地域分析記事

地域の暮らしと地域課題を数学とデータで考える

いすみ市・勝浦市で考える「車のない老後」の家計

運転免許証を返納した日から、ガソリン代はかからなくなる。自動車税も、車検も、任意保険も、タイヤ交換も、やがて家計から消えていく。

それだけを見れば、車を手放した老後はずいぶん身軽になるように思える。しかし、暮らしから一緒に消えてくれるわけではないものがある。それが「移動」である。

冷蔵庫の牛乳がなくなれば買い物へ行かなければならず、薬が切れれば病院へ行かなければならない。銀行にも市役所にも美容院にも行く。ときには駅まで出て、少し遠くの病院へ向かうこともあるだろう。

自分の車を持っていた頃には、こうした一回一回の移動に値札は付いていなかった。もちろん実際にはガソリンも減っていたし、車そのものも少しずつ消耗していた。それでも、スーパーへ出掛けるたびに「今日は往復いくら」と財布からお金を取り出すわけではない。

ところが免許を返納すると、それまで自動車保有費の中に埋もれていた「移動そのもの」に、200円、300円、500円、あるいは2,000円を超える価格が見えるようになる。

だから免許返納を考えるとき、本当に知りたい数字は「タクシーは高いのか」ではない。

75歳で免許を返したとして、85歳までの10年間、日常生活を続けるために移動費としていくら用意しておけばよいのか。

今回は御宿町ではなく、いすみ市と勝浦市をモデルに、この金額を考えてみたい。

車を手放した瞬間、同じ5キロメートルが別の距離になる

東京の住宅地なら、免許を返したあとも徒歩圏にスーパーがあり、駅があり、その先には複数の病院があるという生活を想像しやすい。

しかし、いすみ市や勝浦市では事情が違う。

海岸沿いの市街地だけでなく、丘陵部や農村部にも住宅が広がり、自宅から駅や病院、スーパーまで数キロメートル離れていることもある。自動車を運転できる間、その距離はそれほど大きな問題にはならない。玄関を出て車に乗れば、そのまま目的地へ向かえるからである。

ところが車を失うと、同じ5キロメートルが突然違う意味を持ちはじめる。

歩くには遠い。自転車は年齢や天候に左右される。バスが走っていても、自宅から停留所まで歩かなければならないこともある。その空白を埋めるものが、路線バス、乗合交通、そして普通のタクシーである。

幸い、いすみ市では事前予約型の市民乗合タクシーが運行されており、2026年8月時点の利用料金は一人1回300円である。原則として月曜日から金曜日まで運行し、運行区域内であれば自宅などから目的地まで利用できる。一般のタクシーとは違って乗り合わせで運行されるため、予約や時間の余裕は必要になるが、車を持たない人にとって重要な交通手段である。

さらに、いすみ市に住民票がある75歳以上の人には、市内循環バスといすみシャトルバスの運賃が免除される無料パスポートがあり、65歳以上でも運転経歴証明書の交付を受けた免許返納者なら対象になる。

勝浦市にも予約制のデマンドタクシーがあり、一般の大人運賃は1回500円だが、運転経歴証明書を持つ免許返納者は200円で利用できる。運行日は原則として月曜日から土曜日である。ただし、市内のどこからでも自由に利用できるわけではなく、自由に乗降場所を指定できる区域と、駅、病院、金融機関、商業施設などの共通乗降場所を組み合わせた仕組みになっている。

つまり、いすみ市も勝浦市も「免許を返したら、すべての移動を普通タクシーに置き換えるしかない」という地域ではない。

そして、この点こそが10年間の移動費を大きく左右する。

75歳で免許を返し、月8回外出する生活を考える

ここからは、比較のために一人の住民を想定する。

75歳で運転免許を返納し、85歳まで暮らす。買い物、通院、金融機関、役所、知人との交流などを合わせ、自宅から月8回出掛けることにする。

一回の外出には行きと帰りがあるから、交通機関への乗車は月16回になる。

年間では192回、10年間なら1,920回である。

月8回の外出という数字は、日本の高齢者全体の平均値として設定したものではない。あくまで「週におおむね2回外出する生活」を数値化した、この記事独自のモデルケースである。

この区別は重要である。

以下で計算する150万円、250万円、400万円という数字も、「免許を返納した高齢者は一般にこれだけ必要になる」という統計ではない。一定の生活条件を置いたときに、10年間の移動費がどの程度になるかを見るためのシミュレーションなのである。

普通タクシーについては、自宅から目的地まで片道5キロメートルという条件を置いた。

千葉県内のタクシー運賃は2026年3月16日に改定され、普通車の上限運賃では初乗り1.06キロメートルまで500円、その後221メートルまでを増すごとに100円となった。いすみ市、勝浦市を含む外房地域も現在の千葉地区運賃の対象となっている。

この上限運賃を使い、渋滞や信号待ちなどによる時間距離併用運賃を考えずに5キロメートルを計算すると、片道はおよそ2,300円になる。

もちろん、これは実際の乗車料金を保証する数字ではない。迎車回送料金は事業者によって異なり、時速10キロメートル以下で走行した場合には時間距離併用運賃も加算される。したがって2,300円は、あくまでこの記事で比較するための基準値である。

それでも片道2,300円なら往復4,600円になる。

車を運転していた頃には何気なく往復していた5キロメートルが、免許を返したあとには4,600円の行動になる可能性がある。

同じ月8回の外出でも、10年間で100万円台から400万円台まで開く

そこで、月8往復の外出を三つの方法に分けて考えてみよう。

最初は、8往復のうち6往復を自治体の乗合交通で済ませ、普通タクシーを使うのは2往復だけという生活である。次は4往復ずつを乗合交通と普通タクシーに分ける。最後は、時間や行き先の自由度を優先し、8往復すべてを普通タクシーで移動する場合である。

いすみ市では市民乗合タクシーを1回300円、勝浦市では運転経歴証明書を持つ人のデマンドタクシーを1回200円として計算する。普通タクシーは両市とも片道2,300円とする。

さらに、75歳で返納したという今回の設定では、いすみ市の福祉タクシー助成と勝浦市の高齢者タクシー助成を利用できる可能性があるため、その最大額も差し引く。

いすみ市では、自主的に運転免許を返納した満75歳以上で運転経歴証明書などを持つ人は福祉タクシー事業の対象となり、タクシー1回につき1,500円を上限として、年間最大24シートの利用券が交付される。年度初めから最大限利用できるなら、一年間では最大3万6,000円相当になる。

勝浦市では、自主返納した75歳以上の人などを対象として1枚400円の高齢者タクシー利用券が交付され、6月30日までの申請なら24枚、年間最大9,600円相当になる。

これらの制度が現在と同じ内容で10年間続き、毎年最大限利用できるという仮定を置くと、次のようになる。

10年間の利用モデル いすみ市 勝浦市
6往復を乗合交通、2往復を普通タクシー 約117万6,000円 約129万6,000円
4往復を乗合交通、4往復を普通タクシー 約213万6,000円 約230万4,000円
月8往復を普通タクシー中心で移動 約405万6,000円 約432万円

ここで見るべきなのは、いすみ市と勝浦市の数十万円の差ではない。

同じ市に住み、同じ月8回の外出をしていても、自治体の乗合交通をどこまで利用できるかによって、10年間の支出が300万円近く変わり得るという点である。

免許返納後の生活費を決めるのは、自治体名だけではない。

自宅が乗合交通を利用しやすい場所にあるか。病院やスーパーがその交通網の中にあるか。そして予約時間に自分の生活を合わせられるか。

同じいすみ市、同じ勝浦市でも、この条件によって老後の移動費は大きく変わる。

75歳で返納したモデルでは、いすみ市の助成効果が大きい

今回のシミュレーションでは75歳で免許を返納した設定にしたため、いすみ市では福祉タクシー助成を計算に入れている。

自主返納した満75歳以上で所定の証明書を持つ人なら、一回1,500円を上限とする利用券を年間最大24シート利用できる。最大限使えば年間3万6,000円、現在と同じ制度が10年間続けば累計36万円に相当する。

さらに、75歳以上なら市内バス無料パスポートの対象となり、65歳以上でも運転経歴証明書を持つ免許返納者なら同じ制度を利用できる。

ただし、これは「助成を受けるために75歳まで運転を続けた方が得」という意味ではない。

運転を続けられるかどうかは、制度上の年齢よりも本人の認知機能、視力、身体能力、運転技能、安全性によって判断すべき問題である。この記事では両市の制度を比較しやすくするため、75歳で返納するモデルを採用しているにすぎない。

この区別をしたうえで見ると興味深いことが分かる。

車を持っている間、「バスが無料になる」「タクシー券がもらえる」という制度は家計にほとんど存在感を持たない。しかし車を手放した瞬間、それまで利用価値を感じなかった地域交通制度が、一年間の生活費を左右する重要な資産へと変わるのである。

いすみ市では公共ライドシェアも広がり始めている

そして2026年のいすみ市では、もう一つ新しい動きがある。

旧夷隅町地域では以前から、自家用車を活用した自家用有償旅客運送が行われていたが、タクシー事業者の営業終了や休止によって交通空白地域となっていた岬地域でも、2026年4月から公共ライドシェアの運行が始まった。いすみ市の地域公共交通計画でも、旧夷隅町地域に続いて旧岬町地域へ運送サービスが拡大されたことが確認できる。

この制度は、今回の三つの基本シミュレーションには加えていない。

理由は、地域や利用条件によって使える交通手段が異なり、市民乗合タクシーと同じ条件で一律に比較することが難しいからである。

しかし、制度の存在そのものは重要である。

公共ライドシェアが拡大した背景には、「新しい便利なサービスを増やした」という面だけではなく、既存のタクシー事業者が営業を終了・休止し、地域の交通供給に空白が生まれたという事情がある。

これは免許返納後の生活を考えるうえで、別の問題を浮かび上がらせる。

将来必要になるのは、単にタクシー料金を払えるだけのお金ではない。

その地域に、そもそも人を運んでくれる仕組みが残っていることなのである。

勝浦市では「200円で移動できる場所に住んでいるか」が大きい

勝浦市では、運転経歴証明書を持つ免許返納者ならデマンドタクシーを1回200円で利用できる。往復しても400円である。

この記事の普通タクシーのモデルでは5キロメートル往復を4,600円としているから、同じような生活目的の移動がデマンドタクシーで成立するなら、交通費には大きな差が生まれる。

75歳以上の自主返納者については、高齢者タクシー利用券もあり、6月30日までに申請すれば400円券が24枚交付される。

さらに勝浦市では2026年度から、総野地区の一部と勝浦市街地を住民ドライバーの自家用車で結ぶ「ノッカルかつうら」の有償実証運行も始まっている。蟹田・松野・中倉からは片道500円、市野川・花里からは700円で、水曜日から金曜日まで運行されている。

ただし、ここでも重要なのは、勝浦市民なら誰でも同じ交通条件になるわけではないことである。

デマンドタクシーにも区域があり、「ノッカルかつうら」にも対象地域がある。

つまり、勝浦市における免許返納後の暮らしは、市役所から何キロ離れているかよりも、自宅がどの交通網に接続しているかによって大きく変わる。

行政上は同じ勝浦市でも、老後の移動という観点から見れば、まったく違う町に住んでいるような差が生じる可能性がある。

普通タクシー中心になると10年間で400万円を超える

先ほどの表に戻ると、最も目を引くのは400万円という数字だろう。

月8回外出するだけである。

週に直せば、おおむね2回にすぎない。買い物へ行き、病院へ行けば、それで一週間の外出回数をほぼ使い切ってしまう程度の生活である。

それでも普通タクシーを中心に片道5キロメートル移動すると、現在の運賃と現在の助成制度を10年間固定したモデルでは、いすみ市で約405万6,000円、勝浦市で約432万円になる。

ここで注意したいのは、この400万円を「免許返納すると必ず必要になる費用」と読んではいけないことである。

反対に、「そんなにタクシーを使う人はいない」と切り捨てるのも違う。

この数字が示しているのは、自家用車で行っていた移動を、そのまま普通タクシーに置き換えると、地方では非常に大きな費用になる可能性があるということである。

だからこそ、免許返納後の家計では「タクシーを安く使う方法」を探すだけでなく、普通タクシーを使わなくても済む場所に住んでいること自体が大きな経済価値になる。

それでも「車を持ち続けた方が安い」とは簡単には言えない

400万円という数字を見ると、車を持ち続けた方が安いのではないかと思えてくる。

しかし、そこには一つの錯覚がある。

自家用車の移動費を考えるとき、多くの人はガソリン代を思い浮かべる。5キロメートル走ったとしても、運転するたびに財布から2,300円が消えるわけではないからである。

だが車には、車両購入費や減価、任意保険、自動車税、車検、整備、タイヤ、バッテリー、燃料などが必要になる。

免許返納とは、それまで存在しなかった移動費が突然現れる出来事ではない。

それまで「自動車を所有する費用」としてまとめて支払っていたものが、返納後には「一回移動するごとの費用」として目に見えるようになるのである。

したがって合理的な比較は、「タクシー代400万円は高い」というものではない。

今後10年間自動車を所有し続ける総費用と、自動車を手放してバス、乗合交通、普通タクシーを利用する総費用を比較することである。

さらにそこには、金額だけでは測れない交通事故の危険性も加わる。

経済的に少し有利だからという理由だけで運転を続けるという結論にはならない。

10年間なら「今の料金が続く」と考えない方がよい

ここまでは2026年時点の運賃と助成制度を10年間固定して計算してきた。

しかし、現実には2036年まで同じ料金である保証はない。

実際、千葉地区のタクシー運賃は2026年3月16日に改定されたばかりであり、今後も人件費、燃料費、事業者数などによって料金が変わる可能性がある。

そこで、交通運賃だけが毎年2%ずつ上昇し、自治体から受けられる助成額は現在の金額のまま10年間変わらないという、もう少し厳しい条件を置いてみる。

この2%は将来の物価上昇率を予測した数字ではない。10年間の資金計画に価格上昇への余裕を持たせるための試算条件である。

この条件で再計算すると、10年間の移動費は次のようになる。

10年間の利用モデル いすみ市 勝浦市
6往復を乗合交通、2往復を普通タクシー 約132万円 約143万円
4往復を乗合交通、4往復を普通タクシー 約237万円 約253万円
月8往復を普通タクシー中心で移動 約448万円 約474万円

ここでは助成券まで毎年2%増えるとは考えず、いすみ市の年間最大3万6,000円、勝浦市の年間最大9,600円は現在額のまま固定している。

そのため、物価が上がるほど自治体助成が移動費全体をカバーする割合は徐々に小さくなる。

10年間という期間を考えると、この違いは無視できない。

「150万円・250万円・500万円」は平均値ではない

ここまでの試算から、いくつかの金額が見えてくる。

しかし、「免許返納後には150万円あればよい」「普通なら250万円必要」「地方では500万円かかる」と一般化するのは適切ではない。

今回の数字はすべて、月8往復、普通タクシーを利用するときは片道5キロメートル、75歳で返納し、現在の自治体助成を利用できるという条件を置いたシミュレーションである。

そのうえで言えるのは、今回設定したモデルでは、乗合交通をかなり利用できる住宅なら10年間で130万~150万円程度、乗合交通と普通タクシーを半分程度ずつ使うなら240万~250万円程度、普通タクシーへの依存が大きければ450万~500万円近くまで移動資金が膨らむ可能性がある、ということである。

本当に必要な金額は、自宅の位置、病院までの距離、買い物頻度、家族による送迎の有無、交通制度、健康状態によって大きく変わる。

だから、この数字を答えとして使うより、自分の生活条件を当てはめるための物差しとして使う方がよい。

本当に怖いのは「高いこと」ではなく、「お金を払っても車がないこと」かもしれない

そして、外房の免許返納問題を家計だけで終わらせると、もっと重要な問題を見落とす。

500万円を用意しておけば必ず移動できるわけではない。

いすみ市の市民乗合タクシーは原則として平日の運行であり、事前予約が必要で、予約状況によっては希望した便を利用できない場合もある。

勝浦市のデマンドタクシーにも運行区域と時刻があり、「ノッカルかつうら」にも対象地域と運行曜日がある。

病院の定期診察なら交通機関に合わせて予約できるかもしれない。

しかし、突然歯が痛くなる日まで交通機関に合わせてはくれない。冷蔵庫が空になる日も、家族が急に入院する日もある。

公共交通には、「いくら払えば乗れるか」という価格の問題と、「その時間、その場所に移動手段が存在するか」という供給の問題がある。

人口が少なくなる地域では、後者の方が深刻になる可能性がある。

いすみ市で公共ライドシェアが拡大された背景にタクシー事業者の営業終了や休止があったという事実は、その問題を象徴している。

地方の免許返納問題とは、交通費の問題であると同時に、交通そのものが地域に残るかという問題なのである。

老後の家選びでは「駅まで何分」より返納後の交通を考える

ここから逆算すると、住宅の価値についても別の見方ができる。

65歳で自動車を運転しているときには、スーパーまで5キロメートルでも10キロメートルでも、大きな違いには感じないかもしれない。

しかし75歳で免許を返し、その家で85歳まで暮らすと考えれば、その数キロメートルが100万円、200万円という差へ変わることがある。

駅まで歩ける家、バス停に近い家、乗合交通の対象区域にある家、病院とスーパーを一度の外出で回れる家。

こうした住宅には、土地や建物の販売価格には表示されない経済的価値がある。

反対に、眺望がよく、敷地が広く、静かで価格の安い住宅でも、生活施設から離れ、代替交通を利用しにくければ、購入時に節約した金額を免許返納後の交通費が少しずつ食べていく可能性がある。

仮に50万円安く家を買えても、返納後の交通費が毎年10万円多くかかれば、5年間でその差は消える。

地方の中古住宅を見るとき、「この家はいくらで買えるのか」だけを見るのでは足りない。

80歳になった自分が、この玄関からどうやって病院へ行くのか。

そこまで考えて初めて、その家の本当の価格が見えてくる。

免許返納とは、10年間の交通手段を組み替えることである

自動車は不思議な道具である。

持っている間、人は移動の自由をそれほど意識しない。

朝になって病院へ行こうと思えば行ける。午後に買い忘れに気づけば、もう一度スーパーへ出掛けられる。雨が降っていても、荷物が重くても、予定をそれほど変えずに済む。

免許返納によって失われるものは、自動車という機械だけではない。

「思いついたときに移動できる自由」である。

その自由を普通タクシーだけで買い戻そうとすると、今回のモデルでは10年間で400万円を超え、運賃が毎年2%上がる条件なら500万円近くに達する可能性がある。

しかし、乗合交通やバスを生活の中に組み込めれば、同じ月8回の外出でも100万円台に収まる可能性がある。

つまり、免許返納後の移動費には一つの正解はない。

同じいすみ市でも、同じ勝浦市でも、家の場所と交通手段の組み合わせによって結果はまるで違う。

だからこそ、免許返納を考える人にとって最も有効な準備は、75歳になって突然タクシー料金を調べることではない。

まだ自分で運転できるうちに、一度、自動車を使わず生活してみることである。

自宅からバス停まで歩き、時刻表を調べ、乗合タクシーを予約する。スーパーへ行き、買った荷物を持って帰る。病院へ公共交通だけで行き、玄関を出てから帰宅するまで何時間かかるのかを測ってみる。

その一日には、10年後の暮らしがかなり正確に映っている。

免許を返す日とは、突然「車のない老後」が始まる日ではない。

本当は、その何年も前から準備できる。

自分の住んでいる家から、車なしでどこまで行けるのか。月に何回移動するのか。そのために10年間でいくら必要になるのか。そして、その交通手段は10年後にも地域に残っているのか。

地方で老後を暮らすということは、家を所有することだけではない。

その家から、年を取っても外へ出られる可能性まで含めて暮らしを選ぶことなのである。

地域の課題を、自分の判断に置き換えて考える

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