地域分析記事

地域の暮らしと地域課題を数学とデータで考える

地方でスーパーが閉店したというニュースを見ても、それだけで地域から食料が消えるわけではない。車を運転できる人であれば隣町のスーパーへ行けるし、家族に買ってきてもらうこともできる。移動販売車が巡回している地域もあれば、宅配サービスを利用できる地域もある。

そのため、スーパーの撤退は一見すると「店が一つ減った」という問題に見える。

しかし、人口減少がさらに進んだ30年後まで視野を広げると、問題の性質はかなり違ってくる。問われるのはスーパーが存在するかどうかではない。人口が減り続ける地域で、食品を住民のところまで運ぶ仕組みそのものを維持できるのかという問題だからである。

国立社会保障・人口問題研究所の「日本の地域別将来推計人口」は、2020年を基準として2050年までの市区町村別人口を推計している。つまり、現在から見ればすでに「約30年後の地方」がかなり具体的に見え始めている。人口減少は全国一律ではなく、地方の小規模自治体ほど大きな人口減少に直面する地域が少なくない。

この人口減少は、買い物環境に二重の影響を与える。

一つは、利用者が減ることである。

スーパーを維持するためには一定数の客が必要になる。人口が1万人の地域と3,000人の地域では、同じ規模の店舗を維持する難易度がまったく違う。さらに人口が減るだけではなく、高齢化によって一人当たりの購買量も変化する可能性がある。若い家族世帯が多い地域では肉、魚、飲料、日用品などをまとめて購入する世帯が多いが、高齢者の単身世帯や夫婦世帯では購入量そのものが小さくなりやすい。

店舗側から見ると、「人口減少」と「一世帯当たり購買量の縮小」が同時に起きる可能性がある。

すると店舗の売上が減り、固定費を支えられなくなる。最初に大型店が撤退し、その後、小型スーパーや商店も維持できなくなるという現象が起こり得る。

もう一つは、商品を運ぶ側も減ることである。

スーパーがなくなれば宅配を利用すればよい、と考えることはできる。しかし、宅配も商品が自動的に家まで移動してくるわけではない。倉庫から地域までトラックが走り、さらに各家庭まで商品を届ける人が必要になる。

現在すでに物流では運転手不足が問題になっている。国土交通省も、過疎地域では貨物量の減少や積載効率の低下によって、物流サービスを持続的に提供することが困難になる可能性を指摘している。2025年にまとめられたラストマイル配送に関する提言でも、人口の少ない地域で配送を維持すること自体が政策課題として扱われている。

ここに、将来の買い物問題の難しさがある。

人口が減ればスーパーが成立しにくくなる。しかしスーパーがなくなったから宅配へ移行しようとしても、その宅配も人口密度が低くなるほど効率が悪くなる。

例えば100軒の住宅へ商品を届ける場合を考えてみよう。

住宅が半径1キロメートル程度に集中していれば、一台の配送車で短時間に多くの家庭を回ることができる。しかし同じ100軒が山間部や海岸部に10キロメートル、20キロメートルと分散していれば、一軒当たりの配送距離は長くなる。

配送事業者から見れば、

人口密度の低下=一件の商品を届けるために必要な移動距離の増加

である。

単純化すれば、配送の採算性は、

配送収入 ÷ 配送に必要な時間・距離・人件費

によって決まる。

人口密度が下がれば分母が大きくなり、配送の採算は悪化する。

つまり地方の買い物問題は、小売業だけの問題ではない。人口密度と物流密度の問題なのである。

「ネットスーパーがあるから大丈夫」とは限らない

30年後には現在よりデジタル技術が進歩している可能性が高い。そのため、店舗へ行くのではなくスマートフォンや音声端末から商品を注文する生活は、現在以上に一般的になっているだろう。

しかし、注文方法がデジタル化しても、最後には米、野菜、肉、牛乳、飲料水を物理的に運ばなければならない。

インターネットは注文を運ぶことはできても、牛乳を運ぶことはできない。

この違いは非常に重要である。

電子商取引が発達すれば「買う場所」はなくせる。しかし「運ぶ工程」はなくならない。

しかも食品には一般の商品とは異なる制約がある。冷蔵品、冷凍品、生鮮食品には温度管理が必要であり、保存できる期間も短い。書籍や衣類であれば数日まとめて配送することが可能でも、食品では同じ方法が常に使えるわけではない。

したがって30年後の地方では、ネットスーパーが店舗を完全に代替するというより、物流インフラと一体化した新しい買い物システムへ変化していく可能性が高い。

移動販売車も万能ではない

スーパーが撤退した地域で現在よく利用されている方法の一つが移動販売である。

経済産業省も買物困難者対策として、移動販売、宅配、買い物代行、店舗への送迎など、さまざまな取り組みを紹介している。実際に移動販売は、自動車を運転できない高齢者にとって重要な生活インフラになっている地域がある。

ただし、移動販売にもスーパーと同じ問題がある。

客が減れば採算が悪くなる。

仮に一つの集落に50人の利用者がいれば販売車を走らせる意味があっても、10人、5人と減っていけば、一人の利用者のために走行する距離が長くなる。

さらに移動販売車を運転し、商品を積み込み、販売する人も必要である。

したがって人口減少が極端に進んだ地域では、「店が維持できないから移動販売にする」というだけでは問題は解決しない。

店舗、移動販売、宅配は形こそ違うが、すべて、

一定数の利用者が一定範囲に存在すること

を前提としているからである。

本当に深刻なのは「運転できなくなったとき」

地方では、自動車を持っている間は買い物問題が表面化しにくい。

スーパーまで10キロメートル離れていても、自動車なら15分程度で行けるかもしれない。そのため店舗が減少していても、多くの住民は日常生活を続けることができる。

ところが高齢になると状況が変わる。

視力、判断力、身体能力が低下し、運転をやめる時期が来る。

その瞬間、それまで10キロメートルだったスーパーまでの距離が、生活上はほとんど越えられない距離になることがある。

地方の買い物問題で重要なのは、「スーパーまで何キロメートルあるか」だけではない。

自動車を使わずにスーパーまで行けるか

である。

ここまで考えると、スーパー撤退問題は交通問題ともつながってくる。

バスがあれば店舗へ行ける。しかし人口が減れば路線バスも採算が悪化する。タクシーを利用する方法もあるが、年金生活者が毎回数千円の交通費を負担することは現実的ではない。

店舗、物流、公共交通は別々の問題に見えて、実際には同じ人口密度の低下によって同時に弱くなっていく可能性がある。

30年後に残るのは「スーパー」ではなく「買い物機能」かもしれない

では、人口が大きく減った地域では買い物ができなくなるのだろうか。

必ずそうなるわけではない。

ただし現在と同じスーパーをそのまま残すことだけを目標にするのは、人口が大幅に減少する地域では現実的ではないだろう。

必要なのは、スーパーという「施設」を守る発想から、住民が食品を手に入れられる「機能」を守る発想への転換である。

例えば地域の中心部に小規模な物流拠点を置き、そこへ複数のスーパーや卸売事業者の商品をまとめて運ぶ。その先を移動販売、共同配送、福祉車両、公共交通などが担う仕組みである。

現在は別々に走っている車両を統合することも考えられる。

宅配便の車、スーパーの商品配送車、移動販売車、介護関連車両、自治体の車両が、それぞれ少量の荷物や人を運んでいるのであれば、地域全体として輸送を最適化する余地がある。

国土交通省も、物流の担い手不足への対応として共同輸配送や事業者間の協業などを課題として挙げている。

これは単なる効率化ではない。

人口が少なくなる地域では、一つの事業だけで採算を取ることが難しくなるため、複数の生活サービスを一つの物流網に載せる必要が出てくるのである。

週7日いつでも買える社会から「曜日で届く社会」へ

もう一つ、大きく変わる可能性があるのがサービス水準である。

現在の都市生活では、欲しい商品を欲しい日に購入できることが当然になっている。

しかし人口密度が極端に低い地域で、このサービス水準をそのまま維持するには高いコストがかかる。

そこで30年後には、

月曜日はA地区、火曜日はB地区、水曜日はC地区というように配送日を集約したり、住民があらかじめ注文した商品を週に数回まとめて届けたりする仕組みが増えるかもしれない。

これはサービスの後退に見える。

しかし毎日配送して赤字になり、最終的に撤退してしまうより、週2回でも確実に商品が届く仕組みを維持する方が生活インフラとしては安定している。

地方では今後、

利便性の最大化より、持続可能性の最大化

が重要になる可能性がある。

買い物問題は福祉政策だけでは解決できない

高齢者の買い物問題は、しばしば福祉の問題として語られる。

しかし実態はそれほど単純ではない。

スーパーは商業政策、配送は物流政策、移動手段は交通政策、高齢者支援は福祉政策、人口分布は都市計画や住宅政策に関係する。

つまり一人の高齢者が夕食の食材を買えるかどうかという問題の背後には、複数の社会システムが存在している。

そのため自治体が「高齢者向け買い物支援事業」を一つ始めただけでは、長期的な解決にならない可能性がある。

特に30年間という時間で考えれば、現在70歳の住民を支援するだけでは不十分である。

その地域に2040年、2050年に何人が住み、どこに居住し、何人が自動車を運転でき、どの程度の配送需要が存在するのかを予測したうえで、商業、交通、福祉、物流を一つの生活インフラとして設計する必要がある。

人口が減るほど「住む場所」そのものが重要になる

そして最終的には、さらに難しい問題に行き着く。

人口が減少しても、住宅が広い範囲に散らばったままであれば、一人当たりのインフラ維持費は高くなる。

道路、水道、電気、通信、医療、介護、公共交通、そして食品配送まで、すべて同じ問題を抱える。

人口1,000人が半径2キロメートルに暮らしている地域と、同じ1,000人が半径20キロメートルに散らばっている地域では、生活サービスを維持するコストは大きく違う。

だからスーパー撤退問題を突き詰めると、最後には、

人口減少時代に人はどのように集まって暮らすのか

という地域構造の問題になる。

すべての集落にスーパーを置くことはできなくても、生活拠点となる地域に食品、医療、行政、交通などの機能を集約し、周辺集落との移動手段を確保することはできるかもしれない。

一方で、居住地が極端に分散した状態を維持しながら、現在と同じサービスを将来も提供し続けることには限界がある。

30年後、高齢者は買い物できるのか

結論として、スーパーがなくなった地域でも、30年後に高齢者が買い物を続けることは不可能ではない。

しかし、それは現在のスーパーの代わりに移動販売車を一台走らせれば解決する、というほど簡単な話でもない。

人口が減れば店舗の客が減る。

客が減れば店舗が撤退する。

店舗がなくなれば宅配需要が増える。

ところが人口密度が下がれば配送効率も悪化する。

高齢化が進めば自動車を運転できない人が増え、公共交通も人口減少によって維持が難しくなる。

つまり、スーパー撤退は問題の始まりにすぎない。

30年後の地方で問われるのは「スーパーを残せるか」ではなく、人口が減っても食品を住民の手元まで運び続けられる地域構造を作れるかである。

そのためには、店舗、宅配、移動販売、公共交通、福祉を別々に考えるのではなく、一つの地域物流システムとして組み直す必要がある。

人口減少社会では、すべての地域に現在と同じ便利さを残すことは難しいだろう。

しかし、便利さを少し下げる代わりに、買い物できる仕組みそのものを残すことはできる。

地方にとって本当に危険なのは、スーパーが一軒なくなることではない。

スーパーがなくなってから代替手段を考え始めることである。

人口が減ることがかなり高い確度で分かっているのであれば、30年後の買い物問題は30年後に考える問題ではない。

現在の人口と店舗数を見るだけではなく、2040年、2050年に誰が、どこに住み、どのように食料を受け取るのか。

そこから逆算して地域の商業と物流を設計することが、いま必要になっている。

地域の課題を、自分の判断に置き換えて考える

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高齢になって自分で病院へ通うことが難しくなっても、医師や看護師が自宅まで来てくれれば、住み慣れた地域で暮らし続けられる。

在宅医療を考えると、この仕組みは非常に重要です。

特に訪問看護では、看護師などが患者の自宅へ出向き、主治医の指示に基づいて健康状態の観察、医療処置、服薬管理、療養上の支援などを行います。

しかし、地方では一つ見落としやすい問題があります。

訪問看護は「患者が移動しなくてよい医療」である一方、医療従事者が患者の代わりに移動する医療でもある

ということです。

人口が減り、住宅が広い地域に分散したまま残れば、利用者一人を訪問するための移動距離や時間はなくなりません。

さらに、高齢者の増加によって在宅医療の需要が増える一方、訪問看護師を十分に確保できなければ、

訪問看護ステーションが地域に存在していても、必要な頻度で来てもらえない

という問題が生じる可能性があります。

この記事では、外房を含む山武長生夷隅地域を念頭に、公的資料を基に、30年後の訪問看護を考えます。

最初に結論

現時点の公的資料だけから、

「2050年には外房で訪問看護が受けられなくなる」

と断定することはできません。

反対に、

「訪問看護ステーションが増えているから、将来も問題なく利用できる」

とも言えません。

全国では訪問看護ステーションが増加しています。

厚生労働省の2024年「介護サービス施設・事業所調査」では、2024年10月1日時点の訪問看護ステーションは全国18,042事業所で、前年の16,423事業所から1,619事業所、9.9%増加しました。

一方、千葉県が山武長生夷隅保健医療圏についてまとめた保健医療計画では、

65歳以上人口10万人当たりの訪問看護ステーション数は千葉県平均を下回っている

とされています。千葉県は同時に、この地域では今後も在宅医療等の需要増加が見込まれるとしています。

つまり外房を含む地域では、

需要が増える可能性がある一方、訪問看護の供給基盤は県平均より薄い

という構造を考える必要があります。

訪問看護とは何をするサービスなのか

訪問看護は、単に高齢者の話し相手になるサービスではありません。

主治医の指示を受け、利用者の自宅などを訪問し、

・健康状態の観察 ・病状悪化の予防 ・療養生活の支援 ・医療処置 ・服薬管理 ・リハビリテーション ・緊急時への対応 ・看取りへの支援 ・医師や介護職との連携

などを行います。

訪問看護の利用者は高齢者だけではなく、小児、難病患者、精神疾患のある人などにも及びます。

したがって、

高齢者人口だけを見れば将来の訪問看護需要が分かる

というものでもありません。

厚生労働省の調査資料でも、医療保険による訪問看護利用者は高齢者だけに限られず、幅広い年齢層に存在しています。

全国では訪問看護ステーションは増えている

訪問看護について、

「人口減少だからステーションも減っている」

と考えるのは、少なくとも現在の全国統計とは一致しません。

厚生労働省によると、2024年10月1日時点の訪問看護ステーションは18,042事業所でした。

2023年は16,423事業所だったため、

18,042-16,423=1,619事業所

増加しています。

増加率は9.9%です。

したがって、現状を正確に表現するなら、

訪問看護ステーションそのものは全国的に増えている

ということになります。

しかし、ここで重要なのは、

事業所数が増えること = 全国どこでも同じように訪問看護を利用できること

ではない点です。

1事業所に看護師が何人いるのか

訪問看護サービスの供給能力を考えるには、事業所数だけでは不十分です。

実際に訪問する看護職員が必要だからです。

厚生労働省の2024年データを用いた調査では、訪問看護ステーション1事業所当たりの看護師・准看護師数は、常勤換算で全国平均5.7人でした。

千葉県は5.6人です。

全国平均との差は小さいものの、

一つの訪問看護ステーションに数十人の看護師がいるのが標準というわけではありません。

さらに、日本看護協会の調査を基にした厚生労働省資料では、所在地を問わず、看護職員5人未満の訪問看護事業所が最も多い結果となっています。

町村部では回答148事業所のうち71事業所、48.0%が看護職員5人未満でした。

これは外房の訪問看護ステーションそのものを調査した数字ではありません。

したがって、

「外房の半数の事業所が5人未満」

とは言えません。

ただし、全国的に訪問看護が比較的小規模な事業所によって支えられていることは確認できます。

小規模事業所では「1人減る影響」が大きい

仮に看護職員が20人いる事業所で1人退職すれば、単純な人数比では5%の減少です。

一方、5人の事業所から1人減れば20%の減少です。

これは単純な算術例であり、実際の訪問能力を直接示す公式指標ではありません。

しかし、小規模な訪問看護ステーションほど、

病気 退職 産休・育休 研修 夜間対応

などによる一人の欠員が、事業所全体の運営へ与える影響が相対的に大きくなりやすいことは理解できます。

したがって、

訪問看護ステーションが1か所存在する

という事実だけから、その地域の供給能力を判断することはできません。

外房を含む地域では県平均より訪問看護ステーションが少ない

千葉県保健医療計画では、勝浦市、いすみ市、大多喜町、御宿町などを含む山武長生夷隅保健医療圏について、

65歳以上人口10万人当たりの訪問診療実施診療所・病院数は千葉県平均を上回る一方、訪問看護ステーション数は千葉県平均を下回る

と整理しています。

さらに千葉県は、

今後も在宅医療等の需要が増加すると見込まれる

ため、在宅医療の拡充と体制整備を進める必要があるとしています。

ここには重要な意味があります。

医師の訪問診療体制が比較的確保されていても、

医師が診察することと、日常的な療養を訪問看護で支えることは別

だからです。

在宅医療は医師だけでは成立しません。

看護師、薬剤師、介護職、リハビリテーション職などによる連携が必要になります。

訪問看護は「移動する医療」である

病院の場合、患者が医療機関へ移動します。

訪問看護では逆です。

看護師が利用者の自宅へ移動します。

そのため勤務時間は概念的には、

訪問看護師の勤務時間 =看護を提供する時間 +利用者宅への移動時間 +記録・連絡・調整などの時間

に分けられます。

これは公式統計の算定式ではなく、訪問看護の構造を理解するための概念的整理です。

重要なのは、

移動時間には直接看護を提供できない

ことです。

例えば同じ8時間勤務でも、利用者宅が近接している地域と、住宅が広範囲に分散している地域では、訪問可能件数が同じとは限りません。

人口密度が低い地域では「利用者が少ないから楽」とは限らない

人口減少地域では、利用者数そのものが都市部より少ない場合があります。

一見すると、

利用者が少ない ↓ 必要な訪問看護師も少ない

と考えられます。

しかし、この関係は単純ではありません。

利用者数が少なくても、その利用者が広い地域に分散していれば、一件ごとの移動時間が長くなります。

つまり、

利用者数の減少率 ≠ 訪問に必要な労働時間の減少率

です。

これは、このブログでこれまで扱ってきた、

人口が減る速度と管理対象が減る速度は一致しない

という問題にも似ています。

訪問看護の場合は、

人口が減る速度と、必要な移動距離が減る速度は一致しない

可能性があります。

「移動負担」を数字だけで断定することはできない

ただし、ここでは慎重さも必要です。

今回確認した千葉県の公的資料から、

「外房の訪問看護師は1日平均○km走行している」

「都市部より移動時間が○分長い」

という統一的な地域データは確認できませんでした。

そのため、

外房では訪問時間の○%が移動で失われている

といった数字は示しません。

公開資料だけでは判断困難です。

実際の移動負担は、

事業所所在地 利用者の居住場所 道路状況 訪問エリア 利用者数 訪問頻度

などによって異なります。

30年後の人口構造はどうなるのか

国立社会保障・人口問題研究所の「日本の地域別将来推計人口(令和5年推計)」では、市区町村別人口が2050年まで推計されています。

山武長生夷隅地域についても、前の記事で確認したように、総人口の減少が続く一方、高齢者、とりわけ75歳以上人口が地域生活で大きな割合を占める状態が続くと見込まれています。

ただし、

2050年の外房に訪問看護利用者が何人いるか

訪問看護師が何人必要になるか

という市町村別の公式推計は、今回確認した資料では存在しません。

したがってこの記事では、

「2050年には訪問看護師が○人不足する」

という独自推計は行いません。

在宅医療を増やすほど訪問する人が必要になる

高齢者が病院へ長期間入院するのではなく、自宅などで療養できる体制を整えることには大きな意味があります。

しかし、

病院から在宅へ移せば医療従事者が不要になる

わけではありません。

むしろ、患者が複数の自宅に分散するため、

医師 看護師 薬剤師 リハビリテーション職 介護職

などがそれぞれ移動する必要があります。

千葉県も、山武長生夷隅地域について在宅医療需要の増加を見込み、在宅医療提供体制の整備が必要だとしています。

したがって、

入院から在宅へ = 低コストで簡単に医療を維持できる

とは限りません。

「24時間対応」はさらに人員を必要とする

在宅療養では、昼間だけ医療ニーズが発生するとは限りません。

夜間に、

発熱する 呼吸状態が悪化する 点滴やカテーテルに問題が起こる 痛みが強くなる 転倒する

といったことがあります。

そのため訪問看護には24時間連絡可能な体制を持つ事業所もあります。

千葉県の保健医療計画策定資料では、2023年4月時点で県内に24時間対応可能な訪問看護ステーションが544か所あるとされています。

ただし、24時間対応とは、

24時間いつでも看護師が直ちに訪問できる

ことと同義ではありません。

連絡体制や緊急訪問体制には事業所ごとの差があります。

さらに、小規模な事業所で夜間・休日を継続して担当する場合、職員への負担も考えなければなりません。

ステーションが増えても廃止・休止する事業所はある

全国では訪問看護ステーション数が増えていますが、すべての事業所が永続的に運営されているわけではありません。

厚生労働省の訪問看護事業所の事業継続に関する調査資料では、訪問看護事業所の廃止や休止も確認されています。

つまり、

新規開設 -廃止・休止

の結果として全体の事業所数が増えているのであり、

現在ある最寄りの訪問看護ステーションが30年後にもそのまま存在する

ことを保証する数字ではありません。

これは地方のサービスを考えるうえで重要です。

大きな事業所と小さな事業所では経営条件も異なる

厚生労働省の調査資料では、看護職員数の多い訪問看護事業所ほど収益が高い傾向が示されています。

これも、

「小規模事業所はすべて赤字」

という意味ではありません。

しかし、訪問看護では一定の規模を持つことによって、

夜間対応 休暇時の交代 研修 緊急訪問 管理業務

などを複数職員で分担しやすくなると考えられます。

一方、人口の少ない地域で利用者数を確保するためには、訪問範囲を広げる必要が生じる可能性があります。

ここに地方特有の矛盾があります。

規模を大きくするには利用者が必要 ↓ 人口密度が低いので広い地域から利用者を集める ↓ 訪問距離が延びる

という構造です。

これは分析上の整理であり、外房の全事業所が実際にこの状態にあるという意味ではありません。

ICTで移動時間そのものは消せない

ICT(情報通信技術)を利用すれば、

記録 情報共有 医師との連絡 予定管理 オンライン会議

などを効率化できます。

これは訪問看護の生産性向上に有効です。

しかし、

患者の身体を観察する

点滴や処置を行う

褥瘡を確認する

自宅で療養状態を確認する

ためには、必要に応じて実際に患者宅へ行かなければなりません。

そのため、

ICTを導入する = 訪問看護の移動問題がなくなる

とは言えません。

移動しなければならないサービスである以上、地理的条件は残ります。

オンライン診療とも役割が違う

オンライン診療によって、医師への相談や診察の一部を遠隔化できる場合があります。

しかし訪問看護は、

患者の身体状態を直接観察する 医療処置を行う 療養環境を確認する 家族の介護状況を見る

といった役割を持っています。

したがってオンライン化によって、すべての訪問を置き換えることはできません。

むしろ、

オンライン診療 +訪問看護 +必要時の通院・入院

を組み合わせる形が重要になります。

地方で必要なのは「事業所数」ではなく実際の訪問能力

地域の訪問看護体制を評価するときは、

訪問看護ステーションが3か所ある

という数字だけでは十分ではありません。

分析上は、

地域の実質的な訪問看護供給力 =看護職員数 ×実際に訪問できる勤務時間 ×対応可能日数 -移動時間 -記録・連携などに必要な時間

と考えることができます。

これは公式指標ではなく、分析のための概念的整理です。

さらに、

24時間対応 精神科訪問看護 小児対応 看取り リハビリテーション

など、事業所によって提供できるサービスも違います。

したがって、

訪問看護ステーションがある ≠ 自分に必要な訪問看護を利用できる

のです。

利用者にとっては「来てもらえる距離」が重要になる

病院では、

自宅から病院まで何kmか

が問題になります。

訪問看護では逆に、

訪問看護ステーションから自宅まで何kmか

が重要になります。

さらに、

その事業所が自宅を訪問対象地域としているか

を確認する必要があります。

地図上で最寄りの訪問看護ステーションだからといって、必ず契約できるとは限りません。

受入れ状況、職員数、疾患、医療処置、訪問エリアなどによって利用できない場合もあります。

高齢者一人暮らしでは訪問看護の重要性がさらに高くなる

家族と同居している場合には、

体温を測る 薬を確認する 病状変化に気づく 病院へ連絡する

といったことを家族が補う場合があります。

一人暮らしでは、その役割を家族に当然のように期待できません。

したがって単身高齢者が増える地域では、

訪問診療 訪問看護 訪問介護 配食 緊急通報

などを組み合わせる必要性が高まります。

ただし、ここでも重要なのは、

サービスの種類を増やすことだけではなく、それぞれを担う人が確保できるか

です。

訪問看護だけで在宅生活を維持できるわけではない

訪問看護は重要ですが、利用者宅に24時間看護師がいるサービスではありません。

訪問と訪問の間には、本人や家族が生活する時間があります。

したがって在宅生活の継続可能性は、

訪問看護 +訪問診療 +介護サービス +服薬支援 +食事 +緊急対応 +家族・地域支援 +住環境

などによって決まります。

訪問看護だけを増やせば、一人暮らしの高齢者問題が解決するわけではありません。

30年後に成立しやすい地域の条件

人口減少地域でも訪問看護を維持しやすい条件としては、

・一定数の看護職員を確保できる ・小規模事業所同士で連携できる ・夜間や休暇時の応援体制がある ・利用者が過度に広範囲へ分散していない ・医師、薬局、介護事業者との連携がある ・ICTで記録・情報共有を効率化できる ・必要に応じて複数市町村をまたいだ連携ができる

などが考えられます。

一方、

・職員が少ない ・利用者宅が広範囲に分散している ・夜間対応を少人数で担う ・一人退職しただけで訪問枠が大きく減る ・医療・介護事業者との連携が弱い

地域では、継続が難しくなる可能性があります。

「各町に1か所残せばよい」とも言えない

行政的には、

「町内に訪問看護ステーションを確保する」

という考え方は分かりやすいものです。

しかし小規模なステーションを各地域に分散させれば、

一つ一つの事業所が十分な職員数を確保できない可能性があります。

反対に大規模なステーションへ統合すれば、人員配置や夜間対応はしやすくなる可能性がありますが、

訪問距離が長くなる

という問題が生じます。

つまり、

分散 =近いが小規模になりやすい

集約 =規模を確保しやすいが遠くなりやすい

というトレードオフがあります。

したがって、単純に「統合すれば効率的」とも「各町に残せば安心」とも言えません。

判断前に確認したいこと

高齢期に外房などの地方で在宅生活を考える場合には、現在の事業所数だけではなく、次の点を確認する必要があります。

  • [ ] 自宅を訪問対象とする訪問看護ステーションがあるか
  • [ ] 現在、新規利用を受け付けているか
  • [ ] 看護師による訪問に対応しているか
  • [ ] 必要な医療処置に対応できるか
  • [ ] 夜間・休日の連絡体制があるか
  • [ ] 緊急訪問が必要な場合の対応を確認したか
  • [ ] 主治医との連携ができるか
  • [ ] 訪問診療・介護サービスも利用できるか
  • [ ] 家族がいなくても療養を継続できる仕組みがあるか
  • [ ] 現在の最寄り事業所だけに依存していないか

現実的な結論

現在、全国の訪問看護ステーション数は増えています。

2024年10月1日時点では全国18,042事業所となり、前年から9.9%増加しました。

したがって、

訪問看護そのものが現在衰退している

とは言えません。

一方、外房を含む山武長生夷隅保健医療圏では、65歳以上人口10万人当たりの訪問看護ステーション数が千葉県平均を下回り、千葉県自身が今後の在宅医療需要の増加を見込んでいます。

さらに、全国の訪問看護ステーションは比較的小規模な事業所が多く、千葉県でも1事業所当たり看護師・准看護師数は2024年に常勤換算5.6人でした。

したがって30年後を考えるとき、重要なのは、

訪問看護ステーションを何か所残せるか

だけではありません。

重要なのは、

実際に訪問できる看護師を何人確保し、その人たちが限られた勤務時間の中で、どの範囲まで訪問できるか

です。

在宅医療は、患者が病院へ行かなくてよい医療です。

しかしその代わりに、

医療従事者が患者のところへ行かなければならない医療

でもあります。

人口減少地域では、

人口が減る ↓ 住宅や集落は広い範囲に残る ↓ 一人当たりの移動負担が必ずしも減らない

という問題が生じます。

そのため、

訪問看護サービスが存在すること ≠ 必要なときに実際に来てもらえること

と考える必要があります。

30年後の地方の在宅医療を支えるために必要なのは、単に訪問看護ステーションを増やすことではありません。

限られた看護職員で、移動を含めて持続可能な訪問体制をどう構築するか。

そこまで考えて初めて、「住み慣れた地域で暮らし続ける」という在宅医療の理念を、現実の生活として維持できるのではないでしょうか。

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外房で病院や診療所が減ったら、どこまで通院できるのか~医療機関までの距離と高齢者生活を考える

地方で暮らし続けられるかを考えるとき、「近くに病院があるか」は重要な条件です。

しかし、病院や診療所の看板が地域に残っていれば、それだけで医療へアクセスできるのでしょうか。

実際の通院には、

・必要な診療科がある ・診療日に受診できる ・予約を取れる ・医師がいる ・自宅から移動できる ・診察後に帰宅できる ・定期的な通院を繰り返せる

という複数の条件が必要です。

特に高齢になると、10km、20kmという距離そのものだけでなく、自動車を運転できるか、家族が送迎できるか、鉄道やバスの時刻が診療時間に合うかという問題が加わります。

この記事では、勝浦市、いすみ市、大多喜町、御宿町などを含む外房を念頭に置きながら、千葉県が設定する「山武長生夷隅保健医療圏」の公的資料を中心に、

病院や診療所が存在することと、高齢者が実際に通院できることは同じなのか

を考えます。

最初に結論

外房の将来医療で重要なのは、

病院・診療所の数だけを維持することではなく、必要な診療を、住民が現実的に到達できる範囲で受けられる状態を維持できるか

です。

山武長生夷隅保健医療圏では、千葉県の計画策定時点で一般診療所が263か所あり、一般診療所で診療に従事する医師は253人でした。

しかし同圏域の外来医師偏在指標は85.9で、全国330医療圏中255位です。

千葉県はこの地域について、

「診療所における外来医療のニーズに対して、診療所医師が少ない地域」

と評価しています。

さらに、外来患者については圏域外へ1日約4,500人が流出する一方、圏域内への流入は約1,000人で、差し引き約3,500人の流出超過と推計されています。

つまり、現在でも地域住民の医療が、この医療圏だけで完結しているわけではありません。

将来、医療機関や診療科が減少した場合に問題になるのは、単なる施設数の減少ではなく、

圏域外へ移動しなければ受けられない医療がさらに増える可能性

です。

「外房」の範囲と今回使う統計

日常的に使われる「外房」と、行政上の医療圏は一致しません。

千葉県の山武長生夷隅保健医療圏は、

茂原市 東金市 勝浦市 山武市 いすみ市 大網白里市 九十九里町 芝山町 横芝光町 一宮町 睦沢町 長生村 白子町 長柄町 長南町 大多喜町 御宿町

の6市10町1村で構成されています。

面積は1,161.72平方キロメートルで、千葉県全体の22.5%を占めます。一方、2023年4月1日時点の人口は422,832人で、県人口の6.5%です。

したがって、かなり広い面積に人口が分散する医療圏です。

ただしこの記事で示す医療機関数や医師数は、原則として山武長生夷隅保健医療圏全体の数字です。

勝浦市、御宿町、いすみ市など南側の外房地域だけを表した数字ではありません。

ここは区別する必要があります。

2050年には人口が減っても、75歳以上人口は今より多い

国立社会保障・人口問題研究所の2023年推計を基にした千葉県資料では、山武長生夷隅区域の人口は、

2020年 約41万人 2025年 約38万8千人 2030年 約36万6千人 2035年 約34万3千人 2040年 約31万9千人 2045年 約29万5千人 2050年 約27万3千人

へ減少すると見込まれています。

2020年から2050年までの減少は約13万7千人です。

割合にすると、

(41万人-27万3千人)÷41万人×100 ≒33%

となります。

一方、75歳以上人口は、

2020年 約7万4千人 2025年 約8万7千人 2030年 約9万4千人 2035年 約9万3千人 2040年 約9万人 2045年 約8万7千人 2050年 約8万8千人

と推計されています。

2050年の総人口は2020年より約3分の1減る一方、75歳以上人口は2020年を上回る推計です。

したがって、

人口が減る =通院する高齢者も同じ割合で減る

とは考えられません。

これは外房の医療を30年先まで考える上で重要な構造です。

現在でも外来患者は地域外へ流出している

千葉県保健医療計画では、山武長生夷隅保健医療圏の居住者を基準にした推計外来患者数は1日約19,900人です。

そのうち、

圏域外への流出 約4,500人/日 圏域外からの流入 約1,000人/日

で、

差し引き約3,500人/日の流出超過

とされています。

主な流出先として、

千葉保健医療圏 約1,400人/日 香取海匝保健医療圏 約700人/日 安房保健医療圏 約700人/日 印旛保健医療圏 約600人/日 市原保健医療圏 約400人/日

などが推計されています。

この数字は平成29年度患者調査などを基に厚生労働省が算出したもので、現在の日々の実数ではありません。

それでも、

地域住民の外来医療が、すでに他の医療圏との移動によって支えられている

ことを示す資料として重要です。

263診療所あるから十分とは言えない

千葉県の資料では、山武長生夷隅医療圏に一般診療所が263か所あり、診療所で診療に従事する医師は253人です。

この数字だけを見ると、かなり多くの医療機関が存在するようにも見えます。

しかし、診療所はすべて同じ医療を提供しているわけではありません。

主たる診療科別の診療所医師数を見ると、

内科 119人 整形外科 23人 眼科 24人 小児科 12人 耳鼻いんこう科 12人 消化器内科 11人 産婦人科 8人 皮膚科 7人 外科 6人 精神科 3人 泌尿器科 3人 循環器内科 2人 腎臓内科 2人 脳神経外科 2人

などとなっています。

これは2020年の「医師・歯科医師・薬剤師統計」による数字です。

つまり、

近所に診療所がある =必要な診療科が近所にある

ではありません。

皮膚科・精神科は県平均よりかなり少ない

山武長生夷隅医療圏について、一般診療所に勤務する医師の人口10万人当たり人数は、

皮膚科 1.7人 精神科 0.7人 眼科 5.7人 耳鼻いんこう科 2.9人

です。

千葉県平均は、

皮膚科 3.6人 精神科 2.5人 眼科 5.4人 耳鼻いんこう科 3.1人

です。

眼科と耳鼻いんこう科は県平均と大きな差がありませんが、皮膚科と精神科について千葉県は「約2分の1以下」と説明しています。

したがって医療アクセスを考える場合、

病院・診療所の総数

だけを見るのでは不十分です。

必要なのは、

診療科ごとのアクセス

です。

医師全体でも「医師少数区域」

千葉県保健医療計画の医師確保に関する資料では、山武長生夷隅保健医療圏の医師偏在指標は145.1で、全国335医療圏中298位です。

千葉県は同圏域を、

「医師少数区域」

に設定しています。

2020年末時点の医療施設従事医師数は545人でした。

千葉県は2026年度末の目標医師数を640人としています。

差は95人です。

ただし、この640人という数字は「必要なすべての医師需要を完全に満たす人数」という意味ではありません。

千葉県の計画では、医師少数区域について、全国の下位33.3%の基準から脱するために必要な人数などを基準に設定しています。

したがって、

640人に達すれば将来の医師不足が完全に解消する

とは解釈できません。

「病院がなくなる」というより、機能が遠くなる問題

地方医療については、

「病院が閉院するか」

という二者択一で考えがちです。

しかし生活者にとっては、もっと段階的な変化があります。

例えば、

近所の診療所が週5日から週3日になる 特定の診療科だけ終了する 常勤医が非常勤になる 午後診療がなくなる 入院機能が縮小する 専門検査が他院紹介になる 手術は別の医療圏へ行く

といった変化です。

この場合、医療機関そのものは地域に残っています。

それでも患者側から見ると、

利用できる医療機能までの距離が伸びた

ことになります。

したがって地域医療アクセスは、施設数だけでなく、

医療アクセス =必要な診療機能への到達可能性

として考える方が実態に近くなります。

では「何kmまでなら通院できる」のか

この記事の題名にある「どこまで通院できるのか」について、最も注意が必要な部分です。

今回確認した千葉県・厚生労働省の資料には、

高齢者は病院まで○km以内なら通院可能

という統一的な基準はありません。

5kmなら大丈夫、10kmを超えたら困難、20kmなら通院不能という客観的な線を、公的資料から設定することはできません。

距離だけでは、

自動車を運転できる人 家族が送迎できる人 鉄道駅に近い人 バス停から遠い人 歩行が困難な人

で条件が違うためです。

したがって、

外房では医療機関まで○km以内に住めば安心

とはこの記事では結論づけません。

公開資料だけでは判断困難です。

本当に重要なのは「距離」より移動時間と反復可能性

例えば片道15kmの医療機関でも、自動車を運転できれば通院できる場合があります。

一方、自宅から2kmしか離れていなくても、

徒歩が困難 バスがない 家族送迎がない タクシー料金を継続的に負担できない

という場合には通院が難しくなります。

したがって高齢者の通院可能性は、分析上、

通院可能性 =医療機関の存在 +必要な診療科 +診療可能日時 +移動手段 +所要時間 +費用負担 +本人の身体能力 +継続して通える頻度

と整理できます。

これは公式指標ではなく、この記事で問題を整理するための概念式です。

重要なのは、

一度だけ病院へ行けること

ではなく、

毎月、あるいは数週間ごとに繰り返し通えること

です。

高齢者医療では「定期通院」が問題になる

高齢期には、高血圧、糖尿病、心疾患、整形外科疾患、眼疾患などで継続的な診療が必要になる場合があります。

このとき通院負担は、

1回の移動負担 × 年間通院回数

として累積します。

例えば専門医への受診で地域外へ移動する場合、1回だけなら家族に頼めても、それを何年も繰り返せるかは別問題です。

したがって、

家族に車で連れて行ってもらえる = 長期間の通院問題が解決している

とは限りません。

これは人口減少地域で特に考える必要があります。

医療圏そのものが非常に広い

山武長生夷隅保健医療圏の面積は約1,162平方キロメートルです。

千葉県全体の約22.5%を占める一方、人口は県全体の6.5%です。

このため「同じ医療圏内」という表現にも注意が必要です。

例えば、同じ山武長生夷隅保健医療圏にある医療機関だからといって、すべての住民にとって近距離とは限りません。

医療行政上の圏域と、

住民が日常的に通える生活圏

は同じではありません。

高度な医療ほど地域内で完結しない

千葉県資料によると、山武長生夷隅医療圏には、計画作成時点で病院23施設、一般診療所263施設がありました。

一方、医療機器を見ると、2020年度医療施設調査などに基づく資料では、

全身用CT(Computed Tomography・コンピュータ断層撮影) 49台 MRI(Magnetic Resonance Imaging・磁気共鳴画像装置) 21台 PET(Positron Emission Tomography・陽電子放出断層撮影) 0台 放射線治療装置 1台 マンモグラフィ 14台

となっています。

千葉県は、PETについて圏域内に保有医療機関がなく、隣接医療圏との連携が重要としています。

つまり、

すべての医療を地域内に置くこと

を前提とした医療体制ではありません。

専門性の高い医療では、ある程度の集約化と地域間連携が必要です。

問題は、

集約した医療機関まで患者が到達できる仕組みも同時に維持できるか

です。

病院を各町に残せばよい、とは限らない

ここで単純に、

「高齢者が増えるのだから、各市町村に病院を残せばよい」

という結論にはできません。

病院には医師だけでなく、

看護師 薬剤師 診療放射線技師 臨床検査技師 臨床工学技士 リハビリテーション職 事務職

など多くの職種が必要です。

設備、病床、検査機器、夜間勤務なども必要になります。

人口が減る地域で、小規模な医療機関にすべての機能を分散させれば、それぞれの医療機関で人員や設備を確保できるとは限りません。

したがって、

近くに何でもある医療

と、

医療の質・人員を確保するための集約化

の間にはトレードオフがあります。

反対に「集約すれば効率的」でも終われない

一方、

「人口が減るなら病院を集約すればよい」

という考えも十分ではありません。

医療機関側の効率が上がっても、

患者の移動距離 家族の送迎時間 タクシー料金 仕事を休む時間 公共交通の利用負担

が増えれば、社会全体では別の負担が発生します。

このブログでこれまで扱ってきた考え方と同じです。

医療機関側の効率化 ≠ 住民側の負担軽減

です。

外房では「医療」と「交通」を別々に考えられない

病院が集約されるほど、交通の重要性は高くなります。

逆に、

路線バスが減る 鉄道の運行本数が減る タクシー事業者が減る 本人が運転できなくなる

という変化が重なると、医療施設そのものが存続していてもアクセスできなくなる可能性があります。

つまり地方では、

医療アクセス =医療提供体制+地域交通

です。

病院政策だけで通院問題を解決することはできません。

自動車を運転できる間だけを見ると問題を見落とす

外房では、自動車で通院している住民も少なくありません。

そのため60代、70代前半では、

「病院まで15kmでも車なら問題ない」

と感じることがあります。

しかし高齢期の居住可能性を考える場合、

現在運転できるか

ではなく、

運転できなくなった後にも同じ医療へアクセスできるか

を見る必要があります。

自動車中心の医療アクセスは、

免許返納 視力低下 認知機能低下 身体機能低下 入院後の体力低下

などによって突然成立しなくなる可能性があります。

したがって地方移住や高齢期の住宅選びでは、現在の自動車移動時間だけでなく、非運転時の通院手段も確認する必要があります。

オンライン診療ですべて解決するわけではない

オンライン診療には、移動負担を軽減できる利点があります。

特に状態が安定した患者の一部では、通院回数を減らせる可能性があります。

しかし、

採血 画像検査 処置 身体診察 緊急対応 手術 リハビリテーション

など、対面でなければ行えない医療は残ります。

そのため、

オンライン診療が普及する = 地方の通院問題がなくなる

とは考えられません。

オンライン診療は、通院を完全に代替する仕組みではなく、適切な患者・疾病について移動回数を減らす一つの方法として考える必要があります。

在宅医療も重要だが万能ではない

山武長生夷隅医療圏には、2023年4月1日時点で在宅療養支援診療所が16か所あり、このうち機能強化型は7か所でした。

高齢化が進む地域では、患者が病院へ行くのではなく、医師や看護師などが患者宅へ行く在宅医療の重要性が高まります。

しかし在宅医療でも、

医師 看護師 車両 移動時間 訪問可能範囲

が必要です。

人口が広い地域に分散していれば、医療従事者側にも移動負担が発生します。

したがって、

在宅医療を増やせば通院問題がすべて解決する

とも言えません。

高齢者に必要なのは「医療施設への距離」ではなく「医療へのアクセス」

今後の地方居住を判断するとき、

最寄り病院まで○km

という情報だけでは不十分です。

少なくとも、

1 普段の内科

慢性疾患の診療や薬の処方を継続できるか。

2 専門診療

眼科、皮膚科、精神科、整形外科、循環器内科など必要な診療科がどこにあるか。

3 検査

CT、MRIなど必要な検査がどこで受けられるか。

4 入院

入院が必要になった場合、どの病院へ行くのか。

5 非運転時

自動車を運転できなくなった後にどう通うか。

6 家族不在時

家族が送迎できない場合に代替手段があるか。

を見る必要があります。

判断前のチェックリスト

地方で高齢期を暮らす場合、現在の医療環境について次の点を確認すると実用的です。

  • [ ] 最寄りの内科まで自動車以外で行けるか
  • [ ] 定期的に必要な専門診療科がどこにあるか
  • [ ] 午前・午後の診療曜日を確認したか
  • [ ] 紹介が必要な病院までの距離を確認したか
  • [ ] 家族送迎なしでも通院できるか
  • [ ] タクシーを継続利用した場合の費用を負担できるか
  • [ ] 公共交通の時刻が診療時間と合っているか
  • [ ] 退院後の通院方法を考えているか
  • [ ] 訪問診療の対象地域に入っているか
  • [ ] 運転できなくなった後の通院手段を決めているか

重要なのは、現在病院へ行けるかではありません。

10年、20年後に身体能力や交通条件が変わっても通院を継続できるか

です。

どのような地域なら比較的維持しやすいのか

医療アクセスを維持しやすいのは、

診療所と中核病院の役割分担がある 専門医療を集約しても交通手段が確保される かかりつけ医と専門医が連携できる 訪問診療・訪問看護を利用できる 公共交通やタクシーなど複数の移動手段がある 住民が医療機関に比較的集まりやすい居住構造

などの条件を持つ地域です。

逆に、

人口が広域に分散している 診療所の後継者がいない 専門診療科が遠い 自動車以外の交通が少ない 家族送迎への依存が大きい

地域では、医療施設数だけを維持しても通院可能性を維持できない可能性があります。

「病院を残すか、なくすか」だけの議論では足りない

人口減少地域では、医療機関の統合・再編が議論されることがあります。

しかし住民生活から見ると、本当に重要なのは、

病院が残ったか 閉院したか

だけではありません。

必要なのは、

必要な医療機能まで何分で行けるのか

自動車がなくても行けるのか

月に何回でも継続できるのか

専門医療が必要になった場合にも移動できるのか

という評価です。

医療アクセスを、

施設の数

ではなく、

医療機能への到達可能性

で考える必要があります。

現実的な結論

山武長生夷隅保健医療圏では、総人口が2020年の約41万人から2050年には約27万3千人へ減少すると推計されています。

一方、75歳以上人口は約7万4千人から約8万8千人となる推計です。

現在でも外来医師偏在指標は全国330医療圏中255位で、千葉県は診療所医師が少ない地域と評価しています。

医師全体の偏在指標でも、山武長生夷隅保健医療圏は「医師少数区域」に設定されています。

さらに、外来患者は1日約3,500人の流出超過と推計されており、現在の医療も圏域外との連携によって成立しています。

したがって将来の外房について、

人口が減るから病院も減らしてよい

とも、

病院を今の数だけ残せば安心

とも言えません。

人口減少社会で重要になるのは、

少なくなる人口に対して、すべての医療施設を同じ形で残すことではなく、必要な医療機能を確保し、その場所まで高齢者が実際に到達できる仕組みを残すこと

です。

そして、高齢期の生活を考える住民側も、

「病院まで車で15分だから大丈夫」

だけではなく、

運転できなくなった後にも、その医療を利用できるか

まで考える必要があります。

地方の医療問題は、

病院があるか、ないか

だけではありません。

医療が存在すること ≠ 必要な人が実際に通院できること

です。

外房で30年後も暮らし続けられるかを考えるなら、この違いを無視することはできません。

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はじめに

「地方の持ち家で、何歳まで暮らし続けられるのか」

地方に住む高齢者や、都市部から地方への移住を考える人にとって、これは重要な問題です。

一般には、健康であれば80歳でも90歳でも自宅で暮らせる、介護が必要になったら施設へ移る、といった説明がされます。しかし、実際の暮らしは、それほど単純ではありません。

地方では、自宅の中で食事や着替えができるだけでは、生活は成立しません。

食料品を買い、病院へ通い、薬を受け取り、家屋や庭を管理し、行政や金融の手続きを行い、災害時には自力で避難する必要があります。これらの多くが、自動車や家族の支援に依存しています。

反対に、身体機能が低下しても、宅配、訪問診療、介護サービス、家族送迎、住宅改修などが利用できれば、自宅生活を続けられる場合があります。

したがって、「何歳まで暮らせるか」という問いを、年齢だけで答えることはできません。

本記事では、厚生労働省、内閣府、総務省統計局、国土交通省、農林水産省などの公的資料を基に、地方での自宅生活が成立する条件と、生活の限界点を客観的に整理します。


最初に結論

地方の高齢者が自宅で暮らせる年齢に、全国共通の上限はありません。

70代で自宅生活が難しくなる人もいれば、90歳を超えて生活できる人もいます。

ただし、これは単なる個人差ではありません。

自宅生活の継続可能性は、概念的には次のように考えられます。

自宅生活の継続可能性 =身体・認知機能 +移動手段 +医療・介護へのアクセス +買い物手段 +住宅の安全性 +住宅管理能力 +家族・地域による支援 +費用負担能力

このうち、一つが失われても直ちに生活不能になるとは限りません。

しかし、複数の条件が同時に失われると、自宅生活は急速に不安定になります。

特に地方では、

  • 自動車を運転できなくなる
  • 配偶者が入院または死亡する
  • 通院先が遠くなる
  • 買い物を代替する手段がない
  • 家や庭を管理できなくなる

といった変化が重なることが、生活の限界点になりやすいと考えられます。

したがって、住み替えや支援導入を考える時期は、特定の年齢ではなく、生活に必要な機能を自分または外部サービスで維持できなくなった時点です。


1.平均寿命は「自立して暮らせる年齢」ではない

2024年の日本人の平均寿命は、男性81.09年、女性87.13年です。

また、65歳時点の平均余命は、男性19.47年、女性24.38年です。単純に加えると、65歳の男性は平均的に84歳台、女性は89歳台まで生きる計算になります。80歳時点でも、男性は平均8.96年、女性は11.83年の余命があります。

しかし、平均寿命や平均余命は、自宅で自立して生活できる期間を示すものではありません。

厚生労働省が示す健康寿命は、「健康上の問題で日常生活が制限されることなく生活できる期間の平均」です。

2022年の健康寿命は男性72.57年、女性75.45年でした。同年の平均寿命との差は、男性約8.5年、女性約11.6年です。これは、その期間の全てで介護が必要という意味ではありませんが、健康上の制限を抱えて生活する期間が相当程度存在することを示します。

ここから確認できるのは、次の点です。

長生きできる年齢と、支援なしで暮らせる年齢は一致しない。

ただし、健康寿命を超えた時点で自宅生活が不可能になるわけでもありません。

健康上の制限があっても、住環境、家族、医療、介護、移動手段が整えば、自宅生活を続けられます。


2.80歳前後から生活条件の再点検が必要になる理由

年齢だけで判断すべきではありませんが、加齢によって介護や支援を必要とする可能性が上がることは、統計上確認できます。

厚生労働省の資料では、75歳以上全体の要介護・要支援認定率は31.0%、85歳以上では57.7%とされています。つまり、85歳以上では半数を超える人が、何らかの介護保険上の認定を受けています。

ただし、要支援・要介護認定を受けた人が、全員施設へ入るわけではありません。

要支援や比較的軽度の要介護であれば、訪問介護、通所介護、福祉用具、住宅改修などを利用して自宅で暮らすことは可能です。

一方、地方では介護認定の有無だけでは判断できません。

自宅の周囲に介護事業者が存在するか、必要な曜日や時間に利用できるか、職員不足による利用制限がないかも重要です。

したがって、年齢について現実的に表現するならば、次のようになります。

  • 65~74歳は、将来の生活設計を始める時期
  • 75~79歳は、運転・通院・住宅管理の再点検を行う時期
  • 80~84歳は、代替手段を実際に導入する時期
  • 85歳以上は、単独生活を前提とせず、支援体制を定期的に確認する時期

これは医学的な境界ではなく、生活上の準備時期の目安です。

「80歳だから住めない」のではなく、80歳前後から複数の生活機能が同時に低下する可能性を考え、事前に代替策を用意する必要があります。


3.地方では自動車が生活機能の一部になっている

地方の高齢者の自宅生活を考えるとき、最も大きな要素の一つが自動車です。

国土交通省の全国都市交通特性調査では、60代、70代とも、三大都市圏より地方都市圏の方が、自動車の運転または同乗による移動の割合が高いとされています。

地方では、自動車は単なる移動手段ではありません。

  • 食料品を買う
  • 病院へ通う
  • 薬局へ行く
  • 金融機関へ行く
  • ごみを搬出する
  • 家族を送迎する
  • 地域活動に参加する

といった生活を維持する基盤になっています。

そのため、免許返納によって交通事故のリスクが下がっても、代替交通がなければ、通院や買い物が困難になる可能性があります。

警察庁の統計では、2024年の運転免許自主返納件数は全国で約42万8千件でした。自主返納は広く行われていますが、この数字だけでは、返納後の生活が維持できているかまでは分かりません。

重要なのは、「何歳で返納するか」ではなく、次の二つを同時に評価することです。

  1. 運転を続ける事故リスク
  2. 運転をやめる生活喪失リスク

地方で安全な代替手段が存在しない場合、免許返納が通院中断、買い物回数の減少、社会的孤立につながる可能性があります。

したがって、自宅生活を続けるには、返納前に次を確認する必要があります。

  • 路線バスや鉄道の停留所まで歩けるか
  • デマンド交通が自宅付近まで来るか
  • タクシーを継続利用できる所得があるか
  • 家族送迎が定期的に可能か
  • 病院送迎や介護タクシーを利用できるか
  • 食品や日用品の宅配が使えるか

これらが確保できない場合、運転停止が自宅生活の限界点になることがあります。


4.買い物は店舗までの距離だけでは判断できない

地方では、近隣の商店が閉店し、郊外の大型店へ買い物が集中している地域があります。

農林水産省は、食料品店まで直線距離で500メートル以上あり、かつ自動車を利用できない65歳以上の人を「食料品アクセス困難人口」として推計しています。

2020年の食料品アクセス困難人口は全国で904万人、65歳以上人口の25.6%でした。75歳以上では566万人、75歳以上人口の31.0%に相当します。

この数字は、地方の高齢者の全てが買い物に困っているという意味ではありません。

また、都市部でも店舗までの距離、坂道、荷物の運搬、身体機能によって買い物が困難になるため、地方だけの問題でもありません。

一方、地方では店舗密度が低く、公共交通の本数も少ないため、自動車を失った際の影響が大きくなりやすいと考えられます。

買い物能力を判断する際には、次の三段階に分ける必要があります。

第1段階~店舗へ行けるか

  • 歩ける距離か
  • 自動車を使えるか
  • バスの時間が合うか
  • タクシー代を払えるか

第2段階~商品を持ち帰れるか

店舗まで行けても、米、飲料、洗剤、灯油などを持ち帰れなければ、生活は成立しません。

第3段階~代替サービスを利用できるか

  • ネットスーパー
  • 生協などの宅配
  • 移動販売
  • 家族による購入
  • 買い物代行
  • 配食サービス

地域にサービスが存在しても、配送地域、最低注文額、配送料、注文方法などが利用者に合わなければ、実際には使えません。

したがって、「スーパーまで何キロメートルか」だけでは不十分です。

食料を選び、注文し、支払い、受け取って、室内まで運べるか

まで確認して、初めて買い物能力を評価できます。


5.通院できることと、必要な医療を受けられることは違う

地方では、近隣に診療所があっても、必要な診療科や検査を受けられるとは限りません。

慢性疾患の定期受診は近隣で可能でも、

  • 循環器内科
  • 整形外科
  • 眼科
  • 耳鼻咽喉科
  • 泌尿器科
  • 脳神経外科
  • がん治療
  • 高度画像検査

などは、遠方の病院へ行かなければならない場合があります。

高齢になるほど、受診する診療科が増え、複数の医療機関へ通う可能性も高まります。

通院可能性は、単に病院までの距離ではなく、次の要素で決まります。

通院負担 =自宅からの移動時間 +待ち時間 +診療時間 +薬局での待ち時間 +付き添う家族の時間 +交通費

例えば、診療時間が15分でも、往復移動と待ち時間を含めれば半日を要することがあります。

本人が運転できなくなった後、家族が毎月複数回の送迎を続けられるとは限りません。

また、訪問診療があっても、全ての治療や検査を自宅で受けられるわけではありません。急変時の入院先、夜間休日の対応、訪問看護、薬局との連携も必要です。

したがって、自宅生活を判断する際には、

  • かかりつけ医がいるか
  • 定期受診先まで移動できるか
  • 緊急時に搬送を受け入れる病院があるか
  • 訪問診療・訪問看護が利用できるか
  • 家族以外の通院支援があるか

を一体として確認する必要があります。


6.持ち家であっても、住居費はゼロではない

地方の高齢者は、持ち家に住んでいる割合が高い傾向があります。

2023年の住宅・土地統計調査では、高齢者のいる世帯の81.6%が持ち家に居住しています。高齢者夫婦のみの世帯では87.6%です。

持ち家は家賃負担がないという利点があります。

しかし、住宅ローンを完済していても、次の費用は残ります。

  • 固定資産税
  • 火災保険・地震保険
  • 屋根や外壁の修繕
  • 給湯器や水回りの交換
  • 浄化槽の維持管理
  • 庭木の剪定
  • 草刈り
  • 害虫・シロアリ対策
  • 台風や豪雨後の補修
  • 不用品や家財の処分

若い時には自分で行えた作業も、高齢になると外注する必要があります。

つまり、加齢によって住宅管理費が増える可能性があります。

広い戸建て住宅では、居住に使用する部屋が少なくなっても、屋根、外壁、敷地、排水設備などの管理対象は減りません。

そのため、地方の持ち家は、

住宅ローンが終われば負担がなくなる資産

ではなく、

管理能力と修繕費を必要とする生活設備

として考える必要があります。


7.住宅の中にも生活の限界点がある

2023年の住宅・土地統計調査では、高齢者等のための設備がある住宅は、住宅全体の56.0%でした。

一方、個別に見ると、

  • 手すりがある住宅は44.0%
  • 段差のない屋内は22.3%
  • 廊下などが車いすで通行可能な住宅は16.8%
  • 道路から玄関まで車いすで通行可能な住宅は13.4%

にとどまります。

これらは全国値であり、地方住宅だけの数字ではありません。

しかし、地方では築年数の古い戸建て住宅、広い敷地、玄関までの段差、屋外階段、和室中心の間取りなどが、自宅生活の継続を難しくする場合があります。

住宅の問題は、転倒してから初めて表面化することがあります。

確認すべき場所は次のとおりです。

  • 玄関までの通路
  • 玄関の上がり框
  • 廊下と部屋の段差
  • 階段
  • トイレ
  • 浴槽
  • 寝室からトイレまでの距離
  • 夜間照明
  • 屋外の坂道や砂利
  • 車いすや歩行器の通行幅

住宅改修によって対応できる場合もあります。

ただし、構造上改修が難しい住宅や、改修費が大きくなる住宅もあります。

さらに、家の中を安全にしても、玄関から道路まで出られなければ外出はできません。

したがって、バリアフリー化は室内だけでなく、

寝室からトイレ、浴室、玄関、道路、送迎車までの連続した動線

として確認する必要があります。


8.夫婦二人なら安心とは限らない

内閣府の高齢社会白書によると、2023年には65歳以上の人がいる世帯が全世帯の49.5%を占めています。

その中では、夫婦のみの世帯と単独世帯がそれぞれ約3割を占めています。65歳以上の一人暮らしの割合も増加しており、2020年には男性15.0%、女性22.1%でした。

地方の高齢夫婦世帯では、一方に生活機能が集中している場合があります。

例えば、

  • 夫だけが運転する
  • 妻だけが料理や服薬管理をする
  • 夫だけが家屋修繕を手配する
  • 妻だけが家計や行政手続きを管理する

という状態です。

この場合、二人ともある程度健康であっても、一方が入院すると生活全体が止まることがあります。

夫婦二人暮らしを評価するときは、世帯人数ではなく、機能の重複性を見る必要があります。

生活機能 夫だけ可能 妻だけ可能 両方可能 外部代替あり
自動車運転
買い物
調理
服薬管理
通院手配
家計管理
住宅修繕の依頼
行政手続き

一つの機能を一人しか担えず、外部代替もない場合、その人の病気や死亡が自宅生活の限界点になります。


9.地方の自宅生活が崩れる典型的な経路

地方での自宅生活は、突然完全に不可能になるとは限りません。

多くの場合、小さな不便が重なり、徐々に不安定になります。

第1段階~負担が増える

  • 長距離運転を避ける
  • 重い物を買わなくなる
  • 庭の管理が遅れる
  • 2階を使わなくなる
  • 通院回数を減らす

この段階では、本人は「まだ暮らせる」と感じることがあります。

第2段階~生活の縮小が始まる

  • 食事内容が単調になる
  • 外出が減る
  • 受診を先延ばしにする
  • 掃除できない部屋が増える
  • 修繕を放置する
  • 人との交流が減る

暮らしてはいますが、生活の質と安全性が低下しています。

第3段階~家族への依存が固定化する

  • 毎週の買い物を家族に頼む
  • 通院ごとに送迎を頼む
  • 行政手続きを代行してもらう
  • 草刈りや修繕を家族が行う

家族が近隣に住み、継続的に支援できれば成立する場合があります。

しかし、支援する家族が就労していたり、遠方に住んでいたりすれば、長期継続は難しくなります。

第4段階~一つの事故や入院で生活が止まる

  • 転倒
  • 骨折
  • 配偶者の入院
  • 認知機能の低下
  • 自動車事故
  • 給湯器や水道の故障
  • 台風による住宅被害

この段階で、これまで見えなかった生活の脆弱性が表面化します。


10.自宅生活の限界点を判断する基準

年齢ではなく、次の項目で判断する方が現実的です。

移動

  • 安全に運転できる
  • 運転しなくても代替交通がある
  • 玄関から送迎車まで移動できる
  • 月に必要な通院回数を維持できる

買い物と食事

  • 食品を定期的に確保できる
  • 重い商品も入手できる
  • 調理または配食利用ができる
  • 注文、支払い、受取ができる

医療

  • 定期受診を中断していない
  • 服薬管理ができる
  • 急変時の連絡先がある
  • 入院後の退院先を確保できる

住宅

  • 転倒しにくい
  • トイレと浴室を安全に使える
  • 冷暖房を適切に使える
  • 修繕を発見し、業者へ依頼できる
  • 草刈りや庭木管理を外注できる

認知・判断

  • 金銭管理ができる
  • 契約内容を理解できる
  • 訪問販売や詐欺を判断できる
  • 火気、戸締まり、服薬を管理できる

支援

  • 家族が無理なく支援できる
  • 介護サービスが実際に利用できる
  • 緊急時に連絡できる人がいる
  • 家族以外の支援者がいる

これらのうち複数が「できない」「代替がない」となった場合、自宅生活の再設計が必要です。


11.自宅を離れる前に検討できる対策

自宅生活が不安定になっても、すぐに施設入所だけが選択肢になるわけではありません。

住宅を小さく使う

  • 生活を1階に集約する
  • 使用しない部屋を閉鎖する
  • 寝室をトイレの近くへ移す
  • 段差と敷物を減らす

移動を代替する

  • デマンド交通へ登録する
  • タクシー費用を年間で予算化する
  • 通院先を可能な範囲で集約する
  • オンライン診療の適用可能性を確認する

買い物を代替する

  • 宅配を元気なうちに試す
  • 定期配送を利用する
  • 移動販売の曜日を確認する
  • 家族と購入品リストを共有する

住宅管理を外注する

  • 草刈り
  • 庭木管理
  • 定期点検
  • 雨どい清掃
  • 不用品処分
  • 台風後の確認

ただし、外注には継続的な費用が必要です。

自宅に住み続ける費用と、より小さな住宅や高齢者向け住宅へ移る費用を比較する必要があります。


12.住み替えを検討すべき状態

次のような状態が複数重なった場合、住み替えを具体的に検討すべきです。

  • 本人も配偶者も運転できない
  • 日常の買い物を家族だけに依存している
  • 通院を延期または中断している
  • 転倒が繰り返されている
  • 2階、浴室、玄関が使いにくい
  • 住宅修繕を放置している
  • 庭や敷地が管理できない
  • 金銭・契約管理に不安がある
  • 緊急時に来られる人がいない
  • 家族の送迎や管理負担が限界に近い
  • 介護サービスが地域で確保できない

重要なのは、重大事故が起きてから動くのではなく、判断能力と体力が残っている段階で選択肢を比較することです。

住み替えには、

  • 自宅の売却
  • 賃貸住宅への転居
  • 高齢者向け住宅
  • 子どもの近隣への転居
  • 医療機関や商店に近い地域への転居

などがあります。

地方から都市へ移ることだけが住み替えではありません。

同じ市町村内でも、郊外の戸建てから中心部の小規模住宅へ移ることで、生活が維持しやすくなる場合があります。


13.「住み慣れた家」が常に最善とは限らない

住み慣れた自宅には、心理的な安心、近隣関係、思い出、所有権などの利点があります。

一方、自宅に住み続けることが目的化すると、

  • 通院できない
  • 買い物できない
  • 家の一部しか使えない
  • 家族が疲弊する
  • 災害時に避難できない

という状態でも、転居を避け続ける可能性があります。

本来の目的は「自宅に残ること」ではなく、本人の安全、生活の質、意思決定の尊重を維持することです。

住み続けることと、暮らし続けられることは同じではありません。


14.地方自治体に必要な情報

高齢者へ「早めに免許を返納しましょう」「住み慣れた地域で暮らしましょう」と呼びかけるだけでは不十分です。

自治体は地区ごとに、少なくとも次を示す必要があります。

  • 商店までの移動手段
  • 医療機関までの交通
  • デマンド交通の利用条件
  • タクシー助成
  • 移動販売
  • 宅配対応地域
  • 訪問診療・訪問看護の提供地域
  • 草刈りや住宅管理サービス
  • 緊急通報サービス
  • 高齢者向け住宅
  • 住み替え相談
  • 空き家売却・処分相談

サービスの名称だけではなく、料金、利用条件、曜日、予約方法、対応地域まで公開する必要があります。

高齢者の生活可能性は、市町村全体の平均値では判断できません。

同じ自治体でも、中心市街地と郊外、海岸部と山間部、鉄道駅周辺とバスのない地区では条件が異なるからです。


15.現実的な結論

地方の高齢者が何歳まで自宅で暮らせるかについて、一律の年齢を示すことはできません。

平均寿命、健康寿命、要介護認定率は、将来のリスクを把握する材料にはなりますが、個人の退去年齢を決める数字ではありません。

自宅生活の限界点は、多くの場合、身体機能の低下だけでなく、

  • 運転できない
  • 買い物できない
  • 通院できない
  • 家を管理できない
  • 配偶者または家族の支援を失う

という条件が重なったときに現れます。

特に地方では、自動車が複数の生活機能を支えているため、運転停止の影響が大きくなります。

一方で、移動、宅配、医療、介護、住宅管理を外部サービスへ置き換えられる地域では、身体機能が低下しても自宅生活を続けられる可能性があります。

したがって、問いは、

「何歳まで住めるか」

ではなく、

「現在の生活を支えている機能は何か。その機能を失ったとき、何で代替できるか」

へ置き換えるべきです。

自宅生活を続けるためには、元気なうちに、

  1. 運転をやめた後の移動を試す
  2. 宅配や配食を実際に利用する
  3. 住宅の危険箇所を点検する
  4. 修繕・草刈りの外注費を把握する
  5. 配偶者がいない状態を想定する
  6. 住み替え先を比較する

ことが必要です。

地方での自宅生活は、本人の努力だけで維持できるものではありません。

医療、交通、買い物、住宅、家族支援を組み合わせた地域の生活基盤があって初めて成立します。

そして、その基盤が失われた場合には、自宅に残ることよりも、生活を維持できる場所へ移ることが、現実的で安全な選択になる場合があります。


データ利用上の注意

本記事で使用した全国統計は、日本全体の傾向を示すものであり、外房、東総、南房総の各市町村の状況を直接示すものではありません。

また、健康寿命は集団の平均的指標であり、個人が自立して暮らせる年齢を予測するものではありません。

要介護認定率も、サービス利用、自治体の認定状況、年齢構成などの影響を受けます。

地域別の記事を作成する場合は、市町村ごとに、

  • 年齢別人口
  • 要介護認定者数
  • 医療機関
  • 交通網
  • 商業施設
  • 訪問系サービス
  • 高齢者住宅
  • 地区別人口密度

を確認する必要があります。


地域の課題を、自分の判断に置き換えて考える

有限会社アードレでは、住まい・車・移住などの大きな選択を、 費用や将来条件をもとに数字で比較し、判断できる形に整理しています。

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地方では、自動車を所有しているだけで毎年まとまった費用がかかります。

車両の購入費、自動車税、保険、車検、整備、燃料、タイヤ、バッテリーなどを合計すれば、軽自動車でも10年間に数百万円を支払う可能性があります。

そのため、免許返納を考える時期になると、次のような疑問が生じます。

自動車を維持し続けるより、必要なときだけバスやタクシーを使う方が安いのではないか。

この考え方は、一定の条件では正しいといえます。

年間走行距離が短く、通院や買い物の回数が少なく、自宅から病院やスーパーまで近い人なら、自動車を手放してタクシーを使う方が、金銭的には安くなる可能性があります。

しかし、地方では、通院だけでなく、買い物、金融機関、行政手続き、家族との往来、駅までの移動などにも自動車を使います。

自動車を手放した後の費用を、通院用のタクシー代だけで計算すると、返納後の交通費を過小評価します。

また、家族に送迎してもらう場合も、燃料代、車両費、待ち時間、仕事を休む負担まで考えれば、完全に無料とはいえません。

本記事では、地方で軽自動車または小型乗用車を10年間維持するケースと、免許返納後にバス、タクシー、家族送迎、宅配などを組み合わせるケースを比較します。

ただし、車両価格、任意保険料、燃料価格、タクシー運賃、自治体の助成制度は、地域、年齢、車種、契約条件によって大きく異なります。

そのため、本記事では単一の金額を「正解」とせず、低費用・標準・高費用の3ケースで考えます。


最初に結論~利用回数が少なければ返納後が安く、移動回数が多ければ自動車が安くなる

自動車を維持する費用と、免許返納後の交通費のどちらが安いかは、主に次の4条件で決まります。

  1. 1か月に何回外出するか
  2. 1回の往復距離がどの程度か
  3. バスやデマンド交通を利用できるか
  4. 車両購入費を含めて比較するか

年間の移動回数が少なく、1回の移動距離も短ければ、タクシー中心でも自動車保有費を下回る可能性があります。

反対に、次のような世帯では、自動車を手放した後の交通費が予想以上に増えることがあります。

  • 夫婦それぞれが通院する
  • 買い物へ週2回以上行く
  • 病院やスーパーまで10キロメートル以上ある
  • 市町村外の専門病院へ通う
  • バス停まで歩けない
  • タクシーを往復利用する
  • 家族が遠方から送迎する
  • 宅配、買い物代行、配食を頻繁に使う

標準的なモデルでは、軽自動車1台の10年間費用をおおむね280万~420万円、小型乗用車を350万~520万円程度と想定できます。

一方、免許返納後の交通費は、外出が少ない世帯なら10年間で100万~250万円程度に収まる可能性がありますが、タクシー利用が多い世帯では400万~700万円を超える場合があります。

したがって、結論は次のようになります。

自動車を保有しているだけで高いとは限らず、タクシーを使えば必ず安いとも限らない。月間の外出回数と1回当たりの往復費用を計算して初めて、どちらが有利か判断できる。


1.自動車維持費は燃料代だけではない

自動車を維持する費用というと、ガソリン代や車検代を思い浮かべる人が多いかもしれません。

しかし、実際には次の費用がかかります。

車両に関する費用

  • 車両購入費
  • 購入時の諸費用
  • ローン金利
  • 将来の買い替え費用
  • 売却時の残存価格

税金・法定費用

  • 自動車税
  • 軽自動車税
  • 自動車重量税
  • 自賠責保険
  • 車検時の検査手数料

保険

  • 対人賠償
  • 対物賠償
  • 人身傷害
  • 車両保険
  • 弁護士費用特約など

自賠責保険は法律上加入が義務付けられている強制保険ですが、補償は主として事故の相手方の人身損害に限られます。自分のけがや車両損害、相手方の物的損害などを補うには、一般に任意保険を別途検討する必要があります。

維持・整備費

  • 定期点検
  • 車検整備
  • エンジンオイル
  • タイヤ
  • バッテリー
  • ワイパー
  • ブレーキ部品
  • 電球・電子部品
  • 故障修理
  • 洗車・防錆対策

使用に伴う費用

  • ガソリンまたは軽油
  • 駐車場
  • 有料道路
  • 高速道路
  • 出先の駐車料金

この中で、走行距離を減らしても大きく減らないのが、車両価格、税金、保険、車検などの固定費です。

年間1万キロメートル走る人も、年間2,000キロメートルしか走らない人も、自動車を所有する限り、一定の固定費を負担します。


2.自動車税は排気量や登録時期によって異なる

自家用乗用車の自動車税は、主に総排気量によって決まります。

令和元年10月1日以降に初回新規登録された自家用乗用車では、年額は次のようになっています。

総排気量 年額
1リットル以下 2万5,000円
1リットル超~1.5リットル以下 3万500円
1.5リットル超~2リットル以下 3万6,000円
2リットル超~2.5リットル以下 4万3,500円

初回登録時期が古い車では異なる税率が適用されることがあります。また、一定年数を経過した環境負荷の大きい車には、重課が行われる場合があります。

軽自動車では、普通乗用車とは異なる軽自動車税が課されます。

税額は車種、用途、初度検査年月、重課・軽課の適用によって変わるため、この記事の試算では、軽自動車の税負担を年間約1万~1万3,000円、小型乗用車を年間約2万5,000~3万6,000円の範囲で設定します。

ここで重要なのは、年間1万円程度の税金だけを見て、軽自動車の維持費が安いと判断しないことです。

車両購入費、任意保険、車検整備、燃料、故障修理を含めると、税金は総費用の一部にすぎません。


3.車検代と整備費を一つにまとめてはいけない

車検は、自動車が保安基準に適合しているかを確認し、車検証の有効期間を更新するための制度です。

令和7年4月1日以降は、車検証の有効期間満了日の2か月前から満了日までの間に受検しても、従来の有効期間を失わずに更新できるようになっています。

車検時に支払う費用には、性格の異なるものが含まれます。

法定費用

  • 自動車重量税
  • 自賠責保険
  • 検査手数料

車検基本料金

  • 点検料金
  • 検査代行料
  • 書類作成費など

整備費

  • ブレーキ部品交換
  • オイル交換
  • タイヤ交換
  • バッテリー交換
  • その他の修理

自動車重量税は、車両重量、経過年数、環境性能によって変わります。

令和8年度にも、環境性能に優れた一定の自動車を対象として、自動車重量税の免除または軽減措置があります。

一方、年式の古い車は、重量税や自動車税の負担が増えることがあります。

そのため、「車検は毎回10万円」と一律に置くのではなく、法定費用と整備費を分けて考える方が正確です。

本記事では、10年間の車検・点検・整備費を次の範囲で設定します。

車両 10年間の想定
軽自動車 45万~80万円
小型乗用車 55万~100万円

この中には、大規模な事故修理やエンジン、変速機、駆動用バッテリーなどの高額故障は含めません。


4.燃料費は走行距離と実燃費で決まる

燃料費は、次の式で計算できます。

年間燃料費=年間走行距離÷実燃費×燃料単価

例えば、年間5,000キロメートル走り、実燃費が1リットル当たり18キロメートル、ガソリン価格を1リットル当たり170円と仮定します。

5,000÷18×170=約4万7,000円

10年間では約47万円です。

年間1万キロメートルなら、単純計算で約94万円になります。

資源エネルギー庁は、石油製品の小売価格を定期的に調査・公表していますが、ガソリン価格は原油価格、為替、補助制度、地域、給油所によって変動します。

したがって、10年間の試算で現在の価格が続くと断定するのは適切ではありません。

本記事では比較用に、ガソリン価格を1リットル当たり160~200円、実燃費を1リットル当たり15~22キロメートルの範囲で考えます。


5.軽自動車を10年間維持する費用

標準ケースの前提

  • 地方在住の1世帯
  • 軽自動車1台
  • 10年間保有
  • 年間走行距離5,000キロメートル
  • 駐車場代なし
  • 実燃費18キロメートル
  • ガソリン価格170円
  • 大規模事故なし
  • 10年間に車両を1回取得
  • 売却価格を差し引いた実質車両費120万円

標準ケース

費用項目 10年間
車両購入・諸費用から売却額を控除 120万円
軽自動車税 11万円
自賠責・重量税・検査手数料 18万円
任意保険 45万円
車検・点検・修理 55万円
タイヤ・バッテリー・消耗品 30万円
燃料費 47万円
合計 326万円

年間平均では約32万6,000円です。

月平均では約2万7,000円になります。

ただし、これは駐車場代がなく、年間走行距離が比較的短く、大規模故障もないケースです。

3つのケース

ケース 10年間
低費用 250万~280万円
標準 300万~360万円
高費用 400万~500万円

高費用ケースには、車両価格の上昇、任意保険料の増加、タイヤ交換、高額修理、年間走行距離の増加などを含みます。


6.小型乗用車を10年間維持する費用

標準ケースの前提

  • 排気量1~1.5リットル
  • 10年間保有
  • 年間走行距離7,000キロメートル
  • 駐車場代なし
  • 実燃費17キロメートル
  • ガソリン価格170円
  • 売却価格を差し引いた実質車両費180万円

標準ケース

費用項目 10年間
車両購入・諸費用から売却額を控除 180万円
自動車税 30万5,000円
自賠責・重量税・検査手数料 25万円
任意保険 55万円
車検・点検・修理 70万円
タイヤ・バッテリー・消耗品 40万円
燃料費 70万円
合計 約471万円

年間平均では約47万円です。

月平均では約3万9,000円になります。

3つのケース

ケース 10年間
低費用 330万~380万円
標準 420万~480万円
高費用 520万~650万円

車両価格、走行距離、保険内容、故障状況によって、結果は大きく変わります。


7.すでに所有している車を使い続ける場合は計算が変わる

自動車保有と免許返納を比較するとき、最も間違いやすいのが車両購入費の扱いです。

すでに購入代金を支払い終えた車を所有している人は、

車両代はもう払っているから、今後の維持費には含めなくてよい

と考えるかもしれません。

確かに、過去に支払った購入代金は、返納するかどうかにかかわらず戻らない費用です。

これはサンクコスト、すなわち既に支出して回収できない費用です。

今後10年間の判断では、過去の購入代金をそのまま加える必要はありません。

しかし、次の費用は考える必要があります。

  • 現在売却すれば得られる金額
  • 今後の故障修理費
  • 次回買い替え費用
  • 車齢上昇による税・整備負担
  • 返納時点の処分費用

例えば、現在100万円で売却できる車を保有し続け、10年後の売却額がほぼゼロになるなら、100万円分の価値を使用したことになります。

したがって、すでに車を所有している場合も、現在の売却可能額を機会費用として考える方が合理的です。


8.免許返納後に必要となる交通費

免許返納後の費用には、次のものがあります。

公共交通

  • 鉄道運賃
  • 路線バス運賃
  • コミュニティバス運賃
  • デマンド交通運賃
  • 駅までの移動費

タクシー

  • 距離制運賃
  • 時間距離併用運賃
  • 迎車料金
  • 予約料金
  • 深夜早朝割増
  • 待機料金

千葉県では、令和8年3月16日にタクシー運賃が改定され、それまで分かれていた地区の運賃体系が一本化されました。今後も運賃改定があり得るため、10年間の試算では現在の初乗り運賃だけを固定して計算するのではなく、実際の利用区間について事業者へ概算料金を確認する方が安全です。

家族送迎

  • 家族の燃料費
  • 車両の消耗
  • 駐車料金
  • 有料道路料金
  • 付き添い時間
  • 休業・有給休暇の使用

自宅で代替する費用

  • 食品宅配
  • ネットスーパー
  • 配食サービス
  • 買い物代行
  • 訪問診療
  • 訪問理美容
  • 行政手続きの郵送費
  • 宅配の追加料金

返納後の費用を正確に見るには、タクシー代だけでなく、これらを合計する必要があります。


9.免許返納後の交通費を3つのケースで試算する

以下は全国一律の料金ではなく、比較用のモデルです。

自治体の助成、公共交通の運賃、タクシー料金、家族構成によって実際の金額は変わります。


ケースA~外出が少なく、公共交通を利用できる

前提

  • 通院 月1回
  • 買い物 月2回
  • その他の外出 月1回
  • 1か月4往復
  • バス・デマンド交通を中心に利用
  • 一部だけタクシー
  • 食品宅配を併用
費用項目 年間 10年間
バス・デマンド交通 2万4,000円 24万円
タクシー 6万円 60万円
食品宅配・配達追加費 3万6,000円 36万円
家族送迎の実費 2万円 20万円
合計 14万円 140万円

このケースでは、軽自動車を保有するより、免許返納後の方が100万~200万円程度安くなる可能性があります。


ケースB~通院と買い物にタクシーを定期利用する

前提

  • 本人の通院 月2回
  • 配偶者の通院 月1回
  • 買い物 月4回
  • その他の外出 月1回
  • 月8往復程度
  • 1往復平均4,500円
  • 宅配も併用
費用項目 年間 10年間
タクシー 43万2,000円 432万円
バス・鉄道 3万円 30万円
食品宅配等 4万8,000円 48万円
家族送迎の実費 3万円 30万円
合計 54万円 540万円

このケースでは、軽自動車より高くなり、小型乗用車と同程度になる可能性があります。


ケースC~市外通院や頻回通院がある

前提

  • 市外の病院へ月2回
  • 近隣の診療所へ月2回
  • 買い物 月4回
  • その他の外出 月2回
  • 長距離タクシーと家族送迎を併用
費用項目 年間 10年間
タクシー 55万円 550万円
鉄道・バス 6万円 60万円
家族送迎の実費 10万円 100万円
宅配・買い物代行 5万円 50万円
合計 76万円 760万円

このケースでは、自動車を保有していた方が、金銭面では安い可能性があります。

ただし、運転能力や事故リスクに問題がある場合は、費用だけを理由に運転を続けるべきではありません。


10.10年間の比較

移動方法 10年間の標準的なモデル
軽自動車を保有 300万~360万円
小型乗用車を保有 420万~480万円
返納後・低利用 120万~200万円
返納後・中利用 350万~550万円
返納後・高利用 600万~800万円以上

この表から分かるのは、自動車と返納後交通のどちらかが常に安いわけではないということです。

返納後に公共交通を利用できる人は、費用を大幅に減らせる可能性があります。

反対に、自宅から病院やスーパーまで遠く、タクシーを頻繁に使う人は、自動車保有費を上回る可能性があります。


11.損益分岐点は月何回か

自動車とタクシーの費用を比較するには、年間費用から損益分岐点を求める方法があります。

軽自動車の年間費用を35万円と仮定します。

タクシーの1往復費用を4,000円とすると、

35万円÷4,000円=87.5往復

年間約88往復です。

月平均では約7.3往復になります。

つまり、他の公共交通費や宅配費を無視すれば、月7回程度までのタクシー利用なら、年間35万円の軽自動車より安い計算です。

1往復6,000円なら、

35万円÷6,000円=約58往復

月平均では約4.8往復です。

1往復1万円なら、

35万円÷1万円=35往復

月平均では約2.9往復です。

タクシー1往復 軽自動車年35万円との分岐
3,000円 月約9.7回
4,000円 月約7.3回
6,000円 月約4.8回
1万円 月約2.9回

実際には、バス代、宅配費、家族送迎、買い物代行などが加わるため、タクシーを利用できる回数はこれより少なくなります。


12.年間走行距離が短い人ほど返納が有利とは限らない

年間走行距離が短い車は、燃料費が少ないため、維持費も非常に安いように見えます。

しかし、走行距離が短くても、次の固定費は残ります。

  • 税金
  • 自賠責保険
  • 任意保険
  • 車検
  • 定期点検
  • バッテリー
  • 経年劣化
  • 車両価値の低下

年間2,000キロメートルしか走らない場合、ガソリン代は少額でも、年間30万円前後の総費用が発生する可能性があります。

一方、その2,000キロメートルが、病院やスーパーまでの必要不可欠な移動である場合、タクシーへ置き換えると高額になることがあります。

したがって、年間走行距離だけでは判断できません。

重要なのは、走行回数と1回当たりの距離です。

同じ年間2,000キロメートルでも、

  • 近距離を週5回走る人
  • 長距離を月2回走る人

では、タクシーへ置き換えた場合の費用が異なります。


13.夫婦2人世帯では計算が変わる

夫婦2人が1台の自動車を共用している場合、自動車を手放すと、2人分の移動をタクシーや公共交通へ置き換える必要があります。

例えば、夫が月2回、妻が月2回通院し、買い物が月4回なら、すでに月8往復です。

さらに、歯科、理美容、金融機関、行政手続き、家族訪問などを含めれば、月10往復を超える可能性があります。

1往復4,000円なら、月10回で4万円、年間48万円です。

この時点で、軽自動車の標準的な年間保有費を上回る可能性があります。

ただし、夫婦が同じ日に同じ目的地へ行ける場合は、1回のタクシーで2人が移動できます。

反対に、通院先や予約日が異なる場合は、2人分の費用が別々に発生します。

夫婦世帯では、個人の外出回数ではなく、世帯全体の往復回数を数える必要があります。


14.家族送迎は金額に換算する

家族送迎を無料として扱うと、返納後の費用を過小評価します。

最低でも、次の費用は計算に入れるべきです。

  • 走行距離に応じた燃料費
  • 車両の消耗
  • 駐車料金
  • 高速道路料金

さらに、家族の時間も考えます。

例えば、1回の通院送迎で4時間かかり、月2回行えば、年間96時間です。

時間の価値を1時間1,000円と置けば、年間9万6,000円、10年間で96万円になります。

これは家族へ実際に現金を支払うという意味ではありません。

家族が失う仕事、休息、家事、育児の時間を、経済的な負担として可視化するための考え方です。

家族送迎を比較するときは、次の2つを分けます。

負担 内容
現金支出 燃料、駐車、高速道路
非金銭的負担 時間、疲労、仕事への影響

15.安全性は費用比較より優先される

自動車を維持する方が金銭的に安いという結果が出ても、それだけで運転継続が合理的とは限りません。

次のような状態がある場合は、費用とは別に運転能力を検討する必要があります。

  • 視力や視野の低下
  • 反応時間の低下
  • ペダルの踏み間違い
  • 車線変更への不安
  • 夜間運転が難しい
  • 道順を間違える
  • 接触事故が増えた
  • 医師や家族から運転を止められている
  • 薬の副作用で眠気がある
  • 意識消失や発作の危険がある

免許返納は、交通費を安くするための制度ではありません。

本人と周囲の安全を守ることが第一の目的です。

費用比較は、返納するかどうかを決める唯一の基準ではなく、返納後の生活を準備するための資料として使うべきです。


16.返納前に1か月だけ自動車を使わず生活してみる

最も正確な方法は、実際に自動車を使わず生活してみることです。

1か月間、自動車を使わず、次の費用を記録します。

  • バス
  • 鉄道
  • タクシー
  • 家族送迎
  • 食品宅配
  • 買い物代行
  • 配食
  • 通院付き添い
  • キャンセルした外出

その1か月の費用を12倍すれば、年間費用の概算が出ます。

ただし、季節や通院予定によって変動するため、可能であれば3か月程度試す方が正確です。

同時に、次の点も確認します。

  • 雨の日に移動できるか
  • 病院の予約時刻に間に合うか
  • 診察後に帰れるか
  • 荷物を持って歩けるか
  • タクシーをすぐ呼べるか
  • 家族送迎を継続できるか
  • 夜間の急な外出に対応できるか

机上の計算では、費用は比較できても、身体的負担や待ち時間までは分かりません。


17.自分の世帯で計算する方法

自動車を維持する年間費用

次を合計します。

年間自動車費=車両費の年換算+税金+保険+車検・整備の年換算+燃料+駐車場+その他

車両費の年換算は、次のように計算します。

車両費の年換算=購入総額-売却見込額÷保有年数

正確には、括弧を付けて次のようにします。

車両費の年換算=(購入総額-売却見込額)÷保有年数

返納後の年間交通費

返納後交通費=バス・鉄道+タクシー+家族送迎実費+宅配・代行+その他

判断方法

返納後交通費が年間自動車費を下回れば、金銭面では返納後が有利

ただし、安全性、移動時間、家族負担、災害時対応を別に評価します。


18.どのような人は返納後の方が安くなりやすいか

  • 自宅から病院やスーパーまで近い
  • 駅やバス停まで歩ける
  • デマンド交通を利用できる
  • 外出が月数回程度
  • 食品宅配を利用できる
  • 夫婦で同じ日に外出できる
  • タクシー助成がある
  • 自動車の年間走行距離が少ない
  • 車両の買い替え時期が近い
  • 駐車場代を支払っている

都市部や駅周辺では、返納後の方が大幅に安くなる可能性があります。

地方でも、中心市街地や医療・商業施設に近い住宅であれば、返納後の費用を抑えやすくなります。


19.どのような人は自動車の方が安くなりやすいか

  • 病院やスーパーまで遠い
  • バスの本数が少ない
  • 夫婦それぞれの外出が多い
  • 市外の病院へ定期通院している
  • 買い物が週2回以上必要
  • タクシーの迎車に時間がかかる
  • 自治体交通の対象区域外
  • 家族送迎を頼めない
  • 宅配対象外の商品を頻繁に購入する
  • 介護や家族の送迎にも自動車を使う

ただし、自動車の方が安い場合でも、安全に運転できることが前提です。


現実的な結論~費用の分岐点は月間の外出回数で決まる

地方で自動車を10年間維持する場合、本記事の標準モデルでは、軽自動車で約300万~360万円、小型乗用車で約420万~480万円となりました。

一方、免許返納後の交通費は、公共交通を中心に利用できる低利用ケースでは約120万~200万円に抑えられる可能性があります。

しかし、タクシーを月8回程度利用し、宅配や家族送迎を併用する場合は、10年間で350万~550万円程度になる可能性があります。

市外通院や頻回通院がある場合は、600万~800万円を超えることも考えられます。

したがって、

自動車は高いから返納した方が得である

とも、

地方では自動車がなければ暮らせないため、持ち続ける方が得である

とも一律にはいえません。

判断の中心になるのは、次の条件です。

  • 世帯全体で月に何回移動するか
  • 1往復にいくらかかるか
  • 公共交通をどこまで使えるか
  • 市外通院があるか
  • 車両購入費を含めるか
  • 家族送迎の時間をどう評価するか

軽自動車の年間総費用を35万円、タクシーの1往復を4,000円とすると、単純な分岐点は月7回程度です。

1往復6,000円なら月5回程度、1万円なら月3回程度で、自動車の年間費用に近づきます。

ただし、免許返納の判断では、金銭面だけを見てはいけません。

安全性に不安がある場合は、多少交通費が増えても、運転をやめる方が合理的です。

そのうえで、公共交通、タクシー、宅配、家族送迎を組み合わせ、返納後の生活を成立させる必要があります。

最も確実なのは、免許を返納する前に、自動車を使わない生活を1~3か月試すことです。

実際にかかった交通費と不便を記録すれば、自分の世帯にとって、自動車と免許返納後の交通のどちらが現実的かが見えてきます。

免許返納は、単に自動車を手放す問題ではありません。

医療、買い物、住宅の立地、家族の支援、老後の家計をまとめて見直す生活設計の問題なのです。


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