地域分析記事

地域の暮らしと地域課題を数学とデータで考える

地方移住の魅力として、よく挙げられるのが住宅費の安さです。

都市部では数千万円する戸建て住宅が、地方では数百万円で売られていることがあります。賃貸住宅についても、都市部より低い家賃で広い住宅を借りられる地域があります。

そのため、

都市部で家賃を払い続けるより、地方で安い家を買った方が得なのではないか

と考える人は少なくありません。

確かに、住宅の購入価格や家賃だけを比べれば、地方移住が有利になる場合があります。

しかし、地方で生活するためには、住宅費以外にも費用がかかります。

例えば、自動車が2台必要になれば、車両購入費、燃料費、自動車保険、車検、税金、整備費が発生します。

中古住宅を購入すれば、屋根、外壁、水回り、給湯器、浄化槽などの修繕費も考えなければなりません。

さらに、草刈り、庭木管理、通院、買い物、家族に会うための長距離移動など、都市部では意識しなかった負担が増えることもあります。

反対に、地方では駐車場代が不要になり、住宅面積が広くなり、通勤時間が短くなる可能性もあります。

したがって、地方移住が得かどうかは、住宅価格だけでは判断できません。

重要なのは、次のような10年間の総負担を比較することです。

10年間の生活負担
=住宅費
+自動車費
+光熱・設備費
+住宅管理費
+移動費
+将来の処分費
-10年後の住宅売却手取額

この記事では、60歳前後の夫婦2人が、都市近郊の賃貸住宅から地方の中古住宅へ移住するモデルケースを設定し、10年間の生活費を比較します。

記事内の金額は、全国共通の相場を示すものではありません。

地域、住宅、車種、走行距離、家族構成、健康状態などによって結果は大きく変わるため、判断方法を説明するための試算例としてご覧ください。

地方移住で本当に安くなるのは住宅費だけか

地方移住を検討するとき、多くの人が最初に比べるのは住宅価格です。

例えば、都市近郊で月8万円の賃貸住宅に住んでいる人が、地方で500万円の中古住宅を見つけたとします。

都市近郊の家賃を10年間払い続けると、単純計算では960万円です。

月8万円×12か月×10年
=960万円

これに対して、地方の中古住宅は500万円です。

住宅価格だけを比べると、地方の方が460万円安く見えます。

都市近郊の家賃960万円
-地方住宅の購入価格500万円
=460万円

しかし、実際には次の費用が加わります。

  • 不動産購入時の諸費用
  • 入居前の修繕費
  • 固定資産税
  • 火災保険
  • 屋根や外壁の修繕
  • 草刈りや庭木管理
  • 浄化槽の点検や清掃
  • 給湯器などの設備交換
  • 自動車の購入費
  • 自動車の維持費
  • 遠方への移動費
  • 10年後の売却や解体に必要な費用

一方、都市近郊でも家賃だけではありません。

  • 更新料
  • 駐車場代
  • 自動車または公共交通費
  • 火災保険
  • 引っ越し費用
  • 家賃上昇の可能性

このため、都市部と地方は、同じ期間、同じ生活水準、同じ家族条件で比較する必要があります。

全国平均の家賃だけでは移住先を判断できない

総務省統計局の2023年住宅・土地統計調査では、借家のうち専用住宅の全国平均家賃は、1か月当たり5万9,656円でした。2018年と比べると7.1%上昇しています。

ただし、この金額は全国平均です。

都市中心部、都市郊外、地方都市、農村部では家賃が異なります。また、住宅面積、築年数、駅までの距離、駐車場の有無によっても条件は変わります。

住宅・土地統計調査は、住宅の所有関係、居住状況、空き家、高齢者の住まい方などを全国・地域別に把握するための基幹的な統計です。地方移住を検討するときは、全国平均だけでなく、候補地域の市区町村別データや実際の募集物件を確認する必要があります。

全国平均の家賃が約6万円だからといって、自分が検討している都市部の家賃や地方の家賃も同じとは限りません。

この記事では、比較を分かりやすくするため、都市近郊の家賃を月8万円と仮定します。

今回のモデルケース

今回は、60歳前後の夫婦2人が、都市近郊の賃貸住宅から地方の中古戸建てへ移住する場合を想定します。

都市近郊で暮らし続ける場合

項目 仮定条件
世帯 夫婦2人
住宅 賃貸住宅
家賃 月8万円
更新料等 2年ごとに8万円
駐車場 月1万2,000円
自動車 1台
年間走行距離 6,000キロメートル
買い物 自動車、徒歩、公共交通
病院 自動車または公共交通で20分以内
比較期間 10年間

地方へ移住する場合

項目 仮定条件
世帯 同じ夫婦2人
住宅 中古戸建てを購入
購入価格 500万円
建物 築35年、木造戸建て
土地 250平方メートル
入居前修繕 200万円
自動車 2台
年間走行距離 2台合計1万5,000キロメートル
買い物 自動車で片道10キロメートル
病院 自動車で片道20キロメートル
比較期間 10年間
10年後 住宅を売却すると仮定

このモデルでは、都市近郊と地方で食費や一般的な日用品費は大きく変わらないものとして、比較の中心から外します。

実際には、店舗の選択肢、宅配費、地域価格、家庭菜園などにより差が生じる可能性があります。

比較する費用の範囲

今回は、次の費用を比較します。

分類 都市近郊 地方
住宅 家賃、更新料、保険 購入、諸費用、修繕、税金
自動車 1台 2台
駐車場 有料 自宅敷地内
住宅管理 比較的少ない 草刈り、庭木、設備管理
移動 公共交通を併用 自動車中心
将来処分 退去費用 売却または解体
時間負担 通勤・混雑 買い物・通院・管理

食費、医療費、娯楽費は個人差が大きいため、今回の中心的な比較からは除外します。

都市近郊の10年間の住宅費

家賃

家賃月8万円を10年間支払うと、960万円です。

8万円×12か月×10年
=960万円

更新料など

2年ごとに家賃1か月分相当の更新料がかかると仮定します。

10年間で4回更新するとします。

8万円×4回
=32万円

実際の更新料、事務手数料、保証料は契約によって異なります。

火災保険など

賃貸住宅の火災保険などを、2年間で2万円と仮定します。

2万円×5回
=10万円

退去費用

10年後の退去時に、原状回復などの自己負担が10万円発生すると仮定します。

通常損耗の扱いや借主負担は契約内容、居住状況などによって異なります。

都市近郊の住宅費合計

項目 10年間の試算額
家賃 960万円
更新料等 32万円
火災保険等 10万円
退去時負担 10万円
合計 1,012万円

10年間の住宅費は、約1,012万円となります。

この住宅費には、資産として残る土地や建物はありません。

一方で、大規模修繕や固定資産税を直接負担する必要はなく、転居しやすいという利点があります。

地方移住の住宅購入費

地方の住宅については、購入価格だけでなく、購入諸費用と入居前修繕を含めます。

住宅購入価格

購入価格
=500万円

購入時の諸費用

所有権移転登記、登録免許税、司法書士報酬、仲介関連費用、不動産取得税、建物調査などを合わせ、80万円と仮定します。

項目 試算額
登記・税金関連 20万円
仲介・契約関連 35万円
建物調査 7万円
その他 18万円
合計 80万円

実際の費用は、固定資産評価額、仲介の有無、税の軽減措置、物件状態などによって異なります。

入居前修繕費

築35年の住宅を最低限安心して使うため、次の修繕を行うと仮定します。

修繕内容 試算額
屋根・雨どい 40万円
外壁補修 20万円
台所 35万円
浴室・給湯器 45万円
トイレ 20万円
床・内装 20万円
電気・水道 20万円
合計 200万円

全面的なリフォームではなく、居住に必要な最低限の工事を想定しています。

入居時までの住宅費

購入価格500万円
+購入諸費用80万円
+入居前修繕200万円
=780万円

購入時点ですでに、表示価格500万円に対して280万円が加わります。

地方住宅の10年間の維持費

住宅を購入した後は、税金、保険、修繕、敷地管理などの費用が続きます。

今回は、次のように仮定します。

項目 年間費用 10年間
固定資産税等 6万円 60万円
火災・地震保険等 5万円 50万円
草刈り・庭木管理 5万円 50万円
浄化槽管理 4万円 40万円
小修繕 5万円 50万円
合計 25万円 250万円

実際の固定資産税等は、土地、建物、評価額、自治体などによって異なります。

下水道地域では浄化槽費がかからない一方、上下水道料金や受益者負担などが関係する場合があります。

10年間に発生する追加修繕

築35年の住宅では、購入時に修繕しても、10年間に設備交換が必要になる可能性があります。

時期 内容 試算額
3年目 給湯器または空調設備 25万円
5年目 浄化槽・排水関係 20万円
7年目 外壁・雨どい補修 25万円
9年目 給排水設備 30万円
随時 その他修繕 50万円
合計 150万円

すべての住宅で同じ費用がかかるわけではありません。

建物状態が良ければ少なくなり、屋根、基礎、配管などに重大な問題があれば大きく増えます。

10年後の住宅価値をどう考えるか

住宅購入では、支出だけでなく、10年後にどの程度の価値が残るかも考える必要があります。

今回のモデルでは、購入時500万円の住宅について、10年後の売却価格を300万円と仮定します。

売却時の仲介、片付け、登記、その他費用を50万円とすると、売却手取額は250万円です。

売却価格300万円
-売却関連費用50万円
=売却手取額250万円

ただし、10年後に300万円で売れる保証はありません。

人口減少、建物劣化、災害リスク、交通環境、近隣施設の閉鎖などにより、売却価格が下がる可能性があります。

反対に、移住需要が増え、周辺環境が改善すれば、一定の価格を維持できる可能性もあります。

住宅・土地統計調査では、住宅や空き家の状況を地域別に把握できますが、個別物件の将来価格までは分かりません。候補地域の人口、取引事例、売出し期間、空き家数などを個別に確認する必要があります。

地方住宅の10年間の実質負担

ここまでの費用をまとめます。

項目 試算額
購入価格 500万円
購入諸費用 80万円
入居前修繕 200万円
10年間の維持費 250万円
追加修繕 150万円
支出合計 1,180万円
10年後の売却手取額 ▲250万円
実質負担 930万円
1,180万円-250万円
=930万円

住宅費だけを見ると、都市近郊の1,012万円に対し、地方は930万円です。

居住地 10年間の住宅費
都市近郊 1,012万円
地方 930万円
地方の方が少ない額 82万円

このモデルでは、地方の住宅費が82万円少なくなりました。

しかし、差は10年間で82万円です。

1年当たりでは8万2,000円、1か月当たりでは約6,800円です。

82万円÷120か月
=約6,800円

「地方の家は500万円、都市近郊の家賃は10年間で960万円」という最初の比較では、460万円の差があるように見えました。

しかし、諸費用、修繕、維持費、売却価値まで含めると、差は82万円まで縮小しました。

自動車1台と2台の違い

地方移住の費用を大きく左右するのが自動車です。

都市近郊では、夫婦で自動車1台を共有し、一部の移動に公共交通を利用できると仮定します。

地方では、買い物、通院、仕事、家族それぞれの外出に対応するため、2台必要になると仮定します。

政府の家計調査でも、自動車購入、燃料、整備、自動車保険などは「自動車等関係費」として家計支出の一分野に分類されています。ただし、全国平均は、自動車を保有しない世帯や購入年の違いも含むため、個別の移住試算には保有台数と走行距離を設定する方が適切です。

都市近郊の自動車・交通費

都市近郊では、普通乗用車1台を保有すると仮定します。

項目 年間費用 10年間
車両購入・買替え相当額 25万円 250万円
燃料費 8万円 80万円
自動車保険 6万円 60万円
税金・車検 7万円 70万円
整備・タイヤ 5万円 50万円
駐車場 14万4,000円 144万円
公共交通費 6万円 60万円
合計 714万円

車両購入・買替え相当額は、250万円の車を10年間使用し、10年後の価値を考慮しない簡略な試算です。

実際には、購入価格、ローン金利、下取り価格、車種、保有期間によって変わります。

地方の自動車・交通費

地方では、普通乗用車1台と軽自動車1台を保有すると仮定します。

項目 年間費用 10年間
2台の購入・買替え相当額 40万円 400万円
燃料費 20万円 200万円
自動車保険 11万円 110万円
税金・車検 12万円 120万円
整備・タイヤ 9万円 90万円
駐車場 0円 0円
公共交通費 2万円 20万円
合計 940万円

地方は駐車場代が不要ですが、2台分の購入費、保険、税金、整備費が発生します。

自動車・交通費の差

地方940万円-都市近郊714万円
=226万円

地方の自動車・交通費が、10年間で226万円多くなりました。

住宅費では地方が82万円有利でしたが、自動車費では226万円不利です。

自動車費の増加226万円
-住宅費の減少82万円
=地方の負担増144万円

住宅費と自動車費だけを合計すると、地方移住の方が144万円高くなる試算です。

住宅費と自動車費の10年間比較

項目 都市近郊 地方
住宅費 1,012万円 930万円
自動車・交通費 714万円 940万円
合計 1,726万円 1,870万円
差額 地方が144万円多い

このモデルケースでは、地方住宅の安さが、自動車2台の負担によって相殺されました。

1か月当たりの差は1万2,000円です。

144万円÷120か月
=月1万2,000円

つまり、

地方へ移住すれば住宅費が大幅に安くなる

という印象でも、生活に必要な自動車を含めると、10年間の総費用は都市近郊より高くなる可能性があります。

光熱費は地方の方が安いとは限らない

地方の戸建て住宅は、都市部の集合住宅より広いことがあります。

住宅が広くなれば、冷暖房する面積も増えます。

また、古い戸建てでは断熱性能が低く、冬季や夏季の光熱費が高くなる可能性があります。

一方、都市部でも電気、ガス、水道の料金はかかります。

今回は比較のため、次のように仮定します。

項目 都市近郊 地方
電気・ガス等 年24万円 年30万円
水道・設備関連 年8万円 年10万円
年間合計 32万円 40万円
10年間 320万円 400万円

地方住宅の方が、10年間で80万円多くなる試算です。

ただし、太陽光発電、薪ストーブ、断熱改修、気候、料金制度などによって結果は変わります。

住宅・交通・光熱費を合計する

項目 都市近郊 地方
住宅費 1,012万円 930万円
自動車・交通費 714万円 940万円
光熱・水道等 320万円 400万円
10年間合計 2,046万円 2,270万円
地方2,270万円-都市近郊2,046万円
=224万円

今回のモデルでは、地方移住の方が10年間で224万円高くなりました。

1年当たりでは22万4,000円、1か月当たりでは約1万8,700円です。

224万円÷120か月
=約1万8,700円

ただし、この時点でも、食費、医療費、通信費、娯楽費、旅行費などは含んでいません。

移動時間を費用として考える

生活費の比較では、実際に支払う金額だけでなく、時間の違いも重要です。

都市近郊では、通勤や交通混雑に時間がかかる一方、買い物、病院、行政手続などは近距離で済む可能性があります。

地方では、通勤時間が短くなる場合がある一方、買い物や通院のたびに長距離を運転する可能性があります。

総務省の社会生活基本調査では、通勤・通学時間を都道府県別などで確認でき、2021年の結果では関東地方の通勤・通学時間が長い傾向が示されています。したがって、「都市部は必ず時間的に不利」「地方は必ず移動時間が長い」と一律には判断できません。

地方で増える日常移動の例

地方移住により、次の追加移動が発生すると仮定します。

目的 追加時間
買い物 週1時間
通院・薬局 月2時間
行政・銀行等 月1時間
住宅・敷地管理 月4時間

年間では次のようになります。

買い物
=週1時間×52週
=52時間
通院・薬局
=月2時間×12か月
=24時間
行政・銀行等
=月1時間×12か月
=12時間
住宅・敷地管理
=月4時間×12か月
=48時間

年間合計は136時間です。

52時間+24時間+12時間+48時間
=136時間

10年間では1,360時間です。

自分の時間を1時間1,500円と評価すると、時間負担は204万円になります。

1,360時間×1,500円
=204万円

これは実際に204万円を支払うという意味ではありません。

しかし、10年間で1,360時間、日数に換算すると約57日分を移動や管理に使うことになります。

1,360時間÷24時間
=約57日

地方生活を選ぶときは、この時間を負担と感じるか、運転や住宅管理を生活の一部として受け入れられるかを考える必要があります。

都市部の通勤時間が減るなら結論は変わる

一方で、都市近郊で仕事を続け、地方移住によって在宅勤務や退職後生活へ移行する場合、通勤時間がなくなる可能性があります。

例えば、都市近郊で平日に往復1時間30分通勤しているとします。

年間240日勤務なら、年間通勤時間は360時間です。

1.5時間×240日
=360時間

10年間では3,600時間です。

360時間×10年
=3,600時間

地方移住によってこの時間が大きく減るなら、買い物や通院の移動時間が増えても、総移動時間は少なくなる可能性があります。

したがって、時間比較では、次の両方を計算する必要があります。

  • 地方移住によって増える移動時間
  • 地方移住によって減る通勤・混雑時間

地方移住が有利になる条件

今回のモデルでは、地方移住の方が10年間で224万円高くなりました。

しかし、条件が変われば結果は逆転します。

自動車1台で生活できる

地方でも夫婦で自動車1台を共有できれば、2台目の購入、保険、税金、車検、整備費を削減できます。

2台目の10年間の費用を300万円とすると、地方の総費用は次のように減ります。

地方の総費用2,270万円
-2台目の費用300万円
=1,970万円

都市近郊の2,046万円より、地方が76万円安くなります。

2,046万円-1,970万円
=76万円

自動車を1台にできるかどうかが、結論を逆転させる可能性があります。

修繕費が少ない住宅を選ぶ

入居前修繕費が200万円ではなく50万円で済むなら、地方の負担は150万円減ります。

200万円-50万円
=150万円減

地方の総費用は2,120万円となり、都市近郊との差は74万円まで縮まります。

20年以上住む

購入時の諸費用や初期修繕費は、居住期間が長いほど1年当たりの負担が小さくなります。

10年で再移住する場合より、20年、30年と住み続ける方が、住宅購入の経済性は高まりやすくなります。

ただし、長期間住むほど、屋根、外壁、水回り、給排水設備などの大規模修繕が必要になる可能性もあります。

都市部の家賃が高い

都市近郊の家賃を月8万円ではなく月12万円とすると、10年間の家賃は1,440万円です。

12万円×12か月×10年
=1,440万円

家賃以外の条件が同じなら、都市近郊の負担は480万円増えます。

この場合、地方移住が有利になる可能性が高まります。

駐車場代が高い

都市部の駐車場代が月3万円なら、10年間で360万円です。

3万円×12か月×10年
=360万円

今回の月1万2,000円の試算との差は216万円です。

都市部の駐車場代が高い地域では、地方の自宅敷地内駐車が大きな利点になります。

住宅を高く売却できる

10年後の売却手取額が250万円ではなく400万円なら、地方の負担は150万円減ります。

ただし、将来の売却価格を楽観的に設定すると、実際の負担を過小評価する危険があります。

将来価格は、強気、標準、弱気の3種類で試算する方が安全です。

地方移住が不利になりやすい条件

夫婦それぞれに自動車が必要

勤務先、買い物、通院などの時間が異なり、自動車を共有できない場合は、2台分の費用が必要です。

将来、一方が運転できなくなっても、もう一方が送迎を担うことになります。

数年で再移住する

地方住宅を購入しても、3年から5年で再び転居する場合、購入諸費用や修繕費を短期間で回収できません。

さらに、売却価格が低ければ、賃貸より不利になる可能性があります。

建物に重大な修繕が必要

雨漏り、基礎、屋根、給排水管、浄化槽などに問題があれば、数百万円の追加費用が発生する可能性があります。

購入価格が安くても、修繕費を含めると高額な住宅になることがあります。

医療や買い物まで遠い

高齢になるほど、通院頻度や日常の買い物負担が増える可能性があります。

現在は自動車で30分の移動を問題なく行えても、10年後、20年後に同じように運転できるとは限りません。

子どもや親族との移動が増える

地方移住後に、都市部に住む子どもや親族を定期的に訪ねる場合、鉄道、高速道路、宿泊などの費用が増えます。

夫婦2人が年4回往復し、1回の交通費が合計3万円なら、年間12万円です。

3万円×年4回
=12万円

10年間では120万円になります。

12万円×10年
=120万円

住宅費の差が、この長距離移動費で相殺されることもあります。

高齢後に自動車を手放せるか

60歳で地方移住する場合、10年間の比較だけでなく、70歳、75歳、80歳以降の生活も考える必要があります。

現在は自動車を2台運転できても、将来は次の変化が起こる可能性があります。

  • 夫婦の一方が運転をやめる
  • 夜間や雨天時の運転を避ける
  • 長距離運転が難しくなる
  • 通院頻度が増える
  • 買い物を宅配へ切り替える
  • タクシー利用が増える
  • 子どもや近隣住民の支援が必要になる

地方移住先を選ぶときは、現在の運転能力ではなく、

自動車を運転できなくなった後も生活できるか

を確認する必要があります。

具体的には、次の距離やサービスを確認します。

  • 徒歩圏内の商店
  • 食品宅配
  • 移動販売
  • 路線バス
  • デマンド交通
  • タクシー
  • 診療所
  • 総合病院
  • 薬局
  • 行政窓口
  • 介護サービス
  • 家族の居住地

自治体の交通支援制度は、対象者、予約方法、運行区域、曜日、料金などが異なります。

「地域交通がある」という情報だけでなく、自宅から実際に利用できるかを確認する必要があります。

移住前に実際の移動時間を測る

地図上では、スーパーまで10キロメートル、病院まで20キロメートルと表示されます。

しかし、実際の負担は距離だけでは決まりません。

  • 道路幅
  • 信号の数
  • 渋滞
  • 坂道
  • 積雪
  • 夜間の暗さ
  • ガソリンスタンドの位置
  • 駐車場から施設入口までの距離

候補地を訪れるときは、観光地だけでなく、次の移動を実際に行う方が有効です。

  1. 朝にスーパーへ行く
  2. 病院まで運転する
  3. 夜間に自宅周辺を走る
  4. 雨の日に道路状況を見る
  5. 駅やバス停まで移動する
  6. ガソリンスタンドを確認する
  7. 市役所や金融機関へ行く

可能であれば、数日から数週間の試住を行い、日常生活を再現する方が判断しやすくなります。

生活費だけでは測れない地方移住の価値

今回の試算では、地方移住の方が高くなりました。

しかし、費用が高いから地方移住に価値がないという意味ではありません。

地方暮らしには、金額だけでは測れない価値があります。

  • 広い住宅
  • 庭や家庭菜園
  • 駐車場所
  • 騒音の少なさ
  • 自然環境
  • ペットとの生活
  • 趣味の作業場所
  • 地域活動
  • 通勤からの解放
  • 生活の自由度

反対に、都市近郊にも次の価値があります。

  • 医療機関の選択肢
  • 公共交通
  • 買い物の利便性
  • 文化施設
  • 人との交流
  • 住宅管理の少なさ
  • 自動車を手放せる可能性
  • 転居のしやすさ

移住判断では、費用と生活価値を分けて整理する必要があります。

例えば、地方移住の方が10年間で224万円高くても、月額では約1万8,700円です。

その金額を払ってでも、広い住宅、庭、静かな環境を得たいと考えるなら、合理的な選択になり得ます。

一方、住宅が安いという理由だけで移住し、運転や庭の管理を負担に感じるなら、金額以外の面でも不利になります。

3つのシナリオで比較する

1つの条件だけで判断せず、楽観、標準、慎重の3つのシナリオを作ります。

地方移住のシナリオ

条件 楽観 標準 慎重
入居前修繕 50万円 200万円 400万円
自動車 1台 2台 2台
追加修繕 80万円 150万円 300万円
10年後売却手取 400万円 250万円 50万円
10年間総負担 約1,600万円 約2,270万円 約2,870万円

この表は説明用の概算です。

楽観シナリオだけを見れば地方移住は非常に有利に見えます。

しかし、慎重シナリオでは、修繕費と売却価格によって負担が大きく増えます。

移住前には、標準シナリオだけでなく、慎重シナリオでも家計を維持できるかを確認する必要があります。

地方移住の損益分岐点

今回の標準モデルでは、地方移住が都市近郊より224万円高くなりました。

したがって、地方移住が金銭的に有利になるには、合計で224万円以上の改善が必要です。

住宅修繕費の減少
+自動車費の減少
+売却手取額の増加
+都市部家賃の増加
>224万円

例えば、次の組合せなら結論が逆転します。

改善項目 効果
地方で自動車を1台にする 300万円減
修繕費を100万円減らす 100万円減
10年後の売却手取が100万円増える 100万円減
合計改善 500万円

この場合、地方移住が都市近郊より276万円有利になります。

改善額500万円
-当初の不利224万円
=276万円有利

一方、次の条件では地方移住がさらに不利になります。

悪化項目 効果
追加修繕が150万円増える 150万円増
長距離帰省費が120万円かかる 120万円増
売却手取が200万円減る 200万円増
合計悪化 470万円増

地方移住の費用は、住宅価格より、自動車台数、修繕費、居住期間、将来売却価格に強く影響されます。

地方移住前の確認チェックリスト

住宅費

  • [ ] 購入価格だけでなく諸費用を計算した
  • [ ] 入居前修繕の見積りを取った
  • [ ] 屋根、基礎、給排水を確認した
  • [ ] 10年間の追加修繕費を想定した
  • [ ] 固定資産税等を確認した
  • [ ] 火災保険料を確認した
  • [ ] 草刈りや庭木管理費を確認した
  • [ ] 浄化槽などの設備費を確認した
  • [ ] 10年後の売却可能性を確認した
  • [ ] 解体費も想定した

自動車・交通

  • [ ] 自動車が何台必要か確認した
  • [ ] 夫婦で1台を共有できるか検討した
  • [ ] 年間走行距離を試算した
  • [ ] 燃料費を計算した
  • [ ] 保険、税金、車検を含めた
  • [ ] 10年間の買替え費用を含めた
  • [ ] 高齢後の運転継続を考えた
  • [ ] 公共交通の本数を確認した
  • [ ] タクシーやデマンド交通を確認した
  • [ ] 自動車を手放した後の生活を想定した

生活環境

  • [ ] スーパーまで実際に移動した
  • [ ] 病院までの時間を測った
  • [ ] 薬局の位置を確認した
  • [ ] 食品宅配の対象地域か確認した
  • [ ] 夜間の道路を確認した
  • [ ] 災害リスクを確認した
  • [ ] 通信環境を確認した
  • [ ] 冬季・夏季の気候を確認した
  • [ ] 家族との移動費を計算した
  • [ ] 数日以上の試住を行った

将来計画

  • [ ] 何年間住む予定か決めた
  • [ ] 10年後の年齢を確認した
  • [ ] 20年後も管理できるか考えた
  • [ ] 夫婦の一方が運転できない場合を考えた
  • [ ] 医療や介護が必要な場合を考えた
  • [ ] 再移住の可能性を考えた
  • [ ] 住宅の売却先を想定した
  • [ ] 子どもが住宅を引き継ぐか確認した
  • [ ] 楽観・標準・慎重の3条件で試算した
  • [ ] 慎重シナリオでも資金が不足しないか確認した

地方移住の判断手順

第1段階 現在の生活費を正確に把握する

まず、現在の住宅費、自動車費、交通費、光熱費を確認します。

平均値ではなく、自分の銀行口座、クレジットカード、家計簿などから実績を集計します。

第2段階 移住後の固定費を見積もる

移住後の住宅、車、保険、税金、通信など、毎年発生する費用を整理します。

特に、自動車台数と住宅管理費を過小評価しないことが重要です。

第3段階 10年間の臨時支出を加える

給湯器、屋根、外壁、自動車買替えなど、毎年ではない支出を加えます。

臨時支出を除くと、地方生活が実際より安く見えます。

第4段階 10年後の出口を設定する

10年後に住み続けるのか、売却するのか、家族へ引き継ぐのかを決めます。

売却を想定する場合は、売却価格を楽観的に設定しすぎないことが重要です。

第5段階 金額以外の価値を評価する

住宅の広さ、自然、通勤、医療、買い物、管理作業などを点数化します。

金銭面で多少不利でも、生活満足度が大きく向上するなら、移住する意味があります。

まとめ

地方移住では、住宅価格や家賃が都市部より安くなる可能性があります。

しかし、住宅費だけで移住の損得を判断することはできません。

今回のモデルケースでは、都市近郊の住宅費、自動車費、光熱費を合わせた10年間の負担が2,046万円でした。

地方移住後の負担は2,270万円となり、地方の方が224万円高くなりました。

主な理由は、次の3点です。

  1. 中古住宅の購入後に修繕費が必要になった
  2. 自動車が1台から2台に増えた
  3. 広い戸建ての光熱・管理費が増えた

一方、地方でも自動車1台で暮らせる、修繕費の少ない住宅を選べる、長期間住む、都市部の家賃や駐車場代が高いといった条件では、地方移住が有利になる可能性があります。

重要なのは、

地方の家はいくらで買えるか

ではなく、

地方で10年間暮らすために、合計でいくら必要か

を確認することです。

さらに、費用だけでなく、買い物、通院、住宅管理に使う時間、高齢後の運転、10年後の住宅処分まで考える必要があります。

地方移住は、必ず安くなる方法でも、必ず不便になる選択でもありません。

住宅、交通、健康、家族、仕事、将来計画の条件によって結果は変わります。

当サイトでは、地方移住について、住宅価格だけでなく、自動車費、生活動線、管理負担、将来の売却可能性などを含めて整理する支援を行っています。

詳しくは、[移住・居住に関するサービス案内]をご覧ください。

個別の地域や生活条件について整理したい場合は、[お問い合わせ](/contact.html)からご相談いただけます。

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