地域分析記事

地域の暮らしと地域課題を数学とデータで考える

はじめに~「仕事がない」と「働き手がいない」は同じではない

地方について語るとき、「仕事がない」という言葉がよく使われます。

若者が地域を離れる理由として、就職先が少ないこと、希望する職種が見つからないこと、都市部より賃金が低いことなどが挙げられます。実際、千葉県東部や南房総では、東京都心に近い県西部と比べて、企業や事業所の選択肢が限られる地域があります。

しかし、地方の雇用問題を詳しく見ると、単純に仕事の数が少ないだけではありません。

地域では、次の三つの現象が同時に起きています。

  1. 就職希望者に対して求人が少ない仕事
  2. 求人はあるが応募者が集まらない仕事
  3. 住民には必要とされているが、民間事業として採算が合わない仕事

つまり、地方には「仕事がない」一方で、「働く人がいない仕事」や「必要なのに事業者が続けられない仕事」もあります。

本記事では、千葉県東部、外房、南房総を念頭に置きながら、地方の仕事を次の二つに分けて考えます。

  • 人材が不足している仕事
  • 需要はあっても採算が成立しにくい仕事

観光、移住、起業支援といった言葉だけで地域雇用を語るのではなく、求人、求職、人口構造、商圏、移動費、人件費などから現実的に整理します。


最初に結論~地方の問題は仕事の総量より「ミスマッチ」にある

地方では、すべての仕事が不足しているわけでも、すべての仕事で人手不足になっているわけでもありません。

2026年5月の千葉県における有効求人倍率は、求職者の住所地に近い公共職業安定所で集計する受理地別で0.97倍、実際の就業場所を基準にする就業地別で1.25倍でした。

有効求人倍率とは、仕事を探している人1人に対して、何件の求人があるかを示す指標です。受理地別では1倍を下回る一方、就業地別では1倍を上回っています。これは、県内全体で見ても、求職者の居住地と求人が存在する地域が一致していないことを示します。

さらに職業別に見ると、求人倍率には大きな差があります。

2026年5月の千葉県では、建設・採掘の職業が5.89倍、保安の職業が5.16倍、サービスの職業が1.92倍、生産工程の職業が1.66倍、輸送・機械運転の職業が1.56倍でした。

一方、事務的職業は0.24倍、管理的職業は0.41倍、運搬・清掃・包装等の職業は0.63倍、農林漁業の職業は0.81倍でした。

この数字から分かるのは、地方の仕事問題が、単純な求人不足ではないということです。

求人が多く人が集まらない職種と、希望者が多いのに求人が少ない職種が、同時に存在しています。

したがって、地方の雇用問題の中心は、次の不一致です。

  • 求人のある職種と求職者が希望する職種の不一致
  • 求人地域と居住地域の不一致
  • 事業者が支払える賃金と、働く人が必要とする所得の不一致
  • 地域住民が必要とするサービスと、事業者が採算を取れる料金の不一致

「地方には仕事がない」という言葉の四つの意味

同じ「仕事がない」という言葉でも、実際には異なる状態を指しています。

1.求人件数そのものが少ない

人口が少ない地域では、企業数、事業所数、店舗数も限られます。

そのため、同じ職種でも求人が出る回数が少なくなります。希望する勤務条件に合わなければ、次の求人が出るまで長期間待つこともあります。

2.希望する仕事がない

求人はあっても、介護、建設、運輸、宿泊、飲食などに偏り、事務、企画、研究、情報処理などの求人が少ない場合があります。

この場合、統計上は求人があっても、求職者にとっては「仕事がない」と感じられます。

3.賃金や勤務条件が合わない

仕事があっても、賃金、休日、勤務時間、通勤距離、身体的負担が生活条件に合わなければ、応募にはつながりません。

特に自動車通勤が必要な地域では、燃料費、車両維持費、通勤時間も実質的な就業コストになります。

4.配偶者を含む世帯全体の仕事がない

本人の仕事が見つかっても、配偶者の仕事が見つからなければ、世帯としての移住や定住は難しくなります。

地方移住では、1人分の求人ではなく、夫婦や世帯全体の所得を考える必要があります。


千葉県全体でも求人が十分とは言い切れない

2026年5月の千葉県では、受理地別の有効求人倍率が0.97倍でした。正社員の有効求人倍率は0.72倍で、求職者1人に対して正社員求人が1件未満という状況でした。

また、有効求人数は前年同月比5.2%減、新規求人数は11.0%減となっています。千葉労働局は、県内の雇用失業情勢について、緩やかに持ち直しているものの動きに弱さが見られ、物価上昇などの影響に注意が必要だとしています。

したがって、「人手不足だから、地方では誰でも簡単に就職できる」と考えるのも正確ではありません。

求人倍率が高いのは特定の職業に偏っています。希望職種、資格、経験、勤務地、雇用形態によって、就職の難易度は大きく変わります。


人手不足が深刻な仕事1~建設・住宅修繕

2026年5月の千葉県では、建設・採掘の職業の有効求人倍率が5.89倍でした。求人が求職者の約5.9倍ある計算で、職業分類の中でも特に高い水準です。

千葉県東部や南房総では、今後も建設関連の需要が残ると考えられます。

  • 老朽住宅の修繕
  • 空き家の管理と解体
  • 屋根や外壁の補修
  • 台風・豪雨被害への対応
  • 水道、電気、給排水設備の更新
  • 高齢者住宅の手すり設置
  • 段差解消
  • 庭木や擁壁の管理
  • 道路、橋、上下水道の維持
  • 災害復旧

南房総地域は、人口減少と高齢化が進む一方で、住宅、道路、鉄道、水道などの生活基盤を維持する必要があります。千葉県の第5次南房総地域半島振興計画では、対象地域の人口が1960年の約34万人から2025年には約22万人まで約35%減少し、65歳以上人口の割合は約43%とされています。

人口が減っても建物やインフラが同じ割合で減るわけではありません。

そのため、建設や修繕の需要は残ります。しかし、人材不足が続けば、依頼から着工までの待ち時間が延び、工事費が上昇し、小規模な修繕を引き受ける事業者が減る可能性があります。

需要があっても新規参入が容易ではない

建設や住宅修繕は求人倍率が高いからといって、未経験者がすぐに独立できる分野ではありません。

必要になるものには、次があります。

  • 技術と実務経験
  • 工具、車両、資材
  • 各種資格
  • 建設業許可が必要となる工事への対応
  • 労災・損害賠償への備え
  • 見積り能力
  • 施工後の保証
  • 繁忙期と閑散期の資金管理

したがって、仕事は不足していても、参入障壁が低いとは限りません。


人手不足が深刻な仕事2~介護・医療・福祉

高齢化する地域では、介護、看護、訪問診療、配食、送迎などの需要が増えます。

千葉県は、福祉人材について、2025年度に7,113人不足するという推計を示していました。保育士の有効求人倍率も、2023年1月時点で2.64倍とされていました。([千葉県公式サイト][1])

南房総地域の計画でも、保健師の確保、救急医療体制、公的医療機関、地域包括ケア、地域密着型サービスの整備が課題として挙げられています。

高齢者が多い地域では、需要が消える可能性は低いでしょう。

しかし、需要が多いことと、民間事業者が十分な利益を上げられることは別です。

介護事業では、報酬の多くが公的制度によって定められます。利用料金を自由に引き上げにくい一方、人件費、燃料費、車両費、物価は上昇します。

訪問介護や訪問看護では、利用者宅が分散しているほど、1日に訪問できる件数が減ります。

移動時間は売上になりにくい

たとえば、1件のサービス提供時間が60分でも、往復移動に40分かかれば、実際には100分を使用します。

1日8時間働いても、移動や記録、準備を含めると、売上を得られる時間は限られます。

人口密度の低い地方では、需要があっても、1人の職員が担当できる件数が少なくなり、採算が悪化します。


人手不足が深刻な仕事3~運輸、送迎、物流

2026年5月の千葉県では、輸送・機械運転の職業の有効求人倍率は1.56倍でした。

千葉県東部や南房総では、次の移動需要があります。

  • 食品、日用品の配送
  • 農水産物の輸送
  • 通院送迎
  • 介護施設送迎
  • スクールバス
  • 観光客の移動
  • 宅配便
  • 建設資材輸送
  • 災害時物流

自動車依存が強い地域ほど、運転手不足の影響は大きくなります。

鉄道や路線バスの利用者が減少しても、高齢者や運転免許を持たない人の移動需要がなくなるわけではありません。

南房総地域の計画では、鉄道利用者の減少を踏まえ、鉄道、高速バス、広域バスの維持と、地域の実情に応じた交通サービスの再編が掲げられています。

必要だが採算が悪い代表的な分野

地方交通は、地域住民に必要であっても、乗客数が少ないと民間採算が成立しません。

運転手1人、車両1台を動かす費用は、乗客が1人でも10人でも大きくは変わりません。

そのため、利用者が少ない地域では、1人当たりの運行費用が高くなります。

これは、需要がないのではなく、需要が薄く広く分散していることが問題です。


人手不足が深刻な仕事4~保安、警備、施設管理

千葉県の2026年5月の保安職業の有効求人倍率は5.16倍でした。

地方では、人口減少によって施設や住宅の無人化が進む一方、次の管理需要は残ります。

  • 公共施設の警備
  • 病院、介護施設の管理
  • 商業施設の警備
  • 駐車場管理
  • 空き家巡回
  • 災害時の交通誘導
  • 工事現場の警備
  • イベント警備

ただし、警備業も勤務時間が不規則になりやすく、屋外勤務や夜間勤務を伴います。

求人が多くても、求職者が希望する条件と一致しなければ、人手不足は解消しません。


求人が少ない仕事~事務職を希望しても選択肢が限られる

2026年5月の千葉県では、事務的職業の有効求人倍率が0.24倍でした。

これは、事務職を希望する求職者約4人に対して、求人が1件程度しかない計算です。

地方では、事務職、企画職、管理職などの求人が少なくなりやすい傾向があります。

事業所が小規模であれば、経理、総務、営業事務を経営者や家族が兼務することがあります。専任の事務職を雇用する余裕がない事業者もあります。

また、デジタル化や業務集約によって、事務部門が都市部の本社や外部事業者に集約される場合もあります。

したがって、地方には求人があっても、身体的負担が比較的少なく、勤務時間が安定した事務職へ応募が集中しやすくなります。

これは、「働く意欲がない」のではなく、求職者が望む仕事と地域で必要とされる仕事が一致していない状態です。


農林漁業は担い手不足でも求人倍率が高いとは限らない

2026年5月の千葉県では、農林漁業の職業の有効求人倍率は0.81倍でした。

一方で、南房総地域では、第1次産業の就業者割合が9.2%と、県平均の2.5%を大きく上回っています。また、県の計画では、農林水産業の担い手確保、後継者育成、流通加工体制の整備が課題に挙げられています。

担い手不足と言われる農業や漁業で、求人倍率が極端に高くないのはなぜでしょうか。

理由の一つは、農林漁業では、雇用者として求人を出す形だけでなく、次の働き方が多いためです。

  • 自営業
  • 家族経営
  • 法人の季節雇用
  • 短期雇用
  • 外国人技能実習・特定技能
  • 独立就農
  • 漁業権や設備を伴う経営

つまり、後継者不足や経営者不足が、そのまま公共職業安定所の求人件数には表れません。

農業や漁業では、「求人が少ないから人手が足りている」とは判断できません。


需要があっても採算が合わない仕事とは何か

地方で特に問題になるのは、住民が必要としているのに、民間事業として続けにくい仕事です。

代表的なものには次があります。

  • 買い物代行
  • 通院送迎
  • 高齢者の見守り
  • 空き家巡回
  • 草刈り
  • 小規模な住宅修繕
  • 家具移動
  • 電球交換
  • 配食
  • 訪問理美容
  • 行政手続き支援
  • デジタル機器の設定支援

これらは地域生活に必要ですが、1件当たりの支払額が低くなりやすく、移動時間が長いという問題があります。


地方事業の採算を決める基本式

地方の小規模事業は、売上高だけで評価できません。

概念的には、次のように考えます。

事業利益 =売上 -人件費 -車両費 -燃料費 -移動時間の人件費 -材料費 -保険料 -広告費 -事務費 -税・社会保険料

特に重要なのが、移動時間です。

都市部では近距離に複数の顧客がいるため、1日に多くの訪問ができます。

一方、地方では、顧客宅が広範囲に分散しています。

たとえば、1件5,000円の作業を1時間行う場合でも、往復移動に1時間かかれば、実質的には2時間を使います。

1日に3件実施するとします。

  • 売上 5,000円×3件=1万5,000円
  • 作業時間 3時間
  • 移動時間 3時間
  • 準備、報告、会計 1時間
  • 合計稼働時間 7時間

ここから燃料、車両、道具、保険、広告、税金を差し引けば、十分な所得を残せない可能性があります。

この金額は比較のための仮定ですが、地方の生活支援事業では、作業単価ではなく、移動を含む1時間当たり売上を計算する必要があります。


買い物代行~必要性は高くても利用料金を上げにくい

自動車を運転できない高齢者にとって、買い物代行は重要なサービスです。

しかし、利用者が支払える金額には限度があります。

仮に、買い物代行1回の料金を2,000円とします。

買い物、移動、商品の受け渡しに合計90分かかれば、1時間当たり売上は約1,333円です。

ここから燃料費、車両費、保険、事務費を差し引く必要があります。

複数世帯の商品をまとめて購入し、同じ地域で配送できれば効率は上がります。しかし、利用時間や購入店舗、商品が異なると共同化は難しくなります。

必要なサービスであっても、完全な民間事業では成立しにくく、自治体、社会福祉協議会、スーパー、宅配事業者などとの連携が必要になる場合があります。


通院送迎~需要が強くても自由には営業できない

高齢者の通院送迎も、地域で必要性の高い仕事です。

しかし、有償で人を自動車に乗せて運ぶ事業には、道路運送法などの規制が関係します。

自家用車で自由に料金を受け取り、送迎事業を行えるわけではありません。

また、通院送迎には次の負担があります。

  • 予約時間に合わせた待機
  • 診療終了時間が読めない
  • 乗降介助
  • 車椅子対応
  • 感染対策
  • 事故時の責任
  • キャンセル
  • 早朝対応
  • 遠距離通院

単なる距離料金では、待ち時間のコストを回収できないことがあります。


空き家管理~契約数が少ないと巡回費用を回収できない

空き家が増える地域では、巡回、換気、郵便物確認、写真報告、台風後の点検などの需要があります。

しかし、空き家が広範囲に分散していると、1日当たりに巡回できる戸数が少なくなります。

仮に月額3,000円で管理契約を結んでも、月1回の訪問、報告、移動に1時間かかれば、十分な利益は残りません。

事業として成立させるには、次の工夫が必要です。

  • 同一地区で契約を集める
  • 基本料金と追加作業を分ける
  • 草刈り、清掃、修繕を別料金にする
  • 不動産会社や自治体と連携する
  • 台風後点検を追加契約にする
  • 写真報告を標準化する

空き家が多いだけでは、空き家管理事業が成立するとは限りません。

契約率、移動距離、所有者の支払能力が重要です。


草刈り・庭木管理~需要はあっても季節性が強い

高齢化と空き家の増加によって、草刈りや庭木管理の需要は増える可能性があります。

しかし、次の問題があります。

  • 春から秋に需要が集中する
  • 雨天で作業できない
  • 熱中症や事故の危険がある
  • 草刈り機や車両が必要
  • 刈草の処分費がかかる
  • 土地の傾斜や面積で作業量が変わる
  • 近隣建物や車への飛石事故がある

需要が多い時期には人手が足りず、冬には仕事が減る可能性があります。

単一業務だけで年間所得を確保するのは難しく、空き家管理、清掃、小修繕などとの組合せが必要です。


観光業~観光客が多くても年間雇用が増えるとは限らない

外房や南房総では、観光業が地域雇用の柱として期待されます。

県の南房総地域半島振興計画でも、観光人材の確保、海、温泉、食などを活用した観光振興が掲げられています。

しかし、観光客が増えても、次の条件では安定した仕事になりにくい場合があります。

  • 夏や休日に利用が集中する
  • 日帰り客が多い
  • 1人当たり消費額が少ない
  • 宿泊施設が域外資本である
  • 食材や備品を域外から仕入れる
  • 短期・非正規雇用が多い
  • 平日の需要が少ない
  • 天候で売上が変動する

2026年5月の千葉県では、宿泊業・飲食サービス業の新規求人は前年同月比22.4%減少しました。単月の数字だけで長期傾向を断定することはできませんが、観光関連の求人が常に増え続けるわけではないことは確認できます。

観光業を地域雇用につなげるには、来訪者数よりも、宿泊率、消費額、年間稼働率、地域内調達率を見る必要があります。


地方の飲食店が難しい理由

地方では家賃が安いため、飲食店を始めやすいように見えます。

しかし、飲食店の経営は家賃だけでは決まりません。

  • 商圏人口
  • 昼夜の通行量
  • 平日客
  • 観光客の季節変動
  • 食材費
  • 光熱費
  • 人件費
  • 廃棄率
  • 駐車場
  • 経営者の労働時間
  • 後継者

人口の少ない地域では、固定客の利用頻度が限られます。

観光客を対象にすると、繁忙期と閑散期の差が大きくなります。

「競合店が少ない」ことは、事業機会を意味する場合もありますが、単に市場規模が小さいため参入店がない可能性もあります。


地域内需要だけに依存する事業の限界

地方で事業を始める場合、地域住民だけを顧客にすると、人口減少の影響を直接受けます。

たとえば、人口が毎年2%減る地域では、利用率が変わらなければ、理論上の顧客数も減少します。

さらに、高齢化によって所得や消費内容が変わります。

そのため、地域事業は次のどちらかを持つ方が安定しやすくなります。

地域外から売上を得る

  • 農水産物の域外販売
  • 食品加工
  • 通信販売
  • 業務受託
  • データ処理
  • 設計、編集
  • オンライン教育
  • 観光宿泊
  • 企業研修

地域内で不可欠な継続需要を得る

  • 医療
  • 介護
  • 修繕
  • 交通
  • 物流
  • 食品
  • 住宅管理
  • 廃棄物処理
  • 防災
  • 行政・事業者向け業務

ただし、不可欠な需要であっても、料金設定や制度上の制約によって利益が出るとは限りません。


南房総地域では「働く場所の不足」も確認されている

千葉県の南房総地域半島振興計画では、就従比が0.94とされています。

就従比とは、その地域で働く就業者数を、その地域に住む就業者数で割った比率です。

1を下回る場合、地域に住む就業者数より、地域内の就業場所が少ないことを示します。

南房総地域では就従比が0.94であり、県は就業の場が不足していると整理しています。

これは、地域外へ通勤する人が一定数いることを意味します。

ただし、南房総では東京湾岸地域のように、大量の通勤者を鉄道で都市部へ運ぶことは容易ではありません。

移動時間と交通費を考えると、地域内雇用を一定程度確保する必要があります。


人手不足でも賃金を上げられない構造

人手不足なら、賃金を上げれば応募者が増えると考えられます。

理論上はその通りですが、小規模事業者には、賃上げ分を価格へ転嫁できない場合があります。

中小企業庁の2025年版中小企業白書は、中小企業・小規模事業者が、物価高、金利負担、構造的な人手不足などの厳しい経営環境に直面していると整理しています。中小企業・小規模事業者は国内雇用の約7割を担っており、人材確保、生産性向上、事業承継が重要課題とされています。([中小企業庁][2])

地方の事業者では、顧客も地域住民や小規模事業者であることが多く、料金を上げれば利用が減る可能性があります。

その結果、次の循環が起きます。

  1. 人手が不足する
  2. 賃金を上げたい
  3. 料金を上げる必要がある
  4. 顧客が減る
  5. 売上が減る
  6. 賃金を十分上げられない
  7. さらに人が集まらない

これは、事業者の努力だけで解決できない場合があります。


新規創業より事業承継が現実的な場合もある

地方では、新しい店や会社を作ることが注目されます。

しかし、既存事業者が高齢化し、後継者がいない場合、ゼロから創業するよりも既存事業を引き継ぐ方が合理的なことがあります。

中小企業庁によると、中小企業の経営者は依然として高齢で、60歳以上が過半数を占めています。後継者不在率は改善傾向にあるものの、事業承継は引き続き重要な課題です。([中小企業庁][3])

事業承継には、次の利点があります。

  • 既存顧客がいる
  • 設備がある
  • 取引先がある
  • 地域で信用がある
  • 技術やノウハウがある
  • 売上実績を確認できる

一方で、設備の老朽化、債務、低採算、属人的な取引などを引き継ぐ危険もあります。

「後継者がいない事業」だから有望なのではなく、将来需要と収益性を確認する必要があります。


地方で不足する仕事と採算が難しい仕事の整理

分野 地域需要 人材不足 採算上の問題
建設・修繕 高い 深刻 技術・設備・資格が必要
医療・介護 高い 深刻 報酬制約、移動時間
運輸・送迎 高い 深刻 乗客密度、車両費
警備・保安 一定 深刻 夜間・屋外勤務
農林漁業 地域差あり 後継者不足 季節、価格、設備投資
観光・宿泊 季節変動 地域差あり 稼働率、非正規化
買い物代行 高齢地域で高い 事業者不足 利用者が払える料金が低い
空き家管理 増加傾向 地域差あり 巡回距離、契約単価
草刈り・庭管理 高い 作業者不足 季節性、事故リスク
事務職 希望者が多い 不足とは限らない 求人そのものが少ない

この表から分かるように、「需要がある」「求人がある」「事業が儲かる」は、それぞれ異なる概念です。


地方で事業を始める前に確認すべき10項目

1.実際に料金を払う顧客は何人いるか

困っている人の数ではなく、有料利用者数を確認します。

2.顧客はどこに分布しているか

商圏人口だけでなく、移動距離を確認します。

3.1件当たり総所要時間は何分か

作業時間だけでなく、移動、準備、報告を含めます。

4.年間を通して需要があるか

観光、草刈り、農作業などは季節変動があります。

5.利用者が支払える料金はいくらか

必要性が高くても、支払能力が低ければ民間事業は成立しません。

6.法律、許認可、資格が必要か

送迎、介護、建設、廃棄物処理などは規制を確認します。

7.代替サービスがあるか

家族支援、自治体サービス、宅配、既存事業者との競合を確認します。

8.自分が働けなくなった場合も続けられるか

1人事業では、病気や事故で事業が止まります。

9.地域外から売上を得られるか

地域内人口が減少しても売上を維持できる仕組みが必要です。

10.撤退時の費用はいくらか

車両、設備、店舗、在庫、借入金の処分費を確認します。


地方で将来も残りやすい仕事

人口減少下でも、次の仕事は一定の需要が残る可能性があります。

  • 住宅・設備修繕
  • 医療・介護
  • 物流・配送
  • 農水産物の加工・流通
  • 空き家管理
  • 防災・災害復旧
  • 高齢者向け生活支援
  • 小規模事業者向け事務支援
  • デジタル手続き支援
  • 地域交通
  • 廃棄物処理
  • インフラ保守

ただし、需要が残る分野でも、すべての事業者が利益を上げられるわけではありません。

商圏の集中、共同配送、予約の集約、事業者間連携、自治体委託などによって、移動や固定費を抑える仕組みが必要です。


現実的な結論~地方には仕事がないのではなく、仕事の条件が合っていない

地方には、確かに仕事の選択肢が少ない地域があります。

特に、事務、企画、専門職、管理職などは求人が限られ、若年層や高学歴層が都市部へ移る一因になります。

一方で、建設、介護、運輸、警備、修繕などでは、求人があっても人が集まりません。

さらに、買い物代行、通院送迎、空き家管理など、住民に必要でも、民間採算が成立しにくい仕事があります。

したがって、地方の仕事問題は、次の三つに分ける必要があります。

仕事そのものが少ない問題 人は必要だが応募者がいない問題 社会的需要はあるが事業収益が出ない問題

これらを一つにまとめて「地方には仕事がない」と表現すると、対策を誤ります。

求人が少ない職種には、地域外から仕事を受注する仕組みや、既存企業の業務部門を地域へ移す施策が必要です。

人手不足職種には、賃金、住宅、勤務時間、教育訓練、職業イメージの改善が必要です。

採算が取れない生活サービスには、共同化、自治体委託、地域拠点への集約などが必要です。

地方で新しい事業を考える場合、「地域で困っている人がいる」という理由だけでは不十分です。

必要なのは、

  • 誰が料金を払うのか
  • いくら払えるのか
  • 何件集められるのか
  • 移動を含めて利益が残るのか
  • 5年後も需要があるのか

を数字で確認することです。

地方には仕事がないのではありません。

正確には、求職者が希望する仕事、地域が必要とする仕事、事業者が利益を出せる仕事の三つが一致していないのです。

この不一致を明確にすることが、地方雇用や地域事業を現実的に考える出発点になります。


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はじめに~千葉県全体の数字では東部・南房総の実情は見えない

千葉県は、東京都に隣接し、600万人を超える人口を持つ大都市圏の県です。

県西部には、千葉市、船橋市、市川市、松戸市、柏市、流山市、浦安市など、東京都心への通勤・通学圏として人口を維持している都市があります。そのため、千葉県全体の人口や経済規模だけを見ると、県内の地域課題は比較的小さいように見えるかもしれません。

しかし、同じ千葉県内でも、人口動態、年齢構成、産業、医療、交通の状況には大きな地域差があります。

2025年国勢調査の千葉県速報では、県人口は625万8,512人となり、2020年から2万5,968人減少しました。千葉県の人口が国勢調査で前回調査を下回ったのは、1920年の第1回調査以降初めてです。一方、世帯数は10万2,083世帯増え、1世帯当たり人員は2.18人まで減少しました。人口が減る一方で世帯数が増えるということは、単身世帯や少人数世帯の増加が進んでいることを示します。

さらに、2020年から2025年に人口が増加したのは県西部を中心とする12市に限られ、25市17町村では人口が減少しました。銚子市では5年間に7,005人、率にして11.99%、香取市では6,256人、8.65%減少しています。

千葉県全体の人口減少率は0.41%にとどまっていますが、この数字をもって、県内のすべての地域が同じ速度で人口減少していると考えることはできません。

県西部で人口が増加する一方、東総、九十九里、外房、南房総では、人口減少と高齢化が同時に進んでいます。

本記事では、印象や観光地としてのイメージではなく、公的統計から確認できる範囲で、千葉県東部・南房総の現在を整理します。


本記事で扱う地域

「千葉県東部」「外房」「南房総」という言葉には、法律上統一された一つの地域区分があるわけではありません。

そこで本記事では、千葉県の地方創生総合戦略で使用されている地域区分を参考に、次の3地域を主な対象とします。

香取・東総ゾーン

  • 銚子市
  • 旭市
  • 匝瑳市
  • 香取市
  • 神崎町
  • 多古町
  • 東庄町

九十九里ゾーン

  • 茂原市
  • 東金市
  • 山武市
  • 大網白里市
  • 九十九里町
  • 芝山町
  • 横芝光町
  • 一宮町
  • 睦沢町
  • 長生村
  • 白子町
  • 長柄町
  • 長南町

南房総・外房ゾーン

  • 館山市
  • 勝浦市
  • 鴨川市
  • 南房総市
  • いすみ市
  • 大多喜町
  • 御宿町
  • 鋸南町

千葉県は、2018年から2022年までの人口動態を、この地域区分で分析しています。香取・東総、九十九里、南房総・外房の3地域では、いずれも出生数と死亡数の差による自然減が発生していました。

なお、医療については、地域区分が異なります。

千葉県の保健医療計画では、銚子市、旭市、匝瑳市、香取市などを「香取海匝保健医療圏」、茂原市、東金市、勝浦市、いすみ市、長生郡などを「山武長生夷隅保健医療圏」、館山市、鴨川市、南房総市、鋸南町を「安房保健医療圏」としています。

地域を比較する際には、人口政策、医療、交通など、資料ごとに地域区分が異なる点に注意が必要です。


最初に結論~問題は人口が減ることだけではない

千葉県東部・南房総の課題は、単に人口が減少していることではありません。

より深刻なのは、次の変化が同時に進んでいることです。

  • 出生数より死亡数が多い自然減
  • 若年層や生産年齢人口の減少
  • 高齢者割合の上昇
  • 人口密度の低下
  • 単身世帯や少人数世帯の増加
  • 医療・介護需要の増加
  • 医療従事者の地域偏在
  • 鉄道、バス、タクシー利用者の減少
  • 自動車を運転できない住民の増加
  • 空き家と管理困難住宅の増加
  • 商業、公共施設、行政サービスの維持負担
  • 農業、漁業、観光、医療などの担い手不足

人口が減っても、住宅や集落、道路、上下水道、医療施設、公共施設が同じ範囲に残れば、住民1人当たりの維持負担は重くなります。

一方で、人口減少地域であっても、すべての市町村、すべての地区が同じ状況ではありません。

鉄道駅周辺、主要道路沿い、病院やスーパーの近くでは人口や生活機能が比較的維持される可能性があります。反対に、海岸部、丘陵地、山間部、古い住宅団地などでは、同じ自治体内でも人口減少や高齢化が早く進むことがあります。

したがって、地域課題を考える際には、市町村の人口だけでなく、年齢構成、地区別人口、世帯構成、生活施設まで確認する必要があります。


千葉県全体が人口減少局面に入った意味

2025年国勢調査速報における千葉県の人口は、2020年から0.41%減少しました。

県全体の減少率だけを見ると、急激な人口減少には見えません。

しかし、県西部の人口増加が東部・南部の減少を補っているため、県全体の数字では地域差が小さく見えます。

2025年国勢調査速報で人口が増えたのは、千葉市、流山市、柏市、印西市、船橋市など県西部を中心とする12市です。一方、人口が減ったのは42市町村に及びました。

千葉県では、これまで東京都心に近い地域への人口流入によって、県全体の自然減を社会増が補ってきました。

2024年10月1日現在の人口推計でも、千葉県は出生数より死亡数が多い自然減である一方、転入者が転出者を上回る社会増の県でした。

ただし、社会増は県内に均等に配分されていません。

千葉県の2018年から2022年までの分析では、東葛・湾岸ゾーンは自然減を大幅な社会増が上回っていました。一方、香取・東総ゾーン、九十九里ゾーン、南房総・外房ゾーンは、自然減に加えて社会減となっていました。

この違いは重要です。

人口変化は、概念的には次のように分解できます。

人口増減 =出生数-死亡数+転入数-転出数

出生数より死亡数が多くても、転入者が十分に多ければ人口は維持できます。

しかし、自然減と社会減が同時に起きる地域では、出生数の減少、高齢者の死亡、若年層の転出が重なります。

千葉県東部・南房総の多くは、人口減少を移住者だけで補うことが難しい段階に入っていると考えられます。


外国人人口の増加が人口減少を部分的に補っている

香取・東総、九十九里、南房総・外房では、地域全体として人口が減少していても、外国人については社会増となっていました。

千葉県の2018年から2022年までの分析では、香取・東総ゾーンの外国人社会増は1,737人、九十九里ゾーンは1,723人、南房総・外房ゾーンは490人でした。

これは、農業、食品加工、製造、宿泊、介護などで働く外国人が、地域の人口と産業を部分的に支えている可能性を示します。

ただし、外国人人口の増加を地域人口問題の解決とみなすことはできません。

確認すべきなのは、人数だけではなく、次の点です。

  • どの産業で働いているか
  • 在留資格は何か
  • 家族と暮らしているか
  • 短期間で転出していないか
  • 地域内で住宅を確保できているか
  • 日本語教育や医療にアクセスできているか
  • 子どもが地域の学校へ通っているか
  • 長期的に定住する意思があるか

外国人労働者が増えても、短期雇用や事業所内の寮生活に限られれば、地域社会や地域内消費への波及は限定的です。

一方、家族を伴って定住し、地域内で生活、消費、就学する世帯が増えれば、人口構造や生活サービスの維持に一定の影響を与えます。


高齢化率が50%を超える町がある

千葉県の2025年4月1日現在の年齢別人口調査によると、県全体では、0歳から14歳の年少人口が11.0%、15歳から64歳の生産年齢人口が61.4%、65歳以上の老年人口が27.6%でした。

しかし、市町村別に見ると大きな差があります。

65歳以上の老年人口割合が最も高かったのは御宿町の52.8%でした。次いで、鋸南町50.4%、南房総市48.0%、長南町47.3%、勝浦市47.3%となっています。

御宿町では、住民のおよそ2人に1人以上が65歳以上という計算になります。

さらに、年少人口割合は、御宿町が5.4%、鋸南町が5.8%、勝浦市が5.9%、銚子市が6.4%でした。

これは、単に高齢者が多いだけではありません。

子どもと現役世代の人数が少ないため、将来の人口再生産、地域雇用、学校、公共交通、商業、医療・介護人材の確保が難しくなります。

高齢化率は、高齢者が増えた場合だけでなく、若者が減った場合にも上昇します。

したがって、高齢化率が高い地域については、次の3つを分けて確認する必要があります。

  1. 高齢者の実人数が増えているのか
  2. 若年層と現役世代が減っているのか
  3. 両方が同時に進んでいるのか

高齢化の原因によって、必要な対策は異なります。


高齢者が多いことより、支える人口が少ないことが問題になる

高齢者が多い地域では、医療、介護、移動支援、住宅管理などの需要が増えます。

一方、それらのサービスを担う生産年齢人口は減少します。

たとえば、介護職員、看護師、運転手、建設作業員、電気工事業者、水道業者、買い物支援員、配達員などが不足すれば、需要があってもサービスを提供できません。

地域課題を考える際には、単純な高齢化率よりも、次の数字が重要になります。

  • 75歳以上人口
  • 85歳以上人口
  • 単身高齢者世帯
  • 要介護・要支援認定者
  • 自動車運転免許を持たない人
  • 医療・介護従事者数
  • 訪問診療事業所数
  • タクシーやバスの運転手数
  • 住宅修繕事業者数
  • 家族と同居していない高齢者数

これらを組み合わせなければ、実際の生活上の負担は見えてきません。

たとえば、高齢化率が高くても、病院、スーパー、駅が近く、集合住宅に住んでいれば生活を維持できる可能性があります。

反対に、高齢化率がやや低くても、住民が広く分散し、自動車がなければ病院や買い物へ行けない地域では、生活上のリスクが大きくなります。


人口密度の低さがサービス維持を難しくする

千葉県東部・南房総では、人口減少に加えて、人口密度の低さが問題になります。

2024年の千葉県毎月常住人口調査年報によると、県内で人口密度が最も低かったのは大多喜町の1平方キロメートル当たり62.2人でした。次いで長南町99.6人、長柄町131.5人、鋸南町137.4人、南房総市142.6人となっています。

人口密度が低い地域では、同じ人数にサービスを提供する場合でも、移動距離が長くなります。

具体的には、次の費用が増えます。

  • 路線バスやデマンド交通の運行費
  • 訪問診療や訪問介護の移動時間
  • 救急車の搬送時間
  • ごみ収集
  • 水道や道路の維持
  • 宅配や配食
  • 学校の送迎
  • 除草や空き家管理
  • 災害時の避難支援

人口1万人の町でも、駅周辺に人口が集まっている場合と、広い山間部に分散している場合では、行政や民間事業者の負担は異なります。

今後の地域政策では、市町村人口だけでなく、「どこに何人が住んでいるか」を重視する必要があります。


世帯数が増えても地域が成長しているとは限らない

千葉県全体では、2020年から2025年の間に人口が減少した一方、世帯数は増加しました。

世帯数の増加は、住宅需要や人口増加のように見えることがあります。

しかし、1世帯当たり人員が減少している場合、主な要因は次のような世帯分離である可能性があります。

  • 単身世帯の増加
  • 高齢者の一人暮らし
  • 子どもの独立
  • 未婚者の増加
  • 夫婦のみ世帯の増加
  • 施設入所前の単独生活
  • 外国人単身労働者の増加

勝浦市では、2024年の1世帯当たり人員が1.99人と、県内でも特に少ない水準でした。

世帯数が維持されていても、人口が減り、単身高齢者世帯が増えていれば、住宅管理、移動、見守り、医療、介護の需要は増えます。

したがって、世帯数の増加を、そのまま地域の活力や住宅需要の強さと判断することはできません。


雇用~地域に仕事があっても若者が残るとは限らない

千葉県全体の産業別有業者数では、卸売業・小売業、製造業、医療・福祉の順に多くなっています。千葉県の資料では、製造業や医療・福祉の有業者数が増える一方、卸売業・小売業などでは減少が見られました。

ただし、県東部・南房総の雇用構造は、県西部とは異なります。

香取・東総地域

農業、漁業、食品加工、医療、製造などが重要です。

千葉県の資料では、香取・東総ゾーンの農業産出額は県内ゾーンの中で最も大きく、県全体の3分の1以上を占めています。

これは、地域に産業基盤がないということではありません。

問題は、農業産出額が大きくても、雇用者数、若年層の所得、後継者、食品加工、物流、地域内消費へ十分につながっているかです。

農産物を原料のまま域外へ出荷する場合、加工、流通、販売による付加価値は地域外へ流れる可能性があります。

九十九里・外房地域

茂原市や東金市などには商業、医療、製造、行政機能があります。

一方、沿岸部では観光、宿泊、飲食、農漁業など、季節変動の影響を受けやすい産業もあります。

一宮町など一部地域では、サーフィン、飲食店、移住、二地域居住といった新しい動きが見られます。千葉県も、一宮町などでサーフショップや飲食店が開業していることを地域の特徴として挙げています。

ただし、一部の地域で店舗や移住者が増えていることを、外房全体の人口回復とみなすことはできません。

南房総地域

観光、医療、介護、農業、漁業、小売などが主要な雇用になります。

しかし、観光雇用は季節変動があり、医療・介護は人手不足になりやすく、農漁業は高齢化と後継者不足を抱えています。

地域に仕事が存在していても、その仕事が次の条件を満たさなければ、若い世帯の定着にはつながりません。

  • 家族を養える所得がある
  • 年間を通じて働ける
  • 住宅が確保できる
  • 子育てと両立できる
  • 技能や経験が蓄積される
  • 昇給や職業選択の余地がある
  • 配偶者にも仕事がある

雇用者数だけでなく、雇用の質を確認する必要があります。


農業産出額が大きくても地域人口は増えない

香取・東総地域は、千葉県内でも農業生産の大きな地域です。

しかし、農業産出額が大きいことと、地域人口が維持されることは同じではありません。

農業が地域人口を支えるためには、次の条件が必要です。

  • 農業所得が安定している
  • 新規就農者が定着できる
  • 住居を確保できる
  • 農地を集約できる
  • 加工・物流・販売の仕事が地域内にある
  • 配偶者の雇用先がある
  • 子どもの教育環境がある
  • 病院や買い物へアクセスできる

大規模農業が生産額を維持しても、機械化や経営統合によって必要な就業者数が減る場合があります。

また、外国人労働者や季節労働者に依存している場合、地域の定住人口増加には直結しません。

農業産出額、農業就業者数、農業所得、加工業従事者数を分けて見る必要があります。


観光客数と住民所得を混同しない

外房・南房総は、海水浴、サーフィン、温泉、海産物、道の駅、観光施設などを持つ観光地域です。

観光客が訪れることは、宿泊、飲食、小売、交通などに需要を生みます。

しかし、観光客数が多いことだけでは、地域住民の所得や人口維持への効果は判断できません。

確認すべきなのは次の項目です。

  • 宿泊客か日帰り客か
  • 1人当たり消費額
  • 地元事業者への支出割合
  • 地元雇用者数
  • 正規雇用か短期雇用か
  • 季節変動
  • 食材や備品の地域内調達率
  • 税収への影響
  • 道路、ごみ、救急医療への負担
  • 住宅の民泊・別荘転用

日帰り客が増えても、地域内での消費が少なければ、渋滞やごみ処理費だけが増える可能性があります。

また、住宅が民泊や別荘へ転用されると、観光需要が増えても、地域で働く人が住める賃貸住宅が減ることがあります。

観光の効果は、来訪者数ではなく、地域内に残った所得で評価する必要があります。


医療~同じ千葉県内でも医師の分布に差がある

千葉県東部・南房総の医療は、地域によって状況が大きく異なります。

県の保健医療計画では、香取海匝保健医療圏の人口は約27万人、面積は717.46平方キロメートルです。

山武長生夷隅保健医療圏は人口約42万人に対し、面積は1,161.72平方キロメートルあります。

安房保健医療圏は人口約12万人、面積575.91平方キロメートルです。

特に山武長生夷隅保健医療圏は、広い地域に人口、医療機関、集落が分散しています。

医師偏在指標では、山武長生夷隅が120.4と、県内で最も低い水準でした。香取海匝は180.3、安房は285.1で、安房は医師多数区域、山武長生夷隅は医師少数区域とされています。

ただし、安房医療圏の指標が高いからといって、南房総地域のすべての住民が医療へ容易にアクセスできるとは限りません。

医師が鴨山市街や館山市街、特定の大病院に集中していれば、周辺地域の住民には長距離移動が必要です。

医療を評価する際には、人口当たり医師数だけでなく、次の点を確認する必要があります。

  • 医療機関の所在地
  • 診療科
  • 常勤医師か非常勤医師か
  • 救急対応
  • 入院可能な病床
  • 産科、小児科
  • 透析
  • がん治療
  • リハビリテーション
  • 訪問診療
  • 自宅からの移動時間
  • 公共交通による通院可能性

医師数が多くても、自動車を運転できない住民が通院できなければ、生活上の医療アクセスは十分とはいえません。


高度医療を地域内ですべて完結させることは難しい

人口が少なく広域に分散した地域で、すべての診療科と高度医療を維持することは現実的ではありません。

高度救急、専門手術、周産期医療、小児専門医療などは、一定の患者数と医療従事者数がなければ維持できません。

そのため、地域医療では次の役割分担が必要です。

  • 地域の診療所による日常診療
  • 地域病院による入院・救急対応
  • 中核病院による専門診療
  • 県内外の高度医療機関への搬送・紹介
  • 回復期医療
  • 在宅医療
  • 訪問看護
  • 介護との連携

問題は、医療機関の集約そのものではありません。

集約後に、住民が中核病院まで移動できるか、退院後に地域へ戻れるか、家族が送迎や付き添いを続けられるかが重要です。

人口減少地域では、病院の配置と交通政策を別々に考えることはできません。


交通~鉄道があることと、自動車なしで暮らせることは同じではない

千葉県東部・南房総には、JR(Japan Railways・旅客鉄道会社)の外房線、内房線、総武本線、成田線、東金線などがあります。

しかし、鉄道駅が存在することと、自動車なしで生活できることは同じではありません。

実際の生活では、次の移動が必要です。

  • 自宅から駅まで
  • 駅から病院まで
  • 駅からスーパーまで
  • 通勤先まで
  • 子どもの学校や習い事
  • 市役所や金融機関
  • 介護施設
  • 鉄道運休時の代替交通

駅から数キロメートル離れた住宅では、最初と最後の移動手段が必要になります。

また、鉄道の本数が少ない場合、乗車時間より待ち時間の方が長くなることがあります。

千葉県内のJR線乗車人員は、新型コロナウイルス感染症の影響を受けた2020年度に大きく減少し、2021年度には一部回復しましたが、感染拡大前の2019年度の水準には戻っていませんでした。

今後、人口と通勤・通学需要が減れば、鉄道やバスの維持はさらに難しくなる可能性があります。


自動車依存は現在の便利さと将来の不安を同時に生む

外房、東総、南房総では、自動車があれば、鉄道やバスの本数が少なくても生活できます。

スーパー、病院、職場が離れていても、自動車で移動できるため、現役世代には一定の便利さがあります。

しかし、高齢になり、自動車を運転できなくなると、生活条件は急に変わります。

問題になるのは次のような地域です。

  • 病院まで片道10~20キロメートル以上ある
  • バス停まで歩けない
  • 鉄道駅まで遠い
  • タクシー事業者が少ない
  • 家族が近くに住んでいない
  • 買い物宅配の対象外である
  • 急な受診が多い
  • 週数回の通院が必要である

免許返納後の交通費は、月1回の通院だけで判断できません。

買い物、行政手続き、理美容、金融機関、知人との交流など、日常生活全体の移動が必要です。

自動車依存地域では、免許返納の問題は交通問題であると同時に、住宅立地の問題でもあります。


公共交通を増やせば解決するとは限らない

人口減少地域では、コミュニティバスやデマンド交通が注目されます。

しかし、利用者が少なく、居住地が広く分散している場合、1人を運ぶための費用が高くなります。

公共交通の評価では、運行しているかどうかだけでなく、次の数字を見る必要があります。

  • 年間利用者数
  • 1便当たり利用者数
  • 1人当たり行政負担額
  • 運行距離
  • 予約不成立数
  • 目的地
  • 高齢者以外の利用
  • 運転手数
  • タクシーとの競合
  • 病院予約時間との整合
  • 市町村境を越えられるか

制度が存在しても、利用対象、運行時間、区域、予約方法によっては、自動車の代わりにならないことがあります。

公共交通は、すべての住民を自宅前から目的地まで運ぶ仕組みではなく、生活拠点と居住地を結ぶ仕組みとして設計する必要があります。


住宅~空き家が多くても住める住宅が多いとは限らない

人口減少地域では空き家が増えます。

そのため、「空き家を安く提供すれば移住者が増える」と考えられがちです。

しかし、空き家には次のような問題があります。

  • 耐震性が不足している
  • 雨漏りや腐食がある
  • 断熱性能が低い
  • 水回りが古い
  • 家財が残されている
  • 相続登記が終わっていない
  • 所有者が貸したくない
  • 浄化槽や井戸の維持が必要
  • 海岸部で塩害がある
  • 土砂災害や津波の危険がある
  • 病院や買い物から遠い

空き家の数と、移住者や若年世帯がすぐに住める住宅の数は異なります。

必要なのは、空き家総数ではなく、次の分類です。

  • そのまま住める住宅
  • 小規模改修で住める住宅
  • 大規模改修が必要な住宅
  • 解体が必要な住宅
  • 所有関係が不明な住宅
  • 災害リスクの高い住宅
  • 交通・医療アクセスが悪い住宅

安い空き家を買っても、修繕、自動車、通院、維持管理を含めれば、総費用が高くなる可能性があります。


人口減少地域でもすべてを一律に縮小する必要はない

千葉県東部・南房総では、人口減少と高齢化が進んでいます。

しかし、人口が減るからといって、すべての地域から施設やサービスを撤退させればよいわけではありません。

必要なのは、どの機能をどこに維持するかを選ぶことです。

今後、優先すべき生活拠点の条件として、次が考えられます。

  • 病院または診療所がある
  • スーパーや日用品店がある
  • 鉄道駅または主要バス路線がある
  • 行政サービスへアクセスできる
  • 災害リスクが相対的に低い
  • 集合住宅や賃貸住宅がある
  • 高齢者が徒歩または短距離移動で生活できる
  • 周辺地区から交通を接続できる

すべての集落に同じ施設を置くのではなく、複数市町村で医療、買い物、交通、教育を分担する必要があります。


地域ごとに異なる課題

香取・東総地域

香取・東総地域では、農業、漁業、食品加工、医療など、地域外から所得を得られる産業があります。

一方で、銚子市や香取市では人口減少が大きく、若年層の流出と自然減が重なっています。

課題は、農水産物の生産額を、地域内の加工、物流、販売、雇用へつなげることです。

九十九里地域

九十九里地域には、茂原市、東金市などの地域拠点があり、東京方面への通勤圏となる地域もあります。

一宮町などでは移住やサーフィン関連事業の動きがありますが、長生郡の内陸部などでは高齢化と人口密度低下が進んでいます。

同じ九十九里ゾーンでも、沿岸部、駅周辺、内陸部では条件が異なります。

南房総・外房地域

南房総・外房地域では、高齢化率が非常に高い市町が複数あります。

一方、館山市、鴨川市などには、医療、商業、観光の拠点があります。

課題は、拠点機能を維持しながら、周辺地区から通院、買い物、行政サービスへ移動できる仕組みを作ることです。


数字だけでは判断できないこと

統計は重要ですが、数字だけで地域の暮らしやすさを決めることはできません。

たとえば、人口が増えている地区でも、住宅費が上昇し、交通渋滞や医療不足が起きている可能性があります。

人口が減っている地区でも、近隣住民の助け合い、宅配、訪問医療などによって生活が維持されている場合があります。

また、市町村単位の統計では、次の違いが見えにくくなります。

  • 駅前と山間部
  • 海岸部と内陸部
  • 新しい住宅地と古い集落
  • 一戸建てと集合住宅
  • 自動車を運転できる人とできない人
  • 家族が近くにいる人といない人

統計から確認できるのは地域の構造です。

個人が実際に暮らせるかどうかは、自宅の場所、健康状態、家族関係、所得、自動車利用などによって変わります。


現実的な地域課題の整理

千葉県東部・南房総について、現時点で公的統計から確認できる主な課題は、次のように整理できます。

第1の課題~自然減と社会減の同時進行

香取・東総、九十九里、南房総・外房では、出生数より死亡数が多いだけでなく、転出が転入を上回る地域があります。

第2の課題~高齢者ではなく現役世代の不足

高齢化率が高いこと以上に、医療、介護、交通、住宅修繕を担う現役世代が少ないことが問題になります。

第3の課題~人口の分散

人口密度が低く、住宅や集落が広範囲に分散しているため、サービス提供費用が高くなります。

第4の課題~医療と交通の分離

中核病院に医療を集約しても、住民が通院できなければ医療アクセスは改善しません。

第5の課題~産業と定住の分離

農業、観光、医療などの仕事があっても、所得、住宅、教育がそろわなければ若年世帯は定着しません。

第6の課題~空き家と住宅需要の不一致

空き家は多くても、安全で便利な賃貸住宅や、若年世帯向け住宅が不足している可能性があります。


これから重視すべき数字

今後の地域政策を評価する際には、総人口だけでなく、次の数字を継続して確認する必要があります。

  • 15歳から39歳までの人口
  • 20歳代女性の転出入
  • 子育て世帯数
  • 外国人世帯数
  • 75歳以上の単身世帯
  • 医療・介護従事者数
  • 公共交通の1便当たり利用者
  • 通院に必要な時間
  • 地域内で働く人の所得
  • 5年後の移住者定着率
  • 居住可能な空き家数
  • 観光消費の地域内残存額
  • 公共施設1施設当たり利用者数
  • 生活拠点までの距離

人口が増えたか減ったかだけでは、地域政策の成果は判断できません。


現実的な結論~人口増加より、生活を維持できる構造が必要

千葉県東部・南房総では、人口減少と高齢化がすでに進んでいます。

一部の市町村では、高齢者が人口の半数前後を占めています。人口密度も低く、医療、交通、買い物、住宅管理などのサービスを維持する負担は今後さらに重くなる可能性があります。

一方で、農業、漁業、食品加工、観光、医療、福祉など、地域外から需要や所得を得られる産業もあります。

問題は、地域資源が存在しないことではありません。

地域資源と、雇用、住宅、交通、医療、教育が十分につながっていないことです。

千葉県東部・南房総が目指すべきなのは、すべての市町村で人口を増加させることではありません。

より現実的な目標は、人口が減少しても、次の生活条件を維持することです。

  • 病院へ通える
  • 食料や日用品を購入できる
  • 自動車を使えなくても最低限移動できる
  • 住宅を管理または処分できる
  • 地域内で一定の仕事がある
  • 子育て世帯が生活できる
  • 災害時に避難できる
  • 必要に応じて生活拠点へ住み替えられる

人口減少を完全に止めることは難しくても、生活サービスの崩壊を防ぐことはできます。

そのためには、数字を使って地域を順位付けするのではなく、どの地区に、どの年代の人が、どの程度住み、どのサービスを必要としているのかを把握する必要があります。

千葉県東部・南房総の地域課題は、単なる「過疎」の問題ではありません。

人口、住宅、医療、交通、産業を一つの構造として考える問題です。

今後の地域政策では、観光客数、移住相談件数、補助金利用件数などの見栄えのよい数字だけではなく、住民が実際に生活を続けられるかどうかを測る数字が必要になります。


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はじめに~沖縄県を「人口増加の成功例」としてよいのか

日本の地方では、人口減少、高齢化、若年層の流出、空き家の増加、公共交通の縮小、医療機関へのアクセス悪化などが同時に進んでいます。

千葉県は東京都に隣接し、県全体では約600万人を超える人口を抱えています。しかし、人口が維持されている地域は主に東京に近い県西部であり、外房、東総、南房総では事情が大きく異なります。

こうしたなか、地方の人口問題を考える際に注目されるのが沖縄県です。

2025年の国勢調査速報では、2020年から2025年までの5年間に人口が増加した都道府県は東京都と沖縄県の2都県だけでした。東京都が約19万9,000人増加したのに対し、沖縄県の増加は約1,000人、増加率は0.1%でした。沖縄県は東京都以外で唯一増加した県ではありますが、増加幅は極めて小さく、人口増加が今後も続くと断定できる状況ではありません。([総務省統計局][1])

また、2024年10月1日現在の人口推計では、人口が前年より増加したのは東京都と埼玉県だけで、沖縄県を含む45道府県は減少しています。国勢調査間の5年間では微増していても、直近の1年間では人口が減ることがあるのです。([総務省統計局][2])

したがって、沖縄県を単純な「人口増加県」や「地方創生の成功県」として扱うのは正確ではありません。

本記事では、沖縄県の人口が全国の地方と比べて長く維持されてきた理由を、出生、年齢構成、人口移動、都市構造、観光、産業、所得、住宅などに分解します。そのうえで、沖縄県の条件のうち、外房、東総、南房総に応用できるものと、応用できないものを区別します。

目的は、沖縄県を礼賛することではありません。

また、外房に観光客を増やせば人口が増える、空き家を安く貸せば若者が移住する、といった現実味の乏しい地域振興論を提示することでもありません。

重要なのは、沖縄県の人口維持を支えてきた構造を分解し、千葉県東部で再現できる部分だけを抽出することです。


最初に結論~沖縄県をそのまま外房へ移植することはできない

沖縄県の人口が比較的維持されてきた背景には、次の要因が複合的に関係しています。

  • 全国で最も高い水準の出生率
  • 比較的若い年齢構成
  • 那覇市を中心とする中南部への人口・産業・行政機能の集中
  • 航空交通を基盤とした大規模な観光需要
  • 建設、医療、福祉、小売、公務などを含むサービス産業中心の経済
  • 島しょ県としての地理的・文化的な独立性
  • 国の財政支出、社会資本整備、基地関連の土地利用など、沖縄固有の制度的条件

このうち、出生率や年齢構成、島しょ性、基地関連制度、国際観光地としての認知度などは、外房、東総、南房総がそのまま再現できるものではありません。

一方で、次の考え方には応用の余地があります。

  • 地域内のすべての集落に同じ機能を配置せず、生活拠点を形成する
  • 地域外から所得を得る人や事業を増やす
  • 観光を一時的な来訪者数ではなく、地域内消費と年間雇用につなげる
  • 空き家を単に安く提供するのではなく、住める住宅として市場に戻す
  • 若い世帯が住める賃貸住宅、仕事、教育、医療を一体で整える
  • 地域資源を観光だけでなく、医療、福祉、食品、物流、教育などの生活産業へ接続する
  • 人口増加だけでなく、生活サービスを維持できる人口配置を目標にする

沖縄県から学べるのは、「海や観光を利用して人を集める方法」ではありません。

より重要なのは、人口、雇用、住宅、都市機能、交通、地域外所得を一つの構造として考えることです。


沖縄県の人口は本当に増えているのか

沖縄県の人口を評価するときには、どの期間を比較するかによって結論が変わります。

2025年国勢調査速報における沖縄県の人口は146万8,220人で、2020年の146万7,480人から740人増加しました。5年間の増加率は0.1%です。

一方、世帯数は61万4,708世帯から65万1,964世帯へ3万7,256世帯増加し、増加率は6.1%でした。1世帯当たり人員は2.39人から2.25人へ減少しています。([沖縄県公式ホームページ][3])

つまり、人口はほぼ横ばいである一方、世帯数は大きく増えています。

これは、人口増加というよりも、次のような変化が進んでいる可能性を示します。

  • 単身世帯の増加
  • 夫婦のみ世帯の増加
  • 親子の別居
  • 高齢者世帯の増加
  • 未婚化
  • 世帯規模の縮小

世帯数が増えれば、住宅、電気、水道、通信、移動、行政サービスなどの需要は増えます。人口が横ばいでも、地域の生活基盤にかかる費用が横ばいになるとは限りません。

沖縄県を評価する際には、「人口が増えている」という言葉だけでなく、人口増加の鈍化と世帯分離を同時に見る必要があります。


沖縄県もすでに自然減の時代に入っている

沖縄県の人口維持を説明する際、最もよく挙げられるのが出生率です。

2025年の合計特殊出生率は、全国平均が1.14だったのに対し、沖縄県は1.52で、都道府県の中で最も高い値でした。合計特殊出生率とは、15歳から49歳までの女性の年齢別出生率を合計したもので、現在の出生状況が続いた場合に、1人の女性が生涯に産む子どもの数に相当する指標です。

ただし、1.52であっても、人口を長期的に維持するための水準を下回っています。

さらに、全国の合計特殊出生率は2025年も低下しており、沖縄県も過去と比べれば出生率が下がっています。出生率が全国一高いということと、出生数が十分であるということは同じではありません。

人口を維持するには、出生率だけでなく、出産年齢の女性の人数も重要です。

若い女性の人口が減れば、1人当たりの出生率が比較的高くても、出生数全体は減少します。沖縄県が今後も出生率だけで人口を維持できるとは考えにくい状況です。

沖縄県の人口維持は、「子どもが多いから」という一つの説明では不十分です。


年齢構成の違いが人口減少速度を変える

沖縄県の人口が長く維持されてきた大きな要因は、全国平均より若い人口構成です。

高齢者が多い地域では、死亡数が出生数を大きく上回りやすくなります。一方、若年層や子育て世代が多い地域では、出生数が比較的多くなり、死亡数は相対的に少なくなります。

沖縄県は、出生率が高いだけでなく、これまで若年人口が比較的厚かったため、自然減への移行が他県より遅れました。

これに対し、外房、東総、南房総の一部では、すでに高齢者が人口の半数近くを占めています。

千葉県の2025年度年齢別人口統計では、老年人口割合が最も高いのは御宿町の52.8%で、鋸南町が50.4%、南房総市が48.0%、長南町と勝浦市がともに47.3%でした。

反対に、生産年齢人口の割合は、御宿町が41.8%、鋸南町が43.8%、南房総市が44.9%、長南町が46.0%、勝浦市が46.8%と県内でも低い水準です。年少人口割合も御宿町5.4%、鋸南町5.8%、勝浦市5.9%、銚子市6.4%となっています。([千葉県公式サイト][4])

これは、沖縄県と外房・南房総の人口問題が、すでに異なる段階にあることを示します。

沖縄県は、若い人口構成を背景に人口減少への移行を遅らせてきました。

一方、外房や南房総の一部では、高齢者人口が多く、子どもと現役世代が少ないため、短期間に出生率を高めても人口構造を変えるのは困難です。

したがって、外房で「出生率を沖縄並みに上げれば人口を維持できる」と考えるのは現実的ではありません。

人口構成は数年では変わらず、数十年単位で形成されるからです。


沖縄県内でも人口は均等に増えていない

沖縄県全体が一様に成長しているわけではありません。

2025年12月1日現在の推計人口では、沖縄県人口の43.9%が中部、40.0%が南部に集中していました。北部は8.8%、宮古は3.7%、八重山は3.6%です。

前年同月比では、北部と中部がわずかに増加した一方、南部、宮古、八重山は減少しています。市町村別にも人口増加地域と人口減少地域が混在しています。([沖縄県公式ホームページ][5])

この事実は重要です。

沖縄県の人口維持は、県内のすべての地域が均等に成長した結果ではありません。

那覇市、浦添市、宜野湾市、沖縄市、うるま市、豊見城市、南城市、西原町など、中南部の都市圏に人口、仕事、学校、病院、商業施設、行政機能が集まっています。

島しょ県ではありますが、実際には県人口の大部分が比較的狭い中南部に集中しています。

この集中によって、次の条件が成立しやすくなります。

  • 商業施設が一定の商圏人口を確保できる
  • 病院や診療所が患者数を確保できる
  • 学校や保育施設を維持しやすい
  • バスやタクシーの需要が生まれる
  • 企業が労働者を確保しやすい
  • 住宅開発が成立しやすい
  • 行政サービスの効率を高めやすい

沖縄県から外房が学ぶべき点は、地域全体に人口を均等配置することではありません。

むしろ、一定の生活機能を持つ拠点に人口とサービスを集め、その周辺を交通でつなぐことです。


外房・東総・南房総では人口が分散している

外房、東総、南房総の大きな問題は、人口減少そのものだけではありません。

人口が広い地域に分散しているため、生活サービスを維持する効率が低下しています。

たとえば、人口が同じ3万人の自治体でも、駅周辺や中心市街地に人口が集まっている場合と、海岸部、丘陵部、山間部、農村集落に分散している場合では、必要な道路、交通、上下水道、医療、買い物支援の費用が異なります。

外房線、内房線、総武本線、成田線などの鉄道があっても、駅から離れた住宅地では自動車がなければ生活しにくい地域が少なくありません。

沖縄県も自動車依存度が高い地域ですが、中南部には人口と施設が集中しています。

一方、外房や南房総では、人口密度が低い地域に住宅や集落が点在しています。

この違いを無視して、沖縄県の都市機能や観光モデルをそのまま導入することはできません。


沖縄県の人口を観光だけで説明してはいけない

沖縄県と聞いて、多くの人が最初に思い浮かべるのは観光です。

2024年度の沖縄県への入域観光客数は995万2,700人で、前年度より142万100人、率にして16.6%増加しました。過去最高だった2018年度の99.5%まで回復し、年度としては過去2番目の水準でした。

人口約147万人の県に、年間約1,000万人の観光客が訪れるのですから、観光が沖縄経済に大きな影響を与えていることは間違いありません。

しかし、観光客が多いことと、人口が増えることは同じではありません。

観光によって増えるのは、主に次の需要です。

  • 宿泊
  • 飲食
  • 小売
  • レンタカー
  • バス、タクシー
  • 航空
  • 観光施設
  • 清掃
  • 建物管理
  • 食品供給
  • 土産品
  • 建設、改修

これらが年間を通じた安定雇用を生み、賃金が住宅費や生活費を上回り、家族で暮らせる環境が整えば、人口維持に貢献します。

反対に、観光需要が季節変動に左右され、低賃金や非正規雇用が多く、住宅費が上昇し、利益が域外企業に流出すれば、観光客が増えても住民生活は安定しません。

沖縄県の2023年度の県内総生産では、不動産業が12.7%、保健衛生・社会事業が12.0%、専門・科学技術・業務支援サービス業が10.2%、公務が9.9%、卸売・小売業が9.3%、建設業が8.2%を占めました。宿泊・飲食サービス業は4.8%です。

観光は重要ですが、沖縄経済全体が宿泊・飲食業だけで成り立っているわけではありません。

人口を支えているのは、観光に加え、医療、福祉、小売、建設、不動産、公務、教育、運輸などを含む広いサービス産業です。

したがって、外房で観光振興を考える場合も、観光施設や宿泊施設だけを増やすのでは不十分です。

観光客の支出を、地域内の食品、交通、修繕、清掃、医療、介護、物流、商店、農漁業へ波及させなければなりません。


大量の観光客がいても所得問題は残る

沖縄県の2023年度の1人当たり県民所得は231万5,000円でした。

ただし、1人当たり県民所得は、個人の給与や手取り収入を直接示す数字ではありません。県民雇用者報酬、財産所得、企業所得を合計し、人口で割った統計指標です。

それでも、観光客が年間約1,000万人訪れることだけで、住民全体の所得問題が解決するわけではないことは明らかです。

観光地では、観光需要の増加によって、ホテル、民泊、別荘、投資用不動産などの需要が高まり、住宅価格や家賃が上昇することがあります。

一方で、観光業の賃金が十分に上昇しなければ、地域住民や若年労働者が住居を確保しにくくなります。

この問題は外房や南房総でも起こり得ます。

海沿いの住宅が二地域居住、別荘、民泊、投資物件として購入される一方、地域で働く人が入居できる賃貸住宅が不足すれば、住宅価格が上がっても定住人口は増えません。

不動産取引が活発になることと、地域の生活基盤が強くなることは別問題です。


沖縄県の強みは地域外から需要を取り込めること

沖縄県の経済構造で外房が参考にできる点の一つは、地域外から大規模な需要を取り込んでいることです。

人口が減少する地域では、地域住民だけを顧客とする商売は縮小しやすくなります。

地域内人口が毎年減れば、スーパー、飲食店、修繕業、交通、医療、教育などの需要も次第に減ります。

そのため、地域経済を維持するには、次のいずれかが必要です。

  1. 地域外から人を呼ぶ
  2. 地域外へ商品やサービスを売る
  3. 地域外の会社や顧客から所得を得る住民を増やす
  4. 年金、医療、教育、公務など、人口減少下でも一定需要がある産業を維持する

沖縄県では、観光、航空、物流、建設、公務などを通じて、県外から所得や需要が入っています。

外房、東総、南房総でも同じ原理は使えます。

ただし、年間約1,000万人を呼ぶ沖縄県と同じ規模を目指す必要はありません。

むしろ、地域ごとに次のような現実的な外貨獲得手段を組み合わせるべきです。

  • 農水産物の域外販売
  • 食品加工
  • 医療・介護サービス
  • スポーツ合宿
  • 長期滞在
  • 企業研修
  • 二地域居住
  • テレワーク
  • 研究・教育施設
  • 小規模な専門サービス
  • 地域資源を使った体験型事業
  • 首都圏向けの物流、保管、加工

ここでいう外貨とは外国通貨ではなく、地域外から地域内に入る所得を意味します。


沖縄県と外房では「距離の意味」が違う

沖縄県は本州から離れていますが、那覇空港を中心に国内主要都市と航空路線で結ばれています。

東京から沖縄までは遠距離ですが、飛行機を使えば目的地として明確です。

一方、外房や南房総は東京都に近いように見えますが、鉄道の本数、乗換え、駅までの移動、道路混雑などを含めると、日常的な通勤や通院には負担があります。

沖縄県への旅行では、航空券を購入し、数日間滞在することが前提になります。

外房への旅行では、日帰りや1泊が多くなりやすく、消費額が小さくなる可能性があります。

東京に近いことは集客上の利点ですが、滞在時間を短くし、地域内消費を小さくすることもあります。

したがって、外房が沖縄型観光を模倣する場合、来訪者数だけを追うべきではありません。

重視すべきなのは次の指標です。

  • 1人当たり滞在時間
  • 宿泊率
  • 1人当たり消費額
  • 地元事業者への支出割合
  • 再訪率
  • 平日利用率
  • 季節変動
  • 公共交通利用率
  • 地域雇用への波及
  • 税収への波及

日帰り客が大量に来ても、道路渋滞、駐車場不足、ごみ処理費だけが増え、地域内消費が少なければ、地域振興としては効率が悪い可能性があります。


外房に応用できる条件1~生活拠点を明確にする

沖縄県から最も現実的に学べるのは、観光ではなく都市機能の集積です。

外房、東総、南房総では、すべての地区に病院、スーパー、行政窓口、学校、公共交通を同じ水準で維持することは困難です。

人口が減少するなかで機能を分散し続ければ、1施設当たりの利用者が減り、採算性が悪化します。

必要なのは、地域ごとに生活拠点を明確にすることです。

たとえば、次のような構造です。

外房

  • 茂原市を医療、商業、行政、雇用の広域拠点とする
  • 大原、勝浦、御宿、一宮などを地域生活拠点とする
  • 周辺集落から拠点への交通を整える

東総

  • 銚子市、旭市、匝瑳市、香取市などの既存都市機能を役割分担させる
  • 医療、農業、食品加工、物流を地域内で結ぶ
  • 成田空港方面との接続を産業面で活用する

南房総

  • 館山市、鴨川市を医療・商業・観光の主要拠点とする
  • 南房総市や鋸南町の集落を交通で接続する
  • 観光施設と住民向け生活施設を分離しすぎない

これは、すべての自治体を一つに統合するという意味ではありません。

行政区域を越えて、住民が実際に利用する医療圏、商圏、通勤圏に合わせて機能を配置するという考え方です。


外房に応用できる条件2~空き家を「住宅供給」に変える

地方では空き家が多いため、安い住宅を提供すれば移住者が増えると考えられがちです。

しかし、空き家の多さと、居住可能な住宅の多さは同じではありません。

空き家には次のような問題があります。

  • 耐震性が不足している
  • 雨漏りや腐食がある
  • 水回りが古い
  • 断熱性能が低い
  • 下水道がなく浄化槽である
  • 相続登記が終わっていない
  • 所有者が売却や賃貸を希望していない
  • 家財が残っている
  • 海沿いでは塩害がある
  • 山間部では土砂災害リスクがある
  • 駅、病院、スーパーから遠い

若年世帯が必要としているのは、100万円の老朽住宅ではありません。

仕事、保育、学校、病院、買い物にアクセスでき、すぐに住める賃貸住宅です。

外房で沖縄県の人口集積から学ぶなら、空き家を全域で均等に活用するのではなく、生活拠点周辺の住宅を優先して市場に戻すべきです。

具体的には、次の条件を満たす住宅を優先します。

  • 駅または主要バス路線に近い
  • 病院や診療所へ移動しやすい
  • スーパーへアクセスできる
  • ハザードリスクが相対的に低い
  • 改修費が過大でない
  • 賃貸可能な所有関係である
  • 高齢になっても住み続けられる
  • 売却や住み替えが可能である

空き家活用の目的は、空き家の数を減らすことではありません。

生活を継続できる住宅を増やすことです。


外房に応用できる条件3~観光を生活産業へ接続する

外房、東総、南房総には、海、温暖な気候、農水産物、温泉、歴史、鉄道、漁港などの資源があります。

しかし、資源があることと、経済的価値を生み出せることは同じではありません。

観光を人口維持につなげるには、観光客の支出を地域住民の仕事へ接続する必要があります。

たとえば、宿泊客が増えた場合、次の仕事が地域内に生まれるかを確認します。

  • 地元農産物・水産物の供給
  • 食品加工
  • 清掃
  • リネン
  • 建物修繕
  • 造園
  • 送迎
  • 予約管理
  • 翻訳
  • 高齢者・障害者向け旅行支援
  • 医療対応
  • 廃棄物処理
  • IT(Information Technology・情報技術)支援
  • 地域案内
  • 体験プログラム

宿泊施設だけが域外企業によって運営され、食材、備品、予約、清掃まで域外企業が担えば、地域への波及は限定されます。

一方、地域事業者が供給網に参加できれば、観光は農業、漁業、食品、物流、修繕、サービス業を支える需要になります。

観光客数を目標にするのではなく、観光消費の地域内残存率を高めることが重要です。


外房に応用できる条件4~地域外所得を持つ住民を増やす

人口減少地域では、地域内で新しい雇用を大量に生み出すことは容易ではありません。

そこで現実的なのが、地域外から所得を得る住民を増やす方法です。

対象となるのは、次のような人です。

  • 在宅勤務者
  • 個人事業者
  • 専門職
  • 企業経営者
  • 研究者
  • クリエーター
  • 二地域居住者
  • 年金生活者
  • 都市部の企業から受託する小規模事業者

ただし、テレワーク移住を募集するだけでは定着しません。

必要なのは、次の条件です。

  • 安定した通信環境
  • 仕事部屋を確保できる住宅
  • 病院や買い物へのアクセス
  • 子どもの教育
  • 災害時の通信・電力対策
  • 都市部への移動手段
  • 地域住民との適度な関係
  • 高齢になった後の住み替え可能性

外房は東京との距離が比較的近いため、完全移住よりも二地域居住や週数日の滞在に適している可能性があります。

しかし、二地域居住者が住民票を移さず、地元消費も少なければ、人口や財政への効果は限定的です。

二地域居住は目的ではなく、将来の定住、事業、地域消費へつながる入口として評価すべきです。


外房に応用できる条件5~医療・福祉を経済基盤として捉える

沖縄県の県内総生産では、保健衛生・社会事業の構成比が12.0%を占めています。

医療や福祉は、単なる支出ではありません。

人口が高齢化する地域では、医療、介護、リハビリテーション、訪問看護、配食、移送、住宅改修などは、地域内需要が見込める生活産業です。

外房、東総、南房総では高齢化が進んでいるため、この分野を人口減少の負担としてのみ捉えるのではなく、雇用と生活基盤の両面から考える必要があります。

ただし、医療・介護需要が多くても、人材を確保できなければサービスは維持できません。

必要なのは、単に施設を増やすことではなく、次の仕組みです。

  • 医療・介護職が住める住宅
  • 保育環境
  • 通勤手段
  • 複数事業所間の人材共有
  • オンライン診療の補完的利用
  • 訪問サービスの効率化
  • 送迎の共同化
  • 医療機関周辺への高齢者住宅の誘導

高齢者が分散して住み続けたまま、訪問・送迎サービスだけを拡大すると、移動費と人件費が増えます。

医療拠点周辺への住み替えも含めて考える必要があります。


外房に応用できる条件6~若者ではなく「世帯」を呼ぶ

地方移住政策では、「若者を呼ぶ」という表現がよく使われます。

しかし、若者が一時的に移住しても、安定した仕事、住宅、結婚、子育ての条件がなければ定着しません。

人口維持に必要なのは、個人の転入数よりも、地域で生活を形成できる世帯です。

具体的には、次のような条件を持つ世帯が現実的な対象になります。

  • 地域外所得を持つ子育て世帯
  • 医療、福祉、教育、建設など地域需要のある職種
  • 小規模事業を引き継ぐ世帯
  • 農業や漁業と別の所得を組み合わせる世帯
  • 親族の近くへ戻る世帯
  • 地域内企業への転職と住宅取得を同時に行う世帯

移住補助金だけでは、定着の判断はできません。

住宅費が安くても、自動車2台、通勤、教育、医療、住宅修繕の費用が増えれば、世帯全体の支出は都市部より高くなることがあります。

移住政策では、転入者数だけでなく、5年後の定着率、就業継続率、子どもの就学、住宅状態まで確認する必要があります。


東総地域には沖縄型観光より産業連携が向いている

東総地域では、沖縄県の観光モデルを直接導入するより、農業、漁業、食品加工、物流、医療を結び付ける方が現実的です。

銚子市、旭市、匝瑳市、香取市周辺には、農水産物の生産基盤があります。

課題は、原料を出荷するだけでは地域内に残る付加価値が限られることです。

東総地域で検討すべきなのは、次のような構造です。

  • 農水産物の加工
  • 冷凍・冷蔵物流
  • 規格外品の加工利用
  • 高齢者向け食品
  • 医療・介護施設向け給食
  • 首都圏向け定期配送
  • 学校給食との連携
  • 災害備蓄食品
  • 小規模事業者の共同受注
  • 外国人労働者の居住支援

沖縄県から学ぶべきなのは観光地化ではなく、地域外需要を地域内産業へ接続する考え方です。

東総地域では、農漁業と食品産業を中心にした方が、地域資源と既存産業に合っています。


南房総では観光と住民生活の競合に注意が必要

南房総地域では、観光、別荘、二地域居住に一定の可能性があります。

しかし、観光需要が強くなれば、住宅、道路、医療、買い物環境で住民との競合が生じます。

たとえば、次の問題です。

  • 住宅が民泊や別荘に転用される
  • 家賃や住宅価格が上がる
  • 観光客向け店舗が増え、日用品店が減る
  • 休日に道路が混雑する
  • 救急医療の負担が増える
  • ごみ処理費が増える
  • 季節によって水道や交通需要が変動する
  • 観光業の雇用が季節化する

沖縄県でも観光客の増加は、経済効果だけでなく、住宅、交通、環境、雇用の問題を伴います。

南房総では、観光客数の最大化よりも、住民生活と両立できる規模を設定する必要があります。


外房で現実性が低い案

沖縄県との比較から考えると、次の案は現実性が低いか、条件を大幅に限定する必要があります。

「沖縄のようなリゾート地にする」

沖縄県には、独自の気候、文化、歴史、国際的認知、航空路線があります。

外房にも海はありますが、同じ観光商品にはなりません。

模倣ではなく、首都圏からの近さ、短期滞在、医療、食、鉄道、自然など、外房固有の条件で構成する必要があります。

「空き家を無料にすれば移住者が増える」

住宅取得費が低くても、改修、自動車、通院、仕事、子育てに費用がかかれば定住しません。

無料住宅は、人口問題の解決策ではありません。

「若者を呼べば地域が活性化する」

若者が働ける仕事と住宅がなければ流出します。

移住者の年齢だけで成果を評価してはいけません。

「テレワークで誰でも地方に住める」

完全在宅勤務ができる職種は限られます。

勤務制度が変われば都市部へ戻る可能性もあります。

「観光客が増えれば商店街が復活する」

観光客の動線、消費先、滞在時間が商店街と一致しなければ効果はありません。

「すべての集落をそのまま維持する」

人口減少下では、道路、上下水道、交通、医療、行政サービスの維持費が増えます。

居住を禁止する必要はありませんが、公的機能の配置は集約を避けられません。


5年から10年で実行可能な現実策

外房、東総、南房総に必要なのは、人口を短期間で増やす大型構想ではありません。

5年から10年で効果を確認できる、小規模な実験を積み重ねることです。

1.生活拠点周辺の空き家調査

空き家数ではなく、次の条件を調べます。

  • 所有者の意向
  • 改修費
  • 耐震性
  • 災害リスク
  • 医療・買い物への距離
  • 賃貸可能性
  • 高齢期の居住可能性

2.地域外所得を得る世帯の定着調査

移住者数だけでなく、職種、所得源、地域内消費、定着年数を確認します。

3.観光消費の地域内循環調査

宿泊費、飲食費、交通費、買い物が、どの地域・事業者へ流れているかを調べます。

4.医療・買い物拠点への移動実験

デマンド交通や送迎を導入する前に、実際の利用回数、距離、乗合率、1人当たり運行費を測ります。

5.地域産品の共同加工・共同配送

小規模事業者が単独で設備を持つのではなく、加工、冷蔵、物流を共同化します。

6.高齢者住宅と医療拠点の接続

郊外の一戸建てから、病院、スーパー、交通に近い住宅へ住み替えられる選択肢を作ります。

7.成果指標を人口だけにしない

次の指標を併用します。

  • 生産年齢人口
  • 子育て世帯
  • 就業者数
  • 事業所数
  • 地域内消費額
  • 空き家再利用数
  • 医療アクセス時間
  • 自動車を使えない住民の移動可能性
  • 5年後の移住者定着率
  • 公共サービス1人当たり費用

人口増加を最終目標にしてはいけない

外房、東総、南房総では、人口を再び大幅な増加に転じさせることは容易ではありません。

年齢構成を考えれば、出生数が急増しても、死亡数を短期間で下回る可能性は低い地域があります。

人口増加を唯一の成功基準にすると、現実性の低い移住政策、観光開発、住宅開発へ向かいやすくなります。

より現実的な目標は、人口が減少しても、次の条件を維持することです。

  • 病院へ通える
  • 食料を購入できる
  • 自動車を使えなくても最低限移動できる
  • 住宅を管理・処分できる
  • 地域内で一定の仕事がある
  • 子育て世帯が孤立しない
  • 災害時に避難できる
  • 行政サービスを維持できる
  • 地域外から所得が入る
  • 必要な場合に住み替えられる

人口減少を止められなくても、生活の崩壊を遅らせ、住民が選択できる状態を保つことは可能です。


現実的な結論~沖縄県から学ぶべきものは観光ではなく地域構造である

沖縄県は、2020年から2025年までの国勢調査比較では、東京都以外で唯一人口が増加した県です。

しかし、その増加は740人、0.1%にとどまり、直近の人口推計では減少する時期もあります。沖縄県もすでに、人口増加から横ばい、そして減少へ移行する境界にあります。([沖縄県公式ホームページ][3])

沖縄県の人口がこれまで維持されてきた背景には、高い出生率、若い年齢構成、中南部への都市機能の集中、観光、サービス産業、国の制度などが複合的に関係しています。

このうち、出生率、島しょ性、国際観光地としての知名度、基地関連制度などを、外房、東総、南房総が再現することはできません。

一方で、次の考え方は応用できます。

  • 人口と生活機能を一定の拠点へ集める
  • 地域外から所得を得る仕組みを増やす
  • 観光消費を地域内産業へ循環させる
  • 空き家を生活可能な住宅へ転換する
  • 医療・福祉を生活基盤と地域産業の両面で考える
  • 若者の転入数ではなく、世帯の定着条件を整える
  • 地域全体を一律に振興せず、役割分担を進める

沖縄県を外房へ応用するとは、沖縄風の観光施設を造ることではありません。

また、海、温暖な気候、移住、テレワークといった言葉を並べることでもありません。

必要なのは、沖縄県の人口維持を支えてきた仕組みを分解し、外房、東総、南房総の人口構成、産業、交通、住宅、医療に適合するものだけを、小規模に試すことです。

人口を増やす夢を語るよりも、人口が減っても住民が生活できる地域構造を作る方が、はるかに現実的です。

そのうえで、仕事、住宅、医療、教育、交通が結び付いた地域には、結果として人が残り、一部の新しい世帯が入ってくる可能性があります。

沖縄県から学ぶべき本質は、人口増加そのものではありません。

地域外から需要と所得を取り込み、それを都市機能、住宅、雇用、生活サービスへつなげる構造にあります。

地域の課題を、自分の判断に置き換えて考える

有限会社アードレでは、住まい・車・移住などの大きな選択を、 費用や将来条件をもとに数字で比較し、判断できる形に整理しています。

数字で比較するサービスを見る

地方では、自動車を所有しているだけで毎年まとまった費用がかかります。

車両の購入費、自動車税、保険、車検、整備、燃料、タイヤ、バッテリーなどを合計すれば、軽自動車でも10年間に数百万円を支払う可能性があります。

そのため、免許返納を考える時期になると、次のような疑問が生じます。

自動車を維持し続けるより、必要なときだけバスやタクシーを使う方が安いのではないか。

この考え方は、一定の条件では正しいといえます。

年間走行距離が短く、通院や買い物の回数が少なく、自宅から病院やスーパーまで近い人なら、自動車を手放してタクシーを使う方が、金銭的には安くなる可能性があります。

しかし、地方では、通院だけでなく、買い物、金融機関、行政手続き、家族との往来、駅までの移動などにも自動車を使います。

自動車を手放した後の費用を、通院用のタクシー代だけで計算すると、返納後の交通費を過小評価します。

また、家族に送迎してもらう場合も、燃料代、車両費、待ち時間、仕事を休む負担まで考えれば、完全に無料とはいえません。

本記事では、地方で軽自動車または小型乗用車を10年間維持するケースと、免許返納後にバス、タクシー、家族送迎、宅配などを組み合わせるケースを比較します。

ただし、車両価格、任意保険料、燃料価格、タクシー運賃、自治体の助成制度は、地域、年齢、車種、契約条件によって大きく異なります。

そのため、本記事では単一の金額を「正解」とせず、低費用・標準・高費用の3ケースで考えます。


最初に結論~利用回数が少なければ返納後が安く、移動回数が多ければ自動車が安くなる

自動車を維持する費用と、免許返納後の交通費のどちらが安いかは、主に次の4条件で決まります。

  1. 1か月に何回外出するか
  2. 1回の往復距離がどの程度か
  3. バスやデマンド交通を利用できるか
  4. 車両購入費を含めて比較するか

年間の移動回数が少なく、1回の移動距離も短ければ、タクシー中心でも自動車保有費を下回る可能性があります。

反対に、次のような世帯では、自動車を手放した後の交通費が予想以上に増えることがあります。

  • 夫婦それぞれが通院する
  • 買い物へ週2回以上行く
  • 病院やスーパーまで10キロメートル以上ある
  • 市町村外の専門病院へ通う
  • バス停まで歩けない
  • タクシーを往復利用する
  • 家族が遠方から送迎する
  • 宅配、買い物代行、配食を頻繁に使う

標準的なモデルでは、軽自動車1台の10年間費用をおおむね280万~420万円、小型乗用車を350万~520万円程度と想定できます。

一方、免許返納後の交通費は、外出が少ない世帯なら10年間で100万~250万円程度に収まる可能性がありますが、タクシー利用が多い世帯では400万~700万円を超える場合があります。

したがって、結論は次のようになります。

自動車を保有しているだけで高いとは限らず、タクシーを使えば必ず安いとも限らない。月間の外出回数と1回当たりの往復費用を計算して初めて、どちらが有利か判断できる。


1.自動車維持費は燃料代だけではない

自動車を維持する費用というと、ガソリン代や車検代を思い浮かべる人が多いかもしれません。

しかし、実際には次の費用がかかります。

車両に関する費用

  • 車両購入費
  • 購入時の諸費用
  • ローン金利
  • 将来の買い替え費用
  • 売却時の残存価格

税金・法定費用

  • 自動車税
  • 軽自動車税
  • 自動車重量税
  • 自賠責保険
  • 車検時の検査手数料

保険

  • 対人賠償
  • 対物賠償
  • 人身傷害
  • 車両保険
  • 弁護士費用特約など

自賠責保険は法律上加入が義務付けられている強制保険ですが、補償は主として事故の相手方の人身損害に限られます。自分のけがや車両損害、相手方の物的損害などを補うには、一般に任意保険を別途検討する必要があります。

維持・整備費

  • 定期点検
  • 車検整備
  • エンジンオイル
  • タイヤ
  • バッテリー
  • ワイパー
  • ブレーキ部品
  • 電球・電子部品
  • 故障修理
  • 洗車・防錆対策

使用に伴う費用

  • ガソリンまたは軽油
  • 駐車場
  • 有料道路
  • 高速道路
  • 出先の駐車料金

この中で、走行距離を減らしても大きく減らないのが、車両価格、税金、保険、車検などの固定費です。

年間1万キロメートル走る人も、年間2,000キロメートルしか走らない人も、自動車を所有する限り、一定の固定費を負担します。


2.自動車税は排気量や登録時期によって異なる

自家用乗用車の自動車税は、主に総排気量によって決まります。

令和元年10月1日以降に初回新規登録された自家用乗用車では、年額は次のようになっています。

総排気量 年額
1リットル以下 2万5,000円
1リットル超~1.5リットル以下 3万500円
1.5リットル超~2リットル以下 3万6,000円
2リットル超~2.5リットル以下 4万3,500円

初回登録時期が古い車では異なる税率が適用されることがあります。また、一定年数を経過した環境負荷の大きい車には、重課が行われる場合があります。

軽自動車では、普通乗用車とは異なる軽自動車税が課されます。

税額は車種、用途、初度検査年月、重課・軽課の適用によって変わるため、この記事の試算では、軽自動車の税負担を年間約1万~1万3,000円、小型乗用車を年間約2万5,000~3万6,000円の範囲で設定します。

ここで重要なのは、年間1万円程度の税金だけを見て、軽自動車の維持費が安いと判断しないことです。

車両購入費、任意保険、車検整備、燃料、故障修理を含めると、税金は総費用の一部にすぎません。


3.車検代と整備費を一つにまとめてはいけない

車検は、自動車が保安基準に適合しているかを確認し、車検証の有効期間を更新するための制度です。

令和7年4月1日以降は、車検証の有効期間満了日の2か月前から満了日までの間に受検しても、従来の有効期間を失わずに更新できるようになっています。

車検時に支払う費用には、性格の異なるものが含まれます。

法定費用

  • 自動車重量税
  • 自賠責保険
  • 検査手数料

車検基本料金

  • 点検料金
  • 検査代行料
  • 書類作成費など

整備費

  • ブレーキ部品交換
  • オイル交換
  • タイヤ交換
  • バッテリー交換
  • その他の修理

自動車重量税は、車両重量、経過年数、環境性能によって変わります。

令和8年度にも、環境性能に優れた一定の自動車を対象として、自動車重量税の免除または軽減措置があります。

一方、年式の古い車は、重量税や自動車税の負担が増えることがあります。

そのため、「車検は毎回10万円」と一律に置くのではなく、法定費用と整備費を分けて考える方が正確です。

本記事では、10年間の車検・点検・整備費を次の範囲で設定します。

車両 10年間の想定
軽自動車 45万~80万円
小型乗用車 55万~100万円

この中には、大規模な事故修理やエンジン、変速機、駆動用バッテリーなどの高額故障は含めません。


4.燃料費は走行距離と実燃費で決まる

燃料費は、次の式で計算できます。

年間燃料費=年間走行距離÷実燃費×燃料単価

例えば、年間5,000キロメートル走り、実燃費が1リットル当たり18キロメートル、ガソリン価格を1リットル当たり170円と仮定します。

5,000÷18×170=約4万7,000円

10年間では約47万円です。

年間1万キロメートルなら、単純計算で約94万円になります。

資源エネルギー庁は、石油製品の小売価格を定期的に調査・公表していますが、ガソリン価格は原油価格、為替、補助制度、地域、給油所によって変動します。

したがって、10年間の試算で現在の価格が続くと断定するのは適切ではありません。

本記事では比較用に、ガソリン価格を1リットル当たり160~200円、実燃費を1リットル当たり15~22キロメートルの範囲で考えます。


5.軽自動車を10年間維持する費用

標準ケースの前提

  • 地方在住の1世帯
  • 軽自動車1台
  • 10年間保有
  • 年間走行距離5,000キロメートル
  • 駐車場代なし
  • 実燃費18キロメートル
  • ガソリン価格170円
  • 大規模事故なし
  • 10年間に車両を1回取得
  • 売却価格を差し引いた実質車両費120万円

標準ケース

費用項目 10年間
車両購入・諸費用から売却額を控除 120万円
軽自動車税 11万円
自賠責・重量税・検査手数料 18万円
任意保険 45万円
車検・点検・修理 55万円
タイヤ・バッテリー・消耗品 30万円
燃料費 47万円
合計 326万円

年間平均では約32万6,000円です。

月平均では約2万7,000円になります。

ただし、これは駐車場代がなく、年間走行距離が比較的短く、大規模故障もないケースです。

3つのケース

ケース 10年間
低費用 250万~280万円
標準 300万~360万円
高費用 400万~500万円

高費用ケースには、車両価格の上昇、任意保険料の増加、タイヤ交換、高額修理、年間走行距離の増加などを含みます。


6.小型乗用車を10年間維持する費用

標準ケースの前提

  • 排気量1~1.5リットル
  • 10年間保有
  • 年間走行距離7,000キロメートル
  • 駐車場代なし
  • 実燃費17キロメートル
  • ガソリン価格170円
  • 売却価格を差し引いた実質車両費180万円

標準ケース

費用項目 10年間
車両購入・諸費用から売却額を控除 180万円
自動車税 30万5,000円
自賠責・重量税・検査手数料 25万円
任意保険 55万円
車検・点検・修理 70万円
タイヤ・バッテリー・消耗品 40万円
燃料費 70万円
合計 約471万円

年間平均では約47万円です。

月平均では約3万9,000円になります。

3つのケース

ケース 10年間
低費用 330万~380万円
標準 420万~480万円
高費用 520万~650万円

車両価格、走行距離、保険内容、故障状況によって、結果は大きく変わります。


7.すでに所有している車を使い続ける場合は計算が変わる

自動車保有と免許返納を比較するとき、最も間違いやすいのが車両購入費の扱いです。

すでに購入代金を支払い終えた車を所有している人は、

車両代はもう払っているから、今後の維持費には含めなくてよい

と考えるかもしれません。

確かに、過去に支払った購入代金は、返納するかどうかにかかわらず戻らない費用です。

これはサンクコスト、すなわち既に支出して回収できない費用です。

今後10年間の判断では、過去の購入代金をそのまま加える必要はありません。

しかし、次の費用は考える必要があります。

  • 現在売却すれば得られる金額
  • 今後の故障修理費
  • 次回買い替え費用
  • 車齢上昇による税・整備負担
  • 返納時点の処分費用

例えば、現在100万円で売却できる車を保有し続け、10年後の売却額がほぼゼロになるなら、100万円分の価値を使用したことになります。

したがって、すでに車を所有している場合も、現在の売却可能額を機会費用として考える方が合理的です。


8.免許返納後に必要となる交通費

免許返納後の費用には、次のものがあります。

公共交通

  • 鉄道運賃
  • 路線バス運賃
  • コミュニティバス運賃
  • デマンド交通運賃
  • 駅までの移動費

タクシー

  • 距離制運賃
  • 時間距離併用運賃
  • 迎車料金
  • 予約料金
  • 深夜早朝割増
  • 待機料金

千葉県では、令和8年3月16日にタクシー運賃が改定され、それまで分かれていた地区の運賃体系が一本化されました。今後も運賃改定があり得るため、10年間の試算では現在の初乗り運賃だけを固定して計算するのではなく、実際の利用区間について事業者へ概算料金を確認する方が安全です。

家族送迎

  • 家族の燃料費
  • 車両の消耗
  • 駐車料金
  • 有料道路料金
  • 付き添い時間
  • 休業・有給休暇の使用

自宅で代替する費用

  • 食品宅配
  • ネットスーパー
  • 配食サービス
  • 買い物代行
  • 訪問診療
  • 訪問理美容
  • 行政手続きの郵送費
  • 宅配の追加料金

返納後の費用を正確に見るには、タクシー代だけでなく、これらを合計する必要があります。


9.免許返納後の交通費を3つのケースで試算する

以下は全国一律の料金ではなく、比較用のモデルです。

自治体の助成、公共交通の運賃、タクシー料金、家族構成によって実際の金額は変わります。


ケースA~外出が少なく、公共交通を利用できる

前提

  • 通院 月1回
  • 買い物 月2回
  • その他の外出 月1回
  • 1か月4往復
  • バス・デマンド交通を中心に利用
  • 一部だけタクシー
  • 食品宅配を併用
費用項目 年間 10年間
バス・デマンド交通 2万4,000円 24万円
タクシー 6万円 60万円
食品宅配・配達追加費 3万6,000円 36万円
家族送迎の実費 2万円 20万円
合計 14万円 140万円

このケースでは、軽自動車を保有するより、免許返納後の方が100万~200万円程度安くなる可能性があります。


ケースB~通院と買い物にタクシーを定期利用する

前提

  • 本人の通院 月2回
  • 配偶者の通院 月1回
  • 買い物 月4回
  • その他の外出 月1回
  • 月8往復程度
  • 1往復平均4,500円
  • 宅配も併用
費用項目 年間 10年間
タクシー 43万2,000円 432万円
バス・鉄道 3万円 30万円
食品宅配等 4万8,000円 48万円
家族送迎の実費 3万円 30万円
合計 54万円 540万円

このケースでは、軽自動車より高くなり、小型乗用車と同程度になる可能性があります。


ケースC~市外通院や頻回通院がある

前提

  • 市外の病院へ月2回
  • 近隣の診療所へ月2回
  • 買い物 月4回
  • その他の外出 月2回
  • 長距離タクシーと家族送迎を併用
費用項目 年間 10年間
タクシー 55万円 550万円
鉄道・バス 6万円 60万円
家族送迎の実費 10万円 100万円
宅配・買い物代行 5万円 50万円
合計 76万円 760万円

このケースでは、自動車を保有していた方が、金銭面では安い可能性があります。

ただし、運転能力や事故リスクに問題がある場合は、費用だけを理由に運転を続けるべきではありません。


10.10年間の比較

移動方法 10年間の標準的なモデル
軽自動車を保有 300万~360万円
小型乗用車を保有 420万~480万円
返納後・低利用 120万~200万円
返納後・中利用 350万~550万円
返納後・高利用 600万~800万円以上

この表から分かるのは、自動車と返納後交通のどちらかが常に安いわけではないということです。

返納後に公共交通を利用できる人は、費用を大幅に減らせる可能性があります。

反対に、自宅から病院やスーパーまで遠く、タクシーを頻繁に使う人は、自動車保有費を上回る可能性があります。


11.損益分岐点は月何回か

自動車とタクシーの費用を比較するには、年間費用から損益分岐点を求める方法があります。

軽自動車の年間費用を35万円と仮定します。

タクシーの1往復費用を4,000円とすると、

35万円÷4,000円=87.5往復

年間約88往復です。

月平均では約7.3往復になります。

つまり、他の公共交通費や宅配費を無視すれば、月7回程度までのタクシー利用なら、年間35万円の軽自動車より安い計算です。

1往復6,000円なら、

35万円÷6,000円=約58往復

月平均では約4.8往復です。

1往復1万円なら、

35万円÷1万円=35往復

月平均では約2.9往復です。

タクシー1往復 軽自動車年35万円との分岐
3,000円 月約9.7回
4,000円 月約7.3回
6,000円 月約4.8回
1万円 月約2.9回

実際には、バス代、宅配費、家族送迎、買い物代行などが加わるため、タクシーを利用できる回数はこれより少なくなります。


12.年間走行距離が短い人ほど返納が有利とは限らない

年間走行距離が短い車は、燃料費が少ないため、維持費も非常に安いように見えます。

しかし、走行距離が短くても、次の固定費は残ります。

  • 税金
  • 自賠責保険
  • 任意保険
  • 車検
  • 定期点検
  • バッテリー
  • 経年劣化
  • 車両価値の低下

年間2,000キロメートルしか走らない場合、ガソリン代は少額でも、年間30万円前後の総費用が発生する可能性があります。

一方、その2,000キロメートルが、病院やスーパーまでの必要不可欠な移動である場合、タクシーへ置き換えると高額になることがあります。

したがって、年間走行距離だけでは判断できません。

重要なのは、走行回数と1回当たりの距離です。

同じ年間2,000キロメートルでも、

  • 近距離を週5回走る人
  • 長距離を月2回走る人

では、タクシーへ置き換えた場合の費用が異なります。


13.夫婦2人世帯では計算が変わる

夫婦2人が1台の自動車を共用している場合、自動車を手放すと、2人分の移動をタクシーや公共交通へ置き換える必要があります。

例えば、夫が月2回、妻が月2回通院し、買い物が月4回なら、すでに月8往復です。

さらに、歯科、理美容、金融機関、行政手続き、家族訪問などを含めれば、月10往復を超える可能性があります。

1往復4,000円なら、月10回で4万円、年間48万円です。

この時点で、軽自動車の標準的な年間保有費を上回る可能性があります。

ただし、夫婦が同じ日に同じ目的地へ行ける場合は、1回のタクシーで2人が移動できます。

反対に、通院先や予約日が異なる場合は、2人分の費用が別々に発生します。

夫婦世帯では、個人の外出回数ではなく、世帯全体の往復回数を数える必要があります。


14.家族送迎は金額に換算する

家族送迎を無料として扱うと、返納後の費用を過小評価します。

最低でも、次の費用は計算に入れるべきです。

  • 走行距離に応じた燃料費
  • 車両の消耗
  • 駐車料金
  • 高速道路料金

さらに、家族の時間も考えます。

例えば、1回の通院送迎で4時間かかり、月2回行えば、年間96時間です。

時間の価値を1時間1,000円と置けば、年間9万6,000円、10年間で96万円になります。

これは家族へ実際に現金を支払うという意味ではありません。

家族が失う仕事、休息、家事、育児の時間を、経済的な負担として可視化するための考え方です。

家族送迎を比較するときは、次の2つを分けます。

負担 内容
現金支出 燃料、駐車、高速道路
非金銭的負担 時間、疲労、仕事への影響

15.安全性は費用比較より優先される

自動車を維持する方が金銭的に安いという結果が出ても、それだけで運転継続が合理的とは限りません。

次のような状態がある場合は、費用とは別に運転能力を検討する必要があります。

  • 視力や視野の低下
  • 反応時間の低下
  • ペダルの踏み間違い
  • 車線変更への不安
  • 夜間運転が難しい
  • 道順を間違える
  • 接触事故が増えた
  • 医師や家族から運転を止められている
  • 薬の副作用で眠気がある
  • 意識消失や発作の危険がある

免許返納は、交通費を安くするための制度ではありません。

本人と周囲の安全を守ることが第一の目的です。

費用比較は、返納するかどうかを決める唯一の基準ではなく、返納後の生活を準備するための資料として使うべきです。


16.返納前に1か月だけ自動車を使わず生活してみる

最も正確な方法は、実際に自動車を使わず生活してみることです。

1か月間、自動車を使わず、次の費用を記録します。

  • バス
  • 鉄道
  • タクシー
  • 家族送迎
  • 食品宅配
  • 買い物代行
  • 配食
  • 通院付き添い
  • キャンセルした外出

その1か月の費用を12倍すれば、年間費用の概算が出ます。

ただし、季節や通院予定によって変動するため、可能であれば3か月程度試す方が正確です。

同時に、次の点も確認します。

  • 雨の日に移動できるか
  • 病院の予約時刻に間に合うか
  • 診察後に帰れるか
  • 荷物を持って歩けるか
  • タクシーをすぐ呼べるか
  • 家族送迎を継続できるか
  • 夜間の急な外出に対応できるか

机上の計算では、費用は比較できても、身体的負担や待ち時間までは分かりません。


17.自分の世帯で計算する方法

自動車を維持する年間費用

次を合計します。

年間自動車費=車両費の年換算+税金+保険+車検・整備の年換算+燃料+駐車場+その他

車両費の年換算は、次のように計算します。

車両費の年換算=購入総額-売却見込額÷保有年数

正確には、括弧を付けて次のようにします。

車両費の年換算=(購入総額-売却見込額)÷保有年数

返納後の年間交通費

返納後交通費=バス・鉄道+タクシー+家族送迎実費+宅配・代行+その他

判断方法

返納後交通費が年間自動車費を下回れば、金銭面では返納後が有利

ただし、安全性、移動時間、家族負担、災害時対応を別に評価します。


18.どのような人は返納後の方が安くなりやすいか

  • 自宅から病院やスーパーまで近い
  • 駅やバス停まで歩ける
  • デマンド交通を利用できる
  • 外出が月数回程度
  • 食品宅配を利用できる
  • 夫婦で同じ日に外出できる
  • タクシー助成がある
  • 自動車の年間走行距離が少ない
  • 車両の買い替え時期が近い
  • 駐車場代を支払っている

都市部や駅周辺では、返納後の方が大幅に安くなる可能性があります。

地方でも、中心市街地や医療・商業施設に近い住宅であれば、返納後の費用を抑えやすくなります。


19.どのような人は自動車の方が安くなりやすいか

  • 病院やスーパーまで遠い
  • バスの本数が少ない
  • 夫婦それぞれの外出が多い
  • 市外の病院へ定期通院している
  • 買い物が週2回以上必要
  • タクシーの迎車に時間がかかる
  • 自治体交通の対象区域外
  • 家族送迎を頼めない
  • 宅配対象外の商品を頻繁に購入する
  • 介護や家族の送迎にも自動車を使う

ただし、自動車の方が安い場合でも、安全に運転できることが前提です。


現実的な結論~費用の分岐点は月間の外出回数で決まる

地方で自動車を10年間維持する場合、本記事の標準モデルでは、軽自動車で約300万~360万円、小型乗用車で約420万~480万円となりました。

一方、免許返納後の交通費は、公共交通を中心に利用できる低利用ケースでは約120万~200万円に抑えられる可能性があります。

しかし、タクシーを月8回程度利用し、宅配や家族送迎を併用する場合は、10年間で350万~550万円程度になる可能性があります。

市外通院や頻回通院がある場合は、600万~800万円を超えることも考えられます。

したがって、

自動車は高いから返納した方が得である

とも、

地方では自動車がなければ暮らせないため、持ち続ける方が得である

とも一律にはいえません。

判断の中心になるのは、次の条件です。

  • 世帯全体で月に何回移動するか
  • 1往復にいくらかかるか
  • 公共交通をどこまで使えるか
  • 市外通院があるか
  • 車両購入費を含めるか
  • 家族送迎の時間をどう評価するか

軽自動車の年間総費用を35万円、タクシーの1往復を4,000円とすると、単純な分岐点は月7回程度です。

1往復6,000円なら月5回程度、1万円なら月3回程度で、自動車の年間費用に近づきます。

ただし、免許返納の判断では、金銭面だけを見てはいけません。

安全性に不安がある場合は、多少交通費が増えても、運転をやめる方が合理的です。

そのうえで、公共交通、タクシー、宅配、家族送迎を組み合わせ、返納後の生活を成立させる必要があります。

最も確実なのは、免許を返納する前に、自動車を使わない生活を1~3か月試すことです。

実際にかかった交通費と不便を記録すれば、自分の世帯にとって、自動車と免許返納後の交通のどちらが現実的かが見えてきます。

免許返納は、単に自動車を手放す問題ではありません。

医療、買い物、住宅の立地、家族の支援、老後の家計をまとめて見直す生活設計の問題なのです。


地域の課題を、自分の判断に置き換えて考える

有限会社アードレでは、住まい・車・移住などの大きな選択を、 費用や将来条件をもとに数字で比較し、判断できる形に整理しています。

数字で比較するサービスを見る

地方で自動車の運転をやめることは、単に買い物や外出の方法を変えることではありません。

病院へ行く方法そのものを、もう一度組み立て直すことでもあります。

茂原市、長生郡、いすみ市、勝浦市、大多喜町、御宿町などの外房地域では、鉄道、路線バス、自治体のコミュニティバス、デマンド交通、一般タクシー、高齢者向け送迎など、複数の移動手段が用意されています。

しかし、交通手段が存在することと、免許返納後も無理なく通院できることは同じではありません。

自宅からバス停まで歩けるのか、病院の予約時刻に間に合うのか、診察が長引いても帰りの便があるのか、市町村外の専門病院まで移動できるのかといった条件によって、実際の通院可能性は大きく変わります。

特に問題になるのは、月1回程度の近隣診療所への通院ではなく、複数の診療科を受診する場合や、市外の専門病院へ通う場合、週数回の透析やリハビリテーションが必要になった場合です。

本記事では、自治体を単純に順位付けするのではなく、茂原・長生・夷隅地域に共通する生活条件から、免許返納後の通院がどこまで可能なのかを検証します。

令和8年度とは、2026年4月1日から2027年3月31日までです。公共交通制度は年度途中に運行内容や利用条件が変更される可能性があるため、実際に利用するときは各自治体や交通事業者への確認が必要です。


最初に結論~月1回の近距離通院なら対応できても、頻回・広域通院では難しくなる

茂原・長生・夷隅地域では、免許を返納したからといって、直ちに通院できなくなるわけではありません。

自宅が駅やバス停に近く、通院先が同じ市町村内にあり、月1回程度の受診で、1人で乗り降りできるのであれば、バス、デマンド交通、タクシーを組み合わせて通院できる可能性があります。

一方で、次のような条件が重なると、公共交通だけで通院を続けることは難しくなります。

  • 自宅からバス停まで遠い
  • 坂道や段差が多い
  • 市町村外の病院へ通う
  • 診察終了時刻が読めない
  • 複数の交通機関を乗り継ぐ
  • 週1回以上の通院がある
  • 付き添いが必要である
  • 車椅子や歩行器を使用している
  • 認知機能に不安がある
  • 早朝や夕方以降の診療を受ける
  • 家族が遠方に住んでいる

したがって、免許返納後の通院可能性は、自治体に制度があるかどうかだけでは決まりません。

重要なのは、次の5点です。

  1. 自宅から医療機関までの距離
  2. 通院先が市町村内か市町村外か
  3. 通院頻度が月1回か週数回か
  4. 1人で交通機関を利用できるか
  5. タクシーや家族送迎の費用を負担できるか

この5条件のうち、複数に問題がある場合は、免許返納後も現在の住宅に住み続けられるかまで検討する必要があります。


1.茂原・長生・夷隅地域の医療は広域で支えられている

茂原市と長生郡、いすみ市、勝浦市、夷隅郡は、千葉県の山武長生夷隅保健医療圏に含まれます。

この医療圏では、地域内に診療所、一般病院、公立病院が配置されていますが、病気の種類や重症度によっては、東金市、市原市、千葉市、鴨川市などの医療機関へ移動する必要があります。

千葉県保健医療計画では、山武長生夷隅保健医療圏の外来患者について、圏域外への流出があることが示されています。また、診療所における外来医療の需要に対する医師数は、全国平均を下回る水準とされています。

この地域の医療は、一つの大病院ですべてを完結させる仕組みではありません。

おおむね、次のような役割分担になっています。

医療の段階 主な受診先
日常的な診療 近隣の診療所、かかりつけ医
検査・入院・一般的な手術 茂原市、長柄町、いすみ市、勝浦市などの地域病院
高度な専門医療 東金市、市原市、千葉市、鴨川市などの医療機関
退院後の療養 回復期病床、在宅医療、訪問看護、介護施設

この構造は、自動車を運転できるうちは大きな問題にならないことがあります。

必要な病院まで本人や家族が自動車で移動できるからです。

しかし、本人が免許を返納し、配偶者も運転できない場合、医療機関の選択肢は一気に狭くなります。

病院が地域内に存在していても、そこへ行く手段がなければ、生活者にとっては利用できない医療に近くなります。


2.「病院まで何キロメートルか」だけでは通院の難しさは分からない

免許返納後の通院を考えるとき、自宅と病院の直線距離だけでは十分ではありません。

実際には、次の4区間を分けて考える必要があります。

  1. 自宅から最寄りのバス停または駅まで
  2. バス停や駅から医療機関の最寄り地点まで
  3. 降車地点から病院の受付まで
  4. 診察終了後に同じ経路で帰宅できるか

例えば、自宅から病院まで5キロメートルしかなくても、最寄りのバス停まで1.5キロメートルあり、1日に数本しか運行していなければ、実用的な通院手段とはいえません。

反対に、病院まで15キロメートルあっても、自宅近くから予約制交通に乗車でき、病院付近まで直接行けるのであれば、比較的利用しやすいことがあります。

通院の難易度は、単純な距離ではなく、次の式に近い考え方で決まります。

通院負担=移動距離+待ち時間+乗り換え+歩行距離+費用+身体的負担

金銭的には安いバスでも、乗車前後に長く歩き、診察終了後に2時間待たなければならない場合、高齢者にとっては負担の大きい交通手段です。


3.月1回の近隣診療所なら比較的対応しやすい

免許返納後も比較的対応しやすいのは、月1回程度、近隣の内科や整形外科へ通うケースです。

例えば、次の条件を想定します。

  • 自宅から診療所まで5キロメートル
  • 通院は月1回
  • 診察は午前中
  • 1人で歩行、乗降できる
  • 予約制交通またはタクシーを利用できる

この条件であれば、年間の通院回数は12往復です。

タクシーを往復で利用したとしても、距離が短ければ年間数万円から十数万円程度で収まる可能性があります。

自治体のデマンド交通や高齢者向け送迎が利用できれば、さらに負担を抑えられる場合があります。

ただし、ここで注意したいのは、現在の通院回数だけを基準にしてはいけないことです。

60代後半では月1回の内科だけでも、75歳以降には次のように増える可能性があります。

  • 内科 月1回
  • 眼科 2~3か月に1回
  • 整形外科 月1~2回
  • 歯科 数か月に1回
  • 検査のための病院受診 年数回
  • 配偶者の付き添い 月1回程度

夫婦2人分を合計すると、年間の通院が30~50往復になることも珍しくありません。

月1回の通院が可能だからといって、老後を通して同じ交通手段で生活できるとは限りません。


4.市町村を越える専門外来から難易度が急に上がる

外房地域では、日常的な内科診療は近隣で受けられても、専門的な検査や治療では別の市町村へ行くことがあります。

想定される移動には、次のようなものがあります。

  • 長生郡から茂原市内の病院
  • 茂原市や長生郡から東金市の病院
  • 長柄町や長南町から市原市の病院
  • いすみ市や勝浦市から鴨川市の病院
  • 外房地域から千葉市内の専門病院

自治体のデマンド交通や福祉送迎は、市町村内の移動を主な対象としている場合があります。

そのため、自宅から最寄り駅までは自治体交通、駅から地域外の病院までは鉄道、病院の最寄り駅からは路線バスまたはタクシーというように、複数の交通手段を組み合わせる必要が出てきます。

この場合、問題になるのは運賃だけではありません。

  • 乗り換えに時間がかかる
  • 駅にエレベーターがない場合がある
  • 電車とバスの時刻が合わない
  • 診察終了時刻を予測できない
  • 帰りの予約制交通に間に合わない
  • 体調が悪い状態で長時間移動する
  • 家族の付き添いが必要になる

特に、検査や専門外来は午前中に予約されることがあります。

早朝に出発しなければならない場合、自治体の交通が運行を開始する前である可能性もあります。

このため、市町村外への通院では、公共交通が存在するかどうかではなく、予約時刻までに実際に到着できるかを確認しなければなりません。


5.コミュニティバスは安いが、診察時間に合わせにくい

茂原・長生・夷隅地域では、市民バス、町民バス、市内循環バスなどが運行されています。

茂原市は、市民バス「モバス」やデマンド交通を、交通空白地域などにおける高齢者等の生活交通として位置付けています。茂原市地域公共交通計画でも、高齢化や運転免許返納者の増加を背景として、公共交通の必要性が高まっていることが示されています。

また、いすみ市では、JR(Japan Railways・旅客鉄道会社)外房線、いすみ鉄道、いすみシャトルバス、市内循環バス、デマンド交通、タクシーなどが地域公共交通として位置付けられています。令和8年には地域公共交通計画の変更版が公表されています。

コミュニティバスの最大の利点は、一般タクシーより運賃が安いことです。

しかし、通院では次の問題があります。

診察時刻に合う便があるとは限らない

病院の予約が午前9時でも、最初の便では間に合わないことがあります。

反対に、午前10時に病院へ着いても、診察が午後までかかり、帰りの便まで長時間待つことがあります。

病院前に停車するとは限らない

路線が病院付近を通っていても、病院の入口まで距離がある場合があります。

高齢者にとっては、数百メートルの歩行でも負担になります。

毎日運行とは限らない

曜日限定、平日のみ、特定曜日のみの運行では、診療日と合わないことがあります。

乗り換えが必要になる

自宅近くのバスから駅へ行き、そこから鉄道、さらに別のバスへ乗り換える場合、身体的負担が大きくなります。

したがって、コミュニティバスは、運行経路と診察時刻が合う人には有効ですが、すべての通院を支える万能な手段ではありません。


6.デマンド交通は便利だが、市町村外まで行けるとは限らない

デマンド交通とは、利用者の予約に応じて運行する乗合型の交通です。

定時定路線型のバスより、自宅や指定乗降場所の近くから利用しやすい場合があります。

特に、バス停まで歩くことが難しい高齢者には、有効な交通手段です。

ただし、デマンド交通には次のような制限があります。

  • 事前登録が必要
  • 前日までの予約が必要
  • 予約が集中すると希望時刻に利用できない
  • 他の利用者との乗合になる
  • 市町村内だけの運行
  • 指定乗降場所だけで乗降
  • 早朝、夜間、休日は運行しない
  • 1人で乗降できることが利用条件
  • 車椅子に対応していない場合がある

勝浦市ではデマンドタクシーが運行され、高齢者タクシー利用料助成事業も地域公共交通計画に位置付けられています。また、令和8年度には、総野地区の一部で自家用有償旅客運送「ノッカルかつうら」の有償実証運行が行われています。

ただし、このような制度があるからといって、勝浦市内のすべての地域で同じ条件で利用できるわけではありません。

運行区域、利用対象、予約方法、目的地は制度ごとに異なります。

デマンド交通の評価では、次の4点を確認する必要があります。

  1. 自宅付近から乗れるか
  2. 通院先の病院まで直接行けるか
  3. 市町村外へ行けるか
  4. 診察後に帰りの便を確保できるか

特に、市町村内の指定施設までしか運行しない制度では、地域外の専門病院への通院には利用できません。


7.一般タクシーは最も確実だが、回数が増えると負担が大きい

免許返納後の通院手段として、最も柔軟なのは一般タクシーです。

自宅から病院まで直接移動でき、診察終了後にも呼ぶことができます。

乗り換えが不要で、歩行距離も抑えられます。

一方で、通院距離と回数が増えると費用が大きくなります。

以下は、制度や事業者ごとの実際の運賃ではなく、通院費の規模を考えるためのモデル試算です。

迎車料金、時間距離併用運賃、信号待ち、道路状況などによって、実際の料金は変わります。

距離別のモデル

片道距離 往復料金の仮定 月1回 月2回 年間
5キロメートル 4,000円 4,000円 8,000円 4万8,000~9万6,000円
10キロメートル 7,000円 7,000円 1万4,000円 8万4,000~16万8,000円
20キロメートル 1万3,000円 1万3,000円 2万6,000円 15万6,000~31万2,000円
40キロメートル 2万5,000円 2万5,000円 5万円 30万~60万円

※金額は比較用の仮定であり、令和8年度の特定タクシー事業者の料金を示すものではありません。

月1回であれば、年金収入や家計状況によっては負担できる可能性があります。

しかし、夫婦2人がそれぞれ月2回通院する場合、年間費用はさらに増えます。

片道10キロメートルの病院へ、夫婦それぞれ月2回通うと仮定します。

1万4,000円×月4回=月5万6,000円

年間では約67万2,000円です。

10年間では、料金が変わらないと仮定しても約672万円になります。

住宅費が安い地域へ移住しても、免許返納後のタクシー代によって、都市部との生活費差が縮小する可能性があります。


8.家族送迎は無料ではない

免許返納後の通院では、「家族に送ってもらえばよい」と考えられがちです。

しかし、家族送迎にも費用と負担があります。

金銭的な費用

  • ガソリン代
  • タイヤやオイルの消耗
  • 車両の減価
  • 駐車料金
  • 高速道路料金
  • 送迎のための迂回
  • 待機中の食事代など

時間的な費用

  • 自宅から迎えに行く時間
  • 病院まで送る時間
  • 診察中の待ち時間
  • 薬局での待ち時間
  • 帰宅の送迎
  • 仕事や家事の中断

例えば、片道30分の病院へ送迎し、診察と会計、薬局で3時間かかる場合、家族は4~5時間を拘束されます。

月2回であれば年間48~60時間程度、夫婦2人分や複数診療科を含めれば、年間100時間を超える可能性があります。

家族が会社員であれば、有給休暇や半日休暇を使うこともあります。

自営業者であれば、その時間に得られたはずの収入を失うことがあります。

したがって、家族送迎は、タクシーより現金支出が少なく見えても、実質的に無料ではありません。


9.透析、リハビリテーション、がん治療では公共交通だけでは難しい

免許返納後の通院で最も大きな問題になるのは、頻回通院です。

人工透析

一般的な血液透析では、週3回程度の通院が必要になることがあります。

年間では約156回、往復では312区間です。

仮に1往復5,000円のタクシーを使うとします。

5,000円×156回=年間78万円

10年間では780万円です。

1往復1万円であれば、年間156万円、10年間で1,560万円になります。

実際には、医療機関独自の送迎、自治体制度、介護サービスなどを利用できる場合がありますが、すべての患者が同じ条件で利用できるとは限りません。

リハビリテーション

骨折、脳卒中、整形外科手術後などでは、週1~3回の通院リハビリテーションが必要になることがあります。

通院そのものが身体的負担となり、送迎が確保できないために回数を減らすケースも考えられます。

がん治療

抗がん剤治療、放射線治療、定期検査では、一定期間、繰り返し病院へ通う必要があります。

治療後に倦怠感や吐き気が出る場合、本人だけで公共交通を使って帰宅することが難しくなることもあります。

眼科、歯科、整形外科

生命に直結する治療ではなくても、視力、歯、歩行能力を維持するために継続受診が必要です。

交通手段がないために受診を先延ばしにすると、生活機能の低下につながる可能性があります。

このように、免許返納後の医療問題は、救急車を呼ぶような重症時だけではありません。

日常的な通院を続けられるかどうかが、高齢期の健康状態を左右します。


10.鉄道駅に近ければ安心とは限らない

外房地域では、JR外房線やいすみ鉄道の駅に近い住宅は、自動車を使わない生活に有利に見えます。

確かに、茂原駅、大原駅、勝浦駅、御宿駅などの近くであれば、広域移動の選択肢は増えます。

しかし、駅に近いことと、病院に近いことは同じではありません。

次の条件を確認する必要があります。

  • 自宅から駅まで平坦か
  • 駅に階段や跨線橋があるか
  • 病院の最寄り駅からバスがあるか
  • バス停から病院まで歩けるか
  • 帰りの鉄道時刻までどれほど待つか
  • 通院時間帯に列車が運行しているか
  • 強風や大雨で運休した場合の代替手段があるか

駅から病院までタクシーを使う場合、自宅から駅までの交通費、鉄道運賃、駅から病院までのタクシー代が重なります。

その結果、自宅から病院まで直接タクシーを利用した場合と、大きな差が出ないこともあります。


11.自治体の支援制度は重要だが、単純比較はできない

茂原・長生・夷隅地域では、市民バス、町民バス、デマンド交通、高齢者タクシー助成、福祉タクシー、移動支援など、さまざまな制度があります。

しかし、これらを自治体別に単純比較することには注意が必要です。

制度ごとに、次の条件が異なるからです。

  • 全住民が対象か
  • 高齢者だけが対象か
  • 免許返納者が対象か
  • 障害者手帳が必要か
  • 所得制限があるか
  • 市町村内だけか
  • 町外病院にも行けるか
  • 1人で乗降できる必要があるか
  • 利用回数に上限があるか
  • 片道回数か往復回数か

例えば、高齢者向けの無料送迎であっても、市町村内だけの運行であれば、地域外の専門病院には利用できません。

反対に、利用料金がかかるデマンド交通でも、自宅付近から病院まで直接移動できるなら、実用性が高い場合があります。

したがって、制度の評価では、「無料か有料か」だけでなく、次の4項目を確認する必要があります。

確認項目 意味
対象者 自分が利用条件を満たすか
運行範囲 通院先まで行けるか
運行時間 予約時刻と帰宅時刻に合うか
利用回数 必要な通院回数を確保できるか

令和8年度には、いすみ市が変更後の地域公共交通計画を公表し、勝浦市では「ノッカルかつうら」の有償実証運行が進められています。こうした制度は地域交通を補う重要な取り組みですが、対象地域や運行条件を確認せずに「免許返納後も安心」と評価することはできません。


12.免許返納後の通院費を10年間で考える

通院交通費は、1回ごとでは小さく見えても、10年間では大きな金額になります。

以下は比較のためのモデルです。

ケース1~近隣診療所へ月1回

  • 1往復3,000円
  • 年12回
  • 年間3万6,000円
  • 10年間36万円

ケース2~地域病院へ月2回

  • 1往復7,000円
  • 年24回
  • 年間16万8,000円
  • 10年間168万円

ケース3~夫婦2人がそれぞれ月2回

  • 1往復7,000円
  • 年48回
  • 年間33万6,000円
  • 10年間336万円

ケース4~週1回の通院

  • 1往復7,000円
  • 年52回
  • 年間36万4,000円
  • 10年間364万円

ケース5~週3回の通院

  • 1往復7,000円
  • 年156回
  • 年間109万2,000円
  • 10年間1,092万円
ケース 年間交通費 10年間
月1回、近距離 3万6,000円 36万円
月2回、中距離 16万8,000円 168万円
夫婦各月2回 33万6,000円 336万円
週1回 36万4,000円 364万円
週3回 109万2,000円 1,092万円

※すべて比較用の仮定です。自治体助成、医療機関送迎、運賃改定、待機料金などは含めていません。

この比較から分かるのは、免許返納後の問題は、タクシーが高いか安いかという単純な話ではないということです。

通院頻度が低ければ、タクシーは自動車を保有するより合理的な場合があります。

しかし、週数回の通院では、一般タクシーだけで対応することが難しくなります。


13.自動車維持費とタクシー代は単純比較できない

免許返納を検討するとき、「自動車維持費よりタクシー代の方が安い」と説明されることがあります。

確かに、自動車には次の費用がかかります。

  • 車両購入費
  • 自動車税
  • 自動車重量税
  • 自賠責保険
  • 任意保険
  • 車検
  • 点検整備
  • タイヤ
  • バッテリー
  • 燃料費
  • 修理費
  • 駐車場代

年間の自動車保有費が40万~60万円程度であれば、月1~2回のタクシー通院だけなら、免許返納後の方が金銭的に安くなる可能性があります。

しかし、自動車は通院以外にも使用します。

  • 買い物
  • 金融機関
  • 市役所
  • 理美容
  • 墓参り
  • 家族訪問
  • 災害時の避難
  • 配偶者の通院
  • 急な体調不良

したがって、自動車費用と通院タクシー代だけを比較すると、生活全体の移動費を過小評価します。

免許返納後の家計を考える場合は、通院、買い物、行政手続き、日常外出を合計した年間交通費を試算する必要があります。


14.免許返納後も通院しやすい住宅の条件

外房地域で高齢期まで住み続けるには、住宅価格や敷地の広さだけでなく、医療交通の条件が重要です。

通院しやすい住宅

  • 診療所まで2~3キロメートル程度
  • バス停まで徒歩5~10分以内
  • 駅まで平坦に移動できる
  • タクシーを呼びやすい
  • デマンド交通の対象区域内
  • スーパーと病院が同じ方向にある
  • 坂道や階段が少ない
  • 家族が訪問しやすい
  • 地域病院まで30分以内
  • 将来売却しやすい

通院が難しくなりやすい住宅

  • 山間部や丘陵部の奥
  • 急坂がある
  • 最寄りバス停まで1キロメートル以上
  • バスが1日数本
  • タクシー営業所から遠い
  • 携帯電話の電波が不安定
  • 大雨や倒木で道路が寸断される
  • 病院まで市町村を越える必要がある
  • 家族が遠方に住んでいる
  • 夫婦とも運転できなくなった場合の代替手段がない

海が見える住宅や広い庭付き住宅に魅力を感じても、高齢期の通院を考えれば、駅、病院、スーパーに近い小規模な住宅の方が長く住み続けやすいことがあります。


15.免許返納前に一度、自動車を使わず通院してみる

免許返納を決める前に、実際に自動車を使わず病院へ行ってみる方法が有効です。

地図や時刻表だけでは、実際の負担は分かりません。

確認すること

  • 自宅からバス停まで何分かかるか
  • 雨の日でも歩けるか
  • 病院の予約時刻に間に合うか
  • 診察後に帰りの便があるか
  • 薬局まで移動できるか
  • 荷物を持って乗り降りできるか
  • 乗り換え時に座って待てるか
  • タクシーをすぐ呼べるか
  • 付き添いがなくても利用できるか
  • 1回の交通費はいくらか

夫婦の一方が運転を続ける場合でも、もう一方が単独で通院できるかを確認する必要があります。

運転する配偶者が病気になったり、先に免許を返納したりする可能性があるからです。


16.返納前に確認したい10項目

  1. かかりつけ医まで自動車以外で行けるか
  2. 地域病院までの移動手段があるか
  3. 市外の専門病院へ通えるか
  4. バス停まで安全に歩けるか
  5. 診察終了後の帰宅手段があるか
  6. デマンド交通の対象者と運行区域は何か
  7. タクシー助成を利用できるか
  8. 月何回まで利用できるか
  9. 家族送迎を何年間続けられるか
  10. 通院できなくなった場合に住み替えられるか

この10項目のうち、3項目以上に明確な答えがない場合は、返納後の交通計画が十分とはいえません。


現実的な結論~免許返納後も通院できるかは、自治体名より生活条件で決まる

茂原・長生・夷隅地域には、鉄道、路線バス、市民バス、町民バス、デマンド交通、一般タクシー、高齢者向け支援など、複数の移動手段があります。

そのため、免許返納後に一切通院できなくなる地域ではありません。

しかし、公共交通制度が存在するだけで、すべての住民が継続的に病院へ通えるわけでもありません。

月1回程度、近隣の診療所へ通うのであれば、デマンド交通、コミュニティバス、タクシーによって対応できる可能性があります。

一方、市町村外の専門病院、週1回以上のリハビリテーション、週3回程度の透析、治療後に体調が悪化する可能性があるがん治療などでは、公共交通だけで通院を続けることが難しくなります。

また、自治体の制度を単純に比較して、どこが優れているかを決めることも適切ではありません。

同じ自治体内でも、駅周辺と山間部、幹線道路沿いと丘陵住宅地では、通院条件が大きく異なるからです。

免許返納後の通院可能性を左右するのは、自治体名ではなく、次の条件です。

  • 自宅と病院の距離
  • バス停や駅までの歩行環境
  • 市町村外へ移動できるか
  • 通院頻度
  • 身体機能
  • 家族の支援
  • タクシー代を負担できるか
  • 将来の住み替えが可能か

外房地域で老後まで暮らすには、「今、自動車を運転できるか」ではなく、「運転できなくなった後も病院へ行けるか」を住宅選びの段階から考える必要があります。

自動車を手放す時期になってから交通手段を探すのでは遅い場合があります。

最も現実的なのは、元気なうちに自動車を使わない通院を一度試し、公共交通、タクシー、家族送迎を組み合わせた年間費用を計算しておくことです。

免許返納は、単に運転をやめる手続きではありません。

高齢期の医療、住宅、家計、家族関係をまとめて見直す生活設計の問題なのです。

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