地域分析記事

地域の暮らしと地域課題を数学とデータで考える

日本国内の天然ガスとヨウ素の産出都市はどこか

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~地域資源から未来のエネルギー・材料産業へ発展できる条件を検証する

はじめに

 日本は、石油や天然ガスの大部分を海外から輸入している資源輸入国です。しかし、国内に天然ガスが存在しないわけではなく、新潟県や千葉県を中心に、北海道、秋田県、宮崎県などでも商業生産が行われています。なかでも新潟県は国内天然ガス生産の約7割を占め、千葉県では九十九里平野を中心として、天然ガスとヨウ素を同じ地下資源から生産する特徴的な産業が発達してきました。

 ヨウ素は、医薬品やエックス線造影剤、消毒剤、電子材料などに幅広く利用される元素であり、近年ではペロブスカイト太陽電池の主要原材料の一つとしても注目されています。日本は世界第2位のヨウ素生産国であり、千葉県はその国内生産の大部分を担っています。このため、天然ガスとヨウ素を産出する地域では、地下資源を利用した既存産業を、次世代のエネルギー産業や高付加価値材料産業へ発展させられるのではないかという期待があります。

 しかし、天然ガスとヨウ素は、同じ地下水から回収される場合があっても、その経済的性質は大きく異なります。天然ガスは主として燃焼によってエネルギーを得る化石燃料であるのに対し、ヨウ素は化学反応や材料特性を利用して付加価値を生み出す元素資源です。したがって、両者を一括して将来性の高い国産資源と評価するのではなく、生産量、需要、採算性、環境制約、技術開発、地域経済への波及効果を分けて検討しなければなりません。

 本記事では、国内の天然ガスとヨウ素の主な産出都市を整理したうえで、2026年10月9日までに公表された統計や制度、企業の事業動向を踏まえ、それぞれの資源が日本のエネルギー供給と地域経済にどの程度貢献できるのかを検証します。特に、千葉県の茂原市、いすみ市、大多喜町などの地域と、新潟県の長岡市、新潟市、柏崎市、さらに宮崎県宮崎市を取り上げ、資源採取地が将来の産業拠点へ発展するための条件を考えます。

1.最初に結論~天然ガスの大量増産よりも、ヨウ素の高付加価値化に注目する理由

 国内の天然ガスとヨウ素について、現在の生産規模と産業構造から判断すると、両者の将来性は異なる方向に見いだせます。天然ガスは、国内に生産基盤が存在すること自体にエネルギー安全保障上の意味がありますが、供給規模は日本全体の需要に比べて小さく、特に千葉県の水溶性天然ガスは地盤沈下防止という重要な制約を受けています。このため、全国の輸入天然ガスを大規模に代替することよりも、地域の工場、病院、公共施設などで効率的に利用し、エネルギー供給の多様化に役立てる方向が現実的です。

 一方、ヨウ素は、日本が世界市場において一定の生産上の存在感を持つ数少ない国産鉱物資源の一つです。医療、電子材料、化学工業という既存の用途に加え、次世代太陽電池の材料として利用が拡大する可能性もあり、単なる資源採取から高純度精製、ヨウ素化合物の製造、機能性材料の開発、回収・再利用技術へと事業を広げる余地があります。

 ただし、ヨウ素の世界需要が増えれば、産出地域の経済も自動的に成長するわけではありません。原料となるヨウ素を千葉県で生産しても、高度な化学材料への加工や太陽電池の製造が別の地域で行われれば、付加価値の多くは地域外で生まれます。産出地域の経済発展を考える際には、資源の存在や生産量に加えて、どの工程が地域内で行われ、どの程度の雇用、所得、税収、設備投資につながるのかを検証する必要があります。

 現時点では、千葉県はヨウ素を中心とする材料産業の高度化、新潟県は既存の天然ガス産業と供給設備を活用した水素・化学・低炭素エネルギー産業への展開が、それぞれ検討に値する方向です。ただし、これらは技術的条件や産業基盤から導かれる発展の可能性であり、将来の事業収益や地域経済の成長が確実であることを示すものではありません。

2.日本国内の天然ガスはどこで産出されているのか

2-1.全国の天然ガス生産量と地域的な偏在

 国内の天然ガスは、新潟県、千葉県、北海道、秋田県、宮崎県などで生産されています。新潟県が2026年4月に更新した公表資料によると、2024年の全国天然ガス生産量は19億260万立方メートルで、そのうち新潟県が13億7,569万立方メートルを占め、全国に対する割合は72.3%となっています。国内天然ガスの生産は新潟県に大きく集中しており、千葉県はこれに次ぐ主要産地として位置付けられます。

 天然ガス鉱業会によると、2024年末時点の国内には石油・天然ガス鉱山が58鉱山あり、国産天然ガスの生産量は国内供給量の約2%に相当します。国内生産が一定の規模を持っていても、日本の天然ガス供給の大部分が輸入に依存している構造は変わっておらず、国産天然ガスだけで日本全体の需要を満たすことは現実的ではありません。

 天然ガスは、地中でどのような状態に存在しているかによって、主に構造性天然ガス、水溶性天然ガス、油田ガスに分類されます。構造性天然ガスは地下の地質構造に気体として閉じ込められたもので、新潟県や北海道などに多く存在します。一方、水溶性天然ガスは地下水にメタンが溶け込んだ状態で存在しており、千葉県の九十九里地域が代表的な産地です。油田ガスは原油とともに存在する天然ガスであり、油田の開発に伴って生産されます。

 2024年の国内生産量を鉱床別に見ると、構造性天然ガスは約13億9,762万立方メートルで全体の73.5%、水溶性天然ガスは約4億7,837万立方メートルで25.1%、油田ガスは約2,661万立方メートルで1.4%となっています。過去の資料では水溶性天然ガスの割合を約2割と説明している例もありますが、2024年の統計では約4分の1と表現する方が正確です。

 この違いは、産業政策を考えるうえでも重要です。構造性天然ガスと水溶性天然ガスでは採掘方法が異なり、水溶性天然ガスでは大量の地下水をくみ上げる必要があるため、地下水圧や地盤沈下に関する制約を強く受けます。したがって、全国の天然ガス生産量を単純に合計するだけでは、各産地の将来の増産可能性まで把握することはできません。

2-2.新潟県~国内最大の天然ガス生産地域

 新潟県は、日本国内の天然ガス産業を代表する地域であり、長岡市、新潟市、柏崎市、胎内市などを含む広い範囲にガス田や関連産業が存在しています。2024年の新潟県の天然ガス生産量のうち、構造性天然ガスは約13億3,608万立方メートルで、県内生産量の97.1%を占めています。また、全国の構造性天然ガス生産量の95.6%が新潟県産であり、国内の構造性天然ガス産業が新潟県に著しく集中していることが分かります。

 長岡市は、国内有数の天然ガス産地として知られています。市の過去の広報資料では、長岡産天然ガスが国内生産量の約4割を占めると紹介されていましたが、この割合を現在の生産実績にそのまま適用することは適切ではありません。それでも、長岡市周辺に大規模な天然ガス生産基盤が存在し、地域の産業やエネルギー供給と結び付いていることは確かです。

 長岡市の代表的な活用事例として、市有施設のアオーレ長岡に導入されたコージェネレーションがあります。コージェネレーションとは、一つの燃料から電気と熱を同時に取り出す熱電併給方式であり、天然ガスを燃焼させて発電するとともに、その際に発生する排熱を冷暖房や給湯、融雪などに利用します。発電時に発生する熱を無駄にしないため、電力と熱を同時に必要とする施設では、エネルギーの総合利用効率を高められる場合があります。

 新潟市では、構造性天然ガスだけでなく、水溶性天然ガスとヨウ素の生産も行われています。東邦アーステックは、新潟市西蒲区西川地区で水溶性天然ガスの開発を進め、2024年4月から天然ガスの増産とヨウ素の製造を開始しました。同地区では、かん水採取設備やヨウ素濃縮設備を整備し、環境への影響を確認しながら開発を進めています。新潟市は天然ガスとヨウ素を同時に生産する都市として、千葉県の茂原市などと比較できる重要な事例です。

 柏崎市は、天然ガス産業の技術を低炭素エネルギーへ応用する事例として注目されます。2025年11月には、天然ガスから水素とアンモニアを製造し、その過程で発生する二酸化炭素を分離・回収して地下へ圧入する実証施設「柏崎水素パーク」が開所しました。ここで重要なのは、原料となる天然ガスが主として南長岡ガス田からパイプラインで輸送される点であり、水素製造施設が柏崎市に立地していることと、天然ガスが柏崎市内で生産されたことを同一視してはいけません。

 胎内市などにも天然ガス関連の産業基盤が存在しますが、産出都市を比較する際には、現在稼働している採掘設備、既存のガス田、天然ガス供給拠点、研究施設、将来の事業計画を区別する必要があります。地下に資源が存在することと、その地域で商業生産が継続していることは、必ずしも同じではありません。

2-3.千葉県~九十九里平野の水溶性天然ガス

 千葉県は、日本最大の水溶性天然ガス生産地域であり、九十九里平野を中心として天然ガスとヨウ素の産業が発達しています。地下の地層には、かつて海底に堆積した有機物が微生物によって分解されて生じたメタンが存在し、その多くが地下水に溶け込んでいます。天然ガスを採取する際には、この地下水をくみ上げてメタンを分離し、残った水からヨウ素を回収することができます。

 千葉県の2025年12月公表資料では、天然ガスかん水を採取している地域として16市町村が挙げられています。具体的には、茂原市、東金市、山武市、いすみ市、大網白里市、千葉市、成田市の7市、九十九里町、横芝光町、一宮町、睦沢町、白子町、長柄町、長南町、大多喜町の8町、長生村の1村です。

 ただし、この16市町村は、天然ガスかん水の採取が行われている地域として整理されたものであり、すべての市町村で同じ規模の天然ガス生産やヨウ素製造が行われているという意味ではありません。採取井戸の位置、鉱区の広がり、地下の地質条件、事業所の所在地、製造施設の配置などが異なるため、市町村ごとの生産実績を比較する場合には、採掘量と精製量、販売量を区別する必要があります。

 茂原市は、千葉県の天然ガス・ヨウ素産業を代表する都市です。茂原地域では、約300万年前から40万年前に形成された地層を中心に水溶性天然ガスが存在し、地下から採取したかん水を利用して天然ガスとヨウ素の生産が行われています。天然ガスは都市ガスや工業用燃料として利用され、ヨウ素は医薬品、化学製品、電子材料などの原料として供給されています。茂原市の強みは、天然ガスの産出量だけではなく、地下資源の採取、精製、化学工業に関する技術と事業基盤が地域に蓄積している点にあります。

 一宮町も天然ガスとヨウ素の重要な生産拠点です。伊勢化学工業は町内にヨウ素、金属化合物、天然ガスを取り扱う一宮工場を設けており、資源採取と化学材料生産を結び付けた事業を展開しています。このように、行政区域としては比較的小規模な町であっても、企業の生産設備や技術が集積している場合には、広域的な産業ネットワークの中で重要な役割を果たします。

 大多喜町は、天然ガスとヨウ素産業の歴史を理解するうえで欠かせない地域です。千葉県の天然ガス開発史では、1930年代に大多喜地域で天然ガスかん水からヨウ素を生産する技術が実用化され、その後の九十九里地域における産業発展につながりました。大多喜町は、歴史的な発祥地域であると同時に、県の現在のかん水採取地域にも含まれており、産業史と現代の資源利用の両面から評価する必要があります。

 いすみ市も県が公表するかん水採取地域に含まれていますが、天然ガス採取地域に指定されていることから、ヨウ素精製工場が市内に存在することまで推定することはできません。一方、御宿町と勝浦市は、地盤変動の調査対象となる地域ではありますが、県が2025年12月に示した16の天然ガスかん水採取市町村には含まれていません。地質学的に同種の地層が広がる可能性や過去の資源調査と、現在の商業生産実績を混同しないことが重要です。

 千葉県によると、県内では約1,000本の天然ガス井戸が掘削され、そのほとんどが九十九里地域にあります。天然ガスとかん水の生産量は1971年頃に最大となり、その後は地盤沈下防止のための協定や採取量の抑制などによって減少しました。近年は、かん水の揚水量が緩やかに減少する一方、天然ガスの生産量はおおむね横ばいとなっており、かつてのように採取量を大幅に増やすことが難しい産業構造になっています。

2-4.北海道・秋田県・宮崎県などの天然ガス産地

 国内の天然ガス生産を新潟県と千葉県だけで説明すると、日本の産地全体を把握するには不十分です。北海道や秋田県でも天然ガスの商業生産が行われており、これらの地域では構造性天然ガスや油田に伴うガスの生産が重要な役割を持っています。ただし、生産県が確認されていることと、県内の特定都市で現在どの程度の生産が行われているかは別問題であり、都市別の比較には個別の鉱山や事業所の実績が必要です。

 特に注目すべきなのが宮崎県宮崎市です。宮崎市佐土原町には伊勢化学工業の宮崎工場が立地しており、天然ガス、ヨウ素、ヨウ素化合物の生産が行われています。宮崎市は、新潟市や千葉県の茂原地域と同じように、水溶性天然ガスとヨウ素を結び付けた産業が存在する地域であり、日本の主要産出都市を論じる際には欠かすことができません。

 このように、国内天然ガスの分布を正しく理解するには、生産県と産出都市、採掘施設と精製施設、現在の商業生産と将来の開発構想をそれぞれ区別する必要があります。資源が地下に確認されているという情報だけでは、採掘事業としての規模や地域経済への貢献度を判断することはできません。

3.ヨウ素はなぜ千葉県・新潟県・宮崎県で産出されるのか

3-1.天然ガスかん水に含まれるヨウ素の特徴

 ヨウ素は原子番号53の元素であり、医療、化学、電子材料などに幅広く利用されています。地下に存在するヨウ素は、多くの場合、ヨウ化物イオンとして水に溶け込んでおり、日本では天然ガスを含む地下水である「かん水」から回収されています。このため、国内のヨウ素産業は水溶性天然ガス産業と深い関係にあります。

 千葉大学の千葉ヨウ素資源イノベーションセンターによると、ヨウ素の原料となるかん水は地下約500~2,000メートルから採取される古代の海水に由来し、その年代は約80万年から280万年前とされています。かん水にはヨウ素イオンが約100ppm(parts per million・100万分の1を表す濃度単位)含まれており、通常の海水よりも高い濃度のヨウ素が存在します。

 実際の生産では、地下から採取したかん水から天然ガスを分離し、その後、化学的な処理や濃縮工程によってヨウ素を取り出します。採取したかん水は、処理後に地下へ還元される場合もあり、ヨウ素の生産工程は地下水管理や環境保全と密接に結び付いています。ただし、構造性天然ガスは水溶性天然ガスとは鉱床の仕組みが異なるため、天然ガスが生産される地域であれば必ずヨウ素も商業的に回収できるというわけではありません。

 ヨウ素の年間生産量を左右する主な要因は、かん水中のヨウ素濃度、かん水採取量、回収効率です。例えば、ヨウ素濃度が1リットル当たり100ミリグラム、年間かん水採取量が100万立方メートル、ヨウ素回収率が90%であると仮定すると、計算上の年間回収量は90トンとなります。これは特定の事業所の実績を示す数字ではありませんが、採取量を増やさなくても回収効率を改善できれば、ヨウ素の生産量を増やせる可能性があることを示しています。

3-2.日本のヨウ素生産量と世界シェア

 日本は、チリに次ぐ世界第2位のヨウ素生産国です。過去の国内資料では、日本の世界生産シェアは約30%、千葉県は国内生産量の約8割を占めると説明されてきました。千葉県にヨウ素生産が著しく集中していることは確かですが、世界シェアについては、統計の対象年や集計方法によって数値が異なります。

 USGS(United States Geological Survey・米国地質調査所)が2026年に公表した鉱物資源統計では、2025年のヨウ素生産量は日本が約9,000トン、世界全体が約4万4,000トンと推計されています。この2つの数値から単純計算すると、日本の世界生産シェアは約20.5%となり、従来の国内資料で見られる約30%という数値とは差があります。

 この違いを評価する際には、米国のヨウ素生産量が企業情報保護のため非公表とされていることや、一部の生産国について十分な統計が得られないことに注意が必要です。また、過去の資料には米国を除いた生産量を分母として世界シェアを算出しているものもあり、異なる集計方法の数値をそのまま比較すると、日本の生産力が急激に低下したかのような誤解を生みます。

 したがって、日本のヨウ素産業については、世界第2位の主要生産国であることを基本的な事実とし、世界シェアを示す場合には統計年と集計範囲を明確にする必要があります。日本はヨウ素を海外に輸出できる重要な生産国ですが、その市場での影響力を評価するには、生産量だけでなく、輸出量、価格、用途別需要、競合国の増産計画なども確認しなければなりません。

3-3.千葉県・新潟県・宮崎県の違い

 国内のヨウ素生産は、主として千葉県、新潟県、宮崎県の3県で行われています。千葉県は過去の業界推計で国内生産の約8割を占める最大産地であり、九十九里地域を中心として複数の企業が採取、精製、製品化に関わっています。千葉県の重要性は単なる資源埋蔵量の大きさではなく、長期間にわたる生産経験、専門技術、化学関連企業の集積にあります。

 新潟県では、新潟市を中心に水溶性天然ガスとヨウ素の生産が行われ、近年も生産設備の整備が進められています。構造性天然ガスが県内天然ガス生産の大部分を占める一方、ヨウ素を生産できる水溶性天然ガス事業も存在しており、両方の資源産業を有している点が特徴です。

 宮崎県では宮崎市佐土原町の生産拠点が重要です。宮崎県全体のヨウ素生産量は千葉県と同規模ではありませんが、商業生産が成立していることは、国内のヨウ素資源が千葉県と新潟県だけに限られていないことを示しています。今後、国内ヨウ素産業の将来性を分析する場合には、この3県について、生産量、加工技術、供給先、事業規模を比較する必要があります。

4.国内天然ガスは日本のエネルギー自給率をどこまで改善できるのか

4-1.国内生産には供給安定化の価値がある

 国産天然ガスには、輸入天然ガスとは異なる利点があります。日本で広く利用されているLNG(Liquefied Natural Gas・液化天然ガス)は、天然ガスを低温で液化して海外から船舶で輸送するため、国際情勢、為替相場、海上輸送、輸出国の政策などの影響を受けます。一方、国内で生産される天然ガスは、既存のパイプラインなどを利用して需要地へ供給できるため、海外からの輸送に伴う不確実性を一部回避できます。

 ただし、国内産であれば常に安価で安定しているというわけではありません。国内でも設備故障、地震、洪水、パイプラインの損傷、採掘量の減少などによる供給停止は起こり得ます。また、採掘費用や施設維持費が高ければ、輸入天然ガスよりも供給費用が大きくなる場合があります。国内資源の価値は、価格だけでなく、供給経路の多様化や災害時の代替性を含めて評価する必要があります。

 国産天然ガスの生産量は国内供給量の約2%であるため、全国の輸入依存を大幅に解消するほどの規模ではありません。しかし、地域内の需要に近い場所で生産される場合には、産業用燃料や熱源としての利用に合理性があり、供給先と設備が適切に整備されていれば、地域エネルギーの一部を支える役割を果たせます。

4-2.地域内利用とコージェネレーション

 天然ガスの地域内利用で特に重要なのは、発電と熱利用を組み合わせるコージェネレーションです。通常の発電では、投入した燃料のエネルギーの一部が排熱として失われますが、発電時の熱を給湯、空調、産業用加熱などに利用できれば、同じ燃料から得られる有効なエネルギーを増やせます。

 例えば、病院では電力に加えて給湯や空調用の熱需要があり、工場では製造工程に熱が必要となる場合があります。温浴施設、食品加工施設、農業用温室、公共施設なども、電力と熱の需要が同時に存在するため、コージェネレーションの導入候補になります。ただし、設備が高い効率を発揮するためには、年間を通じて一定の熱需要が存在することが重要であり、熱を十分に利用できなければ、期待した省エネルギー効果は得られません。

 長岡市のように天然ガスの産地と需要地が近接している地域では、供給設備と需要施設を結び付けやすい利点があります。千葉県の茂原市や長生地域でも、天然ガスの地域内利用を考える際には、病院、工場、公共施設などの電力・熱需要を定量的に把握し、設備費用と燃料費、既存のエネルギー方式との比較を行うことが必要です。

5.天然ガスは将来の低炭素エネルギーとして利用できるのか

5-1.燃焼時の二酸化炭素排出量とメタン漏えい

 天然ガスの主成分であるメタンは、一般に石炭や石油よりも単位熱量当たりの燃焼時二酸化炭素排出量が少ない燃料です。このため、石炭や重油を使用している設備を天然ガスへ転換すれば、条件によっては温室効果ガスの排出削減につながります。しかし、天然ガスも化石燃料であることに変わりはなく、燃焼すれば二酸化炭素が発生します。

 さらに、メタンそのものは温室効果の強い気体であり、採掘、精製、配管、輸送、利用の各段階で漏えいが生じれば、燃焼時の二酸化炭素排出量が少ないという利点が縮小する可能性があります。このため、天然ガスの環境性能は燃焼時の排出量だけではなく、採掘から最終利用までの工程全体で評価することが必要です。

 こうした分析はLCA(Life Cycle Assessment・ライフサイクル全体の環境負荷評価)と呼ばれ、燃料の採取、加工、輸送、使用、設備更新などを含めて環境負荷を比較します。国産天然ガスは輸入天然ガスより輸送距離を短くできる場合がありますが、それだけで温室効果ガス排出量が必ず少なくなるとは限りません。採掘設備の効率、メタン漏えい量、燃料の輸送方法、利用設備の性能などを実測し、同じ条件で比較する必要があります。

5-2.再生可能エネルギーとの関係

 太陽光発電や風力発電は、発電時に燃料を燃焼させないという利点がありますが、天候や時間帯によって発電量が変動します。そのため、電力の需要と供給を一致させるには、蓄電池、送電網の増強、需要調整、他地域との電力融通などと組み合わせた運用が必要です。天然ガス火力発電は出力調整に利用できるため、再生可能エネルギーの導入が進む過程で補完的な役割を担う場合があります。

 ただし、天然ガスが調整電源として利用されることと、天然ガス需要が長期的に増え続けることは同じではありません。蓄電池の低価格化、送電網の整備、省エネルギーの進展、電化技術の普及などが進めば、天然ガスの利用機会が減少する可能性もあります。新たな天然ガス関連設備への投資を判断する際には、設備の耐用年数と将来の需要変化を考慮し、過大な設備投資が地域経済の負担にならないようにする必要があります。

5-3.天然ガスからの水素・アンモニア製造

 天然ガスから水素を製造する技術はすでに存在しており、既存の天然ガス供給設備や化学工業の技術を活用できるという利点があります。しかし、一般的な天然ガス改質では二酸化炭素が発生するため、天然ガスから水素を製造するだけでは脱炭素化にはなりません。製造時に発生した二酸化炭素を分離・回収し、地下へ安全に貯留する方式は、一般にブルー水素と呼ばれています。

 新潟県柏崎市の実証事業は、天然ガスの供給、水素・アンモニア製造、二酸化炭素の回収、地下貯留を組み合わせた事例です。既存のガス田やパイプラインを活用できることは有利な条件ですが、その事業性は二酸化炭素の回収率、水素製造費、地下貯留費用、メタン漏えい量、需要家の確保などによって決まります。

 水素やアンモニアを利用するときに二酸化炭素が直接発生しなくても、製造工程で多量の温室効果ガスが排出されれば、エネルギーシステム全体としての脱炭素効果は限定的です。したがって、天然ガス産出地域が水素・アンモニア産業へ移行できるかどうかは、既存資源の有無だけでなく、環境性能と経済性を両立できるかによって判断すべきです。

6.ヨウ素は次世代エネルギー産業の重要資源になるのか

6-1.ペロブスカイト太陽電池と国産ヨウ素

 ヨウ素の将来用途として注目されているのが、ペロブスカイト太陽電池です。ペロブスカイト太陽電池は、特定の結晶構造を持つ材料を光電変換層に利用する太陽電池であり、薄型化や軽量化、柔軟性のある製品への応用が期待されています。従来の太陽電池を設置しにくかった建物の壁面や、荷重制約のある屋根などへの導入可能性があることから、次世代の太陽光発電技術として研究開発と事業化が進められています。

 経済産業省は、2024年11月に策定した次世代型太陽電池戦略において、2040年までに約20ギガワットの導入を目指す方針を示しました。また、主要原材料の一つであるヨウ素を国内で生産できることを、日本の供給網上の強みとして位置付けています。原材料の国内調達が可能であれば、国際的な資源価格の変動や輸出規制などによる影響を抑えやすくなる可能性があります。

 ただし、2040年の導入目標は政策上の目標であり、実際の導入量や国内メーカーの市場占有率が確定したわけではありません。また、太陽電池の導入容量が増加した場合にヨウ素需要がどの程度増えるかは、製品の構造、単位発電容量当たりのヨウ素使用量、製造工程での歩留まり、材料回収率などによって変わります。導入目標が20ギガワットであるという事実だけから、ヨウ素の将来需要や価格を直接計算することはできません。

 さらに、ペロブスカイト太陽電池には耐久性、製造コスト、大面積化、長期信頼性、材料の環境管理、使用後の回収などの課題があります。国産ヨウ素が供給面で有利であっても、それだけで国内の太陽電池産業が国際競争に勝てるとは限らず、製造技術、品質、価格、特許、量産設備、販売網まで含めた競争力が必要です。

6-2.ヨウ素産地が太陽電池製造拠点になるとは限らない

 千葉県や新潟県でヨウ素が産出されることは、材料供給上の強みになりますが、太陽電池工場の立地が保証されるわけではありません。ヨウ素は輸送可能な化学原料であるため、産出地域で採取したヨウ素を他地域の工場へ運び、そこで高純度化合物や太陽電池材料へ加工することも可能です。

 工場の立地は、原材料の調達だけでなく、技術者の確保、既存企業との取引関係、工業用水、電力、物流、用地、研究開発機関、設備投資支援などによって決まります。とくに高度な電子材料の製造では、原料の輸送距離よりも、精製技術や品質管理、製造設備との適合性が重要になる場合があります。このため、ヨウ素産出地域が競争力を高めるには、資源採取だけではなく、どの加工工程を地域内に取り込めるのかを具体的に検討する必要があります。

 例えば、茂原市や長生地域では、既存の資源関連企業と化学工業の技術を活用し、高純度ヨウ素化合物や機能性材料の製造、材料分析、設備保守などを発展させる方向が考えられます。ただし、これらは事業化を検討できる分野であり、需要家や企業の投資意欲を確認しないまま、新たな工場や研究施設の建設を地域振興策として決定することは適切ではありません。

6-3.医療・電子材料・化学工業への展開

 ヨウ素の重要性は、太陽電池に限定されません。ヨウ素化合物は医療用のエックス線造影剤、消毒剤、医薬品、液晶表示装置に使われる偏光フィルム、化学反応用の触媒、各種電子材料などに利用されています。これらの用途では、ヨウ素の化学的な反応性や光学的な特性、エックス線を吸収する性質などが利用されており、ヨウ素は複数の産業で必要とされる原材料です。

 ヨウ素の需要を分析する際には、成長が期待される太陽電池分野だけを取り上げるのではなく、既存の医療、化学、電子材料市場も含めて評価する必要があります。太陽電池向けの需要が想定ほど増加しなかった場合でも、他の用途で需要が維持される可能性があり、逆に既存用途が技術変化によって縮小する可能性もあります。

 したがって、ヨウ素産業の将来性は、単一用途の成長率ではなく、用途別需要の分散状況、製品単価、代替材料の存在、競合国の生産能力、長期的な技術変化を含めて判断する方が合理的です。原料となるヨウ素の生産に加えて、ヨウ素化合物の製造や高純度化技術を持つことは、価格競争だけに依存しない産業構造を形成するうえで重要になります。

7.天然ガスとヨウ素の増産を制約する地盤沈下問題

7-1.千葉県の地盤沈下と採取規制

 千葉県の水溶性天然ガス産業を考えるうえで、地盤沈下は避けて通れない問題です。天然ガスを含むかん水を地下から大量にくみ上げると、地層内の水圧が変化し、地層が圧縮される場合があります。こうした地盤の変形が地表面の沈下につながることがあり、長年にわたり環境対策と資源開発の両立が課題となってきました。

 千葉県が2025年12月に公表した2024年の地盤変動調査では、調査面積3,208.5平方キロメートルのうち、1,439.6平方キロメートルで地盤沈下が確認されました。年間2センチメートル以上の沈下が見られた面積は0.1平方キロメートルで、最大沈下量は睦沢町大上の2.01センチメートルでした。また、2020年から2024年までの5年間に累計10センチメートル以上沈下した面積は29.8平方キロメートルとなっています。

 これらの数値は、地盤沈下が現在も継続していることを示していますが、すべての沈下を天然ガスかん水の採取だけによって説明することはできません。地下水の一般利用、地層の自然圧密、地震などによる地盤変動も考慮する必要があり、特定の地点における原因を判断するには、地下水圧、採取量、地質構造、地盤変動の時系列データを組み合わせた分析が必要です。

 千葉県は、天然ガス採取企業との協定によって地盤沈下の防止に取り組んでおり、2026年1月28日には新たな細目協定を締結しました。協定期間は2026年2月1日から2030年12月31日までであり、年間20ミリメートル以上の沈下地域をなくすことなどが目標とされています。また、新しい天然ガス井戸の設置には県の基準が適用され、市街地や低標高地域などでは開発が制限されます。

 この協定で重要なのは、単にかん水の採取量を削減するだけでなく、地上排水量を管理する仕組みが採用されていることです。地上排水量は、地下からくみ上げたかん水量から、地下へ還元したかん水量を差し引いた値として整理されます。地下還元技術の利用によって地上排水量を抑えることができますが、還元量の増加が地盤沈下の完全な防止を保証するわけではありません。

7-2.地下還元技術の効果と限界

 天然ガスとヨウ素を回収した後のかん水を地下へ戻す技術は、地下水圧の低下を抑える方法の一つとして重要です。ただし、地下へ注入する地層の深さ、透水性、注入圧力、地下水の流動条件などによって、地盤への影響は異なります。採取した場所と還元した場所が離れている場合には、局所的な地層圧力の変化も考慮しなければなりません。

 地下還元を長期的に利用するには、還元井戸の維持管理、地下水の水質、地層内の圧力変化、井戸の閉塞、地盤の変位などを継続的に監視する必要があります。また、設備の維持費や電力費が増加すれば、天然ガスやヨウ素の生産コストにも影響します。

 このため、千葉県における将来の資源産業では、地盤沈下防止を単なる環境対策費用として扱うのではなく、資源生産を長期的に継続するための基本条件として位置付ける必要があります。地下水管理や地盤変動の監視技術が高度化すれば、その技術自体が環境関連産業として発展する可能性もありますが、実際の市場規模や事業収益は別途検証する必要があります。

8.埋蔵量が豊富であれば長期間生産できるのか

 千葉県を中心とする南関東ガス田については、天然ガスの可採埋蔵量として約3,685億立方メートルという推計値が知られています。この数字は、地下に相当量の天然ガス資源が存在することを示すものですが、推計の対象範囲や評価時点を確認せずに、現在の企業が経済的に採掘できる量と同一視することはできません。

 例えば、3,685億立方メートルを年間4億4,000万立方メートルで割ると、単純計算では約838年に相当します。しかし、この計算は、年間生産量が一定であり、すべての資源を現在と同じ条件で採掘できることを暗黙に仮定しています。実際には、資源の分布、井戸ごとの生産能力、地下水の採取規制、設備更新、販売価格、採掘費用、環境対策費などの影響を受けるため、この値を実際の操業可能年数と解釈することはできません。

 資源開発において重要なのは、地中に存在すると推定される資源の総量だけではなく、技術的、経済的、制度的、環境的な条件を満たして生産できる量です。また、総埋蔵量が大きくても、年間に生産できる量が小さければ、全国の天然ガス需要を大幅に代替することはできません。

 今後、天然ガス産業の将来性を分析するためには、可採埋蔵量だけでなく、年間生産量、井戸ごとの生産能力、設備投資額、採掘費用、販売価格、環境対策費などを組み合わせる必要があります。特に地盤沈下防止のための採取制約がある地域では、地下資源が豊富に存在することと、事業として増産できることを明確に区別しなければなりません。

9.千葉県九十九里沖の二酸化炭素地下貯留は新たな産業になるのか

 千葉県では、天然ガスとヨウ素に加え、地下の地質構造を利用した二酸化炭素貯留の可能性も検討されています。CCS(Carbon dioxide Capture and Storage・二酸化炭素回収・貯留)は、工場や発電所などから発生する二酸化炭素を分離・回収し、地下の適切な地層へ圧入して長期的に貯留する技術です。大規模な工業地帯で排出される二酸化炭素を地下へ貯留できれば、産業活動に伴う温室効果ガス排出量を抑える手段の一つとなる可能性があります。

 2026年4月15日、経済産業省は千葉県九十九里沖の特定区域について、二酸化炭素の地下貯留に適した地層を調査するための試掘を許可しました。さらに、二酸化炭素の貯留事業に関する法律は2026年5月22日に主要な貯留事業規定が施行され、事業許可、保安管理、監視などに関する制度が整備されました。

 ただし、試掘の許可が与えられたことは、商業的な貯留事業の実施が決定したことを意味しません。地下に十分な貯留容量が存在するか、二酸化炭素を閉じ込める遮へい層が連続しているか、長期的な漏えいや地盤への影響を適切に管理できるかなどは、調査と検証が必要です。また、二酸化炭素の回収設備、輸送設備、圧入施設の整備費用を含め、事業全体の採算性を評価しなければなりません。

 九十九里沖での地下貯留が技術的・経済的に成立すれば、千葉県の地下資源関連産業に新たな事業分野が加わる可能性があります。しかし、天然ガスの採掘と二酸化炭素の地下貯留は、利用する地層や設備、安全管理上の要件が必ずしも同じではありません。既存の天然ガス産業の技術を活用できる部分と、新たな技術開発や設備投資が必要になる部分を区別して評価することが重要です。

10.産出都市が未来産業都市へ発展するための条件

10-1.資源採取から高付加価値製品までの産業をどう結び付けるか

 天然ガスやヨウ素を産出する地域が経済的に発展するためには、地下資源を採取して販売するだけでなく、可能な範囲で地域内の加工、研究開発、製造、設備保守などと結び付けることが重要です。ただし、すべての工程を同じ地域に集約すれば必ず経済的に有利になるわけではありません。高度な加工設備を新設する場合には、地域内の技術者や需要家、輸送費、設備費用などを考慮し、既存の産業集積がある地域との比較が必要です。

 ヨウ素では、高純度精製、ヨウ素化合物、医薬品中間体、電子材料、太陽電池材料、使用済み製品からの回収技術などが候補になります。天然ガスでは、地域内の熱電併給、産業用熱源、化学工業用原料、低炭素水素製造、関連設備の保守管理などが考えられます。これらの分野は必要な設備や人材、競争環境が異なるため、地域の既存産業との適合性を分析し、限られた投資資金をどこへ配分するか判断しなければなりません。

 特に重要なのは、産出地域でどの程度の付加価値が生まれるかという点です。例えば、ヨウ素の市場価格が上昇して生産企業の利益が増えても、利益の大部分が地域外へ配分され、地元の雇用や取引が増えなければ、地域経済への波及効果は限定されます。一方、大規模な製造工場が新設されなくても、地元企業が設備保守や輸送、分析、研究開発などを受注できれば、地域内所得の増加につながる可能性があります。

10-2.大学・研究機関との連携

 千葉大学には、千葉ヨウ素資源イノベーションセンターが設置され、ヨウ素の基礎研究や産業応用が進められています。大学や研究機関との連携は、ヨウ素の新しい用途の開発、高純度材料の製造、分析技術の高度化、専門人材の育成などに役立つ可能性があります。

 ただし、研究機関が存在するだけで地域に企業が集まり、雇用が増えるわけではありません。研究成果を事業化する企業、量産設備への投資、知的財産の管理、販路の開拓、技術者の確保などが必要です。研究開発を地域経済へ結び付けるためには、共同研究の件数だけでなく、事業化された技術の数、地域企業との取引額、継続的な雇用創出などを評価する必要があります。

 茂原市や長生地域で大学との連携を強化する場合にも、新たな研究施設を建設することが目的になってはいけません。既存企業が抱える技術的な課題を明確にし、それに対応する研究テーマや人材育成を進める方が、事業化に結び付く可能性は高いと考えられます。

10-3.事業採算性と地域経済効果を分けて評価する

 資源産業への投資を評価する際には、事業そのものが利益を生み出すかという問題と、その利益が地域経済にどれだけ残るかという問題を区別する必要があります。企業にとっては、初期投資額、年間売上高、営業費用、設備更新費用、資金調達費用などから事業採算性を判断することが重要です。一方、自治体にとっては、地元雇用、地域内調達、税収、所得、環境負荷などを含めた評価が必要になります。

 投資採算性を測る代表的な方法の一つに、NPV(Net Present Value・正味現在価値)があります。これは、将来の現金収支を割引率によって現在価値に換算し、初期投資額などと比較する方法です。将来の収益見通しが良好でも、初期投資や維持費が大きければ、経済的に成立しない場合があります。

 また、企業の正味現在価値が正であっても、その効果が地域住民の所得増加に直結するとは限りません。地域経済への波及効果を検証するには、地域内で雇用された人数、企業間取引の規模、地元企業の受注、住民所得、税収などを測定する必要があります。資源産業が成長したという事実と、地域が豊かになったという判断は、別々の統計によって確認すべきです。

11.千葉県・新潟県・宮崎県の将来戦略を比較する

11-1.千葉県~ヨウ素を中心とした高付加価値材料産業

 千葉県では、水溶性天然ガスの大幅な増産が地盤沈下防止との関係で制約を受けるため、天然ガスの地域内利用を効率化しながら、ヨウ素を中心とした高付加価値材料産業を発展させる方向が検討に値します。天然ガスの生産量を増やすことだけを成長目標とするのではなく、既存の資源採取設備や化学工業の技術を生かし、より高い付加価値を生む製品や技術へ展開することが重要です。

 茂原市と長生地域では、天然ガスとヨウ素の生産、化学関連企業、専門技術者、設備保守の経験などが産業上の基盤となります。今後は、高純度ヨウ素化合物、医療・電子材料、ペロブスカイト太陽電池材料、資源回収技術などについて、既存企業の技術や需要家との関係を踏まえた事業化可能性を検証する必要があります。

 また、いすみ市や大多喜町などでは、各地域の資源採取や産業史、交通条件、人口構造を踏まえ、広域的な産業連携を検討する余地があります。すべての市町村に独立した製造拠点を整備するよりも、採取、精製、研究開発、設備保守、人材育成などの機能を地域内で分担する方が、経済的に合理的な場合もあります。

 天然ガスとヨウ素の歴史を生かした産業教育や観光も地域資源の活用方法の一つですが、それだけで地域経済を大幅に成長させることは難しいと考えられます。持続的な雇用と所得を生むためには、資源産業に関連する実際の製造活動やサービス事業が維持・発展することが重要です。

11-2.新潟県~天然ガス産業基盤を活用した低炭素化

 新潟県の強みは、全国最大の天然ガス生産量だけでなく、ガス田、パイプライン、化学工場、港湾、発電設備などの産業基盤が存在していることです。これらの設備や技術を利用できれば、天然ガスの供給を維持しながら、水素・アンモニア製造、二酸化炭素の回収・貯留、化学原料の製造などへ事業を展開できる可能性があります。

 長岡市では、天然ガスの生産基盤と需要家の近接性を生かした地域内利用が重要であり、柏崎市では水素・アンモニア製造と地下貯留の実証を通じて、既存の天然ガス産業の技術を新しい分野へ応用する動きが見られます。新潟市では、水溶性天然ガスとヨウ素の同時生産が行われており、化学材料産業との連携も検討できる環境があります。

 ただし、新潟県の将来戦略にも、天然ガス需要の変化と脱炭素政策との整合性という課題があります。水素やアンモニアが将来的に広く利用されるとしても、天然ガスを原料とする方式が長期間にわたって競争力を維持できるとは限りません。再生可能エネルギー由来の水素や他の低炭素技術との比較を行い、既存のガス産業を維持すること自体が目的とならないようにする必要があります。

11-3.宮崎県~資源採取と化学製品製造の複合型拠点

 宮崎県宮崎市は、国内の天然ガスとヨウ素の産出地域として、千葉県や新潟県とともに比較対象とすべき地域です。宮崎市佐土原町には天然ガス、ヨウ素、ヨウ素化合物を取り扱う工場が存在しており、資源採取から化学製品の製造までを組み合わせた事業が行われています。

 宮崎県のヨウ素生産規模は千葉県より小さいものの、資源産業の将来性は生産量の大小だけで決まるわけではありません。地域に立地する企業の技術、製品構成、販売先、設備投資などによって、同じ資源から生み出される付加価値は異なります。宮崎市を比較対象に加えることで、大規模産地と比較的小規模な生産拠点で、どのような事業構造が成立しているのかを検討できます。

 特に、ヨウ素化合物や高純度製品などの加工工程をどこまで担っているか、採掘部門と製造部門の連携がどの程度あるかを比較できれば、茂原市や長生地域の産業高度化を考える際にも参考になります。ただし、地域別の収益や雇用への影響は、企業の公開情報だけでは十分に把握できない場合があるため、地域経済への寄与を判断する際には慎重な分析が必要です。

12.現実性の低い期待をどのように評価するべきか

 国内天然ガスとヨウ素には産業上の価値がありますが、資源の存在から直接、地域の経済成長や日本全体のエネルギー自給率向上を予測することはできません。特に、国内天然ガスによって輸入依存を解消できるという見方は、現在の国内生産量が全国供給量の約2%であることを踏まえると現実的ではありません。国産天然ガスの役割は、全国需要の全面的な代替ではなく、地域内供給、供給経路の分散、産業用燃料としての利用などに見いだす方が適切です。

 天然ガスを完全なクリーンエネルギーとする評価にも注意が必要です。石炭や石油より燃焼時の二酸化炭素排出量が少ない場合があっても、化石燃料である以上、燃焼による排出は避けられません。採掘から利用までのメタン漏えいを含めれば、環境上の利点が縮小する可能性もあるため、燃料転換の効果は個別の設備条件に基づいて判断しなければなりません。

 また、ヨウ素が大量に産出することを理由に、太陽電池工場が産出地域へ立地すると予測することも適切ではありません。ヨウ素は国内外へ輸送できる原料であり、製造拠点の立地には技術、人材、電力、物流、需要家、既存の産業集積などが影響します。産出地域が高付加価値製品の生産まで担えるかどうかは、企業の設備投資や事業戦略によって決まります。

 地下埋蔵量の大きさと地域経済の豊かさを直接結び付ける考え方にも問題があります。資源が豊富でも採掘費用が高く、環境規制が厳しければ生産量は限定されます。また、資源関連企業の売上高が増加しても、地域内雇用や所得、税収が増えなければ、住民生活への波及は小さくなります。

 天然ガスから水素へ転換すれば脱炭素化が達成できるという見方も、製造工程で発生する二酸化炭素やメタン漏えいを無視しています。水素の利用時に二酸化炭素が発生しないことと、製造から利用までの環境負荷が小さいことは別問題であり、エネルギーシステム全体の排出量を測定して評価する必要があります。

13.今後、産出都市の将来性を判断するために必要な統計

 天然ガスとヨウ素の産出都市を客観的に比較するためには、資源生産量だけでなく、産業構造と地域経済への影響を示す統計を継続的に確認する必要があります。天然ガスについては、都道府県別・鉱区別の年間生産量、井戸ごとの生産能力、可採埋蔵量、採掘費用、販売価格、かん水採取量、地下還元量、メタン漏えい量、地盤沈下量などが重要です。

 ヨウ素については、都道府県別生産量、国内外の販売価格、用途別需要、精製能力、ヨウ素化合物の製造量、設備投資額などが必要になります。ペロブスカイト太陽電池の普及に伴う影響を検証する場合には、太陽電池の導入容量だけでなく、単位発電容量当たりのヨウ素使用量、製造工程での歩留まり、使用済み製品からの回収率などを確認しなければなりません。

 地域経済への影響を測る指標としては、資源関連企業の従業員数、地域内調達額、設備投資額、製造品出荷額等、市町村民所得、税収などが挙げられます。ただし、これらの指標が増えた場合でも、それが天然ガスやヨウ素産業の成長によるものなのか、他の要因によるものなのかを区別する必要があります。

 例えば、茂原市と大多喜町で産業関連雇用の変化を比較する場合、人口規模、年齢構成、通勤圏、既存の製造業の集積などが異なるため、単純な人数比較だけでは適切な評価になりません。産業政策の効果を検証するには、施策導入前後の変化に加え、条件の近い他地域との比較や、地域別の産業構造の違いを考慮した分析が必要です。

 また、将来の事業性を予測する際には、天然ガス価格、ヨウ素価格、採掘費用、設備更新費用などの変動を考慮することが重要です。一つの価格や需要見通しだけを採用するのではなく、価格が上昇する場合、現状程度で推移する場合、低下する場合などを比較し、どの条件で事業が成立するのかを検証する方が現実的です。

 そのうえで、事業の利益が地域内にどの程度残るのかを分析する必要があります。資源関連企業の生産額だけでなく、地域住民の所得、地元企業への発注、雇用の質、税収、環境対策費用などを総合的に評価して初めて、資源産業が地域社会の持続可能性に貢献しているかを判断できます。

14.現実的な結論~資源の豊かさよりも、産業としての利用能力が将来を決める

 日本国内の天然ガスは、新潟県を最大産地として、千葉県、北海道、秋田県、宮崎県などで生産されています。2024年の国内生産量は約19億立方メートルであり、新潟県がその72.3%を占めています。一方、国内天然ガス生産量は日本全体の供給量の約2%にとどまるため、国産天然ガスだけで輸入依存を大幅に解消することは困難です。

 しかし、国産天然ガスには、生産地と需要地を近接させることによる供給上の利点があります。工場、病院、公共施設などでの効率的な熱電併給や産業用熱源としての利用は、地域のエネルギー供給を多様化させる可能性があります。また、新潟県のように大規模な天然ガス産業基盤がある地域では、水素・アンモニア製造や二酸化炭素回収・貯留などへ既存技術を応用する動きも進んでいます。ただし、これらの事業については、温室効果ガスの排出削減効果と採算性を継続的に検証する必要があります。

 ヨウ素については、千葉県、新潟県、宮崎県が国内の主要産地であり、日本は世界第2位の生産国です。特に千葉県は国内生産の大部分を担っており、茂原市や長生地域には、天然ガスとヨウ素の採取・精製に関する産業基盤が形成されています。ヨウ素は医療、電子材料、化学工業などに利用されているほか、ペロブスカイト太陽電池の主要原材料の一つとして、今後の需要拡大が期待されています。

 ただし、ヨウ素の需要が増えることと、茂原市や大多喜町などの産出地域で雇用や所得が増えることは同じではありません。産出地域が経済的な利益を得るためには、原料の採取だけでなく、精製、化学材料化、研究開発、設備保守、回収・再利用などの工程にどこまで関わることができるかが重要です。その際には、地域内で事業を行うことの経済合理性を確認し、企業の需要や投資計画に基づいて産業の発展可能性を評価する必要があります。

 千葉県では、天然ガスの大量増産よりも、地盤沈下を防止しながら既存資源を効率的に利用し、ヨウ素関連材料の高付加価値化を進める方向が合理的です。新潟県では、天然ガス産業の生産設備や供給網を生かしながら、低炭素エネルギーや化学産業への技術的な転換を検討する余地があります。宮崎県では、天然ガスとヨウ素化合物の製造を結び付けた既存の事業基盤があり、産出量だけでは測れない産業上の価値を比較する対象となります。

 さらに、千葉県九十九里沖で進められている二酸化炭素地下貯留の調査は、地下の地質構造そのものが将来の新たな産業基盤となる可能性を示しています。しかし、地下貯留についても、技術的な安全性、環境への影響、経済性、地域住民への説明などを検証する必要があり、試掘段階の事業を将来の地域経済効果として確定的に扱うことはできません。

 日本の天然ガスとヨウ素は、単に地下に存在するだけでは経済的な価値を十分に生み出しません。資源を安全かつ効率的に採取し、加工し、利用し、その技術と利益を地域社会へどのように結び付けるかによって、産出地域の将来は変わります。

 特に人口減少が進む地方では、資源関連産業の生産額が増加するだけでなく、地域住民の雇用と所得が維持され、若い世代が働き続けられる環境が形成されることが重要です。天然ガスとヨウ素の産出地域が将来の産業拠点として発展できるかどうかは、埋蔵量の大きさよりも、環境制約の中で技術を高度化し、事業を成立させ、その付加価値を地域に残せるかによって決まると考えられます。

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