はじめに
日本では、少子高齢化と人口減少が進む一方、年金、医療、介護、子育て支援など、社会保障の充実を求める声が強まっています。
そのなかで、しばしば次のような主張が示されます。
「外国人や移民を受け入れなければ、社会保障制度は維持できない」
反対に、
「移民を受け入れると、社会保障費が増え、かえって国民負担が重くなる」
という主張もあります。
この二つは、どちらも一部の条件では成立する可能性があります。しかし、どちらか一方を無条件に正しいと考えることはできません。
移民受入れと社会保障の関係は、単純な人数ではなく、受け入れる人の年齢、就業率、賃金、滞在期間、家族構成、社会保険への加入状況、将来の定住率などによって大きく変わるからです。
本記事では、移民や外国人労働者の受入れを政治的な賛否からではなく、人口、財政、労働市場、社会保障の収支という観点から冷静に検証します。
最初に結論
移民を拒否することと、社会保障を充実させることは、完全な意味での二者択一ではありません。
日本人の就業率向上、生産性向上、賃金上昇、社会保障制度改革、負担増、給付の重点化などによって、移民受入れを抑えながら社会保障を維持する道は理論上存在します。
ただし、移民受入れを大幅に抑制したまま、現在以上の社会保障給付を維持・拡大し、国民負担も増やさず、経済規模も維持するという組合せは、人口構造上かなり困難です。
一方で、移民を増やせば自動的に社会保障が安定するわけでもありません。
外国人労働者の就業率や賃金が低ければ、税・社会保険料収入は限定されます。教育、住宅、行政、日本語教育、医療、子育てなどの費用も必要です。また、若年期に受け入れた人も、長期定住すれば将来は高齢者になります。
したがって、現実的な結論は次のようになります。
移民受入れは、社会保障財政を一定期間支える手段にはなり得ますが、社会保障問題を単独で解決する方法ではありません。
問題の本質は、外国人を受け入れるか拒否するかだけではなく、
「誰が働き、どれだけ所得を得て、どれだけ税・社会保険料を負担し、どの給付を受けるか」
という人口と所得の構造にあります。
「移民拒否」という言葉の範囲を整理する
日本では、「移民」という言葉が明確に定義されないまま議論されることが少なくありません。
一時的な外国人労働者、技能実習生、留学生、専門職、永住者、家族帯同者、難民などは、滞在目的も期間も異なります。
社会保障への影響を分析する場合、少なくとも次の区分が必要です。
- 数年間働いて帰国する外国人労働者
- 長期間働き、永住する外国人
- 配偶者や子どもを伴って定住する世帯
- 高度専門職や高所得労働者
- 低賃金分野で働く労働者
- 人道上の理由から受け入れる難民
- 留学生や家族滞在者
例えば、20代の単身労働者が数年間働く場合、社会保険料を支払う一方、高齢者医療や介護の利用は通常少なくなります。
一方、家族を伴って定住する場合は、子どもの教育や医療、住宅、地域行政などの費用も発生します。その後、高齢化すれば年金、医療、介護の受給者にもなります。
したがって、「外国人1人当たりの収支」という単純な数字だけでは、長期的な影響を評価できません。
日本の人口構造はどこまで厳しいのか
国立社会保障・人口問題研究所の「日本の将来推計人口(令和5年推計)」では、出生中位・死亡中位の推計において、日本の総人口は2020年の1億2,615万人から、2070年には8,700万人まで減少すると見込まれています。
同じ推計では、65歳以上人口の割合は2020年の28.6%から、2070年には38.7%へ上昇します。外国人の入国超過については、2040年の長期的な投影水準を年間約16万4,000人と置いていますが、それでも人口減少と高齢化は止まりません。
ここで重要なのは、外国人を一定数受け入れることを前提にした公的推計でも、日本の総人口は減少し、高齢化率は上昇するという点です。
つまり、現在想定されている程度の外国人流入では、人口減少を緩和する効果はあっても、人口構造を根本的に逆転させるほどの効果はありません。
また、日本人人口だけを対象とした参考推計では、2070年の人口は7,761万人、高齢化率は40.9%とされています。外国人を含む基本推計より人口が少なく、高齢化率も高くなります。
この差から、外国人流入には人口減少と高齢化を一定程度緩和する効果があることが分かります。ただし、その効果は問題を解消するほど大きくはありません。
社会保障財政を決める基本構造
社会保障の収支は、おおむね次のように整理できます。
社会保障の収支 =税収+社会保険料収入 -年金給付 -医療給付 -介護給付 -子育て・福祉給付 -制度運営費
さらに、税収と社会保険料収入は、次の要素に左右されます。
税・社会保険料収入 =働く人の数 ×就業率 ×平均所得 ×実効負担率
したがって、社会保障を維持するために重要なのは、人口の総数だけではありません。
- 働く年齢の人が何人いるか
- 実際に何人が就業しているか
- どれだけの所得を得ているか
- 所得からどれだけ税・保険料を納めるか
- どれだけ給付を受けるか
が重要です。
仮に働く人が増えても、賃金が低ければ税・社会保険料収入はあまり増えません。
反対に、労働者数が多少減っても、生産性と賃金が上昇すれば、一定の税・保険料収入を維持できる可能性があります。
これが、移民の人数だけで社会保障の持続可能性を判断できない理由です。
日本の社会保障費はすでに大きい
厚生労働省によれば、2026年度予算ベースの社会保障給付費は144.1兆円で、国内総生産に対する割合は20.8%です。社会保障財源には保険料だけでなく、多額の公費が投入されています。
社会保障の負担は、現役世代の保険料だけで完結しているわけではありません。
国や地方自治体の税収、公債による財源、事業主負担なども含めて制度が支えられています。
例えば、後期高齢者医療では、窓口負担を除いた医療費の約4割が、現役世代が負担する支援金で賄われています。
高齢者が増え、現役世代が減ると、現役世代1人当たりの負担は重くなりやすくなります。
この状態で社会保障給付をさらに拡充する場合、次のいずれかが必要です。
- 保険料を引き上げる
- 税負担を増やす
- 国債を増やす
- 給付対象を重点化する
- 給付単価を抑える
- 就業者を増やす
- 賃金と生産性を引き上げる
- 外国人労働者を受け入れる
- 高齢者の就業期間を延ばす
移民受入れは、このなかの一つの手段にすぎません。
日本ではすでに外国人労働者が増えている
厚生労働省によると、2025年10月末時点の外国人労働者数は257万1,037人で、前年より26万8,450人増加しました。
外国人を雇用する事業所は37万1,215事業所に達し、いずれも届出制度開始後の過去最多です。
在留資格別では、専門的・技術的分野が約86万6,000人、身分に基づく在留資格が約64万6,000人、技能実習が約49万9,000人などとなっています。
また、2025年6月末時点の在留外国人数は395万6,619人で、前年末より5.0%増加しています。
したがって、日本は現実には「外国人を全く受け入れていない国」ではありません。
すでに製造業、建設、介護、宿泊・飲食、農業、物流など、多くの分野で外国人労働者への依存が進んでいます。
議論すべきなのは、受け入れるか受け入れないかという抽象的な二択ではなく、
- 受入れ人数
- 在留資格
- 職種
- 賃金水準
- 転職の自由
- 家族帯同
- 永住条件
- 社会保険加入
- 日本語教育
- 地域への定着
をどのように設計するかです。
移民は社会保障の支え手になるのか
若く就業していれば、短期的には支え手になりやすい
一般に、若い就業者は、年金、医療、介護の給付よりも、税や社会保険料の負担が大きくなりやすい傾向があります。
経済協力開発機構は、移民の財政効果について、就業率と賃金が重要であり、移民が労働市場へ十分に統合されている場合、税や社会保険料の負担が社会保護、医療、教育などの支出を上回ることが多いとしています。
ただし、経済協力開発機構の国際比較では、移民の財政効果は多くの国で国内総生産比として小さく、国全体の財政を根本的に変えるほど大きくないともされています。
つまり、移民は財政を一定程度支える可能性がありますが、巨額の社会保障費を単独で賄う存在ではありません。
財政効果は賃金によって大きく変わる
同じ100万人の外国人労働者を受け入れても、平均年収が200万円の場合と500万円の場合では、税・社会保険料収入が大きく異なります。
単純化した例を考えます。
外国人労働者100万人が平均年収300万円で働き、税・社会保険料などの実効負担率を20%と仮定すると、年間の税・社会保険料負担は概算で、
100万人×300万円×20% =6兆円ではなく、6,000億円
です。
平均年収が500万円であれば、
100万人×500万円×20% =1兆円
となります。
社会保障給付費144.1兆円と比較すると、外国人労働者100万人による負担増は一定の意味を持つものの、制度全体を支えるには限定的です。
なお、この計算は個人単位の単純化した試算です。実際には所得税、住民税、消費税、事業主負担、所得控除、家族構成、社会保険加入状況などが異なるため、正確な財政効果を示すものではありません。
移民が財政負担になる条件
移民が常に財政上のプラスになるとは限りません。
次のような条件では、財政効果が小さくなったり、マイナスになったりする可能性があります。
- 就業率が低い
- 賃金が低い
- 非正規雇用が多い
- 社会保険への未加入が多い
- 日本語教育や職業訓練が不十分
- 子どもの教育支援費が大きい
- 住宅支援や生活支援が必要
- 長期失業が多い
- 高齢になってから定住する
- 難民など、就業まで長期間を要する人が多い
欧州連合の研究では、移民の財政効果が自国生まれ住民より悪い国の場合、その主因は社会保障給付を多く受けることよりも、所得が低く税負担が少ないことにあるとされています。また、財政収支を左右する重要な要素は年齢です。
これは重要な指摘です。
移民の財政負担を減らすために、給付制限だけを強めても、根本的な解決にならない可能性があります。
就業機会、賃金、技能、日本語能力、転職の自由、差別の防止などを通じて、所得を高める方が財政面でも重要だからです。
低賃金の外国人労働者を増やす政策の矛盾
外国人労働者を低賃金の労働力として受け入れる政策には、社会保障財政上の矛盾があります。
企業にとっては低い賃金で人手を確保できても、労働者の所得が低ければ、所得税、住民税、厚生年金保険料、健康保険料などの負担額も低くなります。
さらに、低賃金労働が広がれば、日本人を含む労働市場全体の賃金上昇を遅らせる可能性があります。
ただし、外国人労働者の増加が日本人全体の賃金を必ず押し下げると断定できるわけではありません。
影響は、職種、地域、技能、景気、人手不足の程度、外国人と日本人の仕事が代替関係にあるか補完関係にあるかによって異なります。
内閣府も、外国人労働者の増加が賃金へ与える影響について、職種や技能構成を含めた分析が必要だとしています。2023年時点で外国人労働者は全雇用者の約3.4%であり、労働市場での重要性が増している一方、賃金差や雇用条件が政策課題として示されています。
外国人労働者を社会保障の支え手とするなら、低賃金に固定するのではなく、生産性と賃金を上げる政策が必要です。
移民も将来は高齢化する
若い外国人を受け入れると、当面は現役世代が増えます。
しかし、永住する人は将来高齢者になります。
その時点では、年金、医療、介護の受給者になる可能性があります。
したがって、移民による社会保障改善効果を評価する場合は、1年間の収支ではなく、生涯全体で考える必要があります。
生涯の財政収支は、おおむね次のように表せます。
生涯財政収支 =生涯に納める税・社会保険料 -生涯に受ける年金・医療・介護・教育・福祉・行政サービス
若年期に受け入れ、高い就業率と所得を維持し、長期間保険料を納める人は、財政上の貢献が大きくなりやすくなります。
一方、低賃金で短期間しか加入しない場合や、就業が不安定な場合は、効果が小さくなります。
さらに、外国人を継続的に受け入れて年齢構成を若く保つ政策は、毎年新たな若年層を受け入れ続ける必要があります。
これは、移民が一度きりの解決策ではなく、継続的な人口政策になることを意味します。
人口を維持するための移民数は大きくなり得る
人口減少を完全に止めるためには、死亡数と出生数の差を外国人の純流入で補う必要があります。
例えば、年間の自然減が90万人である場合、人口を単純に維持するには、理論上、年間90万人程度の純流入が必要になります。
ただし、外国人の出生、死亡、出国、日本人の出入国などもあるため、実際の計算はより複雑です。
現在の将来人口推計が置いている外国人の年間入国超過約16万4,000人は、人口減少を緩和しますが、人口を維持する水準ではありません。
人口維持を移民だけで達成しようとすれば、現在より大幅に多い受入れが必要となる可能性があります。
その場合、住宅、学校、医療、日本語教育、行政、地域交通、宗教・文化対応などの整備も必要です。
単に入国者数を増やせばよいわけではありません。
社会保障を維持するために人口そのものを維持する必要はない
一方で、人口減少を完全に止めなければ社会保障が維持できない、という考えも正確ではありません。
社会保障の持続可能性は、人口総数ではなく、
- 就業者1人当たりの生産性
- 賃金
- 税・社会保険料負担
- 高齢者1人当たりの給付
- 医療・介護の効率
- 就業期間
- 資産所得や消費への課税
- 国全体の経済規模
によって決まります。
例えば、就業者数が10%減っても、1人当たりの実質所得が15%上昇すれば、課税・保険料の基礎となる所得総額は単純には減りません。
計算すると、
就業者数90%×所得115% =103.5%
となり、所得総額は元の水準を約3.5%上回ります。
ただし、現実には生産性上昇が必ず賃金上昇や社会保険料収入に結び付くとは限りません。
企業利益だけが増え、労働所得が増えなければ、保険料収入は十分に増えない可能性があります。
生産性向上策には、賃金分配や税制の設計も必要です。
移民を抑えて社会保障を維持する選択肢
移民受入れを抑えながら社会保障を維持する場合、次の政策を組み合わせる必要があります。
女性の就業継続を支える
日本では女性の就業率は上昇していますが、出産、育児、介護による離職や短時間勤務、低賃金の問題が残っています。
保育、学童保育、介護支援、男女間賃金格差の縮小を進めれば、就業者数と所得を増やせる可能性があります。
ただし、すでに就業している女性が多いため、単純な人数増加の余地は以前より小さくなっています。
今後は、就業率だけでなく、所得、雇用の安定、管理職比率などが重要です。
高齢者の就業期間を延ばす
健康状態や職種に配慮しながら、働く意思と能力のある高齢者が就業を続けられれば、保険料を支払う期間が長くなり、年金受給開始時期も調整できます。
ただし、肉体労働者や健康上の問題を抱える人まで一律に就業延長を求めるのは現実的ではありません。
生産性と賃金を上げる
機械化、デジタル化、業務再編、人材育成などによって1人当たりの付加価値を高め、賃金上昇につなげる必要があります。
ただし、介護、保育、医療、運輸、飲食など、人が直接対応する必要がある分野では、機械化だけで人手不足を解消することは困難です。
給付を重点化する
所得や資産が十分にある高齢者への給付を一部見直し、低所得者や医療・介護必要度の高い人へ重点化する方法があります。
ただし、社会保険制度への信頼や、現役時代に保険料を納めた人の公平感への配慮が必要です。
税と社会保険料を引き上げる
社会保障を充実させるには、最終的には何らかの財源が必要です。
消費税、所得税、資産課税、社会保険料、事業主負担などの増加が選択肢になります。
しかし、現役世代の可処分所得を減らし、消費や出生意欲をさらに抑える可能性もあります。
医療・介護の費用構造を見直す
予防医療、重複受診・重複投薬の抑制、医療機関の役割分担、介護予防、デジタル化などにより、一定の効率化は可能です。
ただし、高齢者数が増えるなかで、効率化だけで給付費全体を大幅に削減できるとは限りません。
移民拒否と社会保障充実が強いトレードオフになる条件
次の条件を同時に求めるほど、移民抑制と社会保障充実のトレードオフは強くなります。
- 現在の年金水準を維持する
- 医療・介護給付を拡充する
- 子育て支援も拡充する
- 税や保険料を上げない
- 年金支給開始年齢を上げない
- 高齢者の自己負担を増やさない
- 外国人労働者を増やさない
- 経済成長率を高める
- 国債残高も増やさない
これらをすべて同時に実現することは、数学的な財政収支の制約から困難です。
給付を増やし、負担を増やさず、支え手も増やさない場合、不足分は国債か制度外の削減で埋めるしかありません。
国債は将来の税負担やインフレ、金利上昇リスクを伴います。
したがって、移民を抑制する政策を選ぶ場合は、その代わりに、
- 税・保険料負担の増加
- 給付の重点化
- 就業期間延長
- 生産性向上
- 医療・介護制度改革
- 一定の経済規模縮小の受容
のいずれかを受け入れる必要があります。
移民受入れにも費用と限界がある
移民受入れには、財政上の利益だけでなく、費用もあります。
初期費用
- 日本語教育
- 生活オリエンテーション
- 住宅支援
- 行政手続
- 医療通訳
- 子どもの教育支援
- 職業訓練
- 相談窓口
地域的な集中
移民が特定の自治体や学校区へ集中すると、国全体では小さな費用でも、地域自治体には大きな負担となることがあります。
税収は国に入る一方、教育、保健、福祉、ごみ処理、住宅相談などの費用は市町村が負担する場合があります。
国全体の財政収支だけでは、地域負担を評価できません。
労働市場への影響
特定の業種へ外国人労働者が集中すると、その業種で賃金上昇が抑えられる可能性があります。
一方、人手不足で事業継続が困難な産業では、外国人労働者によって企業やサービスが維持され、日本人雇用も守られる可能性があります。
影響は一方向ではありません。
社会統合
長期定住を前提とするなら、外国人を単なる労働力として扱うことはできません。
教育、住宅、参政・地域参加、差別防止、子どもの進学、老後の生活などを含む社会統合政策が必要です。
これを行わずに低賃金労働者だけを受け入れると、社会的分断や貧困の固定化を招く可能性があります。
「移民を受け入れれば少子化が解決する」は正確ではない
外国人の流入は、短期的には若年人口と出生数を増やす可能性があります。
しかし、受入れ国で生活が長くなるにつれて、移民の出生率が受入れ国の水準へ近づく傾向も指摘されています。
また、住宅費、教育費、雇用不安など、日本人が子どもを持ちにくい原因が残れば、外国人世帯も同じ制約を受けます。
したがって、移民政策と少子化対策は別の政策です。
移民を受け入れても、日本人を含む国内居住者が子育てしにくい環境を改善しなければ、長期的な出生率改善は限定されます。
「移民を拒否すれば国民の給付を守れる」とも限らない
外国人への給付を制限すれば、その分だけ社会保障財政が大幅に改善すると考える人もいます。
しかし、日本の社会保障費の中心は、高齢者向けの年金、医療、介護です。
現在の外国人人口は総人口の一部であり、多くは比較的若い年齢層です。
外国人向け給付だけを削減しても、144兆円規模の社会保障全体を根本的に改善する効果は限られる可能性が高いと考えられます。
ただし、日本では国籍、在留資格、年齢、所得、滞在期間別に、税・社会保険料負担とすべての行政サービス費を対応させた包括的な生涯財政収支は十分に公表されていません。
したがって、「外国人は必ず財政上の利益である」「外国人は必ず財政負担である」という日本固有の断定は、公開資料だけでは困難です。
現実的な政策は「受入れか拒否か」ではなく設計で決まる
社会保障財政の観点から比較的合理性が高い移民政策には、次の条件が考えられます。
賃金を日本人と同等以上にする
外国人を安価な労働力として扱わず、同一の仕事には同等の賃金を支払う必要があります。
これにより、税・社会保険料収入も増え、賃金ダンピングへの懸念も小さくなります。
社会保険加入を徹底する
健康保険、厚生年金、雇用保険などへの適切な加入を徹底し、企業による未加入や不適切な控除を防ぐ必要があります。
転職の自由を確保する
特定の企業へ過度に拘束される制度では、労働者が低賃金や劣悪な環境から移動できません。
転職の自由は、賃金上昇と労働条件改善を促し、税・保険料収入の増加にもつながり得ます。
日本語教育を人的投資と考える
日本語教育は単なる福祉費ではありません。
日本語能力が上がれば、生産性、賃金、資格取得、安全性、地域参加が改善する可能性があります。
短期的な費用と長期的な税収増を併せて評価する必要があります。
自治体へ財源を配分する
外国人住民が集中する自治体には、学校、日本語指導、行政通訳、保健、住宅相談などの追加費用が発生します。
国税や社会保険料収入だけでなく、自治体の実務負担に応じた財源移転が必要です。
永住・家族帯同を含めて長期設計する
労働力として数年間利用し、不要になれば帰国を求める制度は、社会的にも人道的にも持続しにくい制度です。
長期定住を認めるなら、教育、住宅、老後、国籍、家族形成まで含めた制度設計が必要です。
外房など地方地域では別の問題が生じる
外国人労働者が増えても、人口減少地域の社会保障や生活サービスが自動的に維持されるわけではありません。
外国人は、雇用機会、交通、住宅、教育環境がある地域へ集まりやすいためです。
外房や房総地域で外国人材を受け入れる場合、次の条件が必要になります。
- 通勤手段
- 適切な住宅
- 医療アクセス
- 日本語教育
- 子どもの学校教育
- 雇用の継続性
- 地域住民との交流
- 災害時の情報提供
- 転職先の存在
農業、介護、宿泊、食品加工など、季節変動や低賃金が大きい仕事だけに依存すると、定住しにくくなります。
地方で必要なのは、外国人労働者の人数を増やすことだけではなく、生活者として定着できる所得とサービスを整えることです。
成立しやすい社会保障モデル
移民受入れを一定程度活用しながら社会保障を維持するモデルは、次の条件で成立しやすくなります。
- 比較的若い年齢で受け入れる
- 就業率が高い
- 賃金が日本人と同水準である
- 長期的な技能形成が行われる
- 社会保険加入が徹底される
- 子どもの教育支援が充実する
- 地方自治体の負担へ財源措置を行う
- 日本人の賃金を押し下げない
- 生産性向上と併行する
- 高齢化後の給付まで長期試算する
成立しにくいモデル
反対に、次のような政策は持続しにくいと考えられます。
- 低賃金労働者だけを大量に受け入れる
- 社会保険加入を徹底しない
- 日本語教育を企業や本人任せにする
- 地方自治体へ費用を転嫁する
- 家族や子どもの生活を制度上考慮しない
- 外国人を景気調整の雇用弁として扱う
- 社会保障財政の改善額を試算しない
- 受入れ人数だけを目標にする
- 移民だけで人口減少を止めようとする
- 日本人の少子化対策や賃金政策を怠る
判断前のチェックリスト
移民政策と社会保障を議論するときは、次の点を確認する必要があります。
- 受け入れる人の平均年齢は何歳か
- 就業率はどの程度か
- 平均賃金はいくらか
- 社会保険加入率はどの程度か
- 平均滞在期間は何年か
- 家族帯同率はどの程度か
- 子どもの教育費を誰が負担するか
- 日本語教育費を誰が負担するか
- 地方自治体の追加費用はいくらか
- 将来の年金・医療・介護給付を含めているか
- 日本人労働者の賃金や雇用へどう影響するか
- 人手不足業種の生産性向上を妨げないか
- 永住や帰化をどのように扱うか
- 受入れを何年間継続するのか
- 景気後退時の失業や生活支援をどうするか
現実的な結論
移民拒否と社会保障の充実は、完全な二者択一ではありません。
日本は、移民受入れを抑えながらでも、就業率向上、生産性向上、賃金上昇、税制改革、給付の重点化、高齢者就業などを組み合わせれば、社会保障を一定程度維持できます。
しかし、
- 社会保障給付を充実させる
- 国民負担を増やさない
- 給付削減もしない
- 就業年齢も延ばさない
- 外国人労働者も増やさない
- 国債も増やさない
という組合せは、人口と財政の制約から現実性が低いと考えられます。
一方で、移民を増やせば社会保障問題が解決するという主張も正確ではありません。
移民の財政効果は、人数ではなく、年齢、就業率、賃金、社会保険加入、家族構成、滞在期間によって決まります。
低賃金労働者を大量に受け入れるだけでは、税・社会保険料収入は十分に増えず、日本人を含む賃金上昇を妨げる可能性もあります。
社会保障を持続可能にするために必要なのは、移民受入れの賛否を感情的に争うことではありません。
日本人か外国人かを問わず、
「働く人が適正な賃金を得て、税と社会保険料を負担できる経済構造を作れるか」
が本質です。
移民政策は社会保障政策の代替ではなく、労働政策、賃金政策、教育政策、住宅政策、地域政策と一体で設計すべき政策です。
日本の未来に必要なのは、「移民を受け入れるか拒否するか」という単純な二択ではなく、
どの程度受け入れ、どのような権利と義務を設定し、誰が費用を負担し、社会全体として何を維持するのかを、数字で示すことです。
そのため、日本における移民の正確な純財政効果については、公開資料だけでは判断困難な部分があります。
国際研究の結果を日本へ適用する場合も、社会保障制度、税制、移民の属性、労働市場が異なることに注意が必要です。

