地方で自動車の運転をやめることは、単に買い物や外出の方法を変えることではありません。
病院へ行く方法そのものを、もう一度組み立て直すことでもあります。
茂原市、長生郡、いすみ市、勝浦市、大多喜町、御宿町などの外房地域では、鉄道、路線バス、自治体のコミュニティバス、デマンド交通、一般タクシー、高齢者向け送迎など、複数の移動手段が用意されています。
しかし、交通手段が存在することと、免許返納後も無理なく通院できることは同じではありません。
自宅からバス停まで歩けるのか、病院の予約時刻に間に合うのか、診察が長引いても帰りの便があるのか、市町村外の専門病院まで移動できるのかといった条件によって、実際の通院可能性は大きく変わります。
特に問題になるのは、月1回程度の近隣診療所への通院ではなく、複数の診療科を受診する場合や、市外の専門病院へ通う場合、週数回の透析やリハビリテーションが必要になった場合です。
本記事では、自治体を単純に順位付けするのではなく、茂原・長生・夷隅地域に共通する生活条件から、免許返納後の通院がどこまで可能なのかを検証します。
令和8年度とは、2026年4月1日から2027年3月31日までです。公共交通制度は年度途中に運行内容や利用条件が変更される可能性があるため、実際に利用するときは各自治体や交通事業者への確認が必要です。
最初に結論~月1回の近距離通院なら対応できても、頻回・広域通院では難しくなる
茂原・長生・夷隅地域では、免許を返納したからといって、直ちに通院できなくなるわけではありません。
自宅が駅やバス停に近く、通院先が同じ市町村内にあり、月1回程度の受診で、1人で乗り降りできるのであれば、バス、デマンド交通、タクシーを組み合わせて通院できる可能性があります。
一方で、次のような条件が重なると、公共交通だけで通院を続けることは難しくなります。
- 自宅からバス停まで遠い
- 坂道や段差が多い
- 市町村外の病院へ通う
- 診察終了時刻が読めない
- 複数の交通機関を乗り継ぐ
- 週1回以上の通院がある
- 付き添いが必要である
- 車椅子や歩行器を使用している
- 認知機能に不安がある
- 早朝や夕方以降の診療を受ける
- 家族が遠方に住んでいる
したがって、免許返納後の通院可能性は、自治体に制度があるかどうかだけでは決まりません。
重要なのは、次の5点です。
- 自宅から医療機関までの距離
- 通院先が市町村内か市町村外か
- 通院頻度が月1回か週数回か
- 1人で交通機関を利用できるか
- タクシーや家族送迎の費用を負担できるか
この5条件のうち、複数に問題がある場合は、免許返納後も現在の住宅に住み続けられるかまで検討する必要があります。
1.茂原・長生・夷隅地域の医療は広域で支えられている
茂原市と長生郡、いすみ市、勝浦市、夷隅郡は、千葉県の山武長生夷隅保健医療圏に含まれます。
この医療圏では、地域内に診療所、一般病院、公立病院が配置されていますが、病気の種類や重症度によっては、東金市、市原市、千葉市、鴨川市などの医療機関へ移動する必要があります。
千葉県保健医療計画では、山武長生夷隅保健医療圏の外来患者について、圏域外への流出があることが示されています。また、診療所における外来医療の需要に対する医師数は、全国平均を下回る水準とされています。
この地域の医療は、一つの大病院ですべてを完結させる仕組みではありません。
おおむね、次のような役割分担になっています。
| 医療の段階 | 主な受診先 |
|---|---|
| 日常的な診療 | 近隣の診療所、かかりつけ医 |
| 検査・入院・一般的な手術 | 茂原市、長柄町、いすみ市、勝浦市などの地域病院 |
| 高度な専門医療 | 東金市、市原市、千葉市、鴨川市などの医療機関 |
| 退院後の療養 | 回復期病床、在宅医療、訪問看護、介護施設 |
この構造は、自動車を運転できるうちは大きな問題にならないことがあります。
必要な病院まで本人や家族が自動車で移動できるからです。
しかし、本人が免許を返納し、配偶者も運転できない場合、医療機関の選択肢は一気に狭くなります。
病院が地域内に存在していても、そこへ行く手段がなければ、生活者にとっては利用できない医療に近くなります。
2.「病院まで何キロメートルか」だけでは通院の難しさは分からない
免許返納後の通院を考えるとき、自宅と病院の直線距離だけでは十分ではありません。
実際には、次の4区間を分けて考える必要があります。
- 自宅から最寄りのバス停または駅まで
- バス停や駅から医療機関の最寄り地点まで
- 降車地点から病院の受付まで
- 診察終了後に同じ経路で帰宅できるか
例えば、自宅から病院まで5キロメートルしかなくても、最寄りのバス停まで1.5キロメートルあり、1日に数本しか運行していなければ、実用的な通院手段とはいえません。
反対に、病院まで15キロメートルあっても、自宅近くから予約制交通に乗車でき、病院付近まで直接行けるのであれば、比較的利用しやすいことがあります。
通院の難易度は、単純な距離ではなく、次の式に近い考え方で決まります。
通院負担=移動距離+待ち時間+乗り換え+歩行距離+費用+身体的負担
金銭的には安いバスでも、乗車前後に長く歩き、診察終了後に2時間待たなければならない場合、高齢者にとっては負担の大きい交通手段です。
3.月1回の近隣診療所なら比較的対応しやすい
免許返納後も比較的対応しやすいのは、月1回程度、近隣の内科や整形外科へ通うケースです。
例えば、次の条件を想定します。
- 自宅から診療所まで5キロメートル
- 通院は月1回
- 診察は午前中
- 1人で歩行、乗降できる
- 予約制交通またはタクシーを利用できる
この条件であれば、年間の通院回数は12往復です。
タクシーを往復で利用したとしても、距離が短ければ年間数万円から十数万円程度で収まる可能性があります。
自治体のデマンド交通や高齢者向け送迎が利用できれば、さらに負担を抑えられる場合があります。
ただし、ここで注意したいのは、現在の通院回数だけを基準にしてはいけないことです。
60代後半では月1回の内科だけでも、75歳以降には次のように増える可能性があります。
- 内科 月1回
- 眼科 2~3か月に1回
- 整形外科 月1~2回
- 歯科 数か月に1回
- 検査のための病院受診 年数回
- 配偶者の付き添い 月1回程度
夫婦2人分を合計すると、年間の通院が30~50往復になることも珍しくありません。
月1回の通院が可能だからといって、老後を通して同じ交通手段で生活できるとは限りません。
4.市町村を越える専門外来から難易度が急に上がる
外房地域では、日常的な内科診療は近隣で受けられても、専門的な検査や治療では別の市町村へ行くことがあります。
想定される移動には、次のようなものがあります。
- 長生郡から茂原市内の病院
- 茂原市や長生郡から東金市の病院
- 長柄町や長南町から市原市の病院
- いすみ市や勝浦市から鴨川市の病院
- 外房地域から千葉市内の専門病院
自治体のデマンド交通や福祉送迎は、市町村内の移動を主な対象としている場合があります。
そのため、自宅から最寄り駅までは自治体交通、駅から地域外の病院までは鉄道、病院の最寄り駅からは路線バスまたはタクシーというように、複数の交通手段を組み合わせる必要が出てきます。
この場合、問題になるのは運賃だけではありません。
- 乗り換えに時間がかかる
- 駅にエレベーターがない場合がある
- 電車とバスの時刻が合わない
- 診察終了時刻を予測できない
- 帰りの予約制交通に間に合わない
- 体調が悪い状態で長時間移動する
- 家族の付き添いが必要になる
特に、検査や専門外来は午前中に予約されることがあります。
早朝に出発しなければならない場合、自治体の交通が運行を開始する前である可能性もあります。
このため、市町村外への通院では、公共交通が存在するかどうかではなく、予約時刻までに実際に到着できるかを確認しなければなりません。
5.コミュニティバスは安いが、診察時間に合わせにくい
茂原・長生・夷隅地域では、市民バス、町民バス、市内循環バスなどが運行されています。
茂原市は、市民バス「モバス」やデマンド交通を、交通空白地域などにおける高齢者等の生活交通として位置付けています。茂原市地域公共交通計画でも、高齢化や運転免許返納者の増加を背景として、公共交通の必要性が高まっていることが示されています。
また、いすみ市では、JR(Japan Railways・旅客鉄道会社)外房線、いすみ鉄道、いすみシャトルバス、市内循環バス、デマンド交通、タクシーなどが地域公共交通として位置付けられています。令和8年には地域公共交通計画の変更版が公表されています。
コミュニティバスの最大の利点は、一般タクシーより運賃が安いことです。
しかし、通院では次の問題があります。
診察時刻に合う便があるとは限らない
病院の予約が午前9時でも、最初の便では間に合わないことがあります。
反対に、午前10時に病院へ着いても、診察が午後までかかり、帰りの便まで長時間待つことがあります。
病院前に停車するとは限らない
路線が病院付近を通っていても、病院の入口まで距離がある場合があります。
高齢者にとっては、数百メートルの歩行でも負担になります。
毎日運行とは限らない
曜日限定、平日のみ、特定曜日のみの運行では、診療日と合わないことがあります。
乗り換えが必要になる
自宅近くのバスから駅へ行き、そこから鉄道、さらに別のバスへ乗り換える場合、身体的負担が大きくなります。
したがって、コミュニティバスは、運行経路と診察時刻が合う人には有効ですが、すべての通院を支える万能な手段ではありません。
6.デマンド交通は便利だが、市町村外まで行けるとは限らない
デマンド交通とは、利用者の予約に応じて運行する乗合型の交通です。
定時定路線型のバスより、自宅や指定乗降場所の近くから利用しやすい場合があります。
特に、バス停まで歩くことが難しい高齢者には、有効な交通手段です。
ただし、デマンド交通には次のような制限があります。
- 事前登録が必要
- 前日までの予約が必要
- 予約が集中すると希望時刻に利用できない
- 他の利用者との乗合になる
- 市町村内だけの運行
- 指定乗降場所だけで乗降
- 早朝、夜間、休日は運行しない
- 1人で乗降できることが利用条件
- 車椅子に対応していない場合がある
勝浦市ではデマンドタクシーが運行され、高齢者タクシー利用料助成事業も地域公共交通計画に位置付けられています。また、令和8年度には、総野地区の一部で自家用有償旅客運送「ノッカルかつうら」の有償実証運行が行われています。
ただし、このような制度があるからといって、勝浦市内のすべての地域で同じ条件で利用できるわけではありません。
運行区域、利用対象、予約方法、目的地は制度ごとに異なります。
デマンド交通の評価では、次の4点を確認する必要があります。
- 自宅付近から乗れるか
- 通院先の病院まで直接行けるか
- 市町村外へ行けるか
- 診察後に帰りの便を確保できるか
特に、市町村内の指定施設までしか運行しない制度では、地域外の専門病院への通院には利用できません。
7.一般タクシーは最も確実だが、回数が増えると負担が大きい
免許返納後の通院手段として、最も柔軟なのは一般タクシーです。
自宅から病院まで直接移動でき、診察終了後にも呼ぶことができます。
乗り換えが不要で、歩行距離も抑えられます。
一方で、通院距離と回数が増えると費用が大きくなります。
以下は、制度や事業者ごとの実際の運賃ではなく、通院費の規模を考えるためのモデル試算です。
迎車料金、時間距離併用運賃、信号待ち、道路状況などによって、実際の料金は変わります。
距離別のモデル
| 片道距離 | 往復料金の仮定 | 月1回 | 月2回 | 年間 |
|---|---|---|---|---|
| 5キロメートル | 4,000円 | 4,000円 | 8,000円 | 4万8,000~9万6,000円 |
| 10キロメートル | 7,000円 | 7,000円 | 1万4,000円 | 8万4,000~16万8,000円 |
| 20キロメートル | 1万3,000円 | 1万3,000円 | 2万6,000円 | 15万6,000~31万2,000円 |
| 40キロメートル | 2万5,000円 | 2万5,000円 | 5万円 | 30万~60万円 |
※金額は比較用の仮定であり、令和8年度の特定タクシー事業者の料金を示すものではありません。
月1回であれば、年金収入や家計状況によっては負担できる可能性があります。
しかし、夫婦2人がそれぞれ月2回通院する場合、年間費用はさらに増えます。
片道10キロメートルの病院へ、夫婦それぞれ月2回通うと仮定します。
1万4,000円×月4回=月5万6,000円
年間では約67万2,000円です。
10年間では、料金が変わらないと仮定しても約672万円になります。
住宅費が安い地域へ移住しても、免許返納後のタクシー代によって、都市部との生活費差が縮小する可能性があります。
8.家族送迎は無料ではない
免許返納後の通院では、「家族に送ってもらえばよい」と考えられがちです。
しかし、家族送迎にも費用と負担があります。
金銭的な費用
- ガソリン代
- タイヤやオイルの消耗
- 車両の減価
- 駐車料金
- 高速道路料金
- 送迎のための迂回
- 待機中の食事代など
時間的な費用
- 自宅から迎えに行く時間
- 病院まで送る時間
- 診察中の待ち時間
- 薬局での待ち時間
- 帰宅の送迎
- 仕事や家事の中断
例えば、片道30分の病院へ送迎し、診察と会計、薬局で3時間かかる場合、家族は4~5時間を拘束されます。
月2回であれば年間48~60時間程度、夫婦2人分や複数診療科を含めれば、年間100時間を超える可能性があります。
家族が会社員であれば、有給休暇や半日休暇を使うこともあります。
自営業者であれば、その時間に得られたはずの収入を失うことがあります。
したがって、家族送迎は、タクシーより現金支出が少なく見えても、実質的に無料ではありません。
9.透析、リハビリテーション、がん治療では公共交通だけでは難しい
免許返納後の通院で最も大きな問題になるのは、頻回通院です。
人工透析
一般的な血液透析では、週3回程度の通院が必要になることがあります。
年間では約156回、往復では312区間です。
仮に1往復5,000円のタクシーを使うとします。
5,000円×156回=年間78万円
10年間では780万円です。
1往復1万円であれば、年間156万円、10年間で1,560万円になります。
実際には、医療機関独自の送迎、自治体制度、介護サービスなどを利用できる場合がありますが、すべての患者が同じ条件で利用できるとは限りません。
リハビリテーション
骨折、脳卒中、整形外科手術後などでは、週1~3回の通院リハビリテーションが必要になることがあります。
通院そのものが身体的負担となり、送迎が確保できないために回数を減らすケースも考えられます。
がん治療
抗がん剤治療、放射線治療、定期検査では、一定期間、繰り返し病院へ通う必要があります。
治療後に倦怠感や吐き気が出る場合、本人だけで公共交通を使って帰宅することが難しくなることもあります。
眼科、歯科、整形外科
生命に直結する治療ではなくても、視力、歯、歩行能力を維持するために継続受診が必要です。
交通手段がないために受診を先延ばしにすると、生活機能の低下につながる可能性があります。
このように、免許返納後の医療問題は、救急車を呼ぶような重症時だけではありません。
日常的な通院を続けられるかどうかが、高齢期の健康状態を左右します。
10.鉄道駅に近ければ安心とは限らない
外房地域では、JR外房線やいすみ鉄道の駅に近い住宅は、自動車を使わない生活に有利に見えます。
確かに、茂原駅、大原駅、勝浦駅、御宿駅などの近くであれば、広域移動の選択肢は増えます。
しかし、駅に近いことと、病院に近いことは同じではありません。
次の条件を確認する必要があります。
- 自宅から駅まで平坦か
- 駅に階段や跨線橋があるか
- 病院の最寄り駅からバスがあるか
- バス停から病院まで歩けるか
- 帰りの鉄道時刻までどれほど待つか
- 通院時間帯に列車が運行しているか
- 強風や大雨で運休した場合の代替手段があるか
駅から病院までタクシーを使う場合、自宅から駅までの交通費、鉄道運賃、駅から病院までのタクシー代が重なります。
その結果、自宅から病院まで直接タクシーを利用した場合と、大きな差が出ないこともあります。
11.自治体の支援制度は重要だが、単純比較はできない
茂原・長生・夷隅地域では、市民バス、町民バス、デマンド交通、高齢者タクシー助成、福祉タクシー、移動支援など、さまざまな制度があります。
しかし、これらを自治体別に単純比較することには注意が必要です。
制度ごとに、次の条件が異なるからです。
- 全住民が対象か
- 高齢者だけが対象か
- 免許返納者が対象か
- 障害者手帳が必要か
- 所得制限があるか
- 市町村内だけか
- 町外病院にも行けるか
- 1人で乗降できる必要があるか
- 利用回数に上限があるか
- 片道回数か往復回数か
例えば、高齢者向けの無料送迎であっても、市町村内だけの運行であれば、地域外の専門病院には利用できません。
反対に、利用料金がかかるデマンド交通でも、自宅付近から病院まで直接移動できるなら、実用性が高い場合があります。
したがって、制度の評価では、「無料か有料か」だけでなく、次の4項目を確認する必要があります。
| 確認項目 | 意味 |
|---|---|
| 対象者 | 自分が利用条件を満たすか |
| 運行範囲 | 通院先まで行けるか |
| 運行時間 | 予約時刻と帰宅時刻に合うか |
| 利用回数 | 必要な通院回数を確保できるか |
令和8年度には、いすみ市が変更後の地域公共交通計画を公表し、勝浦市では「ノッカルかつうら」の有償実証運行が進められています。こうした制度は地域交通を補う重要な取り組みですが、対象地域や運行条件を確認せずに「免許返納後も安心」と評価することはできません。
12.免許返納後の通院費を10年間で考える
通院交通費は、1回ごとでは小さく見えても、10年間では大きな金額になります。
以下は比較のためのモデルです。
ケース1~近隣診療所へ月1回
- 1往復3,000円
- 年12回
- 年間3万6,000円
- 10年間36万円
ケース2~地域病院へ月2回
- 1往復7,000円
- 年24回
- 年間16万8,000円
- 10年間168万円
ケース3~夫婦2人がそれぞれ月2回
- 1往復7,000円
- 年48回
- 年間33万6,000円
- 10年間336万円
ケース4~週1回の通院
- 1往復7,000円
- 年52回
- 年間36万4,000円
- 10年間364万円
ケース5~週3回の通院
- 1往復7,000円
- 年156回
- 年間109万2,000円
- 10年間1,092万円
| ケース | 年間交通費 | 10年間 |
|---|---|---|
| 月1回、近距離 | 3万6,000円 | 36万円 |
| 月2回、中距離 | 16万8,000円 | 168万円 |
| 夫婦各月2回 | 33万6,000円 | 336万円 |
| 週1回 | 36万4,000円 | 364万円 |
| 週3回 | 109万2,000円 | 1,092万円 |
※すべて比較用の仮定です。自治体助成、医療機関送迎、運賃改定、待機料金などは含めていません。
この比較から分かるのは、免許返納後の問題は、タクシーが高いか安いかという単純な話ではないということです。
通院頻度が低ければ、タクシーは自動車を保有するより合理的な場合があります。
しかし、週数回の通院では、一般タクシーだけで対応することが難しくなります。
13.自動車維持費とタクシー代は単純比較できない
免許返納を検討するとき、「自動車維持費よりタクシー代の方が安い」と説明されることがあります。
確かに、自動車には次の費用がかかります。
- 車両購入費
- 自動車税
- 自動車重量税
- 自賠責保険
- 任意保険
- 車検
- 点検整備
- タイヤ
- バッテリー
- 燃料費
- 修理費
- 駐車場代
年間の自動車保有費が40万~60万円程度であれば、月1~2回のタクシー通院だけなら、免許返納後の方が金銭的に安くなる可能性があります。
しかし、自動車は通院以外にも使用します。
- 買い物
- 金融機関
- 市役所
- 理美容
- 墓参り
- 家族訪問
- 災害時の避難
- 配偶者の通院
- 急な体調不良
したがって、自動車費用と通院タクシー代だけを比較すると、生活全体の移動費を過小評価します。
免許返納後の家計を考える場合は、通院、買い物、行政手続き、日常外出を合計した年間交通費を試算する必要があります。
14.免許返納後も通院しやすい住宅の条件
外房地域で高齢期まで住み続けるには、住宅価格や敷地の広さだけでなく、医療交通の条件が重要です。
通院しやすい住宅
- 診療所まで2~3キロメートル程度
- バス停まで徒歩5~10分以内
- 駅まで平坦に移動できる
- タクシーを呼びやすい
- デマンド交通の対象区域内
- スーパーと病院が同じ方向にある
- 坂道や階段が少ない
- 家族が訪問しやすい
- 地域病院まで30分以内
- 将来売却しやすい
通院が難しくなりやすい住宅
- 山間部や丘陵部の奥
- 急坂がある
- 最寄りバス停まで1キロメートル以上
- バスが1日数本
- タクシー営業所から遠い
- 携帯電話の電波が不安定
- 大雨や倒木で道路が寸断される
- 病院まで市町村を越える必要がある
- 家族が遠方に住んでいる
- 夫婦とも運転できなくなった場合の代替手段がない
海が見える住宅や広い庭付き住宅に魅力を感じても、高齢期の通院を考えれば、駅、病院、スーパーに近い小規模な住宅の方が長く住み続けやすいことがあります。
15.免許返納前に一度、自動車を使わず通院してみる
免許返納を決める前に、実際に自動車を使わず病院へ行ってみる方法が有効です。
地図や時刻表だけでは、実際の負担は分かりません。
確認すること
- 自宅からバス停まで何分かかるか
- 雨の日でも歩けるか
- 病院の予約時刻に間に合うか
- 診察後に帰りの便があるか
- 薬局まで移動できるか
- 荷物を持って乗り降りできるか
- 乗り換え時に座って待てるか
- タクシーをすぐ呼べるか
- 付き添いがなくても利用できるか
- 1回の交通費はいくらか
夫婦の一方が運転を続ける場合でも、もう一方が単独で通院できるかを確認する必要があります。
運転する配偶者が病気になったり、先に免許を返納したりする可能性があるからです。
16.返納前に確認したい10項目
- かかりつけ医まで自動車以外で行けるか
- 地域病院までの移動手段があるか
- 市外の専門病院へ通えるか
- バス停まで安全に歩けるか
- 診察終了後の帰宅手段があるか
- デマンド交通の対象者と運行区域は何か
- タクシー助成を利用できるか
- 月何回まで利用できるか
- 家族送迎を何年間続けられるか
- 通院できなくなった場合に住み替えられるか
この10項目のうち、3項目以上に明確な答えがない場合は、返納後の交通計画が十分とはいえません。
現実的な結論~免許返納後も通院できるかは、自治体名より生活条件で決まる
茂原・長生・夷隅地域には、鉄道、路線バス、市民バス、町民バス、デマンド交通、一般タクシー、高齢者向け支援など、複数の移動手段があります。
そのため、免許返納後に一切通院できなくなる地域ではありません。
しかし、公共交通制度が存在するだけで、すべての住民が継続的に病院へ通えるわけでもありません。
月1回程度、近隣の診療所へ通うのであれば、デマンド交通、コミュニティバス、タクシーによって対応できる可能性があります。
一方、市町村外の専門病院、週1回以上のリハビリテーション、週3回程度の透析、治療後に体調が悪化する可能性があるがん治療などでは、公共交通だけで通院を続けることが難しくなります。
また、自治体の制度を単純に比較して、どこが優れているかを決めることも適切ではありません。
同じ自治体内でも、駅周辺と山間部、幹線道路沿いと丘陵住宅地では、通院条件が大きく異なるからです。
免許返納後の通院可能性を左右するのは、自治体名ではなく、次の条件です。
- 自宅と病院の距離
- バス停や駅までの歩行環境
- 市町村外へ移動できるか
- 通院頻度
- 身体機能
- 家族の支援
- タクシー代を負担できるか
- 将来の住み替えが可能か
外房地域で老後まで暮らすには、「今、自動車を運転できるか」ではなく、「運転できなくなった後も病院へ行けるか」を住宅選びの段階から考える必要があります。
自動車を手放す時期になってから交通手段を探すのでは遅い場合があります。
最も現実的なのは、元気なうちに自動車を使わない通院を一度試し、公共交通、タクシー、家族送迎を組み合わせた年間費用を計算しておくことです。
免許返納は、単に運転をやめる手続きではありません。
高齢期の医療、住宅、家計、家族関係をまとめて見直す生活設計の問題なのです。



