はじめに~「仕事がない」と「働き手がいない」は同じではない
地方について語るとき、「仕事がない」という言葉がよく使われます。
若者が地域を離れる理由として、就職先が少ないこと、希望する職種が見つからないこと、都市部より賃金が低いことなどが挙げられます。実際、千葉県東部や南房総では、東京都心に近い県西部と比べて、企業や事業所の選択肢が限られる地域があります。
しかし、地方の雇用問題を詳しく見ると、単純に仕事の数が少ないだけではありません。
地域では、次の三つの現象が同時に起きています。
- 就職希望者に対して求人が少ない仕事
- 求人はあるが応募者が集まらない仕事
- 住民には必要とされているが、民間事業として採算が合わない仕事
つまり、地方には「仕事がない」一方で、「働く人がいない仕事」や「必要なのに事業者が続けられない仕事」もあります。
本記事では、千葉県東部、外房、南房総を念頭に置きながら、地方の仕事を次の二つに分けて考えます。
- 人材が不足している仕事
- 需要はあっても採算が成立しにくい仕事
観光、移住、起業支援といった言葉だけで地域雇用を語るのではなく、求人、求職、人口構造、商圏、移動費、人件費などから現実的に整理します。
最初に結論~地方の問題は仕事の総量より「ミスマッチ」にある
地方では、すべての仕事が不足しているわけでも、すべての仕事で人手不足になっているわけでもありません。
2026年5月の千葉県における有効求人倍率は、求職者の住所地に近い公共職業安定所で集計する受理地別で0.97倍、実際の就業場所を基準にする就業地別で1.25倍でした。
有効求人倍率とは、仕事を探している人1人に対して、何件の求人があるかを示す指標です。受理地別では1倍を下回る一方、就業地別では1倍を上回っています。これは、県内全体で見ても、求職者の居住地と求人が存在する地域が一致していないことを示します。
さらに職業別に見ると、求人倍率には大きな差があります。
2026年5月の千葉県では、建設・採掘の職業が5.89倍、保安の職業が5.16倍、サービスの職業が1.92倍、生産工程の職業が1.66倍、輸送・機械運転の職業が1.56倍でした。
一方、事務的職業は0.24倍、管理的職業は0.41倍、運搬・清掃・包装等の職業は0.63倍、農林漁業の職業は0.81倍でした。
この数字から分かるのは、地方の仕事問題が、単純な求人不足ではないということです。
求人が多く人が集まらない職種と、希望者が多いのに求人が少ない職種が、同時に存在しています。
したがって、地方の雇用問題の中心は、次の不一致です。
- 求人のある職種と求職者が希望する職種の不一致
- 求人地域と居住地域の不一致
- 事業者が支払える賃金と、働く人が必要とする所得の不一致
- 地域住民が必要とするサービスと、事業者が採算を取れる料金の不一致
「地方には仕事がない」という言葉の四つの意味
同じ「仕事がない」という言葉でも、実際には異なる状態を指しています。
1.求人件数そのものが少ない
人口が少ない地域では、企業数、事業所数、店舗数も限られます。
そのため、同じ職種でも求人が出る回数が少なくなります。希望する勤務条件に合わなければ、次の求人が出るまで長期間待つこともあります。
2.希望する仕事がない
求人はあっても、介護、建設、運輸、宿泊、飲食などに偏り、事務、企画、研究、情報処理などの求人が少ない場合があります。
この場合、統計上は求人があっても、求職者にとっては「仕事がない」と感じられます。
3.賃金や勤務条件が合わない
仕事があっても、賃金、休日、勤務時間、通勤距離、身体的負担が生活条件に合わなければ、応募にはつながりません。
特に自動車通勤が必要な地域では、燃料費、車両維持費、通勤時間も実質的な就業コストになります。
4.配偶者を含む世帯全体の仕事がない
本人の仕事が見つかっても、配偶者の仕事が見つからなければ、世帯としての移住や定住は難しくなります。
地方移住では、1人分の求人ではなく、夫婦や世帯全体の所得を考える必要があります。
千葉県全体でも求人が十分とは言い切れない
2026年5月の千葉県では、受理地別の有効求人倍率が0.97倍でした。正社員の有効求人倍率は0.72倍で、求職者1人に対して正社員求人が1件未満という状況でした。
また、有効求人数は前年同月比5.2%減、新規求人数は11.0%減となっています。千葉労働局は、県内の雇用失業情勢について、緩やかに持ち直しているものの動きに弱さが見られ、物価上昇などの影響に注意が必要だとしています。
したがって、「人手不足だから、地方では誰でも簡単に就職できる」と考えるのも正確ではありません。
求人倍率が高いのは特定の職業に偏っています。希望職種、資格、経験、勤務地、雇用形態によって、就職の難易度は大きく変わります。
人手不足が深刻な仕事1~建設・住宅修繕
2026年5月の千葉県では、建設・採掘の職業の有効求人倍率が5.89倍でした。求人が求職者の約5.9倍ある計算で、職業分類の中でも特に高い水準です。
千葉県東部や南房総では、今後も建設関連の需要が残ると考えられます。
- 老朽住宅の修繕
- 空き家の管理と解体
- 屋根や外壁の補修
- 台風・豪雨被害への対応
- 水道、電気、給排水設備の更新
- 高齢者住宅の手すり設置
- 段差解消
- 庭木や擁壁の管理
- 道路、橋、上下水道の維持
- 災害復旧
南房総地域は、人口減少と高齢化が進む一方で、住宅、道路、鉄道、水道などの生活基盤を維持する必要があります。千葉県の第5次南房総地域半島振興計画では、対象地域の人口が1960年の約34万人から2025年には約22万人まで約35%減少し、65歳以上人口の割合は約43%とされています。
人口が減っても建物やインフラが同じ割合で減るわけではありません。
そのため、建設や修繕の需要は残ります。しかし、人材不足が続けば、依頼から着工までの待ち時間が延び、工事費が上昇し、小規模な修繕を引き受ける事業者が減る可能性があります。
需要があっても新規参入が容易ではない
建設や住宅修繕は求人倍率が高いからといって、未経験者がすぐに独立できる分野ではありません。
必要になるものには、次があります。
- 技術と実務経験
- 工具、車両、資材
- 各種資格
- 建設業許可が必要となる工事への対応
- 労災・損害賠償への備え
- 見積り能力
- 施工後の保証
- 繁忙期と閑散期の資金管理
したがって、仕事は不足していても、参入障壁が低いとは限りません。
人手不足が深刻な仕事2~介護・医療・福祉
高齢化する地域では、介護、看護、訪問診療、配食、送迎などの需要が増えます。
千葉県は、福祉人材について、2025年度に7,113人不足するという推計を示していました。保育士の有効求人倍率も、2023年1月時点で2.64倍とされていました。([千葉県公式サイト][1])
南房総地域の計画でも、保健師の確保、救急医療体制、公的医療機関、地域包括ケア、地域密着型サービスの整備が課題として挙げられています。
高齢者が多い地域では、需要が消える可能性は低いでしょう。
しかし、需要が多いことと、民間事業者が十分な利益を上げられることは別です。
介護事業では、報酬の多くが公的制度によって定められます。利用料金を自由に引き上げにくい一方、人件費、燃料費、車両費、物価は上昇します。
訪問介護や訪問看護では、利用者宅が分散しているほど、1日に訪問できる件数が減ります。
移動時間は売上になりにくい
たとえば、1件のサービス提供時間が60分でも、往復移動に40分かかれば、実際には100分を使用します。
1日8時間働いても、移動や記録、準備を含めると、売上を得られる時間は限られます。
人口密度の低い地方では、需要があっても、1人の職員が担当できる件数が少なくなり、採算が悪化します。
人手不足が深刻な仕事3~運輸、送迎、物流
2026年5月の千葉県では、輸送・機械運転の職業の有効求人倍率は1.56倍でした。
千葉県東部や南房総では、次の移動需要があります。
- 食品、日用品の配送
- 農水産物の輸送
- 通院送迎
- 介護施設送迎
- スクールバス
- 観光客の移動
- 宅配便
- 建設資材輸送
- 災害時物流
自動車依存が強い地域ほど、運転手不足の影響は大きくなります。
鉄道や路線バスの利用者が減少しても、高齢者や運転免許を持たない人の移動需要がなくなるわけではありません。
南房総地域の計画では、鉄道利用者の減少を踏まえ、鉄道、高速バス、広域バスの維持と、地域の実情に応じた交通サービスの再編が掲げられています。
必要だが採算が悪い代表的な分野
地方交通は、地域住民に必要であっても、乗客数が少ないと民間採算が成立しません。
運転手1人、車両1台を動かす費用は、乗客が1人でも10人でも大きくは変わりません。
そのため、利用者が少ない地域では、1人当たりの運行費用が高くなります。
これは、需要がないのではなく、需要が薄く広く分散していることが問題です。
人手不足が深刻な仕事4~保安、警備、施設管理
千葉県の2026年5月の保安職業の有効求人倍率は5.16倍でした。
地方では、人口減少によって施設や住宅の無人化が進む一方、次の管理需要は残ります。
- 公共施設の警備
- 病院、介護施設の管理
- 商業施設の警備
- 駐車場管理
- 空き家巡回
- 災害時の交通誘導
- 工事現場の警備
- イベント警備
ただし、警備業も勤務時間が不規則になりやすく、屋外勤務や夜間勤務を伴います。
求人が多くても、求職者が希望する条件と一致しなければ、人手不足は解消しません。
求人が少ない仕事~事務職を希望しても選択肢が限られる
2026年5月の千葉県では、事務的職業の有効求人倍率が0.24倍でした。
これは、事務職を希望する求職者約4人に対して、求人が1件程度しかない計算です。
地方では、事務職、企画職、管理職などの求人が少なくなりやすい傾向があります。
事業所が小規模であれば、経理、総務、営業事務を経営者や家族が兼務することがあります。専任の事務職を雇用する余裕がない事業者もあります。
また、デジタル化や業務集約によって、事務部門が都市部の本社や外部事業者に集約される場合もあります。
したがって、地方には求人があっても、身体的負担が比較的少なく、勤務時間が安定した事務職へ応募が集中しやすくなります。
これは、「働く意欲がない」のではなく、求職者が望む仕事と地域で必要とされる仕事が一致していない状態です。
農林漁業は担い手不足でも求人倍率が高いとは限らない
2026年5月の千葉県では、農林漁業の職業の有効求人倍率は0.81倍でした。
一方で、南房総地域では、第1次産業の就業者割合が9.2%と、県平均の2.5%を大きく上回っています。また、県の計画では、農林水産業の担い手確保、後継者育成、流通加工体制の整備が課題に挙げられています。
担い手不足と言われる農業や漁業で、求人倍率が極端に高くないのはなぜでしょうか。
理由の一つは、農林漁業では、雇用者として求人を出す形だけでなく、次の働き方が多いためです。
- 自営業
- 家族経営
- 法人の季節雇用
- 短期雇用
- 外国人技能実習・特定技能
- 独立就農
- 漁業権や設備を伴う経営
つまり、後継者不足や経営者不足が、そのまま公共職業安定所の求人件数には表れません。
農業や漁業では、「求人が少ないから人手が足りている」とは判断できません。
需要があっても採算が合わない仕事とは何か
地方で特に問題になるのは、住民が必要としているのに、民間事業として続けにくい仕事です。
代表的なものには次があります。
- 買い物代行
- 通院送迎
- 高齢者の見守り
- 空き家巡回
- 草刈り
- 小規模な住宅修繕
- 家具移動
- 電球交換
- 配食
- 訪問理美容
- 行政手続き支援
- デジタル機器の設定支援
これらは地域生活に必要ですが、1件当たりの支払額が低くなりやすく、移動時間が長いという問題があります。
地方事業の採算を決める基本式
地方の小規模事業は、売上高だけで評価できません。
概念的には、次のように考えます。
事業利益 =売上 -人件費 -車両費 -燃料費 -移動時間の人件費 -材料費 -保険料 -広告費 -事務費 -税・社会保険料
特に重要なのが、移動時間です。
都市部では近距離に複数の顧客がいるため、1日に多くの訪問ができます。
一方、地方では、顧客宅が広範囲に分散しています。
たとえば、1件5,000円の作業を1時間行う場合でも、往復移動に1時間かかれば、実質的には2時間を使います。
1日に3件実施するとします。
- 売上 5,000円×3件=1万5,000円
- 作業時間 3時間
- 移動時間 3時間
- 準備、報告、会計 1時間
- 合計稼働時間 7時間
ここから燃料、車両、道具、保険、広告、税金を差し引けば、十分な所得を残せない可能性があります。
この金額は比較のための仮定ですが、地方の生活支援事業では、作業単価ではなく、移動を含む1時間当たり売上を計算する必要があります。
買い物代行~必要性は高くても利用料金を上げにくい
自動車を運転できない高齢者にとって、買い物代行は重要なサービスです。
しかし、利用者が支払える金額には限度があります。
仮に、買い物代行1回の料金を2,000円とします。
買い物、移動、商品の受け渡しに合計90分かかれば、1時間当たり売上は約1,333円です。
ここから燃料費、車両費、保険、事務費を差し引く必要があります。
複数世帯の商品をまとめて購入し、同じ地域で配送できれば効率は上がります。しかし、利用時間や購入店舗、商品が異なると共同化は難しくなります。
必要なサービスであっても、完全な民間事業では成立しにくく、自治体、社会福祉協議会、スーパー、宅配事業者などとの連携が必要になる場合があります。
通院送迎~需要が強くても自由には営業できない
高齢者の通院送迎も、地域で必要性の高い仕事です。
しかし、有償で人を自動車に乗せて運ぶ事業には、道路運送法などの規制が関係します。
自家用車で自由に料金を受け取り、送迎事業を行えるわけではありません。
また、通院送迎には次の負担があります。
- 予約時間に合わせた待機
- 診療終了時間が読めない
- 乗降介助
- 車椅子対応
- 感染対策
- 事故時の責任
- キャンセル
- 早朝対応
- 遠距離通院
単なる距離料金では、待ち時間のコストを回収できないことがあります。
空き家管理~契約数が少ないと巡回費用を回収できない
空き家が増える地域では、巡回、換気、郵便物確認、写真報告、台風後の点検などの需要があります。
しかし、空き家が広範囲に分散していると、1日当たりに巡回できる戸数が少なくなります。
仮に月額3,000円で管理契約を結んでも、月1回の訪問、報告、移動に1時間かかれば、十分な利益は残りません。
事業として成立させるには、次の工夫が必要です。
- 同一地区で契約を集める
- 基本料金と追加作業を分ける
- 草刈り、清掃、修繕を別料金にする
- 不動産会社や自治体と連携する
- 台風後点検を追加契約にする
- 写真報告を標準化する
空き家が多いだけでは、空き家管理事業が成立するとは限りません。
契約率、移動距離、所有者の支払能力が重要です。
草刈り・庭木管理~需要はあっても季節性が強い
高齢化と空き家の増加によって、草刈りや庭木管理の需要は増える可能性があります。
しかし、次の問題があります。
- 春から秋に需要が集中する
- 雨天で作業できない
- 熱中症や事故の危険がある
- 草刈り機や車両が必要
- 刈草の処分費がかかる
- 土地の傾斜や面積で作業量が変わる
- 近隣建物や車への飛石事故がある
需要が多い時期には人手が足りず、冬には仕事が減る可能性があります。
単一業務だけで年間所得を確保するのは難しく、空き家管理、清掃、小修繕などとの組合せが必要です。
観光業~観光客が多くても年間雇用が増えるとは限らない
外房や南房総では、観光業が地域雇用の柱として期待されます。
県の南房総地域半島振興計画でも、観光人材の確保、海、温泉、食などを活用した観光振興が掲げられています。
しかし、観光客が増えても、次の条件では安定した仕事になりにくい場合があります。
- 夏や休日に利用が集中する
- 日帰り客が多い
- 1人当たり消費額が少ない
- 宿泊施設が域外資本である
- 食材や備品を域外から仕入れる
- 短期・非正規雇用が多い
- 平日の需要が少ない
- 天候で売上が変動する
2026年5月の千葉県では、宿泊業・飲食サービス業の新規求人は前年同月比22.4%減少しました。単月の数字だけで長期傾向を断定することはできませんが、観光関連の求人が常に増え続けるわけではないことは確認できます。
観光業を地域雇用につなげるには、来訪者数よりも、宿泊率、消費額、年間稼働率、地域内調達率を見る必要があります。
地方の飲食店が難しい理由
地方では家賃が安いため、飲食店を始めやすいように見えます。
しかし、飲食店の経営は家賃だけでは決まりません。
- 商圏人口
- 昼夜の通行量
- 平日客
- 観光客の季節変動
- 食材費
- 光熱費
- 人件費
- 廃棄率
- 駐車場
- 経営者の労働時間
- 後継者
人口の少ない地域では、固定客の利用頻度が限られます。
観光客を対象にすると、繁忙期と閑散期の差が大きくなります。
「競合店が少ない」ことは、事業機会を意味する場合もありますが、単に市場規模が小さいため参入店がない可能性もあります。
地域内需要だけに依存する事業の限界
地方で事業を始める場合、地域住民だけを顧客にすると、人口減少の影響を直接受けます。
たとえば、人口が毎年2%減る地域では、利用率が変わらなければ、理論上の顧客数も減少します。
さらに、高齢化によって所得や消費内容が変わります。
そのため、地域事業は次のどちらかを持つ方が安定しやすくなります。
地域外から売上を得る
- 農水産物の域外販売
- 食品加工
- 通信販売
- 業務受託
- データ処理
- 設計、編集
- オンライン教育
- 観光宿泊
- 企業研修
地域内で不可欠な継続需要を得る
- 医療
- 介護
- 修繕
- 交通
- 物流
- 食品
- 住宅管理
- 廃棄物処理
- 防災
- 行政・事業者向け業務
ただし、不可欠な需要であっても、料金設定や制度上の制約によって利益が出るとは限りません。
南房総地域では「働く場所の不足」も確認されている
千葉県の南房総地域半島振興計画では、就従比が0.94とされています。
就従比とは、その地域で働く就業者数を、その地域に住む就業者数で割った比率です。
1を下回る場合、地域に住む就業者数より、地域内の就業場所が少ないことを示します。
南房総地域では就従比が0.94であり、県は就業の場が不足していると整理しています。
これは、地域外へ通勤する人が一定数いることを意味します。
ただし、南房総では東京湾岸地域のように、大量の通勤者を鉄道で都市部へ運ぶことは容易ではありません。
移動時間と交通費を考えると、地域内雇用を一定程度確保する必要があります。
人手不足でも賃金を上げられない構造
人手不足なら、賃金を上げれば応募者が増えると考えられます。
理論上はその通りですが、小規模事業者には、賃上げ分を価格へ転嫁できない場合があります。
中小企業庁の2025年版中小企業白書は、中小企業・小規模事業者が、物価高、金利負担、構造的な人手不足などの厳しい経営環境に直面していると整理しています。中小企業・小規模事業者は国内雇用の約7割を担っており、人材確保、生産性向上、事業承継が重要課題とされています。([中小企業庁][2])
地方の事業者では、顧客も地域住民や小規模事業者であることが多く、料金を上げれば利用が減る可能性があります。
その結果、次の循環が起きます。
- 人手が不足する
- 賃金を上げたい
- 料金を上げる必要がある
- 顧客が減る
- 売上が減る
- 賃金を十分上げられない
- さらに人が集まらない
これは、事業者の努力だけで解決できない場合があります。
新規創業より事業承継が現実的な場合もある
地方では、新しい店や会社を作ることが注目されます。
しかし、既存事業者が高齢化し、後継者がいない場合、ゼロから創業するよりも既存事業を引き継ぐ方が合理的なことがあります。
中小企業庁によると、中小企業の経営者は依然として高齢で、60歳以上が過半数を占めています。後継者不在率は改善傾向にあるものの、事業承継は引き続き重要な課題です。([中小企業庁][3])
事業承継には、次の利点があります。
- 既存顧客がいる
- 設備がある
- 取引先がある
- 地域で信用がある
- 技術やノウハウがある
- 売上実績を確認できる
一方で、設備の老朽化、債務、低採算、属人的な取引などを引き継ぐ危険もあります。
「後継者がいない事業」だから有望なのではなく、将来需要と収益性を確認する必要があります。
地方で不足する仕事と採算が難しい仕事の整理
| 分野 | 地域需要 | 人材不足 | 採算上の問題 |
|---|---|---|---|
| 建設・修繕 | 高い | 深刻 | 技術・設備・資格が必要 |
| 医療・介護 | 高い | 深刻 | 報酬制約、移動時間 |
| 運輸・送迎 | 高い | 深刻 | 乗客密度、車両費 |
| 警備・保安 | 一定 | 深刻 | 夜間・屋外勤務 |
| 農林漁業 | 地域差あり | 後継者不足 | 季節、価格、設備投資 |
| 観光・宿泊 | 季節変動 | 地域差あり | 稼働率、非正規化 |
| 買い物代行 | 高齢地域で高い | 事業者不足 | 利用者が払える料金が低い |
| 空き家管理 | 増加傾向 | 地域差あり | 巡回距離、契約単価 |
| 草刈り・庭管理 | 高い | 作業者不足 | 季節性、事故リスク |
| 事務職 | 希望者が多い | 不足とは限らない | 求人そのものが少ない |
この表から分かるように、「需要がある」「求人がある」「事業が儲かる」は、それぞれ異なる概念です。
地方で事業を始める前に確認すべき10項目
1.実際に料金を払う顧客は何人いるか
困っている人の数ではなく、有料利用者数を確認します。
2.顧客はどこに分布しているか
商圏人口だけでなく、移動距離を確認します。
3.1件当たり総所要時間は何分か
作業時間だけでなく、移動、準備、報告を含めます。
4.年間を通して需要があるか
観光、草刈り、農作業などは季節変動があります。
5.利用者が支払える料金はいくらか
必要性が高くても、支払能力が低ければ民間事業は成立しません。
6.法律、許認可、資格が必要か
送迎、介護、建設、廃棄物処理などは規制を確認します。
7.代替サービスがあるか
家族支援、自治体サービス、宅配、既存事業者との競合を確認します。
8.自分が働けなくなった場合も続けられるか
1人事業では、病気や事故で事業が止まります。
9.地域外から売上を得られるか
地域内人口が減少しても売上を維持できる仕組みが必要です。
10.撤退時の費用はいくらか
車両、設備、店舗、在庫、借入金の処分費を確認します。
地方で将来も残りやすい仕事
人口減少下でも、次の仕事は一定の需要が残る可能性があります。
- 住宅・設備修繕
- 医療・介護
- 物流・配送
- 農水産物の加工・流通
- 空き家管理
- 防災・災害復旧
- 高齢者向け生活支援
- 小規模事業者向け事務支援
- デジタル手続き支援
- 地域交通
- 廃棄物処理
- インフラ保守
ただし、需要が残る分野でも、すべての事業者が利益を上げられるわけではありません。
商圏の集中、共同配送、予約の集約、事業者間連携、自治体委託などによって、移動や固定費を抑える仕組みが必要です。
現実的な結論~地方には仕事がないのではなく、仕事の条件が合っていない
地方には、確かに仕事の選択肢が少ない地域があります。
特に、事務、企画、専門職、管理職などは求人が限られ、若年層や高学歴層が都市部へ移る一因になります。
一方で、建設、介護、運輸、警備、修繕などでは、求人があっても人が集まりません。
さらに、買い物代行、通院送迎、空き家管理など、住民に必要でも、民間採算が成立しにくい仕事があります。
したがって、地方の仕事問題は、次の三つに分ける必要があります。
仕事そのものが少ない問題 人は必要だが応募者がいない問題 社会的需要はあるが事業収益が出ない問題
これらを一つにまとめて「地方には仕事がない」と表現すると、対策を誤ります。
求人が少ない職種には、地域外から仕事を受注する仕組みや、既存企業の業務部門を地域へ移す施策が必要です。
人手不足職種には、賃金、住宅、勤務時間、教育訓練、職業イメージの改善が必要です。
採算が取れない生活サービスには、共同化、自治体委託、地域拠点への集約などが必要です。
地方で新しい事業を考える場合、「地域で困っている人がいる」という理由だけでは不十分です。
必要なのは、
- 誰が料金を払うのか
- いくら払えるのか
- 何件集められるのか
- 移動を含めて利益が残るのか
- 5年後も需要があるのか
を数字で確認することです。
地方には仕事がないのではありません。
正確には、求職者が希望する仕事、地域が必要とする仕事、事業者が利益を出せる仕事の三つが一致していないのです。
この不一致を明確にすることが、地方雇用や地域事業を現実的に考える出発点になります。





