地域分析記事

地域の暮らしと地域課題を数学とデータで考える

地方を歩いていると、家そのものは残っているのに、人の姿をほとんど見かけない集落があります。空き家が増え、子どもの声が聞こえなくなり、かつて何十世帯も暮らしていた場所に十数世帯しか残っていないことも珍しくありません。

では、集落はいったい何世帯まで減ると維持することが難しくなるのでしょうか。

この問いに「20世帯」「10世帯」と一つの数字だけで答えることはできません。集落によって年齢構成も違えば、道路や水路の管理方法、自治会の仕組み、周辺集落との関係も違うからです。

ただし、農林水産省などの調査を見ると、世帯数が減るにつれて共同活動が弱くなり、特に10戸を下回るあたりから集落機能の低下が目立ち、4戸以下になると維持がかなり難しくなるという傾向は確認できます。農林水産省は、集落内の戸数が9戸以下になると、用排水路の管理や農地保全など、集落が担ってきた共同活動が著しく減退する状況がみられるとしています。

重要なのは、家が何軒残っているかではありません。

その地域を支える「人」が何人残っているかです。

集落は住宅の集合ではなく「共同作業の組織」である

普段、私たちは集落を住宅が集まった場所として見ています。しかし、集落が存続するためには、住宅が存在するだけでは足りません。

道路脇の草刈り、水路や側溝の清掃、ごみ集積所の管理、自治会活動、防災活動、祭礼、共同施設の維持、地域内の連絡、高齢者の見守りなど、目立たない仕事が年間を通じて発生しています。

農林業センサスでは農業集落を、農業生産だけでなく社会生活の基礎となる地域社会として捉えています。実際、2020年の調査でも、多くの農業集落で環境美化、農道や水路の管理、共有財産の管理、福祉・厚生などが寄り合いの議題となっています。

つまり人口減少の本当の問題は、

「住む人が少なくなること」

だけではなく、

「集落を動かすための仕事を分担できる人数が減ること」

にあります。

100世帯で行っていた仕事が50世帯になったからといって、仕事量が半分になるわけではありません。

道路の長さも、水路の長さも、ごみ集積所も、地域の面積もほとんど変わらないからです。

30世帯が20世帯になっても、すぐには集落は消えない

例えば30世帯の集落が20世帯まで減ったとします。

この段階では、多くの場合、集落そのものが直ちに維持できなくなるわけではありません。

自治会長、会計、防災担当、道路管理などの役割を分担することもまだ可能でしょう。草刈りや清掃などについても、住民がある程度参加できれば対応できます。

しかし問題は、一世帯当たりの負担が徐々に重くなることです。

30世帯で30人が参加していた作業を20世帯で行えば、単純化すれば一人当たりの負担は1.5倍になります。

さらに人口減少が高齢化と同時に進めば、20世帯あっても実際に草刈りや側溝清掃に参加できる世帯が10世帯しかない、ということも起こります。

したがって「20世帯あるから大丈夫」とは言えません。

世帯数よりも、

実際に地域活動を担える世帯数

を見る必要があります。

10世帯を下回ると何が起きるのか

一つの重要な境目として考えられるのが「10世帯前後」です。

農林水産省の資料では、集落内の戸数が9戸以下になると、用排水路管理や農地保全などの共同活動が著しく減退する傾向が示されています。

もちろん、この数字は農業集落についての統計であり、全国すべての住宅集落に機械的に当てはめられる数字ではありません。

それでも、「10世帯」という数字には実務的な意味があります。

仮に10世帯のうち、高齢のため共同作業が難しい世帯が4世帯、仕事などの事情で参加しにくい世帯が2世帯あれば、実際に地域活動の中心を担えるのは4世帯程度になります。

自治会長、会計、防災、環境美化などを毎年交代しても、数年で同じ人に役職が戻ってきます。

一つの家から複数の役割を出さなければならない場合も増えます。

すると、人口減少が単なる人数の問題から、

地域運営そのものの問題

へ変わってきます。

5世帯前後になると「集落単独」という考え方が難しくなる

さらに世帯数が減り、5世帯前後になった場合はどうでしょうか。

農林水産政策研究所の分析では、総戸数4戸以下、人口9人以下、高齢化率50%以上の農業集落では、寄り合いや農業用用排水路の保全などの集落活動が急激に弱まることが確認されています。また、総戸数4戸以下の農業集落では、農業の担い手が存在しない集落が約7割に達していました。

別の2023年の分析でも、農家戸数4戸以下の集落では、2020年に環境美化・自然環境保全活動が行われていない割合が33.3%となり、20戸以上の集落の12.1%よりかなり高くなっています。

ここまで小さくなると、問題は「住民が協力するかどうか」だけではありません。

そもそも協力できる人数が物理的に足りなくなります。

例えば5世帯のうち3世帯が80歳以上であれば、草刈り機を使った作業や側溝清掃、防災活動などを事実上2世帯で支えることになりかねません。

こうなると、「もっと地域住民が協力すればよい」という精神論では解決できません。

集落の構造そのものを変える必要があります。

世帯数だけでは判断できない理由

ここで注意したいのは、同じ10世帯でも集落の維持能力には大きな差があることです。

例えば、40~60歳代を中心とする10世帯と、80歳代を中心とする10世帯では、地域活動を担える力はまったく違います。

さらに、集落の面積によっても違います。

住宅が一か所にまとまっている10世帯と、山間部に数キロメートルにわたって散在する10世帯では、道路や水路、土地を管理する負担が異なります。

周辺地域との関係も重要です。

農林水産政策研究所の分析では、小規模な農業集落でも、他の集落と連携することによって農業用用排水路の保全活動を維持している例が確認されています。

つまり、

「小さな集落=必ず消滅する」

という関係ではありません。

周辺集落との共同運営ができれば、小規模でも機能の一部を維持することは可能です。

集落の維持能力を簡単な式で考えてみる

集落の持続可能性を考えるために、単純なモデルを置いてみます。

集落に30世帯あったとしても、地域活動に参加できる世帯が15世帯しかなければ、実質的な担い手は15世帯です。

そこで、

実働世帯率 = 地域活動に参加可能な世帯数 ÷ 全世帯数

と考えます。

30世帯中24世帯が活動できれば実働世帯率は80%です。

一方、15世帯残っていても活動可能なのが6世帯なら40%しかありません。

集落維持を考えるときには、単純な人口や世帯数より、

世帯数 × 実働世帯率

を見る方が現実に近くなります。

例えば20世帯あっても実働率30%なら実働世帯は6世帯です。

反対に10世帯でも実働率80%なら8世帯あります。

したがって、人口減少地域では「あと何人住んでいるか」だけではなく、「地域を支えられる人があと何人いるか」を調べる必要があります。

高齢化は人口減少以上に集落を変える

農林水産政策研究所は、世帯数や人口が少ないことに加えて、高齢化が進んだ集落ほど共同活動が低下することを示しています。総戸数4戸以下、人口9人以下、高齢化率50%以上という条件が重なると、活動が急激に弱まる傾向があります。

これは地方の将来を考えるうえで非常に重要です。

人口が毎年1%減るだけなら、数字の変化は緩やかに見えます。

しかし、地域活動を担ってきた60~70歳代が80歳代へ移行すると、同じ人口であっても地域を維持する能力は急速に低下する可能性があります。

集落の「人口減少」と「機能低下」は、必ずしも同じ速度では進まないのです。

ある時点までは普通に自治会も草刈りも続いていた地域が、数年の間に急に維持できなくなることも考えられます。

外房でも問題になるのは「消滅」より先に起こる機能低下

外房の地域を考える場合にも、「集落がなくなるか」という問いだけでは十分ではありません。

実際には、誰も住まなくなるよりはるか以前から変化が始まります。

自治会の役員が決まらない。

草刈りの参加者が集まらない。

道路脇や空き地の管理が難しくなる。

高齢者だけでは防災活動ができない。

近所同士で行ってきた見守りが成立しなくなる。

こうした変化が少しずつ積み重なります。

農林水産省も、高齢化が進んだ農業集落では生活の利便性が低い傾向があり、買い物、医療、教育へのアクセスや高齢者の見守りなどの生活環境を維持することが重要だとしています。

つまり、集落の存続を考えるとき、本当に注目すべきなのは「最後の一世帯がいついなくなるか」ではありません。

生活共同体としての機能がいつ失われ始めるか

です。

目安としては「20戸・10戸・5戸」の三段階で考えられる

これまでの調査結果を、一般の地域を考えるための目安として整理すると、次のように考えることができます。

20世帯前後までは、担い手の年齢構成が良ければ単独での地域運営を維持できる可能性が比較的高い。

しかし20世帯を下回る頃から、一世帯当たりの役割負担や共同作業負担が目立ち始めます。

10世帯前後になると、共同活動を従来の仕組みのまま維持することが難しくなる可能性が高まります。

そして、

5世帯前後では、集落単独であらゆる機能を維持する発想そのものを見直す必要が出てきます。

ただし、これは全国共通の絶対的な境界線ではありません。農業集落の統計を参考にした実務的な目安です。

実際の維持可能性を決めるのは、

世帯数、年齢構成、実働人口、集落面積、インフラ量、周辺集落との連携、行政による支援などの組み合わせです。

集落を残す方法は「人口を元に戻すこと」だけではない

人口減少対策というと、移住者を増やすことが最初に考えられます。

もちろん新しい住民が増えることには意味があります。

しかし、日本全体の人口が減少する中で、すべての小規模集落を移住だけで再び数十世帯に戻すことは現実的ではありません。

そこで必要になるのが、集落単位で行ってきた仕事を広域化する発想です。

一つの集落で自治会、防災、草刈り、水路管理などをすべて完結させるのではなく、複数集落で共同化する。

住民で維持できない作業は行政や事業者に移す。

自治会組織そのものも広域化する。

こうした仕組みに変えることで、「10世帯だから維持できない」という単純な関係を変えることはできます。

実際、小規模な農業集落でも他集落との連携によって保全活動を維持している例があり、人口減少社会では、集落の統合や連携がますます重要になると考えられます。

問題は「何世帯残るか」ではなく「何世帯で何を維持するか」

「集落は何世帯まで減ると維持できないのか」。

この問いに一つの数字で答えるなら、農業集落のデータからは10世帯を下回るあたりが重要な警戒点になります。

そして5世帯前後まで減少し、高齢化も進めば、従来型の共同活動を集落だけで維持することはかなり難しくなります。

しかし、本当に重要なのは世帯数そのものではありません。

人口30人の集落でも地域活動を担える人が3人しかいなければ、維持能力は低い。

人口15人でも比較的若い住民が多く、隣の集落と協力できれば、維持できる機能は増えます。

これから人口減少が進む地方で問われるのは、

「この集落を何世帯まで残せるか」

ではなく、

「少ない世帯数になったとき、どこまでを住民自身で維持し、どこからを周辺地域や行政と共同化するのか」

という問題なのではないでしょうか。

集落は、最後の住民がいなくなった日に突然消えるわけではありません。

そのずっと前から、草刈り、自治会、防災、見守り、道路や水路の管理といった小さな機能が一つずつ失われていきます。

地方の将来を見るなら、人口だけでなく、こうした「集落機能の残存率」を見ていく必要があります。

地域の課題を、自分の判断に置き換えて考える

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数字で比較するサービスを見る

病院や診療所で診察を受ければ、それで医療が完結するわけではありません。

薬を処方された場合、患者はその後に薬局へ行き、薬を受け取る必要があります。高齢者にとっては、病院まで行くことだけでなく、診察後に別の場所へ移動して薬を受け取ることまで含めて「通院」です。

人口減少が進む地方では、病院や診療所の将来が問題になる一方、薬局についてはあまり注目されません。しかし、医療機関が残っていても、近くに薬局がなくなれば、地域住民にとって医療へのアクセスは確実に変化します。

では、地方の薬局は30年後も現在と同じように近くに残っているのでしょうか。

最初に結論を述べると、地方から薬局そのものが一斉になくなる可能性は低いものの、「自宅や診療所の近くに薬局があり、営業時間中に薬剤師がいて、必要な薬をその場で受け取れる」という現在の形がすべての地域で維持されるとは考えにくいでしょう。

むしろ将来は、店舗の集約、営業時間の短縮、在宅訪問、オンライン服薬指導、薬の配送、広域的な薬局間連携などを組み合わせ、「薬局という店舗を残す」ことから「処方薬を受け取れる機能を残す」ことへ重点が移っていく可能性があります。

全国には6万を超える薬局があるが、地域差は大きい

厚生労働省の資料では、日本全国の薬局数は6万店を超えています。一見すると、薬局不足はそれほど深刻ではないようにも見えます。

しかし、全国の総数だけでは地方の実態は分かりません。

厚生労働省の統計では、薬局が一つもない町村も存在しています。また、薬剤師についても全国に均等に配置されているわけではなく、都市部へ集中する傾向があります。厚生労働省は薬剤師についても「偏在」という問題を政策課題として扱っています。

つまり、

全国に薬局が多い ≠ どの地域にも十分な薬局がある

ということです。

さらに、厚生労働省が2025年の中央社会保険医療協議会で示した資料では、薬局1店舗当たりの勤務薬剤師数は平均2.7人、処方箋枚数は1か月当たり約1,100枚とされています。比較的小規模な薬局が多いことが分かります。

地方の小規模薬局を考える場合、この「店舗数」だけでなく「何人の薬剤師で運営しているか」が重要になります。

30年後を考えるとき、人口だけを見てはいけない

国立社会保障・人口問題研究所の「日本の地域別将来推計人口(令和5年推計)」では、2020年の国勢調査を基準として、市区町村別人口を2050年まで推計しています。

2026年から30年後は2056年です。そのため、市区町村単位で「2056年に薬局が何店残るか」を現在の公的資料から正確に推計することはできません。

しかし、2050年までの人口推計を見るだけでも、多くの地方では人口減少が長期間続くことを前提に考える必要があります。

ここで注意しなければならないのは、

人口が30%減る = 薬の需要も30%減る

とは限らないことです。

医薬品を多く利用するのは高齢者層です。人口全体が減少しても、一定期間は高齢者の割合が高い状態が続く地域があります。

したがって、地域人口が減ったからといって、処方箋需要が同じ割合で減少するとは限りません。

問題になるのは、むしろ需要よりも供給側です。

薬局経営には、患者数が減っても残る費用がある

薬局にも固定的な費用があります。

店舗を営業するには、薬剤師や事務職員の人件費、建物の賃料や維持費、調剤設備、レセプトコンピューター、通信設備、医薬品在庫、電気料金などが必要です。

患者が1割減ったからといって、これらの費用をすべて1割減らせるわけではありません。

極端に考えれば、1日に100人の患者が来る薬局でも30人しか来ない薬局でも、営業する以上は一定時間、薬剤師を配置しなければなりません。

そのため、

患者数の減少率 ≠ 薬局運営費の減少率

となります。

これは人口減少地域のスーパー、病院、公共交通などにも共通する構造です。

患者数が一定水準を下回ると、地域には薬を必要とする住民がいても、店舗として採算を維持することが難しくなる可能性があります。

つまり、

需要がある ≠ 現在と同じ店舗形態で事業が成立する

という問題です。

薬剤師が確保できなければ店舗だけあっても機能しない

さらに重要なのが薬剤師です。

薬局は建物だけでは営業できません。

厚生労働省は薬剤師の地域偏在を把握するため、薬剤師偏在指標を整備しています。地域によって薬剤師の確保状況が異なること自体が、すでに政策上の課題になっています。

人口減少地域では、薬局経営の採算だけでなく、そこで働く薬剤師を継続的に確保できるかという問題が加わります。

例えば、経営者が高齢になって後継者がいない場合、患者が一定数残っていたとしても閉局する可能性があります。

チェーン薬局であっても、薬剤師を確保できなければ営業時間の短縮や店舗統合という判断が必要になるでしょう。

したがって将来の薬局を考える場合には、

薬局数 +薬剤師数 +営業時間 +必要な医薬品を供給できる能力

を一体として見る必要があります。

「近くに薬局がある」だけでは十分ではない

生活者にとって重要なのは、行政区域内に薬局が何店舗あるかではありません。

例えば、自宅から10km離れた場所に薬局が1軒残っていたとしても、自動車を運転できない高齢者にとって利用できるとは限りません。

診察を受けた病院から薬局まで移動しなければならない場合もあります。

また、営業時間が短くなれば、診療時間との組み合わせによっては当日に薬を受け取れないことも考えられます。

そこで、地域住民にとっての「薬へのアクセス」を、分析のために次のように整理できます。

薬へのアクセス =薬局・調剤拠点の存在 +薬剤師の確保 +必要な薬の在庫・調達能力 +営業時間 +患者の移動手段 +在宅訪問 +配送 +オンライン利用能力

これは公的な指標ではなく、問題構造を理解するための概念的整理です。

この式から分かるのは、薬局が1店舗減ったから直ちに地域医療が維持できなくなるわけでもなければ、1店舗残ったから安心ともいえないということです。

オンライン服薬指導があれば解決するのか

将来の有力な選択肢の一つがオンライン服薬指導です。

薬剤師と情報通信機器を使って服薬指導を行うことで、患者が毎回薬局まで移動しなくてもよい場面を増やせます。

厚生労働省も、オンライン服薬指導や電子処方箋などを含む薬局業務のデジタル化を進めています。

地方では非常に重要な仕組みになる可能性があります。

ただし、

オンライン服薬指導ができる = 薬局へのアクセス問題がすべて解決する

わけではありません。

薬そのものは患者の手元へ届ける必要があります。

スマートフォンや通信環境を利用できることも前提になります。

高齢者が自分で電子処方箋、オンライン予約、ビデオ通話、決済などを操作できるかという問題もあります。

さらに、薬剤師そのものが不足していれば、オンラインに切り替えただけでは人的資源は増えません。

デジタル化は「患者の移動」を減らすことはできますが、「薬剤師が必要」という構造までなくすものではありません。

在宅訪問も万能ではない

在宅療養者に対して薬剤師が訪問する仕組みも重要になります。

特に自動車を運転できない高齢者、寝たきりの人、複数の薬を使用している人にとって、薬剤師が自宅を訪問して薬の管理まで確認することには大きな意味があります。

一方で、訪問サービスには地方特有の問題があります。

利用者の家が離れていれば、薬剤師は移動しなければなりません。

訪問薬剤師の勤務時間を単純化すると、

勤務時間 =服薬管理・指導時間 +移動時間 +調剤時間 +記録・連絡・調整時間

となります。

これも公式指標ではなく、構造を理解するための整理です。

人口密度が低い地域では、患者が減っても一人当たりの移動距離は短くなりません。

これは訪問看護や訪問介護と同じ問題です。

患者が薬局へ行かなくてよくなる代わりに、薬剤師が患者のところへ移動することになります。

したがって、在宅訪問を増やせばすべて解決するわけではありません。

30年後に残りやすい薬局と残りにくい薬局

以上を考えると、将来も残りやすいのは、単に現在患者数が多い薬局だけではないでしょう。

地域の複数医療機関から処方箋を受け付けられ、在宅医療にも対応し、必要に応じてオンライン服薬指導や配送を利用できる薬局ほど、地域医療の拠点として残る可能性があります。

厚生労働省も、外来時だけでなく在宅医療や入退院時の情報連携などに対応する「地域連携薬局」の制度を設けています。

反対に、特定の一つの診療所からの処方箋への依存度が高く、地域人口が減り、後継者がおらず、薬剤師の採用も難しい小規模薬局は、今後厳しい条件になる可能性があります。

ただし、個別薬局の将来の閉店・存続可能性は経営情報が公開されていないため、外部から正確に判断することはできません。

将来は「各地区に1店舗」より広域ネットワークになる可能性がある

人口が大幅に減少した地域で、すべての薬局を現在と同じ店舗数、同じ営業時間で維持することは現実的でない場合があります。

一方で、薬局を大きな都市へ集中させるだけでは、自動車を運転できない高齢者の負担が増えます。

そこで現実的なのは、

一定規模の調剤拠点 +診療所との連携 +在宅訪問 +オンライン服薬指導 +配送 +地域交通

を組み合わせる方法でしょう。

これは、現在の薬局をすべてそのまま残す考え方とは異なります。

守る対象を、

「薬局という店舗」から「住民が必要な薬を安全に受け取れる機能」へ変える

ということです。

病院が残っていても、薬を受け取れなければ医療アクセスは完成しない

地方医療を考えるとき、病院数や医師数が注目されやすいのですが、住民の生活から考えると、その後の処方薬まで含める必要があります。

特に高齢者の場合、

自宅から病院へ行き、診察を受け、薬局へ移動し、薬を受け取り、自宅へ戻るところまでが一連の医療行動です。

したがって、

病院で診察を受けられる ≠ 必要な薬まで受け取れる

と考える必要があります。

今後、地方の医療機関が集約されれば、病院と薬局の立地も変わっていく可能性があります。そのとき、医療提供者側の効率だけでなく、患者本人の移動時間、家族による送迎、交通費、待ち時間まで含めて評価する必要があります。

地方の薬局はなくなるのではなく、「形」が変わる可能性が高い

30年後の地方で、現在と同じ数の薬局が、現在と同じ場所で、現在と同じ営業時間を維持している可能性は高いとはいえません。

人口減少、患者数の変化、薬剤師の地域偏在、後継者問題、店舗経営の固定費などを考えれば、一定の集約は避けにくいでしょう。

しかし、それは直ちに「地方では薬を受け取れなくなる」という意味でもありません。

調剤拠点を集約しながら、電子処方箋、オンライン服薬指導、在宅訪問、配送、地域交通などを組み合わせれば、薬局店舗が減っても薬へのアクセスを維持できる地域はあります。

重要なのは、薬局数を守ることそのものではありません。

30年後も、住民が必要なときに、必要な薬を、安全に、無理のない移動と負担で受け取れるか。

地方の薬局問題は、この視点から考える必要があります。

人口減少社会で守るべきなのは「現在と同じ店舗配置」ではなく、地域住民が処方薬へ到達できる仕組みそのものではないでしょうか。

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郵便・宅配は人口減少地域でも維持できるのか

人口が減少する地方では、鉄道、路線バス、水道、医療、介護など、さまざまな生活サービスの維持が問題になります。

そのなかで、普段はあまり意識されないものの、生活に大きな影響を与えるのが郵便と宅配です。

現在は、山間部でも海沿いの集落でも、手紙や荷物は基本的に自宅まで届けられます。インターネットで商品を注文すれば、都市部と大きく変わらない感覚で宅配便を利用できる地域も少なくありません。

しかし、この仕組みは人口が減っても自然に維持されるのでしょうか。

問題を考えるときに重要なのは、単純な人口の減少ではありません。

荷物を届けなければならない地域の面積は変わらないのに、同じ地域で受け取る人だけが減っていく

という構造です。

人口密度が低下するほど、一つの郵便物や荷物を届けるために必要な走行距離や時間は相対的に増えます。しかも、配送を担う人材そのものも減少していきます。

地方の郵便・宅配をめぐる問題は、すでに「将来起きるかもしれない問題」ではなく、現在の物流政策で持続可能性が議論される段階に入っています。国土交通省も、過疎地域では貨物量の減少と積載効率の低下によって物流サービスの持続的な提供が困難になることを課題として明示しています。

人口が半分になっても、配達区域は半分にならない

地方物流の構造を理解するには、簡単な例を考えると分かりやすくなります。

面積100平方キロメートル、人口1万人の地域があり、毎日1000個の郵便物や荷物を配達していたとします。

30年後、人口が5000人に減り、配達物も500個まで減ったとします。

荷物の個数だけを見れば、仕事量は半分です。

しかし、配達区域の面積は100平方キロメートルのままです。

道路もそのまま残り、山間部の住宅にも、集落の端にある住宅にも配送しなければなりません。

人口を (P)、地域面積を (A) とすれば、人口密度 (D) は、

[ D=\frac{P}{A} ]

で表せます。

人口だけが半分になれば、

[ D'=\frac{0.5P}{A}=0.5D ]

となります。

つまり、平均的に見れば、一軒と次の一軒との距離は広がっていきます。

物流にとって重要なのは荷物の総数だけではなく、一個届けるために何キロメートル走らなければならないかです。

国土交通省が過去に示した物流事業者の実績例では、荷物一個当たりのトラック走行距離が、過疎地域では都市部の平均約6倍、条件によっては最大約7倍になるケースが確認されています。

これは地方物流の本質的な問題です。

都市では一つのマンションに数十個の荷物を届けられます。

地方では数キロメートル走って一軒に一個届け、その次の家まで再び走ることがあります。

同じ「100個の荷物を届ける」という仕事でも、必要な時間と燃料、人件費は同じではありません。

郵便と宅配は似ているようで、仕組みが違う

ここで郵便と宅配を分けて考える必要があります。

宅配便は基本的には民間の商業サービスです。

一方、郵便には全国的な郵便ネットワークを維持するという公共サービスとしての性格があります。

日本郵政グループは全国約2万4000の郵便局ネットワークを持っています。

この全国ネットワークがあるため、都市部だけでなく人口の少ない地域でも郵便サービスを利用できます。

しかし、その維持が以前より容易になっているわけではありません。

日本郵政自身が2026年の経営計画で、郵便物数の大幅な減少や郵便局窓口の利用者減少によって、郵便・郵便局ネットワークによる持続可能なユニバーサルサービスの提供が課題になっていると説明しています。

つまり、「郵便だから将来も現在と全く同じ形で維持される」と考えることもできません。

全国的なサービスを維持するという原則と、そのサービスをどのような頻度、料金、方法で提供するのかは別の問題だからです。

郵便物は減っているが、宅配荷物は簡単には減らない

さらに難しいのは、郵便物と宅配便では需要の変化が逆方向に動いていることです。

日本郵便によると、2024年度の郵便物・荷物などの総引受物数は約169億通・個で、前年度から3.2%減少しました。

手紙、請求書、通知書などは電子化が進み、従来型の郵便物は長期的に減少する方向にあります。

一方で宅配便は、EC(Electronic Commerce・電子商取引)の普及によって大きな物流需要を抱えています。

国土交通省によれば、2024年度の宅配便取扱個数は約50億個に達しています。物販系のEC市場も15兆円を超える規模となっています。

これは地方にとって重要です。

人口減少地域では実店舗が減る可能性があります。

スーパー、衣料品店、家電店、書店、ホームセンターなどが撤退すれば、住民はインターネット通販への依存度を高める可能性があります。

その結果、

人口が減少しているのに、一人当たりの宅配需要は増える

という現象も起こり得ます。

地域人口だけを見て「人口が半分なら荷物も半分になる」と推定すると、将来の物流需要を過小評価する可能性があります。

店舗がなくなるほど、宅配の重要性は高くなる

人口減少地域では、物流は単なる便利なサービスではなくなります。

例えば、地域にスーパーがある間は、高齢者でも家族に送迎してもらったり、自家用車で買い物に行ったりできます。

しかし店舗が撤退した場合、日用品や食品を入手する方法そのものが変わります。

そこで宅配が生活インフラになります。

薬、衛生用品、介護用品、衣類、食品、家電製品などが自宅に届くことには、都市部以上の意味があります。

したがって地方では、

配送効率が最も悪くなる地域ほど、宅配の社会的重要性が高くなる

という矛盾が生じます。

市場原理だけで考えると、配送コストが高い地域ほどサービス縮小の対象になりやすくなります。

しかし生活インフラという視点で考えれば、そうした地域ほど配送サービスを維持する必要性があります。

ここに、地方物流の難しさがあります。

最大の制約は「荷物」ではなく「人」になる可能性がある

物流問題では燃料価格や車両コストも重要ですが、中長期的には配送する人を確保できるかが大きな問題になります。

トラック運転者の時間外労働規制などを背景として、物流業界では輸送能力不足への対応が進められています。

国土交通省が示してきた試算では、対策を講じなければ2030年度に輸送能力が約34%不足する可能性があるとされています。

この数字を「2030年に荷物の34%が必ず届かなくなる」という意味に理解するのは適切ではありません。

料金、配送方法、共同配送、効率化、労働生産性などが変われば需給は調整されるからです。

しかし、少なくとも現在と同じ方法で、現在と同じ量の物流を、現在と同じ人数で処理し続けることが難しいという方向性は明確です。

特に人口減少地域では、配送需要の減少と同時に、配送員となる生産年齢人口も減ります。

そのため、

「荷物が少なくなったから配送員も少なくてよい」

とは単純にはなりません。

荷物が減っても配達距離は残るからです。

再配達は地方物流ではさらに大きな負担になる

物流効率を考えるとき、再配達も無視できません。

2025年10月の宅配便再配達率は全国で約8.3%でした。以前より低下しているものの、依然として一定量の再配達が発生しています。

都市部であれば、一度不在だった住宅の近くに別の配達先が多数存在します。

しかし人口密度の低い地域では、一軒の再配達のために数キロメートル余分に走ることもあります。

仮に一軒の再配達に追加で往復6キロメートル必要で、それが一日に10件発生すれば、60キロメートルの追加走行です。

人口密度が低い地域では、再配達率をわずか数%下げるだけでも配送効率に与える影響が大きくなります。

このため国土交通省も、宅配ボックス、置き配、コンビニ受取など、多様な受取方法を推進しています。

地方ではこれらを単なる利便性向上ではなく、物流網を維持するための手段として考える必要があります。

将来は「家まで毎回来る」ことが当たり前ではなくなる可能性がある

人口減少がさらに進めば、物流サービスそのものが消えるというより、配送方法が変わる可能性の方が高いと考えられます。

例えば、複数の宅配会社が別々の車で同じ集落を回る現在の方法は、人口密度が低下するほど非効率になります。

A社が一個、B社が一個、日本郵便が一個の荷物を持って、同じ日に同じ山間集落へ向かうのであれば、三台の車が同じ道路を走ることになります。

将来は地域の配送拠点まで各社が荷物を運び、そこから先は一つの事業者がまとめて配送する共同配送が合理的になる可能性があります。

国土交通省も、人口減少地域の物流について、事業者間の連携や地域物流の共同化などを検討してきました。

つまり、

「どの会社で注文しても最後に運んでくる車は同じ」

という地域が増えても不思議ではありません。

利用者にとって重要なのは、配送会社の境界ではなく、荷物が確実に届くことだからです。

集落ごとの共同受取拠点という方法もある

さらに人口密度が下がれば、すべての荷物を一軒ずつ玄関まで届ける仕組みそのものを見直す地域も出てくる可能性があります。

例えば郵便局、道の駅、スーパー、コンビニエンスストア、公民館などを地域物流拠点として利用し、そこに荷物をまとめて届ける方法です。

利用者が自分で受け取りに行ける場合は拠点受取を使い、高齢者や移動困難者には自宅まで配送するという仕組みも考えられます。

これは一律のサービスを全員に提供する方法から、

必要度に応じて配送方法を変える仕組み

への転換です。

特に地方では、すでに医療、介護、買い物支援、移動販売などが別々に地域を回っています。

郵便、宅配、買い物支援、見守りなどを完全に別々の事業として維持するより、一部の機能を統合した方が地域全体の効率は高くなる可能性があります。

ドローンがすべてを解決するわけではない

人口減少地域の物流というと、ドローン配送が解決策として語られることがあります。

確かに山間部、離島、道路条件の悪い地域では、無人航空機による配送が有効な場合があります。国土交通省も過疎地域の物流効率化策の一つとしてドローン活用を検討してきました。

しかし、ドローンが普通の配送車を全面的に置き換えると考えるのは現実的ではありません。

重量物、大型商品、多数の荷物、悪天候、離着陸地点、安全管理、運航コストなどの制約があります。

むしろドローンは、

通常の配送車では非効率になる最後の数キロメートル、

離島、

山間部、

緊急性の高い小型物資

などで有効になる可能性があります。

将来の地方物流は、一つの技術ですべてを解決するのではなく、トラック、軽貨物車、共同配送、宅配ボックス、地域拠点、場合によってはドローンを組み合わせる形になると考えた方が合理的です。

問題は「届くか」ではなく「今と同じ条件で届くか」

人口減少地域の郵便・宅配について考えるとき、「将来も荷物は届くのか」という問いだけでは十分ではありません。

より重要なのは、

今と同じ料金で届くのか。

今と同じ曜日に届くのか。

今と同じ翌日・翌々日という速度で届くのか。

今と同じように玄関まで届けてもらえるのか。

というサービス水準の問題です。

物流サービスを完全になくすことは社会的に難しくても、配送頻度、料金体系、受取方法、配送日数が変わる可能性はあります。

例えば、毎日配達していた地域を曜日別配送にするだけでも、車両一台当たりの荷物密度を高められます。

一日に50個しかない荷物を毎日配るより、二日分をまとめて100個配る方が、一個当たりの配送コストは低下します。

物流の持続可能性を考えれば、このようなサービス水準の調整は十分起こり得ます。

物流は人口ではなく「密度」で考える必要がある

地方政策では人口何万人という数字がよく使われます。

しかし物流を考えるとき、総人口だけでは重要なことが分かりません。

同じ人口1万人でも、10平方キロメートルに集中して住んでいる地域と、300平方キロメートルに分散して住んでいる地域では配送効率が全く違います。

物流サービスを考えるうえでは、

[ 物流効率 \approx \frac{荷物数}{走行距離\times配送時間} ]

という考え方ができます。

同じ荷物数でも走行距離が増えれば効率は低下します。

人口減少によって荷物数が減り、さらに住宅間距離が広がれば、効率は二重に悪化します。

そのため、30年後の地方物流を予測するときには人口減少率だけを見るのではなく、

人口密度、

集落配置、

高齢化率、

宅配便利用量、

商業店舗の分布、

道路網、

物流拠点までの距離

などを重ねて見る必要があります。

30年後も郵便・宅配は残る可能性が高い。しかし形は変わる

郵便も宅配も、地方生活に不可欠なインフラです。

特に実店舗が減る地域では、その重要性は現在より高くなる可能性があります。

したがって、人口が減ったからといって郵便や宅配そのものが地方から消えると考える必要はありません。

一方で、

今と同じ会社が、今と同じ人数で、今と同じ頻度で、今と同じ料金体系で、一軒ずつ玄関まで届け続ける

という仕組みまで30年後も維持されると考えるのは楽観的です。

日本郵政自身が郵便物数や窓口利用者の減少を背景としてユニバーサルサービスの持続性を経営課題として掲げ、国土交通省も過疎地域のラストマイル配送の持続可能性を政策課題として扱っています。

将来必要になるのは、配送サービスを廃止することではなく、配送の仕組みを組み替えることです。

共同配送、置き配、宅配ボックス、地域受取拠点、郵便局の物流拠点化、地域事業者との連携、そして条件によってはドローンなどを組み合わせ、一人の配送員が一日に届けられる荷物数を維持する必要があります。

人口減少社会で問われるのは、「郵便や宅配を残すか、なくすか」ではありません。

人口密度が低下しても、必要な物流をどのような形なら維持できるのか。

それを地域ごとに設計することです。

これまで地方物流は、人口が多かった時代に作られた仕組みを縮小しながら使ってきました。

しかし人口減少が本格化するこれからは、単なる縮小では対応できなくなる可能性があります。

郵便・宅配の将来は、荷物を運ぶ会社だけの問題ではありません。

スーパーや商店が減り、高齢者が増え、自家用車を運転できない住民が増える地域では、物流網そのものが生活を維持する最後のインフラになるからです。

人口が減っても道路の距離は短くなりません。

家と家の距離も縮まりません。

だからこそ地方では、人口減少そのものよりも、「薄くなった人口をどのように物流で支えるか」という問題が、今後ますます重要になっていくのです。

地域の課題を、自分の判断に置き換えて考える

有限会社アードレでは、住まい・車・移住などの大きな選択を、 費用や将来条件をもとに数字で比較し、判断できる形に整理しています。

数字で比較するサービスを見る

地方で暮らしていると、救急車は119番に電話すれば来るものだと考えがちです。消防署や分署が現在と同じ場所にあり、道路も大きく変わらないのであれば、30年後も救急車の到着時間は現在とそれほど変わらないようにも思えます。

しかし、救急医療を人口減少という側面から見ると、この前提は必ずしも成り立ちません。

むしろ地方では、人口が減るほど救急車が暇になるのではなく、人口密度の低下、高齢化、消防職員の不足、救急需要の増加、医療機関の再編が同時に進むことで、現在の救急体制を維持すること自体が難しくなる可能性があります。

30年後の問題は「救急車がなくなるか」という単純な話ではありません。

重要なのは、119番通報から患者が治療を受けられるまでの時間を、現在と同じ水準で維持できるのかという問題です。

全国平均では、すでに救急車の到着時間は長くなっている

消防庁の「令和7年版 救急・救助の現況」によると、2024年の救急自動車による救急出動件数は約771万8千件で、統計開始以来最多となりました。現場到着までの平均時間は約9.8分です。2019年と比較すると約1.1分長くなっています。さらに、119番通報から医師へ患者を引き継ぐまでの病院収容所要時間は平均約44.6分で、2019年より約5.1分延びています。

ここで注意したいのは、救急医療の時間には大きく二つの段階があることです。

119番通報を受けてから救急車が現場に到着するまでの時間と、そこから搬送先を決め、患者を病院へ運び、医師へ引き継ぐまでの時間です。

したがって、

「救急車が10分で来たから救急医療は維持されている」

とは限りません。

救急車が早く来ても、受け入れる病院まで30分、40分とかかれば、患者にとって重要なのは後者を含めた総時間だからです。

そして地方の将来を考える場合、この二つの時間の両方に人口減少の影響が及びます。

人口が減れば救急需要も減る、とは限らない

人口10万人の地域が将来6万人になれば、単純に考えると救急車を呼ぶ人数も4割減りそうに見えます。

ところが、人口構成が変わります。

厚生労働省が示している2040年の人口構造では、2025年から2040年にかけて15~64歳の生産年齢人口は約15%減少する一方、85歳以上人口は約42%増加すると推計されています。地方都市型地域でも、生産年齢人口が平均19.1%減少する一方、高齢人口は2.4%増えるという構造です。

救急需要を考える場合、この人口構成の変化は非常に重要です。

若い人と85歳以上の人では、救急車を必要とする確率が同じではありません。心疾患、脳血管疾患、転倒、骨折、呼吸器疾患など、年齢が高くなるほど救急搬送につながる病態は増えていきます。

つまり地方では、

総人口は減少しているのに救急需要はそれほど減らない

という時期が発生する可能性があります。

さらに問題なのは、救急サービスを提供する側の人口です。

救急需要を支える消防職員、救急救命士、看護師、医師などは主として生産年齢人口から供給されます。

したがって地方では、

救急サービスを利用する高齢者の割合が上がる一方、それを支える働き手が減る

という非対称な人口構造が生まれます。

救急医療の将来を考えるうえでは、総人口だけを見るのではなく、この比率を見る必要があります。

人口密度が下がっても、地域の面積は小さくならない

地方の救急でさらに重要なのが「面積」です。

例えば、ある自治体の人口が3万人から1万5千人に半減したとしても、市町村の面積が半分になるわけではありません。

道路の長さも大きくは変わりません。

集落間の距離も変わりません。

山間部や海岸部まで救急車が走らなければならないことも変わりません。

この点を消防庁自身も問題として認識しています。

消防庁の「市町村の消防の広域化に関する基本指針」では、人口減少によって消防本部の管轄人口が減少し、生産年齢人口の減少を通じて財政面や人材確保が厳しくなる一方、人口密度が低下しても消防活動に必要な消防署や出張所などの数は大きく変化しないため、消防力の維持が難しくなる可能性があるとしています。特に小規模な消防本部ほど影響が深刻になるとしています。

これは地方公共サービスに共通する重要な問題です。

人口を (P)、管轄面積を (A) とすると、人口密度は

[ D=\frac{P}{A} ]

です。

人口だけが半分になれば、

[ D'=\frac{0.5P}{A}=0.5D ]

となります。

ところが救急車が走らなければならない最大距離は、人口が半分になったからといって半分にはなりません。

つまり人口1人当たりで考えると、広い地域を維持するための消防・救急インフラ負担は相対的に大きくなります。

この構造こそが、人口減少地域で公共サービスを維持する難しさです。

「人口が減ったから消防署を半分にする」ができない理由

仮に人口4万人の地域に消防署や分署が4か所あったとします。

30年後に人口が2万人になったから、人口に比例して2か所に減らせばよいでしょうか。

財政だけを考えれば合理的に見えます。

しかし消防署を統合すると、残された署所から地域の端までの距離が長くなります。

救急車の平均速度を時速40キロメートルと仮定した場合、出動地点までの距離が5キロメートル伸びれば、単純計算だけでも、

[ \frac{5}{40}\times60=7.5 ]

となり、約7.5分余計に必要になります。

実際には信号、交差点、狭い道路、山道、救急車への乗車準備などがあるため、距離と時間は完全な比例関係ではありません。それでも、署所の配置が救急車の到着時間を左右することは明らかです。

したがって人口減少地域では、

利用者は減るが、地理的なサービス範囲はほとんど減らない

という公共サービス特有の問題が生じます。

水道、道路、路線バスなどでも見られる構造ですが、人命に直結する救急ではサービス水準を簡単に下げることができません。

もう一つの問題は「救急車が出払っている時間」である

救急車の到着時間を決めるのは消防署までの距離だけではありません。

近くの救急車がすでに別の患者を搬送していれば、より遠い消防署から別の救急車を向かわせなければならない場合があります。

ここで重要になるのが、一件の救急搬送に救急車が拘束される時間です。

全国平均では、119番通報から病院へ患者を引き継ぐまで約44.6分かかっています。

仮に一件の救急搬送で救急隊が約45分拘束されると考えれば、救急件数が増えるほど同時出動の可能性は高まります。

地方の場合、搬送先の病院までの距離が長ければ、この拘束時間はさらに長くなることがあります。

例えば近隣病院まで20分だった地域で救急対応病院が集約され、40分離れた病院へ搬送するようになれば、一件の搬送が地域の救急車を占有する時間も増えます。

すると問題は、

「救急車が何台あるか」

ではなく、

「必要な瞬間に何台が地域内で利用可能なのか」

へ変わります。

この違いは非常に大きな意味を持ちます。

病院の再編は救急車の問題でもある

人口減少時代の救急を消防だけの問題として考えることはできません。

厚生労働省は2040年以降を見据え、新たな地域医療構想を進めています。そこでは人口減少や85歳以上人口の増加を踏まえ、急性期医療、高齢者救急、在宅医療などについて医療機関間の役割分担を進めるとともに、病院や病床の連携、再編、集約化を進める方向が示されています。

医療資源が限られる以上、すべての地域に現在と同じ病院機能を残すことは難しくなります。

高度な救急医療については、一定規模の病院へ患者を集めたほうが医師や設備を効率的に配置でき、医療の質を維持しやすくなります。

これは医療政策として合理性があります。

しかし住民側から見ると別の問題が生じます。

病院が集約されれば、救急車の搬送距離が延びる地域が出てくるからです。

したがって人口減少時代には、

病院を集約して医療の質を維持する合理性

と、

病院までの距離が延びることで救急搬送時間が長くなる問題

を同時に考えなければなりません。

どちらか一方だけを最適化すればよい問題ではありません。

2050年までの人口減少は、すでに市町村単位で推計されている

30年後の話というと、非常に遠い未来の予測のように感じます。

しかし人口については、かなり具体的な推計がすでに存在します。

国立社会保障・人口問題研究所は2020年国勢調査を基に、全国の市区町村について2050年まで5年ごとの人口を推計しています。しかも総人口だけでなく、年齢階級別の人口まで市町村単位で公表されています。

したがって地域ごとに、

現在の人口、

2050年人口、

65歳以上人口、

75歳以上人口、

生産年齢人口、

消防署の所在地、

救急車の配置台数、

救急対応病院の所在地

を重ねれば、将来の救急体制にどの程度の負荷がかかるのかをある程度分析できます。

これは単なる将来予想ではありません。

人口統計と地理データを組み合わせれば、地域ごとに異なる問題として可視化できるテーマです。

30年後も現在と同じ時間で来る可能性はある

ここまで見ると救急車の到着時間は必ず長くなるようにも見えますが、そう断定するのも適切ではありません。

消防庁は小規模消防本部の課題に対応するため消防の広域化を進めており、広域化した消防本部では人員配置の効率化や消防体制の強化といった成果が確認されているとしています。

複数自治体の消防本部を一体化すれば、市町村境に縛られず最も近い救急車を出動させる運用もしやすくなります。

さらに、救急車の配置最適化、通信指令システムの高度化、デジタル技術による搬送先検索、ドクターヘリなどを組み合わせれば、人口が減っても到着時間を維持できる可能性があります。

つまり将来は、

消防署を現在と同じ数だけ残すこと

と、

現在と同じ救急サービスを維持すること

が必ずしも同じ意味ではなくなります。

署所を再編しながら広域的に救急車を運用し、情報技術によって配車を最適化するという方向も考えられます。

地方で本当に見るべき数字は「救急車が来るまでの時間」だけではない

住民にとって最も分かりやすい数字は救急車の到着時間です。

しかし将来の地域医療を評価するのであれば、それだけでは不十分です。

重要なのは、

[ T=T_{119}+T_{出動}+T_{走行}+T_{現場}+T_{搬送}+T_{受入} ]

という患者が治療につながるまでの時間全体です。

ここで、消防署が近くても搬送先病院が遠ければ総時間は長くなります。

逆に消防署が多少遠くなっても、広域的な救急車配置や病院との連携が改善されれば、総時間を短くできる可能性もあります。

したがって地方の救急医療を考えるときには、

「消防署を残すか」

ではなく、

「119番から治療開始までの時間をどのように維持するか」

という視点に変える必要があります。

30年後の地方で問われるのは、人口ではなく「距離を支える能力」である

人口減少について議論すると、「人が減れば公共サービスも小さくすればよい」という考え方が出てきます。

しかし救急ではその考え方が簡単には成立しません。

住民が半分になっても地域の面積は半分にならず、道路も集落間距離もほとんど変わらないからです。

しかも住民の高齢化が進めば、人口減少ほど救急需要が減らない可能性があります。

その一方で、消防職員や医療従事者を供給する生産年齢人口は減少します。

つまり地方の救急医療では、

人口減少、人口密度低下、高齢化、人材不足、病院再編

という五つの変化が同時に進みます。

消防庁自身も、人口減少と低密度化が進む一方で必要な消防署所の数は大きく変化しにくく、特に小規模消防本部では消防力の維持が難しくなる可能性を指摘しています。

したがって、

「地方では30年後も、救急車は今と同じ時間で来るのか」

という問いに対する答えは、

「何もしなくても現在と同じ時間で来るとは考えにくい。しかし、必ず遅くなるとも決まっていない」

となります。

消防の広域化、救急車の配置最適化、医療機関との連携、救急需要そのものを減らす地域医療、そして人口密度を考慮した地域構造を今から設計できるかによって結果は変わります。

30年後の救急体制は、30年後になってから考えても間に合いません。

人口構造の変化はすでに予測されています。

問われているのは未来を予測できるかではなく、予測できている未来に対して、現在のうちから公共サービスの配置を変えられるかどうかなのです。

地域の課題を、自分の判断に置き換えて考える

有限会社アードレでは、住まい・車・移住などの大きな選択を、 費用や将来条件をもとに数字で比較し、判断できる形に整理しています。

数字で比較するサービスを見る

人口が減れば、地域の病院も患者が減り、いずれ維持できなくなるのでしょうか。

人口減少が続く外房では、この問題は避けて通れません。しかし、「人口が減るから病院も減らせばよい」と単純に考えることも、「現在ある病院をすべて同じ規模、同じ機能のまま残すべきだ」と考えることも、どちらも実態を十分に捉えているとはいえません。

病院には建物があります。病床があります。医師、看護師、薬剤師、臨床検査技師、診療放射線技師など多くの医療従事者が必要です。救急を受け入れるなら、夜間や休日にも人員を配置しなければなりません。

一方で、地域の人口が減少しても、高齢者の割合は上昇します。高齢者では複数の疾患を抱える人が増え、救急、入院、リハビリテーション、在宅医療との連携など、若い人口が多かった時代とは異なる医療需要が生じます。

したがって考えるべきなのは、

「人口減少で病院がなくなるか」ではなく、「人口構造が変わった地域で、必要な医療機能をどう維持するか」

という問題です。

最初に結論~すべての病院を現在と同じ形で残すことと、地域医療を守ることは同じではない

外房の将来を考えると、人口減少によって病院経営が難しくなる可能性は高まります。

しかし、

人口が減る =医療需要も同じ割合で減る

とは限りません。

さらに、

病院数を維持する =地域医療を維持する

とも限りません。

反対に、

病院を集約する =住民にとって必ず効率的になる

ともいえません。

将来の地域医療で重要になるのは、それぞれの病院がすべての診療機能を持とうとするのではなく、救急、急性期、回復期、慢性期、在宅医療との連携などについて、地域全体で役割を分担しながら必要な機能を維持することです。

厚生労働省も、2040年を見据えた新たな地域医療構想で、単なる病床数だけではなく、「急性期拠点機能」「高齢者救急・地域急性期機能」「在宅医療等連携機能」「専門等機能」といった医療機関の役割を地域ごとに整理し、連携、再編、集約化を検討する方向を示しています。

つまり将来問われるのは、

病院という建物を何施設残すかではなく、住民に必要な医療をどこまで提供し続けられるか

です。

外房を含む医療圏では、2050年までに人口がおよそ3分の1減る

外房の医療を考える場合、市町村ごとだけではなく、医療提供体制の単位である二次保健医療圏を見る必要があります。

勝浦市、いすみ市、大多喜町、御宿町だけで独立した医療圏が設定されているわけではありません。

これらの地域は、茂原市、東金市、山武市、大網白里市、長生郡などとともに「山武長生夷隅保健医療圏」に含まれます。

千葉県の現行保健医療計画では、この医療圏は17市町村、人口42万2,832人、面積1,161.72平方キロメートルとされています。人口は2023年4月1日時点です。

国立社会保障・人口問題研究所の2023年推計を千葉県が医療圏別に集計した資料では、山武長生夷隅保健医療圏の人口は、

2020年 約41万人 2025年 約38万8千人 2030年 約36万6千人 2035年 約34万3千人 2040年 約31万9千人 2045年 約29万5千人 2050年 約27万3千人

と推計されています。

2020年を100とすると、2050年には約66.6です。

単純計算では、30年間で約33%人口が減少することになります。

これは小さな変化ではありません。

人口規模だけを考えれば、病院の外来患者や一部の入院需要が縮小し、現在と同じ規模の医療提供体制を維持することが難しくなる可能性があります。

しかし、ここで人口総数だけを見ると将来を読み違える可能性があります。

人口は減っても、高齢化率は上昇する

千葉県の推計では、山武長生夷隅保健医療圏の総人口は減少しますが、高齢化率は上昇し、2050年には45%を超えると見込まれています。

つまり将来は、

「患者になりにくい若年人口が大きく減る」

一方で、

「医療を必要とする可能性の高い高齢者が人口に占める割合は上がる」

という人口構造になります。

このため、

人口が30%減少したから、

医療需要も30%減少する、

とは考えられません。

厚生労働省の地域医療に関する資料でも、人口減少地域では後期高齢者、高齢者夫婦世帯、高齢単身世帯が増え、複数の慢性疾患を併せ持つ患者、慢性疾患が急に悪化する患者、認知症患者、医療と介護の双方を必要とする患者が増える可能性が指摘されています。

これは、単なる患者数の問題ではありません。

一人の患者に必要となる医療や介護が複雑になる可能性があります。

人口減少社会では、

医療需要の量が減少する部分と、医療需要の複雑さが増す部分が同時に存在する

と考えた方が実態に近いでしょう。

病院経営では、患者が減っても費用が同じ割合では減らない

地域病院の維持を難しくする最大の構造の一つが、費用の問題です。

病院の経営は、一般的な小売店のように、患者が少なければその日の従業員を大幅に減らすという形では運営できません。

入院病棟を維持するには、一定数の医師、看護師その他の職員が必要です。

救急医療を行う場合は、実際に救急患者が来るかどうかにかかわらず、一定の待機体制が必要になります。

検査設備や医療機器も、利用回数が減ったからといって取得費や維持費が同じ割合で下がるわけではありません。

厚生労働省地方厚生局の地域医療資料でも、診療圏が縮小すると病院経営が悪化し得る理由として、医療・介護の人件費が固定費的な性質を持つ一方、患者減少によって収入が減少する構造が示されています。

この構造を簡単に整理すると、

病院収支

=医療収入-固定的費用-患者数に応じて変動する費用

と考えることができます。

これは会計制度上の正式な病院経営指標ではなく、構造を説明するための概念的な整理です。

問題は、患者数が10%減少しても、人件費や建物費、医療機器費などが直ちに10%減少するわけではないことです。

したがって、

人口減少率 ≠病院費用減少率

となります。

これが人口減少地域で病院経営を難しくする重要な理由です。

全国的にも病床利用率は以前より低い

病院の経営を考えるうえでは、病床をどれだけ利用しているかも重要です。

厚生労働省資料によれば、全国の病院の病床利用率は2019年には80.5%でしたが、2020年には77.0%へ低下し、2021年76.1%、2022年75.3%、2023年75.6%となっています。

これは全国平均であり、外房の各病院の病床利用率を示すものではありません。

また、新型コロナウイルス感染症の影響を受けた時期を含むため、単純な長期低下傾向として解釈することにも注意が必要です。

それでも、病院経営を考える際に、

「病床を持っていること」

と、

「その病床が継続的に利用されていること」

が別である点は重要です。

患者が減る地域で多数の病床を維持すれば、病床当たりの固定的な負担が重くなる可能性があります。

一方で、病床利用率を極端に高めればよいというわけでもありません。

感染症流行、災害、大事故、季節的な患者増加などに対応する余力も必要だからです。

したがって、

病床利用率を100%に近づけることが最適な病院経営とは限りません。

医療には一定の余裕が必要です。

外房でより深刻になり得るのは「患者不足」より「人材不足」

人口減少地域の病院について考えると、「患者がいなくなる」という問題ばかりに目が向きます。

しかし、実際には、

患者より先に医療従事者が足りなくなる可能性

も考える必要があります。

千葉県は、山武長生夷隅保健医療圏を「医師少数区域」と位置付けています。

病院は建物と病床だけでは機能しません。

医師がいなければ診療できません。

看護師がいなければ病棟を維持できません。

手術を行うには、外科医だけでなく麻酔科医、看護師、臨床工学技士、診療放射線技師、臨床検査技師など複数の職種が必要になります。

したがって、

病院供給力

=病床 +医師 +看護職員 +その他の医療従事者 +設備 +診療時間 +救急対応能力 +継続可能性

と考える必要があります。

これは公式指標ではなく、分析のための概念的整理です。

重要なのは、

施設が存在する ≠医療サービスを提供できる

ということです。

人口が減少する地域では、患者だけでなく働く世代そのものも減少します。

病院が建っていても、必要な職種と人数を確保できなければ、診療科の縮小、病床休止、夜間救急の制限などが起こる可能性があります。

「各市町村に総合病院を残す」は現実的なのか

地域住民の立場から考えれば、自宅の近くに病院がある方が便利です。

特に高齢になり、自動車を運転できなくなれば、医療機関までの距離は大きな問題になります。

だからといって、

「すべての市町村に高度な総合病院を残す」

という方法が現実的とは限りません。

高度な医療を維持するには、医師をはじめとする専門職を一定数集める必要があります。

手術や高度救急などは、患者数が少なすぎれば医師が経験を維持することも難しくなる場合があります。

また、少人数の医師で24時間365日の救急を維持すれば、一人当たりの当直や時間外勤務の負担が重くなります。

したがって、人口の少ない地域では、

すべての病院で、

すべての診療科を、

24時間維持する、

という体制は徐々に成立しにくくなります。

厚生労働省が2040年に向けて、医療機関の役割分担や連携、再編、集約化を政策として進めようとしている背景にも、この構造があります。

しかし「集約すれば解決する」わけでもない

一方、病院を一か所に集約すれば、それですべて解決するわけでもありません。

外房では医療機関までの距離が長くなれば、高齢者の通院負担が増します。

救急車の搬送時間も重要になります。

家族が入院患者を見舞ったり、退院時の説明を受けたりするための移動負担も増えます。

病院側の費用が減っても、

住民の交通費、

家族の送迎時間、

救急搬送時間、

公共交通への追加負担

が増える可能性があります。

したがって、

公費削減

=地域全体の社会的費用削減

とは限りません。

病院統合を評価するときには、病院の経営収支だけではなく、

患者が必要な医療へ到達できるか

という視点が必要です。

これは以前の記事で扱った、

医療機関が存在する ≠ 必要な診療科へ実際に通院できる

という問題と同じです。

地域病院は「大病院の縮小版」である必要はない

人口減少地域の病院を持続させる方法を考えるとき、重要なのは、

「今の病院をどう残すか」

だけではありません。

「地域に何の医療機能が必要なのか」

から考え直す必要があります。

人口減少と高齢化が進めば、高度な手術を大量に行う機能よりも、

高齢者の救急受け入れ、

肺炎や心不全などの急性増悪への対応、

骨折後の治療とリハビリテーション、

慢性疾患管理、

在宅医療から状態が悪化した患者の受け入れ、

退院後の介護や訪問看護との調整

などの重要性が高くなる地域もあります。

つまり、

地域病院を都市部の大病院の小型版として維持する必要はない

ということです。

高度な手術や専門治療は拠点病院へ集約しながら、地域病院は高齢者救急、一般的な入院、回復期、在宅復帰支援などに重点を置く方法も考えられます。

厚生労働省が新たな地域医療構想で「高齢者救急・地域急性期機能」や「在宅医療等連携機能」を明確に位置付けているのも、この人口構造の変化を反映しています。

病院単体ではなく「地域全体の医療網」で考える必要がある

これからの外房では、一つの病院の経営だけを見て地域医療を評価することは難しくなります。

例えば、ある病院が手術をやめても、別の病院で手術を受けられ、治療後は地元の病院へ戻ってリハビリテーションを受けられるのであれば、地域全体として医療機能が保たれる場合があります。

逆に病院数が同じでも、

救急を受けない、

夜間診療をしない、

専門医がいない、

病床が休止している、

という状態であれば、住民から見た医療供給力は低下します。

そこで将来の地域医療を、

地域医療機能

=地域内医療機関 +地域外拠点病院へのアクセス +救急搬送 +病院間連携 +診療所 +在宅医療 +訪問看護 +介護 +交通

として考えることができます。

これも公式指標ではなく、分析のための概念的整理です。

病院単独ではなく、

一人の患者が発症してから、治療、回復、退院、在宅生活まで途切れず医療を受けられるか

を見る必要があります。

地域病院が維持しやすい条件

人口が減っても地域病院が維持される可能性はあります。

ただし、現在と同じ形を維持するという意味ではありません。

必要な診療機能を絞り、他の病院との役割分担が明確で、一定の患者数を確保でき、医師や看護師を継続的に確保でき、救急、在宅医療、介護との連携が機能している場合には、地域病院としての役割を維持しやすくなります。

逆に、近隣病院が同じ診療機能を重複して持ち、患者数が少ないにもかかわらず多数の病床や高度医療機器を維持し、少人数の医師で救急や専門診療を広く抱え込む体制は、人口減少下では難しくなる可能性があります。

重要なのは、

縮小すること自体を失敗と考えないこと

です。

病床を減らしても必要な救急を受け入れられる。

高度医療を他院へ集約しても地元で術後管理ができる。

入院機能を一部整理しても在宅医療との連携が強くなる。

このような再編であれば、病院の規模が小さくなっても地域医療の実質的な利用可能性は維持できる場合があります。

「赤字病院だから不要」という判断も危険

地域病院を考えるとき、経営赤字だけで存在意義を判断することにも注意が必要です。

救急医療などには、患者が来るまで待機する機能があります。

例えば深夜に救急患者が一人も来なかったとしても、その夜に医師や看護師を配置した費用は発生します。

しかし患者が来なかったから、その体制が無価値だったとはいえません。

消防署が火災のない日に不要になるわけではないのと似ています。

したがって、

赤字 ≠ 社会的に不要

です。

一方で、

社会的に必要 ≠ どれだけ赤字でも現在の体制を維持すべき

でもありません。

必要性と経営効率は分けて考えなければなりません。

30年後の外房で本当に守るべきもの

山武長生夷隅保健医療圏では、2020年に約41万人だった人口が2050年には約27万3千人まで減少すると推計されています。

この人口変化の中で、現在の病院数、病床数、診療科、建物をすべて同じ状態で30年間維持することが最適とは限りません。

しかし、人口が減ったから病院を単純に減らせばよいわけでもありません。

人口減少社会で守るべきなのは、

病院という施設そのものではなく、必要なときに必要な医療を受けられる地域の能力

です。

高齢者が急に具合が悪くなったときに受け入れる病院がある。

専門治療が必要なら適切な拠点病院へ搬送できる。

治療が終われば地域へ戻り、リハビリテーションを受けられる。

退院後は診療所、訪問診療、訪問看護、介護につながる。

この流れが維持されることの方が、単純な「病院数」より重要です。

現実的な結論~人口減少時代は「病院を残す」から「医療機能を残す」へ

人口減少によって、外房の地域病院の経営環境は厳しくなる可能性があります。

患者となる人口が減少する一方で、人件費や建物、設備、救急体制などの費用は同じ割合では減りません。

さらに、山武長生夷隅保健医療圏は医師少数区域であり、将来的には病院経営以上に医療従事者の確保が制約になる可能性があります。

しかし人口減少だけを理由に、

「地方病院は維持できない」

と結論づけることも正確ではありません。

高齢化によって医療需要の内容が変化し、高齢者救急、慢性疾患、回復期、在宅医療との連携など、地域病院だからこそ必要になる機能もあります。

したがって30年後の外房で必要なのは、

すべての病院を現在と同じ形で維持することではありません。

必要なのは、

限られた医師、看護師、病床、設備を地域全体で再配置し、住民が必要とする医療機能を維持することです。

人口減少社会では、

病院数 ≠ 医療供給力

病床数 ≠ 利用可能な医療

人口減少 ≠ 医療需要の同率減少

施設の存続 ≠ 医療機能の存続

です。

これから地域が問われるのは、

「この病院を残すか、なくすか」

という二者択一ではありません。

より重要なのは、

どの医療機能を、どこに、何人の医療従事者で配置し、住民がどの程度の時間と距離で利用できる状態を維持するのか

という具体的な設計です。

人口が減った後にも地域で暮らし続けられるかどうかは、病院の看板が残っているかではなく、病気になったときに実際に医療へつながれるかによって決まります。

地域病院の将来を考えるとき、見るべきものは「施設数」ではなく、

地域全体の医療提供能力

なのです。

地域の課題を、自分の判断に置き換えて考える

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