手不足への対応策として採用活動を実施している企業の割合です。

 地方では若年人口の減少などによって、早朝、夕方、土日祝日に働ける人材を確保しにくい場合があります。採用が難しければ賃金を引き上げる必要があり、人件費が上昇します。人員を減らしすぎれば、品出しや加工、レジ、清掃などのサービス水準が低下し、さらに客数が減少する可能性もあります。省力化設備は重要な対策ですが、設備導入には初期投資が必要です。売上規模の小さい店舗では、省力化による人件費削減効果だけでは投資を十分に回収できない場合があります。

電気料金と冷蔵・冷凍設備

 スーパーは、通常の小売店舗と比較して冷蔵・冷凍設備の電力使用量が大きい業態です。冷蔵ケース、冷凍ケース、バックヤードの冷蔵庫や冷凍庫、空調、照明、厨房設備などを継続的に稼働させる必要があります。

 店舗の客数が減っても、冷蔵・冷凍設備を同じ割合で停止することはできません。営業時間を短縮しても、閉店後に冷蔵設備まで停止することはできないため、電力費の多くは残ります。したがって、売上が低下した店舗では「売上1円当たりの電力費」が上昇しやすくなります。地方店舗で問題になるのは電気料金そのものだけではなく、少ない売上で必要な設備を支えなければならないことです。

地方物流の非効率性

 食品スーパーでは、生鮮食品、牛乳、豆腐、総菜材料などを継続的に配送する必要があります。物流費には、車両費、燃料費、運転者の人件費、荷役費、物流施設費、配送管理費などが含まれます。

 人口密度が高く店舗が集中している地域であれば、短い走行距離で複数店舗へ配送できます。しかし地方では店舗間の距離が長く、1店舗当たりの配送量も少なくなりやすいため、商品1個当たりの物流費が高くなる可能性があります。チェーン全体で考えれば、店舗単独ではわずかに黒字でも、その1店舗を維持するために長距離の配送ルートを残す必要がある場合があります。本部が店舗網全体の物流効率を見直した結果、個別店舗の損益だけではなく配送網全体の効率を理由として閉店することも考えられます。

生鮮食品と総菜の値引き・廃棄

 生鮮食品や総菜は食品スーパーにとって重要な差別化要因ですが、需要予測が外れれば売れ残りが発生します。商品を少なく仕入れれば欠品による販売機会損失が生じ、多く仕入れれば値引きや廃棄が増加します。

 農林水産省によると、2024年度の事業系食品ロスは237万トンで、そのうち食品小売業は48万トンでした。ただし、この48万トンはスーパーだけの数値ではありません。食品小売業全体の数字として理解する必要があります。

 店舗経営上の目的は、単純に「廃棄をゼロにすること」ではありません。廃棄を減らそうとして在庫を極端に減らせば、欠品が増えて売上を失います。重要なのは、欠品による機会損失と、過剰在庫による値引き・廃棄損失の合計を抑えることです。特に観光地では、曜日、天候、連休、季節によって客数が大きく変動します。需要変動が大きい地域ほど適正在庫の予測が難しくなり、在庫管理の難易度が高くなります。

老朽化した店舗が黒字でも閉店する理由

 店舗が現在黒字であることと、将来も営業を続けることが合理的であることは同じではありません。冷蔵・冷凍設備、空調、照明、厨房、レジ、情報システム、屋根、外壁、給排水、駐車場などは、いずれ更新が必要になります。

 例えば店舗改修に3億円必要で、改修によって年間2,000万円の追加的な利益またはキャッシュフローが得られると単純化すれば、投資額を回収するまで15年かかります。しかし、これは非常に簡易的な計算です。実際の企業は、将来得られる現金収支、資金調達費用、金利、設備の耐用期間、商圏人口の将来予測などを考慮します。将来の収益を現在の価値に換算して投資価値を評価する正味現在価値や、投資から得られる収益率を評価する内部収益率などの考え方も用いられます。

 また、設備更新は必ずしも「改修したら利益が増える」という投資とは限りません。「改修しなければ営業を続けられない」という場合もあります。そのため、現在の店舗が黒字でも、今後10年、15年にわたって設備投資を回収できないと判断されれば、更新せず閉店する方が企業として合理的な場合があります。

賃貸借契約や土地・建物も閉店理由になる

 店舗が賃借物件の場合、契約満了や賃料改定が閉店の契機になることがあります。店舗運営会社が営業継続を希望していても、建物所有者が建て替えや売却を選択する場合もあります。自社所有店舗でも、建物維持費、固定資産税、解体費、跡地利用などを含めた判断が行われます。そのため、閉店理由が「契約満了」「諸般の事情」などとしか公表されていない場合、外部の人間が「赤字だから閉店した」と断定することはできません。

チェーン全体では黒字店舗も閉店候補になる

 チェーン企業では、個々の店舗の黒字・赤字だけで店舗存続を判断するとは限りません。限られた資金や人材をどこへ配置すれば企業全体の利益を最大化できるかという視点も重要です。地方店舗が年間1,000万円の利益を出していたとしても、その店舗を閉め、人材や投資資金を別の店舗へ移すことで年間3,000万円の利益が得られるなら、本部が撤退を選択する可能性があります。

 企業が確認するのは、売上高、営業利益率だけではありません。投下した資金からどの程度の利益を得られるか、売場面積当たりの売上はいくらか、従業員1人当たりの売上はいくらか、改装投資を何年間で回収できるか、将来の商圏人口はどうなるか、物流拠点との位置関係はどうか、といった複数の指標を比較します。したがって、住民から見て「いつも客が入っている店」であっても、本部が求める投資効率を満たしていない可能性があります。

小さい店舗ほど不利とは限らない

 小型店舗には、管理者の費用を少ない売上で負担しなければならない、1人の欠勤の影響が大きい、配送1回当たりの商品量が少ない、設備投資を回収しにくいといった不利があります。そのため、「小さな店舗なら固定費が少ないので必ず維持しやすい」とは言えません。

 一方、小型店舗が常に大型店舗より非効率というわけでもありません。全国スーパーマーケット協会の2023年調査では、売場面積800平方メートル未満の店舗について、従業員1人当たり年間売上高は他の規模区分より低い傾向がありました。ところが同じ調査では、売場面積1平方メートル当たり年間売上高は、800平方メートル未満の店舗が約225万円、800~1,200平方メートルが約158万円、1,200~1,600平方メートルが約110万円、1,600平方メートル以上が約109万円となっており、小型店の方が売場面積当たり売上高は高い結果となっています。

 したがって、この統計から「小型店舗は経営効率が悪い」と単純に結論づけることはできません。従業員当たり生産性では不利でも、売場面積当たり生産性では有利な場合があるからです。店舗の適正規模は、人件費、地代・家賃、物流費、商品構成、設備費、商圏人口、客数などを総合して判断する必要があります。地方では、需要に合った小型化が有効な場合もあれば、小型化しても物流費や人件費を十分に削減できず採算改善につながらない場合もあります。

業界統計にも限界がある

 スーパー業界の統計を利用するときには、調査方法にも注意が必要です。全国スーパーマーケット協会の2023年年次統計調査では、国内でスーパーを保有する952社を対象とし、有効回答企業は283社、回収率は29.7%でした。また、店舗状況については各企業から標準的な店舗を回答してもらう方式が含まれています。

 したがって、こうした業界統計はスーパー業界の傾向を把握するうえで非常に有用ですが、全国すべてのスーパーを完全に把握した全数調査ではありません。回答した企業と回答しなかった企業の経営状況が同じとは限らないため、標本の偏りが存在する可能性があります。そのため、業界平均や中央値を特定の地方店舗へそのまま適用することは避ける必要があります。

観光客が多ければスーパーは維持できるのか

 観光地域では、週末、連休、夏季などに来訪者が増え、飲料、酒類、総菜、肉、魚、氷、行楽用品などの売上が増える可能性があります。このため観光需要はスーパーの売上を支える重要な要素になります。しかし、観光客数が多いことと、年間を通して店舗経営が安定することは同じではありません。観光需要は季節や天候に左右され、繁忙期だけ人員を増やさなければならない場合があります。また、観光客が地域へ入る前に大型店で買い物を済ませてしまえば、地域内のスーパーには十分な売上が発生しません。

 したがって観光地では、年間観光客数そのものより、「地域内で実際に食品を購入する観光客が何人いるか」「1人当たりいくら購入するか」「何か月間需要が発生するか」を分析する必要があります。

競合店がなくなれば残ったスーパーは安泰なのか

 競合店が閉店すると、残った店舗へ顧客が集中する可能性があります。しかし競合がなくなれば必ず店舗を維持できるわけではありません。地域全体の需要そのものが店舗の損益分岐点を下回っていれば、地域内で独占的な地位を得ても採算は確保できません。また、価格を大幅に引き上げれば、住民が遠方の大型店、宅配、インターネット販売などへ移行する可能性があります。

 地方スーパーが競争している相手は、同じ町のスーパーだけではありません。近隣都市の大型店、ドラッグストア、コンビニエンスストア、生協、宅配、インターネット販売などを含めて考える必要があります。

ネットスーパーや移動販売は代替になるのか

 ネットスーパーや食品宅配は、店舗まで移動しにくい人にとって有効な手段です。しかし地方では配送区域、配送料、最低注文額、配送時間、決済方法などの制約があります。特に人口密度が低い地域では、配送車が長い距離を走って少数の世帯へ商品を届けることになります。そのため1件当たりの配送費が高くなり、店舗型スーパーと同様に需要密度の問題を抱えます。

 移動販売も重要な手段ですが、車両費、燃料費、人件費、保冷設備、決済費、売れ残りなどの費用が発生します。必要としている住民が多くても、集落が広範囲に分散していれば、1時間に対応できる利用者数が少なくなり、事業採算が悪化します。そのため移動販売では、既存店舗との在庫共有、注文予約、複数地区を組み合わせた巡回、自治体支援、福祉や高齢者見守りとの連携などを組み合わせる方法が考えられます。ただし、補助金によって開始できたとしても、利用者、運転者、車両更新費などを長期間確保できなければ継続できません。

スーパー撤退は住民に何をもたらすのか

 スーパーの閉店による負担は、商品の価格だけでは測れません。近隣店舗がなくなれば、住民は遠方まで移動する必要があります。自動車を利用できる人にとって数キロメートルの増加で済んでも、自動車を運転できない高齢者などにとっては大きな生活上の問題になります。

 実質的な買い物負担は、「商品代金+交通費+配送料+移動時間+家族による送迎や買い物代行の負担」として考える必要があります。遠方の大型店の商品価格が安くても、移動に必要な費用と時間を含めれば必ずしも安いとは限りません。

 買い物頻度が減れば、保存しやすい食品の購入割合が増える可能性もあります。冷凍食品や加工食品そのものが直ちに健康上悪いという意味ではありませんが、生鮮食品を含む幅広い食品を選択する機会が減少する可能性があります。

食料品アクセス困難人口という指標

 農林水産政策研究所では、食料品アクセス困難人口を、「店舗まで500メートル以上離れ、自動車の利用が困難な65歳以上の高齢者」として推計しています。対象となる店舗には、生鮮食品店、百貨店、総合スーパー、食料品スーパー、コンビニエンスストア、ドラッグストアなどが含まれます。

 この指標は地域比較に有効ですが、500メートルという距離だけで実際の買い物環境を完全に評価することはできません。例えば500メートル以内にコンビニエンスストアがあれば統計上は比較的アクセスが確保されていると評価されても、価格、品ぞろえ、容量、生鮮食品の選択肢などがスーパーと同等とは限りません。さらに、直線距離と実際の道路距離は異なります。坂道、歩道、交通量、バスの運行本数、荷物を持って歩けるか、家族の支援があるか、宅配サービスを利用できるかなどによって実際の生活上の困難度は変わります。

スーパーを補助金で維持すればよいのか

 地方のスーパーは民間企業ですが、地域によっては食料供給を支える生活基盤に近い機能を果たしています。ただし、これはスーパーが法律上の公共インフラに指定されているという意味ではありません。近年、国も円滑な食品アクセスの確保を政策課題として位置づけ、店舗、移動販売、宅配、交通などを組み合わせた対応を進めています。

 自治体が特定の店舗へ継続的に公費を投入する場合には、「支援しなければ本当に撤退するのか」「支援によって何年間存続できるのか」「実際に恩恵を受ける住民は何人か」「代替手段より費用対効果が高いか」「競合事業者との公平性を確保できるか」などを検討する必要があります。例えば年間3,000万円を投入し、実際に恩恵を受ける住民が1,000人なら、単純計算では1人当たり年間3万円の公費負担になります。この金額が高いか安いかは、移動販売、買い物バス、タクシー助成、宅配支援などの代替策と比較しなければ判断できません。

 したがって、「スーパーは必要だから税金で残すべきだ」「民間企業だから行政は関与すべきでない」という二者択一で考えるのは適切ではありません。必要なのは、地域住民が必要とする食料供給機能を明確にし、それを最も持続可能な方法で確保することです。

地方で取り得る現実的な対応

 スーパー撤退への対応は、店舗を現在の形のまま残すことだけではありません。商圏に合わせた店舗の小型化、営業時間の見直し、予約販売、商品受け取り拠点、移動販売、宅配、デマンド交通、医療や福祉サービスとの連携などを組み合わせる方法があります。

 小型化によって家賃や電気料金を減らせる可能性がありますが、配送や管理者の費用まで同じ割合で減るとは限りません。営業時間を短縮して人件費を削減しても、冷蔵設備の電力費は残ります。したがって、それぞれの施策について削減できる費用と失われる売上を比較する必要があります。

 食品、日用品、宅配受け取り、行政サービス、金融サービスなどを組み合わせた複合拠点も考えられます。複数の需要を一つの場所へ集約できれば利用者を確保しやすくなる一方、業務が複雑化して人員や設備費が増える可能性もあります。

自治体が把握しておくべきこと

 自治体はスーパーが閉店すると発表されてから対応を考えるのではなく、地域の食料品アクセスを継続的に把握する必要があります。重要なのは、地区別人口や高齢化率だけではありません。食料品店舗の位置、実際の道路距離、運転できない住民の人数、路線バスやデマンド交通、移動販売、生協や宅配の配送区域、タクシー料金、家族送迎の実態、災害時の食料供給などを組み合わせて評価する必要があります。

 特に確認しておくべきなのは、「現在利用している店舗が閉店した場合、次の店舗までの距離と移動時間がどれだけ増えるのか」です。この情報があれば、店舗維持、交通支援、移動販売、宅配支援のどれが合理的なのかを比較しやすくなります。

移住や住宅購入でも店舗の将来性を見る必要がある

 地方へ移住するときには、「今スーパーがある」というだけで生活環境を判断するのは十分ではありません。現在の最寄り店舗が閉店した場合に次の店舗までどの程度距離があるのか、自動車を運転できなくなった場合にどのような移動手段があるのか、生協や宅配を利用できるのか、移動販売があるのかまで確認することが重要です。

 現在60歳前後で自動車を運転できる世帯であっても、10年後、20年後には状況が変わります。地方での住宅購入では、現在の買い物利便性だけでなく、自動車を利用できなくなった後まで生活を維持できるかという視点が必要です。

公開情報だけでは個別店舗の撤退理由を断定できない

 地方スーパーの分析で最も注意すべきなのは、個別店舗の内部情報がほとんど公開されていないことです。通常、店舗単独の売上高、営業利益、人件費率、賃料、電気料金、廃棄率、設備更新額、本部の撤退基準、賃貸借契約、将来の閉店計画などは外部から確認できません。

 そのため、「駐車場が空いている」「建物が古い」「近くにドラッグストアができた」といった観察だけで、赤字や閉店可能性を断定することはできません。同様に、人口が減少している地域で店舗が閉店したからといって、「人口減少が閉店原因だった」と直ちに因果関係を断定することもできません。人口減少と閉店が同時に起きていても、実際の直接的な理由が設備更新、人手不足、物流再編、契約満了などである可能性があります。

「人口減少だけでは説明できない」を科学的に証明するには

 本稿で示した各要因は、経済学や店舗経営の理論から見て合理的であり、公的統計とも大きな矛盾はありません。しかし、どの要因がスーパー撤退にどの程度影響しているかを科学的に証明したものではありません。

 本格的に因果関係を検証するなら、全国の店舗を数年間追跡し、各店舗が翌年も営業しているか、閉店したかを調べる必要があります。そのうえで、商圏人口の増減率、高齢化率、競合スーパー数、ドラッグストア数、物流拠点までの距離、店舗面積、建物年齢、地域の賃金水準などを同時に分析する必要があります。

 さらに、競合店が新しく開店した地域と開店していない地域を比較するなど、他の条件をできるだけそろえた分析を行うことで、「ドラッグストア出店によって閉店確率がどの程度変化したのか」といった因果関係に近い評価が可能になります。したがって、本稿で説明しているのは「地方スーパーが撤退する可能性を高める合理的な経営要因」であり、それぞれの要因について全国共通の因果関係を証明したものではありません。

現実的な結論

 地方スーパーが撤退する理由は、人口減少だけでは説明できません。人口減少は商圏全体の需要を縮小し、売上の上限を低下させる重要な要因ですが、実際に店舗存続を左右するのは、その売上によって人件費、電気料金、物流費、設備費などを負担し、企業が必要とする利益や投資回収を確保できるかどうかです。

 また、全国のスーパー販売額が増加しているからといって、人口減少地域の個別店舗が安定しているとは限りません。食品価格上昇によって名目売上が増加しても、客数や販売数量が減少し、仕入価格や人件費などの上昇が売上増加を上回れば、経営状態は悪化する可能性があります。

 現在黒字の店舗でも、数億円規模の設備更新を今後の商圏人口では回収できないと判断されれば閉店することがあります。チェーン全体の物流や人材配置を考えた結果、単独では黒字の店舗が閉鎖対象になる可能性もあります。一方、小型店舗が必ず不利とも限りません。従業員当たりの生産性では大型店舗に劣る場合があっても、売場面積当たりの売上では小型店舗が高い場合があります。したがって「大型化すればよい」「小型化すればよい」と一律に判断するのではなく、その地域の需要に合った店舗規模を考える必要があります。

 地域の食料供給を維持するために最も重要なのは、「スーパーを残すこと」自体を目的にしないことです。住民が必要な食料を合理的な負担で継続的に入手できることが本来の目的です。スーパーを維持する方が合理的な地域もあれば、小型店舗へ転換した方が合理的な地域もあり、移動販売、宅配、交通支援を組み合わせた方が持続可能な地域もあります。

 その判断には、何人が利用するのか、1日に何人が来店するのか、1人当たりいくら購入するのか、店舗を維持するためにいくら必要なのか、商品を誰が運ぶのか、従業員を確保できるのか、設備更新にいくら必要なのか、赤字が発生した場合に誰が何年間負担するのかを具体的に検証する必要があります。重要なのは、すべてのスーパーを一律に残すことでも、市場原理だけに任せることでもありません。地域ごとに必要な食料供給機能を明確にし、その機能を最も持続可能な方法で確保することです。

データ利用上の注意

 本稿で使用しているスーパー販売額、ドラッグストア販売額、店舗数、客数、生産性、食品ロスなどの数字は、全国または業界全体を対象とした統計です。特定の地方店舗の売上高、利益、閉店理由を直接示すものではありません。

 また、全国スーパーマーケット協会の年次統計調査は業界分析に有用ですが、全国すべての店舗を対象とした全数調査ではなく、回答企業を対象とした調査です。業界平均や中央値を特定の店舗へそのまま当てはめることはできません。個別地域を分析する場合には、国勢調査、住民基本台帳、経済センサス、商業動態統計、企業の公式発表、自治体資料、道路・公共交通情報、店舗の位置などを組み合わせて判断する必要があります。

主な参考資料

 主な資料として、経済産業省「商業動態統計」「2025年小売業販売を振り返る」、全国スーパーマーケット協会「2025年版スーパーマーケット白書」「スーパーマーケット年次統計調査」、農林水産省「食品アクセス問題の現状」「事業系食品ロス量」、農林水産政策研究所「食料品アクセスマップ」、資源エネルギー庁「電気料金の仕組み」、総務省統計局「人口推計」などを参照しています。

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※この記事は、2026年10月2日時点で確認できる人口統計、千葉県の水道再編、地域医療、公共交通、食品アクセスなどの状況を踏まえて内容を更新しています。

はじめに

 外房で暮らし続けるために必要なものは、住宅と自動車だけではありません。水道、電気、通信、道路、公共交通、医療、介護、買い物、ごみ収集、生活排水処理、行政窓口、消防・救急、金融、郵便、ガソリンスタンドなど、日常生活を支える複数の機能が安定して動いて初めて地域での生活は成立しますが、人口が減少すると利用者や料金収入が減る一方で、道路、水道管、橋、ごみ収集区域などの地理的な範囲まで同じ割合で縮小するわけではありません。そのため、人口減少地域では住民一人当たり、あるいは一世帯当たりのインフラ維持負担が増加しやすくなります。

 重要なのは、「外房に何が必要か」を理想論として列挙することではなく、どのサービスを住民の近くに残さなければならないのか、どの機能は市町村を越えて共同化できるのか、施設を集約した場合に生じる移動負担をどのように補うのかを、人口、年齢構成、地理、財政、人材、利用状況、災害リスクから総合的に考えることです。本記事では、便宜上、長生地域、夷隅地域、安房地域を広い意味で「外房」として扱いますが、「外房」は統計上の一つの行政区域ではないため、あくまでも分析上の地域設定として使用します。

最初に結論~必要なのは「施設数の維持」ではなく「生活機能の維持」

 人口減少が進む外房で必要なのは、すべての集落に現在と同じ施設を残すことでも、逆に多くの施設を一か所へ集約することでもありません。重要なのは住民が必要なサービスを実際に利用できる状態を維持することであり、そのためには、水道、電気、通信、道路、ごみ収集など住宅の近くまで届かなければ意味を持たない基礎機能、市町村または複数市町村で共有する診療所、薬局、スーパー、行政窓口、介護、公共交通などの地域拠点機能、さらに高度医療、専門医療、鉄道、大規模水道施設、災害時物流など広域で維持する機能を分けて考える必要があります。

 施設が存在していても住民がそこまで移動できなければ実質的には利用できませんし、反対に近隣施設が統合されても、デマンド型交通、送迎、訪問診療、宅配、移動販売、オンライン手続きなどによって利用可能性を確保できれば、地域全体としての生活機能を維持できる場合があります。したがって、地域サービスは単純な施設数ではなく、「設備が維持されているか」「必要な人材がいるか」「住民が到達できるか」「料金を負担できるか」「災害時に代替手段があるか」といった複数の条件を組み合わせて評価する必要があります。

分析対象となる地域

 長生地域は茂原市、一宮町、睦沢町、長生村、白子町、長柄町、長南町、夷隅地域は勝浦市、いすみ市、大多喜町、御宿町、安房地域は館山市、鴨川市、南房総市、鋸南町で構成されます。ただし、住民の実際の生活圏は行政区域とは必ずしも一致せず、長生地域では茂原市、夷隅地域ではいすみ市や勝浦市、安房地域では館山市や鴨川市が一定の拠点になっている一方、専門医療や大規模な買い物では千葉市、市原市、木更津市などへ移動する住民もいます。

 このため、市町村ごとの病院、スーパー、金融機関、駅などの施設数を数えるだけでは生活利便性を正確に把握できず、住民が実際に利用している施設と、そこまでの道路距離、所要時間、利用可能な交通手段を含めて評価する必要があります。

人口減少はインフラ需要を消すのではなく、維持効率を低下させる

 2025年国勢調査の人口等基本集計の確報では、2025年10月1日現在の千葉県人口は625万7,225人で、2020年から2万7,255人減少し、千葉県全体としては国勢調査開始以来初めて人口減少となりました。しかし、人口が減少したからといって、水道管、道路、橋、通信設備、ごみ収集区域などを同じ割合で減らせるわけではなく、例えば人口が20%減少しても住宅が地域内に広く分散して残れば、水道管や道路の総延長を20%短縮することはできません。

 固定的な維持費を必要とするネットワーク型インフラでは、利用者だけが減少すると一人当たりの負担が上昇します。単純化すれば、インフラ費用には道路や管路など人口に関係なく必要となる部分と、利用者数に応じて増減する部分があり、人口が減っても前者が残るためです。さらに、高齢化や単身世帯の増加を考えれば人口総数だけを見るのも不十分で、運転できる人がどれだけいるか、同居家族による送迎が可能か、住宅が集中しているか分散しているかといった条件によっても、必要となる地域サービスは大きく変わります。

1.水道~広域化後は「統合したか」より「統合後に維持できるか」が重要

 水道は生活インフラの中でも代替が極めて難しい機能であり、水が安定して供給されなければ飲料、調理、入浴、洗濯、トイレだけでなく、医療、介護、消防などにも影響が及びます。千葉県では人口減少、料金収入の減少、施設老朽化、技術職員不足などを背景に水道事業の広域化が進められ、夷隅地域では2025年4月1日に勝浦市、いすみ市、大多喜町、御宿町の水道事業が統合され、安房地域でも2026年4月1日に水道事業の統合が実施されています。

 さらに2026年4月には、九十九里地域や南房総地域に関係する用水供給事業についても再編が進んでいるため、現在は単に「広域化を検討する段階」というより、地域によっては「広域化した後の経営、施設配置、人材、料金、災害対応を検証する段階」に入っています。ただし、広域化すれば自動的に水道料金が下がったり、老朽施設の問題が解消したりするわけではなく、浄水場や管理業務の統合によって重複費用を削減できる可能性がある一方で、施設を減らし過ぎれば、一つの施設や幹線管路の故障による影響範囲が広がる可能性もあります。

 したがって、今後は老朽管を一律に交換するのではなく、病院、避難所、福祉施設、人口集中地区、代替供給が難しい地区などを優先しながら更新するとともに、非常時の連絡管、応急給水、資材備蓄、技術者確保まで含めて評価する必要があります。人口密度の低い地区では少数世帯のために長い管路を維持することもありますが、この問題を単純な採算性だけで判断することはできない一方、将来も現在と同じ施設構成を維持できるのかについては現実的な検討を避けることはできません。

2.道路と橋~外房では交通施設であると同時に生活インフラ

 外房では道路が通勤、通学、通院、買い物だけでなく、救急搬送、訪問介護、ごみ収集、宅配、郵便、移動販売、給油、農業、観光など多くのサービスを支えており、道路が使えなくなることは単なる移動の不便ではなく、複数の地域サービスが同時に機能しにくくなることを意味します。長生地域では千葉県の長生土木事務所が7市町村の道路、河川などの建設、維持管理、災害対応を担当していますが、今後の課題は新しい道路を増やすこと以上に、既存道路、橋、トンネル、側溝、法面、街路灯などを限られた人員と財源でどこまで安全に維持できるかです。

 道路の重要度は単純な交通量だけでは評価できず、利用者が少ない道路でも、その道路しか使えない集落に通じている場合や、救急搬送、病院、避難所への接続に重要な場合は高い優先度を持ちます。今後は交通量、沿道人口、救急搬送利用、災害危険度、代替経路の有無、病院や避難所への接続状況などを組み合わせて道路ごとの重要度を評価し、その結果を補修や更新の優先順位に反映する仕組みが必要になります。

3.地域交通~「路線がある」ことと「生活に使える」ことは違う

 外房線、内房線、路線バス、コミュニティバス、デマンド型乗合交通、タクシーなどは、運転できない住民にとって重要な生活インフラですが、交通機関が存在しているだけでは十分ではありません。通院に利用するためには診療開始時間までに病院へ到着でき、診察後に帰宅できることが必要であり、買い物に利用する場合も、店舗で必要な滞在時間を確保したうえで荷物を持って帰宅できる便がなければ、実際の生活交通としては機能しません。

 このため、鉄道、路線バス、デマンド交通、タクシー、病院送迎をそれぞれ別の交通手段として考えるのではなく、住宅から目的地までの一連の移動として設計する必要があります。デマンド型交通も万能ではなく、電話予約しかできない、予約締切が早い、市町村境を越えられない、利用できる目的地が限られるといった条件があると、制度上は交通手段が存在していても実生活では利用しにくくなります。したがって評価すべきなのは車両台数や路線数だけではなく、「自宅から病院まで何分で到達できるか」「午前中の診察に間に合うか」「診察後に帰宅できる便があるか」といった住民側の利用可能性です。

4.医療と救急~病院数よりも到達可能性と役割分担を見る

 外房では人口減少が続いても、高齢化によって慢性疾患、救急搬送、在宅医療、訪問看護、服薬管理などの需要が同じ割合で減少するとは限りません。千葉県の地域医療資料では、山武長生夷隅保健医療圏の人口は2025年の約40万1千人から2040年には約31万9千人へ、安房保健医療圏では約11万5千人から約8万8千人へ減少すると推計されており、計算すると山武長生夷隅では約20%、安房では約23%の人口減少となります。ただし、2025年人口と2040年人口は同一方法による実績値ではないため、2040年の数字は確定した未来ではなく、一定の人口動向を前提とした将来推計として扱う必要があります。

 山武長生夷隅保健医療圏は医師少数区域に位置付けられており、医師や医療従事者の確保が重要な課題となっています。また、安房地域では高度な医療機能が特定医療機関へ集中しているため、専門医療を維持しやすい一方で、住民の居住地によっては移動距離が長くなるという問題もあります。このため、すべての市町村に総合病院を置くことを目標にするのではなく、日常的な慢性疾患を診る診療所、検査や入院を担う地域病院、救急受入医療機関、高度医療を担う広域病院、訪問診療、訪問看護、薬局、回復期・慢性期医療、介護施設を適切に役割分担する必要があります。

 病院の集約には専門職を集中させやすい利点がありますが、患者の移動時間、家族の送迎時間、救急搬送距離が長くなる可能性があるため、医療再編を病院の運営費だけで評価することはできません。病院運営費、患者の移動時間、医療従事者の負担などは単位が異なるため、そのまま足し算するのではなく、費用として評価する場合には時間などを一定の方法で金額換算し、金額換算しない場合には複数の指標を別々に比較する多基準評価として扱う方が合理的です。

5.消防・救急~救急車の到着時間だけでは評価できない

 消防・救急は高齢者の多い地域ほど重要であり、急性心疾患、脳卒中、転倒、骨折などでは救急車が早く到着することだけでなく、その後速やかに受入医療機関が決まり、必要な治療へ到達できることが重要になります。救急対応時間は、通報から出動までの時間、現場到着までの時間、現場活動時間、搬送先決定までの時間、病院までの搬送時間という複数の段階に分けて考えることができ、これらはすべて時間という共通単位であるため、救急体制を分析する指標として比較的扱いやすいものです。

 ただし、救急対応の最終到達点を「救急車が病院に着いた時点」とするのか、「医療機関への引継ぎが終了した時点」とするのか、「実際に治療が開始された時点」とするのかによって評価結果は変わります。このため、外房の救急体制を検証する場合には、消防署や救急車の数だけを見るのではなく、地区別、時間帯別、疾患別に、現場到着時間、搬送先決定時間、病院到着時間を確認する必要があります。

6.買い物と食品アクセス~スーパーの所在地だけでは評価できない

 買い物環境は地域内にスーパーがあるかどうかだけでは判断できず、自宅から店舗までの距離、移動手段、道路の勾配、荷物の重量、宅配区域、最低注文額、配送料、注文方法、決済方法などによって実際の利用可能性が変わります。2025年1月の全国調査では、公共交通または徒歩で食品店へ15分以内に行けないと回答した人が37.8%、健康的な食生活に必要な食品を手頃な価格で購入できていないと回答した人が45.4%でしたが、これは全国調査であり、外房住民の37.8%や45.4%が同じ状態にあることを意味するものではありません。

 外房における実態を知るためには、市町村や地区ごとにスーパー、コンビニ、ドラッグストア、移動販売、宅配区域と高齢者人口、自動車利用可能性を組み合わせて分析する必要があります。固定店舗は品ぞろえと価格面で優れていますが商圏人口が縮小すれば撤退リスクがあり、宅配は運転できない世帯に有効である一方で注文手段や配送区域の制約があります。移動販売は集落を直接回れる反面、利用者が少なければ燃料費、人件費、移動時間、商品廃棄などの負担が大きくなるため、固定店舗、宅配、移動販売、買い物代行、地域交通を地域ごとに組み合わせることが現実的です。

7.ごみ収集~人口が減っても収集距離は同じ割合では減らない

 ごみ収集は普段は目立ちにくいサービスですが、停止すれば生活衛生に直接影響します。人口が減少しても住宅が地域内に分散していれば収集車が走る距離は大きく減らず、一方で一つの集積所から回収するごみの量は減少するため、走行距離当たりの収集量が減って効率が低下する可能性があります。

 さらに高齢化すると、ごみ集積所までごみを運べない、粗大ごみを住宅から搬出できない、複雑な分別に対応しにくいといった問題が増えるため、通常の定期収集だけではなく、高齢者や障害者への戸別収集、粗大ごみ搬出支援、不法投棄対策、災害ごみの仮置場、収集作業員の確保まで含めて考える必要があります。ごみ処理施設を広域化すれば設備投資を集約できる可能性がありますが、処理施設までの収集車の走行距離が長くなる場合もあるため、施設運営費だけではなく収集・運搬費を含む総費用で判断しなければなりません。

8.下水道・浄化槽・し尿処理~水道と同時に考えるべき生活基盤

 生活用水を供給する水道だけでなく、使った水をどのように処理するかも重要な生活インフラです。人口密度が高い地区では下水道による集合処理に一定の合理性がありますが、住宅が広く分散する地区では長い管路を維持する費用が大きくなる場合があるため、人口減少地域では既存下水道をどこまで更新するのか、浄化槽による個別処理をどこで活用するのか、し尿や汚泥をどこで処理するのかを長期的に考える必要があります。

 水道と同様に、現在設備が存在しているからといって将来も同じ方式で維持できるとは限りません。管路の更新費、処理施設費、各戸の設備費、維持管理費を比較し、地域の人口密度や住宅分布に適した処理方法を選ぶ必要があります。

9.介護・在宅生活支援~医療だけでは地域生活を維持できない

 高齢化した地域では、病院まで行けるかどうかだけではなく、自宅で日常生活を継続できるかが重要になります。訪問介護、訪問看護、通所介護、ケアマネジャー、配食、買い物支援、福祉用具、住宅修繕、庭や敷地の管理などが不足すると、本人が比較的健康であっても自宅生活を続けることが難しくなる場合があります。

 特に単身高齢者や高齢夫婦世帯では、これまで本人や家族が担っていた送迎、買い物、行政手続き、ごみ出し、住宅管理などを地域サービスで補う必要が生じますが、人口減少地域では需要が分散するためサービス事業者が成立しにくい場合があります。したがって、需要が存在することと民間事業として採算が取れることを分けて考え、自治体が支援する場合にも、誰に、どのサービスを、年間どれだけの費用で提供するのかを明確にする必要があります。

10.電気と燃料~通常時より停電時の代替能力が重要

 外房では台風、強風、倒木などによって道路や電力設備が影響を受ける可能性があり、停電が長引けば照明だけではなく、冷蔵庫、給湯、井戸ポンプ、通信機器、在宅医療機器、電動ベッド、空調、店舗の決済なども停止します。このため、医療機関や避難所の非常用電源、在宅医療機器利用者への個別支援、通信端末の充電拠点、給水設備を動かす電源、燃料供給、ガソリンスタンドの営業継続などを平常時から準備する必要があります。

 太陽光発電や蓄電池は有効な選択肢の一つですが、発電量、蓄電容量、設備費、機器寿命などの制約があり、「再生可能エネルギーを導入すれば災害時も安心」と単純化することはできません。重要なのは特定の設備を導入すること自体ではなく、停電が一定時間続いた場合に、水、通信、医療、燃料など生活に必要な機能をどの程度維持できるかです。

11.通信~行政、医療、買い物を支える基礎インフラ

 インターネットや携帯電話は娯楽設備ではなく、行政手続き、銀行取引、医療予約、買い物、災害情報、家族との連絡、仕事、教育などを支える生活基盤になっています。ただし、通信回線が利用できるだけではデジタル化は成立せず、スマートフォンやパソコンなどの端末を所有できること、本人または支援者が操作できることも必要です。

 したがって、高齢化した地域で行政窓口を廃止してオンラインへ全面移行するのは現実的ではなく、オンライン、電話、対面、郵送、代理申請などを併存させる方が利用可能性を高めます。また災害時には停電や基地局障害で通信が使えなくなる可能性もあるため、防災行政無線、ラジオ、広報車、掲示板、地域の見守りなど、通信障害時の代替手段も残しておく必要があります。

12.行政、金融、郵便~建物ではなく「手続きできるか」で考える

 行政サービスは市役所や町役場が存在していれば十分というものではなく、住民票、税、介護、医療、福祉、年金、相続、死亡届、住宅、廃棄物などの手続きは複雑で、高齢者や単身者の場合には窓口へ行けない、必要書類が分からない、オンライン申請ができないという問題が生じます。金融機関や郵便局についても店舗数だけで判断するのではなく、現金を引き出せるか、公共料金を支払えるか、本人確認や相続手続きができるか、自動車がなくても到達できるかまで確認する必要があります。

 今後、窓口の統廃合が進む場合には、移動窓口、予約相談、電話相談、郵送、代理申請などを組み合わせることで、建物そのものを維持するのではなく、住民が必要な手続きを実際に完了できる状態を維持するという考え方が必要です。

「第一優先、第二優先」と単純に順位を付けるのは難しい

 水道、電気、道路、医療、交通などの重要度を一列に並べ、「第一優先」「第二優先」と断定することには注意が必要です。例えば断水1日、停電3時間、救急搬送10分延長、スーパーまで15キロメートル、バス週2便という異なる問題を直接比較するためには、生命への影響、代替可能性、影響人口、発生頻度、復旧時間、費用などを共通基準で評価しなければなりません。

 したがって、外房で優先的に検討すべき分野としては、水道・生活排水、電気・燃料、道路・橋、通信、医療・救急、介護、地域交通、食品・日用品、ごみ収集、行政・金融・郵便、災害時の代替機能などを挙げたうえで、地区ごとの人口構成、地理条件、既存施設、交通環境などに応じて優先順位を決める方が合理的です。

地域サービスの評価は「足し算」だけでは不十分

 地域サービスの持続可能性を、「施設」「人材」「交通」「料金」「災害対策」などの点数を単純に足し合わせて評価すると、重要な問題を見落とす可能性があります。例えば病院設備が十分で、医師も確保され、料金負担にも問題がなくても、住民が病院まで移動できなければ、その住民にとって医療サービスは実質的に利用できません。

 このような生活サービスには、最も弱い条件が全体を制約する「ボトルネック型」の性格があります。そのため、総合点が高いかどうかだけではなく、「どれか一つでも最低水準を下回っている条件がないか」を確認する評価方法の方が、地域住民が実際に生活できるかどうかを考えるうえでは実態に近いと考えられます。

外房固有の実態を把握するにはGIS分析が必要

 全国調査や千葉県全体の統計から、人口減少、高齢化、食品アクセス、医師不足などの問題が存在することは確認できますが、それだけで御宿町、勝浦市、いすみ市、茂原市、館山市など個別地域の生活条件を直接説明したことにはなりません。そのため、より具体的に分析するには、GIS(Geographic Information System・地理情報システム)を利用して人口、年齢、住宅分布、道路、鉄道駅、バス停、病院、診療所、薬局、スーパー、金融機関、避難所などを地図上で重ねる必要があります。

 例えば、「65歳以上人口のうち、自動車を使わず30分以内に医療機関へ到達できる割合」「食品店まで15分以内に到達できない人口」「救急搬送で一定時間以上を必要とする地区」などを算出できれば、単純な施設数の比較よりも、どの地域でどの生活機能が不足しているのかを具体的に把握できます。

現実性の低い対策

 すべての集落に現在と同じ施設を残し続けることは、人口、利用者、人材、財政が減少する中では難しくなりますが、反対に施設を大規模に集約して交通手段を用意しない方法も、運転できない住民の生活を困難にします。また、観光収入が増えれば水道、医療、交通、ごみ収集など住民向けサービスまで自動的に維持できるわけではなく、観光によって生まれた経済効果が地域インフラの維持費へどのようにつながるのかを別途検討する必要があります。

 デジタル化も万能ではなく、通信回線、端末、操作能力がそろわなければ利用できず、医療、介護、ごみ出し、住宅管理など現地で人間が対応しなければならないサービスも残ります。ボランティアだけに依存する仕組みにも長期的な安定性には限界があり、責任、事故、保険、燃料費、担い手自身の高齢化を考えれば、必要性の高いサービスには一定の公的または事業的基盤が必要です。自動運転も将来的な可能性はありますが、道路条件、車両費、運行管理、通信、保守、事故対応などの課題があるため、現在生じている通院や買い物の問題を先送りする理由にはなりません。

外房で現実的に進めるべきこと

 最も現実的なのは、既存の施設と人材を前提に、生活圏単位で段階的に機能を再編することです。市町村境にこだわらず住民が実際に利用する病院、スーパー、鉄道駅、金融機関、行政窓口を把握し、そこへの移動手段まで含めて設計するとともに、「病院を一つ残す」「バス路線を残す」といった施設中心の基準ではなく、「救急医療へ何分以内に到達できるか」「食料品を週何回購入できるか」「断水時に何時間以内に給水できるか」「行政相談をどの程度利用できるか」といった住民側から見た最低サービス水準を設定する必要があります。

 施設を集約する場合には交通や訪問サービスを同時に整備しなければならず、施設だけを減らして住民の移動手段を用意しなければ、行政上は効率化であっても住民側から見れば実質的なサービス低下になります。水道、医療、ごみ処理、消防、交通、専門職採用などについては、小規模自治体が単独で維持するより複数自治体で共同運営した方が合理的な場合がありますが、広域化が必ず費用削減になるわけではなく、移動距離、収集距離、災害時の影響範囲なども含めて判断する必要があります。

 さらに、移動販売、買い物代行、デマンド交通、介護、住宅管理などでは、必要性が高くても民間事業として採算が成立しない場合があります。その場合は補助の必要性を曖昧にするのではなく、「誰のどの生活機能を、年間どれだけの費用で守るのか」を明示し、その費用と社会的効果を比較できる仕組みにすることが重要です。

地域を見るときに確認すべき項目

 外房のある地区で将来も生活を続けられるかを判断する場合、水道料金や管路更新計画だけを見るのでは不十分で、病院や診療所までの所要時間、夜間・休日の救急搬送先、公共交通の運行時間、デマンド交通の予約条件、スーパーや薬局までの距離、宅配や移動販売の対象区域、ごみ収集方法、下水・浄化槽の維持体制、介護サービスの供給状況、ガソリンスタンド、行政窓口、金融・郵便サービス、携帯電話や固定通信、災害時の代替道路、非常用電源、応急給水拠点まで一体として確認する必要があります。

 特に重要なのは、「現在家族が送迎している」「現在は本人が自動車を運転している」といった条件を恒久的な前提にしないことです。現在は問題なく生活できていても、高齢化によって本人が運転できなくなった場合や、家族による送迎ができなくなった場合にも生活が成立するかどうかまで考えて、地域の持続可能性を判断する必要があります。

現実的な結論

 外房で今後も暮らし続けるために必要なのは、都市部と同じ数の施設を各市町村に残すことではありません。人口減少と専門人材不足が進む中では、水道、医療、ごみ処理、消防などの広域化や施設集約は一定程度避けにくいと考えられますが、集約だけを進めれば、運転できない高齢者、障害者、単身世帯などに負担が集中するため、施設の維持と住民の利用可能性を別々に考えることはできません。

 水道施設があることより、必要な水が安定して届くことが重要であり、病院があることより、必要な時に医療へ到達できることが重要です。同様に、バスが走っていることより実際の通院や買い物に利用できること、オンライン申請が用意されていることより住民が実際に申請を完了できること、スーパーが存在することより必要な食品を自宅まで持ち帰れることの方が、生活を維持するという観点では重要になります。

 この視点に立てば、外房の生活基盤を維持するために必要なのは人口増加だけではなく、人口が減少しても最低限の生活機能を維持できる地域構造へ移行することだと分かります。そのためには、地域拠点への適切な機能集約、市町村を越えた共同運営、移動支援、訪問型サービス、デジタルと対面の併用、災害時の代替機能を組み合わせ、どの機能を住宅の近くに残し、どの機能を広域で共有し、距離が広がった部分を交通、訪問、宅配、通信によってどのように補うかを具体的に設計することが、人口減少が進む外房で今後も生活を維持していくための中心的な課題です。

地域の課題を、自分の判断に置き換えて考える

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