地域資源から未来のエネルギー産業へ発展できる条件を検証する
はじめに
日本は、石油や天然ガスの大部分を海外から輸入しています。
そのため、国内で天然ガスが産出されていると聞くと、日本のエネルギー自給率を大きく改善できる資源ではないか、産出地域に新しいエネルギー産業を形成できるのではないか、と期待したくなります。
また、千葉県や新潟県では、天然ガスとともにヨウ素が産出されています。
ヨウ素は、医薬品、殺菌剤、X線造影剤、工業材料などに利用されるだけでなく、次世代型太陽電池の主要原材料の一つとしても注目されています。
しかし、国内天然ガスとヨウ素を同じ将来産業として扱う場合には、注意が必要です。
天然ガスは燃焼によってエネルギーを得る化石燃料です。一方、ヨウ素は、医療、化学、電子材料、太陽電池などに利用される鉱物資源です。
両者は同じ地下水から回収される場合がありますが、用途も市場も将来性も同じではありません。
この記事では、次の点を整理します。
- 日本国内の天然ガスの主要産地
- ヨウ素の主要産地
- 千葉県と新潟県で天然ガスとヨウ素が同時に産出される理由
- 国内天然ガスが日本のエネルギー供給で果たせる役割
- ヨウ素が次世代エネルギー産業へ結び付く可能性
- 産出地域が資源採取地から産業集積地へ発展する条件
- 地盤沈下、脱炭素、資源枯渇などの制約
最初に結論~未来性が大きいのは「天然ガスの大量増産」より「ヨウ素を核とした材料産業」
日本国内の天然ガスとヨウ素について、現時点での結論は次のように整理できます。
第一に、日本の天然ガスの主要産地は新潟県と千葉県です。
新潟県では、地下のガス層から採取する構造性天然ガスと、水に溶けた状態で存在する水溶性天然ガスの両方が産出されています。
千葉県では、九十九里平野を中心に水溶性天然ガスが産出されています。経済産業省の関東東北産業保安監督部も、国内の天然ガスは主に新潟県と千葉県で産出していると説明しています。
第二に、ヨウ素の国内生産は千葉県に大きく集中しています。
千葉県によれば、日本は世界のヨウ素生産量の約30%を占める世界第2位の産出国で、その国内生産のほとんどを千葉県が担っています。千葉県の別資料では、県内生産量は国内の約8割、世界の約4分の1とされています。
第三に、国内天然ガスは、日本全体のエネルギー需要を単独で支えるほどの規模ではありません。
資源エネルギー庁によると、水溶性天然ガスは国産天然ガスの約2割を占めますが、日本の天然ガス供給全体では輸入LNG(Liquefied Natural Gas・液化天然ガス)が圧倒的な中心です。
第四に、天然ガスの将来性は、発電燃料として大量に増産することよりも、地域内利用、コージェネレーション、水素製造、非常用電源、産業用熱源などに限定して評価する方が現実的です。
第五に、ヨウ素には、次世代型太陽電池、医療、電子材料、化学材料などへの展開可能性があります。特に、ペロブスカイト太陽電池では、ヨウ素が主要原材料の一つであり、国内調達できる点が日本のサプライチェーン上の強みとされています。
ただし、ヨウ素が産出されるだけで、産出都市に太陽電池産業が自動的に集積するわけではありません。
将来産業へ発展させるには、
資源採取 +高純度精製 +化学材料化 +研究開発 +部材製造 +最終製品製造 +リサイクル
までを地域内または国内で結び付ける必要があります。
1.日本の天然ガスはどこで産出されているのか
新潟県~国内最大級の天然ガス産地
日本国内の天然ガス産地として最も重要なのが新潟県です。
新潟県では、新潟市、長岡市、柏崎市、胎内市、新発田市、村上市、阿賀野市など、広い地域で天然ガス資源が確認されています。県の資料では、構造性天然ガス、水溶性天然ガス、油溶性天然ガスなどが県内各地で産出していることが示されています。
長岡市
長岡市は、国内天然ガス産業を代表する都市の一つです。
長岡市によれば、市内産の天然ガスは国内生産量の約4割を占めるとされ、地域資源としての利用が進められています。市有施設のアオーレ長岡では、長岡産天然ガスを利用したコージェネレーションが導入され、発電時の排熱を冷暖房や融雪へ利用しています。
コージェネレーションとは、一つの燃料から電気と熱を同時に取り出す仕組みです。
発電だけを行う場合、発生した熱の多くは失われます。しかし、地域施設、病院、工場、温浴施設、融雪設備などで熱を利用できれば、総合的なエネルギー効率を高められます。
長岡市の事例は、国内天然ガスを大規模輸出産業にするのではなく、地域内で電気と熱を有効利用する方向を示しています。
新潟市
新潟市でも、水溶性天然ガスとヨウ素が生産されています。
新潟市内の事業所資料には、天然ガス生産量約3,378万立方メートル、ヨウ素生産量約930トンという事業規模が示されています。これは一事業所の資料であり、新潟市全体の生産量ではありませんが、市内で天然ガスとヨウ素の産業が現実に成立していることを示します。
柏崎市・胎内市
新潟県では、既存の天然ガス産業を水素・アンモニア、CCS(Carbon dioxide Capture and Storage・二酸化炭素回収・貯留)などへ展開する構想も進められています。
柏崎市では、天然ガスを原料とした水素・アンモニア製造と二酸化炭素処理を組み合わせる実証が進められており、胎内市周辺でも水素製造や二酸化炭素削減に関する計画が検討されています。
ただし、天然ガスから水素を製造しても、二酸化炭素を回収・貯留できなければ、完全な脱炭素エネルギーにはなりません。
そのため、将来性は技術的可能性だけでなく、回収率、貯留地点、費用、漏えい管理、需要家の確保まで含めて評価する必要があります。
千葉県~九十九里平野の水溶性天然ガス
千葉県の天然ガスは、主として九十九里平野とその周辺に分布しています。
千葉県によれば、県内には約1,000本の天然ガス井戸があり、そのほとんどが九十九里地域にあります。
千葉県の天然ガスは、地下の古い海水にメタンが溶け込んだ水溶性天然ガスです。
地上へくみ上げた地下水は「かん水」と呼ばれ、天然ガスとヨウ素の両方を含んでいます。
千葉大学の千葉ヨウ素資源イノベーションセンターによると、ヨウ素の原料となるかん水は、地下約500~2,000メートルから採取される約80万~280万年前の古代海水で、ヨウ素イオンを約100ppm含みます。
茂原市
茂原市は、千葉県の天然ガス・ヨウ素産業を代表する都市です。
茂原地域では、約300万~40万年前の地層から水溶性天然ガスが産出し、天然ガスとともにくみ上げられるかん水からヨウ素を回収しています。
茂原市は、天然ガスとヨウ素を地域の代表的資源として位置付けており、市内統計でも天然ガスの販売量や供給状況が掲載されています。
九十九里・長生地域
千葉県の総合計画では、九十九里ゾーンを県内天然ガスの主要生産地であり、ヨウ素生産の中心地と位置付けています。
この地域には、茂原市、東金市、山武市、大網白里市、九十九里町、白子町、長生村、一宮町、睦沢町、長南町、長柄町などが含まれます。
ただし、これらすべての市町村で、同じ量の天然ガスやヨウ素が産出しているわけではありません。
鉱区、井戸、事業所、配管、地質条件は地域ごとに異なります。したがって、市町村名が産出地域に含まれていても、生産量を市町村単位で単純比較することは困難です。
大多喜町
千葉県の水溶性天然ガス開発の歴史では、大多喜町も重要です。
茂原市の資料では、1930年代に大多喜町で天然ガスかん水からヨウ素を生産する技術が始まり、その後九十九里地域へ広がったとされています。
この意味で、大多喜町は現在の生産量だけでなく、日本の天然ガス・ヨウ素産業の歴史的な発祥地域として位置付けられます。
2.ヨウ素はなぜ千葉県と新潟県で産出されるのか
ヨウ素は、地下のかん水にヨウ化物イオンとして溶けています。
天然ガスを採取するためにかん水をくみ上げ、そこから天然ガスを分離した後、ヨウ素を抽出・精製します。
つまり、水溶性天然ガス地域では、
かん水の採取 →天然ガスの分離 →ヨウ素の回収 →残ったかん水の処理または地下還元
という工程になります。
水溶性天然ガスとヨウ素は、別々に地下へ存在しているのではなく、同じかん水資源を利用する産業です。
日本のヨウ素生産は、世界的にも大きな規模を持ちます。
千葉県は、日本が世界の約30%を生産する世界第2位のヨウ素産出国であり、国内ではそのほとんどが千葉県で生産されると説明しています。
新潟県もヨウ素産地であり、県資料では、新潟県が世界生産量の約3%を占める重要な地域とされています。ただし、この数値は過去の資料に基づくため、最新の世界シェアとは区別して扱う必要があります。
3.国内天然ガスは日本のエネルギー自給率を大きく改善できるのか
国内産であることには意味がある
国内天然ガスには、輸入LNGにはない利点があります。
- 海外輸送を必要としない
- 為替や国際海運の影響を受けにくい
- 地域内のパイプラインで供給できる
- 災害時の分散型エネルギーになり得る
- 地域雇用と税収を生む
- 発電と熱利用を組み合わせやすい
特に、病院、工場、公共施設、温浴施設など、電気と熱を同時に使う場所では、地域産天然ガスを利用したコージェネレーションに一定の合理性があります。
ただし供給量には限界がある
一方、日本の天然ガス需要全体に対する国内生産量は小さいままです。
資源エネルギー庁の資料では、日本の天然ガス供給の中心は輸入LNGであり、水溶性天然ガスは国産天然ガスの約2割を占めるものの、国全体の需要を代替する規模ではありません。
したがって、国内天然ガスについて、
日本は資源国になれる 輸入LNGを大幅に減らせる 国内産天然ガスだけで発電を賄える
と評価するのは現実的ではありません。
国内天然ガスの役割は、全国の主力エネルギーというより、
- 地域分散型エネルギー
- 産業用燃料
- 熱需要
- 非常用電源
- 脱炭素移行期の補完燃料
として考える方が適切です。
4.天然ガスは未来のエネルギーなのか
石炭・石油よりは二酸化炭素排出が少ない
天然ガスは、石炭や石油より燃焼時の二酸化炭素排出量が少ない燃料です。
そのため、石炭や重油から天然ガスへ燃料転換すれば、一定の排出削減効果があります。
しかし、天然ガスの主成分であるメタンそのものは、強い温室効果を持ちます。
採掘、処理、配管、利用過程で漏えいが発生すれば、燃焼時の二酸化炭素削減効果が小さくなる可能性があります。
したがって、天然ガスを「クリーンエネルギー」と断定するのは適切ではありません。
より正確には、
石炭・石油より排出量を抑えやすいが、化石燃料であることに変わりはない
と評価すべきです。
移行期エネルギーとしての役割
太陽光や風力は発電量が天候によって変動します。
そのため、発電量の不足を補う調整電源としてガス火力が利用される場合があります。
また、工場の高温熱や病院の給湯など、電化が難しい用途でも天然ガスが使われます。
国内天然ガスには、輸入LNGより供給経路が短く、地域内利用がしやすい利点があります。
しかし、長期的には、再生可能エネルギー、蓄電池、水素、電化、省エネルギーの進展によって、燃焼用天然ガスの需要が縮小する可能性があります。
水素製造への利用
天然ガスから水素を製造することは可能です。
ただし、一般的な天然ガス改質では二酸化炭素が発生します。
発生した二酸化炭素を回収・貯留した水素は、ブルー水素と呼ばれます。
新潟県では、天然ガス資源、既存パイプライン、化学産業、港湾を活用した水素・アンモニア拠点形成が検討されています。
ただし、ブルー水素の事業性は次の条件で決まります。
- 二酸化炭素回収率
- 天然ガス価格
- 水素製造費
- 二酸化炭素の輸送・貯留費
- メタン漏えい
- 水素需要
- 政府支援
- 貯留地点の安全性
したがって、天然ガス産地であれば水素産業が必ず成立するわけではありません。
5.ヨウ素は未来のエネルギー産業へどう結び付くのか
ペロブスカイト太陽電池
ヨウ素の将来用途として最も注目されているのが、ペロブスカイト太陽電池です。
ペロブスカイト太陽電池は、薄く、軽く、曲げられる可能性を持つ次世代型太陽電池です。
従来のシリコン太陽電池を設置しにくい壁面、曲面、軽量屋根などへの利用が期待されています。
経済産業省は、ペロブスカイト太陽電池の主要原材料であるヨウ素を日本国内で生産できることを、サプライチェーン上の強みと位置付けています。日本は世界第2位、約30%のヨウ素生産シェアを持つとされています。
これは、日本のエネルギー産業にとって重要です。
太陽電池を国内で生産しても、主要原材料を海外に依存すれば、価格高騰や輸出規制の影響を受けます。
ヨウ素を国内調達できれば、原料から製品までの供給網を国内に構築しやすくなります。
ただしヨウ素産地が太陽電池製造地になるとは限らない
ヨウ素を産出する千葉県や新潟県に、ペロブスカイト太陽電池工場が必ず立地するとは限りません。
工場立地では、原料産地だけでなく、
- 化学材料企業
- 電子部品企業
- 研究機関
- 電力
- 工業用水
- 物流
- 人材
- 大規模需要家
- 設備投資支援
などが重視されます。
ヨウ素は輸送可能な化学原料であるため、原料を産出地から別地域の工場へ運ぶこともできます。
したがって、産出都市が地域内で付加価値を得るには、単なる採掘だけでなく、ヨウ素化合物、高純度材料、電池材料、回収・再利用技術などへ産業を広げる必要があります。
医療・電子・化学材料
ヨウ素は、太陽電池以外にも幅広く利用されます。
- X線造影剤
- 殺菌剤・消毒剤
- 医薬品
- 偏光フィルム
- 樹脂安定剤
- 触媒
- 電子材料
- 放射性ヨウ素関連医療
- ヨウ素添加塩
ヨウ素は反応性、X線吸収能力、光学特性などを持ち、多様な用途に利用されています。
このため、ヨウ素産業の将来性は、エネルギーだけに依存しません。
医療、電子材料、化学、環境、農業など複数市場を持つことが、資源産業としての安定性につながります。
6.産出都市が未来産業都市へ発展するための条件
条件1~採掘だけで終わらせない
天然ガスやヨウ素を採取し、そのまま地域外へ出荷するだけでは、地域に残る付加価値は限定されます。
地域内で付加価値を高めるには、
資源採取 →精製 →化学材料化 →部材製造 →研究開発 →最終製品 →保守・回収・再利用
へ産業を広げる必要があります。
ヨウ素では、ペロブスカイト材料、医薬品中間体、高純度化合物、リサイクル技術などが候補になります。
条件2~大学・研究機関との連携
千葉大学には、千葉ヨウ素資源イノベーションセンターが設置され、ヨウ素の基礎研究と産業応用が進められています。
産出地域に研究開発機能を置くことができれば、
- 専門人材の育成
- 企業との共同研究
- 試作
- 分析
- 新用途開発
- 起業支援
につながります。
ただし、研究施設をつくるだけでは産業集積にはなりません。
研究成果を事業化する企業、量産設備、知的財産戦略、市場開拓が必要です。
条件3~地域内エネルギー利用
天然ガスは、遠距離輸送よりも、産出地周辺で利用する方が合理的な場合があります。
- 地域工場
- 病院
- 公共施設
- 温浴施設
- 農業用施設
- 食品加工
- 非常用発電
- コージェネレーション
などへ供給できれば、地域内での経済循環が生まれます。
長岡市のコージェネレーションは、その一例です。
条件4~環境制約を産業政策に組み込む
千葉県では、天然ガスかん水の採取による地盤沈下が大きな課題となってきました。
県は事業者と協定を結び、かん水採取量を抑制してきました。その結果、かん水揚水量は長期的に減少し、近年の天然ガス生産量はおおむね横ばいとされています。
つまり、資源が地下に存在していても、自由に増産できるわけではありません。
未来産業として持続させるには、
- かん水の地下還元
- 地盤沈下の監視
- 地下水位の管理
- 坑井の安全管理
- メタン漏えい対策
- 廃水処理
- 地域住民への情報公開
が必要です。
新潟県では、かん水を地下へ戻す全量還元方式を取り入れた新規開発計画が検討されています。
ただし、還元すればすべての環境問題が解消するとは限りません。
地層ごとの圧力変化、地盤挙動、水質、長期安定性を継続監視する必要があります。
条件5~資源量と採算性を公開する
地域振興策では、「埋蔵量が豊富」「世界有数の資源」といった表現が使われがちです。
しかし、産業として重要なのは、地中に存在する総量ではなく、経済的かつ環境的に採取できる可採埋蔵量です。
千葉県の資料には、天然ガスの可採埋蔵量として3,685億立方メートルという数字があります。
ただし、この数字だけでは、毎年どの程度採取できるか、何年間利用できるか、地盤沈下を防ぎながらどこまで増産できるかは判断できません。
事業性の評価には、
- 年間生産量
- 採掘費
- 坑井更新費
- パイプライン費
- 精製費
- 環境対策費
- 販売価格
- 埋蔵量の確実性
が必要です。
7.千葉県と新潟県では未来戦略が異なる
千葉県~ヨウ素を中心とした高付加価値材料産業
千葉県では、天然ガスの大規模増産は地盤沈下対策との関係で制約を受けます。
そのため、将来戦略としては、
- 天然ガスの地域内効率利用
- ヨウ素の高付加価値化
- ペロブスカイト太陽電池材料
- 医薬・電子材料
- 大学との研究連携
- ヨウ素リサイクル
- 資源教育・産業観光
などが比較的現実的です。
特に茂原市、九十九里地域、長生地域では、資源産出地という強みを、化学、研究、教育、産業観光へ広げられるかが課題です。
ただし、観光施設や展示施設だけで地域経済を大きく変えることは困難です。
雇用と所得を生むには、研究・製造・精製・設備保守などの実業が必要です。
新潟県~ガス産業基盤を活用した水素・化学・地域エネルギー
新潟県では、天然ガス生産、パイプライン、LNG基地、化学工業、港湾、発電所が存在します。
そのため、
- 天然ガス利用
- 水素・アンモニア
- CCS
- 化学原料
- ガス火力
- 地域コージェネレーション
- ヨウ素
を組み合わせたエネルギー・化学産業拠点を形成しやすい条件があります。
ただし、新潟県でも、天然ガス依存を長期固定化すると、脱炭素政策との整合性が問題になります。
したがって、既存ガス産業を守るだけでなく、将来的に低炭素・脱炭素技術へ移行できる産業構造をつくる必要があります。
8.現実性の低い見方
「国内天然ガスで日本の輸入依存を解消できる」
国内天然ガスは重要ですが、日本全体の需要と比較すると規模は限定的です。
輸入LNGを全面的に代替できるとは考えにくい状況です。
「天然ガスは完全なクリーンエネルギーである」
天然ガスは石炭や石油より二酸化炭素排出量を抑えやすい一方、化石燃料です。
メタン漏えいも含めて評価する必要があります。
「ヨウ素があるため太陽電池工場が必ず立地する」
原料産地であることは強みですが、工場立地には人材、研究、物流、電力、企業集積などが必要です。
「埋蔵量が多ければ地域は豊かになる」
資源産業で地域所得を増やすには、採掘権、雇用、税収、加工、研究、製造が地域に残る必要があります。
資源を採取して地域外へ送るだけでは、地域への波及は限定的です。
「水素へ転換すれば脱炭素になる」
天然ガス由来水素は、製造時の二酸化炭素を十分に回収・貯留しなければ、脱炭素効果は限定的です。
9.産出都市ごとの現実的な方向性
茂原市・長生地域
- ヨウ素の高付加価値材料化
- 千葉大学・企業との研究連携
- ペロブスカイト太陽電池材料
- 医薬・電子材料
- 地域内天然ガス利用
- 資源産業の技術者育成
- 地盤沈下対策技術
茂原市の強みは、天然ガスの量よりも、天然ガスとヨウ素の両方を持つ化学資源産業の蓄積にあります。
九十九里地域
- ヨウ素・天然ガス生産
- かん水処理技術
- 地下還元・環境監視
- 農業施設へのエネルギー供給
- 災害時分散電源
- 資源産業と再生可能エネルギーの併存
九十九里沖では洋上風力発電の可能性も検討されており、地下資源と再生可能エネルギーを組み合わせる地域戦略が考えられます。
ただし、洋上風力と天然ガス産業は別事業であり、単に同じ地域に存在するだけで相乗効果が生まれるわけではありません。
長岡市
- 地域産天然ガスのコージェネレーション
- 工場・病院・公共施設への供給
- 融雪・熱利用
- ガス関連技術者の育成
- 水素・CCSへの段階的転換
長岡市は、産出、パイプライン、需要家が近接している点に強みがあります。
新潟市・胎内市・柏崎市
- 水素・アンモニア
- CCS
- 化学産業
- LNG・ガス供給拠点
- ヨウ素精製
- 港湾物流
- 発電・産業用熱
これらの地域は、資源産地だけでなく、大規模なエネルギー・化学産業基盤を持つ点で、千葉県の九十九里地域とは異なります。
10.今後確認すべき指標
国内天然ガスとヨウ素を未来産業として評価するには、次の指標を継続的に確認する必要があります。
- 国内天然ガスの年間生産量
- 都道府県・鉱区別生産量
- 可採埋蔵量
- 天然ガス販売価格
- メタン漏えい量
- かん水揚水量
- 地盤沈下量
- 地下還元率
- ヨウ素生産量
- ヨウ素価格
- ヨウ素の用途別需要
- ペロブスカイト太陽電池の量産規模
- 国内材料調達率
- 水素製造費
- 二酸化炭素回収率
- 地域内雇用者数
- 地域内の加工・研究開発比率
- 採掘後の資源リサイクル率
生産量が増えたかどうかだけでは、地域の産業発展を判断できません。
高付加価値化、雇用、研究開発、環境負荷、地域内所得を併せて見る必要があります。
現実的な結論
日本国内の天然ガスの主要産地は、新潟県と千葉県です。
都市・地域としては、新潟市、長岡市、柏崎市、胎内市などの新潟県内地域と、茂原市を中心とする九十九里・長生地域が重要です。
ヨウ素については、千葉県が国内生産の大部分を担い、新潟県も重要な産地です。
両資源は、同じかん水から回収される場合がありますが、未来産業としての意味は異なります。
天然ガスは、国内産であること、供給距離が短いこと、熱利用や非常用電源に使えることに価値があります。
しかし、日本全体のエネルギー需要を支える規模ではなく、長期的には脱炭素との整合性が必要です。
したがって、天然ガスの将来は、
- 地域分散型エネルギー
- コージェネレーション
- 産業用熱
- 非常用電源
- 水素製造への移行
という限定された用途で評価するのが現実的です。
一方、ヨウ素は、医療、化学、電子材料、次世代太陽電池など、燃焼を伴わない高付加価値資源です。
特にペロブスカイト太陽電池では、ヨウ素を国内生産できることが、日本のエネルギー安全保障と産業政策の両方に意味を持ちます。
ただし、ヨウ素が産出されるだけでは地域産業は発展しません。
産出都市が未来の産業都市へ発展するには、
採取する地域 から 精製し、研究し、材料をつくり、再利用する地域
へ変わる必要があります。
千葉県では、天然ガスの大量増産よりも、ヨウ素を中心とした高付加価値材料、研究開発、ペロブスカイト太陽電池、医療・電子材料への展開が有望です。
新潟県では、既存の天然ガス、パイプライン、港湾、化学工業を生かし、水素、アンモニア、CCS、地域エネルギーへ移行する可能性があります。
日本国内の天然ガスとヨウ素は、資源量だけを見れば日本経済全体を変えるほどではありません。
しかし、地域内利用、高付加価値化、環境技術、次世代材料を組み合わせれば、産出地域にとって重要な産業基盤になる可能性があります。
その成否を決めるのは、地下に資源があるかどうかだけではありません。
どこまで地域内で加工し、研究し、雇用を生み、環境負荷を管理できるかです。

